以下、本発明に係る洗濯機の一実施例を図1〜図9に基づいて説明する。図1は本実施例の洗濯機の全体構成を示す右側面縦断面図である。
上面に洗濯物投入口2が形成された外箱1の内部には、有底円筒形状の外槽4が吊棒5(図1では前後に各1本ずつが見えているが実際には各2本ずつ存在する)により揺動自在に吊支されており、これにより外槽4の振動が外箱1に伝わることを防止している。洗濯物投入口2は起立時に2つ折り可能な上蓋3により開閉自在となっている。外槽4の内部には、周壁に多数の通水孔7を有する洗濯脱水槽6がその底壁下面の中央に固定された略垂直に延伸する槽軸8を中心に回転自在に軸支されている。洗濯脱水槽6の内底部には洗濯物を撹拌するためのパルセータ(本発明における撹拌体)9が槽軸8の内側に嵌挿された翼軸10を中心に回転自在に設けられている。
外槽4の底部には、上記洗濯脱水槽6及びパルセータ9を駆動する駆動機構11が設けられている。この駆動機構11は、槽軸8及び翼軸10と同軸的に設けられたDCブラシレスモータであるモータ12と、該モータ12の回転駆動力を翼軸10のみに伝えるか、翼軸10と槽軸8の両方に伝えるかを切り替えるクラッチ機構13と、モータ12の回転駆動力を翼軸10のみに伝える際に回転速度を所定の減速比で減速する減速機構14と、を含む。クラッチ機構13は外槽4の底面下に取り付けられたトルクモータ16の動作により、パルセータ9のみが一方向又は両方向に回転可能なように槽軸8と翼軸10とを切り離す、或いは、洗濯脱水槽6とパルセータ9とが一体に一方向に回転可能なように槽軸8と翼軸10とを接続させる。また、槽軸8と翼軸10とが切り離されるときには、槽軸8の回転はバンドブレーキ機構(本発明における機械式のブレーキ機構に相当)15により制止される。
外槽4の上部後方には、内部に収容した洗剤等を投入するための洗剤容器及び柔軟仕上剤容器を備えた注水口部17が設けられている。外箱1の上面後部には外部の水道栓等にホースを介して接続される給水口18が設けられ、給水口18に接続される給水管19は給水バルブ20を介して注水口部17に接続されている。給水バルブ20が開放されると、水道栓から供給される水道水が給水管19を通して注水口部17に流れ込み、下方の外槽4内に向けて注水口部17から水が吐き出される。洗剤容器内の所定個所に予め洗剤を収容しておくことにより、外槽4内に吐き出される水に洗剤を混入させることができ、これにより洗剤の自動投入が可能である。なお、この洗濯機では、洗濯脱水槽6内への他の給水手段として風呂水ポンプが設けられているが、ここでは説明を省略する。
外槽4の底部には排水口21が設けられ、排水口21に接続された排水管22の管路は排水バルブ23により開閉される。この排水バルブ23の開閉動作は上記クラッチ機構13の動作(つまりトルクモータ16の動作)と連動しており、パルセータ9が洗濯脱水槽6と切り離されて単独で回転可能な状態(洗濯脱水槽6はバンドブレーキ機構15により回転が拘束されている)では排水バルブ23は閉鎖し、パルセータ9と洗濯脱水槽6とが一体回転可能な状態では排水バルブ23は開放する。
洗濯脱水槽6の内壁面には上下端に開口を有する循環水路26が形成されており、パルセータ9の下方の洗濯脱水槽6の底壁面には通水口27が設けられている。外槽4内に適宜量の水が貯留した状態でパルセータ9が回転駆動されると、パルセータ9の裏面に設けられた裏羽根のポンプ作用により、通水口27を通して洗濯脱水槽6底壁と外槽4底壁との間の水が洗濯脱水槽6内へと吸い上げられ、循環水路26の下端開口へと送り込まれる。その水は循環水路26内を上昇し、その上部に設けられている糸屑フィルタ28を経て洗濯脱水槽6内へと吐き出される。これによって、水中に浮遊している糸屑やゴミなどが捕集される。
また、外槽4と外箱1との間の空隙には後述する振動検知スイッチ47に接続された振動検知レバー(本発明における振動検知手段に相当)29が設置され、外槽4が異常に大きく揺動したときに機械的にこの揺動を検知できるようになっている。さらに、図示しないが外槽4の底部にはエアトラップが形成され、エアトラップに接続されたエアホースの他端は後述する水位センサ46に接続されている。これにより、洗濯脱水槽6内に貯留された水の水位が検知可能となっている。また、外箱1の上面の前部側には操作パネル30が設けられ、その下方には各種の電気部品が搭載された電気基板を含む回路ユニット31が配置されている。
駆動機構11の構成について、図2により詳しく説明する。外槽4の底部に取り付けられる金属製のモータ取付台50には、下方に開口した上部軸受ケース51が一体に設けられ、上部軸受ケース51の下方には上方に開口した下部軸受ケース52がモータ取付台50に固定されている。上部軸受ケース51内の上部には上部ベアリング53及びオイルシール54が設けられ、これらを介して、槽軸8は水密且つ回転自在に指示されている。槽軸8の下端の外側には、上部歯車ケース55と下部歯車ケース56とから成る歯車ケースが固定されており、この歯車ケースの内部には、上記減速機構として機能する歯車機構57が収容されている。歯車機構57は、下端にモータ12のロータ122が固定された駆動軸58を介して与えられる駆動力を所定の減速比で減速して翼軸10に伝えるためのものである。下部軸受ケース52内の下部には下部ベアリング59が設けられ、これを介して歯車ケースは回転自在に指示されている。つまり、槽軸8、上部歯車ケース55及び下部歯車ケース56は一体に、上部ベアリング53及び下部ベアリング59により回転自在に支持されている。
モータ12はいわゆるアウタロータ型のモータであり、ステータ121と、ステータ121を取り囲むように外周側に配置されたロータ122と、下部軸受ケース52の下部に固定され、ステータ121を保持するとともにクラッチ機構13を内包するステータ固定台123とで構成されている。駆動軸58が固定されたロータ122は有底扁平円筒形状を有しており、その周壁の内方にステータ121に対向するように回転方向に沿って複数の磁石124が配置されている。また、ステータ固定台123の天面裏側の複数個所(図2では1個所のみが現れているの)には、ロータ122の磁石124の磁力を検知してロータ122の回転位置を検出するホール素子125が取り付けられている。
クラッチ機構13は駆動軸58の下端部に設けられ、その外径が下部歯車ケース56の下端部の外径とほぼ同じであるクラッチホイール60と、クラッチホイール60から下部歯車ケース56の下端部にかけてその外周に巻回されたクラッチスプリング61と、クラッチスプリング61の周囲に設けられ、クラッチスプリング61の下側の端部が係着されたツメ車62と、このツメ車62に係合・離脱するツメ部63が先端に設けられたクラッチレバー64とを含む。クラッチレバー64は垂直に延伸するクラッチ軸65を中心に回転自在に支持され、コイルスプリング66によってツメ部63がツメ車62に係合する方向に付勢されている。
バンドブレーキ機構15は、ブレーキドラム面である上部歯車ケース55の外周面に巻回されたブレーキバンド67と、ブレーキバンド67を締めたり緩めたりするためのブレーキレバー68とを含む。ブレーキレバー68は、クラッチレバー64の上方位置で、クラッチレバー64と同様にクラッチ軸65に回転自在に支持されている。ブレーキレバー68及びクラッチレバー64は図示しない連結部材やワイヤによりトルクモータ16に接続されており、トルクモータ16に連動して動作する。
駆動源であるトルクモータ16に通電がされていない状態では、クラッチレバー64のツメ部63がツメ車62に係合されている。このため、クラッチスプリング61の下端側が拡開方向に変位しており、クラッチホイール60と下部歯車ケース56下端部とは結合されていない。したがって、モータ12の回転駆動力は槽軸8には伝わらず、翼軸10のみに伝わる状態となる。また、このときブレーキレバー68によりブレーキバンド67は締められており、バンドブレーキ機構15の制動力により上部歯車ケース55つまり洗濯脱水槽6は固定された状態になる。
上記状態では、モータ12の回転駆動力は駆動軸58から歯車機構57、つまり減速機構14を経て翼軸10に伝わるため、洗濯脱水槽6は回転せずにパルセータ9のみがモータ12の回転速度よりも所定の減速比だけ減速された回転速度で同方向に回転駆動される。こうした回転駆動は、洗濯脱水槽6内に水を貯留した洗い運転やすすぎ運転等の際に利用される。
トルクモータ16に通電がされると、トルクモータ16が動作して図示しないワイヤを巻き取り、これによってクラッチレバー64がコイルスプリング66による付勢方向に抗する方向に回動し、ツメ部63がツメ車62から離脱する。これにより、クラッチスプリング61の変位は解除され、クラッチスプリング61の締め付けによってクラッチホイール60と下部歯車ケース56下端部とが結合される。したがって、モータ12の回転駆動力が、槽軸8と翼軸10との両方に直接伝わる状態となる。また、クラッチレバー64が回動すると、図示しない連結部材を介してブレーキレバー68も回動しブレーキバンド67が緩む。これにより、バンドブレーキ機構15による制動力が解除されて、洗濯脱水槽6の固定が解除され、自由に回転できる状態となる。
上記状態では、モータ12の回転駆動力は駆動軸58から下部歯車ケース56、上部歯車ケース55、槽軸8に伝わり、また上部歯車ケース55から歯車機構57を経て直接翼軸10にも伝わるため、洗濯脱水槽6とパルセータ9とは一体的に、モータ12と同じ回転速度、回転方向に回転駆動される。こうした回転駆動は脱水行程等の際に利用される。
次に、本実施例の洗濯機の電気系の構成について図3により説明する。図3は本実施例の洗濯機の要部の電気系構成図である。
制御の中心には、CPU、RAM、ROM、タイマなどを含んで構成される主制御部(本発明におけるアンバランス検知手段、運転制御手段、負荷量推定手段、判定手段に相当)40が据えられている。主制御部40には、コース選択キーやスタートキー等の複数の操作キーを備える操作部43からキー信号が、上蓋スイッチ45から上蓋の開閉に連動する蓋開閉信号が、水位センサ46から外槽4の内部に貯留された水の水位に応じた水位検知信号が、振動検知スイッチ47から外槽4の大きな揺動を検知したときに発せられる振動検知信号が、それぞれ入力される。主制御部40は、負荷駆動部41を介して、給水バルブ20の開閉動作と、風呂水ポンプ48の動作と、トルクモータ16の動作を制御する。上述したようにトルクモータ16により、クラッチ機構13の連結・離脱動作と、バンドブレーキ機構15による洗濯脱水槽6の制動・解除と、排水バルブ23の開閉動作とが達成される。さらにまた、主制御部40は、操作部43のキー入力の受付状態や洗濯の進行状況などを表示部44に表示させるとともに、使用者の注意を喚起するために必要に応じてブザー(本発明における異常報知手段)49を鳴動させる。
また、モータ12を駆動するためにインバータ回路70を備える。インバータ回路70は、交流電力を直流電力に変換する交流直流変換回路71、直流電流をスイッチングしてモータ12に3相交流電流を供給する複数のスイッチング素子を含むスイッチング回路72、後述するPWM信号を電力駆動して各スイッチング素子に与える駆動部73を含み、さらに主制御部40と相互に通信を行いつつスイッチング回路72の各スイッチング素子をオン・オフするためのPWM信号を出力するモータ制御部(本発明における駆動制御手段、電磁ブレーキ手段に相当)74、上述したホール素子125を含みモータ12の回転に同期したパルス信号を生成する回転検出器(本発明における速度検知手段に相当)75と、を備える。モータ制御部74はPWM信号の各パルスのオン/オフ1周期内でのオン(信号レベル「H」)時間の割合、即ちデューティ比を調整することによりモータ12に与える駆動電力を制御する。したがって、デューティ比を大きく(つまり100%に近く)すればモータ12のトルクは大きくなり、デューティ比を小さく(つまり0%に近く)すればモータ12のトルクは小さくなる。
図4は操作パネル30を示す平面図であり、上段に記載のものが左側、下段に記載のものがそれに続く右側に位置する。操作パネル30には、操作キーとして、電源キー301、スタートキー302、洗濯コースのコース選択キー303、手動コース設定キー304、水量設定キー305、風呂水利用設定キー306、予約設定キー307などが設けられている。また、コース選択キー303で選択された洗濯コースの内容を表示する9個のLEDから成るコース表示器群308、手動コース設定キー304でそれぞれ設定された各行程の運転時間や回数などを表示する16個のLEDから成る設定内容表示器群309、水量設定キー305で選択された水量を表示する5個のLEDから成る水量表示器群310、運転の残り時間や予約設定キー307で設定された予約時間などを表示する数値表示器311が設けられている。
電源オフ状態であるときに使用者が電源キー301を押すと、操作パネル30上の全ての表示器(LED)が左端(つまり水量表示器群310)から右に移動するように順番に点灯してゆく。全ての表示器が1回点灯するため、もし表示器の故障や断線等により表示器が点灯しない場合に、使用者はこれを認識することができる。特に異常状態を報知する表示器が備えられている場合、その表示器が故障で点灯しないと異常状態を報知できなくなるが、上記電源投入時の点灯確認で故障の有無を確認することができる。なお、全ての表示器が一通り点灯した後には、予め決められた初期表示の表示器のみが点灯する。
次に本実施例の洗濯機の特徴の1つである脱水行程における制御動作について、図5〜図7に従って説明する。図5及び図6は脱水行程時における偏心(アンバランス)検知処理のフローチャート、図7は脱水行程初期における洗濯脱水槽の回転速度及びPWM信号のデューティ比の変化状況を説明するための概略図である。
脱水行程の開始時点では排水バルブ23は開放され、外槽4内の水は機外に排出されているものとする。この状態で脱水行程が開始されると、主制御部40はまず、トルクモータ16をオンしてクラッチ機構13を切り替え、洗濯脱水槽6とパルセータ9とを一体的に回転可能な状態とした後、モータ12へ通電を行ってモータ12を起動させる(ステップS1)。これにより洗濯脱水槽6とパルセータ9とは一体に回転し始める。この起動の際に、主制御部40はモータ制御部74よりPWM信号のデューティ比を取得し、これを初期デューティ比D0として記憶する(ステップS2)。そして、主制御部40はこの初期デューティ比D0に応じて洗濯脱水槽6内に収容されている含水した洗濯物の重量である負荷量を判定する(ステップS3)。負荷量が大きいほど洗濯脱水槽6の回転を立ち上げる際に大きな起動トルクを必要とするためデューティ比も大きくなる。そこで、このデューティ比の値が予め定めた複数の範囲のいずれに入るのかによって、負荷量が複数段階のいずれであるのかを判定することができる。
次に判定結果として得られた負荷量が小であるか否か、つまり予め定めておいた負荷量よりも小さいか否かを判定する(ステップS4)。負荷量が小である場合には、たとえ洗濯物の片寄りが生じても後述するデューティ比差が相対的に小さい。一方、モータ12の軸ずれや軸の傾きなど、製造上の機械的な精度が低い場合には、洗濯物の片寄りによる偏心がなくても後述するデューティ比差が相対的に大きく現れる。そのため、使用するモータ等の機械的精度の許容範囲を広げようとすると、負荷量が小さな場合の洗濯物の片寄りに起因するデューティ比差と、機械的精度のばらつきによるデューティ比差との区別が困難になり、実質的に正確な偏心検知ができなくなる。したがって、後述するような偏心検知や偏心修正を試みても無駄であることが多いため、偏心検知処理を行うことなく洗濯脱水槽6の回転速度を高速脱水回転速度(例えば600〜900rpm程度)まで立ち上げるようにモータ12を駆動し、その回転速度に維持して脱水を実行する(ステップS22)。
なお、振動検知レバー29及び振動検知スイッチ47による外槽4の揺動の検知は常に実行している。したがって、洗濯脱水槽6の回転速度が高速脱水回転速度に達するまで、及び達した後も、外槽4が大きく振動すると、外槽4により振動検知レバー29が押され、振動検知スイッチ47による振動検知信号が主制御部40に入力される。これによって、主制御部40は異常振動を認識し、例えばモータ12への通電を停止して運転を一旦中断する。
ステップS4で負荷量が小でない、つまり或る一定以上の負荷があると判定されると、主制御部40は負荷量に応じて偏心検知閾値Uを決定する(ステップS6)。これは予め工場出荷時に定めておいたテーブルから必要なデータを読み出す等により得ることができる。そして、洗濯脱水槽6の回転速度が所定速度P1に達したならば、暫くその速度を維持する(ステップS7)。例えば所定速度P1は図7(b)に示すように、洗濯機の共振点(200rpm程度)よりも低い120rpmに設定される。主制御部40は後述の偏心検知処理が連続4回実行されたか否かを判定し(ステップS8)、未だ連続4回実行されていなければステップS11に進んで偏心検知処理を開始する。即ち、洗濯脱水槽6の回転速度を120rpmから240rpmまで上昇させるべく、目標回転速度を240rpmとしてモータ12の加速制御を行う。加速する際にはそれ以前より大きなトルクが必要となるから、モータ制御部74から出力されるPWM信号のデューティ比はそれ以前よりも大きくなる。
主制御部40は加速開始から5秒が経過するまで待機し(ステップS12)、5秒が経過した時点でPWM信号のデューティ比を取得してこれを基準値Drと定める(ステップS13)。それから1秒が経過するまで待機し(ステップS14)、1秒経過後からデューティ比Dnを取得する(ステップS15)。ここで、nはステップS15を実行する毎にn=1から順番にインクリメントされる値である。したがって、初めてステップS15が実行される際にはデューティ比D1が取得される。次に、ステップS15で取得されたデューティ比DnとステップS13で取得された基準値Drとの差ΔDnを計算し(ステップS16)、この差Dnをn=1から順に積算した値ΣΔDnを求めてΣΔDnが偏心検知閾値U以下であるか否かを判定する(ステップS17)。
デューティ比差積算値ΣΔDnが偏心検知閾値U以下であれば、ステップS13の基準値Dr決定時点から10秒が経過したか否かを判定し(ステップS20)、10秒が経過していなければステップS14に戻る。したがって、ステップS17でデューティ比差積算値ΣΔDnが偏心検知閾値U以下であるとの判定が続けば、ステップS14、S15、S16、S17、S20の繰り返しにより、1秒毎にデューティ比Dnが取得されてそのデューティ比Dnを反映したデューティ比差積算値ΣΔDnが判定に供される。図7(a)に示すように偏心が小さくデューティ比が比較的短時間でほぼ一定に収束する場合には、上述のようにデューティ比差積算値ΣΔDnが偏心検知閾値Uを越えることなくステップS20でYESと判定され、偏心検知処理が終了する(ステップS21)。
これに対し、図7(a)に示すように偏心が大きくデューティ比が継続的に増加してゆく場合には同様にデューティ比差積算値ΣΔDnも増加してゆくため、基準値Dr決定時点から10秒が経過する以前にデューティ比差積算値ΣΔDnは偏心検知閾値Uを越えてしまう。その場合には、ステップS17からS18へと進み、洗濯脱水槽6を一旦停止して偏心修正のためのすすぎ運転を実行する。即ち、クラッチ機構13を切り替えるとともに排水バルブ23を閉鎖し、洗濯脱水槽6をバンドブレーキ機構15で制動してパルセータ9のみが回転可能である状態とした後に、外槽4内への給水を行う。そして、外槽4内に適宜の水が貯留したならば、モータ12を左右反転駆動することでパルセータ9を回動させ、洗濯物を水中で撹拌する。所定のすすぎ時間が終了したならば(ステップS19でYES)、排水バルブ23を開いて外槽4内の水を排出しステップS1に戻って再び脱水行程の処理を実行する。上記すすぎ運転で洗濯脱水槽6内での洗濯物の片寄りが解消されれば、次の偏心検知処理においては、デューティ比差積算値ΣΔDnが偏心検知閾値Uを越えることなくステップS20でYESと判定され、偏心検知処理が終了することになる。
なお、ステップS4で負荷量が小でないと判定された場合にも、振動検知レバー29及び振動検知スイッチ47による外槽4の揺動の機械的検知は実行状態にあるため、例えば偏心検知に際し加速制御が行われたときに外槽4が大きく振動して振動検知スイッチ47により振動検知信号が出されると、ステップS17でNOと判定されたのと同様に偏心修正すすぎ運転が実行される。
上記のような偏心検知処理及び偏心修正すすぎ運転は最大4回まで繰り返されるが、それでも偏心が解消されない場合、ステップS8からS9に進み、主制御部40は、連続5回の運転サイクルで同様の処理、つまりは偏心検知処理及び偏心修正すすぎ運転の4回の繰り返し、が実行されたか否かを判定する。そのために主制御部40は、偏心検知処理及び偏心修正すすぎ運転が4回繰り返されたような脱水行程を含む運転サイクルの連続回数を計数し、その計数結果を例えば不揮発性メモリなどに記憶させておく。連続5回の運転サイクルで同様の処理が実行されていない場合には、ステップS21に進んで偏心検知処理を終了するから、偏心修正すすぎ運転を4回繰り返してもステップS17、20でYESと判定されないような偏心が残っている場合にはそれ以上偏心検知処理を実行せずに高速脱水回転による脱水運転に移行する。これにより、偏心が小さくならない場合でも脱水運転時間が異常に長引くことを防止している。なお、その場合でも振動検知スイッチ47による機械的な外槽4の振動は検知しているため、大きな偏心による異常振動や異常騒音の発生は防止することができる。
またステップS9で連続5回の運転サイクルで同様の処理が実行されたと判定された場合には、洗濯物のバランスがうまくとれずに偏心が大きいと判定されたのではなく、別の要因、具体的には上述したようなモータ12等の機械的精度が許容範囲を外れるほど低い、或いは故障等の不具合が発生している可能性が高いものと考えられる。そこで、ブザー49を鳴動させるとともに表示部44で異常報知を行い(ステップS10)、運転を停止する(ステップS23)。これにより、使用者は異常を認識してサービス担当者に連絡する等の適切な措置をとることができる。
以上のように本実施例による洗濯機では、モータ12をインバータ制御するためのPWM信号のデューティ比に基づいて回転軸周りの洗濯物の片寄りに起因する洗濯脱水槽6の偏心を判定しているため、高い精度で且つ迅速に(高速脱水回転速度よりもかなり低い回転速度において)偏心を検知することができる。
次に、脱水行程の際に上述した偏心検知処理と並行して実行される泡拘束検知処理について図8のフローチャートに従って説明する。
脱水行程が開始されると、主制御部40はトルクモータ16をオンしてクラッチ機構13を切り替え、洗濯脱水槽6とパルセータ9とを一体的に回転可能な状態とした後、モータ12へ通電を行ってモータ12を起動させる(ステップS32)。これにより洗濯脱水槽6とパルセータ9とは一体に回転し始める。この起動の際に、主制御部40はモータ制御部74よりPWM信号のデューティ比を取得し、これを初期デューティ比D0として記憶する(ステップS33)。そして、主制御部40はこの初期デューティ比D0に応じて洗濯脱水槽6内に収容されている含水した洗濯物の重量である負荷量を判定する(ステップS34)。これらステップS32〜S34の処理は上述のステップS1〜S3と同じである。負荷量が決まると、主制御部40は負荷量に応じて第1及び第2閾値Q1、Q2をそれぞれ決定する(ステップS35)。これも予め工場出荷時に定めておいたテーブルから必要なデータを読み出す等により得ることができる。負荷量が大きい場合には必要なトルクも大きくなるため、通常、負荷量が大きいほど閾値Q1、Q2の値は大きくする。
それから目標回転速度を例えば240rpmとして洗濯脱水槽6、つまりはモータ12の回転速度を上昇させながら低速脱水を実行する(ステップS36)。そして、回転速度が目標回転速度に到達するまでの間に、繰り返しPWM信号のデューティ比Daを取得し(ステップS37)、このデューティ比Daが先に定めた第1閾値Q1よりも小さいか否かを判定する(ステップS38)。脱水開始時に洗濯物に含まれる洗剤水の洗剤濃度が高い場合、洗濯脱水槽6が回転されることで洗濯物から吐き出された洗剤水が洗濯脱水槽6の底部と外槽4の底部との間で激しく撹拌されると、異常な泡立ちが生じ、外槽4と洗濯脱水槽6との間の間隙に充満して洗濯脱水槽6の回転の負荷となる。そのため、同一の回転速度までモータ12の回転速度を上げるためにより大きなトルクを必要とし、その結果、PWM信号のデューティ比は大きくなる。
そこで、デューティ比Daが第1閾値Q1以上である場合には泡拘束状態となっているものと判断し、ステップS50に進んで泡消しのためのすすぎ運転を実行する。基本的には、これは上述の偏心修正のためのすすぎ運転と同じであるが、泡消しを目的とする場合には外槽4内に供給する水の量を多くするのが望ましい。そして、所定のすすぎ運転時間が終了したならば(ステップS51でYES)、ステップS32へと戻り脱水行程の起動から再試行する。すすぎ運転により洗濯物に含まれる洗剤水の洗剤濃度は下がるため、次に脱水行程を立ち上げた際には泡が発生しにくくなる。
デューティ比Daが第1閾値Q1以上となることなく目標回転速度に到達したならば(ステップS39でYES)、次に目標回転速度を高速脱水回転速度である例えば850rpmとして洗濯脱水槽6、つまりはモータ12の回転速度を上昇させながら高速脱水を実行する(ステップS40)。そして、回転速度が目標回転速度に到達するまでの間に、繰り返しPWM信号のデューティ比Dbを取得し(ステップS41)、このデューティ比Dbが先に定めた第2閾値Q2よりも小さいか否かを判定する(ステップS42)。このときには目標回転速度が高いために泡拘束状態でない場合でもPWM信号のデューティ比は先の低速脱水時よりも大きくなるため、これに応じて第2閾値Q2は第1閾値Q1よりも大きな値に定めておくとよい。
デューティ比Dbが第2閾値Q2以上である場合には泡拘束状態となっているものと判断し、上述したステップS50に進んで泡消しのためのすすぎ運転を実行する。一方、デューティ比Dbが第2閾値Q2以上となることなく目標回転速度に到達したならば(ステップS43でYES)、その高速脱水回転速度を維持するようにモータ12の回転速度制御を行う(ステップS44)。回転速度一定制御を開始した後にPWM信号のデューティ比D1を取得して記憶し(ステップS45)、それから規定時間(例えば数秒〜30秒程度)が経過するまで待って(ステップS46)、再びPWM信号のデューティ比D2を取得する(ステップS47)。
一般に、脱水の進行により洗濯物から水が抜けると重量が減少し、モータ12の負荷が軽くなるためにPWM信号のデューティ比は小さくなる。したがって、もし規定時間経過後のデューティ比D2がD1よりも増加しているような場合には、高速脱水移行後に洗濯物から吐き出された洗剤水から徐々に泡が発生し、この泡の充満によって泡拘束状態に陥ったものと判断できる。そこで、デューティ比D2がD1以下であるか否かを判定し(ステップS48)、D2がD1以下でない場合には泡拘束状態であると判断して上記ステップS50に進んで泡消しのためのすすぎ運転を実行する。これにより、脱水行程の初期には泡拘束状態にならずに脱水の進行に伴って泡拘束が発生した場合でも、脱水を中断してすすぎに移行することができる。
ステップS48でD2がD1以下である場合には所定の脱水時間が経過したか否かを判定し(ステップS49)、経過していなければステップS47に戻る。したがって、脱水運転が終了するまで繰り返しデューティ比D2を取得し、このD2をD1と比較することで泡拘束の有無を判断する。そして、所定の脱水時間が経過したならば、脱水行程を終了して次の行程に進む。
以上のように本実施例による洗濯機では、脱水行程において洗濯脱水槽6の回転速度の立ち上げ時から高速脱水回転移行後に亘り、洗濯物から吐き出された洗剤水の撹拌に伴って発生する泡による拘束状態を高い精度で検知し、泡拘束状態である場合にはすすぎ運転に移行することができる。それにより、高い洗剤濃度の洗剤水が洗濯物に残るような状態で洗濯運転の全行程が終了してしまうことがなく、良好な洗濯が遂行できる。
次に本実施例の洗濯機の別の特徴である、洗濯脱水槽6の高速回転時の制動制御について図9のフローチャートに従って説明する。上述のように、この洗濯機ではモータ12としてアウタロータ型のモータを利用しており、インナロータ型モータに比べてロータ122の慣性力が大きい。一方、上述したような脱水行程時などで洗濯脱水槽6がパルセータ9と一体的に高速回転しているときに急停止する必要がある場合、具体的には、一時停止のためにスタートキー302が押された場合、電源を切るために電源キー301が押された場合、使用者が洗濯脱水槽6の内部を覗く等の目的で上蓋3を開いた場合、或いはこうした操作には依らず何らかの異常発生によって運転停止を行う必要がある場合などに、バンドブレーキ機構15を作動させて洗濯脱水槽6の回転を強制的に制止するが、それと同時にクラッチ機構13により洗濯脱水槽6とパルセータ9とが切り離されてしまうため、洗濯脱水槽6が制止されてもパルセータ9は回転可能な状態となり、慣性力で回転するロータ122の駆動力によりパルセータ9だけが洗濯脱水槽6内で回転し続けることになる。そこで、こうした状態を回避するために、本実施例の洗濯機では、洗濯脱水槽6を急停止させる際に電磁ブレーキの一種である短絡ブレーキを利用してモータ12を強制的に停止させるようにしている。
即ち、脱水行程が開始されてモータ12が起動された後(ステップS62)、主制御部40はスタートキー302の操作による一時停止の指示、電源キー301の操作による電源切断の指示、上蓋スイッチ45による上蓋3の開放操作の検知、或いは異常発生等による緊急停止の指令があるか否かを判定し(ステップS63)、洗濯脱水槽6を急停止する必要性のない場合には脱水運転を継続する。
一方、例えば一時停止の指示等、洗濯脱水槽6を急停止する必要がある場合には、主制御部40はトルクモータ16によりバンドブレーキ機構15を作動させることで洗濯脱水槽6の回転の制動を開始する(ステップS64)。これとほぼ同時にクラッチ機構13により洗濯脱水槽6とパルセータ9との連結も解除される。バンドブレーキ機構15の作動によって洗濯脱水槽6の回転速度は下がってゆく。そして主制御部40は、回転検出器75による検出信号に基づいてモータ12の回転速度が規定の閾値以下になったか否かを判定し(ステップS65)、閾値以下になればモータ制御部74により短絡ブレーキを作動させる(ステップS66)。具体的には、例えばスイッチング回路72の三相の下側アームの各スイッチング素子を同時にオンさせることで巻線を短絡させる。これにより、回転しているロータ122に制動力が作用する。
モータ12の回転速度が大きな状態で短絡ブレーキを作動させると、モータ12の巻線に流れる電流が異常に大きくなって最悪の場合、巻線が焼損するおそれがあるが、上述のようにステップS65の判定でYESとなるまで短絡ブレーキの作動を遅らせることで巻線に流れる電流を抑えることができる。
短絡ブレーキを作動させるとほぼ同時に、主制御部40は表示部44で短絡ブレーキ作動中であることを示す表示を行う(ステップS67)。これは、短絡ブレーキの作動時に大きな音が発生するため、使用者に対してこれが異常ではないことを認識させるためである。短絡ブレーキの作動によってモータ12のロータ122の回転は迅速に停止し、それに伴いパルセータ9の回転も停止する。そして、モータ12が停止したならば(ステップS68でYES)、短絡ブレーキ作動中の表示を解除し(ステップS67)、この停止の契機となった操作の種類に応じて(ステップS70)、例えば電源遮断(ステップS72)や一時停止状態への移行(ステップS71)等、適宜の状態に移行する。
以上のような制御により、洗濯脱水槽6が停止した際にパルセータ9だけが回り続けることを回避することができる。なお、上記説明では、洗濯脱水槽6の回転状況に拘わらず短絡ブレーキを作動させているが、洗濯脱水槽6の回転が完全に停止してから短絡ブレーキを作動させる構成としてもよい。
また、ステップS65で回転速度が閾値以下になったことを検知して短絡ブレーキを作動させる代わりに、バンドブレーキの作動開始から或る時間が経過したときに回転速度が十分に下がっているとみなして短絡ブレーキを作動させるようにしてもよい。但し、バンドブレーキの摩耗の程度によってバンドブレーキ機構15の制動力は相違するため、運転回数が増えてバンドブレーキの摩耗の進行に伴い、バンドブレーキの作動開始から回転速度が所定速度に落ちるまでの所要時間が長くなる。そこで、例えばこの洗濯機の使用開始時点(又はバンドブレーキの交換時点)からの運転回数を計数し、その値によってバンドブレーキの作動開始からの時間を判定する基準値を変更するようにするとよい。
また、この洗濯機では、上蓋3を閉鎖状態で施錠するような上蓋ロック機構を設けていないが、上蓋ロック機構を設けた洗濯機の場合には、脱水行程の開始時に上蓋ロック機構を作動させて上蓋3がすぐには開かないようにし、洗濯脱水槽6の急停止時には短絡ブレーキが作動してモータ12が停止した後に上蓋ロックを解除して自由に上蓋3が開くようにするとよい。また上記実施例では短絡ブレーキを使用しているが、他の種類の電磁ブレーキ、例えば回生ブレーキや放電ブレーキなどを利用してもよい。
また、上記実施例は一例であって、これら発明の趣旨の範囲で適宜変更、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例は垂直な回転軸を中心に洗濯脱水槽を回転させる縦型の洗濯機であるが、回転軸は傾斜していてもよく、さらに洗濯機は回転軸が略水平なドラム式洗濯機であってもよい。