JP4859007B2 - リチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、可動イオン種がリチウムイオンである複合リチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造方法と、該複合リチウムイオン伝導性固体電解質成型体を作製するために用いるリチウムイオン伝導性固体電解質複合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータ・携帯電話等のポータブル機器の開発に伴い、その電源として電池の需要は非常に大きなものとなっている。特に、リチウム電池は、リチウムの原子量が小さく、かつイオン化エネルギーが大きな物質であることから、高エネルギー密度を得ることができる電池として盛んに研究が行われ、現在ではポータブル機器の電源として広範囲に用いられている。
【0003】
その一方、リチウム電池の汎用化につれて、含有活物質量の増加による内部エネルギーの増加と、更に電解質に用いられている可燃性物質である有機溶媒の含有量の増加により、電池の発火などの危険性に対する関心が近年クローズアップされてきた。
【0004】
リチウム電池の安全性を確保するための方法としては、有機溶媒電解質に代えて不燃性の物質である固体電解質を用いることが極めて有効であり、種々の無機リチウムイオン伝導性固体電解質粉末を適用することで高い安全性を備えた全固体リチウム電池の開発が進んでいる。
【0005】
リチウムイオン伝導性無機固体電解質の開発においては、前記無機固体電解質中のリチウムイオン伝導性を高めることを主眼として行われてきたが、電池等のデバイスへ応用する際には、高いリチウムイオン伝導性と共に優れた加工性をもつことが重要である。固体電解質層を薄型化することにより、内部インピーダンスを低減し出力特性を向上させることができるのみならず、電池内に占める固体電解質層の体積割合が低くなり電池のエネルギー密度も向上するからである。
【0006】
しかしながら、無機固体電解質は一般的に多結晶粉末のあるいは非晶質粉末として得られ、電池へ応用する際には通常これらの粉末を加圧成型し用いるが、得られる成型体は固く脆いものであるため、加工性に乏しく、薄型化が困難であった。
【0007】
そこで、加工性を付与させるべく高濃度のリチウムイオン伝導性を有する無機塩とゴム状の高分子よりなる” ポリマー イン ソルト(polymer in salt)”型と名付けられた新規な固体電解質の提案が近年なされている〔C.A.エンジェル、C.リュー、及びE.サンチェ、「ネーチャー」(C.A. Angell, C. Liu, and E. Sanchez, Nature,)第632巻(1993)第137頁〕が、その伝導度は十分とはいえない。
【0008】
前記のものに代わるものとして、最近ゴム状でない高分子化合物を混合してなる複合リチウムイオン伝導性固体電解質が提案されている(稲田太郎、高田和典、梶山亮尚、高口 勝、近藤繁雄、渡辺 遵、第26回固体イオニクス討論会要旨集、p114)。この方法では、主として溶媒を用いない乾式混合により複合化したリチウムイオン伝導性固体電解質が良好な伝導度を示している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、全固体リチウム電池への応用等、量産性を考慮した場合には、簡便に薄膜・大面積の電解質層を連続的に作製することのできる、例えばドクターブレード法などに代表される、湿式法を採用することが望ましいが、湿式法でリチウムイオン伝導性固体電解質と高分子化合物とを複合化した場合には、高分子化合物が無機リチウムイオン伝導性固体電解質の粒子表面をフィルム状に覆うため、リチウムイオン伝導性固体電解質と高分子化合物とからなる複合体中においてリチウムイオンの拡散が阻害され、イオン伝導性が低下するという問題を抱えている。
【0010】
本発明は、特定の方法を採用することにより、無機リチウムイオン伝導性固体電解質の粒子表面が高分子化合物により被覆されてイオン伝導性が低下する現象を回避して、その結果として、イオン伝導性と加工性の両者に優れた複合リチウムイオン伝導性固体電解質複合体を得て、更にこれを成型体とすることで、全固体リチウム電池、殊に薄型の全固体リチウム電池を容易に提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質と未硬化のシリコーンゴムとを含有してなることを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質複合体であり、好ましくは、前記シリコーンゴムが、付加反応を主とする架橋反応により硬化体を形成するシリコーンゴムであることを特徴とする前記のリチウムイオン伝導性固体電解質複合体である。
【0012】
また、本発明は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質を未硬化のシリコーンゴムに分散させて、リチウムイオン伝導性固体電解質複合体とし、該複合体を成型した後に加圧、あるいは成型しつつ加圧し、前記シリコーンゴムを硬化させることを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造法であり、好ましくは、前記成型方法がドクターブレード法であることを特徴とする前記のリチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造方法である。
【0013】
まず、本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質複合体は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質と未硬化のシリコーンゴムとを含有してなること、好ましくは、前記シリコーンゴムが、付加反応を主とする架橋反応により硬化体を形成するシリコーンゴムであることを特徴としている。
【0014】
本発明者らは、リチウムイオン伝導性固体電解質と高分子化合物とを混合しリチウムイオン伝導性固体電解質複合体を得るに際し、組成、粒子状態等の色々な条件について実験的に検討した結果、前記構成を採用するときに、得られるリチウムイオン伝導性固体電解質複合体のイオン伝導性が良好であるばかりでなく、加工性、特にシートへの加工性が優れること、そして、前記リチウムイオン伝導性固体電解質複合体を成型して得られるリチウムイオン伝導性固体電解質成型体が薄型の全固体リチウムイオン電池に好適であるという知見を得て、本発明に至ったものである。
【0015】
前記の理由については、明らかでないが、リチウムイオン伝導性固体電解質複合体内におけるシリコーンゴムの分布が仮にリチウムイオン伝導性無機固体電解質の粒子表面を覆うような状態であったとしても、これを一軸プレスやローラー等により加圧処理することにより、シリコーンゴムの分布状態はリチウムイオン伝導性無機固体電解質の粒子同士の接触を妨げない程度にまで変化し、その結果得られたリチウムイオン伝導性固体電解質成型体内においては、固体電解質の粒子同士の接触が良好なものとなるためと推察される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
上記推察に基づけば、リチウムイオン伝導性無機固体電解質に未架橋構造の高分子化合物(以下、未架橋体という)を配合した後に架橋反応を生じさせたときに、リチウムイオン伝導性無機固体電解質の粒子表面の存在状況が変化するもののうち、本発明の目的・効果を達成できるものが、本発明のシリコーンゴムと同等物であることが容易に類推できる。
【0017】
架橋構造を有する高分子化合物(以下、架橋体という)には、大別してスチレンブタジエンブロック共重合体のようにハードセグメントとソフトセグメントが絡み合った高次構造によってゴム弾性が発現する物理架橋体と、加硫ゴムのように架橋反応で生じる化学結合によってゴム弾性が発現する化学架橋体がある。本発明においては、得られるリチウムイオン伝導性固体電解質複合体の加工性を確保するために、液状の未架橋体を架橋することにより得られる高分子架橋体が好ましく、従って、後者の化学架橋体が好ましい。なお、高分子が化学架橋体であるか否かについては、溶解度パラメータが同等である溶媒への浸漬で膨潤するかどうかにより評価することが可能である。
【0018】
化学架橋性のゴム状高分子化合物としては、シリコーンゴム以外に、例えば炭化水素系では天然ゴム、イソプレンやブタジエンなどの合成ゴムが知られている。これらの未架橋体は室温で様々な粘度のものが知られており、中には固体状に見える場合もあるが、その場合でも長時間の放置でコールドフローと呼ばれる流動性を示す、実際は液状の物質である。これらのうち、高流動性液体の未架橋体が無機リチウムイオン伝導性固体電解質粒子への高分子化合物の被覆を低減するためには好ましい。この点については、後述する実施例で示すとおりに、例えば0.8〜1.0Pa・s程度の低粘度シリコーンゴム未架橋体が特に好適な高分子化合物の一つといえる。またシリコーンゴムの未架橋体は電気化学的安定性及び電子絶縁性に優れているので、得られる架橋体の特性の上からも本発明に適当である。
【0019】
なお、シリコーンゴム未架橋体から架橋体を得る場合には、縮合反応や付加反応などの架橋反応が知られている。前者については系内にアルコールなどの副生成物が生成し、無機リチウムイオン伝導性固体電解質を分解する可能性がある。一方、後者は副生成物がない反応である点で本発明において好ましい。なお、後者の場合、含まれる触媒が無機固体電解質によって被毒される可能性もあるが、予備検討として被毒試験を行った結果、本発明者らの検討した限りでのシリコーンゴム未架橋体と無機固体電解質の組合せでは、良好に硬化が起こり、架橋体が得られた。
【0020】
無機リチウムイオン伝導性固体電解質としては、種々の種類が知られているが、例えば、0.01Li3PO4・0.63Li2S・0.36SiS2のような組成を有する硫化物ガラス〔N.アオタニ、K.イワモト、K.タカダ、及びS.コンドウ、「ソリッド ステート アイオニクス」(N. Aotani, K. Iwamoto, K. Takada, and S. Kondo, Solid State Ionics,)第68巻(1994)第35頁〕や、Li3.25Ge0.250.754のような組成を有するリチウムゲルマニウムチオ−ホスフェート(以下、チオ−リシコンと記載する)(村山昌宏,菅野了次,河本洋二,神山 崇、電気化学会第68回大会講演要旨集、p183)が最も伝導度が高く、本発明に適当である。
【0021】
本発明において、無機リチウムイオン伝導性固体電解質に対するシリコーンゴムの添加量については、両者の全体のうちシリコーンゴムの体積百分率が2〜10%であることが好ましい。シリコーンゴムが2体積%未満では、加工性や柔軟性に富む成型体が得難くなることがあるし、10体積%を超えると成型、硬化の仕方により時として充分なリチウムイオン伝導性のある成型体を得ることができないことがある。前記範囲内の添加であれば、3×10-4S・cm-1以上の高いイオン伝導度を有するリチウムイオン伝導性固体電解質成型体が得られる。
【0022】
本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質複合体は、上記の構成を採用しているので、加工性に富み、後述するように、ドクターブレード法等の湿式法による成型方法を適用しても大面積のシートを容易に安定して得ることができ、しかも得られるリチウムイオン伝導性固体電解質成型体のリチウムイオン伝導性が十分に高く維持でき、リチウムイオン電池に好適であるという特徴を有する。
【0023】
本発明は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質を未硬化のシリコーンゴムを溶解又は懸濁させた有機溶媒に分散させて、前記リチウムイオン伝導性固体電解質複合体を経由し、これを成型した後、あるいは、成型しつつ、前記シリコーンゴムを硬化させることを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造方法であり、リチウムイオン電池用のリチウムイオン導電性に優れ、しかも加工性に富む電解質成型体を安定して提供できる特徴がある。殊に、前記成型方法としてドクターブレード法を採用する場合には、全固体リチウム電池に好適な20〜100μmの厚さで、大面積の薄型(シート状)の成型体が、安価に、安定して得られるので、薄型全固体リチウム電池を容易に得ることができる特徴を有している。
【0024】
本発明において、成型方法としては、プレス法、押出し法、ドクターブレード法等従来公知の成型法が適用可能であるが、このうちドクターブレード法は前述の理由により好ましいし、また、熱間プレス法は成型と加熱によるシリコーンゴムの硬化を一工程で行えることから好ましい。
【0025】
更に、成型体の機械的特性を向上させるために、電気絶縁性構造体を利用することもできる。電気絶縁性構造体を用いてもよい。電気絶縁性構造体としては例えばポリエステルメッシュが挙げられる。電気絶縁性のメッシュに高分子未架橋体と無機リチウムイオン伝導性固体電解質の混合スラリーを塗布することで、機械的強度等に優れた複合リチウムイオン伝導性固体電解質成型体とすることができる。
【0026】
本発明において、ドクターブレード法によりシート状成型体を得ようとする場合、無機リチウムイオン伝導性固体電解質とシリコーンゴムの未架橋体との混合物に更に溶媒を加えてスラリーとするが、前記溶媒としては、シリコーンゴムの架橋反応に影響を与えにくく取扱いも容易であることから炭化水素系有機溶媒が好ましく、このうちヘキサン、ヘプタン、トルエンなどが安価で入手しやすいし取扱いも比較的安易であることから一層好ましい。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
無機リチウムイオン伝導性固体電解質はチオ−リシコンLi3.25Ge0.250.754であり、Li2S、GeS2、P25を真空下700℃で加熱することにより合成した。前記リチウムイオン伝導性固体電解質の粉砕、シリコーンゴム等の混合、薄型化、イオン伝導度測定用の試料調整、及びイオン伝導度測定はすべて乾燥アルゴン雰囲気下で行った。また、前記粉砕操作については、走査型電子顕微鏡による観察により粒子径が1〜5μmとなるまで行った。
【0028】
実施例1〜3
付加反応により硬化する二液タイプのシリコーン(粘度0.8Pa・s)を表1に示す重量を秤量し、これを乾燥ヘプタンに、室温下で加える。次いで得られた溶液に、粉砕したチオ−リシコンを1.47g添加して、スラリーとする。スラリーをかくはんしながら濃縮し、最後にヘプタンを減圧下留去した後、0.5GPaで10mmφのペレットに加圧成型し、そのまま150℃で30分間加熱して、シリコーンを硬化させた。
【0029】
伝導度の測定は、交流インピーダンス測定法によった。上記の方法で得られたペレットにLiTiS2を電極材として合せ、ソーラートロン(Solartron)社1260インピーダンスアナライザーを用いて行った。10mVの交流電圧を印加した結果、得られた成型体の室温でのイオン伝導度は、表1及び図1のようになった。
なお、図1において、縦軸は、室温での伝導度(S/cm)、横軸は高分子添加量(体積%)を示す。
【0030】
また、インジウムシート(厚み0.1mm)上に、前記スラリーをキャストし、ヘプタンを留去してシートを得た。
【0031】
【表1】
Figure 0004859007
【0032】
比較例1〜3
高分子としてスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)を湿式でチオ−リシコンと混合した。用いたSBRはスチレン比率40%、1,2−ビニル含有率7%であり、5%スチレン溶液での溶液粘度が3.4Pa・sであった。SBRを表1に示す重量でトルエンに溶解し、チオ−リシコンを1.47g加えてスラリーとした。スラリーをかくはんしながら濃縮し、最後にトルエンを減圧下留去した後、0.5GPaで10mmφのペレットに加圧成型し、そのまま150℃で30分間加熱した。実施例と同様に伝導度を測定したところ、表1及び図1のようになった。
【0033】
比較例4
高分子を加えずに、ペレットを作製し実施例1と同様に伝導度を測定したところ、室温で9×10-4S/cmであった(図1参照)。しかし実施例と同様にシート化を試みたが、シートを作製することはできなかった。
【0034】
【発明の効果】
本発明は、リチウムイオン伝導性無機固体電解質を未硬化のシリコーンゴムと複合し、成型した後に加圧、あるいは成型しつつ加圧し、前記シリコーンゴムを硬化させることで、リチウムイオン伝導性と加工性の両面に優れたリチウムイオン伝導性固体電解質成型体を容易に得ることができ、全固体リチウム電池を始めとする各種高信頼性電気化学デバイスへの適用可能性が増大するので、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例、比較例に係るリチウムイオン伝導性固体電解質成型体の組成とイオン導電性との関係を示す図。

Claims (4)

  1. リチウムイオン伝導性無機固体電解質と未硬化のシリコーンゴムとを含有してなることを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質複合体。
  2. 前記シリコーンゴムが、付加反応を主とする架橋反応により硬化体を形成するシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン伝導性固体電解質複合体。
  3. リチウムイオン伝導性無機固体電解質を未硬化のシリコーンゴムに分散させて、リチウムイオン伝導性固体電解質複合体とし、該複合体を成型した後に加圧、あるいは成型しつつ加圧し、前記シリコーンゴムを硬化させることを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造方法。
  4. 前記成型方法がドクターブレード法であることを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン伝導性固体電解質成型体の製造方法。
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