親杭を使用する方法では、地表面側には必ず親杭のフランジが露出するため、外観が低下する問題もある。例えば横矢板(パネル)の表面に擁壁の外観を高める意匠を施しても、横矢板の連続性が損なわれるため、意匠の効果が十分に発揮されることがない。親杭が擁壁の表面側に露出する以上、横矢板(パネル)の連続性は損なわれるから、親杭を鋼管杭中に挿入する特許文献3、親杭が鋼管杭である特許文献4でも擁壁の外観低下は回避されない。
親杭(H形鋼)の露出を回避する特許文献5、6では、対となるパネルとカバー、または2枚のパネルでH形鋼全体を覆う形式であるから、H形鋼の挿入位置における擁壁の厚さ(板厚)がそれ以外の部分の厚さより極端に大きくなり、擁壁の表面が波形にならざるを得ず、擁壁の表面を平面(平滑)に仕上げることができない。このため、擁壁が道路に面して構築される場合には、擁壁表面側のパネルの存在によって道路幅を縮小せざるを得ないことになり、擁壁の構築が道路としての土地の有効利用を犠牲にする結果を招く。
本発明は上記背景より、杭本体を圧入のみに依らずに地中に貫入させることが可能で、杭本体の擁壁表面側への露出が生じない形式の擁壁装置を提案するものである。
請求項1に記載の発明の擁壁装置は、先端が開放し、その先端から先端部の表面にかけて露出し、前記表面に螺旋状に連続する掘削刃が突設され、上端部寄りの区間に、背面側に存在する背面土からの土圧に抵抗する受け部を有し、上端部側において軸回りの回転力を与えられることで、回転しながら地中に貫入する杭本体と、この杭本体の前記受け部に面外方向に係合した状態で保持され、前記背面土からの土圧を受け、複数枚集合して擁壁を構成する擁壁パネルとを備え、
前記杭本体は地中に貫入する区間の全長に亘り、円形断面、もしくはそれに近い断面の筒形状をすると共に、前記擁壁パネルから前記受け部を通じて受ける前記土圧を地中に伝達するだけの貫入深さを持ち、
前記受け部は、前記杭本体に連続する、もしくは重なり代を有して杭本体に接合される支持部材に形成、もしくは接合されており、
前記擁壁パネルは横方向両側の、厚さ方向中間部に前記受け部が挿入される溝部を有し、地中に貫入している前記杭本体に対して上方から落とし込まれ、前記溝部に前記受け部が挿入されることで、横方向両側において横方向に隣接する2本の前記杭本体の受け部に保持されることを構成要件とする。
「杭本体の先端」とは、杭本体の下端を指し、杭本体は先端(下端)が開放した鋼管杭、コンクリート杭、合成杭等、円形断面、もしくはそれに近い断面の筒形状をする。掘削刃の下端は杭本体の先端から下方側へ突出し、杭本体の先端より先行して地盤に接触することで、杭本体の先端を地盤への直接の接触による損傷から保護する。掘削刃の、下端より上の部分は杭本体先端から、杭本体の外周側へ突出(露出)し、杭本体先端部側の一部区間の表面に螺旋状に連続する。
「面外方向」とは、「受け部に面外方向に係合した状態で保持される擁壁パネル」の記載から、擁壁パネルの面外方向を指す。擁壁パネルの「横方向」は図1に示すように擁壁パネルの面内方向の、基本的に水平方向を指すが、例えば面内横方向の中心線が水平でない状態で擁壁パネルが設置されることもあることから、「横方向」には水平方向に対して傾斜した方向も含まれる。
同様に擁壁パネルの「高さ方向」は基本的に面内方向の鉛直方向を指すが、例えば受け部を有し、擁壁パネルを直接保持する支持部材4(請求項2)に、下端部から上端部にかけて成が次第に小さくなる変断面H形鋼を使用するような場合に、面内方向が鉛直面をなさない状態で擁壁パネルが設置されることもあるから、「高さ方向」は鉛直方向とそれに対して傾斜した方向を含む。図1では擁壁パネルの高さ方向(幅方向)の距離が横方向(長さ方向)の距離より小さい場合を示しているが、高さ方向(幅方向)の距離が横方向(長さ方向)の距離より大きい場合もある。
杭本体が先端部に螺旋状の掘削刃を有することで、杭本体は上端部から軸回りの回転力を与えられるだけで、自ら地中に貫入する能力を持つため、打撃力に依存せず、圧入のみに依らずに地中に貫入することが可能になっている。杭本体は軸回りの回転力を与えられながら、鉛直方向下向きに圧力を与えられること、すなわち回転と圧入の併用で地中に貫入することもある。
杭本体が自ら地中に貫入可能であることで、圧入のみに依存する場合のように出力の大きい油圧シリンダ等の油圧装置を使用する必要がない。杭本体の貫入に圧入が併用されることがあるとしても圧力は補助的に加えられればよく、施工機自体が圧入の反力を負担する必要もない。従って施工機は圧入のみによる場合程の質量を持つ必要もなく、軽量で、小型で済むことになり、施工機が排出する二酸化炭素量は削減される。
従来の親杭横矢板形式で使用される親杭のH形鋼を打撃か圧入で地中に貫入させることができない場合には、掘削(先掘り)により予め地中に削孔を形成しておくことが必要になるが、従来の親杭に相当する本発明の杭本体は軸回りの回転によって自ら地中に貫入可能であることで、事前の削孔形成の必要がないため、親杭横矢板形式との対比では施工が大幅に単純化される。
杭貫入のための削孔が不要であることで、削孔を形成する場合に杭を安定させるために削孔内に充填されるコンクリート、モルタル、ソイルセメント等も使用することがないため、材料費の節減も図られる上、削孔のための施工機の稼働の必要もないから、その分の施工機の排気による二酸化炭素排出量も削減される。削孔が不要であることで、セメント等の使用も孔壁安定用の薬液等の使用も一切ないため、土壌の汚染を招くこともない。
杭本体の地中への貫入は杭本体の上端部(頭部)を図17に示すような施工機のリーダに接続されているキャップ(チャック)で把持した状態で、図6、図7に示すようにキャップと共に軸回りの回転力が与えられることにより行われる。杭本体の軸回りの強制的な回転によって杭本体先端部の掘削刃が地盤を切削し、杭本体の外周側へ、あるいは外周側と内周側へ排除することにより杭本体が地中に貫入する。掘削刃が切削した土砂が杭本体の外周側と内周側へ排除されることで、地上への排土が発生しないか、排土量が削減されるため、排土を含む産業廃棄物も削減される。
受け部5が例えば図1、図2に示すように杭本体2の内部に接合(一体化)される支持部材4、または図3、図4に示すように外部に接合(一体化)される支持部材4に形成される場合に(請求項2)、杭本体2の上端部(頭部)にキャップ(チャック)を装着することができないような場合には、支持部材4を除く杭本体2のみを先行して地中に貫入させた後に支持部材4を接合することが行われる。図9−(a)、(b)は杭本体2のみを先行して地中に貫入させ、支持部材4を後から接合した(後付けした)場合の手順を示している。
前記のように掘削刃の先端部は杭本体の先端より下方へ突出しているため、杭本体の先端が地盤に接触する以前に地盤に接触し、切削を開始する。掘削刃はまた、杭本体の先端から杭本体の表面に螺旋状に連続することで、掘削刃の先端部が切削した土砂は杭本体の回転による掘進に伴い、掘削刃の上面に沿って切削位置から杭本体に対し、相対的に上方へ運ばれるため、掘削刃が地盤中で土砂から受ける抵抗が小さく、貫入作業性(施工性)が向上する。特に掘削刃の先端部が杭本体の先端から突出していることで、硬質地盤においても杭本体が損傷を受ける可能性が低い。施工時の貫入作業性(施工性)が高いことは、杭本体の貫入対象地盤が軟弱地盤の場合にも言える。
掘削刃の上面に沿って運ばれた土砂は掘削刃の上端から杭本体の外周側へ落下しようとするが、回転している掘削刃の孔壁側の側面によって落下中に孔壁に押し付けられることで、孔壁に圧密されるため、孔壁を安定化させることに寄与する。掘削刃による孔壁の安定性確保により、杭本体の貫入対象地盤が軟弱地盤の場合にも杭本体が地中で高い支持力を発揮し、貫入状態での安定性を確保する。
掘削刃が切削した土砂が孔壁の安定化のために利用されることで、杭本体の地中への貫入時に杭本体回りの地盤を緩める範囲を拡大することがなく、貫入後には杭本体の外周面と孔壁との間の距離を抑えることができるため、地盤から周面摩擦力を得易い。その上、杭本体が擁壁パネルから受ける土圧、水圧、地震等による水平力を地盤に伝達し易くなると共に、地盤から反力を受け易くなるため、水平力に対する抵抗力を保有し、擁壁パネルからの土圧力、あるいは地震力に対する高い安定性を確保する。
また掘削刃の先端部が杭本体の外周面と内周面に跨ることで、杭本体の外周側と内周側に存在する土砂を切削することができ、杭本体の外周面と内周面が貫入時に受ける抵抗を低減させるため、杭本体の地中への貫入が助けられることになる。この掘削刃先端部の切削による抵抗低減効果は、貫入が困難な硬質地盤に杭を貫入させる場合において有効に機能する。杭本体を貫入させる過程で礫層や転石が存在するような場合には、掘削刃の先端部に、これを保護するための超鋼チップが装着されることもある。
擁壁パネル6を保持する受け部5は杭本体2とは別に、杭本体2の内部に挿入されて接合される支持部材4の表面に形成されるか、接合される場合(請求項2)と、杭本体2の表面(外部)に形成されるか、接合される場合(請求項3)がある。前者の場合(請求項2)、受け部5は図1〜図4、図19、図20に示すように支持部材4に形成されることにより杭本体2に対して間接的に形成されるか、接合される。後者の場合(請求項3)、受け部5は図18に示すように杭本体2の先端部より上の区間に形成、もしくは接合されることにより杭本体2に対して直接形成、もしくは接合される。「杭本体2先端部より上の区間」は掘削刃3が突設された区間より上の区間であればよく、受け部5は掘削刃3の突設区間より上の、上端部までの区間に連続的に、または断続的に形成される。
杭本体2は少なくとも先端部寄りの区間において地中に貫入するため、擁壁パネル6は図8、図9、図14〜図16に示すように地表に露出した状態で、杭本体2の上方(請求項2)に、もしくは杭本体2の先端部より上の区間(請求項3)に配置される。このことから、受け部5が杭本体2の内部に挿入される支持部材4の表面に形成、もしくは接合される場合(請求項2)には、擁壁パネル6を保持する支持部材4は擁壁パネル6の配置レベル(深度)に合わせ、図1、図2に示すように杭本体2の上端部から上方へ突出した状態で杭本体2に接合される。
請求項2における支持部材4は杭本体2に対しては少なくとも軸方向の一部区間において中空断面の杭本体2の内部に挿入された状態で、図1に示すように杭本体2の内部に充填されるコンクリートやモルタル等の充填材10中に定着されることにより、あるいは図2に示すように杭本体2の内部に溶接、もしくはボルト接合されることにより杭本体2に接合(固定)される。
図1の場合、充填材10は杭本体2の全長に亘って充填されてもよいが、材料が無駄であることと、杭本体2の質量が増大することから、充填材10は上端部にのみ充填されれば足りる。その場合、杭本体2内部の上端部には充填材10の充填区間を制限するせき板11が固定される。
図2に示す例において支持部材4と杭本体2を溶接する場合には、支持部材4の杭本体2に内接する部分、例えばフランジの縁の部分を隅肉溶接等することにより接合が行われ、支持部材4と杭本体2をボルト接合する場合は、杭本体2の表面(外周面)、もしくは内周面に密着する形状の金物を介在させ、この金物と支持部材4を貫通するボルトを挿通させることにより接合が行われる。図2では支持部材4にT形鋼を使用しているが、支持部材4に使用される形鋼(鋼材)の種類は問われず、溶接やボルト接合は形鋼(軽量形鋼を含む)の種類に関係なく行われる。
受け部5が杭本体2の表面に形成、もしくは接合される場合(請求項3)において、図18に示すように杭本体2に直接、形成(接合)される場合は、受け部5は杭本体2の上端部から下方へ向かう区間に形成(接合)されるが、受け部5が請求項2の場合と同様に杭本体2に付加的に接合される(一体化する)支持部材4に形成される場合には、図3、図4に示すように少なくとも杭本体2の上端部の区間に受け部5を構成する鋼材(形鋼)等の支持部材4が接合される。
「受け部が杭本体の表面に直接、接合される」とは、図18に示すように杭本体2を構成する例えば鋼管の表面に形鋼等の鋼材(支持部材4を含む)が溶接等によって付加(接合)されることを言う。
受け部5は擁壁パネル6の溝部7に納まり、溝部7の内周面に擁壁パネル6の面外方向に係合すればよいため(請求項1)、受け部5とそれが納まる溝部7の水平断面形状は問われず、受け部5には任意の断面形状の鋼材等が使用可能である。「鋼材等」とは、鋼材以外の、プラスチック、硬質ゴム等の材料を含む趣旨である。最も単純な受け部5の形状は図18〜図21に示すように形鋼等の鋼材としてプレート、もしくはフラットバーを単独で使用した平板状である。
図18はプレート等を使用した受け部5を杭本体2自体の擁壁パネル6側の側面に直接、突設(溶接)した場合、図19は図18と同じ形状の受け部5を杭本体2に接合される支持部材4に突設(溶接)した場合である。プレート、もしくはフラットバーはこの他、組み合わせられることで、図20に示すように平板状以外の十字形状等の受け部5も形成する。
図20は図2、図19と同様、杭本体2の上端部側に内接した状態で接合される支持部材4をプレート等の組み合わせによって形成し、その一部を受け部5として利用した場合の例を示している。ここでは受け部5になるプレートに面外方向の曲げ剛性を付与するために、受け部5のプレートに補剛のためのフラットバー等を用いたリブ4bを十字形状に組み合わせて接合しているが、組み合わせの形状は任意である。
図1、図2、図19、図20に示すように支持部材4が杭本体2に内接する状態で杭本体2に接合される場合には、支持部材4の外周部より杭本体2の上端部がその形状(円形状)のまま、杭本体2の中心に関して外周側に張り出すことで、その張り出し部分が擁壁パネル6を支持するために(擁壁パネル6が載るために)利用可能である。図1では擁壁パネル6を安定させて支持するために、杭本体2の上端から突出した支持部材4の下端部位置に専用のストッパ4aを突設しているが、杭本体2の上端上で擁壁パネル6が安定すればこのストッパ4aは必ずしも必要ではない。
これに対し、図18に示すように杭本体2が擁壁パネル6の上端のレベルまで連続し、受け部5が杭本体2の外周面(表面)に突設(接合)される場合には、受け部5を含め、杭本体2のいずれかの部分が擁壁パネル6の下端を支持できる状態で擁壁パネル6側へ張り出すことがないため、受け部5の下には擁壁パネル6を支持するための載置部2aが形成(突設)される。載置部2aは擁壁パネル6が載置可能な形状に加工されたプレート等を杭本体2である鋼管の外周面に突合せ溶接等することにより突設される。図1、図19等の場合には、杭本体2の上端の端面が図18における載置部2aに相当する。
図18、もしくは図19に示すように杭本体2、もしくは支持部材4(以下、杭本体2等)の頂部(上端部)が擁壁パネル6の上端部のレベルに位置する(揃えられる)場合には、杭本体2等を挟んで隣接する擁壁パネル6、6の杭本体2等側の端面は例えば、後述の土圧伝達部8が受ける土圧等を杭本体2等の全体に伝達する上では、擁壁パネル6、6双方の端面が対になることで、受け部5と共に杭本体2等の全体を周囲から覆う形状に形成される。但し、例えば図21−(b)に示すように支持部材4が実質的に受け部5のみから構成される場合、あるいは受け部5のみが杭本体2の頭部から上方へ突出し、支持部材4が実質的に不在である場合には、擁壁パネル6、6は受け部5のみを覆う形状に形成されればよい。
図21−(b)に示す例の場合、平板状の受け部5は面外方向の曲げ剛性が乏しいため、受け部5のみが杭本体2の上端部から単独で突出する場合には、前記の通り、図20−(a)、(b)に示すようにT形、もしくは十字形断面形状等に近い形状になるよう、面外方向に何らかの突起が形成されることが適切である。図20−(a)、(b)は受け部5を構成するプレート等の幅方向中心部にリブ4bを突設(形成)し、面外方向の曲げ剛性を確保した場合の例を示す。図20−(a)、(b)と同様の形態は例えば図20−(c)に示すように鉄筋(丸鋼、異形鉄筋)の表面の、同一線上に鉄筋の径より小さい板厚のプレート等を溶接することによっても得られる。
図18〜図21に示すように平板状の受け部5を杭本体2、もしくは支持部材4に突設した場合、杭本体2等の両側に配置される擁壁パネル6、6の杭本体2等側の端面は上記のように基本的に受け部5と共に杭本体2等の全体を周囲から覆う、あるいは少なくとも杭本体2等を地山の反対側(擁壁1Aの表面側)から覆う例えば凹形状に形成され、その凹部の一部に受け部5が納まる溝部7が形成される。
各擁壁パネル6はその横方向両側に配置されている杭本体2、2間、もしくは支持部材4、4間に落とし込まれることで、溝部7内に受け部5が入り込み、面外方向に係合した状態で両側の杭本体2、2等に保持される。この状態で、杭本体2等の両側に配置される擁壁パネル6、6がその表面側(地山の反対側)から受け部5の露出を回避する(杭本体2等を隠蔽する)上では、図5−(a)に示すように杭本体2等を隠蔽する擁壁パネル6、6の断面上の中心に関して地山の反対側に隠蔽部9が形成される。
受け部5は隣接する擁壁パネル6、6の隠蔽部9、9の端面が互いに接近することにより擁壁パネル6、6によってその表面側から隠蔽されるが、擁壁パネル6の背面側である地山側では擁壁パネル6の隠蔽の必要がないため、擁壁パネル6、6の端面同士は必ずしも接近する必要はない。但し、擁壁パネル6の背面側では擁壁パネル6の背面が受ける地山からの土圧と水圧を受け部5(杭本体2等)に伝達する必要があるため、その役目を果たす土圧伝達部8が形成される。
擁壁パネル6の土圧伝達部8は地山からの土圧と水圧を負担することで、後述のように隠蔽部9の厚さより大きい厚さが与えられることが合理的であることから(図5)、相対的に土圧伝達部8に隠蔽部9より大きい厚さを与えるために、図21に示すように杭本体2、もしくは支持部材4への受け部5の突設位置を杭本体2等の中心に関して擁壁パネル6の厚さ方向表面側(擁壁1Aの表面側)へ寄せることもある。
図18に示すように受け部5を杭本体2に直接、突設する場合に、受け部5の厚さ方向の中心線を杭本体2の中心を通る線上に配置すれば、擁壁パネル6の土圧伝達部8と隠蔽部9の厚さを等しくすることができるが、図21に示すように受け部5の突設位置を擁壁パネル6の厚さ方向にずらすことで、土圧伝達部8と隠蔽部9の厚さに差を持たせることができる。
同様に図19に示すように受け部5を杭本体2に接合される支持部材4に突設する場合に、受け部5の厚さ方向の中心線を支持部材4の中心を通る線上に配置すれば、擁壁パネル6の土圧伝達部8と隠蔽部9の厚さを等しくすることができるが、図21−(a)に示すように受け部5の突設位置を擁壁パネル6の厚さ方向表面側に配置することで、土圧伝達部8に隠蔽部9より大きい厚さを与えることができる。
図3は支持部材4を杭本体2の上端部(頭部)から下方に接合した、すなわち支持部材4の上端部(頭部)を杭本体2の上端部(頭部)に揃えた場合、図4は支持部材4を杭本体2の上端部(頭部)側の区間で重なり代を持たせ、杭本体2の上端部から上方へ突出させた状態で、重なり代区間で接合した場合である。支持部材4が杭本体2に連続的に付加される場合の支持部材4の全長、または断続的に付加される場合の支持部材4の全区間は擁壁パネル6が配置される(地表に露出する)区間(高さ)に応じて決まる。「支持部材4が断続的に付加される」とは、受け部5を含む支持部材4が軸方向に分断(分割)された状態で、杭本体2に接合されることを言い、分断された個々の部品の全長の和が「支持部材4の全区間」になる。
請求項3における受け部5、もしくは受け部5を有する支持部材4も請求項2における支持部材4と同様に、溶接やコンクリート等への定着によって杭本体2に接合されるが、杭本体2の外部に配置される場合は主として溶接やボルト等によって接合される。
図3−(a)、(b)は同一の杭本体2の図であり、(a)は見下ろした様子を、(b)は見上げた様子を示している。図4は図2に示すT形鋼の支持部材4を杭本体2の表面(外周面)側に配置した場合であり、この場合はT形鋼のウェブが杭本体2の表面に突き当たるから、支持部材4はウェブにおいて杭本体2に溶接、もしくはボルト接合される。
以上のように請求項2と請求項3のいずれの場合も、「受け部5が形成される」ことには、支持部材4自身、あるいは杭本体2自身が表面側(外周面側)に受け部5が形成される断面形状を有することと、受け部5を構成する鋼材等の支持部材4が杭本体2に接合されることが含まれる。
請求項2と請求項3のいずれの場合も、受け部5は杭本体2の全長の内、少なくとも擁壁パネル6が配置される上方寄りの区間に形成(接合)されればよいが、受け部5が杭本体2の表面に形成(接合)される請求項3の場合には、図4に示すように請求項2の支持部材4のように受け部5、もしくは受け部5を有する支持部材4が杭本体2の上端部より上方へ突出した形で形成(接合)され、図7に示すように杭本体2のみが地中に埋設される状態になることもある。
受け部5が杭本体2の上端部より上方へ突出した状態で接合されることには、図2に示すように受け部5が杭本体2の内部に配置される場合(請求項2)と、図4に示すように外部に配置される場合(請求項3)がある。
図1、図2に示すように受け部5が杭本体2の内部に配置される場合には、杭本体2の回転を伴う貫入時に受け部が地盤から受ける抵抗が小さくて済むため、受け部5の接合が杭本体2の貫入作業を阻害することはない。受け部5が杭本体2の外部に配置される図3、図4に示す場合にも、受け部5の接合区間が杭本体2の地中への貫入区間より上方に位置し、図7に示すように受け部5の下端部のレベルで杭本体2の地中への貫入が完了すれば、受け部5が杭本体2貫入時の抵抗になることがないため、杭本体2の貫入作業を阻害する可能性は低い。
受け部は杭本体の地中への貫入後に擁壁パネルを落とし込む際のガイドになる他、前記のように擁壁パネルを受けた状態では擁壁パネルがその面外方向に受け部に係合することにより擁壁パネルがその背面側に存在する背面土から面外方向に受ける土圧に抵抗する役目を持つ。受け部はガイドとしての役目と土圧に抵抗する役目を果たせばよいから、杭本体の軸方向には連続的に形成される場合と断続的に形成される場合がある。
連続的に形成される場合も断続的に形成される場合も、受け部は擁壁パネルの落とし込みにより擁壁パネルの厚さ方向に形成されている溝部内に挿入され、溝部を挟んだ両側の部分に挟み込まれることで、表面側において擁壁パネルに隠蔽されるため、擁壁表面への露出が回避される。
受け部の、擁壁表面への露出が回避されることで、擁壁の表面側には横方向に隣接する擁壁パネルの目地が見えるだけの外観になり、擁壁パネルの連続性が確保されるため、複数枚の擁壁パネルから構成される擁壁全体の外観意匠が向上する。擁壁パネルはプレキャストコンクリート製、もしくは鋼(金属)製で、あるいは両者の合成構造の他、石材、合成樹脂(プラスチック)、硬質ゴム、セラミックス(陶器)等で製作される。
杭本体の受け部と擁壁パネルの溝部は擁壁パネルの落とし込みによって擁壁パネルの高さ方向に嵌合し、擁壁パネルの厚さ方向に互いに係合し合う形状をしていればよく、それぞれの具体的な形状は問われない。
但し、擁壁パネル6に形成される溝部7を構成し、溝部(凹部)7を挟んでその厚さ方向両側に位置する部分の内、背面側に位置する部分は図5−(a)に示すように擁壁パネル6が背面に受ける土圧、または土圧と水圧を杭本体2(支持部材4)の受け部5に伝達する部分(土圧伝達部8)になるから、溝部7に対しては凸部(凸形状)になる。
一方、溝部7には杭本体2(支持部材4)の受け部5が納まり(挿入され)、この受け部5が溝部7の背面側に位置する部分(土圧伝達部8)から土圧、または土圧と水圧を受けるから、溝部7は土圧伝達部8に対しては凹部(凹形状)になる。受け部5はその上方から擁壁パネル6が落とし込まれることで、擁壁パネル6の溝部7に挿入され、その状態で溝部7の内周面に擁壁パネル6の面外方向に係合すればよいから、擁壁パネル6の面内水平方向(横方向)には擁壁パネル6に対して相対移動可能であっても、係合可能であってもよい。よって受け部5の先端側である溝部7の奧側は溝部7に面内方向に係合可能な棒状等、凸状に形成されることもある。
擁壁パネル6の溝部7を構成し、溝部(凹部)7を挟んでその厚さ方向の表面側に位置する部分は溝部7に納まっている受け部5を擁壁パネル6の表面側から隠蔽する部分(隠蔽部9)になるから、溝部7に対しては凸部(凸形状)になる。この擁壁パネル6表面側の隠蔽部9は溝部7に対して凸部になる形態上の関係から、杭本体2(支持部材4)の受け部5が接触したときに受け部5から圧力を受け得るが、原則として隠蔽部9は受け部5を覆う役目を持てばよいため、受け部5からの荷重を受ける必要はない。
このように溝部7を挟んで背面側に位置する部分(土圧伝達部8)は土圧(荷重)を負担するのに対し、表面側に位置する部分(隠蔽部9)は原則的に土圧(荷重)を負担する必要がないため、図5−(b)に示すように相対的に背面側に位置する部分(土圧伝達部8)の厚さD1が表面側に位置する部分(隠蔽部9)の厚さD2より大きく形成されること(D1>D2)が合理的である。
地山の土質の関係で、擁壁パネル6の背面が受ける土圧、あるいは土圧と水圧が大きくなる場合、または土圧等が大きくなる深度に擁壁パネル6が配置される部位では、図13に示すように擁壁パネル6の厚さ方向に2個以上の土圧伝達部8、8が形成され、それに合わせて支持部材4には2個以上の受け部5、5が形成される。擁壁パネル6の厚さ方向に並列する2個の受け部5、5は支持部材4にH形鋼を使用することで自動的に形成される。
溝部7を挟んで表面側に位置する部分(隠蔽部9)が例えば「高さ方向の一部」において受け部5から圧力(荷重)を受けることがあるとすれば、その圧力は杭本体2が背面土から土圧を受けたことに起因するが、その圧力は前記「高さ方向の一部」以外の区間において擁壁パネル6の土圧伝達部8から受け部5に伝達されるから、隠蔽部9が負担する圧力は土圧伝達部8が負担する圧力程度の大きさにはならないと考えられる。
溝部7を挟んで擁壁パネル6の厚さ方向に対向する土圧伝達部8と隠蔽部9は対になって杭本体2(支持部材4)の受け部5を挟み込む。ここで、受け部5が形成される支持部材4に例えば図1〜図4に示すようにH形鋼やT形鋼を使用し、強軸方向(ウェブに平行な方向)を擁壁パネル6の厚さ方向に向けて配置する場合、擁壁パネル6の背面側でその面内方向(横方向)に隣接する擁壁パネル6、6の各土圧伝達部8、8の対向する端面間には支持部材4のウェブが存在するから、この隣接する擁壁パネル6、6の対向する土圧伝達部8、8の端面間には少なくともウェブの厚さ分の間隔を確保する必要がある。支持部材4がH形鋼の場合、擁壁パネル6の表面側に位置するフランジが受け部5になり、T形鋼の場合もフランジが受け部5になる。
一方、受け部5(支持部材4のフランジ)を挟んで擁壁パネル6の表面側で面内方向(横方向)に隣接する擁壁パネル6、6の各隠蔽部9、9の対向する端面は擁壁パネル6、6間の目地が極力、小さくなるように互いに接近することが適切であるから、基本的に対向する隠蔽部9、9の端面間には間隔が確保される必要がない。間隔を確保するとすれば、隣接する擁壁パネル6、6の対向する隠蔽部9、9の端面間の間隔としては、横方向に隣接する擁壁パネル6、6が両者間の相対変位時に互いに衝突しない程度の距離があればよい。
このように受け部5が形成される支持部材4にH形鋼やT形鋼を使用する場合には、図5−(b)に示すように擁壁パネル6の表面側に位置する隠蔽部9の、溝部7の底からの距離W2が背面側に位置する土圧伝達部8の、溝部7の底からの距離W1より大きくなる(W1<W2)。同じことは支持部材4にC形鋼や山形鋼を使用する場合にも言える。支持部材4に例えば図20、図21−(b)に示すようにウェブを持たない平鋼(フラットバー)やプレートを使用する場合には必ずしもW1<W2の関係になるとは限らない。
図1、図19等に示すように受け部5が支持部材4の表面に形成(接合)される場合(請求項2)には、杭本体2は支持部材4の下方に位置することで、地中に貫入したときに地表面に突出しない状態になるため、支持部材4に形成される受け部5が平面上、杭本体2の断面内に位置していても、図8、図9−(c)に示すように杭本体2が擁壁1Aの表面側に露出する事態は回避される。
受け部5が図18に示すように杭本体2の表面に形成(接合)される場合(請求項3)に、図3に示すように杭本体2の上端部より下方に形成(接合)される場合には、杭本体2の地中への貫入が完了したときに、図7に示すように受け部5が地中から露出する区間で杭本体2も地中から突出する状態になり得るが、杭本体2の回転による貫入の結果、図1に示すように受け部5が擁壁パネル6の表面側に回り込んだ状態で杭本体2が貫入完了状態になれば、図8に示すように擁壁パネル6の落とし込みによって受け部5は擁壁1Aの表面側から隠蔽されるため、杭本体2の露出は回避される。
請求項3においても、図4に示すように受け部5が杭本体2の上端部より上方へ突出するように形成(接合)される場合には、請求項2の場合と同様に、杭本体2の貫入状態で受け部5のみが地表面から突出し、杭本体2が地中に埋設され、地表面から突出しない状態にすることができるため、杭本体2が擁壁1Aの表面側に露出する事態は発生しない。
擁壁1Aは地山の表面形状に応じ、全体として平面状に形成される場合と曲面状に形成される場合があるから、全体の形状に合わせて杭本体2の挿入位置と受け部5の形成位置が決まり、杭本体2は平面上、必ずしも同一直線状に配列するとは限らず、曲線状に配列することもある。
擁壁1Aが平面上、2以上の方向に配列し、地山の表面に、2方向に配列する擁壁1Aが突き合わせられる隅角部が形成される場合には、図10、図11に示すようにその隅角部に配置される杭本体2(支持部材4)には少なくとも2箇所に受け部5、5(51)が形成(接合)される。2箇所に形成(接合)される受け部5、5(51)の、杭本体2の中心からの形成(接合)方向は必ずしも直交方向とは限らず、地山の平面形状に応じて任意の方向に形成(接合)される。
擁壁パネル6は図8に示すようにそれに先行して地中に貫入し、並列(隣接)している杭本体2、2(支持部材4、4)の受け部5、5間に落とし込まれ、横方向両側の溝部7、7に受け部5、5が挿入された状態になったときに、擁壁1Aを構成するが、擁壁パネル6の落とし込みは原則として図16に示すように土砂の、溝部7内への浸入(入り込み)を回避するために、擁壁パネル6背面の土砂が存在しない状態で行われる方がよい。
図15に示すように既に存在している地山に対して擁壁パネル6を設置する場合には、土砂は一旦、擁壁パネル6の設置箇所から排除(除去)され、擁壁パネル6が横方向両側の杭本体2、2(支持部材4、4)の受け部5、5に保持された後に背面土として戻(埋め戻し)されることが望ましい。
図9、図16に示すように地山の、土砂の存在しない箇所に擁壁パネル6を設置する場合には、擁壁パネル6の設置後にその背面に新たに土砂が充填される。図9、図16に示す場合には、杭本体2と擁壁パネル6を含む擁壁装置1の設置と、背面土の充填によって地山の敷地が拡大する上、地滑りの防止対策が採られるため、地山上に構築されている構造物の安定性と安全性が向上する。
擁壁パネル6の背面に存在する背面土はその位置に充填されることで、擁壁パネル6に背面から土圧を作用させるが、擁壁パネル6背面の空隙を埋めることで、地山の奧側の存在する土砂の滑りを阻止し、地盤全体の崩落を防止する働きをすることになる。
地中に杭本体2が貫入し、杭本体2に擁壁パネル6が保持され、擁壁パネル6の背面に背面土が充填されたときの、杭本体2と擁壁パネル6からなる擁壁装置1の使用状態では、擁壁パネル6の背面が受ける背面土からの土圧が溝部7を構成する上記土圧伝達部8を通じて杭本体2(支持部材4)の受け部5に伝達される。
更に受け部5から杭本体2の、地中に貫入している区間に伝達され、図9−(c)に示すように杭本体2の地中区間の表面から地山に伝達されることにより擁壁装置1が擁壁1Aとして地山に固定された状態を維持し、地盤全体の崩落を防止する機能を発揮する。
擁壁装置1が地山に固定された擁壁装置1の使用状態は杭本体2が地中に貫入し、擁壁パネル6が隣接する杭本体2、2(支持部材4、4)に保持されて安定性を確保した状態であり、この状態を維持する上で必要とされる杭本体2の地中への貫入深さは砂質、粘性質等の地山の地質、滞水性の程度その他の条件に応じて決められる。なお、杭本体2が地中に貫入した状態で杭本体2が使用状態になることで、杭本体2に鋼管(鋼管杭)を使用した場合に、地上に露出するレベルにまで鋼管が連続する場合(特許文献4)に直面する、杭本体2(鋼管)が外気に曝されることによる腐蝕の発生が抑制される。
本発明の擁壁パネル6は横方向(長さ方向)の両端部において杭本体2(支持部材4)に支持され、同時に杭本体2(支持部材4)を表面側から隠蔽することで、擁壁パネル6が杭本体2(支持部材4)の全体を包囲する形状を有する必要がないため、特許文献5、6のように杭本体2部分における擁壁パネル6の厚さをそれ以外の部分の厚さより大きくする必要がない。
従って擁壁パネル6が杭本体2(支持部材4)を隠蔽しながらも、擁壁1A全体をその背面を含め、表面の平面(平滑)に仕上げることができるため、擁壁1Aを道路に面して構築する場合に、道路幅を縮小する必要が生ずることはなく、道路としての土地の有効利用を犠牲にする事態を招くこともない。
杭本体が先端部に螺旋状の掘削刃を有することで、上端部から軸回りの回転力を与えられるだけで自ら地中に貫入する能力を持つため、打撃力に依存せず、圧入のみに依らずに地中に貫入することが可能である。従って圧入のみに依存する場合のように、杭本体の貫入のために出力の大きい油圧シリンダ等の油圧装置を使用する必要がない上、杭本体の貫入に使用される施工機は圧入のみによる場合程の質量を持つ必要もなく、軽量で、小型で済む。
杭本体に形成される受け部は擁壁パネルの厚さ方向に形成される溝部内に挿入され、溝部を挟んだ両側の部分に挟み込まれることで、擁壁パネルに隠蔽されるため、擁壁表面に露出することがない。従って擁壁の表面側には擁壁パネルの目地が見えるだけの外観になり、擁壁パネルの連続性が確保されるため、擁壁全体の外観意匠が向上する。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は先端が開放し、その先端から先端部の表面にかけて螺旋状に露出する掘削刃3が突設され、上端部寄りの区間に、背面側に存在する背面土からの土圧に抵抗する受け部5を有する杭本体2と、この杭本体2の受け部5に面外方向に係合した状態で保持され、背面土からの土圧を受け、複数枚集合して擁壁1Aを構成する擁壁パネル6とを備える擁壁装置1の構成例を示す。図面では杭本体2の先端に3本の掘削刃3を周方向に均等に配列させているが、掘削刃3は杭本体2の周方向には2本以上、突設されていればよい。
杭本体2は自身の軸回りの回転により掘削刃3の掘削により地中に貫入するため、杭本体2には鋼管杭、コンクリート杭、合成杭等、円形断面の杭が使用される。杭本体2の回転による地中への貫入時には鉛直下方への圧力が伴うこともある。
杭本体2は上端部(頭部)において図17に示す杭打ち機等の施工機12のアーム13の先端から懸垂させられ、同じくアーム13から懸垂したキャップ(チャック)に保持(把持)された状態で、モータ14によりキャップと共に回転させられることにより、あるいは回転させられながら鉛直下方へ圧力が与えられることにより図6、図7に示すように地中に貫入させられる。
図6、図7に示すように杭本体2に支持部材4が予め一体化して(接合されて)いる場合には、杭本体2の貫入作業時に、支持部材4の受け部5が擁壁パネル6の面内方向(横方向)に向いた状態で、すなわち受け部5が擁壁パネル6、6側を向いた状態で停止するように杭本体2の軸回りの回転と停止位置が制御される。杭本体2に支持部材4が予め一体化して(接合されて)いない場合には、杭本体2の貫入後に受け部5を有する支持部材4が挿入されるから、杭本体2の周方向の停止位置の制限はない。
図6−(a)、(b)は図1、図2に示すように受け部5を有する支持部材4が杭本体2の上端部から上方へ突出した状態で杭本体2に接合(固定)されている場合の杭本体2の貫入の様子を、図7−(a)、(b)は図3に示すように受け部5を有する支持部材4の上端が杭本体2の上端とほぼ同一のレベルに位置している場合の杭本体2の貫入の様子を示している。
杭本体2に鉛直方向下向きの圧力を与えながら、杭本体2を貫入させる場合には、例えば図17に示すように杭本体2の内外に材軸方向に沿ってワイヤ15を張架し、施工機12の自重を反力としてワイヤ15の両端を引っ張ることにより杭本体2に鉛直下向きの圧力が与えられ、杭本体2がリーダ16に沿って地中に圧入される。図17−(a)は地盤のレベルが施工機12より上に位置する場合、(b)は下に位置する場合の施工要領を示す。
擁壁パネル6は横方向両側の、厚さ方向中間部に受け部5が挿入される溝部7を有し、地中に貫入している杭本体2に対して上方から落とし込まれ、溝部7に受け部5が挿入されることで、横方向両側において横方向に隣接する2本の杭本体2、2の受け部5、5に保持される。同時に受け部5を挟んで擁壁パネル6、6が横方向に隣接し、それぞれの溝部7に受け部5が挿入されることで、受け部5が擁壁1Aの表面側から隠蔽され、受け部5(支持部材4)の露出が回避される。
図1は受け部5が表面(外部)に形成、もしくは接合されている支持部材4が杭本体2の内部に挿入され、杭本体2の上端部から上方へ突出した状態で杭本体2に接合(固定)されている杭本体2を使用した場合における、並列(隣接)する2本の杭本体2、2とその間に落とし込まれる擁壁パネル6との関係を示している。
図1では杭本体2の上端面のレベルが擁壁パネル6の下端面のレベルに揃えられているため、杭本体2の上端面は擁壁パネル6が載置される載置部になり得るが、ここでは支持部材4の杭本体2上端位置に擁壁パネル4を支持するための専用のストッパ4aを突設することで、擁壁パネル4を支持することによる杭本体2の負担を解消し、変形を防止している。図1の場合の支持部材4の上端面のレベルは図8に示すように擁壁1Aを構成し、支持部材4の軸方向に沿って複数段に配置される擁壁パネル6の内、最上部に配置される擁壁パネル6の上端面のレベルに揃えられる。受け部5が杭本体2に直接、突設される図18の例では、杭本体2の上端面のレベルが最上部に配置される擁壁パネル6の上端面のレベルに揃えられる。
図1では特に支持部材4に、対向するフランジとフランジをつなぐウェブを持ち、杭本体2の内部に挿通可能な断面積のH形鋼を使用し、この支持部材4を杭本体2の内部にコンクリート等の充填材10の充填によって接合した(一体化させた)場合の例を示しているが、支持部材4の形態(形状)と杭本体2への接合方法は一切、問われない。
前記のように杭本体2は回転により地中に貫入する関係で、杭本体2には円形断面の鋼管杭等が使用されるが、支持部材4は必ずしも地中に貫入しないため、円形断面以外の鋼材も使用される。図1、図5は受け部5が一体化した形状であるH形鋼を支持部材4に使用した場合、図2〜図4は同じくT形鋼を支持部材4に使用した場合である。受け部5は支持部材4に対して溶接による一体化により形成、あるいは接合できるため、支持部材4には図19に示す鋼管の他、角形鋼管も使用可能である。
充填材10の充填によって支持部材4を杭本体2に接合する場合、杭本体2内部の上端部寄りの位置には図1に示すように充填材10の充填区間を規制するためのせき板11が溶接等によって固定される。支持部材4はせき板11の上に載置された状態で、充填材10が充填されることにより杭本体2に固定される。充填材10充填の時期が杭本体2の貫入前であるか、貫入後であるかは問われない。
支持部材4にH形鋼を使用した場合、擁壁パネル6の表面側に位置するフランジが受け部5になり、擁壁パネル6の溝部7は受け部5であるフランジを厚さ方向に挟み込む形状に形成される。溝部7の、擁壁パネル6の厚さ方向の幅と横方向の深さは受け部5の形状と寸法によって決まる。
図1に示すように杭本体2の内部に支持部材4が挿入されて接合される場合に、杭本体2が地中に対し、鉛直方向に貫入する場合には、原則として支持部材4の軸が杭本体2の軸に平行になるから、擁壁パネル6はその面内方向が鉛直方向を向いて落とし込まれる。但し、杭本体2が鉛直方向に対して傾斜した方向に貫入する場合には擁壁パネル6は面内方向が鉛直方向に対して傾斜した方向を向いて落とし込まれる。
杭本体2が鉛直方向に貫入する場合でも、支持部材4に使用されるH形鋼が、下端部から上端部にかけて成(ウェブ高さ)が次第に小さくなる変断面H形鋼であるような場合、あるいは支持部材4の軸が杭本体2の軸に平行でない状態で杭本体2に接合される場合には、擁壁パネル6は面内方向が鉛直方向に対して傾斜した方向を向いて落とし込まれる。
図3、図4に示すように杭本体2の表面(外部)に支持部材4が接合される場合に、支持部材4の軸が杭本体2の軸に平行でない状態で杭本体2に接合される場合にも、擁壁パネル6の面内方向が鉛直方向に対して傾斜した方向を向くことになる。
受け部5が擁壁パネル6を保持した擁壁装置1の使用状態での擁壁パネル6の安定性は溝部7の内周面と受け部5との間にクリアランスが小さい程高い。一方、受け部5に対して擁壁パネル6を落とし込む際の受け部5と溝部7の接触(抵抗)を小さくし、擁壁パネル6の落下作業性を高めると共に、双方の損傷を抑制する上では、クリアランスが確保されることが適切である。この使用状態での安定性の面と施工時の作業性の面から、受け部5と溝部7との間にどの程度のクリアランスを確保するか、が決められる。
溝部7は図5に示すように溝部7の背面側に位置し、擁壁パネル6の背面が背面土から受ける土圧、または土圧と水圧(以下、土圧等と言う)を受け部5に伝達する土圧伝達部8と、溝部7の表面側に位置し、受け部5を挟んで擁壁パネル6の横方向に隣接する擁壁パネル6、6間の目地を塞ぐ隠蔽部72から、擁壁パネル6の厚さ方向に挟まれる形で構成される。
支持部材4がH形鋼の場合、横方向に隣接する擁壁パネル6、6の端面間に受け部5に連続するウェブが存在する関係で、受け部5を挟んで隣接する土圧伝達部8、8間には図5−(a)に示すようにウェブが入り込めるだけの空間が確保される必要がある。これに対し、受け部5を挟んで隣接する隠蔽部9、9間には支持部材4のいずれかの部分が入り込む必要がなく、隣接する擁壁パネル6、6の相対変位時に互いに接触しない程度の距離が確保されていればよいから、図5−(b)に示すように隠蔽部9の、溝部7の底からの距離W2は土圧伝達部8の、溝部7の底からの距離W1より大きい(W1<W2)。
土圧伝達部8と隠蔽部9がW1<W2の関係になることは、支持部材4がT形鋼等の場合にも当て嵌まり、受け部5が図21−(b)に示すような、ウェブを持たない平板状である場合の他、平板状の受け部5が鋼管からなる杭本体2、もしくは支持部材4に突設される場合等にはW1≧W2になることもある。
また土圧伝達部8は擁壁パネル6が受ける土圧等を負担しながら、その土圧等を受け部5に伝達する働きをする必要があるのに対し、隠蔽部9は基本的に土圧等(荷重)を負担することがないから、土圧伝達部8の厚さD1は隠蔽部9の厚さD2より大きくなっている(D1>D2)。土圧伝達部8と隠蔽部9はそれぞれの機能の相違からD1>D2の関係になるため、支持部材4に使用される形鋼の種類に関係なく、原則としてこの関係は満たされる。
擁壁パネル6は図1に示すように横方向に隣接して地中に貫入している杭本体2、2間に跨る長さを持ち、正確には横方向両側に形成される溝部7、7の底間の距離が、隣接する杭本体2、2の受け部5、5の横方向の端面間の距離になるように、擁壁パネルの6の横方向の長さが設定されている。擁壁パネル6の高さ方向の幅には杭本体2や支持部材6との関係からの制約はなく、高さ方向の幅は任意に設定される。
図示する擁壁パネル6は高さ方向の幅が横方向の長さより小さい形状をしているが、高さ方向の幅が横方向の長さより大きい場合もある。また擁壁パネル6の立面形状は必ずしも長方形である必要もなく、台形状、あるいは多角形状に形成されることもある。
擁壁パネル6を表面側から見たときの、擁壁パネル6の横方向の長さである隠蔽部9、9の端面間距離は、横方向に隣接して配列する擁壁パネル6、6の端面間に確保すべき目地の幅によって決まる。例えば極端な例として隣接する擁壁パネル6、6間に目地を形成しない場合には、擁壁パネル6の隠蔽部9、9の端面間距離は実質的に、隣接する杭本体2、2(支持部材4、4)の軸方向の中心線間距離に等しい。
また擁壁パネル6を背面側から見たときの、擁壁パネル6の横方向の長さである土圧伝達部8、8の端面間距離は実質的に、隣接する杭本体2、2に形成(接合)される受け部5、5のウェブの表面間距離にほぼ等しい。
擁壁パネル6は横方向両側の溝部7、7に支持部材4、4の受け部5、5が擁壁パネル6の面内方向に嵌合することにより両者が互いにガイドとなり、擁壁パネル6の厚さ方向と横方向の移動が拘束された状態で、図1に示すように隣接する杭本体2、2(支持部材4、4)間に落とし込まれ、図8に示すように高さ方向に積み重ねられる。
受け部5、5が擁壁パネル6、6の溝部7、7に嵌合する面内方向は擁壁パネル6の横方向(水平方向)の場合と高さ方向(鉛直方向)が含まれる。図示するように受け部5が平板状である場合には、受け部5は溝部7に対しては水平方向にも鉛直方向にも嵌合するが、受け部5は平板の先端側(擁壁パネル6側)に平板でない棒状、あるいは鉤状、もしくは波状その他の凸部が形成された形状に形成され、受け部5に対し、高さ方向(鉛直方向)に嵌合状態にある擁壁パネル6が水平方向には抜け出さない形状に形成されることもある。
図1、図2は表面に受け部5が形成された支持部材4が杭本体2の内部に挿入され、杭本体2の上端部から上方へ突出した状態で杭本体2に接合されている場合の例を示している。図1は支持部材4のH形鋼を使用した場合、図2はT形鋼を使用した場合であるが、支持部材4の形状(形態)は問われず、支持部材4には溝形鋼や山形鋼の他、図21−(b)に示すような平鋼(プレート)等も使用される。
図3、図4は表面に受け部5が形成された支持部材4が杭本体2の外部(表面)に接合されている場合の例を示している。図3−(a)、(b)は支持部材4の上端が杭本体2の上端に揃えられ、ほぼ同一のレベルに位置している場合、図4は支持部材4の上端が杭本体2の上端から上方へ突出している場合を示す。
杭本体2の単体、もしくは支持部材4が一体化した杭本体2は上記の通り、図6、図7に示すように上端部(頭部)において保持(把持)された状態で回転させられるか、回転させられながら圧力が与えられることにより地中に貫入させられる。杭本体2が地中に貫入させられた後に、図8、図9−(c)に示すように隣接する杭本体2、2の支持部材4、4間に擁壁パネル6が落とし込まれる。
擁壁パネル6の落とし込みにより図8に示すように擁壁1Aの表面側では横方向に隣接する擁壁パネル6、6の隠蔽部9、9によって受け部5(支持部材4)が隠蔽される。擁壁1Aの背面側では隣接する擁壁パネル6、6の土圧伝達部8、8の間に位置する受け部5に擁壁パネル6の背面側から表面側へ係合し得る状態になる。図9−(c)は最上部の擁壁パネル6の落とし込み後にその背面に背面土を充填(盛土)した状況を示している。
図8に示すように複数段に亘って積み重ねられて擁壁1Aを構成する擁壁パネル6の内、最下段に位置する擁壁パネル6の落とし込み時には、擁壁パネル6の下面(底面)が地山の表面(地表面)に接触することによって落下(設置)位置が決まることもある。
但し、地山の表面には不陸があることが多いことから、最下段の擁壁パネル6の落下(停止)位置を規制(統一)するために、杭本体2、もしくは支持部材4、あるいは受け部5における、平面上、擁壁パネル6と重なるいずれかの部分に図1に示すように擁壁パネル6の下面(底面)が当接して係止するストッパ4aが突設(接合)、あるいは形成されることもある。ストッパ4aの役割は杭本体2の上方に支持部材4が突出する図1、図19の例における杭本体2の上端面、あるいは杭本体2が擁壁パネル6の配置区間にまで連続する図18の例における載置部2aが果たすこともある。
ストッパ4aは1枚の擁壁パネル6の横方向両端部を支持するため、隣接する杭本体2、2、もしくは支持部材4、4(受け部5、5)単位で対になる。図1は杭本体2の上端から上方へ突出する支持部材4のフランジ間(フランジとウェブ)、あるいは受け部5の背面にプレート(鋼板)からなるストッパ4aを接合(溶接)した場合を示す。ここでは特に、擁壁パネル6の横方向両端部の断面形状に対応した形状にストッパ4aを形成し、ストッパ4aに擁壁パネル6の両端部を全厚に亘って支持できる面積を与えている。
ストッパ4aは図1に示すようにプレートやフラットバー等の鋼材等、何らかの部材を杭本体2、もしくは支持部材4(受け部5)に溶接、またはボルト接合等することによって突設されるが、杭本体2や支持部材4(受け部5)の一部を切り欠くことによって形成されることもある。ストッパ4aは少なくとも杭本体2等に突設等されればよいが、擁壁パネル6の、杭本体2等のストッパ4aと対向する位置に、ストッパ4aと対となるように突設、あるいは形成されることもある。
図10、図11は擁壁1Aに平面上、隅角部が形成される部位における支持部材4と擁壁パネル6の組み合わせ例を示す。図10は支持部材4が杭本体2の内部に挿入されて接合されている図1に示す例の場合の支持部材4と擁壁パネル6の関係を、図11は支持部材4が杭本体2の外部に接合されている図3、図4に示す例の場合の支持部材4と擁壁パネル6の関係を示している。擁壁1Aに隅角部が形成される場合、2方向に配列する擁壁パネル6、6は平面上の隅角部において直交するとは限らず、垂直以外の角度で交差することもある。
図10では擁壁1Aの隅角部に位置するH形鋼の支持部材4を、2方向を向いて配置される擁壁パネル6、6の内、一方の方向(図中、縦方向)に配列する擁壁パネル6の厚さ方向にH形鋼のウェブ(強軸方向)を向けて配置している。
同時に、図10−(a)の一部拡大図である(b)に示すように支持部材4(H形鋼)の背面側に位置するフランジにプレートやフラットバー、アングル(山形鋼)等の鋼材51を溶接し、その鋼材51を、縦方向の擁壁パネル6に対して交差する方向(図面では直交方向)に配列し、隅角部寄りに位置する擁壁パネル6の溝部7に嵌合する受け部5を兼ねさせている。
擁壁1Aの隅角部に配置される支持部材4の受け部5の形状と、それに対応する擁壁パネル6の溝部7(土圧伝達部8と隠蔽部9)の形状の組み合わせは任意であるが、図10の隅角部に示す支持部材4のように一方の方向の擁壁パネル6用の受け部5の背面側に、他方の方向の擁壁パネル6用の受け部5(鋼材51)を形成した場合には、単一の支持部材4を隅角部に配置するだけで、2方向の擁壁パネル6、6を受けることができる利点がある。
また図10では、支持部材4の背面側に位置するフランジ(受け部5)に溶接された鋼材51(受け部5)をその鋼材51の面内方向(支持部材4の表面側に位置する受け部5に平行に配列する擁壁パネル6に直交する方向)に配列する擁壁パネル6の面内方向(横方向)に向けていることで、鋼材51に平行な方向に配列する擁壁パネル6の鋼材51側の端部に形成される隠蔽部9を、鋼材51からその支持部材4の表面側に位置するフランジ側にまで延長させ、その隠蔽部9の端部と、支持部材4表面側のフランジ(受け部5)との間に両者に跨る隅角部用の隅角部パネル61を配置している。
図10に示す隅角部パネル61は(b)に示すように支持部材4の、隅角部の表面側に位置するフランジ(受け部5)に背面側から係合する土圧伝達部61aと、この土圧伝達部61aと対になり、そのフランジ(受け部5)を隠蔽する隠蔽部61b、及び背面側のフランジに表面側から当接し得る当接部61cを有する形状をしている。
ここで、特に図10に示すように当接部61cが、支持部材4の背面側のフランジに一体化した鋼材51に保持される(図中、横向きの)擁壁パネル6の隠蔽部9にその擁壁パネル6の背面側から当接し得る(その擁壁パネル6の隠蔽部9背面と支持部材4の背面側のフランジに同時に当接し得る)形状に形成されることで、隅角部パネル61自身が鋼材51に保持される擁壁パネル6に擁壁パネル6の表面側から背面側へ押圧され、保持される利点がある。
図10の場合、隅角部パネル61は隅角部の表面側に位置する支持部材4のフランジ(受け部5)を土圧伝達部61aと隠蔽部61bとで挟み込み、当接部61cがそれに隣接する横向きの擁壁パネル6の隠蔽部9の背面側に位置した状態で落とし込まれることで、当接部61cに隣接する横向きの擁壁パネル6によってその擁壁パネル6の表面側への移動に対して拘束されるため、設置(落とし込み)状態での安定性を得ることになる。
図11は擁壁1Aの隅角部に配置される、鋼管を使用した杭本体2の外周面(表面)にT形鋼の支持部材4、4を2方向に向けて接合し、隅角部に配置される隅角部パネル61を、両支持部材4、4に跨るL形状に形成し、その横方向両側に、隅角部以外の擁壁パネル6と同様に、支持部材4の受け部5に係合可能な溝部7、7を形成した場合の例を示している。
図11の例では隅角部パネル61が両側に、支持部材4の受け部5に係合可能な溝部7を有することで、隅角部パネル61以外の擁壁パネル6と同じ土圧伝達部8と隠蔽部9を有する形になるため、隅角部パネル61は他の擁壁パネル6と全く同様に、隣接する支持部材4、4間に落とし込まれることで、隅角部に配置された杭本体2の両支持部材4、4に保持されることになる。
図12、図13は隅角部パネル61を除く擁壁パネル6が隣接する支持部材4、4に支持されている様子を示している。図12は擁壁パネル6の溝部7が厚さ方向に1箇所形成された場合、図13は溝部7、7が厚さ方向に2箇所形成された場合である。図12−(b)は(a)に示す擁壁1Aを構成する1枚の擁壁パネル6を抜き出して示し、(c)はその擁壁パネル6の横方向の端面を示している。図13−(b)は(a)に示す擁壁1Aを構成する1枚の擁壁パネル6を抜き出して示している。
図12、図13ではまた、擁壁1Aの最上部に配置される擁壁パネル6を除く擁壁パネル6の上面に凸部6aを形成し、最下部に配置される擁壁パネル6を除く擁壁パネル6の下面に、上面の凸部6aが嵌合し得る凹部6bを形成した場合の例も示している。擁壁パネル6の上面と下面にそれぞれ凸部6aと凹部6bを形成し、積み重ね時に互いに嵌合させることで、擁壁パネル6の厚さ方向と横方向に係合し得る状態にすることができるため、落とし込み時の安定性と落とし込み(設置)後の安定性が高まる。
この場合、互いに嵌合する凸部6aと凹部6bの間のクリアランスの大きさを調整することで、上下に隣接する擁壁パネル6、6間の相対変位量を一定量に制限し、この一定量までは相対移動を許容することで、地震時の地山(地盤)の変動に追従させることができる。一方、凸部6aと凹部6b間にクリアランスが実質的に確保されない場合には、上下に隣接する擁壁パネル6、6間の相対変位が生じにくい状態になるため、剛性の高い擁壁1Aが構築されることになる。
支持部材4にH形鋼を使用した場合、強軸方向両側にフランジが位置する関係で、支持部材4は擁壁パネル6の表面側と背面側の2箇所に受け部5、5を有することになる。このことから、図13に示すように支持部材4の受け部5、5に対応し、擁壁パネル6に溝部7、7を厚さ方向に2箇所形成した場合には、2箇所の溝部7、7の背面側に形成される2箇所の土圧伝達部8、8から擁壁パネル6が受ける土圧等を伝達することができるため、各擁壁パネル6から支持部材4への土圧伝達能力が向上する利点がある。擁壁パネル6が受ける土圧等をその厚さ方向の2箇所に分散させて支持部材4に伝達することができることで、1箇所の土圧伝達部8の負担が軽減される利点もある。
図13では溝部7、7の形状を支持部材4のフランジの位置と形状に合わせて形成している関係で、(a)では擁壁パネル6の表面側に形成される隠蔽部9の厚さと擁壁パネル6の背面側に形成される土圧伝達部8の厚さに差がないように見えるが、溝部7、7の中間部に形成される土圧伝達部8が厚く形成されることで、背面側の土圧伝達部8より多くの土圧等を伝達することができるから、背面側の土圧伝達部8の厚さが小さいことが問題になることはない。但し、背面側の土圧伝達部8が土圧等を負担することによる破断を防止するために、(b)に示すように背面側の土圧伝達部8の厚さを増しておくことが適切である。
図14は玉石を使用した従来の擁壁に隣接し、奧側に本発明の擁壁装置1を設置して擁壁1Aを構成した様子を示している。図14では玉石の擁壁と本発明の擁壁1Aの境界が擁壁パネル6の断面のように見えているが、擁壁1Aの境界に位置する擁壁パネル6の横方向の端部には杭本体2(支持部材4)が配置される。
玉石の擁壁との対比から分かるように、本発明の擁壁装置1によれば、擁壁1Aの全高に亘って壁面(表面)が鉛直面をなして、あるいは鉛直面に近い角度で擁壁1Aを構成することが可能になっている。また擁壁1Aを構成する各擁壁パネル6はそれぞれの横方向両側に貫入している杭本体2、2(支持部材4、4)に保持されているため、地表面(道路面)上に露出する擁壁パネル6の背面位置の鉛直方向延長線上一杯に地山上の敷地を確保し、地山上の敷地を最大限に、有効に活用しながらも、崩落に対する高い安定性が確保されている。
図15、図16は例えば図14に示す擁壁1Aの構成手順の例を示している。図15は擁壁パネル6の表面側の土砂を排除する切土の要領により擁壁1Aを構成した場合、図16は擁壁パネル6の背面に土砂を充填する(埋め戻す)盛土の要領で擁壁1Aを構成した場合である。
図15の施工要領は道幅を拡張するような場合、あるいは地滑りを起こした土砂が道路を覆い尽くした土砂災害発生後に道路を復旧させるような場合に適し、図16の施工要領は地山上の敷地を拡張するような場合に適する。
図18は前記のように杭本体2に支持部材4を接合することなく、杭本体2を擁壁パネル6の上端のレベルまで連続(延長)させ、鋼管からなる杭本体2の外周面(表面)に直接、プレート等を用いた平板状の受け部5、5を突設した場合の、杭本体2とそれに保持される2枚の擁壁パネル6、6との組み合わせ例を示している。図18−(b)は(a)の平面、あるいは水平断面を示している。ここでは受け部5の厚さ方向の中心線が杭本体2の断面上の中心線上に位置するように受け部5を杭本体2に接合(溶接)しているが、図21−(a)に示すように受け部5を擁壁パネル6の厚さ方向のいずれかの側に寄せて接合することもある。
図18に示すように受け部5の厚さ方向の中心線が杭本体2の断面上の中心線上に位置すれば、(b)に示すように擁壁パネル6の水平断面形状は溝部7の中心を挟んで厚さ方向に対称な形になり、土圧伝達部8と隠蔽部9の厚さが等しくなる。これに対し、例えば図21−(a)に示すように受け部5が擁壁パネル6の表面側にずれて接合されれば、土圧伝達部8の厚さを隠蔽部9の厚さより大きくすることができ、土圧伝達部8が土圧等を受けることによる破断や変形に対する安定性を高めることができる。
図18、図21−(a)では擁壁パネル6の端面の溝部7以外の形状を、杭本体2、もしくは支持部材4の断面形状に対応した湾曲形状に形成しているが、土圧伝達部8は杭本体2、もしくは支持部材4を隠蔽する必要がないため、必ずしも隣接する擁壁パネル6、6の端面同士が接近する形状をしている必要はない。図18の場合、杭本体2が擁壁パネル6上端のレベルにまで連続することで、杭本体2単体では図1の例における杭本体2上端面のような、擁壁パネル6を支持可能な凸部が形成されないため、杭本体2表面、もしくは受け部5の、擁壁パネル6下端のレベルには擁壁パネル6を支持するための載置部2aが突設される。
図19は擁壁パネル6の配置区間の高さに、杭本体2の上端から上方へ突出する、鋼管からなる支持部材4を接合し、突出した支持部材4の外周面(表面)にプレート等を用いた平板状の受け部5、5を突設した場合の、杭本体2と支持部材4、及び支持部材4に保持される2枚の擁壁パネル6、6との組み合わせ例を示している。支持部材4は杭本体2の内部に挿入された状態で、その挿入区間(重なり代)の範囲で杭本体2の内部に溶接等によって接合される。図19−(b)は(a)の平面、あるいは水平断面を示している。ここでも受け部5の厚さ方向の中心線が杭本体2の断面上の中心線上に位置するように受け部5を支持部材4に接合(溶接)しているが、受け部5を擁壁パネル6の厚さ方向のいずれかの側に寄せて接合することもある。
図19の例では支持部材4が杭本体2の上端から上方へ突出することで、図示するように支持部材4が杭本体2に内接する寸法である場合を含め、擁壁パネル6の落とし込み前の状態では杭本体2の上端面が露出するため、この杭本体2の上端面を、擁壁パネル6を支持するための載置部として利用可能であるため、図18における載置部2aを別途、溶接する必要はない。
図18、図19に示す例では杭本体2上端部と支持部材4上端部の、擁壁パネル6を支持する(受け部5の)区間の長さが1枚の擁壁パネル6の高さに対応した大きさになっているが、図18における載置部2aから杭本体2上端部までの長さ、及び図1におけるストッパ4aから支持部材4上端部までの長さは1枚、もしくは複数枚の擁壁パネル6の高さ分の大きさを持つ。図8、図9、図14は杭本体2上端部、もしくは支持部材4上端部の、擁壁パネル6を支持する(受け部5の)区間の長さが3枚の擁壁パネル6の高さ分の大きさを持つ場合の例を示している。
図20は図19における鋼管を用いた支持部材4に代え、受け部5になるプレートのみからなる支持部材4を、あるいはプレートにその曲げ補剛のためのリブ4bを突設した形の支持部材4を杭本体2の上端部から上方へ突出させた状態で、杭本体2への挿入区間において接合した場合の、支持部材4と擁壁パネル6、6との組み合わせ例を示している。図20−(b)は(a)の平面、あるいは水平断面を示している。この例でも受け部5の厚さ方向の中心線を杭本体2の断面上の中心線上に位置させた状態で受け部5を支持部材4に接合(溶接)することも、受け部5を擁壁パネル6の厚さ方向のいずれかの側に寄せて接合することもある。
図20−(c)は(b)の変形として(a)、(b)におけるリブ4bに代わる丸鋼や異形鉄筋等の棒鋼の両側に、受け部5になるプレートを突合せ溶接等して支持部材4を形成した場合の例を示している。このように受け部5を基本要素とする支持部材4は任意の方法で、任意の形状に形成される。
図21−(a)、(b)は前記の通り、受け部5の厚さ方向の中心線を杭本体2の断面上の中心線上に対して擁壁パネル6の厚さ方向表面側へ寄せて受け部5を支持部材4、もしくは杭本体2に接合し、相対的に土圧伝達部8の厚さを隠蔽部9の厚さより大きくした場合の例を示している。(a)は鋼管からなる支持部材4の表面に受け部5としてのプレート等を溶接した場合、(b)は支持部材4が受け部5のみからなる場合の例であるが、(b)の受け部5には図20のようにリブ4bが付加されることもある。
図22は支持部材4を挟んで隣接する擁壁パネル6、6の上面上に、擁壁パネル6、6間の面外方向への相対的なずれ変形を拘束し、また擁壁パネル6の上端面を損傷から保護するための笠木43を配置し、各擁壁パネル6の独立した面外方向への暴れに対する安定性を高めることで、隣接する擁壁パネル6、6の連続性を確保した場合の例を示す。
図22では笠木43が設置された状態で、笠木43の内周面が直線で接触し、設置状態での笠木43の安定性を得易い関係で、支持部材4に角形鋼管を使用した場合の例を示している。ここではまた、支持部材4である角形鋼管の開放している上端に、それに内接するキャップ41を落とし込み、嵌合させた状態で角形鋼管に接合し、このキャップ41に笠木43をボルト42等によって接合している。
キャップ41は角形鋼管の支持部材4に対しては、上方から叩き込まれることによる内接(嵌合)状態での摩擦力により、または溶接(接着)されることにより、あるいはボルト等の何らかの機械的手段が用いられることによって着脱自在に、もしくは一体的に接合される。図22では笠木43をそれに形成された挿通孔43aを貫通し、キャップ41に形成されたボルト孔41aにボルト42により接合しているが、笠木43は擁壁パネル6に接合される場合もあり、キャップ4、もしくは擁壁パネル6への接合の手段は必ずしもボルト42による必要もない。図22の場合、ボルト42等による接合部分には水の浸入を阻止するためのシールが施される。支持部材4である角形鋼管の内部には支持部材4の曲げ剛性を上げ、隣接する擁壁パネル6、6を支持した状態での変形に対する安定性の向上のために、モルタルやコンクリート等の充填材が充填されることもある。その場合、キャップ41は充填材の充填後に支持部材4に溶接等により接合される。
笠木43には図示するような溝形鋼、もしくは山形鋼、プレート(平鋼)等の鋼材の単体、もしくは組み合わせの他、コンクリート(プレキャストコンクリート)、石材、セラミックス、硬質ゴム等が使用される。笠木43の断面形状は笠木43の幅方向両側から擁壁パネル6を厚さ方向に挟み込めるよう、溝形に形成されることが望ましい。笠木43は擁壁パネル6の横方向に連続的に、複数枚の擁壁パネル6に跨って配置されることもあるが、少なくとも支持部材4を挟んで隣接する擁壁パネル6、6に跨る範囲に部分的に配置されることで、隣接する擁壁パネル6、6の一体性を確保して各擁壁パネル6を面外方向に拘束し、互いに独立した挙動をさせない働きをする。
図22では支持部材4を構成する角形鋼管の両擁壁パネル6、6側の側面にプレートや平鋼からなる受け部5、5を角形鋼管の軸方向に突設し、擁壁パネル6の表面側の隠蔽部9を角形鋼管の表面側を回り込ませる形状に形成しながら、擁壁パネル6の背面と角形鋼管(支持部材4)の背面を連続させる(面一にする)ために、背面側の土圧伝達部8を角形鋼管の側面に突き当てている。但し、擁壁パネル6の土圧伝達部8を隠蔽部9と同様に、角形鋼管の背面側を回り込ませ、角形鋼管の背面に当接させることもある。図22の場合、笠木43の内周面は擁壁パネル6の背面と角形鋼管(支持部材4)の背面に内接することにより支持部材4とその両側に位置する擁壁パネル6、6を一体的に挙動させる働きをする。
図23は図22に示す笠木43を擁壁パネル6と支持部材4上に設置した擁壁装置1を、道路に面する地山の土留め擁壁として使用し、擁壁装置1の表面側に道路を敷設した場合の施工例を示す。図24は図23の縦断面を示す。この例では笠木43上に、擁壁装置1の表面側(道路側)への落石を防止するための落石防護柵1Bを設置している。ここではまた、地山の地形に合わせ、地山の下流側にも道路下の地盤の土留め擁壁として擁壁装置1を設置している。図23、図24では杭本体2の先端部が硬質層(地盤)に貫入している様子を示している。
図23では擁壁1Aの表面が平面状に配列し、道路が直線状に敷設されている様子が示されているが、受け部5、5の突設位置の設定により、杭本体2、もしくは支持部材4を挟んで隣接する擁壁パネル6、6の表面間には任意の角度を付けることが可能であるため、擁壁装置1の擁壁1A全体を曲面状に形成することも可能であり、道路を曲線状に敷設することも可能である。