JP4854638B2 - 安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、電気泳動法を用いた安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法であって、特に、測定試料が異常ヘモグロビン類等を含む場合であっても、高精度な測定をすることが可能な安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法に関する。
ヘモグロビン(以下、Hbともいう)類、なかでも糖化ヘモグロビン類の一種であるヘモグロビンA1c(以下、HbA1cともいう)は、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。
一方、電気泳動法は、装置構成が簡便なため、マイクロチップ電気泳動装置のような安価で小型なシステムを作製することが可能な技術であり、電気泳動法を用いたHbA1cの高精度測定技術の臨床検査への適用は、コスト面において非常に有益な効果が期待できる。しかしながら、電気泳動法をHbA1cの測定に応用した場合、測定時間及び測定精度の点で問題があるため、現在では、糖尿病診断への応用はほとんど行われていなかった。
これに対して、1990年頃に登場したキャピラリー電気泳動法は、一般的に高分離・高精度測定が可能であるとされており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、キャピラリー電気泳動法によってHbA1cを分離する手法が開示されている。
しかしながら、糖尿病診断を行う場合は、HbA1c成分のなかでも、特に糖尿病の指標となる安定型HbA1cを、不安定型HbA1cやカルバミル化Hb等の、測定の障害となる成分(以下、これらを修飾Hb類ともいう)から分離しなければならない。この点、特許文献1及び特許文献2に開示された方法によって得られたエレクトロフェログラムでは、安定型HbA1cと修飾Hb類との分離性能が不充分であり、これらの方法の技術範囲では安定型HbA1cを修飾Hb類から分離することは困難であった。従って、高精度に安定型HbA1c値を求めることはできなかった。また、特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、安定型HbA1cと異常Hb類とを分離することができないという問題もあった。
これらの問題を解消するための方法としては、例えば、キャピラリー電気泳動法において、キャピラリーにカチオン性ポリマーを含有する溶液を通液することによって、キャピラリー内面にカチオン性ポリマーをコーティングした上で、キャピラリー内に硫酸化多糖類を含有する緩衝液を満たす方法が検討されている。この方法によれば、短時間で安定型HbA1cと修飾Hb類とを良好に分離することができる。
ところで、このような電気泳動法によって得られたエレクトロフェログラムでは、従来、全Hb成分のピーク面積値に対する安定型HbA1cのピーク面積値の比率を求めることによって、安定型HbA1c値を算出している。ところが、このような算出の仕方では、異常Hb類等を含む試料について測定を行った場合、測定毎に得られる安定型HbA1c値が大きく変動し、安定型HbA1c値を正確に算出することができないという問題があった。
特表平9−510792号公報 特開平9−105739号公報
本発明は、上記現状に鑑み、電気泳動法を用いた安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法であって、特に、測定試料が異常ヘモグロビン類等を含む場合であっても、高精度な測定をすることが可能な安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法を提供することを目的とする。
本発明は、電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1c値を測定する方法であって、安定型ヘモグロビンA1cのピークと異常ヘモグロビン類のピークと胎児性ヘモグロビンのピークとが分離されたエレクトロフェログラムにおいて、安定型ヘモグロビンA1cのピーク面積値aと、全ヘモグロビン類のピーク面積値から異常ヘモグロビン類のピーク面積値及び胎児性ヘモグロビンのピーク面積値を除外したピーク面積値bとを用いて、下記式(1)により算出される値を安定型ヘモグロビンA1c値とする安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法である(以下、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法ともいう)。
Figure 0004854638
また、本発明は、電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1c値を測定する方法であって、安定型ヘモグロビンA1cのピークとヘモグロビンAのピークとが分離されたエレクトロフェログラムにおいて、安定型ヘモグロビンA1cのピーク面積値aと、ヘモグロビンAのピーク面積値cとを用いて、下記式(2)により算出される値を安定型ヘモグロビンA1c値とする安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法である(以下、本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法ともいう)。
Figure 0004854638
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来、電気泳動法によって安定型HbA1c値を測定する場合、特に異常Hb類を含む試料を測定した場合に、安定型HbA1c値に大きな変動が生じてしまうのは、得られたエレクトロフェログラムにおいて、安定型HbA1c値を算出するためには不要なピークの面積値を含めて算出してしまうためであることを見出した。すなわち、本発明者らは、得られたエレクトロフェログラムにおいて、安定型HbA1c値の算出のために不要なピーク面積値を除外して安定型HbA1c値を算出する方法、及び、安定型HbA1c値の算出のために必要なピーク面積値のみを選択して安定型HbA1c値を算出する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、まずは本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法について詳述する。
本発明1の安定型ヘモグロビンA1cの測定方法では、まず、電気泳動法によって、安定型ヘモグロビンA1cのピークと異常ヘモグロビン類のピークと胎児性ヘモグロビンのピークとが分離されたエレクトロフェログラムを得る。得られたエレクトロフェログラムにおいて、安定型HbA1cのピーク面積値aを算出する。次いで、全Hb成分のピーク面積値d、異常Hb類のピーク面積値及び胎児性ヘモグロビンのピーク面積値を算出する。更に、上記全Hb成分のピーク面積値dから異常Hb類のピーク面積値及び胎児性ヘモグロビンのピーク面積値を除外したピーク面積値bを算出する。得られた面積値aを面積値bで除した値を100倍すること、すなわち、下記式(1)によって、安定型HbA1c値(%)を得ることができる。
上記各Hb成分のピーク面積値を算出する方法としては特に限定されず、例えば、従来公知のデータ処理方法等を用いることができる。
Figure 0004854638
本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法では、得られるエレクトロフェログラムにおいて、安定型ヘモグロビンA1cのピークと異常ヘモグロビン類のピークと胎児性ヘモグロビンのピークとが分離されている。これらのピークは、一つのエレクトロフェログラム上において同時に分離されている必要がある。
なお、本明細書において、上記「異常Hb類」とは、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法に用いる上記電気泳動法によって分離することが可能な全ての異常Hb類、特に、HbS、HbCを示すとともに、健常人血にも一定の割合で含まれるHbA2も示す。
また、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法では、得られるエレクトロフェログラムにおいて、「安定型ヘモグロビンA1cのピークと異常ヘモグロビン類のピークと胎児性ヘモグロビンのピークとが分離されている」とは、それぞれのピークが単独ピークとして分離されていることを意味する。つまり、各ピークがそれぞれ互いに分離していることに加えて、他のHb成分のピーク、すなわち、成人Hb(HbA)、HbA1a、HbA1b等の安定型HbA1c以外の糖化Hb類のピーク、不安定型HbA1cのピーク、カルバミル化Hb等の修飾Hb類のピーク等とも分離されていることを意味する。
本発明1の安定型ヘモグロビンA1cの測定方法において、上記安定型ヘモグロビンA1cのピークと異常ヘモグロビン類のピークと胎児性ヘモグロビンのピークとを分離する電気泳動法としては、各ピークが分離できる条件のものであれば特に限定されないが、微小口径の泳動路を用いた電気泳動法、すなわち、キャピラリー電気泳動法、マイクロデバイスを用いた電気泳動法等が好ましい。
図1に、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法に用いる電気泳動装置の一例として、キャピラリー電気泳動装置の例を示す。図1に示すように、キャピラリー電気泳動装置11は、陽極槽12、陰極槽13、キャピラリー14、高圧電源15、検出器16、及び、一対の電極17、18からなり、キャピラリー14の両端は陽極槽12及び陰極槽13内の緩衝液に浸され、管状のキャピラリー14の内部は緩衝液で満たされている。また、電極17及び18は高圧電源15と電気的に接続されている。
試料を測定する際には、キャピラリー14の一方より試料を注入し、高圧電源15から所定の電圧を印加することにより、キャピラリー14内を移動する目的成分を検出器16によって測定する。
本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法においては、微小口径の泳動路を用いた電気泳動法を用いることが好ましい。
上記「泳動路」とは、電気泳動が行われる流路において、測定試料が電気泳動により移動及び/又は分離する部位(測定試料が注入された部位から検出される部位まで)のことをいう。すなわち、電気泳動流路のうち、キャピラリー、マイクロデバイス流路等における試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいう。
上記「微小口径」とは、泳動路の最大口径の好ましい下限が1μm、好ましい上限が100μmであることを意味する。1μm未満であると、検出器により検出するための光路長が小さく、測定精度が低下することがある。100μmを越えると、泳動路内で試料が拡散することにより得られるエレクトロフェログラムにおいてピークがブロードになり、測定精度が低下することがある。なお、上記泳動路の断面形状は、円形である必要はなく、矩形その他の形状であってよく、該泳動路の断面における最大幅が上記好ましい範囲の最大口径を有すればよい。
上記泳動路を構成する素材としては特に限定されず、例えば、ガラス、金属、樹脂等が挙げられる。
上記泳動路の長さの好ましい下限は10mm、好ましい上限は300mm、より好ましい上限は200mm、更に好ましい上限は100mmである。10mm未満であると、充分に試料が分離されないため、正確な測定をすることができないことがある。300mmを超えると、測定時間の延長や得られるエレクトロフェログラムにおいてピーク形状の変形が生じることによって、正確な測定をすることができないことがある。
本発明1の安定型ヘモグロビンA1cの測定方法に用いられる上記泳動路の内面は、親水性であることが好ましい。泳動路の内面が疎水性であると、測定対象であるHb及び測定試料中に含まれる物質が泳動路の内面の疎水性部分に非特異吸着し、測定の障害になることがある。
上記泳動路の内面への親水性の付与方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、親水性素材から泳動路を作製する方法、泳動路を作製した後に親水性を付与する表面改質操作を行なう方法等が挙げられる。特に、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法においては、親水性付与方法として、表面改質操作の一種であるコーティング法によるものが好ましい。特に、各種の親水性ポリマーによるコーティング方法によって分離性能が改善する場合がある。
上記コーティング方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、親水性ポリマーを含有する溶液を上記泳動路の内部に通液して泳動路内表面にポリマー層の吸着平衡状態をつくることにより被覆する動的コーティング法;親水性ポリマーを泳動路の内面に接触させて疎水性的又は静電気的な相互作用等を利用して物理的に吸着・固定化させる固定化コーティング法;泳動路の内面及び親水性ポリマーをそれぞれの物質が有する官能基や他の物質等を介して共有結合により結合・固定化させる固定化コーティング法等が挙げられる。これらのコーティング法のうち、特に固定化コーティング法が好ましい。
また、これらのコーティング層は、単層であってもよく、同一又は異なる材料からなる多層であってもよい。
上記親水性ポリマーとしては特に限定されないが、例えば、イオン性又は非イオン性のポリマーが挙げられる。具体的には例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の非イオン性ポリマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(アクリレート又はメタクリレートは、以下(メタ)アクリレートともいう)、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の非イオン性モノマーを重合して得られる非イオン性ポリマー;デンプン、デキストラン、アガロース、マンナン等の非イオン性多糖類等が挙げられる。
上記イオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、キチン、キトサン、アミノセルロース、N−メチルアミノセルロース等のN−置換セルロース等のカチオン性基を含むイオン性多糖類;デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、フコイダン、アルギン酸、ペクチン酸等のアニオン性基を含むイオン性多糖類;アルブミン類、ラクトフェリン、スキムミルク等蛋白質類等、又は、これらの物質の塩類又は誘導体類等が挙げられる。
他の上記イオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、ポリエチレンイミン、ポリブレン、ポリ(2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)等のカチオン性基含有ポリマー及びこれらのポリマーを含む共重合物;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、リン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、スルホン酸基含有(メタ)アクリル酸重合体等のアニオン性基含有ポリマー、及び、これらのポリマーを含む共重合物等が挙げられる。
上記親水性ポリマーは、複数種が混合されて、あるいは他のモノマーとの共重合体とされて用いられてもよい。
上記親水性ポリマーの重量平均分子量の好ましい下限は500である。500未満であると、泳動路の内面を充分に被覆することが困難となり、ヘモグロビン類の分離性能が不充分となることがある。更に、上記親水性ポリマーとしてはイオン性ポリマーが好ましく、カチオン性ポリマーがより好ましい。
本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法に用いられる電気泳動法において用いられる緩衝液は、上記安定型ヘモグロビンA1cのピークと、異常ヘモグロビン類のピークと、胎児性ヘモグロビンのピークとを分離することができる緩衝液であれば特に限定されず、従来公知の緩衝液組成物の中から適宜選択することができる。
本明細書において、上記「緩衝液」とは、電気泳動時に泳動路内に満たされる緩衝液、及び、電気泳動時に泳動路の両端に設置される陽極槽及び陰極槽に満たされる緩衝液のほか、測定試料を溶解希釈するために用いられる溶血希釈用緩衝液、泳動路内を洗浄するために用いられる泳動路洗浄用緩衝液等、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法を実施するために用いられる全ての種類の緩衝液を意味する。
上記緩衝液としては、緩衝能を有する従来公知の緩衝液組成物を含有する溶液であれば特に限定されず、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸、及び、その塩類等を含有する溶液等;グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸、及び、その塩類等を含有する溶液等が挙げられる。
上記緩衝液には、カオトロピック化合物、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物等、一般的に用いられる添加剤を適宜添加してもよい。
上記緩衝液に上記各種ポリマーを含有させる場合、特に限定されないが、例えば、イオン性基を有する水溶性ポリマーが好ましい。イオン性基を有する水溶性ポリマーとしては、分子内にイオン性の官能基を有するポリマーであり、イオン性の種類により、アニオン性基を有するポリマーと、カチオン性基を有するポリマーとに大別される。なかでも、アニオン性基を有する水溶性ポリマーが好ましい。
上記アニオン性基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の従来公知のアニオン性を有する官能基である。なかでも、スルホン酸基を有することが好ましい。上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーは、分子中に、上記アニオン性基を複数有していてもよく、異なる種類の上記アニオン性基を有していてもよい。上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーは、使用時に上記緩衝液に完全に溶解した状態であればよいが、水に対する溶解度の好ましい下限が1g/Lである。1g/L未満であると、アニオン性基を有する水溶性ポリマーを低濃度でしか用いることができないため効果が現れにくく、測定精度が不充分となることがある。より好ましい下限が5g/Lである。
上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーとしては特に限定されず、公知のポリマーを用いることができるが、例えば、アニオン性基を有する多糖類、及び、アニオン性基を有する水溶性の有機合成ポリマーが好ましい。
上記アニオン性基を有する多糖類としては特に限定されず、例えば、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、フコイダン等のスルホン酸基含有多糖類、及び、その塩類;アルギン酸、ペクチン酸等のカルボキシル基含有多糖類、及び、その塩類;セルロース、デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類、その誘導体へのアニオン性基導入化物、及び、その塩類等の公知のアニオン性基を有する多糖類等が挙げられる。
上記アニオン性基を有する有機合成ポリマーとしては、例えば、アニオン性の官能基を含有する水溶性の公知の有機合成ポリマーが挙げられるが、特にアクリル系ポリマー;すなわち、アクリル酸又はメタクリル酸及びその誘導体類及びエステル類等を主成分とするポリマー等が好ましい。
具体的には例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸等のカルボキシル基を有するモノマーを重合して得られるアクリル系ポリマー、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等のリン酸基を有するモノマーを重合して得られるアクリル系ポリマー、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーを重合して得られるアクリル系ポリマー等が挙げられる。
上記アクリル系ポリマーは、アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマーと、アニオン性基を有しない(メタ)アクリルモノマーとの共重合体であってもよい。
上記アニオン性基を有しない(メタ)アクリルモノマーとしては、上記アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマーと共重合が可能な(メタ)アクリルモノマーであれば特に限定されないが、例えば、非イオン性の親水性である(メタ)アクリル酸エステル類であることが好ましい。具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アニオン性基を有しない(メタ)アクリルモノマーの添加量としては、得られる共重合体が水溶性であれば特に限定されないが、上記アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマー100重量部に対して、好ましい上限が1000重量部である。1000重量部を超えると、得られる共重合体が水溶性とならないことがある。
上記緩衝液の上記アニオン性基を有する水溶性ポリマーの含有量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は10重量%である。0.01重量%未満であると、水溶性ポリマーを添加することによる効果が発現しにくく、ヘモグロビン類の測定において、分離等が不充分となることがある。10重量%を超えると、測定時間の延長や分離不良を引き起こすことがある。
次に、本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法について詳述する。
本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法は、まず、電気泳動法によって、安定型ヘモグロビンA1cのピークとヘモグロビンAのピークとが分離されたエレクトロフェログラムを得る。得られたエレクトロフェログラムにおいて、安定型HbA1cのピーク面積値aを算出する。次いで、ヘモグロビンAのピークの面積値cを算出する。得られた面積値aを、面積値aと面積値cとを加えた面積値で除した値を100倍すること、すなわち、下記式(2)によって、安定型HbA1c値(%)を得ることができる。
上記各Hb成分のピーク面積値を算出する方法としては特に限定されず、例えば、従来公知のデータ処理方法等を用いることができる。
Figure 0004854638
本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法では、得られるエレクトロフェログラムにおいて、安定型ヘモグロビンA1cのピークとヘモグロビンAのピークとが分離されている。これらのピークは、一つのエレクトロフェログラム上において同時に分離されている必要がある。
また、本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法では、得られるエレクトロフェログラムにおいて、「安定型ヘモグロビンA1cのピークとヘモグロビンAのピークとが分離されている」とは、それぞれのピークが単独ピークとして分離されていることを意味する。つまり、各ピークがそれぞれ互いに分離していることに加えて、他のHb成分のピーク、すなわち、HbA1a、HbA1b等の安定型HbA1c以外の糖化Hb類のピーク、不安定型HbA1cのピーク、カルバミル化Hb等の修飾Hb類のピーク、異常Hb類のピーク等とも分離されていることを意味する。
なお、本明細書において、上記「異常Hb類」とは、本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法に用いる上記電気泳動法によって分離することが可能な全ての異常Hb類、特に、HbS、HbCを示すとともに、健常人血にも一定の割合で含まれるHbA2も示す。
なお、本発明2の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法において、使用する電気泳動法、泳動路、緩衝液等は、本発明1の安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法において使用する電気泳動法、泳動路、緩衝液等と同様のものを用いることができる。
本発明の測定方法によれば、異常Hb類等を含む試料について、糖尿病の指標となる安定型HbA1c値を正確に算出することができる。また、電気泳動法は、HPLC法よりも装置構成が簡便であることから、安価な方法によって、安定型HbA1c値を正確に測定することができる。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(参考例1)
キトサン(和光純薬社製、キトサン100)を0.2重量%含有する0.2N塩酸水溶液を調製した。次いで、フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長30cm)に、0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClをこの順で通液してキャピラリー内を洗浄した後、得られたキトサン水溶液を20分間通液した。その後、空気をキャピラリー内に注入してキトサン水溶液を追い出した後、40℃の乾燥機内で12時間乾燥させた。その後、再びキトサン水溶液を注入し、空気の注入及び乾燥を5回繰り返した。
得られたキトサン固定化キャピラリーを、キャピラリー電気泳動装置(Beckman Coulter社製 PAC/E MDQ)にセットした。その後、コンドロイチン硫酸(和光純薬社製)2.0重量%を含有するクエン酸緩衝液(pH4.8)を泳動用緩衝液としてキャピラリーの両端にセットし、キャピラリー内に満たした。
測定試料としてAFSCヘモコントロール(ヘレナ研究所社製)及び健常人血を混合することによって、異常Hb類を含み、安定型HbA1c値が5.0%となる評価用試料を調製した。調整した評価用試料をキャピラリーの一方より注入して、キャピラリーの両端の緩衝液に20kVの電圧をかけて電気泳動を行った。415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、試料中の安定型HbA1c及び異常Hb類の分離を行った。
得られたエレクトロフェログラムを図2に示す。図2中、ピーク1はHbA1a、ピーク2はHbA1b、ピーク3は胎児性Hb(HbF)、ピーク4は不安定型HbA1c、ピーク5は安定型HbA1c、ピーク6はHbA、ピーク7はHbS、ピーク8はHbCを示す。
(参考例2)
ガラス製マイクロチップ(50mm×30mm×2mm)に泳動路を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。
泳動路には、ポリビニルアルコール水溶液及び5重量%のポリブレン水溶液(和光純薬社製)を実施例1と同様の方法により順次通液して固定化を行った。緩衝液としては、実施例1と同様の泳動用緩衝液を用いた。
測定試料としてA2コントロールレベル2(バイオラッド社製)及び健常人血を混合することによって、HbA2を含み、安定型HbA1c値が4.8%となる評価用試料を調整した。調整した評価用試料を泳動路の一端の緩衝液槽に添加して、泳動路の両端に1000Vの電圧をかけてマイクロチップ電気泳動を行った。415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、評価用試料中の安定型HbA1c及びHbA2の分離を行った。
得られたエレクトロフェログラムを図3に示す。図3中、ピーク1はHbA1a、ピーク2はHbA1b、ピーク3はHbF、ピーク4は不安定型HbA1c、ピーク5は安定型HbA1c、ピーク6はHbA、ピーク9はHbA2を示す。
(実施例1)
参考例1において得られたエレクトロフェログラムより、各Hb成分のピーク面積値を算出した。更に、各Hb成分のピーク面積値を、全Hb成分のピーク面積値から異常Hb類のピーク面積値及びHbFのピーク面積値を除外したピーク面積値bで除し、各Hb成分について百分率(%)を算出した(本発明1の算出方法)。
更に、安定型HbA1cのピーク面積値aを、該ピーク面積値aとHbAのピーク面積値cとの合計値で除し、各Hb成分について百分率(%)を算出した(本発明2の算出方法)。
結果を表1に示す。本発明1及び本発明2の算出方法では、安定型HbA1c値が約5.0%と正確な値を示した。
(比較例1)
各Hb成分のピーク面積値を、全Hb成分のピーク面積値dで除した以外は、実施例1と同様にして、各Hb成分について百分率(%)を算出した。
結果を表1に示す。安定型HbA1c値は1.7%と不正確な値を示した。
(実施例2)
参考例2において得られたエレクトロフェログラムより、各Hb成分のピーク面積値を算出した。更に、各Hb成分のピーク面積値を、全Hb成分のピーク面積値からHbA2のピーク面積値及びHbFのピーク面積値を除外したピーク面積値bで除し、各Hb成分について百分率(%)を算出した(本発明1の算出方法)。
更に、安定型HbA1cのピーク面積値aを、該ピーク面積値aとHbAのピーク面積値cとの合計値で除し、各Hb成分について百分率(%)を算出した(本発明2の算出方法)。
結果を表2に示す。本発明1及び本発明2の算出方法では、安定型HbA1c値が約4.8%と正確な値を示した。
(比較例2)
各Hb成分のピーク面積値を、全Hb成分のピーク面積値dで除した以外は、実施例2と同様にして、各Hb成分について百分率(%)を算出した。
結果を表2に示す。安定型HbA1c値は3.0%と不正確な値を示した。
Figure 0004854638
Figure 0004854638
本発明によれば、電気泳動法を用いた安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法であって、特に、測定試料が異常ヘモグロビン類等を含む場合であっても、高精度な測定をすることが可能な安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法を提供することができる。
本発明1の測定方法に用いられる電気泳動装置の一例を示す模式図である。 参考例1の測定条件によって、異常Hb類を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。 参考例2の測定条件によって、HbA2を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。
符号の説明
11 キャピラリー電気泳動装置
12 陽極槽
13 陰極槽
14 キャピラリー
15 高圧電源
16 検出器
17 電極
18 電極
1 HbA1a
2 HbA1b
3 HbF
4 不安定型HbA1c
5 安定型HbA1c
6 HbA
7 HbS
8 HbC
9 HbA2

Claims (2)

  1. 電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1c値を測定する方法であって、
    安定型ヘモグロビンA1cのピークと異常ヘモグロビン類のピークと胎児性ヘモグロビンのピークとが分離されたエレクトロフェログラムにおいて、
    安定型ヘモグロビンA1cのピーク面積値aと、全ヘモグロビン類のピーク面積値から異常ヘモグロビン類のピーク面積値及び胎児性ヘモグロビンのピーク面積値を除外したピーク面積値bとを用いて、下記式(1)により算出される値を安定型ヘモグロビンA1c値とする
    ことを特徴とする安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法。
    Figure 0004854638
  2. 電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1c値を測定する方法であって、
    安定型ヘモグロビンA1cのピークとヘモグロビンAのピークとが分離されたエレクトロフェログラムにおいて、
    安定型ヘモグロビンA1cのピーク面積値aと、ヘモグロビンAのピーク面積値cとを用いて、下記式(2)により算出される値を安定型ヘモグロビンA1c値とする
    ことを特徴とする安定型ヘモグロビンA1c値の測定方法。
    Figure 0004854638
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