JP4854637B2 - ヘモグロビン類の測定方法 - Google Patents
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Description
電気泳動法によるHb類の測定は、通常とは異なるアミノ酸配列を有する異常Hb類の分離方法として古くから用いられているが、HbA1cの分離は非常に困難であり、ゲル電気泳動の手法では30分以上の時間が必要であった。このように電気泳動法は、臨床検査分野に応用した場合、測定時間及び測定精度の点で問題があるため、現在では糖尿病診断への応用はほとんど行われていなかった。
しかしながら、特許文献1の方法を用いた場合、測定時間が長いという問題点は解消されず、加えて、使用する緩衝液のpHが9〜12と高いことから、Hbが変性してしまう可能性があることから、この方法を臨床検査に適用することは困難であった。
以下に本発明を詳述する。
ヘモグロビン類を測定する際には、キャピラリー14の一方より試料を注入し、高圧電源15から所定の電圧を印加することにより、キャピラリー14内を移動する目的成分を検出器16によって測定する。
上記「緩衝液」とは、電気泳動時に泳動路内に満たされる緩衝液、及び、電気泳動時に泳動路の両端に設置される陽極槽及び陰極槽に満たされる緩衝液のほか、測定試料を溶解希釈するために用いられる溶血希釈用緩衝液、泳動路内を洗浄するために用いられる泳動路洗浄用緩衝液等、本発明のヘモグロビン類の測定方法を実施するために用いられる全ての種類の緩衝液を含む(以下、単に「緩衝液」又は「緩衝液類」と記す場合は、これらの各種緩衝液全てを指す場合がある)。
本発明のヘモグロビン類の測定方法では、複数種の緩衝液が用いられてもよく、複数種の緩衝液が用いられる場合、上記亜硝酸塩を含有する緩衝液の他に、更に上記亜硝酸塩を含有する他の緩衝液を併用してもよいし、上記亜硝酸塩を含有しない他の緩衝液を併用してもよい。
上記各種ポリマー類としては特に限定されないが、アニオン性ポリマーであることが好ましい。
上記アニオン性ポリマーとしては特に限定されないが、アニオン性基を含有する非架橋性の水溶性ポリマーが好ましく、なかでも、アニオン性基含有多糖類、アニオン性基含有有機合成ポリマー等がより好ましい。
上記「泳動路」とは、電気泳動が行われる流路において、測定試料が電気泳動により移動及び/又は分離する部位(測定試料が注入された部位から検出される部位まで)のことをいう。具体的には例えば、キャピラリー電気泳動法の場合には、キャピラリー内に試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいい、マイクロチップ型電気泳動法の場合には、マイクロチップ溝内の試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいう。
上記泳動路の内面とは、具体的には、例えば、キャピラリー電気泳動法の場合には、キャピラリーの泳動路の内面のことをいい、マイクロチップ型電気泳動法の場合には、マイクロチップ溝の泳動路の内面のことをいう。
上記イオン性泳動路とは、泳動路の内面が使用時の環境下においてイオン性を示すこと、すなわち、泳動路の内面に、使用時の環境下で解離するイオン性官能基を有する泳動路のことをいう。
上記アニオン性ポリマーは、親水性であることが好ましい。
上記親水性を有するアニオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、アニオン性基含有多糖類、アニオン性基含有有機合成ポリマー等が挙げられる。
上記アニオン性基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
上記カチオン性ポリマーは、親水性であることが好ましい。
上記親水性を有するカチオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、アミノ基含有多糖類、アミノ基含有有機合成ポリマー等が挙げられる。
上記カチオン性基としては特に限定されず、例えば、1〜4級のアミノ基等が挙げられる。
また、イオン性ポリマー層と泳動路の内面との間に、別種の層を形成してもよい。即ち、最終的に泳動路の最内面にイオン性ポリマー層が形成されていればよい。
このような本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いる安定型ヘモグロビンA1cの測定方法もまた、本発明の一つである。
更に、本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いることによって、安定型HbA1cと同時に、糖尿病以外の疾病の指標となり得るHbS、HbC等の異常Hb類を測定することができる。安定型HbA1cと同時に、HbA2や、異常Hb類を測定することによって、糖尿病及び糖尿病以外の疾病に関する情報を同時に得ることができる。
このような本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いる安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法もまた、本発明の一つである。
アニオン性ポリマーであるデキストラン硫酸(和光純薬社製)を0.2重量%含有する水溶液を調製した。次いで、フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長30cm)に、0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClをこの順で通液してキャピラリー内を洗浄した後、得られたデキストラン硫酸水溶液を20分間通液した。その後、空気をキャピラリー内に注入してデキストラン硫酸水溶液を追い出した後、40℃の乾燥機内で12時間乾燥させた。その後、再びデキストラン硫酸水溶液を注入し、空気の注入及び乾燥を5回繰り返した。
得られたデキストラン硫酸固定化キャピラリーを、キャピラリー電気泳動装置(Beckman Coulter社製 PAC/E MDQ)にセットした。その後、亜硝酸ナトリウム(亜硝酸塩:和光純薬社製)50mM及びコンドロイチン硫酸(和光純薬社製)2.0重量%を含有するクエン酸緩衝液(pH4.8)を泳動用緩衝液としてキャピラリーの両端にセットし、キャピラリー内に満たした。
測定試料としては、健常人血よりフッ化ナトリウム採血した血液を用い、該健常人全血70μLに、0.05重量%のトリトンX−100及び20mMの亜硝酸ナトリウムを含有するクエン酸緩衝液(pH6.0)200μLを添加して溶血希釈したものを用いた。
キャピラリーの一方より試料を注入し、キャピラリーの両端の緩衝液に20kVの電圧をかけて電気泳動を行い、415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、ヒト血液中の安定型HbA1cのキャピラリー電気泳動法による測定を行った。得られたエレクトロフェログラムを図1に示す。図1中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0を示す。
健常人血の測定で用いた健常人全血に、グルコース(和光純薬社製)を2000mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温して、修飾Hbの一種である不安定型HbA1cを多量に含む試料を人為的に調製した。得られた修飾Hb含有試料を、上記と同様の条件で測定して得られたエレクトロフェログラムを図2に示す。図2中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク3は修飾Hb(不安定型HbA1c)を示す。図2に示すように、安定型HbA1cと修飾Hbである不安定型HbA1cが良好に分離された。
アニオン性ポリマーであるポリメタクリル酸の0.5重量%水溶液を用い、実施例1と同様の方法でキャピラリー内面をコーティングした後、緩衝液として、亜硝酸カリウム200mM及びデキストラン硫酸2.0重量%を含有するリンゴ酸緩衝液(pH5.2)を泳動用緩衝液として用いた以外は、実施例1と同様にしてキャピラリー電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
ガラス製マイクロチップ(幅50mm×長さ30mm×厚さ2mm)にクロス十字型の泳動路(流路幅100μm)を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。
泳動路をアニオン性ポリマーであるコンドロイチン硫酸(1.0重量%水溶液)を用いて、実施例1と同様の手順でコーティングした後、実施例1と同様の泳動用緩衝液を用いて、1000Vにて、マイクロチップ電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは図1及び図2と同様であった。
カチオン性ポリマーであるキトサン(和光純薬社製、キトサン100)を0.2重量%含有する0.2N塩酸溶液を用い、実施例1と同様の方法でキャピラリー内面をコーティングした以外は、実施例1と同様の泳動用緩衝液、手順を用いて、キャピラリー電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
なお、健常人血及び修飾Hb含有試料としては、全血70μLに、0.05重量%のトリトンX−100を含有するクエン酸緩衝液(pH6.0:亜硝酸塩を含まない緩衝液)200μLを添加して溶血希釈したものを用いた。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
カチオン性ポリマーであるポリブレン(ナカライテスク社製)の0.5重量%水溶液を用い、実施例1と同様の方法でキャピラリー内面をコーティングした後、泳動用緩衝液として、亜硝酸ナトリウム30mM及びコンドロイチン硫酸2.0重量%を含有するリンゴ酸緩衝液(pH4.8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてキャピラリー電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
ガラス製マイクロチップ(幅50mm×長さ30mm×厚さ2mm)にクロス十字型の泳動路(流路幅100μm)を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。
泳動路をカチオン性ポリマーであるキトサン(1.0重量%水溶液)を用いて、実施例3と同様の方法でコーティングした後、実施例2と同様の泳動用緩衝液を用いた以外は、実施例3と同様にしてマイクロチップ電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
ポリジメチルシロキサン製マイクロチップ(幅50mm×長さ30mm×厚さ2mm)にダブルT型の泳動路(流路幅80μm)を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。泳動路をカチオン性ポリマーであるポリブレン(1.0重量%水溶液)を用いて、実施例3と同様の方法でコーティングした後、実施例5と同様の泳動用緩衝液を用いて、900Vにて、マイクロチップ電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長23cm)を0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClの順で通液してキャピラリー内を洗浄した後、0.5重量%のアルブミン(ウマ由来:和光純薬社製)を含むリンゴ酸緩衝液を1分間通液して、動的コーティングを施した。
次に、0.2重量%のコンドロイチン硫酸(和光純薬社製:硫酸化多糖類)及び亜硝酸ナトリウム30mMを含むリンゴ酸緩衝液(pH4.7)をキャピラリーの両端にセットし、キャピラリー内に通液した。キャピラリーの一方より試料を注入し、キャピラリーの両端の緩衝液に8.5kVの電圧をかけて電気泳動を行い、415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
比較例1〜8において、泳動用緩衝液及び溶血希釈液が亜硝酸塩類を含有しないこと以外は、実施例1〜8と同様にして、健常人血試料及び修飾Hb含有試料を測定した(実施例1の条件で亜硝酸塩を含まない場合を比較例1とした。実施例2〜7についても同様である。)。
比較例1〜7において得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。比較例8において得られたエレクトロフェログラムを図3に示す。図3に示すように、安定型HbA1cを修飾Hbから分離できなかった。
(1)同時再現性試験による評価
実施例1〜8及び比較例1〜8の測定条件を用いて、同一の健常人血試料を同日に10回連続して測定し、得られた各エレクトロフェログラムから安定型HbA1c値のCV値を算出した。
なお、安定型HbA1c値は、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)を求めることにより算出し、CV値は(標準偏差/平均値)を求めることにより算出した。
結果を表1に示した。
比較例1〜8も、CV値が1.0〜2.0%であり、良好な同時再現性を示したが、実施例より劣り、亜硝酸塩の緩衝液類への添加により、同時再現性が向上することが確認された。
実施例1〜8及び比較例1〜8の測定条件を用いて、同一の健常人血試料を同日内に連続して5回測定する一連の測定を、連続する5日間に渡って実施し、得られた各エレクトロフェログラムから安定型HbA1c値のCV値を算出した。
なお、安定型HbA1c値は、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)を求めることにより算出しし、CV値は(標準偏差/平均値)を求めることにより算出した。
結果を表2に示した。
一方、比較例1〜7においては、日差再現性を示すCV値が4.0%以上であり、糖尿病患者のHbA1c値の管理に使用できるレベルではなかった。
実施例8ではCV3.0%であったが、比較例8より改善することができた。
従って、亜硝酸塩の緩衝液類への添加により、日差再現性が顕著に向上することが確認された。
実施例1及び比較例8の測定条件を用いて、異常HbとしてHbS及びHbCを含む試料(AFSCヘモコントロール:ヘレナ研究所社製)の測定を行った。
実施例1の測定条件を用いて測定した結果、得られたエレクトロフェログラムを図4に示す。また、比較例8の測定条件を用いて測定した結果、得られたエレクトロフェログラムを図5に示す。図4及び図5中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク4はHbF(胎児性Hb)、ピーク5はHbS、ピーク6はHbCを示す。なお、実施例2〜8の測定条件により得られたエレクトロフェログラムは図4とほぼ同様な形状を示した。図4に示すように、実施例1の測定条件を用いて測定した場合、安定型HbA1cと共に、異常HbであるHbS及びHbCが短時間で精度よく分離された。
一方、図5に示すように、比較例8の測定条件を用いて測定した場合、異常Hb類であるHbS及びHbCを分離することはできなかった。
HbA2を含む試料として、A2コントロール(レベル2)(バイオラッド社製)を用いた以外は、実施例1〜7、比較例8の測定条件と同様の方法によって、HbA2を含む試料の測定を行った。
実施例1の測定条件を用いて測定した場合において、得られたエレクトロフェログラムを図6に示す。図6中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA0、ピーク4はHbF(胎児性Hb)、ピーク7はHbA2を示す。なお、実施例2〜7の測定条件により得られたエレクトロフェログラムは図6とほぼ同様な形状を示した。
図6に示すように、実施例1の測定条件を用いて測定した場合、HbA2を分離することができ、安定型HbA1cとHbA2との同時測定が可能であった。
一方、比較例8の測定条件では、HbA2は分離できなかった。
この結果から、実施例1〜7の測定条件を用いることによって、安定型HbA1cの測定による糖尿病診断に加えて、他のHb由来の疾病について同時にスクリーニング検査することが可能となることが確認された。
12 陽極槽
13 陰極槽
14 キャピラリー
15 高圧電源
16 検出器
17 電極
18 電極
1 安定型HbA1c
2 HbA0
3 修飾Hb(不安定型HbA1c)
4 HbF(胎児性Hb)
5 HbS
6 HbC
7 HbA2
Claims (4)
- キャピラリー電気泳動法又はマイクロチップ電気泳動法を用いてヘモグロビン類を測定する方法であって、イオン性泳動路と、電気泳動時に前記泳動路の内部に満たされる、亜硝酸塩を含有する緩衝液とを用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- イオン性泳動路は、イオン性ポリマーを泳動路の内面に固定化したものであり、亜硝酸塩を含有する緩衝液は、更にアニオン性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項1又は2記載のヘモグロビン類の測定方法を用いることを特徴とする安定型ヘモグロビンA1cの測定方法。
- 請求項1又は2記載のヘモグロビン類の測定方法を用いることを特徴とする安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法。
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