JP4854637B2 - ヘモグロビン類の測定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、電気泳動法を用いたヘモグロビン類の測定方法であって、特に安定型ヘモグロビンA1cを高精度で測定することが可能なヘモグロビン類の測定方法、安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法に関する。
ヘモグロビン(Hbともいう)類、なかでも糖化ヘモグロビン類の一種であるヘモグロビンA1c(以下、HbA1cともいう)は、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。
従来、HbA1cの測定は、HPLC法、免疫法、電気泳動法等により行なわれてきた。このうち、臨床検査分野で多く用いられているHPLC法では、1試料当たり1〜2分での測定が可能であり、また、同時再現性試験のCV値が1.0%程度の測定精度が実現されている。糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための測定方法としては、このレベルの性能が必要とされている。
これに対して、電気泳動法は、装置構成が簡便なため、マイクロチップ電気泳動装置のような安価で小型なシステムを作製することが可能な技術であり、電気泳動法におけるHbA1cの高精度測定技術の臨床検査への適用は、コスト面において非常に有益な効果が期待できる。
電気泳動法によるHb類の測定は、通常とは異なるアミノ酸配列を有する異常Hb類の分離方法として古くから用いられているが、HbA1cの分離は非常に困難であり、ゲル電気泳動の手法では30分以上の時間が必要であった。このように電気泳動法は、臨床検査分野に応用した場合、測定時間及び測定精度の点で問題があるため、現在では糖尿病診断への応用はほとんど行われていなかった。
これに対して、1990年頃に登場したキャピラリー電気泳動法は、一般的に高分離・高精度測定が可能であるとされており、例えば、特許文献1や特許文献2には、キャピラリー電気泳動法によってHbA1cを分離する手法が開示されている。
しかしながら、特許文献1の方法を用いた場合、測定時間が長いという問題点は解消されず、加えて、使用する緩衝液のpHが9〜12と高いことから、Hbが変性してしまう可能性があることから、この方法を臨床検査に適用することは困難であった。
また、特許文献2には、該文献特許以前より公知であった2つの技術、すなわち、硫酸化多糖類のHb類への親和性の利用と、キャピラリー内面の動的コーティング法という2つの技術を組み合わせることにより、ゲル電気泳動法と比較して短時間の測定を実現したものであり、10分間程度での測定が可能であるとされている。
しかしながら、このような動的コーティング法は、測定終了後、次試料の測定時に再びコーティングを行う必要がある。そのため、毎測定開始時に同じコーティング状態とするためには、測定終了後の洗浄操作によりコーティング層を剥し、測定開始前の初期の状態に戻す必要がある。即ち、連続測定する際には、測定の間に洗浄及びコーティング操作を挿入する必要があり、測定時間の延長を招いていた。また、これらの洗浄及びコーティング操作は、測定誤差発生の要因となりうる。加えて、コーティング用の試薬を測定時に具備する必要があるため、コスト的にも不利であった。また、連続測定を行わない場合であっても、10分程度の測定時間はHPLC法と比較して非常に長く、臨床検査に適用するには不充分であった。
更に、糖尿病診断を行う場合は、HbA1c成分のなかでも、特に糖尿病の指標となる安定型HbA1cを、不安定型HbA1cやカルバミル化Hb等の、測定の障害となる成分(以下、これらを修飾Hb類ともいう)から分離しなければならない。また、糖尿病患者の安定型HbA1c値を管理するためには、同時再現性、日差再現性等が良好な値を示さなければ適用することはできない。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された方法によって得られたエレクトロフェログラムでは、分離性能及び測定精度が不充分であり、これらの方法の技術範囲では、安定型HbA1cを修飾Hb類から分離することは困難であった。従って、これらの方法の技術範囲では、高精度に安定型HbA1c値を求めることはできなかった。
また、一部の試料に含まれる異常Hb類は、溶血性貧血やサラセミア等のヘモグロビン由来の疾病の診断指標となることが知られており、HPLC法によるHbA1c測定方法においては、安定型HbA1cと異常Hb類とを同時に測定する技術が開発されている。しかしながら、これまでのところ電気泳動法によるこのような技術は明らかにされていない。
特表平09−510792号 特開平09−105739号
本発明は、上記現状に鑑み、電気泳動法を用いたヘモグロビン類の測定方法であって、特に安定型ヘモグロビンA1cを高精度で測定することが可能なヘモグロビン類の測定方法、安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、電気泳動法を用いたヘモグロビン類の測定方法において、亜硝酸塩を含有する緩衝液を用いることにより、特に安定型HbA1cの測定を短時間、高精度で測定することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、キャピラリー電気泳動法又はマイクロチップ電気泳動法を用いてヘモグロビン類を測定する方法であって、イオン性泳動路と、電気泳動時に前記泳動路の内部に満たされる、亜硝酸塩を含有する緩衝液とを用いるヘモグロビン類の測定方法に関する。
以下に本発明を詳述する。
本発明のヘモグロビン類の測定方法を適用することができる電気泳動装置としては、特に限定されず、例えば、一般にキャピラリー電気泳動装置、マイクロチップ電気泳動装置等と呼称される電気泳動装置類が挙げられる。
図7に、本発明のヘモグロビン類の測定方法に用いるキャピラリー電気泳動装置の一例を示す。図7に示すように、キャピラリー電気泳動装置11は、陽極槽12、陰極槽13、キャピラリー14、高圧電源15、検出器16、及び、一対の電極17、18からなり、キャピラリー14の両端は陽極槽12及び陰極槽13内の緩衝液に浸され、管状のキャピラリー14の内部は緩衝液で満たされている。また、電極17及び18は高圧電源15と電気的に接続されている。
ヘモグロビン類を測定する際には、キャピラリー14の一方より試料を注入し、高圧電源15から所定の電圧を印加することにより、キャピラリー14内を移動する目的成分を検出器16によって測定する。
本発明のヘモグロビン類の測定方法は、亜硝酸塩を含有する緩衝液を用いる。
上記「緩衝液」とは、電気泳動時に泳動路内に満たされる緩衝液、及び、電気泳動時に泳動路の両端に設置される陽極槽及び陰極槽に満たされる緩衝液のほか、測定試料を溶解希釈するために用いられる溶血希釈用緩衝液、泳動路内を洗浄するために用いられる泳動路洗浄用緩衝液等、本発明のヘモグロビン類の測定方法を実施するために用いられる全ての種類の緩衝液を含む(以下、単に「緩衝液」又は「緩衝液類」と記す場合は、これらの各種緩衝液全てを指す場合がある)。
上記亜硝酸塩としては特に限定されず、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、亜硝酸ナトリウム又は亜硝酸カリウムが好ましい。
上記緩衝液において、上記亜硝酸塩の濃度としては、使用時において亜硝酸塩が溶解していれば特に限定されないが、好ましい下限は0.0001モル/L、好ましい上限は5モル/Lである。0.0001モル/L未満であると、優れた分離性能等を発揮することができないことがある。5モル/Lを超えると、測定時間時間の延長や分離不良を引き起こすことがある。より好ましい下限は0.001モル/L、より好ましい上限は1モル/Lである。
上記緩衝液は、本発明のヘモグロビン類の測定方法において用いられる全ての緩衝液に用いられてもよいし、一部の緩衝液のみに用いられてもよい。
本発明のヘモグロビン類の測定方法では、複数種の緩衝液が用いられてもよく、複数種の緩衝液が用いられる場合、上記亜硝酸塩を含有する緩衝液の他に、更に上記亜硝酸塩を含有する他の緩衝液を併用してもよいし、上記亜硝酸塩を含有しない他の緩衝液を併用してもよい。
上記緩衝液は、上記亜硝酸塩の他に、緩衝能を有する公知の溶液を用いることができ、具体的には例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸及びその塩類;グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸及びその塩類等が挙げられる。
上記緩衝液は、この他にも、一般に添加される物質、例えば、各種ポリマー類、界面活性剤、親水性の低分子化合物等を適宜含有してもよい。
上記各種ポリマー類としては特に限定されないが、アニオン性ポリマーであることが好ましい。
上記アニオン性ポリマーとしては特に限定されないが、アニオン性基を含有する非架橋性の水溶性ポリマーが好ましく、なかでも、アニオン性基含有多糖類、アニオン性基含有有機合成ポリマー等がより好ましい。
上記アニオン性基含有多糖類としては特に限定されず、例えば、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、フコイダン等の硫酸基含有多糖類及びその塩類;アルギン酸、ペクチン酸等のカルボキシル基含有多糖類及びその塩類;セルロース、デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類及びその誘導体へのアニオン性基導入化物、及びその塩類等の、公知のアニオン性基含有多糖類等が挙げられる。なかでも、硫酸基含有多糖類であることが好ましい。
上記アニオン性基含有有機合成ポリマーとしては、アニオン性の官能基を含有する水溶性の有機合成ポリマーであれば特に限定されないが、アクリル系ポリマー;すなわちアクリル酸又はメタクリル酸(以下、(メタ)アクリル酸と表記する)及びその誘導体類及びエステル類等を主成分とするポリマーが好ましい。
上記緩衝液が上記アニオン性ポリマーを含有する場合、上記緩衝液において上記アニオン性ポリマーの濃度の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は10.0重量%である。0.01重量%未満であると、アニオン性ポリマーを含有することによる効果が発現しにくく、分離性能が不充分となることがある。10.0重量%を超えると、測定時間時間の延長や分離不良を引き起こすことがある。
本発明のヘモグロビン類の測定方法では、イオン性泳動路を用いる。
上記「泳動路」とは、電気泳動が行われる流路において、測定試料が電気泳動により移動及び/又は分離する部位(測定試料が注入された部位から検出される部位まで)のことをいう。具体的には例えば、キャピラリー電気泳動法の場合には、キャピラリー内に試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいい、マイクロチップ型電気泳動法の場合には、マイクロチップ溝内の試料が注入された部位から検出器により検出される部位までのことをいう。
上記泳動路の内面とは、具体的には、例えば、キャピラリー電気泳動法の場合には、キャピラリーの泳動路の内面のことをいい、マイクロチップ型電気泳動法の場合には、マイクロチップ溝の泳動路の内面のことをいう。
上記イオン性泳動路とは、泳動路の内面が使用時の環境下においてイオン性を示すこと、すなわち、泳動路の内面に、使用時の環境下で解離するイオン性官能基を有する泳動路のことをいう。
上記イオン性官能基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等のアニオン性基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基等のカチオン性基等が挙げられる。
上記イオン性泳動路を調製する方法としては特に限定されず、公知の方法により調整することができ、イオン性官能基を有する素材から泳動路を作製する方法、表面改質手段により泳動路内面にイオン性を付与する方法等が挙げられるが、特に、イオン性官能基を有するポリマー(以下、イオン性ポリマーともいう)により、泳動路内面をコーティングする方法が好ましい。
上記イオン性ポリマーとしては、基材となるポリマー分子内にイオン性基を有するものであれば特に限定されず、例えば、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー等が挙げられる。
上記アニオン性ポリマーは、分子内にアニオン性基を有するポリマーである。
上記アニオン性ポリマーは、親水性であることが好ましい。
上記親水性を有するアニオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、アニオン性基含有多糖類、アニオン性基含有有機合成ポリマー等が挙げられる。
上記アニオン性基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
上記アニオン性基含有多糖類としては特に限定されず、例えば、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン、ヘパラン、フコイダン等の硫酸基含有多糖類及びその塩類;アルギン酸、ペクチン酸等のカルボキシル基含有多糖類及びその塩類;セルロース、デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類及びその誘導体へのアニオン性基導入化物及びその塩類等が挙げられる。
上記アニオン性基含有有機合成ポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、リン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、スルホン酸基含有(メタ)アクリル酸重合体、2−アクリルアミド−ブチルスルホン酸重合体及びこれらの共重合物等が挙げられる。
上記カチオン性ポリマーは、分子内にカチオン性基を有するポリマーである。
上記カチオン性ポリマーは、親水性であることが好ましい。
上記親水性を有するカチオン性ポリマーとしては特に限定されず、例えば、アミノ基含有多糖類、アミノ基含有有機合成ポリマー等が挙げられる。
上記カチオン性基としては特に限定されず、例えば、1〜4級のアミノ基等が挙げられる。
上記アミノ基含有多糖類としては特に限定されず、例えば、キチン、キトサン等のキトサン誘導体及びその塩類;アミノセルロース、N−メチルアミノセルロース等のN−置換セルロースの誘導体及びその塩類;デキストラン、アガロース、マンナン、デンプン等の中性多糖類及びその誘導体へのアミノ基導入化物及びその塩類等が挙げられる。
上記アミノ基含有有機合成高分子としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンイミン、ポリブレン、ポリ2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート及び共重合物等が挙げられる。
上記イオン性ポリマーの重量平均分子量の好ましい下限は500である。500未満であると、泳動路の内面を充分に被覆することが困難となり、分離性能が不良になることがある。
上記イオン性ポリマーを泳動路の内面をコーティングする方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、上記イオン性ポリマーを含有する溶液を上記泳動路の内部に通液することにより、泳動路内面にイオン性ポリマーの吸着平衡状態を作製することによりコーティングする動的コーティング法;イオン性ポリマーを泳動路の内面に接触させて疎水性的又は静電気的な相互作用等を利用して物理的に吸着させて固定化する固定化コーティング法;泳動路の内面及びイオン性ポリマーをそれぞれの物質が有する官能基や他の物質等を介して共有結合により固定化する固定化コーティング法等が挙げられる。これらの固定化コーティング法を用いた場合、例えば、加熱工程や乾燥工程等を経ることにより、剥離しにくく、繰り返し測定が可能なイオン性ポリマーの固定化が可能となる。上記コーティング法のうち、特に固定化コーティング法がより好ましい。
また、イオン性ポリマー層と泳動路の内面との間に、別種の層を形成してもよい。即ち、最終的に泳動路の最内面にイオン性ポリマー層が形成されていればよい。
上記コーティング法に用いるイオン性ポリマーは、イオン性ポリマーの種類や固定化法にもよるが、好ましくは0.01〜20%程度の溶液として上記操作に供されるのが好ましい。0.01%未満であると、固定化が不充分となる恐れがあり、20%を超えると固定層が均一にならず、測定途中に剥離し、再現性低下の原因となる可能性がある。
本発明のヘモグロビン類の測定方法において、測定対象となるヘモグロビン類としては特に安定型HbA1cである。本発明のヘモグロビン類の測定方法において、安定型HbA1cが測定できるとは、少なくとも安定型HbA1c及びHbAが単独ピークとして分離できることを意味する。すなわち、安定型HbA1cのピークと、HbAのピークとを、HbF(胎児性Hb)のピーク、不安定型HbA1c、カルバミル化Hb等の修飾Hb類のピーク等と分離することができることを意味する。
このような本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いる安定型ヘモグロビンA1cの測定方法もまた、本発明の一つである。
本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いることによって、安定型HbA1cと同時に、糖尿病以外の疾病の指標となり得るHbA2を測定することができる。
更に、本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いることによって、安定型HbA1cと同時に、糖尿病以外の疾病の指標となり得るHbS、HbC等の異常Hb類を測定することができる。安定型HbA1cと同時に、HbA2や、異常Hb類を測定することによって、糖尿病及び糖尿病以外の疾病に関する情報を同時に得ることができる。
このような本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いる安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法もまた、本発明の一つである。
本発明によれば、亜硝酸塩類を含む緩衝液を用いて電気泳動を行なうことにより、糖尿病の指標となる安定型HbA1cの測定を1試料当り数分という短時間に、同時再現性を示すCV値が1.0%以下、日差再現性を示すCV値も2.0%以下という高精度で測定することが可能となる。そのため、従来技術では困難であった糖尿病患者の電気泳動法によるHbA1c値の管理を好適に行うことができる。また、電気泳動法は装置構成がHPLC法よりも簡便であることから、本発明の方法を用いることで、安価なヘモグロビン類の測定装置を提供できる可能性を示すことができる。更に、本発明によれば、糖尿病の指標となり得る安定型HbA1cを極めて高精度に測定できることに加えて、安定型HbA1cと同時に、糖尿病以外の疾病の指標となり得る異常Hb類を極めて高精度に測定することが可能となる。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
アニオン性ポリマーであるデキストラン硫酸(和光純薬社製)を0.2重量%含有する水溶液を調製した。次いで、フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長30cm)に、0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClをこの順で通液してキャピラリー内を洗浄した後、得られたデキストラン硫酸水溶液を20分間通液した。その後、空気をキャピラリー内に注入してデキストラン硫酸水溶液を追い出した後、40℃の乾燥機内で12時間乾燥させた。その後、再びデキストラン硫酸水溶液を注入し、空気の注入及び乾燥を5回繰り返した。
得られたデキストラン硫酸固定化キャピラリーを、キャピラリー電気泳動装置(Beckman Coulter社製 PAC/E MDQ)にセットした。その後、亜硝酸ナトリウム(亜硝酸塩:和光純薬社製)50mM及びコンドロイチン硫酸(和光純薬社製)2.0重量%を含有するクエン酸緩衝液(pH4.8)を泳動用緩衝液としてキャピラリーの両端にセットし、キャピラリー内に満たした。
(健常人血の測定)
測定試料としては、健常人血よりフッ化ナトリウム採血した血液を用い、該健常人全血70μLに、0.05重量%のトリトンX−100及び20mMの亜硝酸ナトリウムを含有するクエン酸緩衝液(pH6.0)200μLを添加して溶血希釈したものを用いた。
キャピラリーの一方より試料を注入し、キャピラリーの両端の緩衝液に20kVの電圧をかけて電気泳動を行い、415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、ヒト血液中の安定型HbA1cのキャピラリー電気泳動法による測定を行った。得られたエレクトロフェログラムを図1に示す。図1中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbAを示す。
(修飾Hbを含む試料の測定)
健常人血の測定で用いた健常人全血に、グルコース(和光純薬社製)を2000mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温して、修飾Hbの一種である不安定型HbA1cを多量に含む試料を人為的に調製した。得られた修飾Hb含有試料を、上記と同様の条件で測定して得られたエレクトロフェログラムを図2に示す。図2中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA、ピーク3は修飾Hb(不安定型HbA1c)を示す。図2に示すように、安定型HbA1cと修飾Hbである不安定型HbA1cが良好に分離された。
(実施例2)
アニオン性ポリマーであるポリメタクリル酸の0.5重量%水溶液を用い、実施例1と同様の方法でキャピラリー内面をコーティングした後、緩衝液として、亜硝酸カリウム200mM及びデキストラン硫酸2.0重量%を含有するリンゴ酸緩衝液(pH5.2)を泳動用緩衝液として用いた以外は、実施例1と同様にしてキャピラリー電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
(実施例3)
ガラス製マイクロチップ(幅50mm×長さ30mm×厚さ2mm)にクロス十字型の泳動路(流路幅100μm)を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。
泳動路をアニオン性ポリマーであるコンドロイチン硫酸(1.0重量%水溶液)を用いて、実施例1と同様の手順でコーティングした後、実施例1と同様の泳動用緩衝液を用いて、1000Vにて、マイクロチップ電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは図1及び図2と同様であった。
(実施例4)
カチオン性ポリマーであるキトサン(和光純薬社製、キトサン100)を0.2重量%含有する0.2N塩酸溶液を用い、実施例1と同様の方法でキャピラリー内面をコーティングした以外は、実施例1と同様の泳動用緩衝液、手順を用いて、キャピラリー電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
なお、健常人血及び修飾Hb含有試料としては、全血70μLに、0.05重量%のトリトンX−100を含有するクエン酸緩衝液(pH6.0:亜硝酸塩を含まない緩衝液)200μLを添加して溶血希釈したものを用いた。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
(実施例5)
カチオン性ポリマーであるポリブレン(ナカライテスク社製)の0.5重量%水溶液を用い、実施例1と同様の方法でキャピラリー内面をコーティングした後、泳動用緩衝液として、亜硝酸ナトリウム30mM及びコンドロイチン硫酸2.0重量%を含有するリンゴ酸緩衝液(pH4.8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてキャピラリー電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
(実施例6)
ガラス製マイクロチップ(幅50mm×長さ30mm×厚さ2mm)にクロス十字型の泳動路(流路幅100μm)を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。
泳動路をカチオン性ポリマーであるキトサン(1.0重量%水溶液)を用いて、実施例3と同様の方法でコーティングした後、実施例2と同様の泳動用緩衝液を用いた以外は、実施例3と同様にしてマイクロチップ電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
(実施例7)
ポリジメチルシロキサン製マイクロチップ(幅50mm×長さ30mm×厚さ2mm)にダブルT型の泳動路(流路幅80μm)を作製し、泳動路の両端に緩衝液槽を設置した。泳動路をカチオン性ポリマーであるポリブレン(1.0重量%水溶液)を用いて、実施例3と同様の方法でコーティングした後、実施例5と同様の泳動用緩衝液を用いて、900Vにて、マイクロチップ電気泳動法により、健常人血試料及び修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
(実施例8)
フューズドシリカ製キャピラリー(GLサイエンス社製:内径25μm×全長23cm)を0.2N−NaOH、イオン交換水、0.5N−HClの順で通液してキャピラリー内を洗浄した後、0.5重量%のアルブミン(ウマ由来:和光純薬社製)を含むリンゴ酸緩衝液を1分間通液して、動的コーティングを施した。
次に、0.2重量%のコンドロイチン硫酸(和光純薬社製:硫酸化多糖類)及び亜硝酸ナトリウム30mMを含むリンゴ酸緩衝液(pH4.7)をキャピラリーの両端にセットし、キャピラリー内に通液した。キャピラリーの一方より試料を注入し、キャピラリーの両端の緩衝液に8.5kVの電圧をかけて電気泳動を行い、415nmの可視光における吸光度変化を測定することにより、修飾Hb含有試料の測定を行った。
得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。
(比較例1〜8)
比較例1〜8において、泳動用緩衝液及び溶血希釈液が亜硝酸塩類を含有しないこと以外は、実施例1〜8と同様にして、健常人血試料及び修飾Hb含有試料を測定した(実施例1の条件で亜硝酸塩を含まない場合を比較例1とした。実施例2〜7についても同様である。)。
比較例1〜7において得られたエレクトロフェログラムは、図1及び図2と同様であった。比較例8において得られたエレクトロフェログラムを図3に示す。図3に示すように、安定型HbA1cを修飾Hbから分離できなかった。
(評価)
(1)同時再現性試験による評価
実施例1〜8及び比較例1〜8の測定条件を用いて、同一の健常人血試料を同日に10回連続して測定し、得られた各エレクトロフェログラムから安定型HbA1c値のCV値を算出した。
なお、安定型HbA1c値は、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)を求めることにより算出し、CV値は(標準偏差/平均値)を求めることにより算出した。
結果を表1に示した。
Figure 0004854637
表1に示すように、実施例1〜7では、健常人血試料の安定型A1c値の同時再現性(CV値)は、1.0%以下であり、安定型HbA1c値が精度良く測定できることが確認された。実施例8もわずかにCV値が大きいが(1.3%)、良好な数値を示した。
比較例1〜8も、CV値が1.0〜2.0%であり、良好な同時再現性を示したが、実施例より劣り、亜硝酸塩の緩衝液類への添加により、同時再現性が向上することが確認された。
(2)日差再現性試験による評価
実施例1〜8及び比較例1〜8の測定条件を用いて、同一の健常人血試料を同日内に連続して5回測定する一連の測定を、連続する5日間に渡って実施し、得られた各エレクトロフェログラムから安定型HbA1c値のCV値を算出した。
なお、安定型HbA1c値は、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)を求めることにより算出しし、CV値は(標準偏差/平均値)を求めることにより算出した。
結果を表2に示した。
Figure 0004854637
表2に示すように、実施例1〜7では、健常人血試料の安定型A1c値の日差再現性を示すCV値は、1.6%以下であり、安定型HbA1c値が精度良く測定できることが確認された。
一方、比較例1〜7においては、日差再現性を示すCV値が4.0%以上であり、糖尿病患者のHbA1c値の管理に使用できるレベルではなかった。
実施例8ではCV3.0%であったが、比較例8より改善することができた。
従って、亜硝酸塩の緩衝液類への添加により、日差再現性が顕著に向上することが確認された。
(3)異常Hb類の測定
実施例1及び比較例8の測定条件を用いて、異常HbとしてHbS及びHbCを含む試料(AFSCヘモコントロール:ヘレナ研究所社製)の測定を行った。
実施例1の測定条件を用いて測定した結果、得られたエレクトロフェログラムを図4に示す。また、比較例8の測定条件を用いて測定した結果、得られたエレクトロフェログラムを図5に示す。図4及び図5中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA、ピーク4はHbF(胎児性Hb)、ピーク5はHbS、ピーク6はHbCを示す。なお、実施例2〜8の測定条件により得られたエレクトロフェログラムは図4とほぼ同様な形状を示した。図4に示すように、実施例1の測定条件を用いて測定した場合、安定型HbA1cと共に、異常HbであるHbS及びHbCが短時間で精度よく分離された。
一方、図5に示すように、比較例8の測定条件を用いて測定した場合、異常Hb類であるHbS及びHbCを分離することはできなかった。
(4)HbA2を含む試料の測定
HbA2を含む試料として、A2コントロール(レベル2)(バイオラッド社製)を用いた以外は、実施例1〜7、比較例8の測定条件と同様の方法によって、HbA2を含む試料の測定を行った。
実施例1の測定条件を用いて測定した場合において、得られたエレクトロフェログラムを図6に示す。図6中、ピーク1は安定型HbA1c、ピーク2はHbA、ピーク4はHbF(胎児性Hb)、ピーク7はHbA2を示す。なお、実施例2〜7の測定条件により得られたエレクトロフェログラムは図6とほぼ同様な形状を示した。
図6に示すように、実施例1の測定条件を用いて測定した場合、HbA2を分離することができ、安定型HbA1cとHbA2との同時測定が可能であった。
一方、比較例8の測定条件では、HbA2は分離できなかった。
この結果から、実施例1〜7の測定条件を用いることによって、安定型HbA1cの測定による糖尿病診断に加えて、他のHb由来の疾病について同時にスクリーニング検査することが可能となることが確認された。
本発明によれば、電気泳動法を用いたヘモグロビン類の測定方法であって、特に安定型ヘモグロビンA1cを高精度で測定することが可能なヘモグロビン類の測定方法、安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法を提供することができる。
実施例1の測定条件により、健常人血を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。 実施例1の測定条件により、修飾Hb(不安定型HbA1c)を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。 比較例8の測定条件により、修飾Hb(不安定型HbA1c)を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムを示す。 実施例1の測定条件により、異常Hb(HbS及びHbC)を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。 比較例8の測定条件により、異常Hb(HbS及びHbC)を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。 実施例1の測定条件により、HbA2を含む試料を測定した場合に得られたエレクトロフェログラムである。 本発明のヘモグロビン類の測定方法を用いた電気泳動装置の一例を示す模式図である。
符号の説明
11 キャピラリー電気泳動装置
12 陽極槽
13 陰極槽
14 キャピラリー
15 高圧電源
16 検出器
17 電極
18 電極
1 安定型HbA1c
2 HbA
3 修飾Hb(不安定型HbA1c)
4 HbF(胎児性Hb)
5 HbS
6 HbC
7 HbA2

Claims (4)

  1. キャピラリー電気泳動法又はマイクロチップ電気泳動法を用いてヘモグロビン類を測定する方法であって、イオン性泳動路と、電気泳動時に前記泳動路の内部に満たされる、亜硝酸塩を含有する緩衝液とを用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
  2. イオン性泳動路は、イオン性ポリマーを泳動路の内面に固定化したものであり、亜硝酸塩を含有する緩衝液は、更にアニオン性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類の測定方法。
  3. 請求項1又は2記載のヘモグロビン類の測定方法を用いることを特徴とする安定型ヘモグロビンA1cの測定方法。
  4. 請求項1又は2記載のヘモグロビン類の測定方法を用いることを特徴とする安定型ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の同時測定方法。
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