JP4853986B2 - 炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の予防・治療剤 - Google Patents

炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の予防・治療剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な炎症性腸疾患及び/又は過敏性腸症候群の予防・治療剤及び予防・治療用食品組成物に関する。
本発明により、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸型ベーチェット病などの炎症性腸疾患を予防し、並びにこれらの疾患に伴う血便、下血、腹痛、貧血、白血球増加、発熱、体重減少及び食欲不振などの諸症状を予防、治療又は寛解することができる。さらに本発明によると、過敏性腸症候群を予防し、並びにこれらの疾患に伴う便秘、下痢、ガス、腹痛及び粘液排泄などの諸症状を予防、治療又は寛解することができる。
【0002】
【従来の技術】
炎症性腸疾患(IBD) のうち、特に潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は発症頻度が高く、難治性で、疾病が長期化し、臨床的に治療することが困難な疾患である。
UC及びCDに対し、現在、根本的な治療方法は確立されておらず、栄養療法 (完全静脈栄養療法、経腸栄養療法、食餌療法) 及び薬物療法 (スルファサラジン、S-ASA(メサラジン) のサルファ剤、プレドニゾロンを中心としたステロイド剤、アザチオプリン、6-MPなどの免疫抑制剤などを病期に応じて段階的に使用) が用いられている。UC及びCDで治療法の主体は異なり、UCでは薬物療法、CDでは栄養療法である。一方、内科的治療に対し、抵抗性を示す場合や、出血、癌化の可能性などの重篤なケースにおいては、外科療法が施されるが、その適用率はUCだけでも患者全体の10〜15%に上る。
【0003】
ベーチェット病は、UC及びCDに比べると患者数は少ないが、難治性で、治療法としてはUC及びCDと同様の薬物療法、栄養療法及び外科療法が施されている。その他、大半のIBD は、基本的には内科的に治療することができ、症状に応じて、栄養療法 (絶食、食餌制限、成分栄養、高カロリー輸液) や薬物療法 (抗菌薬投与) などが行われている。
【0004】
過敏性腸症候群の治療法については、心理的ストレスのコントロールを行うとともに、整腸薬、緩下薬から抗精神病薬まで、症状に応じた段階的な薬物治療が施されている。
しかし、薬物療法の問題点として、サルファ剤によるアレルギー反応、ステロイドの長期使用による白内障、骨粗鬆症、耐糖能異常、易感染性、免疫抑制剤による白血球減少、脱毛、高アミラーゼ血症が指摘されている。また、抗精神薬による肝障害や皮膚の発疹などが知られている。栄養療法においても、完全静脈栄養療法および経腸栄養療法で、長期使用による腸粘膜萎縮に起因した腸内病原菌の血中への移行が問題視されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
炎症性腸疾患の原因は、UC、CD及びベーチェット病を含むいくつかのものについては、現在のところ不明とされている。しかし、これら疾患の原因の1説として、共通して免疫系の異常が挙げられていることから、発症に際し腸内菌叢が少なからず関与していることが推定される。また、過敏性腸症候群を含め上記したすべての腸疾患に共通して、下痢あるいは便秘、又は炎症、出血など種々の症状の発現に伴う様々な程度の腸内菌叢の乱れとそれによる病態悪化が予想される。特に、増悪因子として Clostridial Bacteroidaceaeの関与が考えられているが、LG2055は、レシチナーゼ陽性 Clostridia の抑制作用をもつことがすでに明らかとなっている (Journal of Applied Microbiology 90(3), 343-352(2001)) 。
【0006】
乳酸菌は、腸内有用菌として腸管機能や全身状態を正常に保つ上で重要な役割を担っており、現在のところ、生体への弊害は全く報告されていない。そこで、これら腸疾患に対する予防又は治療剤あるいは医療食として、副作用の全くない乳酸菌の応用が期待される。
これらの状況に鑑み、本発明者らは炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の予防・治療剤や予防・治療用食品組成物を求めて鋭意探索を行った結果、健常成人の糞便に由来するアシドフィルス類縁菌から見出された腸管定着性を有するラクトバチルス・ガセリ、特にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)SBT2055 株 (以下、LG2055) に炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群に対し、予防及び治療効果があることを見出した。従って本発明は、LG2055の菌体又はその発酵産物を有効成分とする炎症性腸疾患及び/又は過敏性腸症候群の予防・治療剤並びに予防・治療用食品組成物を提供することを課題とする。
【0007】
本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)の菌体又はその発酵産物を有効成分とする炎症性腸疾患及び/又は過敏性腸症候群の予防・治療剤並びに予防・治療用食品組成物に関する。
本発明におけるラクトバチルス・ガセリとしては、ラクトバチルス・ガセリ SBT2055(FERM P-15535)(LG2055)がその効果からみて特に望ましい。本発明の炎症性腸疾患及び/又は過敏性腸症候群の予防・治療剤、予防・治療用食品組成物は、食品、特に医療食として、UC、CD及びベーチェット病をはじめとする炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群の予防や治療に有用である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の有効成分である LG2055 は、本発明者らによって見出された、健常成人の糞便に由来する新規なラクトバチルス・ガセリ菌株であり、下記の特性を有する。
i) 経口投与によるヒト腸管への定着性。
ii) 経口投与による糞便中の有害菌 (Lecithinase-positive clostridia 及びStaphylococcus) 数の低下作用。
iii) 経口投与による糞便中の腐敗産物 (P-cresol) の低下作用。
【0009】
上記 LG2055 は、ヒトの糞便から得たサンプルをMRS 培地もしくは改良 LBS培地に塗抹して37℃、2日間、嫌気培養することによって得ることができる。
本発明の有効成分であるラクトバチルス・ガセリは、ヒト腸由来のものを用いることが望ましい。得られた LG2055 は、10%還元脱脂乳中に懸濁し凍結保存することができる。
【0010】
本発明の炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の予防・治療剤、及び予防・治療用食品組成物は、経口剤又は経口食品として摂取することができる。本菌を含む製剤又は食品は公知の製剤学的又は食品科学的製法に準じ製造される。本発明の製剤又は食品を健常者又は患者が摂取する場合の LG2055 菌数は、成人 (体重60kg) 1日当り 102〜1012個となることが望ましい。
このように摂取することにより、種々の炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群を予防し、あるいは症状を軽減し、さらに治療することができる。
【0011】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。しかし、これらは単に本発明を例示するのみであり、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
LG2055 の分離
LG2055は、健常成人の糞便から分離した。即ち、Mitsuokaらの方法(Mitsuoka,T, et al.,Zentralbl,Bakteriol. Hyg., 1 Abt.Orig.,195, pp455-469(1965), Mitsuoka, T.et al.,Zentralbl.Bakteriol, Hyg., 1 Abt.Orig.,226, pp469-478(1974))に従い、糞便試料を Teflon homogenizer を用いて均質化した後、嫌気培養用希釈液で10倍に希釈した。この希釈試料100 μL を、寒天培地上で培養した。培地用媒質には、modified Lactobacillus selective agar(modified LBS, Becton Dickinson; 氷酢酸の原容量の50%を添加) を用いた。培養条件は、限定的嫌気培養 (10%O2、10%CO2 及び80%N2) 、37℃、2日間とした。培養器には、AnaeroPack Campylo(Mitsubishi Gas Chemical Co.,Inc.製) を使用した。このようにして得られたコロニーは、LG2055特有の白色で広く平坦な形態を示した。なお、この菌株は雪印乳業株式会社の菌株ライブラリーに収納した。
【0012】
LG2055の分類学的性状を示すと次のとおりである。
(1) 菌形
LBS 寒天平板培地を用い、37℃で48時間嫌気培養した後の結果を示す。
形状:桿菌
大きさ: 0.5〜1×3〜4μm
連鎖したもの多数
(2) グラム染色性:陽性
(3) コロニー形態
形状:円形
周縁:波状
大きさ:直径2〜3μm
色調:白色
表面:円滑
(4) 芽胞形成:陰性
(5) ガス産生:なし
(6) 運動性:なし
(7) カタラーゼ活性:陰性
(8) 脱脂乳凝固性:凝固
(9) ゼラチン液化性:なし
(10) 硝酸塩還元性:なし
(11) インドール産生:なし
(12) 硫化水素産生:なし
【0013】
(13) 糖の発酵性
市販の細菌同定用キット(アピ50CH: ビオメリュー社製) にて糖の発酵性を検討した結果を以下に記載する。
Figure 0004853986
Figure 0004853986
上記の分類学的性状は、典型的なラクトバチルス・アシドフィルス複合菌種(Lactobacillus acidophilus complex) の性状を示した。
【0014】
【実施例2】
LG2055 の同定
菌種の同定は、前記の糖の資化性試験により、予めおおよその菌種の推定を行った上で、最終的には DNA-DNAハイブリダイゼーションにより実施した。すなわち、ラクトバチルス・アシドフィルス複合菌種(Lactobacillus acidophilus complex)は、現在、染色体 DNAの相同性により、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus cryspatus)、ラクトバチルス・ガリナラム(Lactobacillus gallinarum) 、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus) 、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) 及びラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)の6種に分類されている。
【0015】
LG 2055 の DNA相同性試験を次の通り実施した。
DNA 相同性試験
ラクトバチルス・アシドフィルス複合菌種(Lactobacillus acidophilus complex)の基準株であるラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) JCM1132、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus cryspatus) JCM1185、ラクトバチルス・ガリナラム(Lactobacillus gallinarum) JCM2011 、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus) JCM1126 、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) JCM1131及びラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii) JCM2012と被検菌株である LG 2055、陰性コントロールの大腸菌(Escherichia coli) K12のそれぞれの DNAを抽出し、精製した。
【0016】
そして、LG 2055 の DNAと大腸菌の DNAとの相同性を0%とし、 LG 2055の DNAとラクトバチルス・アシドフィルス複合菌種(Lactobacillus acidophilus complex)の各基準株の DNAとの相同性を DNAハイブリダイゼーション法により検討した。
【0017】
その結果、 LG 2055の DNAは、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gass eri) JCM1839の DNAに最も相同性が高く、90%以上の相同性を有しており、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に分類されることがわかった。 LG 2055 は、工業技術院生命工学工業技術研究所 (現独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター) に寄託され、受託番号 FERM P-15535 が付されている。
【0018】
【実施例3】
LG2055 製剤の製造
実施例1により得られた LG2055 の経口投与剤の製造例を以下に示す。
分離したLG2055のコロニーから遠心分離(10,000G、15分) により菌体を収集し、滅菌水で2回洗浄後、遠心分離(10,000G、15分) を行い菌体を収集した。洗浄した菌体を還元脱脂乳 (10% w/v) 中に懸濁し、凍結乾燥した。この凍結乾燥粉末そのものを、又は造粒により顆粒状としたものを打錠機により錠剤化した。
【0019】
【実施例4】
実施例3で得られた凍結乾燥粉末を散剤化した後、又はその散剤を造粒状とした後、カプセルに充填しカプセル化した。
【0020】
【実施例5】
LG2055 医療食の製造
実施例3で得られた凍結乾燥粉末を、LG2055が108 個以上含まれるように200 mlの牛乳と混合して LG2055 添加牛乳を得た。得られたLG2055添加牛乳は、炎症性腸疾患又は過敏性腸症候群の予防又は治療のための医療食として用いられる。
【0021】
【実施例6】
実施例3で得られた LG2055 懸濁液を10%滅菌還元脱脂乳に分散させ、無菌のアルミパックに充填し、前記実施例と同様の経口摂取用の医療食とした。製品中の LG2055 の生菌数は、1.0 ×1010cfu/mlであった。
【0022】
【実施例7】
1) 4菌種混合発酵乳の製造
ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928 株、ラクトバチルス・ガセリSBT2055 株、ラクトバチルス・ブルガリクスSBT0164 株、及びストレプトコッカス・サーモフィルスSBT1035 株を各々0.3 %酵母エキス添加12%脱脂乳培地によって継代培養しておいた。これらをヨーグルトミックス (例えば生乳に2%の脱脂乳を添加し、100 ℃で10分間加熱したもの)に数パーセントレベルで接種し、37〜41℃の温度にて培養し、乳酸酸度0.85%に達した時点で発酵を停止し、培養物を冷却し、発酵乳を製造した。
2) 3菌種混合発酵乳の製造
上述の4菌種混合発酵乳のスターターからビフィドバクテリウム・ロンガムSBT2928 株を除いた3菌種を用いて同様に発酵乳を製造した。
【0023】
【実施例8】
乳酸菌飲料の製造
実施例7にて調製した発酵乳7部に対して、液糖ないし甘味料3部を混合均質化し、乳酸菌飲料を製造した。
【0024】
【試験例1】
潰瘍性大腸炎モデルに対する効果
7週齢のSD-IGS系雄ラット (1群8匹) に実施例6で得られた医療食 (LG2055K の生菌数 1.0×1010 cfu/ml)を1日1回、14日間強制経口投与した。又、対照として、分散媒である10%還元脱脂乳のみを投与した群をおいた。医療食の投与期間中、DSS(平均分子量 5,000、硫黄含量15.0〜20.0%、和光純薬工業) を飲水投与した。体重の推移を図1に、平均摂餌量を表1に、血便及び下血の発生率を図2に、医療食最終投与日の翌日の血液学的検査結果及び臓器重量(盲腸、結腸、脾臓)をそれぞれ表2及び表3に示す。
対照群では9日目以降体重が低下し、10〜13日目の平均摂餌量も大きく減少したが、医療食投与群ではこれらの変動に有意な軽減がみられた。( 図1 及び表1)。また、対照群では血便及び下血が、それぞれ6及び10日目より認められた。
医療食投与群ではそれぞれ8及び11日目より観察されたものの、それらの発生率は低く、13日目において有意な抑制が認められた (図2)。血液学的検査においても、対照群でみられた白血球数の増加と赤血球数、ヘモグロビン量及びヘマトクリット値の低下は、医療食投与群において有意に改善された (表2)。この結果より、LG2055がDSS で誘発される大腸炎の病態に対し、優れた防御効果を有することが確認された。
【0025】
【表1】
Figure 0004853986
【0026】
【表2】
Figure 0004853986
【0027】
【表3】
Figure 0004853986
【0028】
【発明の効果】
本発明により LG2055 の菌体又はその発酵産物を有効成分とする炎症性腸疾患及び/又は過敏性腸症候群の予防・治療剤、予防・医療用食品組成物が提供される。本発明は、UC、CD及びベーチェット病などの炎症性腸疾患及び過敏性腸症候群の進行を予防・治療し、寛解するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験例1の DSS誘発大腸炎モデルの体重変化を示す。
【図2】試験例1の DSS誘発大腸炎モデルの血便・下血の発生率を示す。

Claims (1)

  1. ラクトバチルス・ガセリSBT2055(以下、LG2055という)(FERM P−15535)の菌体又はその発酵産物を有効成分とする炎症性腸疾患及び/または過敏性腸症候群の予防・治療剤。
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