JP4850352B2 - 大型黒鉛材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、大型黒鉛材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
黒鉛からなる材料は、放電加工用電極、鋳造用部材、半導体製造装置用の各種部品、軸受用部材などの素材として従来よく用いられている。通常、このような黒鉛材は、炭素を含む原料粉末を成形機を用いて所定形状に成形した後、これを焼成して炭素化・黒鉛化することにより製造される。
【0003】
成形工程においては、押出し成形機、モールド成形機、CIP用成形機などが一般に使用される。この場合、プレス成形法の一種であるCIPでは、原料粉末に対して大きなプレス圧が加えられる。このため、CIPは強度的に優れた黒鉛材を得るのに適している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、CIPにより成形を行う場合において、直径1mを超える大型の黒鉛材を得たいときには、非常に大きな成形機が必要になる。しかも、CIPではプレス圧が100MPa〜200MPaにも達するため、高圧に耐えうる機械的強度を備えた成形機を作製する必要がある。以上のことから、従来においては設備コストの増大が必至であった。
【0005】
また、成形機を用いずに単にゾルゲル法を利用して大型黒鉛材を製造するという方法も一応考えられる。しかし、この方法により製造された大型黒鉛材はポーラスであり、十分な強度を備えていない。従って、黒鉛材の強度アップを図るためには繰り返し含浸を行う必要があり、製造時の工数が多くなるという問題があった。また、含浸を何度か行ったとしても、強度アップにはおのずと限界があり、使用可能な用途も限定されるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、成形機を用いることなく高強度かつ大型の黒鉛材を簡単にかつ安価に製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、骨格形成用材料が配置された多孔質体製の容器内に、平均粒子径100μm以下のコークス粉末にピッチを重量比20%〜70%の範囲で混合し、かつ200℃〜300℃の範囲で混練した後、これを粉砕することにより得た炭素粉末を、溶媒に分散させることにより調製されたものである液状原料を流し込む原料充填工程と、前記液状原料が充填された骨格形成用材料を乾燥して所定形状の固形物を得る成形工程と、前記固形物を焼成して前記炭素粉末を炭素化することにより焼成品を得る焼成工程と、前記焼成品を2000℃〜3200℃で熱処理することにより黒鉛化する黒鉛化工程と、を含むことを特徴とする大型黒鉛材の製造方法をその要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明では、前記多孔質体製の容器は石膏または紙からなるとした。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記骨格形成用材料は炭素繊維をその成分とするとした。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記骨格形成用材料として、炭素繊維からなる網を複数枚積層して用いることとした。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された大型黒鉛材において、ショアー硬度は30〜60であり、密度は1.5g/cm 3 〜2.0g/cm 3 である大型黒鉛材をその要旨とする。
【0011】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1に記載の発明によると、炭素粉末を分散してなる液状原料を用いて原料充填工程を行うことにより、骨格形成用材料の隙間に均一に炭素粉末が充填される。ここで用いられる容器は多孔質体製であるため、液状原料中の余剰の液分は、容器の気孔を介してある程度外部に排出される。続く成形工程において、液状原料が充填された骨格形成用材料を乾燥することにより、液状原料中の液分がほぼ完全に除去され、所定形状の固形物が得られる。そして、続く焼成工程にて焼成時の熱により揮発分が除去され、さらに黒鉛化工程にて固形分が黒鉛化される結果、所望の大型黒鉛材が得られる。そして、このような方法により製造された黒鉛材は、黒鉛化した炭素粉末の内部に骨格を有しているため、大型であるにもかかわらず高い強度を備えたものとなる。加えて、上記の原料粉末を溶媒に分散させることにより調製した液状原料を用いれば、黒鉛材に高熱伝導性及び高強度を確実に付与することができる。なお、溶媒を用いているため溶媒中に炭素粉末を分散することができ、原料充填工程において骨格形成用材料の隙間に均一に炭素粉末を充填することができる。以上のことから、熱伝導性や強度等のばらつきを未然に防止することができる。
【0012】
また、本発明の方法によれば特に成形機を用いる必要がないため、大型黒鉛材の製造に伴う設備コストの増大という問題も発生せず、安価に高強度の大型黒鉛材を製造することができる。さらに、本発明の方法は、ゾルゲル法にて作製された黒鉛材の強度アップを図るために繰り返し含浸を行う方法に比べ、製造時の工数が少なくて済む。よって、簡単に高強度の大型黒鉛材を製造することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によると、石膏や紙は材料自体が安価であることに加え、加工しやすいので比較的容易に所望の形状にすることができるという利点がある。よって、上記のものからなる容器を用いることにより、製造コストを低減することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によると、炭素繊維はそれ自体が優れた機械的強度を備えていることに加え、黒鉛化した周囲の炭素粉末との親和性も高い。従って、骨格形成用材料としてこのようなものを用いることにより、確実に黒鉛材の高強度化を図ることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によると、炭素繊維がばらばらの状態ではなく交錯した状態で存在していることから形状保持性がよく、確実に黒鉛材の高強度化を図ることができる。また、網を複数枚積層して用いた場合、焼成工程後に黒鉛材を所望の形状に加工するときに好都合となる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、高い強度を備えた大型黒鉛材とすることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態の半導体製造用炭素部品及びその製造方法を図1〜図4に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1には、半導体製造装置の一種であるシリコン単結晶引き上げ装置1が示されている。この装置1は、シリコン材料を加熱していったん溶融させた後、シリコンを単結晶として引き上げることにより、高純度のシリコンインゴットを得るためのものである。このシリコン単結晶引上げ装置1を構成する密閉本体2の上部には、その内部に不活性ガスを導入するための導入部3が設けられている。密閉本体2の内部には、石英るつぼ4、るつぼ5、回転軸6、ヒータ7、保温筒8、上部リング9、下部リング10、底部遮熱板11及びガス整流部材12等が収容されている。石英るつぼ4にはシリコン材料が投入される。この石英るつぼ4は、その外側に配置されたるつぼ5に保持されている。るつぼ5の底面中央部は回転軸6によって下方から支持されている。図示しない駆動手段によって回転軸6が回転すると、それに伴ってるつぼ5が回転する。るつぼ5の側部の周囲にはヒータ7が配置されている。このヒータ7への通電によってるつぼ5が加熱され、シリコン材料が溶融するようになっている。ヒータ7の側部の周囲には、保温筒8が設けられている。この保温筒8は、上部リング9と下部リング10との間に支持されている。密閉本体2の内底面には、底面から熱が逃げるのを防止するための底部遮熱板11が配設されている。
【0020】
石英るつぼ4の真上の位置、言い換えると密閉本体2において導入部3が形成されている位置には、導入部3を介して導入される不活性ガスを整流して、石英るつぼ4内にそれを確実に導くためのガス整流部材12が設けられている。本実施形態のガス整流部材12は、断面円形状の筒状物である。ガス整流部材12の一端の直径は、他端の直径よりも大きくなっている。ゆえに、このガス整流部材12を側方から投影したときの形状は略台形状である。言い換えると、ガス整流部材12は先細り形状のテーパ状部材となっている。このガス整流部材12は、小径側の端部を下方に向けた状態で、大径側の端部が密閉本体2の上面内側に固定されている。
【0021】
本実施形態の装置1における上記の部材(るつぼ5、回転軸6、ヒータ7、保温筒8、上部リング9、下部リング10、底部遮熱板11及びガス整流部材12)は大型黒鉛材21からなる。この大型黒鉛材21は、黒鉛化した炭素粉末によって、炭素繊維からなる骨格同士の隙間が埋められた構成を備えている。
【0022】
大型黒鉛材21のショアー硬度は30〜60であることがよく、特には40〜55であることがよい。ショアー硬度が30未満であると、他部材との当接等により欠けが生じやすくなり、耐久性に劣るものとなるからである。逆に、ショアー硬度が60を越えるものは、耐久性に優れる反面、製造が困難になるおそれがあるからである。
【0023】
大型黒鉛材21の密度は1.5g/cm3〜2.0g/cm3であることがよく、特には1.6g/cm3〜1.8g/cm3であることがよい。密度が1.5g/cm3未満であると、十分な緻密さが得られなくなることで機械的強度が低下してしまい、ひいては耐久性に劣るものとなるからである。逆に、密度を2.0g/cm3よりも大きくしようとすると、製造が困難になるおそれがあるからである。
【0024】
次に、上記大型黒鉛材21の製造方法について説明する。ここでは、るつぼ5に用いられる大型黒鉛材21を製造する例を挙げて説明する(図2〜図4参照)。
【0025】
まず、コークス粉末にバインダとしてのピッチを混合し、これを加熱下で混練した後、これを粉砕することにより、原料粉末を得る(原料粉末作製工程)。コークス粉末の平均粒子径は100μm以下であることが好ましい。ピッチはコークス粉末に対して重量比20%〜70%の範囲で混合されることが好ましい。ピッチの量が20重量%未満であると、原料粉末同士の結合力が弱くなり、十分高い熱伝導性及び機械的強度を付与することができなくなるからである。なお、混練は200℃〜300℃の範囲で行われることが好ましい。
【0026】
次に、このようにして得られた原料粉末を所定の溶媒に分散させることにより、スラリー状の液状原料23をあらかじめ作製しておく。溶媒としては、水や、メタノール等の低級アルコール類のような極性溶媒が用いられることがよい。ここで、原料粉末の配合量は溶媒の50重量%〜300重量%程度であることがよい。原料粉末の配合量が少なすぎると、原料粉末が沈降・分離する可能性がある。逆に、原料粉末の配合量が多すぎると、液状原料23の高粘度化に伴って液状原料23の流動性が小さくなり、原料充填が困難になるおそれがある。また、このようにして作製された液状原料23は103cps以上、好ましくは104cps〜105cps程度の粘度に調製されることがよい。その理由は、粘度が高すぎると液状原料23の流動性が小さくなり、原料充填が困難になるおそれがある。
【0027】
次に、容器24を用意し、その中に骨格形成用材料をあらかじめ配置しておく。ここで用いられる容器24は気孔を有する多孔質体製である。本実施形態では、石膏製の容器24を用いている。容器24における気孔は、液状原料23中に分散される原料粉末よりも小径であることがよい。その理由は、気孔が原料粉末よりも大径であると、液状原料23中の液分のみならず原料粉末自体も流出してしまい、原料充填の効率が低下してしまうからである。なお、石膏のような材料が使用可能となった理由は、製造工程の全体を通じて大きな成形圧を加える必要がなくなったためである。
【0028】
本実施形態の場合、容器24は本体25と蓋体26とからなる。本体25側の上部には椀状の凹部27が設けられており、蓋体26側の下部にはその凹部27に挿入可能な凸部28が設けられている。本体25と蓋体26とを重ね合わせた場合、凹部27の内面と凸部28の外面との間には空間が生じる。この空間の形状は、得ようとするるつぼ5の形状に対応したものとなる。この空間には骨格形成用材料が配置される。
【0029】
骨格形成用材料としては、例えば炭素繊維等のような無機繊維をその成分とするものを使用することができる。本実施形態では、具体的にいうと炭素繊維からなる網29を用いている。このような網29は、複数枚積層した状態で配置されることがよい。なお、図2には図面作成の便宜上、網29を3枚用いた状態が示されている。しかし、実際上はこのような網29を数枚〜数十枚程度、場合によっては百枚以上用いてもよい。上記網29は、炭素繊維を編むことによって形成されたものであってもよいほか、炭素繊維を編むことなくバインダ等を用いて単に集積させたものであってもよい。前記網29はピッチ系炭素繊維を用いて形成されてもよいほか、ピッチ系以外の炭素繊維(例えばPAN系の炭素繊維やその他の炭素繊維等)を用いて形成されてもよい。
【0030】
そして、網29を積層した状態で前記空間内に配置し、例えば原料供給孔30を介して上記液状原料23を供給する。すると、骨格形成用材料である各網29のメッシュの隙間に、均一に炭素粉末が充填された状態となる。なお、多孔質体製の容器24を用いていることから、液状原料23中の余剰の液分(即ちここでは上記の極性溶媒)は、容器24の気孔を介してある程度外部に排出されてしまう。その結果、水切りを行うことができる。また、真空ポンプ等を使用することにより、水切りを促進してもよい。
【0031】
以上のような原料充填工程を行った後、液状原料23が充填された骨格形成用材料を乾燥することにより、液状原料23中の液分をほぼ完全に除去して所定形状の固形物31を得る(成形工程)。本実施形態において具体的には、網29を収容した状態の容器24をそれごと乾燥炉内にセットし、炉内温度を水の蒸発温度以上の値(ここでは120℃〜150℃程度)に設定して乾燥を行っている。溶剤としてメタノールを選択した場合、乾燥温度をこれよりも低く設定することができる。ここで十分に乾燥を行っておく理由は、次の焼成工程において良好な焼成品を得ることができるからである。即ち、乾燥を行うことにより、焼成品にヒケやクラック等が生じにくくなるからである。
【0032】
次に成形工程を経て得られた固形物31を焼成して炭素粉末を炭素化させることにより焼成品を得る焼成工程を行った後、焼成品を熱処理することにより黒鉛化する黒鉛化工程を行い、大型黒鉛材21とする。
【0033】
具体的には、前記成形工程により得られた成形体(固形物31)を900℃〜1100℃で焼成することにより炭素化し、さらにこれを2000℃〜3200℃で熱処理することにより黒鉛化する。この後、必要に応じて機械加工を行い、外形や表面粗さ等を整える。その結果、大型黒鉛材21からなる所望形状のるつぼ5が完成する。なお、るつぼ5以外の黒鉛製部材(回転軸6、ヒータ7、保温筒8、上部リング9、下部リング10、底部遮熱板11及びガス整流部材12)についても、基本的には同様の製造方法を適用して作製することが可能である。
【0034】
【実施例及び比較例】
[実施例]
実施例では、まず、平均粒子径20μmの石炭系コークス100重量部と、バインダーピッチ45重量部とを混合し、これを双腕型ニーダーを用いて200℃で3時間混練した。次に、その混練物を平均粒子径40μmになるように粉砕し、原料粉末とした。そして、この原料粉末100重量部を、水70重量部に分散させることにより、粘度5×104cpsのスラリー状液状原料23を作製した。
【0035】
次に、上述した石膏製の容器24の中に炭素繊維からなる網29を複数枚積層した状態で配置し、かつ上記液状原料23を供給した。
このように原料充填を行った後、液状原料23が充填された骨格形成用材料を乾燥炉内にて300分、120℃の条件で乾燥し、椀形状の固形物31を得た。
【0036】
次に、上記成形工程を経て得られた固形物31を容器24から型抜きした後、1000℃で焼成して炭素化した。そして、強度アップのためさらにこれを2800℃で焼成して黒鉛化した。この後、得られた大型黒鉛材21の機械加工を行い、るつぼ5を完成させた。なお、実施例のるつぼ5は1m以上の直径を有するものとした。
【0037】
このようにして得られたるつぼ5を構成する大型黒鉛材21の密度は1.61 g/cm3であり、気孔率は28%であった。従って、実施例のるつぼ5は比較的緻密な組織を有しており、ゾルゲル法による従来のものに比べて高い機械的強度が付与されているであろうと考えられた。
【0038】
そこで、従来公知の手法に従って曲げ強さ及びショアー硬度を調査した。その結果、曲げ強さは43MPa、ショアー硬度は38であり、実施例のるつぼ5は十分高い機械的強度を備えたものであることがわかった。
[比較例]
従来公知のゾルゲル法により、実施例と同じ形状・サイズの黒鉛製るつぼを作製した。なお、強度アップのために含浸を複数回行うとともに、その後で密度、気孔率、曲げ強さ及びショアー硬度をそれぞれ測定した。
【0039】
その結果、密度は1.45g/cm3であって実施例よりも小さい反面、気孔率は45%であって実施例よりも大きかった。即ち、比較例のるつぼは、緻密体と言いうるものではなかった。また、曲げ強さは3MPa、ショアー硬度は30であり、いずれも実施例の数値よりも低くなった。
【0040】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、容器24内に液状原料23を流し込む原料充填工程と、乾燥を行って所定形状の固形物31を得る成形工程と、固形物31中の炭素粉末を炭素化する焼成工程と、焼成品を黒鉛化する黒鉛化工程とを経て、大型黒鉛材21を製造している。そして、この製造方法によれば、黒鉛化した炭素粉末の内部にいわば骨格を有した大型黒鉛材21を得ることができる。しかも、このようにして得られた大型黒鉛材21は、従来のゾルゲル法による黒鉛材よりも高い強度を備えたものとなる。
【0041】
また、この製造方法によれば、特に成形機を用いる必要がないという利点がある。このため、大型黒鉛材21の製造に伴う設備コストの増大という問題も発生せず、安価に高強度の大型黒鉛材21を製造することができる。さらに、この製造方法は、ゾルゲル法にて焼結体を作製した後に複数回含浸を行う方法に比べて、製造時の工数が少なくて済むという利点がある。よって、簡単に高強度の大型黒鉛材21を製造することができる。
【0042】
(2)本実施形態の製造方法では、石膏からなる容器24を用いている。石膏は材料自体が安価であることに加え、加工しやすいので比較的容易に所望の形状にすることができるという利点がある。よって、このような容器24を用いることにより、大型黒鉛材21の製造コストを低減することができる。また、石膏は多孔質体であるにもかかわらずある程度の剛性を持つ点において有利である。
【0043】
(3)本実施形態の製造方法では、骨格形成用材料として、炭素繊維からなる網29を複数枚積層して用いている。炭素繊維はそれ自体が優れた機械的強度を備えていることに加え、黒鉛化した周囲の炭素粉末との親和性も高い。従って、骨格形成用材料としてこのようなものを用いることにより、確実に大型黒鉛材21の高強度化を図ることができる。
【0044】
(4)しかも、網29の場合、炭素繊維がばらばらの状態ではなく交錯した状態で存在しているので、形状保持性がよいという利点もある。さらに、網29を複数枚積層して用いた場合、焼成工程後に大型黒鉛材21を所望の形状に加工するときに好都合となる。つまり、網29のうちの一部のものが仮に加工によって傷付いたとしても、それ以外のものについては傷付きを免れることができ、もって全体の強度低下を防止することができるからである。
【0045】
(5)本実施形態の製造方法では、上記の原料粉末を溶媒に分散させることにより調製した液状原料23を用いている。このため、ゾルゲル法による場合に比べて高い熱伝導性及び強度を、大型黒鉛材21に確実に付与することができる。なお、溶媒を用いているため溶媒中に炭素粉末を分散することができ、原料充填工程において骨格形成用材料の隙間に均一に炭素粉末を充填することができる。以上のことから、熱伝導性や強度等のばらつきを未然に防止することができる。
[第2の実施形態]
次に、本発明を具体化した第2実施形態を説明する。ここでは第1実施形態と相違する点を主に述べ、共通する点についてはその説明を省略する。
【0046】
本実施形態では、第1実施形態のときと骨格形成用材料が相違する。即ち、第1実施形態では炭素繊維からなる網29を複数枚積層して用いていたのに対し、ここではばらばらの状態の炭素繊維そのものを用いている。そして、このような炭素繊維を、本体25と蓋体26とがなす空間内に配置した状態で、原料充填工程を行うこととしている。従って、本実施形態によれば上記(1)(2)(3)(5)の効果を得ることができる。
[第3の実施形態]
次に、本発明を具体化した第3実施形態を説明する。ここでは第1実施形態と相違する点を主に述べ、共通する点についてはその説明を省略する。
【0047】
本実施形態の骨格形成用材料は、第1、第2実施形態のときとは構成成分や形状が大きく相違するものであって、具体的には発泡樹脂を用いている。つまり、本実施形態の骨格形成用材料は、炭素のみを構成成分とするものではなくて、組成の一部として炭素を含む樹脂からなる。また、本実施形態の骨格形成用材料は、繊維状物ではなくて、気孔を有するフォーム状物である。なお、上記のような発泡樹脂として、例えば発泡スチロールや発泡ポリウレタン等を選択することができる。原料充填工程の実施前に発泡樹脂を加工し、所望の形状(ここでは椀形状)としておくことがよい。
【0048】
そして、このような発泡樹脂を、本体25と蓋体26とがなす空間内に配置したうえで原料充填工程を行うと、発泡樹脂の気孔内に液状原料23が入り込み、内部に炭素粉末が充填された状態となる。続く成形工程において、液状原料23が充填された発泡樹脂を乾燥すると、るつぼ形状の固形物31が得られる。続く焼成工程では、焼成時の熱によって炭素粉末が炭素化・黒鉛化され、所望の大型黒鉛材21を得ることができる。このとき同時に発泡樹脂も炭素化・黒鉛化し、大型黒鉛材21における骨格となる。
【0049】
従って、本実施形態によれば、実施形態1,2ほどでは無いが、比較的高強度の大型黒鉛材21を製造することができる。また、このような発泡樹脂を用いた場合においても、炭素粉末を均一に充填することができる。しかも、発泡樹脂は形状保持性や加工性にも優れている。
【0050】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 紙を用いて多孔質製の容器24を構成してもよい。紙の場合、不要になったら焼いて捨てることが可能であるほか、リサイクルも可能である点において、石膏より有利であるといえる。しかも、紙は焼成時における初期段階で焼失してしまうので、必ずしも容器24の型抜きが要らなくなるという特徴もある。
【0051】
・ 第1、第2実施形態において用いた炭素繊維の代わりに、炭化珪素繊維等のような耐熱性の無機繊維を骨格形成用材料として選択してもよい。
・ 第1〜第3実施形態において、蓋体26を省略して本体25のみで原料充填工程を行うことも許容される。
【0052】
・ 大型黒鉛材21は上記実施形態のような椀状体のみに限定されず、例えば棒状体、環状体、球状体、箱状体、板状体等であってもよい。
・ 本発明の大型黒鉛材21は、半導体製造装置の一種であるシリコン単結晶引上げ装置1の内部に用いられる各種部品(回転軸6、ヒータ7、保温筒8、上部リング9、下部リング10、底部遮熱板11等)として具体化されてもよい。勿論、シリコン単結晶引上げ装置1以外の半導体製造装置における部品として具体化されてもよい。
【0053】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1) 請求項5において、前記大型黒鉛材は、シリコン単結晶引上げ装置の内部に用いられる、るつぼ、回転軸、ヒータ、保温筒、上部リング、下部リング、底部遮熱板またはガス整流部材であることを特徴とする大型黒鉛材。
【0054】
(2) 請求項1または2において、前記骨格形成用材料は発泡樹脂であることを特徴とする大型黒鉛材の製造方法。従って、この技術的思想2に記載の発明によれば、気孔を有するので液状原料が入りやすく炭素粉末を均一に充填することができ、しかも形状保持性や加工性にも優れている。
【0055】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜4に記載の発明によれば、成形機を用いることなく高強度かつ大型の黒鉛材を簡単にかつ安価に製造する方法を提供することができる。
【0056】
請求項5に記載の発明によれば、高い強度を備えた大型黒鉛材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態におけるシリコン単結晶引上げ装置を示す概略断面図。
【図2】第1実施形態の大型黒鉛材を製造する手順を説明するための概略断面図。
【図3】同じく大型黒鉛材を製造する手順を説明するための概略断面図。
【図4】同じく大型黒鉛材を製造する手順を説明するための概略断面図。
【符号の説明】
21…大型黒鉛材、23…液状原料、24…多孔質体製の容器、29…骨格形成用材料としての炭素繊維からなる網、31…固形物。
Claims (5)
- 骨格形成用材料が配置された多孔質体製の容器内に、平均粒子径100μm以下のコークス粉末にピッチを重量比20%〜70%の範囲で混合し、かつ200℃〜300℃の範囲で混練した後、これを粉砕することにより得た炭素粉末を、溶媒に分散させることにより調製されたものである液状原料を流し込む原料充填工程と、前記液状原料が充填された骨格形成用材料を乾燥して所定形状の固形物を得る成形工程と、前記固形物を焼成して前記炭素粉末を炭素化することにより焼成品を得る焼成工程と、前記焼成品を2000℃〜3200℃で熱処理することにより黒鉛化する黒鉛化工程と、を含むことを特徴とする大型黒鉛材の製造方法。
- 前記多孔質体製の容器は石膏または紙からなることを特徴とする請求項1に記載の大型黒鉛材の製造方法。
- 前記骨格形成用材料は炭素繊維をその成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の大型黒鉛材の製造方法。
- 前記骨格形成用材料として、炭素繊維からなる網を複数枚積層して用いることを特徴とする請求項3に記載の大型黒鉛材の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された大型黒鉛材において、ショアー硬度は30〜60であり、密度は1.5g/cm 3 〜2.0g/cm 3 である大型黒鉛材。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001170955A JP4850352B2 (ja) | 2001-06-06 | 2001-06-06 | 大型黒鉛材及びその製造方法 |
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