JP4847151B2 - 有機発光素子 - Google Patents

有機発光素子

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Description

本発明は、一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機化合物層を備えた有機発光素子に関する。
従来、有機発光素子の電荷注入励起による発光の場合、内部発光量子効率の上限は25%であると言われてきた。この値は、素子の透明基板と空気との界面での内面反射によるロスを考慮すると、外部発光量子効率5%に相当する。電荷注入励起の場合、発光分子の一重項励起状態と三重項励起状態がランダムに生じるが、一重項励起状態の多重度1に対し、三重項励起状態の多重度が3であることを考慮すると、一重項励起状態と三重項励起状態は1:3の割合で生成すると考えられる。一般の分子では基底状態は一重項状態なので、三重項励起状態は基底状態に発光遷移する確率が非常に低く、常温では発光には寄与しない。このため、例え一重項励起状態が全て発光遷移したとしても、内部発光量子効率の上限は25%であると言われてきた。
この限界を突破すべく、近年、重原子効果を利用して三重項励起状態から基底状態への遷移確率を著しく増大し、よって室温でも十分高い効率の三重項発光を可能とする材料が提案されている。M.A.Baldoらは、励起三重項状態からの高効率の燐光発光を示す有機イリジウム錯体を発光分子として用いることで、外部量子効率8.0%(内部量子効率40.0%相当)が得られたと報告した(非特許文献1参照)。
一方、共役系高分子を用いる有機発光素子においては、イリジウム錯体を用いない有機発光素子においても、従来の定説であった内部量子効率25%、外部量子効率5%の限界を突破する場合があることが報告されている。これは、一重項励起状態と三重項励起状態が1:3の割合ではなく、より一重項励起状態を多く生成するためであると考えられている。
共役系高分子における高効率蛍光発光のメカニズムについてもいろいろ議論されており、次のような考え方がある。共役系高分子において、同一共役鎖上に電子とホールが離れて存在している状態から、お互いに相関して励起子を形成するにいたる過程を考える。このとき、電子とホールの量子力学的相互作用の影響等で一重項状態の電子−ホール対の場合と三重項状態の電子−ホール対の場合とで異なり、一重項状態の方がより速く、あるいは確率高く励起子状態になるという考え方である(非特許文献2、3参照)。
実験的には共役系高分子においては一重項励起状態と三重項励起状態が1:3の割合ではなく、より一重項励起状態を多く生成していると考えられる結果が多く報告されている。一方、低分子においてはそのような結果の報告は知られていない。
近年、有機発光素子中のキヤリアや分子のスピン状態を観察し、電子とホールが再結合して励起状態を形成する素過程を解析する手段として、外部から印加された磁場に対するさまざまな応答を評価する研究が行われるようになってきた(非特許文献4参照)。このような新たな手法も交えて、有機発光素子の諸現象の解明が期待されている。
M.A.Baldo,S.Lamansky,P.E.Burrows,M.E.Thompson,S.R.Forrest,Appl.Phys.Letters,vol.75,No.1,pp4(1999) M.N.Kobrak,E.R.Bittner,Physical Review B,vol62,pp11473(2000) S.Karabunarliev,E.R.Bittner,Physical Review Letters,vol.90,No.5,057402,(2003) 第53回高分子討論会予稿集 1R19 (2004)
低分子では、重原子効果を利用した高効率の燐光発光を示す物質の探索が積極的に行われているが、イリジウム錯体以外は効率、安定性等の面で問題のあるものが多く、現時点では実用化できる材料はない。また、イリジウム錯体はイリジウムという比較的希少な元素を用いるため材料が高価になり、経済性の点から問題がある。さらに、高効率とはいえ燐光発光であるため、高輝度領域になると三重項−三重項消滅を起こし、発光量子効率が低下するという難点がある。加えて、発光色の設計自由度もイリジウム錯体という限定があるため、制約を受ける。
一方、高分子は一般に精製が難しく、不純物が残り易い。高分子鎖長も単一ではなく、分子量が広い範囲に分布する。これらが原因の一つとなって、合成ロットや製膜条件による伝導、発光特性、寿命特性のばらつきが大きいという問題があった。また、有機発光素子の作製に際し、真空蒸着法を用いることができず、印刷法やインクジェット法などが検討されているが課題が多かった。
本発明は、上記の事情に鑑みて創案されたものであり、発光層に低分子の有機化合物を用いて、蛍光発光を利用しながら高い発光効率を得ることができる有機発光素子を提供することを目的とする。
上記の目的を達成すべく、本発明に係る有機発光素子は、一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機化合物層を備えた有機発光素子において、
前記発光層はホストとゲストからなり、前記ゲストは下記構造式1で示され前記ホストは下記構造式2で示され、一重項の電子−ホール対状態から一重項の励起状態に移行する速度定数ksが、三重項の電子−ホール対状態のそれぞれから三重項の励起状態に移行する速度定数kt以上であり、
前記ゲストが、イオン状態最適化構造をとるときの中性状態における三重項第二励起状態のエネルギーが、イオン状態最適化構造をとるときの中性状態における一重項最低励起状態のエネルギーよりも大きいことを特徴とする。
Figure 0004847151
本発明によれば、外部磁場を制御可能な環境下にて電流密度0.5mA/cm2以下で有機発光素子を駆動させたときに、外部磁場を0ガウスから1000ガウスまで変化させて、その発光強度を通電電流密度で規格化した値を測定する。そのとき、発光効率の外部磁場依存性が、外部磁場が0ガウスの場合に比べて1000ガウスの場合の発光効率が等しいか低くなるように素子を構成すれば、一重項励起子を多く生成する。したがって、発光層に低分子の有機化合物を用いて、蛍光発光を利用しながら高発光効率の有機発光素子を得ることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
本発明者らは、一重項発光で高発光効率の有機発光素子を見出すべく鋭意検討を続けてきた。既述したように、共役系高分子では一重項励起状態と三重項励起状態とが1:3の割合ではなく、より一重項励起状態を多く生成している。この実験結果は、一重項発光で高発光効率を得るには非常に魅力的である。この現象は未だ共役系高分子においてのみ観察されており、理論的にも、共役鎖の長さに依存するとする等、共役系高分子に特有のものとする議論が多い。
しかしながら、これら議論を吟味してみると、共役系高分子で観察され低分子で観察されていないという結果を本質的なものとして説明しようとする観点が強い。低分子において本当にこのような現象が生じ得ないかという観点からの議論は十分ではないように思える。
できれば、選択可能な精製手段が多く、高純度を達成し易く、合成法上分子量制御の難しい連鎖重合反応等の重合反応によらずに合成でき、分子量制御が現実的に行い得る程度の分子量の分子を用いた有機発光素子が望ましい。例えば、有機発光素子に用いられる有機材料の基本構造、あるいは置換基として優れた特性を示すことの多いビフェニル、スチリル、フルオレン、アントラセンなどの基は分子量が150から200程度である。これらを単量体とする多量体のうち、重合度が2から20程度のものはオリゴマーと呼ばれるが、この程度が望ましい。分子量にすると4000以下である。さらに、真空蒸着法を用いて積層可能であれば、既に確立している真空蒸着法を用いて有機発光素子の作製が可能となり、この点でも利点がある。
そこで、発明者らは、電子とホールの再結合の過程を、共役系高分子か低分子かという観点にとらわれずに見直すことから始め、その結果、次のような知見を得た。即ち、外部磁場を制御可能な環境下に有機発光素子をおき、外部磁場を変化させて、その発光強度を通電電流密度で規格化した値を測定した。従来知られている有機発光素子においては、外部磁場が0ガウスの場合に比べて1000ガウスの場合の値は大きいのが一般的である。しかし、発光層材料や構成によって外部磁場が0ガウスの場合に比べて1000ガウスの場合の値が等しいか低い場合があり得、そのときに高発光効率の一重項発光が得られることを見出した。
ここでは、この有機発光素子を制御可能な外部磁場環境下におき、外部磁場を変化させて、その発光強度を通電電流密度で規格化した値の挙動を「発光効率の外部磁場効果」と呼ぶこととする。発光効率の外部磁場効果に注目するのは、この効果が、電極から注入された電子とホールが再結合して分子を励起し、基底状態に戻る過程における速度の一重項状態であるか三重項状態であるかによる違いを反映している。そして、この速度の違いが一重項状態と三重項状態との生成比を変化させることにより、発光効率と強く結びついていると考えるからである。
以下、発明者らが発光効率の外部磁場効果に注目した背景を説明しつつ詳細に考察する。
まず、陰極から注入された電子と陽極から注入されたホールが再結合して分子を励起し、エネルギーを放出して基底状態に戻る過程を、スピン状態に注目して考察する。
以下の考察において、アニオンとカチオンはそれぞれ同種分子のアニオンとカチオンであってもよく、異種分子のアニオンとカチオンであってもよい。AとBは同種分子であってもよく、異種分子であってもよい。
図1は電子−ホール間距離とエネルギーの関係を示す図である。低分子アモルファス固体中では、電子とホールはそれぞれアニオン、カチオンとして担持されているので、アニオン−カチオン間距離と考えてもよい。電子とホールが離れている遠隔電子−ホール対(遠隔イオン対)状態では、電子とホールとの間、あるいはアニオンとカチオンとの間の相互作用が小さく、全体としてのスピン状態は一重項状態と三重項状態との混合状態である。エネルギーとしては縮退している。電子とホールが近接してくると、相互作用が大きくなり、全体としてのスピン状態は一重項状態と三重項状態とに分かれるが、その確率は1:3であると考えられる。電子とホールが隣接する分子にそれぞれ担持される状態にまで近づいたとき、アニオン、カチオンとして見ると、アニオン、カチオンが隣接した隣接イオン状態と見られる状態になる。
図2は隣接イオン対状態から励起状態への遷移を説明する図である。図2に示すように、隣接イオン対状態から励起状態には、相互作用の影響下で量子力学的に遷移する。励起状態からはエネルギーを光あるいは熱として放出して基底状態に戻る。
さて、遠隔電子−ホール対状態から近接電子−ホール対状態、隣接電子−ホール対状態励起状態を経て基底状態に戻る一連の過程において、一重項状態と三重項状態とで各過程から次の過程に移る速度に違いがある場合がある。この場合には、励起状態を経て基底状態に戻る際に、一重項励起状態から基底状態に戻る経路をとる確率と、三重項励起状態から基底状態に戻る経路をとる確率との比率が、1:3ではなくなる可能性があると考えられる。
例えば、隣接電子−ホール対状態から励起状態に移る過程において、仮に一重項状態の隣接イオン対が一重項励起状態に遷移する速度定数(ksとする)が、三重項状態の隣接イオン状態が三重項励起状態に遷移する速度定数(ktとする)より大きとする。そうすると、結果的に注入された電子とホールがイオン対から励起状態を経て基底状態に戻る際に、一重項励起状態から基底状態に戻る経路をとる確率と、三重項励起状態から基底状態に戻る経路をとる確率との比率が1:3よりも高くなる可能性がある。このとき、一重項励起状態の発光効率が十分高く、また発光層からのキヤリアの漏れ等がなければ、従来の定説であった内部量子効率25%、外部量子効率5%の限界を突破する可能性が生じる。
具体的に一重項状態の隣接イオン対が一重項励起状態に遷移する速度定数(ks)が三重項状態の隣接イオン状態が三重項励起状態に遷移する速度定数(kt)より大きいks>=ktとなる状態の実現を推定するには、どのようにすればよいであろうか。
最近、有機発光素子に対する外部磁場の効果が注目されている。岩崎らは、ESR装置に用いられる磁場コイルのキヤビティ中に有機発光素子をおき、コイルに電流を流して磁場をかけ、有機発光素子の発光効率の変化を観察した(上記非特許文献4参照)。この様子を図9および図10に示す。図9は装置の概略を示し、有機発光素子に電磁石により外部磁場をかけている。図10はPPV系の高分子を発光層とする有機発光素子を実測したときの結果を示している。図10において、横軸は磁場強度、縦軸は磁場をかけない状態における発光強度を1と置いたときの相対発光強度である。印加電圧を4.4V、5.5V、9.9V、13.2Vと段階的に変化させ、それぞれの場合での相対発光強度の変化を記録している。不図示であるが、磁場の印加において駆動電流密度は殆ど変化していない。したがって、相対発光強度が磁場の強さに応じて変化するのは、発光効率が変化しているものと考えられる。
この変化の様子は大きく分けて二種類ある。一つは、0〜100mT(1000Gauss)程度の低磁場領域で、磁場の印加とともに鋭く相対発光強度が変化する部分である。もう一つは、印加電圧が高くなるにしたがって、100mT(1000Gauss)から1000mT(10000Gauss)にわたって徐々に現れてくる高磁場側での緩慢な変化の部分である。
岩崎らによれば、低磁場側の鋭い変化は以下のようなメカニズムで説明される。電極から注入された電子とホールは、再結合して有機分子を励起させる前段階として、緩く束縛された電子とホールの対を形成する。図10のような外部磁場効果は、高分子を有機化合物層として有する有機発光素子に限らず、例えばアルミニウムキノリノール錯体のような低分子を有機化合物層として有する有機発光素子においても観測されている。低分子の場合、上記の電子−ホール対はアニオン−カチオン対ともいえる。
さて、この状態においても、一重項状態と三重項状態とがあり得るが、電子とホールの束縛が緩い場合、一重項状態のエネルギーと三重項状態のエネルギーはほぼ等しい。また、外部磁場がかからない場合、三重項状態の三つの独立な状態(例えばmz=+1,0,−1)同士もエネルギーはほぼ等しく、縮退している。この関係を図11(a)に示す。この磁場なしの状態では、一重項状態と三つの三重項状態との間には核スピンの影響などによる混合がある。さて、この電子−ホール対状態から電荷移動して励起状態に移行するが、一重項の電子−ホール対状態から一重項の励起状態に移行する速度定数をks、三重項の電子−ホール対状態のそれぞれから三重項の励起状態に移行する速度定数をktとする。なお、三重項状態の三つの独立な状態においてそれぞれ同じ値ktをとる。仮にks<ktとすると、一重項状態と三つの三重項状態との間の混合が、実際に生成する励起状態のバランスを更に三重項励起状態が一重項励起状態より多く生成させるようにシフトさせる。ところが、外部磁場が印加された三重項の電子−ホール対状態が三つの状態にゼーマン分裂すると、一重項状態と三重項状態との間の混合は制限を受ける。このため、上記のシフトも少なくなり、外部磁場の無い場合に比べて一重項励起状態からの発光が増えるのが観測される。この磁場ありの関係を図11(b)に示す。
このような議論は、溶液中の化学反応におけるスピン状態の影響を調べるため、ESR装置を応用して外部磁場印加やマイクロ波照射の効果を調べる、いわゆるスピン化学の分野でのラジカル対効果の議論に類似している。ラジカル対効果は、溶液中でラジカル種同士が数10Å程度の距離に緩く束縛されている状態で観測されるといわれている。有機発光素子中のような固体中で、10Å程度の大きさのイオン同士が隣接、あるいは数分子を隔てて緩く束縛されている状態は、確かにラジカル対効果の議論の前提に類似していると思われる。
以上の議論からすれば、仮にks>=ktであれば、一重項状態と三つの三重項状態との間の混合が、実際に生成する励起状態のバランスを逆に一重項励起状態が増加するようにシフトさせる。ところが、外部磁場が印加された三重項の電子−ホール対状態が三つの状態にゼーマン分裂すると、一重項状態と三重項状態との間の混合は制限を受ける。このため、上記のシフトも少なくなり、外部磁場の無い場合に比べて一重項励起状態からの発光が減少するのが観測されることになる。低磁場領域で、外部磁場の無い場合に比べて外部磁場を印加した状態で、発光効率がむしろ下がる可能性があることが考えられる。
低磁場領域で、外部磁場の無い場合に比べて外部磁場を印加した状態で、発光効率が下がるならば、少なくとも三重項の電子−ホール対状態が何らかの形で一重項励起状態からの発光に寄与していることを示している。
低分子アモルファス固体においても、上記ksとktとが異なりうるのか、特にks>=ktとなりうるのかについて、次のように考えてみた。この考え方は一般的で、特に低分子、共役系高分子という限定はしていない。
いま、隣接イオン対状態から電子あるいはホールが移動して一方の分子が励起状態となる過程を、隣接する二分子それぞれの単一状態の和を0次近似とし、相互作用を摂動として考えてみる。アニオン、カチオンが隣接した状態と一方の分子が励起した状態の二分子系全体のポテンシャルエネルギー曲線を表したものが図3である。縦軸は二分子系全体のポテンシャルエネルギーである。横軸は二分子系全体の核配置の基準座標をイメージしている。当面、議論を簡単にするため、基準座標の設定に関してはアニオン−カチオン間、あるいは励起分子−基底状態分子間の分子間相互作用は無視し、各単一分子での基準座標を単に流用したものとする。一般に、アニオン、カチオンのイオン状態と中性状態とでは基準座標系が異なるし、また、基底状態と励起状態とでも基準座標系は異なる。ここでは、隣接イオン状態から励起状態への遷移に支配的に影響を与える共通の基準座標が存在すると仮定し、その基準座標について考察するものとする。
曲線は、各状態のポテンシャルエネルギー曲線を表している。各基準座標位置での各配置に対応するアニオン、カチオンそれぞれのポテンシャルエネルギーの和をとっている。アニオン−カチオン間の相互作用は、隣接するアニオン−カチオン間の中心距離に相当する電子−ホール間のクーロンエネルギーのみを考慮して補正し、電子軌道の詳細に依存する相互作用は無視している。励起分子、基底状態分子対に関しては、分子間相互作用を無視し、各基準座標位置での各配置に対応する励起分子、基底状態分子それぞれのポテンシャルエネルギーの和をとっている。
図3において、曲線T1は、隣接する二分子AとBのうち、A分子が励起状態でT1状態(三重項最低励起状態)であるときの、A分子のポテンシャルエネルギーと隣接する基底状態にあるB分子のポテンシャルエネルギーの和を表したものである。
曲線T2は、隣接する二分子AとBのうち、A分子が励起状態でT2状態(三重項第二励起状態)であるときの、A分子のポテンシャルエネルギーと隣接する基底状態にあるB分子のポテンシャルエネルギーの和を表したものである。
曲線S1は、隣接する二分子AとBのうち、A分子が励起状態でS1状態(一重項最低励起状態)であるときの、A分子のポテンシャルエネルギーと隣接する基底状態にあるB分子のポテンシャルエネルギーの和を表したものである。
曲線1,3(A-+)は、隣接する二分子AとBのうち、A分子がアニオン状態でB分子がカチオン状態であるときの、A分子のポテンシャルエネルギーとB分子のポテンシャルエネルギーの和を表したものである。
図3に沿って、イオン対状態から励起状態への遷移は、曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)にあった状態から、一重項の場合は曲線S1への遷移、三重項の場合は曲線T2への遷移と考えられる。この場合支配要因となるのは、電子状態関数の遷移と並んで、いかに核振動状態の遷移がスムーズに行われるかであり、いわゆるFrank−Condon因子に依存する。Frank−Condon因子は、イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線の交わる交点付近を通る振動準位の間で大きくなる。イオン対状態の最低振動状態からそのような交点付近を通る振動準位までのエネルギーが、イオン対状態から励起状態への遷移に対するエネルギー障壁となる。この様子をより詳しく考えるために図4および図5を援用して考える。図4は曲線1,3(A-+)と曲線S1との交点を考察しており、図5は曲線1,3(A-+)と曲線T2との交点を考察している。図3においては、イオン対状態の曲線1,3(A-+)とS1励起状態の曲線S1との交点XPS1(図4参照)は、曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)近傍に位置している。また、イオン対状態の曲線1,3(A-+)とT2励起状態の曲線T2との交点XPT2(図5参照)も、曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)近傍に位置している。この場合は、一重項イオン対状態から一重項励起状態への遷移と、三重項イオン対状態から三重項励起状態への遷移とは、エネルギー障壁が低く、スムーズに行われると予想される。
次に、図6に示された状態の場合を見てみよう。このケースは三重項第二励起状態のエネルギーがより高くなっている。また、三重項最低励起状態のエネルギーはむしろ低くなっている。この場合は、イオン対状態の曲線1,3(A-+)とT2励起状態との交点XPT2(図7参照)が、曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)から離れた位置に位置している。その結果、交点XPT2におけるポテンシャルエネルギーとイオン対状態の曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)におけるポテンシャルエネルギーとの差は大きく、つまり遷移に対するエネルギー障壁が大きくなっている。したがって、三重項イオン対状態から三重項第二励起状態への遷移は困難となる。三重項イオン対状態から三重項最低励起状態への遷移も、曲線1,3(A-+)と曲線T1との交点XPT1(不図示)が曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)から遙かに離れた位置に位置しているため、困難となっている。
交点を経由しない遷移もありうるが、その遷移速度定数は小さい。一方、曲線1,3(A-+)とS1励起状態の曲線S1との交点XPS1(図8参照)は、図3の場合と同様に曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)近傍に位置している。このため、一重項イオン対状態から一重項最低励起状態への遷移はスムーズである。
図6では、低分子アモルファス固体においても、一重項状態の隣接イオン対が一重項励起状態に遷移する速度定数(ks)が、三重項状態の隣接イオン対が三重項励起状態に遷移する速度定数(kt)より大きいks>=ktの状態が実現すると考えられる。
一般に、ポテンシャルエネルギー曲線を計算シミュレーションで算出するのは計算量があまりに多く困難である。計算を簡略化して図3の状態と考えられるか、図6の状態と考えられるかを推定する一方法を示す。
図6の状態の特徴は、T2励起状態の曲線T2がS1励起状態の曲線S1より高い位置にあるということである。特に、イオン対状態からの遷移を考えるので、イオン対状態の曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)近傍での関係が問題となる。つまり重要なのは、曲線1,3(A-+)の底部P(A-B+)の基準座標Q(A-B+)における曲線T2のエネルギーが曲線S1のエネルギーより大きいということである。言い換えれば、分子Aのアニオン状態最適化構造における中性状態のT2状態エネルギーと分子Bのカチオン状態最適化構造における基底状態エネルギーの和が、分子Aのアニオン状態最適化構造における中性状態のS1状態エネルギーと分子Bのカチオン状態最適化構造における基底状態エネルギーの和よりも大きいということである。分子Bの状態は曲線T2と曲線S1とで同じなので、これは分子Aのアニオン状態最適化構造における中性状態のT2状態エネルギーが、分子Aのアニオン状態最適化構造における中性状態のS1状態エネルギーよりも大きいということである。
この目安を満たせば、図6の状態と同じように、一重項状態の隣接イオン対が一重項励起状態に遷移する速度定数(ks)が、三重項状態の隣接イオン対が三重項励起状態に遷移する速度定数(kt)より大きいks>=ktの状態の実現可能性が高い。
これらの図は、前述のとおり、分子間相互作用を無視して描かれているが、分子間相互作用を考慮すればそれぞれの曲線が変形したり移動したりする。また、隣接イオン対状態においては、一重項状態と三重項状態とではエネルギー的に異なってくるため、曲線1,3(A-+)は二本の曲線に分かれる。通常は、一重項状態の隣接イオン対状態のエネルギーが三重項状態の隣接イオン対状態のエネルギーよりもやや高い。また基準座標は、A分子、B分子の構造だけでなく、分子間距離や配向にも依存する。分子間相互作用を正しく考慮に入れれば、基本的には同じ考え方を用いてより精度の高い考察をすることが可能である。分子間相互作用を考慮に入れない考察であっても、望ましい分子を設計するためのひとつの指針を与えてくれる。
この議論は、隣接イオン状態においてA分子がアニオン、B分子がカチオンという状態1,3(A-+)から、A分子が励起する励起状態(A*B)に遷移するという前提であった。しかし、隣接イオン状態においてA分子がカチオン、B分子がアニオンという状態(A+B−)から、A分子が励起する励起状態(A*B)に遷移するという場合も考えられる。その場合において、上述の望ましいエネルギーの関係の議論は対応するアニオン、カチオンを入れ替えて考えればよい。
本発明者らは、以上述べたような考察を背景として、その分子を発光層に用いた有機発光素子が、外部磁場効果において、外部磁場の無い場合に比べて外部磁場を印加した状態で発光効率が下がる分子、あるいは分子の組み合わせを探索してきた。その結果、具体的にそのような外部磁場効果を示す有機発光素子を実現する分子、あるいは分子の組み合わせを見出し、そのような有機発光素子を実現した。
また、この状態の有機発光素子が高効率発光を行うことを見出した。本実施形態において開示する有機発光素子の発光の外部量子効率は4%であり、従来の定説であった蛍光発光有機発光素子の外部量子効率5%の限界を突破するには至っていない。これは、有機発光素子の発光効率には、一重項励起状態と三重項励起状態の比率以外にも素子の漏れ電流や蛍光発光自体の量子収率等多くの他の要因が関係するためであり、これらの要因が十分高効率化に最適化されていなかったと考えられる。しかし、少なくとも外部磁場の無い場合に比べて外部磁場を印加した状態で、発光効率が下がるということは発光効率に対して有利な条件であるということは示唆された。
また、本実施形態の有機発光素子は、全層が低分子で形成されている。このことは、低分子を含む発光層を有している有機発光素子であっても、一重項励起状態と三重項励起状態が1:3の割合ではなく、より一重項励起状態を多く生成する可能性を示していることになる。
低分子を用いることにより、共役系高分子で問題であった精製の難しさ、高分子鎖長の不均一、膜の分子形状の不均一に伴う伝導、発光特性の不均一、製膜条件による伝導、発光特性の変化の大きさ等の問題が改善される。精製に当たっては、ケイ酸やアルミナを吸着剤として用いる方法で簡易に高純度の生成物が得られる利点がある。また、場合によっては昇華精製法を併用することにより、更に高純度の生成物を得ることができる。分子量のばらつきがないため、高分子の場合に問題となった伝導や発光特性の不均一の問題が軽減される。また、有機発光素子の作製に際し、溶液の印刷法やインクジェット法などのウエットプロセスの他に、技術的に確立された真空蒸着法を用いることができ、高い発光効率と信頼性を得ることができる。
前述のメカニズムを確実に生ぜしめるため、発光層をホスト材料中にゲスト材料が分子分散された混合層タイプの発光層としたとき、良好な結果を得られ易いと考えられる。しかし、本発明の技術思想としては、必ずしもホスト材料中にゲスト材料が分子分散された混合層タイプの発光層には限らない。また、電子とホールがゲスト分子上で再結合してゲスト分子を励起させる直接励起型となるように電子輸送層や電子注入層、或いはホール輸送層やホール注入層の材料と膜厚等諸条件を適切に選択することが望ましい。ここで、直接励起型とは、電子とホールがホスト分子上で再結合してホスト分子を励起させ、その励起エネルギーがフェルスター型のエネルギー移動によりゲスト分子に移動しゲスト分子が励起する間接励起型とは異なるという意味である。発光層を形成する材料は全てが分子量4000以下の分子であれば純度や分子量分布等の点で利点が得られ易いが、必ずしもそれに限らない。例えば、ゲストは分子量4000以下の分子で、ホストは分子量4000以上の高分子であっても、本発明の技術思想に合致するものはあり得る。この分子を含む発光層は、真空蒸着法により積層することが可能であり、確立された素子作製プロセスを使用することができるので望ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1では、発光層中の発光性ゲスト分子としてベンゾチアジアゾール構造をもつ下記化学式1の化合物と、ホスト分子としてピレン環構造をもつ下記化学式2の化合物とについて、コンピュータシミュレーションをおこなった。
Figure 0004847151
用いたソフトウェアは現在広く用いられている分子軌道計算ソフトウェアであるGaussian03である。ゲスト分子に関して、密度汎関数法により、アニオン状態最適化構造における中性分子のS1、T1、T2の各励起状態の励起エネルギーを計算した。アニオン状態構造最適化計算は、DFT、B3LYPファンクショナル、基底系6−31G*で行った。中性分子の励起状態計算は、TD、B2LYPファンクショナル、基底系6−31G*で行った。
ゲスト分子の基底状態のHOMOとLUMOのエネルギーレベルは以下のように計算された。
HOMO −5.3402eV
LUMO −2.3645eV
一方、ホスト分子の基底状態のHOMOとLUMOのエネルギーレベルは以下のように計算された。
HOMO −5.1215eV
LUMO −1.6623eV
ゲスト分子のHOMOがホスト分子のLUMOより著しく低い。したがって、ホスト分子中にゲスト分子を分散した混合発光層においては、まず電子がホスト分子のLUMOを伝って伝導される間にゲスト分子のLUMOにトラップされてゲスト分子がアニオン化する。そのことによってゲスト分子のHOMOが上昇し、隣接するホスト分子のHOMOからホールが注入されるものと思われる(図12参照)。
したがって、この場合は、ゲスト分子をAとしホスト分子をBとすると、1,3(A-+)から(A*B)への遷移が主であり、1,3(A+-)から(A*B)への遷移は少ないと考えられる。1,3(A-+)から(A*B)への遷移において、ks>=ktが成り立ちうるポテンシャルエネルギー曲線になっているかどうかを考察すればよい。
アニオン状態最適化構造における、電荷的中性状態の各励起状態の励起エネルギーは以下のとおり計算された。
S1 2.1378eV
T1 1.2570eV
T2 2.4701eV
各励起状態のエネルギーはこれらに基底状態の全エネルギーを足し合わせたものと考えられるが、各励起状態間のエネルギーの大小関係のみを論ずる場合は励起エネルギーのみわかっていればよい。
このように、アニオン状態最適化構造における中性状態のT2状態エネルギーが、アニオン状態最適化構造における中性状態のS1状態エネルギーよりも大きいという目安を満たす。そのため、この化学式1の分子をゲストとし化学式2の分子をホストとする発光層内の励起にかかわるポテンシャルエネルギー曲線の様子は、図6のようになっている可能性が高い。
次に実際の有機化合物の合成と有機発光素子の作製、評価について述べる。
化学式1の分子は以下の手順で合成される。
中間体の合成(4,7−dibromo−2,1,3−benzothiadiazole)
2,1,3−ベンゾチアジアゾール6.8g(50mmol)を47%臭化水素水溶液15mlに分散させ、混合溶液を還流させながら、臭素24g(150mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、47%臭化水素水溶液10mlを追加投入し、4時間還流した。反応終了後、5%炭酸ナトリウム溶液で中和し、クロロホルムで抽出した後、カラムクロマトグラム(クロロホルム)で精製し、更にクロロホルム/ヘプタン系溶剤で再結晶して黄色固体9g(収率61%)を得た。
化学式1の有機化合物の合成(4,7−difluoreno−2,1,3−benzothiadiazole)
4,7−dibromo−2,1,3−benzothiadiazole2g(6.8mmol)と2−(4,4,5,5−tetramethyl−1,3,2−dioxaborolan−2−yl)fluorene5.5g(17mmol)をトルエン/エタノール(4/1)100ml中に溶解した。この溶液に炭酸ナトリウム水溶液19.5mlとテトラキス(トリフェニルホスフイン)パラジウム(0)1g(0.9mmol)加え、2時間還流した。反応終了後、溶剤を除去し、カラムクロマトグラム(クロロホルム)で精製し、更にクロロホルム/エタノール系溶剤で再結晶して黄色固体1.6g(収率45%)を得た。
化学式2の分子は以下の手順で合成される。
化学式2の有機化合物の合成(2,7−dipyrenyl−9,9−dimethylfluorene)
500ml三ツ口フラスコに、2,7−ジブロモ−9,9−ジメチルフルオレン[1]2.0g(5.68mmol)、ピレン−1−ボロン酸[2]4.2g(17.0mmol)、トルエン120mlおよびエタノール60mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌した。そして、炭酸ナトリウム24g/水120mlの水溶液を滴下し、次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.33g(0.28mmol)を添加した。室温で30分攪拌した後、77度に昇温し5時間攪拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘキサン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、白色結晶3.0g(収率89%)を得た。
このようにして得られた化学式1の有機化合物と化学式2の有機化合物とをさらに昇華精製を行った。
化学式1の有機化合物と化学式2の有機化合物とを発光層として有する有機発光素子を以下のようにして作成した。
ガラス基板上に酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、IPAで煮沸洗浄、乾燥をした。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
まず、下記化学式3の材料を0.1wt%のクロロフォルム溶液とする。ITO(インジウム錫酸化物)付きガラス基板上にクロロフォルム溶液を滴下し、500rpmで10sec、引き続き1000rpmで40secの条件でスピンコートを行う。これが素子の正孔注入層兼正孔輸送層となる。
Figure 0004847151
スピンコートされたガラス基板上に、真空蒸着法で順次、発光層、電子輸送層、電子注入層および陰極を形成する。
真空度5×10-5Paのバックグランド圧力下で、化学式1の有機化合物を0.1Å/sec、化学式2の有機化合物を1Å/secの製膜速度で共蒸着し、化学式1の有機化合物をゲスト、化学式2の有機化合物をホストとする発光層を400Å積層した。
次に、下記化学式4で示される電子輸送材料を150Å積層する。
Figure 0004847151
その上にLiFを電子注入層として5Å積層し、さらにその上にアルミニウムを陰極として1000Å積層した。このようにして、図13に示す構造の有機発光素子を作成した。
この様にして得られた有機発光素子に、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、3.6Vの直流電圧を印加すると0.5mA/cm2の電流密度で電流が流れ、輝度70cd/m2の緑色発光が観測された。これは外部量子効率に換算すると約4%に相当する。
この有機発光素子を電磁石の間のキヤビティにおき、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、3.6Vの直流電圧を印加すると0.5mA/cm2の電流密度で電流が流れる。そのまま、磁場を徐々に印加して行き、発光強度を通電電流密度で規格化した値(電流密度発光効率)の変化を調べると、図14のようになった。この測定時間中磁場に依存しない経時変化が伴う場合があるが、補正を行った。
このグラフで最も特徴的なことは、通常の有機蛍光材料を用いた素子とは異なり、0ガウスから1000ガウスにかけて、電流密度発光効率がほぼ変化していないかむしろ減少していることである。外部磁場0ガウスのときを1としたときの相対電流密度発光効率は外部磁場1000ガウスのとき0.996であり、外部磁場が0ガウスの場合に比べて外部磁場が1000ガウスの場合が明らかに低い。さらに、通常の有機螢光材料を用いた素子においては、0ガウスから100ガウスにかけて鋭い上昇が見られるものが、本実施例の有機発光素子においては上昇がなく、ほぼ横ばいか下降の傾向を示していることである。
このことは、発光層中の電子−ホール対状態(アニオン−カチオン対状態)から発光分子の励起状態に遷移する過程において、一重項状態の隣接イオン対が一重項励起状態に遷移する速度定数(ks)が、三重項状態の隣接イオン状態が三重項励起状態に遷移する速度定数(kt)より大きいks>=ktとなる状態が実現していることを示唆している。少なくとも、三重項の電子―ホール対状態が何らかの形で一重項励起状態からの発光に寄与していることを示している。
<比較例1>
ここで比較のため、比較例1として、低分子有機発光素子の発光層材料としてよく知られた下記化学式5のアルミニウムキノリノール錯体を発光層に用いた素子を作成し、その外部磁場効果を調べた。
Figure 0004847151
この有機発光素子を電磁石の間のキヤビティにおき、ITO電極を正極、Al電極を負極にして直流電圧を印加し、0.5mA/cm2の電流密度で電流が流れる状態にする。このとき、輝度10cd/m2の緑色発光が観測された。これは外部量子効率に換算すると約0.5%に相当する。そのまま、磁場を徐々に印加して行き、発光強度の変化を調べると図15のようになった。図15では、岩崎らの発表の素子と同様に、0ガウスから1000ガウスにかけての低磁場領域で、電流密度発光効率が磁場の印加とともに鋭く上昇している。
<比較例2>
さらに、比較例2として、発光層を上記化学式1の化合物のみで構成される単一層とした素子を作成し、その外部磁場効果を調べた。
この有機発光素子を電磁石の間のキヤビティにおき、ITO電極を正極、Al電極を負極にして直流電圧を印加し、0.5mA/cm2の電流密度で電流が流れる状態にする。このとき、輝度7cd/m2の緑色発光が観測された。これは外部量子効率に換算すると約0.4%に相当する。そのまま磁場を徐々に印加して行き、発光強度の変化を調べると図16のようになった。このグラフでも、0ガウスから1000ガウスにかけての低磁場領域において、電流密度発光効率が磁場の印加とともに上昇している。
<比較例3>
そして、比較例3として、発光層を上記化学式2の化合物のみで構成される単一層とした素子を作成し、その外部磁場効果を調べた。
この有機発光素子を電磁石の間のキヤビティにおき、ITO電極を正極、Al電極を負極にして直流電圧を印加し、0.5mA/cm2の電流密度で電流が流れる状態にする。このとき、輝度15cd/m2の青色発光が観測された。これは外部量子効率に換算すると約1.5%に相当する。そのまま、磁場を徐々に印加して行き、発光強度の変化を調べると図17のようになった。図17でも、0ガウスから1000ガウスにかけての低磁場領域において、電流密度発光効率が磁場の印加とともに上昇している。
<比較例4>
加えて、比較例4として、発光層を化学式1の有機化合物と化学式2の有機化合物の混合層ではあるが、実施例1とは異なる混合割合の混合層とした素子を作成し、その外部磁場効果を調べた。具体的には、発光層の成膜において、化学式1の有機化合物を0.05Å/sec、化学式2の有機物を1Å/secの製膜速度で共蒸着した。
この有機発光素子を電磁石の間のキヤビティにおき、ITO電極を正極、Al電極を負極にして直流電圧を印加し、0.5mA/cm2の電流密度で電流が流れる状態にする。このとき、輝度50cd/m2の緑色発光が観測された。これは外部量子効率に換算すると約2.9%に相当する。そのまま磁場を徐々に印加して行き、発光強度の変化を調べると図18のようになった。図18でも、0ガウスから1000ガウスにかけての低磁場領域において、電流密度発光効率が磁場の印加とともに上昇している。図18に示すグラフは、図17に示した発光層を化学式2の有機化合物のみで構成される単一層とした比較例3と類似している。
このことは、この比較例4においては、発光層中の電子−ホール対状態(アニオン−カチオン対状態)から発光分子の励起状態に遷移する過程において、実施例1のときとは異なる過程が支配的であることを示唆している。この過程は、発光層に注入された電子とホールが、ホストである化学式2の分子のアニオンとカチオンとして出会い、そのままホスト分子上で励起状態を形成する。そこから、いわゆるフェルスター遷移によって化学式1の分子上にエネルギー移動し発光するという経路であると考えられる(図19参照)。電子とホールの再結合から励起が化学式2の分子上で行われるため、外部磁場に対する電流密度発光効率の挙動も比較例3(図17参照)と同様になると考えられる。発光の外部量子効率が実施例1より低いのは、ks>=ktという条件が実現されていないためであると考えられる。また、発光の外部量子効率が第三の比較例よりも高いのは、化学式1の化合物の蛍光量子収率が化学式2の化合物の蛍光量子収率より高いためと考えられる。
このように、低磁場領域で、電流密度発光効率が磁場の印加によってほぼ変化しないかむしろ減少する傾向を示すことは、本発明の有機発光素子に特徴的な現象であることがわかる。
<実施例1>
さて再び、本実施例の有機発光素子に戻る。
図13の素子を再び電磁石の間のキヤビティにおき、駆動電流を少し上げ、1.5mA/cm2の電流密度で電流が流す。そのまま磁場を徐々に印加して行き、発光強度の変化を調べると図20のようになった。
図20では、0ガウスから500ガウスにかけて、電流密度発光効率が増加し、500ガウスから1000ガウスにかけては減少している。しかし、外部磁場0ガウスのときを1としたときの相対電流密度発光効率は外部磁場1000ガウスのとき1.000であり、電流密度0.5mA/cm2の場合より明らかに大きい。また、0ガウスから100ガウスにかけて上昇が見られる。
このことは、この電流密度においては、発光層中の電子−ホール対状態(アニオン−カチオン対状態)から発光分子の励起状態に遷移する過程において、0.5mA/cm2の電流密度のときとは異なる過程が混合してきていることを示唆している。この過程は図19の経路であると考えられる。即ち、比較例4で述べた電子とホールがホストである化学式2の分子のアニオンとカチオンとして出会い、そのままホスト分子上で励起状態を形成する。そして、そこからフェルスター遷移によって式の分子上にエネルギー移動し発光するという経路である。図20の挙動は、実施例1に示した図14の挙動と比較例3に示した図17の挙動が混合したものと解釈することができる。このため、0.5mA/cm2の電流密度の場合よりも、1000ガウスにおける電流密度発光効率が増加していると考えられる。
さらに駆動電流を上げ、30mA/cm2の電流密度で電流が流す。そのまま、磁場を徐々に印加して行き、発光強度の変化を調べると図21のようになった。
図21の特徴は、外部磁場が大きい領域で、電流密度発光効率が外部磁場強度とともに減少する傾向が著しい点にある。この外部磁場効果の高磁場側の領域で磁場の増加と共に減少する特性は図11(a)、(b)を用いて説明した。即ち、緩く束縛された電子とホールの対の一重項状態と三重項状態との間の混合が外部磁場の影響を受けて制限されるために起こる低磁場側の変化とは異なる現象である。岩崎らによれば、高磁場側の領域で磁場の増加と共に減少するメカニズムとして、三重項−三重項消滅による一重項励起状態生成の機構が外部磁場の影響を受けて減少するメカニズムが考えられるという(上記非特許文献4参照)。三重項−三重項消滅は電流密度の増加とともに急激に増加すると考えられるので、特に駆動電流密度の大きい図21で、高磁場側の領域で磁場の増加と共に減少する特性が顕著に出ていることと付合する。図21では、その影響を受け、外部磁場1000ガウスにおいても、相対電流密度発光効率が再び1以下になっている。しかし、この場合はks>=ktを示すものではないので、区別されなければならない。三重項−三重項消滅の影響が十分小さい低電流密度での駆動において、外部磁場が0ガウスの場合に比べて外部磁場が1000ガウスの場合の電流密度発光効率が小さいことが、ks>=ktを示唆するものであると考えられる。上記に示した例では、電流密度0.5mA/cm2以下の電流密度が、三重項−三重項消滅の影響が十分小さい低電流密度と考えられる。
電子−ホール間距離とエネルギーの関係を示す図である。 隣接イオン対状態から励起状態への遷移を説明する図である。 隣接イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線を示す図である。 隣接イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線を示す図である。 隣接イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線を示す図である。 隣接イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線を示す図である。 隣接イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線を示す図である。 隣接イオン対状態と励起状態のポテンシャルエネルギー曲線を示す図である。 有機発光素子の外部磁場効果を測定する測定系の図である。 有機発光素子の外部磁場効果の例を示す図である。 (a)は隣接イオン状態において一重項状態と三重項状態との混合を示す図、(b)は隣接イオン状態において外部磁場の影響で一重項状態と三重項状態との混合が抑制されることを示す図である。 実施例1の有機発光素子における電荷注入から励起にいたる過程を示す図である。 実施例1の有機発光素子を示す図である。 実施例1の有機発光素子における低電流密度駆動時の外部磁場効果を示す図である。 比較例1の有機発光素子における低電流密度駆動時の外部磁場効果を示す図である。 比較例2の有機発光素子における低電流密度駆動時の外部磁場効果を示す図である。 比較例3の有機発光素子における低電流密度駆動時の外部磁場効果を示す図である。 比較例4の有機発光素子における低電流密度駆動時の外部磁場効果を示す図である。 比較例4の有機発光素子における電荷注入から励起にいたる過程を示す図である。 実施例1の有機発光素子における駆動電流密度を増やした場合の外部磁場効果を示す図である。 実施例1の有機発光素子における駆動電流密度をさらに増やした場合の外部磁場効果を示す図である。

Claims (2)

  1. 一対の電極間に少なくとも発光層を含む有機化合物層を備えた有機発光素子において、
    前記発光層はホストとゲストからなり、前記ゲストは下記構造式1で示され前記ホストは下記構造式2で示され、一重項の電子−ホール対状態から一重項の励起状態に移行する速度定数ksが、三重項の電子−ホール対状態のそれぞれから三重項の励起状態に移行する速度定数kt以上であり、
    前記ゲストが、イオン状態最適化構造をとるときの中性状態における三重項第二励起状態のエネルギーが、イオン状態最適化構造をとるときの中性状態における一重項最低励起状態のエネルギーよりも大きいことを特徴とする有機発光素子。
    Figure 0004847151
  2. 前記発光層が、真空蒸着法により積層されていることを特徴とする請求項に記載の有機発光素子。
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