JP4827110B2 - 高耐電圧性アルミナ基焼結体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、高い絶縁性、耐電圧性を有するアルミナ焼結体に関するものである。特には、スパークプラグ等に用いる絶縁碍子のように、室温以下から700℃付近の高温までの耐電圧性を要求されるアルミナ基焼結体として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
アルミナセラミックスは、耐熱性、機械的特性等の諸特性に優れ、安価であるため、様々な用途に用いられている。例えば、1700℃の高温下での使用にも耐え得る高アルミナ耐火物が特開昭49−85111号公報に開示されている。また、ICパッケージ等の配線基板用途に優れたアルミナ質焼結体が特開平5−279114号公報に開示されている。また、高周波用途に適したアルミナ質焼結体が特開平8−235933号公報に開示されている。また、摺動部材用途に適したアルミナ質焼結体が特開平9−249448号公報に開示されている。
【0003】
スパークプラグ等の絶縁碍子に於いては、室温以下から700℃付近の幅広い温度領域での高い絶縁性が要求される。従来より、スパークプラグ等の絶縁体材料として、SiO2−CaO−MgOからなる三成分系を焼結助剤として用いたアルミナ基焼結体が用いられてきた。しかし、この三成分系焼結助剤が焼成後にアルミナの粒界にガラスとして存在するため、高電圧印加時に粒界相を通じて絶縁破壊を起こしやすくなる。一方、粒界のガラス相を減らす目的で三成分系焼結助剤の添加量を低減すると、アルミナ粒界に多数の気孔が発生し、耐電圧特性を低下させてしまう。
【0004】
アルミナ基焼結体の緻密化を目的として、種々の方法が検討されている。例えば、特公昭63−1262号公報においては、高耐電圧性を向上させる目的で、従来から用いられているSiO2−CaO−MgO三成分系焼結助剤の配合比を限定する方法が開示されている。特開昭62−100474号公報では造粒子の粒径を制御することにより、また、特開昭62−143866号公報では、粒径の異なる2種類のアルミナ原料を使用することにより、焼結体中の残留気孔を減少させ耐電圧性を向上させる術が開示されている。
【0005】
また、アルミナ基焼結体の粒界ガラス相の耐熱性向上を目的として、種々の方法が検討されている。例えば、特公平7−17436号公報では、Y2O3、La2O3及びZrO2といった焼結助剤を用いることにより、粒界ガラスの融点を向上させている。特許第2564842号公報では、有機金属化合物を原料として用いて焼結助剤を均一に分散し、粒界にY4Al2O9結晶相を生成させることにより粒界の耐熱性を向上させている。特許第2035965号公報では、Y2O3、La2O3といった希土類やZrO2等を含む焼結助剤を用い、また、焼結体の空孔率を6%以下にして高耐電圧化を達成している。
【0006】
しかしながら、近年のエンジンの小型化やバルブの大型化に伴い、スパークプラグは小径化され、それに伴い絶縁碍子の肉厚を薄くする必要がでできた。この為、上記のような従来技術を用いたアルミナ絶縁材料では、室温以下から700℃付近の幅広い温度領域で使用した場合に十分な耐電圧性は得られなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術で得られるアルミナ基焼結体では、アルミナ絶縁層の肉厚を薄くし、更に室温以下から700℃付近の幅広い温度領域で使用した場合に耐電圧性が低くなるという問題がある。本発明は、アルミナ絶縁層の肉厚を薄くしても室温以下から700℃付近の幅広い温度領域で十分な耐電圧性が得られるアルミナ基焼結体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、前記E.成分の少なくとも1種を含み、かつ、Ba成分を含有する、又は、Mg成分を含有し、Ca成分又はSr成分のいずれかを含有するアルミナ基焼結体中に、2種以上の特定の成分を有する粒子が存在するとともに、その2種以上の特定の成分の酸化物換算におけるモル比率を所定の範囲に規定し、かつ、該アルミナ基焼結体の相対密度を規定することを要旨とする。
【0009】
ここにいう「粒子」とは、アルミナ基焼結体の切断面に観察されるアルミナ粒子以外の粒子をいう。切断面を鏡面研磨してSEM観察すれば容易にその存在が確認できる。必要に応じてTEM観察にて確認しても良い。係る粒子をEDS分析等を行うことで、Al成分とE.成分が存在することが確認できる。
【0010】
係る粒子は、必ずしもアルミナ基焼結体中に均一に万遍なく存在することを要しない。要求される特性に応じて、特に耐電圧性を要求される部位に集中的に存在させてもよい。この粒子の形状は特に限定されるものではない。
【0011】
「2種以上の特定の成分」としては、Ca成分、Sr成分、Ba成分(以上、E.成分)及びAl成分が挙げられる。上記粒子に含まれる特定の成分の含有量の酸化物換算したモル比(Al2O3/E.O)は、4.5〜6.7の範囲にあることが必要である。具体例としては、BaAl9.2O14.8(E.=Ba、モル比=4.6)、BaAl13.2O20.8(E.=Ba、モル比=6.6)等が挙げられるが、ヘキサアルミネート及びヘキサアルミネート類似構造以外の化合物でもよい。
【0012】
上記モル比(Al2O3/E.O)が4.5未満になると、耐電圧性を向上できない。また、上記モル比(Al2O3/E.O)が6.7を越えると、耐電圧性が低下してしまう。これらの理由の詳細は不明であるが、係る特定の成分からなる化合物の構造に欠陥が生じ易くなるのに伴って耐電圧性が低下するものと推察される。
【0013】
アルミナ基焼結体中に係る特定の成分及びモル比からなる化合物を含む粒子が存在することで、該アルミナ基焼結体の室温以下から700℃の高温までの幅広い温度範囲における耐電圧性を向上できる。
【0014】
係るアルミナ基焼結体の相対密度は90%以上であることが必要である。相対密度を90%以上とした理由は、これより相対密度が低いと700℃付近の高温下での耐電圧性が低下するからである。尚、ここにいう「相対密度」とは、アルキメデス法によって測定された焼結体密度の理論密度に対する割合を示すものである。相対密度の数値が大きい程、焼結体がより緻密となり耐電圧性が高くなる。
【0015】
ここにいう「理論密度」とは、焼結体に含まれる各元素の含有量を酸化物に換算し、各酸化物の含有量から混合則によって計算される密度である。これらの構成要件を具備するアルミナ基焼結体を用いれば、室温以下から700℃付近の高温までの幅広い温度範囲において十分な耐電圧性を得ることが可能となる。
また、請求項1の発明は、アルミナ基焼結体に含まれるSi成分とE.成分の総計に対するSi成分のモル比を所定の範囲に規定したものである。
この二成分のモル比を本発明に規定する範囲に調整しておけば、上記の特定の成分を有する粒子を良好に生成させることができるため、アルミナ基焼結体の700℃付近の高温下における耐電圧性を効果的に向上できる。この二成分のモル比が規定の範囲外では、上記の特定の成分を有する粒子がほとんど生成しないため、アルミナ基焼結体の700℃付近の高温下における耐電圧性を向上できない。
本発明の特徴は、上記二成分のモル比を所定の範囲にすれば、所望する上記の特定の成分を有する粒子を良好に生成させることにあるため、ここではSi成分とE.成分の含有量自体は特には限定されない。
例を挙げるならば、室温以下から700℃付近の高温下の広い温度範囲における耐電圧性を考慮して、E.成分(E.O換算)の含有量は0.2〜10重量部の範囲が好ましい。Si成分の含有量はこのE.成分の含有量に対応して定まる。
【0016】
請求項2の発明は、上記粒子にE.Al12O19相が含まれることを要旨とし、請求項1に記載の発明の好ましい構成を例示したものである。XRDスペクトルでいうと、JCPDSカード番号で38−0470、26−0976、26−0135に類似のチャートが得られることでも確認できる。ここで、38−0470はCaAl12O19相、26−0976はSrAl12O19相、26−0135はBaAl12O19相をそれぞれ示す。
【0017】
係る結晶相が存在することでアルミナ基焼結体の耐電圧性が向上する理由の詳細は不明であるが、これらの結晶相はいわゆるヘキサアルミネートの結晶構造のうち理想的な結晶構造であるため、他の欠陥構造を有するヘキサアルミネートと比較してアルミナ基焼結体の耐電圧性を高める効果が得られるものと推察される。これらの特定の結晶相以外に他の結晶相が含まれていても同等の効果が得られる。
【0022】
請求項3の発明は、E.Al2Si2O8相及び/又はMgAl2O4相を含むアルミナ基焼結体を要旨とし、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発明の好ましい構成を例示したものである。
【0023】
E.Al2Si2O8相が生成することで、より効果的にアルミナ基焼結体の耐電圧性を向上することができる。
【0024】
E.Al2Si2O8相の具体例としては、E.=Ba(JCPDSカード番号:26−0137)が挙げられる。E.Al2Si2O8相には、高温相と低温相の2種類が存在するが、本発明では、そのどちらが存在しても差し支えない。
【0025】
MgAl2O4相が生成することで、より効果的にアルミナ基焼結体の耐電圧性を向上することができる。
【0026】
アルミナ基焼結体に含まれるMg成分のMgO換算における含有量としては、耐電圧性を考慮して5重量部以下が好ましい。MgAl2O4相が生成するために消費されなかった余剰のMg成分がアルミナ基焼結体の耐電圧性を低下させるのを防ぐためである。好ましい含有量は3重量部以下、より好ましくは1重量部以下である。
【0027】
以上の本発明のアルミナ基焼結体のAl成分の含有量としては、Al2O3換算にて91〜99重量部の範囲が好ましい。91重量部未満では、上記粒子の生成に消費されなかった余剰の添加成分が増加して、耐電圧性を低下させるからである。また、99重量部を越える範囲では、アルミナ基焼結体の緻密化が困難となり、1650℃以上の高い焼成温度が必要となるからである。
【0028】
【実施例】
平均粒径0.4μmのアルミナ原料粉末、焼結助剤として平均粒径0.6μmのSiO2粉末、平均粒径0.8μmのCaCO3粉末、平均粒径0.3μmのMgO粉末及び平均粒径1.0μmのBaCO3粉末を、表1に示す量比となるように秤量し配合した粉末を製造する。
【0029】
これらの配合粉末をそれぞれボールミルにて、20mmφのアルミナボールを使用しエタノール中16時間混合した後、湯煎にて乾燥し混合粉末を得る。これらの混合粉末をそれぞれ150MPaの静水圧プレスで50×50×20mmの成形体に成形し、次に大気雰囲気下において表1に示す焼成温度(1600℃から1675℃)で2時間保持して焼成する。得られた焼結体の相対密度の結果を表2に示す。
【0030】
得られた焼結体について蛍光X線分析による酸化物換算の組成分析を行う。結果を表2に示す。また、SEMにより観察したアルミナ粒界の粒子に対してEDS分析を行い、焼結体中にAl成分とE.成分を含む粒子の有無を確認する。結果を表3に示す。SEM観察は、焼結体の破断面を鏡面研磨加工し、日本電子株式会社製JSM−840を用いて観察を行う。
【0031】
次いで、焼結体の粉末X線回折によって、粒子中にAl成分とE.成分を酸化物換算のモル比で4.5〜6.7の範囲で含む化合物が存在するか否かを確認する。結果を表3に示す。例えば、粉末X線回折の結果、E.Al12O19相の回折ピークが確認できれば、粒子中にAl成分とE.成分を酸化物換算のモル比で6の化合物(E.Al12O19=6(Al2O3)・(E.O))を含むと判断する。粒子が十分な大きさを有する場合は、その粒子に対してEPMA分析を行い、各含有成分の定量をして、酸化物換算したモル比を算出する。結果を表2及び表3に示す。
【0032】
また、上記の粉末X線回折においては、E.Al2Si2O8相及びMgAl2O4相の有無の確認も行う。結果を表3に示す。本実施例の粉末X線回折は、焼結体をアルミナ乳鉢にて300メッシュのふるいを通過する粒度まで粉砕した後、リガク社製X線発生装置RU−200T及びモノクロメータ付き広角ゴニオメータを用いて測定する。測定条件は管電流100mA、管電圧40kV、ステップ0.01°、スキャンスピード2°/分の条件とする。
【0033】
700℃における耐電圧値は、アルミナ基焼結体を16mm×16mm×0.65mmに加工した試験片1を用いて、図1に示す構成の装置により測定する。具体的な方法は以下のようである。
【0034】
まず、試験片1をアルミナ製碍筒2aとアルミナ製碍筒2bとではさんだ状態で、SiO2系の封着ガラス3を用いて1400℃に加熱溶融し、ガラス接合体7を作製する。加熱用ヒータ5を有する加熱用ボックス8中にガラス接合体7をセットした後、高電圧発生装置6に接続された電極4aと接地された電極4bとで試験片1を挟む。その後、加熱用ヒータ5で700℃まで加熱した状態で初期の絶縁抵抗値と、高電圧を印加して絶縁破壊が発生したときの値(耐電圧値)を計測する。結果を表3に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
結果より、本発明の実施例である試料番号1乃至試料番号10では、所定の粒子が生成することで、700℃の高温下においても50kV/mm以上の優れた耐電圧特性が得られることがわかる。
【0039】
尚、一部調合時には添加されていない成分が組成分析時に検出されているが、これは各原料に不純物として含まれていた成分が検出されたものと推察される。
【0040】
一方、比較例である試料番号11及び試料番号12では、所定の粒子が生成していないため、耐電圧値が50kV/mmを下回ることがわかる。試料番号11は、MgAl2O4相のみが生成している比較例であるが、耐電圧値が35kV/mmと低い。すなわち、MgAl2O4相のみでは耐電圧値を上げる効果は得られないことがわかる。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、室温以下から700℃の高温下までの広い温度領域において、高い絶縁性、耐電圧性を有するアルミナ基焼結体を提供することができる。特には、スパークプラグ等のように室温以下から700℃の高温下までの広い温度領域において使用される絶縁碍子に用いるアルミナ基焼結体として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の耐電圧性評価方法の模式図である。
【符号の説明】
1 アルミナ基焼結体からなる試験片
2a アルミナ製碍筒
2b アルミナ製碍筒
3 封着ガラス
4a 電極
4b 電極
5 加熱用ヒータ
6 高電圧発生装置
7 ガラス接合体
8 加熱用ボックス
Claims (3)
- Ca(カルシウム)成分、Sr(ストロンチウム)成分、Ba(バリウム)成分から選ばれる少なくとも1種(以下、E.成分と表す)を含み、
かつ、Ba成分を含有する、
又は、Mg(マグネシウム)成分を含有し、Ca成分又はSr成分のいずれかを含有するアルミナ基焼結体であって、
該アルミナ基焼結体の少なくとも一部に、前記E.成分とAl(アルミニウム)成分とを含む粒子が存在し、該粒子には、酸化物換算したE.成分(E.O換算)に対する酸化物換算したAl成分(Al2O3換算)のモル比が4.5〜6.7の範囲にある化合物が含まれるとともに、
前記アルミナ基焼結体中に含まれる酸化物換算したSi成分(SiO 2 換算)及び酸化物換算した前記E.成分(E.O換算)のモル比が、SiO 2 /(SiO 2 +E.O)≦0.8の関係式を満たし、
該アルミナ基焼結体の相対密度が90%以上であることを特徴とする高耐電圧性アルミナ基焼結体。 - 前記粒子には、E.Al12O19相が含まれることを特徴とする請求項1に記載の高耐電圧性アルミナ基焼結体。
- 前記アルミナ基焼結体には、E.Al2Si2O8相及び/又はMgAl2O4相を含むことを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれかに記載の高耐電圧性アルミナ基焼結体。
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