JP4826017B2 - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、プレス成形時における摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用されている。そのような用途での合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での合金化溶融めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0003】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散する合金化反応が生じることにより、Fe-Zn合金相を形成させたものである。このFe-Zn合金相は、通常、Γ相、δ1相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0004】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特開平1-319661号公報に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に硬質のFe-Zn合金を電気めっきなどの手法により第二層を付与する方法がとられている。
【0005】
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、この他に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかし、この方法では、潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、特開昭53-60332号公報および特開平2-190483号公報には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0007】
特開平4-88196号公報は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60 g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行う、または、上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0008】
特開平3-191093号公報は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の先行技術を合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合、プレス成形性の改善効果を安定して得ることはできない。本発明者らは、その原因について詳細な検討を行った結果、合金化溶融めっき鋼板はAl酸化物が存在することにより表面の反応性が劣ること、及び表面の凹凸が大きいことが原因であることを見出した。即ち、先行技術を合金化溶融めっき鋼板に適用した場合、表面の反応性が低いため、電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理及び加熱処理等を行っても、所定の皮膜を表面に形成することは困難であり、反応性の低い部分、すなわち、Al酸化物量が多い部分では膜厚が薄くなってしまう。また、表面の凹凸が大きいため、プレス成型時にプレス金型と直接接触するのは表面の凸部となるが、凸部のうち膜厚の薄い部分と金型との接触部での摺動抵抗が大きくなり、プレス成形性の改善効果が十分には得られない。
【0010】
本発明は上記の問題点を改善し、プレス成形時の摺動性に優れた合金化溶融めっき鋼板を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、合金化溶融めっき鋼板表面に存在する平坦部表層の酸化物層厚さを制御することで、安定して優れたプレス成形性が得られることを知見した。
【0012】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の上記平坦部は、周囲と比較すると凸部として存在する。プレス成形時に実際にプレス金型と接触するのは、この平坦部が主体となるため、この平坦部における摺動抵抗を小さくすれば、プレス成形性を安定して改善することができる。この平坦部における摺動抵抗を小さくするには、めっき層と金型との凝着を防ぐのが有効であり、そのためには、めっき層の表面に、硬質かつ高融点の皮膜を形成することが有効である。この観点から検討を進めた結果、平坦部表層の酸化物層厚さを制御することが有効であることを見出した。
【0013】
本発明は、以上の知見に基いてなされたものであり、第1発明は、鉄−亜鉛合金めっき層の表面に平坦部を有し、その平坦部の表層に厚さが10nm以上のZnの酸化物層が形成され、該酸化物層にPを含有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0014】
第2発明は、第1発明において、上記酸化物層のPの含有量が、at%で0.05〜20%の範囲にあることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0015】
第3発明は、第1発明および第2発明において、鉄−亜鉛合金めっき表面における前記平坦部の面積率が20〜80%であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造の際には、鋼板に溶融亜鉛めっきを施した後に、さらに加熱し合金化処理が施されるが、この合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面には凹凸が存在する。しかしながら、合金化処理後には、通常、材質確保のために調質圧延が施され、この調質圧延時のロールとの接触により、めっき表面は平滑化され凹凸が緩和される。従って、プレス成型時には、金型がめっき表面の凸部を押しつぶすのに必要な力が低下し、摺動特性を向上させることができる。
【0017】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、金型との凝着を防止する硬質かつ高融点の物質が存在することが、摺動性の向上には重要である。この点では、表層にζ相を含まないδ1単相の皮膜とすると、摺動性の向上には効果的であるが、表層が完全にδ1相となるためには、皮膜中のFe濃度が高くなるよう合金化処理を施さなければならず、この結果、めっき−鋼板界面には、硬質で脆いΓ相が厚く生成し、プレス成形の際にパウダリングを生じやすい問題がある。一方、パウダリングを防止するために、Γ相が薄くなるような合金化処理を施すと、表層にはζ相が残存し、摺動性に劣る問題がある。
【0018】
この観点から、本発明で用いる合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜のFe濃度及びAl濃度については特に規定しないが、めっき層としては、主としてδ1相からなり、更にζ相を含んでいる構造が理想的である。
【0019】
一方、表層に酸化物層を存在させることは、ζ相が残存する皮膜でも、酸化物層が金型との凝着を防止するため、摺動特性の向上に有効であるが、中でも、表層にPを含有するZn酸化物層は効果的である。この原因については明らかではないが、酸化物層にPが存在することにより、一部P-O結合の酸化皮膜が形成され、Zn酸化物のみの場合と比較して、摺動性の向上に対する寄与が大きいためであることが考えられる。また、P2O5などに代表されるようなリン酸系皮膜と比較すると、少量のP量でも摺動性を容易に向上できるためであることが考えられる。
【0020】
また、表面にζ相を含まない皮膜は、ζ相が残存する皮膜と比較すると厚い酸化膜を容易に付与することができる点で有利である。この原因については明らかではないが、δ1相と比較するとζ相は、合金相内のAlの固溶量が少ないため、合金化処理後の表層にAlの酸化物層が多く形成され、酸化処理前に表面を活性化することが困難であることが考えられる。
【0021】
めっき表面の平坦部に、このようなPを含有するZn酸化物層を形成させるには、合金化処理後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板に調質圧延を施し、さらに酸性溶液に接触させた後、表面に残存した溶液を中和するためにリン酸ナトリウム溶液に接触させることなどで得られるが、最終的にめっき表層にPを含有するZn酸化物層が形成されていればよく、その手法に制限はない。
【0022】
実際のプレス成形時には、表層の酸化物は摩耗し、削り取られるため、金型と被加工材の接触面積が大きい場合には、十分に厚い酸化膜の存在が必要である。しかしながら、めっき表面には合金化処理時の加熱により酸化物層が形成されており、調質圧延などの方法により平坦化された際に、一部破壊されているものの、大部分が残存しているため、表面の反応性が十分ではなく、その後の酸化処理により所定の酸化膜厚を得ることは困難である。そこで、表層に残存した酸化膜を除去することにより、表面を活性化でき、その後の酸化処理で十分に厚い酸化物層を付与することができるため、良好な摺動性を得ることができる。
【0023】
ここで、表層にζ相が残存する皮膜であるか否かについてはX線回折あるいはめっき表面のSEM像を撮影した写真より判断することができる。すなわち、めっき表面のX線回折ピークの中から、d=1.900Å(ζ相)、およびd=1.990Å(δ相)に対するピーク強度からそれぞれバックグラウンド値を引いたものの比率(ζ/δ)が0.2以上であればζ相が残存する皮膜、0.2未満であればζ相が残存しない皮膜とみなすことができる。まためっき表面のSEM像より形状が柱状晶であるものをζ相として、写真全体に対するζ相の割合(面積率)が10%以上のものをζ相が残存する皮膜、10%未満のものをζ相が残存しない皮膜とみなすことができる。なお、調圧などによりつぶされた部分がめっき表面に存在する場合は、形状より判断することが困難であるため、このような部分はあらかじめ除外して面積率の計算を行うこととする。
【0024】
めっき表層の平坦部における酸化物層の厚さを10nm以上とすることにより、良好な摺動性を示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られるが、酸化物層の厚さを20nm以上とするとより効果的である。これは、金型と被加工物の接触面積が大きくなるプレス成形加工において、表層の酸化物層が摩耗した場合でも残存し、摺動性の低下を招くことがないためである。また、酸化物層のPの含有量は、at%で0.05〜20%の範囲にあることが必要である。これは、Pの含有量が0.05%未満であると、摺動性の改善効果が小さく、逆に、20%を超えても効果にあまり変化が見られないためである。一方、酸化物層の厚さの上限は特に設けないが、200nmを超えると表面の反応性が極端に低下し、化成処理皮膜を形成するのが困難になるため、200nm以下とするのが望ましい。
【0025】
なお、平坦部表面の酸化物層の厚さは、Arイオンスパッタリングと組み合わせたオージェ電子分光(AES)により求めることができる。この方法においては、所定厚さまでスパッタした後、測定対象の各元素のスペクトル強度から相対感度因子補正により、その深さでの組成を求めることができる。酸化物または水酸化物に起因するOの含有率は、ある深さで最大値となった後(これが最表層の場合もある)、減少し、一定となる。Oの含有率が最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となる深さを、酸化物の厚さとする。また、X線光電子分光法(XPS)を用いて同様の測定を行うことにより、深さ方向でのP濃度プロファイルを求め、酸化物層の厚さに相当する深さに対してP濃度が最大となる値を、酸化物層のP含有量とする。
【0026】
ここで、めっき表面における平坦部の面積率は、20〜80%とするのが望ましい。20%未満では、平坦部を除く部分(凹部)での金型との接触面積が大きくなり、実際に金型に接触する面積のうち、酸化物厚さを確実に制御できる平坦部の面積率が小さくなるため、プレス成形性の改善効果が小さくなる。また、平坦部を除く部分は、プレス成型時にプレス油を保持する役割を持つ。従って、平坦部を除く部分の面積率が20%未満になると(平坦部の面積率が80%を超えると)プレス成形時に油切れを起こしやすくなり、プレス成形性の改善効果が小さくなる。
【0027】
なお、めっき表面の平坦部は、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡等で表面を観察することで容易に識別可能である。めっき表面における平坦部の面積率は、上記顕微鏡写真を画像解析することにより求めることができる。
【0028】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに関しては、めっき浴中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0029】
また、酸化処理などに使用する処理液中に不純物が含まれることにより、S、N、B、Cl、Na、Mn、Ca、Mg、Ba、Sr、Siなどが酸化物層中に取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0030】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
(実施例1)
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、さらに調質圧延を行った。この際に、合金化条件を変更することで表層のζ相比率を変化させ、調質圧延の圧下荷重を変化させることで、表面における平坦部面積率を変化させた。引き続き、50℃、pH2.0の硫酸酸性溶液に浸漬し、十分水洗した後、50℃、pH10のリン酸水素二ナトリウムに浸漬することにより、平坦部の表層にPを含有するZn酸化物層を形成させる処理を行った。また上記処理前にはpH12の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、合金化処理時の加熱により生成した酸化物層を除去した。
【0031】
次いで、上記方法で作製した供試材について、めっき皮膜中のFe含有率、ζ/δ値、ζ相面積率、平坦部面積率、酸化物層の厚さ、酸化物層のP含有量の測定及びプレス成形性試験を行った。平坦部の酸化物層厚さ及び酸化物層のP含有量の測定、プレス成形性試験は次のようにして行った。
(1)酸化物層の厚さ及びP含有率測定
オージェ電子分光(AES)により平坦部の各元素の含有率(at%)を測定し、引き続いて所定の深さまでArスパッタリングした後、AESによりめっき皮膜中の各元素の含有率の測定を行い、これを繰り返すことにより、深さ方向の各元素の組成分布を測定した。酸化物、水酸化物に起因するOの含有率はある深さで最大となった後、減少し一定となる。Oの含有率が、最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となる深さを、酸化物の厚さとした。なお、予備処理として30秒のArスパッタリングを行って、供試材表面のコンタミネーションレイヤーを除去した。
【0032】
また、X線光電子分光法(XPS)を用いて同様の測定を行うことにより、深さ方向でのP濃度プロファイルを求め、酸化物層の厚さに相当する深さに対してP濃度が最大となる値を、酸化物層のP含有量とした。
【0033】
(2)プレス成形性評価試験(摩擦係数測定試験)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
【0034】
図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、日本パーカライジング社製ノックスラスト550HNを試料1の表面に塗布して試験を行った。
【0035】
図2、3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。図3に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ60mmの平面を有する。
【0036】
摩擦係数測定試験は下に示す2条件で行った。
(条件1)
図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとした。
(条件2)
図3に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとした。
【0037】
供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0038】
試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、表層の酸化膜厚およびP含有量、表層の平坦部面積率が本発明範囲内にある場合(本発明例7〜17)には、ζ/δ値、ζ相面積率が高く、明らかに表層にζ相が残存する皮膜でも、条件1の摩擦係数はすべて非常に低い値であり、さらに、酸化膜厚が20nm以上と厚い場合(本発明例10〜17)には、条件2の摩擦係数も低い値となり、さらに良好な摺動特性を示した。これに対して、表層の酸化膜厚が本発明範囲をはずれる比較例(比較例1〜3)は、いずれの摩擦係数も高い値を示し、摺動特性は低下した。一方、表層の酸化膜厚が本発明範囲内に含まれていても、平坦部面積率が本発明範囲内をはずれる場合(本発明例1〜4)は、条件1の摩擦係数がわずかに低下したが、条件2の摩擦係数はまったく低下せず、摺動特性の改善効果はなかった。また、酸化物層のP含有量が本発明範囲内をはずれる場合(本発明例5、6)は、摺動性の改善は見られるものの本発明例7〜17と比較すると改善効果は小さかった。
【0041】
(実施例2)
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。この際に、合金化条件を変更することで、表面にζ相が存在しない皮膜を形成し、調質圧延の圧下荷重を変化させることで、表面における平坦部面積率を変化させた。引き続き、50℃、pH2.0の硫酸酸性溶液に浸漬し、十分水洗した後、50℃、pH10のリン酸水素二ナトリウムに浸漬することにより、平坦部の表層にPを含有するZn酸化物層を形成させる処理を行った。また上記処理前にはpH12の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、合金化処理時の加熱により生成した酸化物層を除去した。
【0042】
次いで、上記方法で作製した供試材について、実施例1と同様にして、めっき皮膜中のFe含有率、ζ/δ値、ζ相面積率、平坦部面積率、酸化物層の厚さ、酸化物層のP含有量の測定及びプレス成形性試験を行った。
【0043】
試験結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示すように、ζ/δ値、ζ相面積率が低く表面にζ相を含まない皮膜であり、かつ表層の酸化膜厚およびP含有量、表層の平坦部面積率が本発明範囲内にある場合(本発明例7〜17)には、条件1の摩擦係数はすべて非常に低い値であり、さらに、酸化膜厚が20nm以上と厚い場合(本発明例10〜17)には、条件2の摩擦係数も低い値となり、さらに良好な摺動特性を示した。これに対して、表層の酸化膜厚が本発明範囲をはずれる比較例(比較例1〜3)は、いずれの摩擦係数も高い値を示し、摺動特性は低下した。一方、表層の酸化膜厚が本発明範囲内に含まれていても、平坦部面積率が本発明範囲内をはずれる場合(本発明例1〜4)は、条件1の摩擦係数がわずかに低下したが、条件2の摩擦係数はまったく低下せず、摺動特性の改善効果はなかった。また、酸化物層のP含有量が本発明範囲内をはずれる場合(本発明例5、6)は、摺動性の改善は見られるものの本発明例7〜17と比較すると改善効果は小さかった。
【0046】
【発明の効果】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層中にζ相の残存有無によらず、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】摩擦係数測定装置を示す概略正面図。
【図2】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
【図3】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
【符号の説明】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力
P 引張荷重
Claims (1)
- 鉄−亜鉛合金めっき層の表面に、鉄−亜鉛合金めっき表面における面積率が20〜80%である平坦部を有し、その平坦部の表層に厚さが10nm以上200nm以下のZnの酸化物層(但し、りん酸亜鉛からなるものを除く)が形成され、該酸化物層にPを含有し、該酸化物層のPの含有量がat%で0.05〜20%の範囲にあることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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