JP4819461B2 - 光学素子の成形装置および製造方法 - Google Patents

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本発明は、得ようとする光学素子の形状に基づいて精密加工された上型および下型からなる成形型を用いて、ガラス素材などの成形素材をプレス成形する光学素子の成形装置、およびそれを用いて光学素子を製造する製造方法に関する。さらに詳しくは、かかる光学素子の成形装置および製造方法において、成形素材が下型の中心位置に配置された状態でプレス成形が行われるように、下型の成形面上に供給された成形素材の位置、又は、成形素材をプレス成形に先立って載置する載置面上の位置を修正するための技術に関するものである。
近年、得ようとする光学素子の形状に基づいて精密加工された上型および下型からなる成形型を用いて、加熱軟化された成形素材をプレス成形することにより、高精度な光学素子、例えば、ガラスレンズを成形する方法が種々開発されている。このようなプレス成形によって、所望の光学素子を得るには、外観、表面形状、肉厚、偏心などの様々な規格を満足させなければならない。かかる高精度な光学素子をプレス成形する際に考慮しなければならない重要な要件として、プレス成形前の下型成形面上に載せられた成形素材と下型との位置精度がある。
成形素材を下型成形面中心位置に配置するためには、成形素材をロボット等によって搬送し、位置制御しつつ成形面に配置する場合、及び、成形面上に配置した後に成形素材位置を修正する場合がある。前者の場合には、成形面上での位置修正は必要がない一方、ロボットの先端(成形素材を吸着する部位など)と成形素材の相対位置が一定であり、吸着された成形素材の姿勢が一定でなければ、成形面の一定位置に配置できないことから、所定の載置台上で成形素材とロボット先端との相対位置を修正した上で、ロボットが成形素材を次工程に供給する方式が有利である。
特に、成形素材が、球面以外の形状(両凸曲面形状、円板形状など)のプリフォームの形態では、載置面(例えば下型成形面)が凹面であっても、自らは中央位置に移動せず、偏った位置に配置されればそのままの位置に留まってしまう。更に、加熱され、軟化した成形素材を載置する場合には、ロボットによる吸着搬送が行えないため、できるだけ治具と成形素材を非接触とした状態で搬送し、載置面に落下供給することが好ましい。
このような場合には、載置面の中心位置に正確に載置することは困難であり、自然落下した成形素材が下型成形面の中心から偏倚した状態になることが起こり易い。
成形素材の位置精度が悪いと、すなわち、成形素材が下型成形面の中心から偏倚していると、成形品が成形型(上下型)の中心に対して偏って成形されてしまい、形状不良が発生してしまう。また、形状不良に至らない程度の偏肉であっても、荷重が均一に与えられない為に、面精度不良が生じやすい。これは、荷重の不均一により、成形品内部に残留する応力が不均一になるため、冷却時の収縮挙動が不均一になるためである。
特許文献1〜3には、成形素材の下型に対する位置精度を向上させる方法が記載されている。
特許文献1(特開平9−2825号公報)には、成形型において、予め成形型に対して位置決めされ、成形型の基準位置からの距離が等しくなるように、該基準位置を中心に互いに反対に移動する一対の位置決め部材を移動させ、光学素材を挟む形で当接させて位置決め部材の移動が止まることにより、光学素材を成形型に対して位置決めする方法が記載されている。これにより、光学素材を常に正確に位置決めすることができ、成形型に素材を投入するまでのハンドリングを比較的ラフに行うことができるとしている。
特許文献2(特開2003−104741号公報)には、複数のガラス素材を一列に並べて保持する搬送アームから同時にガラス素材を成形面上に落下供給したのち、位置決めアームを開閉することにより、位置決め面を各ガラス素材の外周に当接してこれらを位置決めする方法が記載されている。これにより、複数の被成形体を成形面に同時に供給し、同時に位置修正し、同時にプレス成形することができることから、一度にプレス成形する被成形体を全て面精度の良い光学素子に成形することができるとしている。
特許文献3(特開平11−35322号公報)には、下型の成形面上に供給される被成形ガラス素材の位置を修正するために、被成形ガラス素材に当接させて移動させるための被成形ガラス素材当接部を有し、この被成形ガラス素材当接部の開口端面がリンク状、同心円状に配列した突起部を有する位置修正手段を用いることが記載されている。位置の修正は、被成形ガラス素材当接部の垂直中心が下型の成形面の中心点に一致するように配置され、被成形ガラス素材当接部を被成形ガラス素材に当接させながら垂直に降下させることにより行われるとされている。
特開平9−2825号公報 特開2003−104741号公報 特開平11−35332号公報
ここで、成形素材は、通常は、両凸曲面形状のプリフォームの形態で下型成形面に供給される。この場合には、上記特許文献1、2の方法では次のような問題が発生するおそれがある。例えば、図9(a)に示すように、下型100の成形面101の中心102に対して偏って供給された両凸曲面形状の成形素材103を、図9(b)に示すように、位置決め部材104で位置修正する場合、成形素材103が下型成形面101の中心に向けて移動せずに、位置決め部材104との接点が当接面105に沿って上方に滑り変位する現象がしばしば起こる。かかる現象がみられると、たとえ、位置決め部材104で成形素材103を下型成形面101の中心102側へ移動させようとしても、中心側へは移動せず、偏心状態のままプレス成形されてしまう。
成形素材が下型成形面の中心に向けて移動せずに上方に変位する現象は、次のような場合に発生しやすい。
まず、下型成形面が凹面を有し、成形素材の表面が当該凹面とは異なる曲率の凸面を有するときである。両者の曲面の曲率が同一でない限り、両者は点接触状態になり、その接触点を支点として成形素材の起き上がり現象が発生しやすい。
また、成形面の周縁部の傾きが大きい場合である。例えば、下型成形面の曲率半径が比較的小さいときや、下型成形面の球欠(深さ)が比較的深いときに成形面の周縁部の傾きが大きくなる、特に、成形面の最大傾斜角度が15°以上の場合には、下型成形面上に成形素材を供給した場合に、成形素材の起き上がり現象が発生し易い。成形面の最大傾斜角度が30°を超える場合には、顕著に同現象が発生し易い。
次に、成形素材の曲率半径が比較的小さい場合である。下型成形面上の同じ位置に成形素材が供給された場合であっても、成形素材の曲率半径によって起き上がり現象(位置修正不良)が発生する場合としない場合とがあり、成形素材の曲率半径が小さい方が、上記現象が起こり易い。特に、ガラス素材の曲率半径が、下型成形面の曲率半径に対して、50%以下の曲率半径のときに起こり易い。
また、常温の成形素材を成形面上に供給する場合と、加熱軟化させた成形素材を成形面上に供給する場合では、加熱軟化させた成形素材と成形面との密着力により、加熱軟化させた成形素材を供給する場合の方が当該現象が起こり易い。
一方、上記特許文献3に開示の方法では、下型成形面上に供給された成形素材を上側からリング状の開口端面あるいは同心円状の突起を備えた開口端面を備えた被成形ガラス素材当接部によって上から押し付けることにより、成形素材を成形面の中心に位置させるようにしている。しかしながら、この方法では、成形面上の成形素材を移動させる方向に対して、垂直な方向から成形素材を押し付けているので、成形素材を速やかに成形面の中心に向けて移動させることができないおそれがある。
本発明の課題は、以上のような課題に鑑みてなされたもので、下型成形面上に供給された成形素材を、当該下型成形面上の正規な位置(成形面の中心)に確実に位置決めすることができる光学素子の成形装置、およびそれを用いた光学素子の製造方法を提案することにある。
上記の課題を解決するために、本発明は、加熱軟化された状態の成形素材をプレス成形する光学素子の成形装置において、プレス成形に供するために載置面に供給された成形素材を、当該載置面の中心方向へ移動させる位置修正具を有し、前記位置修正具は、前記載置面の中心軸線に直交する方向に開閉可能で、前記成形素材との当接面における前記成形素材の滑りを規制する規制部を有し、当該規制部は、前記中心軸線に平行な位置決め面と、当該中心軸線に直交する面であって、前記成形素材の姿勢を保持した状態で前記載置面の中心方向へ移動させる姿勢保持面を有し、前記位置修正具の閉動作に伴って前記成形素材が前記位置修正具との滑りによって姿勢変化することを前記姿勢保持面が規制することを特徴とする。
ここで、本発明では、前記成形装置が、互いに対向する成形面を備えた上型および下型を備えており、前記載置面は前記下型の成形面であることを特徴としている。
また、前記位置修正具における前記規制部は、前記当接面における成形素材の上方向の滑りを規制するものとすることができる。
前記規制部としては、粗面化処理された滑り防止面を含むものを採用することができる。
また、前記規制部は、前記位置決め面と前記成形素材の間に発生する摩擦抵抗が、前記成形素材と前記成形面の間に発生する摩擦抵抗より大きくなるように構成されていることが望ましい。
このようにすると、前記成形素材の上方向への滑りが規制され、成形素材を確実に成形面の中心に移動させることができる。
さらには、前記位置修正具を相互に開閉する複数の分割体を備えたものとし、各分割体に前記規制部を形成することができる。
の場合には、前記分割体の閉じ状態において、各分割体に形成した前記位置決め面が、前記成形面の中心を中心とする多角形を描くようにすればよい。
次に、本発明の成形装置は、前記下型の前記成形面上に成形素材を落下供給する成形素材供給手段を有しており、前記位置修正具は、落下供給される成形素材を前記成形面上に導くガイド部を備えていることを特徴としている。
また、本発明の成形装置は、前記位置修正具を予熱する予熱手段を有していることを特徴としている。
一方、本発明は、加熱軟化された成形素材をプレス成形する光学素子の製造方法において、載置面に成形素材を供給する供給工程と、供給された前記成形素材を、前記載置面の中心軸線に直交する方向に開閉可能な位置修正具により前記載置面の中心方向へ移動させる位置修正工程とを含み、前記位置修正具に、前記中心軸線に平行な位置決め面と、当該中心軸線に直交する面であって、当該成形素材の姿勢を保持した状態で前記載置面の中心方向へ移動させる姿勢保持面を有する規制部を設けておき、前記位置修正工程では、前記位置修正具の閉動作に伴って前記成形素材が前記位置修正具との滑りによって姿勢変化することを前記姿勢保持面が規制しながら、当該成形素材を移動させることを特徴としている。
これにより、位置修正具の前記位置決め面と前記姿勢保持面とを前記成形素材に当接させることによって成形素材を位置修正することができ、このとき、成形素材が、位置修正具との当接面で上方向に滑ることを規制することができる。
ここで、互いに対向する成形面を備えた上型および下型によって、加熱軟化された成形素材をプレス成形する場合には、前記載置面は、前記下型の成形面である。
また、前記位置修正工程では、前記成形素材を前記位置修正具によって側方から押す動作を繰り返すことを特徴としている。
さらに、前記位置修正工程では、前記成形面上に供給された成形素材に対して側方から位置修正具を接近させ、当該位置修正具に形成した位置決め面によって前記成形素材を前記成形面の中心方向に押すことを特徴としている。
この場合、前記位置修正具の前記当接面と前記成形素材の間に発生する摩擦抵抗を、前記成形素材と前記載置面の間に発生する摩擦抵抗より大きくすることにより、前記成形素材の、前記位置修正具との滑りを規制することができる。
前記位置修正具として、例えば開閉可能な複数の分割体を備え、閉じ状態においては各分割体に形成した前記位置決め面が、前記成形面の中心を中心とする、前記成形素材に外接可能な外接多角形を描くものを使用することができる。
次に、本発明の製造方法は、前記供給工程では、加熱状態にある前記下型の成形面に、当該成形面よりも高温に加熱した成形素材を落下供給することを特徴としている。
また、本発明の製造方法では、前記位置修正具を予熱しておき、前記位置修正工程では、加熱状態にある前記位置修正具の位置決め面によって成形素材を押すことを特徴としている。
本発明の光学素子の成形装置および製造方法では、加熱軟化された状態の成形素材をプレス成形するに際し、プレス成形に供するために載置面に供給された成形素材を、位置修正具を用いて載置面の中心方向へ移動させ、位置修正のときには、成形素材との当接面における前記成形素材の上方向への滑りを規制する。成形素材を確実に載置面の中心に配置することができ、これによって成形面の中心に成形素材を配置することができる。したがって、本発明によれば、成形不良や面精度不良の無い高精度の光学素子を成形することができる。
以下に、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
本発明において、成形素材は、加熱前に本発明の載置台に供給して位置修正を行ってもよく、又は、所定温度に加熱した状態で、載置台上に供給し、位置修正を行っても良い。特に、加熱により軟化した状態で載置台上に供給する場合においては、治具との非接触状態で落下供給することが好ましいため、落下位置が不安定となりやすく本発明の効果が特に顕著である。以下は、加熱した成形素材を、成形面に供給する場合について例示する。
図1は、本発明の実施の形態に係る光学素子の成形装置の主要部分を示す概念図であり、図1(b)はその下型成形面と位置修正具の配置関係を示す平面図である。図2〜図4は位置修正具の位置決め動作を示す説明図である。本実施の形態に係る光学素子の成形装置1は、図示を省略してある上型と下型2を備えている。また、型開き状態にある下型2の成形面2aの真上の成形素材落下位置と不図示の成形素材受け取り位置の間を移動可能な成形素材供給具3を備えている。さらに、成形素材供給具3から下型成形面2aに落下供給された両凸曲面形状の成形素材4を下型成形面2aの中心2bに向けて移動させるための位置修正具5を備えている。
成形素材4としてはガラス素材が用いられる。このガラス素材は、所望の特性を有する光学ガラスを両凸曲面形状などの曲面(球より扁平であるもの)を有する形状に予備成形したものを用いることができる。予備成形の方法としては、所定量の溶融ガラスを受け型に滴下又は流下してガラス塊を成形する熱間成形が好ましい。このように熱間成形されたガラス素材は、研磨などの加工を行わなくても所望の体積が得られ、表面欠陥も少なく、しかも生産効率が高いため冷間加工によるガラス素材に比べて成形コストを低減できる。
位置修正具5は、下型成形面2aの中心線Lに直交する水平方向に不図示の開閉駆動機構により開閉動作する一対の分割体11、12を備えている。分割体11、12は図1に示す閉じ位置11A、12Aおよび図2に示す開き位置11B、12Bの間で開閉可能である。また、位置修正具5は、下型2の上方位置と、そこから離間した場所に設けられた予熱位置(図示せず)との間を往来可能であり、この予熱位置において予熱されるようになっている。
分割体11、12は左右対称の形状をしており、それぞれ、成形素材4に当接可能な当接面11a、12aを備えている。当接面11a、12aは、垂直な位置決め面11b、12bと、この位置決め面11b、12bの上端縁から内側に直交する方向に水平に延びている姿勢保持面11c、12cとを備えている。また、姿勢保持面11c、12cの内側縁に連続して上方に垂直に延びる端面11d、12dを備え、この端面11d、12dの上端縁には、上方に向けて外側に広がっているテーパー面11e、12eが連続している。なお、本実施形態における位置決め面11b、12bと姿勢保持11c、12cからなる当接面11a、12aが、本発明の規制部に相当する。
これらの分割体11、12を閉じた状態では、図1(b)に示すように、位置決め面11b、12bによって、成形素材4に外接可能な外接四角形が形成される。また、端面11d、12dによって成形素材4が通過可能な円形穴13が形成され、この上側に連続して外側に広がっているテーパー面11d、12dによって逆円錐台状のガイド面14が形成される。ここで、本例の姿勢保持面11c、12cは、外接四角形と円形穴13の間の部分である。
位置修正具5の材質は、高密度カーボンやステンレスなどの耐熱性の高い素材とし、その表面には潤滑性を向上させる処理や、表面強度を向上させる処理を施すことができる。
成形素材供給具3も左右に開閉可能な一対の分割体31、32からなる。分割体31、32は、閉じ状態においてすり鉢状の受け部33を形成する受け面31a、32aと、内部に形成されたガス通路31b、32bを備えている。ガス通路31b、32bを介して供給される不活性ガスが受け部33の底部分から上方に吹き上げられるようになっており、これにより生ずるガス圧によって、成形素材4が受け部33内で僅かに浮上するようになっている。
本実施形態では、成形素材供給具3及び成形素材4は、成形型とは別の場所で予熱され、成形素材4を成形面2a上に供給した後、上下型により成形素材4をプレス成形する前に、再び予熱位置へ退避するようになっている。
次に、下型2は、例えば炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si34)、超硬合金等からなり、その成形面2aには例えば硬質炭素膜、貴金属膜等の離型膜が形成されていることが望ましい。図示を省略してある上型およびその成形面も同様な素材から形成できる。すなわち、本発明に適用する成形型は、成形素材4との間での滑り性が良いことが好ましく、このためは、成形面には、炭素を主成分とする膜を形成することが好ましく、また、成形素材の表面にも、炭素を含有する膜を成膜することが好ましい。
次に、成形装置1における成形素材4の供給および位置決め動作を説明する。略球状または両凸曲面形状に予備成形された成形素材4(ガラス素材)は、成形素材供給具3により型開き状態にある下型2の真上に移送され、落下させることにより、下型成形面2a上に供給される。成形素材4を下型成形面2aに供給する場合には、予備成形された成形素材4を所定の温度(ガラス粘度で109Pa・s以下に相当する温度)に予備加熱し、一方で成形に適した温度(ガラス粘度で108〜1012Pa・sに相当する温度で、好ましくは成形素材より高い温度)に加熱した下型2の成形面2aに供給することが望ましい。このように成形素材と成形型をそれぞれ独立して加熱することにより、成形サイクルタイムを短縮できると共に、高温下における成形素材と成形型との密着時間が短くなり、成形型の劣化防止できる利点がある。また、成形型温度より成形素材を高温とすることで、相対的に成形型温度を低くすることができ、成形サイクルタイムの短縮と、成形型の長寿命化が可能となる。
また、予備加熱された成形素材4を成形面2a上まで移送する際には、成形素材4が成形素材供給具3に融着しないように、また、成形素材4の表面欠陥の発生を防止するために、本例のように、不活性ガス気流などによって成形素材4を浮上させながら、成形面2aの真上まで移送し、そこから自然落下させて成形面2a上に落下供給する方法が有利である。
ここで、落下供給時には、図1に示すように、位置修正具5を閉じ状態にしておくと、落下する成形素材4が、位置修正具5のガイド面14に沿って通過穴13に導かれ、ここを通って成形面2a上に確実に供給される。但し、成形素材4の供給時に必ずしも位置修正具5を成形素材供給具3と下型2の間に介在させる必要はない。
落下供給により下型成形面2a上に供給された成形素材4は、必ずしも成形面2aの中心2bに位置していないので、図2に示すように、一旦、位置修正具5を開動作したのち、図3および図4に示すように、位置修正具5を閉動作する。この閉動作の過程で、位置修正具5の位置決め面11b、12bが成形素材の外周面に側方から当接して、成形素材4を成形面2aの中心2bに向けて移動させるようする。
ここで、成形素材4は成形面2aに点接触状態で接触している。成形素材4が、位置決め面11b、12bに沿って滑りやすい場合、すなわち、成形素材4と成形面2aの接触点Aにおいて成形素材4が滑る前に、位置決め面11、12に沿って成形素材4に滑りが発生すると、成形素材4は接触点A付近を支点として上方に変位して(起き上がって)しまい、成形面2aの中心2bに移動しないおそれがある(図3参照)。
しかしながら、本例では、成形素材4を側方から成形面2aの中心に向けて押している位置決め面11b、12bの上端から内方に向けて水平に延びる姿勢保持面11c、12cが形成されている。成形素材4が接触点A付近を中心として上方に起き上がろうとすると、当該姿勢保持面11c、12cに下側から当たる。この結果、成形素材4は姿勢を変えて起き上がることができず、当該姿勢保持面11c、12cから成形素材4には当該成形素材4を成形面2a上で姿勢を保持しつつ成形面上を滑り移動させる力が作用する。この結果、成形素材4は成形面2aの中心2bに向けて図3において点線の矢印Bで示すように押されて移動する。位置修正具5を完全に閉じると、図4に示すように、成形素材4の中心が成形面2aの中心2bに一致した位置決め状態が形成される。
位置修正具5の位置決め面11b、12bは、図1(b)に示すように、成形素材4に外接可能な四角形を形成する。したがって、姿勢保持面11c、12cの外周辺も同様な四角形を形成する。よって、成形素材4が成形面2aの中心2bに対していずれの側に偏倚していたとしても、位置修正具5によって成形素材4の位置を修正することができる。
ここで、位置修正のための位置修正具5の開閉動作は、複数回(例えば2回〜5回)行うことが好ましい。位置修正具5が成形素材4に当接して位置修正を行うたびに、位置修正具の当接面11a、12aと成形素材との接触位置が変わり、即ち、成形素材4の姿勢が変化しつつ、成形素材4が成形面2aの中心2bに移動していく。したがって、成形素材4に不所望な応力を発生させることなく成形素材4を確実に成形面2aの中心2bに位置決めできるので好ましい。
なお、本実施形態において、位置修正具5は不図示の予熱位置において予熱される。プレス成形時には再び予熱位置まで後退して予熱されている。位置修正具5の予熱を、成形サイクルにおける他の工程が行われる間に並行して行うことにより、成形サイクルの短縮を図ることができる。また、位置修正具5を予熱しておくことで、成形素材4が位置修正具5に接触したときに、成形素材4の熱が位置修正具5を通じて散逸することを防止できるので好ましい。
(位置修正具の別の例)
図5(a)(b)には本願発明の実施例に係る位置修正具の別の例を示してある。図5(a)の位置修正具5Aは、図1の位置修正具5におけるガイド面14を削除した例である。この位置修正具5Aは、下型上に成形素材4を落下供給せずに、吸着パッドなどにより、下型上に成形素材を供給した場合における成形素材4の位置修正に有効である。図5(b)に示す位置修正具5Bでは、成形素材4を位置修正するための当接面15が山谷状の複数の面から形成され、これらの面が規制部として機能する。
図5(c)(d)は参考例の位置修正具である。図5(c)に示す位置修正具5Cでは、当接面16として下に向けて広がったテーパー面が用いられており、図5(d)に示す位置修正具5Dでは、当接面17として、下に向く湾曲面が用いられている
なお、図5に示す各位置修正具5A〜5Dも左右に開閉可能な分割体から構成することができる。勿論、四角形以外の外接多角形を形成するように分割体に当接面を形成してもよい。例えば、左右に開閉可能な分割体によって外接三角形を形成可能な当接面を形成することができる。この場合には、一方の分割体の当接面V字状を呈し、他方の当接面が平端な面を呈するものとすればよい。
また、左右に開閉可能な分割体から構成する代わりに、3つ以上の分割体から構成することもできる。例えば、図6に示す位置修正具5Eでは、下型成形面2aの中心線Lを中心として十字状に4つの分割体が配置された構成となっている。この場合の当接面21の形状としては図6(b)に示すような図1に示すものを用いることができる。勿論、図5に示す各種の形状の当接面であってもよい。
さらに、図示は省略するが、位置修正具の成形素材との当接面を略平面状とし、その面粗度を適度に粗した滑り防止面としてもよい。この場合には、当接面の全て、あるいは一部に形成した粗面処理面によって成形素材が上方に滑り上がろうとする動きを規制することができ、このような面が規制部として機能する。
さらにまた、位置修正具の当接面と成形素材の間に発生する摩擦抵抗が、成形素材と成形面の間に発生する摩擦抵抗より大きくなるように、当接面の状態や形状を改良することにより、前記成形素材の前記当接面における上方向への滑りが規制され、成形素材を確実に成形面の中心に移動させることができる。この場合、成形面に対して、成形素材との摩擦抵抗を大きくした位置修正具の当接面が規制部として機能する。
次に、図7は、複数個の成形素材4を同時に位置修正可能な位置修正具の例を示す平面図および部分断面図である。この場合においても、その当接面18は、図1、5に示す形状のものを用いることができる。また、平坦な面、例えば、成形面2aの中心線に平行な面とし、そこに粗面加工を施したものであってもよい。
さらに、2つの分割体が当接して停止する図1、図5のような位置修正具の代わりに、図8のように当接せず、所定距離に近接したときに所定の間隔を保って停止するストッパ19を備えた位置修正具5Fを用いることもできる。特に、成形素材4を予め軟化してから成形型に供給する場合には、成形素材4の径に基づき、位置修正具5Fの当接面20の停止位置を予め決定し、停止位置に応じてストッパ19の長さを変更して、予定位置で停止させる(対向する位置修正面間の距離と成形素材の外径寸法とがほぼ同一の距離に至ったときに停止する)ことが、多種類の成形素材に対応できること、及び成形素材4を押圧して無理な応力を発生させるこが無いので好ましい。
以上のように、本発明による位置修正具を用いれば、下型成形面上の成形面の中心に対して、成形素材を確実に位置決めすることができ、その結果、成形不良や面精度不良の無い高精度の光学素子を成形することができる。
特に、下型成形面が凹面を有し、成形素材の表面が当該凹面とは異なる曲率の凸面を有する場合には、両者が点接触状態になり、成形素材を位置修正具で側方から成形面の中心方向へ移動させる際に、成形素材と位置修正具の当接面との滑りが生じ、成形面と成形素材との接触点を支点として成形素材の起き上がり現象が発生しやすいが、本発明によれば、この場合における成形素材の起き上がりを防止して成形素材を位置決めできることが確認された。
また、成形面の周縁部の傾きが大きい場合、特に、成形面の最大傾斜角度が15°以上の場合には、下型成形面上に成形素材を供給したときに、成形素材の起き上がり現象が発生し易く、成形面の最大傾斜角度が30°を超える場合には、顕著に同現象が発生し易いが、この場合においても、本発明によれば、成形素材の起き上がりを防止して成形素材を位置決めできることが確認された。
さらに、成形素材の曲率半径が比較的小さく、特に、ガラス素材の曲率半径が、下型成形面の曲率半径に対して、50%以下の曲率半径の場合には、成形素材の起き上がり現象が発生しやすいが、本発明によれば、この場合の成形素材の起き上がりを防止して成形素材を位置決めできることが確認された。
本発明を適用した光学素子の成形装置の主要部分を示す概念図および、その位置修正具の形状を示す平面図である。 図1の位置修正具が開いている状態を示す概念図および平面図である。 図1の位置修正具の作用を示すための説明図である。 図1の位置修正具の作用を示すための説明図である。 位置修正具の例を示す説明図である。 位置修正具の別の例を示す平面図および部分断面図である。 位置修正具の別の例を示す平面図および部分断面図である。 ストッパ付きの位置修正具の例を示す平面図である。 従来の問題点を示すための説明図である。
符号の説明
1 成形装置、2 下型、2a 下型成形面、2b 成形面中心、L 中心線、3 成形素材供給具、4 成形素材、5,5A〜5F 位置修正具、11,12 分割体、11a,12a,15,16,17,18,20,21 当接面、11b,12b 位置決め面、11c,12c 姿勢保持面、11e,12e テーパー面、13 通過穴、14 ガイド面、19 ストッパ

Claims (14)

  1. 加熱軟化された状態の成形素材をプレス成形する光学素子の成形装置において、
    プレス成形に供するために載置面に供給された成形素材を、当該載置面の中心方向へ移動させる位置修正具を有し、
    前記位置修正具は、前記載置面の中心軸線に直交する方向に開閉可能で、前記成形素材との当接面における前記成形素材との滑りを規制する規制部を有し、
    当該規制部は、前記中心軸線に平行な位置決め面と、当該中心軸線に直交する面であって、前記成形素材の姿勢を保持した状態で前記載置面の中心方向へ移動させる姿勢保持面を有し、前記位置修正具の閉動作に伴って前記成形素材が前記位置修正具との滑りによって姿勢変化することを前記姿勢保持面が規制することを特徴とする光学素子の成形装置。
  2. 請求項1において、
    前記成形装置は、互いに対向する成形面を備えた上型および下型を備え、前記載置面は、前記下型の成形面であることを特徴とする光学素子の成形装置。
  3. 請求項2において、
    前記規制部は、粗面化処理された滑り防止面を含むことを特徴とする光学素子の成形装置。
  4. 請求項2または3において、
    前記規制部は、前記位置決め面と前記成形素材の間に発生する摩擦抵抗が、前記成形素材と前記成形面の間に発生する摩擦抵抗より大きくなるように構成されていることを特徴とする光学素子の成形装置。
  5. 請求項2ないし4のうちのいずれかの項において、
    前記下型の前記成形面上に成形素材を落下供給する成形素材供給手段を有しており、
    前記位置修正具は、落下供給される成形素材を前記成形面上に導くガイド部を備えていることを特徴とする光学素子の成形装置。
  6. 請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
    前記位置修正具は、相互に開閉する複数の分割体を備えており、
    各分割体に前記規制部が形成されていることを特徴とする光学素子の成形装置。
  7. 請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
    前記位置修正具を予熱する予熱手段を有していることを特徴とする光学素子の成形装置。
  8. 加熱軟化された成形素材をプレス成形する光学素子の製造方法において、
    載置面に成形素材を供給する供給工程と、
    供給された前記成形素材を、前記載置面の中心軸線に直交する方向に開閉可能な位置修正具により前記載置面の中心方向へ移動させる位置修正工程とを含み、
    前記位置修正具に、前記中心軸線に平行な位置決め面と、当該中心軸線に直交する面であって、当該成形素材の姿勢を保持した状態で前記載置面の中心方向へ移動させる姿勢保持面を有する規制部を設けておき、
    前記位置修正工程では、前記位置修正具の閉動作に伴って前記成形素材が前記位置修正具との滑りによって姿勢変化することを前記姿勢保持面が規制しながら、当該成形素材を移動させることを特徴とする光学素子の製造方法。
  9. 請求項において、
    互いに対向する成形面を備えた上型および下型によって、加熱軟化された成形素材をプレス成形し、
    前記載置面は、前記下型の成形面であることを特徴とする光学素子の製造方法。
  10. 請求項9において、
    前記位置修正工程では、前記成形素材を前記位置修正具によって側方から押す動作を繰り返すことを特徴とする光学素子の製造方法。
  11. 請求項9または10において、
    前記位置修正工程では、前記成形面上に供給された成形素材に対して側方から前記位置修正具を接近させ、前記位置決め面によって前記成形素材を前記成形面の中心方向に押すことを特徴とする光学素子の製造方法。
  12. 請求項11において、
    前記位置修正工程では、
    前記位置決め面と前記成形素材の間に発生する摩擦抵抗を、前記成形素材と前記成形面の間に発生する摩擦抵抗より大きくすることにより、前記成形素材の、前記位置修正具との滑りを規制することを特徴とする光学素子の製造方法。
  13. 請求項9ないし12のうちのいずれかの項において、
    前記供給工程では、加熱状態にある前記下型の前記成形面に、当該成形面よりも高温に加熱した成形素材を落下供給することを特徴とする光学素子の製造方法。
  14. 請求項9ないし13のうちのいずれかの項において、
    前記位置修正具を予熱しておき、
    前記位置修正工程では、加熱状態にある前記位置修正具の位置決め面によって成形素材を前記載置面の中心方向へ移動させることを特徴とする光学素子の製造方法。
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