JP4812204B2 - 無水マレイン酸の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、粗マレイン酸含有水溶液の共沸脱水工程を含む無水マレイン酸の製造方法において、共沸溶媒とともに無水マレイン酸を共沸脱水工程に導入して連続蒸留運転を可能とした、無水マレイン酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
無水マレイン酸は、n−ブタンなどの炭素数4以上の脂肪族炭化水素やベンゼン等を接触気相酸化反応器で酸化し、得られる無水マレイン酸やマレイン酸を含有するガスからマレイン酸を回収して精製する方法によって製造される。また、ナフタリンやo−キシレンの接触気相酸化反応によって無水フタル酸を製造する際に排出される排ガスの洗浄水には相当量の無水マレイン酸が含まれることから、該洗浄水を回収しこれを無水マレイン酸として使用する方法によっても製造されている。いずれの方法においても、水溶液捕集を行なった場合には該水溶液を脱水し、有水マレイン酸を無水化する必要がある。
【0003】
このようなマレイン酸含有水溶液の脱水およびマレイン酸の無水化処理として共沸脱水工程があり、例えば米国特許第2,989,545号では、無水マレイン酸の損失を減ずるために、共沸脱水溶剤として主にアルキルベンゼン類を使用し、共沸脱水塔内を高温に保ち短時間で無水化する方法が開示されている。蒸留塔内を高温に維持するために、粗マレイン酸含有水溶液の供給段より下段には水および共沸溶媒を存在させず、加熱した共沸溶媒を供給するために蒸留塔塔底から得た高温の無水マレイン酸に共沸溶媒を混合したものを塔内に導入している。この際、該無水マレイン酸を含む共沸溶媒は、粗マレイン酸含有水溶液の供給段よりも上段から共沸脱水塔内に導入している。
【0004】
また、米国特許第3,261,847号では、接触気相反応で得た反応ガスを凝縮器によって溶融状態で無水マレイン酸を回収し、該凝縮器の排ガスに含まれる無水マレイン酸を水捕集してマレイン酸含有水溶液を得て、これを共沸脱水塔に供給して脱水するとともに、前記溶融状態で回収した粗製無水マレイン酸を該共沸脱水塔に導入する方法が開示されている。この際、粗製無水マレイン酸の供給段は、マレイン酸含有水溶液の供給段よりも下部が好ましいが、この理由は2つある。その1は、共沸溶媒は水蒸気とともに塔頂部から留出した後に水と分離され共沸脱水塔にリサイクルされるが、そこに若干含まれる無水マレイン酸を加熱して蒸発させるには塔の下部に供給することが有利であること、その2は、回収された粗製無水マレイン酸に含まれる水分を共沸溶媒で追い出すには塔の下部に供給することが好ましいことである。これらの効果が期待できれば供給位置が特に限定されるものではないとされ、詳しい導入位置は記されていない。
【0005】
一方、接触気相酸化反応によって無水マレイン酸を得る場合には、副生するベンゾキノン等の不純物や、さらには無水マレイン酸の精製工程で副生するフマル酸などによって連続製造装置内の閉塞などが生じる場合が多い。
【0006】
連続運転を可能とする無水マレイン酸の製造方法として、特公昭41−3172号公報には、ベンゼンと空気との混合ガスを接触気相酸化して無水マレイン酸を製造する方法であって、無水マレイン酸を含む反応ガスを水と接触して粗マレイン酸含有水溶液を得て、溶融無水マレイン酸中に溶解して該混合溶液を130〜160℃の無水マレイン酸−芳香族炭化水素の混合溶液中に連続的に添加して液相でマレイン酸を脱水する無水マレイン酸の連続製造法が記載されている。無水マレイン酸を脱水するための芳香族炭化水素としては、o−キシレン、サイメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ジクロールベンゼンなどが使用されている。
【0007】
また、特開昭50−50316号公報等は、無水マレイン酸の連続製造方法における不純物による経時的な装置内への堆積、該堆積に基づく閉塞や熱の伝導性の低下などによる弊害を防止するための方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開昭50−50316号公報記載の方法では十分な閉塞防止には至っておらず、特公昭41−3172号公報記載の方法でも満足行くものではない。
【0009】
一方、上記した方法とは異なり、閉塞物の発生を化学的に抑制する方法として、ベンゼンやC4留分炭化水素を接触気相酸化反応して得た反応性ガスを水に吸収して得た粗マレイン酸含有水溶液等から無水マレイン酸を製造するに際して、粗マレイン酸含有水溶液に過酸化水素を添加して濃縮、脱水を行う無水マレイン酸の製造方法が特公平3−76311号公報に開示されている。該公報によれば、粗マレイン酸含有水溶液には各種の不純物が含有され、これらの不純物は原料としてどのような炭化水素を用いた場合にも中間生成物、副生成物として混在するものであり、反応触媒の改質等を行っても完全に防ぐことは困難としている。この原因は、例えばフェノール類とアルデヒド類、キノン類とアルデヒド類による樹脂化またはゲル化が進行したものであって、これによって装置が閉塞するとしている。そして、該粗マレイン酸含有水溶液に過酸化水素を添加して濃縮、脱水を行うと、樹脂状・ゲル化物質の生成が防止できるとしている。しかしながら、副生する蟻酸によって精製装置が腐食するということと、過酸化水素はマレイン酸や無水マレイン酸の重合開始剤として作用するという新たな問題が発生する。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑み、装置等の腐食を生じさせずに閉塞物の発生を防ぎ、長期間の連続運転を可能とする無水マレイン酸の製造方法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、粗マレイン酸含有水溶液を共沸脱水する際の塔内の不純物による汚れや閉塞物について詳細に検討した結果、無水マレイン酸自体が共沸脱水塔内に発生する閉塞物を溶解できること、および該閉塞物の発生部位が粗マレイン酸含有水溶液の供給段と関連することを見出し、特定段に無水マレイン酸を供給することで、共沸脱水塔内の閉塞物を溶解でき、特に閉塞物が蓄積する部位で排発した発泡現象も抑制し、これによって脱水蒸留操作が安定し、長期に亘る連続稼動をなし得る本発明を完成させた。本発明は、粗マレイン酸含有水溶液を、共沸脱水塔に供給して共沸蒸留することによって脱水し、共沸脱水塔の塔底から無水マレイン酸を得る工程を含む無水マレイン酸の製造方法であって、該共沸脱水塔への無水マレイン酸の導入を、当該共沸脱水塔の塔底から数えて、該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数以上であって、かつ該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置以下の範囲にある、部位から行うことを特徴とする無水マレイン酸の製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、粗マレイン酸含有水溶液を、共沸脱水塔を用いて共沸蒸留によって脱水し、共沸脱水塔の塔底から粗無水マレイン酸を得る工程を含む無水マレイン酸の製造方法において、共沸脱水塔内での閉塞を防止するために無水マレイン酸を塔内の特定位置範囲から導入する方法である。詳しくは、粗製および/または精製無水マレイン酸を、該共沸脱水塔の塔底から数えて、該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数以上であって、かつ該粗マレイン酸の供給位置以下の範囲にある、部位の導入口から導入することで、共沸脱水塔の閉塞、特にはフマル酸の析出等を防止して長時間の連続運転を可能とする、無水マレイン酸の製造方法である。
【0013】
粗マレイン酸含有水溶液には、アルデヒド類、キノン類やフマル酸などが不純物として含まれ、このような粗マレイン酸含有水溶液を脱水する方法として、o−キシレン、サイメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シクロールベンゼン等の芳香族系化合物を使用した共沸脱水処理がある。この脱水処理方法では、不純物やその縮合体が閉塞物として共沸脱水塔内の粗マレイン酸含有水溶液の供給段より下段に付着することが多い。この閉塞物の発生原因は明確ではないが、以下の機序によると考えられる。すなわち、従来の共沸脱水溶媒が比較的水に対する溶解度の低い有機溶剤であり、蒸留塔内温度においても水やマレイン酸などとの相溶性がなく、蒸留塔内で粗マレイン酸含有水溶液に含まれる水と共沸溶媒とが油水分離した状態となる。粗マレイン酸含有水溶液に含まれる不純物であるアルデヒド類やキノン類は水溶性であって水相に主に存在するため水相が濃縮されればその濃度が高くなり、アルデヒド類とキノン類との縮合反応が進みやすく、固体析出物を産生する。また、閉塞物の中にはマレイン酸、マレイン酸の異性体であるフマル酸や、マレイン酸および無水マレイン酸の重合体が含まれ、これは、マレイン酸の脱水が進行し水分がほとんど存在しない塔内領域で析出する。実際にこれらの析出物や閉塞物の発生部位は、粗マレイン酸含有水溶液の供給段の下部である。
【0014】
しかしながら、製造目的物である無水マレイン酸が、マレイン酸の異性体であるフマル酸を溶解させ、フマル酸やマレイン酸などの重合体の発生しやすい部位に無水マレイン酸を導入すると、フマル酸を溶解させその析出を防止できることが判明した。図1に無水マレイン酸溶液(有水化したマレイン酸1質量%含有)に対するフマル酸の溶解度を130〜170℃の範囲で測定した結果を示すが、無水マレイン酸は一般的な共沸脱水塔内の温度である130〜170℃の範囲でフマル酸を溶解することが明らかである。無水マレイン酸として共沸脱水塔に供給されたものが、無水マレイン酸のまま存在するか塔内の水分と反応して有水マレイン酸に変化するかは不明であるが、粗マレイン酸含有水溶液の供給段以下は、マレイン酸を無水化するに好適な環境であることを考慮すれば、無水マレイン酸として存在する比率が高いと考えられる。実際、無水マレイン酸がフマル酸による閉塞物を防止することは、無水マレイン酸濃度が高い共沸脱水塔の塔底液でフマル酸の析出による閉塞物が発生しないこととも符号する。そこで、従来フマル酸が原因で閉塞物が発生し、かつ供給した無水マレイン酸が有水化する比率が低い該共沸脱水塔の塔底から数えて、該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数以上であって、かつ該粗マレイン酸の供給位置以下の範囲にある、部位から無水マレイン酸を導入することで、効率的にフマル酸閉塞物を溶解しおよび/または洗い流すこととした。
【0015】
また、共沸脱水塔内では、棚段の段間高さよりも発泡が高くなるいわゆるフラッディングが発生する場合がある。該発泡は、温度コントロールの振れと相俟ってその高さが変化し、フラッディングが生じると安定な稼動が困難となる。従って、この過度の発泡を防止することは、長期連続運転を行なう上で極めて重要な要素である。この発泡現象を詳細に検討したところ、これは共沸脱水塔内で析出したフマル酸の析出結晶が核となって発生することが判明し、無水マレイン酸の導入によってフマル酸の析出が防止されると同時に併せて該発泡も防止でき、より安定な連続運転が可能となった。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
共沸脱水塔への粗マレイン酸含有水溶液の供給段については特に制限されないが、脱水効率を考慮すれば、一般には共沸脱水塔の中段近傍であり、無水マレイン酸が塔頂に留出しない程度の段数が確保できればよい。本発明では、これに該供給位置以下の部位であり、当該共沸脱水塔の塔底から数えて、該マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数以上の範囲、より好ましくは3/4の段数以上の範囲、特には粗マレイン酸含有水溶液の供給段のある、部位から無水マレイン酸を導入することが望ましい。フマル酸の析出を防止し、閉塞並びに発泡を防止するためである。加えて、該位置から無水マレイン酸を導入すると、マレイン酸や無水マレイン酸の重合体およびアルデヒド類とキノン類との縮合物による蒸留塔内の汚れをも低減し閉塞防止の効果があることが判明した。これらの粗マレイン酸水溶液由来や蒸留塔内で発生した汚れ成分が、蒸留塔内に新たに導入された無水マレイン酸によって洗い流されたためと考えられる。
【0017】
具体的には、塔底から粗マレイン酸含有水溶液を供給する位置から塔底までを共沸脱水塔回収部とすると、該回収部の理論段が10段(塔底側を第1段、粗マレイン酸含有水溶液供給段側を第10段とする)の場合には、塔内の不純物による汚れや閉塞が発生する位置は蒸留条件によっても変化するが主として第2〜第8段である。第4段以下に供給しても閉塞物の溶解が不十分となる。その一方、第5〜第10段から導入すれば、無水マレイン酸の流下によって第6〜第8段の汚れも溶解させることができる。また、粗マレイン酸含有水溶液の供給段よりやや下段に少量の縮合物が残存する場合があるが、無水マレイン酸を粗マレイン酸含有水溶液の供給段から導入すれば共沸脱水塔内の閉塞物の残存をほぼ完全に無くすことができ、好ましい。なお、粗マレイン酸含有水溶液を供給する位置から塔頂までを濃縮部と称する。
【0018】
本発明で共沸脱水塔に供給する無水マレイン酸としては、市販品を使用することもできるが、無水マレイン酸の製造工程で得られる粗製無水マレイン酸の一部または全部や最終的に得られる精製無水マレイン酸のいずれも使用することができる。なお、粗製無水マレイン酸とは不純物を含むため更に精製工程を必要とする無水マレイン酸を意味し、例えば、接触気相酸化反応によって無水マレイン酸含有ガスを得た後、これを冷却して回収した無水マレイン酸や、共沸溶媒分離後で精製蒸留前の粗製無水マレイン酸等が例示できる。なお、本発明において共沸脱水塔に導入する「無水マレイン酸」には有水化したマレイン酸やフマル酸等の不純物が含まれていてもよい。接触気相酸化反応によって無水マレイン酸含有ガスを得た後、これを冷却して回収した粗製無水マレイン酸には、通常マレイン酸が0.1〜5質量%および0.01〜0.5質量%のフマル酸が含まれており、これを用いてもフマル酸を溶解しその析出を防止することができるからである。また、該粗製無水マレイン酸を上記範囲で共沸脱水塔に導入するとフマル酸等の閉塞原因成分を溶解し、洗い流せるばかりでなく、粗製無水マレイン酸自体の無水化率を高める効果が得られ、製品無水マレイン酸の収率向上が計れる点でも好ましい。
【0019】
導入する無水マレイン酸量(無水マレイン酸換算)は、粗マレイン酸含有水溶液中のマレイン酸質量に対して0.1〜10質量倍の範囲、より好ましくは0.3〜5質量倍、特に好ましくは0.5〜2質量倍とする。無水マレイン酸の導入量が0.1質量倍を下回ると閉塞原因物質の溶解や洗い流しの効果が少ない場合がある。その一方、10質量倍を越えると、共沸脱水塔の塔径を過度に大きくする必要が生じ、好ましくない。
【0020】
本発明では、共沸溶媒の供給位置は共沸脱水塔の粗マレイン酸含有水溶液の供給位置および/またはこれより上段から共沸溶媒を導入することが好ましい。粗マレイン酸含有水溶液の供給段またはこれより上段から共沸溶媒を導入すると、同じ塔径でも有水マレイン酸の無水化量を多くでき好ましい。実際にも、共沸脱水塔の塔頂から共沸溶媒の大部分を供給すると装置構造を簡略化でき有利である。
【0021】
本発明で供給する共沸溶媒としては、従来公知のものを使用することができる。このような共沸溶媒としては、トルエン、キシレン、オクタン、クメン、メシチレン、サイメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ジクロールベンゼン等の芳香族系化合物などを例示することができる。このような共沸溶媒の使用量は有機溶媒の種類等によって異なり、粗マレイン酸含有水溶液に含まれる水分とマレイン酸の無水化工程で発生する水分との合計量と有機溶媒とによって構成される共沸組成比に応じて適宜選択すればよい。理論量よりもやや過剰の有機溶媒量を使用すると、水をすみやかに共沸脱水塔内から留出できるために好ましい。なお、水に対する共沸溶媒の必要量比が少ないほど熱消費量が少なくなり工業的に有利である。
【0022】
更に、アルデヒド類やキノン類による縮合物の発生を効果的に防止するために、温度20℃の水に対する溶解度が0.1〜5質量%の有機溶媒を共沸溶媒として使用することがより好ましい。水と親和性を有する有機溶剤や共沸混合物を使用して共沸脱水を行なうと、蒸留塔内における上記油水分離状態が緩和され、アルデヒド類とキノン類との塔内濃度が低下して両者による縮合反応が抑制され、同様にマレイン酸、フマル酸およびマレイン酸や無水マレイン酸の重合体等の固体物の析出を抑制できるからである。共沸脱水蒸留を行うにあたって、水と親和性をもつ有機溶媒を使用すると、上記油水分離状態が緩和され、共沸脱水塔内の閉塞物の発生が更に改善されるからである。特に、粗マレイン酸水溶液供給段よりやや下段に付着する縮合物の発生を有効に防止することができる。
【0023】
上記する親水性を有する有機溶媒としては、共沸溶媒として使用できる目的物との反応性のないものであって、温度20℃の水に対する溶解度が0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜4質量%、特に好ましくは1〜3質量%の有機溶媒である。水に対する溶解度が0.1質量%を下回ると、上記した油水分離状態を発生しやすくなり、その一方5質量%を越えると、油水分離状態の改善効果はあるが、共沸脱水蒸留で水とともに塔頂に留出した有機溶媒を冷却後に水と分液して回収利用する場合に、水相へのロス量が大きくなり、分液回収量が減少するために不利となる。なお、溶解度は圧力によっても変動するが、本発明における溶解度は、常圧(1013hPa)での値とする。
【0024】
また、本発明で使用する有機溶媒は、温度20℃(常圧)におけるマレイン酸の溶解度が0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特には1.0質量%以上であることが好ましい。溶解度が高いほど固形析出の防止の効果が大きいからである。本発明で使用する上記の有機溶媒がマレイン酸に対する溶解度が高く、マレイン酸との親和性を有する場合には共沸脱水工程におけるマレイン酸、フマル酸およびマレイン酸や無水マレイン酸重合体等の水溶性の固体物の析出を防止することができるからである。
【0025】
本発明で使用する有機溶媒は、更に、圧力1013hPaにおける沸点が80〜190℃、より好ましくは100〜170℃、特には110〜160℃の範囲のものであることが好ましい。沸点が190℃より高いと無水マレイン酸の沸点と近くなり、有機溶媒とともに留去する割合が高くなるため好ましくない。また、沸点が80℃より低いと蒸留塔内の脱水反応温度が低下して速度が低下し、有利に製造ができなくなるからである。
【0026】
本発明で使用する有機溶媒としては、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−へプタノン等のケトン類、酢酸アミル類、酢酸アリル等のエステル類、メチルシクロヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール等のアルコール類がある。本発明では、特にメチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、2−ヘキサノン等のケトン類や酢酸アリルなどのエステル類を使用することが好ましい。これらのケトン類やエステル類は水との親水性、相溶性を有し、共沸溶媒に対するマレイン酸、フマル酸やマレイン酸重合体等の溶解度が増加し、析出問題を解決することができるからである。特にはケトン類がマレイン酸の溶解度に優れる点で好ましい。上記条件を満足し、無水マレイン酸の製造工程における閉塞物の発生防止効果や溶解性に優れ、かつ目的物であるマレイン酸や無水マレイン酸との反応性がないからである。本発明では、粗マレイン酸含有水溶液の共沸脱水において、上記有機溶媒の1種を単独で使用するほか、2種以上を併用することができる。
【0027】
特に、上記親水性を有する有機溶媒を共沸脱水工程で使用する際には、その使用量は、有機溶媒や共沸混合物の組成比によっても異なるが、粗マレイン酸含有水溶液に含まれる水分および無水化によって発生する水分の合計量1質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲、特には2〜5質量部の範囲であることが好ましい。水に対する有機溶媒の使用量が少なければ、熱消費量が少なくなり工業的に有利となる。
【0028】
以下、本発明の無水マレイン酸の製造方法の好ましい態様の一例を、図2を用いて説明する。なお、図2において、1は反応ガス、10は無水マレイン酸捕集器、11は粗製無水マレイン酸、20は水洗捕集器、21はリサイクル捕集水、30は濃縮装置、40は共沸脱水塔、50は油水分離槽、51は廃水、60は高沸点分離装置、61は残渣、70は溶媒分離塔、71は共沸溶媒、80は精製塔、81は精製無水マレイン酸、90は溶媒回収塔である。
【0029】
まず、図示しない接触気相酸化反応器に原料ガスを供給する。供給原料ガスとしては、接触気相酸化反応によって生成物としてマレイン酸を生ずるものであれば特に制限はなく、無水マレイン酸を製造するために使用されるベンゼンやブタン類の公知の炭化水素を供給原料として用いることができる。本発明では、ベンゼンを接触気相酸化反応の原料とすることが好ましい。原料種の相違によって副生物も相違し、特にベンゼンを原料とする際の副生物によって発生する閉塞物の抑制に効果的だからである。
【0030】
反応器に使用する触媒についても、マレイン酸または無水マレイン酸を生成するものであれば公知の触媒を使用でき、バナジウムを主成分として含有する酸化触媒を用いることができる。このような触媒としては、特開平5−261292号公報、特開平5−262754号公報、特開平5−262755号公報、特開平6−145160号公報に記載される触媒が例示できる。
【0031】
接触気相酸化反応は文字通り酸化反応であるから、原料ガスと共に分子状酸素含有ガスを供給する。このような分子状酸素含有ガスとしては、通常空気が使用されるが、不活性ガスで希釈された空気、酸素を加えて富化された空気等を使用することもできる。
【0032】
反応条件は従来公知の方法を採用できるが、使用する酸化触媒の種類や供給原料濃度、分子状酸素含有ガス濃度等によって適宜変更してもよい。例えば、バナジウム−リン系触媒を用いて、温度を300〜600℃で反応させる。接触気相酸化反応器から排出されるガスには、無水マレイン酸と共に副生する反応成分や原料ガス自体に含有されていた不純物がそのままの形状で、または接触気相酸化され低沸点物質および高沸点物質さらに非凝縮性ガスが排出される。なお、本発明において低沸点物質とは、標準状態においてマレイン酸よりも沸点が低い物質をいい、蟻酸、酢酸、アクリル酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、水等が例示できる。また、高沸点物質とは、標準状態においてマレイン酸よりも沸点が高い物質をいい、無水フタル酸やフマル酸などが例示できる。更に、非凝縮性ガスとは、標準状態で気体の物質をいい、具体的には、窒素、酸素、空気、プロピレン、プロパン、一酸化炭素、二酸化炭素等が例示できる。なお、上記の標準状態とは、常圧1013hPa(1気圧)、温度0℃の状態のことである。
【0033】
ベンゼンの接触気相酸化反応によって得られる反応ガスの組成は、一般に、無水マレイン酸、マレイン酸との合計2〜5質量%、水蒸気を除く低沸点物質として、酢酸、アルデヒド等が0.01〜0.1質量%、キノン類が0.005〜0.05質量%、高沸点物質として無水フタル酸等が0.005〜0.03質量%、残りは非凝縮性ガスと水蒸気である。
【0034】
次に、反応器から排出されたガス(1)を無水マレイン酸捕集器(10)に供給する。無水マレイン酸捕集器(10)では、無水マレイン酸の融点以上、かつ沸点以下、より好ましくは55〜120℃、特に好ましくは60〜100℃で冷却し、無水マレイン酸(11)の一部を液体で捕集する。本発明では、この無水マレイン酸を後記する共沸脱水塔(40)に導入することが好ましい。共沸脱水塔内で発生する閉塞物を溶解し、または洗い流すためであり、特にその一種であるフマル酸を溶解するためである。なお、無水マレイン酸の蒸気圧残分があるためこの冷却後の排ガスにも無水マレイン酸が多量に存在する。このため、このような無水マレイン酸の冷却による捕集工程を行った後には、その後の排ガスを水洗捕集器(20)に供給し、水による排ガスの洗浄によって粗マレイン酸含有水溶液を回収する。
【0035】
水洗捕集器(20)の捕集条件は、従来公知の方法を採用できる。捕集液としては、水を使用することができるが、マレイン酸の濃縮、脱水工程で発生した水または水溶液の一部を捕集液の一部として使用することもできる。塔頂温度は、無水マレイン酸の捕集率を向上させるためには低温であることが好ましく、水洗捕集器(20)に付属させた冷却器(図示せず)を使用して捕集塔塔頂温度を10〜90℃、より好ましくは20〜60℃とする。10℃を下回ると、マレイン酸の溶解度が下がり結晶が析出し、水洗捕集器(20)の圧力損失の増加や液の分散性の悪化による捕集塔(20)の段効率の低下を招く。その上、過量の冷却エネルギーが必要となるからである。一方、90℃を越えると無水マレイン酸の捕集率が低下するからである。
【0036】
該反応ガスは、水洗捕集器(20)では、塔底液のマレイン酸濃度が10〜80質量%、より好ましくは20〜60質量%になるように捕集液(21)を捕集塔の上部から塔内に導入して無水マレイン酸含有ガスと向流接触させて無水マレイン酸を捕集する。マレイン酸濃度が80質量%を上回るとマレイン酸の析出防止のために捕集温度を90℃以上に上げる必要があり、捕集率が低下し、その一方10質量%を下回ると粗マレイン酸含有水溶液の濃縮・脱水工程で留出させる水が多くなり、不経済である。
【0037】
なお、図2と相違して、無水マレイン酸捕集器(10)による液体状態での無水マレイン酸の捕集を行わずに、該反応ガスの全てを水洗捕集器(20)に供給して、粗マレイン酸含有水溶液として捕集してもよい。このような場合には、無水マレイン酸の製造工程の最終製品である精製無水マレイン酸を、共沸脱水塔(40)に供給すればよい。
【0038】
次いで、粗マレイン酸含有水溶液を共沸脱水塔(40)に供給する。この際、粗マレイン酸含有水溶液は、ベンゼンを接触気相酸化して得た反応生成ガスを水捕集したものであることが閉塞防止効果に優れる点、含まれる蟻酸、酢酸、アクリル酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン等の軽沸点物質を同工程で除去できる点で効果的であり好ましい。なお、該粗マレイン酸含有水溶液は、共沸脱水塔(40)に供給される前段階で水を留出させて濃縮してもよい。このような濃縮装置(30)としては、従来公知の棚段塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔に加え、薄膜蒸発器を用いることができる。係る濃縮装置としては、薄膜蒸発器が好ましい。
【0039】
一方、共沸脱水塔(40)としては、無堰棚段塔、有堰棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔を用いることができる。しかしながら、無堰棚段塔、有堰棚段塔、または充填塔であれば、閉塞物発生の抑制効果に優れる点で好ましい。その一方、理論段数が3段以上、より好ましくは4〜20段、特には5〜15段の蒸留塔を用いることが好ましい。3段未満ではマレイン酸と共沸溶媒との接触時間が不足し、脱水率の低下をまねく。また、無水マレイン酸の塔頂への留出が多くなり、無水マレイン酸のロスが増大することになる。このような弊害が生じない程度に必要十分な段数であればよく、あまり段数が多いと設備費が高くなり、不経済である。
【0040】
共沸脱水塔(40)に導入する粗マレイン酸含有水溶液は、無水マレイン酸が塔頂に留出しない程度の段数が確保できておれば公知の供給段のいずれでもよい。また、無水マレイン酸として、無水マレイン酸捕集器(10)から回収した粗製無水マレイン酸(11)の一部または全部および/または共沸溶媒分離塔(20)の塔底液としての粗製無水マレイン酸や、溶媒分離塔(70)の塔底液である精製途中無水マレイン酸(75)、精製塔(80)から得た精製無水マレイン酸(81)の一部を共沸脱水塔の塔底から数えて、粗マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数以上であって、かつ、粗マレイン酸の供給位置以下の範囲にある、部位から導入することができる。
【0041】
また、この際、使用する共沸溶媒としては従来公知のものを使用できるが、より好ましくは少なくとも温度20℃の水に対する溶解度が0.1〜5質量%の有機溶媒を共沸溶媒として使用する。このような有機溶媒としては、上記した各種の有機溶媒があり、特にメチルイソブチルケトン(MIBKと略記する。)を使用することが好ましい。また、共沸脱水条件は使用する共沸溶媒によって異なるため、例えば、共沸溶媒としてMIBKを使用する場合には、該共沸脱水塔(40)には、粗マレイン酸含有水溶液1質量部に対して3〜5質量部のMIBKを供給する。一般には、塔頂圧力(絶対圧)100〜2000hPa、より好ましくは300〜1500hPaとする。100hPaを下回ると真空装置が大型化するばかりでなく、塔内温度が低くなり、マレイン酸やフマル酸が結晶化して蒸留できない場合がある。その一方2000hPaを越えると塔底温度が高くなりリボイラーの大型化の他に重合物が発生し易くなるばかりでなく、高耐圧装置にする必要が生じ不経済である。また、塔頂温度は50〜150℃,より好ましくは60〜130℃である。50℃を下回るとコンデンサンーが大型となり、その一方150℃を越えると塔内でマレイン酸の重合が発生しやすくなるばかりでなく無水マレイン酸の塔頂への留出が多くなり、無水マレイン酸のロスが増大することになる。
【0042】
塔底温度は130〜200℃、より好ましくは150〜195℃である。130℃を下回るとマレイン酸の脱水反応が遅くなり、マレイン酸の脱水不充分となり、無水マレイン酸の収率低下につながる。一方、200℃を超えると無水マレイン酸の分解及び重合が発生しやすくなるからである。このような共沸脱水条件とするために、共沸溶剤の種類や添加量、粗マレイン酸含有水溶液中の水濃度、原料供給段の変更、塔頂に付属させるコンデンサーの還流比、塔段数、温度、圧力、その他の条件を調整すればよい。
【0043】
共沸脱水に用いる共沸溶剤としては、無水マレイン酸の製造工程で回収した共沸溶媒(71)を再使用するものであってもよい。また、図2に示すように共沸溶剤は、共沸脱水塔(40)に直接供給する場合に限られず、供給原料に混在させて共沸脱水塔(40)内に投与してもよい。この場合には、粗マレイン酸含有水溶液系の供給段と共沸溶媒の供給段とが同じ段となる。
【0044】
本発明では、共沸脱水の際に共沸脱水塔(40)の塔頂部に油水分離槽(50)を付属させ、塔頂留出液の共沸溶剤を還流させ、その回収水の一部を無水マレイン酸の捕集液として使用することが出来る。排水量の減少をはかることができ、また還流液はマレイン酸を含有しているので、水洗捕集器(20)に循環させてマレイン酸の回収率を向上させることが有利である。
【0045】
本発明では、共沸脱水の際に共沸脱水塔(40)の塔頂部に油水分離槽(50)を付属させ、塔頂留出液の共沸溶媒を還流させてもよい。共沸溶媒として、水に対して親水性を有するものを使用した場合には、塔頂留出液の水相側に有機溶媒が含まれる。より経済的なプロセスとするためには、この有機溶媒を共沸脱水蒸留塔へ回収して使用することが有利な方法である。塔頂留出液の水相は溶媒回収塔(90)に供給することで、溶解している有機溶媒を蒸留し、塔頂より分離して油水分離槽(50)に送り、共沸脱水蒸留塔で共沸溶媒として回収使用する。また、塔底からは、有機溶媒を含まない回収水として得る。なお、溶媒回収塔(90)としては、従来公知の棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などを使用することができる。
【0046】
共沸脱水塔(40)の塔底液は高沸点分離装置(60)に供給して高沸点物質を分離した後に後工程の精製を行う方法が装置の閉塞を防止することができるため有利な方法である。例えば、接触気相酸化反応によって副生された無水フタル酸、フマル酸や高沸点の重合物や縮合物等が残渣(61)として排出される。
【0047】
ここで高沸点分離装置(60)としては、連続式でもバッチ式でもよく従来公知の棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔に加え、回転式滞留槽型蒸発器や薄膜蒸発器を用いることができる。かかる高沸点分離装置(60)としては、回転式滞留槽型蒸発器や薄膜蒸発器が好ましい。また、上記の形式の装置を単独もしくは複数の組み合わせで、直列または並列に使用することができる。連続式で行う場合には、薄膜蒸発器を直列に2段にして用いることが特に好ましい。
【0048】
高沸点分離装置(60)の蒸留条件は、蒸留塔を使用した場合には、従来公知の蒸留条件で蒸留することができ、例えば、塔頂圧(絶対圧)1〜40kPa、より好ましくは3〜20kPaである。また、塔頂温度は70〜170℃、より好ましくは90〜140℃で稼動させる。また、留出量は、製品中の高沸点不純物の許容量に従い適宜決定することができる。還流比は、通常0.3〜3である。
【0049】
また、高沸点分離装置(60)として薄膜蒸発器を使用した場合には、一般には、温度80〜200℃、より好ましくは110〜180℃とする。
【0050】
次いで、高沸点分離装置から排出されるガス成分にはマレイン酸のほかに、共沸溶剤が残存する場合には、次いで溶剤分離塔(70)に供給して共沸溶剤を分離する。また、共沸脱水蒸留で共沸溶剤をボトムに残存しないかごく微量となるような運転条件とした場合には、この工程を省略することもできる。
【0051】
このような溶剤分離塔(70)としては、棚段塔、充填塔、濡れ壁塔、スプレー塔などの公知の塔を用いることができる。かかる溶剤分離塔(70)は、上記水洗捕集器(20)と同様に、通常、棚段塔または充填塔が好ましい。
【0052】
共沸溶剤分離塔の条件は、従来公知の条件を採用でき、例えば塔頂温度60〜140℃、還流比1〜30、塔頂圧力(絶対圧)10〜60kPaである。なお、高沸点分離装置(60)による高沸点物質の除去工程と溶剤分離塔(70)による共沸溶剤の除去工程とはいずれを先に行ってもよい。
【0053】
従来は、共沸脱水塔(40)の塔内にフマル酸などの固形物が付着し、閉塞原因となっていた。しかしながら、本発明では無水マレイン酸を共沸脱水塔に導入することで、固形物を溶解し、洗い流すことで、連続蒸留稼動が可能な時間を長くすることができる。また蒸留塔内液の発泡現象を抑制できることからよりいっそう安定稼動が達成できる。
【0054】
本発明では、このように共沸溶剤を除去し、および高沸点物質を除去した無水マレイン酸を更に精製塔(80)に供給して精製し、無水マレイン酸(81)を製品としてもよい。なお、精製塔(80)での精製条件は、塔頂絶対圧力2〜40kPa、塔頂温度80〜170℃の範囲であることが好ましく、その他は公知の条件を採用することができる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0056】
(実施例1)
図2に示す工程に従って無水マレイン酸を製造した。まず、ベンゼンの接触気相酸化反応により排出された無水マレイン酸を含む反応ガスを、無水マレイン酸捕集器(10)の出口ガス温度を60℃にコントロールして粗製無水マレイン酸(11)を捕集した。その後、この無水マレイン酸捕集器(10)の出口ガスを水洗捕集器(20)に導入した。ついで、水洗捕集器(20)で該ガスを水で洗浄しついで、マレイン酸42質量%、フタル酸0.10質量%、ホルムアルデヒド1.02質量%を含有する粗マレイン酸含有水溶液を得た。該粗マレイン酸含有水溶液を使用して共沸脱水蒸留操作を行なった。この粗マレイン酸含有水溶液に対して共沸脱水溶剤としてo−キシレンを使用して共沸脱水を行なった。
【0057】
共沸脱水塔(40)として、濃縮部32φ有堰5段、回収部50φ無堰10段、回収部の上5段を開口比9%、下5段を開口比12%、回収部の段間はいずれも90mm、無堰多孔板に設けられた孔の孔径5mmの蒸留塔を使用し、塔底から数えて第10段目から粗マレイン酸含有水溶液を518g/hrで供給した。
【0058】
共沸溶媒は、粗マレイン酸含有水溶液に含まれる水分と無水化によって発生する水分に対し3.3質量倍を塔頂から導入した。該投入量は、1100g/hrとした。
【0059】
また、無水マレイン酸として精製無水マレイン酸を、共沸脱水塔(40)の粗マレイン酸含有水溶液供給段から218g/hrで供給し、常圧、塔底温度170℃で8時間共沸脱水を行なった。なお、塔底滞留時間は、4.2時間であった。
【0060】
塔内でのフマル酸の析出や発泡現象、析出物量を目視で観察した。結果を表1に示す。なお、表1において共沸脱水塔内の付着物は以下のごとく区別した。蒸留操作中または操作後での塔内の観察において結晶状の白色物質の析出物をフマル酸と判断した。また黒色の付着物のうち、蒸留操作後に蒸留塔を水もしくは温水で洗浄して除去できる黒色付着物がマレイン酸および無水マレイン酸の重合体とした。また、水または温水で洗浄除去することができず、0.1N水酸化ナトリウム希釈水溶液での除去作業が必要な黒色付着物を縮合物と判断した。表1から明らかなように、蒸留塔内への精製無水マレイン酸の投入により、粗マレイン酸含有水溶液投入位置より下段での発泡高さが3〜5cm程度と少なくなり安定に運転することができた。また固体フマル酸の析出もわずかに回収部中央付近にあるのみでほとんど見られなかった。蒸留運転8時間を安定的に稼動させることができることを確認した。また黒色の付着物量も後記した無水マレイン酸を蒸留塔内に投入しない比較例1の場合と比べて1/3以下程度であった。この付着物は、マレイン酸や無水マレイン酸の重合体と縮合物の混合物であった。
【0061】
(実施例2)
実施例1において使用した精製無水マレイン酸に代えて、無水マレイン酸捕集器(10)から得た粗製無水マレイン酸(11)を使用した以外は、実施例1と同様に操作した。なおこの粗製無水マレイン酸(11)には、有水化したマレイン酸が0.3質量%含まれていた。結果を表1に示す。表1から明らかなように、蒸留塔内への粗製無水マレイン酸の投入により、粗マレイン酸含有水溶液の供給位置より下段での発泡高さが3〜5cm程度と少なくなり安定に運転することができた。また固体のフマル酸の析出もわずかに回収部中央付近にあるのみでほとんど見られなかった。また、蒸留運転8時間を安定的に稼動させることができた。黒色の付着物量は無水マレイン酸を蒸留塔内に投入しない比較例1の場合と比べて1/2程度であった。この付着物は、マレイン酸や無水マレイン酸の重合体と縮合物の混合物であった。
【0062】
(比較例1)
無水マレイン酸を導入しない以外は実施例1と同様に操作した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、粗マレイン酸含有水溶液の供給段より下段での発泡高さは7〜8cmであり、段間高さ10cmに近づくこともあった。また固体フマル酸が析出し、蒸留塔回収部9〜14段のトレー上で、液中でのフマル酸結晶の析出があった。また稼動時間が経過するに従って蒸留塔の塔底から1〜6段目での黒色の付着物量が増加した。稼動中、温度コントロールの振れと固体フマル酸の析出や粘着物の付着によるものと考えられる原因によって発泡高さが変化して段間高さより高くなるフラッデイングを起こすことがあり、安定的に稼動させることが困難であった。また黒色の付着物はマレイン酸や無水マレイン酸の重合体と縮合物の混合物であった。
【0063】
(比較例2)
実施例1において精製無水マレイン酸の導入位置を塔底から数えて第3段目とした以外は、実施例1と同様に操作した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、無水マレイン酸の導入位置を塔底から数えて、粗マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数より、塔底に近い位置にすると、粗マレイン酸含有水溶液の供給段より下段での発泡高さは塔底から粗マレイン酸含有水溶液の供給段に向かって6〜7段目付近の最も激しい位置で7〜8cmとなり、段間高さ10cmに近づくこともあった。これは無水マレイン酸の導入段より上段の回収部で固体フマル酸が析出していたことが原因である。また稼動時間が経過するに従って、特に無水マレイン酸の導入段より上段の回収部での黒色の付着物が増加した。また、蒸留運転8時間は稼動させることができたが、黒色の付着物量は無水マレイン酸を蒸留塔内に投入しない比較例1の場合と比べて2/3程度であった。この付着物は、マレイン酸や無水マレイン酸の重合体と縮合物の混合物であった。
【0064】
(実施例3)
実施例1において使用した共沸溶媒に代えて、メチルイソブチルケトンを粗マレイン酸含有水溶液に含まれる水分と無水化によって発生する水分に対して3.5質量倍を塔頂から供給した。また無水マレイン酸として粗製無水マレイン酸(11)を粗マレイン酸水溶液と同じ供給段から導入した。770hPa、塔底温度190℃で8時間共沸脱水を行った。その他の条件は実施例1と同様に操作した。結果を表1に示した。粗マレイン酸含有水溶液の供給位置より下段での発泡高さは3cm程度であり安定に運転することができた。また固体のフマル酸の析出や、マレイン酸や無水マレイン酸の重合体そして縮合物である黒色の付着物も全く蒸留塔内には見られなかった。また蒸留時間8時間を安定的に稼動させることができ、さらには16時間まで稼動したが蒸留塔内には析出物や付着物は全く無く安定的に稼動した。
【0065】
(比較例3)
無水マレイン酸を供給しない以外は実施例3と同様に操作した。結果を表1に示す。粗マレイン酸含有水溶液の供給位置より下段での発泡高さが3cm程度であり安定に運転することができた。縮合物である黒色の付着物が粗マレイン酸含有水溶液の供給段のすぐ下段にわずかに観察された。また共沸脱水塔回収部中央付近にフマル酸の結晶がごく少量ではあるが器壁に付着していることが観察された。また蒸留時間8時間を安定的に稼動させることができ、さらには16時間まで稼動したが安定的に稼動した。
【0066】
【表1】
Figure 0004812204
【0067】
(参考例1)
図1に示す無水マレイン酸中のフマル酸溶解度は、以下によって測定した。
【0068】
ガラス製300mlのフラスコに精製無水マレイン酸200gを入れ、内温が170℃になるまで昇温した。なお、無水マレイン酸には、1質量%のマレイン酸が含まれていた。この無水マレイン酸にフマル酸を過飽和状態になるまで添加した。その後温度設定値を下げ、130℃、150℃、170℃の各温度でのフマル酸の溶解量(質量%)を測定した。フマル酸は温度130〜170℃の範囲で無水マレイン酸に溶解することが判明した。なお、フマル酸は、リン酸水溶液を溶離液としてODSカラムを使用した液体クロマトグラフィーを用いて定量を行なった。またマレイン酸の含有量は、以下の方法で測定した。
【0069】
(マレイン酸含有量の測定)
(i)50mlビーカーに測定サンプル(無水マレイン酸)約1gを秤量して入れた。
【0070】
(ii)該ビーカーにアセトン30ml、プロムフェノールブルー指示薬のエタノール溶液を5〜6滴加えた。
【0071】
(iii)ビューレットを用いて、N/10 n−エチルピペリジンのアセトン溶液で、黄色から青紫色に変わる点まで滴定し、その滴定量をB値とした。
【0072】
(iv)以下の式によりマレイン酸質量%を算出した。
【0073】
【数1】
Figure 0004812204
【0074】
ここで力値は以下の方法で求めた値である。
【0075】
(v)マレイン酸約0.2gを秤量してアセトンで30mlとした。上記のプロムフェノールブルー指示薬溶液を5〜6滴加え、N/10 n−エチルピペリジンのアセトン溶液で滴定し、その滴定量をA値とした。
【0076】
【数2】
Figure 0004812204
【0077】
【発明の効果】
無水マレイン酸を共沸脱水塔に導入することで、閉塞原因物質であるフマル酸を溶解し蒸留塔底液中に洗い落とし、連続蒸留稼動が可能な時間を長くすることができる。また蒸留塔内のフマル酸等析出物の発生を抑制することで稼動時の蒸留塔内液の発泡現象を抑制できることからよりいっそうの安定稼動が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、異なる濃度のマレイン酸含有水溶液における、温度130〜170℃のおけるフマル酸の溶解度を示す図である。
【図2】 図2は、本発明における無水マレイン酸の製造方法の好ましい製造方法の工程図である。
【符号の説明】
1…反応ガス、
10…無水マレイン酸捕集器、
11…粗製無水マレイン酸、
20…水洗捕集器、
21…リサイクル捕集水、
30…濃縮装置、
40…共沸脱水塔、
50…油水分離槽、
51…廃水、
60…高沸点分離装置、
61…残渣、
70…溶媒分離塔、
71…共沸溶媒、
75…精製途中無水マレイン酸、
80…精製塔、
81…精製無水マレイン酸、
90…溶媒回収塔。

Claims (6)

  1. 粗マレイン酸含有水溶液を、共沸脱水塔に供給して共沸蒸留することによって脱水し、該共沸脱水塔の塔底から無水マレイン酸を得る工程を含む無水マレイン酸の製造方法であって、該共沸脱水塔への無水マレイン酸の導入を、該共沸脱水塔の塔底から数えて、該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置までの間の理論段数の1/2の段数以上であって、かつ該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置以下の範囲にある、部位から行うことを特徴とする無水マレイン酸の製造方法。
  2. 該無水マレイン酸の導入量が、粗マレイン酸含有水溶液中のマレイン酸量に対して0.1〜10質量倍である、請求項1記載の方法。
  3. 共沸溶媒を、該粗マレイン酸含有水溶液の供給位置および/またはこれより上段から導入することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
  4. 該共沸脱水塔が、理論段数が3段以上の蒸留塔である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 該共沸脱水塔が、無堰棚段塔、有堰棚段塔、または充填塔のいずれかである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 該共沸脱水塔に導入する無水マレイン酸が、接触気相反応によって無水マレイン酸含有ガスを得て、これを冷却して捕集したものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
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