JP4812174B2 - 鉛蓄電池用極板群体の製造方法および鉛蓄電池 - Google Patents

鉛蓄電池用極板群体の製造方法および鉛蓄電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、正,負の両極板をこれらの間にセパレータを介在して交互に積層した極板群上に、正,負の各極板の各々の極板リードを個々に接続するストラップを形成すると同時に極柱電極をストラップに接合してなる鉛蓄電池用極板群体を製造する方法およびその極板群体を用いて構成した鉛蓄電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉛蓄電池の分解斜視図を示す図4のように、鉛蓄電池の極板群体13は、それぞれ複数枚の正極板1および負極板2をこれらの間にセパレータ3を介在して交互に積層することにより、極板群4を構成し、正,負の各極板1,2にそれぞれ突出形成された正,負の極板リード7,8上に正極板側ストラップ9および負極側ストラップ10を形成して、各正極板リード7を正極板側ストラップ9によって相互に接続するとともに、各負極板リード8を負極板側ストラップ10によって相互に接続し、さらに、正,負の極板側ストラップ9,10に正極板側および負極板側の極柱電極11,12を接合して製造される。ここで、以下の説明を明確にするために、各複数枚の正,負極板1,2をこれらの間にセパレータ3を介在して交互に積層した状態を極板群4とし、この極板群4にストラップ9,10および極柱電極11,12を設けた状態を極板群体13として呼称を統一するものとする。
【0003】
上記極板群4にストラップ9,10および極柱電極11,12をそれぞれ形成して極板群体13を製造するに際しては、図6に示すように、当て金部17および櫛部18からなる溶接治具14を用いて手作業で溶接または自動的に溶接する製造方法が一般に採用されている。同図では、正極板リード7に正極板側ストラップ9および正極板側極柱電極11をそれぞれ形成する場合を例示してあるが、負極板リード8に負極板側ストラップ10および負極板側極柱電極12をそれぞれ形成する場合も同様に行われる。
【0004】
先ず、同図(a)に示すように、当て金部17と櫛部18とは、列設された各正極板リード7の間に櫛部18の櫛歯18aをそれぞれ挿入させた状態で互いに突き合わされることにより、正極板1は、これの各極板部と各正極板リード7との間が遮蔽されるとともに、当て金部17の凹所17aと櫛部18の上面とによって形成すべき正極板1側の外形形状に相当する凹部28が形成される。つぎに、(b)に示すように、当て金部17の凹所17aにおける所定箇所には正極板側極柱電極11が位置決めして載置される。
【0005】
続いて、(c)に示す溶接工程では、上述の当て金部17の凹所17aと櫛部18の上面とによって形成された凹部28内に溶融鉛19が充填される。この溶融鉛19が凝固したのちに、(d)に示すように、溶接治具14が取り外されると、上記溶融鉛19が凝固して所定形状の正極板側ストラップ9が形成されるとともに、正極板側極柱電極11の基部が正極板側ストラップ9に接合される。上述した作業は負極板2についても同様に実施されて、極板群体13が形成される。
【0006】
上記(c)の溶接工程は、上述したように手作業で実施する場合と自動溶接による場合とがある。手作業で実施するときには、極板群4の極板リード7,8の部分に溶接治具14をセットするとともに極柱電極11,12を所定位置に載置して、作業者がバーナーで鉛棒と極板リード7,8とをを溶解させながら、溶解した鉛19を凹部28内に充填する。この手作業による溶接工程では、作業者の熟練度によって仕上がりに差が生じ、良好な仕上がり状態は作業者の勘やコツに頼らざるを得ず、一定の品質を得ることが困難であり、しかも、ガスや蒸気が発生する作業環境の悪いことにも問題がある。
【0007】
一方、自動溶接による場合は、所定加工位置に搬入された極板群4に溶接治具14および極柱電極11,12がセットされ、溶接治具14の凹部28内に供給された固形の鉛棒と極板リード7,8とをバーナーで溶解させながら各極リード7,8と極柱電極11,12とを接合したストラップ9,10を形成する。この自動溶接による場合には、鉛棒の供給位置のずれによって極板リード7,8が局部的に加熱されて溶け落ち、極板リード7,8の幅が縮小が生じたりする欠点がある。
【0008】
また、従来では、固形の鉛棒をバーナーで溶解させる溶接工法に代えて、予め溶融させた鉛によってストラップを形成して電極群体を製造する方法(特開昭53-36645号公報参照)も開発されている。この製造方法における溶接工程では、極板群4を各極板リード7,8が横向きとなる配置に横倒し状態に設置して、極板リード7,8部分にセットした金型内に溶融鉛を注入し、その溶融鉛の凝固によってストラップ9,10を形成している。ここで、極板群4を横倒し状態に設置しているのは、極板リード7,8を上方を向いた配置とすると,溶融鉛が溶接治具14の櫛部18の櫛歯18aと各極板リード7,8との隙間から極板1,2の板面部分まで侵入して極板部を電気的に短絡してしまうからである。ところが、この製造方法では、溶接工程において、比較的重量の大きい極板群4を倒したり起こしたりする面倒な作業が必要となり、作業効率が低下するだけでなく、極板1,2の積層状態に変化を与えるおそれがある。
【0009】
そこで、本件出願人は、上記溶融鉛を用いながらも、上述の課題を解消することのできる鉛蓄電池用電極群体の製造方法を既に提案している(特開平11-86835号公報参照)。この製造方法を図6を参照しながら説明すると、極板群4は、(a),(b)に示したように、極板リード7,8が上方を向いた配置に設置し、この極板群4には、櫛歯18aを極板リード7,8の隙間に挿入させた状態で溶接治具14を装着し、且つ極柱電極11,12を所定位置に載置する。つぎに、溶融鉛19は、これが極板リード7,8と櫛歯18aとの隙間内に侵入しない温度と圧力に調整した上で溶接治具14の凹部28内に注入することにより、この注入した溶融鉛19の速やかな凝固により各極板リード7,8および極柱電極11,12を一体的に仮固着させる。そののち、各極板リード7,8および極柱電極11,12の基部の形状に沿って加熱手段で加熱することにより、凝固鉛層を再溶解させるとともに各極板リード7,8および極柱電極11,12の基部を溶解させて、これらを互いに接合している。
【0010】
ところで、近年では大電流を取り出すことのできる鉛蓄電池が要望されている。例えば、携帯電話機の基地局では、停電時のバックアップ用として、1500Ah程度の大電流を取り出すことのできる鉛蓄電池が要望されている。このような大電流を取り出すことのできる鉛蓄電池を得るには、ストラップ9,10を大きな厚みに形成することが必要となるが、そのような大きな厚みを有するストラップ9,10は、上記した本件出願人による鉛蓄電池用電極群体の製造方法を採用して形成することができない。
【0011】
その理由は、所要の大きな厚みを有するストラップを形成するのに必要な大量の溶融鉛を溶接治具の凹部内に注入して、この溶融鉛の凝固により各極板リードおよび極柱電極を一体的に仮固着させたのち、バーナーまたは溶接トーチなどの加熱手段による加熱によって凝固鉛層を再溶解させるとともに各極板リードおよび極柱電極の基部を溶解させて、これらを互いに接合して一体化する際に、加熱手段による凝固鉛層に対する溶解深さが、凝固鉛層における各極板リードおよび極柱電極の基部の埋設深さまで到達しない。そのため、極板リードおよび極柱電極の基部は溶解しない状態で凝固鉛層に固定されることから、極板リードおよび極柱電極の基部と凝固鉛層とは、これらの間に酸化界面が形成されて互いに不十分な接合状態で一体化されてしまうことになるからである。
【0012】
そのため、現在では、比較的大きな厚みを有するストラップを形成するに際して、図7に示すように、作業者の手作業による溶接工程を2回繰り返す製造方法が極めて一般的に採用されている。すなわち、(a)に示す1回目の溶接工程では、極板群4の極板リード7または8に溶接治具14をセットするとともに、極柱電極(図示せず)を所定位置に載置して、作業者による手作業によって鉛棒20をバーナー21で溶解させながら、鉛棒20による溶融鉛22を溶接治具14の凹部28に対しこれの深さの半分程度まで注入すると同時に、バーナー21で各極板リード7または8における溶接治具14の凹部28内への突出部分を溶解している。この1回目の溶接工程では、(b)に示すように、各極板リード7または8と極柱電極11または12とが凝固鉛層23によって接合されて一体化される。
【0013】
つぎに、(c)に示す2回目の溶接工程では、やはり作業者による手作業によって鉛棒20をバーナー21で溶解させながら、鉛棒20による溶融鉛22を溶接治具14の凹部28内の凝固鉛層23の上面に所要の厚みになるよう重ね溶接する。この2回目の溶接工程が終了したのちに溶接治具14を取り外せば、凝固鉛層23による所定厚みを有するストラップ9または10を有する極板群体13が得られる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の2回の溶接工程を繰り返して形成されたストラップ9または10には、1回目の溶接工程と2回目の溶接工程とでそれぞれ形成した凝固鉛層23による鉛層の接合境界面箇所に、未溶接による酸化被膜層24が部分的に残存してしまうという課題がある。すなわち、1回目の溶接工程の終了時には、図7(b)に示すように、凝固鉛層23による鉛層の表面全体に酸化被膜層24が形成され、2回目の溶接工程では、バーナー21の炎で鉛棒20を溶解させると同時に1回目の溶接工程の凝固鉛層23による1層目鉛層の上層部分をも溶解させて酸化被膜層24を除去するように図っているが、同図(c),(d)に示すように、どうしてもバーナー21の炎が当たらない未溶接箇所が生じて酸化被膜層24が部分的に残存してしまう。
【0015】
そのため、上記極板群体を用いて構成した鉛蓄電池では、残存している酸化被膜層24が放電時に比較的大きな電気抵抗となるから、大電流の取り出しを目的として厚みの大きなストラップ9または10を形成しているにも拘わらず、酸化被膜層24の存在によって所望の大電流を取り出せないという結果を招いている。また、酸化被膜層24の残存量が多い場合には、鉛蓄電池が急放電したときに酸化被膜層24が大きな電気抵抗となってストラップ9または10が1層目と2層目との各鉛層の接合境界面に沿って溶断してしまうトラブルが発生するおそれもある。
【0016】
さらに、(c),(d)に示すように、ストラップ9,10の側面において外部に露呈された状態で酸化被膜層24Aが残存した場合には、この酸化被膜層24Aから1層目と2層目の接合境界面に沿って腐食が進行してしまい、電池として機能しなくなるという問題もある。さらにまた、鉛棒20をバーナー21の炎で溶解させる溶接手段では、2回目の溶接終了後の凝固鉛層23が均一な厚みにならないので、その凝固鉛層23の表面部分を再びバーナー21の炎で溶解させて均一な厚みに仕上げなければならない。
【0017】
また、上述した従来の極板群体13の製造方法では、一層厚みの大きなストラップが必要となった場合、鉛棒20をバーナー21の炎で溶解させる溶接工程を2回以上繰り返すことになるが、その各溶接工程でそれぞれ形成される鉛層の複数の接合境界面に何れも酸化被膜層が部分的に残存することになり、上述した不具合の度合いが一層大きくなってしまう。そのため、従来の製造方法では、厚みの一層大きなストラップを有する極板群体を製造することが事実上不可能である。
【0018】
そこで、本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたもので、酸化被膜層の残存を確実に防止しながら厚みの大きなストラップを高精度に形成することのできる鉛蓄電池用極板群体の製造方法およびその極板群体を用いて構成した鉛蓄電池を提供することを目的とするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、正負両極の複数の各極板をこれらの間にセパレータを介在しながら交互に積層して極板群を形成し、前記各極板に突出形成された極板リードの正極列および負極列のそれぞれに、前記各極板リードを連結接合するとともに極柱電極を接合するストラップを設けることによって極板群体を製造する鉛蓄電池用極板群体の製造方法において、前記極板リードの正極列および負極列のそれぞれについて、前記ストラップの外形形状に相当する凹部が形成された溶接治具を装着するとともに、前記凹部内の所定位置に前記極柱電極を載置し、前記凹部内に溶融鉛を注入して前記極板リードの先端近傍まで充填し、前記溶融鉛が凝固した凝固鉛層、前記極板リードおよび前記極柱電極の基部をそれぞれ加熱手段による加熱により溶解させて相互に接合し、所定量の溶融鉛を前記凹部内にさらに注入したのち、この溶融鉛が凝固した凝固鉛層および前工程により形成した凝固鉛層の上層部をそれぞれ加熱手段による加熱により再溶解させて相互に接合する工程とを少なくとも回行い、1回目に注入した溶解鉛による凝固鉛層を再溶解させる工程では、前記加熱手段を極板リードおよび極柱電極の基部をトレースする軌跡で移動させ、2回目以降に注入した溶解鉛による凝固鉛層を再溶解させる工程では、前記加熱手段を、極板リードの配列方向に対し直交方向に向けた移動をUターンしながら繰り返して前記極板リードの全てを順次トレースするような軌跡で移動し終えたのちに、前記極柱電極の基部を通過しながら前記凝固鉛層の外周に沿って1周する軌跡で移動させ、複数回に分けて注入した前記溶解鉛による前記各凝固鉛層の接合によって前記ストラップを形成するようにしたことを特徴としている。
【0020】
この鉛蓄電池用極板群体の製造方法では、1回目に注入した溶融鉛の凝固鉛層によって極板リードと極柱電極の基部とを仮固着でき、つぎに、加熱手段で加熱することにより、凝固鉛層を再溶融させると同時に、各極板リードにおける凹部への突出部分および極柱電極の基部を溶解させて、これらを相互に融合させて完全に接合することができ、続いて、所定量の溶融鉛を少なくとも1回注入することにより、形成すべきストラップの外形形状とすることができ、さらに、溶融鉛が凝固した凝固鉛層および前工程による凝固鉛層の上層部分を、加熱手段で加熱して再溶融させることによって相互に融合して完全に接合させることができるとともに、前工程による凝固鉛層の上層部分に残存していた酸化被膜層を完全に除去できる。したがって、2回目以降の所定量に分けた溶融鉛の注入および凝固鉛層の再溶融の工程を所要回数行うことにより、大きな厚みを有しながらも酸化被膜層の残存が全く無く、且つ極板リードと極柱電極とを電気的に完全に接合できる高精度なストラップを容易、且つ確実に形成することができる。
【0021】
上記発明における加熱手段として、TIG溶接装置のプラズマトーチを用いることが好ましい。これにより、プラズマトーチによるプラズマ溶接は、プラズマトーチの先端周囲から不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスを吹き付けながら中心部のアークプラズマにより加熱するので、鉛酸化物の生成が少なく、且つ加熱が集中的になされることから歪みの発生が少なく、各極板リードおよび極柱電極の基部とその周囲を集中的に加熱溶融させることができる。
【0023】
これにより、1回目の工程では、各極板リードおよび極柱電極の基部とその周辺の凝固鉛層とが重点的に溶解され、各極板リードおよび極板電極を一体的に融合させて接合したストラップの下方の一部を高精度に形成することができる。また、2回目以降の工程では、各極板リードおよび極柱電極とその周辺を含む凝固鉛層全体および全工程の凝固鉛層の表面全体を未溶接部分が生じないように確実に溶解することができるから、各極板リードおよび極板電極が一体的に融合して接合され、且つ所要の大きな厚みを有するとともに内部に酸化被膜層が全く残存しないストラップを得ることができる。
【0024】
本発明に係る鉛蓄電池は、本発明の何れかの製造方法で製造された極板群体が電槽内に収容され、且つ前記電槽内に電解液が注入され、前記極柱群体の正負両側のストラップが蓋体の正負両側の端子に接続され、前記電槽の開口部が前記蓋体で閉塞されてなることを特徴としている。
【0025】
この鉛蓄電池では、本発明の製造方法によって製造される正,負の両極板側ストラップを、所要の大きな厚みを有するとともに、酸化被膜層の全てを完全に除去した状態に形成できるから、所定の大きな電流を確実に取り出すことができるとともに、長期間にわたりストラップに溶断や腐食などが生じるおそれがないので、十分な電池寿命を確保できる高い信頼性を有するものとなる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1(a)〜(h)は、本発明の一実施の形態に係る鉛蓄電池用極板群体の製造方法を具現化した製造過程を工程順に示した概略縦断面図である。なお、この製造方法に係る製造工程は、例えば、本件出願人による上述した特開平11-86835号公報に開示の鉛蓄電池用極板群体の製造装置(以下、先行技術の製造装置と称する)を採用して具現化できるが、この製造装置自体は本発明の要旨ではないので、その図示を敢えて省略する。
【0027】
図1には、(a)〜(d)による1回目の溶接工程と、(e)〜(h)による2回目の溶接工程とを実施することにより、図4に示した正極板側ストラップ9を形成する場合を例示しているが、負極板側ストラップ10についても、図1(a)〜(h)と同様の工程を経て形成できるので、図1(a)〜(h)には、正極側の各部材にこれに対応する負極側の各部材の符号を括弧付きで関連付けて付してある。
【0028】
先ず、同図(a)に示すように、極板群4は正極板リード7を上向きにした直立状態に配置され、この極板群の正極板リード7のリード列に溶接治具14を図6(a),(b)に示した手順で組み合わせて装着し、その組み合わせた溶接治具14に形成された凹部28内に溶融鉛27を注入する。凹部28は形成すべきストラップの外形に相当する形状を有しており、この実施の形態では、比較的大きな厚みを有する正極板側ストラップ9を得るために、これに対応した大きな深さを有する凹部28が形成されている。また、溶融鉛27は、図示矢印方向に移動される注入ノズル29の注出口29aから凹部28内に注入される。
【0029】
なお、上記注入ノズル29は先行技術の製造装置に開示したものと同一であって、簡単に説明すると、この注入ノズル29は、370 °C〜390 °Cに加熱して溶融させた溶融鉛27の貯留槽における底部の吐出口に連通されて、サーボモータを備えた移動機構による制御を受けて所定速度で正極板リード7の列設方向に沿って移動されながら、凹部28に溶融鉛27を注入していく。また、溶融鉛27は、先行技術の製造装置に開示しているように、移動に伴って凹部28の各箇所毎に異なる容積に応じた所定量を供給するよう制御され、且つ移動方向に向け広げて放熱を促されながら注入圧を抑制した状態で注入される。これにより、凹部28内に注入された溶融鉛27は、速やかに凝固するので、各正極板リード7と溶接治具14の櫛部18の櫛歯18aとの隙間から侵入して正極板1を短絡するといった不具合の発生が確実に防止される。上記隙間の発生は、正極板リード7の形成厚さの誤差によって生じるものであって、溶接治具14の装着時における正極板リード7の損傷や削り屑の発生を防止するために不可避である。
【0030】
上記のようにして溶接治具14の凹部28内に溶融鉛27の注入が終了すると、(b)に示すように、溶接治具14の凹部28内には、これのほぼ深さの半分まで溶融鉛27が充填されて、形成すべき正極板側ストラップ9の半分の厚みを有する形状の凝固鉛層30が出来上がり、この凝固鉛層30によって正極板リード7と図6の正極板側極柱電極11の基部とが仮固着される。また、凝固鉛層30の表面には酸化被膜層31が形成される。
【0031】
(b)に示す状態は、正極板リード7と正極板側極柱電極11とが、これらの表面に存在する酸化膜や汚れなとによって電気的に完全な接合状態になっていないので、これを完全な接合状態とするために、周知のTIG(タングステン・イナートガス)溶接装置を用いた凝固鉛層30の再溶解が実施される。すなわち、(c)に示すように、凝固鉛層30の表面を上記TIG溶接装置のプラズマトーチ32で加熱することにより、凝固鉛層30を再溶融させると同時に、各正極板リード7における凹部28への突出部分および正極板側極柱電極11の基部を溶解させて、これらを相互に融合させて完全に接合する。このプラズマトーチ32によるプラズマ溶接は、プラズマトーチ32の先端周囲から不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスを吹き付けながら中心部のアークプラズマにより加熱するので、鉛酸化物の生成が少なく、且つ加熱が集中的になされることから歪みの発生が少なく、各正極板リード7および正極板側極柱電極11の基部とその周囲を集中的に加熱溶融させることができる。
【0032】
上記のプラズマトーチ32の加熱による凝固鉛層30の再溶融は、凹部28の底面付近の一定の深さで溶融が進行するようにプラズマトーチ32の移動速度と出力電圧が制御される。この制御により、正極板リード7の正極板1側に直火が当たることがなく、正極板リード7が正極板1側で溶け落ちて欠落することによる通電発熱が生じることがない。
【0033】
図2は、(c)の工程におけるプラズマトーチ32の移動軌跡を示す説明図である。プラズマトーチ32は、図示矢印で示すように、各正極板リード7および正極板側極柱電極11の基部をトレースするような軌跡で移動される。このプラズマトーチ32の移動は、これを保持する軸ロボット(図示せず)の動作を制御することにより行われる。
【0034】
プラズマトーチ32を上述の軌跡で移動させることにより、各正極板リード7および正極板側極柱電極11とその周辺の凝固鉛層30とが重点的に溶解され、図1(d)に示すように、各正極板リード7および正極板側極柱電極11を一体的に融合させて接合したストラップ半部33が形成される。このストラップ半部33の表面には酸化被膜層34が形成される。この酸化被膜層34は、上述のようにプラズマトーチ32の混合ガスを吹き付けながら中心部のアークプラズマにより加熱したのちに形成されたものであるから、従来の鉛棒20をバーナー21の炎で溶解させる溶接工程で形成された図7の酸化被膜24に比較して薄いものである。
【0035】
上記ストラップ半部33が形成が終了したならば、続いて、2回目の溶接工程が実施される。この2回目の溶接工程では、(a)の工程で用いたと同じ注入ノズル29を図示矢印で示す正極板リード7の列設方向に移動させながら、その注入ノズル29の注出口29aから所定量の溶融鉛27を溶接治具14の凹部28内のストラップ半部33上に注入する。この場合の溶融鉛27は、ストラップ半部33上に注入するので、(a)の工程のように温度や圧力を制御することなく、貯留槽に貯留されている溶融鉛27をそのまま注入することができる。
【0036】
上記のように溶接治具14の凹部28内に溶融鉛27の注入が終了すると、(f)に示すように、溶接治具14の凹部28内には、ストラップ半部33上に凝固鉛層37が重ね合わされて、このストラップ半部33と凝固鉛層37とにより、形成すべき正極板側ストラップ9の外形形状に相当する形状が出来上がる。但し、ストラップ半部33と凝固鉛層37とは、これらの境界面に酸化被膜層34が残存したままであるから、電気的に完全な接合状態になっていない。
【0037】
続いて、(g)に示すように、(c)の工程で用いたと同じTIG溶接装置を用いた凝固鉛層37の再溶解が実施される。これにより、凝固鉛層37は、TIG溶接装置のプラズマトーチ32のアークプラズマで加熱されることによって再溶融して、予め形成されているストラップ半部33に対し相互に融合して完全に接合する。すなわち、プラズマトーチ32による加熱は、ストラップ半部33の表面付近に設定した一定の深さで溶融が進行するようにプラズマトーチ32の移動速度と出力電圧を制御して行われるので、残存していた酸化被膜層34が完全に除去され、また、プラズマトーチ32によるプラズマ溶接は、上述したようにプラズマトーチ32の先端周囲から不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスを吹き付けながら中心部のアークプラズマにより凝固鉛層37およびストラップ半部33の表面部分を集中的に加熱溶融するので、凝固鉛層37とストラップ半部33とが相互に融合して完全に接合する。
【0038】
図3は、図1(g)の工程におけるプラズマトーチ32の移動軌跡を示す説明図である。プラズマトーチ32は、図示矢印で示すように、正極板リード7に沿いながら凝固鉛層37およびストラップ半部33の幅方向つまり正極板リード7の列設方向に対し直交方向へ向けた移動をUターンしながら繰り返して、各正極板リード7の全てを順次トレースするような軌跡で移動し終えたのちに、正極板側極柱電極11の基部を通過しながら凝固鉛層37およびストラップ半部33の外周に沿って一回りするような軌跡で移動される。
【0039】
上記プラズマトーチ32の移動は、(c)の工程と同様に、プラズマトーチ32を保持する軸ロボットの動作を制御することにより行われる。プラズマトーチ32を上述の軌跡で移動させることにより、各正極板リード7および正極板側極柱電極11とその周辺を含む凝固鉛層37全体およびストラップ半部33の表面全体を未溶接部分が生じないように確実に溶解することができるから、(h)に示すように、各正極板リード7および正極板側極柱電極11が一体的に融合して接合され、且つ所要の大きな厚さtを有するとともに内部に酸化被膜層が全く残存しない正極板側ストラップ9を得ることができる。なお、形成された正極板側ストラップ9の表面には酸化被膜層38が薄く残存するが、この酸化被膜層38は電流の取り出しに何ら影響がない。
【0040】
上記工程では正極板側ストラップ9の形成を例示して説明したが、負極板側ストラップ10についても、上述した図1(a)〜(h)と同様の工程を経ることにより所要の大きな厚みtに形成することができ、このようにして正,負の両極板側ストラップ9,10が形成されることにより、図4に示した極板群体13が出来上がる。
【0041】
つぎに、実施例について説明すると、正,負の両極板側ストラップ9,10として、長さが360 mm、幅が62mmおよび厚さが13mmの形状のものを形成するに際して、1回目の溶接工程において厚さが7mmのストラップ半部33を形成したのちに、2回目の溶接工程で厚さが6mmの凝固鉛層37をストラップ半部33上に重ねる状態に形成した。この結果、得られたストラップ9,10は、酸化被膜層が全く存在せず、且つ正,負の両極板リード7,8と正,負の両極板側極柱電極11,12とを電気的に完全に接合する高精度なものであった。このとき、プラズマトーチ32による凝固鉛層30,37またはストラップ半部33に対する溶解深さが約10mmであり、極板リード7,8の溶接治具14内への突出長さは7mmであった。
【0042】
したがって、上記の良好なストラップ9,10を得ることができたのは、1回目の溶接工程において極板リード7,8の溶接治具14への突出部分および極柱電極11,12の基部をプラズマトーチ32による加熱によって確実に溶融させることができ、2回目の溶接工程においてストラップ半部33における上面から約4mmの深さまで溶融させて酸化被膜層31を完全に除去できたためである。この実施例の結果から、1回目の溶接工程において形成する凝固鉛層30は、極板リード7,8の先端を基準として±5mmの高さに上面が位置する厚さに設定するのが好ましく、2回目の溶接工程において形成する凝固鉛層37は、プラズマトーチ32による溶解深さに対し3mm程度小さい厚さに設定するのが好ましい。
【0043】
また、本発明の製造方法では、上述の13mmよりも大きな厚さを有するストラップ9,10を容易、且つ高精度に形成することができる。その場合には、上述と同様にして1回目の溶接工程を実施したのちに、上述の2回目の溶接工程と同様の溶接工程を複数回繰り返すことにより、大きな厚みを有しながらも酸化被膜層の残存が全く無く、且つ正,負の両極板リード7,8と正,負の両極板側極柱電極11,12とを電気的に完全に接合できる高精度なストラップ9,10を確実に得ることができる。
【0044】
なお、上記製造工程では、正,負の極板側ストラップ9,10の形成工程毎に正極板リード7のリード列および負極板リード8のリード列にそれぞれ溶接治具14を着脱するようにしているが、各正極板リード7と各負極板リード8とを同時に囲む状態に装着できる正負両極一体形の溶接治具を用いれば、図1(a)〜(h)の工程を1回経るだけで、正,負の両極板側ストラップ9,10を一挙に形成できるのは勿論である。
【0045】
つぎに、上記製造工程を経て得られた極板群体13を用いて構成した鉛蓄電池について説明する。図4は本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池を示す分解斜視図、図5はその鉛蓄電池の一部破断した斜視図である。この鉛蓄電池では、図4に示すように、正,負の両極板1,2にそれぞれ突出形成された複数の正,負の両極板リード7,8上に、所定の大きな厚みtを有するストラップ9,10が形成されている。なお、図4では、図示の便宜上、正,負の両極板1,2を離間して図示しているが、極板群4は、正,負の両極板1,2をこれらの間にセパレータ3を介在して交互に積層して構成されており、その極板群4に正,負の両極板側ストラップ9,10が形成されることにより極板群体13が構成されている。
【0046】
上記鉛蓄電池は、極板群体13を電槽39内に収容し、且つ電解液(図示せず)を電槽39内に注入し、正,負の両極板側ストラップ9,10を、中央部に安全弁43を備えた蓋体40における正側端子41および負側端子42にそれぞれ接続したのちに、蓋体40によって電槽39の上端開口部を閉塞することによって構成されている。この鉛蓄電池は、正,負の両極板側ストラップ9,10が、所要の大きな厚みに形成され、且つ酸化被膜層が全く存在していないことから、所定の大きな電流を確実に取り出すことができるとともに、長期間にわたりストラップ9,10に溶断や腐食などが生じるおそれがないので、十分な電池寿命を確保できる高い信頼性を有する。
【0047】
【発明の効果】
以上のように、本発明の鉛蓄電池用極板群体の製造方法によれば、1回目に注入した溶融鉛の凝固鉛層によって極板リードと極柱電極の基部とを仮固着でき、つぎに、加熱手段で加熱することにより、凝固鉛層を再溶融させると同時に、各極板リードにおける溶接治具の凹部への突出部分および極柱電極の基部を溶解させて、これらを相互に融合させて完全に接合することができ、続いて、所定量の溶融鉛を少なくとも1回注入することにより、形成すべきストラップの外形形状とすることができ、さらに、溶融鉛が凝固した凝固鉛層および前工程による凝固鉛層の上層部分を、加熱手段で加熱して再溶融させることによって相互に融合して完全に接合させることができるとともに、前工程による凝固鉛層の上層部分に残存していた酸化被膜層を完全に除去できる。したがって、2回目以降の所定量に分けた溶融鉛の注入および凝固鉛層の再溶融の工程を所要回数行うことにより、所要の大きな厚みを有しながらも酸化被膜層の残存が全く無く、且つ極板リードと極柱電極とを電気的に完全に接合できる高精度なストラップを容易、且つ確実に形成することができる。
【0048】
また、本発明の鉛蓄電池によれば、本発明の製造方法によって製造される正,負の両極板側ストラップを、所要の大きな厚みを有するとともに、酸化被膜層の全てを完全に除去した状態に形成できるから、所定の大きな電流を確実に取り出すことができるとともに、長期間にわたりストラップに溶断や腐食などが生じるおそれがないので、十分な電池寿命を確保できる高い信頼性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(h)は本発明の鉛蓄電池用極板群体の製造方法を具現化した製造過程を工程順に示した概略縦断面図。
【図2】同上の製造過程における1回目の溶接工程でのプラズマトーチの移動軌跡を示す説明図。
【図3】同上の製造過程における2回目の溶接工程でのプラズマトーチの移動軌跡を示す説明図。
【図4】本発明の製造方法により得られた鉛蓄電池を示す分解斜視図。
【図5】同上の鉛蓄電池の一部破断した斜視図。
【図6】(a)〜(d)は鉛蓄電池におけるストラップの一般的な製造過程を工程順に示す斜視図。
【図7】従来の鉛蓄電池用極板群体の製造過程を工程順に示した概略縦断面図。
【符号の説明】
1 正極板
2 負極板
3 セパレータ
4 極板群
7 正極板リード
8 負極板リード
9 正極板側ストラップ
10 負極板側ストラップ
11 正極板側極柱電極
12 負極板側極柱電極
13 極板群体
14 溶接治具
27 溶融鉛
28 凹部
30,37 凝固鉛層
32 プラズマトーチ
39 電槽
40 蓋体
41 正側端子
42 負側端子

Claims (3)

  1. 正負両極の複数の各極板をこれらの間にセパレータを介在しながら交互に積層して極板群を形成し、前記各極板に突出形成された極板リードの正極列および負極列のそれぞれに、前記各極板リードを連結接合するとともに極柱電極を接合するストラップを設けることによって極板群体を製造する鉛蓄電池用極板群体の製造方法において、
    前記極板リードの正極列および負極列のそれぞれについて、前記ストラップの外形形状に相当する凹部が形成された溶接治具を装着するとともに、
    前記凹部内の所定位置に前記極柱電極を載置し、前記凹部内に溶融鉛を注入して前記極板リードの先端近傍まで充填し、
    前記溶融鉛が凝固した凝固鉛層、前記極板リードおよび前記極柱電極の基部をそれぞれ加熱手段による加熱により溶解させて相互に接合し、
    所定量の溶融鉛を前記凹部内にさらに注入したのち、この溶融鉛が凝固した凝固鉛層および前工程により形成した凝固鉛層の上層部をそれぞれ加熱手段による加熱により再溶解させて相互に接合する工程とを少なくとも回行い、
    1回目に注入した溶解鉛による凝固鉛層を再溶解させる工程では、
    前記加熱手段を極板リードおよび極柱電極の基部をトレースする軌跡で移動させ、
    2回目以降に注入した溶解鉛による凝固鉛層を再溶解させる工程では、
    前記加熱手段を、極板リードの配列方向に対し直交方向に向けた移動をUターンしながら繰り返して前記極板リードの全てを順次トレースするような軌跡で移動し終えたのちに、
    前記極柱電極の基部を通過しながら前記凝固鉛層の外周に沿って1周する軌跡で移動させ、
    複数回に分けて注入した前記溶解鉛による前記各凝固鉛層の接合によって前記ストラップを形成するようにしたことを特徴とする鉛蓄電池用極板群体の製造方法。
  2. 加熱手段として、TIG溶接装置のプラズマトーチを用いた請求項1に記載の鉛蓄電池用極板群体の製造方法。
  3. 請求項1ないしの何れかの製造方法で製造された極板群体が電槽内に収容され、且つ前記電槽内に電解液が注入され、前記極柱群体の正負両側のストラップが蓋体の正負両側の端子に接続され、前記電槽の開口部が前記蓋体で閉塞されてなる鉛蓄電池。
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