実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
(センサの構成)
以下、図1乃至図13を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本実施形態において用いられる排気ガスセンサ10の構成を説明するための図である。より具体的には、図1(A)は、排気ガスセンサ10の斜視図である。また、図1(B)は、排気ガスセンサ10を、図1(A)に矢印Bを付して示す平面で切断することで得られる断面図を示す。
図1(A)に示すように、排気ガスセンサ10は、センサ本体12を備えている。センサ本体12の上部には、第1拡散抵抗層14と、第2拡散抵抗層16とが設けられている。第1拡散抵抗層14及び第2拡散抵抗層16は、セラミクス等の多孔質物質で構成された部材である。本実施形態において、それらは、孔の大きさや密度等の特性が同じになるように設けられている。
第1拡散抵抗層14の表面には、H2成分の分解或いは反応を促すための触媒層18が形成されている。触媒層18は、具体的には、プラチナ、ロジウム、バリウム等の塗布膜により形成されている。
第1拡散抵抗層14は、第1電極20を覆うように形成されている。他方、第2拡散抵抗層16は、第2電極22を覆うように構成されている。本実施形態の排気ガスセンサ10は、車両に搭載される内燃機関の排気通路内に配置され、排気ガス中の空燃比A/Fと、H2濃度とを計測するためのセンサである。本実施形態では、図1(A)に示すように、第1電極20が、空燃比A/Fの検出用に用いられる(理由は後述する)。
図1(B)に示すように、センサ本体12は、電解質層24と、スペーサ部材26と、ヒータ層28とを備えている。電解質層24は、YSZ(イットリア安定化単結晶ジルコニア)などにより構成されている。上述した第1電極20及び第1拡散抵抗層14、並びに第2電極22及び第2拡散抵抗層16は、互いに離間した状態で、電解質層24の表面に形成されている。
電解質層24の裏面側には、スペーサ部材26とヒータ層28により囲まれた大気室30が形成されている。そして、電解質層24の裏面には、第1電極20と重なる位置、及び第2電極22と重なる位置に、2つの大気側電極32,34が形成されている。大気室30は、図示しない大気孔を介して大気に連通している。このため、排気ガスセンサ10が排気通路内に配置された状態であっても、大気側電極32,34は、大気に晒された状態に維持される。
以下、第1電極20と、大気側電極32と、それらに挟まれた電解質層24の領域とを総称して、「第1セル」と称す。また、第2電極22と、大気側電極34と、それらに挟まれた電解質層24の領域とを総称して、「第2セル」と称す。
ヒータ層28には、ヒータ36が埋め込まれている。排気ガスセンサ10は、所定の活性温度に達することにより、所期のセンサ機能を実現する。ヒータ36は、外部の駆動回路から電力の供給を受けることにより、排気ガスセンサ10を所望の活性温度に加熱することができる。
(回路構成)
図2は、排気ガスセンサ10の駆動装置40の主要部を表す回路図を示す。駆動装置40は、定電圧発生部42を備えている。定電圧発生部42は、3.3Vの定電圧と、2.9Vの定電圧とを発生することができる。
3.3Vの電圧と、2.9Vの電圧とは、第1の電圧供給回路対44,46、及び第2の電圧供給回路対48,50に供給されている。第1の電圧供給回路対44,46は、3.3Vの電圧、及び2.9Vの電圧を、それぞれ、第1大気側端子52及び第1排気側端子54に伝達する。
第1大気側端子52は、第1セルの大気側電極32に接続される。他方、第1排気側端子は、第1セルの排気側電極、つまり、第1電極20に接続される。このため、駆動回路40によれば、第1セルに対して、大気側電極32から第1電極20に向かう電圧を印加することができる。
第1大気側端子52には、第1電流検出回路56が接続されている。第1電流検出回路56は、第1大気側端子52を流れる電流値、つまり、第1セルを流れるセンサ電流に対応する出力を発する回路である。第1電流検出回路56によって発せられる出力は、第1ADポート58を介して、図示しないマイクロコンピュータに供給される。従って、マイクロコンピュータは、上記の電圧が印加されることにより第1セルに発生するセンサ電流の値を検知することができる。
第2の電圧供給回路対48,50は、3.3Vの電圧、及び2.9Vの電圧を、それぞれ、第2大気側端子60及び第2排気側端子62に伝達する。第2大気側端子60及び第2排気側端子62は、それぞれ、第2セルの大気側電極34及び排気側電極(第2電極22)に接続される。また、第2大気側端子60には、そこを流れる電流値に応じた出力を発する第2電流検出回路64が接続されている。
第2電流検出回路64の出力は、第2ADポート66を介して、図示しないマイクロコンピュータに供給される。従って、マイクロコンピュータは、第2ADポート66の出力を取り込むことにより、既定の電圧印加の下で第2セルに発生するセンサ電流値を検知することができる。
[排気ガスセンサ10の基本動作]
(センサ動作原理)
排気ガスセンサ10において、第1セル及び第2セルは、それぞれ、限界電流式の空燃比センサとして機能する。すなわち、第1拡散抵抗層14、及び第2拡散抵抗層16は、何れも排気通路の内部で、排気ガスに晒された状態で用いられる。そして、排気ガス中の各種成分は、それぞれ、第1拡散抵抗層14及び第2拡散抵抗層16の表面に到達した後、拡散によりそれらの内部を進行する。
排気ガス中には、CO、H2、HC等の還元剤と、O2、NOxなどの酸化剤が含まれている。それらの成分は、第1電極20や第2電極22の表面に到達する過程、及び到達後の燃焼により完全に反応し合う。理論空燃比が実現されている場合は、酸化剤と還元剤が共に消滅する。これに対して、空燃比がリッチである場合は還元剤が残存し、空燃比がリーンである場合は酸化剤が残存する事態が生ずる。
第1セルは、上述した電圧印加を受けている場合、第1電極20側に残存する酸素を大気電極32側にポンピングする。他方、第1電極20側に還元剤が残存している場合は、その還元剤を焼失させるのに必要な酸素を大気電極32側から第1電極20側へポンピングする。このため、第1セルには、第1電極20の表面に到達した還元剤と酸化剤との比率、つまり、その表面における空燃比に応じたセンサ電流が生ずる。
第2セルについても、第2電極22と大気側電極34との間では、上記と同様に、酸素がポンピングされる。その結果、上記の電圧印加を受けた第2セルには、第2電極22の表面における空燃比に応じたセンサ電流が流通する。従って、本実施形態のシステムによれば、駆動装置40は、第1ADポート58の出力により、第1電極20の表面における空燃比を、また、第2ADポート66の出力により第2電極22の表面における空燃比を、それぞれ検知することができる。
(H2成分の影響)
排気ガス中に含まれるH2成分は、他の成分に比して、特に、O2やNOxなどの酸化剤に比して、拡散速度が早いという特性を有している。このため、例えば、第2拡散抵抗層16の表面に、H2とO2とがバランスの取れた割合で存在していたとすれば、第2電極22の表面には、H2がO2に比して多量に到達する。
第2電極22の表面に、還元剤であるH2が、酸化剤であるO2より多量に到達すれば、その表面付近において還元剤が過多となり、その付近の空燃比はリッチとなる。従って、この場合、排気ガスセンサ10の周囲における空燃比が理論空燃比であるにも関わらず、第2セルには、空燃比がリッチであることを表すセンサ電流が流通する。
つまり、排気ガス中にH2成分が存在している場合、O2等の酸化剤に対するH2成分の割合は、第2拡散抵抗層16の表面に比して、第2電極22の表面において高くなる。その結果、第2セルに生ずるセンサ電流は、排気ガスセンサ10を取りまく排気ガスの空燃比に対してリッチ側にシフトした値となる。このため、排気ガス中にH2成分が存在する場合は、第2セルのセンサ電流値によっては、排気空燃比を正確に検知することはできない。
(空燃比A/Fの検出)
第1セルは、第1拡散抵抗層14の表面に、H2成分の分解・反応を促進する触媒層18を備えている。このため、第1セルの側では、殆どのH2成分は、第1拡散抵抗層14の内部に到達する以前に焼失する。つまり、第1セルの側では、排気ガス中にH2成分が存在する場合であっても、第1拡散抵抗層14には、H2成分と酸化剤との平衡反応後(中和がとられた後)の排気ガスが到達する。
排気ガスの空燃比、つまり、排気ガス中の還元剤と酸化剤とのバランスは、触媒層18においてH2成分が平衡反応に供される前後で変化することはない。そして、排気ガスが第1拡散抵抗層14の内部を進行する段階でも、H2成分が既に存在していないことから、還元剤と酸化剤とのバランスは、殆ど変化しない。つまり、第1セルにおいては、排気ガス中にH2成分が存在する場合であっても、第1電極20の表面に、現実の排気空燃比と殆ど同じ空燃比で排気ガス成分が到達する。
このため、駆動装置40は、H2成分が存在する状況下でも、第1セルのセンサ電流値を基礎とすれば、排気空燃比を極めて正確に検知することができる。以上の理由により、本実施形態では、上述した通り、第1セル(第1電極20)が、空燃比A/Fの検出用に用いられる。
(H2濃度の検出)
上述した通り、排気ガスセンサ10によれば、排気ガス中にH2成分が含まれている場合、その影響が、第2セルのセンサ電流値にのみ反映される。そして、その影響は、排気ガス中のH2濃度が高いほど大きなものとなる。この場合、第1セルのセンサ電流値I1と、第2セルのセンサ電流値I2との差は、排気ガス中のH2成分の濃度と相関を有するものとなる。従って、本実施形態のシステムでは、両者の差ΔI=I1−I2に基づいて、H2濃度を検出することが可能である。
(空燃比A/F及びH2濃度を検出するための具体的処理)
図3は、駆動装置40のマイクロコンピュータが、排気ガスの空燃比A/F及び排気ガス中のH2濃度を検出するために実行するルーチンのフローチャートである。図3に示すルーチンでは、先ず、センサ出力のADタイミング(サンプリング及びAD変換のタイミング)であるかが判別される(ステップ100)。
本実施形態では、ADタイミングの周期が4msecに設定されている。このため、ステップ100の条件は、4msecにその成立が判定される。ADタイミングの成立が判定された場合は、第1セルのセンサ電流値I1、つまり、第1ADポート58から取り込んだAD変換値が第1セル出力VAD1として格納されると共に、第2セルのセンサ電流値I2、つまり、第2ADポート66から取り込んだAD変換値が第2セル出力VAD2として格納される(ステップ102)。
次に、第1セル出力VAD1に基づいて、空燃比A/Fが算出されると共に、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差に基づいて、H2濃度が算出される(ステップ104)。駆動装置40は、図4(A)に示すように、第1セル出力VAD1と空燃比A/Fとの関係を定めたマップを記憶していると共に、図4(B)に示すように、(VAD1−VAD2)とH2濃度との関係を定めたマップを記憶している。ここでは、それらのマップを参照して、空燃比A/F及びH2濃度が算出される。
上記の処理によれば、第1セル出力VAD1に基づいて空燃比A/Fを正確に算出すると共に、第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2に基づいて、排気ガス中のH2濃度を正確に検知することができる。
以上説明した通り、本実施形態のシステムは、第1拡散抵抗層14の表面に触媒層18を設けることにより、空燃比A/Fの検出精度を高めると共に、H2成分の検出を可能としている。第1拡散抵抗層14の表面に設けた触媒層18は、電極の表面に設けられる電極触媒に比して安定した特性を示す。このため、本実施形態のシステムによれば、長期的に安定した特性を維持することができる。
[触媒層での反応による遅れ]
(遅れの影響)
上述した通り、図3に示す処理の手順では、同時にサンプリングした第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差に基づいて、排気ガス中のH2濃度を算出することとしている。ところで、第1セルにおいては、排気ガスセンサ10の周囲を流通する排気ガスが、触媒層18において反応した後、第1拡散抵抗層14の内部に進入する。他方、第2セルにおいては、そのような反応を経ることなく、排気ガスが第2拡散抵抗層16に進入する。このため、第1セルにおける排気ガスの拡散時間は、第2セルにおける拡散時間に比して、僅かながら長期化する。
図5(A)は、第2セルのセンサ電流値I2、つまり、第2セル出力VAD2の変化を示す波形である。また、図5(B)は、第1セルのセンサ電流値I1、つまり、第1セル出力VAD1の変化を示す波形である。排気ガスセンサ10の周囲を流れる排気ガスの空燃比が変化した場合、その変化は、排気ガスの拡散に要する時間の後に、センサ電流値I1、I2に反映される。そして、上述した拡散時間に相違に起因して、第1セル出力VAD1の変化には(図5(B))、第2セル出力VAD2の変化(図5(A))に対して、僅かながら遅れが生ずる。このため、同じADタイミングで取り込んだ第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差には、H2成分の影響の他、上述した応答遅れに起因する誤差が重畳している。
排気ガス中のH2濃度を正確に検知するためには、H2成分の影響のみに起因して、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に発生した差を検知することが有効である。そして、このような差は、任意のADタイミングで取得した第1セル出力VAD1(i)と、そのタイミングから、応答遅れ時間だけ遡ったタイミングで取得した第2セル出力VAD2(i-k)との差を求めることで得ることができる。以下、このようにして求めた出力差VADDIF=VAD1(i)−VAD2(i-k)を基礎として、高い精度でH2濃度を検出するための具体的処理について説明する。
(具体的処理)
図6は、上記の機能を実現するために駆動装置40のマイクロコンピュータが実行するべきルーチンのフローチャートである。駆動装置40は、上記図3に示すルーチンに代えて、このルーチンを実行することとしてもよい。このルーチンによれば、H2濃度の検出精度を更に高めることが可能である。
図6に示すルーチンでは、先ず、ステップ100において、センサ出力のADタイミングが到来したか否かが判別される(詳細は図3、ステップ100と同様)。その結果、ADタイミングが到来していると判断された場合は、次に、現時点(サンプリングタイミングiとする)での第1ADポートの出力値が第1セル出力VAD1として、また、第2ADポートの出力値が第2セル出力VAD2iとして、それぞれ格納される(ステップ110)。
次に、第1セル出力VAD1に基づいて空燃比A/Fが算出される。更に、今回のADタイミングで取得した第1セル出力VAD1と、k回前のADタイミングで取得した第2セル出力VAD2i-kとの差VADDIF=VAD1−VAD2i-kに基づいて、排気ガス中のH2濃度が算出される(ステップ112)。
図7(A)及び図7(B)は、上記ステップ112において参照される空燃比A/Fのマップ、及びH2濃度のマップである。これらのマップを参照してA/FやH2濃度を算出する手法は、実質的に、図3を参照して説明した手法と同様である(ステップ104参照)。
上記のkは、AD周期×kが、第1セルにおいて発生する拡散遅れ時間と一致するように定められた値である。このため、サンプリングタイミングiにおけるVAD1と、k回前のVAD2i-kとは、同じ時点で排気ガスセンサ10の周囲に存在していた排気ガスの特性を表すものである。従って、上記の処理によれば、触媒層18での反応遅れに影響されることなく、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とに基づいて、排気ガス中のH2濃度を精度良く検出することができる。
図6に示すルーチンにおいて、上記の処理が終わると、次回の処理サイクルに備えて、以下に示す規則に従って、第2セル出力VAD2のRAM値が書き換えられる(ステップ114)。
VAD2i-n←VAD2i-(n-1) (n=1〜k) ・・・(1)
ところで、上記のルーチンでは、所定のADタイミング毎に第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とを検出し、触媒層18での応答時間に起因する遅れを打ち消すために、ADタイミングiにおける第1セル出力VAD1と、ADタイミングi-kにおける第2セル出力VAD2i-kとを組み合わせることとしているが、応答時間に起因する遅れを打ち消すための手法はこれに限定されるものではない。すなわち、任意のタイミングで第2セル出力VAD2を取り込んだ後、応答遅れ時間が経過した時点で割り込み処理により第1セル出力VAD1を取り込み、それら両者を組み合わせてH2濃度を算出することとしてもよい。
また、上記のルーチンでは、触媒層18での反応に起因する応答遅れは、常に一定であるものとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、上記の応答遅れは、内燃機関の運転条件(ガス流量など)に応じて変化することがある。このため、H2濃度の基礎とする第2セル出力VAD2をどのADタイミングで取得したものとするか、或いは、上記の変形例における割り込みのタイミングなどは、内燃機関の運転条件に応じて適宜決定することとしてもよい。
[H2濃度を利用した空燃比A/Fの精度向上]
(精度向上原理)
以上説明した通り、本実施形態のシステムは、図3に示すルーチン、或いは図6に示すルーチンを実行することにより、排気ガスセンサ10の周囲を流れる排気ガスの空燃比A/F、及び、その排気ガス中のH2濃度を検出することができる。以下、このようにして検出したH2濃度を利用して、上記の処理により検出した空燃比A/Fの精度を更に向上させるための処理について説明する。
上述した通り、H2成分は、排気ガス中の他の成分に比して拡散速度が早いという特性を有している。そして、第2セル出力VAD2は、その拡散速度の違いに起因して、リッチ側にシフトする傾向を示す。第1セルには、H2成分の影響を排除するために、触媒層18が設けられている。このため、第1セル出力VAD1は、H2成分の影響を受けにくい値となっている。
しかしながら、排気ガス中のH2成分を、触媒層18において完全に反応させることは、必ずしも容易ではない。このため、触媒層18が設けられた第1セルの側でも、排気ガス中のH2成分は、第1拡散抵抗層18を通過して第1電極20に到達することがある。この場合、第1セル出力VAD1も、第2セル出力VAD2と同様に、H2の影響でリッチ側に偏った値となる。
ところで、H2成分の影響で第1セル出力VAD1に発生するリッチシフト量は、排気ガス中のH2濃度と相関を有している。このため、H2濃度が判れば、その影響でVAD1がどの程度リッチ側にシフトしているかを精度良く推定することが可能である。そして、その推定が可能であれば、空燃比A/Fの検出値に補正を施して、リッチシフト量を相殺することが可能である。
(具体的処理)
図8は、H2濃度を利用して、空燃比A/Fの検出精度を高めるために、駆動装置40のマイクロコンピュータが実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンは、上記図3に示すルーチン、或いは図6に示すルーチンにより、A/F及びH2濃度を算出した後に実行されるものとする。
図8に示すルーチンでは、先ず、図3又は図6に示すルーチン中で算出された空燃比A/F、及びH2濃度が順次読み出される(ステップ120,122)。次に、H2濃度に基づいて、空燃比補正量ΔA/Fが算出される(ステップ124)。最後に、ステップ120で読み出された空燃比に、空燃比補正量ΔA/Fが加算され、補正後の空燃比A/Fが算出される(ステップ126)。
図9は、上記ステップ124において参照されるマップの一例である。このマップによれば、空燃比補正値ΔA/Fは、H2濃度が高いほど大きな値となる。従って、空燃比A/Fは、H2濃度が高いほど、リーン側に大きく補正されることになる。
第1セル出力VAD1に基づく空燃比A/Fは、上述した通り、H2濃度が高いほど、リッチ側に大きくシフトし易い。図9に示すマップは、そのリッチシフトを相殺することができるように設定されている。このため、上記の処理によれば、H2成分に起因する空燃比ずれを精度良く補正して、現実の排気空燃比に精度良く一致する空燃比A/Fを算出することができる。
ところで、上記の処理は、H2成分の拡散速度が常に一定であることを前提としているが、その拡散速度は、必ずしも一定ではない。すなわち、H2成分の拡散速度は、排気通路内の圧力や温度に応じた変化を示す。そして、H2成分の拡散速度が異なれば、H2成分の影響を相殺するための空燃比補正量ΔA/Fも変化させることが適切である。このため、H2成分の拡散速度を推定したうえで、空燃比補正量ΔA/Fを、推定した拡散速度に基づいて変化させることとしてもよい。
また、上記のルーチンでは、H2濃度を基礎として空燃比補正量ΔA/Fを算出することとしているが、その算出の手法はこれに限定されるものではない。すなわち、空燃比補正量ΔA/Fは、H2濃度ではなく、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差(VAD1−VAD2)から求めることとしてもよい。
[排気ガスセンサの劣化検出(その1)]
(検出原理)
次に、第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2を利用して、排気ガスセンサ10の劣化状態を判定する手法について説明する。本実施形態の構成によれば、排気ガス中にH2成分が存在する場合は、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に、H2濃度に対応する差異が発生するはずである。他方、排気ガス中にH2成分が存在しない場合は、差異の原因が存在しないため、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とは等しい値となるはずである。
H2成分やHC成分は、空燃比がリッチな排気ガス中に、必然的に含まれる。反対に、それらの成分は、空燃比がリーンな排気ガス中には含まれない。従って、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とは、排気空燃比がリッチである環境下では異なる値となり、他方、排気空燃比がリーンである場合は等しい値となるはずである。
換言すれば、排気空燃比がリッチである環境下で、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に有意な差が認められない場合は、排気ガスセンサ10が正常に機能していないと判断することができる。同様に、排気空燃比がリーン、或いはストイキである環境下で、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に有意な差が生じている場合も、排気ガスセンサ10に異常が生じていると判断できる。そこで、本実施形態では、このような基準に従って排気ガスセンサ10の故障判定を行うこととした。
(具体的処理)
図10は、上記の原理に従って排気ガスセンサ10の故障判定を行うために、駆動装置40のマイクロコンピュータが実行するルーチンのフローチャートである。図10に示すルーチンでは、先ず、排気ガスセンサ10の故障を判定するべきタイミングが到来したか否かが判別される(ステップ130)。ここでは、具体的には、(1)内燃機関の暖機が終了しているか(水温THWで判断);(2)排気ガスセンサ10の活性が判定されているか(第1セル、第2セルのインピーダンス等で判断);(3)燃料噴射量の空燃比フィードバック制御が実行されているか;(4)機関回転数NEが所定範囲内であるか(吸入空気量Gaが所定範囲内か);安定走行中であるか(機関回転数NE変化、吸入空気量GA変化が判定値内か)、などが判定される。そして、これらの条件が全て成立すると、故障判定のタイミングが到来していると判断される。
ステップ130において、故障判定のタイミングが到来していないと判断された場合は、そのまま今回の処理サイクルが終了される。一方、そのタイミングが到来していると判定された場合は、排気ガスセンサ10の故障判定が、未完了であるかが判断される(ステップ132)。
故障判定が既に完了している場合は、以後の処理を実行する必要がないため、速やかに今回の処理サイクルが終了される。他方、故障判定が未完了であると判断された場合は、排気ガスセンサ10の周囲がリッチ雰囲気であるかが判定される(ステップ134)。この判定が肯定された場合は、排気ガス中にH2成分が存在していると判断できる。そして、この場合は、次に、VAD1−VAD2が、判定値より小さいか否かが判別される(ステップ136)。
VAD1−VAD2<判定値の関係が不成立であると判定された場合は、VAD1と、VAD2との間に、H2成分の存在に起因する差が適正に生じていると判断できる。この場合は、排気ガスセンサ10が正常であると判定される(ステップ138)。他方、VAD1−VAD2<判定値の関係が成立すると判定された場合は、両者間に適正な差が生じていないと判断できる。そして、この場合は、排気ガスセンサ10の故障が判定される(ステップ140)。
上記ステップ134において、排気ガスセンサ10の周囲がリッチ雰囲気でないと判断された場合は、排気ガス中にH2成分が含まれていないと判断できる。この場合は、次に、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差が、判定値より大きいか否かが判断される。排気ガス中にH2成分が存在しない環境下では、両者間に有意な差が生じないのが通常である。従って、VAD1−VAD2>判定値の成立が認められた場合は、ステップ140において、排気ガスセンサ10の故障が判定される。他方、VAD1−VAD2>判定値の関係が成立していなかった場合は、排気ガスセンサ10の正常判定がなされる。
以上説明した通り、図10に示すルーチンによれば、第1セル出力VAD1と、第2セル出力VAD2とに基づいて、排気ガスセンサ10の故障判定を、簡単な手順で正確に行うことができる。
[排気ガスセンサの劣化検出(その2)]
(検出原理)
次に、第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2を利用して、排気ガスセンサ10の劣化状態を判定する第2の手法について説明する。図11は、ここで説明する劣化検出の原理を説明するためのタイミングチャートである。より具体的には、図11(A)は、故障判定モードにおいて、目標空燃比が強制的にリッチとリーンの間で反転されている様子を示す。図11(B)及び図11(C)は、それぞれ、故障判定モード中における第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2を示す。
本実施形態のシステムは、触媒層18がH2成分の反応を促進することを利用して、H2濃度の検出を可能としている。そして、触媒層18がH2成分の反応を促進している状況下では、上述した通り(図5参照)、その反応の時間分だけ、第1セル出力VAD1が第2セル出力VAD2に比して、空燃比の変化に対して鈍い応答性を示す。
他方、触媒層18の劣化が進み、触媒層18においてH2成分の反応が促進され難くなるほど、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との応答差は小さくなる。従って、排気ガスセンサ10を取りまく排気ガスの空燃比が変化した際に、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とが、どのような応答差を示すかを見れば、触媒層18がどの程度劣化しているかは推定することが可能である。
そこで、本実施形態では、図11に示すように、故障判定モードにおいて、目標空燃比を強制的に振幅させ、この振幅に対して、第1セル出力VAD1と、第2セル出力VAD2との間に十分な応答差が表れるか否かを見ることで、排気ガスセンサ10の故障判定を行うこととした。
(具体的処理)
図12は、上記の原理を利用した故障検出を実現するために駆動装置40のマイクロコンピュータが実行するルーチンのフローチャートである。具体的には、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に十分な応答差が存在しているか否かを、故障判定モード中に生じた両者の軌跡長に基づいて判断するためのフローチャートである。
図12に示すルーチンは、上述した他のルーチンと同様に、4msecの周期で繰り返し起動されるものとする。ここでは、先ず、ステップ130において、センサ故障の判定タイミングが到来したか否かが判断される(詳細は、図10に示すステップ130の処理と同様)。
その結果、故障判定のタイミングであると判断された場合は、故障判定モードの動作が未完了であるかが判別される(ステップ150)。本実施形態では、図11(A)に示すように、リッチ期間とリーン期間が2回ずつ発生するように目標空燃比を反転させる動作を故障判定モードとして定めている。駆動装置40は、故障判定タイミングの到来を検知すると、他のルーチンにより、その故障判定モードの動作を開始する。そして、本ステップ150では、その故障判定モードが、最後まで実行されたか否かが判断される。
故障判定モードが未だ最後まで実行されていない場合は、上記ステップ150において、肯定的な判断がなされる。この場合、以下に示す演算式に従って、第1セル出力VAD1の軌跡長SIGVAD1、及び第2セル出力VAD2の軌跡長SIGVAD2の演算が進められる(ステップ152)。
SIGVAD1=Σ│(VAD1i−VAD0)│
SIGVAD2=Σ│(VAD2i−VAD0)│ ・・・(2)
但し、VAD1i及びVAD2iは、今回サンプリングした第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2である。また、VAD0は、理論空燃比に対応して出力されるべきストイキ出力である。
以上の処理は、ステップ150において、故障判定モードの完了が判定されるまで繰り返し実行される。つまり、ステップ152の積算処理は、故障判定モードの開始後、その完了まで、4msec毎に繰り返し実行される。
第2セル出力VAD2は、目標空燃比の変化に対して常に優れた応答性を示す。つまり、第2セル出力VAD2は、目標空燃比の反転後、速やかに、リッチ側或いはリーン側の収束値に達する。このため、その軌跡長SIGVAD2=Σ│(VAD2i−VAD0)│は、比較的大きな値となる。
他方、第1セル出力VAD1は、触媒層18が正常に機能している間は、目標空燃比の変化に対して鈍い応答性を示す。この場合、第1セル出力VAD1は、目標空燃比の反転後に、リッチ側或いはリーン側の収束値に向かって比較的ゆっくりと変化する。第1セル出力VAD1の変化が緩やかであれば、第1セル出力のAD値VAD1iがストイキ出力値VAD0の近傍に維持される期間が長くなり、その結果、軌跡長SIGVAD1=Σ│(VAD1i−VAD0)│は、比較的小さな値となる。そして、その軌跡長SIGVAD1は、触媒層18の劣化が進み、そこでの応答遅れが小さくなるほど第1セル出力VAD2の軌跡長SIGVAD2に近い値となる。
このように、ステップ152の処理により算出される第1セル出力VAD1の軌跡長SIGVAD1は、触媒層18が正常に機能している間は、第2セル出力VAD2の軌跡長SIGVAD2に比して小さな値となり、触媒層18の劣化が進むに連れて、第2セル出力VAD2の軌跡長SIGVAD2に近づく値である。
本実施形態のシステムにおいて、故障判定モードが完了すると、ステップ150において、条件不成立の判断がなされる。この場合、次に、第2セル出力VAD2の軌跡長SIGVAD2と、第1セル出力VAD1の軌跡長SIGVAD2との差が、判定値KSIGOBDより小さいか否かが判断される(ステップ154)。
その結果、SIGVAD2−SIGVAD1<KSIGOBDが成立しないと判定された場合は、第1セル出力VAD1に、十分に遅れが重畳しており、触媒層18が正常に機能していると判断できる。この場合は、排気ガスセンサ10が正常であると判断される(ステップ156)。他方、上記条件の成立が認められる場合は、第1セル出力VAD1が、第2セル出力VAD2と同等の応答性を示していると判断できる。この場合は、触媒層18が劣化したものとして、センサの故障が判定される(ステップ158)。
以上説明した通り、図12に示すルーチンによれば、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に十分な応答差が存在するか否かを、両者の軌跡長の差(SIGVAD2−SIGVAD1)に基づいて判断することができる。そして、その判断の結果に応じて、排気ガスセンサ10の故障の有無を正確に判定することができる。
ところで、上述した図12に示すルーチンでは、故障判定モードの期間中に渡って上記(2)式により積算した軌跡長SIGVAD1,SIGVAD2に基づいて第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2の応答性を判断することとしているが、その判断の手法はこれに限定されるものではない。例えば、それらの応答性は、目標空燃比がリッチからリーン(又はリーンからリッチ)に反転した後、それぞれのセル出力VAD1,VAD2がリーン判定値(又はリッチ判定値)に達するまでの時間に基づいて判断することとしてもよい。或いは、目標空燃比の反転後、それぞれのセル出力VAD1,VAD2がリーン判定値又はリッチ判定値に達するまでの間、上記(2)式による積算を行い、その結果得られた積算値SIGVAD1,SIGVAD2に基づいて応答性の判断を行うこととしてもよい。
[排気ガスセンサの活性判定]
(活性判定の原理)
次に、図13を参照して、本実施形態のシステムが用いる活性判定の手法について説明する。排気ガスセンサ10は、所定の活性温度(例えば700℃)に達することで、適正に機能し得る状態となる。このため、排気ガスセンサ10の出力を制御に取り込むためには、排気ガスセンサ10が活性しているか否かを判断することが必要である。
排気ガスセンサ10の活性は、例えば、ヒータ36による加熱量を積算するなどの手法で素子温度を推定し、その推定温度が活性温度に達したか否かを見ることで判定することができる。また、センサ素子のインピーダンスが素子温度と相関を有するため、そのインピーダンスに基づいて活性判定を行うことも可能である。しかしながら、素子温度の推定精度や、インピーダンスと素子温度との相関関係は、素子特性の経時変化等により変化する。このため、上述した手法によって、長期安定的に活性状態を正確に判定し続けることは必ずしも容易ではない。
特に、本実施形態の排気ガスセンサ10は、第1セルの一部として触媒層18を備えている。触媒層18は、排気ガスセンサ10が有する4つの電極20,22,32,34に比して劣化し易い特性を有している。そして、触媒層18の劣化が進むと、その反応効率(一定温度下での水素の反応速度や、反応可能な水素量)が低下して、第1セルと第2セルの特性差が小さくなる。
本実施形態の排気ガスセンサ10は、第1セルと第2セルとが、H2を含む排気ガスに対して異なる特性を示すことを利用してH2濃度に応じた出力を発生する。このため、その特性差が小さくなれば、上記の手法でH2濃度を検出すること(上記図3参照)、更には、H2濃度を利用してA/Fを補正すること(上記図8参照)が困難となる。
排気ガスセンサ10の活性化を、上記の手法、つまり、素子温度の推定値やインピーダンスに基づいて判定する手法によると、排気ガスセンサ10が、現実には十分に活性化されていないにも関わらず、素子温度やインピーダンスが活性判定値に達していることだけで、活性化の判定がなされるような事態が生じ得る。特に、本実施形態において、このような手法で活性判定が行われると、触媒層18の反応効率が十分に高まる前、つまり、H2濃度やA/Fが正確に検知され始める前に活性判定がなされるという不都合が生じ易い。
ところで、本実施形態の構成によれば、第1セルと第2セルの間の出力差は、空燃比がリッチである環境下で、4つの電極20,22,32,34と触媒層18の全てが現実に活性化した後にのみ適正に発生する。従って、リッチ環境下で、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に有意な差が生じているか否かを見れば、排気ガスセンサ10が、現実に活性しているか否かを判断することが可能である。
つまり、上記の手法によれば、素子温度やインピーダンスに頼ることなく、排気ガスセンサ10の活性を、その出力に基づいて直接的に判定することができる。そして、この手法によれば、触媒層18の劣化等に影響されることなく、排気ガスセンサ10が現実に所望の機能を発揮し得る状態になった時点で活性状態の成立を判定することができる。そこで、本実施形態のシステムは、リッチ環境下で、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に適正な差が生じたか否かを判断することにより、排気ガスセンサ10の活性化を判定することとした。
(具体的処理)
図13は、排気ガスセンサ10の活性判定を行うために、駆動装置40のマイクロコンピュータが実行するルーチンのフローチャートである。図13に示すルーチンでは、先ず、ステップ100においてセンサ出力のADタイミングが到来したかが判別される。ここでADタイミングの到来が判定されると、次に、ステップ102において、第1センサ出力VAD1及び第2センサ出力VAD2が取り込まれる。これらの処理は、図3に示すステップ100,102の処理と同様である。
上記の処理が終わると、次に、活性判定の実行条件が判定される(ステップ160)。ここでは、具体的には、内燃機関の始動後、所定時間が経過する前であるか、並びに、センサ故障(ヒータ断線や回路故障)が検知されていないか等が判定される。上記の所定時間は、排気ガスセンサ10の活性化に必要な時間である。また、その時間が経過するまでは、始動時増量補正によって、排気ガスがリッチに維持されるもの、つまり、排気ガス中にH2成分が含まれるものとする。
上記の実行条件が成立しない場合は、排気ガスセンサ10の活性判定を行う必要がないと判断できる。この場合、以後速やかに今回の処理が終了される。
これに対して、実行条件の成立が判定された場合は、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差VADDIF=VAD1−VAD2が算出される(ステップ162)。また、この場合は、更に、出力差VADDIFが所定の判定値KVADACTより大きいか否かが判断される(ステップ164)。
その結果、出力差VADDIFが判定値KVADACTより大きくないと判断された場合は、未だ排気ガスセンサ10が十分に活性していないと判断できる。この場合は、以後何ら処理が行われることなく速やかに今回の処理が終了される。
一方、出力差VADDIFが判定値KVADACTより大きいと判断された場合は、排気ガスセンサ10が活性状態に達したと判断できる。この場合は、その状態を表すべく、センサ活性フラグXH2ACTがON状態とされる(ステップ166)。
以上説明した通り、図13に示すルーチンによれば、第1セル出力VAD1と、第2セル出力VAD2との間に十分な差が生じたか否かに基づいて、排気ガスセンサ10が活性状態に達したか否かを正確に判断することができる。つまり、上記の手法によれば、センサ素子のインピーダンスや推定素子温度に頼ることなく、排気ガスセンサ10の出力から、直接的にその活性状態を判断することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、触媒層18の経時劣化等に影響されることなく、長期安定的に、排気ガスセンサ10の活性判定を正確に行うことができる。
ところで、図13に示すルーチンでは、同じADタイミングで取得した第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2の差を出力差VADDIFとしているが、その算出の手法はこれに限定されるものではない。すなわち、触媒層18における応答遅れを考慮して、ADタイミングiで取得した第1セル出力VAD1iと、k回前のADタイミングで取得した第2セル出力VAD2i-kとの差を出力差VADDIFとしてもよい。
また、図13に示すルーチンでは、ADタイミング毎に、出力差VADDIFが判定値KVADACTより大きいか否かに基づいて、排気ガスセンサ10が活性状態に至ったか否かを判定することとしているが、その判定の手法は、これに限定されるものではない。例えば、内燃機関の始動後に、出力差VADDIFの積算値を算出し、その積算値が判定値に達したか否かに基づいて活性判定を行うこととしてもよい。
[目標温度の補正]
(補正の必要性)
駆動装置40は、排気ガスセンサ10の活性状態を維持するために、ヒータ36による加熱制御を行う。より具体的には、駆動装置40は、第1セル又は第2セルのインピーダンスを計測して、その計測値から排気ガスセンサ10の素子温度を推定する。そして、その素子温度が目標温度と一致するように、ヒータ36への供給電力をフィードバック制御する。これらは、公知の処理により実行されるため、ここでは、その詳細な説明は省略する。
ところで、排気ガスセンサ10が、現実に活性状態となる温度は、触媒層18や電極20,22,32,34等の劣化に起因して、経時的に徐々に上昇する傾向を示す。このため、活性状態を維持するための目標温度も、排気ガスセンサ10の劣化に合わせて徐々に上昇させることが適切である。
他方、本実施形態のシステムでは、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との出力差VADDIFに基づいて、活性の進行度合いを検知することが可能である。つまり、このシステムにおいては、素子温度が目標温度に達した際に、適正な出力差VADDIFが生じていなければ、目標温度が低すぎると判断することが可能である。そこで、本実施形態では、素子温度が目標温度に達した時点で、出力差VADDIFが適正値に達していない場合には、現実の活性状態が得られるように、目標温度に上昇補正を施すこととした。
(具体的処理)
図14は、上記の機能を実現するために、駆動装置40が実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンでは、先ず、第1セル又は第2セルのインピーダンスZが検出される(ステップ200)。次に、検出したインピーダンスZに基づいて、素子温度Tsが算出される(ステップ202)。
次いで、推定された素子温度Tsが、目標温度Tref以上であるかが判別される(ステップ204)。その結果、素子温度Tsが、未だ目標温度Trefに達していないと判断された場合は、目標温度Trefの適否を判断する条件が整っていないと判断され、以後速やかに今回の処理が終了される。
一方、Ts≧Trefの成立が認められた場合は、目標温度Trefが適正であるか否かを判断するべく、先ず、空燃比A/Fがリッチであるかが判定される(ステップ206)。本実施形態では、適正な出力差VADDIFの有無に基づいて目標温度Trefの適否が判断される。他方、空燃比A/Fがリッチでなければ、目標温度Trefの適否に関わらず、出力差VADDIFは発生しない。このため、本ステップ206で空燃比A/Fがリッチでないと判断された場合は、以後の処理が進められることなく、速やかに今回の処理が終了される。
これに対して、上記ステップ206において、空燃比A/Fがリッチであると判別された場合は、次に、出力差VADDIFが、判定値KVADACTより大きいか否かが判別される(ステップ208)。判定値KVADACTは、図13中ステップ164において、排気ガスセンサ10の活性判定を判断するために用いられた値である。従って、本ステップ208の処理によれば、排気ガスセンサ10の活性を判断できる出力差VADDIFが、第1センサ出力VAD1と第2センサ出力VAD2の間に生じているか否かを判断することができる。
上記ステップ208において、出力差VADDIFが、判定値KVADACTより大きいと判断された場合は、目標温度Trefに加熱されることにより、排気ガスセンサ10は現実に活性状態に至っていると判断できる。つまり、この場合は、現在設定されている目標温度Trefが適正温度であると判断できる。従って、上記の判断がなされた場合は、以後、目標温度Trefを補正することなく、今回の処理サイクルが終了される。
一方、上記ステップ208において、出力差VADDIFが判定値KVADACTより大きくないと判断された場合は、排気ガスセンサ10が、現実に活性化するまでは加熱されていない、つまり、目標温度Trefが適正温度に比して低いと判断できる。この場合、先ず、目標温度Trefに加えるべき上昇分(目標温度補正量ΔTref)が算出される(ステップ210)。
目標温度補正量ΔTrefは、現時点で生じている出力差VADDIFが、判定値KVADACTに比して小さいほど、大きな値とするべきである。本実施形態において、駆動装置40は、そのような傾向が生ずるように、出力差VADDIFとの関係で定めた目標温度補正量ΔTrefのマップを記憶している。上記ステップ210では、具体的には、そのマップを参照することでΔTrefが算出される。尚、ΔTrefは、出力差VADDIFの関数として算出されればよく、その算出の手法は、マップを用いる他、予め設定した演算式を用いるものであってもよい。
上記の処理が終わると、次に、現在の目標温度Trefに目標温度補正量ΔTrefを加えた値が、目標温度上限値Tmax以下であるかが判別される(ステップ212)。目標温度上限値Tmaxは、排気ガスセンサ10の目標温度として許容し得る最高の温度である。
従って、Tref+ΔTref≦Tmaxの成立が認められた場合は、左辺の温度が、目標温度として許容し得る温度であると判断できる。この場合は、その温度Tref+ΔTrefが新たな目標温度Trefに設定される(ステップ214)。
他方、Tref+ΔTref≦Tmaxが成立しないと判断された場合は、左辺の温度が、目標温度として許容し得ない温度であると判断できる。この場合は、目標温度Trefが目標温度上限値Tmaxにガードされ、その上限値Tmaxが新たな目標温度Trefに設定される(ステップ216)。
以上説明した通り、図14に示すルーチンによれば、目標温度Trefを、常に、排気ガスセンサ10を現実に活性化させることのできる温度に設定することができる。また、このルーチンによれば、現実に生じている出力差VADDIFを基礎として目標温度補正量ΔTrefを設定するため、補正後の目標温度Trefを、過不足のない適正な温度とすることができる。更に、このルーチンによれば、目標温度Trefを上限温度Tmaxでガードすることができ、排気ガスセンサ10が過度に加熱されるのを確実に防ぐことができる。従って、本実施形態のシステムによれば、排気ガスセンサ10が、現実に適正な活性状態に維持される状況を、長期安定的に実現することができる。
[排気ガスセンサの変形例]
本実施形態の排気ガスセンサ10は、図1を参照して説明した通り、第1セルと第2セルとを一体化した構成を有している。しかしながら、排気ガスセンサ10の構成は、これに限定されるものではなく、第1セルと、第2セルとは、別個独立に設けられたものであってもよい。この点は、以下に説明する他の実施形態においても同様である。
また、図1に示す排気ガスセンサ10は、第1セルと第2セルが、大気側電極32,34をそれぞれ独立に有する構成とされているが、その構成はこれに限定されるものではない。すなわち、図15に示すように、第1セルの大気側電極と、第2セルの大気側電極とは、一体的に設けることとしてもよい。この点も、以下に説明する他の実施形態において同様である。
尚、上述した実施の形態1においては、第1セル及び第2セルが、それぞれ前記第1の発明における「第1の限界電流式空燃比センサ」及び「第2の限界電流式空燃比センサ」に、H2成分が前記第1の発明における「特定の検出対象成分」相当している。また、ここでは、駆動装置40のマイクロコンピュータが、ステップ162の処理を実行することにより前記第1の発明における「出力差検出手段」が、ステップ166の処理を実行することにより前記第1の発明における「活性判定手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、駆動装置40が、上記ステップ202の処理を実行することにより前記第2の発明における「素子温度推定手段」が、上記ステップ204の処理を実行することにより前記第2の発明における「目標温度判定手段」が、上記ステップ208〜216の処理を実行することにより前記第2の発明における「目標温度補正手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、駆動装置40が、上記ステップ210の処理を実行することにより前記第3の発明における「補正値設定手段」が、上記ステップ212及び216の処理を実行することにより前記第4の発明における「上限温度制限手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、駆動装置40のマイクロコンピュータが、ステップ120の処理を実行することにより前記第5の発明における「空燃比検出手段」が、上記ステップ122〜126の処理を実行することにより前記第5又は第6の発明における「空燃比補正手段」が、それぞれ実現されている。更に、駆動装置40に、H2成分の拡散速度を推定させることにより前記第8の発明における「拡散速度推定手段」を実現することができ、その推定値に基づいて空燃比補正量ΔA/Fを変化させることにより前記第8の発明における「補正量補正手段」を実現させることができる。
実施の形態2.
[実施の形態2の構成]
(センサ構成)
次に、図16乃至図23を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。図16(A)は、本実施形態の排気ガスセンサ70の斜視図を示す。また、図16(B)は、排気ガスセンサ10を、図16(A)に矢印Bを付して示す平面で切断することで得られる断面図を示す。
本実施形態の排気ガスセンサ70は、第1拡散抵抗層14及び触媒層18が第1拡散抵抗層72に置き換えられている点、及び、第2拡散抵抗層16が第2拡散抵抗層74に置き換えられている点を除いて、実施の形態1における排気ガスセンサ10と同様である。以下、図16において、図1に示す構成要素と同じものについては、同一の符号を付してその説明を省略又は簡略する。
本実施形態において用いられる2つの拡散抵抗層72,74は、孔径や密度が異なるように設けられている。具体的には、第1拡散抵抗層72は、排気ガス中の種々の成分(高分子HC成分を除く)が、適当な拡散速度で拡散できる程度に細孔化、緻密化されている。他方、第2拡散抵抗層74は、排気ガス中の高分子HC成分が、容易に拡散できるように、第1拡散抵抗層72に比して大孔化、粗大化されている。
(回路構成)
図17は、本実施形態の排気ガスセンサ70の駆動装置80の主要部を表す回路図である。図17に示す回路構成は、図2を参照して説明した構成と同様である。ここでは、同一の構成要素に対して共通する符号を付することとして、重複する説明を省略する。
駆動装置80が備える第1大気側端子52及び第1排気側端子54は、実施の形態1の場合と同様に、第1セルの大気側電極32及び排気側電極(第1電極20)に接続される。また、駆動装置80が備える第2大気側端子66及び第2排気側端子62も、実施の形態1の場合と同様に、第2セルの大気側電極34及び排気側電極(第2電極22)に接続される。
駆動装置80は、上記の接続を得ることにより、駆動装置40と同様に、第1セル及び第2セルを、それぞれ限界電流式のセンサとして機能させることができる。そして、駆動装置80は、第1ADポートの出力を第1セル出力VAD1として取得し、また、第2ADポート66の出力を、第2セル出力VAD2として取り込むことができる。
[本実施形態の基本動作]
(空燃比A/Fの検出)
本実施形態において、第1拡散抵抗層72は、上述した通り、高分子HC成分を除く他の排気ガス成分が、適当な拡散速度で拡散できる程度に細孔化、緻密化されている。第1セルを限界電流式のセンサとして機能させるためには、第1電極20に到達する排気ガス量が、適当に制限されている必要がある。第1拡散抵抗層72によれば、排気ガス中に高分子HC成分が含まれていない場合には、このような要求を適切に満たすことができる。
しかしながら、排気ガス中には、高分子HC成分が含まれることがある。特に、ディーゼル機関の排気ガス中には、高分子HC成分が多量に含まれ易い。高分子HC成分は、O2やNOxなどの酸化剤に比して、拡散抵抗層中を進む速度、つまり、拡散速度が遅く、拡散抵抗層が細孔化、緻密化されるほど、その傾向は顕著になる。
このため、排気ガス中に高分子HC成分が含まれている場合、排気ガス中の各成分が第1拡散抵抗層72の内部を進行する過程で、高分子HC成分の比率が下がり、第1電極20の表面においては、現実の排気ガスに比べて、高分子HC成分の比率が著しく低くなる事態が生ずる。第1電極20の表面において、還元剤であるHC成分の比率が低下すれば、O2等の酸化剤の比率が相対的に高くなる。その結果、第1セル出力VAD1は、現実の排気空燃比に対してリーン側に偏った値となる。
つまり、本実施形態の構成によれば、第1セルを流れるセンサ電流は、排気ガス中に含まれる高分子HC成分が少量である場合には、現実の排気空燃比と精度良く対応する値となる一方、排気ガス中に高分子HC成分が多量に含まれるような場合には、現実の排気空燃比に対してリーン側に偏った値となる。このため、後者の場合には、第1セル出力VAD1に基づいて、排気空燃比を正確に検知することはできない。
これに対して、第2拡散抵抗層74は、上述した通り、高分子HC成分が容易に拡散できる程度に大孔化、粗大化されている。その結果、第2セルにおいては、排気ガス中に高分子HC成分が含まれていても、第2拡散抵抗層72の表面と、第2電極22の表面とで、還元剤と酸化剤の比率が大きく変化することはない。このため、第2セル出力VAD2は、排気ガス中に高分子HC成分が多量に含まれている場合には、現実の排気空燃比に精度良く対応した値となる。
但し、拡散抵抗層が、排気ガス中の各種成分の拡散速度を律する効果は、その構造が大孔化、粗大化されるほど小さくなる。このため、排気ガス中に含まれる成分が、拡散速度の早い成分のみである場合は、第2電極の表面に到達する各種成分の割合が安定せず、第2セル出力VAD2が不安定になる。従って、排気ガス中に高分子HC成分が含まれていない場合に、第2セル出力VAD2を、排気空燃比の基礎とすることは、必ずしも適切ではない。
以上の理由により、本実施形態の構成によれば、排気ガス中に高分子HC成分が多量に含まれる環境下では、第2セル出力VAD2を基礎として、排気空燃比を検知することが適切である。また、排気ガス中に高分子HC成分が含まれていない場合には、第1セル出力VAD1に基づいて排気空燃比を検出することが適切である。
高分子HC成分は、上述した通り、ディーゼル機関の排気ガス中に多量に含まれ易い。そして、ガソリン機関の排気ガス中には、低分子HC成分は含まれるものの、一般に、高分子HC成分は含まれ難い。そこで、本実施形態の駆動装置80は、このシステムが、ガソリン機関との組み合わせで用いられる場合には、第1ADポート58に表れる第1セル出力VAD1に基づいて排気空燃比の検出を行う。また、このシステムがディーゼル機関と組み合わせて用いられる場合には、第2ADポート66に表れる第2セル出力VAD2に基づいて排気空燃比の検出を行う。
(HC濃度の検出)
本実施形態の排気ガスセンサ70によれば、第1セルには、高分子HC成分を除く他の排気ガス成分の割合に応じたセンサ電流I1が流れる。他方、第2セルには、高分子HC成分を含む全ての排気ガス成分の割合に応じたセンサ電流I2が流れる。この場合、第1セルのセンサ電流I1と、第2セルのセンサ電流I2との差、つまり、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差(VAD1−VAD2)は、高分子HC成分の濃度に対応した値となる。従って、本実施形態のシステムでは、上記の出力差VADDIF=VAD1−VAD2に基づいて、高分子HC成分の濃度を検出することが可能である。
(空燃比A/F及びHC濃度を検出するための具体的処理)
図18は、駆動装置80のマイクロコンピュータが、排気空燃比A/F及び排気ガス中のHC濃度を検出するために実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンは、ステップ104がステップ170に置き換えられている点を除いて、図3に示すルーチンと同様である。
すなわち、図18に示すルーチンでは、ステップ100及び102の処理により、ADタイミングが到来する毎に、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とが取り込まれる。その後、それらのセル出力VAD1、VAD2に基づいて、排気空燃比A/F及びHC濃度が算出される(ステップ170)。
ステップ170において、排気空燃比A/Fを算出する手法は、このシステムがガソリン機関と組み合わされる場合と、ディーゼル機関と組み合わされる場合とで、異なったものとなる。前者の場合は、図19(A)に示すマップから、第1セル出力VAD1に対応する値が読み出され、その値が排気空燃比A/Fとされる。後者の場合は、そのマップから、第2セル出力VAD2に対応する値が読み出され、その値が排気空燃比とされる。このような処理によれば、高分子HC成分の少ないガソリン機関の排気空燃比、及び、高分子HC成分の多いディーゼル機関の排気空燃比を、それぞれ適切に検出することができる。
ステップ170において、HC濃度は、このシステムがガソリン機関と組み合わされる場合も、ディーゼル機関と組み合わされる場合も同様の手順で算出される。具体的には、先ず、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差VADDIF=VAD1−VAD2が算出される。そして、図19(B)に示すマップから、その差VADDIFに対応する値が読み出され、その値がHC濃度とされる。このような処理によれば、拡散速度の遅い成分、つまり、排気ガス中のHC成分(特に、高分子HC成分)の濃度を精度良く算出することができる。
以上説明した通り、本実施形態のシステムは、第1拡散抵抗層72の構造と、第2拡散抵抗層74の構造とを、孔径や密度において異ならせることにより、空燃比A/Fの検出精度を高めると共に、HC成分の検出を可能としている。これらの拡散層の構造は、安定しており、経時的に殆ど変化することはない。このため、本実施形態のシステムによれば、長期的に安定した特性を維持することができる。
[拡散抵抗層の粗密差に起因する遅れ]
(遅れの影響)
上述した通り、図18に示す処理の手順では、同時にサンプリングした第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差に基づいて、排気ガス中のHC濃度を算出することとしている。しかしながら、本実施形態の排気ガスセンサ70は、上述した通り、第1拡散抵抗層72が、第2拡散抵抗層74に比して細孔化、緻密化されている。このため、排気ガスが第1拡散抵抗層72を通過するのに要する時間は、必然的に、第2拡散抵抗層74の通過に要する時間に比して長くなる。
このため、本実施形態の場合も、上述した実施の形態1の場合と同様に、第2セル出力VAD2と第1セル出力VAD1との間には、図5(A)及び図5(B)に示す応答遅れの関係が成立する。従って、本実施形態のシステムにおいて、HC濃度の検出精度を高めるためには、実施の形態1の場合と同様に、任意のADタイミングで取得した第1セル出力VAD1(i)と、そのタイミングから、応答遅れ時間だけ遡ったタイミングで取得した第2セル出力VAD2(i-k)との差に基づいてHC濃度を算出することが適切である。
(具体的処理)
図20は、排気ガス中のHC濃度を上記の手法で算出させるためのルーチンのフローチャートである。本実施形態において、駆動装置80には、上記図18に示すルーチンに代えて、このルーチンを実行させることとしてもよい。このルーチンによれば、HC濃度の検出精度を更に高めることが可能である。
図20に示すルーチンは、ステップ112がステップ180に置き換えられている点を除いて、図6に示すルーチンと同様である。以下、図20において、図6に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略する。
図20に示すルーチンでは、ステップ110において、今回のADタイミングに対応する第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2iが格納された後、排気空燃比A/Fの算出と、HC濃度の算出とが行われる(ステップ180)。
排気空燃比A/Fの算出は、実質的に、図18に示すルーチンの場合と同様の手順で算出される。すなわち、このシステムがガソリン機関と組み合わされる場合は、今回のADタイミングで格納した第1セル出力VAD1に基づいて排気空燃比A/Fが算出される。また、このシステムがディーゼル機関と組み合わされる場合は、今回のADタイミングで格納した第2セル出力VAD2iに基づいて排気空燃比A/Fが算出される。
HC濃度の算出は、組み合わせの対象がガソリン機関である場合も、ディーゼル機関である場合も、以下の手順で算出される。ここでは、先ず、今回のADタイミングで格納した第1セル出力VAD1と、k回前のADタイミングで格納された第2セル出力VAD2i-kとの差VADDIF=VAD1−VAD2i-kが算出される。そして、その差VADDIFに基づいて、HC濃度が算出される。
図21(A)及び図21(B)は、上記ステップ180において参照される空燃比A/Fのマップ、及びHC濃度のマップである。これらのマップを参照してA/FやHC濃度を算出する手法は、実質的に、図18を参照して説明した手法と同様である(ステップ170参照)。
上記のkは、AD周期×kが、第1拡散抵抗層72において生ずる拡散遅れ時間と一致するように定められた値である。このため、サンプリングタイミングiにおけるVAD1と、k回前のVAD2i-kとは、同じ時点で排気ガスセンサ70の周囲に存在していた排気ガスの特性を表すものである。従って、上記の処理によれば、拡散時間の相違に影響されることなく、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とに基づいて、排気ガス中のHC濃度を精度良く検出することができる。
ところで、上記のルーチンでは、所定のADタイミング毎に第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とを検出し、触媒層18での応答時間に起因する遅れを打ち消すために、ADタイミングiにおける第1セル出力VAD1と、ADタイミングi-kにおける第2セル出力VAD2i-kとを組み合わせることとしているが、拡散時間の違いを打ち消すための手法はこれに限定されるものではない。すなわち、任意のタイミングで第2セル出力VAD2を取り込んだ後、拡散遅れ時間が経過した時点で割り込み処理により第1セル出力VAD1を取り込み、それら両者を組み合わせてH2濃度を算出することとしてもよい。
また、上記のルーチンでは、第1セルにおいて発生する拡散遅れ時間は、常に一定であるものとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、上記の拡散遅れ時間は、内燃機関の運転条件(ガス流量など)に応じて変化することがある。このため、HC濃度の基礎とする第2セル出力VAD2をどのADタイミングで取得したものとするか、或いは、上記の変形例における割り込みのタイミングなどは、内燃機関の運転条件に応じて適宜決定することとしてもよい。
[HC濃度を利用した空燃比A/Fの精度向上]
(精度向上原理)
以上説明した通り、本実施形態のシステムは、図18に示すルーチン、或いは図20に示すルーチンを実行することにより、排気ガスセンサ10の周囲を流れる排気ガスの空燃比A/F、及び、その排気ガス中のHC濃度を検出することができる。以下、このようにして検出したHC濃度を利用して、上記の処理により検出した空燃比A/Fの精度を更に向上させるための処理について説明する。
上述した通り、HC成分(特に高分子HC成分)は、排気ガス中の他の成分に比して拡散速度が遅いという特性を有している。第2拡散抵抗層74は、その影響を抑えるために大孔化、粗大化されているが、このような構造によっても、高分子HC成分の拡散速度を他の成分の拡散速度と同じにすることは、必ずしも容易ではない。このため、排気ガス中にHC成分が含まれている場合は、第2セル出力VAD2にもリーンシフトが生ずることがある。
ところで、HC成分の拡散遅れに起因して発生するリーンシフト量は、排気ガス中のHC濃度と相関を有している。このため、HC濃度が判れば、その影響で生ずるリーンシフト量を推定することは可能である。そして、その推定が可能であれば、空燃比A/Fの検出値に補正を施して、リーンシフト量を相殺することが可能である。
(具体的処理)
図22は、HC濃度を利用して、空燃比A/Fの検出精度を高めるために、駆動装置80のマイクロコンピュータが実行するルーチンのフローチャートである。このルーチンは、上記図18に示すルーチン、或いは図20に示すルーチンにより、A/F及びHC濃度を算出した後に実行されるものとする。
図22に示すルーチンでは、先ず、図18又は図20に示すルーチン中で算出された空燃比A/F、及びHC濃度が順次読み出される(ステップ190,192)。次に、HC濃度に基づいて、空燃比補正量ΔA/Fが算出される(ステップ194)。最後に、ステップ190で読み出された空燃比に、空燃比補正量ΔA/Fが加算され、補正後の空燃比A/Fが算出される(ステップ196)。
図23は、上記ステップ194において参照されるマップの一例である。このマップによれば、空燃比補正値ΔA/Fは、負の値として算出され、HC濃度が高いほど、その絶対値が大きな値とされる。従って、空燃比A/Fは、HC濃度が高いほど、リッチ側に大きく補正されることになる。
第2セル出力VAD2に基づく空燃比A/Fは、上述した理由により、HC濃度が高いほどリーン側に大きくシフトし易い。図23に示すマップは、そのリーンシフトを相殺することができるように設定されている。このため、上記の処理によれば、HC成分に起因する空燃比ずれを精度良く補正して、現実の排気空燃比に精度良く一致する空燃比A/Fを算出することができる。
ところで、上記の処理は、HC成分の拡散速度が常に一定であることを前提としているが、その拡散速度は、必ずしも一定ではない。すなわち、HC成分の拡散速度は、排気通路内の圧力や温度に応じた変化を示す。そして、HC成分の拡散速度が異なれば、HC成分の影響を相殺するための空燃比補正量ΔA/Fも変化させることが適切である。このため、HC成分の拡散速度を推定したうえで、空燃比補正量ΔA/Fを、推定した拡散速度に基づいて変化させることとしてもよい。
また、上記のルーチンでは、HC濃度を基礎として空燃比補正量ΔA/Fを算出することとしているが、その算出の手法はこれに限定されるものではない。すなわち、空燃比補正量ΔA/Fは、HC濃度ではなく、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との差(VAD1−VAD2)から求めることとしてもよい。
[排気ガスセンサの劣化検出]
(検出原理)
次に、第1セル出力VAD1及び第2セル出力VAD2を利用して、排気ガスセンサ70の劣化状態を判定する手法について説明する。本実施形態の構成によれば、排気ガス中にHC成分が存在する場合は、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に、HC濃度に対応する差異が発生するはずである。他方、排気ガス中にHC成分が存在しない場合は、差異の原因が存在しないため、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とは等しい値となるはずである。
HC成分は、H2成分と同様に、空燃比がリッチな排気ガス中に含まれる。反対に、それらの成分は、空燃比がリーンな排気ガス中には含まれない。従って、実施の形態1の場合と同様に、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2とは、排気空燃比がリッチである環境下では異なる値となり、他方、排気空燃比がリーンである場合は等しい値となるはずである。このため、本実施形態においても、(1)排気空燃比がリッチである環境下で有意な出力差VADDIFが認められるか、或いは、(2)排気空燃比がリーン又はストイキである環境下で出力差が十分に小さな値となるか、を見ることにより、排気ガスセンサ70の故障の有無を判断することが可能である。
(具体的処理)
本実施形態において、上記の故障診断は、駆動装置80に、実施の形態1の場合と同様の処理、つまり、図10に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。ここでは、説明の重複を避けるため、図10に示すルーチンの詳細な説明は省略する。
[排気ガスセンサの活性判定]
(活性判定の原理)
次に、本実施形態における活性判定の手法について説明する。排気ガスセンサ70は、所定の活性温度(例えば700℃)に達することで、適正に機能し得る状態となる。そして、第1セル及び第2セルは、活性温度に達することにより、それぞれ第1電極20又は第2電極の表面上の空燃比に応じた出力を発する。
換言すると、第1セル及び第2セルの出力VAD1,VAD2は、排気ガスセンサ70が未活性である間は、空燃比に応じた出力を発生しない。そして、排気ガスセンサ70の活性が進むにつれて、それらの出力VAD1,VAD2は、第1電極20上の空燃比、及び第2電極22上の空燃比を正しく表す値となる。
このため、排気ガス中にHC成分が含まれていたとしても、排気ガスセンサ70が未活性である間は、第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2との間に有意な差は発生しない。そして、排気ガス中にHC成分が含まれた状態で排気ガスセンサ70が活性状態に至ることにより、始めて、それらの出力差VADDIFは有意な値となる。
このため、本実施形態においても、実施の形態1の場合と同様に、リッチ環境下で有意な出力差(VAD1−VAD2)が認められるか否かを見れば、排気ガスセンサ70が現実に活性しているか否かを判断することが可能である。
(具体的処理)
本実施形態において、上記の活性判定は、駆動装置80に、実施の形態1の場合と同様の処理、つまり、図13に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。ここでは、説明の重複を避けるため、図13に示すルーチンの詳細な説明は省略する。
ところで、図13に示すルーチンでは、同じADタイミングで取得した第1セル出力VAD1と第2セル出力VAD2の差を出力差VADDIFとしているが、その算出の手法はこれに限定されるものではない。すなわち、第1拡散抵抗層72における拡散遅れ時間を考慮して、ADタイミングiで取得した第1セル出力VAD1iと、k回前のADタイミングで取得した第2セル出力VAD2i-kとの差を出力差VADDIFとしてもよい。
また、図13に示すルーチンでは、ADタイミング毎に、出力差VADDIFが判定値KVADACTより大きいか否かに基づいて、排気ガスセンサ70が活性状態に至ったか否かを判定することとしているが、その判定の手法は、これに限定されるものではない。例えば、内燃機関の始動後に、出力差VADDIFの積算値を算出し、その積算値が判定値に達したか否かに基づいて活性判定を行うこととしてもよい。
[目標温度の補正]
本実施形態のシステムでも、実施の形態1の場合と同様に、排気ガスセンサ70の活性状態を維持するためには、ヒータ36による加熱制御を行うことが必要である。そして、排気ガスセンサ70を現実に活性化させ続けるために、本実施形態においても、実施の形態1の場合と同様に、電極20,22,32,34等の劣化進行に合わせて、加熱制御の目標温度を徐々に上昇させることが必要である。
本実施形態において、駆動装置80は、実施の形態1における駆動装置40と同様に、図14に示すルーチンを実行する。駆動装置80が、図14に示すルーチンを実行すると、排気ガスセンサ70が現実に適正な活性状態を実現し続けることができるように、目標温度Trefを過不足のない適正温度に設定し続けることができる。このため、本実施形態のシステムによっても、実施の形態1の場合と同様に、排気ガスセンサ70が、現実に活性状態を実現し得る状況を、長期安定的に実現することが可能である。
[排気ガスセンサの変形例]
図24は、本実施形態の排気ガスセンサ70の変形例の構成を説明するための図である。図24に示す排気ガスセンサ90は、第1拡散抵抗層72を覆う触媒層92、及び第2拡散抵抗層74を覆う触媒層94を備えている点を除いて、排気ガスセンサ90は、排気ガスセンサ70と同様である。実施の形態2において説明した全ての処理は、排気ガスセンサ70に代えて、排気ガスセンサ90を対象として実行することとしてもよい。
図24に示す触媒層92,94は、実施の形態1の排気ガスセンサ10が備える触媒層18と同様に構成されている。つまり、触媒層92,94は、排気ガス中のH2成分の反応を促進するためのものであり、プラチナ、ロジウム、バリウム等の塗布膜により形成されている。
H2成分は、上述した通り、他の排気ガス成分に比して拡散速度が早いという特性を有している。実施の形態2の排気ガスセンサ70においては、H2成分が、他の排気ガス成分と同様に第1拡散抵抗層72及び第2拡散抵抗層74に到達する。このため、排気ガス中にH2成分が存在する場合は、第1セル出力VAD1にも第2セル出力VAD2にも、リッチシフトが生ずる。
これに対して、図24に示す排気ガスセンサ90によれば、第1セルの側でも、第2セルの側でも、拡散抵抗層72,74に到達する前に排気ガス中のH2成分を焼失させることができる。このため、排気ガスセンサ90によれば、排気ガス中にH2成分が存在する場合でも、リッチシフトの影響を受けることなく、高精度な空燃比検出やHC濃度検出を実現することができる。
尚、上述した実施の形態2においては、HC成分が前記第1の発明における「特定の検出対象成分」相当している。また、ここでは、駆動装置80のマイクロコンピュータが、ステップ162の処理を実行することにより前記第1の発明における「出力差検出手段」が、ステップ166の処理を実行することにより前記第1の発明における「活性判定手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態2においては、駆動装置80のマイクロコンピュータが、上記ステップ210の処理を実行することにより前記第3の発明における「補正値設定手段」が、上記ステップ212及び216の処理を実行することにより前記第4の発明における「上限温度制限手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態2においては、駆動装置80のマイクロコンピュータが、ステップ190の処理を実行することにより前記第5の発明における「空燃比検出手段」が、上記ステップ192〜196の処理を実行することにより前記第5又は第6の発明における「空燃比補正手段」が、それぞれ実現されている。更に、駆動装置80に、HC成分の拡散速度を推定させることにより前記第8の発明における「拡散速度推定手段」を実現することができ、その推定値に基づいて空燃比補正量ΔA/Fを変化させることにより前記第8の発明における「補正量補正手段」を実現させることができる。