本発明は、拡散符号により拡散されたパルス列を伝送信号として用いる通信システムに係り、特に前記伝送信号に対する受信装置に関する。
近年、携帯電話や無線LAN(Local Area Network)等の無線端末装置が著しく普及し、利用する周波数帯もGHz帯に及んできている。そのため、新しい周波数帯を通信に利用することが困難な状況にある。
そのような状況の中で、パルス幅が極めて狭い(例えば、1ns近辺)インパルス状のパルス列を用いる通信方式が周波数資源の新しい利用方法として注目されるようになってきた。そのようなパルス列を用いる通信方式として、例えば、ウルトラワイドバンドインパルスラジオ(Ultra Wide Band, Impulse Radio)(以下「UWB−IR」と略称する)通信方式が知られている。その一例として、ガウシアンモノパルスをパルス位置変調PPM(Pulse Position Modulation)方式で変調するUWB−IR通信システムが非特許文献1に開示されている。
これらのパルス列を用いた通信方式では、通常の連続波を用いた信号伝送とは異なり、断続的なエネルギー信号の送受信によって情報の伝送が行なわれる。
パルス列を構成するパルスが上述のように非常に狭いパルス幅を持つので、その信号スペクトラムは通常の連続波を用いた通信に比べて周波数帯域が拡がり、信号のエネルギーが分散される。その結果、単位周波数帯域当たりの信号エネルギーは微小のものとなる。従って、他の通信システムと干渉を起こすことなく通信が可能となり、周波数帯域の共有が可能になる。
このUWB−IR通信の応用分野のひとつとしてワイヤレス・センサ・ネットワーク(以下「センサネット」と略称する)技術が挙げられる。センサネットは人、物の状況やそれらの周辺環境など様々な状況や環境のデータをネットワーク上に発信することで業務の高効率化を実現し、さらには新規応用も期待されている。特にセキュリティー、ヘルスケアなどでの利用が注目されている。UWB−IR通信は低消費電力であり、かつ小型であるため、無線機を備えた端末を大量に使用するセンサネット用の通信装置として期待されている。
この種の関連する従来例として、直交検波して得られるベースバンド信号の振幅情報に基づいて増幅手段のアナログ変調信号に対するゲインを制御することが可能な復調回路が特許文献1に開示されている。
また、ウルトラワイドバンド通信システムにおいて、信号捕捉、トラッキングの移行をコントローラで制御する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、スペクトラム拡散された受信信号を用いてアンプ手段の利得を設定するに際し、同期保持前には相関器に入力される前の受信信号(ノイズが重畳されている)を用いて利得制御を行い、同期確立がなされた後には相関器によりスペクトラム逆拡散がなされた受信信号(ノイズが除去されている)を用いて利得制御行うAGC回路が知られている(例えば、特許文献3参照)。
特開平9−238171号公報
国際公開第02/32066号パンフレット(図1a)
特開2003−218722号公報
モエ・ゼット・ウィン(Moe Z. Win)他著、「インパルスラジオ:その動作(Impulse Radio: How It Works)」、米国文献アイ・イー・イー・イー・コミュニケーションズ・レターズ(IEEE Communications Letters)第2巻第2号、p.36−38(1998年2月)
従来の無線受信装置は、あらかじめ設計段階において、受信性能を最適化できるように(例えば、ベースバンド信号の復調性能を最適条件に一致するように)、増幅器のゲインなど、各種設定を決定していた。しかしながら、実際には素子や実装上のばらつきの影響により、最適条件で受信装置を動作させることができない可能性が高かった。
そこで、前述した特許文献1では、受信装置を動作させて測定した情報をフィードバックし、増幅器のゲインを設定する受信装置が提案されている。これは、RFフロントエンドにおいて分割された受信信号のI信号成分(同相信号:In Phase)とQ信号成分(直交信号:Quadrature)をベクトル合成してA={(I2+Q2)1/2}を検出し、その値に応じた制御信号を増幅器に供給するというものであり、これによってRFフロントエンドでの受信信号の振幅レベルに応じて、信号増幅器を最適にゲイン制御している。
しかしながら、振幅情報に基づいて増幅率を制御するため、I信号、Q信号の増幅率のばらつきを補償することができず、コンスタレーションに歪が生じ、ビット誤り率を高くし受信性能を劣化させてしまうという問題があった。
また、特許文献2には、受信機のフロントエンド部を含む受信機部分の外のRF制御およびインタフェース部から供給される制御信号により受信機部分全体を制御する構成が記載されているが、受信機内に制御部を設け、この制御部によりベースバンド部の各部を個々に制御するものではない。
また、一般に可変ゲイン増幅器の増幅率はデジタル値で設定されるが、設定可能な間隔が大きいため、増幅器のゲインを最適条件に調整することが困難であった。
一方、増幅率設定に関するUWB−IR通信特有の課題は、信号を未受信で、かつ信号電力が未知の状態で設定を行わなければならないことである。通常の無線通信においては、信号の捕捉同期(プリアンブル)中に受信信号の振幅をもとに制御を行うが、これは、通常連続波がRF信号として用いられるために可能となる。これに対して、UWB−IR通信は、上述のように送信波が極短パルスであり、かつパルス間隔がパルスと比較して長いため、受信開始時に検出した信号が通信信号であるかノイズであるかの判別をできていない。従って、受信開始前にノイズを利用して条件設定をすることが必要になる。
本発明の第1の目的は、受信開始時に各種パラメータを最適設定し、受信性能が高いUWB−IR方式の受信装置を提供することである。
一方、UWB−IR無線通信の応用の観点から課題を検討すると、例えばセンサネット応用では、端末ノードの低消費電力化が重要な課題となっている。図1にセンサネットの構成図の一例を示す。センサネットシステムは、ノード(NOD)100a,b,c,…、基地局(BAS)110a,b…、インターネット(INT)120、サーバ(SRV)130、端末(TRM)140から構成される。
サーバ130は、データベース(DBS)131を含む。多数の端末ノードがあらゆる周囲の環境に分散配置され、各ノードが収集した大量の情報を基地局経由でサーバに集約し、インターネットなどのネットワーク上で有効活用するものである。
このようなセンサネットでは、多数の端末ノードを分散配置するにあたり、自由度をあげるために電源線やデータ線を不要にする必要がある。すなわち、内蔵の電源を持ち、かつ無線通信を行なう必要がある。電源の寿命は保守費用に影響するため、端末ノードの消費電力は小さいほど望ましい。各端末ノード100a,b,c,…は、図1に例示されている通り、センサ(SEN)101、コントローラ(CPU)102、メモリ(不揮発メモリROM103/揮発メモリRAM104)、無線機(送信機TX105/受信機RX106)、および電源(PWR)107から構成される。この中で電力消費が大きい部品としては、無線機が挙げられる。すなわち、低電力な無線方式が課題となる。
本発明の第2の目的は、低消費電力なUWB−IR方式の受信装置を提供することである。
本明細書において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。すなわち、本発明に係る受信装置は、拡散符号によって拡散されたパルス信号が受信される受信装置であって、前記受信信号のフィルタリングおよび増幅が行われるRFフロントエンド部と、前記RFフロントエンド部の出力信号がアナログデジタル変換されるAD変換部と、前記AD変換部の出力が逆拡散され信号検出および復調が行われるベースバンド部と、前記ベースバンド部の入力信号を用いて受信環境が測定される受信環境測定部と、前記受信環境測定部の出力信号に基づいて上記各部のパラメータが設定されるパラメータ設定部と、を備え、前記受信環境測定部で測定されるベースバンド部の入力信号は、送信側から送信されてくるプリアンブル(TX−PREAMB)に対応する受信側のプリアンブル(RX−PREAMB)よりも前の受信動作開始前の雑音信号であり、前記受信環境測定部の出力信号は、前記雑音信号の平均値及び分散値であることを特徴とするものである。
このような構成により、受信装置は、受信動作を開始する前に、装置が置かれた空間の環境条件を受信環境測定部で計測し、計測結果に応じて受信信号の増幅を行なうアンプの増幅率、受信信号のオフセット、AD変換部におけるAD変換器の動作個数、同期捕捉閾値、同期確認回数などのパラメータの最適値を決定し、制御信号を生成して受信装置各部を制御することができ、UWB−IR方式の信号に対応した受信動作が可能になる。
また、本発明に係る受信装置は、拡散符号によって拡散されたパルス信号が受信される受信装置であって、受信した信号を復調するベースバンド部の動作モードを制御するためのモード制御部を備えることを特徴とするものである。これにより、受信装置の動作状態もしくは受信装置内部の各部の動作/非動作状態を詳細に状態制御でき、消費電力の削減を果たすことが可能になる。
本発明によれば、環境に応じた最適な設定で受信を開始することができ、同期捕捉精度やビットエラーレートなどの受信性能を向上させることができ、パルス信号を高精度に復調することが可能となる。また、受信装置、あるいは受信装置の動作状態に応じて各部の動作/非動作を制御することができ、受信装置の低消費電力化を実現できる。
本発明に係る受信装置の実施例を、以下添付図面を用いて詳細に説明する。
図2に本発明に係る受信装置の第1の実施例の全体図を示す。本実施例の受信装置は、RFフロントエンド部(RFF)210、アナログデジタル変換部(ADC)220、ベースバンド部(BBM)230、受信環境測定部(REM)240、パラメータ設定部(PSM)250、およびアンテナ(ANT)200から構成される。
本実施例の受信装置はパルス列を用いた無線信号を受信することを目的としており、例えば送信装置において、BPSK変調(Binary Phase Shift Keying:2値のデジタル位相変調)および直接拡散されたパルス列を空間に送信し、図2のアンテナANTで空間を伝搬してきたパルス列信号を受信する。空間を伝搬するパルス列信号としては、例えば標準偏差σが2ns程度の幅を持つガウシアン波形をインパルス信号とし、これに4GHz程度の正弦波をキャリア搬送波として掛け合わせた高周波信号が用いられる。この信号の周波数スペクトラムは、およそ3GHzから5GHzまでの広がりを持つ広帯域な信号となる。BPSK変調を行なうため、ガウシアン波形として正/負の2値を持つインパルスを用いる。またパルス列を直接拡散するにあたり、パルス列の間隔は例えば30ns程度の幅を用いる。図20に、空間を伝播するパルス列の一例を示す。図20において、縦軸は信号電力PW、横軸は時間tであり、点線の波形は標準偏差σが2ns程度の幅を持つ正/負のガウシアン波形、実線の波形はこのガウシアン波形を例えば4GHzの正弦波キャリア搬送波でアップコンバートしたパルス列をそれぞれ示している。
RFフロントエンド部210は、アンテナが受けた信号を、必要に応じて帯域制限(フィルタリング)、ノイズ除去、増幅といったアナログ信号処理および周波数変換処理を行う。
図3に、RFフロントエンド部(RFF)210の構成例を示す。RFフロントエンド部210は、ローノイズアンプ(LNA)310、ミキサ(MIX)320i,320q、π/2位相シフタ(QPS)330、ローパスフィルタ(LPF)350i,350q、可変ゲインアンプ(VGA)360、クロック発生器(CLK)340から構成される。なお、添え字i,qは、それぞれI信号、Q信号用を示しており、以下の説明では、特に必要でない限りi,qの添え字は省略する。また、他の参照符号においても、同じ構成要素が複数あるものについて添え字を省略する場合は、その同一構成要素を指すものとする。
アンテナから受信されたパルス信号(間欠的なパルス列)はローノイズアンプ310で増幅された後、ミキサ320に与えられる。ミキサ320にはクロック発生器340が生成する約4GHzのクロック信号が与えられ、その結果ミキサ320の出力は4GHz帯の搬送波と、標準偏差σが2nsの幅を持つガウシアン波形のインパルス信号とに分離される。この時、ミキサ320iにはクロック発生器340の信号341が直接与えられて同相の出力信号であるI信号が出力される。ミキサ320qには、クロック発生器340のクロック信号がπ/2位相シフタ330を経て位相がπ/2遅延したクロック信号が供給されるため、出力信号は直交成分であるQ信号となる。
4GHzの搬送波は、送信装置が無線通信波形を生成するためのクロック信号と受信装置で波形を捉えるためのクロック信号とで同じ周波数の信号として用いられる。
しかしながら、送信装置と受信装置は空間を隔てて別個に存在し、それぞれ同期をとっているわけではない。そのため4GHzのクロックの位相は一致しない。搬送波の位相が同期しなくても信号を捉えることを可能とするため、I信号とQ信号の2種類信号への分離が用いられる。この2信号は、最終的にベースバンド部で合成されて信号検出が可能となる。ミキサ320で分離された信号は、ローパスフィルタ350で弁別され、周波数の高い4GHzの搬送波は遮断される。従って、ガウシアンのインパルス波形だけがローパスフィルタ350から出力される。これらインパルス信号351は、可変ゲインアンプ360で増幅され、RFフロントエンド部210からそれぞれI信号211i、Q信号211qとして出力される。可変ゲインアンプ360の増幅率は、はじめ初期値が与えられるが、パラメータ設定部250からの制御信号251iと251qにより最適値に制御される。
ここで、可変ゲインアンプ360のゲインの最適設定の一例について説明する。アンプ360のゲインは、例えば、受信機の最小感度(SNRmin)、AD変換器のフルスケール電圧(Vf)および周辺環境のノイズ(N)をもとに設定する。最小受信感度は、信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)を用いて受信機が復調可能な最小のSNR(SNRmin)として表される。受信信号のSNRがSNRminよりも大きい場合、復調が可能となる。また、AD変換器の量子化ノイズの影響は、フルスケール電圧が入力された場合に最小となる。すなわち、受信機の感度は、受信信号をAD変換器のフルスケール電圧まで増幅した場合に最高となる。
アンプのゲイン(G)は、最小受信感度に対応する信号が入力された場合に、その信号成分がフルスケール電圧に増幅されるように設定する。すなわち、G・(SNRmin・N)=Vfを満たすようにゲインを設定する。
図21に、RFフロントエンド部210の入力信号と、パラメータ設定部(PSM)250からの制御信号であるVGAゲイン制御信号251、およびVGA出力信号211との関係を示す。図21において、(a)は入力信号INの電力レベルがa1と小さい場合、(b)は入力信号INの電力レベルがa2と大きい場合であり、同図(a)、(b)のそれぞれ上段は入力信号INを、中段はゲイン制御信号251を、下段はVGA出力信号211を示している。
VGAのゲインは、入力信号の雑音電力の大きさに応じ、VGA出力信号211のレベルが一定となるようにゲイン制御信号251の値が設定される。図21で言えば、同図(a)のように入力信号の雑音電力レベルがa1と小さい場合は、ゲイン制御信号251の設定値を大きくし、VGA出力211を所定のレベルa3まで上げる。同様に、同図(b)のように、入力信号の電力がa2と大きい場合は、ゲイン制御信号251の設定値を小さくし、VGA出力211を所定のレベルa3にし、これによりVGA出力信号レベルは入力レベルによらず、a3の所定のレベルにほぼ一定となる。
このようにVGAのゲインを設定することで、最小受信感度の場合に、量子化ノイズの影響を最小限に抑えることができ、受信機の性能を最大限に引き出すことが可能となる。なお、ゲインの設定信号251はデジタル値でもアナログ値でも良いが、図21では、理解し易いようにゲイン設定信号251はアナログ表示で示している。
図22に、SNR=SNRminの信号が入力された時の、AD変換器の入力波形を示す。縦軸は信号電圧V、横軸は時間tである。図22(a)は最適に設定されている場合であり、信号の電圧がAD変換器のフルスケール電圧Vfとほぼ等しく、量子化ノイズの影響が最小である。同図(b)のように、ゲインが最適値よりも低く設定されている場合、最小受信感度のSNRを満たしている信号を受信した場合でも、AD変換器の量子化誤差などで、復調できないことが生じる。逆に、同図(c)のようにゲインが最適値よりも高く設定されている場合、ノイズ成分を増幅しすぎてしまうため、必要なSNRを確保することができず、復調できないことが生じる。
図23に、入力信号のSNRとパケットエラーレート(PER)との関係を示す。同図(a)は、VGAのゲインを入力信号の雑音電力の大きさに応じて設定を行わない場合、同図(b)は本実施例のように、VGAのゲインを入力信号の雑音電力の大きさに応じてVGA出力が一定となるように設定を行う場合である。
同図(a)では、ノイズNの大きさがN1の場合と、N2の場合で、PERが大きく異なっているのに対し、同図(b)では、ノイズの異なる大きさN1,N2に関係なくほぼ同じ特性を示している。
すなわち、本実施例のように最適にゲインが設定されている状況では、PERはSNRに依存するが、ノイズ(N)の大きさにほとんど依存しない(図23(b)参照)。一方、最適にゲインが設定されていない場合は、SNRが一定であってもノイズの値によりPERが変化する(図23(a)参照)ことが分かる。このように、周辺環境のノイズを計測し、最適設定することで、受信機の高感度化が可能となる。
アナログデジタル変換部(以下、AD変換部と略す)220には、RFフロントエンド部210の出力信号であるI信号211iとQ信号211qのガウシアン波形インパルス信号が入力され、AD変換器によりデジタル信号に変換され出力される。
図4に、AD変換部(ADC)220の構成例を示す。AD変換部220は、デコーダ(DEC)420、複数のAD変換器(AD)410ia〜c、410qa〜c、およびサンプリングクロック生成部(SMPCLK)400から構成される。I、Qの入力信号であるアナログのガウシアンインパルス信号は、間欠的にパルス列としてAD変換部220に入力される。
入力信号211i,qはそれぞれ複数に分割されて、内部の個々のAD変換器410に与えられ、複数ビットのデジタル信号に変換される。各AD変換器410において、信号をデジタル値に変換するためのサンプリングタイミングは、例えば410ia、410ib、410icに入力されるサンプリングクロックで制御され、これらサンプリングクロックは、サンプリングクロック生成部400から与えられる。一例としてそれぞれ0.5nsの遅延差を持つサンプリングクロックが与えられる。すなわち、ガウシアンインパルス信号が2nsの幅の標準偏差を持つ場合に、このインパルス信号を0.5nsずつ異なる位置でデジタル値に変換し、出力する。サンプリングクロック生成部400は、ベースバンド部230から与えられるサンプリングタイミング制御信号231に応じて、AD変換器410のサンプリングタイミングを決定するサンプリングクロック401ia〜c、401qa〜cを生成する。またデコーダ420は、パラメータ設定部250から与えられる使用信号数設定信号252に応じて、動作すべきAD変換器を選択する。
ベースバンド部230は、デジタル値に変換された受信信号を用いて同期捕捉、同期確認、信号復調、同期追跡といった信号処理、およびAD変換部220のサンプリングタイミング制御を行なう。復調されたデータはベースバンド部230から出力されて上位レイヤに伝えられ、上位レイヤでデータ処理が行なわれる。
図5に、ベースバンド部(BBM)230のブロック図を示す。ベースバンド部230は、オフセット・ゲイン調整部(OGADJM)500、マッチトフィルタ部(MFM)510、入力信号調整部(SADJM)520、同期捕捉部(TRPM)530、データ保持タイミング制御部(DLTCTL)540、データ保持部(DLM)550、復調部(DEMM)560、同期追跡部(TRCKM)570、サンプリングタイミング制御部(SMPCTL)580から構成される。
AD変換部220から与えられる複数のデジタル化されたI、Q信号221ia〜221icと221qaから221qcは、オフセット・ゲイン調整部500によりオフセット値とゲイン量をデジタル的に制御される。その出力信号501は、マッチトフィルタ部510において期待される拡散符号とのマッチング(整合)度合いを検出し、測定結果を信号511として出力する。入力信号調整部520は、AD変換部220から供給されるデジタル信号221が何種類供給されるかに応じて入力信号511と出力信号521の接続関係を調整する。例えば、511iaおよび511qa信号が入力されないときは、信号511ibと511icの足し算結果を521iaとして出力し、信号511qbと511qcの足し算結果を521qaとして出力する。全信号が用いられているときは、511信号をそのまま521信号として出力する。
同期捕捉部530は、信号521iaおよび521qaを用いて受信信号(インパルス列)の同期捕捉と捕捉確認を行なう。同期捕捉が確立されていない間は信号532を用いてサンプリングタイミング制御部580を調整し、サンプリングタイミング制御信号231を用いてAD変換部220が受信信号をデジタル変換するタイミングを変えていく。同期捕捉が確立すると、同期タイミングの情報が信号531を経てデータ保持タイミング制御部540に伝えられる。
データ保持タイミング制御部540は、受信信号と同期の取れたタイミングで制御信号541をデータ保持部550に与え、データ保持部550はそのタイミングに合ったデータだけを信号551として復調部560および同期追跡部570に伝える。復調部560ではデータ保持部550によって選ばれた信号をもとにデータを復調し、デジタルデータ233を出力する。
また、同期追跡部570では、データ保持部550によって選ばれた信号をもとに、受信信号との同期ずれがおきていないかを検出し、同期ずれが起きている場合にはサンプリングタイミング制御部580を介してサンプリングタイミング制御信号231によりAD変換部220のデジタル変換タイミングを調整する。
UWB−IR方式では、間隔の短い2ns程度のインパルスが30ns程度の長い間隔で受信される。従って、30ns間隔の長周期同期を2ns未満の高精度で行なう必要がある。送信装置および受信装置のクロック発生に用いられる水晶発振子の周波数精度が高ければ同期追跡は不要であるが、精度の高い水晶発振子は高額になる。低コスト化を目指すためには、精度の悪い水晶発振子を用いても受信できるシステムでなければならない。そのために、同期追跡という動作が必要となる。
以上が、パルス通信を受信するUWB−IR通信の受信装置の基本動作を示している。すなわち、パルス通信の電波をアンテナで受け取り、RFフロントエンド部210で必要な周波数の整形された波形を抽出し、AD変換部220でデジタル信号に変換し、ベースバンド部230でデジタル信号処理を行なうことで通信データを取り出して出力する。
本実施例では、このような受信装置の性能を向上させるために、受信環境測定部240とパラメータ設定部250が用いられる。UWB−IR通信において最適な状態で受信を行うためには、増幅率、オフセット補正電圧、使用する信号数(AD変換器の数)、同期捕捉閾値、同期確認回数を受信環境に合った値に設定する必要がある。これらのパラメータを、雑音電力の測定結果を基に設定する。雑音電力の測定は、図2で示した受信環境測定部240で行なわれ、その結果パラメータ設定部250で必要なパラメータ値が決定される。雑音電力を測定するためには、例えば、図5に示されるオフセット・ゲイン調整部500の出力信号501が用いられ、これら信号が受信環境測定部240に入力される。
図6に、受信環境測定部240および、パラメータ設定部250のブロック図を示す。受信環境測定部240では、複数に分割された受信信号のI成分およびQ成分信号501のそれぞれ平均値および分散値を測定する。平均値は、平均化回路(AVR)600により例えば約30ns周期でサンプリングされるノイズ信号のデジタル値を512サンプル集めて平均化する。分散は、信号のデジタル値を二乗回路(SQR)610で二乗して平均をとった値から、平均して二乗をとった値を加算器640で引くことで得られる。
これらの計算結果はパラメータ設定部250に与えられ、内部でエンコーダ(ENC)650,660により符号化することで各種の設定パラメータを出力する。ノイズ信号の平均値はオフセットを示しており、オフセットを最適化(たいていは0、あるいは中心値にする)するための制御信号253aをオフセット・ゲイン調整部500に与える。オフセットは、ベースバンド部230に信号が伝達するまでの間を通過する様々な回路素子の特性などによって変化するので、これを補償しておく必要がある。
ノイズの分散はノイズを測定したことによるノイズの大きさそのものを示しており、この値から通信に用いられる受信信号の大きさ、あるいは受信装置における受信信号設定値を決定することができる。最適な振幅の信号を受信するためには、受信装置内部におけるノイズの大きさが最適値になるように、増幅器のゲインを調整すればよい。疎調整としては、RFフロントエンド部210内の可変ゲインアンプ360を制御信号251で制御する。微調整としては、ベースバンド部230のオフセット・ゲイン調整部500を制御信号253aで調整する。
雑音レベルを以上のように最適化するにあたり、条件によっては最適化が完全でない場合もありうる。そのような場合、あるいは最適化された場合においても、本実施例では雑音の大きさを示す分散値に応じて、使用する信号数、同期捕捉の閾値、同期確認の回数などを設定することで受信性能を最適化する。
使用信号数に関しては、制御信号252によりAD変換部220内のAD変換器410の使用個数を、制御信号253bによりベースバンド部230のマッチトフィルタ510の使用個数をそれぞれ調整し、制御信号253cにより入力信号調整部520の内部回路構成を制御する。また、同期捕捉の閾値および同期確認回数については、制御信号253dによりベースバンド部230の同期捕捉部540において閾値と確認回数を制御する。
前述したとおり、信号の増幅率は雑音電力の分散値をもとに決定され、増幅率はRFフロントエンド部210の可変ゲインアンプ360の増幅率およびベースバンド部230におけるデジタル処理の結果としての増幅率を組み合わせて調整される。このデジタル処理での増幅は、図7に示すオフセット・ゲイン調整部500において乗算器700により行われる。一般に可変ゲインアンプ360の増幅率は設定可能な増幅率の間隔が大きく、最適な増幅率に調整することが難しいが、デジタル処理での増幅率調整を組み合わせることで最適な増幅率に設定することが可能となる。また、オフセット・ゲイン調整部500において、信号のオフセットは加減算器710により調整される。
さらに、I信号、Q信号の雑音電力をそれぞれ独立に測定することで、I,Q信号用可変ゲインアンプ360の増幅率のばらつきを調節することができる。UWB−IR通信の送信波の電力は小さいため、大きな増幅率の可変ゲインアンプが必要となる。一般に増幅率の大きい増幅器は増幅率のばらつきが大きいため、性能向上のためにはこのような増幅器間のばらつきを補正する必要が生じる。
もし、本実施例のような増幅器間のばらつき補償を行なわない場合には、I信号、Q信号にばらつきが生じて、正しい位相情報を得ることができず、受信性能の低下やビットエラーレートの増大につながる。あるいは、I信号、Q信号の増幅率にずれがある場合、信号を復調する際に用いられるI/Q平面における信号の群配置(コンスタレーション)が歪んでしまい、受信信号の搬送波の位相と、ローカルの発振器の位相のずれの大きさにより、性能が変化してしまう。つまり、通信毎に性能が変わることになる。
さらに、デジタル処理で増幅率のばらつきを調整する機能を入れることにより、可変ゲインアンプや水晶発振子などの部品の精度に関する要求が緩和され、低コスト化も可能となる。
また、増幅率およびオフセット値はAD変換器410の性能のばらつきにより、同じI信号やQ信号を入力してもばらつきが生じる。このばらつきは、特に同期追跡の精度に影響する。これに対し、本実施例ではベースバンド部230の入力信号すべてについて雑音電力を測定し、増幅率、オフセット値を調整することができるため、同期追跡精度を上げることができる。
使用する信号の数(AD変換器の数)は、受信性能および動作消費電力に大きく影響する。すなわち、入力信号数(AD変換器の数)が多い場合は、消費電力が大きいが、受信性能は高くなる。一方、入力信号数が少ない場合は、消費電力も少ないが、受信性能も低くなってしまう。したがって、入力信号数の増加に伴って受信性能は高くなるものの、要求される性能と消費電力との兼ね合いで使用する信号数が決められる。
例えば、高精度の通信、あるいは測位機能が必要な場合は、多数のAD変換器410を用い、パルスを複数点でサンプリングする必要がある。また、受信性能は受信環境に依存する。要求される性能と測定した雑音電力から使用するAD変換器の数を決定し、必要のないAD変換器、マッチトフィルタの電源を遮断する。図8に示すように、AD変換器ひとつにマッチトフィルタひとつが対応している。用いる信号数が少ない場合には、例えば図9に示すように斜線で示したAD変換器410iaおよび410qaを用いる必要がない場合、入力信号調整部520で信号を調整し、後の処理に影響が出ないようにする。同期追跡を行なうにあたり、同期追跡部570に入力される信号はI,Qそれぞれ複数個となり、その大小関係の変化で同期ずれを検出する。入力信号の最小数となるI,Q信号それぞれ1信号ずつの場合には、前回サンプリングした値と今回、次回それぞれを記憶しておき、時系列的な大小関係の変化を把握することで同期追跡が可能になる。
図10に、パラメータ設定のフローチャートの一例を示す。
先ず、ステップS10で、受信装置を起動する。
ステップS11で、最初にRFフロントエンド部210の可変ゲインアンプ360の増幅率を適当な値に設定する。可変ゲインアンプの初期値は前回の値、あらかじめ設定しておいた値などを必要に応じて設定する。
次に、ステップS12で、雑音電力の分散値測定を行い雑音電力分散値を算出する。
ステップS13で、算出された値に基づいて可変ゲインアンプの増幅率とデジタル処理での増幅率とを併用し、ベースバンド信号処理に用いる受信信号の増幅率を定める。
増幅率の設定後、ステップS14で、雑音電力の平均値を測定し、ステップS15でオフセットを補正する。
ステップS16で、再度、雑音電力の分散値(および平均値)を測定する。
ステップS17で、得られた測定結果と予め設定された所望の条件とを判定し、条件を満たした場合には、ステップS18へ進み、消費電力の分散値をもとに使用する信号数を設定する。
さらに、ステップS19で、閾値および同期確認回数の設定を行い、初期設定が終了する(ステップS20)。
先のステップS17で、条件を満たさない場合は、ステップS13に戻り、ステップS13〜S17を繰り返す。なお、増幅率、オフセット調整は1回、複数回と、所望の条件を満たすまで繰り返すなどの方法を選択することが可能である。
ここで、図24に受信機の動作タイミング図の一例を示す。同図においてTXは送信側を、RXは受信側を示している。受信側では、まず初期設定(INI)でVGAのゲインなどのパラメータの最適設定を行い、必要に応じてスタンバイ(STBY)後、同期捕捉(TRP)を開始する。同期捕捉が完了すると、送信側から送信されてくるプリアンブル(TX―PREAMB)を受信(RX−PREAMB)し、フレーム開始信号(SFD)を検出後、送信側から伝送される送信データ(TX−D)を受信する(RX−D)。
信号の伝送速度は、例えば、1ビットのデータが128パルスに拡散され、パルス間隔が30nsであった場合、約260kbpsとなる。送信パケットのプリアンブル長を、例えば、20バイトとすると、プリアンブルに要する時間は約600μsとなる。
雑音電力の平均値、分散値を算出するのに要する時間は、ノイズをサンプリングする時間が支配的となり、30ns周期で512サンプル取り込む場合、約15μsとなる。
この時間はプリアンブルの時間と比較して非常に短い。ただし、ノイズをサンプリングする周期は、必ずしもパルス間隔と同じである必要はなく、異なってもよい。例えば、パルス間隔が30nsである場合に、29nsと少し短い間隔で、或いは31nsと長い間隔で、ノイズをサンプリングしてもよい。なお、異なってもよいのは、次のような理由による。
図20に示されるように、パルス信号が所定のパルス間隔で来ていて、ノイズをサンプリングする周期、すなわちサンプリング間隔が、パルス信号と同じ間隔であった場合に、パルス信号が受信されており、かつ、たまたまサンプリングするタイミングがパルス信号のピークに重なると、ずっと信号成分を検出してしまい、ノイズ成分を検出できなくなるが、上述したように、パルス信号とサンプリング周期を少しずらすことにより、たまたまサンプリングのタイミングがパルス信号のピークと重なったとしても、次のサンプリングでは、パルス信号のピークからずれる。したがって、サンプリング値を平均化すれば信号成分よりもノイズ成分が大きいので、ノイズ成分を検出することができるからである。
パラメータ設定に要する時間はループ処理を行う回数に依存する。通常、増幅率、オフセットを最適値に設定するのに要する回数は、高々3回である。すなわち、パラメータ設定に要する時間は、高々50μs程度であり、プリアンブルの時間と比較して一桁程度短い。このため、最適設定を行うことによる受信機の動作時間の増加は微々たるものであるといえる。
このようにして雑音電力を用いてパラメータを設定することができ、受信環境に応じた設定で同期捕捉を開始することができる。これにより同期捕捉時間の短縮、ビットエラーレートの低下、同期はずれ率の低下などの性能向上につながる。
図11に本発明に係る受信装置の第2の実施例の構成を示す。本実施例の受信装置は、RFフロントエンド部(RFF)210、AD変換部(ADC)220、ベースバンド部(BBM)230、モード制御部(MOD)1140、およびアンテナ(ANT)から構成される。アンテナ、RFフロントエンド部210、AD変換部220は第1の実施例と同様の機能を持つ。モード制御部1140は、ベースバンド部210の動作モードを一括で制御する。
図12にベースバンド部230の構成とモード制御部1140からの制御信号(動作状態制御信号1141およびモード制御信号1132)を示す。
モード制御部1140には、ベースバンド部230の各ブロックからモード制御信号1132、例えば、図12では、同期捕捉部530からモード制御信号1132a、復調部560からモード制御信号1132b、同期追跡部570からモード制御信号1132cが入力される。このモード制御信号1132から、モード制御部1140は次の動作状態を判断し、各ブロックに動作状態制御信号1141(図12では、信号1141a〜g)を与える。
図13に受信時の動作フローチャートを示す。モード制御部1140はこの動作フローチャートに従ってベースバンド部230を一括管理する。図14に、各ブロックからの信号1132と、次に移る動作モードを示す。なお、図14において、フラグが“1”のときは真、“0”のときは偽、“−”は任意とする。
図13のフローを説明する。CPUなど受信装置以外の上位システムから受信開始信号1151がモード制御部1140に入力されると動作が開始(STRT)され(ステップS30)、予め決められた初期化を行う初期設定(INI)動作が行われて(ステップS31)、待機(STBY)モードに入る(ステップS32)。
次にステップS33で同期捕捉(TRP)、ステップS34で同期確認(TRPCHK)が行われる。同期確認に失敗したときにはステップS34に戻り、再び同期捕捉および、同期確認が行われる。同期確認ができたら、ステップS35に進み、復調および同期追跡(TRP&TRK)が行われる。ここで同期追跡(TRK)動作は、前述したように通信装置のクロックの周波数精度が高ければ、あるいは通信時間が十分短ければ、不要となる。復調および同期追跡動作は、パケット終了(PKTEND)まで行われた後、ステップS36の受信継続判定(CONT_RX?)に進み、受信を継続する場合にはステップS33に戻り、ステップS33から同様の動作を繰り返し、次のパケットを受信する。継続しない場合にはステップS37へ進み待機モードに入り、開始信号が外部から入力されるまで待機状態となる。
一方、ステップS35において、復調および同期追跡中に、同期追跡エラーまたはSFDエラーが検出された場合にはステップS33の同期捕捉モードに戻り、再度ステップS33からやり直す。
なお、ステップS31からステップ32の待機モードに入らずにステップS33の同期捕捉モードに進んでもよい。また、ステップS34の同期確認が不要の場合には、ステップ33からステップ35へ進んでもよいことは勿論である。
同期捕捉部(TRPM)530からは、図14に示すように同期捕捉完了フラグ(TRP_F)1132a1、同期確認完了フラグ(TRPCHK_F)1132a2、同期確認エラーフラグ(TRPCHK_ERF)1132a3が出力される。なお図12では、同期捕捉部530から1132aの1本の信号線しか示していないが、上記1132a1〜1132a3の3本の信号線が並列に出ている。信号線の数は3本に限るものではなく、必要に応じた本数の信号線が設けられていることはいうまでもない。他のブロックから出力される信号線についても同様である。
復調部560からは、SFD(Start of Frame Delimiter:フレーム開始信号)検出エラーフラグ(SFD_ERF)1132b1、パケット終了フラグ(PKTEND_F)1132b2が出力され、同期追跡部570からは同期はずれフラグ(TRP_EXF)1132cが出力され、この各フラグがモード制御部1140へ入力される。
更に、図14を参照して動作説明をする。図14は横にモード制御信号(MODCTL)を、縦に動作モード(OP_MOD)を示し、括弧内の記号は図12に示した対応する制御信号線(その信号も兼ねる)を示している。
モード制御部1140は受信開始信号1151を受信すると、待機(STBY)モードから同期捕捉(TRP)モードに移り、その後、信号線1132a1に同期捕捉完了フラグ(TRP_F)の“1”が立つと同期確認(TRPCHK)モードに移る。
同期確認モードにおいて、信号線1132a2に同期確認完了フラグの“1”が立つと復調(DEMOD)モードに移り、信号線1132a3に同期確認エラーフラグ(TRP_ERF)の“1”が立つと各フラグをクリアし同期捕捉(CLR&TRP)モードに戻る。
復調および同期追跡(DEMOD&TRCK)モードにおいて、信号線1132b1にSFD検出エラーフラグ(SFD_ERF)、同期はずれフラグに“1”が立つと各フラグをクリアし、同期捕捉モードに移り、パケット終了フラグ(PKTEND_F)が立つとCPUなど受信装置以外の上位システムにその復調したデータ情報を送り、CPUなど上位システムからの制御信号にてクリアし同期捕捉モード(CLR&TRP)または待機(STBY)モードに移行する。
各動作モード時に、ベースバンド部内の全ての機能が必要なわけではない。また、複数の動作モード時に動作する必要がある機能もある。従って、ベースバンド部を適切なブロックで区切り、それらの動作状態(オン/オフ)を制御することで、更なる低消費電力化が可能となる。本実施例のベースバンド部は、低消費電力化が可能なように適切な機能を持たせたブロックに切り分けた構成となっている。
図12に示したベースバンド部のデータ保持タイミング制御部(DLTCTL)540は、例えば、リセット付きカウンタで構成される。リセット信号531は同期捕捉部530から出力され、カウンタの出力541をデータ保持部550に供給する。データ保持部550はそのタイミングで入力信号調整部520からの入力信号521を保持し、保持されたデータを用いて復調および同期追跡を行う。従って、データ保持タイミング制御部540は、同期捕捉モード、同期確認モード、復調モードの3つのモードで動作する。データ保持タイミング制御部540を独立したブロックとしてモード制御を行うことにより、例えば同期捕捉部530を復調モード時に動作停止させることが可能となる。
図15に各動作モード(OP_MOD)時の各機能ブロック(BLK)の動作/非動作状態を示す。なお、図15において、○は動作を、△は入力信号及びクロックがオフを、×は電源オフをそれぞれ示し、[ ]内は同期追跡なしの場合の動作/非動作状態を示す。括弧内の数字は図12に示した対応する機能ブロックの参照番号を示している。
動作/非動作状態はモード制御部1140からのモード制御信号1132により制御され、その制御方法は、図16に示すように、例えばスイッチトランジスタSWTと、2個のAND回路1,2と、モード制御信号1141を入力とするデコーダDECとから構成される回路を各ブロックに設けることにより、電源VDDを遮断する、クロック入力CLKをとめる、信号入力INを止める、という方法を選択することが可能である。
図16には動作/非動作を制御する動作状態制御信号1141とブロックへの入力信号INの論理積をとる構成を記しているが、これに限定されるものではない。電源を遮断すれば電力は消費されないが、復帰するまでに時間を要する。クロック、信号の入力を遮断する方法ではリーク電流分の消費電力を必要とするが、動作状態に比べれば電力は低減され、復帰にはほとんど時間はかからない。これらの動作/非動作状態制御の方法を、状況に応じて使い分けることができる。
もし、送信装置および受信装置において精度の高い水晶発振子を用いた場合、高価になるが同期追跡を行なわなくてよくなる。あるいは、データ転送レートが高くかつデータのフレーム長が短い場合、すなわち送信や受信にかかる時間が短い場合にも、同期追跡を行なう必要がなくなる。同期追跡なしの場合の動作/非動作状態制御は、図15の[×]で示すようになる。
このようにベースバンド部230を適切な機能を持ったブロックに分割し、動作モードによって、各ブロックの動作/非動作状態を制御することで、受信機の低消費電力化が実現できる。
ここで図28に、受信動作時における受信機の消費電力の一例を示す。図28において横軸は時間(t)である。縦軸は消費電力(PWC)である。1151はCPUからの開始信号、1731、1141、1733、1734は、モード制御部(MOD)1140からの動作モード(OP−MOD)設定信号である。
受信開始信号1151がモード制御部に入力されると、動作が開始し、パラメータの初期設定(INI)動作が行われ消費電力が上昇し、初期設定終了後、待機状態(STBY)モードに入ると消費電力が非常に低くなる。以下、同期捕捉(TRP)モード、同期確認(TRPCHK)モード、復調、同期追跡(DEMOD&TRK)モード、再び待機モードと、各設定信号により、各部の動作/非動作が制御される。このため、本実施例では同図に示すように、動作状態により消費電力が変化する。なお、消費電力の変化は、後述する第3の実施例においても同様である。
図17に、本発明に係る受信装置の第3の実施例の全体構成を示す。本実施例の受信装置は、第1の実施例、第2の実施例の両方の機能を兼ね備えたものである。受信装置は、アンテナANT、RFフロントエンド部(RFF)210、AD変換部220、ベースバンド部(BBM)230、受信環境測定部(REM)240、パラメータ設定部(PSM)250、モード制御部(MOD)1140、およびパラメータ格納部(PREG)1710から構成される。第1の実施例と第2の実施例の機能を兼ね備えるにあたり、本実施例ではパラメータ設定部(PSM)250の設定値を記憶させおく必要があり、パラメータ格納部1710が追加されている。パラメータ格納部1710へは、信号線1740を介してパラメータ設定値が格納される。
アンテナ200、RFフロントエンド部210、AD変換部220、受信環境測定部(REM)240、パラメータ設定部250は、第1の実施例と同様の機能を持つ。モード制御部1140は、信号線1132,1141を介してベースバンド部230の各ブロックの制御に加え、信号線1731を介してAD変換部220の制御、信号線1734を介して受信環境測定部240の制御、信号線1733を介してパラメータ設定部250の制御、パラメータ格納部1710の制御を行う。
図18に、各部からモード制御部1140へ供給されるモード制御信号1132と受信装置が次に移る動作モード(OP_MOD)とを示す。CPUなど受信装置以外の上位システムから設定開始信号1151aがモード制御部1140に入力されると、受信環境測定部240が測定した雑音電力のデータ信号241に基づいてパラメータ設定部250が各パラメータの設定を開始(PS_STRT)し、パラメータの設定を初期設定(INI)モードの中で行い、終了時にパラメータ設定部250は信号線1750を介してパラメータ設定完了フラグ(PSET_F)“1”をモード制御部1140へ送る。受信開始信号1151bがCPUなど受信装置以外の上位システムから供給されていなければ、受信装置は一度待機状態(STBY)に移る。
CPUなど受信装置以外の上位システムから受信開始信号1151bが入力されると、同期捕捉(TRP)モードに移り、その後、同期捕捉完了フラグ(TRP_F)が立つと同期確認(TRPCHK)モードに移行する。同期確認モードにおいて、同期確認完了フラグ(TRPCHK_F)が立つと復調(DEMOD)モードに移り、同期確認エラーフラグ(TRPCHK_ERF)に“1”が立つと、各フラグをクリア(CLR)し、同期捕捉(TRP)モードに戻る。
復調モードにおいて、SFD検出エラーフラグ(SFD_ERF)、同期はずれ(TRP_ERF)フラグに“1”が立つと各フラグをクリアし、同期捕捉モードに移り、パケット終了フラグ(PKTEND)に“1”が立つとCPUなど受信装置以外の上位システムにその復調データ情報を送り、再度、CPUなど受信装置以外の上位システムからの制御信号にて同期捕捉モードまたは待機モードに移行する。
また、モード制御部1140は、AD変換部220にパラメータ格納部1710から入力される使用信号数設定信号252に基づいて、制御信号1731により動作すべきAD変換器を選択する。
図19に、各動作モード時の各ブロックの動作/非動作状態を示す。なお、○、△、×の記号は、図15と同様に○は動作を、△は入力信号およびクロックオフを、×は電源オフをそれぞれ示し、[ ]内は同期追跡なしの場合の動作/非動作状態を示す。また、( )内の数字は図5及び図17で示した各ブロックの参照番号である。
動作/非動作状態は、モード制御部1140からのモード制御信号1132により制御される。その制御方法は、実施例2で、図16により説明したように、電源を遮断する、クロック入力をとめる、信号入力をとめる、という方法を選択することが可能である。パラメータ設定時にはAD変換部220、受信環境測定部240、パラメータ設定部250、パラメータ格納部1710を動作させる。本実施例のように、パラメータを格納する手段1710を設けることで、設定パラメータを用いて動作する部分を停止させておくことが可能となり、消費電力が低減される。
パケット長が短い場合や、送信機、受信機それぞれの発振器の精度が高く、周波数偏差が小さい場合などの、同期追跡が必要のない場合には、同期追跡部は停止させておく。図19で示した[ ]内の記号に相当する。
I信号、Q信号それぞれ3つのAD変換器を用いる場合、同期捕捉モードのときはI信号、Q信号のうちそれぞれにひとつずつのAD変換器410の出力を用いる。つまり、同期捕捉モードの時は他のAD変換器の出力を使用していない。従って、AD変換器および対応するマッチトフィルタのクロックおよび入力信号を遮断することで受信装置の消費電力をさらに低減することができる。その他、通信環境に応じてI、Q信号の分割数を変化させる場合には、AD変換器410の動作数も制御することで、さらに消費電力の低減が可能になる。
図25に本発明に係る受信装置の第4の実施例における動作フローチャートを示す。開始信号(不図示)が、外部から入力されると、本実施例の受信機は図25にしたがって、待機モード(STBY)から初期化を行う初期設定モード(INI)に移り、パラメータの最適設定動作を実行する。その後、送信されて来るデータを受信するデータ受信(RX−D)モードに入り、データ受信を完了したら、再び待機モードに入る。この一連の動作を繰り返す。
すなわち、本実施例の受信機では、同期捕捉(TRP)以降の受信動作を行う前には必ず雑音電力を測定し、パラメータの最適設定(INI)を行う。このため、常に最適な状態での受信が可能となるが、受信毎に設定を行うため、毎回設定時間が必要となる。しかし、周辺の環境の変化が大きい場合、高信頼性が要求される場合などにこの制御が有用である。なお、本実施例の制御は、実施例1、実施例3の受信機に対しても適用できる。
図26に、本発明に係る受信装置の第5の実施例における動作フローチャートを示す。まず、初期設定モード(INI)を実行して、パラメータの最適設定を行い、その最適設定パラメータをフラッシュメモリ等の記憶装置に保持した後、待機モード(STBY)に移る。開始信号(不図示)が、外部から入力されると、待機モードから、データ受信モード(RX−Dに移りデータを受信する。
すなわち、本実施例では受信機設置時や工場からの出荷時などの初動作時に、パラメータの最適設定(INI)を行う。一度設定したパラメータは、フラッシュメモリなどの不揮発メモリに読出し専用メモリ(ROM)として保持され、毎回そのパラメータを用いて受信を行う。
本実施例は受信毎の設定を行わないため、周辺環境が変化した場合に最適な設定での受信ができなくなるが、その後の設定の時間が不要となる。すなわち、本実施例では初回のパラメータ最適設定を行うだけで済むという利点がある。受信機を設定した後動かすことが無い場合や、ノイズ環境が変化しない場合にこの制御が有用である。なお、本実施例の制御は、実施例1、実施例3の受信機に対しても適用できる。
図27に、本発明に係る受信装置の第6の実施例における動作フローチャートを示す。待機状態(STBY)において、開始信号(不図示)が外部から入力されると、本実施例の受信機は図26にしたがって、待機モード(STBY)からパラメータの最適設定を行うか、否かの条件判定(INI?)を行い、NOの場合は、予め設定されているパラメータを用いてデータの受信(RX−D)を行い、データ受信が完了したら、再び待機モードに入る。一方条件判定(INI?)がYESの場合にはパラメータの最適設定(INI)を行い、その最適パラメータを用いてデータ受信(RX−D)を行う。
すなわち、本実施例は条件に応じてパラメータの最適設定を行う。ここで条件とは、例えば、時間、環境の変化などである。時間を条件にして設定を行う一例として、1時間や1週間周期で設定を行うものがある。このような制御は、例えば、日変化や季節変化がある環境で受信機を使用する場合に有用な方法である。環境の変化に応じて設定を行うものには、例えば、センサを用いて周辺環境の変化を認識するものがある。センサとしては、例えば、温度センサ、湿度センサ、加速度センサ、或いはノイズレベルを測定するセンサなどを用いる。受信装置の他に変化を認識するセンサが必要となるが、環境が変化していない場合にパラメータの設定を行うことが無くなる。環境の変化が突発的に起こる場合や、変化が予測できないような場合に有用な方法である。なお、本実施例の制御は、実施例1、実施例3の受信機に対しても適用できる。
本発明に係る受信装置を搭載したセンサネットの一例を示す構成図。
本発明に係る受信装置の第1の実施例の構成を示す回路ブロック図。
第1の実施例のRFフロントエンド部の構成を示す回路ブロック図。
第1の実施例のAD変換部の構成を示す回路ブロック図。
第1の実施例のベースバンド部の構成を示す回路ブロック図。
第1の実施例の受信環境測定部とパラメータ設定部の構成を示す回路ブロック図。
第1の実施例のオフセット・ゲイン調整部の構成を示す回路図。
第1の実施例の入力調整部の構成を示す図。
図8に示した入力調整部の入力信号数が減少する場合の構成を示す図。
第1の実施例のパラメータ設定手順を示すフローチャート。
本発明に係る受信装置の第2の実施例を示す回路ブロック図。
第2の実施例のベースバンド部の構成を示す回路ブロック図。
第2の実施例の受信装置の処理手順を示すフローチャート。
第2の実施例のモード制御部入力信号と動作モードの関係を示す図。
第2の実施例の各動作モード時におけるベースバンド部内の各ブロックの動作/非動作状態を示す図。
第2の実施例において各ブロックを非動作状態にする回路の一例を示す図。
本発明に係る受信装置の第3の実施例の構成を示す回路ブロック図。
第3の実施例のモード制御部入力信号と動作モードの関係を示す図。
第3の実施例の各動作モード時のベースバンド部内における各ブロックの動作/非動作状態を示す図。
空間を伝播するパルス列の一例を示す波形図。
RFフロントエンド部の入力信号と、VGAのゲイン設定信号及び出力信号の関係を示す説明図。
SNR=SNRminの信号が入力された時のAD変換器の入力波形を示す図。
入力信号のSNRとパケットエラーとの関係を示す図。
受信機の動作タイミング図の一例を示す図。
第4の実施例における受信機の動作フローチャート。
第5の実施例における受信機の動作フローチャート。
第6の実施例における受信機の動作フローチャート
第2の実施例の受信動作時における受信機の消費電力の一例を示す図。
符号の説明
100…ノード(NOD)、101…センサ(SEN)、107…電源(PWR)、110…基地局(BAS)、120…インターネット(INT)、130…サーバ(SRV)、131…データベース(DBS)、140…ターミナル(TRM)、102…コントローラ(CPU)、103…不揮発メモリ(ROM)、104…揮発メモリ(RAM)、105…送信機(TX)、106…受信機(RX)、107…電源(PWR)、210…RFフロントエンド部(RFF)、220…AD変換部(ADC)、230…ベースバンド部(BBM)、240…受信環境測定部(REM)、250…パラメータ設定部(PSM)、ANT…アンテナ、310…ローノイズアンプ(LNA)、320…ミキサ(MIX)、330…π/2位相シフト(QPS)、350…ローパスフィルタ(LPF)、340…クロック発生器(CLK)、360…可変ゲインアンプ(VGA)、252,1610…デコーダ(DEC)、400…サンプリングクロック生成部(SMPCLK)、410…AD変換器(AD)、500…オフセット・ゲイン調整部(OGADJM)、510…マッチトフィルタ部(MFM)、520…入力信号調整部(SADJM)、530…同期捕捉部(TRPM)、531…データ保持タイミング制御部(DLTCTL)、550…データ保持部(DLM)、560…復調部(DEMM)、570…同期追跡部(TRCKM)、580…サンプリングタイミング制御部(SMPCTL)、620…平均化回路(AVR)、630…二乗(SQR)、650,660…エンコード(ENC)、900…マッチトフィルタ(MF)、1140…モード制御部(MOD)、1710…パラメータ格納部(PREG)、Vf…AD変換器のフルスケール電圧、PER…パケットエラーレート、信号対雑音比(SNR)。