図1は、本発明が適用された戸構造10を示す一部断面平面図であり、図2は、戸構造10を示す正面図である。なお、以下の説明で用いる「前後方向」および「上下方向」は、説明の便宜上用いたものであり、図1〜図3に示した「前後方向」および「上下方向」に対応している。
戸構造10(図1、図2)は、開口部12に設けられた開口枠14と、開口枠14に設けられた戸16と、戸16を閉める際に戸16の勢いを減衰させることによって戸16および開口部12に加わる衝撃を緩和する緩衝装置18とによって構成されている。
開口部12は、マンションまたは戸建住宅等の建物において、玄関、トイレまたは部屋等の出入口や、収納等の建具の出入口となる部分であり、開口部12の内側縁に開口枠14が設けられている。
開口枠14は、図2に示すように、開口部12の左右両側縁に設けられた2つの縦枠20と、開口部12の上側縁に設けられた横枠22とを有しており、縦枠20および横枠22には、溝24(図1)が形成されており、溝24に対して戸16が当たる棒状の戸当り26が取り付けられている。
戸16は、図1および図2に示すように、開口部12を塞ぐ板状の戸パネル28と、戸パネル28の両主面に取り付けられたハンドル30とを有しており、戸16が、開口枠14の縦枠20に蝶番32を介して開閉自在に取り付けられている。したがって、戸16を開く際には、ハンドル30に手を掛けて戸パネル28を開方向(前方)へ回動させることになり、戸16を閉じる際には、ハンドル30に手を掛けて戸パネル28を閉方向(後方)へ回動させることになる。
緩衝装置18は、図1および図2に示すように、開口枠14を介して開口部12に取り付けられる緩衝装置本体34と、緩衝装置本体34と対向するようにして戸16に取り付けられる接合部材36とを備えている。
緩衝装置本体34は、図3および図4に示すように、ケース38と、移動部40と、接合部42と、保持機構44と、引込み手段46と、蓋体48a,48bとによって構成されている。
ケース38は、図5に示すように、合成樹脂または金属等によって形成された平面視略長方形の箱状部材であり、ケース38の中央部には、溝状のダンパ収容空間50が長手方向へ延びて形成されており、ケース38の長手方向中央部から前端部に亘る部分には、ダンパ収容空間50の前端部を囲むようにして平面視略コ字状の移動部収容空間52が形成されている。
移動部収容空間52は、ダンパ収容空間50の両側においてダンパ収容空間50と平行に延びる2つの溝状の摺動空間52aおよび52bと、これらを連結する連結空間52cとによって構成されており、移動部収容空間52の前面は、ケース38の前端面38cにおいて開口されている。そして、摺動空間52aおよび52bの内側面には、移動部40の脱落を防止するための係止段部54が形成されている。
また、ケース38の長手方向中央部から後端部に亘る部分には、溝状のバネ収容空間56がダンパ収容空間50と平行に形成されており、バネ収容空間56の前端部は、移動部収容空間52の一方の摺動空間52aに連通するように開口されており、バネ収容空間56の後端部内面には、突起状のバネ係止部58が形成されている。さらに、ケース38の幅方向両側部には、固定ネジ(図示省略)が挿通される複数(本実施例では4個)の貫通孔60が形成されている。
そして、このケース38に対して移動部40、接合部42、保持機構44、引込み手段46および蓋体48a,48b等の他の構成要素が組み込まれている(図3、図4)。
移動部40は、図6に示すように、合成樹脂または金属等によって形成された平面視略コ字状の部材であり、ケース38の摺動空間52aおよび52b内に摺動可能に配置される2つの摺動部62aおよび62bと、これらの前端部どうしを連結する連結部64とによって構成されている。
一方の摺動部62aは、溝状のバネ収容空間66を有しており、バネ収容空間66の後端部は、ケース38の移動部収容空間52(図5)における一方の摺動空間52aと連通するように開口されており、バネ収容空間66の前端部内面には、突起状のバネ係止部68が形成されている。他方の摺動部62bは、溝状の操作部材収容空間70を有しており、操作部材収容空間70の後端部は閉塞されており、前端部は移動部40の前端面において開口されている。そして、操作部材収容空間70の内側面には、操作部材92の脱落を防止するための係止段部71が形成されている。
連結部64は、摺動部62a,62b間に構成された空間72を挟んでケース38のダンパ収容空間50と対向する部分であり、連結部64には、後述するダンパ110を構成するピストン114の係止ヘッド114cを収容する収容空間74が形成されている。そして、収容空間74と空間72とを仕切る壁76には、ピストンロッド114bを通過させるスリット78が形成されている。したがって、収容空間74に係止ヘッド114cを収容した状態では、壁76に係止ヘッド114cが係止されることになる(図4)。
そして、移動部40の後端部における幅方向両側面、すなわち摺動部62aおよび62bの後端部外側面には、ケース38の係止段部54に係止される係止突起80が形成されており、摺動部62bにおける操作部材収容空間70を構成する外側壁70aには、保持機構44を構成するための略四角形の貫通孔82が形成されており、貫通孔82における上下方向に対向する一対の対向面の後部には、軸受穴84が形成されている。さらに、摺動部62aおよび連結部64の前端部には、接合部42を構成するための磁石収容空間86が形成されている。
接合部42は、戸16が閉まる直前に、接合部材36に対して離脱可能に接合される部分であり、移動部40の前端部に一体的に設けられている。つまり、接合部42は、摺動部62aおよび連結部64の前端部に形成された磁石収容空間86と、磁石収容空間86に収容された略四角形の板状の磁石90とを有しており、摺動部62aおよび連結部64の前端部全体が接合部42となっている。
なお、本実施例の接合部42は、接合部材36に磁力で接合(磁着)される部分であればよく、接合部材36が「磁石」である場合には、磁石90に代えて鉄等の「強磁性体」を用いてもよい。また、接合部42を構成する磁石90または強磁性体は、移動部40の前端面に露出して設けられてもよい。さらに、本実施例のような「磁力式」の接合部42に代えて、戸16が閉まる直前に接合部材36に対して離脱可能に接合される「フック式」または「吸盤式」の接合部(図示省略)を用いてもよい。
保持機構44は、移動部40を所定の待受け位置で保持し、かつ、接合部42に接合部材36が接合されたときに移動部40の保持状態を解除するものであり、図6に示すように、移動部40の操作部材収容空間70内に収容された操作部材92および圧縮コイルバネ94と、移動部40の貫通孔82と、貫通孔82に配置されたロック部材96とによって構成されている。ここで、「待受け位置」とは、移動部40が接合部材36を待ち受ける位置を意味し、本実施例では、移動部40が移動部収容空間52から最大に突出された位置を意味する。
操作部材92は、ロック部材96を操作するものであり、断面略四角形の棒状の操作部本体98を有している。操作部本体98の所定箇所には、移動部40の貫通孔82に連通可能な略四角形の貫通孔100が形成されており、操作部本体98の後端部における幅方向一方側面には、移動部40の係止段部71に係止される係止突起93が形成されている。そして、操作部本体98の前端部には、ゴムまたはウレタン等のクッション材102が取り付けられている。
圧縮コイルバネ94は、操作部材92に対して前方へ押し出す力を付与するものであり、操作部材収容空間70において操作部材92の後方に配置されている。圧縮コイルバネ94の長さは、圧縮されたときに操作部材92を操作部材収容空間70の内部へ完全に収容でき、かつ、復元されたときに操作部材92を移動部40の前端面から前方へ押し出すことができるように設定されており、また、圧縮コイルバネ94の復元力F1は、接合部42と接合部材36との接合力F2よりも小さく(F1<F2)なるように設定されている。したがって、接合部42と接合部材36との接合状態(接合力F2)が圧縮コイルバネ94の復元力F1によって不所望に解除されることはない。
ロック部材96は、操作部材92が移動部40の前端面から前方へ突出されているときに引込み手段46による移動部40の引き込みを禁止し、かつ、突出されていた操作部材92が押し戻されたときに引込み手段46による移動部40の引き込みを可能にする部材であり、平面視略直角三角形の三角柱状のロック部材本体104と、ロック部材本体104における直角部分の上下両面に突設された回転軸106とを有している。そして、ロック部材96の回転軸106が貫通孔82に設けられた軸受穴84に回転自在に嵌合されている。
保持機構44において、操作部材92が移動部40の前端面から前方へ突出されるときには、図7(C)に示すように、ロック部材96が貫通孔100の内面に押されて外側へ向けて回動される。すると、図7(D)に示すように、ロック部材96の一方の鋭角部分96aが貫通孔82の外側の開口から外部へ突出され、かつ、他方の鋭角部分96bが貫通孔82内において操作部材92の側面に近接して配置される。一方、突出されていた操作部材92が押し戻されるときには、図8(E)に示すように、操作部材92の貫通孔100と移動部40の貫通孔82とが連通されるとともに、ロック部材96がケース38の前端面38cに押されて内側へ向けて回転される。すると、図8(F)に示すように、ロック部材96の一方の鋭角部分96aが貫通孔82内に収容され、かつ、他方の鋭角部分96bが貫通孔82の内側の開口から貫通孔100内へ突出される。なお、保持機構44の一連の動作については、後に詳述する。
引込み手段46は、保持機構44が移動部40の保持状態を解除したとき、戸16が閉まるまで移動部40を速度制御しながら引き込むものであり、図3および図4に示すように、引張コイルバネ108とダンパ110とによって構成されている。
引張コイルバネ108は、移動部40へ引き込みに要する力を付与するものであり、図4に示すように、引張コイルバネ108の一方端部が、ケース38のバネ収容空間56に形成されたバネ係止部58に係止されており、引張コイルバネ108の他方端部が、移動部40のバネ収容空間66に形成されたバネ係止部68に係止されている。引張コイルバネ108の長さは、移動部40をケース38から引き出したときに引き伸ばされるように設定されており、引張コイルバネ108の復元力F3は、接合部42と接合部材36との接合力F2よりも小さく(F3<F2)なるように設定されている。したがって、接合部42と接合部材36との接合状態(接合力F2)が引張コイルバネ108の復元力F3によって不所望に解除されることはない。
ダンパ110は、移動部40へ速度制御に要する力(引込み力に対して抵抗となる力)を付与するものであり、図4に示すように、内部にオイルが充填された筒状のシリンダ112と、シリンダ112に進退可能に挿入されたピストン114とによって構成されている。ピストン114は、オイルを通過させる孔を有し、かつ、シリンダ112内に配置されたピストンヘッド114aと、ピストンヘッド114aに後端が接続されたピストンロッド114bと、ピストンロッド114bの前端に設けられた係止ヘッド114cとを備えている。そして、シリンダ112がケース38に形成されたダンパ収容空間50に収容されており、ピストン114の係止ヘッド114cが移動部40に形成された収容空間74に収容されるとともに、壁76に係止されている。
なお、ダンパ110としては、本実施例の「オイル式のダンパ」に代えて、「摩擦式のダンパ」や「ロータリーダンパ」やその他の種類のダンパを用いるようにしてもよい。
接合部材36(図1、図2)は、接合部42の磁石90と接合可能な強磁性体(鉄等)からなる板状部材であり、戸16の表面における緩衝装置本体34と対向する位置に、ネジまたは接着剤等の固定手段(図示省略)によって取り付けられている。
なお、本実施例の接合部材36は、接合部42に磁力で接合(磁着)されるものであればよく、接合部42が鉄等の強磁性体を用いて構成されている場合には、接合部材36は磁石で形成されてもよい。また、本実施例のような「磁力式」の接合部材36に代えて、接合部42に対して着脱自在に接合可能な「フック式」または「吸盤式」の接合部材(図示省略)を用いてもよい。さらに、接合部材36を目立ち難くするために、接合部材36の表面に戸パネル28と同じ柄の化粧シートを貼り付けたり、戸パネル28と同じ色の塗装を施したりしてもよい。
戸構造10(図1、図2)を構成する際には、建物の開口部12に開口枠14が取り付けられ、その後、開口枠14を構成する一方の縦枠20に蝶番32を介して戸16が取り付けられる。そして、開口枠14(横枠22)の上部に設けられた戸当り26の一部が切除され、その部分に緩衝装置本体34が固定ネジ(図示省略)を用いて取り付けられる。また、戸16を構成する戸パネル28の上部に接合部材36がネジまたは接着剤等(図示省略)によって取り付けられる。なお、開口部12の構造によっては、開口枠14が不要になる場合があるが、その場合には、開口部12の上部に緩衝装置本体34が直接取り付けられる。
戸構造10において、戸16を完全に閉じた状態では、図7(A)に示すように、戸16に設けられた接合部材36が緩衝装置本体34を構成する接合部42(図4)に接合されており、その状態で移動部40がケース38の移動部収容空間52(図5)内に引込み手段46によって引き込まれている。また、この状態においては、操作部材92の貫通孔100と移動部40の貫通孔82とが連通されており、ロック部材96の一方の鋭角部分96aが貫通孔82内に収容され、かつ、他方の鋭角部分96bが貫通孔82の内側の開口から貫通孔100内へ突出されている。
戸16を開ける際には、ハンドル30(図1、図2)に手を掛けて戸16を開方向へ回動させる。すると、図7(B)に示すように、戸16の移動に伴って接合部材36およびこれに接合された移動部40が戸16の開方向(前方)へ移動される。そして、移動部40が待受け位置まで移動されたときに、係止突起80が係止段部54に係止されて移動部40が停止され、かつ、移動部40の貫通孔82がケース38の前端面38cより前方に配置される。これにより、ロック部材96の外側(移動部40の外面側)への回動が可能になる。つまり、保持機構44によって移動部40が保持される「待受け位置」は、係止突起80が係止段部54に係止されることによって規定される。
戸16を開方向へさらに回動させると、接合部42が接合部材36から離脱し、図7(C)に示すように、接合部材36が既に停止されている移動部40の前端面から引き離されて、操作部材収容空間70における前端部の開口が開放される。すると、当該開口から操作部材92が圧縮コイルバネ94によって押し出され、それに伴って、ロック部材96が貫通孔100の内面に押されて外側(移動部40の外面側)へ回転される。
圧縮コイルバネ94による操作部材92の押し出しが完了した状態では、図7(D)に示すように、ロック部材96の一方の鋭角部分96aが貫通孔82の外側の開口から外部へ突出され、この鋭角部分がケース38の前端面38cに係止される。また、他方の鋭角部分96bが貫通孔82内において操作部材92の側面に近接して配置され、この鋭角部分が操作部材92の側面に当接されることによって、ロック部材96の内側への回動が禁止される。したがって、移動部40に引込み方向の外力が作用した場合でも、移動部40が不所望に引き込まれることはなく、移動部40の誤動作を防止できる。つまり、保持機構44による移動部40の保持状態が維持される。
一方、戸16を閉める際には、ハンドル30(図1、図2)に手を掛けて戸16を閉方向へ回動させる。すると、図8(E)に示すように、接合部材36が操作部材92の前端面に当接され、戸16の閉方向への回動に伴って操作部材92が圧縮コイルバネ94の付勢に抗して押し戻される。そして、操作部材92が移動部40の操作部材収容空間70内に完全に押し込まれると、接合部材36が移動部40の前端面に当接され、かつ、接合部42(図3、図4)によって離脱可能に接合される。この状態において、操作部材92の貫通孔100と移動部40の貫通孔82とが連通され、ロック部材96の内側への回動が可能になる。接合部材36が移動部40の前端面に当接した際には、移動部40に衝撃が加わるが、移動部40には、引込み手段46のダンパ110が接続されているので、当該衝撃によって移動部40が直ちに押し込まれることはない。
なお、本実施例では、接合部材36が操作部材92の前端面に当接されるが、小型の接合部材36を用いた場合のように、接合部材36が操作部材92と対向していない場合には、戸16が操作部材92の前端面に当接されてもよい。つまり、操作部材92は、閉方向へ移動される戸16によって押し戻されるように構成されていればよい。
ロック部材96の内側への回動が可能になると、引込み手段46によって移動部40が引き込まれ、ロック部材96がケース38の前端面38cに押されて内側へ向けて回転される。これにより、ロック部材96の一方の鋭角部分96aが貫通孔82内に収容され、当該鋭角部分のケース38の前端面38cに対する係止状態が完全に解除される。その後は、移動部40が引込み手段46によって速度制御されながらさらに引き込まれ、図8(F)に示すように、戸16が完全に閉じられる。
戸16が完全に閉じられた状態では、戸16に設けられた接合部材36が接合部42(図3、図4)に接合されているため、戸16が不所望に開くことはない。したがって、戸16および開口枠14に「ラッチ機構」を必ずしも設ける必要がなく、戸構造10の構成を簡素化できるとともに、「ラッチ機構」の耳障りな作動音を解消できる。
戸構造10においては、戸16に取り付けられた接合部材36が移動部40に当たることによって、戸16の勢いが減衰され、その後は、引込み手段46によって速度制御されながら戸16が完全に閉じられる。したがって、接合部材36が移動部40に当たったときに、戸16と開口枠14との間に手指が入る程度の隙間を確保できれば、手指を挟む事故を防止できる。そこで、本実施例では、緩衝装置本体34の取付位置または移動部40の突出長さを調整することによって、戸16と開口枠14との間に手指が入る程度の隙間を確保するようにしている。
なお、上述の実施例では、保持機構44において「三角柱状」のロック部材96を用いているが、「ロック部材96の形状」や「動作機構」は適宜変更可能であり、たとえば図9および図10に示すロック部材116や、図13および図14に示すロック部材118が用いられてもよい。
図9および図10に示すロック部材116は、平面視略平行四辺形の四角柱状のロック部材本体120と、ロック部材本体120における一方の鈍角部分の上下両面に突設された回転軸122とを有している。ロック部材116を支持する軸受穴124は、貫通孔82の上下方向に対向する一対の対向面の後部に外側壁70aの厚さ方向へ延びて溝状に形成されており、この軸受穴124に回転軸122が回転および摺動自在に嵌合されている。
ロック部材116を用いた戸構造10において、戸16を完全に閉じた状態では、図11(A)に示すように、操作部材92の貫通孔100と移動部40の貫通孔82とが連通されており、ロック部材116の一方の鋭角部分116aが貫通孔82内に収容され、かつ、他方の鋭角部分116bが貫通孔82の内側の開口から貫通孔100内へ突出されている。
戸16を開ける際に、戸16を開方向へ回動させると、図11(B)に示すように、戸16の移動に伴って接合部材36およびこれに接合された移動部40が戸16の開方向(前方)へ移動され、待受け位置において移動部40が停止されるとともに、移動部40の貫通孔82がケース38の前端面38cより前方に配置される。これにより、ロック部材116の外側(移動部40の外面側)への移動が可能になる。
戸16を開方向へさらに回動させて接合部材36を移動部40の前端面から引き離すと、すなわち接合部42が接合部材36から離脱すると、図11(C)に示すように、操作部材92が圧縮コイルバネ94によって押し出され、それに伴って、ロック部材116が貫通孔100の内面に押されて回転軸122において回動され、かつ、軸受穴124に沿って貫通孔82の外側(移動部40の外面側)へ向けて移動される。
圧縮コイルバネ94による操作部材92の押し出しが完了した状態では、図11(D)に示すように、ロック部材116の一方の鋭角部分116aが貫通孔82の外側の開口から外部へ突出され、この鋭角部分がケース38の前端面38cに係止される。また、他方の鋭角部分116bが貫通孔82内において操作部材92の側面に近接して配置され、この鋭角部分が操作部材92の側面に当接されることによって、ロック部材116の内側への移動が禁止される。
一方、戸16を閉める際に、戸16を閉方向へ回動させると、図12(E)に示すように、戸16または接合部材36が操作部材92の前端部に当接され、戸16の回動に伴って操作部材92が圧縮コイルバネ94の付勢に抗して押し戻される。そして、操作部材92が移動部40の操作部材収容空間70内に完全に押し込まれると、接合部材36が移動部40の前端面に接合部42によって離脱可能に接合される。この状態において、操作部材92の貫通孔100と移動部40の貫通孔82とが連通され、ロック部材116の内側への移動が可能になる。
ロック部材116の内側への移動が可能になると、引込み手段46によって移動部40が引き込まれ、ロック部材116がケース38の前端面38cに押されて回動され、かつ、貫通孔82の内側へ向けて移動される。これにより、ロック部材116の一方の鋭角部分116aが貫通孔82内に収容され、当該鋭角部分のケース38の前端面38cに対する係止状態が完全に解除される。その後は、移動部40が引込み手段46によって速度制御されながらさらに引き込まれ、図12(F)に示すように、戸16が完全に閉じられる。
図13および図14に示すロック部材118は、正八角柱を半分に切断した形状を有しており、貫通孔82の内部においては、切断面に相当する面が前方へ向けられており、移動部40の移動方向に対して傾斜する2つの傾斜面126aおよび126bが後方へ向けられている。
ロック部材118の操作に用いられる操作部材92には、ロック部材118の一部を収容する凹部128が形成されており、凹部128の後部には、傾斜面130aがロック部材118の一方の傾斜面126aと平行に形成されている。傾斜面130aは、ロック部材118の一方の傾斜面126aに当接してロック部材118を貫通孔82の外側の開口から外部へ押し出す「押出し面」として機能する。一方、ケース38の前端部には、傾斜面130bがロック部材118の他方の傾斜面126bと平行に形成されている。傾斜面130bは、ロック部材118の他方の傾斜面126bに当接してロック部材118を貫通孔82の内側へ押し込む「押込み面」として機能する。
ロック部材118を用いた戸構造10において、戸16を完全に閉じた状態では、図15(A)に示すように、操作部材92の凹部128と移動部40の貫通孔82とが連通されており、ロック部材118が凹部128および貫通孔82の両方に跨って収容されている。
戸16を開ける際に、戸16を開方向へ回動させると、図15(B)に示すように、戸16の移動に伴って接合部材36およびこれに接合された移動部40が戸16の開方向(前方)へ移動され、待受け位置において移動部40が停止されるとともに、移動部40の貫通孔82がケース38の前端部に形成された傾斜面(押込み面)130bより前方に配置される。これにより、ロック部材118の外側(移動部40の外面側)への移動が可能になる。
戸16を開方向へさらに回動させて接合部材36を移動部40の前端面から引き離すと、すなわち接合部42が接合部材36から離脱すると、図15(C)に示すように、操作部材92が圧縮コイルバネ94によって押し出され、それに伴って、ロック部材118が傾斜面(押出し面)130aに押されて貫通孔82の外側へ向けて移動される。
圧縮コイルバネ94による操作部材92の押し出しが完了した状態では、図15(D)に示すように、ロック部材118の一部が貫通孔82の外側の開口から外部へ突出され、この突出された部分の後部に形成されている傾斜面126bが傾斜面(押込み面)130bに係止される。また、ロック部材118の操作部材92側の側面が貫通孔82内において操作部材92の側面に近接して配置され、この側面が操作部材92の側面に当接されることによって、ロック部材118の内側への移動が禁止される。
一方、戸16を閉める際に、戸16を閉方向へ回動させると、図16(E)に示すように、戸16または接合部材36が操作部材92の前端部に当接され、戸16の回動に伴って操作部材92が圧縮コイルバネ94の付勢に抗して押し戻される。そして、操作部材92が移動部40の操作部材収容空間70内に完全に押し込まれると、接合部材36が移動部40の前端面に接合部42によって離脱可能に接合される。この状態において、操作部材92の凹部128と移動部40の貫通孔82とが連通され、ロック部材118の内側への移動が可能になる。
ロック部材118の内側への移動が可能になると、引込み手段46によって移動部40が引き込まれ、ロック部材118が傾斜面(押込み面)130bに押されて貫通孔82の内側へ向けて移動される。これにより、ロック部材118が凹部128および貫通孔82の両方に跨って収容され、傾斜面126bの傾斜面(押込み面)130bに対する係止状態が完全に解除される。その後は、移動部40が引込み手段46によって速度制御されながらさらに引き込まれ、図16(F)に示すように、戸16が完全に閉じられる。
なお、本実施例のロック部材118は、正八角柱を半分に切断した形状を有しており、貫通孔82の内部においては、移動部40の移動方向に対して傾斜する2つの傾斜面126aおよび126bが後方へ向けられているが、これらの傾斜面126aまたは126bの少なくとも一方は、図17(A)または(B)のように円弧状の曲面126cに変更されてもよい。図17(A)に示した曲面126cは、傾斜面126aまたは126bに対応する部分だけを円弧状に形成したものであり、図17(B)に示した曲面126cは、傾斜面126aまたは126bに対応する部分だけでなく、前部の角部分をも含めて円弧状に形成したものである。
また、上述の保持機構44では、圧縮コイルバネ94の復元力によって操作部材92を前方へ押し出すようにしているが、図18に示すように、極性の異なる2つの磁石132aおよび132bの反発力によって操作部材92を前方へ押し出すようにしてもよいし、ゴム等のような他の弾性材料の弾性によって操作部材92を前方へ押し出すようにしてもよい。
また、上述の引込み手段46では、引張コイルバネ108の復元力によって移動部40を引き込むようにしているが、図18に示すように、圧縮コイルバネ134の復元力によって移動部40を引き込むようにしてもよい。さらに、引込み手段46においては、小型化を目的として、ダンパ110の内部に引張コイルバネ108または圧縮コイルバネ134を配設してもよい。
そして、引込み手段46を構成する引張コイルバネ108または圧縮コイルバネ134は、図19、図20または図21に示す緩衝装置本体136,138,140のように、その伸縮方向が移動部40の移動方向に対して所定角度を成すように配置されてもよい。
図19に示す緩衝装置本体136は、引込み手段46の引張コイルバネ108およびダンパ110を移動部40の移動方向に対して直交する方向へ延びて配置するとともに、引張コイルバネ108およびダンパ110に補助移動部142を接続し、補助移動部142と移動部40とを「方向変換手段」としての棒材144で連結したものである。棒材144は、引張コイルバネ108およびダンパ110の力を方向変換して移動部40へ付与するものであり、棒材144の一端は、回転軸144aを介して補助移動部142に回転自在に接続されており、棒材144の他端は、回転軸144bを介して移動部40に回転自在に接続されている。
一方、図20に示す緩衝装置本体138は、緩衝装置本体136(図19)の「方向変換手段」としての棒材144に代えてワイヤー146を用いたものであり、ワイヤー146の一端は、補助移動部142に固定されており、ワイヤー146の他端は、移動部40に固定されている。そして、ケース38に設けられたガイドローラ146aによってワイヤー146が略直角を成して移動するようにガイドされている。
また、図21に示した緩衝装置本体140は、図22から分かるように、引込み手段46の引張コイルバネ108およびダンパ110を移動部40の移動方向に対して直交する方向へ延びて配置するとともに、引張コイルバネ108およびダンパ110に補助移動部142を接続し、補助移動部142の動きを、「方向変換手段」としてのギア機構148を介して移動部40に伝達するようにしたものである。この緩衝装置140では、引張コイルバネ108、ダンパ110および補助移動部142が下側ケース38aに収容されており、移動部40が上側ケース38bに収容されており、下側ケース38aと上側ケース38bとが上下二段に重ねられている。
ギア機構148は、補助移動部142の側面にその移動方向へ延びて設けられた第1ラック150と、移動部40の側面にその移動方向へ延びて設けられた第2ラック152と、第1ラック150および第2ラック152のそれぞれに噛み合わされたピニオン154とを備えている。第1ラック150と第2ラック152とは、下側ケース38aと上側ケース38bとが上下二段に重ねられたことによって直交されており、ピニオン154は、第1ラック150と第2ラック152とが交差する箇所において、下側ケース38aに対して回転自在に取り付けられている。
緩衝装置本体140において、移動部40を引き込む際には、引込み手段46によって補助移動部142が戸16を閉じる方向に対して直交する方向へ移動される。すると、補助移動部142の動きが第1ラック150からピニオン154および第2ラック152を介して移動部40に伝達され、移動部40が戸16を閉じる方向へ移動される。
ただし、引張コイルバネ108または圧縮コイルバネ134の伸縮方向と移動部40の移動方向とが成す角度は、図19、図20または図21に示すような90度に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、「方向変換手段」としては、棒材144、ワイヤー146またはギア機構148の他、カム機構またはリンク機構等が用いられてもよい。
また、上述の実施例では、引込み手段46を引張コイルバネ108とダンパ110とによって構成しているが、図23に示すように、引張コイルバネ108に代えて、ねじりコイルバネ156を用いるようにしてもよい。
図23に示す緩衝装置本体158は、ねじりコイルバネ156とダンパ110とリンク機構160とによって引込み手段162を構成し、ねじりコイルバネ156の復元力を、リンク機構160を介して移動部40に伝達するようにしたものである。
リンク機構160は、第1棒状リンク160aと第2棒状リンク160bとジョイント160cとを有しており、第1棒状リンク160aの一端と第2棒状リンク160bの一端とがジョイント160cを介して回動自在に連結されている。そして、第1棒状リンク160aの他端には、上方へ向けて突出する係止突起164と下方へ向けて突出する摺動突起166とが形成されており、第2棒状リンク160bの他端には、上下方向へ貫通する円形の貫通孔168が形成されている。
また、緩衝装置本体158におけるケース38の底面には、移動部40の移動方向へ延びる溝170と、リンク機構160およびねじりコイルバネ156を支持する支持突起172と、ダンパ110を支持する支持突起174とが形成されている。
引込み手段162を構成する際には、リンク機構160の係止突起164が移動部40に係止されるとともに、摺動突起166が溝170に摺動自在に挿入され、貫通孔168が支持突起172に回転自在に嵌め合わされる。また、ねじりコイルバネ156が支持突起172にスペーサ176を介して嵌め合わされ、ねじりコイルバネ156の一端がケース38の側壁に係止され、かつ、他端がリンク機構160の第2棒状リンク160bに設けられた孔178に係止される。そして、ダンパ110のシリンダ112が支持突起174に回動自在に取り付けられ、ダンパ110のピストン114がリンク機構160のジョイント160cに接続される。
ねじりコイルバネ156に外力が作用していない自然状態では、図24(A)に示すように、ねじりコイルバネ156の他端が溝170から離れた位置に配置され、リンク機構160の第2棒状リンク160bが溝170に対してほぼ直交する位置に配置される。したがって、第1棒状リンク160aの他端は、溝170の後端部に配置され、それに伴って、移動部40がケース38の内部に配置される。つまり、移動部40がケース38の内部に引き込まれた状態となる。
戸16を開ける際に、接合部材36に接合された移動部40が前方へ移動されると、図24(B)に示すように、移動部40に接続された第1棒状リンク160aの他端が前方へ移動され、それに伴って、第2棒状リンク160bがねじりコイルバネ156の付勢に抗して支持突起172を中心として回動される。したがって、移動部40が引き出された状態では、ねじりコイルバネ156の復元力を移動部40に対して「引込み力」として作用させることができる。また、移動部40が引き込まれる際には、ジョイント160cの移動に伴ってダンパ110のピストン114がシリンダ112内へ押し込まれるので、ダンパ110の速度制御機能を有効に発揮させることができる。
また、上述の各実施例の緩衝装置では、緩衝装置本体34,136,138,140,158を開口部12に取り付けるとともに、接合部材36を戸16,182に取り付けるようにしているが、これとは逆に、接合部材36を開口部12に取り付けるとともに、緩衝装置本体34,136,138,140,158を戸16,182に取り付けるようにしてもよい。
また、上述の各実施例の緩衝装置は、図1および図2に示すような「開き戸」の他、図25に示すような「引き戸」に適用されてもよい。「引き戸」の一例として図示した戸構造180では、戸182がその主面に対して平行となる方向(図25の左右方向)へ往復移動され、それによって開口部12が開閉される。したがって、戸構造180においては、緩衝装置18を構成する接合部材36と緩衝装置本体34(136,138,140,158)とが、戸182の主面に対して平行となる方向(開閉方向)において対向して配置されることになる。
さらに、上述の各実施例の緩衝装置において、操作部材92の先端部を首振り自在に構成し、戸16の角度に合わせて当該先端部が動くようにしてもよい。この場合には、操作部材92の先端部と接合部材36とをよりスムーズかつ確実に接合することができる。