JP4804638B2 - クラスレート化合物と高効率熱電材料およびその製造方法と高効率熱電材料を用いた熱電モジュール - Google Patents

クラスレート化合物と高効率熱電材料およびその製造方法と高効率熱電材料を用いた熱電モジュール Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラスレート化合物とそれを利用した高効率熱電材料とそれらの製造方法および熱電モジュールに関するもので、導電性とゼーベック係数に優れ、低熱伝導率の熱電材料を提供することができる技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在の人類社会は膨大な熱エネルギーの消費により成り立っているが、多くの熱エネルギーは利用されることなく大気中に排出されている。
例えば、工場排熱に代表される未利用のエネルギーの特徴は、
1)排熱温度が比較的低いが多量であること
2)排出される時間形態は定常ではないが長時間に及ぶこと
である。従ってこれらの熱エネルギーの形態から電力に変換する方法で最も適した方法は、熱電発電であると考えられる。しかしながら、現実的に熱電材料が適用された例はワイン等の冷蔵庫、半導体などの冷却装置などが知られているに過ぎない。
【0003】
熱電材料の実用化に際しては、次の2つの問題を抱えている。
第一に現状では熱電材料の使用温度に制限があり、廃熱発電の温度領域である200℃〜900℃で実用可能な熱電材料は存在しないことである。また、これらの温度領域以外で使用可能な熱電材料の中にはテルル(Te)等に代表される毒性のある元素、または非常に高価な元素を含む材料が多いため、使用範囲が大きく限定される問題がある。
第二に従来の熱電材料の性能を示す無次元性能指数(ZT)の値が低く、従来の熱電材料は実用化レベルに達していない問題がある。それら従来の熱電材料でのエネルギー変換効率は最大でも10%以下である。従って現時点での熱電変換技術の一般実用化には大きな障害がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上の背景から、これらの困難を乗り越えるためには、熱電変換技術の技術革新と熱電変換材料の飛躍的な性能向上が不可欠な課題とされている。また、そのためには、既存の考えにとらわれない新しい材料の探索と設計、並びに新材料の創製が必要な状況であった。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、熱伝導率が高く、性能係数が高く、高効率熱電材料に適用が期待されるクラスレート化合物と熱電材料を提供することを目的の1つとする。
【0006】
本発明は、900℃以上の温度において無次元性能指数(ZT)として、2.0〜2.7の極めて優れた値を得ることができるクラスレート化合物と熱電材料を提供することを目的の1つとする。
本発明は、一般的な廃熱発電等の用途に供し得る優れた熱電材料と熱電モジュールの提供を目的の1つとする。
本発明は、上述のような優れたクラスレート化合物を製造することができる方法の提供を目的の1つとする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のクラスレート化合物は前述の事情に鑑みてなされたもので、Siの原子を主体としてなるクラスレート格子と、該クラスレート格子の格子間隙の少なくとも一部に内包されたドーピング原子としてのBaと、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された置換原子としてのAlを主体としてなり、一般式Bax1@(Six2,Alx3)で示され、前記SiとAlの組成比を示すx2とx3について、x2+x3=46の関係を満足するとともに、前記Baの組成比を示すx1が、7.24≦x1≦7.85の範囲、前記x2が、31.25≦x2≦34.55の範囲、前記x3が、11.45≦x3≦14.75の範囲であり、Ba原子をドーピングさせたことにより生じる過剰電子がキャリアーとされたことを特徴とする。
【0010】
本発明のクラスレート化合物は、前記シリコンクラスレート46に侵入型原子としてのBaを多く侵入させると、伝導電子帯の下にドナーレベルのエネルギー帯ができる結果、シリコン46クラスレートI構造よりもバンドギャップが狭くなり、熱電効果が向上する。また、伝導電子帯の一番下のバンドの曲率が大きくなり、電子の有効質量が少なくなって電気伝導度が向上する。次に、Si原子の一部をAlに置換することによってバンドギャップ中にアクセプターレベルのエネルギーバンドが発生し、シリコン46クラスレートI構造よりもバンドギャップが狭くなるために、熱電特性が向上する。また、価電子帯の一番上のバンドの曲率が小さくなることから、電子の有効質量が小さくなり、電気伝導度が向上する。
【0011】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、先に示すいずれかの構造を有し、900℃における無次元性能係数のTが2.0以上であることを特徴とする。
先に記載の侵入原子としてのBaの添加による効果と、置換原子としてのAlの添加による効果から、従来に見られない画期的な性能係数が得られる。
【0012】
本発明の熱電材料は前述の事情に鑑みてなされたもので、先に記載のいずれかのクラスレート化合物が主体とされてなる。
先に記載の画期的な性能係数を有するクラスレート化合物が主体とされてなることで、熱電材料としての性能が画期的に向上する。
【0013】
本発明の製造方法は、Siの原子を主体としてなるクラスレート格子と、該クラスレート格子の格子間隙の少なくとも一部に内包されたドーピング原子としてのBaと、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された置換原子としてのAlを主体としてなり、
一般式Bax1@(Six2,Alx3)で示され、前記SiとAlの組成比を示すx2とx3について、x2+x3=46の関係を満足するとともに、Ba原子をドーピングさせたことにより生じる過剰電子がキャリアーとされたn型クラスレート化合物を製造するに際し、
前記クラスレート格子を構成するためのSiを含む原料と前記ドーピング原子としてのBaを含む原料と前記置換原子としてのAlを含む原料を所定の混合比になるように混合し、この混合物を融点以上の温度に保持後に徐冷してから粉砕し、粉砕物から不純物を洗浄により除去し、粉砕後の粉砕物で目的の組成比となっているものを加圧焼結法により圧密して固化することを特徴とする。
先に記載の画期的な性能係数を有するクラスレート化合物を原料混合、溶解、粉砕、加圧焼結といった広く適用されている方法を実施して製造することができる。よって、画期的に優れた性能係数を示すクラスレート化合物を容易に製造することができる。
【0014】
本発明の製造方法は、前記粉砕物から不純物を除去する際に水洗によりBaSi2等の水溶性の不純物を除去することを特徴とする。
本発明の製造方法は、前記加圧焼結法として放電プラズマ焼結法を行うことを特徴とする。
粉砕物を水洗することで水溶性の不純物を容易に除去することができ、不純物を除去した状態の目的の組成の粉砕物を主体として加圧焼結することで、目的の組成を有する純度の高いクラスレート化合物を得ることができる。また、加圧焼結する場合にプラズマ焼結することで、圧密度の高い、優れた熱電性能のクラスレート化合物を合成できる。
【0015】
本発明の熱電モジュールは、p型の熱電素子とn型の熱電素子が電極を介して1対以上組み合わされ、両熱電素子の接続部分側に熱交換部が形成され、該接続部分に対向する側に電気回路が接続されてなり、
前記n型の熱電素子の構成材料として先に記載の高効率熱電材料が適用されてなることを特徴とする。
先に説明した画期的に優れた性能係数のクラスレート化合物からなる熱電材料で構成されるので、従来では得られない優れた熱電効率の熱交換が可能であり、優れた熱電性能の熱電モジュールを提供できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、以下に説明する本発明者らのバンド計算によるドナーレベルの変動結果とアクセプターレベルの変動結果に基づいてなされたものであり、以下にバンド計算結果について詳細に説明する。
図1は、Moriguchi ら(Koji Moriguchi, Shinji Munetoh, and Akira Shintani, Phys. Rev. B.,62, 7138(2000))によるシリコン46クラスレートI構造のバンド計算結果を示す。また、図2(a)(b)に本発明者らのプログラムにより計算したシリコン46クラスレートI構造のバンド図を示す。図2(a)はエネルギーレベル±0.2eVの範囲のバンド図を示し、図2(b)はエネルギーレベル0.1〜0.3eVの範囲のバンドの拡大図を示す。
両方の図から、バンド図は典型的な真性半導体的なバンド構造を持っていることがわかる。従って、シリコン46クラスレートI構造のままではバンドギャップが広いために熱電材料には適してないことが明らかである。また、バンド図に示す曲率が大きいことから電子の有効質量が大きくなり、電気伝導度に悪い影響を及ぼすことが予想される。
【0017】
図3(a)に本発明者らが計算したBa2@Si46のバンド構造を示し、図3(b)にBa6@Si46のバンド構造を示し、図4(a)に前記Ba2@Si46のバンド構造の拡大図を示し、図4(b)に前記Ba6@Si46のバンド構造の拡大図を示す。
これらの図からわかることは、シリコンクラスレート46に侵入するBa原子の数を多くすればするほど伝導電子帯の下にドナーレベルのエネルギー帯ができる結果、先のシリコン46クラスレートI構造よりもバンドギャップが狭くなるために、熱電特性の向上が期待できるところである。また、伝導電子帯の一番下のバンドの曲率が大きくなることから、電子の有効質量が少なくなり、電気伝導度が向上することが予想できる。
【0018】
図5(a)に本発明者らが計算した(Si30,Al16)のバンド構造を示し、図5(b)に(Si30,Al16)Ba2@(Si30,Al16)のバンド構造を示し、図6(a)に前記(Si30,Al16)のバンド構造の拡大図を示し、図6(b)に前記(Si30,Al16)Ba2@(Si30,Al16)のバンド構造の拡大図を示す。
これらの図から、Si原子の一部をAlに置換することによってバンドギャップ中にアクセプターレベルのエネルギーバンドが発生し、シリコン46クラスレートI構造よりもバンドギャップが狭くなるために、熱電特性の向上が期待できる。また、価電子帯の一番上のバンドの曲率が小さくなることから、電子の有効質量が小さくなり、電気伝導度が向上することが予想される。
【0019】
先の図3〜図6に示したバンド図の解析から、Ba原子はクラスレート中においてドナー型の原子として働き、Al原子はアクセプター型の原子として働くものと予想され、かつ、両ドーピング原子の効果により熱電特性が向上することが予想される。以上の知見に基づき、本発明者らはBa-Si-Al系のクラスレート化合物の研究を行った結果として本願発明に到達した。
【0020】
本発明に係るクラスレート化合物は基本的に、Siが構成するシリコンクラスレート格子(シリコンクラスレート基本構成単位)と、このシリコンクラスレート格子の内部にドーピングされたドーピング原子としてのBa原子と、前記シリコンクラスレート格子を構成する複数の原子のうちの一部をAl原子に置換した置換原子としてのAlから構成される。
【0021】
「第1実施形態」
図7と図8は、本発明のクラスレート化合物の第1実施形態の格子構造を示すもので、本実施形態のクラスレート格子1は、図8にも示すSi原子の12面体からなるSi20クラスタ2と、Si原子の14面体からなるSi24クラスタ3とが組み合わせられた構成単位4が複数組み合わせられて図7に示すようにシリコンクラスレート格子1として構成された、シリコンクラスレート46からなる格子とされたものが基本格子である。
【0022】
また、図7に示すシリコンクラスレート格子1のうち、Si20クラスタ2の複数の2aサイトあるいはSi24クラスタ3の複数の6dサイトの少なくとも一方の少なくとも一部に、Siよりも質量の大きなBa原子がドーピングされて格子内に内包されている。
ここで用いられるドーピング原子としてのBaがSiクラスタの先のサイトに入ると、Baの原子は2価であり、その中にある2個の電子はクラスレートを構成する原子側へ移る。そのため、全体としてクラスレート化合物は金属的な性質を有するようになる。また、Baはクラスレート格子1を構成するSiよりも質量が大きいので、クラスレート格子1の原子の振動を抑制し、フォノンの散乱を生じさせて熱伝導を低くする。
【0023】
図9はシリコンクラスレート格子の格子構造を示すもので、各格子の基本単位構造の頂点部分にSi原子が存在する。図10はシリコンクラスレート格子の2aサイト(Si20クラスタの内部)の全てにBa原子が侵入した状態を例示し、図11はシリコンクラスレート格子の6dサイト(Si24クラスタの内部)の全てにBa原子が侵入した状態を例示する。
なお、図10、図11に示す状態は全てのサイトにBa原子が入った状態を例示しているが、具体的に、どの程度の割合でサイトにBa原子が侵入することが好ましいかについては後述の一般式の説明の部分に示す。
【0024】
次に、シリコンクラスレート格子1を構成する複数のSi原子のうち、少なくとも一部のSi原子がAlの原子で置換されてなる。Al原子でSi原子の一部を置換するのは、シリコンクラスレート格子を構成するSi原子はIV価であるので、2価のAl原子で置換すると、その中にある2個の価電子はクラスレートを構成するIVB族のSiの原子側へ移り、Si原子のAl原子による置換により金属と半導体との中間的性質を得ることができる。そのため、Al原子によるSi原子の置換によりシリコンクラスレート格子を全体として半導体的な性質に変換することができる。前述の如くBa原子をシリコンクラスレート格子1にドーピングし、Si原子の少なくとも一部をAl原子に置換することで、ゼーベック係数を負の値とし、n型の熱電材料にすることができる。
【0025】
本実施形態において好適なSiとBaとAlからなるシリコンクラスレート格子1の組成比としては、一般式Bax1@(Six2,Alx3)で示され、前記SiとAlの組成比を示すx2とx3について、x2+x3=46の関係を満足するとともに、Ba原子をドーピングさせたことにより生じる過剰電子がキャリアーとされてなるものである。
【0026】
より具体的には、Baの組成比を示すx1が、7.2≦x1≦7.9の範囲とされてなることが好ましい。更に、前記Siの組成比を示すx2が、31.2≦x2≦34.6の範囲とされてなることが好ましい。更に、Alの組成比を示すx3が、11.4≦x3≦14.8の範囲とされてなることが好ましい。
【0027】
また、前述の組成比において、前記x1が、7.24≦x1≦7.85の範囲とされてなることが好ましい。また、前記組成比において、前記x2が、31.25≦x2≦34.55の範囲とされてなることが好ましい。また、前記x3が、11.45≦x3≦14.75の範囲とされてなることが好ましい。
【0028】
次に、前述の構成のシリコンクラスレート化合物の製造方法の一例について説明する。
シリコンクラスレート46の格子を用いるには、Si粉末とドーピング原子としてのBa粉末とクラスレート格子構成元素の置換用のAlの粉末を目的の組成比になるように秤量して混合し、これらの混合粉末をアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中においてアーク溶解などの溶解法により融点以上の温度に例えば1時間以上加熱し、溶解して溶製し、徐冷して目的の組成のインゴットを得る。ここで用いる各元素の原料粉末は、各元素の純粋粉末でも化合物粉末でも差し支えないが不純物となる元素ができる限り入っていない純粋な粉末状のものを用いることが好ましい。
【0029】
次にこのインゴットを大気中に取り出して粉砕し粉末化した後、この粉末を水洗いして水溶性の不純物(BaSi2等)を除去する。また、粉砕後の粉末が目的の組成比となっているか否かEDX分析により検査して目的の組成となっているか確認し、かつ構造をX線回折によって確認する。
また、この工程において、目的の組成になっているならば次の工程に進むが、目的の組成になっていない場合は再度粉末混合からインゴットの溶製を行い、再度作成したインゴットからの粉末分析を行う。また、使用する粉砕物の粉末は、できるだけ粒径の微細な粒径の整ったものを使用することが好ましい。
【0030】
先の分析結果に基づいて組成比が良好な粉砕物の粉末を得たならば、Arガス雰囲気あるいは真空雰囲気において熱処理(仮焼き処理)を施し、不要成分等をガス状態にして除去し、仮焼き処理後の粉末を更に粉砕して粒径を揃え、更にX線で分析し、組成比が正しいか否か検査し、目的の組成比になっているものを選択して粒径を揃え、この粉砕物を放電プラズマ装置を用いて加熱加圧焼結し、所望の形状、例えば柱状の焼結物としてのシリコンクラスレート化合物の熱電材料からなる目的の熱電素子を得ることができる。
放電プラズマ焼結とは、混合粉末に一対のパンチで数MPa〜数10MPa程度の圧力で加圧すると同時に電流を印加して約1000℃程度の高温に加熱しながら数分〜数時間程度焼結する加圧焼結法の1種である。
【0031】
なお、前記熱処理を行う場合、シリコンクラスレート46を製造する場合はArガス雰囲気中で熱処理を行うことが好ましい。また、先のX線分析により組成比が目的の組成から外れている場合は再度アーク溶解からインゴットを得る工程に戻って同じ工程を繰り返すことが好ましい。
【0032】
ところで、前述の製造工程において、アーク溶解の代わりに、メカニカルアロイング処理を施して目的の組成比の混合粉末を得ることもできる。メカニカルアロイング処理とは、ステンレス鋼球などの金属球を多数収納した中空のアトライタの内部に混合する粉末を投入後、アトライタを高速回転させて粉末を混合し、金属球の間で粉末を粉砕混合して組成均一な混合粉末を得る方法である。このようにメカニカルアロイング処理を施して得られた混合粉末を成形してから予備熱処理し、更に焼結することで本発明に係るシリコンクラスレート化合物の熱電素子を得ることもできる。
【0033】
また、上記の製造方法において、ドーピング原子としてBaを用い、置換原子としてAlを選択し、目的の組成範囲とした場合は、必要な元素を混合し、その後に焼結するという極めて簡易な方法でクラスレート化合物を生成することができる。従って本発明のクラスレート化合物は、従来の熱電材料と比較して製造方法が簡単であり、しかも、900℃において従来に見られない極めて高い無次元性能指数(2.0〜2.7)を示すn型の熱電材料が得られる。
【0034】
次に、前記組成比のクラスレート化合物が優れたn型の熱電材料となる理由について以下に詳述する。
前記の組成比において例えば、Ba7.63@(Si31.25,Al14.75)で示されるクラスレート化合物を例にして説明する。
シリコンクラスレート格子1にドープされたBaは2個の原子をクラスレート格子に放出するため、以下の(1)式の電子がクラスレート格子へ移動する。
【0035】
【化1】
Figure 0004804638
【0036】
クラスレート格子が全て価電子4個のシリコン原子で構成されているときは、クラスレート格子は真性半導体となっている。従って、クラスレート格子への置換原子とクラスレート格子が構成するケージ中心へ導入するドーピング原子を最適化することにより、p型またはn型熱電材料を創製することができる。
【0037】
本発明のクラスレート化合物の場合、シリコンクラスレート格子の格子点46の中で例えば14.75点を価電子数が3価であるアルミニウムに置換する。
ここで、Ba-Si-Al系クラスレート化合物のSi原子の価電子数をNVSiとすると、以下の(2)式の関係となる。
【0038】
【化2】
Figure 0004804638
【0039】
また、Al原子の価電子数をNVAIとすると、以下の(3)式の関係となる。
【化3】
Figure 0004804638
【0040】
ここで、クラスレート格子が全てSi原子の場合の価電子数は、以下の(4)式の関係となる。
【0041】
【化4】
Figure 0004804638
よって、全ての格子点がSi原子である真性半導体的なクラスレート化合物と本実施形態の価電子数の差異をΔNVCLとすると、以下の(5)式に示すだけ価電子数が不足していることになる。
【0042】
【化5】
Figure 0004804638
【0043】
しかし、Ba原子により電子が先のNVBa個供給されるので、以下の(6)式に示すだけ電子が多くなる。
【0044】
【化6】
Figure 0004804638
【0045】
その結果、過剰電子がキャリアになりn型熱電半導体となる。本発明の実施形態で得られる物質は、クラスレート格子が全てSi原子の場合と比較してトータルで価電子数が増加したため、n型熱電材料となる。
【0046】
「第2実施形態」
図12は本発明に係るシリコンクラスレート化合物の熱電材料を用いて構成された熱電モジュールの一実施形態を示すもので、この実施形態の熱電モジュール30は、上下に離間して対向配置された絶縁物の基板31、32の間に、p型の柱状の熱電材料からなる複数の熱電素子33と、n型の柱状の熱電材料からなる複数の熱電素子34が交互に配置され、相互に隣接する1組の熱電素子33、34の下端部どうしが間欠的に電極板35で接続され、相互に隣接する他の熱電素子33、34の上端部どうしが間欠的に電極板36で接続されると同時に、隣接するp型の熱電素子33の端部とn型の熱電素子34の端部とが互い違いに交互に接続されて全ての熱電素子が直列接続されるように複数の電極板35、36で接続されている。また、上下の基板間の複数の熱電素子33…、34…のうち、一側の端部の熱電素子33に接続配線37が、他側の端部の熱電素子34に接続配線38がそれぞれ接合されて構成されている。
ここで前記n型の熱電素子34が先に記載のクラスレート化合物からなる熱電材料から構成される。
【0047】
図12に示す構成の熱電モジュール30は、図13(a)に示すように上部側の電極板36側を加熱することで接続配線37、38の間に負荷としての抵抗39などを接続して電気回路41を構成しておくならば、電極板36側を他の熱源で加熱し、電極板35側を放熱側することで接続配線37、38間に電位差を生じさせて電流を流すことができ、熱電発電用に供することができる。
更に、図12に示す熱電モジュール30は、図13(b)に示すように接続配線37、38に電源40を組み込み、矢印に示す方向に電流を流すことで、上部側の電極板36側にて吸熱作用を行うことができ、下部側の電極板35側を発熱側として先の吸熱作用によって熱電冷却器として使用することができる。
【0048】
次に、前記p型の熱電素子33を構成するために好適なクラスレート化合物の熱電材料については、先に本発明者らが特願平11−220567号、特願平11−220568号などにおいて特許出願しているクラスレート化合物の熱電材料において性能係数1.01のp型熱電材料を好適には用いることができるが、その他一般のp型の熱電材料を用いることもできる。
これにより、例えば、p型の熱電素子33を先の特許に係る性能係数1.01の熱電材料で構成し、n型の熱電素子34を後述の実施例の如く性能係数2〜2.7の熱電材料で構成することができ、その場合に極めて優れた発電効率あるいは吸熱効率の熱電モジュールを得ることができる。
【0049】
図14は本発明の熱電材料を用いた発電スタックの一例を示すもので、この例の発電スタック50は、内部を排気ガスなどが流れる偏平型の多穴管からなるインナーシェル51の外周部に、6基の発電モジュール52が装着され、発電モジュール52の外部側にこれらを覆うように偏平型のアウターシェル54が設けられていて、インナーシェル51の内部を流れる排気ガスの熱を利用して発電を行うことができるように構成されたものである。
この実施形態の発電スタックにおいても先の実施形態の熱電モジュール30と同様に発電モジュール52を構成することで、熱電モジュール52を発電用に供することができる。
【0050】
ここで以下に、熱電材料の性能指標として多用される無次元性能指数(ZT)について説明する。
熱電材料の性能は、性能指数をZ、熱電能をα、熱伝導率をκ、比抵抗をρとすると、以下の(7)式で示される。
【0051】
【化7】
Figure 0004804638
【0052】
また、図12に示す熱電モジュールの性能指数Zは、以下の(8)式で示される。
【0053】
【化8】
Figure 0004804638
【0054】
上記(8)式において、添え字はp型の成形体とn型の成形体の各値に対応する。
次に、熱電材料の最大発電効率は、高温端と低温端の温度をそれぞれThとTcとすると、以下の(9)式と(10)式で示される。
【0055】
【化9】
Figure 0004804638
【0056】
【化10】
Figure 0004804638
【0057】
一方、熱電冷却の最大成績係数は、以下の(11)式で示される。
【0058】
【化11】
Figure 0004804638
【0059】
熱電加熱ではφmax+1で与えられる。また、吸熱部が完全断熱され、熱の流入がないと、Tcは最も低下した状態になり、φmax=0とおくと、最大冷却温度差は、以下の(12)式の関係が得られる。
【0060】
【化12】
Figure 0004804638
【0061】
ここで一般に、熱電冷却・加熱は、室温近傍の温度差(Th−Tc)≦100Kの範囲で利用されるため、Zが高い方が必要条件になり、現在では3.4×10-3-1以上のものが要求されている。
【0062】
一方、熱電発電は性能指数Zが比較的低くてもThを高くして効率を高めることができるが、高温で化学的に安定な耐熱材料であることが必要とされる。一般に性能指数Zは材料に固有の温度依存性を有するが、最大値を示す温度は材料によって異なる。
この性能指数Zに絶対温度Tをかけた無次元性能指数(ZT)が1を超える材料は、現在知られているところ、GeTe-AgSbTe2のみであり、他の大部分の従来材料は無次元性能指数(ZT)が1よりも低い値を示す。
【0063】
図15と図16は従来知られているこの種熱電材料においてp型のものとn型のものの無次元性能指数の絶対温度依存性を示すもので、これらの図からも明らかなように無次元性能指数ZT=1を超えるものは、p型では600〜900Kの温度範囲においてGeTe-AgSbTe2のみであり、その他には現在では知られていない。また、n型においては、特定の狭い温度範囲においてSiGe(GaP)のみが有望であり、常温〜700Kにおいては存在しない。
これに対して本発明に係る熱電材料であるならば、後述の実施例からも明らかなように無次元性能指数(ZT)が2.0〜2.7のn型の熱電材料を提供することができる。
よって、本発明の熱電材料を用いて熱電モジュールを構成するならば、従来の熱電材料によるものよりも格段に優れた高効率の熱電モジュールを提供することができる。なお、図15には本発明者らが先に特許出願しているSiBaAl系のクラスレート化合物(特願平11−220567号参照)においてZT=1.01を示すp型のもの(Ba8@(Si26,Al20)焼結体)を例示し、図16には従来のものと対比させて本発明の後述の実施例で得られたZT=2.5を示すn型のものを記載した。
【0064】
次に、ゼーベック係数について説明する。
図13(b)に示す熱電モジュールにおいて、電源40から矢印方向に電流を流すと、電気回路42に電流Iが流れて上部の電極板36側にペルチェ発熱が生じ、n型熱電素子34のゼーベック係数を−αn、p型熱電素子のゼーベック定数をαp、電極板のゼーベック係数をαmとすると、上部の電極板とPN素子ペルチェ吸熱Qcpは、以下の(13)式となる。
【0065】
【化13】
Figure 0004804638
【0066】
前記(13)式においてαm は無視できる。ここでTcは接合部の温度である。αe=αn+αpとして、吸熱量の絶対値Qcpは、以下の(14)式となる。
【0067】
【化14】
Figure 0004804638
【0068】
このように熱電モジュールの熱計算を行う場合に指標となるのがゼーベック係数であるので、この数値は熱電モジュールの性能向上に大きな影響を有するものとして広く知られているものである。
【0069】
次に、本発明に係るシリコンクラスレート化合物を発電モジュールに適用した他の例について説明する。
図17は図13に示す熱電モジュール30を焼却炉の炉壁に取り付けた一実施形態を示す断面図である。この形態の炉壁60は、内部に水等の冷媒の流通路61が形成され、流通路61が形成された部分においては外側に面する外部壁62と内側に面する内部壁63とからなる2重構造とされ、内部壁63の一部に凹部65が形成されるとともに、この凹部65内に先の構成の熱電モジュール30が設置されている。
【0070】
この形態の発電モジュール30では焼却炉の熱発生源(火炉)から熱電モジュール30の電極板36で受ける熱を基に発電を行うことができる。
この形態においては、火炉側からの温度をTH、Tcとすると、例えば、以下の(15)式と(16)式とすることができる。
【0071】
【化15】
Figure 0004804638
【0072】
【化16】
Figure 0004804638
【0073】
ここで本発明に係るn型熱電材料の熱電性能(Ba-Si-Alクラスレート化合物の実測値)は以下の(17)式〜(22)式のようであった。
【0074】
【化17】
Figure 0004804638
【0075】
【化18】
Figure 0004804638
【0076】
【化19】
Figure 0004804638
【0077】
【化20】
Figure 0004804638
【0078】
【化21】
Figure 0004804638
【0079】
【化22】
Figure 0004804638
【0080】
これらの(17)式〜(22)式の実測値に対し、一般的なp型の熱電性能は(p type-SiGe, ref C. B. Vining, CRC Handbook of Thermoeelectric Materilas, eds. D. M. Rowe, P329, 1994)によれば以下の(23)式〜(28)式のようになる。
【0081】
【化23】
Figure 0004804638
【0082】
【化24】
Figure 0004804638
【0083】
【化25】
Figure 0004804638
【0084】
【化26】
Figure 0004804638
【0085】
【化27】
Figure 0004804638
【0086】
【化28】
Figure 0004804638
【0087】
ここで、n型熱電材料には、本発明で得られたBa-Si-Alクラスレート化合物を用い、p型熱電材料には市販のp型SiGe熱電材料を用いることができる。ただし、ゼーベック係数、電気抵抗、熱伝導率は温度変化するので、ここではTHとTcの平均値による近似を用いる。
1)n型Ba-Si-Alクラスレート化合物熱電材料
ゼーベック係数
【0088】
【化29】
Figure 0004804638
【0089】
電気抵抗
【0090】
【化30】
Figure 0004804638
【0091】
熱伝導率
【0092】
【化31】
Figure 0004804638
【0093】
2)p型SiGe熱電材料
ゼーベック係数
【0094】
【化32】
Figure 0004804638
【0095】
電気抵抗
【0096】
【化33】
Figure 0004804638
【0097】
熱伝導率
【0098】
【化34】
Figure 0004804638
【0099】
ここで、熱電モジュールのゼーベック係数を<αpn>とすると、
【0100】
【化35】
Figure 0004804638
【0101】
となる。次に、熱電モジュール1個あたりで発電可能な電圧を計算する。ここで、熱電モジュールの内部抵抗は考慮しないとする。
【0102】
【化36】
Figure 0004804638
【0103】
となる。ここで、本実施形態の熱電モジュールが200個あると仮定すると、発電されるトータルの電圧は、以下のようになる。
【0104】
【化37】
Figure 0004804638
【0105】
次に、本熱電モジュールの変換効率ηを求める。求める変換効率は、以下の式に示す通りとなる。
【0106】
【化38】
Figure 0004804638
【0107】
ここでMは、
【0108】
【化39】
Figure 0004804638
【0109】
で表される。最初に(Zpm)を求めると、
【0110】
【化40】
Figure 0004804638
【0111】
である。前述の(40)式と(39)式を使って(38)式を計算すると変換効率ηは12.1%となる。現状では、800℃を越える温度領域で変換効率10%を越える熱電モジュールは他に存在しない。従って本発明に係る熱電モジュールは800〜900℃の領域での熱電性能が極めて高く、かつ、高い変換効率を持つ優れた熱電発電モジュールであることが明らかになった。
【0112】
【実施例】
以下に実施例をあげて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
Si粉末(99.99%)とBa粉末(純度99.99%)とAl粉末(99.99%)をBa:Si:P=8:30:16の組成比(原子%)「Ba8@(Si30,Al16)に対応」になるようにそれぞれの粉末を秤量し、これらの混合粉末を作製した。この混合粉末をArガス雰囲気中において融点以上の温度1150℃で1時間以上、5時間保持した後、徐冷した。
【0113】
その後、大気中にインゴットを取り出して粉砕し、粉末を水洗いして水溶性の不純物(BaSi2等)を除去した。粉砕後の粉末が目的の組成比となっているかどうかはEDX(エネルギー分散型X線分光法)にて確認し、かつ構造をX線回折によって確認した。
これらのうち、組成比が整った混合粉末をプラズマ焼結装置にかけて900℃で40MPaの圧力で30分間、プラズマ焼結処理した。
【0114】
以上の製造方法に従い、複数の試験片を作成し、各試料において分析した結果判明した組成と、熱電材料としての型、900℃における無次元性能係数(ZT)の測定結果を以下の表1に記載する。
【0115】
Figure 0004804638
【0116】
以上の結果から、シリコンクラスレート46 Ba7.24-7.85@(Si31.25-34.55,Al11.45-14.75)なる組成の熱電材料ならば、n型であり、極めて性能指数の大きな熱電材料を得られることが判明した。
【0117】
また、表1の組成比から、性能指数2.0以上を確保するためには、Baにおいては、Ba:7.24〜7.85原子%の組成範囲、性能指数2.4〜2.7を得るためには、Ba:7.24〜7.28原子%の組成範囲、あるいは、7.30〜7.85原子%の組成比とすることが重要であることが明らかである。
また、表1の組成比から、2.0以上の性能指数を示すためには、SiにおいてはSi:31.25〜34.55原子%が必要であり、2.0以上の性能指数を得るためには、Alにおいては11.45〜14.75原子%が必要であることが判明した。
【0118】
図18は、本発明に係るBa7.63@(Si31.25,Al14.75)なる組成のシリコンクラスレート化合物の熱伝導率の温度特性をレーザフラッシュ法により測定した結果と、n-SiGeの熱伝導率の温度特性を比較して示すものである。
熱伝導率においてBa7.63@(Si31.25,Al14.75)なる組成のシリコンクラスレート化合物の熱伝導率は、半導体のn-SiGeに近い値を示した。
【0119】
図19は、本発明に係るBa7.63@(Si31.25,Al14.75)なる組成のシリコンクラスレート化合物とn-SiGeのゼーベック係数の温度特性を測定した結果を比較して示すが、前記シリコンクラスレート化合物のゼーベック係数は負の値を示し、特に800℃を超える高温度域においてn-SiGeよりも負の値が大きくなっていることが判明した。
【0120】
図20は、本発明に係るBa7.63@(Si31.25,Al14.75)なる組成のシリコンクラスレート化合物とn-SiGeの電気抵抗の温度特性を測定した結果を比較して示すが、前記クラスレート化合物の電気抵抗が0〜900℃の範囲でn-SiGeの電気抵抗よりも低いことが判明した。
【0121】
図21は、本発明に係るBa7.63@(Si31.25,Al14.75)なる組成のシリコンクラスレート化合物とn-SiGeの性能指数の温度特性を測定した結果を比較して示すが、本発明のクラスレート化合物は温度が上昇する(900K以上)につれて性能指数が急激に上昇し、850℃において1.05を超え、900℃において2.5を超えることが明らかである。
なお、現在のところ、この種の熱電材料において性能指数が900℃において2.5を示す材料は他に見られず、本発明に係るクラスレート化合物が世界最高値を示す材料である。また、先の表1に示した各組成のクラスレート化合物においても優れた性能指数を有するので、本願発明クラスレート化合物が優れたものであることが明らかである。
【0122】
【発明の効果】
以上説明したように本発明のクラスレート化合物によれば、基本的な格子がシリコンクラスレート46格子であり、このシリコンクラスレート46格子の内部にクラスレート格子構成元素のSiよりも比重の大きなBa原子がドーピングされているので、クラスレート格子の振動が抑制されて熱伝導性が低くされると同時に電気伝導度が向上されるともに、クラスレート格子を構成する原子の一部がAlで置換されてn型半導体的な性質に置換される結果としてゼーベック係数が向上されたシリコンクラスレート化合物を提供することができる。
【0123】
本発明においてクラスレート格子構成元素としてSiを選択し、ドーピング原子としてBaを選択し、置換原子としAlを選択することで、熱伝導性と電気伝導度とゼーベック係数をバランス良く良好にすることができる。
前記のシリコンクラスレート46に侵入型原子としてのBaを多く侵入させると、伝導電子帯の下にドナーレベルのエネルギー帯ができる結果、シリコン46クラスレートI構造よりもバンドギャップが狭くなり、熱電効果が向上する。また、伝導電子帯の一番下のバンドの曲率が大きくなり、電子の有効質量が少なくなって電気伝導度が向上する。
次に、Si原子の一部をAlに置換することによってバンドギャップ中にアクセプターレベルのエネルギーバンドが発生し、シリコン46クラスレートI構造よりもバンドギャップが狭くなるために、熱電特性が向上する。また、価電子帯の一番上のバンドの曲率が小さくなることから、電子の有効質量が小さくなり、電気伝導度が向上する。
先に記載の侵入原子としてのBaの添加による効果と、置換原子としてのAlの添加による効果から、従来に見られない画期的な性能係数が得られる。
【0124】
本発明において、前記x1が7.2≦x1≦7.9の範囲、あるいは、前記x1が7.24≦x1≦7.85の範囲、前記x2が、31.2≦x2≦34.6の範囲、あるいは、前記x2が31.25≦x2≦34.55の範囲であることが優れた熱電特性を得る上で好ましい。
更に、前記Alの組成比を示すx3が、11.4≦x3≦14.8の範囲、あるいは、x3が11.45≦x3≦14.75の範囲であることが、優れた熱電特性を有する上で好ましい。
【0125】
本発明の製造方法は、先に記載の画期的な性能係数を有するクラスレート化合物を原料混合、溶解、粉砕、加圧焼結といった広く適用されている方法を実施して製造することができる。よって、画期的に優れた性能係数を示すクラスレート化合物を容易に製造することができる。
【0126】
本発明の製造方法は、粉砕物を水洗することで水溶性の不純物を容易に除去することができ、不純物を除去した状態の目的の組成の粉砕物を主体として加圧焼結することで、目的の組成を有する純度の高いクラスレート化合物を得ることができる。また、加圧焼結する場合にプラズマ焼結することで、圧密度の高い、優れた熱電性能のクラスレート化合物を合成できる。
【0127】
本発明の熱電モジュールは、n型の熱電素子の構成材料として先に記載の高効率熱電材料が適用されてなるので、従来では得られない優れた熱電効率の熱交換が可能であり、優れた熱電性能の熱電モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1はシリコン46クラスレートIのバンド構造を示すバンド図である。
【図2】 図2はシリコン46クラスレートIのバンド構造を示す部分拡大バンド図である。
【図3】 図3(a)はBa2@Si46のバンド構造を示すバンド図、図3(b)はBa6@Si46のバンド構造を示すバンド図である。
【図4】 図4(a)はBa2@Si46のバンド構造を示す部分拡大バンド図、図4(b)はBa6@Si46のバンド構造を示す部分拡大バンド図である。
【図5】 図5(a)は(Si30Al16)のバンド構造を示すバンド図、図5(b)はBa2@(Si30Al16)のバンド構造を示すバンド図である。
【図6】 図6(a)は(Si30Al16)のバンド構造を示す部分拡大バンド図、図6(b)はBa2@(Si30Al16)のバンド構造を示す部分拡大バンド図である。
【図7】 図7は本発明に係るシリコンクラスレート化合物のクラスレート格子と侵入原子と置換原子を含む結晶構造を示す模式図。
【図8】 図8は図7に示すシリコンクラスレート化合物の部分構成単位となるSiの12面体のSi20クラスタとSiの14面体のSi24クラスタを示す模式図。
【図9】 図9は本発明に係るシリコンクラスレート化合物の基本結晶格子構造を示す平面図。
【図10】 図10は本発明に係るシリコンクラスレート化合物の基本結晶格子の2aサイトにBa原子が侵入された構造を示す平面図。
【図11】 図11は本発明に係るシリコンクラスレート化合物の基本結晶格子の6dサイトにBa原子が侵入された構造を示す平面図。
【図12】 図12は本発明に係る熱電素子を用いて構成された熱電モジュールの一実施形態を示す断面図。
【図13】 図13は図12に示す熱電モジュールの使用形態例を示すもので、図13(a)は熱電反応を生じさせる場合の構成図、図13(b)は吸熱作用を起こす場合の構成図。
【図14】 図14は本発明に係る熱電モジュールを発電スタックに用いた例を示す断面図。
【図15】 従来のp型熱電材料の性能指数の絶対温度依存性を示す図。
【図16】 従来のn型熱電材料と本発明に係る熱電材料の性能指数の絶対温度依存性を示す図。
【図17】 図17は本発明に係る熱電モジュールを焼却炉に取り付けた状態を示す断面図。
【図18】 図18は本発明に係るシリコンクラスレート化合物とn-SiGeの熱伝導率の温度依存性を示す図である。
【図19】 図19は本発明に係るシリコンクラスレート化合物とn-SiGeのゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【図20】 図20は本発明に係るシリコンクラスレート化合物とn-SiGeの電気抵抗の温度依存性を示す図である。
【図21】 図21は本発明に係るシリコンクラスレート化合物とn-SiGeの無次元性能指数(ZT)の温度依存性を示す図である。
【符号の説明】
1…シリコンクラスレート化合物、2…Si20クラスタ、3…Si24クラスタ、30…熱電モジュール、33…p型熱電素子、34…n型熱電素子、35、36…電極板、37、38…接続配線、41、42…電気回路、50…発電スタック、52…熱電モジュール。

Claims (8)

  1. Siの原子を主体としてなるクラスレート格子と、該クラスレート格子の格子間隙の少なくとも一部に内包されたドーピング原子としてのBaと、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された置換原子としてのAlを主体としてなり、一般式Bax1@(Six2,Alx3)で示され、前記SiとAlの組成比を示すx2とx3について、x2+x3=46の関係を満足するとともに、前記Baの組成比を示すx1が、7.24≦x1≦7.85の範囲、前記x2が、31.25≦x2≦34.55の範囲、前記x3が、11.45≦x3≦14.75の範囲であり、Ba原子をドーピングさせたことにより生じる過剰電子がキャリアーとされたことを特徴とするn型クラスレート化合物。
  2. 900℃における無次元性能係数(ZT)が2.0以上であることを特徴とする請求項1に記載のn型クラスレート化合物。
  3. 請求項1または2に記載のクラスレート化合物が主体とされてなることを特徴とする高効率熱電材料。
  4. Siの原子を主体としてなるクラスレート格子と、該クラスレート格子の格子間隙の少なくとも一部に内包されたドーピング原子としてのBaと、前記クラスレート格子を構成する原子の少なくとも一部と置換された置換原子としてのAlを主体としてなり、一般式Bax1@(Six2,Alx3)で示され、前記SiとAlの組成比を示すx2とx3について、x2+x3=46の関係を満足するとともに、前記Baの組成比を示すx1が、7.24≦x1≦7.85の範囲、前記x2が、31.25≦x2≦34.55の範囲、前記x3が、11.45≦x3≦14.75の範囲であり、Ba原子をドーピングさせたことにより生じる過剰電子がキャリアーとされたn型クラスレート化合物を製造するに際し、
    前記クラスレート格子を構成するためのSiを含む原料と前記ドーピング原子としてのBaを含む原料と前記置換原子としてのAlを含む原料を所定の混合比になるように混合し、この混合物を融点以上の温度に保持後に徐冷してから粉砕し、粉砕物から不純物を洗浄により除去し、粉砕後の粉砕物で目的の組成比となっているものを主体に加圧焼結法により圧密して固化することを特徴とするn型クラスレート化合物の製造方法。
  5. 前記粉砕物から不純物を除去する際に水洗により水溶性の不純物を除去することを特徴とする請求項記載のn型クラスレート化合物の製造方法。
  6. 加圧焼結法として放電プラズマ焼結法を行うことを特徴とする請求項4又は5に記載のn型クラスレート化合物の製造方法。
  7. 900℃における無次元性能係数(ZT)が2.0以上であるn型クラスレート化合物を得ることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のn型クラスレート化合物の製造方法。
  8. p型の熱電素子とn型の熱電素子が電極を介して1対以上組み合わされ、両熱電素子の接続部分側に熱交換部が形成され、該接続部分に対向する側に電気回路が接続されてなり、前記n型の熱電素子の構成材料として請求項に記載の高効率熱電材料が適用されてなることを特徴とする熱電モジュール。
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