JP4804102B2 - 反応性置換基を有する生分解性重合体 - Google Patents
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従来の代表的な生分解性重合体に脂肪族ポリエステルがある。脂肪族ポリエステルは生体適合性があり、分解物が無害である点において優れている。
代表的な脂肪族ポリエステルであるポリカプロラクトンは、比較的早い生分解速度をもっており、さらに柔軟性(耐衝撃性)に優れているが、機械的強度に劣り、また融点が約60℃と低く成形性に劣るという課題がある。
ポリラクチドの成形性を改良するための技術としては、例えば、L−ラクチドをアゼライン酸・エチレングリコールとの共重合体とすることによって、L−ラクチドの重合体(融点181℃)に比べて融点が140℃に下がり、押し出し加工における粘度が低下して成形性が改良される技術が報告されている(特許文献1)。しかし、この公報には、生分解速度についての記載はなく、改善の余地があると考えられる。
また、ポリラクチドの生分解速度を改良するための技術としては、例えば、ε−カプロラクトンとオキセタンないしジメチルトリメチレンカーボネートからなるブロック共重合体が汚泥中ないし酵素を使った分解実験において易生分解性(分解速度に優れる特性)であることが報告されている(特許文献2)。しかし、この共重合体は、側鎖に官能基をもっていない。
一方、リシンやアスパラギン酸に基づくデプシペプチドとL−ラクチドとの共重合体が生分解性を示す報告もなされており、ラクチド共重合体の側鎖にアミノ基やカルボキシル基を導入すると生分解性を有することが示されており、更にこのような官能基を導入するために重合時にベンジル基等で保護し、重合後に脱保護する方法も開示されている(非特許文献1)。
また、セリンに基づくデプシペプチドとL−ラクチド又はε−カプロラクトンとの共重合体が生分解性を示す報告もなされており、側鎖に水酸基を導入すると生分解性を有することが示されている(非特許文献2)。
また、上記共重合体は、イソシアネートなどの架橋剤と反応させることにより水酸基同士が架橋した架橋構造をもつ共重合体とすることができる。
反応性置換基を保護したデプシペプチド共重合体は130〜150℃程度の融点を持ち、成形性に優れている。
デプシペプチドとラクチドとの割合を変えて製造することによって、生分解速度の異なる種々の共重合体が同じ成分から合成できる。
(1)反応性置換基を有するので、薬剤などの化学修飾が容易に行なえる生分解性重合体である。
(2)土壌・水中の微生物や酵素によって迅速に分解されるので、環境を汚染しないクリーンプラスチックとして利用できる。生体適合性に優れているので、体内で分解代謝されるバイオマテリアルとして利用できる。
(3)熱可塑性をもち、熱押しによる成形が容易である。
本発明の生分解性共重合体において、反応性置換基を有するデプシペプチドとは、開環した炭化水素側鎖にイオン性又は親水性の置換基を持つものをいう。また本発明において高分子量とは数平均分子量で2万以上の高分子化合物をいう。また、デプシペプチドを開環重合させた生分解性共重合体には、デプシペプチドのみの重合体(単独重合体)も合まれる。
機能性や生分解性を高めるために導入する反応性置換基は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、などがある。本発明の共重合体を得るための出発原料としてのデプシペプチドの単量体は、反応性置換基がある状態では重合反応が困難なので、まずベンジル基で保護された反応性置換基を持つデプシペプチドの単量体を合成する。この反応の一例を下式に示す。
デプシペプチドを構成するアミノ酸としては、上記のチロシンのほかにセリン、システインとすることもできる。
共重合体は、反応性置換基をもつデプシペプチドを開環重合させて得る。共重合させる相手物質には、分解によっても無害である脂肪族ポリエステルがあり、ラクチドやε−カプロラクトンが好ましい。重合反応の触媒としては、有機スズ化合物、有機アルミニウムと水、有機ランタノイド化合物の少なくとも一つ、又はこれらの組合わせが適用できる。
本発明の生分解性共重合体において、(L−LA/L−BTMO)の組成比、すなわち後述する(L−LA/L−TMO)の組成比は、用途・環境に応じて任意(100/0)〜(0/100)である。好ましくは(96/4)〜(70/30)である。L−BTMOが30モル%を超えると組成物が固くて脆くなりシート・フィルムなど有形の成形品が得られ難くなる。L−BTMOが4モル%未満であると、融点の低下が小さくなり、成形条件に制約を受けることがある。組成比は共重合体の仕込み割合で変更できる。
本発明の生分解性共重合体において、分子量(Mn)は、用途に応じて数千〜数十万の範囲が適切である。好ましくは2万〜20万である。分子量が2万未満であると粘度が小さくなり、20万を超えると粘度が高くなりすぎて、いずれも成形性が低下する。分子量の調整には、温度条件などを変更して行なう。
フェノール性水酸基を保護しているベンジル基は、トリフルオロ酢酸(TFA)にチオアニソールを共存させておくことにより、脱保護することができる。トリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)−チオアニソール/TFA系でも脱保護が可能である。
4.ミクロスフイアの合成
アミノ酸ユニット含有重合体は、機能性高分子の一つであるドラッグデリバリーシステム(DDS)等への応用が考えれる。この場合、細かな粒子形状が好都合である。一つの微粒子形状であるミクロスフィアは、脱保護して得られた重合体を有機溶媒に溶解し、超音波によって水に分散する(O/Wエマルジョン法)ことによって得ることができる。本発明の共重合体は、親水性基を有しているので、水中への分散が良好となり、サブミクロン単位の微粒子が製造可能である。
参考例1〜3、比較例1〜3
4−ベンジルオキシカプロラクトンの合成
ケトン基を一つ保護した1,4−シクロヘキサンジオンモノエチレンケタールをTHF中で水素化アルミニウムリチウムにより還元し、8−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカンを収率69%で得た。反応の進行はIRスペクトルの変化[1712cm−1(CO)→3411cm−1(OH)]によって確認した。
得られたアルコールをTHF中で水素化ナトリウムによってアルコキシドイオンを生成させ、ベンジルブロミドを4当量加え、室温で24時間反応させることによって、8−ベンジルオキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカンを収率93%で得た。この反応は二分子求核置換反応(SN2)機構であるため、反応基質であるベンジルブロミドを過剰量加えることによって反応性を向上させた。
次に保護されたケトンすなわちケタールを酸で一晩処理することによってケトンに戻した。4−ベンジルオキシシクロヘキサノンが収率83%で得られた。反応の進行はIRスペクトルのCO伸縮ピーク(1712cm−1)の出現により確認した。
最後に、ジクロロメタン中、メタクロロ過安息香酸(MCPBA)によって室温で16時間、酸素原子挿入反応(Baeyer−Vi11iger反応)を行ない、環状ケトンをラクトンに変換し、目的物質である4−ベンジルオキシカプロラクトン(4BOCL)を収率83%で得た。反応の進行はIRスペクトルのCO伸縮ピークのシフト[1712cm−1(CO)→1737cm−1(COO)]により確認した。
次に、上記で得られた4−ベンジルオキシカプロラクトン(4BOCL)の単独重合体(参考例3)及び4BOCLとL−ラクチド(L−LA)との共重合体[P(L−LA/4BOCL)]を合成し、共重合体の仕込み比率は、4BOCLが60%と50%の2水準で行なった(参考例1及び2)。合成条件は、アルゴン雰囲気下、触媒にはオクチル酸スズ[Sn(Oct)2]を全モノマー量に対して0.2モル%用い、オイルバス中120℃で15時間反応とした。
比較例として、L−ラクチド(L−LA)とε−カプロラクトン(CL)とを共重合して共重合体[P(L−LA/CL)]を得た(比較例2)。合成条件は、上記と同じ条件とした。
他の比較例として、市販の2種類の単独重合体:ポリラクチド[P(L−LA)]、及びポリカプロラクトン[P(CL)]も準備した(比較例1及び3)。
重合体の物性値の測定は、数平均分子量Mn、分子量分布の指標(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で行ない、ガラス転移点(Tg)及び融点(Tm)は、示差走査熱量測定法(DSC)で行なった。
上記の共重合体及び比較例の重合体の物性値を測定した結果を表1に示す。
次に、参考例1〜2及び比較例1〜3で得られた共重合体及び単独重合体の10mm×10mm×0.5mmのフィルムを、沖合い約30mにある海面網生簀内の水深1.5mに沈め、水温13℃〜28℃での海水による分解性を評価した。なお参考例1〜2の共重合体P(L−LA/4BOCL)64、P(L−LA/4BOCL)48は、下式で示す脱保護反応を行なって供試した。
また、参考例1〜2の脱保護された共重合体のP(L−LA/4HCL=36/64)とP(L−LA/4HCL=52/48)との生分解速度の差に見られるように、単量体のモル比を変えることにより共重合体の分解性を自由に変えることができる。従って、目的とする分解環境に合わせた分解速度を持つ共重合体が得られる。
さらに、参考例の脱保護された共重合体は、水酸基(官能性反応基)を有するため、官能性反応基を利用して薬剤などの化学修飾も簡便に行なうこともでき、新規な機能を持つ共重合体を容易に得ることができる。
(1)デプシペプチド単量体の合成
初めにチロシンの水酸基の保護を行なう。L−チロシン(L−Tyr)36g(0.2モル)と、硫酸銅(CuS04・5H20)25g(0.1モル)を1M NaOH水溶液200mLに懸濁して2時間攪拌した。メタノール1.2Lを加えた後、ベンジルブロミド(Bzl−Br)25mLと2M NaOH 100mLを数回に分けて加え、さらに3時間攪拌した。
得られた沈殿を濾取し、メタノール:水(1:1)で洗う。これを乳鉢内で1M HC1で何度もこねて脱銅する。生成物を濾取し、水、希NH4OH、アセトン、次いでエーテルで洗って真空乾燥した。精製は、80%酢酸から再結晶するとO−ベンジル−L−チロシン[Tyr(Bzl)]が針状晶として得られた。
続いて、上記生成物28.1g(0.069モル)をジメチルホルムアミド(DMF)150mLに溶解し、NaHCO34.99g(0.059モル)を加えて、60℃で24時間還流して分子内脱塩環化反応させ、デプシペプチド単量体(L−BTMO)を得た。DMFを完全に減圧留去した後、過剰量のクロロホルムを加え脱塩した。得られた黄色の生成物を酢酸エチル/トルエン混合溶媒で3回再結晶して、白色の環状デプシペプチド単量体(L−BTMO)を得た。生成はNMRで確認した。
L−BTMOの単独重合は、アルゴン雰囲気下、触媒にはオクチル酸スズ(II)[Sn(Oct)2]を全単量体量に対して0.2モル%用いた。L−BTMO及びSn(Oct)2(乾燥トルエン溶液)をシュレンクチューブ(重合容器)に加えた後、系内を真空にしてトルエンを留去、容器を封管し、オイルバス中160℃で48時間反応させた。生成物をクロロホルムに溶解し、メタノールで再沈して精製した。生成はNMRで確認した。
実施例として、色々に組成比を変えたL−LA/L−BTMO共重合体の合成を、アルゴン雰囲気下、触媒にはオクチル酸スズ(II)[Sn(Oct)2]を全単量体量に対して0.2モル%用いて行なった(実施例1〜3)。L−BTMO及びSn(Oct)2(乾燥トルエン溶液)をシュレンクチューブに加えた後、系内を真空にしてトルエンを留去、容器を封管し、オイルバル中130℃で8時間反応させた。
得られた共重合体の1H NMRにより解析した共重合体の単量体モル比、収率、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定結果[数平均分子量(Mn)、分子量分布の指標:重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]、示差走査熱量計を用いて測定したガラス転位点(Tg)及び融点(Tm)を表2に示す。また、比較例として、市販のポリラクチド[P(L−LA)]及びポリカブロラクトン[P(CL)]の特性も併せて表2に記載した(比較例1,3)。
副反応を抑制するために導入しておいたベンジル保護基の除去を行った。
0.5M チオアニソール/TFAを用いて、氷水中で1時間、室温で30分脱保護反応を行ない、目的のL−3−チロシル−D,L−6−メチル−2,5−モルホリンジオン共重合体[P(L−LA/L−TMO)]を得た。保護基の除去の確認はNMRにより行なった。
脱保護反応によって、幾分分子量は低下し、分子量分布が広がるが、融点、融解熱、ガラス転位点などの熱特性には殆ど変化が見られなかった。
生分解の速度を評価するために、タンパク質加水分解酵素として知られているプロティナーゼK(Tritirachium album由来、活性20IU和光純薬工業(株)製)を用いて酵素分解性を調べた。分解液作成用の水は蒸留後、さらにイオン交換した純水を使用した。
酵素をGoodの緩衝液(Tricine[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン];pH8.0)にサンプル管瓶内で溶解し、分解試験温度(37℃)に達するまで恒温槽中に放置した。各重合体サンプル(フィルム状)をポリエチレンシートメッシュ(網目約1×1mm)内に入れ、上記酵素分解液中で分解試験を開始した。分解はサンプル管瓶を往復振とう(100回/秒)しながら行った。分解性は所定の時間浸漬した重合体をイオン交換水でよく洗浄し、乾燥させた後、重量減少により評価した。評価結果を図2に示す。
図2に見られるように、実施例1、3のL−LA/L−TMO共重合体の酵素分解性も比較例1のP(L−LA)よりかなり優れている。
また、実施例1〜3のようにL−LA/L−TMO共重合体の組成比を変えることで、酵素分解性を変化させることも可能である。
イソシアネートによる架橋構造体の生成
実施例1の脱保護反応で得られた共重合体[P(L−LA/L−TMO)3.7]0.1gをクロロホルムに溶解後、ヘキサメチレンジイソシアネート(OCN(CH2)6NCO)0.01mLを加え、徐々に昇温・減圧操作を行ない70℃、50mmHgで1時間反応させた。得られた共重合体はクロロホルムに可溶であったが1H NMR測定の結果、ウレタン結合由来のピークの出現や、ベンゼン環ピークのシフトから図3に示すような3次元的な架橋構造ができていることが考えられる。
この架橋構造を持つ生分解性共重合体は、直鎖状の架橋剤を用いているため、追加のベンゼン環をもつ架橋構造にくらべてより分解性に優れ、薬剤等の含浸性に優れた機能性共重合体とすることができる。
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