以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、車両用車体の塗装工程を示す図である。車両用車体の塗装工程は、電着塗装工程(S10)と、中塗り塗装工程(S12)と、オーバースプレ領域決定工程(S14)と、加熱工程(S16)と、内板部上塗りベース塗装工程(S18)と、外板部上塗りベース塗装工程(S20)と、上塗りクリア塗装工程(S22)と、焼付工程(S24)とを備えている。
電着塗装工程(S10)は、下塗り塗装として、車両用車体に電着塗装する工程である。電着塗装は、車両用車体と塗料との密着性を向上させるためや車両用車体の防錆等のため行われる。
車両用車体には、自動車の車体だけでなく、バス等の車体も含まれる。勿論、車両用車体は、上記車体等に限定されることはない。車両用車体の材料には、鉄鋼材料、アルミニウム材料、マグネシウム材料等の金属材料等が使用される。そして、鉄鋼材料には、例えば、高強度冷間圧延鋼板や高強度熱間圧延鋼板の高張力鋼板等を用いることができる。勿論、他の条件次第では、車両用車体の材料は、金属材料に限定されることはない。
また、車両用車体には、電着塗装される前に、防錆油や潤滑油等を除去するための脱脂処理や化成処理等の前処理を行なうことができる。
電着塗装は、車両用車体側を陰極にして電流を流すカチオン電着塗装により行うことが好ましい。勿論、他の条件次第では、車両用車体側を陽極にして電流を流すアニオン電着塗装により行ってもよい。そして、車両用車体は、例えば、エポキシ樹脂等の水溶性電着塗料等が溜められた電着塗料タンクの中に浸漬され、車両用車体と電着塗料との間に電気を流すことにより電着塗装される。電着塗料タンクから引き上げられた車両用車体は、乾燥炉等で乾燥され焼付けられる。
中塗り塗装工程(S12)は、電着塗装された車両用車体に、中塗り樹脂塗料を塗装する工程である。中塗り塗装は、電着塗装された車両用車体における表面をより平滑にする等のために行われる。
中塗り樹脂塗料には、一般的に市販され使用されている水性中塗り樹脂塗料等を用いることができる。そして、中塗り樹脂塗料は、基体樹脂と、架橋剤または硬化剤と、水とを含んで構成される。勿論、中塗り樹脂塗料は、上記成分に加えて、他の成分である添加剤等を含むことができる。
中塗り樹脂塗料の基体樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。そして、中塗り樹脂塗料の架橋剤または硬化剤には、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ブロックポリイソシアネート樹脂、カルボキシル基含有化合物等を用いることができる。勿論、中塗り樹脂塗料の基体樹脂や架橋剤等は、上記材料に限定されることはない。
また、中塗り樹脂塗料の形態としては、例えば、エマルジョンタイプやディスパージョンタイプ等を用いることができる。勿論、中塗り樹脂塗料の形態は、上記形態に限定されることはない。
中塗り樹脂塗料は、例えば、静電塗装機等を用いて電着塗装された車両用車体に塗装することができる。静電塗装は、電着塗装された車両用車体を陽極とし、静電塗装機に構成されるスプレーガン等を陰極として、両極間に高電圧を形成した後、霧化させた中塗り樹脂塗料の粒子にマイナスの電荷を与えて、電着塗装された車両用車体に中塗り樹脂塗料を塗装する。勿論、中塗り塗装は、静電塗装に限定されることはない。
車両用車体に中塗り塗装した後に、中塗り塗装された車両用車体をプリヒートしてもよい。プリヒートにより、中塗り樹脂塗料に含まれる水分等を除去し、中塗り樹脂塗料を半硬化させることができる。プリヒートは、赤外線照射や温風等により、例えば、80℃で中塗り塗装された車両用車体を加熱して行うことができる。
オーバースプレ領域決定工程(S14)は、中塗り塗装工程(S12)と後述する内板部上塗りベース塗装工程(S18)との間に設けられ、内板部上塗りベース塗装工程(S18)で光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料がオーバースプレされる外板部のオーバースプレ領域を決める工程である。
外板部のオーバースプレ領域とは、上述したように、例えば、車両用車体の内板部である車体ドアの内側を上塗りベース塗装するときに、光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料が車両用車体の外板部である車体ドアの外側やボンネットフードの外側にオーバースプレされる領域である。勿論、外板部のオーバースプレ領域は、車体ドアやボンネットフードに限定されることはない。
外板部のオーバースプレ領域は、例えば、3次元CAD(Computer Aided Design)手段により、光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料がオーバースプレされる外板部のオーバースプレ領域を決めることができる。そして、外板部のオーバースプレ領域を決めるためには、車両用車体の配置、静電塗装機に構成されるスプレーガン等のノズル口径や断面積、車両用車体とスプレーガンとの距離、光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料の流速や流量、温度や湿度等が考慮される。また、外板部のオーバースプレ領域は、実験により決められてもよい。勿論、他の条件次第では、外板部のオーバースプレ領域は、上記決定方法以外の方法により決められてもよい。
ここで、オーバースプレ領域決定工程(S14)により決められた外板部のオーバースプレ領域におけるデータは、データベースとして蓄積されることが好ましい。外板部のオーバースプレ領域におけるデータをデータベースとして蓄積しておくことにより、外板部のオーバースプレ領域を決めるための時間を短縮して、生産性を向上させることができるからである。
加熱工程(S16)は、中塗り塗装工程(S12)と後述する内板部上塗りベース塗装工程(S18)との間に設けられ、オーバースプレ領域決定工程(S14)により決められた外板部のオーバースプレ領域を加熱して、オーバースプレ領域の中塗り樹脂塗料を硬化する工程である。予め、外板部のオーバースプレ領域を加熱して、オーバースプレ領域の中塗り樹脂塗料を硬化させることにより、オーバースプレ領域における中塗り樹脂塗膜の膨潤を抑えて、上塗りベース樹脂塗料に含まれる光輝材の配向をより均一にすることができる。
外板部のオーバースプレ領域を加熱する加熱装置は、外板部のオーバースプレ領域を局所的に加熱できるように、例えば、ホットガン、ドライヤー、赤外線ヒータ等を用いることができる。また、外板部のオーバースプレ領域を加熱する加熱装置は、自動で外板部のオーバースプレ領域を加熱することができるようしてもよい。勿論、他の条件次第では、外板部のオーバースプレ領域を加熱する加熱装置は、上記加熱装置に限定されることはない。
外板部のオーバースプレ領域は、加熱装置により120℃以上に加熱されることが好ましい。そして、外板部のオーバースプレ領域は、加熱装置により140℃に加熱されることが更に好ましい。外板部のオーバースプレ領域が120℃以上に加熱されるのは、加熱温度が120℃よりも低い温度の場合には、外板部のオーバースプレ領域の中塗り樹脂塗料が硬化しない場合や硬化時間が長くなる場合があるからできる。勿論、他の条件次第では、外板部のオーバースプレ領域の加熱温度は、上記加熱温度に限定されることはない。
外板部のオーバースプレ領域は、120℃以上の加熱温度により、1分間以上加熱されることが好ましい。そして、外板部のオーバースプレ領域は、3分間以上加熱装置により加熱されることが更に好ましい。外板部のオーバースプレ領域が120℃以上の加熱温度により1分間以上加熱されるのは、1分間より短い加熱時間の場合には、外板部のオーバースプレ領域の中塗り樹脂塗料が硬化しない場合があるからである。勿論、他の条件次第では、外板部のオーバースプレ領域の加熱時間は、上記加熱時間に限定されることはない。
また、外板部のオーバースプレ領域における加熱温度と加熱時間とは、中塗り樹脂塗料に使用される基体樹脂の種類、架橋剤や硬化剤の種類等により定めることができる。
内板部上塗りベース塗装工程(S18)は、中塗り塗装された車両用車体の内板部に、光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料を塗装する工程である。
上塗りベース樹脂塗料には、一般的に市販され使用されている水性上塗りベース樹脂塗料等を用いることができる。上塗りベース樹脂塗料は、基体樹脂と、架橋剤または硬化剤と、顔料である光輝材と、水とを含んで構成される。勿論、上塗りベース樹脂塗料は、上記成分に加えて、他の成分である添加剤等を含むことができる。
上塗りベース樹脂塗料の基体樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。そして、架橋剤または硬化剤には、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ブロックポリイソシアネート樹脂、カルボキシル基含有化合物等を用いることができる。勿論、上塗りベース樹脂塗料の基体樹脂や架橋剤等は、上記材料に限定されることはない。
また、上塗りベース樹脂塗料の形態としては、例えば、エマルジョンタイプやディスパージョンタイプ等が用いられる。勿論、上塗りベース樹脂塗料の形態は、上記形態に限定されることはない。
上塗りベース樹脂塗料には、車両用車体の意匠効果等のために顔料である光輝材が含まれる。光輝材には、アルミニウムフレーク、金属酸化物被覆シリカフレーク、グラファイト、干渉マイカ、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、金属めっきガラスフレーク、金属酸化物ガラスフレーク、ホログラム顔料等を使用することができる。勿論、他の条件次第では、光輝材は、上記材料に限定されることはない。
光輝材は、上塗りベース樹脂塗料に、5PWC(Pigment Weight Concentration;顔料重量濃度)以上25PWC以下含有されることが好ましい。光輝材の含有量が上記範囲の場合に、上塗りベース樹脂塗膜中における光輝材の配向をより均一に制御することができるからである。勿論、他の条件次第では、光輝材の含有率は、上記の範囲に限定されることはない。
内板部上塗りベース塗装は、上述した静電塗装機等により行うことができる。勿論、他の条件次第では、内板部上塗りベース塗装は、上記塗装方法に限定されることはない。
外板部上塗りベース塗装工程(S20)は、内板部に上塗りベース塗装された車両用車体の外板部に、光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料を塗装する工程である。外板部に上塗りベース塗装される上塗りベース樹脂塗料は、内板部上塗りベース塗装工程(S18)で塗装される上記上塗りベース樹脂塗料を使用することができる。また、上塗りベース樹脂塗料に含まれる光輝材についても、上述した光輝材を使用することができる。勿論、他の条件次第では、上塗りベース樹脂塗料と光輝材とは、内板部上塗りベース塗装工程(S18)と外板部上塗りベース塗装工程(S20)とで異なる材料を使用してもよい。
外板部上塗りベース塗装は、上述した静電塗装機等により、内板部に上塗りベース塗装された車両用車体の外板部に、光輝材を含む上塗りベース樹脂塗料を塗装することができる。勿論、他の条件次第では、外板部上塗りベース塗装は、上記塗装方法に限定されることはない。
車両用車体に上塗りベース塗装した後に、上塗りベース塗装された車両用車体をプリヒートしてもよい。プリヒートにより、上塗りベース樹脂塗料に含まれる水分等を除去し、上塗りベース樹脂塗料を半硬化させることができる。プリヒートは、上述したように、赤外線照射や温風等により、例えば、80℃で上塗りベース塗装された車両用車体を加熱して行うことができる。
図2は、上塗りベース塗装された車両用車体10におけるオーバースプレ領域の断面を示す模式図である。車両用車体12に電着塗膜14と、中塗り樹脂塗膜16とが形成されている。図2に示すように、オーバースプレ領域における中塗り樹脂塗膜16は硬化しているので中塗り樹脂塗膜16の膨潤が抑制され、上塗りベース樹脂塗膜18に含まれる光輝材20の配向をより均一に制御することができる。
上塗りクリア塗装工程(S22)は、上塗りベース塗装された車両用車体に上塗りクリア樹脂塗料を塗装する工程である。上塗りクリア塗装は、車両用車体における撥水性向上等のために行われる。
上塗りクリア樹脂塗料は、一般に市販され使用されている溶剤系上塗りクリア樹脂塗料または水性上塗りクリア樹脂塗料等を用いることができる。上塗りクリア樹脂塗料は、基体樹脂と、架橋剤または硬化剤と、溶剤または水とを含んで構成される。勿論、上塗りクリア樹脂塗料は、上記成分に加えて、他の成分である添加剤等を含むことができる。
上塗りクリア樹脂塗料の基体樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。そして、上塗りクリア樹脂塗料の架橋剤または硬化剤には、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ブロックポリイソシアネート樹脂、カルボキシル基含有化合物等を用いることができる。勿論、上塗りクリア樹脂塗料の基体樹脂や架橋剤等は、上記材料に限定されることはない。
上塗りクリア塗装は、上述した静電塗装機等により行うことができる。勿論、他の条件次第では、上塗りクリア塗装は、上記塗装方法に限定されることはない。
焼付工程(S24)は、上塗りクリア塗装された車両用車体を加熱して、中塗り樹脂塗膜と、上塗りベース樹脂塗膜と、上塗りクリア樹脂塗膜とを硬化させる工程である。上塗りクリア塗装された車両用車体の加熱には、一般的に、車両用車体の塗装に用いられる乾燥炉等を使用することができる。そして、上塗りクリア塗装された車両用車体は、上塗りクリア樹脂塗料等を硬化させるために、例えば、140℃に加熱される。以上により、車両用車体の塗装が完了する。
上記構成によれば、外板部のオーバースプレ領域における中塗り樹脂塗料を硬化させることができるので、外板部のオーバースプレ領域における中塗り樹脂塗膜の膨潤を抑えて、光輝材の配向をより均一に制御することができる。それにより、塗装された車両用車体において、外板部のオーバースプレ領域における色違いによる仕上がり品質不良を抑制することができる。
上記構成によれば、中塗り塗装工程と内板部上塗りベース塗装工程との間に、中塗り塗装された車両用車体全体を焼付けて、全ての中塗り樹脂塗膜を硬化させる工程を有しないので、中塗り樹脂塗料を焼付ける乾燥炉等の中塗り炉が不要となり、塗装工程長やランニングコスト等を削減することができる。
上記構成によれば、中塗り樹脂塗料、上塗りベース樹脂塗料、上塗りクリア樹脂塗料等に水性樹脂塗料を用いることにより、VOC(Volatile Organic Compound)である揮発有機溶剤物質を削減することができる。
実施例1における車両用車体の塗装方法について説明する。図3は、実施例1における車両用車体の塗装工程を示す図である。
電着塗装された車両用車体に、水性中塗り樹脂塗料を中塗り塗装した。水性中塗り樹脂塗料には、ポリエステル樹脂系の樹脂塗料を使用した。そして、中塗り塗装された車両用車体を80℃でプリヒートすることにより、水性中塗り樹脂塗膜に含まれる水分を除去し、水性中塗り樹脂塗膜を半硬化した。水性中塗り樹脂塗膜を半硬化した後、外板部のオーバースプレ領域を決めて、オーバースプレ領域を加熱した。ここで、オーバースプレ領域の加熱条件は、120℃で1分間とした。
そして、光輝材を含む水性上塗りベース樹脂塗料を車両用車体の内板部に上塗りベース塗装した後、外板部に光輝材を含む水性上塗りベース樹脂塗料を上塗りベース塗装した。水性上塗りベース樹脂塗料には、アクリル樹脂系塗料を使用した。また、水性上塗りベース樹脂塗料に含まれる光輝材には、アルミニウムフレークを用いた。ここで、アルミニウムフレークの含有率は、5PWC以上25PWC以下とした。外板部を上塗りベース塗装した後、上塗りベース塗装された車両用車体を80℃でプリヒートすることにより、水性上塗りベース樹脂塗料に含まれる水分を除去した。
上塗りベース塗装された車両用車体に、上塗りクリア樹脂塗料を上塗りクリア塗装した。上塗りクリア樹脂塗料には、アクリル樹脂系塗料を使用した。そして、上塗りクリア塗装された車両用車体を、上塗り炉にて140℃で加熱することにより中塗り樹脂塗膜、上塗りベース樹脂塗膜及び上塗りクリア樹脂塗膜の焼付を行った。
実施例2における車両用車体の塗装方法について説明する。実施例2における車両用車体の塗装工程は、図3に示す実施例1における車両用車体の塗装工程と同様の工程により行った。但し、実施例2における車両用車体の塗装方法では、オーバースプレ領域の加熱条件は、140℃で5分間とした。
比較例1における車両用車体の塗装方法について説明する。図4は、比較例1における車両用車体の塗装工程を示す図である。
電着塗装された車両用車体に、溶剤系中塗り樹脂塗料を中塗り塗装した。溶剤系中塗り樹脂塗料には、ポリエステル樹脂系塗料を使用した。そして、中塗り塗装された車両用車体を中塗り炉にて140℃で加熱して、溶剤系中塗り樹脂塗料を硬化した。そして、光輝材を含む水性上塗りベース樹脂塗料を車両用車体の内板部に上塗りベース塗装した後、車両用車体の外板部に光輝材を含む水性上塗りベース樹脂塗料を上塗りベース塗装した。水性上塗りベース樹脂塗料には、実施例1と同様に、アクリル樹脂系塗料を使用した。また、光輝材には、実施例1と同様に、アルミニウムフレークを用いた。
外板部を上塗りベース塗装した後、上塗りベース塗装された車両用車体に、上塗りクリア樹脂塗料を上塗りクリア塗装した。上塗りクリア樹脂塗料には、実施例1と同様に、アクリル樹脂系塗料を使用した。そして、上塗りクリア塗装された車両用車体を、上塗り炉にて140℃で加熱することにより上塗りベース樹脂塗膜及び上塗りクリア樹脂塗膜の焼付を行った。
比較例2における車両用車体の塗装方法について説明する。図5は、比較例2における車両用車体の塗装工程を示す図である。
電着塗装された車両用車体に、水性中塗り樹脂塗料を中塗り塗装した。水性中塗り樹脂塗料には、実施例1と同様に、ポリエステル樹脂系塗料を使用した。そして、中塗り塗装された車両用車体を中塗り炉にて140℃で加熱して、水性中塗り樹脂塗膜を硬化した。その後、実施例1と同様に、上塗りベース塗装、上塗りクリア塗装した後、上塗りクリア塗装された車両用車体を上塗り炉にて140℃で加熱することにより、上塗りベース樹脂塗膜及び上塗りクリア樹脂塗膜の焼付を行った。
比較例3における車両用車体の塗装方法について説明する。図6は、比較例3における車両用車体の塗装工程を示す図である。
電着塗装された車両用車体に、水性中塗り樹脂塗料を中塗り塗装した。水性中塗り樹脂塗料には、実施例1と同様に、ポリエステル樹脂系塗料を使用した。そして、中塗り塗装された車両用車体は、80℃でプリヒートされ、水性中塗り樹脂塗膜を半硬化した。その後、実施例1と同様に、上塗りベース塗装、上塗りクリア塗装した後、上塗りクリア塗装された車両用車体を上塗り炉にて140℃で加熱して、中塗り樹脂塗膜、上塗りベース樹脂塗膜及び上塗りクリア樹脂塗膜の焼付を行った。
比較例4における車両用車体の塗装方法について説明する。比較例4における車両用車体の塗装工程は、図3に示す実施例1における車両用車体の塗装工程と同様の工程により行った。但し、比較例4における車両用車体の塗装方法では、オーバースプレ領域の加熱条件は、110℃で10分間とした。
比較例5における車両用車体の塗装方法について説明する。比較例5における車両用車体の塗装工程は、図3に示す実施例1における車両用車体の塗装工程と同様の工程により行った。但し、比較例5における車両用車体の塗装方法では、オーバースプレ領域の加熱条件は、140℃で0.5分間とした。
次に、塗装された車両用車体の塗装評価方法について説明する。図7は、塗装された車両用車体の塗装評価方法と塗装評価結果とを示す図である。塗装評価方法は、揮発有機溶剤物質(VOC)量と、工程長及びランニングコストと、オーバースプレ領域である内板ダスト部の色違いにより行った。
揮発有機溶剤物質(VOC)量は、数1に示す式により、単位体積当たりの質量を測定することにより評価した。ここで、ρpは塗料比重、NV(Non Volatile)は固形分、Wは塗料中の水分量(実測値)を示している。そして、各々の塗装方法を比較することにより、揮発有機溶剤物質(VOC)量が小さい車両用車体の塗装方法を○として、揮発有機溶剤物質(VOC)量が大きい車両用車体の塗装方法を×とした。
工程長及びランニングコストは、図7に示す式により、塗装ラインの長さ(m)と中塗り炉廃止による保守・管理費用削減(円/年)との比である工程長/ランニングコストにより評価した。塗装ラインの長さがより短いほど、車両の生産性をより向上させることができる。そして、中塗り炉廃止による保守・管理費用削減がより大きいほど、車両の製造コストをより低下させることができる。そのため、各々の塗装方法を比較することにより、工程長/ランニングコストの比が小さい車両用車体の塗装方法を○として、工程長/ランニングコストの比が大きい車両用車体の塗装方法を×とした。
内板ダスト部の色違いは、目視または色差ΔEにより評価した。なお、色差ΔEは、一般的に、色の測定に使用されている色差計により測定した。そして、内板ダスト部の色違いが生じない車両用車体の塗装方法を○とし、内板ダスト部の色違いが生じた車両用車体の塗装方法を×とした。
揮発有機溶剤物質(VOC)量に関する評価では、比較例1の塗装方法では、中塗り樹脂塗料に溶剤系樹脂塗料を使用したため、揮発有機溶剤物質(VOC)量が他の塗装方法における揮発有機溶剤物質(VOC)量よりも大きくなった。
工程長及びランニングコストに関する評価では、比較例1及び比較例2の塗装方法では、中塗り炉を使用するため、工程長が他の中塗り炉を使用しない塗装方法より長くなり、中塗り炉の保守・管理費用を要するので、工程長/ランニングコストの比が他の塗装方法よりも小さくなった。
内板ダスト部の色違いに関する評価では、まず、比較例1及び比較例2の塗装方法では、中塗り樹脂塗膜の全体を硬化させているため、内板ダスト部の色違いは生じなかった。そして、実施例1及び実施例2の塗装方法は、内板ダスト部の中塗り樹脂塗膜を硬化させているため、内板ダスト部の色違いは生じなかった。これに対して、比較例3、比較例4及び比較例5の塗装方法では、内板ダスト部の色違いが生じた。比較例3、比較例4及び比較例5の塗装方法では、内板ダスト部の中塗り樹脂塗膜が硬化していないために、中塗り樹脂塗膜の膨潤が生じて、上塗りベース樹脂塗膜に含まれる光輝材の配向が変化したこと等によるからである。
上記塗装評価結果によれば、実施例1及び実施例2における車両用車体の塗装方法が、揮発有機溶剤物質(VOC)量、工程長及びランニングコスト及び内板ダスト部の色違いに関する点で優れていることがわかった。
10,30 上塗りベース塗装された車両用車体、12,32 車両用車体、14,34 電着塗膜、16,36 中塗り樹脂塗膜、18,38 上塗りベース樹脂塗膜、20,40 光輝材。