JP4799775B2 - 新規タンパク質およびそのdna - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒト脂肪組織由来の脂質分解酵素タンパク質またはその塩、およびそのタンパク質をコードするDNAに関する。
【0002】
【従来の技術】
食餌由来脂質の消化や吸収、生体内脂質の分解や蓄積あるいは有害化合物の解毒分解等において、リパーゼおよびエステラーゼ類が重要な役割を果たしていることは良く知られている。中でも、脂肪組織をはじめとして、精巣、心臓、骨格筋、膵臓、大動脈等の組織で広範囲に発現が認められるホルモン感受性リパーゼ(Hormone-sensitive lipase、以下HSLと略す)は、体内の脂肪蓄積とエネルギー消費、糖代謝あるいは動脈硬化病変形成の制御因子として注目されてきた(Holm, C and Osterlund, T. Methods in Molecular Biology , Vol. 109, pp109-121)。
すなわち、HSLは各組織における中性脂肪(特にトリグリセリド)分解の律速酵素として、筋組織や褐色脂肪細胞におけるエネルギー産生(Himms-Hagen, J. Prog. Lipid Res. 28, 67-115 (1989))や、核内受容体PPARsのリガンド産生(Tontonoz, P.et al Cell 79, 1147-1156 (1994))に利用される脂肪酸の供給量を調節しているだけでなく、膵β細胞におけるインスリン分泌の調節(Mulder, H et al Diabetes 48, 228-232 (1999))にも関与していることが報告されている。また、大動脈やマクロファージにおいては、細胞内コレステリルエステルの分解を担う中性コレステリルエステルハイドロラーゼ(Neutral cholesterylester hydrolase、以下NCEHと略す)として、粥状動脈硬化巣の形成および退縮に関与している可能性が示唆されてきた(Escarry, J-L et al Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18, 991-998)。しかしながら、大須賀らが作製したHSL欠損マウスにおいては、野生型マウスとの間に体重の差異が認められないだけでなく、脂肪細胞中のホルモン感受性トリグリセリド分解活性やマクロファージ中のNCEH活性が有意に残存するとともに、寒冷下での体熱産生にも変化が認められていない(Osuga, J. et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 787-792 (2000))。したがって、従来よりHSLが関与するとされていた種々の脂質分解過程には、これとは別のHSL様リパーゼあるいはエステラーゼが関与していることが強く示唆されるとともに、そのようなリパーゼあるいはエステラーゼは、脂肪細胞、筋組織における脂肪酸産生やマクロファージの泡沫化に関与することで、動脈硬化症および高脂血症、糖尿病、肥満症の発症において重要な役割を果たしている可能性が予想される。
これまで脂肪組織、大動脈あるいはマクロファージでの発現が報告されている中性脂質分解酵素としては、胆汁酸塩活性化リパーゼ(Li, F. and Hui, D. Y. J. Biol. Chem. 272, 28666-28671 (1997))、リポ蛋白リパーゼ(Mattsson, L. et al J. Clin. Invest. 92, 1759-1765 (1993))、単球/マクロファージセリンエステラーゼ−1(Zschunke, F. et al Blood 78, 506-512 (1991))、内皮由来リパーゼ(Jaye, M. et al Nature Genet. 21, 424-428 (1999))、ライソゾーム酸性リパーゼ(Sakurada, T. et al., Biochim. Biophys. Acta 424, 204-212 (1976))などが知られているが、これらは組織・細胞内における局在性や基質特異性、活性至適pH、ホルモン感受性の有無、マクロファージ泡沫化過程での活性変動のパターンなどからいずれもHSLの機能を代替し得るものとは考えにくく、脂肪細胞およびマクロファージ由来の新たなリパーゼあるいはエステラーゼの単離が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、エステラーゼ活性、中でもトリグリセリド分解活性などを有する新規なタンパク質、部分ペプチドまたはそれらの塩、前記タンパク質をコードするDNA、組換えベクター、形質転換体、前記タンパク質の製造法、前記タンパク質またはDNAを含有する医薬、前記タンパク質に対する抗体、前記タンパク質のエステラーゼ活性を促進する活性を有する化合物のスクリーニング方法/スクリーニング用キット、前記スクリーニング方法で得られる化合物、前記化合物を含有する医薬などを提供する。
【0004】
【課題を解決するための手段】
HSLおよびその類縁リパーゼあるいはエステラーゼに特徴的なアミノ酸配列として、GXSXG配列とその上流に位置するHG(あるいはHGG、HGGG)配列が知られている(Harri, H et al Biochim. Biophys. Acta 1210, 249-253 (1994))。本発明者らはこれらの配列に注目し、脂肪組織あるいはマクロファージで発現が認められる遺伝子を精力的に探索した結果、本発明に述べるような新規な脂質分解酵素遺伝子を見出した。本遺伝子は脂肪組織およびマクロファージ、骨格筋において発現が認められることから、HSLに代わる中性脂質分解酵素として機能することが期待される。また、その遺伝子の発現を改変した動物は動脈硬化症や高脂血症、肥満症、糖尿病の新規なモデル動物として有用であるとともに、本遺伝子の発現および本遺伝子がコードするタンパク質の活性に影響する薬剤は、新規な機序に基づく動脈硬化症や高脂血症、肥満症、糖尿病治療薬として有用である。
本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質またはその塩、
(2)配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列が、配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と約75%以上の相同性を有するアミノ酸配列である上記(1)記載のタンパク質またはその塩、
(3)配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有する上記(1)記載のタンパク質またはその塩、
(4)配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含有する上記(1)記載のタンパク質またはその塩、
(5)配列番号:12で表されるアミノ酸配列を含有する上記(1)記載のタンパク質またはその塩、
(6)上記(1)記載のタンパク質の部分ペプチドまたはその塩、
(7)エステラーゼ活性を有する上記(1)〜(5)記載のタンパク質もしくはその塩または上記(6)記載の部分ペプチドもしくはその塩、
(8)トリグリセリド分解活性を有する上記(1)〜(5)記載のタンパク質もしくはその塩または上記(6)記載の部分ペプチドもしくはその塩、
(9)上記(1)記載のタンパク質をコードする塩基配列を含有するポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド、
(10)DNAである上記(9)記載のポリヌクレオチド、
(11)配列番号:2または配列番号:8で表される塩基配列を含有する上記(10)記載のDNA、
(12)配列番号:11で表される塩基配列を含有する上記(10)記載のDNA、
(13)上記(9)記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、
(14)上記(13)記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体、
(15)上記(14)記載の形質転換体を培養し、上記(1)記載のタンパク質を生成、蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする上記(1)記載のタンパク質またはその塩の製造法、
(16)上記(1)記載のタンパク質またはその塩を含有する医薬、
(17)上記(9)記載のポリヌクレオチドを含有する医薬、
(18)動脈硬化症、高脂血症、肥満症または糖尿病の予防・治療剤である上記(16または上記(17)記載の医薬、
(19)上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩に対する抗体、
(20)上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩を用いることを特徴とする、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法、
(21)上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩を含有する、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング用キット、
(22)上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩、
(23)上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を促進する活性を有する化合物またはその塩を含有する医薬、
(24)動脈硬化症、高脂血症、肥満症または糖尿病の予防・治療剤である上記(23)記載の医薬、
(25)上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を阻害する活性を有する化合物またはその塩を含有する医薬、
(26)肥満症の予防・治療剤である上記(23)記載の医薬、
(27)上記(19)記載の抗体を含有する診断剤、
(28)動脈硬化症、高脂血症、肥満症または糖尿病の診断剤である上記(27)記載の剤、
(29)哺乳動物に対して、上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を促進する活性を有する化合物またはその塩の有効量を投与することを特徴とする動脈硬化症、高脂血症、肥満症または糖尿病の予防・治療方法、
(30)哺乳動物に対して、上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を阻害する活性を有する化合物またはその塩の有効量を投与することを特徴とする肥満症の予防・治療方法、
(31)動脈硬化症、高脂血症、肥満症または糖尿病の予防・治療剤を製造するための上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を促進する活性を有する化合物またはその塩の使用、
(32)肥満症の予防・治療剤を製造するための上記(20)記載のスクリーニング方法または上記(21)記載のスクリーニング用キットを用いて得られうる、上記(1)記載のタンパク質もしくは上記(6)記載の部分ペプチドまたはそれらの塩のエステラーゼ活性を阻害する活性を有する化合物またはその塩の使用、などを提供する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質(以下、本発明のタンパク質と称する)は、温血動物(例えば、ヒト、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の細胞(例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など)もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管(例、大動脈)、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋など、または血球系の細胞もしくはその培養細胞(例えば、MEL、M1、CTLL−2、HT−2、WEHI−3、HL−60、JOSK−1、K562、ML−1、MOLT−3、MOLT−4、MOLT−10、CCRF−CEM、TALL−1、Jurkat、CCRT−HSB−2、KE−37、SKW−3、HUT−78、HUT−102、H9、U937、THP−1、HEL、JK−1、CMK、KO−812、MEG−01など)に由来するタンパク質であってもよく、合成タンパク質であってもよい。
【0007】
配列番号:7で表されるアミノ酸配列は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列の第186番目のSerがAlaに置換されたものである。
配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、それぞれ配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と約55%以上、好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上、より好ましくは約75%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。
本発明の配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質としては、例えば、前記の配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。
具体的には、配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質としては、配列番号:12で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質などが挙げられる。
本明細書中で述べるエステラーゼ活性とは、カルボン酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステルの加水分解に関与する活性を意味し、望ましくはカルボン酸エステル、特に脂肪酸エステル類の加水分解に関与する活性を意味する。基質とするカルボン酸エステル体としては、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールのような中性脂肪類や、コレステリルエステルのようなステロールエステル類などの天然基質のほか、p−ニトロフェニルブチル酸エステルなどの合成基質であっても良い。また、エステル結合に供されるアシル基は炭素数が2つ以上のものであれば良く、蛍光あるいは放射活性を有していても良い。
エステラーゼ活性の測定は、公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、後述するスクリーニング方法に従って測定することができる。
【0008】
また、本発明のタンパク質としては、例えば、▲1▼配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、▲2▼配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、▲3▼配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、▲4▼配列番号:1または配列番号:7で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または▲5▼それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質などのいわゆるムテインも含まれる。
また、例えば、▲1▼配列番号:12で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、▲2▼配列番号:12で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、▲3▼配列番号:12で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、▲4▼配列番号:12で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または▲5▼それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質などのいわゆるムテインも含まれる。
【0009】
本明細書におけるタンパク質は、ペプチド表記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質をはじめとする、本発明のタンパク質は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO-)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
本発明のタンパク質がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明のタンパク質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明のタンパク質には、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。
【0010】
本発明のタンパク質の部分ペプチドとしては、前記した本発明のタンパク質の部分ペプチドであって、好ましくは、前記した本発明のタンパク質と同様の活性(例、エステラーゼ活性、好ましくはトリグリセリド分解活性)を有するものであればいずれのものでもよい。例えば、本発明のタンパク質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは70個以上、より好ましくは100個以上、最も好ましくは200個以上のアミノ酸配列を有し、エステラーゼ活性を有するペプチドなどが用いられる。
また、本発明のタンパク質の部分ペプチドは、そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失し、または、そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加し、または、そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入され、または、そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個、さらに好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよい。
本発明のタンパク質の部分ペプチドとしては、
(1)配列番号:1で表されるアミノ酸配列において例えば第184番目〜198番目、第204番目〜217番目のアミノ酸配列、
(2)配列番号:7で表されるアミノ酸配列において例えば第184番目〜198番目、第204番目〜217番目のアミノ酸配列、および
(3)配列番号:12で表されるアミノ酸配列において例えば第116番目〜130番目、第204番目〜217番目のアミノ酸配列などが好ましい。
本発明の部分ペプチドは抗体作成のための抗原として用いることができるので、必ずしもエステラーゼ活性を有する必要はない。抗体作成のための抗原として用いる部分ペプチドとしては、上記の(1)〜(3)などが好ましい。
【0011】
本発明のタンパク質または部分ペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0012】
本発明のタンパク質またはその塩は、前述した温血動物の細胞または組織から公知のタンパク質の精製方法によって製造することもできるし、後述するタンパク質をコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造することができる。また、後述のペプチド合成法に準じて製造することもできる。
温血動物の組織または細胞から製造する場合、温血動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行ない、得られた抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。
【0013】
本発明のタンパク質、部分ペプチドもしくはそれらの塩、またはそれらのアミド体の合成には、通常市販のタンパク質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4−ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などを挙げることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするタンパク質の配列通りに、公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からタンパク質を切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のタンパク質またはそれらのアミド体を取得する。
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、タンパク質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt、HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行なった後に樹脂に添加することができる。
【0014】
保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、タンパク質縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適宜の混合物などが用いられる。反応温度はタンパク質結合形成反応に使用され得ることが知られている範囲から適宜選択され、通常約−20℃〜50℃の範囲から適宜選択される。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.5〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行なうことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行なうことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することによって、後の反応に影響を与えないようにすることができる。
【0015】
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、t−ペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl−Z、Br−Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2−アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t−ブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級(C1-6)アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t-ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl2−Bzl、2−ニトロベンジル、Br−Z、t−ブチルなどが用いられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
【0016】
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N−ヒドロキシスクシミド、N−ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。
保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd−黒あるいはPd−炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約−20℃〜40℃の温度で行なわれるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4−ブタンジチオール、1,2−エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4−ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
【0017】
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、およびその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択しうる。
タンパク質のアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド(タンパク質)鎖を所望の鎖長まで延ばした後、前記ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いたタンパク質とC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去したタンパク質とを製造し、この両タンパク質を上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護タンパク質を精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗タンパク質を得ることができる。この粗タンパク質は既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望のタンパク質のアミド体を得ることができる。
タンパク質のエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、タンパク質のアミド体と同様にして、所望のタンパク質のエステル体を得ることができる。
【0018】
本発明の部分ペプチドまたはその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいは本発明のタンパク質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。すなわち、本発明の部分ペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の▲1▼〜▲5▼に記載された方法が挙げられる。
▲1▼M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
▲2▼SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
▲3▼泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、 丸善(株) (1975年)
▲4▼矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、 タンパク質の化学IV、 205、(1977年)
▲5▼矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて本発明の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0019】
本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとしては、前述した本発明のタンパク質をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。好ましくはDNAである。DNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。
ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織よりtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction(以下、RT−PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
本発明のタンパク質をコードするDNAとしては、例えば、▲1▼配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有し、本発明のタンパク質と実質的に同質の活性(例、エステラーゼ活性など)を有するタンパク質をコードするDNA、▲2▼配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有し、本発明のタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNAであれば何れのものでもよい。
【0020】
配列番号:2または配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、例えば、それぞれ配列番号:2または配列番号:8で表される塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。具体例として、配列番号:11で表される塩基配列を含有するDNAなどが挙げられる。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。より好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃の条件を示す。特に、ナトリウム濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が最も好ましい。
より具体的には、配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質をコードするDNAとしては、配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAなどが、配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質をコードするDNAとしては、配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNAなどが、配列番号:12で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質をコードするDNAとしては、配列番号:11で表される塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0021】
本発明の部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、前述した本発明の部分ペプチドをコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。好ましくはDNAである。DNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。
本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、▲1▼配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAの部分塩基配列を含有するDNA、または配列番号:2で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有し、本発明のタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNAの部分塩基配列を含有するDNA、▲2▼配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNAの部分塩基配列を含有するDNA、または配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有し、本発明の実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNAの部分塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。配列番号:2または配列番号:8で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの具体例としては、配列番号:11で表される塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
ハイブリダイゼーションの方法およびハイストリンジェントな条件は前記と同様のものが用いられる。
【0022】
本発明のタンパク質または部分ペプチド(以下、これらタンパク質等をコードするDNAのクローニングおよび発現の説明においては、これらタンパク質等を単に本発明のタンパク質と略記する)を完全にコードするDNAのクローニングの手段としては、本発明のタンパク質の部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明のタンパク質の一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
DNAの塩基配列の変換は、PCRや公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法やGapped duplex法やKunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行なうことができる。
クローン化されたタンパク質をコードするDNAは目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。
本発明のタンパク質の発現ベクターは、例えば、(イ)本発明のタンパク質をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、(ロ)該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
【0023】
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV-TKプロモーターなどが挙げられる。
これらのうち、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SRαプロモーターなどを用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0024】
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明のタンパク質のN端末側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列など、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。
このようにして構築された本発明のタンパク質をコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。
【0025】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌の具体例としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160(1968)〕,JM103〔ヌクイレック・アシッズ・リサーチ,(Nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),120巻,517(1978)〕,HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459(1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440(1954)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン,24巻,255(1983)〕,207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87(1984)〕などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
【0026】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞またはEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13, 213-217,(1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔前田ら、ネイチャー(Nature),315巻,592(1985)〕。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110(1972)やジーン(Gene),17巻,107(1982)などに記載の方法に従って行なうことができる。
【0027】
バチルス属菌を形質転換するには、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111(1979)などに記載の方法に従って行なうことができる。
酵母を形質転換するには、例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って行なうことができる。
昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6, 47-55(1988)などに記載の方法に従って行なうことができる。
動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。
このようにして、タンパク質をコードするDNAを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。また、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
【0028】
エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431−433,Cold Spring Harbor Laboratory, New York 1972〕が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行ない、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。
宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加えることもできる。
宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330(1984)〕が挙げられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace's Insect Medium(Grace, T.C.C.,ネイチャー(Nature),195,788(1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
以上のようにして、形質転換体の細胞内、細胞膜または細胞外に本発明のタンパク質を生成せしめることができる。
【0029】
上記培養物から本発明のタンパク質を分離精製するには、例えば、下記の方法により行なうことができる。
本発明のタンパク質を培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によりタンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中にタンパク質が分泌される場合には、培養終了後、公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。
このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれるタンパク質の精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0030】
このようにして得られるタンパク質が遊離体で得られた場合には、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合には公知の方法あるいはそれに準じる方法により、遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、組換え体が産生するタンパク質を、精製前または精製後に適当なタンパク修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。タンパク修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
このようにして生成する本発明のタンパク質またはその塩の存在または活性は、特異抗体を用いたエンザイムイムノアッセイ、中性脂質の分解による脂肪酸遊離量(酵素活性量)などにより測定することができる。
【0031】
本発明のタンパク質、部分ペプチドまたはそれらの塩に対する抗体は、本発明のタンパク質、部分ペプチドまたはそれらの塩を認識し得る抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。
本発明のタンパク質、部分ペプチドまたはそれらの塩(以下、抗体の説明においては、これらタンパク質等を単に本発明のタンパク質と略記する)に対する抗体は、本発明のタンパク質を抗原として用い、公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。
〔モノクローナル抗体の作製〕
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
本発明のタンパク質は、温血動物に対して投与により抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ニワトリが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原で免疫された温血動物、例えばマウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化タンパク質と抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。融合操作は既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256、495 (1975)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
【0032】
骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0、AP−1などの温血動物の骨髄腫細胞が挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば、タンパク質抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したタンパク質を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。
モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%の牛胎児血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))あるいはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0033】
(b)モノクローナル抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行なうことができる。
【0034】
〔ポリクローナル抗体の作製〕
本発明のポリクローナル抗体は、公知あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(本発明のタンパク質抗原)自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に免疫を行ない、該免疫動物から本発明のタンパク質に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造することができる。
温血動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアータンパク質との複合体に関し、キャリアータンパク質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカップルさせる方法が用いられる。
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なわれる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0035】
以下に、本発明のタンパク質、部分ペプチドまたはそれらの塩(以下、本発明のタンパク質等と略記する場合がある)、本発明のタンパク質、または部分ペプチドをコードするDNA(以下、本発明のDNAと略記する場合がある)、および本発明のタンパク質、部分ペプチドまたはそれらの塩に対する抗体(以下、本発明の抗体と略記する場合がある)の用途を説明する。
【0036】
〔1〕本発明のタンパク質が関与する各種疾病の予防・治療剤
本発明のタンパク質は中性脂質(例えば中性脂肪およびコレステリルエステルなど)の分解調節に寄与しており、具体的にはトリグリセリド分解活性などを有しているので、本発明のタンパク質をコードするDNAに異常があったり、欠損している場合あるいは本発明のタンパク質の発現量が減少している場合には、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの種々の疾病が発症する。
したがって、本発明のタンパク質等および本発明のDNAは、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの種々の疾病の予防・治療剤などの医薬として使用することができる。
例えば、生体内において本発明のタンパク質が減少あるいは欠損しているために、細胞における中性脂質の分解調節が十分に、あるいは正常に発揮されない患者がいる場合に、(イ)本発明のDNAをこの患者に投与し、生体内で本発明のタンパク質等を発現させることによって、(ロ)細胞に本発明のDNAを挿入し、本発明のタンパク質等を発現させた後に、前記細胞を患者に移植することによって、または(ハ)本発明のタンパク質等を該患者に投与することなどによって、前記患者における本発明のタンパク質等の役割を十分に、あるいは正常に発揮させることができる。
本発明のDNAを上記の予防・治療剤として使用する場合は、本発明のDNAを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って、ヒトまたは温血動物に投与することができる。本発明のDNAは、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。
本発明のタンパク質等を上記の予防・治療剤として使用する場合は、少なくとも90%、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上に精製されたものを使用するのが好ましい。
【0037】
本発明のタンパク質等は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、本発明のタンパク質等を生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO−50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
本発明のDNAが挿入されたベクターも上記と同様に製剤化され、通常、非経口的に使用される。
【0038】
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、温血動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して投与することができる。
本発明のタンパク質等の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、動脈硬化症の治療目的で本発明のタンパク質等を経口投与する場合、一般的に成人(60kgとして)においては、一日につき該タンパク質等を約0.1mg〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該タンパク質等の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、動脈硬化症の治療目的で本発明のタンパク質等を注射剤の形で成人(体重60kgとして)に投与する場合、一日につき該タンパク質等を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を患部に注射することにより投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0039】
〔2〕疾病に対する医薬候補化合物のスクリーニング
本発明のタンパク質等はエステラーゼ活性、中でもトリグリセリド分解活性を有するため、本発明のタンパク質等の機能(例、エステラーゼ活性など)を促進する化合物またはその塩は、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病の予防・治療剤などの医薬として使用できる。また、本発明のタンパク質等の遺伝子は、脂肪組織に特異的に発現しているため、本発明のタンパク質等の機能(例、エステラーゼ活性など)を阻害する化合物またはその塩は、肥満症の予防・治療剤などの医薬として使用できる。
したがって、本発明のタンパク質等、または本発明のDNAは、本発明のタンパク質等の機能を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニングのためのプローブとして有用である。
すなわち、本発明は、本発明のタンパク質、その部分ペプチドまたはそれらの塩(以下、本発明のタンパク質と略称する場合がある。)を用いることを特徴とする本発明のタンパク質の機能(例えば、エステラーゼ活性など)を促進または阻害する活性を有する化合物のスクリーニング方法を提供し、具体的には、例えば、
▲1▼本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を試験化合物の存在下に培養し、本発明のタンパク質をコードするDNAもしくはその相補DNAまたはその部分DNAを用いて本発明のタンパク質をコードするmRNAの量を測定することを特徴とする本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法、より具体的には、
▲2▼(i)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を培養した場合の本発明のタンパク質のmRNAの発現量と、(ii)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を試験化合物の存在下に培養した場合の本発明のタンパク質のmRNAの量との比較を行うことを特徴とする、本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞としては、例えば、前記した公知の温血動物細胞(好ましくは、脂肪細胞、マクロファージ、骨格筋細胞)や、本発明のタンパク質の遺伝子を導入し形質転換した動物細胞などがあげられる。本発明のタンパク質の遺伝子を導入し形質転換した動物細胞は上述の方法により製造できる。
本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞の培養は、公知の動物細胞培養法と同様にして行われる。例えば、培地としては、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501(1952)〕、DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association)199巻,519(1967)〕、199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)〕等が用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で約15〜60時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加えてもよい。
【0040】
mRNAの発現量の比較をハイブリダイゼーション法によって行うには、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法等に従って行なうことができる。
具体的には、本発明のタンパク質をコードするmRNAの量の測定は、公知の方法に従って細胞から抽出したRNAと本発明のタンパク質の遺伝子をコードするDNAもしくはその相補DNAまたはその部分DNAとを接触させ、本発明のタンパク質の遺伝子DNAまたはその相補DNAに結合したmRNAの量を測定することによって行われる。本発明のタンパク質の遺伝子DNAの相補DNAまたはその部分DNAを、例えば放射性同位元素、色素などで標識することによって、本発明のタンパク質の遺伝子DNAの相補DNAに結合したmRNAの量が容易に測定できる。放射性同位元素としては、例えば32P、3Hなどが用いられ、色素としては、例えばfluorescein、FAM(PE Biosystems社製)、JOE(PE Biosystems社製)、TAMRA(PE Biosystems社製)、ROX(PE Biosystems社製)、Cy5(Amersham社製)、Cy3(Amersham社製)などの蛍光色素が用いられる。
また、本発明のタンパク質のmRNAの量は、細胞から抽出したRNAを逆転写酵素によってcDNAに変換した後、本発明のタンパク質の遺伝子をコードするDNAもしくはその相補DNAまたはその部分DNAをプライマーとして用いるPCRによって、増幅されるcDNAの量を測定することによって行うことができる。
本発明のタンパク質のmRNAの量の測定に用いられる本発明のタンパク質の遺伝子DNAの相補DNAとしては、本発明のタンパク質の遺伝子DNA(上鎖)に相補的な配列を有するDNA(下鎖)があげられる。本発明のタンパク質の遺伝子DNAの部分DNAとしては、例えば本発明のタンパク質の遺伝子DNAの塩基配列中、連続した10〜2200個程度、好ましくは10〜300個程度、さらに好ましくは10〜30個程度の塩基から構成される塩基配列があげられる。本発明のタンパク質の遺伝子DNAの相補的DNAの部分DNAとしては、例えば前記した本発明のタンパク質をコードするDNAの部分DNAに相補的な配列を有するDNAがあげられる。即ち、例えば本発明のタンパク質の遺伝子DNAの塩基配列中、連続した10〜2200個程度、好ましくは10〜300個程度、さらに好ましくは10〜30個程度の塩基から構成される塩基配列に相補的な配列を有するDNAがあげられる。
PCRに用いられるプライマーとしては、例えば配列番号:5で表される塩基配列を有するDNAおよび配列番号:6で表される塩基配列を有するDNAなどがあげられる。
さらに詳しくは本発明のタンパク質のmRNA量の測定は、具体的には以下のようにして行なうことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど、より具体的には肥満マウス、動脈硬化マウス、動脈硬化ウサギ、担癌マウスなど)に対して、薬剤(例えば、血圧低下薬、抗癌剤、抗肥満薬、抗高脂血症薬など)あるいは物理的ストレス(例えば、浸水ストレス、電気ショック、明暗、低温など)などを与え、一定時間経過した後に、血液、あるいは特定の臓器(例えば、脳、肝臓、腎臓など)、または臓器から単離した組織、あるいは細胞を得る。
得られた細胞に含まれる本発明のタンパク質のmRNAは、例えば、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出し、例えばTaqManPCRなどの手法を用いることにより定量することができ、公知の手段によりノザンブロットを行うことにより解析することもできる。
(ii)本発明のタンパク質を発現する形質転換体を前述の方法に従い作製し、該形質転換体に含まれる本発明のタンパク質のmRNAを同様にして定量、解析することができる。
本発明のタンパク質のmRNAの量を増加させる試験化合物を、本発明のタンパク質の遺伝子の発現を促進する活性を有する化合物として選択することができる。
【0041】
また、本発明は、
▲3▼本発明のタンパク質の公知プロモーターやエンハンサー領域をゲノムDNAよりクローニングし、適当なレポーター遺伝子の上流に連結させたDNAで形質転換した細胞(例えば、脂肪細胞、マクロファージ、骨格筋細胞など)を試験化合物の存在下で培養し、本発明のタンパク質の発現に代えてレポーター遺伝子の発現を検出することを特徴とする、本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
レポーター遺伝子としては、例えば、lacZ(β−ガラクトシダーゼ遺伝子)などの染色マーカー遺伝子等などが用いられる。
レポーター遺伝子産物(例、mRNA、タンパク質)の量を公知の方法を用いて測定することによって、レポーター遺伝子産物の量を増加させる試験化合物を本発明のタンパク質の遺伝子の発現を促進する活性を有する化合物として選択できる。
細胞の培養は、上記した公知の動物細胞培養と同様に行うことができる。
【0042】
さらに、本発明は
▲4▼(i)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞にRI標識化された前駆体(具体的には3H標識あるいは14C標識されたオレイン酸等の脂肪酸、グリセロールなどがあげられる)を接触させて培養した場合と(ii)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞にRI標識化された前駆体および試験化合物を接触させて培養した場合とにおける中性脂質(例えばトリグリセリド、コレステリルエステルなど)の生成量を、生化学分析法(由岐英剛編、pp235-272、南江堂、1984年)に記載の方法、たとえば薄層クロマトグラフィー法あるいはカラムクロマトグラフィー法などで測定し、比較を行なうことを特徴とする本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
細胞の培養は、上記した公知の動物細胞培養と同様に行うことができる。
中性脂質生成量を抑制あるいは分解物の生成量を増加させる試験化合物を、本発明のタンパク質の遺伝子の発現を促進または阻害する活性を有する化合物として選択することができる。
本発明のタンパク質等のエステラーゼ活性は、公知の方法、例えば、Holm C. and Osterlund T. Methods in Molecular Biology, edited by M.H.Doolittle and K. Reue , Vol. 109, pp109-121に記載の方法あるいはそれに準じる方法に従って測定することができる。
例えば、上記(ii)の場合におけるエステラーゼ活性が上記(i)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上上昇させる試験化合物を本発明のタンパク質等のエステラーゼ活性を促進する化合物として、上記(ii)の場合におけるエステラーゼ活性が上記(i)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上減少させる試験化合物を本発明のタンパク質等のエステラーゼ活性を阻害する化合物として選択することができる。
【0043】
さらに、本発明は、
▲5▼本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を試験化合物の存在下に培養し、本発明のタンパク質の抗体を用いて本発明のタンパク質の発現量を測定することを特徴とする本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法、具体的には、
▲6▼(i)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を培養した場合の本発明のタンパク質の発現量と、(ii)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を試験化合物の存在下に培養した場合の本発明のタンパク質の発現量とを本発明のタンパク質の抗体を用いて測定し、比較することを特徴とする、本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
本発明のタンパク質の抗体は前記した方法により製造できる。細胞の培養は、上記した公知の動物細胞培養と同様に行うことができる。また、本発明のタンパク質の発現量は、下記〔3〕に示した本発明のタンパク質の定量法にしたがって定量することができる。
【0044】
すなわち、より具体的には
▲7▼(i)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を培養し、本発明のタンパク質の抗体と、得られた培養液(被検液)および標識化された本発明のタンパク質等とを競合的に反応させた場合と、(ii)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を試験化合物の存在下に培養し、本発明のタンパク質の抗体と、前記培養液(被検液)および標識化された本発明のタンパク質等とを競合的に反応させた場合との、前記抗体に結合した標識化された本発明のタンパク質の割合を比較を行うことを特徴とする、本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法、
▲8▼(i)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を培養し、得られた培養液(被検液)と担体上に不溶化した本発明のタンパク質の抗体および標識化された本発明の別の抗体とを同時あるいは連続的に反応させた場合と、(ii)本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞を試験化合物の存在下に培養し、前記培養液(被検液)と担体上に不溶化した本発明のタンパク質の抗体および標識化された本発明の別の抗体とを同時あるいは連続的に反応させた場合との不溶化担体上の標識剤の活性を測定することを特徴とする、本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
上記▲8▼の方法においては、一方の抗体が本発明のタンパク質等のN端部を認識する抗体で、他方の抗体が本発明のタンパク質等のC端部に反応する抗体であることが望ましい。
【0045】
上記したスクリーニング方法において、試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
【0046】
本発明のスクリーニング用キットは、本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞、標識された本発明のタンパク質、本発明のタンパク質の抗体などを含有するものである。
【0047】
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などから選ばれた化合物であり、本発明のタンパク質等の機能(例、エステラーゼ活性など)を促進する活性を有する化合物である。
該化合物の塩としては、前記した本発明のタンパク質の塩と同様のものが用いられる。
本発明のタンパク質等の機能(例、エステラーゼ活性など)を促進する活性を有する化合物は、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの疾病に対する予防・治療剤などの医薬として使用できる。
本発明のタンパク質等の機能(例、エステラーゼ活性など)を阻害する活性を有する化合物は、例えば、肥満症などの疾病に対する予防・治療剤などの医薬として使用できる。
【0048】
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物を上述の予防・治療剤として使用する場合、常套手段に従って実施することができる。例えば、前記した本発明のタンパク質等を含有する医薬と同様にして、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、無菌性溶液、懸濁液剤などとして、経口的または非経口的に投与することができる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、温血動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、その作用、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、高脂血症治療の目的で本発明のタンパク質等の機能を促進する化合物を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該化合物を約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、高脂血症治療の目的で本発明のタンパク質等の機能を促進する化合物を注射剤の形で通常成人(60kgとして)に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0049】
〔3〕本発明のタンパク質、その部分ペプチドまたはそれらの塩の定量
本発明のタンパク質等に対する抗体(以下、本発明の抗体と略記する場合がある)は、本発明のタンパク質等を特異的に認識することができるので、被検液中の本発明のタンパク質等の定量、特にサンドイッチ免疫測定法による定量などに使用することができる。
すなわち、本発明は、
(i)本発明の抗体と、被検液および標識化された本発明のタンパク質等とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された本発明のタンパク質等の割合を測定することを特徴とする被検液中の本発明のタンパク質等の定量法、および
(ii)被検液と担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された本発明の別の抗体とを同時あるいは連続的に反応させたのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することを特徴とする被検液中の本発明のタンパク質等の定量法を提供する。
上記(ii)の定量法においては、一方の抗体が本発明のタンパク質等のN端部を認識する抗体で、他方の抗体が本発明のタンパク質等のC端部に反応する抗体であることが望ましい。
【0050】
また、本発明のタンパク質等に対するモノクローナル抗体(以下、本発明のモノクローナル抗体と称する場合がある)を用いて本発明のタンパク質等の定量を行なえるほか、組織染色等による検出を行なうこともできる。これらの目的には、抗体分子そのものを用いてもよく、また、抗体分子のF(ab')2、Fab'、あるいはFab画分を用いてもよい。
本発明の抗体を用いる本発明のタンパク質等の定量法は、 特に制限されるべきものではなく、被測定液中の抗原量(例えば、タンパク質量)に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられるが、感度、特異性の点で、後述するサンドイッチ法を用いるのが特に好ましい。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0051】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
サンドイッチ法においては不溶化した本発明のモノクローナル抗体に被検液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明のモノクローナル抗体を反応させ(2次反応)たのち、不溶化担体上の標識剤の活性を測定することにより被検液中の本発明のタンパク質量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相用抗体あるいは標識用抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
本発明のサンドイッチ法による本発明のタンパク質等の測定法においては、1次反応と2次反応に用いられる本発明のモノクローナル抗体は、本発明のタンパク質等の結合する部位が互いに異なる抗体であることが好ましい。すなわち、1次反応および2次反応に用いられる抗体は、例えば、2次反応で用いられる抗体が、本発明のタンパク質等のC端部を認識する場合、1次反応で用いられる抗体は、好ましくはC端部以外、例えばN端部を認識する抗体が用いられる。
【0052】
本発明のモノクローナル抗体をサンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることができる。
競合法では、被検液中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させたのち、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定し、被検液中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被検液中の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被検液中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させたのち、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被検液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被検液中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0053】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のタンパク質等の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70(Immunochemical Techniques(Part A))、 同書 Vol. 73(Immunochemical Techniques(Part B))、 同書 Vol. 74(Immunochemical Techniques(Part C))、 同書 Vol. 84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、 同書 Vol. 92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、 同書 Vol. 121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
以上のようにして、本発明の抗体を用いることによって、本発明のタンパク質等を感度良く定量することができる。
さらには、本発明の抗体を用いて本発明のタンパク質等の濃度を定量することによって、本発明のタンパク質等の濃度の減少が検出された場合、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの疾病である、または将来罹患する可能性が高いと診断することができる。
また、本発明の抗体は、体液や組織などの被検体中に存在する本発明のタンパク質等を検出するために使用することができる。また、本発明のタンパク質等を精製するために使用する抗体カラムの作製、精製時の各分画中の本発明のタンパク質等の検出、被検細胞内における本発明のタンパク質の挙動の分析などのために使用することができる。
【0054】
〔4〕遺伝子診断剤
本発明のDNAは、例えば、プローブとして使用することにより、温血動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)における本発明のタンパク質またはその部分ペプチドをコードするDNAまたはmRNAの異常(遺伝子異常)を検出することができるので、例えば、該DNAまたはmRNAの損傷、突然変異あるいは発現低下や、該DNAまたはmRNAの増加あるいは発現過多などの遺伝子診断剤として有用である。
本発明のDNAを用いる上記の遺伝子診断は、例えば、公知のノーザンハイブリダイゼーションやPCR−SSCP法(ゲノミックス(Genomics),第5巻,874〜879頁(1989年)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ユーエスエー(Proceedings of the Natinal Academy of Sciences of the United States of America),第86巻,2766〜2770頁(1989年))などにより実施することができる。
例えば、ノーザンハイブリダイゼーションにより発現低下が検出された場合やPCR−SSCP法によりDNAの突然変異が検出された場合は、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの疾病である可能性が高いと診断することができる。
【0055】
〔5〕DNA転移(導入)動物
本発明は、外来性の本発明のタンパク質等をコードするDNA(以下、本発明の外来性DNAと略記する)またはその変異DNA(本発明の外来性変異DNAと略記する場合がある)を有する非ヒト哺乳動物を提供する。
すなわち、本発明は、
(1)本発明の外来性DNAまたはその変異DNAを有する非ヒト哺乳動物、
(2)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(1)記載の動物、
(3)ゲッ歯動物がマウスまたはラットである第(2)記載の動物、および
(4)本発明の外来性DNAまたはその変異DNAを含有し、哺乳動物において発現しうる組換えベクターを提供するものである。
本発明の外来性DNAまたはその変異DNAを有する非ヒト哺乳動物(以下、本発明のDNA転移動物と略記する)は、未受精卵、受精卵、精子およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに対して、好ましくは、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)に、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などにより目的とするDNAを転移することによって作出することができる。また、該DNA転移方法により、体細胞、生体の臓器、組織細胞などに目的とする本発明の外来性DNAを転移し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、これら細胞を上述の胚芽細胞と公知の細胞融合法により融合させることにより本発明のDNA転移動物を作出することもできる。
【0056】
非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどが用いられる。なかでも、病体動物モデル系の作成の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、また、繁殖が容易なゲッ歯動物、とりわけマウス(例えば、純系として、C57BL/6系統,DBA2系統など、交雑系として、B6C3F1系統,BDF1系統,B6D2F1系統,BALB/c系統,ICR系統など)またはラット(例えば、Wistar,SDなど)などが好ましい。
哺乳動物において発現しうる組換えベクターにおける「哺乳動物」としては、上記の非ヒト哺乳動物の他にヒトなどが挙げられる。
本発明の外来性DNAとは、非ヒト哺乳動物が本来有している本発明のDNAではなく、いったん哺乳動物から単離・抽出された本発明のDNAをいう。
本発明の変異DNAとしては、元の本発明のDNAの塩基配列に変異(例えば、突然変異など)が生じたもの、具体的には、塩基の付加、欠損、他の塩基への置換などが生じたDNAなどが用いられ、また、異常DNAも含まれる。
前記の異常DNAとしては、異常な本発明のタンパク質を発現させるDNAを意味し、例えば、正常な本発明のタンパク質の機能を抑制するタンパク質を発現させるDNAなどが用いられる。
本発明の外来性DNAは、対象とする動物と同種あるいは異種のどちらの哺乳動物由来のものであってもよい。本発明のDNAを対象動物に転移させるにあたっては、本発明のDNAを動物細胞で発現させうるプロモーターの下流に結合したDNAコンストラクトとして用いるのが一般に有利である。例えば、本発明のヒトDNAを転移させる場合、これと相同性が高い本発明のDNAを有する各種哺乳動物(例えば、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来のDNAを発現させうる各種プロモーターの下流に、本発明のヒトDNAを結合したDNAコンストラクト(例、ベクターなど)を対象哺乳動物の受精卵、例えば、マウス受精卵へマイクロインジェクションすることによって本発明のDNAを高発現するDNA転移哺乳動物を作出することができる。
【0057】
本発明のタンパク質の発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウィルスなどのレトロウィルス、ワクシニアウィルスまたはバキュロウィルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。なかでも、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミドまたは酵母由来のプラスミドなどが好ましく用いられる。
上記のDNA発現調節を行なうプロモーターとしては、例えば、▲1▼ウイルス(例、シミアンウイルス、サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス、ポリオウイルスなど)に由来するDNAのプロモーター、▲2▼各種哺乳動物(ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来のプロモーター、例えば、アルブミン、インスリンII、ウロプラキンII、エラスターゼ、エリスロポエチン、エンドセリン、筋クレアチンキナーゼ、グリア線維性酸性タンパク質ク、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、血小板由来成長因子β、ケラチンK1,K10およびK14、コラーゲンI型およびII型、サイクリックAMP依存タンパク質キナーゼβIサブユニット、ジストロフィン、酒石酸抵抗性アルカリフォスファターゼ、心房ナトリウム利尿性因子、内皮レセプターチロシンキナーゼ(一般にTie2と略される)、ナトリウムカリウムアデノシン3リン酸化酵素(Na,K−ATPase)、ニューロフィラメント軽鎖、メタロチオネインIおよびIIA、メタロプロティナーゼ1組織インヒビター、MHCクラスI抗原(H−2L)、H−ras、レニン、ドーパミンβ−水酸化酵素、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)、ポリペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)、βアクチン、αおよびβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1および2、ミエリン基礎タンパク質、チログロブリン、Thy−1、免疫グロブリン、H鎖可変部(VNP)、血清アミロイドPコンポーネント、ミオグロビン、トロポニンC、平滑筋αアクチン、プレプロエンケファリンA、バソプレシンなどのプロモーターなどが用いられる。なかでも、全身で高発現することが可能なサイトメガロウイルスプロモーター、ヒトポリペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)のプロモーター、ヒトおよびニワトリβアクチンプロモーターなどが好適である。
【0058】
上記ベクターは、DNA転移哺乳動物において目的とするmRNAの転写を終結する配列(一般にターミネターと呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウィルス由来および各種哺乳動物由来の各DNAの配列を用いることができ、好ましくは、シミアンウィルスのSV40ターミネターなどが用いられる。
その他、目的とする外来性DNAをさらに高発現させる目的で各DNAのスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核DNAのイントロンの一部などをプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも目的により可能である。
正常な本発明のタンパク質の翻訳領域は、各種哺乳動物(例えば、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来の肝臓、腎臓、甲状腺細胞、線維芽細胞由来DNAおよび市販の各種ゲノムDNAライブラリーよりゲノムDNAの全てあるいは一部として、または肝臓、腎臓、甲状腺細胞、線維芽細胞由来RNAより公知の方法により調製されたcDNAを原料として取得することが出来る。また、外来性の異常DNAは、上記の細胞または組織より得られた正常なタンパク質の翻訳領域を点突然変異誘発法により変異した翻訳領域を作製することができる。
該翻訳領域は転移動物において発現しうるDNAコンストラクトとして、前記のプロモーターの下流および所望により転写終結部位の上流に連結させる通常のDNA工学的手法により作製することができる。
受精卵細胞段階における本発明の外来性DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞のすべてに存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において、本発明の外来性DNAが存在することは、作出動物の後代がすべて、その胚芽細胞および体細胞のすべてに本発明の外来性DNAを保持することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞および体細胞のすべてに本発明の外来性DNAを有する。
【0059】
本発明の外来性正常DNAを転移させた非ヒト哺乳動物は、交配により外来性DNAを安定に保持することを確認して、該DNA保有動物として通常の飼育環境で継代飼育することが出来る。
受精卵細胞段階における本発明の外来性DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに過剰に存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において本発明の外来性DNAが過剰に存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを過剰に有することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを過剰に有する。
導入DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が導入DNAを過剰に有するように繁殖継代することができる。
本発明の正常DNAを有する非ヒト哺乳動物は、本発明の正常DNAが高発現させられており、内在性の正常DNAの機能を促進することにより最終的に本発明のタンパク質の機能亢進症を発症することがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の正常DNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能亢進症や、本発明のタンパク質が関連する疾患の病態機序の解明およびこれらの疾患の治療方法の検討を行なうことが可能である。
また、本発明の外来性正常DNAを転移させた哺乳動物は、遊離した本発明のタンパク質の増加症状を有することから、本発明のタンパク質に関連する疾患に対する治療薬のスクリーニング試験にも利用可能である。
【0060】
一方、本発明の外来性異常DNAを有する非ヒト哺乳動物は、交配により外来性DNAを安定に保持することを確認して外来性異常DNA保有動物として通常の飼育環境で継代飼育することが出来る。さらに、目的とする外来性DNAを前述のプラスミドに組み込んで原科として用いることができる。プロモーターとのDNAコンストラク卜は、通常のDNA工学的手法によって作製することができる。受精卵細胞段階における本発明の異常DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において本発明の異常DNAが存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の異常DNAを有することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫は、その胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の異常DNAを有する。導入DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該DNAを有するように繁殖継代することができる。
本発明の異常DNAを有する非ヒト哺乳動物は、本発明の異常DNAが高発現させられており、内在性の正常DNAの機能を阻害することにより最終的に本発明のタンパク質の機能不活性型不応症となることがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の異常DNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症の病態機序の解明およびこの疾患を治療方法の検討を行なうことが可能である。
また、具体的な利用可能性としては、本発明の異常DNA高発現動物は、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症における本発明の異常タンパク質による正常タンパク質の機能阻害(dominant negative作用)を解明するモデルとなる。
また、本発明の外来性異常DNAを転移させた哺乳動物は、遊離した本発明のタンパク質の増加症状を有することから、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症に対する治療薬スクリーニング試験にも利用可能である。
【0061】
また、上記2種類の本発明のDNA転移動物のその他の利用可能性として、例えば、
▲1▼組織培養のための細胞源としての使用、
▲2▼本発明のDNA転移動物の組織中のDNAもしくはRNAを直接分析するか、またはDNAにより発現されたタンパク質組織を分析することによる、本発明のタンパク質により特異的に発現あるいは活性化するタンパク質との関連性についての解析、
▲3▼DNAを有する組織の細胞を標準組織培養技術により培養し、これらを使用して、一般に培養困難な組織からの細胞の機能の研究、
▲4▼上記▲3▼記載の細胞を用いることによる細胞の機能を高めるような薬剤のスクリーニング、および
▲5▼本発明の変異タンパク質の単離精製およびその抗体作製などが考えられる。
さらに、本発明のDNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症などを含む、本発明のタンパク質に関連する疾患の臨床症状を調べることができ、また、本発明のタンパク質に関連する疾患モデルの各臓器におけるより詳細な病理学的所見が得られ、新しい治療方法の開発、さらには、該疾患による二次的疾患の研究および治療に貢献することができる。
また、本発明のDNA転移動物から各臓器を取り出し、細切後、トリプシンなどのタンパク質分解酵素処理による、遊離したDNA転移細胞の取得、その培養またはその培養細胞の系統化を行なうことが可能である。さらに、本発明のタンパク質産生細胞の特定化、アポトーシス、分化あるいは増殖との関連性、またはそれらにおけるシグナル伝達機構を調べ、それらの異常を調べることなどができ、本発明のタンパク質およびその作用解明のための有効な研究材料となる。
さらに、本発明のDNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症を含む、本発明のタンパク質に関連する疾患の治療薬の開発を行なうために、上述の検査法および定量法などを用いて、有効で迅速な前記疾患治療薬のスクリーニング法を提供することが可能となる。また、本発明のDNA転移動物または本発明の外来性DNA発現ベクターを用いて、本発明のタンパク質が関連する疾患のDNA治療法を検討、開発することが可能である。
【0062】
〔6〕ノックアウト動物
本発明は、本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞および本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物を提供する。
すなわち、本発明は、
(1)本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞、
(2)前記DNAがレポーター遺伝子(例、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子)を導入することにより不活性化された第(1)項記載の胚幹細胞、
(3)ネオマイシン耐性である第(1)項記載の胚幹細胞、
(4)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(1)項記載の胚幹細胞、
(5)ゲッ歯動物がマウスである第(4)項記載の胚幹細胞、
(6)本発明のDNAが不活性化された前記DNA発現不全非ヒト哺乳動物、
(7)本発明のDNAがレポーター遺伝子(例、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子)を導入することにより不活性化され、前記レポーター遺伝子が本発明のDNAに対するプロモーターの制御下で発現しうる第(6)項記載の非ヒト哺乳動物、
(8)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(6)項記載の非ヒト哺乳動物、
(9)ゲッ歯動物がマウスである第(8)項記載の非ヒト哺乳動物、および
(10)第(7)項記載の動物に、試験化合物を投与し、レポーター遺伝子の発現を検出することを特徴とする本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
【0063】
本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞とは、前記非ヒト哺乳動物が有する本発明のDNAに人為的に変異を加えることにより、DNAの発現能を抑制するか、もしくは本発明のDNAがコードしている本発明のタンパク質の活性を実質的に喪失させることにより、DNAが実質的に本発明のタンパク質の発現能を有さない(以下、本発明のノックアウトDNAと称することがある)非ヒト哺乳動物の胚幹細胞(以下、ES細胞と略記する)をいう。
非ヒト哺乳動物としては、前記と同様のものが用いられる。
本発明のDNAに人為的に変異を加える方法としては、例えば、遺伝子工学的手法により該DNA配列の一部又は全部の削除、他DNAを挿入または置換させることによって行なうことができる。これらの変異により、例えば、コドンの読み取り枠をずらしたり、プロモーターあるいはエキソンの機能を破壊することにより本発明のノックアウトDNAを作製すればよい。
本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞(以下、本発明のDNA不活性化ES細胞または本発明のノックアウトES細胞と略記する)の具体例としては、例えば、目的とする非ヒト哺乳動物が有する本発明のDNAを単離し、そのエキソン部分にネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子を代表とする薬剤耐性遺伝子、あるいはlacZ(β−ガラクトシダーゼ遺伝子)、cat(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子)を代表とするレポーター遺伝子等を挿入することによりエキソンの機能を破壊するか、あるいはエキソン間のイントロン部分に遺伝子の転写を終結させるDNA配列(例えば、polyA付加シグナルなど)を挿入し、完全なmRNAを合成できなくすることによって、結果的に遺伝子を破壊するように構築したDNA配列を有するDNA鎖(以下、ターゲッティングベクターと略記する)を、例えば相同組換え法により該動物の染色体に導入し、得られたES細胞について本発明のDNA上あるいはその近傍のDNA配列をプローブとしたサザンハイブリダイゼーション解析あるいはターゲッティングベクター上のDNA配列とターゲッティングベクター作製に使用した本発明のDNA以外の近傍領域のDNA配列をプライマーとしたPCR法により解析し、本発明のノックアウトES細胞を選別することにより得ることができる。
【0064】
また、相同組換え法等により本発明のDNAを不活化させる元のES細胞としては、例えば、前述のような既に樹立されたものを用いてもよく、また公知のEvansとKaufmanの方法に準じて新しく樹立したものでもよい。例えば、マウスのES細胞の場合、現在、一般的には129系のES細胞が使用されているが、免疫学的背景がはっきりしていないので、これに代わる純系で免疫学的に遺伝的背景が明らかなES細胞を取得するなどの目的で例えば、C57BL/6マウスやC57BL/6の採卵数の少なさをDBA/2との交雑により改善したBDF1マウス(C57BL/6とDBA/2とのF1)を用いて樹立したものなども良好に用いうる。BDF1マウスは、採卵数が多く、かつ、卵が丈夫であるという利点に加えて、C57BL/6マウスを背景に持つので、これを用いて得られたES細胞は病態モデルマウスを作出したとき、C57BL/6マウスとバッククロスすることでその遺伝的背景をC57BL/6マウスに代えることが可能である点で有利に用い得る。
また、ES細胞を樹立する場合、一般には受精後3.5日目の胚盤胞を使用するが、これ以外に8細胞期胚を採卵し胚盤胞まで培養して用いることにより効率よく多数の初期胚を取得することができる。
また、雌雄いずれのES細胞を用いてもよいが、通常雄のES細胞の方が生殖系列キメラを作出するのに都合が良い。また、煩雑な培養の手間を削減するためにもできるだけ早く雌雄の判別を行なうことが望ましい。
ES細胞の雌雄の判定方法としては、例えば、PCR法によりY染色体上の性決定領域の遺伝子を増幅、検出する方法が、その1例として挙げることができる。この方法を使用すれば、従来、核型分析をするのに約106個の細胞数を要していたのに対して、1コロニー程度のES細胞数(約50個)で済むので、培養初期におけるES細胞の第一次セレクションを雌雄の判別で行なうことが可能であり、早期に雄細胞の選定を可能にしたことにより培養初期の手間は大幅に削減できる。
【0065】
また、第2次セレクションとしては、例えば、G−バンディング法による染色体数の確認等により行うことができる。得られるES細胞の染色体数は正常数の100%が望ましいが、樹立の際の物理的操作等の関係上困難な場合は、ES細胞の遺伝子をノックアウトした後、正常細胞(例えば、マウスでは染色体数が2n=40である細胞)に再びクローニングすることが望ましい。
このようにして得られた胚幹細胞株は、通常その増殖性は大変良いが、個体発生できる能力を失いやすいので、注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO繊維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上でLIF(1−10000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス、95%空気または5%酸素、5%炭酸ガス、90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常0.001−0.5%トリプシン/0.1−5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1−3日毎に行なうが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は放棄することが望まれる。
ES細胞は、適当な条件により、高密度に至るまで単層培養するか、または細胞集塊を形成するまで浮遊培養することにより、頭頂筋、内臓筋、心筋などの種々のタイプの細胞に分化させることが可能であり〔M. J. Evans及びM. H. Kaufman, ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年;G. R. Martin プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.)第78巻、7634頁、1981年;T. C. Doetschman ら、ジャーナル・オブ・エンブリオロジー・アンド・エクスペリメンタル・モルフォロジー、第87巻、27頁、1985年〕、本発明のES細胞を分化させて得られる本発明のDNA発現不全細胞は、インビトロにおける本発明のタンパク質の細胞生物学的検討において有用である。
本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、該動物のmRNA量を公知方法を用いて測定して間接的にその発現量を比較することにより、正常動物と区別することが可能である。
該非ヒト哺乳動物としては、前記と同様のものが用いられる。
【0066】
本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、例えば、前述のようにして作製したターゲッティングベクターをマウス胚幹細胞またはマウス卵細胞に導入し、導入によりターゲッティングベクターの本発明のDNAが不活性化されたDNA配列が遺伝子相同組換えにより、マウス胚幹細胞またはマウス卵細胞の染色体上の本発明のDNAと入れ換わる相同組換えをさせることにより、本発明のDNAをノックアウトさせることができる。
本発明のDNAがノックアウトされた細胞は、本発明のDNA上またはその近傍のDNA配列をプローブとしたサザンハイブリダイゼーション解析またはターゲッティングベクター上のDNA配列と、ターゲッティングベクターに使用したマウス由来の本発明のDNA以外の近傍領域のDNA配列とをプライマーとしたPCR法による解析で判定することができる。非ヒト哺乳動物胚幹細胞を用いた場合は、遺伝子相同組換えにより、本発明のDNAが不活性化された細胞株をクローニングし、その細胞を適当な時期、例えば、8細胞期の非ヒト哺乳動物胚または胚盤胞に注入し、作製したキメラ胚を偽妊娠させた該非ヒト哺乳動物の子宮に移植する。作出された動物は正常な本発明のDNA座をもつ細胞と人為的に変異した本発明のDNA座をもつ細胞との両者から構成されるキメラ動物である。
該キメラ動物の生殖細胞の一部が変異した本発明のDNA座をもつ場合、このようなキメラ個体と正常個体を交配することにより得られた個体群より、全ての組織が人為的に変異を加えた本発明のDNA座をもつ細胞で構成された個体を、例えば、コートカラーの判定等により選別することにより得られる。このようにして得られた個体は、通常、本発明のタンパク質のヘテロ発現不全個体であり、本発明のタンパク質のヘテロ発現不全個体同志を交配し、それらの産仔から本発明のタンパク質のホモ発現不全個体を得ることができる。
卵細胞を使用する場合は、例えば、卵細胞核内にマイクロインジェクション法でDNA溶液を注入することによりターゲッティングベクターを染色体内に導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得ることができ、これらのトランスジェニック非ヒト哺乳動物に比べて、遺伝子相同組換えにより本発明のDNA座に変異のあるものを選択することにより得られる。
【0067】
このようにして本発明のDNAがノックアウトされている個体は、交配により得られた動物個体も該DNAがノックアウトされていることを確認して通常の飼育環境で飼育継代を行なうことができる。
さらに、生殖系列の取得および保持についても常法に従えばよい。すなわち、不活化DNAを保有する雌雄の動物を交配することにより、前記不活化DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得しうる。得られたホモザイゴート動物は、母親動物に対して、正常個体1,ホモザイゴート複数になるような状態で飼育することにより効率的に得ることができる。ヘテロザイゴート動物の雌雄を交配することにより、前記不活化DNAを有するホモザイゴートおよびヘテロザイゴート動物を繁殖継代する。
本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞は、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物を作出する上で、非常に有用である。
また、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、本発明のタンパク質により誘導され得る種々の生物活性を欠失するため、本発明のタンパク質の生物活性の不活性化を原因とする疾病のモデルとなり得るので、これらの疾病の原因究明及び治療法の検討に有用である。
【0068】
〔6a〕本発明のDNAの欠損や損傷などに起因する疾病に対して予防・治療効果を有する化合物のスクリーニング方法
本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、本発明のDNAの欠損や損傷などに起因する疾病(例、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病など)に対して予防・治療効果を有する化合物のスクリーニングに用いることができる。
すなわち、本発明は、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物に試験化合物を投与し、該動物の変化を観察・測定することを特徴とする、本発明のDNAの欠損や損傷などに起因する疾病に対して予防・治療効果を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
前記スクリーニング方法において用いられる本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物としては、前記と同様のものが挙げられる。
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
具体的には、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物を、試験化合物で処理し、無処理の対照動物と比較し、該動物の各器官、組織、疾病の症状などの変化を指標として試験化合物の予防・治療効果を試験することができる。
試験動物を試験化合物で処理する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射などが用いられ、試験動物の症状、試験化合物の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、試験化合物の投与量は、投与方法、試験化合物の性質などにあわせて適宜選択することができる。
例えば、動脈硬化症に対して予防・治療効果を有する化合物をスクリーニングする場合、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物に糖負荷処置を行ない、糖負荷処置前または処置後に試験化合物を投与し、該動物の血糖値および体重変化などを経時的に測定する。
該スクリーニング方法において、試験動物に試験化合物を投与した場合、該試験動物の血糖値が約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上低下した場合、該試験化合物を動脈硬化症に対して予防・治療効果を有する化合物として選択することができる。
【0069】
本発明のスクリーニング方法を用いて得られる化合物は、上記した試験化合物から選ばれた化合物であり、本発明のタンパク質等の欠損や損傷などによって引き起こされる疾患(例、動脈硬化症など)に対して予防・治療効果を有するので、該疾患に対する安全で低毒性な予防・治療剤などの医薬として使用することができる。さらに、上記スクリーニングで得られた化合物から誘導される化合物も同様に用いることができる。
該スクリーニング方法で得られた化合物は塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例アルカリ金属)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
該スクリーニング方法で得られた化合物またはその塩を含有する医薬は、前記した本発明のタンパク質を含有する医薬と同様にして製造することができる。 このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、動脈硬化症の治療目的で該化合物を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該化合物を約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、動脈硬化症の治療目的で該化合物を注射剤の形で通常成人(60kgとして)に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0070】
〔6b〕本発明のDNAに対するプロモーターの活性を促進する化合物をスクリーニング方法
本発明は、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物に、試験化合物を投与し、レポーター遺伝子の発現を検出することを特徴とする本発明のDNAに対するプロモーターの活性を促進する化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。
上記スクリーニング方法において、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物としては、前記した本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物の中でも、本発明のDNAがレポーター遺伝子を導入することにより不活性化され、前記レポーター遺伝子が本発明のDNAに対するプロモーターの制御下で発現しうるものが用いられる。
試験化合物としては、前記と同様のものが挙げられる。
レポーター遺伝子としては、前記と同様のものが用いられ、β−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)、可溶性アルカリフォスファターゼ遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子などが好適である。
本発明のDNAをレポーター遺伝子で置換された本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物では、レポーター遺伝子が本発明のDNAに対するプロモーターの支配下に存在するので、レポーター遺伝子がコードする物質の発現をトレースすることにより、プロモーターの活性を検出することができる。
【0071】
例えば、本発明のタンパク質をコードするDNA領域の一部を大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)で置換している場合、本来、本発明のタンパク質の発現する組織で、本発明のタンパク質の代わりにβ−ガラクトシダーゼが発現する。従って、例えば、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−ガラクトピラノシド(X−gal)のようなβ−ガラクトシダーゼの基質となる試薬を用いて染色することにより、簡便に本発明のタンパク質の動物生体内における発現状態を観察することができる。具体的には、本発明のタンパク質欠損マウスまたはその組織切片をグルタルアルデヒドなどで固定し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)で洗浄後、X−galを含む染色液で、室温または37℃付近で、約30分ないし1時間反応させた後、組織標本を1mM EDTA/PBS溶液で洗浄することによって、β−ガラクトシダーゼ反応を停止させ、呈色を観察すればよい。また、常法に従い、lacZをコードするmRNAを検出してもよい。
【0072】
上記スクリーニング方法を用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物から選ばれた化合物であり、本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進または阻害する化合物である。
前記スクリーニング方法で得られた化合物は塩を形成していてもよく、この化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸)や塩基(例、有機酸)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進する化合物またはその塩は、本発明のタンパク質の発現を促進し、その機能を促進することができるので、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの疾病に対する安全で低毒性な予防・治療剤などの医薬として有用である。
【0073】
前記スクリーニング方法で得られた化合物またはその塩を含有する医薬は、前記した本発明のタンパク質またはその塩を含有する医薬と同様にして製造することができる。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
前記化合物またはその塩の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、動脈硬化症の治療目的で本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進する化合物を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該化合物を約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、動脈硬化症の治療目的で本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進する化合物を注射剤の形で通常成人(60kgとして)に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
このように、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、本発明のDNAに対するプロモーターの活性を促進する化合物またはその塩をスクリーニングする上で極めて有用であり、本発明のDNA発現不全に起因する各種疾患の原因究明または予防・治療薬の開発に大きく貢献することができる。
また、本発明のタンパク質のプロモーター領域を含有するDNAを使って、その下流に種々のタンパクをコードする遺伝子を連結し、これを動物の卵細胞に注入していわゆるトランスジェニック動物(遺伝子移入動物)を作成すれば、特異的にそのタンパクを合成させ、その生体での作用を検討することも可能となる。さらに上記プロモーター部分に適当なレポーター遺伝子を結合させ、これが発現するような細胞株を樹立すれば、本発明のタンパク質そのものの体内での産生能力を特異的に促進もしくは抑制する作用を持つ低分子化合物の探索系として使用できる。また該プロモーター部分を解析することにより新たなシスエレメントやそれに結合する転写因子を見つけることも可能である。
【0074】
本明細書および図面において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclature による略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
【0075】
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
【0076】
また、本明細書中で繁用される置換基、保護基および試薬を下記の記号で表記する。
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Ph :フェニル基
TC :チアゾリジン−4(R)−カルボキサミド基
Tos :p−トルエンスルフォニル
CHO :ホルミル
Bzl :ベンジル
Cl2−Bzl :2,6−ジクロロベンジル
Bom :ベンジルオキシメチル
Z :ベンジルオキシカルボニル
Cl−Z :2−クロロベンジルオキシカルボニル
Br−Z :2−ブロモベンジルオキシカルボニル
Boc :t−ブトキシカルボニル
DNP :ジニトロフェニル
Trt :トリチル
Bum :t−ブトキシメチル
Fmoc :N−9−フルオレニルメトキシカルボニル
HOBt :1−ヒドロキシベンズトリアゾール
HOOBt :3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−
1,2,3−ベンゾトリアジン
HONB :1-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド
DCC :N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド
【0077】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕
本発明のヒト脂肪細胞由来タンパク質LIP−1 T556のアミノ酸配列を示す。
〔配列番号:2〕
配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含有する本発明のヒト脂肪細胞由来タンパク質をコードするDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号:3〕
実施例1において、本発明のヒト由来タンパク質をコードするDNAのクローニングに使用した合成プライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:4〕
実施例1において、本発明のヒト由来タンパク質をコードするDNAのクローニングに使用した合成プライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:5〕
実施例2のヒト組織での発現分布の解析において使用した合成プライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:6〕
実施例2のヒト組織での発現分布の解析において使用した合成プライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:7〕
本発明のヒト脂肪細胞由来タンパク質LIP−1 G556のアミノ酸配列を示す。
〔配列番号:8〕
配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含有する本発明のヒト脂肪細胞由来タンパク質をコードするDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号:9〕
実施例3において、本発明のマウス由来タンパク質をコードするDNAのクローニングに使用した合成プライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:10〕
実施例3において、本発明のマウス由来タンパク質をコードするDNAのクローニングに使用した合成プライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:11〕
本発明のマウス由来タンパク質mLIP−1をコードするDNAの塩基配列を示す。
〔配列番号:12〕
本発明のマウス由来タンパク質mLIP−1のアミノ酸配列を示す。
【0078】
以下の実施例1で得られた形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5α/pTB2122は、2000年(平成12年)8月21日から茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)の独立法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(旧 通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(NIBH))に寄託番号FERM BP−7277として、2000年(平成12年)8月8日から大阪府大阪市淀川区十三本町2−17−85(郵便番号532−8686)の財団法人・発酵研究所(IFO)に寄託番号IFO 16463として寄託されている。
また、形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5α/pTB2123は、2000年(平成12年)8月21日から茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)の独立法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(旧 通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(NIBH))に寄託番号FERM BP−7278として、2000年(平成12年)8月8日から大阪府大阪市淀川区十三本町2−17−85(郵便番号532−8686)の財団法人・発酵研究所(IFO)に寄託番号IFO 16464として寄託されている。
以下の実施例3で得られた形質転換体エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5α/pTB2232は、2001年6月14日から茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)の独立法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号FERM BP−7630として、2001年6月5日から大阪府大阪市淀川区十三本町2−17−85(郵便番号532−8686)の財団法人・発酵研究所(IFO)に寄託番号IFO 16649として寄託されている。
【0079】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。なお、大腸菌を用いての遺伝子操作法は、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)に記載されている方法に従った。
実施例1 ヒト脂肪細胞由来脂質分解酵素タンパク質をコードするcDNAのクローニングと塩基配列の決定
ヒト脂肪細胞Marathon-Ready cDNA(CLONTECH社)を鋳型とし、2個のプライマー、プライマー1(配列番号:3)およびプライマー2(配列番号:4)を用いてPCR反応を行った。この反応における反応液の組成は上記cDNA 1μlを鋳型として使用し、Pfu Turbo DNA polymerase(STRATAGENE社)0.2μl量、プライマー1(配列番号:3)およびプライマー2(配列番号:4)を0.5μM、dNTPsを各200μM、および酵素に添付のバッファーを2μl加え、20μlの液量とした。PCR反応は、94℃・1分の後、94℃・1分、60℃・1分、72℃・3分のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃・10分の伸長反応を行った。該PCR反応産物を、ExTaq(宝酒造)を用いて3’末端にアデニンを突出させた後に、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造)の処方に従い、プラスミドベクターpCR2.1(Invitrogen社)へサブクローニングした。これを大腸菌DH5αに導入し、cDNAを持つクローンをアンピシリンを含むLB寒天培地中で選択した。個々のクローンの配列を解析した結果、新規中性脂質分解酵素タンパク質をコードするcDNA配列2種類(それぞれ配列番号:2および配列番号:8)を得た。これらのアミノ酸配列(それぞれ配列番号:1および配列番号:7)を含有する新規脂質分解酵素タンパク質をそれぞれLIP-1 T556およびLIP-1 G556と命名した。これら2種類のcDNA配列およびアミノ酸配列は、556番目の塩基がそれぞれTまたはGであり、186番目のアミノ酸がそれぞれSerまたはAlaである。
またこれらの形質転換体をそれぞれ大腸菌(Escherichia coli)DH5α/pTB2122およびpTB2123と命名した。
【0080】
実施例2 ヒト組織での発現分布の検討
22種類(脂肪組織、大動脈、骨髄、成人脳、大腸、胎児脳、心臓、腎臓、白血球、肝臓、肺、乳腺、卵巣、膵臓、前立腺、骨格筋、小腸、脾臓、精巣、胸腺、子宮、副腎)のヒト組織由来Marathon-Ready cDNA(CLONTECH社)を鋳型とし、2個のプライマー、プライマー1(配列番号:5)およびプライマー2(配列番号:6)を用いてPCR反応を行った。この反応における反応液の組成は上記cDNA 0.5μlを鋳型として使用し、ExTaq(宝酒造)0.1μl量、プライマー1(配列番号:5)およびプライマー2(配列番号:6)を各0.5μM、dNTPsを各200μM、および酵素に添付のバッファーを2μl加え、20μlの液量とした。PCR反応は、94℃・1分の後、94℃・30秒、50℃・30秒、72℃・2分のサイクルを35回繰り返し、最後に72℃・5分の伸長反応をおこなった。得られた反応液5μlを1.5%アガロースゲル電気泳動法により分析をおこなった。
図1にLIP−1の発現分布の結果を示す。
lane 1は脂肪組織、lane 2は大動脈、lane 3は骨髄、lane 4は成人脳、lane 5は大腸、lane 6は胎児脳、lane 7は心臓、lane 8は腎臓、lane 9は白血球、lane 10は肝臓、lane 11は肺、lane 12は乳腺、lane 13は卵巣、lane 14は膵臓、lane 15は前立腺、lane 16は骨格筋、lane 17は小腸、lane 18は脾臓、lane 19は精巣、lane 20は胸腺、lane 21は子宮、lane 22は副腎を示し、分子量マーカーは、100bp marker(100塩基ペアマーカー)を示す。また、三角印は、三角印により示されている位置が、LIP−1のおよその発現位置であることを示す。
【0081】
実施例3 マウス由来脂質分解酵素タンパク質をコードするcDNAのクローニングと塩基配列の決定
マウス17日胚Marathon-Ready cDNA(CLONTECH社)を鋳型とし、2個のプライマー、プライマー1(配列番号:9)およびプライマー2(配列番号:10)を用いてPCR反応を行った。この反応における反応液の組成は上記cDNA 1μlを鋳型として使用し、Pfu Turbo DNA polymerase(STRATAGENE社)0.2μl量、プライマー1およびプライマー2を各1μM、dNTPsを各200μM、GC−Melt(CLONTECH社)0.5Mおよび酵素に添付のバッファーを2μl加え、20μlの液量とした。PCR反応は、94℃・1分の後、94℃・1分、60℃・1分、72℃・2分のサイクルを30回繰り返し、最後に72℃・5分の伸長反応を行った。該PCR反応産物を、ExTaq(宝酒造)を用いて3’末端にアデニンを突出させた後に、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造)の処方に従い、プラスミドベクターpCR2.1(Invitrogen社)へサブクローニングした。これを大腸菌DH5αに導入し、cDNAを持つクローンをアンピシリン含有LB寒天培地中で選択した。個々のクローンの配列を解析した結果、新規中性脂質分解酵素タンパク質をコードするcDNA配列(配列番号:11)を得た。このアミノ酸配列(配列番号:12)を含有する新規脂質分解酵素タンパク質をmLIP−1と命名した。また、この形質転換体を大腸菌(Escherichia coli)DH5α/pTB2232と命名した。
配列番号:12で表されるアミノ配列は、配列番号:1で表されるアミノ酸配列と、83個のアミノ酸が異なっていた。
【0082】
実施例4 ヒトおよびマウスLIP−1遺伝子産物のトリグリセリド分解活性
ヒトLIP−1 T556、LIP−1 G556またはmLIP−1(タンパク質)をコードするcDNAを発現ベクターpCI−Neo(Promega社)にサブクローニングし、それぞれの組み換えプラスミドhLIP−1T/pCI−Neo、hLIP−1G/pCI−NeoおよびmLIP−1/pCI−Neoを得た。PolyFect試薬(Qiagen社)を用いて、これらプラスミドDNA 2μgを6ウエルプレート中のHEK293細胞にトランスフェクションした。48時間後細胞を回収し、250mM Sucrose-10mM Tris・HCl(pH7.5)-1mM EDTA緩衝液中で超音波破砕(20秒)を行った。細胞破砕液中のトリグリセリド分解活性は大須賀らの方法[J.Osuga et al, Proc.Natl.Acad.Sci.97 787-792 (2000)]を一部改変し測定した。
すなわち、105μMトリ[3H]オレオイルグリセロール(99.4μCi/μmole、NEN社)、23.7μMレシチン、12.5μMタウロコール酸ナトリウムおよび85mMリン酸緩衝液(pH7.0)を含む反応液40μl中で37℃にて30分反応後、メタノール/クロロホルム/ヘプタン(141:125:100)1.3mlおよび100mMホウ酸カリウム緩衝液(pH10.5)420μlを加え、撹拌・遠心後、水層中の放射活性を測定した。得られた放射活性値を細胞蛋白量(ピアス社BCAアッセイキットにて測定)で補正後、対照群(非組み換えpCI−Neoベクター導入細胞)の活性値を100%として比較した(表記は平均±標準偏差、N=3)。統計処理はDunnett検定(*p<0.05、**p<0.01)を用いておこなった。
結果を図2に示す。
これより、LIP−1 T556、LIP−1 G556およびmLIP−1遺伝子導入細胞において、トリグリセリド分解活性の有意な増加が認められ、これらの遺伝子産物が新規なトリグリセリド分解酵素であることが明らかである。
【0083】
【発明の効果】
本発明のタンパク質およびそれをコードするDNAは、例えば、動脈硬化症、高脂血症、肥満症、糖尿病などの疾病の予防・治療剤として使用することができる。また、本発明のタンパク質または本発明のタンパク質の遺伝子を発現する能力を有する細胞は、本発明のタンパク質のエステラーゼ活性を促進する化合物またはその塩のスクリーニングのための試薬として有用である。さらに、本発明のタンパク質に対する抗体は、本発明のタンパク質を特異的に認識することができるので、被検液中の本発明のタンパク質の定量などに使用することができる。
【0084】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト組織におけるLIP−1の発現分布の結果を示す。
【図2】各遺伝子導入細胞のトリグリセリド分解活性結果を示す。
Claims (16)
- 配列番号:1で表されるアミノ酸配列または配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはその塩。
- 以下の(a)〜(d)からなる群から選択されるタンパク質またはその塩:
(a)配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(c)配列番号:1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつエステラーゼ活性を有するタンパク質;および
(d)配列番号:7で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつエステラーゼ活性を有するタンパク質。 - 配列番号:1で表されるアミノ酸配列を含む請求項1または2記載のタンパク質またはその塩。
- 配列番号:7で表されるアミノ酸配列を含む請求項1または2記載のタンパク質またはその塩。
- 配列番号:12で表されるアミノ酸配列を含む請求項2記載のタンパク質またはその塩。
- トリグリセリド分解活性を有する請求項1〜5記載のタンパク質もしくはその塩。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
- DNAである請求項7記載のポリヌクレオチド。
- 配列番号:2または配列番号:8で表される塩基配列を含む請求項8記載のDNA。
- 配列番号:11で表される塩基配列を含む請求項8記載のDNA。
- 請求項7記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
- 請求項11記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
- 請求項12記載の形質転換体を培養し、請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質を生成、蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質またはその塩の製造法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質またはその塩に対する抗体。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質またはその塩を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質またはその塩のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質またはその塩を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質またはその塩のエステラーゼ活性を促進または阻害する活性を有する化合物またはその塩のスクリーニング用キット。
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