図4は、本発明の一実施形態にかかる流体温度制御装置の機械的なシステム構成を示す。
この流体温度制御装置100において、太い実線ラインで示された経路101は作動流体の循環する経路である。そこでは、タンク102からポンプ103により送り出された作動流体が、まず分れてメイン路104とバイパス路105とに入り、メイン路104では冷却用の熱交換器106を通り、次に合流してからハロゲンランプを用いたランプヒータ(加熱用の熱交換器)108を通り、そして、図示しない真空チャンバなどの負荷へ供給され、その後、再びタンク102に戻るようになっている。バイパス路105には、そこを流れる作動流体の流量を測る流量センサ107がある。ランプヒータ108の出口(この流体温度制御装置100の出口)には、その出口での作動流体の現在温度(負荷に供給される作動流体の現在温度)を測る温度センサ109がある。作動流体は、この経路100を常に一定の流量で流れ、熱交換器106を通るときに冷却され、ランプヒータ108を通るときに加熱されることで、その温度が制御される。
細い実線ラインで示された経路111は、作動流体を冷やすための冷却水の流れる経路である。そこでは、ポンプ103により送り出された冷却水が、まず分れてメイン路113とバイパス路115に入り、メイン路113では熱交換器106を通り、そして合流し、定流量弁117により制御された一定流量で流れている。メイン路113とバイパス路115には、それぞれ、冷却水の流量を制御する比例弁112、114が設けられている。
図5は、この流体温度制御装置100の制御動作を行なうハードウェアの構成を示す。
図示のように、CPUボード(コントローラ)121は、温度センサ109から、負荷へ供給される作動流体の温度の検出値を取り込み、流量センサ107から、熱交換器106をバイパスした作動流体の流量の検出値を取り込み、また、ランプヒータ108から、ランプに流れる電流の検出値を取り込む。そして、コントローラ121は、出口での作動流体の温度を所定の目標温度に一致させるために、上記の検出値に基づいて、後述する演算処理を行ない、その結果に従って、冷却水の流量を制御するための比例弁112、114を開き量を制御したり、ランプヒータ108の出力パワーを制御したりする。コントローラ121はまた、ポンプ103の起動や停止も行なう。コントローラ121には、操作パネル122及びホストコンピュータ123と接続されており、操作パネル122又はホストコンピュータ123から送られてくる指令に従って、上述した制御動作の開始や終了、目標温度の設定などを行なう。
図6は、コントローラ121の基本的な機能構成を示す。
コントローラ12の機能は、弁コントローラ131とランプコントローラ132に大別される。弁コントローラ131は、冷却水量を制御する比例弁112、114の開き量を制御するものである。ランプコントローラ132は、ランプヒータ108の出力パワーを制御するものである。弁コントローラ131とランプコントローラ132の2種類の制御が相俟って、作動流体の出口での現在温度(PV)を目標温度(SV)に制御するわけであるが、弁コントローラ131の制御とランプコントローラ132の制御の役割は次のように異なる。
すなわち、作動流体の現在温度(PV)を目標温度(SV)に制御する役割を直接的に担うのは、ランプコントローラ132の制御下にあるランプヒータ108である。そのため、ランプコントローラ132は、現在温度(PV)と目標温度(SV)を入力し、両者の偏差に対してPID演算を行なって、偏差をゼロにするようにランプヒータ108の出力パワーを制御する。ランプヒータ108の出力パワーは、高速に且つ高精度に制御し得るので、これによって作動流体の温度を制御することで、応答性が高く且つ精度の高い温度制御が可能となる。
一方、熱交換器106での冷却水による冷却量の制御は、応答性が低く、制御精度も低い。そこで、弁コントローラ131が行う冷却量制御の役割は、ランプヒータ108の出力パワーを上述の役割を果たすための所定の適正出力範囲内に入れるように制御することにある。そのため、弁コントローラ131は、作動流体の目標温度(SV)と現在温度(PV)とランプコントローラ132の出力パワー(特に、例えば、温度検出誤差などの外乱の影響を受け難い積分成分)とを入力し、これらの入力量を用いて後述する方法で演算処理を行ない、その結果に基づいて比例弁112、114を操作する。
以上述べた基本的な構成において、特に、弁コントローラ131が行なう比例弁112、114の具体的な制御方法において本発明に原理が適用されている。そこで、以下では、弁コントローラ131が行なう比例弁112、114の制御方法について詳細に説明する。
比例弁112、114の制御で新規に採用された主要な事項を挙げると次の通りである。
(1) 熱交換器106がもつ非線形な冷却特性を補償するテーブルと、比例弁112、114がもつ非線形な流量特性を補償するテーブルとの2種類のテーブルを使用する。
(2) 比例弁112、114の流量特性を補償するテーブルは、各パルス数位置に対する絶対流量という絶対値ではなく、各パルス数位置に対して、その位置からパルス数を単位量(例えば、1パルス)だけ変えたときに生じる流量の変化率(例えば、冷却水の全流量に対する流量変化量の比)という相対値で定義している。
(3) 比例弁112、114の流量特性を補償するテーブルは、個々の比例弁の個性(固体差)を表したパラメータをこのテーブルに適用することによって、個々の比例弁に適合したものになるようになっている。
(4) 過渡時(現在温度と目標温度の偏差が大きいとき)には、現在温度の変化速度に応じて比例弁制御を行なう。
(5) 整定時(現在温度と目標温度の偏差が小さいとき)には、ランプヒータ108の出力パワー(特に、温度検出誤差などの外乱の影響を受け難い積分成分)を参照し、これを所定の適正出力範囲内に収めるように比例弁を制御する。そのとき、出力パワーが適正出力範囲外へ出た場合には、両者間の偏差の大きさに応じて比例弁を操作する。
(6) 整定時(現在温度と目標温度の偏差が小さいとき)には、オーバーシュートを素早く抑えて整定時間(現在温度が目標温度に達した時点から、負荷外乱を加えても、つまり、真空チャンバでプロセスを開始しても、現在温度を目標温度に良好に維持することができる安定状態(以下、レディ状態という)になるまでの時間)を短くするために、レディ状態になるまでの初期段階では制御ゲインを通常より高くして比例弁の応答性を高める。
(7) 比例弁の特性に起因するハンチングを抑制する機能がある。
(8) 具体的に使用されている比例弁の流量特性を自動的に検出して、その比例弁に適したパラメータを決定し、そのパラメータを比例弁特性補償テーブルに適用するオートチューニング機能がある。
また、ランプコントローラ132が行なうランプヒータ108の出力制御にも、次の新しい事項が採用されている。
(9) 過渡時と整定時の上述したレディ状態になるまでの初期段階では、速度型I−PD制御を採用し且つゲインを高めに設定することで、オーバーシュートを小さく抑える。また、レディ状態になった後は、ゲインを低めに設定することで、安定性を確保する。
以下、これらの新規な事項について順に説明する。
図7は、弁コントローラ131が行なう比例弁制御の全体的な流れを示す。
図示のように、過渡/整定判定(ステップ141)を行ない、その結果、過渡時と判断すれば過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)を実行し、整定時と判断すれば整定時の比例弁制御(ステップ143)を実行する。過渡時の比例弁制御(ステップ142)では、作動流体の現在温度の変化速度と、その変化速度についての所定の目標値(目標変換速度)との偏差に対して制御演算を行なう。一方、整定時の比例弁制御(ステップ143)では、ランプコントローラ132の行なうランプ制御(ステップ149)からフィードバックされるランプヒータ108の出力パワー(参照ランプ出力)と、所定の適正ランプ出力幅との偏差に対して制御演算を行なう。
過渡時も整定時も、比例弁制御の演算結果144は、熱交換器106の冷却能力についての操作量(現在の冷却能力と操作後のそれとの間の差分)を示している。この冷却能力操作量144に対して、次に、熱交換器106のもつ非線形な冷却特性を補償するためのテーブル(熱交換器補償テーブル)を適用する(ステップ145)。その結果出てくる数値146は、冷却水流量についての操作量(現在の冷却水流量と操作後のそれとの間の差分)を示している。この冷却水流量操作量146に対して、次に、比例弁112、114のもつ非線形な流量特性を補償するためのテーブル(比例弁補償テーブル)を適用する(ステップ147)。なお、ここで、2つの比例弁112、114に対して、その各々の特性に適合させた2種類の比例弁補償テーブルをそれぞれ適用してもよいが、実用上は、処理を簡単にするために、より高精度な制御が要求されるメイン路の比例弁112の特性に適合させた1種類のテーブルを両比例弁112、114に適用することができる。以上の制御処理で最終的に得られた数値148は、比例弁112、114の各々の操作量(各弁を駆動するモータドライバに加えるパルス数であり、現在のパルス数位置と操作後のそれとの差分)を示している。
図8は、図7のステップ141に示した過渡/整定判断の一つの方法例の流れを示す。
図示のように、作動流体の温度調節を開始すると(ステップ151)、まず、作動流体の現在温度(PV)と所定の目標温度(SV)とを比較し(ステップ152)、両者が一致してれば、整定時であると判断して、前述したように整定時の比例弁制御動作(ステップ143)に入る。一方、現在温度(PV)が目標温度(SV)とは異なっていれば、過渡時であると判断して、前述したように過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)に入る。
過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)を行なっている間、周期的に、現在温度(PV)と所定の目標温度(SV)とを比較し(ステップ153)、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達してない間は、まだ過渡時であると判断して、過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)を続け、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達すると、整定時になったと判断して、整定時の比例弁制御動作(ステップ143)に入る。
図9は、過渡/整定判断の別の方法例の流れを示す。
図示のように、作動流体の温度調節を開始すると(ステップ161)、まず、作動流体の現在温度(PV)と所定の目標温度(SV)とを比較し(ステップ162)、両者が一致してれば、整定時であると判断して、前述したように整定時の比例弁制御動作(ステップ143)に入る。一方、現在温度(PV)が目標温度(SV)とは異なっていれば、過渡時であると判断して、前述したように過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)に入る。
過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)を行なっている間、周期的に、作動流体を昇温中なのか降温中なのか及び目標温度(SV)が40℃以上か未満かを判断する(ステップ163)。ここで、40℃とは、作動流体の温度がそれよりも高いか低いかで、冷却水流量の変化が作動流体の温度変化に及ぼす影響が特に大きいか否かの違いが出てくる、大体の目安として定めた閾値である。この判断の結果、降温中で且つ目標温度(SV)が40℃以上の場合には、次に、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達するのに要する時間を、現在温度(PV)の現在の変化速度から推定し、その推定された到達所要時間が60秒以上か未満かを判断する(ステップ164)。ここで、60秒とは、比例弁の操作を停止してからその効果が作動流体の温度に実際に現われるまでの遅れ時間の大体の予想値として定めた値である。その判断の結果、到達所要時間が60秒以上あるときには、まだ過渡時であると判断して、過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)を続ける。その後、到達所要時間が60秒を切ると、ステップ166へ進み、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達するまで、比例弁操作を停止し続け(ステップ166)、その後、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達すると、整定時になったと判断して、整定時の比例弁制御動作(ステップ143)に入る。このように、降温中で且つ目標温度(SV)が40℃以上である場合には、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達するより60秒前の時点で、早々に過渡時の制御を切り上げ、整定時になるまで比例弁操作を停止することの理由は、特に大きい冷却能力をもって降温する時に発生し易いオーバーシュート(つまり、アンダーシュート)量を効果的に低減するためである。
他方、ステップ163の判断の結果、昇温中であるか又は目標温度(SV)が40℃未満である場合には、ステップ165へ進み、図7に示した方法例と同様に、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達してない間は、まだ過渡時であると判断して、過渡時の比例弁制御動作(ステップ142)を続け、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達すると、整定時になったと判断して、整定時の比例弁制御動作(ステップ143)に入る。
図10は、図7〜図9にステップ142で示した過渡時の比例弁制御の流れを示す。
過渡時の比例弁制御は、作動流体の温度(PV)を目標温度に向けて一定の速度で上昇又は下降させるものである。図示のように、作動流体の現在温度(PV)の変化速度を求め、これと所定の目標変化速度との偏差を計算し(ステップS171)、その変化速度の偏差を所定の周期(例えば250m秒)でサンプリングし(ステップ172)、サンプリングした偏差に対して、所定の制御ゲイン(Kp)を用いてPI演算(又はPID演算)を行なう(ステップ173)。この演算の結果は、熱交換器106の冷却能力の操作量(現在と操作後間の差分)を示している。そして、現在昇温中であるか降温中であるかを判断し(ステップ174)、昇温中のときには、PI演算で得られた操作量に対して、冷却能力を増やす(メイン路の比例弁112を開く)方向の操作量はカットし、冷却能力を減らす(比例弁112を閉じる)方向の操作量のみを通すフィルタを施す(ステップ175)。また、降温中のときには、PI演算で得られた操作量に対して、冷却能力を減らす(比例弁112を閉じる)方向の操作量はカットし、冷却能力を増やす(比例弁112を開く)方向の操作量のみを通過させるフィルタを施す(ステップ176)。次に、フィルタを通過した操作量に対して、冷却能力を増やす場合でも減らす場合でも、所定の限界値より絶対値の大きい操作量はカットし、その限界値以下の絶対値をもった操作量のみを通すリミッタを施す(ステップ177)。このリミッタを通った操作量が、最終的に出力される冷却能力の操作量である。
ここで、目標変化速度は、ランプヒータ108による温度制御の応答速度とほぼ同等の値に設定される。熱交換器108等のもつ熱容量による遅れにより、現在温度が目標温度に到達した後にも、その直前まで行なわれていた過渡時の制御による温度変化は、徐々に緩やかになりつつ継続する。目標変化速度が、ランプヒータ108による温度制御の応答速度とほぼ同等であると、目標温度到達後に同じ速度で温度変化が続いたとしても、その温度変化を、ランプヒータ108の出力制御によって抑え込むことができる。制御ゲイン(Kp)には、小さめの値が設定される。それにより、穏やかに比例弁が操作されることになり、比例弁操作の行き過ぎ(開き過ぎ/閉じ過ぎ、つまり、冷やし過ぎ/冷やしなさ過ぎ)が抑制される。
ステップ175、176のフィルタは、比例弁操作に多少の行き過ぎが生じたとしても、比例弁操作を戻さないことを意味する。一定速度の昇温又は降温を維持するためには、原理的に一方向への比例弁操作を行ない続ける必要がある。すなわち、一定速度の昇温を維持する場合には、同じ冷却水流量では作動流体温度の上昇に伴い冷却能力が増大するので、冷却水流量を減らす(比例弁112を閉じる)操作を続ける必要がある。また、一定速度の降温を維持する場合には、同じ冷却水流量では温度の下降に伴い冷却能力が減少するので、冷却水流量を増やす(比例弁112を開く)操作を続ける必要がある。そのため、昇温時には比例弁112を閉じる操作に多少の行き過ぎがあっても、また、降温時には比例弁112を開く操作に多少の行き過ぎがあっても、その行き過ぎた操作は若干の時間後には適正量の操作に一致することになる。よって、比例弁操作が多少行き過ぎても、それを戻さないほうが、かえって、円滑な制御ができる。
ステップ177のリミッタの目的は、ランプヒータ108の出力能力では対応し得ない極端に大きい冷却能力操作を防止するためにある。そのため、リミッタの限界値は、ランプヒータ108の100%出力パワー(例えば、3kW)に相当する冷却量能力操作量(冷却量差分/秒)に設定されている。
図11は、図7〜図9にステップ143で示した整定時の比例弁制御の流れを示す。
整定時の比例弁制御は、ランプヒータ108の出力が所定の適正な範囲に収まるように、比例弁を操作して冷却水量を制御するものである。図示のように、ランプコントローラ132(図6参照)からフィードバックされた参照ランプ出力を、所定の下限値ULと上限値UHをもった適正出力範囲と比較し、参照ランプ出力が下限値ULを下回っているときには参照ランプ出力と下限値ULとの偏差を、参照ランプ出力が上限値UHを上回っているときには参照ランプ出力と上限値UHとの偏差を、参照ランプ出力がこの適正出力範囲内に収まっているときには値ゼロの偏差をそれぞれ出力する(ステップ181)。この偏差を所定の周期(例えば250m秒)でサンプリングする。そして、現在レディ状態になっているか否かを判定する(ステップ183)。ここで、レディ状態とは、現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達した後、所定の熱量(例えば、目標温度が40℃以上の場合には1.5kw、40℃未満の場合には1kw)の負荷外乱が発生しても、現在温度(PV)を目標温度(SV)に所定の精度(例えば、±1℃)で維持することができる状態を意味する。レディ状態の具体的な判定方法については後に説明する。
レディ判定の結果、まだレディ状態になっていなければ、サンプリングした偏差に対して、比較的に大きい値の制御ゲイン(Kp1/TI)を用いたPI演算(又はPID演算)を施し(ステップ184)、また、レディ状態になっていれば、サンプリングした偏差に対して、比較的に小さい値の制御ゲイン(Kp2/TI)(例えば、Kp1/TIの半分の値)を用いたPI演算を施す(ステップ185)。このPI演算の結果は、熱交換器106の冷却能力の操作量(現在と操作後間の差分)を示している。次に、この冷却能力操作量に対して、図10の過渡時の制御で既に説明したステップ177と同様のリミッタを施す(ステップ186)。このリミッタを通った操作量が、最終的に出力される冷却能力の操作量である。
上述した参照ランプ出力には、ランプコントローラ132でのPID演算で得られるP、I、Dの各成分のうちのI(積分)成分を原則として用いる。この積分成分は、温度検出誤差などの外乱に影響され難く(外部の負荷外乱には反応する)、冷却水による現在の冷却量を最も近く表しているからである。但し、後述するように、ランプ制御のPID制御の方法が、レディ状態になる前と後では違っており、レディ状態になった後は位置型PID制御を行なうので、積分成分を独立して取り出すことができるが、レディ状態になる前はオーバーシュートを抑制し易い速度型I−PD制御を行なうため、積分成分を独立して取り出すことはできない。そのため、参照ランプ出力として積分成分を用いるのはレディ状態になってからであり、レディ状態になる前は、P、I、Dの全成分を含んだ値を使用する。
ステップ181の適正出力範囲(下限値ULと上限値UH)は、例えば、下限値ULがランプヒータ108の30%出力パワー(例えば、0.9kW)、上限値UHが60%出力パワー(例えば、1.8kW)に相当する値に設定されている。ランプ出力が下限値UL以上であれば、予想される最大量(例えば1.5kW)の負荷外乱(作動流体温度を上昇させるもの)が発生した時でも、比例弁が応答するまでの間、ランプ出力の制御だけで、所定精度(例えば±1℃)で目標温度を維持できる状態にある。そして、下限値ULと上限値UHの差(適正出力範囲の幅)は、比例弁操作が行なわれてから作動流体温度が実際に変化するまでの遅れ時間中に、比例弁操作が更に進んでランプ出力の変動が行き過ぎ、次にそれを修正するために比例弁操作が戻されて、それも上記遅れ時間のために戻し過ぎてランプ出力が逆方向い行き過ぎてしまうというような、ハンチングが発生することを防止する目的で設定されたものある。つまり、この適正出力範囲の幅は、その幅内でのランプ出力の変動には比例弁制御を反応させないようにすることでハンチングを防止するという目的から、適切な幅(例えば、30%ランプ出力相当)に設定されている(この幅が狭いほど、ハンチングが発生する可能性が高くなる)。なお、図11には示してないが、整定時の比例弁制御(特に、レディ状態になる前の制御)では、万一ハンチングが発生した場合に制御ゲインを小さくすることでハンチングを抑制する処理が付加されており、このハンチング抑制処理については後に説明する。
ステップ184、185における制御ゲイン(Kp1/TI、Kp2/TI)は、ランプ制御が追従できる範囲内で設定される。すなわち、この制御ゲインが高すぎると、ランプ制御が追従できず、比例弁操作時の作動流体温度の変動が大きすぎることになるので、そうなる虞のない高すぎない範囲内で設定される。レディ状態になる前の比例ゲイン(Kp1)は比較的に高く設定され、それにより、比例弁の応答が速くなり、オーバーシュートを抑制し易い。一方、レディ状態になった後の比例ゲイン(Kp2)は比較的に低く設定され、それにより、比例弁の応答が遅くなり、制御が安定化する。積分時間TIは、熱交換器106における温度変化の時定数に大体相当する値に設定される。
図12は、図7のステップ145で用いる熱交換器補償テーブルの機能を示している。
図示のように、熱交換器補償テーブル190は、熱交換器106がもつ非線形な冷却特性(Pcx)のほぼ逆の特性(Pcx-1)を持っており、冷却能力の操作量を、冷却水流量の操作量に変換する機能をもつ。熱交換器補償テーブル190の特性(Pcx-1)は、作動流体の現在温度(PV)の関数となっている。すなわち、作動流体温度(PV)によって、同じ冷却能力操作量に対する冷却水流量操作量は違ってくる。熱交換器補償テーブル190上で、冷却能力操作量は、例えば、ランプヒータ108の定格出力パワーに対する比[%]で定義されている。また、冷却水流量操作量は、冷却水の全流量(一定値であり、例えば、10L/min)に対する熱交換器106に流れる冷却水流量の比(例えば、1%=100cc/min)で定義されている。熱交換器補償テーブル190の特性(Pcx-1)は、熱交換器106の特性(Pcx)の実測結果又は計算結果に基づいて決定されている。
図13は、熱交換器補償テーブル190の特性(Pcx-1)の具体例を示す。
図13において、横軸は、作動流体温度(PV)を示している。縦軸は、100%ランプ出力(例えば、3kW)相当の冷却能力を発生するために必要な冷却水流量操作量(全流量(例えば10L/min)に対する操作量の比)を示している。図中の実線グラフ191は、このテーブル190の設定値(このテーブル190の特性(Pcx-1))を示している。また、円形ドットのプロットと正方形ドットのプロットは、それぞれ、冷却水温度が予想される最低値15℃と最高値30℃である時における、熱交換器106のもつ実際の特性(Pcx)の逆特性を示している。
図示のように、このテーブル190の設定値は、冷却水温度が最低値15℃であるときの熱交換器106の特性(Pcx)にほぼ対応したものとなっている。テーブル特性(Pcx-1)を冷却水温度が最低値15℃である場合に適合させた理由は、冷却水温度が最低値15℃であるとき、熱交換器106は最も大きい冷却能力を発揮し、よって、比例弁制御には最高の精細さが要求されるからである。冷却水温度が高くなる程、比例弁制御をより粗く行なうことが許されるようになる。
このテーブル190を用いることで、冷却能力操作量から冷却水流量操作量を次のようにして求めることができる。例えば、作動流体の現在温度(PV)が50℃であるとき、冷却能力操作量が10%と計算されたとする。このテーブル190によれば、現在温度(PV)が50℃のとき、100%の冷却能力を発生するための冷却水流量操作量は15%である。よって、10%の冷却能力操作量に対応する冷却水流量操作量は1.5%である。ここで、100%の冷却水流量操作量が10L/minであるから、1.5%の冷却水流量操作量とは0.15L/minである。
図14は、図7のステップ147で用いる比例弁補償テーブルの機能を示している。
図示のように、比例弁補償テーブル200は、比例弁がもつ非線形な流量特性(Pcv)のほぼ逆の特性(Pcv-1)を持っており、冷却水流量の操作量を、比例弁の操作量(パルス数)に変換する機能をもつ。比例弁補償テーブル200の特性(Pcv-1)は、比例弁の現在位置(現在のパルス数位置)(PL)の関数となっている。すなわち、比例弁位置(PL)によって、同じ冷却水流量操作量に対する比例弁操作量は違ってくる。比例弁補償テーブル200上で、冷却水流量操作量は、例えば、冷却水の全流量(一定値であり、例えば、10L/min)に対する熱交換器106に流れる冷却水流量の比(例えば、1%=100cc/min)で定義されている。比例弁操作量は、現在位置から更に弁を開く又は閉じるために加えるべきパルス数(現在位置からの相対値)である。比例弁補償テーブル200の特性(Pcv-1)は、同機種の多数の比例弁の特性(Pcv)の実測結果に基づいて決定されている。
図15は、或る機種の多数の比例弁の特性を実測した結果を示している。
図15において、横軸は、各比例弁のパルス数位置(全閉状態を原点とした絶対値)を示しており、縦軸は、各比例弁の圧力損失(Cv値)を示している。図中の実線の特性曲線201は、実測した多数の比例弁の特性曲線のうち図中で最も左側に寄ったものを示し、点線の特性曲線202は、実測した多数の比例弁の特性曲線のうち図中で最も右側に寄ったものを示している。他の比例弁の特性曲線は、図示の2本の特性曲線201、202の間に存在していた。
実測結果から分ったことは、全ての比例弁の特性曲線は、図示の特性曲線201、202とほぼ同じ形状をもち、固体間で相違するのは、主として、横軸方向の位置(パルス数位置)だけである、ということである。よって、比例弁の流量特性の固体差とは、実質的に、図中の横軸方向の位置シフトのみであると言うことができる。図示の特性曲線201、202の形状が示すように、全閉状態からパルスを加えていくと、しばらくはCv値はゼロのままであるが、或るパルス数位置203、204でCv値が急に立ち上がる。このパルス数位置203、204を、この明細書では比例弁特性の「第1急変部」と呼ぶ。さらにパルスを加えていくと、第1急変部からしばらくはCv値はほぼ一定であるが、或るパルス数位置205、206でCv値は増加し始める。この位置205、206を、この明細書では比例弁特性の「第2急変部」と呼ぶ。この第2急変部からは、パルス数の増加に伴ってCv値も増大していく。
図16は、図15に示した実測特性に基づいて作成された比例弁補償テーブル200の特性(Pcv-1)の具体例を示す。
図16において、横軸は、図15に示した各比例弁の第1急変部203、204を原点とした場合の各比例弁のパルス数位置を示している。縦軸は、バイパス路のCv値が一定(例えば、=1.5)であるという条件下で、メイン路の比例弁112を各パルス数位置から1パルスだけ移動させた時に生じるメイン路の冷却水流量の変化量を示している。この縦軸の変化量は、冷却水全流量(例えば、10L/min)に対する比[%](例えば、1%=0.1L/min)で表現してある。図中の細実線の特性曲線207は、図15に示した実測された特性曲線201、202の一つに対応するものである。第1急変部203、204のパルス数位置を横軸の原点としてあるため、比例弁特性の固体差が除去され、よって、全ての比例弁の特性は、図示の特性曲線207とほぼ同じものとなる。この特性曲線207において、部分208が第1急変部、部分109が第2急変部である。図中の太実線の特性曲線210は、比例弁補償テーブル200の設定値、つまり比例弁補償テーブル200の特性(Pcv-1)である。この比例弁補償テーブル200の設定値210は、機械処理の都合から簡略な形状になってはいるが、実質的に、固体差を除去した全比例弁の実際の特性207とほぼ同じである。
上記説明から明らかなように、比例弁補償テーブル200の設定値210は、同機種の全ての比例弁の特性から個性(固体差)を除去した共通部分を表すであるため、同機種の全ての比例弁に共通に適用することができる。ここで、各比例弁の個性(固体差)は、図15に示した各比例弁の第1急変部203、204の絶対的なパルス位置に代表的に反映される。そこで、比例弁補償テーブル200では、各比例弁の個性(例えば、第1急変部203、204の絶対的なパルス位置)を表した数値を、パラメータとして取り込めるようになっている。加えて、比例弁の具体的特性に影響を及ぼす他の装置特性(圧力損失など)も、同様にパラメータとして取り込めるようになっている。取り込んだパラメータに対応するパルス数だけテーブル200のパルス数位置(図16に示したパルス数)がシフトされ、それによって、比例弁補償テーブル200の特性を各比例弁の個性にマッチすることになる。上記のパラメータは、後述するオートチューニングを行なうことで、自動的に決定される。
上述した熱交換器補償テーブル190と比例弁補償テーブル200を、図7に示したように、比例弁制御処理の後段で組み合わせて用いることにより、熱交換器の非線形な冷却特性と比例弁の非線形な流量特性を良好に補償することができる。よって、比例弁制御処理においては、熱交換器と比例弁の非線形特性を考慮する必要が無くなる。また、使用する比例弁や熱交換器の要素を具体的な機種を変更した場合、該当するテーブルだけを変更することで対応できる。また、熱交換器補償テーブル190と比例弁補償テーブル200は、比例弁や熱交換器がそれぞれ持つ実際の特性から容易に作ることができるので、精度の高いものが得られる。
比例弁補償テーブル200では、パルス数位置が全閉位置を原点とした絶対的なパルス数ではなく、個々の比例弁ごとの第1急変部を原点とした相対的なパルス数で定義されており、個々の比例弁の個性や、その比例弁が用いられる装置環境の特性(例えば、配管の圧力損失など)はパラメータとして取りこんでそれに適合化することができる。そのため、従来のように固体差を考慮した広いマージンが無くなり、従来よりも制御の応答性が向上する。また、比例弁補償テーブル200では、流量についても、各パルス数位置における絶対的な流量ではなく、各パルス数位置で1パルス移動したら流量が全体の何%変化するかという相対値で定義してあるので、経時変化などによる比例弁特性の変化に対しても頑強である。
ところで、図4に示したように、メイン路113の比例弁112とバイパス路115の比例弁114が存在し、その2つの比例弁112、114の各々に対して、それぞれに適合した別の比例弁補償テーブルを適用することができる。しかし、実用上は、メイン路113の比例弁112に適合させた1つの比例弁補償テーブルを、メイン路113の比例弁112だけでなく、バイパス路115の比例弁114にも適用することで、処理を簡単化しても差し支えない。その一つの理由は、図4に示す定流量弁117の作用により、2つの比例弁112、114を合わせた圧力損失に関わらず、冷却水の全体流量は常に一定であり、そして、2つの比例弁112、114の操作は、片方ずつ行なうことができ、一方を操作しているときは、他方を全開状態にしているからである。また、別の理由は、目標温度(SV)の可変範囲の殆どの領域について、冷却能力の制御の為に操作されるのは専らメイン路113の比例弁112のみであり、そして、目標温度(SV)が低い一部の領域でのみ、バイパス路115の比例弁114が操作されるが、その領域での比例弁操作は粗い分解能で足り、高精細な操作は要求されないからである。
図17は、図11の整定時の比例弁制御においてステップ183で示したレディ判定の処理流れを示す。
図示のように、作動流体の温度調整動作が開始されると(ステップ211)、まず、作動流体の現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達したか否かを判断する(ステップ212)。目標温度(SV)に到達する前は、前述した過渡時の比例弁制御が行なわれるので、レディ判定を行なう余地はない。現在温度(PV)が目標温度(SV)を通過すると、前述した整定時の比例弁制御が開始される。整定時の比例弁制御が開始されると、その比例弁制御が確実に稼動に入る時間(例えば1秒)だけ待って(ステップ213)から、オーバーシュートが終わったか否かを判断し(ステップ214)、オーバーシュートが終わるまで待つ。オーバーシュートが終わると、レディ判定(ステップ183)に入る。
レディ判定に入ると、まず、その前の過渡時の制御が昇温であったか降温であったかを判断する(ステップ215)。過渡時に降温を行なったならば、オーバーシュートが終わった時点で、ランプ出力は、今までオーバーシュート(つまり、アンダーシュート)を抑えていたために、大きい値になっている(図11に示した適正ランプ出力範囲の下限値ULより確実に大きい値である)。よって、直ちに負荷外乱が発生しても、ランプ出力を下げて負荷外乱を十分に吸収し得るので、直ちにレディ状態になったと判断する(ステップ219)。
他方、ステップ215の判断の結果、過渡時に昇温を行なっていた場合には、オーバーシュートが終わった時点では、ランプ出力は今までオーバーシュートを抑えていために低い値になっている(図11に示した適正ランプ出力範囲の下限値ULより小さい可能性がある)。この場合には、冷却水で作動流体を或る程度冷やし、その分でランプ出力を下限値UL以上に引き上げないと、レディ状態にならない。そこで、まず、ステップ216で、メイン路の比例弁112のパルス数位置が第2急変部(図15参照)以上であるか否かを判断する。比例弁112のパルス数位置が第2急変部未満(図15で第2急変部の左側)である場合には、比例弁112は直ちに開くことができない(負荷外乱が発生しても比例弁112は直ぐに反応できない)。そこで、その場合には、ランプ出力Uが下限値ULより高いか低いかを判断し(ステップ217)、ランプ出力Uが下限値ULより確実に高くなるまで待って、レディ状態になったと判断する(ステップ219)。
一方、ステップ216の判断の結果、比例弁112のパルス数位置が第2急変部以上(図15で第2急変部の右側)である場合には、比例弁112は直ちに開くことができ、負荷外乱が発生しても比例弁112は直ぐに反応できる。そこで、その場合には、ランプ出力Uが下限値ULより若干量(例えば10%)だけ低い値を超えたかどうかを判断し(ステップ219)、その若干量だけ低い値を上回れば(つまり、下限値ULに近づいた段階で早めに)、レディ状態になったと判断する(ステップ219)。
このようにして、ランプ出力や温度変化や比例弁開度などの装置の諸状態からレディ状態であるか否かを判断することにより、装置の状態が実際にレディ状態になるや否や、レディ状態になったと判断でき、無駄に時間待ちすることなしに、素早く真空チャンバのプロセスを開始することができる。
図18は、整定時の比例弁制御(特に、レディ状態になる前の制御)で行なわれるハンチング抑制処理の流れを示す。
ここでいうハンチングとは、比例弁操作によって、ランプ出力が上述した適正ランプ出力範囲(下限値ULと上限値UH)を超えて変動している状態をいう。ハンチング発生すると、それを抑制するために比例弁が短時間に開閉動作を繰り返すので、そのような比例弁の動作を検出することで、ハンチングを検知することができる。
図18に示すように、作動流体の温度調節動作が開始されると(ステップ211)、過渡/整定判断を行ない(ステップ212)、整定時と判断すると、前述した整定時の比例弁制御(図18では図示省略)を開始するとともに、ハンチング抑制処理を開始する(ステップ213)。ハンチング抑制処理では、まず、前述したレディ判定の結果を参照する(ステップ214)。その結果、既にレディ状態になっていれば、ハンチングの発生のおそれは最早ないので、このハンチング抑制処理を終了する。
ステップ214の判断の結果、レディ状態に未だなっていない場合、次に、ハンチングが発生しているか否かを判断する(ステップ215)。ここでは、例えば、最近60秒以内に比例弁の開操作と閉操作のセットを3回以上繰り返したか否かをチェックし、そうであれば、ハンチングが発生していると判断する(ステップ216)。ハンチングが発生している場合、それを抑制するために、制御の比例ゲイン(Kp)を半分に下げる(つまり、レディ状態時の制御ゲイン(図11のブロック185の値)と同じ値にまで下げる)(ステップ217)。
その後、ステップ214に戻り、依然としてステップ215で60秒間に3回以上の開閉操作があれば、ハンチングが継続していると判断し(216)、比例ゲイン(Kp)を現在値の更に半分に下げる(ステップ217)。こうして、ハンチングが収束するまで、比例ゲイン(Kp)を小さくしていく。ハンチングが収束し(ステップ215で3回未満)、そしてステップ214でレディ状態になると、ハンチングの発生のおそれは最早ないので、比例ゲイン(Kp)をレディ状態時の規定値(図11のブロック185の値)に設定し(ステップ218)、このハンチング抑制処理を終了する。
以上、弁コントローラ131(図6参照)が行なう比例弁112、114の制御について一通り説明した。次に、ランプコントローラ132(図6参照)が行なうランプヒータ108の制御について説明する。
図19は、ランプコントローラ132が行なうランプヒータ108の制御の全体的流れを示す。
図示のように、作動流体の温度調整動作を開始すると(ステップ231)、まず、PID制御の制御ゲイン(Kp)に所定の大きいゲイン値を設定し(ステップ232)、そして、その大きい制御ゲイン(Kp)用いて速度型I−PD制御の方法でランプ出力の制御を行なう(ステップ233)。温度調節開始時は、通常、過渡時であるから、過渡時のランプ制御は、大きい制御ゲイン(Kp)用いた速度型I−PD制御の方法で行なわれることになる。状態が過渡時から整定時に移行すると、前述したように、レディ判定234が行なわれる。その結果、未だレディ状態になっていない間は、大きい制御ゲイン(Kp)用いた速度型I−PD制御が継続される。その後、レディ状態になると、制御ゲイン(Kp)を所定の小さい値(例えば、最初のゲイン値の半分)に切り換え(ステップ235)、そして、制御方法を位置型PID制御に切り換えて、その位置型PID制御の方法でランプ出力を制御する(ステップ236)。
このようにして、ランプ制御は、過渡時から整定時のレディ状態に到達する前までは、大きい制御ゲインを用いた速度型I−PD制御の方法で行ない、整定時のレディ状態に到達した後は、小さい制御ゲインを用いた位置型PID制御の方法で行なう。これにより、レディ状態到達前は、オーバーシュート量を小さく抑えることができ、レディ状態到達後は、制御を安定させることができる。
図20は、速度型I−PD制御の方法によるランプ制御の流れを示し、図21は、位置型PID制御の方法によるランプ制御の流れを示す。
速度型I−PD制御及び位置型PID制御の方法それ自体は、当業者に周知であるからここでは説明を省略する。ない、整定時の比例弁制御へ送られる参照ランプ出力は、前述したように、レディ状態到達前で図20の速度型I−PD制御を行なっているときには、I成分だけを取り出すことができないため、P、I、Dの3成分を全て含んだ値であり、一方、レディ状態到達後で図21の位置型PID制御を行なっているときには、冷却水による現在の冷却量に最も近い値をもつI成分だけとなる。
図22と図23は、時間経過に伴う、作動流体の現在温度(PV)の具体的な変化と、ランプ制御及び比例弁制御の状態の変遷とを示したものである。図22は、昇温時の場合であり、図23は、降温時の場合である。
これらの図中、太い実線曲線は現在温度(PV)の変化を、太い一点鎖線曲線は比例弁開度の変化を、太い二点鎖線曲線はランプ出力の変化を示している。
図22に示すように、昇温時には、温度調節開始から現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達する時刻t1までは、過渡時の比例弁制御が行なわれ、時刻t1から整定時の比例弁制御が行なわれる。時刻t1からオーバーシュートが発生し、現在温度(PV)が目標温度(SV)に再び戻った時刻t2でオーバーシュートが終わる。その後、ランプ出力が上昇して適正ランプ出力幅の下限値ULに達した時刻t3で、レディ状態になったと判定され、ランプ制御は大ゲインのI−PD制御から小ゲインのPID制御へ切り換わり、整定時の比例弁制御のゲインも大きい値から小さい値へ切り換わる。
図23に示すように、降温時には、温度調節開始から現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達する時刻t2までは、過渡状態が続くが、それより前の、あと60秒で現在温度(PV)が目標温度(SV)に到達する予測された時刻t1で、過渡時の比例弁制御が終わり、以後、時刻t2までは比例弁無操作の状態になる。時刻t2から整定時の比例弁制御が行なわれる。時刻t2からオーバーシュートが発生し、現在温度(PV)が目標温度(SV)に再び戻った時刻t3でオーバーシュートが終わり、それと同時にレディ状態になったと判定され、ランプ制御は大ゲインのI−PD制御から小ゲインのPID制御へ切り換わり、整定時の比例弁制御のゲインも大きい値から小さい値へ切り換わる。
以上で、通常の温度調節時の制御の説明は終わる。最後に、比例弁補償テーブルを具体的な比例弁の個性に適合させるためのオートチューニングの処理について説明する。
図24は、オートチューニングの処理の全体的な流れを示す。
オートチューニングは、作動流体温度を所定の目標温度に制御するようランプ出力制御を行ないつつ、メイン路の比例弁112を一定パルス数ずつ操作していって、それによるランプ出力の変動をモニタすることで、比例弁112の第1急変部のパルス数位置を検出し、これをパラメータとして比例弁補償テーブル200に設定することで、比例弁補償テーブル200の特性を比例弁112の個性に適合化するものである。このオートチューニング処理は、必要に応じて随時に行なうことができる。
図24に示すように、オートチューニング処理を開始すると(ステップ271)、まず、メイン路とバイパス路の両方の比例弁112、114を全開にし(ステップ272)、ポンプ103を運転して作動流体と冷却水を流し(ステップ273)、そして、その状態で1分待って(ステップ276)流れが安定したところで、作動流体の現在温度(PV)が所定の低温領域(例えば40℃以下)に入っている否かをチェックする(ステップ275)。現在温度が(PV)が40℃以下であれば、作動流体の流量を計測し(ステップ276)、その流量値に基づいてランプ制御のPID定数を設定する(ステップ277)。ここで、現在温度が(PV)が40℃以下になってから作動流体の流量を計測するのは、流量センサの特性上、作動流体温度が高いほど流量が実際よりもより少なめに計測されるので、低温で正確な流量を計測するためである。
その後、計測の対象となるメイン路の比例弁112を全閉にし(ステップ278)、ランプ制御の方式を位置型PID制御とし(ステップ279)、目標温度(SV)を所定の高温(例えば80℃)に設定して(ステップ280)、昇温動作を行う(ステップ281)。そして、作動流体の現在温度(PV)が目標温度(SV)(例えば80℃)に達したことを確認すると(ステップ282)、比例弁流量特性チューニング処理を行う(ステップ283)。この比例弁流量特性チューニング処理とは、メイン路の比例弁112を所定のパルス数(例えば10パルス)数刻みで操作しながらランプ出力の変動をもモニタすることで、比例弁112の第1急変部のパルス数位置を割り出し、それをパラメータとして比例弁補償テーブルに設定する処理である。ここで、この比例弁流量特性チューニング処理を80℃のような高温の目標温度(SV)の下で行う理由は、このような高温であれば、装置内部(ポンプなど)の発熱量よりも装置の放熱量が大きくなるため、比例弁が全閉状態(つまり、冷却無し)でもランプ制御だけで作動流体温度を目標温度一定に制御可能であるからである。
比例弁流量特性チューニング処理が終わると、このオートチューニング処理を終了し(ステップ284)、目標温度(SV)をオートチューニング処理開始前の元の値に戻し(ステップ285)、その後、通常運転に入る(ステップS286)。
図25は、図24にステップ283で示した比例弁流量特性チューニング処理の流れを示す。
図示のように、まず、メイン路の全閉状態にある比例弁112に120パルスを加えて、比例弁112を120パルスという絶対的なパルス数位置(VP)まで開く(S291)。そして、比例弁112を操作することなく1分間継続して(ステップ293)、ランプ出力の変動量を積算し記録する(つまり、その1分間における位置型PID制御の積分成分の変動量を計算し記録する)(ステップ292)。こうして1分経過したら、次に、比例弁112に更に10パルスを加えて、比例弁112の絶対的なパルス数位置(VP)を10パルスだけ進める(ステップ296)。そして、同様に、比例弁112を操作することなく1分間継続して(ステップ293)、ランプ出力の変動量を積算して記録する(ステップ292)。
このように、120パルスの絶対位置(VP)から開始して、10パルス刻みで比例弁112を開き、その位置での1分間のランプ出力変動量を積算し記録するという動作を繰り返す。この動作を比例弁112の絶対的位置(VP)が270パルスになるまで行ったなら(ステップ294)、今までの10パルス刻みの各絶対位置で記録したランプ出力変動量の積算値を比較し、その値が最大であった絶対位置(VP)を第1急変部と決定し、その第1急変部の絶対位置を、比例弁補償テーブル200のパラメータとして設定する(ステップ297)。これで比例弁流量特性チューニング処理が完了する。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上記の実施形態はあくまで本発明の説明のための例示であり、本発明を上記実施形態にのみ限定する趣旨ではない。従って、本発明は、上記実施形態以外の様々な形態でも実施することができる。
例えば、上記実施形態では、冷却水の水量を比例弁で制御する場合を例に取り比例弁制御を説明したが、作動流体の流量を比例弁で制御する場合にも本発明の比例弁制御の方法を適用することができる。