本発明は、色素増感型光電変換装置及びその製造方法に関する。
昨今、地球温暖化問題にも係り、化石燃料に代るエネルギー源として太陽光を電力に変換できる太陽電池が注目を集めている。現在、結晶系シリコン基板及び非晶質系薄膜シリコンを用いた太陽電池を中心に一部で実用化が進んでいる。しかし、前者ではシリコン基板の製造コストが高いこと、後者では多種の半導体ガスや真空設備を含む複雑な製造装置を必要とすることから依然として製造コストが高いという課題が存在しており、上記問題を解決するには至っていない。
このような状況のもと、低コスト化が可能な新しいタイプの太陽電池として、金属錯体の光誘起電子移動を応用した色素増感型太陽電池が提案されている(特許第2664194号明細書:特許文献1)。
このような色素増感型太陽電池は、透明電極層が形成された2枚のガラス基板の電極間に、光電変換材料と電荷輸送材料を用いて構成したものである。この光電変換材料の部分は、光増感色素が吸着された多孔質半導体層(例えば、TiO2薄膜)であり、可視光領域に吸収スペクトルを有している。このような色素増感型太陽電池の光電変換材料の部分に光が照射されると、光エネルギーを吸収して電子が励起される。励起された電子は、構成材料の真空準位からのポテンシャル差により、多孔質半導体材料へ選択的に移動し、電子を失った色素は正に帯電する。正に帯電した色素は電荷輸送材料との酸化還元反応で電気的に中性に戻るため、結果として電荷輸送材料側に正電荷が移動したことと同義になる。これにより、電荷分離が可能になり、連続的に電気エネルギーを取り出すことができるのである。
このような動作原理のもと、高効率化に向けて様々な試みがなされているが、大別すると、短絡電流密度(Jsc)の向上技術と開放電圧(Voc)及び曲線因子(F.F.)の向上技術とに分類できる。
Voc及びF.F.の向上技術としては、逆電子注入防止層技術が挙げられる。一般に、色素増感光電変換装置では、多孔質半導体層は光増感色素の坦持量を高めるために、半導体微粒子を分散した分散液を塗布し焼結する等の方法によって作製されている。しかし、このような半導体微粒子の多孔質膜を用いた場合、透明電極層上に半導体微粒子が接触していない領域が必然的に生じる。したがって、この領域では、透明電極層が電荷輸送層と接することになるため、逆電子注入や短絡等が生じると考えられ、光電変換効率の低下を招く。ここで、電荷輸送層として、ヨウ化銅等のp型半導体からなる固体型ホール輸送層を用いた場合には、p型半導体の一方の端部が透明電極層に、他方の端部が対極に直接接することになるため、多数の短絡箇所が生じ、大幅な出力損失が生じてしまうと考えられるのである。一方、電荷輸送層として、ヨウ素/ヨウ素イオン等のレドックス対電解質を用いた場合には、(例えばヨウ素−ヨウ素イオンの)酸化還元反応が遅いため、透明電極層が電解質層と接触しても、大幅な出力損失が生じるわけではないと考えられるが、更なる光電変換効率の向上を目的とする場合には無視できない出力損失である。
このような透明電極層と電荷輸送層との直接接触に起因すると考えられる逆電子注入や短絡を回避する手段として、以下に挙げるような技術が提案されている。
例えば、特開2002−151168号公報(特許文献2)には、透明電極層上に金属酸化物からなる逆電子注入防止膜を形成し、その上に光電変換層を形成することにより、透明電極層と電荷輸送層との接触による開放電圧低下を抑制する技術が開示されている。この技術によれば、表面に透明電極層が形成された透明基板と対極導電性基板との間に、色素が吸着された半導体層と電荷輸送層を有する色素増感型太陽電池において、前記半導体層が逆電子注入防止層と光電変換層により構成されることで、高い開放電圧が得られる色素増感型太陽電池が提供できるとされる。
また、特開2003−243054号公報(特許文献3)には、透明基板と、この透明基板の一面に形成された透明電極層と、この透明電極層上に形成された酸化物半導体多孔質膜を有し、酸化物半導体多孔質膜を構成する酸化物半導体微粒子が直接透明電極層に接していない領域の透明電極層上に絶縁膜を形成する技術が開示されている。ここで、絶縁膜は、分子内に2以上のメルカプト基を有するモノマーを電解酸化重合することで、透明電極層表面の半導体多孔質層と接触していない領域のみに、これのポリマーを析出、堆積して前記領域を選択的に被覆したものとされる。この技術によれば、光電変換素子用光電極の透明電極層と電荷輸送層との直接接触を回避することができ、しかも出力特性に低下を生じない光電変換素子が提供できるとされる。
加えて、逆電子注入は、上記のような透明電極層と電荷輸送層との直接接触に起因する場合だけではなく、光増感色素が吸着していない多孔質半導体層表面と電荷輸送層との接触によっても同様の理由で生じ得る。
このような場合の逆電子注入や短絡を回避する手段は、例えば、特開2003−317815号公報(特許文献4)に示されている。この文献は、透明電極層表面に形成した第1の金属酸化物の粒子膜と、その粒子膜の粒子の表面に形成した第2の金属酸化物の被膜と、第2の金属酸化物の被膜の表面に吸着した色素と、この色素と接する電解質層と、この電解質層に接する対極とを備えた色素増感型太陽電池において、第2の金属酸化物の被膜を配向している被膜とする技術が開示されている。この技術によれば、第2の金属酸化物の被膜から第1の金属酸化物の粒子膜への電子の移動速度が速くなるので、逆電子注入が回避されて高い光電変換特性を有する色素増感型太陽電池が提供できるとされる。
特許第2664194号明細書
特開2002−151168号公報
特開2003−243054号公報
特開2003−317815号公報
しかしながら、特許文献2及び特許文献4に示されているような逆電子注入防止層技術を用いた場合、どちらの場合においても光増感色素から電極層までの電子の移動経路に逆電子注入防止材料が含まれる構成となっているため、逆電子注入防止材料の導電性が光電変換装置の直列抵抗を左右するという問題もある。すなわち、逆電子注入防止材料の導電性が低い(キャリア密度が低い)ほど逆電子注入防止に有効であるが、同時に直列抵抗の増加を招きFFを低下させてしまうというトレードオフの関係が存在しているため十分な変換効率向上効果が得られないという課題がある。
また、特許文献3に示されているような逆電子注入防止層技術を用いると、上記のような透明導電層と電荷輸送層との直接接触に起因している場合には、電子の移動経路に逆電子注入防止材料が含まれないので、FFを低下させることなく、光電変換効率を向上させることができるが、光増感色素が吸着していない多孔質半導体層表面と電荷輸送層との接触に起因した逆電子注入に対しては、何ら効果が得られないという課題がある。
しかも、上記技術は、電解酸化重合(特許文献3)や粒子配向制御(特許文献4)といった特別な技術及びそれに伴う特別な装置又は設備を必要とするので製造コストを抑えられないという問題がある。
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、低コストで、直列抵抗を増加させることなく多孔質半導体層表面の逆電子注入防止効果が得られる色素増感型光電変換装置およびその作製方法を提供するものである。
本発明によれば、半導体層、該半導体層に接する色素層及び該色素層に接する電荷輸送層を有し、色素層、電荷輸送層又はこれら両層がヒドロキシ酸を含み、かつ該ヒドロキシ酸の少なくとも一部がエステル結合していることを特徴とする色素増感型光電変換装置が提供される。
また、本発明によれば、半導体層、該半導体層に接する色素層及び該色素層に接する電荷輸送層をこの順で有し、色素層がヒドロキシ酸を含む色素増感型光電変換装置の製造方法であって、色素層が、ヒドロキシ酸及び色素を含む溶液に半導体層を接触させるか、又はヒドロキシ酸を含む溶液に半導体層を接触させ、次いで色素を含む溶液に半導体層を接触させることにより形成されることを特徴とする色素増感型光電変換装置の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、半導体層、該半導体層に接する色素層及び該色素層に接する電荷輸送層をこの順で有し、電荷輸送層がヒドロキシ酸を含む色素増感型光電変換装置の製造方法であって、ヒドロキシ酸を含む電荷輸送層が、電荷輸送層にヒドロキシ酸を添加することにより形成されることを特徴とする色素増感型光電変換装置の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、ヒドロキシ酸を含むことを特徴とする色素増感型光電変換装置の色素層形成用色素溶液が提供される。
さらに、本発明によれば、ヒドロキシ酸を含むことを特徴とする色素増感型光電変換装置の電荷輸送層形成用電解液が提供される。
本発明によれば、開放電圧(Voc)及び/又は曲線因子(F.F.)及び/又は短絡電流密度(Jsc)が改善し光電変換効率が向上した光電変換装置が提供される。本発明の装置は、特別又は複雑な技術も装置も用いることなく単純な方法で、したがって低コストで製造可能である。
本発明の色素増感型光電変換装置は、半導体層、該半導体層に接する色素層及び該色素層に接する電荷輸送層を有し、色素層、電荷輸送層又はこれら両層がヒドロキシ酸を含むことを特徴とするが、一つの実施形態として、該半導体層に接する電極層をさらに有してもよく、好ましくは、色素層は電極層にも接している。
本発明者らが検討した結果、色素層、電荷輸送層又はこれら両層にヒドロキシ酸を含ませることにより、短絡電流密度及び/又は開放電圧及び/又は曲線因子が向上した高効率の色素増感型光電変換装置が得られることが意外にも見出された。
本発明において、「色素層」は、光増感色素を含む層をいうが、光増感色素を含む層及び半導体層の両方に接するヒドロキシ酸を含む層も含む。ここで、「光増感色素」とは、少なくとも太陽光スペクトルの波長領域(200nm〜10μm)に吸収スペクトルを有し、光励起により電子を放出する能力を有する物質をいう。
本発明において、「電荷輸送層」は、電荷輸送体を含む層をいうが、電荷輸送層及び半導体層の両方に接するヒドロキシ酸を含む層も含む。ここで、「電荷輸送体」とは、電子、ホール、イオンを輸送する能力を有する物質をいう。
以下では、本発明の好適な実施形態の一つとしての、該半導体層に接する電極層及び基板からなる支持体、及び/又は、該電荷輸送層に接する対極電極層及び基板からなる対極側支持体をさらに有する本発明の装置について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は説明のための例であり、種々の形態での実施が本発明の範囲内で可能である。
図1は、本発明の第1の実施形態における色素増感型光電変換装置の概略断面図である。本実施形態の色素増感型光電変換装置は、支持体10上に半導体層20、ヒドロキシ酸を含む色素層32、電荷輸送層40、対極側支持体50が形成された構造である。
支持体10は、基板11と電極層12から構成される。基板11に用いられる材料は特に限定されず、ガラスやプラスチック等、公知の各種材料が挙げられる。また、光の入射側に位置する場合には光電変換に寄与し得る波長域において、高い透光性を有していることが好ましい。
電極層12は、半導体層20とオーミック接触するように形成されていればよいが、基板11上に膜状に形成されていることが好ましい。電極層12に用いられる材料は、導電性を有していれば特に限定されないが、白金、炭素、Ti等の不透明材料やその合金、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、Bドープ酸化亜鉛(ZnO:B)等に代表される透明導電性酸化物電極材料等が好適に用いられる。電極層12は、前記材料等の単層膜、積層膜のいずれであってもよい。また、光の入射側に位置する場合には光電変換に寄与し得る波長域において、高い透光性を有していることが好ましい。基板11上に電極層12を形成する方法としては、材料となる成分の真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法等の気相法、ゾルゲル法によるコーティング法等の公知の方法が挙げられる。
半導体層20は膜状でもよいが、比表面積が大きいほど良く、微粒子や多孔質体等の形態であることが好ましい。半導体層20に用いられる材料はn型半導体であれば特に制限されないが、例えば、TiO2、SnO2、ZnO、Nb2O6、ZrO2、CeO2、WO3、SiO2、Al2O3、NiO、CuAlO2、SrCu2O2等の酸化物やCdS等の硫化物等、公知の半導体の1種又は2種以上を好適に用いることができる。なかでも、安定性、安全性の点から酸化チタンが好ましい。なお、前記酸化チタンには、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸等の種々の酸化チタン、あるいは水酸化チタン、含酸化チタン等のすべてが包含される。
半導体層20は、例えば、次のようにして形成することができる。まず、材料となる半導体微粒子を用意し、その半導体微粒子を分散剤、有機溶媒、水等に加え、分散させて混合溶液を調製し、その混合溶液を支持体10の電極層12上に塗布する。塗布方法としては、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法等公知の方法が挙げられる。その後、塗膜を乾燥及び焼成する。乾燥及び焼成に必要な温度、時間、雰囲気等は、使用される基板及び半導体粒子の種類に応じて、適宜調整することができ、例えば、大気下又は不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の範囲で10秒〜12時間程度が挙げられる。乾燥及び焼成は、単一の温度で1回のみ行なってもよいし、温度を変化させて2回以上行なってもよい。また、塗布、乾燥及び焼成は、1回のみ行ってもよいし、2回以上行ってもよい。
続いて、得られた半導体層20の表面及び/又は内部に光増感色素を吸着又は担持させ色素層32を形成する。色素層32は、必ずしも半導体層20のすべての表面を覆っている必要はないが、できるだけ多くの面積を覆っていることが好ましい。色素層32は半導体層20及び電極層12の両方に接していてもよい。この場合、色素層32は、半導体層20及び電極層12の表面のできるだけ多くの面積を被覆していることが好ましい。
光増感色素は、少なくとも太陽光スペクトルの波長領域(200nm〜10μm)に吸収スペクトルを有し、光励起による電子を半導体層20へ放出するものであれば、特に限定されない。例えば、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]等のルテニウム系金属錯体、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、ベリレン系色素、フタロシアニン系色素、クマリン系色素、インジゴ系色素等の有機系光増感色素が好適に用いられる。また、これらの色素はカルボキシル基を有している場合、半導体層20と強固に吸着することやヒドロキシ酸とエステル結合を形成し得るため好ましい。
本実施態様において色素層32は、ヒドロキシ酸を含む。ヒドロキシ酸とは、水酸基を持つカルボン酸のことであり、水酸基とカルボキシル基の両方を有している。本発明には、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等の脂肪族ヒドロキシ酸およびサリチル酸、マンデル酸等の芳香族ヒドロキシ酸の両方を使用できるが、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましい。水酸基とカルボキシル基は同じ炭素原子と結合しているヒドロキシ酸(2−ヒドロキシ酸又はα−ヒドロキシ酸)がより好ましい。特に好ましいヒドロキシ酸は、乳酸、酒石酸又はクエン酸である。ヒドロキシ酸は1種又は2種以上を混合して用いることができる。理論によって本発明は限定されないが、ヒドロキシ酸の持つカルボキシル基は、半導体層の表面と結合を形成する機能を有しているため、ヒドロキシ酸は、半導体層20(望ましい場合には、及び電極層12)の表面に吸着し、電荷輸送層40と半導体層20(望ましい場合には、及び電極層12)との間の逆電子注入を抑制することにより、Voc、FFを向上させることができると考えられる。色素層におけるヒドロキシ酸と光増感色素との比率〔ヒドロキシ酸濃度〕/〔光増感色素濃度〕は、好ましくは10-4〜106であり、より好ましくは10-3〜104であり、さらに好ましくは10-1〜103である。
ヒドロキシ酸を含む色素層32は、電極層12上に半導体層20を形成する半導体微粒子が接触していない領域が存在する場合、電極層12上の当該領域にも接触していることが望ましい。これは、当該領域で電荷輸送層40が電極層12と接して逆電子注入や短絡等が生じ、光電変換効率の低下を招くと考えられるので、ヒドロキシ酸が当該表面領域に吸着すれば、電荷輸送層40と電極層12との間の逆電子注入を抑制して、Voc、FFをさらに向上させることができると考えられるからである。このことは、電荷輸送層として固体型ホール輸送層、レドックス対電解質のいずれの材料を用いる場合にも言える。
色素層32はエステル結合を有することが好ましい。エステル結合とは、カルボキシル基と水酸基との間での脱水縮合により形成される結合であり、カルボキシル基(−COOH)からOHが、水酸基(−OH)からHが取れて、エステル結合(−COO−)と水(H2O)が生じる。ヒドロキシ酸はカルボキシル基と水酸基の両方を有しているため、カルボキシル基、水酸基を一つでも持つ色素や溶媒とだけではなくヒドロキシ酸同士でもエステル結合を形成することができる。よって、理論により本発明は限定されないが、ヒドロキシ酸がエステル結合を形成している場合には、高分子化に伴うゲル化により、半導体層20(望ましい場合には、及び電極層12)の表面をより緻密に被覆することができ、より高い逆電子注入抑制効果が得られると考えられる。
さらに、ヒドロキシ酸は、その少なくとも一部が色素層中の色素とエステル結合していることが好ましい。理論によって本発明は限定されないが、ヒドロキシ酸と色素との間のエステル結合により、色素の持つインターロック基(半導体と結合する機能を有する官能基)だけではなく、ヒドロキシ酸の持つカルボキシル基によっても半導体表面に結合されるため、一旦結合した色素が脱離し難くなり、単位面積あたりの担持量を増加させることができ、したがって半導体層20の膜厚を増加させることなくJscを向上させ得ると考えられる。
エステル結合の有無については、例えば、赤外吸収分光法等により確認することができる。カルボキシル基、水酸基に帰属される吸収ピークはそれぞれ1700〜1725cm-1、3600〜3650cm-1付近に観測される。カルボキシル基及び水酸基が存在する場合には、これに加えて、OHの水素結合による2300〜3000cm-1の幅広い吸収も観察される。これらに対して、エステル結合に帰属される吸収ピークは1730〜1760cm-1付近に観測されるため、上記のピークと区別して評価が可能である。したがって、上記効果を得るためのエステル結合の存在は、例えば、1760cm-1付近にバックグラウンドを超える強度の吸収ピークの存在により確認できる。好ましくは、エステル結合に帰属される吸収ピーク強度Aとカルボキシル基に帰属される吸収ピーク強度Bとの比A/Bは0.1以上であり、より好ましくは1〜10の範囲である。エステル結合は基本的には多い方が良いが、多すぎると半導体層20や電極層12に吸着するためのカルボキシル基の数が不足するからである。
色素層32の形成方法としては、例えば、光増感色素を含有する溶液(色素溶液)の中に半導体層20を浸漬する方法等が挙げられる。1又は2種以上のヒドロキシ酸を添加した光増感色素溶液と半導体層20を同一の密閉容器に入れ、上記光増感色素溶液を密閉空間内に循環させて行うのが好ましいが、単に大気圧下で上記光増感色素溶液に半導体層を約5分から100時間浸漬させるだけでもよい。また、光増感色素が分解しない範囲で30℃〜120℃の加熱を行っても良い。溶液に浸漬後、スピンコーター等を用いて、色素層の塗布量を制御することもできる。色素層はまた、半導体層を、まずヒドロキシ酸溶液に接触させ、次いで色素溶液に接触させることによって形成されてもよい。この場合、ヒドロキシ酸溶液に接触させた後でかつ色素溶液に接触させる前に、又は、色素溶液に接触させた後に加熱処理を行なってもよい。
光増感色素を含有する溶液は、光増感色素を適当な溶媒に溶解することにより得られる。溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル等の窒素化合物類、水等の公知の溶媒が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。光増感色素溶液の中の光増感色素濃度は、使用する光増感色素及び溶媒の種類により適宜調整することができるが、一般的には、その濃度は約1×10-6mol/l以上、好ましくは5×10-6〜1×10-2mol/l程度が好適に用いられる。
光増感色素を含有する溶液中のヒドロキシ酸の濃度は、好ましくは1×10-6mol/l以上であり、より好ましくは5×10-4〜1mol/lであり、さらに好ましくは5×10-3〜1×10-1mol/lである。ここで、ヒドロキシ酸と光増感色素との比率〔ヒドロキシ酸濃度〕/〔光増感色素濃度〕は、好ましくは10-4〜106であり、より好ましくは10-3〜104であり、さらに好ましくは10-1〜103である。
ヒドロキシ酸の少なくとも一部をエステル化する方法としては、濃硫酸等の脱水作用や吸湿性を有する触媒を添加する方法やヒドロキシ酸を含む溶液を30℃〜200℃(好ましくは30℃〜120℃)の温度で加熱することにより水分を蒸発させる方法等が挙げられる。加熱を行う場合は、ヒドロキシ酸を含む溶液を加熱した後、光増感色素を混合してもよいし、光増感色素を混合した後に加熱してもよい。ただし、光増感色素を混合した後に加熱する場合は、加熱温度は、含まれる光増感色素の分解温度(例えば、80〜120℃)以下に設定する。エステル化は可逆反応であるため、触媒の添加量や加熱温度・時間により反応の進行を制御することができる。
対極側支持体50は、基板51と対向電極層52から構成される。基板51に用いられる材料は、基板11と同様に、特に限定されず、ガラスやプラスチック等公知の各種材料が挙げられる。光の入射側に位置する場合には光電変換に寄与し得る波長域において、高い透光性を有していることが好ましい。
また、対向電極層52に用いられる材料としては、特に限定されないが、電極層12と同様の電極材料が好適に用いられる。対向電極層52は、前記材料の単層膜、積層膜のいずれであってもよい。光の入射側に位置する場合には光電変換に寄与し得る波長域において、高い透光性を有していることが好ましい。基板51上に対向電極層52を形成する方法としては、材料となる成分の真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法等の気相法、ゾルゲル法によるコーティング法等の公知の方法が挙げられる。
電荷輸送層40としては、電子、ホール、イオンを輸送できるもの(電荷輸送体)であれば特に限定されないが、液状、ゲル状又は固体状のイオン導電体、ホール輸送体及び電子輸送体を用いることができる。例えば、トリフェニルアミン系等の有機系ホール輸送材料、テトラニトロフロオルレノン、オキサジアゾール等の電子輸送材料、ポリピロール等の導電性ポリマー、液体電解質、高分子固体電解質等のイオン導電体を好適に用いることができる。また、CuI、Cu2O、CuSCN、NiO、CuAlO2等無機系ホール輸送材料も用いることができる。無機系ホール輸送材料を用いる場合、一方の端部が電極層12に他方の端部が対極に直接接して多数の短絡箇所が生じる可能性を回避し得るように、ヒドロキシ酸を含む色素層32は、半導体層20及び電極層12の両方に接していることが特に好ましい。
液体電解質としては、ヨウ化物、臭化物、ヒドロキノン等のイオンキャリアを含むプロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物から選択される電解質と、エタノール等のアルコール類、その他、水や非プロトン極性物質等から選択される溶媒の混合物が挙げられる。ただし、水を溶媒として用いる場合には、注意が必要である。水はエステル結合の加水分解反応速度を増加させてしまうため、一旦形成されたエステル結合を分解してしまう可能性がある。そこで、エステル化処理しない溶液において水を溶媒として用いることは可能だが、エステル化処理を行う溶液において水を溶媒に含む場合には、十分蒸発させるなどして、処理後の溶液中の水分(脱水縮合であるエステル化により生じた水も含む)濃度を1mol%以下にすることが好ましい。このことは、光増感色素溶液の場合にも当てはまる。電解質濃度としては、0.1〜1.5mol/lが適当であり、0.1〜0.7mol/lが好ましい。
高分子固体電解質としては、上記液体電解質に対し、ポリエチレンオキサイド若しくはポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等のホストポリマーを混入して重合させたゲル電解質や、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド若しくはポリエチレン等の高分子側鎖にスルホンイミド塩やアルキルイミダゾリウム塩、テトラシアノキノジメタン塩、ジシアノキノジイミン塩等の塩をもつ固体溶融塩電解質が挙げられる。
電荷輸送層40として液体材料を用いる場合には、間隔を等しくし、両方の基板を固定するためにスペーサーを用いても良い。スペーサーは支持体10又は色素層32上に設置できる。さらに、電荷輸送層40が揮発性、嫌気性を有する場合には、支持体10と対極側支持体50との間を、封止材を用いてシールしても良い。スペーサー及び封止材としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、熱可塑性樹脂等が好適に用いられる。ただし、電荷輸送層40に大気中で長期安定性を有する固体材料を用いた場合には、必ずしも必要ではない。
以上の構成により、本実施形態における色素増感型光電変換装置が提供される。
本発明の装置の第2の実施形態を図2に示す。本実施形態の色素増感型光電変換装置は、支持体10上に半導体層20、色素層30、ヒドロキシ酸を含む電荷輸送層42、対極側支持体50が形成された構造である。本実施態様において、色素層に代えて電荷輸送層にヒドロキシ酸を含ませること以外の基本的な構成は、上記第1の実施形態についての説明と同様である。
本実施形態において、ヒドロキシ酸は1種又は2種以上を混合して用いることができる。ヒドロキシ酸の例は上記のとおりである。理論によって本発明は限定されないが、電荷輸送層42中のヒドロキシ酸もまた、第1の実施形態における色素層中と同様に、半導体層20(望ましい場合には、及び電極層12)の表面に吸着し、電荷輸送層42と半導体層20(望ましい場合には、及び電極層12)との間の逆電子注入を抑制することにより、Voc、FFを向上させることができると考えられる。電荷輸送層42中のヒドロキシ酸の濃度は、電荷輸送層が液体電解質である場合には、その液体電解質中の溶媒に対して、電荷輸送層がゲル状又は固体状である場合には、添加されているヒドロキシ酸溶液として、好ましくは1×10-6mol/l以上であり、より好ましくは5×10-4〜1mol/lであり、さらに好ましくは5×10-3〜1×10-1mol/lである。
電荷輸送層は、電荷輸送体が液体電解質である場合、ヒドロキシ酸を添加した液体電解質を色素層に接するように配置するか、又は、色素層に接するように配置された液体電解質にヒドロキシ酸を添加するか、又は、ヒドロキシ酸溶液を半導体層(望ましい場合には、及び電極層)に接するように配置した後に液体電解質を色素層に接するように配置して形成してもよい。ゲル状又は固体状の電荷輸送体を用いる場合、電荷輸送層は、電荷輸送体を色素層に接するように配置した後にヒドロキシ酸溶液を半導体層(及び電極層)に接するように配置するか、又は逆に、ヒドロキシ酸溶液を半導体層(望ましい場合には、及び電極層)に接するように配置した後に、電荷輸送体を色素層に接するように配置することにより形成してもよい。電荷輸送層の形成途中又は形成後に加熱処理(30〜200℃、好ましくは30〜120℃)を行なってもよい。
電荷輸送層42は、エステル結合を有することが好ましい。理論により本発明は限定されないが、ヒドロキシ酸がエステル結合を形成している場合には、高分子化に伴うゲル化により、半導体層20(望ましい場合には、及び電極層12)の表面をより緻密に被覆することができ、より高い逆電子注入抑制効果が得られると考えられる。電荷輸送層42中のヒドロキシ酸の少なくとも一部をエステル化する方法としては、濃硫酸等の脱水作用や吸湿性を有する触媒を添加する方法やヒドロキシ酸を含む溶液を30℃〜200℃(好ましくは30℃〜120℃)の温度で加熱することにより水分を蒸発させる方法等が挙げられる。加熱を行なう場合、加熱温度は、色素層30中の光増感色素の分解温度(例えば、80〜120℃)以下に設定する。エステル化は可逆反応であるため、加熱温度・時間により反応の進行を制御することができる。
本発明において、光電変換効率について「向上」とは、色素層にも電荷輸送層にもヒドロキシ酸を含まない光電変換装置に対する、少なくとも1%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%、さらに好ましくは少なくとも7%、最も好ましくは10%の光電変換効率の上昇をいう。短絡電流密度(Jsc)について「向上」とは、色素層にも電荷輸送層にもヒドロキシ酸を含まない光電変換装置に対する、少なくとも1%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%のJscの上昇をいう。開放電圧(Voc)について「向上」とは、色素層にも電荷輸送層にもヒドロキシ酸を含まない光電変換装置に対する、少なくとも1%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%のVocの上昇をいう。曲線因子(F.F.)について「向上」とは、色素層にも電荷輸送層にもヒドロキシ酸を含まない光電変換装置に対する、少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも3%の曲線因子の上昇をいう。
本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、以下の説明は一つの例にすぎず、種々の変更が可能であり、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。なお、実施例1及び2は参考例である。
(実施例1)
本実施例では、色素層がヒドロキシ酸を含み、エステル結合を有さない色素増感型光電変換装置を作製した。この実施例について、図1を用いて説明する。
支持体10は、基板11としてガラスを用い、その上に電極層12としてフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜をスパッタリング法により形成した。そのシート抵抗値は10Ω/□であり、平坦な表面を有しており、ヘイズ率Hは1%以下であった。また、対極側支持体50は、基板51としてガラスを用い、その上に対向電極層52としてフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)薄膜及び白金薄膜をスパッタリング法で積層させたものを用いた。そのシート抵抗値は10Ω/□であった。
半導体層20の材料としては、TiO2を用いた。具体的には次のようにして半導体層20を形成した。まず、TiO2微粒子(テイカ株式会社製、製品名:AMT−600、粒径約30nm)を用意し、界面活性剤(キシダ化学株式会社製、製品名:Triton−X)、ジルコニアビーズ(直径2mm)及びジエチレングリコールモノメチルエーテルと混合させ、ペイントシェーカーにより分散させることでTiO2懸濁液を調製した。重量混合比はTiO2濃度17.5%、Triton−X濃度1%に調整した。分散条件は、ジルコニアビーズを溶液40mlに対して100g加えた上で、ペイントシェーカーにより2時間分散させた。そして、ドクターブレード法を用いて、支持体10の上にTiO2懸濁液を塗布し、疑似大気雰囲気中、500℃で30分間焼成を行い、膜厚が15μmになるように半導体層20を形成した。形成された半導体層20は多孔質体であった。
その後、電極層12及び半導体層20上に色素層32を形成した。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。ヒドロキシ酸としてはクエン酸(無水)を使用した。具体的には、光増感色素のエタノール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l、クエン酸濃度2×10-2mol/l)に、TiO2の半導体層20を形成した基板を室温で一昼夜浸漬することにより、色素層32の形成を行った。色素層32を形成した基板に対して、赤外吸収分光法によりエステル結合の有無を評価した結果、1730〜1760cm-1付近のエステル結合に帰属される吸収ピークは確認されず、エステル結合は検出限界以下であった。
電荷輸送層40には、ヨウ化リチウム0.1mol/l、ヨウ素0.05mol/l、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ素0.6mol/l、t−ブチルピリジン0.5mol/l及び溶媒としてのメトキシプロピオニトリルから構成される電解液を用いた。
また、封止材として、熱接着性の樹脂フィルムを使用した。支持体10と対極側支持体50を熱圧着させることにより色素増感型光電変換装置のセルを構成し、対向電極側支持体50に開けたφ0.5mmの空孔(注入孔)から上記電解液を注入した。その後、熱接着性の樹脂フィルムとガラス板を用いてその注入孔を封止した。熱接着温度及び時間は90℃、15分であった。
以上の方法により形成した色素増感型光電変換装置のセルに対して、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用いて電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。その結果を表1にまとめた。
(実施例2)
本実施例では、電荷輸送層がヒドロキシ酸を含み、エステル結合を有さない色素増感型光電変換装置を作製した。本実施例について、図2を用いて説明する。ただし、色素層30及び電荷輸送層42の作製方法以外は、実施例1と同様の材料及び作製方法を用いたので、それらについての説明は省略する。
半導体層20上に色素層30を形成した。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。具体的には、光増感色素のエタノール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l、ヒドロキシ酸は無添加)に、TiO2の半導体層20を形成した基板を一昼夜浸漬することにより、光増感色素の吸着を行った。
本実施例では、電荷輸送層42にヒドロキシ酸を添加した。ヒドロキシ酸としてはクエン酸(無水)を使用した。電荷輸送層42には、ヨウ化リチウム0.1mol/l、ヨウ素0.05mol/l、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ素0.6mol/l、t−ブチルピリジン0.5mol/l、クエン酸0.02mol/l及び溶媒としてのメトキシプロピオニトリルから構成される電解液を用いた。
以上の方法により形成した色素増感型光電変換装置のセルに対して、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用いて電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。その結果を表1にまとめた。
(実施例3)
本実施例では、色素層32及び電荷輸送層42がヒドロキシ酸を含み、かつ、エステル結合を有する色素増感型光電変換装置を作製した。この実施例について、図3を用いて説明する。ただし、色素層32の作製方法以外は、実施例2と同様の材料及び作製方法を用いたので、それらについての説明は省略する。
電極層12及び半導体層20上に色素層32を形成した。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。ヒドロキシ酸としてはクエン酸(無水)を使用した。具体的には、光増感色素のエチレングリコール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l、クエン酸濃度2×10-2mol/l)に、TiO2の半導体層20を形成した基板を浸漬し、ホットプレート上にて60℃で1時間保持することにより、色素層32の形成を行った。色素層32を形成した基板に対して、赤外吸収分光法によりエステル結合の有無を評価した結果、1730〜1760cm-1付近にエステル結合に帰属される吸収ピークが確認された。
ヒドロキシ酸、光増感色素、溶媒の何れも、カルボキシル基及び/又は水酸基を有しており、混合状態で加熱処理を行っているため、これらの間でエステル結合を形成していると考えられる。
また、電極層12上に半導体層20を形成していない基板に対して、上記処理を行い赤外吸収分光法による評価を行った結果、同様にエステル結合に帰属される吸収ピークが確認された。したがって、色素層は、半導体層20上だけでなく電極層12上にも形成されていると考えられる。
加えて、本実施例の色素増感型光電変換装置を作製した後で、電荷輸送層42を取り出し、赤外吸収分光法による評価を行った結果においてもエステル結合に帰属される吸収ピークが確認された。
以上の方法により形成した色素増感型光電変換装置のセルに対して、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用いて電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。その結果を表1にまとめた。
(実施例4)
本実施例では、色素層32及び電荷輸送層42がヒドロキシ酸を含み、エステル結合を有するが光増感色素とヒドロキシ酸との間ではエステル結合を有さない色素増感型光電変換装置を作製した。この実施例について、図3を用いて説明する。ただし、色素層30の作製方法以外は、実施例2と同様の材料及び作製方法を用いたので、それらについての説明は省略する。
電極層12及び半導体層20上に色素層32を形成した。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。ヒドロキシ酸としてはクエン酸(無水)を使用した。具体的には、まず、クエン酸のエチレングリコール溶液(クエン酸濃度2×10-2mol/l)に、TiO2の半導体層20を形成した基板を浸漬し、ホットプレート上にて60℃で1時間保持した。その後、光増感色素のエタノール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l)に、上記処理を行った基板を室温で一昼夜浸漬することにより色素層32の形成を行った。色素層32を形成した基板に対して、赤外吸収分光法によりエステル結合の有無を評価した結果、1730〜1760cm-1付近にエステル結合に帰属される吸収ピークが確認された。ここで、光増感色素に浸漬している間は、脱水・吸水触媒の添加や加熱処理は行っていないため、光増感色素が関係したエステル結合は生じていないものと考えられる。
以上の方法により形成した色素増感型光電変換装置のセルに対して、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用いて電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。その結果を表1にまとめた。
(比較例)
本比較例では、ヒドロキシ酸を含む層を有さない色素増感型光電変換装置を作製した。本比較例を、図4を用いて説明する。ここで、色素層30の形成方法以外は、実施例1と同様の材料及び作製方法を用いたので、それらについての説明は省略する。
半導体層20に光増感色素を吸着させた。光増感色素には、シス−ジ(イソチオシアネート)−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシリックアシッド)ルテニウム(II)[cis-di(isothiocyanato)-N,N'-bis(2,2'-bipyridyl-4,4'-dicarboxylic acid)ruthenium(II)]を使用した。具体的には、光増感色素のエタノール溶液(光増感色素濃度1×10-4mol/l)に、TiO2の半導体層20を形成した基板を一昼夜浸漬することにより、光増感色素の吸着を行った。
以上の方法により形成した色素増感型光電変換装置のセルに対して、AM1.5の疑似太陽光スペクトルを有するソーラーシミュレータを用いて電流−電圧特性を測定することにより光電変換特性を評価した。その結果を表1にまとめた。
表1より、実施例1と比較例を比較すると、色素層がヒドロキシ酸を含むことにより、Jscを低下させることなく、Voc及びFFを向上させることができ、もって、光電変換効率を向上させることができることがわかる。これは、ヒドロキシ酸による半導体層及び電極層表面における逆電子注入防止効果によるものと考えられる。
表1より、実施例2及び比較例を比較すると、電荷輸送層がヒドロキシ酸を含むことにより、Jscを低下させることなく、Voc及びFFを向上させることができ、もって、光電変換効率を向上させることができることがわかる。これは、色素層がヒドロキシ酸を含む場合と同様の効果が得られているためであると考えられる。ただし、実施例1と実施例2を比較すると、実施例2の方が若干Voc及びFFの向上率が低くなっているため、色素層がヒドロキシ酸を含む場合の方が、より高い効果が得られることが明らかになった。
表1より、実施例1と実施例3を比較すると、色素層及び電荷輸送層に含まれるヒドロキシ酸がエステル結合していることにより、Jsc、Voc及びFFのすべての特性値を向上させ得ることがわかる。Voc及びFFの向上については、ヒドロキシ酸がエステル結合していることにより、色素層による半導体層及び電極層表面の被覆率や色素層の緻密さが向上し、より大きな逆電子注入防止効果が得られたためであると考えられる。Jscの向上の理由については、次の実施例3と実施例4の比較を基に説明する。
表1より、実施例3と実施例4を比較すると、色素層に含まれるヒドロキシ酸が光増感色素とエステル結合していることにより、Voc及びFFを低下させることなく、Jscを向上させることができ、もって、光電変換効率を向上させ得ることがわかる。これは、ヒドロキシ酸が光増感色素とエステル結合していることにより、光増感色素の持つインターロック基だけではなく、ヒドロキシ酸の持つカルボキシル基によっても半導体表面に結合されるため、一旦結合した色素が脱離し難くなり、単位面積あたりの担持量が増加したためであると考えられる。
以上より、ヒドロキシ酸を含む層が半導体層に接していると、高い光電変換効率を有する色素増感型光電変換装置が得られることが理解できる。
上記の実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的な構成及び配置のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法、及び装置は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、当業者は理解すべきであり、そして容易に認識する。
本発明による色素増感型光電変換装置の一実施形態の概略断面図である。
本発明による色素増感型光電変換装置の一実施形態の概略断面図である。
本発明による色素増感型光電変換装置の一実施形態の概略断面図である。
従来の色素増感型光電変換装置の概略断面図である。
符号の説明
10 支持体
11 基板
12 電極層
20 半導体層
30 色素層(ヒドロキシ酸を含まない)
32 色素層(ヒドロキシ酸を含む)
40 電荷輸送層(ヒドロキシ酸を含まない)
42 電荷輸送層(ヒドロキシ酸を含む)
50 対極側支持体
51 基板
52 対向電極層