ここでは、下記の順序に従って本発明の実施形態について説明する。
(1)コンピュータの構成:
(2)印刷処理の流れ:
(3)印刷結果のシミュレーション:
(3−1)パラメータの設定:
(3−2)着弾位置の予測:
(3−3)インク膜厚分布の予測:
(3−4)分光反射率分布の予測:
(3−5)画質の評価:
(4)まとめおよび変形例:
(1)コンピュータの構成:
図1は、本発明の印刷結果予測装置としてのコンピュータの概略構成を示している。同図において、コンピュータ10には、内部バス10aによって接続されたCPU11とRAM12とHDD13とUSBインターフェイス(I/F)14と入力機器インターフェイス(I/F)15とビデオインターフェイス(I/F)16とが備えられており、HDD13には各種プログラムデータ13aと複数のテスト画像データ13bとパラメータテーブル13cと色変換LUT13dと単位分光透過率テーブル13eと分光分布テーブル13fと着弾位置データ13gと膜厚分布データ13hと分光反射率分布データ13iとが記憶される。CPU11は、プログラムデータ13aを読み出して、同プログラムデータ13aに基づいた処理を、RAM12をワークエリアとして利用しながら実行する。USBI/F14にはプリンタ20が接続されており、入力機器インターフェイス15にはマウス40およびキーボード50が接続されている。さらに、ビデオI/F16にはディスプレイ60が接続されている。なお、プリンタ20は実在のものである必要はなく、仮想的なものであってもよい。
図2は、コンピュータ10にて実行されるプログラムのソフトウェア構成を示している。同図において、プリンタドライバDが図示しないオペレーティングシステム(O/S)上にて実行されている。プリンタドライバDは、画像データ取得部D1と解像度変換部D2と色変換部D3とハーフトーン処理部D4とマイクロウィーブ処理部D5とから構成されている。画像データ取得部D1はHDD13に記憶されたテスト画像データ13bを取得する。このテスト画像データ13bは後述する印刷結果予測プログラムPにて仮想出力するように指定された画像データである。解像度変換部D2は、テスト画像データ13bを指定された解像度に変換する。例えば、間引き処理を行うことにより低解像度化したり、補間処理を行うことにより高解像度化したりする。
色変換部D3は解像度変換後のテスト画像データ13bの表色系を印刷装置にて使用するインク色の階調で各画素の色が表される表色系に変換する。なお、本実施形態において印刷装置は、インクを吐出可能なインクノズルを多数備えた印刷ヘッドを主走査させることにより、インクドットを印刷媒体上に形成して印刷画像を形成するインクジェットプリンタ20であると仮定される。色変換部D3は色変換前後の表色空間の対応関係を規定した色変換LUT13dを取得可能であり、同色変換LUT13dを参照して色変換を行う。
ハーフトーン処理部D4は色変換後のテスト画像データ13bを取得するとともに、同テスト画像データ13bをハーフトーンデータに変換する。ハーフトーンデータは、各画素について各インクを吐出させるかさせないかを特定した画像データである。なお、複数のドットサイズを吐出させる印刷モードにおいて、ハーフトーンデータは各ドットサイズについてインクを吐出させるかさせないかを特定した画像データとなる。マイクロウィーブ処理部D5は、ハーフトーンデータを取得するとともに、同ハーフトーンデータを印刷ヘッドの走査パスごとのデータに分割した印刷データを生成する。すなわち、テスト画像データ13bの各画素を何回目の走査パスにおいて、どのインクノズルにて吐出したインクによって再現するか、マイクロウィーブ処理にて最終的に特定される。本実施形態においては、印刷を行うための処理の一部を行うプリンタドライバDをコンピュータ10上にて実行させている。従って、本実施形態においてコンピュータ10とプリンタ20が印刷装置を構成する。必ずしも印刷を行うための処理の一部をコンピュータ10上にて行う必要はなく、プリンタ20がプリンタドライバDに相当する機能を実行してもよい。
また、O/S上において印刷結果予測プログラムPも実行されている。印刷結果予測プログラムPは、パラメータセット部P1と着弾位置予測部P2と膜厚分布予測部P3と分光反射率分布予測部P4と画質予測部P5とから構成されている。パラメータセット部P1は所定のUI画面をディスプレイ60上にて表示させ、マウス40およびキーボード50を介してユーザーの指定入力を受け付ける。そして、受け付けたパラメータセットをパラメータテーブル13cに記憶させる。着弾位置予測部P2は、テストを行うテスト画像データ13bと、パラメータテーブル13cに設定された各パラメータを、プリンタドライバDに受け渡し、同プリンタドライバDにて解像度変換処理と色変換処理とハーフトーン処理とマイクロウィーブ処理を実行させる。
着弾位置予測部P2はマイクロウィーブ処理後の印刷データをプリンタドライバDから受け取り、同印刷データとパラメータテーブル13cに記憶された各種パラメータに基づいて印刷用紙上における各インク滴の着弾位置を予測する。着弾位置を予測するにあたっては印刷用紙平面を次元とした2次元の着弾位置データ13gを生成し、同着弾位置データ13g上においてインク滴が着弾すると予測される画素に階調を与える。各着弾位置に与えられた階調によって当該位置に着弾すると予測されるインク滴の情報を示すインク滴情報が表される。着弾位置データ13gは上記ハーフトーンデータよりも高解像度とされる。
膜厚分布予測部P3は、インク滴の着弾位置をプロットした着弾位置データ13gを取得するとともに、各着弾位置におけるインク滴情報に基づいて各着弾位置のインク滴によるインク形状を予測する。インク滴は印刷用紙に沿った方向に広がりを有しているため、複数のインク滴が同一の画素にて重なる場合もある。この場合、重なりによるインク形状も予測する。さらに、着弾直後のインク滴は印刷用紙に対する高さを有しているため、所定の閾値よりも高い位置のインクについては拡散するものとしてインク形状を予測する。以上の予測を行うことにより、着弾位置データ13gの各画素が、高さの階調を有する画像データである膜厚分布データ13hを生成する。膜厚分布データ13hによれば各位置における各インクの厚みを特定することができる。
分光反射率分布予測部P4は膜厚分布データ13hを取得し、各画素における各インクの厚みを取得する。また、分光反射率分布予測部P4は単位分光透過率テーブル13eを取得し、各インクの単位厚みあたりの単位分光透過率を取得する。そして、各画素について各インクの厚みを考慮した全体の分光透過率を算出する。各画素について各インクの厚みを考慮した全体の分光透過率を算出できると、各画素に対して基準光量の光が入射したときにインク膜を透過する入力分光透過量を算出する。そして、各画素において印刷用紙に入力分光透過量が入射したときに、同印刷用紙にて反射するメディア分光反射量を予測する。なお、ここでは印刷用紙にて入力分光透過量の光が乱反射されるものと仮定される。
メディア分光反射量が予測できると、同メディア分光反射量の光がインク膜を透過する光量が出力分光透過量として算出される。各画素についてインク膜全体の分光透過率が算出されているため、光が再びインク膜を透過するときの透過量も同様に予測することができる。各画素について入射した基準光量と反射した出力分光透過量分布との比から各画素の分光反射率が算出することができ、各画素について分光反射率を特定した画像データとして分光反射率分布データ13iを生成する。画質予測部P5は、分光反射率分布データ13iを取得するとともに、分光反射率分布データ13iに基づいて各画素の色を算出する。そして、各画素の色から輝度を抽出することにより、各画素について輝度の階調が表された画像データを生成する。さらに、輝度分布を示す画像データを印刷用紙に沿った方向について空間周波数解析を行うことにより、粒状性の指標値を算出する。
(2)印刷処理の流れ:
図3は本実施形態において印刷結果を予測するプリンタ20による印刷処理の流れを示している。なお、本発明においてプリンタ20にて実際に印刷を行うことは必須ではなく、各パラメータを説明するために任意の画像データが印刷されるまでの処理を説明する。ステップS100において、プリンタドライバDの画像データ取得部D1が任意の画像データを取得する。ステップS110において、画像データの解像度変換部D2が解像度変換処理を行う。解像度変換処理に対して設定可能な設定パラメータは印刷解像度rである。解像度変換処理においては指定された印刷解像度rに適合するように画像データの解像度を変換する。具体的には画素補間や間引き等を行う。これにより、設定パラメータの印刷解像度rに適合した画素数の画像データを変換結果として得ることができる。本実施形態において印刷解像度rとして下記の印刷解像度r1〜r3が設定可能である。
r1:縦720dpi×横720dpi
r2:縦1440dpi×横1440dpi
r3:縦2880dpi×横2880dpi
図4は、印刷解像度と印刷用紙上に形成されるインクドットの関係を模式的に示している。同図において、波線の格子が示されており、同格子の間隔が印刷解像度の逆数に対応している。基本的には、印刷解像度を指定すると、波線の格子の中にインクドットが配列するように印刷が行われる。例えば、印刷解像度r1(縦720dpi×横720dpi)に設定されたときよりも、印刷解像度r2(縦1440dpi×横1440dpi)に設定されたときの方がインクドットを高密度に配置することが可能となる。
ステップS120においては、色変換部D3が色変換を行う。なお、本実施形態において色変換前の画像データはsRGB表色系で表現されているものとする。また、本実施形態において想定するプリンタ20はCMYKlclmlk(シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック,ライトシアン,ライトマゼンタ,ライトブラック)インクを吐出可能なプリンタ20であり、これらのインクドットを図4の格子内に配置することにより任意のカラー画像を形成することが可能となっている。また、プリンタ20はCMYKインクのみを使用する印刷を行うこともできるし、CMYKlclmlkインクを全て使用して印刷することもできる。色変換処理に対してこれらのインクセットiを設定パラメータとして設定することが可能であり、インクセットiの設定によって異なる色変換結果が得られる。本実施形態においてインクセットiとして下記のインクセットi1〜i2が設定可能である。
i1:CMYK
i2:CMYKlclmlk
図5は、色変換部D3が色変換を行う際に参照する色変換LUT13dを示している。同図に上段においてはインクセットとしてCMYKインクが設定された場合に参照される色変換LUT13d1が示されており、同図に下段においてはインクセットとしてCMYKlclmlkインクが設定された場合に参照される色変換LUT13d2が示されている。CMYKインクに対応する色変換LUT13d1では、sRGB表色系のRGB値とCMYK値との略等色対応関係が規定されている。このことは、色変換処理によって、sRGB表色系の画像データが、各画素の色がCMYK値で表現される画像データに変換されることを意味する。同様に色変換LUT13d2では、sRGB表色系のRGB値とCMYKlclmlk値との対応関係が規定されており、色変換後には各画素の色がCMYKlclmlk値で表現される画像データが生成される。なお、色変換LUT13dにおいては代表的なRGB値についてのみ対応するCMYK値やCMYKlclmlk値を記述しておき、補間を行うことにより任意のRGB値に対応するCMYK値やCMYKlclmlk値を色変換処理にて算出するようにしてもよい。
図6においては、色変換LUT13d1,13d2についてCMYの混色により作成されるコンポジットグレーをKインクに振り分けるための分版テーブルT1,T2をグラフに示している。同図において、CMY等値のグレーの濃度階調を横軸に示しており、縦軸に分版後の各インク量を示している。色変換LUT13d1は、RGB−CMYの空間変換を行った後に、CMYの混色により作成されるコンポジットグレーをKインクのみによるグレーに置き換える分版処理を行うことにより作成されている。一方、色変換LUT13d2は、RGB−CMYの空間変換を行った後に、コンポジットグレーをKインクのみによるグレーに置き換える分版処理と、CMKの濃色インクをlclmlkの淡色インクに置き換える分版処理の双方を行うことにより作成されている。
前者の分版処理においては等色性が維持されるようにKインクへの振り分けが行われるが、Kインクの発生点αとKインクの発生率βは所定の範囲で変動させることができる。Kインクの発生点αは、コンポジットグレーをKインクに置き換えを開始する最も高明度の階調を意味する。Kインクの発生率βは、グレー濃度全体に寄与するKインクのみのグレー濃度の比率を意味する。分版テーブルT1においては発生点αが高明度領域側に設定され発生率βが小さく設定されている。これに対して、分版テーブルT2においては発生点αが低明度領域側に設定され発生率βが大きく設定されている。分版テーブルT1においては濃度の濃いKインクの使用量が抑えられるため、インクの粒状性を小さくできる。一方、分版テーブルT1においては分光反射率がフラットな濃いKインクの使用量が多いため、照明光に依存しない色の恒常性に優れた印刷画像を形成することができる。
本実施形態において、発生点αと発生率βは任意に設定可能であり、予め各値の発生点αと発生率βに対応する色変換LUT13dが作成されている。設定された発生点αと発生率βに応じた色変換LUT13dが選択され参照される。むろん、発生点αと発生率βが設定された時点で、設定された発生点αと発生率βに対応する色変換LUT13dするようにしてもよい。なお、CMKの濃色インクをlclmlkの淡色インクに置き換える分版処理においても同様に濃インク発生点と濃インク発生率を設定できるようにしてもよい。lclmlkインクはCMKインクの淡濃度インクであり、lclmlkインクを使用することにより、高明度領域の階調性に優れ、粒状性の少ない印刷結果を得ることができる。
ステップS130においては、ハーフトーン処理部D4がハーフトーン処理を行う。ハーフトーン処理部D4は色変換後の画像データを取得し、同画像データを各画素が大ドットと小ドットと中ドットのいずれを吐出させるか、または、いずれも吐出させないかの4階調で表現されたハーフトーンデータに変換する。このハーフトーン処理に対しても設定パラメータとして複数のHTモードh1〜h4を設定可能とされている。HTモードh1〜h4が意味する内容は下記の通りである。
h1:誤差拡散法−拡散距離大
h2:誤差拡散法−拡散距離小
h3:ディザ法−ディザマスク大
h4:ディザ法−ディザマスク小
すなわち、ハーフトーン処理として誤差拡散法とディザ法を選択的に行うことでき、さらにそれぞれについて拡散距離とディザマスクの大きさを設定することができる。
図7はCインクについてのハーフトーンデータを模式的に示している。同図に示すように各画素が大ドット『階調4』と中ドット『階調3』と小ドット『階調1』のいずれかを形成する状態、または、いずれのドットも形成しない『階調0』状態を示す4階調によって表現されている。なお、各画素が配列する格子間隔は上述した印刷解像度rの逆数である。また、ハーフトーン処理は各インクについて行われ、各インクについてのハーフトーンデータがそれぞれ生成される。ステップS140においては、マイクロウィーブ処理部D5がマイクロウィーブ処理を行う。マイクロウィーブ処理においては、ハーフトーンデータにおけるどの画素のインクドットを、何回目の主走査パスで形成するかを決定する。また、ハーフトーンデータにおけるどの画素のインクドットを、印刷ヘッドにおけるどのインクノズルから吐出させて形成するかも決定する。さらに、主走査パスの回数の決定にともなって各インクドット形成時の紙送り量(紙送り回数)も決定される。
図8はマイクロウィーブ処理を模式的に示している。同図においては、主走査方向の一画素列分のハーフトーンデータをマイクロウィーブ処理する様子を説明している。ハーフトーン処理にて決定された印刷ヘッド22の主走査方向の1画素列を所定回の主走査パス分のラスターデータに分解する。主走査方向のインクノズルN1〜N5の配列周期が180dpiであり、印刷解像度r1(720dpi)のハーフトーンデータの1画素列が4回の主走査パス分のラスターデータに分解されている。なお、ラスターデータでも大ドットと小ドットと中ドットのいずれかが形成される状態、または、いずれのドットも形成されない状態を示す4階調の情報は維持される。インクノズルN1〜N5の周期が180dpiであるものの4回の主走査パスに分解することにより、インクノズルN1〜N5の周期よりも高解像度の印刷を実現させることができる。
図の簡略化のため5個のインクノズルN1〜N5のみ図示しているが実際には主走査方向に多数のインクノズルNが配列する。同様に、副走査方向にも多数のインクノズルNが配列する。ところで、マイクロウィーブ処理の具体的手法は種々のものを採用することができる。まず、ハーフトーンデータの1画素列を何回の主走査パスのラスターに分解するかを設定することが可能である。図8では4回の主走査パスに分解することにより、最低限、720dpiの印刷を実現することができたが、1画素列分のハーフトーンデータを分解する主走査パス数を増加させることにより、インク吐出を分担させるノズル選択の自由度が増し、ランダム性の高いノズル分担を実現させることができる。分解する主走査パス数が少ない場合には、印刷に要する時間が短縮できるもののインクノズルN1〜N5の選択の幅が減少し、ランダム性の高いノズル分担が不可能となる。従って、分解する主走査パス数が少ない場合には、インクノズルN1〜N5の誤差が画質に現れやすい傾向となる。
一方、副走査方向に関する分担方法も種々の手法を採用することができる。例えば、ハーフトーンデータにおける1画素列を複数のインクノズル列に分担させることも可能である。図8の例では、1画素列はインクノズルN1〜N5のインクノズル列のみによって形成されるが、1画素列を複数のインクノズル列に分担させるようにしてもよい。一般的に、インクノズルNの副走査方向の先頭数列分のインクノズル列と、最後尾数列分のインクノズル列によっていくつかの画素列をオーバーラップさせて形成することが行われている。例えば、主走査方向において奇数番目の画素は先頭のインクノズル列に割り振り、偶数番目の画素は最後尾のインクノズル列に割り振るようにしてもよい。このようにすることにより、印刷時間に要する時間が長くなるものの、紙送り誤差があった場合にも、バンディングを目立ちにくくすることができる。なお、本実施形態においては、マイクロウィーブ処理のモード(MWモードm)を設定パラメータとして下記のように設定することが可能となっている。
m1:画質重視モード
m2:速度重視モード
例えば、MWモードm1においては分解される主走査パス数を多くし、オーバーラップも行われるようなマイクロウィーブ処理が実行される。また、マイクロウィーブ処理を行うことにより各インクドットを形成する際の紙送り量(副走査量)も決定される。例えば、図8に示す1画素列のハーフトーンデータはインクノズルN1〜N5の直下に印刷用紙30の対応位置が位置するまで紙送りが行われたときに出力されることが判明する。すなわち、マイクロウィーブ後のラスターデータ群によれば、
『ハーフトーンデータの任意の画素に相当するインクドットを、
どのインクノズルNで形成するか、
どれだけの副走査量において形成するか』を特定することができる。
さらに、本実施形態においては、設定パラメータとして双方向印刷を行うか否かのモード(走査モードd1,d2)を設定することが可能となっている。走査モードd1,d2が意味する内容は下記の通りである。
d1:双方向印刷OFF
d2:双方向印刷ON
双方向印刷ONにした場合には、図8にて波線の矢印に示す方向に、各主走査パスにて印刷ヘッド22が主走査することとなる。すなわち、奇数パスと偶数パスとで主走査方向が反対となる。このようにすることにより、印刷時間が短縮できるものの、インク着弾位置がずれて画質が劣化する場合がある。
ステップS150においては、マイクロウィーブ処理にて生成したラスターデータ群と、プリンタ20に対して設定する各種設定パラメータとで構成される印刷データをプリンタ20に出力する。ステップS160においては印刷データを受け取ったプリンタ20にて実際に印刷が行われる。プリンタ20の印刷においては主走査と副走査とインク吐出が並行して行われる。
図9は、プリンタ20が印刷用紙に印刷を行う様子を模式的に示している。同図においてプリンタ20において信号処理部(CPU)21が備えられており、同信号処理部21が印刷データに基づいて各部に出力する駆動信号を生成する。信号処理部21は、印刷ヘッド22と、印刷ヘッド22の温度を測定する温度センサ23と、印刷ヘッド22をキャリッジレール22aに沿って主走査させるキャリッジモータ24と、紙送りローラ25aを駆動させて印刷用紙30を紙送りさせる紙送りモータ25と、パルス設定26aが記憶されたEEPROM26に対して信号の授受が可能となっている。キャリッジモータ24によって駆動される印刷ヘッド22の走査方向が主走査方向であり、紙送りモータ25による印刷用紙の送り方向が副走査方向である。マイクロウィーブ処理後のラスターデータによれば、主走査パス数と副走査の送り量とが特定できるため、キャリッジモータ24と紙送りモータ25に対する駆動信号を生成することができる。
印刷ヘッド22は多数のインクノズルNを有しており、各インクノズルNに対して図示しないインクタンクが連通している。各連通経路の壁面には図示しないピエゾ素子がそれぞれ配置されている。そして、各ピエゾ素子に対して電圧パルスを印加することにより、各連通経路を圧迫して、インク滴をインクノズルNから吐出させること可能となっている。信号処理部21はラスターデータ群を受け取ると、ラスターデータ群の各画素の階調に対応した電圧パルスを生成する。それとともに、EEPROM26に記憶されたパルス設定26aを読み出して、同パルス設定26aに基づき生成した電圧パルスを調整する。この電圧パルスの振幅が大きいほど、粒の大きいインク滴を吐出することができる。本実施形態においては、電圧パルスの振幅をそれぞれ切り換えることにより大ドットと中ドットと小ドットを切り換えて吐出する。なお、中ドットと小ドットに相当するインク滴を連続的に打ち込むことにより大ドットを形成するようにしてもよい。
図10は、電圧パルスを模式的に示している。同図において、大ドットと中ドットと小ドットについてそれぞれ基準電圧El0,Em0,Es0が決められており、ラスターデータ群の画素が示す大ドットと中ドットと小ドットに応じて基準電圧El0,Em0,Es0の電圧パルスを生成する。本実施形態においては、パルス設定26aにて大ドットと中ドットと小ドットについての電圧パルスの調整倍率γ,δ,εが設定可能であり、同調整倍率γ,δ,εに基づいて実際にピエゾ素子に出力される電圧パルスEl(=El0×γ),Em(=Em0×δ),Es(=Em0×ε)の振幅が調整される。本実施形態において、調整倍率γ,δ,εは80%〜120%の間の範囲で任意に設定することができる。電圧パルスの振幅が大きいほど粒の大きいインク滴が吐出できるため、調整倍率γ,δ,εを調整することにより最終的に印刷用紙30におけるインク滴の着弾形状を調整することができる。
図11は、調整倍率γ,δ,εに応じて変動する大ドットと中ドットと小ドットのインク滴の着弾形状を示している。本実施形態において、インク滴の着弾形状は楕円柱状に近似される。従って、大ドットのインク滴の着弾形状は長径rll(γ)と短径rsl(γ)と厚みthl(γ)によって特定することができる。同様に、中ドットのインク滴の着弾形状は長径rlm(δ)と短径rsm(δ)と厚みthm(δ)によって特定することができ、小ドットのインク滴の着弾形状は長径rls(ε)と短径rss(ε)と厚みths(ε)によって特定することができる。調整倍率γ,δ,εの増大によって各サイズのインク滴の体積も増大するため、各サイズのインク滴の着弾形状rll(γ),rsl(γ),thl(γ),rlm(δ),rsm(δ),thm(δ),rls(ε),rss(ε),ths(ε)も調整倍率γ,δ,εとともに単調増加する関係となる。このように、調整倍率γ,δ,εを調整することにより、着弾形状を任意の大きさに調整することができる。
以上のように信号処理部21が印刷データに基づいて各部に出力する駆動信号を生成することにより、ラスターデータ群に忠実にインク滴を吐出させることができ、ハーフトーンデータに忠実なインクドット配置を実現させることができる。すなわち、ハーフトーンデータと同様のインクドット配置を実現させることができる。ところが、印刷用紙30上にインク滴が着弾するまでの課程において機械的な処理が介在するため、インク滴の着弾位置にいくつかの誤差要因も介在することとなる。主要な誤差要因として紙送り誤差とインク的の飛翔方向誤差が挙げられる。
紙送り誤差がある場合には、紙送り方向に対するインクドット配列が不均一となる。インク滴の飛翔方向誤差がある場合には、インク滴が意図した方向に飛翔しないため、ハーフトーンデータの配置どおりの位置にインクが着弾しない。また、適正な位置に着弾した場合でも、インク滴の形状に誤差がある場合には、ハーフトーンデータ処理が前提としている個々のインクドットの大きさにずれが生じることとなる。インク滴の形状の誤差は、インクノズルNの機械誤差によって生じる場合と、電圧パルスの誤差によって生じる場合がある。
(3)印刷結果のシミュレーション:
(3−1)パラメータの設定:
図12はシミュレーション処理の流れを示している。本シミュレーション処理においては、上述したプリンタ20によって印刷を行った印刷結果をシミュレーションする。ステップS200においてはパラメータの設定を行う。上述した印刷処理において設定可能な設定パラメータは、印刷解像度rと、インクセットiと、HTモードhと、Kインク発生点αと、Kインク発生率βと、MWモードmと、主走査モードdと、電圧パルスの調整倍率γ,δ,εである。なお、設定パラメータα,β,γ,δ,εは連続的な値であるため任意の数値を設定することができる。設定パラメータr,i,h,m,dは離散的な値であるため、予め用意された選択肢の中から設定するものを選択する。
図13は、ステップS200にて設定されるパラメータセットの例を一覧にして示している。同図において示すようにパラメータセットにおいては、上述した設定パラメータのほかに、基本的にプリンタ20の機体に依存する誤差パラメータF,K,Dも設定されている。誤差パラメータとして、紙送り量の変動特性Fが設定されている。紙送り量fは、原点から期待量eだけ紙送りを行うように紙送りモータ25に対して駆動信号を出力したときに実際に送られた紙送り量を変位センサ等によって調査することにより得られ、期待量feの関数で表される。
図14は、期待量feと実際の紙送り量fとの関係をグラフに示している。同図に示すように、期待量feの増加とともに実際の紙送り量fも単調に増加しているが、周期的な紙送り誤差が紙送り量fに含まれている。一般的に、紙送りには紙送りローラの回転駆動が寄与しているため実際の紙送り量fは周期関数となる場合が多い。なお、紙送り量fを期待量feで減算することにより、紙送り誤差を算出することができる。紙送り量fと期待量feの対応関係を関数によって紙送り量fの変動特性Fを特定してもよいし、テーブルデータとして特定しもよい。いずれにしても、誤差パラメータとして紙送り量fの変動特性Fを設定することにより、紙送り量fと期待量eとの対応関係を特定することが可能なる。また、誤差パラメータとして、インク滴の飛翔方向の変動特性Kが設定される。
図15は、インク滴の飛翔方向を模式的に示している。同図において、印刷ヘッド22を主走査させつつ全てのインクノズルNから同時にインク滴を吐出させることにより、印刷された印刷画像を示している。各インク滴が同時に吐出される際の初期位置は、インクノズルNの配列そのものである。従って、全てのインクノズルNから同一方向にインク滴が飛翔すれば、得られる印刷画像もインクノズルNの配列そのものとなる。しかし、インクノズルNから吐出されたインク滴が正常な方向に飛翔しない場合、波線の交点で示すインクノズルNの配列位置からずれた位置にインク滴が着弾し、当該位置にてインクドットが形成されることとなる。
従って、各インクドットの形成位置を調査しておくことにより、どのインクノズルNにて吐出したインク滴がどの方向にどれだけずれて着弾するかを特定することができる。このような着弾位置のずれを予め調査しておき、各インクノズルNについて着弾位置のずれ(主走査方向:kx,副走査方向:ky)を規定したテーブルデータを用意しておけば、誤差パラメータとしてインク滴の飛翔方向の変動特性Kを設定しておくことができる。ただし、主走査方向が反対方向になればインク滴の飛翔方向の誤差特性も異なったものとなる。インクの飛翔方向は、ピエゾ素子の駆動によるインクの付勢と、印刷ヘッド22が主走査することによるインクの慣性に大きく影響されるからである。従って、本実施形態においては、各主走査方向についてそれぞれインク滴の飛翔方向の変動特性Kが調査され、設定される。インク滴の飛翔方向は各インクノズルNに応じた変動特性であるが、各インクノズルNに応じた変動特性としてインクドットの大きさや形状も設定しておいてもよい。さらに、誤差パラメータとして、インク滴形状の変動特性Dが設定される。
図16は、インク滴形状の変動特性Dの一例を模式的示している。同図において、一定の基準電圧の電圧パルスを与えてインク滴を主走査方向の各位置xにて着弾させたときのインク滴の着弾形状(長径rl,短径rs,厚みth)の全位置における平均値(長径Arl,短径Ars,厚みAth)に対する変動倍率を示している。なお、主走査位置xにおける長径rlの変動倍率をTrl(x)とし、短径rsの変動倍率をTrs(x)とし、厚みthの変動倍率をTth(x)とする。同図によれば、基準電圧が一定であるにもかかわらず、主走査方向の位置xに応じて長径rl,短径rs,厚みthがわずかに変動することが示されている。
連続吐出によるパルス電圧の電圧降下や、連続吐出によるインク温度の上昇や、インクノズルNにおけるメニスカスの状態等によって主走査位置xに応じて実際に吐出されるインク滴の大きさが変動するからである。このような変動特性は電圧パルスを制御することによりある程度は補償することができるが、プリンタ20の機体によっては図のような変動特性が生じる場合もある。従って、本実施形態では、予めプリンタ20ごとにインク滴形状の変動特性を調査しておき、主走査位置xとインク滴形状の変動倍率Trl(x),Trs(x),Tth(x)との対応関係を規定したテーブルデータをインク滴形状の変動特性Dとして用意しておく。なお、インク滴形状は主走査位置のみならず副走査位置や吐出したインクノズルNに応じても変動すると考えられる。従って、インク滴形状の変動特性Dを、副走査位置やインクノズルNに応じて変動するように設定してもよい。
以上説明した設定パラメータと誤差パラメータは、ステップS200にてパラメータセット部P1が所定のUI画面をディスプレイ60上にて表示させ、マウス40およびキーボード50を介してユーザーの入力を受け付けることにより指定される。そして、受け付けた各パラメータをパラメータテーブル13cに記憶する。これにより、ユーザーは、印刷結果をシミュレーションしたい各条件、および、印刷結果をシミュレーションしたいプリンタ20の誤差を設定することができる。なお、誤差パラメータはプリンタ20の誤差を実際に計測した結果に基づいて設定することもできるし、ユーザーが想定した所望の誤差を設定することもできる。
(3−2)着弾位置の予測:
ステップS210においては、着弾位置予測部P2が、テスト画像データ13bと、パラメータテーブル13cに格納されたパラメータセットを取得し、これらをプリンタ20のドライバDに受け渡す。テスト画像データ13bとパラメータセットを受け取ったドライバDは、パラメータセットの条件下で解像度変換処理(ステップS220)と色変換処理(ステップS230)とハーフトーン処理(ステップS240)とマイクロウィーブ処理(ステップS250)を行い、ステップS260にてハーフトーン処理後のハーフトーンデータと、マイクロウィーブ処理後のラスターデータ群を着弾位置予測部P2に受け渡す。ステップS220〜ステップS250の処理については上述した印刷処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
ハーフトーンデータとラスターデータ群を受け取った着弾位置予測部P2は、ステップS270にて、これらのデータおよびパラメータテーブル13cに格納されたパラメータセットに基づいて各インク滴の着弾位置を予測する。上述したとおり理想的にはハーフトーンデータが示す配置に各インク滴が着弾するが、ここでは誤差パラメータとして設定された紙送り量の変動特性Fとインク滴の飛翔方向の変動特性Kとを考慮することにより、実際の誤差を考慮したインク滴の着弾位置が予測される。まず、着弾位置予測部P2は、ハーフトーンデータよりも高解像度の画像データを着弾位置データ13gとして生成する。
図17は、着弾位置データ13gを示している。同図において、着弾位置データ13gの画素(波線)とハーフトーンデータの画素(実線)が示されている。ハーフトーンデータの1画素が着弾位置データ13gの20画素×20画素に相当している。着弾位置データ13gは印刷用紙30に沿った方向の2次元画像データでありX方向は主走査方向とされ、Y方向が副走査方向とされている。着弾位置が理想的であれば、着弾位置データ13gにおいてハーフトーンデータの画素の中心C0にインク滴が着弾することとなる。上述したとおりマイクロウィーブ処理後のラスターデータ群によれば、ハーフトーンデータの任意の画素に相当するインクドットを、どのインクノズルNで形成するか、どれだけの副走査量において形成するかを特定することができるため、この副走査量(期待量fe)から実際の紙送り量fを紙送り量の変動特性Fから得ることができる。
図18は、着弾位置を予測する様子を模式的に示している。同図において、ハーフトーンデータのある画素に相当するインクドットを形成する際に、副走査量(期待量fe)からずれた紙送り量fとなっていることが示されている。これにより、紙送り量fと期待量feとの差分に相当する紙送り誤差の分だけ副走査方向にずれたインク滴の中心C1を予測できる。さらに、インク滴の飛翔方向の変動特性Kを考慮したインク滴の着弾位置の中心C2を予測する。ラスターデータ群に基づいて、ハーフトーンデータにおける当該画素を形成するインクノズルNを特定する。そして、特定されたインクノズルNから吐出されるインク滴の飛翔方向を変動特性Kから特定する。
インク滴の飛翔方向の変動特性Kでは、各インクノズルNについて着弾位置のずれ(主走査方向:kx,副走査方向:ky)が記述されているため、インク滴の飛翔方向の変動特性Kを考慮したインク滴の着弾位置の中心C2を予測することができる。ただし、主走査モードd2と設定され双方向印刷ONの場合には、ラスターデータが偶数パスか奇数パスであるかによって、いずれかの方向のインク滴の飛翔方向の変動特性Kを切り換える。そして、図17に示すように着弾位置データ13gにおいて中心C2に相当する位置の画素にインク滴情報を示す階調を付与する。具体的には、当該画素に着弾するインク滴が大ドットと中ドットと小ドットのいずれを形成するためのインク滴であるかを示す情報を階調表現する。
さらに、中心C2にて着弾するインク滴に付随して生成するサテライトドットのインク滴の中心Csを予測する。本実施形態においては着弾したインク滴のしぶきが落下することにより、印刷ヘッド22の主走査方向にサテライトドットが付随的に形成されるものと予想する。サテライトドットの中心Csは主とするインク滴の中心C2から主走査方向に一定の距離進んだ位置となると仮定される。主とするインク滴が大ドットと中ドットと小ドットであるかによって、中心Csと中心C2との距離を異なる値に設定してもよい。また、主走査モードd2が設定されている場合には、主走査パスが奇数であるか偶数であるかによってサテライトドットの着弾方向が反対方向となるため、サテライトドットの着弾方向を切り換える。同様に、着弾位置データ13gにおいて中心Csに相当する画素に所定の階調を付与する。ここで与える階調は、当該画素に着弾するサテライトドットのインク滴が大ドットと中ドットと小ドットのいずれに付随するものであるかを示す階調である。
以上の処理をCMYKlclmlkの各インクのハーフトーンデータの全画素について順次行うことにより、主のインク滴の着弾位置の中心C2と、サテライトドットのインク滴の着弾位置の中心Csとがプロットされた着弾位置データ13gをCMYKlclmlkの各インクについて生成することができる。なお、ハーフトーンデータにおいてインクドットが形成されない画素においては上記の予測を要しない。また、解像度変換部D2と色変換部D3とハーフトーン処理部D4とマイクロウィーブ処理部D5も広い意味で、着弾位置の予測に寄与していると考えることができ、着弾位置予測部P2とともに本発明の着弾位置予測手段に相当するということができる。ステップS280においては、膜厚分布予測部P3がCMYKlclmlkの各インクについての着弾位置データ13gに基づいてインク膜厚分布を予測する。
(3−3)インク膜厚分布の予測:
図19は、膜厚分布予測処理の流れを示している。同図において、ステップS281においてインクを選択する。本実施形態では、CMYKlclmlkの各インクについての着弾位置データ13gが生成されており、ステップS281では、そのうちひとつを選択する。ステップS282においては、着弾位置データ13gにおける各中心C2,Csを中心とした着弾直後のインク滴形状を予測する。本実施形態においては、各インク滴形状が楕円柱状となると仮定される。
図20は、中心C2,Csとインク滴形状を示している。同図において、主となるドットをサテライトドットに対応するインク滴形状が示されており、それぞれ異なる長径rlと短径rsと厚みthが設定されている。ここで、長径rlと短径rsと厚みthの設定方法について説明する。各インクドットに対応するインク滴の長径rlと短径rsと厚みthは下記式(1)によって算出される。
※大ドット
長径:rl=rll(γ)×Trl(x)
短径:rs=rsl(γ)×Trs(x)
厚み:th=thl(γ)×Tth(x)
※大ドットのサテライトドットト
長径:rl=w×rll(γ)×Trl(x)
短径:rs=w×rsl(γ)×Trs(x)
厚み:th=w×thl(γ)×Tth(x)
※中ドット
長径:rl=rlm(δ)×Trl(x)
短径:rs=rsm(δ)×Trs(x)
厚み:th=thm(δ)×Tth(x)
※中ドットのサテライトドット ・・(1)
長径:rl=w×rlm(δ)×Trl(x)
短径:rs=w×rsm(δ)×Trs(x)
厚み:th=w×thm(δ)×Tth(x)
※小ドット
長径:rl=rll(ε)×Trl(x)
短径:rs=rsl(ε)×Trs(x)
厚み:th=thl(ε)×Tth(x)
※小ドットのサテライトドットト
長径:rl=w×rll(ε)×Trl(x)
短径:rs=w×rsl(ε)×Trs(x)
厚み:th=w×thl(ε)×Tth(x)
上記式(1)によれば、各サイズのインクインク滴形状に対して、設定パラメータとして設定された電圧パルスの調整倍率γ,δ,εを反映させることができる。さらに、各主走査位置xにおける変動倍率Trl(x),Trs(x),Tth(x)も反映され、誤差パラメータとして設定されたインク滴形状の変動特性Dを反映させることができる。なお、各サイズのサテライトドットのインク滴形状は、主のインク滴形状と相似であると仮定され、1より小さい一定の係数wを主のインク滴形状に乗算することにより予測する。着弾位置データ13gにてプロットされた全ての中心C2,Csにしてインク滴形状が予測していき、各中心C2,Csを中心としたインク滴形状を特定した画像データを生成する。
図21は、図17に示した着弾位置についてインク滴形状を予測した図を示している。同図において、各中心C2,Csを中心として楕円柱状(上方視楕円状)のインク滴形状が生成されている。なお、本画像データにおいて各画素の階調がインク滴の厚みth(I,x,y)を示しており、長径rlと短径rsは0でない厚みthを有する画素群の幅で特定することができる。なお、Iは任意のインクを意味するものとし、xは任意の主走査方向の位置を意味するものとし、yは任意の副走査方向の位置を意味するものとする。本画像データの各画素に対応する幅および高さは、着弾位置データ13gの各画素と同一とされている。同一の画素において複数のインク滴が重複する場合もある、例えば図21のハッチング部分のようにサテライトドットと大ドットのインク滴が重なるような場合もある。この場合は、各インク滴単独の厚みth(I,x,y)を重畳する。
以上のようにして、選択したインクについてインク滴形状を予測した画像データが生成できると、ステップS283にて全てのインクについてインク滴形状を予測した画像データを生成したかどうかを確認する。まだ、インク滴形状の予測をしていないインクがあれば、ステップS281にて次のインクを選択し、当該次のインクについてインク滴形状を予測した画像データを生成する。全てのインクについてインク滴形状を予測した画像データが生成されると、ステップS284にて各インクの画像データを重畳する。
図22a,図22bは、CMインクについてインク滴形状を予測した画像データを重畳する様子を示している。同図において、印刷用紙30の副走査方向の断面を示し、横軸に主走査方向xを示し、縦軸に印刷用紙30からの高さを示している。同一の位置の画素においてCMインクのそれぞれに0でない厚みth(I,x,y)の階調が存在する場合、これらの階調を加算することにより、印刷用紙30上の各位置におけるインク膜厚の総和thw(x,y)が特定される。図22aでは主走査位置x1〜x2の区間において0でない厚みth(C,x,y),th(M,x,y)となっており、図22bにおける主走査位置x1〜x2の区間ではインク膜厚の総和thw(x,y)がCMインク単独のものよりも高くなっている。なお、インク膜厚の総和は下記式(2)によって表すことができる。
ステップS285においては重畳されて得られたインク膜厚の総和thw(x,y)の画像データに対してインク保持限界高さlhを設定し、各位置におけるインク膜厚の総和thw(x,y)と比較する。インク保持限界高さlhは、これ以上インク膜厚の総和thw(x,y)が厚くなったとき、インク保持限界高さlhよりも高い位置のインクが印刷用紙30に沿った方向に拡散を開始する閾値である。なお、本実施形態においてインク保持限界高さlhは、位置(x,y)やインクIに依存しないものとする。図22bの例ではCMインク単独によるインク滴の高さth(C,x,y),th(M,x,y)ではインク保持限界高さlhを超えないが、CMインクが重なった部位についてはインク膜厚の総和thw(x,y)>インク保持限界高さlhとなっている。このように、インク膜厚の総和thw(x,y)>インク保持限界高さlhとなる部分において、インク保持限界高さlhより高い位置のインクが拡散すると考える。
ここで、複数種類のインクによってインク膜厚の総和thw(x,y)が構成される場合、どのインク成分がどれだけインク保持限界高さlhより高い位置にあるかを決定する必要がある。本実施形態においては、下記式(3)によって、インク保持限界高さlhより高い位置にある拡散インク厚みths(I,x,y)の任意のインク成分を算出する。
ただし、{thw(x,y)−lh}≦0のときths(I,x,y)=0とする。
上記式(3)においては、あるインクI成分のインク保持限界高さlhを超える拡散インク厚みths(I,x,y)は、インク保持限界高さlhを超える膜厚{thw(x,y)−lh}の全体の膜厚の総和thw(x,y)に対する比を、各インクI成分の全体の厚みth(I,x,y)に乗算することにより得られる。このようにすることにより、全体の膜厚の総和thw(x,y)に対する任意のインクIの厚みth(I,x,y)の比を、インク保持限界高さlhを超えるインクについても維持することができる。すなわち、上記式(3)によればインク保持限界高さlhの上下において、各インクI成分の厚みth(I,x,y)の比が同一となる。
一方、インク保持限界高さlhより低い位置にある非拡散インク厚みthh(I,x,y)の任意のインクI成分は下記式(4)によって算出することができる。
ただし、thw(x,y)−lh≦0のときthh(I,x,y)=th(I,x,y)とする。
図23aは、CMインクのインク滴の重なり部分をCインク成分とMインク成分に区分した様子を示している。ステップS286においては、いずれかのインクIを選択する。そして、ステップS287において、選択したインクIのth(I,x,y)を上記式(3),(4)によって拡散成分ths(I,x,y)と非拡散成分thh(I,x,y)に分解した画像データを生成する。ここでは、はじめにCインクが選択されたものとして説明する。図23bは、Cインクのインク滴の厚みth(C,x,y)の画像データを拡散成分ths(C,x,y)と非拡散成分thh(C,x,y)の画像データに分解する様子を示している。ステップS288においては、拡散成分ths(C,x,y)が拡散する状態を予測する。
図24aは、拡散後のCインクについてインク滴形状を予測した画像データを示している。同図に示すように、拡散成分ths(C,x,y)の形状が印刷用紙30に沿った方向に拡散し、非拡散成分thh(C,x,y)は初期のインク滴形状が維持されている。ここでは、拡散成分ths(C,x,y)の画像データについて下記式(5)にインクI=Cを代入することにより、拡散成分ths(C,x,y)が(x,y)方向に拡散した後のCインクの拡散成分の膜厚分布thss(C,x,y)を予測する。
なお、上記式(5)においてh(x,h)は平滑化フィルタであり、本実施形態では平滑化フィルタの一例として2次元のガウスフィルタを適用している。平滑化フィルタを拡散成分ths(C,x,y)による膜厚分布に畳み込むことにより、インクが拡散する形状を予測することができる。ガウスフィルタにおけるσは拡散径を意味し、各インクの粘度や表面張力や、想定する印刷用紙30の濡れ性等に応じて調整することができる。ステップS289においては、平滑化を行った後の拡散成分thss(C,x,y)と非拡散成分thh(C,x,y)を重畳する。
図24bは、平滑化を行った後の拡散成分thss(C,x,y)と非拡散成分thh(C,x,y)を重畳する様子を示している。なお、重畳後のCインクの膜厚分布をtht(C,x,y)と表記するもとする。以上のようにして拡散後のCインクの膜厚分布tht(C,x,y)が予測できると、ステップS280にて、すべてのインクについてインク膜厚分布tht(I,x,y)を予測したかどうかが判断される。すべてのインクについてインク膜厚分布tht(I,x,y)が予測されていない場合には、ステップS286に戻り、次のインクを選択する。すなわち、ステップS286〜S290の処理を繰り返して行うことにより、全てのインクについて拡散後のインク膜厚分布tht(I,x,y)を得ることができる。
最終的に、すべてのインクについて拡散後のインク膜厚分布tht(I,x,y)が得られると、膜厚分布予測部P3はステップS291にて各インクのインク膜厚分布tht(I,x,y)を格納した膜厚分布データ13hをHDDに記憶させる。以上により膜厚分布予測処理が完了し、次にステップS300にて分光反射率分布予測処理を実行する。このように、複数のインク滴が重なることにより、位置の高いインク成分が生じることが予測でき、さらに位置の高いインク成分が拡散することを予測することにより、インクの重なり形状を正確に予測することができる。
(3−4)分光反射率分布の予測:
図25は、分光反射率分布予測処理の流れを示している。ステップS301においては、インクを選択する。ここでは、はじめにCインクが選択されたものとして説明を行う。ステップS302においては、分光反射率分布予測部P4が単位分光透過率テーブル13eからCインクについての単位分光透過率を取得する。
図26は単位分光透過率テーブル13eを示している。単位分光透過率テーブル13eには各インクIの各波長λについて単位厚みあたりの透過率を規定したテーブルとなっている。かかる単位分光透過率テーブル13eを参照することにより、各インクIについての単位分光透過率pu(I,λ)を取得することができる。ステップS303においては、膜厚分布データ13hからCインクのインク膜厚分布tht(C,x,y)を取得する。そして、ステップS304においては、下記式(6)にインクI=Cを代入して、Cインクについての分光透過率分布p(C,λ,x,y)を算出する。
上記式(6)においては、Cインクの各部位における膜厚全体による透過率を分光透過率分布p(C,λ,x,y)として算出しており、分光透過率分布p(C,λ,x,y)は単位分光透過率pu(I,λ)をインク膜厚分布tht(C,x,y)でべき乗することにより算出されている。なお、上記式(6)は、ある透過媒体の厚み全体の透過率は、その透過媒体の単位厚みあたりの透過率を、透過媒体の厚みでべき乗することにより与えられるとしたランバート・ベアの法則を適用したものである。
ステップS305においては全てのインクIが選択されたかどうかが判定され、全て選択されていない場合には、ステップS301に戻り次のインクIを選択する。これにより、すべてのインクIについて分光透過率分布p(I,λ,x,y)が算出されるまでステップS301〜S304を繰り返して実行させることができる。ステップS306においては、下記式(7)によって各インクIの分光透過率分布p(I,λ,x,y)をすべて掛け合わせることにより、印刷用紙30上を被覆する全インクIを透過する光の分光透過率分布pw(λ,x,y)を算出する。
ステップS301〜S306によれば、まず各インクIに関して膜厚全体の分光透過率分布p(I,λ,x,y)が算出され、次に各インクIの分光透過率分布p(I,λ,x,y)を相乗することにより、全インクに関して膜厚全体の分光透過率分布pw(λ,x,y)が算出される。例えば、Cインクのみが被覆される部位についてはCインクに関しての分光透過率分布p(C,λ,x,y)のみで全体の分光透過率分布pw(λ,x,y)が決まるが、CMインクが被覆される部位についてはCMインクに関しての分光透過率分布p(C,λ,x,y),p(M,λ,x,y)の相乗で全体の分光透過率分布pw(λ,x,y)が決まる。なお、上記式(7)においてもランバート・ベアの法則が適用しているということができる。
以上のようにして全インクの分光透過率分布pw(λ,x,y)が算出できると、印刷用紙30を照射する光が印刷用紙30表面に到達する透過量を予測することができる。ステップS307においては、下記式(8)により、ある波長λの所定の初期光量P(λ)の光が印刷用紙30に均一に入射したときに、印刷用紙30表面に到達する光量の分布を入力分光透過量分布Pi(λ,x,y)として算出する。なお、初期光量P(λ)は波長によらず一定としてもよいし、実際の照明光のように波長依存の光源を想定してもよい。
Pi(λ,x,y)=P(λ)×pw(λ,x,y) ・・(8)
図27では、初期光量P(λ)と入力分光透過量分布Pi(λ,x,y)を矢印に示し、その大きさを矢印の大きさによって表している。分光透過率分布pw(λ,x,y)は1以下の数であるため、入力分光透過量分布Pi(λ,x,y)は初期光量P(λ)より減衰している。ステップS308においては、下記式(9)によって、印刷用紙30表面に到達した入力分光透過量分布Pi(λ,x,y)の光が印刷用紙30表面にて反射される光量をメディア分光反射量分布Pm(λ,x,y)として算出する。
上記式(9)においては、PSF(x,y)は点広がり関数を意味し、印刷用紙30表面にて乱反射された反射光量を予測するものである。具体的には、PSF(x,y)としてガウスフィルタ等の平滑化フィルタを適用する。上記式(5)にて示したガウスフィルタを適用する場合、想定する印刷用紙30の表面の光沢に応じてσを調整することができる。また、印刷用紙30の表面が波長λに関して偏った分光反射特性を有する場合には、σを波長λに依存させるようにしてもよい。図27においては、上記式(9)によって予測されるメディア分光反射量分布Pm(λ,x,y)を模式的に示している。同図に示すように、点光源に対応する反射光量が印刷用紙30に沿った(x,y)方向に拡散している。上記式(9)で畳み込み積分を行うことにより、各位置(x,y)の反射光量が加算されたものがPm(λ,x,y)として算出される。すなわち、ある点の入力分光透過量分布Pi(λ,x,y)を、近隣のメディア分光反射量分布Pm(λ,x,y)にも依存させることができ、インク膜厚分布に応じた正確な予測を行うことができる。
ステップS309においては、下記式(10)により、印刷用紙30にて反射したメディア分光反射量分布Pm(λ,x,y)の光がインク膜を再度透過して空気中に放出される光量を出力分光透過量分布Po(λ,x,y)として算出する。
Po(λ,x,y)=Pm(λ,x,y)×pw(λ,x,y) ・・(10)
インクの透過特性は非方向依存であると考えることができるため、上記式(10)においても上記式(8)と同様に分光透過率分布pw(λ,x,y)を使用することができる。空気中の透過率は100%と考えることができ、インク膜から放出された出力分光透過量分布Po(λ,x,y)の光がそのまま人間の目や画像センサ等にて知覚されるものと考えることができる。
ステップS310においては、下記式(11)によって分光反射率分布R(λ,x,y)を算出する。
R(λ,x,y)=Po(λ,x,y)/P(λ) ・・・(11)
上記式(11)では、最終的に人間の目や画像センサ等にて知覚される出力分光透過量分布Po(λ,x,y)を印刷媒体30に入射させた初期光量P(λ)によって除算することにより算出している。すなわち、印刷画像に入射させた光がどれくらい戻ってくるかを示す割合を波長λ、位置(x,y)ごとに算出している。ステップS311においては各画素が分光反射率分布R(λ,x,y)を有する画像データを生成し、同画像データをHDD13に分光反射率分布データ13iとして記憶し、処理を終了する。
上述したシミュレーション処理を行うことにより、テスト画像データ13bをプリンタ20にて印刷させた印刷画像の分光反射率分布R(λ,x,y)を得ることができる。画質予測部P5は分光反射率分布R(λ,x,y)を格納した分光反射率分布データ13iを取得して、印刷画像の画質を評価する。画質を評価するにあたり、まず分光反射率分布データ13iにおける各画素の色を特定する。なお、本実施形態においては、画質の一例として粒状性と色を評価する。
(3−5)画質の評価:
図28は、画質評価処理の流れを示している。同図において、ステップS400において、画質予測部P5が分光反射率分布データ13iを取得する。ステップS410においては、画質を評価するときの照明光(例えば、D50、D60、F2等)の設定を行う。照明光の設定は所定のUI画面上にてマウス40およびキーボード50を介してユーザーが指定することが可能となっており、画質予測部P5がこれを受け付ける。ステップS420においては各照明光の分光エネルギーの分布が記憶された分光分布テーブル13fから設定された照明光の分光分布Pl(λ)を取得する。なお、分光分布Pl(λ)は位置(x,y)によらず一定とする。分光分布Pl(λ)は、CIE等の光源規格により定められているため、入手することができる。ステップS430においては、下記式(12)によって当該照明光における分光反射量分布Pe(λ,x,y)を算出する。
Pe(λ,x,y)=Pl(λ,x,y)×R(λ,x,y) ・・・(12)
これにより、当該照明光において印刷画像を観察するときに目や画像センサに入射する光の分光分布を得ることができる。ステップS440においては、分光反射量分布Pe(λ,x,y)に基づいて色の3刺激値(XYZ値)を算出する。
各画素のX(x,y)Y(x,y)Z(x,y)値(色分布)は下記式(13)によって算出することができる。
上記式(13)において、x(λ),y(λ),z(λ)は等色関数であり、kはXYZ値を正規化するための定数である。以上の処理によって印刷画像の各位置における色をXYZ色空間における座標値として特定することができる。XYZ値のうちY値は輝度を意味するため、同時に印刷画像における輝度分布Y(x,y)も得られ、各画素が輝度階調Y(x,y)を有する画像データを用意することができる。
以上のようにして輝度の画像データが得られると、ステップS450にて輝度分布Y(x,y)に基づいてバンディングノイズ量NBと粒状ノイズ量NDを算出する。バンディングノイズ量NBと粒状ノイズ量NDを算出するにあたっては、特開2005−310098号公報の手法を適用することができる。同公報においては、輝度画像データの空間周波数解析(FFT)を行い、視覚感度の空間周波数特性(VTF)に基づく重みづけを行いつつ各スペクトル強度を積分することにより、全ノイズ量を算出する。さらに、バンディングノイズの指向性に基づいてノイズ量を分離することにより、バンディングノイズ量NBと粒状ノイズ量NDを算出する。同公報では、スキャナで入力した輝度画像データを空間周波数解析しているが、本実施形態においてはステップS440にて生成した輝度の画像データについて同様に空間周波数解析を行えばよい。これにより、実際にプリンタ20にてテスト画像データ13bの印刷を行うことなく各パラメータにおける印刷結果のバンディングノイズ量NBと粒状ノイズ量NDを画質としての粒状性を評価するための指標として得ることができる。
続いて印刷画像の色を評価する処理を行う。ステップS460においては、X(x,y)Y(x,y)Z(x,y)値に基づいてsRGB色空間におけるRGB値を算出する。RGB値を算出するにあたっては、下記式(14)を使用する。
上記式(14)においては、X(x,y)Y(x,y)Z(x,y)値を非線形補正することによりX’(x,y)Y’(x,y)Z’(x,y)値を算出し、さらに座標系を行列変換している。sRGB色空間におけるRGB値を算出できれば、RGB画像データをディスプレイ60にて表示させることができる。これにより、ユーザーがディスプレイ60を観察し、予測された印刷結果の粒状性や色再現性を視覚的に判断することができる。
ステップS470においてはテスト画像データ13bを取得する。そして、ステップS480では、ステップS460にて得られたR(x,y)G(x,y)B(x,y)値の画像データがテスト画像データ13bの解像度と一致するように解像度変換を行う。基本的には、着弾位置を予測する際に(x,y)を高解像度化しているため、ここでは低解像度化が行われる。テスト画像データ13bは各画素の色がsRGB表色系で表現されているため、テスト画像データ13bと同一の表色系で色が特定された同一解像度の印刷画像データを得ることができる。ステップS490においては、予測した印刷画像データとテスト画像データ13bの各画素のRGB値が近似しているかどうかを判定する。ここで、両者が近似していればプリンタ20の色再現性が優れていると判断することができるし、両者が近似していなければプリンタ20の色再現性が悪いと判断することができる。
(4)まとめおよび変形例:
本発明において、膜厚分布予測部P3は、複数のインク滴が印刷用紙30上にて重なった場合の拡散形状を予測する。従って、正確に印刷用紙30上におけるインク膜厚を予測することができる。さらに、分光反射率予測部P4は、異なるインクが重なった場合、各インク成分のインク膜厚に応じて分光透過率を予測する。従って、複数インクによって混色される部分の分光反射率を正確に予測することができる。さらに、印刷用紙30における乱反射を予測するため、印刷用紙30における実際の反射特性に即した分光反射率分布の予測を実現することができ、実際に印刷を行うことなく正確に印刷結果を予測することができる。
本発明において、上述した実施形態と異なる予測モデルを適用することも可能である。例えば、上述した実施形態においては楕円柱状のインク滴の着弾形状をモデル化したが、他の形状にモデル化することも可能である。例えば、印刷を行う印刷用紙の濡れ性が高い場合には、着弾直後のインク滴形状が裾広がり形状となることが予想される。この場合、着弾の中心位置を中心とした正規分布状にインク膜厚が推移するようにしてもよい。また、印刷用紙を設定パラメータとして設定できるようにし、インク滴形状を予測する際にモデル形状を切り換えてもよい。また、想定するインクが顔料インクか染料インクを設定パラメータとして設定できるようにし、モデル形状を切り換えてもよい。
図29は、インク滴形状を正規分布状にモデル化した場合のインク重なり形状を示している。このモデルによれば濡れ性が高いインクや印刷用紙について正確な予測を実現することができる。この場合、全ての高さのインク成分が拡散していると捉えることもでき、上述した実施形態においてインク保持限界高さlhを0とすることによっても最終的に同様のインク滴形状を予測することができる。また、設定パラメータと誤差パラメータについても、上記と異なるものを設定することも可能である。例えば、双方向印刷における往動時と復動時との間の吐出タイミング誤差を誤差パラメータとして設定しておいてもよい。このようにすることにより、双方向印刷における吐出タイミング誤差に起因して発生する粒状ノイズも予測することができる。ハーフトーン処理において大ドットと中ドットと小ドットに振り分ける処理を行うが、このドット振り分け比率を可変とし、設定パラメータとして設定するようにしてもよい。さらに、印刷温度を設定可能とし、インク滴形状やインク拡散径σに反映させてもよい。
画質の評価において他の評価項目を評価してもよい。例えば、複数照明光における色の恒常性を評価するようにしてもよい。ステップS410にて複数の照明光を選択するようにすれば、各照明光において知覚される色をXYZ色空間やsRGB色空間にて予測することができる。従って、複数の照明光間でXYZ値やRGB値の変動が多いか少ないか判定することができ、色の恒常性も評価することができる。
10…コンピュータ,10a…バス,11…CPU,12…RAM,13…HDD,13a…プログラムデータ,13b…テスト画像データ,13c…パラメータテーブル,13d…色変換LUT,13e…単位分光透過率テーブル,13f…分光分布テーブル,13g…着弾位置データ,13h…膜厚分布データ,13i…分光反射率分布データ,14…USBI/F,15…入力機器I/F,16…ビデオI/F,20…プリンタ,21…信号処理部,22…印刷ヘッド,23…温度センサ,24…キャリッジモータ,25…紙送りモータ,26…EEPROM,26a…パルス設定,30…印刷用紙,40…マウス,50…キーボード,60…ディスプレイ,D…プリンタドライバ,D1…画像データ取得部,D2…解像度変換部,D3…色変換部,D4…ハーフトーン処理部,D5…マイクロウィーブ処理部,P…印刷結果予測プログラム,P1…パラメータセット部,P2…着弾位置予測部,P3…膜厚分布予測部,P4…分光反射率分布予測部,P5…画質予測部