JP4772388B2 - ダイカストマシン用プランジャーチップ - Google Patents
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Description
プランジャーチップは、耐摩耗性、冷却性能が要求され、一般的に高温工具鋼(SKD−61)やベリリウム銅により作製されている。
ダイカストマシンでは、金属溶湯を射出する際に、プランジャーチップとプランジャースリーブとの間で大きな摺動抵抗を生ずるため、一般的に1ショット毎に黒鉛系の油性や水溶性の潤滑剤を摺動面に噴射する必要があった。
しかしながら、これら潤滑剤が、溶融金属に接触すると、潤滑剤が燃焼し発生したガスと残留潤滑剤が溶融金属に混入して、ダイカスト製品の品質低下や、潤滑剤物質の飛散による職場環境の悪化等の問題を引き起こすことがある。このため、潤滑剤を使用することなく又はその使用量を低減しつつ、安定した射出性能を具備したプランジャーチップへの要求が高まっている。
これら損傷は、耐用寿命の低下を招来する。
硬質樹脂材料は、プランジャースリーブ内面との間ですぐれた摺動性及びシール性を発揮する。
なお、本明細書において、硬質樹脂材料とは、熱可塑性、熱硬化性の何れでも構わないが、軟質樹脂材料は含まない。より具体的には、硬質樹脂材料とは、弾性率が6.895×107Pa以上の樹脂材料を意味する。
また、硬質樹脂製の摺動スリーブは、プランジャースリーブ内面とのシール性にすぐれ、また、金属溶湯による焼付きを生じ難いから、摺動スリーブとプランジャースリーブとの間に金属溶湯が侵入したり、金属溶湯が焼き付くことによる構成材料の損傷を低減でき、耐用寿命を大きく向上させることができる。
なお、溶湯金属と直接接触し、約600〜700℃まで昇温するプランジャーチップの先端は、金属材料からなるチップ本体から構成しているから、硬質樹脂製の摺動スリーブの熱による性能劣化も防止できる。
チップ本体(20)は、先端が閉塞した中空の円柱体であり、基端側に摺動スリーブ(40)の脱落を防ぐ押え筒(22)がネジ(23)止めされている。
チップ本体(20)の外周側面には、摺動スリーブ(40)が嵌まる軸方向(長手方向)に幅の広い凹溝(26)が一周に亘って形成されている。凹溝(26)の基端側側面は、押え筒(22)の先端面により形成される。
チップ本体(20)の先端は、図1に示すように、縮径したヘッド部(21)が形成されており、プランジャーチップ(10)のプランジャースリーブ(60)への侵入を容易にしている。
チップ本体(20)の温度上昇を防止するために、チップ本体(20)の中空内部に水冷構造を配備することが望ましい。この場合、図1に示すように、プランジャーロッド(70)の内部に、冷却用パイプ(72)を形成し、該冷却パイプ(72)とチップ本体(20)の中空内部とを連通させる。
なお、プランジャーチップ(10)に冷却構造が不要の場合、プランジャーチップ(10)の内部は、中実に形成してもよい。
摺動スリーブ(40)は、図1に示すように、チップ本体(20)の凹溝(26)に嵌められる円筒体であって、硬質樹脂材料から作製される。摺動スリーブ(40)は、凹溝(26)に摺動スリーブ(40)を嵌めた後、押え筒(22)をチップ本体(20)に嵌めてネジ(23)止めし、凹溝(26)から摺動スリーブ(40)が脱落しないようしてチップ本体(20)に取り付けることができる。
また、摺動スリーブ(40)を円周方向に複数、例えば、2つの部材に分割して作製することもできる。摺動スリーブ(40)を分割型とすることにより、押え筒(22)を取り外すことなく凹溝(26)に直接取り付けることができ、また、摺動スリーブ(40)が劣化したときに、プランジャースリーブ(60)からプランジャーチップ(10)を取り出し、押え筒(22)を取り外さなくても摺動スリーブ(40)を交換できる利点がある。なお、この場合、押え筒(22)は不要であり、押え筒(22)はチップ本体(20)と一体に構成することもできる。
摺動スリーブ(40)を分割構造とした場合、摺動スリーブ(40)を分割する分割線は、軸方向に対して傾斜させると、摺動の際にプランジャースリーブ(60)の内面との摩擦によって、分割線が閉じられる方向に力を受けるため、シール性を高めることができる。
摺動スリーブ(40)の外径寸法は、チップ本体(20)の外径(最大外径)と同じ又はほぼ同じとするか(図2)、または、チップ本体(20)の外径よりも大きくすることが望ましい(図1及び図3)。図2に示すように、摺動スリーブ(40)の外径をチップ本体(20)の外径と同じ又はほぼ同じにした場合でも、硬質樹脂材料が熱膨張するから、プランジャースリーブ(60)内でのシール性は確保できる。なお、図1及び図3に示すように、摺動スリーブ(40)の外径をチップ本体(20)の外径(最大外径)よりも大きくする場合、直径差は0.02mm以上(片側段差0.01mm以上)とすることが望ましい。直径差を0.02mm以上とすることにより、チップ本体(20)がプランジャースリーブ(60)の内面に接触することなく、摺動スリーブ(40)のすぐれた摺動性及びシール性を確保できる。
何れの場合も、チップ本体(20)の外周側面の面積の50〜90%の領域が摺動スリーブ(40)によって占められるようにすることが望ましい。
硬質樹脂材料は、弾性率が6.895×107Pa以上の材料であり、熱膨張係数(線膨張係数)がチップ本体(20)よりも大きい材料を選択することが望ましい。硬質樹脂材料の熱膨張係数がチップ本体(20)よりも小さいと、摺動スリーブ(40)及びチップ本体(20)が熱膨張を受けたときに、チップ本体(20)がプランジャースリーブ(60)の内面に接触するおそれがあるからである。具体的には、硬質樹脂材料の熱膨張係数は、1.2×10-5/℃以上であることが望ましい。
また、硬質樹脂材料の熱膨張係数の上限は、6×10-5/℃以下であることが望ましく、5×10-5/℃以下であることがより望ましい。熱膨張係数が、6×10-5/℃よりも大きくなると、摺動スリーブ(40)が熱膨張を受けたときに、過度に熱膨張してプランジャースリーブ(60)との摺動抵抗が大きくなるからである。
また、これら硬質樹脂に、カーボン繊維や窒化ほう素粉末等の材料を加えることにより、潤滑性をさらに向上させることができる。
比較例として、C/Cコンポジットを摺動スリーブ材料としたプランジャーチップを作製した。
発明例1は、摺動スリーブに細かいクラックが発生したものの、摺動性は安定しており、ショット数1050回であり、すぐれた耐用性を示した。
発明例2は、摺動スリーブにクラックが発生することなく、また、摺動性が安定しており、ショット数1520回であり、最もすぐれた耐用性を示した。
発明例3は、摺動スリーブに細かいクラックが発生したものの、摺動性は安定しており、ショット数1200回であり、すぐれた耐用性を示した。
発明例4は、チップ本体の外周側面に対する摺動スリーブの専有面積を55%まで引き下げたが、引き続き1000回以上の耐用性が確認された。
発明例5は、摺動スリーブの荷重たわみ温度が低いため、温度上昇に伴う劣化により、摺動スリーブに大きなクラックが発生した。従って、硬質樹脂材料の荷重たわみ温度は200℃以上であることが望ましいことがわかる。
発明例6は、摺動スリーブの熱膨張係数が大きいため、摺動スリーブが温度上昇に伴って熱膨張し、プランジャースリーブとの間で摺動抵抗が大きくなっている。従って、硬質樹脂材料の熱膨張係数は、6.0×10-5/℃以下が望ましく、耐用性をさらに高めるには5.0×10-5/℃以下とすることがより望ましいことがわかる。
発明例7は、最初は、摺動性が安定していたが、ショット数が増えるに従って、摺動性が低下し、摺動スリーブとプランジャースリーブとの間に焼き付きが生じた。その理由として、チップ本体の外周側面に対する摺動スリーブの専有面積が小さいため、プランジャースリーブとの間の摺動荷重が大きくなったことによるものと考えられる。これより、チップ本体の外周側面に対する摺動スリーブの専有面積は、50%以上が望ましいことがわかる。
一方、比較例は、摺動スリーブをC/Cコンポジットによって作製しているため、150回の使用で摺動スリーブ部分にアルミ溶湯の侵入が発生し、摺動抵抗が上昇して使用不可となった。この理由として、C/Cコンポジットは熱膨張率が低いから、十分なシール性を維持できなかったためと考えられる。
(20) チップ本体
(26) 凹溝
(40) 摺動スリーブ
Claims (5)
- プランジャースリーブ(60)内を摺動し、溶湯金属を金型に押し出すチップ本体(20)を具えるダイカストマシン用プランジャーチップにおいて、
チップ本体(20)は、金属材料で構成され、外周側面が、熱膨張係数(線膨張係数)が1.2×10 -5 /℃〜6×10 -5 /℃の硬質樹脂材料から構成される摺動スリーブ(40)で覆われていることを特徴とするダイカストマシン用プランジャーチップ。 - チップ本体(20)は、外周側面の面積の50%以上の領域が、摺動スリーブ(40)によって覆われている請求項1に記載のダイカストマシン用プランジャーチップ。
- チップ本体(20)は、前端と、摺動スリーブ(40)に覆われていない外周側面が、同じ金属材料で構成されている請求項1又は請求項2に記載のダイカストマシン用プランジャーチップ。
- 摺動スリーブ(40)は、外径が、チップ本体(20)の外径以上である請求項1乃至請求項3の何れかに記載のダイカストマシン用プランジャーチップ。
- 摺動スリーブ(40)は、荷重たわみ温度が200℃より高い硬質樹脂材料によって形成される請求項1乃至請求項4の何れかに記載のダイカストマシン用プランジャーチップ。
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