一つの典型的な多層整列巻コイルとしては、本発明者が開発し且つ図示して開示した二種類の平角線多層整列巻角形コイルがある(特許文献1)。
この二種類のうち、最も典型的なものは、特許文献1の図1から図3等に開示されたタイプのもので、ここで添付した図17の(a)から(c)に示すような構造を有する。
従来の典型的な平角線多層整列巻角形コイル101では、図17の(a)から(c)に示したように、横断面(コイル101の長手方向に延びる中心軸線PC1に垂直な断面)PVが矩形PSのコイル101の三辺PS1,PS2,PS3の巻線部が多層整列巻コイル101の横断面に沿って延在する横方向巻線部PY11,PY12,PY13(第一層の横方向巻線部を区別しないとき又は総称するときは符号PY1で表し、更に、層を区別しないときは符号PYで表す)からなり、矩形PSの残りの一辺PS4において巻線部が巻線PD1の一つ分だけずれるように横断面に対して斜め方向PB1に延在する斜め渡り巻線部PR1(層を区別しないときは符号PRで表す)からなる。この多層整列巻コイル101では、横方向巻線部PY1が実際上相互に密接して配置され、コイル101の長さは、横方向巻線部PYの幅の整数倍(図示の例では5倍)に実質的に一致する。この多層整列巻コイル101では、斜め渡り巻線部PR1と横方向巻線部PY1,PY3との転向部PT1,PT3は、隅部PK1,PK4に形成される。図17の(b)に示したように、多層整列巻コイル101の第一層PL1の最終列の斜め渡り巻線部PR1Fに対して横方向巻線部PY2が徐々に乗上げる。これにより漸進的乗上げ部PZが形成される。但し、漸進的乗上げ部PZはこの例では、辺PS4のうち隅部PK4に近い領域にある。図17の(c)に示したように、第二層PL2の斜め渡り巻線部PR2は、漸進的乗上げ部PZ及びそれに続く横断部PY21の第二列側の側縁PE2に倣うように延びた第一列目の斜め渡り巻線部PR21を有する。この場合、第二層の斜め渡り巻線部PR2は、巻線の巻回方向に関して第一層の斜め渡り巻線部PR1よりも一つだけ上流側の辺PS3に位置する。その他の点では第一層の巻線部と同様にして、第二層の整列巻きが行われる。第三層以上の層も同様である。
このタイプの平角線多層整列巻コイル101では、例えば、図17の(c)からわかるように、第二層の第一列の斜め渡り巻線部PR21とその下に位置する第一層の最終列の横方向巻線部PY13Fが部分的に重なる辺PS3において、隙間PG1が生じる。この隙間PG1は、比較的大きい(横断方向巻線部PR2のほぼ1/2の体積を有する)ので、その分だけ、多層整列巻コイル101の占積率が低くなる。各層間毎にこの隙間PG1が生じることから、多層整列巻コイル101が多くの層を有する場合、この占積率の低下が顕著になる。特に、多層整列巻コイル101を構成する巻線部の列数が少ない程、この占積率の低下が増大し、無視し難くなる虞れがある。
特許文献1において本発明者が図示して提案した二種類のうちもう一つのタイプの多層整列巻コイルは、特許文献1の図10に開示されたタイプのもので、ここで添付した図18の(a)から(c)に示すような構造を有する。
この第二のタイプの従来の平角線多層整列巻角形コイル201も、図18の(a)〜(c)からわかるように、平角線のような幅広線からなる巻線PD1を中空角筒202状に多層に整列巻きしてなる点、及び各層PLが、筒202の横断面によって規定される無端リング(この場合は矩形)PSのうち一つの連続的な角度領域(この場合、矩形PSを構成する四辺PS1,PS2,PS3,PS4のうちの一つの辺)PS4において筒202の横断面(筒の長手方向軸線PC1に対して実質的に垂直な仮想平面)PVに対して斜め方向PB1に延在する斜め渡り巻線部分PRと、無端リングPSのうち他の角度領域PS1,PS2,PS3において横断面PVに沿うように横方向PFに延在する横方向巻線部分PY11,PY12,PY13とを有する点では、図17に示した平角線多層整列巻コイル101と同様である。
但し、この第二の平角線多層整列巻角形コイル201では、図18の(a)からわかるように、コイル201の長さは、相互に実際上密接して配置された横方向巻線部PYの幅の整数倍(図示の例では5倍)よりも間隙PG2の幅だけ大きい長さを有し(この間隙PG2の幅は平角線PD1の幅よりもかなり狭い)、且つ次の条件(1)及び(2)を満たす連続的に重なる二層PLa,PLbを複数組備える。
条件(1)
図18の(b)に示したように、二層PLa,PLbのうち下側の層PLaの最終列の斜め渡り巻線部分PRFに徐々に乗上げて該下側の層PLaからその一つ上に位置する上側の層PLbに達する漸進的乗上げ横方向巻線部分PYMを含む第一の横方向巻線部分PYAの形態の第一列の巻線部PW1を備えること。
条件(2)
図18の(c)に示したように、第一の横方向巻線部分PYAの前記漸進的乗上げ横方向巻線部分PYMのうち前記斜め渡り巻線部PRFへの乗上げを開始する乗上げ開始領域から前記斜め渡り巻線部分PRFに少なくとも部分的に重なった漸進的乗上げ領域上を斜めに横切るように延在し延在端において下側の層Laの斜め渡り巻線部分PR上に降りる乗上げ斜め渡り巻線部分ないし漸進的乗上げ斜め渡り巻線部分PRMと、該乗上げ斜め渡り巻線部分PRMの延在端の転向部PTCにおいて転向して前記第一の横方向巻線部分PYAの第二列側の側縁PE2に沿って前記横方向PFに延在する第二の横方向巻線部分PYBとを有する第二列の巻線部PW2を備えること。
なお、この第二のタイプの平角線多層整列巻コイル201では、第二層PL2の巻線が第一層PL1の巻線上に巻かれるのと同様にして、第三層PL3(図示せず)の巻線が第二層PL2の巻線上に巻かれ、第三層PL3(図示せず)の巻線が第二層PL2の巻線上に巻かれるのと同様にして、第四層PL4(図示せず)の巻線が第三層PL3(図示せず)の巻線上に巻かれることが繰返される。
すなわち、前記複数組の前記二層のうち少なくとも二対の前記二層PLa,PLbの第二列巻線部PW2の乗上げ斜め渡り巻線部分PRMにつき、漸進的乗上げ横方向巻線部分PYMの前記漸進的乗上げ領域の上を斜めに横切る乗越え領域部分PXが、筒の横断面によって規定される無端リングPSの角度領域に関して常に同じ角度領域−この例では辺PS4の角部PK1に近い領域−に位置する。
このタイプの多層整列巻コイル201では、図18の(c)からわかるように、第二層PLbの第一列の斜め渡り巻線部PRMと第一層PLaの最終列の横断巻線部PYAが重なる辺PS4での隙間PG3が第一のタイプの多層整列巻コイル101の隙間PG1と比較して小さいので、その分だけ(小さい間隙PG2の体積を考慮しても)、多層整列巻コイル201の占積率が高められ得る。
しかしながら、本発明者は、このタイプの多層整列巻コイル201では、転向部PTCの手前側に生じる突出部PHの形成を避け得ないことを見出し、多層整列巻コイル201の巻線PD1の状態を詳細に検討した結果次のことが判明した。
すなわち、この多層整列巻コイル201において、漸進的乗上げ横方向巻線部分PYMのうち、乗上げ斜め渡り巻線部分PRMが斜め方向横切りを完了する部位は、漸進的乗上げが進行して上側の層Lbに近付いているので、乗上げ斜め渡り巻線部分PRMのうち漸進的乗上げ横方向巻線部分PYMから降りる前の乗越え領域PXは、上側の層Lbよりもかなり高い位置(上側の層が二層目である場合、実際上、三層目)に位置する。すなわち、乗上げ斜め渡り巻線部PRMのうち、斜め渡り巻線部PRに乗上げている漸進的乗上げ横方向巻線部PYM上に重なる乗越え領域PXは、第二層よりもかなり高い位置に達する。一方、乗上げ斜め渡り巻線部分PRMのうち下側の層Laに降りた部位は、丁度上側の層Laと一致する高さ位置にある。その結果、乗上げ斜め渡り巻線部分PRMと第二の横方向巻線部分PYBとの転向部PTCの手前側の乗越え領域PXには、横断面PVでみて矩形PSの隅部PK1及びその近傍において、外向きPJに突出した突出部PHが形成される。
なお、この種の突出部PHは、斜め渡り巻線部PRに徐々に乗上げている漸進的乗上げ横方向巻線部分PYMの上を乗上げ斜め渡り巻線部分PRMが横切る乗越え領域PXにおいて、三つの巻線部の重なりに伴って不可避的に生じるもので、このような関係をもつ任意の隣接する二層間で生じる。
従って、積層を繰返すと、多層整列巻コイル201の横断面で見て実際上同じ箇所に突出部PHができ、この突出部PHが重なると、その突出が大きくなり、巻線PD1の整列巻が実際上できなくなる。
本発明者は、第二のタイプの多層整列巻コイルを改良した平角線多層整列巻角形コイルを開発し、これを製造・販売している。この改良された平角線多層整列巻角形コイル301及びその巻き方の概要を図19の(a)から(h)に示す(なお、コイル301自体は、商品として販売され使用されていることから、このコイル301について、この明細書では、「背景技術」として説明するけれども、「コイル301を巻くプロセスないし方法自体は、公知ではない」)。
この多層整列巻コイル301は、図19の(a)及び(b)等からわかるように、矩形PSの四辺PS1,PS2,PS3,PS4のうち一つの辺PS1の更にその一部の角度領域θ1に、斜め渡り巻線部分PRを有する。なお、以下では、今まで製造販売していた多層整列巻コイルの問題点がわかり易いように、多層整列巻コイル301の各層が四列からなるとして図示している。また、以下では多層整列巻コイル301の各部分をL(i;j;k)(但し、i=1,2,3,4;j=1,2,3,4;k=1,2,3,4)で示す。ここで、iは層を表し(例えば、i=1は第一層(最下層))、jは列を表し(例えば、j=1は第一列(図19の(a)〜(h)において、奇数番目の層では右端の列、偶数番目の層では左端の列)、j=4は第四列(最終列))、kは四辺を表す(k=1は第一辺)。
より詳しくは、巻始めを表す図19の(a)や3ターン目を巻き終わった状態を示す図19の(b)や7ターン目を巻き終わった状態を示す図19の(e)等からわかるように、多層整列巻コイル301は、辺PS1を構成する巻線部分L(i;j;1)のうち一部の角度領域θ1に斜め渡り巻線部分PRを有し、辺PS1を構成する巻線部分L(i;j;1)のうちの残りの角度領域θ2では、横方向巻線部分PYを有する。辺PS2,PS3,PS4を構成する巻線部分L(i;j;2),L(i;j;3),L(i;j;4)は、いずれも、横方向巻線部分PYのみからなる。なお、図19の(c),(d),(f),(g)及び(h)は、夫々、4ターン目、5ターン目、8ターン目、12ターン目及び13ターン目が巻き終わり、次のターンの巻回が始まった状態を示す。
各層の最後の列の巻線部分L(i;4;k)は、該層の他の列の巻線部分L(i;m;k)(但し、m=2,3)とは異なる形態を採り、その上の層の最初の列の巻線部分L(i+1;1;k)も、該上の層の他の列の巻線部分L(i+1;m;k)(但し、m=2,3)とは異なる様相を呈する。
すなわち、例えば、第一層の四列目L(1;4;1)の最後の巻線部分すなわち4ターン目の最後の巻線部分Q1fは、図19の(c)に加えてこれを拡大して示した図20の(a)からわかるように、斜め渡り巻線部分PRの形態ではなく、第一層の三列目L(1;3;1)の最後から四列目L(1;4;1)の最初に位置する斜め渡り巻線部分PRに徐々に乗上げる漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM1の形態を採る。なお、第二層の一列目L(2;1;k)の最初の巻線部分すなわち5ターン目の最初の巻線部分Q2sは、典型的には、第一層の四列目L(1;4;1)の最初の巻線部分である横方向巻線部分PYに丁度載るので、他の部分と同様である。
一方、第二層の一列目L(2;1;1)の最後の巻線部分すなわち5ターン目の最後の巻線部分は、図19の(d)に加えてそれが拡大して示された図20の(b)からわかるように、漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM1のうち前記斜め渡り巻線部分PRへの乗上げを開始する乗上げ開始領域から前記斜め渡り巻線部分PRに部分的に重なった漸進的乗上げ領域の上を斜めに横切る乗越え領域部分PX2を備え、延在端において、第一層の斜め渡り巻線部上に降りる乗上げ斜め渡り巻線部分ないし漸進的乗上げ斜め渡り巻線部分PRM1の形態を採り、その延在端において、第一層の斜め渡り巻線部上において第二層の一列目の最初の巻線部分の側縁PE2に倣うように転向して、第二層の二列目の最初の巻線部分を形成する。
この多層整列巻コイル301においても、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM1のうち漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM1に対する斜め方向横切りを完了する手前の乗越え領域部分PX2は、漸進的乗上げが進行して実際上第三層PL3に位置する。すなわち、乗上げ斜め渡り巻線部PRM1のうち、斜め渡り巻線部PRに乗上げている漸進的乗上げ横方向巻線部PYM上に重なる乗越え領域PX2は、第二層よりもかなり高い位置に達する。一方、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM1のうち下側の層PL1に降りた部位は、丁度第二層PL2に位置する。その結果、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM1と第二列の横方向巻線部分PYとの転向部PTC2の手前側に生じた乗越え領域PX2には、横断面PVでみて矩形PSの外向きPJに突出した突出部PH2が形成される。すなわち、図21の(a)の側面図に示したように、転向部PTC2の手前側の領域PX2が突出部PH2として矩形PSの外向きPJに多少突出してしまうのを避け難い。なお、図21の(b)は図20の(b)と同様な斜視図である。
同様なことは、例えば、第三層の第一列(9ターン目)の最後の巻線部分から第二列(10ターン目)の最初の巻線部分のところで生じる。但し、この突出部は、コイル301の長手方向に関して、反対側の端部近傍に位置する。
更に、図19の(g)及び(h)並びにこれらを拡大して示した図22の(a)及び(b)からわかるように、第四層の第一列(13ターン目)の最後の巻線部分から第二列(14ターン目)の最初の巻線部分のところでも、同様な現象が生じる。
すなわち、第三層の四列目L(3;4;1)の最後の巻線部分すなわち12ターン目の最後の巻線部分Q3fは、図19の(g)及び図22の(a)からわかるように、斜め渡り巻線部分PRの形態ではなく、第三層の三列目L(3;3;1)の最後から第四列目の最初に位置する斜め渡り巻線部分PRに徐々に乗上げる漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM3の形態を採る。また、第四層の一列目L(4;1;1)の最後の巻線部分すなわち13ターン目の最後の巻線部分は、図19の(h)及び図23の(b)からわかるように、漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM3のうち斜め渡り巻線部分PRへの乗上げを開始する領域から斜め渡り巻線部分PRに部分的に重なった漸進的乗上げ領域の上を斜めに横切る乗越え領域部分PX4を備え、延在端において第三層の斜め渡り巻線部分上に降りる乗上げ斜め渡り巻線部分PRM3の形態を採り、その延在端において、第三層の斜め渡り巻線部分上で第四層の一列目の最初の巻線部分の側縁PE4に倣うように転向して、第四層の二列目の最初の巻線部分を形成する。
この場合も、漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM3のうち、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM3が斜め方向横切りを完了する部位の手前の乗越え領域PX4は、漸進的乗上げが進行して実際上第五層PL5に達する。すなわち、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM3のうち、斜め渡り巻線部PR上に載った漸進的乗上げ横方向巻線部分PYM3の上に重なる乗越え領域PX4は、第四層よりも高く、実際上第五層に達している。一方、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM3のうち下側の層PL3に降りた部位は、丁度第四層PL4に位置する。その結果、乗上げ斜め渡り巻線部分PRM3と第二列の横方向巻線部分PYとの転向部PTC4の手前側において重なった乗越え領域PX4には、横断面PVでみて外向きPJに突出した突出部PHが形成され、図23の(a)の側面図に示したように、領域PX4の外表面が突出部PH4として外向きPJに突出する。
この第四層の突出部PH4のある乗越え領域PX4は、図21の(a)等にも示した第二層の突出部PH2のある乗越え領域PX2に実際上丁度重なる。その結果、当該重なりのある乗越え領域部分PX4が、矩形PSの外向きPJに更に大きく突出する。
従って、多層整列巻コイルの形状の角形PSからのズレが大きくなる。その結果、多層整列巻コイル301が多層であればあるほど、この突出による乱れが大きくなり、場合よっては、コイル301が実際上整列巻きできなくなる虞れがある。また、多層整列巻コイル301の形状の崩れ(整列巻き不能化)まで行かなくても、巻線の密度が低下して占積率が低下し、また、限られた断面積領域に配設可能な所定巻数の多層整列巻コイルが形成され難くなる虞れがある。
特開2001−196238号公報
多層整列巻コイルとしての多層整列巻角形コイルないし角筒状多層整列巻コイル1は、例えば、図8の(c)から(f)((c)〜(f)の相互の差異については後述する)や図12の(a)及び(b)に示したような形態を有する。この角筒状多層整列巻コイル1は、幅広線としての平角線Dを、多層多列に整列巻きしてなる。図12の(a)及び(b)に示した多層整列巻コイル1は、平角線Dを、約15列6層に巻いてなるもので、約90ターンの巻数を有する(本発明の多層整列巻コイルでは、後で詳しく例示するように、厳密には、層により列数が異なる)。一方、図8の(c)から(f)の多層整列巻コイル1は、巻線Dを10層に積層してなり、列数は、図では示されていない。
多層整列巻コイル1の列数は15列程度より多くてもより少なくてもよく、多層整列巻コイル1の積層数も6層より多くてもより少なくてもよい。多層整列巻コイル1の横断面形状は、この例では、矩形のうち長方形であるけれども、例えば、図11の(a),(b),(c)に示したように、円形や、三角形や長円形等他の形状でもよい。多層整列巻コイル1の横断面形状が三角形や矩形等の多角形である場合、断線の虞れなく巻線Dが巻回されるように、典型的には、頂点に対応する隅部(角部)は、多少なりとも丸みを有する。但し、以下では、図示や説明の便宜上、必要がない限り、単純な角部を有するとして説明する。
多層整列巻コイルに関して、筒状とは、巻線により形成される形状が筒(中空の棒)の形態であることをいう。筒は、その横断面の最大サイズ(いわゆる長径等の長さ)が筒の長さと同程度でも、該長さよりも大きくても小さくてもよい。コイルの筒の内側に、巻線を支える芯体ないしボビンの如き支持体があっても、なくてもよい。芯体ないしボビンの如き支持体がある場合、その支持体が、中空であっても中実であってもよい。芯体がある場合、該芯体は、磁性材料でも非磁性材料でもよい。また、多層整列巻コイル1の両端面又は一方の端面を支えるフランジ状支持部が設けられていても、いなくてもよい。
多層整列巻コイル1を構成する平角線Dは、典型的には、図10の(a)に示したように、長方形の横断面形状を有し、長方形の長辺が巻線Dの幅Daを与え、短辺が巻線Dの厚さDbを与える。ここで、平角線は、絶縁被覆された銅線からなる。但し、銅の代わりに他の導線でもよい。平角線Dの幅Da及び厚さDbは、夫々、典型的には、0.05〜0.2mm程度及び0.02〜0.05mm程度である。アスペクト比Da/Dbは、通常には、2〜5の範囲内にあり、典型的には、3程度である。但し、Da>Dbである限り、幅Daが0.2mm程度より大きくても0.05mm程度より小さくてもよく、厚さDbが0.05mm程度より大きくても0.02mm程度より小さくてもよく、比Da/Dbが5より大きくても2より小さくてもよい。なお、以下では、特に断わらない限り、平角線は理想的な長方形の横断面形状を有するとして説明する。但し、実際の平角線Dの横断面形状は、多くの場合、図10の(a)に示したような理想的な長方形というよりもむしろ図10の(c)や(e)に示したように幅方向両端部(両側縁部)Dc,Dcが多少なりとも丸みのある長円形状である。側縁部Dcは、ここでは、半円形状又はそれに近い形状で示されているけれども、実際には多かれ少なかれもっと歪な形状になることもある。また、実際の平角線Dの側縁Dcは、多くの場合、図10の(b)に示したような幅Daが一定の理想的な直線状であるよりもむしろ、図10の(d)や(f)では誇張して示したように、側縁Dcが直線からずれて多少なりとも蛇行し、また幅Daが一定ではなくて多かれ少なかれ変動している。また、平角線Dの中心が直線状に延在している場合でも、該平角線Dを構成する二つの幅広の主面Ddも、図10の(a)に示したような理想的な平面状ではなくて、図10の(c)に示したように、うねった表面を有し得る。また、図10の(e)に示したように、主面Ddが円弧状側縁Dcを直線状に切断したような形態をとることもある。従って、この明細書で平角線Dというときは、このような多少は歪んだ形状の線Dを含む趣旨である。
また、上述のように、平角線Dの側縁Dcが多少なりとも蛇行していたり、幅Da自体が多少変動していたり、側縁部Dcの近傍が長円形の弧状のように湾曲していることから、厳密には、多層整列巻コイル1を形成する隣接列の巻線部分の側縁は相互に密接しているわけではなく、部分的に当接していたり、間に狭い間隙がある状態で対向した状態で延びている。すなわち、以下では、説明の簡明化のために、隣接巻線部分が同一の層内で平行に延在する場合には、相互に密接しているとして、説明するけれども、隣接する巻線部分の間には、多少の間隙が存在し得る。この間隙の大きさは、典型的には、巻線Dの幅Daの数%以下である。
次に、平角線Dにより、角筒状の多層整列巻コイル1を形成する例について、図1の(a)〜(d)、図2の(a)〜(d)及び図3の(a)〜(d)に基づいて、説明する。なお、図1〜図3においては、説明の簡明化のために、多層整列巻コイル1は、4列からなるとする。また、多層整列巻コイル1の巻上げ(積層)については、四層目の途中までを詳しく説明する。それ以上の積層は、繰返しになるので、省く。
多層整列巻コイル1の巻線Dは、図1の(a)に示したような仮想的巻芯本体10aのまわりに巻回されるものとする。巻芯本体10aは、直方体の形態で、その横断面が正方形である。すなわち、巻芯本体10aの横断面は、4つの辺S1,S2,S3,S4を有し、これらの辺S1,S2,S3,S4により正方形状無端リングSが形成されている。正方形無端リングSの各辺の長さは、Saである。巻芯本体10aの長さはSbであり、巻線Dの幅Daの整数倍(一層当りの最大ターン数ないし列数に対応)よりも少し大きい。巻芯本体10aの正方形横断面Sの重心を通り、該正方形面に垂直に延びる中心軸線をCとする。この中心軸線Cは、多層整列巻コイル1の中心軸線Cに一致する。正方形Sの頂点に相当する角部を、夫々、K1,K2,K3,K4とする。なお、実際には、角部K1,K2,K3,K4は、例えば、丸く面取りされている。
巻芯本体10aの一方の端面11には、想像線13で示したように、該端面11と実質的に面一に外方に拡がったフランジ状支持面13がある。巻芯本体10aの他方の端面12の側には、該端面12と平行に外方に拡がったフランジ状支持面14がある。巻芯10の辺S1,S2,S3,S4の夫々に対応する巻芯10の側面を、夫々、符号P1,P2,P3,P4で表す。
以下において、平角線Dの巻線部分のうち、中心軸線Cに垂直な面(端面11,12に平行な面)内で延びる部分すなわち横方向Fに延びる部分を、横方向巻線部Yという。また、平角線Dの巻線部分のうち、中心軸線Cに垂直な面(端面11,12に平行な面)に対して斜め方向(交差する方向)Bに延びる部分を、斜め渡り巻線部Rという。横方向巻線部Yは、特定の列内で延びる巻線部分であり、斜め渡り巻線部Rは、ある列からそれに隣接する列に移行する巻線部分である。また、巻線部分のうち、多層整列巻コイル1のある層からその上の層に移行する巻線部分を乗上げ巻線部分といい、当該巻線部分には、符号Mを付す(図1の(c)等参照)。この乗上げ巻線部分Mは、多層整列巻コイルのある層からその上の層に移行する巻線部分である。
以下の説明において、多層整列巻コイル1の各巻線部分をL(i;j;k)(但し、図1の(a)〜(d)、図2の(a)〜(d)及び図3の(a)〜(d)に示した例では、i=1,2,3,4;j=1,2,3,4;k=1,2,3,4)で示す。但し、図面の簡明化のために、多層整列巻コイル1の巻線部について、上記表記L(i;j;k)は、図面には原則として記載しない。ここで、iは層を表し(例えば、i=1は第一層(最下層))、jは列を表し(例えば、j=1は第一列(奇数番目の層では端面11側に位置する右端の列、偶数番目の層では端面12側に位置する左端の列)、j=4は第四列(最終列))、kは四辺を表す(k=1は第一辺)。なお、多層整列巻コイル1の巻線部分について、列の移行や層の移行を伴う巻線部分、即ち、斜め渡り巻線部分Rや乗上げ巻線部分Mをも表す必要がある場合は、多層整列巻コイル1の巻線部分を、L(i1,i2;j1,j2;k1,k2)で表す。ここで、j1は斜め渡り部分Rの始点の属する列、j2は斜め渡り部分Rの終点の属する列を表し、k1=kで、k2は、斜め渡り巻線部Rでは5、横方向巻線部Fでは6とする。また、i1は乗上げ前の層を表し、i2は乗上げ後の層を表す。なお、乗上げが生じない巻線部分では、i1とi2を区別する必要がないことから、両者を区別することなく、iで表し、L(i;j1,j2;k1,k2)とも表記する。また、横方向巻線部Fのみについて言及する場合、列の移行がないので、j1とj2とを区別せず、単に、L(i1,i2;j;k1,k2)若しくはL(i1,i2;j;k)、又はL(i;j;k1,k2)若しくはL(i;j;k)で表す。
次に、巻芯10への平角線Dの巻回による多層整列巻コイル1の形成について詳しく説明する。但し、そのような多層整列巻コイル1の形成を可能にする巻機については、後で別に説明する。
まず、図1の(a)に示したように、フランジ状支持面13の外側(図1の(a)では右側)にある把持部(図示せず)で、平角線Dの先端部Dtを巻芯10の端面11に対して斜め方向Bに掴んでおく(後で説明する図16の(b)等)。次に、第一辺S1のある側面P1の途中で平角線Dをフランジ状支持面13に沿うように幅方向に転向させる。これにより、第一層のうち第一列の第一側面P1(第一辺S1)に、斜め渡り巻線部Rと、横方向巻線部Yとが形成され、斜め渡り巻線部Rと横方向巻線部Yとの境界に転向部T(ここでは、T1)が形成される。上記の表記で表せば、斜め渡り巻線部Rは、例えば、L(1;0,1;1,5)であり、横方向巻線部Yは、例えば、L(1;1;1,6)又はL(1;1;1)である。
次に、図1の(b)からわかるように、平角線Dを、巻芯10の無端リングSの他の辺S2,S3,S4即ち側面P2,P3,P4に沿って巻付ける。これにより、側面P2,P3,P4に第一列の横方向巻線部Y,Y,Yが形成される。各横方向巻線部Y,Y,Yは、上記の表記で表せば、例えば、L(1;1;2),L(1;1;3),L(1;1;4)である。
なお、以上のような平角線Dの巻回に際しては、実際には、巻芯10をその中心軸線Cのまわりで、C1方向に回転させる。但し、ここでは、巻芯10に対して平角線Dがどのように巻かれるかを説明するために、主として巻芯10を固定した座標系で平角線Dの巻き方を示し説明する。
次に、辺S1すなわち側面P1に戻って、一列目の角部K4から転向部T1の外側縁T1eに延びる斜め渡り巻線部RすなわちL(1;1,2;1,5)が形成される。更に、該転向部T1の外側縁T1eに沿って転向され側面P1の一列目の横方向巻線部Yの次列側側縁(ここでは二列目側側縁)に実際上密接してこれに平行に延びる横方向巻線部YすなわちL(1;2;1,6)が形成される。
更に、上記と同様にして、二列目の横方向巻線部Y,Y,Yが側面P2,P3,P4に形成される(但し、図1の(b)では側面P2,P3の二列目の横方向巻線部Y,Yは見えない、以下においても、図面で見えない部分を同様に表す)。その後、上記と同様にして、側面P1に二列目から三列目につながる斜め渡り巻線部R(L(1;2,3;1,5))及び三列目の横方向巻線部Y(L(1;3;1,6))が形成される。同様にして、三列目の横方向巻線部Y,Y,Yが側面P2,P3,P4に形成され、更に、側面P1に三列目から四列目につながる斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))及び四列目の横方向巻線部Y(L(1;4;1,6))が形成される。ここで、四列目の横方向巻線部Yの左側縁は、巻芯本体10aの端面12と丁度面一になる。逆にいえば、巻芯本体10aの長さSbは巻線Dの四本分の幅4Dbに実質的に一致する。
次に、上記と同様にして、四列目の横方向巻線部Y,Y,Yが側面P2,P3,P4に形成される。
その後、図1の(c)に示したように、角部K4から側面P1の全体に亙って横方向巻線部Yを形成する。この巻線部Yは、角部K4のところでは一層目にあり、その後、斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))に徐々に乗上げて転向部Tの上まで至り該転向部T上で完全に二層目に移る漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))と、第一層の四列目の横方向巻線部Y(L(1;4;1,6))に重なって横方向に延びる二層目の一列目の横方向巻線部分Y(L(2;1;1,6))とを有する。なお、第一層L1の四列目(最終列)に重なる第二層L2の部分は、一列目(最初の列)である。
図1〜図3では、図示の簡明化のために角部K1,K2,K3,K4が直角であるかのごとく示しているけれども、実際には、巻線Dの過度な折曲げを避けるべく、前述の通り、角部K1,K2,K3,K4は、図8の(a)に示した多層整列巻コイル1のように円弧状の丸みを有する。この円弧状の丸みは、例えば、曲率半径が0.3〜0.5mm程度の円弧である。また、巻芯10の巻芯本体10aの長さSbは巻線Dの幅Dbの列数倍よりも少し大きく且つ巻線部Yの漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))は、その左側縁がフランジ状支持面14に沿うように巻芯10に巻回され得るから、丸みのある角部K4をまわった後、斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))に徐々に乗上げる。換言すれば、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))のうち、丸みのある角部K4をまわった直後の部位は、典型的には、第一層にあるか該第一層と同視され得る高さ位置にあり、実際上、斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))への乗上げは始まっていない。
また、平角線Dは、理想的には、図10の(a)に示したようにその横断面が長方形である。しかしながら、丸線(横断面が実際上円形の線)を圧延により押し潰して平坦な形状(幅広線の形態)にした平角線では、その横断面形状は、典型的には、図10の(c)又は(e)に示し且つ前述したように、長円形またはそれに近い形状である。従って、幅方向端縁部すなわち平角線Dの側縁部Dcは、多少なりとも円弧状に湾曲した外表面を備え、幅方向の両端Dc,Dcに近付く程厚さが薄い。従って、斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))に対して漸進的乗上げ横方向巻線部分YMが徐々に乗上げる場合、漸進的乗上げ横方向巻線部分YMは、乗上げが開始されると直ちに一層目から二層目に移るわけではなく、漸進的乗上げ横方向巻線部分YMの円弧状の側縁部Dcが斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))の円弧状側縁部Dcに徐々に乗上げることにより、1層目から二層目に徐々に上っていく。但し、所望ならば、平角線Dは図10の(a)に示したような理想的長方形断面を備えていてもよく、その場合でも、漸進的乗上げ横方向巻線部分YMが斜め渡り巻線部Rに対して斜めに乗上げるので、全体的にみれば、多かれ少なかれ、漸進的乗上げ横方向巻線部分YMは一層目から二層目に徐々に高くなる。
次に、上記と同様にして、図1の(d)等に示したように、第二層の一列目の横方向巻線部Y,Y,Yが側面P2,P3,P4に形成される。
次に、図1の(d)及びそれを拡大した図4の(b)に示したように、一列目の角部K4を回った後、辺S1すなわち側面P1に戻って、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))の外表面上を斜めに横切るように延在し一層目の三番目の転向部Tの付近まで達し一層目の巻線部L1上に降りる乗上げ斜め渡り巻線部ないし漸進的乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))、及び該乗上げ斜め渡り巻線部RMの延在端において転向されて二層目の一列目の横方向巻線部分Y(L(2;1;1,6))の側縁に沿って一層目の横方向巻線部Y上を横方向Fに延びる二層目の二列目の横方向巻線部分Y(L(2;2;1,6))とが、形成される。
ここで、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))と横方向巻線部分Y(L(2;2;1,6))との境界に形成される転向部TC2は、典型的には、一層目の転向部Tの真上に位置する。但し、転向部TC2は、転向部Tよりも角部K4に近いところに位置していても、転向部Tよりも角部K1に近いところに位置していてもよい。
なお、平角線Dの転向部Tの形成に際しては、図4の(b)に示したとおり、想像線Diで示したように、巻線Dを、一旦、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))の延在方向Bよりも端面11側に引っ張って斜めに延在させておき、巻線Diを張力下でE1方向に揺動させ、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))及び横方向巻線部分Y(L(2;1;1,6))の側縁にぶつけることにより、転向部TC2を形成する。巻線Dの巻回の際には、実際には、図14及び図15を参照して後述するように、巻芯10をC1方向に回転させながら又はC1方向の所定の回転位置にしておいて、トラバース機構40(図15参照)により巻線Dの延在部分をE1方向に揺動させることにより、上記の転向を行わせ、巻線Dの所望のスタイル取りを行う。
図7の(a)の一部拡大平面説明図に示したように、この平角線Dの多層整列巻コイル1において、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))は、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))のうち斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))への乗上げを開始する乗上げ開始領域YA2から斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))に部分的に重なった漸進的乗上げ領域YB2の上を斜めに横切るように延在する。乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))のうち、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))の斜め方向横切りを完了する部位XC2は、漸進的乗上げが進行して実際上第三層L3に位置する。すなわち、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))のうち、斜め渡り巻線部R(L(1;3,4;1,5))の上に乗上げている漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(1,2;4;1))上に重なる領域すなわち乗越え領域部分X2(図7の(a)において黒丸「●」を付した領域)は、第二層L2よりもかなり高い位置に達する。一方、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))のうち第一層(下側の層)L1に降りた部位は、丁度第二層(上側の層)L2と一致する高さ位置にある。その結果、図4の(a)に加えて図4の(b)に示したように、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))と第二列の横方向巻線部Y(L(2;2;1,6))との転向部TC2の手前側の乗越え領域X2には、横断面Vと平行な面でみて矩形Sの外向きJに突出した突出部ないし突起部H2が不可避的に生じる。
なお、ここで、注意されるべきは、このような突出部ないし突起部H2は、平角線Dのようにほぼ一定の厚さDbの部分を幅方向の大半の領域に備える幅広線Dに特有のものであることである。すなわち、横断面が円形の丸線からなる巻線を巻回してなる多層整列巻コイルにおいて、レインボーラインと呼ばれる突出部の並びが生じることは、知られているけれども、このレインボーラインは、丸線が交差する際、その最大径部分の交差箇所に不可避的に生じるものであり、ここで生じる突出部Hとは、その原因ないし特性が全く異なる。すなわち、以下に、詳述するように、巻線が平角線のような幅広線Dの多層整列巻コイル1では、この突出Hに伴う多層整列巻コイル1の形状の乱れを分散させることが可能になるけれども、丸線の多層整列巻コイルでは、整列巻突出部の発生原因が異なるが故に、交差部以外の領域には突出部ないし突起部Hの分散は行われ得ない。この差異が生じる前提として、幅広線Dの多層整列巻コイル1では、突出部H以外の部分では、通常は、下側の整列巻層を構成する巻線により形成される平面上に上側の整列巻層を構成する巻線が所望の向きに延びるのに対して、丸線の多層整列巻コイルでは、下側の整列巻層を構成する巻線のうち二つの隣接する巻線部分の間の窪んだ領域に上側の整列巻層を構成する巻線が下側の層の巻線と平行に延びる点で異なり、丸線の交差による突出量は丸線の半径の(2−31/2)倍程度と小さい。
次に、図2の(a)に示したように、5ターン目の横方向巻線部Y,Y,Y及び乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(2;1,2;1,5))並びに6ターン目の最初の横方向巻線部分Y(L(2;2;1,6))の側縁に倣うように、6ターン目の横方向巻線部Y,Y,Y及び斜め渡り巻線部R(L(2;2,3;1,5))並びに7ターン目の最初の横方向巻線部分Y(L(2;3;1,6))を形成し、更に、これらの側縁に倣うように、7ターン目の横方向巻線部Y,Y,Y及び斜め渡り巻線部R(L(2;3,4;1;5))並びに8ターン目の最初の横方向巻線部分Y(L(2;4;1,6))を形成する。巻線Dによるこれらの巻線部Y,Rの形成プロセスは、巻線Dにより形成される巻線部Y,Rの層が1層目から二層目に変り且つ巻線部Y,Rが巻芯10に対して端面11側から端面12側に向かってZ1方向に形成される状態から巻芯10に対して端面12側から端面11側に向かってZ2方向に形成される状態に変った点を除き、図1の(b)に示した巻線部Y,Rの形成プロセスと実質的に同一である。
次に、図2の(b)に示したように、8ターン目の横方向巻線部Y,Y,Yを側面P2,P3,P4上に形成した後、角部K4から側面P1の全体に亙って横方向巻線部Yを形成する。この横方向巻線部Yは、図1の(c)に示した4ターン目の最後から5ターン目の最初の横方向巻線部Yと同様に、角部K4のところでは下側の層(この場合は二層目)にあり、その後、斜め渡り巻線部R(L(2;3,4;1,5))に徐々に乗上げて転向部Tの上まで至り該転向部T上で完全に上側の層(この場合は三層目)に移る漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(2,3;4;1))と、下側の層(ここでは第二層)の四列目の横方向巻線部Y(L(2;4;1,6))に重なって横方向に延びる上側の層(ここでは第三層)の一列目の横方向巻線部分Y(L(3;1;1,6))とを有する。なお、第二層Lの四列目(最終列)に重なる第三層の部分は、一列目(最初の列)である。
この場合も、横方向巻線部Yのうち漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(2,3;4;1))が、丸みのある角部K4をまわった後、斜め渡り巻線部R(L(2;3,4;1,5))に徐々に乗上げる点は前述の場合と同様である。
次に、図2の(c)に示したように、上記と同様にして、第三層の一列目の横方向巻線部Yが側面P2に形成された後、角部K2に達する。なお、図2の(c)は、図2の(b)等とは異なり、側面P1を斜め下側からみる代わりに側面P3を斜め下側からみた斜視説明図になっている。
この多層整列巻コイル1では、この8.5ターン目(巻始めの位置が、側面P1の横方向の中間位置であると想定すると、8.375ターン目)から、図19から図23に示した従来のコイルとは全く異なる巻回が行われる。なお、図1の(a)〜(d)並びに図2の(a)及び(b)に関連して今まで説明した部分についても、大まかには従来のコイル301と同様であるけれども、従来とは異なる種々の内容を含む。
第三層において、角部K2に達した平角線Dは、図2の(c)に示したように、側面P3において、斜め方向に延在する準斜め渡り巻線部Raの形態を採る。この準斜め渡り巻線部Raは、上記の表記では、L(3;1,1+α;3,5)(但し、0<<α<0.5)と表される状態にある。すなわち、準斜め渡り巻線部Raは、斜め方向の傾斜の程度ないしシフト量(一つの側面の始点角部から終点角部に至る間における軸線Cの延在方向へのズレ量)αが今まで説明した斜め渡り巻線部Rよりも小さく、側面P3の始点である角部K2から終点である角部K3に達する間にDb/2(平角線Dの幅Dbの半分)よりも小さい長さだけ軸線Cの延在方向Z1にずれる。
角部K3に達した平角線Dは、図5の(a)に示したように、側面P4において同様な準斜め渡り巻線部Ra(L(3;1+α,1+2α;4,5))を形成した後、二列目の少し手前で角部K4に至る。平角線Dは、次に、図5の(b)に示したように、側面P1において、9ターン目に入って準斜め渡り巻線部分Ra(L(3;1+2α,2;1,5))を形成した後、横方向巻線部分Y(L(3;2;1,6))の形態を採る。なお、この準斜め渡り巻線部Raは漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(2,3;4;1))が実際上第二層に留まる程度の長さの範囲で該漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(2,3;4;1))上の斜め方向横断(斜め渡り)を完了し、僅かに転向されて横方向巻線部分Y(L(3;2;1,6))につながる。なお、横方向巻線部分Y(L(3;2;1,6))は、該漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(2,3;4;1))及び一列目の横方向巻線部分Y(L(3;1;1,6))の側縁に沿って、横方向Fに延びる。角部K1に達した平角線Dは、図2の(d)からわかるように、9.25ターン目の側面P2においても横方向巻線部Y(L(3;2;2,6))の形態を採る。ここで生じる転向部T3は、転向部T1の場合と同様に、側面P1に対して平行な平面内で延在する。
更に、図2の(d)からわかる通り、次に、上述のように、側面P3;P4;P1;P2にある8.5ターン目〜9.25ターン目の巻線部分に沿って、9.5ターン目〜10.25ターン目の巻線部分Ra;Ra;Ra,Y;Yが、側面P3;P4;P1;P2に形成される。更に、図3の(a)からわかる通り、同様にして、10.5ターン目〜11.25ターン目の巻線部分Ra;Ra;Ra,Y;Yが、側面P3;P4;P1;P2に形成される。
以上において、α<0.5とするのは、側面P3,P4及び側面P1の始めの部分において準斜め渡り巻線部Ra,Ra,Raの形態を採る巻線部Dが、9ターン目に入るより少し前の位置である角部K4において部分的に三層目の一列目に残るようにするためである。これにより、その前の角部K3において、部分的に三層目の一列目に残ることも確保される。また、シフト量α〜0.5(典型的には、0.4≦α<0.5)とするのは、側面P3,P4及び側面P1の始めの部分において準斜め渡り巻線部Ra,Ra,Raの形態を採った巻線部Dが、側面P1において、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(2,3;4;1))のうち実質的に乗上げが始まり二層目よりも上に巻かれた部分(三層目に近付いた部分)に重なるのを実際上避けるためである。
ここで、αの値は、突出部Hが形成される領域を、断面が矩形Sの場合に、側面P1から反対側の側面P3に移行させるように選択される。従って、矩形Sであっても、突出部を移行させる側面の相対位置が異なる場合には、αが採るべき値は異なる。また、横断面が矩形S以外でαが同様に定義可能である場合にも、αが採るべき値は異なる。
以上においては、準斜め渡り巻線部Raが側面P3,P4,P1において同じように傾斜していることを前提にしているけれども、側面P3,P4,P1における傾斜は、異なっていてもよく、その場合、各側面P3,P4,P1におけるシフト量ないしズレ量αを夫々α3,α4,α1とすると、その総和(α3+α4+β・α1)(但し、例えば、β=1/2)が1になればよい(ここでは、側面P1の半分のところまでの乗上げが許容される場合を想定している。場合によっては、β<1/2としてもよい)。
なお、ここで、注意されるべきは、以上のような準斜め渡り巻線部Raが第二層の巻線部分の上に積層される際に、突出部は実際上生じないことである。すなわち、多層整列巻コイル1では、巻線が平角線のような幅広線Dであるが故に、以下に説明するような突出部Hの形成側面ないし形成領域の移行が可能になる。これに対して、仮に、巻線が丸線である場合、丸線によって準斜め渡り巻線部を形成すると、該準斜め渡り巻線部が下側の第二層を形成している巻線部分と不可避的に交差し、該交差の生じる部位(最大径部が交差する部位)において不可避的に突出部が生じる。すなわち、丸線を巻いた多層整列巻コイルの場合、準斜め渡り巻線部を敢えて形成すると、単に突出部の位置がずれるだけでなく、余分の突出部ができてしまう。
11.25ターン目の巻線部分Yが、角部K2に達すると、図3の(b)からわかるように、11.5ターン目の横方向巻線部Yが側面P3に形成される。この11.5ターン目の横方向巻線部Yは、図2の(d)と同様な図3の(a)に示した準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))の前半部分に横方向に徐々に乗上げる漸進的乗上げ横方向巻線部YM(L(3,4;4;3,6))と、該準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))の後半部分の上を横方向に延びる四層目で一列目の横方向巻線部Y(L(4;1;3))とからなる。但し、横方向巻線部Yは、この例では、角部K3において、準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))に対して(1−α)列だけZ1方向にズレたところに位置する。なお、この漸進的乗上げ横方向巻線部YM(L(3,4;4;3,6))も前述のように、実際には、丸みのある角部K3に沿って回った後、角部K3の近傍では、準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))に重なることなく、実際上、二層目の巻線部の上に密接した三層目の巻線部を形成し、角部K3からある程度離れて初めて、準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))に乗上げ始める。
なお、以上からわかるように、この多層整列巻コイル1では、第一層及び第二層は、全ての側面において4列の巻線部分(4ターン分の巻線部分)を備えるのに対して、第三層は、実際上、二つ分の側面(側面P1の半分と、側面P2と、側面P3の半分)において4列の巻線部分があるけれども他の側面部分では3列の巻線部分があるだけで、全体として、3.5ターン分の巻線部分を備える。すなわち、第三層は、第一層及び第二層よりも0.5ターン分だけ少ない。多層整列巻コイル1では、この0.5ターン分を犠牲にして、巻線の輪郭形状の崩れ(一部分だけが過度に突出すること等)を抑え、典型的には、長方形等の規定された断面形状の空間に配設される多層整列巻コイル1のターン数を最大限高めることを可能にして、総合的にみて占積率を高くすることを可能にする。また、突出部が大きくなって整列巻ができなくなるのを避け得る。
次に、図3の(c)からわかるように、四層目で一列目の横方向巻線部Y(L(4;1;4)),Y(L(4;1;1)),Y(L(4;1;2))が側面P4,P1,P2に形成される。
この11.5ターン目〜12.25ターン目の巻線部は、第三層から第四層に移った後第四層の一列目に形成される点を除き、図1の(d)に示した4ターン目〜4.75ターン目の巻線部(第一層から第二層に移った後で第二層の一列目に形成)と実質的に同じ形態を採る。
従って、図3の(c)及び(d)に示した次の巻線部すなわち12.5ターン目の巻線部は、図1の(d)並びに図4の(b)及び(a)に示した5ターン目の巻線部と実際上同じ形態を採る。
すなわち、図3の(c)及び(d)及びそれらを拡大した図6の(b)及び(a)に示したように、一列目の角部K2を回った後、辺S3すなわち側面P3に戻って、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(3,4;4;3,6))の外表面上を斜めに横切るように延在し三層目L3の巻線部上に降りる乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))、及び該乗上げ斜め渡り巻線部RMの延在端において転向されて四層目の一列目の横方向巻線部分Y(L(4;1;3,6))の側縁に沿って横方向Fに延びる四層目の二列目の横方向巻線部分Y(L(4;2;3,6))が形成される。
ここで、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))と横方向巻線部分Y(L(4;2;3,6))との境界に形成される転向部TC4は、典型的には、角部K2と角部K3との中間部に位置する。但し、角部K2よりも角部K3に近くても、角部K3よりも角部K2に近くてもよい。転向部TC4の形成の仕方は前述の転向部TC2の場合と同様である。
前述の場合と同様に、図7の(b)の一部拡大平面説明図に示したように、この平角線Dの多層整列巻コイル1において、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))は、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(3,4;4;3,6))のうち準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))への乗上げを開始する乗上げ開始領域YA4から準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))に部分的に重なった漸進的乗上げ領域YB4の上を斜めに横切るように延在する。乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))のうち、漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(3,4;4;3,6))の斜め方向横切りを完了する部位XC4は、実際上第五層L5に位置する。乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))のうち、準斜め渡り巻線部Ra(L(3;3,3+α;3,5))上に位置する漸進的乗上げ横方向巻線部分YM(L(3,4;4;3,6))に重なる領域(図7の(b)の黒丸「●」の領域)X4は、第四層L4よりもかなり高い位置に達する。一方、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))のうち第三層(下側の層)L3に降りた部位は、丁度第四層(上側の層)L4にある。その結果、図6の(a)及び(b)に示したように、乗上げ斜め渡り巻線部RM(L(4;1,2;3,5))と第二列の横方向巻線部Y(L(4;2;1,6))との転向部TC4の手前側の乗越え領域X4には、横断面Vと平行な面でみて矩形Sの外向きJに突出した突出部H4が不可避的に生じることも、突出部H2の場合と同様である。
但し、図3の(d)及びその拡大図である図6の(a)からわかるように、TC4の手前の領域X4に生じる突出部H4は、側面P3にあり、転向部TC2の手前側の乗越え領域X2に生じる突出部H2が生じる側面P1とは異なる。すなわち、突出部H4は突出部H2とは全く異なる領域(部位)に生じるので、多層整列巻コイル1の外表面は、四層目までが形成された状態では、最大限、突出部Hの一つ分の凸部を備えるに止まる。また、図3の(d)や図6の(a)からもわかるように、二層目にできた突出部H2の上に三層目及び四層目の巻線層が形成されることにより、該突出部H2は相当均されて全体として平坦になっている。すなわち、二層目の外表面では突出部H2のところに局所的な突出があることからその上に巻回される巻線部が比較的乱れ易いのに対して、四層目の外表面では突出部H2のところの突出がよりなだらかな凸状領域になるので、その上に巻回される巻線部が乱れる虞れが少なくなっている。
従って、このように突出部Hの形成領域が分散された多層整列巻コイル1では、該コイル1の一箇所又は限られた箇所のみが外方に突出するのを避け得る。その結果、大きさ(幅、厚さ又は長さ)が限られた間隙に、多層整列巻コイル1が確実に収容され得る。それゆえ、限られた大きさの間隙に収容される多層整列巻コイル1のターン数を最大限に高めることが可能になる。換言すれば、限られた大きさの間隙に収容される多層整列巻コイル1の巻線のターン数ないし占積率を最大限に高めることが可能になる。
更に、このように突出部Hの形成領域が分散された多層整列巻コイル1では、該コイル1の一箇所又は限られた箇所のみが外方に突出するのを避け得るから、巻線Dが崩れる虞れを最低限にして巻線の積層数を最大限にし得る。従って、巻線Dが崩れる虞れを最低限にして、多層のコイルを形成し得る。
四層目で二列目の横方向巻線部Y(L(4;2;3,6))が角部K3に達すると、その後、側面P4;P1;P2;P3において、隣接列の巻線部に沿って、12.75〜13.5ターン目、13.75〜14.5ターン目の横方向巻線部Y;Y;Y;R,Yが形成され、更に、側面P4,P1,P2に14.75〜15.25ターン目の巻線部Y,Y,Yが形成される。ここで、14.75ターン目や15ターン目の横方向巻線部Yは、角部K3,K4において、第三層の第一列の準斜め渡り巻線部に部分的に載る。これは、前述のように、α<0.5であることにより、可能になっている。
次に、五層以上の積層について説明する前に、簡易的な表記の仕方を、図8の(a)及び(b)に基づいて、簡単に、説明する。図8の(a)では、四層の積層に際して、最高乗上げ部である乗越え領域Xに生じる二層目の突出部H2から積層方向に対して少しずれたところに同様な四層目の突出部H4が形成されている。これらの最高乗上げ部である乗越え領域Xに生じる突出部H2,H4が、図8の(b)では、二層目及び四層目において積層方向に対して多少ずれたところに「く」字状(「V」字状(但し、「V」の一対の脚部が鈍角をなす))に模式的に示されている。なお、巻線Dは連続的な線であるけれども、模式的な図では、各層が単に積層されているかの如く示されている。
次に、五層以上の積層がある場合について、巻線の積層状態を模式的に表した図8の(c)に基づいて説明する。図8の(c)の多層整列巻コイル1では、二層目が突出部H2のある乗越え領域ないし最高乗上げ部位X2を側面P1において転向部TC2の近傍に備えるように一層目及び二層目が形成され、四層目が突出部H4のある乗越え領域である最高乗上げ部位X4を側面P1とは反対側の側面P3において転向部TC4の手前側に備えるように三層目及び四層目が形成されている。従って、多層整列巻コイル1において、五層目以上の層を同様に形成する場合、多層整列巻コイル1では、図8の(c)に示したように、六層目が突出部H6のある乗越え領域を側面PC3とは反対側の側面P1に備えるように、五層目及び六層目が形成され、それ以後も、同様に、七層目及び八層目の二層、九層目及び十層目の二層が形成されることが所望の層数だけ繰返されればよい。以上において、三層目及び四層目の二層目に対する相対的な位置関係と、五層目及び六層目の四層目に対する相対的な位置関係は同じである。それ以降も同様である。
多層整列巻コイル1の横断面が、正方形ではなくて、長方形や長円形である場合、他に制約条件がないときは、好ましくは、図8の(c)で示したように、側面P1,P3としては、典型的には、長方形や長円形の長さの長い辺に相当する側面が選択される。
なお、突出部Hを二層毎に分散させるための側面としては、最初の側面P1に対して反対側の側面P3の代わりに、例えば、図8の(d)に示したように側面P2であってもそれと実際上対等な側面P4であってもよい。多層整列巻コイル1の横断面が長方形や長円形の場合、側面P1,P3が長辺であれば、側面P2,P4は短辺又は弧状の辺である。
また、突出部Hの位置する側面として二つの側面を交互に用いる代わりに、図8の(e)に示したように、異なる側面を順に(例えば、P1→P2→P3→P4→P1→・・・(繰返し))選択しても、異なる側面を実際上ランダムに選択してもよい。
なお、同一側面の同様な領域に突出部Hができるように、多数の層を重ねることは排除されるべきであるけれども、同一側面(例えば、側面P1)の同様な領域に、突出部Hが2〜3回程度(例えば、第二層、第四層、第六層)続けて形成されることを絶対に避けるべきであるというわけではない。すなわち、前述のように、占積率の観点からすると突出部Hが同一の側面に重なるように巻回する方が好ましい。従って、多層整列巻コイル1の外表面の突出が比較的大きくてもよい場合には、整列巻が難しくなる程度に突出部Hの積層による過大な突出部が形成されない限り、同一側面に突出部Hを形成することを繰り返し、整列巻が困難になると、突出部Hを形成する側面を他の側面に変更することによって、突出部Hの形成領域を分散させるようにしてもよい。なお、突出部Hが重なる場合であっても、通常、ある層の突出部Hの上に形成される突出部Hの頂点は、その下の突出部Hの頂点から多少はずれるので、ターン数の最大化を図る場合には、突出部Hを2〜3回程度重ねることはあり得る選択である。
なお、突出部Hが、同一の側面に連続して積層形成される場合であっても、突出部Hの形成される領域を多少ずらすことは、可能である。典型的には、巻線Dに加える張力を多少強めにすると、転向部Tが多層整列巻コイルの巻方向前方(巻線を巻き進める向き)に多少ずれ、逆に、巻線Dに加える張力を多少弱めにすると、転向部Tが多層整列巻コイルの巻方向後方に多少ずれる。また、突出部の形成される側面が長方形断面の長辺であって且つその長辺が比較的長い場合には、長辺が複数の角度領域(後で図11に関連して説明する角度領域φ1,φ2,・・・と等価)からなるとみなして、該複数の異なる領域に突出部を分散させてもよい。
例えば、10層よりも相当多い層からなる多層整列巻コイルを形成する場合、同一側面の同様な領域に、突出部Hができるように同じ形態の二層を数回(例えば2〜3回程度)繰返して形成してもよい。例えば、図8の(f)に示した多層整列巻コイル1では、突出部H2,H4が側面P1に連続的に形成されているけれども、側面P1にある突出部H4に対して突出部H6を側面P3に変えることにより、突出部H2,H4が連続的に形成されて突出変形の大きな巻線部分の平坦化を図り、突出部H4,H6,H8,H10については、側面を、P1→P3→P1→P3と変えることにより、突出部Hによる突出の累積を抑えている。
また、突出部Hの形成領域は、例えば、図9の(a)〜(f)に示したように、変更ないし分散させてもよい。なお、図9の(a)〜(f)では、コイルの横断面が正方形であるとして表示している。図9の(a)の例では、突出部HすなわちH2,H4,H6,H8,H10が同じ側面(この例ではP2)において、積層方向に対して少しづつズレた状態で配置されるように、コイルが形成されている。一方、図9の(b)のコイルでは、同じ側面における突出部Hの位置ズレと側面の変更とが組合わされている。また、図9の(c)では、同じ側面における突出部Hの位置ズレと側面の変更に加えて、角部(但し多少は丸みがあり、外側の層程曲率半径が大きい(以下同))の利用が組み合わされている。図9の(d)では、突出部Hの場所として同じ角部が複数回使用され、過度に同じ角部に突出部が重なるのを避けるべく、一部の突出部(この例ではH8)が別の角部に形成されている。なお、この図9の(d)以降、図9の(f)までは、突出部Hが全て角部に形成されている例である。図9の(e)では、突出部Hが形成される突出部Hが連続的に過度に重なるのを避けるべく、分散されている。この例は、連続積層回数が二回までの例である。図9の(f)は、おおまかには同じ角部であるけれども、円弧状領域に突出部Hが分散されている例である。
以上のように、側面及び角部(外側の層では広がりのある領域として扱い得る)に、突出部Hが分散されるように、巻回されたコイルであれば、崩れることなく、整列巻きされ得る。
なお、突出部Hの分散は、多層整列巻コイル1の積層数が少ない場合にも、有益である。すなわち、例えば、多層整列巻コイル1の外表面の突出を極力避ける必要がある場合には、積層数の比較的少ないコイルであっても、少なくとも、一回(一層)以上、突出部Hができる箇所を分散させることにより、多層整列巻コイル1が厚さ変動が少なく形状の不規則性が少ないものになり得る。
更に、例えば、多層整列巻コイル1の横断面が図11の(a)に示したように円形など曲線状の輪郭を有する場合、突出部H2,H4,H6等の形成される領域が、異なる中心角領域φ1,φ2,φ3(相互に区別しないとき又は総称するときはφで表す)等であればよい。ここで、中心角領域φは、山状の突出部Hの幅よりも実際上大きい角度領域(山状突出部Hのテール又はそれより外側に境界を有する領域)であるとする。なお、図11の(a)では、多層整列巻コイルの巻線層は具体的には示していないけれども、例えば、各突出部H2,H4及びH6は、例えば、第二層、第四層及び第6層の巻線の転向部TC2,TC4及びTC6の手前側に位置する乗越え領域X2,X4,X6に起因すると想定している。
なお、以上のような中心角領域ないし角度領域φの概念は、図11の(c)に示したように、直線状部分と曲線状部分とを備えた長円形状の横断面の多層整列巻コイルにも当てはまる。ここで、直線状部分が十分に長い場合、該直線状部分が図11の(c)に示したように複数の中心角領域ないし角度領域φ1,φ2等からなるとみなして、突出部H2,H4等を形成してもよい。図8の(c)〜(f)に示した横断面が長方形の多層整列巻コイルの長辺でも同様である。即ち、異なる層の突出部Hを、異なる側面に形成する代わりに、同一側面の異なる中心角領域ないし角度領域φに分散させて形成してもよい。
以上においては、二層を一組として、同じ側面(同じ中心角領域)に突出部Hを形成させると説明したけれども、多層整列巻コイル1において、二層毎に一組になっていなくてもよい。すなわち、多層整列巻コイル1では、二層目の突出部H2と三層目の突出部H3とが同一の側面P1に位置するけれども、三層目の突出部H3が二層目の突出部とは異なる側面P2,P3又はP4に位置していてもよい。他の層(四層目と五層目等)についても同様である。すなわち、例えば、突出部H2と突出部H3とは元々多層整列巻コイル1の軸線Cの延在方向の異なる箇所に位置するので、突出や崩れに関しては、相互の影響は少ないから、独立に配置され得る。但し、突出部H3を突出部H2とは異なる側面又は中心角領域に配置するためには、前述の準斜め渡り巻線部YMを敢えて形成する必要があり、該準斜め渡り巻線部YMの形成に伴い巻線のターン数を1ターンの数分の1は低下させる必要があるから、これに伴うターン数や占積率の低下が不可避になる。従って、特に必要がない限り、通常は、1層毎に突出部Hを形成する側面や中心角領域を変えるよりも、2層一組は同一の側面や中心角領域に突出部を形成することが好ましい。
以上の如く構成された多層整列巻コイル1は、例えば、物品の位置制御に用いられる。
図12の(a)及び(b)に示した位置制御機構50は、横断面が長方形の平角線多層整列巻コイル1とU字状の可動部材51とを有する。多層整列巻コイル1は、長方形断面の一方の長辺52のある外側面53でコイルユニット固定ベース54の平坦な表面55に固定されている。固定ベース54は、例えば、カメラの筐体(図示せず)に対して固定・静置されており、その表面55の向き及び平面度は高い。多層整列巻コイル1は、前述のように長辺52,56の外表面53,57の突出が最低限に抑えられるように、最高乗上げ部位Xが分散され突出部Hが分散されて形成されている。従って、多層整列巻コイル1の外表面53の実際上全体が固定ベース54の表面55に密接された状態で、固定ベース54に固着されている。この状態で、多層整列巻コイル1の中心軸線Cは、固定ベース54の表面55に対して平行になっている。
可動部材51は、例えば、カメラの筐体(図示せず)に対してZC方向に可動に該筐体に支持されたレンズ構造体(図示せず)に固定されている。ここで、方向ZCは、多層整列巻コイル1の中心軸線Cの延在方向と平行である。可動部材51は、U字状のヨーク板60と一対の平板状磁石58,59とを有する。各平板状磁石58,59は、厚さ方向に磁化されている。ヨーク板60の一対の脚部61,62のうち一方の脚部62は、多層整列巻コイル1の角柱状空洞63に挿通されて、ZC方向に延びている。
磁石58,59は、多層整列巻コイル1のうち該磁石58,59の間に挟まれている部分、すなわち横断面長方形の多層整列巻コイル1のうち長辺56側の巻線部分64に対して、一様なVM方向の磁場を与える。ここで、方向VMは、多層整列巻コイル1の中心軸線Cに対して垂直な平面内で多層整列巻コイル1の長方形の長辺56の延在方向すなわち巻線部分64の巻線Dの延在方向に対して直角な方向である。
多層整列巻コイル1の巻線部分64の巻線DにI1,I2方向の電流が流れると、コイル1の巻線部分64に対してZC2,ZC1方向の力が働き、可動部材51が反作用を受けてZC1,ZC2方向に移動される。すなわち、多層整列巻コイル1の巻線Dに流す電流Iの向き及び時間を変えることにより、カメラのレンズ構造体(図示せず)のZC方向の位置を変え、レンズ構造体による焦点合わせを制御し得る。
以上のような位置制御機構50において、多層整列巻コイル1の長さが1cm程度である場合、多層整列巻コイル1と可動部材51との間隙G5,G6,G7の大きさは、典型的には、0.2〜0.3mm程度である。
この位置制御機構50において、例えば、横断面が長方形の多層整列巻コイル1のうち側面57側の巻線部分64に突出部Hの累積に起因する過大な突出部があると、可動部材51の磁石58が多層整列巻コイル1の巻線部64の外表面57に当たったり擦れたりするか又は可動部材51の磁石59が多層整列巻コイル1の巻線部64の内表面65に当たったり擦れたりする虞れがある。また、この位置制御機構50において、例えば、横断面が長方形の多層整列巻コイル1のうち側面53側の巻線部分66に突出部Hの累積に起因する過大な突出部があると、多層整列巻コイル1が支持体54の表面55に対して傾いて、可動部材51のヨーク板60の脚部62又は磁石59が多層整列巻コイル1の角柱状空洞63の内面67,65に当たったり擦れたりする虞れがある。更に、上記のような機械的な当接や接触がなくても、多層整列巻コイル1が可動部材51に対して及ぼす力の製品による個体差が大きくなり、製品の信頼性が低下する虞れがある。
ところが、この多層整列巻コイル1では、突出部Hによるコイル1の外表面53,57の突出が最低限に抑えられ、多層整列巻コイル1の外表面の形状及び寸法が比較的高精度に均一化され得るので、上記のような問題が生じる虞れが少ない。その結果、多層整列巻コイル1の一層の小型化も図られ得る。また、不規則な突出部Hの生起を最低限に抑え得るから、間隙G5,G6,G7を最低限にすることが可能になり、磁石58,59間の直方体状の間隙内に位置する巻線部64のターン数を最大限に高めることが可能になる。従って、磁石58,59間の直方体状の間隙内に位置する巻線Dの実効的な占積率を最大限に高め得る。
図13の(a)及び(b)に示した位置制御機構70は、横断面が長方形の平角線多層整列巻コイル1と該コイル1を包むようにU字状に延びた可動部材71とを有する。この位置制御機構70は、ボイスコイルを構成し、例えば、磁気ディスク装置において磁気ヘッドのアームの位置制御等に用いられ得る。
多層整列巻コイル1は、図示しない支持体に固定されており、可動部材71は該支持体(図示せず)に対して、ZA方向に可動に支持されている。
可動部材71は、ZA方向に対する横断面がU字状のヨーク板72と該ヨーク板72の一対の脚部73,74に固定された二対の平板状磁石75,76及び77,78とを有する。各平板状磁石は、厚さ方向に磁化されており、磁石対75,76は、VM1方向の磁場を形成し、磁石対77,78は逆向きVM2(−VM1)の磁場を形成する。
多層整列巻コイル1は、中心軸線Cが、磁石対75,76及び77,78の面に垂直で磁場の向きVM1,VM2に平行になり、且つその横断面の長方形の長辺81,82の延在方向がZA方向に平行になるように、U字状可動部材71のヨーク板72の脚部73,74並びに磁石75,77及び76,78の間の直方体状の空所79内に位置する。
多層整列巻コイル1の巻線Dに対して一方の向きI3に電流を流すと、可動部材71は、磁石対75,76の中央部に多層整列巻コイル1の中心軸線Cが対面する位置に向かってZA2方向に移動され、多層整列巻コイル1の巻線Dに対して他方の向きI4に電流を流すと、可動部材71は、磁石対77,78の中央部に多層整列巻コイル1の中心軸線Cが対面する位置に向かってZA1方向に移動される。従って、位置制御装置70では、コイル1の巻線Dに流す電流の向き及び通電時間を制御することにより、可動部材71のZA方向の位置を制御し得る。
この位置制御装置70においても、多層整列巻コイル1の長方形断面の長辺の長さが1cm程度である場合、多層整列巻コイル1と可動部材71との間隙G8,G9は、例えば、0.2〜0.3mm程度である。
この位置制御装置70において、多層整列巻コイル1の長辺の外表面に過大な突出部があると、多層整列巻コイル1が直方体状の空所79内に収まり難い。また、多層整列巻コイル1が直方体状空所79内に奥深く配置される必要があることから、多層整列巻コイル1の突出部の最大の突出や最大の乱れを考慮して多層整列巻コイル1の配設位置を決める必要があり、結果的に、間隙G8を大きめに採る必要がある。
次に、以上のような多層整列巻コイル1を形成するための平角線多層整列巻コイル製造装置20の一例について図14から図16に基づいて説明する。
図14及び図15からわかるように、多層整列巻コイル製造装置20は、床21に立設されたテーブル22と、床21に載置され丸線Drが巻かれたボビン23と、線材の案内機構24と、平角圧延機構25と、テンション機構すなわち張力付与調整機構26と巻機30とを有する。この例では、線材の案内機構24、平角圧延機構25、テンション機構すなわち張力付与調整機構26及び巻機30は、テーブル22上に載置されている。丸線Drは、横断面が円形の銅線と該銅線を絶縁被覆する絶縁層とを有し、該絶縁層の外表面には、熱融着性材料層が設けられている。但し、熱融着性材料層はなくてもよい。ここで、丸線Drの銅線部分の直径は、例えば、0.02〜0.2mm程度であり、典型的には、0.04〜0.1mm程度である。但し、0.02mmよりも細くても、0.2mmよりも太くてもよい。最終的に形成される平角線Dは、典型的には、長方形横断面のアスペクト比(縦横比)が3程度で、幅(長辺)が0.05〜0.2mm程度、厚さ(短辺)が0.02〜0.05mm程度である。
案内機構24は、複数のローラ24a,24b,24cを含み、テーブル22の端部にある丸線案内部22aを介してボビン23から上向きW1方向に引出した丸線Drを、圧延機構25に向かうようにほぼ水平方向W2に転向させる。なお、丸線案内部22aでは丸線Drの引出しに対してある程度の摩擦抵抗がある。平角圧延機構25は、一対の圧延ローラ25a,25bを備え、張力付与調整機構26によってW3方向に引っ張られる丸線Drを圧延して平角線Dにする。なお、圧延機構25により形成される平角線Dの横断面形状は、典型的には、長方形というよりもむしろ長円形に近い形状であることは前述のとおりである。但し、丸線Drが太く平角線Dの横断面のサイズが大きい場合、圧延機構25は、平角線Dの横断面形状が長方形に近付くように、複数の圧延処理を行うようになっていてもよい。張力付与調整機構26は、一対のローラ26a,26bに加えて張力を付与するための引張ないし懸垂ローラ26cを有し、圧延機構25から送出した平角線Dが所定の張力で巻機30によってW4方向に引出されるように、平角線Dに所望の張力を付与する。張力付与機構26は、巻機30への出側の平角線Dの張力のみでなく、圧延機構25から引出される平角線Dの引出し張力を調整するように複数の張力調整部を備えていてもよい。
巻機30は、筐体31と、巻芯10及び該巻芯10を支える回転軸本体部33,34と、該回転軸本体部34を回転駆動する巻芯回転用モータ35と、回転軸33の軸受36と、モータ35の回転を制御する巻芯回転制御機構37とを有する。この例では、図示の便宜上、回転軸本体部34側がモータ35により駆動されるとして説明しているけれども、回転軸本体部34の代わりに、巻芯10が一体的に取付けられた回転軸本体部33側が、モータ35により回転駆動されるようになっていてもよい。巻機30は、更に、巻芯10に巻回されるべき平角線Dの軸線方向Cの位置を制御するトラバース機構40を備える。なお、符号38(図14)は、平角線Dの表面にある熱融着性層を軟化ないし溶融させるための加熱器である。
トラバース機構40は、外周面の周方向溝部に沿って平角線Dを案内するローラ41と、該ローラ41の軸線方向Zの位置を調整するボールネジの如き位置調整軸42と、該位置調整軸42を正逆回転させるトラバース用モータ43と、該トラバース用モータ43の回転を制御するトラバース位置制御機構44とを有する。制御機構37,44の動作は、操作盤を含む中央制御部45により、調整制御される。なお、中央制御部45は、圧延機構25の圧延ローラの駆動用モータ(図示せず)の回転駆動も同期制御する。
なお、図16の(a)から(c)に示したように、巻芯10は、先端部に係合突起91を備え、回転軸本体部34は、該突起91が引出し可能に嵌着される凹部92をフランジ状面13に備える。また、巻芯10及び係合突起91には、多層整列巻コイル1を形成すべき平角線Dの先端部Dtを挿入固定するための溝部93が形成されている。一方、回転軸本体部34の先端面には、溝部93と協働して平角線Dの先端部を挿入固定するための溝部94及び平角線Dの巻芯10への巻始め部分を案内するための案内面95を備えた案内凹部96が形成されている。
多層整列巻コイル1の形成に際しては、まず、平角線Dの先端Dtを溝93内に挿入しておいて、回転軸本体部33の突起部91を回転軸本体部34の凹部92内に嵌合すると共に巻線Dの先端Dt近傍部分を案内凹部96に沿わせる。これにより、巻線Dは、図16の(c)に示したように、巻芯10の側面P1に沿って延在して、図1の(a)に示したのと同様な状態になる。なお、巻機30では、巻芯10の横断面は、正方形ではなく長方形である点で、図1の(a)などに示した巻芯10とは異なる形状を有する。
次に、中央制御部45の制御下で、一方では、圧延機構25の圧延ローラ対25a,25bの駆動を制御して丸線Drを平角化して平角線Dを形成しつつ、制御機構37を介して巻芯回転用モータ35を回転駆動させて巻芯10をC1方向に回転させながら、他方では、巻芯10に対する巻線Dの巻付位置(列及び層)に応じて、制御機構44を介してトラバース用モータ43を回転駆動して位置調整軸42を正逆転させることによりトラバース用ローラ41をZ1,Z2方向に移動させることにより、巻芯10に巻線Dを巻きつける。例えば、転向部Tにおいては、図4の(b)に関連して説明したように既に巻回済みの巻線部から離れた向きに巻線Dを延ばしておいてE1方向に振って巻回済みの巻線部の側縁にぶつけるべく、巻線Dをトラバース装置40によってE1方向にトラバースさせればよい。なお、巻付に際して、必要に応じて、巻付力や転向位置を調整すべく、例えば、張力を調整しつつ巻き付けることも前述のとおりである。ここで、巻線Dを所望の張力下で且つ巻芯10のC1方向回転に同期させてこのようなトラバース装置40によるトラバース制御を行うだけで、所望の転向部Tが形成されるのは、平角線Dが実際上銅線からなり且つ典型的にはその幅Daが0.05〜0.2mm程度と狭く且つその厚さDbが0.02〜0.05mm程度と薄いことによる。但し、幅Daや厚さDbはより大きくてもよい。なお、幅Daや厚さDbがはるかにおおきかったり、平角線Dの線材が銅よりも剛性のはるかに高い材料からなるような場合、所望ならば、線材を巻芯10の表面や巻回済み巻線部分に押付ける巻付補助工具を備え、且つ該補助工具を巻付と同期して制御するようになっていてもよい。