JP4771479B2 - モモピューレ又はモモ果汁の製造方法 - Google Patents

モモピューレ又はモモ果汁の製造方法 Download PDF

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本発明は、アレルゲン低減化モモピューレ又はモモ果汁の製造方法の製造方法に関するものである。
近年の傾向として、食物アレルギー患者は年々増加しており、厚生労働省は平成13年度から特に重篤なアレルギー症状を引き起こす「特定原材料5品目」のほか、「特定原材料に準じる食品」として20品目を指定して注意を喚起している。「特定原材料に準じる食品」には5つの果物があり、その一つがモモである。
欧州のモモの主要アレルゲンは、Pastorelloらによって分子量9kDaのタンパク質(Pru p3)であると報告されている(非特許文献1)。発明者らの知る限りにおいて、日本のモモについては報告例がない。
したがって、日本のモモについてアレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)の探索を行い、そのアレルゲンの低減手法を確立することが重要である。
Pastorelloら、J Allergy clin immunol,103(No.1),p521−526(1999)
そこで、本発明が解決しようとする主たる課題は、アレルゲンのモモ部位における存否を明らかにし、アレルゲンの低減手法を確立し、アレルギーを惹起させないモモピューレ又はモモ果汁の製造方法を提供することにある。
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。なお、本明細書においては、「モモ」とはモモのほかスモモも含む意味で使用する。スモモはモモと同様にバラ科果実であり、西洋スモモについて、モモと同種類のタンパク質が、アレルゲンであると同定されており、アレルゲンは果皮に偏在している。日本のスモモについても、日本産のモモと同列に扱うことができるからである。
〔請求項1記載の発明〕
モモを剥皮した後、pHが4.6〜6.0のクエン酸−リン酸緩衝液と接触処理することを特徴とするモモピューレ又はモモ果汁の製造方法。
(作用効果)
後に詳述するように、モモアレルゲンは果皮に主に存在し、果肉にはほとんど含まれていない。モモ又はその加工食品は通常は果皮を除去(剥皮)しているにもかかわらずアレルギーの原因となることは、果皮のアレルゲンが水分を媒介として果肉表面部位に移行することが原因と思われる。
モモアレルゲンは、弱酸性溶液に可溶化しやすく、かつ、そのpH領域はモモのpHに近いために緩和な条件でアレルゲンの除去(アレルゲンの弱酸性溶液への可溶化)が可能である。そして、弱酸性溶液であれば、わが国の食品衛生法上の問題はないものとなる。
pHが前記範囲内であると効果が高いことは後に示す。
請求項2記載の発明〕
モモを剥皮した後、褐変防止ブランチング処理中または処理後において、pHが4.6〜6.0のクエン酸・リン酸緩衝液と接触処理することを特徴とするモモピューレ又はモモ果汁の製造方法。
(作用効果)
モモピューレの製造方法としては、日本果汁協会監修「最新果汁・果実事典」(1997年)朝倉書店、250―255頁(以下「先行文献」ともいう。)に詳しく説明されており、本明細書において、その技術内容が引用される。
モモの剥皮後の果肉は褐変が生じるために、その褐変防止のためにたとえば90℃で30秒程度煮込む「ブランチング処理」が行われる場合がある。この「ブランチング処理」工程は、種々の段階で行うことが知られているが、通常は、モモの剥皮後に行われる。本発明において、弱酸性溶液と接触処理するのに、「ブランチング処理」前に行うより、「ブランチング処理」後に行うのが褐変防止効果がより高い。必要ならば、ブランチング処理に際して、弱酸性溶液中でブランチング処理を行うことも可能であり、褐変防止効果を示す。
本発明によれば、アレルギーを惹起させないモモピューレ又はモモ果汁を得ることができるなどの利点がもたらされる。
次に、本発明の実施の形態を説明する。
モモピューレを得るための工程は、先行文献にあるようにモモ青果を洗浄した後、多くの工程を経るが、その工程の順序には種々のものがある。主要な工程は、剥皮、半割、除核、熱破砕、裏ごしなどである。また、ブランチング処理を適宜の段階で採用できる。
本発明では、いずれの順序の形態も採ることができるが、モモを剥皮した後、弱酸性溶液と接触処理するものである。
この場合、処理物をモモ果肉加工品として、特に缶詰、コンポートなどの用途として食に供することも可能である。この場合、希薄水酸化ナトリウム溶液中への浸漬、希薄塩酸液中への浸漬後、水洗などを経る常法に従って得ることができる。
他方、モモピューレ又はモモ果汁を得る、あるいはモモピューレを原料としてモモネクターを得ることもできる。
たとえば前述の裏ごし工程に伴う残分を、さらに殺菌処理などを行えばモモピューレを得ることができる。透過分については、固液分離を行い、清澄液分について酵素処理及び殺菌処理などを経ることによりモモ果汁を得ることができる。
モモネクターを得る場合には、モモピューレを原料として、モモピューレとモモブロークンと糖分との混合、殺菌などの工程を経る。
モモアレルゲンは果肉にはほとんど含まれておらず、主に果皮に存在するので、弱酸性溶液と接触処理するに先だって、予めモモを剥皮しておく必要がある。
弱酸性溶液との接触処理は、果肉分を弱酸性溶液中に浸漬する、果肉分表面を弱酸性溶液で洗浄するなどの手段が採用される。接触処理後、果肉分を、必要により実施することができる水洗工程を経て、弱酸性溶液と分離する。
弱酸性溶液としては、常温のほか30〜50℃に加温したものを使用できる。また、ブランチング処理と併用する場合には、80〜95℃などの高温とすることも可能である。
弱酸性溶液のpHとしては4.6〜6.0が望ましく、特にpH4.8〜5.5がより望ましい。低pH並びに中性付近の場合アレルゲンタンパク質の抽出量が低い。
弱酸性溶液に使用できる酸としては、酒石酸、クエン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、DL−リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、あるいはこれらの二種以上の混合酸などを挙げることができる。ここで、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの使用は、食品衛生上最適なものではないので、避けた方が望ましい。列記のなかでも、クエン酸/リン酸水素二ナトリウムはアレルゲンの抽出効果が特に高いことを知見している。
以上の方法によって得たいずれのモモ加工品も食味に実質的な変化がなく、次に示す実施例によっても明らかなように、アレルゲンを効果的に除去でき、モモアレルギーをもつ消費者も安心して食することができるものとなる。
なお、対象のモモとしては、「日川白鳳」「長沢白鳳」「浅間白桃」「川中島白桃」「ネクタリン」のいずれも分子量9kDaのタンパク質(Pru p3)が果皮中に認められたので、わが国の他の品種及び欧州品種にも当然に本発明が適用可能である。
以下、実験例及びその結果を示しながら本発明の位置づけを明らかにする。
<実験例1:タンパク質の抽出及び精製>
モモ(山梨県産「浅間白桃」)を果肉と果皮に分けてタンパク質の抽出を行った。
このうち、果肉は液体窒素で凍結させ、乳鉢と乳棒を用いて磨砕し粉末化したものを50g採取し、5mlの0.2Mアスコルビン酸ナトリウムを含むクエン酸−リン酸緩衝液pH5.0(最終濃度クエン酸49mM−リン酸水素二ナトリウム10mM)を加え、室温で撹拌し、10分間撹拌した。その後、ガーゼにより濾過し、濾液を12,000g、20分間、4℃で遠心分離して上清を得た。続いて、透析によりpHを4.0に交換した。この透液内液に1Mとなるように塩化ナトリウムと、陰イオン交換樹脂(DOWEX、ムロマチテクノス社製)を7.5g加え、10分間撹拌した。
イオン交換樹脂を減圧濾過で除去した濾液に60%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加した。4℃で一晩放置後、30,000g、30分間、4℃で遠心分離して沈殿を得た。これを少量のクエン酸−リン酸緩衝液pH6.0(最終濃度クエン酸3.75mM−リン酸水素二ナトリウム12.5mM)に溶解させた後、透析により脱塩したものを、凍結乾燥により濃縮した。
果皮に関しては湿重量に対して2倍量のクエン酸−リン酸緩衝液pH5.0(最終濃度クエン酸49mM−リン酸水素二ナトリウム10mM)中でブレンダーミキサーを用いて均一化した後、果肉と同様の操作でタンパク質を抽出したが、陰イオン樹脂での精製は行わず、硫酸アンモニウム沈殿後の溶液を透析し、脱塩したものを凍結乾燥により濃縮した。
<実験例2:トリシン−SDS電気泳動>
果皮と果肉から抽出したタンパク質試料をトリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲル(SPS−15S、ATTO社製)を使用し、付属品の泳動バファー(トリス−トリシン系)を用いてトリシン−SDS電気泳動を実施した。泳動終了後のゲルは固定後、CCB染色して検出した。
<実験例3:N末端アミノ解析>
電気泳動後のゲルからタンパク質をセミドライ式電気的ブロッティング装置を用いて、PVDF膜に転写した。9kDaのバンドをプロテインシークエンサー(Protein sequencer、アプライドバイオシステム社製)で、エドマン分解法によりタンパク質のN末端のアミノ酸配列を解析した。
(結果)
モモの果実には多糖類やポリフェノールなどの夾雑物質が含まれるために、これを除くために、陰イオン交換樹脂を用い、抽出したタンパク質を精製した後、電気泳動を行った。果皮においては、図1に示すとおり、果皮においては分子量9kDa付近のタンパク質の存在が認められた。これに対し、図2に示すとおり、果肉においては分子量9kDa付近のタンパク質は認められなかった。
図3に示すように、実験例3によるタンパク質のN末端のアミノ酸配列を解析結果と、Pru p3のN末端のアミノ酸配列とは、10アミノ酸残基が一致したことから、モモの分子量9kDa付近のタンパク質はPru p3と同定された。
<実験例4:果皮からのタンパク質(アレルゲン)の抽出条件>
以上の実験からモモの果皮にアレルゲンが偏在していることが確認されたので、モモの果皮を使用してアレルゲンを効率的に抽出する条件を検討した。
(実験A):果皮を5g採取し、10mlのクエン酸−リン酸緩衝液をpH4.0、5.0、6.0、7.0に調整した溶液中で10分間撹拌し、タンパク質を前述の操作で抽出した。透析後、凍結乾燥によって濃縮した溶液中に含まれるタンパク質量をローリー法により標準物質に牛血清アルブミンを使用して測定した。結果を図4に示す。
(実験B):果皮を2g採取し、4mlのクエン酸−リン酸緩衝液をpH4.0、4.6、5.0、5.4、6.0に調整した溶液、及び蒸留水(D.W.)中で10分間、2500rpmの条件で撹拌し、その後果皮を濾過して除き、濾液のタンパク質濃度をローリー法により標準物質に牛血清アルブミンを使用して測定した。結果を図5に示す。
実験A及び実験Bから、pHは4.6〜6.0が好適であることが知見された。
<実験例5:果肉からのタンパク質(アレルゲン)の抽出条件>
果皮を除去したモモ果肉を細断せずに、1L容のビーカーに入れ、400mlのクエン酸−リン酸緩衝液pH5.0(最終濃度クエン酸4.9mM−リン酸水素二ナトリウム10.mM)を加え、室温で撹拌し、5、10、20、30、60分後に2mlずつ撹拌液を採取してローリー法によりタンパク質を定量した。同様の操作は40℃に加温して実施した。
結果を図6及び図7に示す。これらの結果から、室温での操作に比べ、加温した方がタンパク質の抽出効率が高いことが判った。また、40℃に加温した場合、撹拌20分〜60分の間で有意差は認められず、図7に示すように、撹拌時間の経過に伴って、タンパク質のほか糖分も抽出された。モモの食味を損なわせないためには、たとえば40℃で20分程度の処理が好ましいことが知見された。
<実験例6:果肉からのタンパク質(アレルゲン)の低減>
果皮を除去したモモ果肉を、400mlのクエン酸−リン酸緩衝液pH5.0(最終濃度クエン酸4.9mM−リン酸水素二ナトリウム10.mM)中に40℃に加温しながら浸漬した。20分後に果肉を取り出し、液体窒素で凍結させ、乳鉢と乳棒を用いて磨砕し粉末化した。
このうち、50gを採取し、前述の方法でタンパク質を抽出した。
電気泳動による確認は、前述の方法で実施した。
他方、マッキルベイン緩衝液pH5.0に浸漬せずに上記の同様な方法でタンパク質の抽出・精製を行った試料を対照とした(未処理)。
結果を図8に示す。対照の未処理の果肉にはアレルゲンタンパク質のバンドが認められるが、pH5.0の溶液中に浸漬し、洗浄することによってこのバンドは認められなくなり、モモアレルゲンの除去効果を確認した。
<実験例7:アレルゲン低減処理による果肉の色調の変化>
加熱処理処理した果肉をpH4から7に調整したクエン酸−リン酸緩衝液と、4%NaOH溶液、3%HCl溶液、蒸留水(D.W.)に浸漬した。浸漬を20分間行った後、果肉の色調を色差計(日本電色 1001DP)で測定した。
モモにはポリフェノールオキシダーゼという酵素が存在し、長時間放置すると、この酵素により、褐変が起きる。本実験では、浸漬溶媒のpHよる色調の変化を確認することを目的としたため、あらかじめ果肉を加熱処理し、酵素を失活させてから、各pHの溶媒に浸漬した。また、アルカリ剥皮を行う際に使用する4%NaOHおよび3%HClと対照系として蒸留水に浸漬した。結果を表1、図9〜図12に示した。
Figure 0004771479
色差計で測定されるL*値は明度を表し数値が高くなるほど明るいことを表す。a*値は赤−緑系の色を表し、数値が+側になるほど赤色、−側になるほど緑色であることを表す。b*値は黄−青系の色を表し、数値が+側になるほど黄色、−側になるほど青色であることを表す。
すべての試験区において未処理のモモと比較して明度(L*値)は低下することが明らかとなった。しかしながらpHを4から7の溶液に浸漬したモモは比較的明度の低下が少なかった(図9)。また、a*値に関してはpH5.0で変化が無かった。他は、4%NaOH処理以外は赤色が減少していた(図10)。b*値はpHが高くなるに従い、未処理のモモに比べ、若干黄色になることが明らかになった。特に4%NaOHに浸漬後は黄色への変色が顕著であった(図11)。
未処理のモモ果肉との色調の差(色差:ΔE*ab)はpH4が最も小さく、高いpHになるに従い差が大きくなることがわかった。特に4%NaOH処理は色調の変化が激しかった。通常果物加工業者で行われるアルカリ剥皮ではアルカリによって黄変した果肉が塩酸によって脱色され、白くなり、もとの果肉に近い色調に回復するものと推察された(図12)。
モモの色はポリフェノールに由来し、ポリフェノールはpHの変化により構造変化が起こり、色調が変化する。そのためモモのpHに近いpH4とpH5とでは色調の変化が少なかったと考えられる。以上の結果とタンパク質の抽出効率から判断すると、pH5の溶液が最もタンパク質の抽出効率が高く、モモ本来の色調を比較的保てることから、アレルゲン低減化処理にはpH5近傍のものが適していると結論できた(図13)。
果皮におけるタンパク質の電気泳動結果の写真である。 果肉におけるタンパク質の電気泳動結果の写真である。 アミノ酸配列の解析結果を示す説明図である。 pHとタンパク質抽出量との関係を示すグラフである。 pHとタンパク質抽出量との関係を示すグラフである。 処理時間と浸漬液中のタンパク質濃度の関係を示すグラフである。 処理時間とブリックス糖度の関係を示すグラフである。 果肉におけるタンパク質の低減効果を示す写真である。 アレルゲン低減処理による果肉の色調の変化についてグラフである。 アレルゲン低減処理による果肉の色調の変化についてグラフである。 アレルゲン低減処理による果肉の色調の変化についてグラフである。 アレルゲン低減処理による果肉の色調の変化についてグラフである。 アレルゲン低減処理による果肉の色調の変化についてグラフである。

Claims (2)

  1. モモを剥皮した後、pHが4.6〜6.0のクエン酸−リン酸緩衝液と接触処理することを特徴とするモモピューレ又はモモ果汁の製造方法。
  2. モモを剥皮した後、褐変防止ブランチング処理中または処理後において、pHが4.6〜6.0のクエン酸・リン酸緩衝液と接触処理することを特徴とするモモピューレ又はモモ果汁の製造方法。
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