以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1における光ピックアップの全体構成を示す概略図である。単一の対物レンズ107により、2種類の光記録媒体を異なるNA(開口数)で記録または再生を行う互換型の光ピックアップである。
ここで、2種類の光記録媒体は、基板厚がそれぞれ0.1mm,0.6mmであり、開口数がそれぞれNA0.85,NA0.65であり、使用波長がλ1=395〜415nmであり、それぞれの光記録媒体がBD系(Blu-ray Disc)、HD系(HD−DVD)の各光記録媒体に対応する。
また、BD系,HD系ともに公知の通り情報記録面を2層持つものがあり、本実施形態1はこれにも対応する。BD系の2層光記録媒体は光束が入射する側から、0.075mmと0.100mmの位置に情報記録面を持つ。また、HD系の2層光記録媒体は光束が入射する側から、0.600mmと0.640mmの位置に情報記録面を持つ。
なお、本実施形態1は2層光記録媒体に限定されるものでなく、情報記録面を3層以上持つものに用いてもよく、情報記録面を2層以上持つ光記録媒体を総じて多層光記録媒体と呼ぶこととする。
図1に示すように、BD系光記録媒体108a、HD系光記録媒体108bに対して、光ピックアップは、半導体レーザ101,コリメートレンズ102,グレーティング103,偏光分岐素子の偏光ビームスプリッタ104,ミラー105,回折光学素子106(1/4波長板機能面116a),集光光学素子の対物レンズ107,検出レンズ109,受光素子110より構成される。
回折光学素子106は、後述する通り、平面基板の片面に、不要光対策および収差補正の機能を有する回折構造、もう一方の面には1/4波長板の機能を有する回折構造を持つ。ここで、不要光とは、多層光記録媒体の記録/再生対象外の隣接する情報記録面からの反射光(隣接層による干渉光)を指す。
光源である半導体レーザ101の中心波長は405nmであり、対物レンズ107のNAは0.85である。HD系光記録媒体108bに対してNAは0.65で集光させる。NAの切替えは回折光学素子106により制限される。また、BD系光記録媒体108aの基板厚は0.1mm、HD系光記録媒体108bの基板厚は0.6mmである。
半導体レーザ101からの出射光は、コリメートレンズ102により略平行光にされる。コリメートレンズ102を通過した光束は、グレーティング103により3本の光束に分けられ、偏光ビームスプリッタ104に入射し、ミラー105より偏向される。回折光学素子106を通過する際、1/4波長板機能面116aにより円偏光に変換され、対物レンズ107を介して集光されることにより、情報の記録、再生がされる。そして、BD系光記録媒体108a,HD系光記録媒体108bからの反射光は、回折光学素子106を再び通過する際に1/4波長板機能面116aにより、往路の光束の偏光方向とは直交する直線偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ104により反射、入射光と分離して偏向され、検出レンズ109により受光素子110上に導かれ、再生信号,フォーカスエラー信号,トラックエラー信号が検出される。
本実施形態1において、対物レンズ107は厚さ0.1mmのBD系光記録媒体108aを高精度に記録,再生できるように最適に設計されている。設計波長は405nmであり、波長405nmでは波面収差0.01λrms以下と十分小さくなるよう設計されている。
これは対物レンズが、高NA化、短波長化に伴い製造誤差の影響を受けやすく、言い方をかえると製造マージンが狭いため、本実施形態1では対物レンズ107は2種類の光記録媒体のうちのBD系光記録媒体108aに対応した設計としている。なお、本実施形態1の対物レンズ107は、厚さ0.1mmのBD系光記録媒体108aに最適に設計されているが、これに限定されるものではない。
例えば、情報記録面を2層有する2層BD(Blu-ray Disc)の光記録媒体では、情報記録面として光束の入射側から0.075mmと0.100mmの位置に情報記録面を有するため、その中間値の厚さ0.0875mmを設計中央値とした対物レンズであってもよい。
図2に対物レンズの具体的な構成例を示す。本実施形態1の対物レンズ107は両面非球面形状であり、面の頂点を原点とし、光軸方向をX軸とした直交座標系において、rを近軸曲率半径、κを円錐形数、A,B,C,D,E,F,G,H,J,…を非球面係数とするとき、面の光軸方向の距離xと半径Rの関係より、非球面形状は、(数1)
で表される。各面および各領域の面データを(表1)に示す。
対物レンズに用いるガラスの硝材は住田光学製のKVC81であり、対物レンズの有効瞳半径は2.15mmである。なお、対物レンズの材料としては、ガラスに限らず、樹脂を用いてもよい。
使用波長がλ=405nm、基板厚が0.1mmのBD系光記録媒体108aに対して良好な収差特性となるよう設計されたNA=0.85で用いる対物レンズ108を、使用波長は同一のλ=405nmで基板厚さが0.6mmのHD系光記録媒体108bにNA=0.65で用いたときに発生する波面収差を図3に示す。図3は横軸に入射瞳径をとり、縦軸に波面収差を表す。図3は位相差分布の2次元的な断面形状を表しているが、実際には縦軸(NA=0)に関して回転対称な3次元的な分布となっている。このような発生収差を補正するために、回折機能を利用すればよい。
図4は、一般的な対物レンズの基板厚みと発散度の関係を示したグラフである。図4において、横軸は基板厚、縦軸は対物レンズに入射する光束の発散度の関数である使用状態における対物レンズの倍率である。対物レンズより基板側へ出射する光束は常に収斂光であるので、対物レンズに収斂光が入射するときの符号を「+」、発散光が入射するときの符号は「−」とする。また、この倍率が「0」のときは、対物レンズへは平行光が入射する。
図4の中の曲線は各基板厚に対し、波面収差を最小とする倍率を結んだものであり、例えば基板厚0.1mmで平行光入射が最良の場合、基板厚が厚くなるほど「−」すなわち発散光、薄くなるほど「+」すなわち収斂光を入射させてやると収差が小さくなるということが一般に知られる。よって、本実施形態1においては、対物レンズ107は基板厚0.1mmのBD系光記録媒体108aで最適化されたレンズであるため、基板厚0.6mmのHD系光記録媒体108bに集光するときは発散光を入射させることにより収差を抑制することが可能となる。このような発散光を作り出す手段として本発明では回折を利用する。
回折光学素子106は図5(a)に示すように1/4波長板機能面116aと、不要光対策および収差補正機能を有する回折面を各面に持つ。このうち、回折光学素子106の回折面は、図5(b)に示すように光束が通過する範囲内に、同心円状に分割された2つの領域106b,106cおよび後述する不要光対策のための領域106aを有する。なお、図5(b)では、領域106bの内径の内側に領域106aが形成されてなるが、領域106aが領域106bの一部分に領域106aが形成されてもよい。
図5(b)において、領域106bの外径はHD系光記録媒体に対するNA0.65の領域に相当し、本実施形態1では半径1.6mmと設定する。領域106bには、回折構造が形成されてなり、波長405nmの第1の光束が入射すると、その光量の大半は、0次透過光と+1次回折光に振り分けられる。
また、領域106cは、HD系光記録媒体に対するNA0.65からBD系光記録媒体に対するNA0.85の領域に相当し、本実施形態1では半径1.6mmから2.15mmに設定する。領域106cは回折構造が形成されない平坦な構造となっている。なお、領域106aは収差補正には用いられず、隣接層による干渉光対策用の構造が形成されてなる。
回折面の領域106bは、光軸垂直面内で光軸中心に同心円状のパターンからなる回折構造が形成されていて、+1次回折光と同時に0次透過光を生成する。つまり入射光の一部を0次透過光、一部を+1次以上の回折光として出射するため、対物レンズ107と組み合わせた2焦点レンズの構成となる。同じ波長で、異なる基板厚を有するBD,HD系光記録媒体上にそれぞれ回折限界まで集光するスポットを形成する。この回折領域により、回折された光束と回折されない光束は、光軸上の異なる焦点位置に集光され、それぞれの光記録媒体にスポットを形成する。
本実施形態1では対物レンズ107が基板厚0.1mmのBD系光記録媒体で最適設計されているため、基板厚0.6mmのHD系光記録媒体を収差補正領域なしで集光させた場合、無視できない球面収差が発生する。これに対して、回折光学素子106の領域106bで+1次光回折された波長405nmの第1の光束は、回折光学素子106を配置せずに対物レンズ107で波長405nmの第1の光束をHD系光記録媒体の情報記録面に集光させた際に発生する球面収差を補正するような回折構造が形成されてなる。
また、領域106cは回折構造が形成されない平坦部であり、波長405nmの第1の光束をそのまま透過させる。BD系光記録媒体に対しては対物レンズ107より集光され、HD系光記録媒体に対しては集光されず、図6(a),(b)に示すような散乱光となり集光には作用せず、記録再生に影響しない。すなわち、特別な構造やコートを行わずにHD系光記録媒体に対するNA0.65の開口制限を行う。図6(a)は光線図を示し図6(b)は集光点での様子を示す。
図7は図5のA−A’線の断面図であり回折領域(領域106b)の実形状を示す図である。なお、図7では説明の簡略化のために領域106aを除いた図を示している。この回折面と対物レンズ107の組合せにより、2焦点レンズを実現し、BD,HD系光記録媒体に良好な集光スポットを形成する。
回折光学素子106で回折面の領域106bの断面は図7に示されるような断面形状を持つ同心円状に形成された複数の輪帯状凹凸部からなる。輪帯状凹凸部のピッチは、回折構造がレンズ効果を有するように内側から外側に向かって徐々に変化している。そして、輪帯状凹凸部のピッチは、HD系光記録媒体に対しては、+1次回折光で収差を補正するよう設定される。
この回折面の光路差関数は(数2)
と定義される。ただし、光軸垂直面の光軸と交わる点を原点とし、光軸方向をX軸とした直交座標系において、φは光路差関数、Rは半径(光軸からの距離)、C
1,C
2,…は光路差係数である。
回折面の領域106bの光路差係数を(表2)に示す。
なお、回折面の溝断面形状により、回折効率をコントロールすることが可能である。例えば、図8(a)のような矩形状の断面形状であってもよい。図8(b)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。仮に、0次透過光(BD系光記録媒体への集光させるための光束)と1次回折光(HD系光記録媒体へ集光させるための光束)の各光量を同等とした場合、図8(b)より溝深さ0.27μmのところを選択すれば、各々0.28(すなわち28%)となる。
また、図8(c)のような階段状の断面形状であってもよい。図8(d)は、屈折率1.5の材料に3段の段数を持つ階段状の回折面に、波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。仮に、0次透過光(BD系光記録媒体への集光させるための光束)と1次回折光(HD系光記録媒体へ集光させるための光束)の各光量を同等とした場合、図8(d)より溝深さ0.30μmのところを選択すれば、各々35%となる。
また、図8(e)のような鋸歯形状の断面形状であってもよい。図8(f)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。仮に、0次透過光(BD系光記録媒体への集光させるための光束)と1次回折光(HD系光記録媒体へ集光させるための光束)の各光量を同等とした場合、図8(f)より溝深さ0.42μmのところを選択すれば、各々38%となる。
続いて、回折光学素子106の不要光対策領域である、図5(b)に示す領域106aについて説明する。なお、不要光の抑制はBD系光記録媒体,HD系光記録媒体いずれに対しても効果がある。
図1に示す半導体レーザ101からの出射光束は、グレーティング103により3本の光束に分けられ、光記録媒体108面上で集光,反射され、それぞれの光束に対応した3つ受光領域からなる受光素子110に達し、トラックエラー信号が検出される。さて、このときのトラックエラー信号の検出方法である特許文献2に記載される差動プッシュプル(DPP)法について説明する。
グレーティング103により生じた3本の光束は図9に示すように、光記録媒体108上で両サイドビームBsをメインビームBmに対し、半径方向にトラックピッチTpの半分だけずらして配置する。メインとサイドのそれぞれのスポットに対し、プッシュプル信号TE1,TE2,TE3を検出し、その差動TEDPPをとる方法である。
数式で示すと、メインビームBmのメインスポット(SPOT1)のプッシュプル信号は(数3)、両サイドビームBsのサイドスポット(SPOT2,SPOT3)のプッシュプル信号は(数4),(数5)で、その差動TEDPPは(数6)
この差動プッシュプル法によれば、メインビームBmのプッシュプル信号とサイドビームBsのプッシュプル信号は、共に対物レンズ107の光束の光軸に対する軸ずれや対物レンズ107と光記録媒体108の相対的なチルトによるオフセット量が等しいため、これらによるオフセット発生をキャンセルできることで知られている。
ところで、特許文献1に記載されているように、情報記録層を複数層有する多層光記録媒体に記録および/または再生するとき、受光素子に戻る光束は、対物レンズ107の焦点に位置した記録および/または再生対象の層だけでなく、隣接層による干渉光(不要光)も含まれるという課題がある。
対象層により反射された0次透過光と隣接層により反射された0次透過光とはその光量差が大きいために、DPP方式によるトラックエラー信号を検出するのに使われる差信号、すなわち、E1−F1信号に、隣接層による0次透過光が大きく影響を及ぼさない。
しかし、対象層により反射された±1次回折光と隣接層により反射された0次透過光とは相対的に光量差が大きくないために、DPP方式によるトラックエラー信号を検出するのに使われる信号、すなわち、(E2−F2)+(E3−F3)信号に、隣接層による0次透過光がかなり影響を及ぼし、トラックエラー信号に揺れが生じる。
これを抑制するためには、隣接層による0次透過光が対象層により反射された±1次回折光とオーバーラップした光束が、サイドビーム用の受光部に受光されることを防止することが重要である。
これに対し本実施形態では、回折光学素子106の中央領域に所定の回折構造を設けることにより、この隣接層による干渉光(不要光)を回避している。回折光学素子106の領域106aにより、少なくとも対象層により反射された±1次回折光とオーバーラップされる隣接層による0次透過光を回折させれば、サイドビームを受光する受光部に、隣接層による干渉光を受光されないように抑制できる。
なお、図7に示すように収差補正用の領域106bは一般に中心部から外周部に向かうほど回折構造が密になる一方、中心部は粗のため不要光対策用の領域106aを設けることが可能となる。
ここで、情報記録面を2層持つBD系光記録媒体を例に説明する。BDの2層光記録媒体は光束が入射する側から、0.075mm(L1層とする)と0.100mm(L2層とする)の位置に情報記録面を持つ。光入射面から近いL1層の再生時に受光素子110に受光される光L11に対し、L2層で反射された光L12はその焦点が光L11より前方に位置し、一方、L2層の再生時に受光素子110に受光される光L22に対し、L1層で反射された光L21はその焦点が光L22より後方に位置するとした場合、2層光記録媒体で反射されて回折光学素子106を経由して受光素子110に集光される光分布は、図10(a)および図10(b)に示された通りである。
図10(a)は、L1層の再生時に受光素子110に集光される光分布を示す。図10(b)は、L2層の再生時に受光素子110に集光される光分布を示す。図10(a)で、L11_0次透過光、L11_±1次回折光、L12_0次透過光は、それぞれL1層の再生時、L1層で反射された0次透過光、L1層で反射された±1次回折光、L2層で反射された0次透過光を表す。図10(a)で、L1Mは、回折光学素子106の領域106aにより回折された光束を表す。
図10(b)で、L22_0次透過光、L22_±1次回折光、L21_0次透過光は、それぞれL2層の再生時、L2層で反射された0次透過光、L2層で反射された±1次回折光、L1層で反射された0次透過光を表す。図10(b)で、L2Mは、回折光学素子106の領域106aにより回折された光束を表す。
図10(a)および図10(b)に図示されたように、本発明による光ピックアップを適用すれば、2つのサイドビームを受光する各受光部に、対象層により反射された±1次回折光とオーバーラップされて隣接層により反射された0次透過光が受光されることを防止できる。
したがって、DPP信号のための±1次回折光の受光領域での隣接層による干渉光が効果的に抑制されるので、隣接層による干渉光によるトラックエラー信号の揺れを大きく改善できる。
回折光学素子106は、受光素子110の受光部の構造と同一または類似した構造の図11に示された(a)〜(c)の複数の領域106aを具備し、隣接層による干渉光(不要光)を抑制するために領域106aを利用して干渉光を回折させる。特許文献1の記載と同様に、図11の(a)〜(c)は、回折光学素子106の領域106aの多様な実施例を示す。それ以外にも、回折光学素子106での領域106aは多様に変形できる。例えば、収差補正領域と同様に同心円状の領域をとってもよい。この場合、不要光は、リング状に回折される。
回折溝のピッチ:pは、この領域を通過する光束の回折角度:θ、波長:λとの間に(数7)
の関係を持つ。すなわち、回折溝のピッチpを十分に小さくすることにより回折角度θは大きくなり、信号光から干渉光と信号光のオーバーラップしている光束を大きく離すことが可能となる。
回折面の溝断面形状により、回折効率をコントロールすることが可能である。例えば、図12(b)のような矩形状の断面形状であってもよい。この場合、図12(a)に示すように+1次回折光と−1次回折光が均等の光量で発生する。すなわち、図10(a),(b)では片側のみに不要回折光が発生した図となっていたが断面が矩形状の回折溝を用いた場合、両側に不要回折光が発生する。
図12(c)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図12(c)より溝深さ0.4μmのところを選択すれば、±1次回折光が0.39(すなわち39%)となり、一方の0次透過光が5%以下と十分小さくでき、不要光を回折させる機能が十分に発現できることが可能となることがわかる。
また、図13(b)のような階段状の断面形状であってもよい。この場合、図13(a)に示すように+1次回折光のみ発生させることが可能である。図13(c)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図13(c)より溝深さ1.1μmのところを選択すれば、+1次回折光が56%となり、一方の0次透過光、−1次回折光が5%以下と十分小さくでき、不要光を回折させる機能が十分に発現できることが可能となることがわかる。
また、図14(b)のような鋸歯状の断面形状であってもよい。この場合、図14(a)に示すように+1次回折光のみ発生させることが可能である。図14(c)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図14(c)より溝深さ0.8μmのところを選択すれば、+1次回折光が88%となり、一方の0次透過光、−1次回折光が5%以下と十分小さくでき、不要光を回折させる機能が十分に発現できることが可能となることがわかる。
なお、素子作製上、収差補正領域と不要光対策領域の回折溝形状は同等とすることが望ましい。
また、図10(a),(b)では、対象層により反射された0次透過光の一部も隣接層により反射された0次透過光と共に回折される。これに対しては、特許文献1と同様に、情報再生時、再生信号の劣化を防止するために、補助受光素子で検出し、これを合算して情報再生信号を検出してもよい。
なお、本実施形態1については、隣接層による干渉光の抑制のみならず、収差補正領域により発生する不要光による影響も低減可能である。すなわち、本実施形態1の収差補正領域による0次透過光はBD系光記録媒体108aに集光し、1次回折光でHD系光記録媒体108bに集光するが、この際、使用しない回折光は不要光となり、受光素子110面上では、図10(a),(b)の不要光と同様のスポット像となる。しかしながら、本実施形態1では回折光学素子106の領域106aにより、前記の隣接層による不要光の抑制同様に低減可能である。
続いて、回折光学素子106の光記録媒体側の面に形成された1/4波長板の構成について説明する。回折光学素子106の1/4波長板機能面116aには、図15に示すような構造性複屈折を呈する(発現する)サブ波長構造が構成されている。ここで、構造性複屈折とは、光束の波長よりも短い凹凸周期構造に、溝に平行な偏光成分(TE波)と溝に垂直な偏光成分(TM波)とで感じる屈折率が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
ここで、以下の説明のため、図16を参照しながら用語について説明する。図16は形成された「断面矩形波状の微細凹凸構造」を模式的に示した説明図である。微細凹凸構造の凹凸は断面形状が「矩形波状」であり、このような矩形波状の凹凸が、図面に直交する方向へ均一な断面形状で形成されている。
したがって、微細凹凸構造における凸部は図面に直交する方向に長い「凸状」をなし、凹部は図面に直交する方向に長い「凹状」をなす。凸状をなす凸部を「ランド」と呼び、凹状をなす凹部を「スペース」と呼ぶ。断面矩形波状の微細凹凸構造のピッチ:Pは、図16に示すように、1対をなすランドとスペースにおいて、ランド幅:aとスペース幅:bの和(a+b)である。また、スペース底部に対するランドの高さを「溝深さ:d」、フィリングファクタは「f=a/P」とする。
微細凹凸構造がサブ波長構造であると、そのピッチPよりも大きい波長の光は回折せず「0次透過光」としてそのまま透過する(このときの透過率を「0次透過率」と呼ぶ。)が、入射光に対して複屈折性を示す。すなわち、図16に示すように、微細凹凸構造へ「空気領域から入射」する入射光において、微細凹凸構造の周期方向(図の左右方向)に平行に振動する偏光成分:TM、ランド長手方向(図面に直交する方向)に平行に振動する偏光成分TEに対し、微細凹凸構造は「屈折率が異なる媒質」のように作用する。
微細凹凸構造の部分における有効屈折率を、偏光成分:TMにつきn(TM)、偏光成分:TEについてn(TE)とすると、これらの有効屈折率は、微細凹凸構造が形成された材料の屈折率:n、微細凹凸構造のフィリングファクタ:fを用いて(数8),(数9)
このため、透過光における偏光成分:TMに対し、偏光成分:TEは位相が「δ」だけ遅れることになる。
すなわち、溝深さ:dを用いると、微細凹凸構造の「光学的厚さ」は、偏光成分:TMに対して「d×n(TM)」、偏光成分:TEに対して「d×n(TE)」であるので、これら光学的厚さの差:d{n(TE)−n(TM)}に応じて「位相遅れ:δ」が生ずる。この「位相遅れ:δ」が「リタデーション」である。
n(TE)、n(TM)は、材料の屈折率:nと、フィリングファクタ:fにより決定され、リタデーション:δは、屈折率:n、フィリングファクタ:f、溝深さ:dにより定まるから、結局、リタデーションは材料(nが定まる)と微細凹凸構造の形態(フィリングファクタ:fと溝深さ:dが定まる)を調整することにより所望のものを得ることができる。
なお、1/4波長板機能面116aのサブ波長構造の溝方向は入射光偏光方向に対して45度方向で設定されてなる。
図17は屈折率n(横軸)の媒質に、フィリングファクタ(FF)が0.5でサブ波長構造を形成したときの有効屈折率である。破線が「n//」(TE方向の有効屈折率)、実線が「n⊥」(TM方向の有効屈折率)を表している。なお波長は405nmである。「n//」が「n⊥」に比して大きい。例えば、基材屈折率2.0のときn(TE)=1.59,n(TM)=1.26であるため、溝深さ0.76μmとすれば1/4波長板となる。
なお、本実施形態1では1/4波長板機能面と、収差補正機能(領域106b、領域106c)、不要光対策(領域106a)が平板基板の両面を使って集約されてなるが、これに限定されるものでなく、各々の機能が別体の3つの素子でも同様の機能を果たすことが可能である。
次に、回折光学素子106の各面の構造を作製する方法について簡単に説明する。材料として光透過性で熱可塑性の樹脂を用いれば樹脂成形金型に形成された微細形状を転写すればよい。すなわち、蒸着のような長時間を要するプロセスを用いないため大量生産が可能である。図18(a)〜(e)に金型作製工程の断面図を示す。すなわち、金型は電子銃による電子線を金型基板上のレジストの一部領域に照射する電子線露光技術によりパターニングし、現像した後(図18(a),(b))、反応性イオンエッチングなどにより金型基板を掘り込み(図18(c),(d))、その後に転写工程で金型を容易に引き離せるように剥離材料を塗布する工程からなる(図18(e))。
また、図19(a)〜(c)に樹脂に回折構造を転写する工程断面図を示す。基板45の上に、樹脂46を配置し(図19(a))、樹脂46に金型40を押し当て、金型40の表面を樹脂46のTg温度(融点)より僅かに高い温度に加熱し、樹脂46に金型40を押し当てる(図19(b))。樹脂46が金型40にならって変形した後、徐々に樹脂を除冷し形状を転写して、樹脂46と金型40を剥離する(図19(c))。
以上のように作製される回折光学素子のサブ波長構造は、1種類の材質へのダイレクト加工でよく、材質の制約もない。そのため、高パワーや短波長の光を用いる場合は、ガラスを用いればよく、選択できる材質の範囲は多数存在する。さらに、複屈折性結晶を必要とせず、ガラスや樹脂などの容易に、しかも安価に入手できる材料で作製でき、フォトリソグラフィの手法やナノインプリントの手法で簡単に多数個同時に製作することができる。
(実施例2)
前述した本実施形態1の光ピックアップとは構成の異なる実施例2の光ピックアップについて説明する。本実施例2の光ピックアップでは、不要光対策を行う領域106aとして、光記録媒体108で反射された復路光のみを回折させるように、入射光の偏光によって選択的に回折させる偏光回折構造とした。すなわち、光源である半導体レーザ101から出射されて対物レンズ107側に進む往路光はそのまま透過させ、光記録媒体108で反射されて1/4波長板機能面116aを経由して往路光と直交する偏光方向に変わった光束のみ回折させるものである。
このように、半導体レーザ101から対物レンズ107側に進む光束については回折作用をしないように、回折光学素子106の領域106aに偏光回折構造を形成する理由は、光記録媒体108に向かう光束の一部が回折光学素子106での回折により遺失されて集光スポットの強度が弱くなり、それにより、記録光量の低下および/または再生信号の劣化を防止し、往路効率を確保するためである。
このような機能を発現させるために、本実施例2では、回折光学素子106の不要光を回折する領域106aは、図20に示すように、基板上光軸垂直面内に、光束の波長よりも大きいピッチを有する表面凹凸型の直線状の回折構造を有し、この回折構造の凸部は、光束の波長よりも小さいピッチを有する表面凹凸型の周期状のサブ波長構造が重畳され、光源側から回折光学素子106に入射する光束の偏光方向は、サブ波長構造の溝方向と略直交する構成とした。この構成により、往路では0次透過光が主たる光束となり、復路では1次回折光が主として発生する。
サブ波長構造が重畳された回折構造では、後述する通り、その入射光偏光方向によって回折効率が異なる。本実施例2では、領域106aの回折構造と光記録媒体の間に1/4波長板機能面116aを介在しているため、光源側から光記録媒体へ向かう回折光学素子106に入射する光束と、光記録媒体側から反射して回折光学素子106に入射する光束の偏光方向は直交してなる。
サブ波長構造が重畳された回折光学素子106ではサブ波長構造の溝方向に平行な偏光方向の光束が入射した場合は0次透過光と1次回折光が生じ、溝方向と直交する偏光方向の光束が入射した場合は0次透過光が主たる光束となる。
以下、図20に示すサブ波長構造に関して説明する。図21には、屈折率2.0の材料にフィリングファクタ0.5、ピッチ0.4μmのサブ波長構造を重畳形成された回折光学素子106に、波長405nmの光束が入射したときの、0次透過率および1次回折効率の溝深さ依存性を示す図である。
溝深さ0.715μmのところでは、TE方向の回折効率は0次透過光が5%以下、1次回折光は40%、一方、TM方向の回折効率は0次透過光が90%、1次回折光は5%以下である。
このような特性を利用すれば、復路では0次透過光と1次回折光が生じ、往路では0次透過光を主たる光束とすることが可能である。すなわち、往路ではTM方向とサブ波長構造の溝方向を一致させればよい。復路では、1/4波長板機能面により往路と直交する偏光方向の光(TE方向の光)が回折光学素子106に入射する。
図22はサブ波長構造のピッチと透過率の関係を示す図である。図22はTM方向の透過率に相当する。なお図22の計算条件としては、フィリングファクタ0.5、溝深さ0.715μm、波長405nmである。ピッチ0.25μm以上では透過率が減少している。これは回折光の発生によるものである。0.25μm(波長よりも1/2以下)であれば、0次透過光のみのサブ波長機能が発現することがわかる。よって、本発明のサブ波長構造としては、波長の1/2以下のピッチが望ましい。
(実施例3)
また、本実施形態1の光ピックアップとは構成の異なる実施例3の光ピックアップについて説明する。本実施例3の光ピックアップでは、1/4波長板機能面として図23のように、実施形態1で説明したサブ波長構造の構造面上に、多層膜を形成したものであってもよい。特に、特許文献3で開示されているように高屈折率材料(例えば、Si)と低屈折率材料(例えば、SiO2)をある所定条件で積層することにより、入射する偏光方向に応じて位相差を付与できる。電子ビームリソグラフィおよびドライエッチング技術で加工された凹凸パターン上に、スパッタデポジションとスパッタエッチングを組み合わせたプロセスにより、作製できる。
(実施例4)
また、本実施形態1の光ピックアップとは構成の異なる実施例4の光ピックアップについて説明する。本実施例4の光ピックアップでは、収差補正を行うための領域106bとして、実施形態1で回折現象を利用したのに対し、位相シフタ方式を用いている。位相シフタ方式とは、後述する通り透過光に位相段差を付加し収差補正するものである。図24に示すように領域106bの範囲内に、光軸を中心に同心円状に光軸方向の高さが異なる矩形または階段状の段差が形成されている。なお、図24において、説明の簡略化のために不要光対策の領域106aは省略した。
波長405nmの光束をそのまま透過させ、HD系光記録媒体108bのBD系光記録媒体108aに対する基板厚の違いにより生じる球面収差を補正するように、位相差を付与する段差が形成されている。形成された段差のうち、405nmの波長に対して2πの整数倍となる位相差を付与する段差が形成されたリング状の領域の光束は、BD系光記録媒体108aに集光する。
図24においては、段差の高さDが2πのゼロ倍すなわち段差の形成されていない領域に相当する。NA0.65からNA0.85の領域106cは、段差が形成されない平坦部であり、BD系光記録媒体108aへの集光に寄与し、HD系光記録媒体108bに対しては集光されない構造となる。位相シフタが形成されている領域106bおよび領域106cは、HD系光記録媒体108bに集光時の発生収差を補正し、かつ開口(NA)を切り替える機能を有する。
ここで、図25を用いて収差を補正する原理について説明する。図25において横軸は対物レンズの瞳半径位置、縦軸は位相(λ)である。図25(a)の503はHD系光記録媒体108aに回折光学素子106なしで集光した場合に発生する収差の波面形状を示している。波面形状503の波面を補正するために、504で示す階段状の位相差を付与すると、波面形状505のように光軸中心よりも進んでいる波面や遅れている波面が光軸中心とほぼ同じ位相に補正される。
同様に図25(b)の506の階段状の位相差を付与すると、波面形状505のように補正される。形状506の位相差は、位相差504から波長に対して2πの整数倍の位相差をシフトさせたものであり、形状506は位相差504と同等の位相差を付与することができる。
また、本実施例4では、波長に対して(1+2×a)π,(1.5+2×b)πの位相差を付与するよう段差を形成しており、具体的にはa=0,b=0で図24において、段差の高さはそれぞれ(数10),(数11)
と設定している。ここでλは波長405nm,nは光学ガラスBK7の405nmの屈折率1.530である。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。前述の実施形態1および実施例2〜実施例4においては、BD系光記録媒体とHD系光記録媒体を互換する光ピックアップに適用した例を説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、使用波長の異なる複数の光記録媒体を互換する光ピックアップについても適用可能である。本実施形態2においては、BD系光記録媒体とDVD系光記録媒体を互換する光ピックアップに適用した事例について説明する。
図26は本実施形態2における光ピックアップの全体構成の概略図である。単一の対物レンズ107により、2種類の光記録媒体を異なるNA(開口数)、異なる使用波長:λで記録または再生を行う互換型の光ピックアップである。
ここで、2種類の光記録媒体は、基板厚がそれぞれ0.1mm,0.6mmであり、使用波長がλ1=405nm,λ2=660nmであり、開口数がそれぞれNA0.85,NA0.65であり、それぞれの光記録媒体がBD系(Blu-ray Disc)、DVD系(DVDディスク)の各光記録媒体に対応する。
また、BD系,DVD系ともに公知の通り情報記録面を2層持つものがあり、本実施形態2はこれにも対応する。BD系の2層光記録媒体は光束が入射する側から、0.075mmと0.100mmの位置に情報記録面を持つ。また、DVD系の2層光記録媒体は光束が入射する側から、0.600mmと0.640mmの位置に情報記録面を持つ。
なお、本実施形態は2層光記録媒体に限定されるものでなく、情報記録面を3層以上持つものに用いてもよく、情報記録面を2層以上持つ光記録媒体を総じて多層光記録媒体と呼ぶこととする。
図26に示すように、BD系光記録媒体108a、DVD系光記録媒体208に対して、光ピックアップは、半導体レーザ101,コリメートレンズ102,グレーティング103,半導体レーザ201,コリメートレンズ202,グレーティング203,ダイクロイックプリズム211,偏光分岐素子の偏光ビームスプリッタ204,ミラー205,回折光学素子206,対物レンズ107、検出レンズ209,受光素子210より構成される。
回折光学素子206は、後述する通り、平面基板の片面に、不要光対策および収差補正の機能を有する回折構造、もう一方の面には1/4波長板の機能を有する。ここで、不要光とは、多層光記録媒体の記録/再生対象外の隣接する情報記録面からの反射光を指す。光源である半導体レーザ101の中心波長は405nmであり、もう1つの半導体レーザ201の中心波長は660nmである。対物レンズ107のNAは0.85である。DVD系光記録媒体208に対してNAは0.65で集光させる。NAの切替えは回折光学素子206により制限される。BD系光記録媒体108aの基板厚は0.1mm、DVD系光記録媒体208の基板厚は0.6mmである。
まず、BD系光記録媒体108aの記録/再生時の光路の流れについて説明する。半導体レーザ101の出射光は、コリメートレンズ102により略平行光にされる。コリメートレンズ102を通過した光は、グレーティング103により3本の光束に分けられ、ダイクロイックプリズム211,偏光ビームスプリッタ204に入射し、ミラー205より偏向される。回折光学素子206を通過する際、1/4波長板機能面216aにより円偏光に変換され、対物レンズ107を介して集光されることにより、情報の記録,再生がされる。
BD系光記録媒体108aからの反射光は、回折光学素子206を再び通過する際に1/4波長板機能面216aにより、往路の光束の偏光方向とは直交する直線偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ204により反射、入射光と分離して偏向され、検出レンズ209により受光素子210上に導かれ、再生信号,フォーカスエラー信号,トラックエラー信号が検出される。
次に、DVD系光記録媒体208の記録/再生時の光路の流れについて説明する。半導体レーザ201の出射光は、コリメートレンズ202により略平行光にされる。コリメートレンズ202を通過した光束は、グレーティング203により3本の光束に分けられ、ダイクロイックプリズム211により90度偏向され、偏光ビームスプリッタ204に入射し、ミラー205より偏向される。回折光学素子206を通過する際、1/4波長板機能面216aにより円偏光に変換され、対物レンズ107を介して集光されることにより、情報の記録,再生がされる。
DVD系光記録媒体208からの反射光は、回折光学素子206を再び通過する際に1/4波長板機能面216aにより、往路の光束の偏光方向とは直交する直線偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ204により反射、入射光と分離して偏向され、検出レンズ209により受光素子210上に導かれ、再生信号,フォーカスエラー信号,トラックエラー信号が検出される。
本実施形態2においても、対物レンズ107は厚さ0.1mmのBD系光記録媒体108aを高精度に記録,再生できるように最適に設計されている。設計波長は405nmであり、波長405nmでは波面収差0.01λrms以下と十分小さくなるよう設計されている。
これは対物レンズ107が、高NA化,短波長化に伴い製造誤差の影響を受けやすく、言い方をかえると製造マージンが狭いため、本実施形態2では対物レンズ107は2種類の光記録媒体のうちのBD系光記録媒体108aに対応した設計としている。なお、本実施形態2の対物レンズ107は、厚さ0.1mmの光記録媒体108aに最適に設計されているが、これに限定されるものではない。
例えば、情報記録面を2層有する2層BD系光記録媒体では、情報記録面を光束の入射側か0.075mmと0.100mmの位置に情報記録面を有するため、その中間値の厚さ0.0875mmを設計中央値とした対物レンズであってもよい。また、対物レンズ107の具体的な構成は前述の実施形態1と同様であるため、その説明は省略する。
使用波長がλ=405nm、基板厚が0.1mmのBD系光記録媒体108aに対して良好な収差特性となるよう設計されたNA=0.85対物レンズを、使用波長:λ=660nmで厚さが0.6mmのDVD系光記録媒体208にNA=0.65で用いたときに発生する波面収差を図27に示す。図27は横軸に入射瞳径をとり、縦軸に波面収差を表す。図27は位相差分布の2次元的な断面形状を表しているが、実際には縦軸(NA=0)に関して回転対称な3次元的な分布となっている。このような発生収差を補正するために、回折機能を利用すればよい。
また、一般的な対物レンズの基板厚みと発散度の関係は、前述した実施形態1の図4のグラフに示したように、各基板厚に対し、波面収差を最小とする倍率を結んだものであり、例えば基板厚0.1mmで平行光入射が最良の場合、基板厚が厚くなるほどマイナス、すなわち発散光、薄くなるほどプラスすなわち収斂光を入射させてやると収差が小さくなるということが一般に知られる。よって、本実施形態2においては、対物レンズは基板厚0.1mmのBD系光記録媒体108aで最適化されたレンズであるため、基板厚0.6mmのDVD系光記録媒体208に集光するときは発散光を入射させることにより収差を抑制することが可能となる。このような発散光を作り出す手段として本発明では回折を利用する。
回折光学素子206は図28(a)に示すように1/4波長板機能面216aと、不要光対策および収差補正機能を有する回折面を各面に持つ。このうち、回折光学素子206の回折面は、図28(b)に示すように光束が通過する範囲内に、同心円状に分割された2つの領域206b,206cおよび後述する不要光対策のための領域206aを有する。なお、図28(b)では、領域206bの内径の内側に領域206aが形成されてなるが、領域206aが領域206bの一部分に領域206aが形成されてもよい。
図28(b)において、領域206bの外径はDVD系光記録媒体208に対する開口数0.65の領域に相当し、本実施形態2では半径1.6mmと設定する。領域206bには、回折構造が形成されてなり、波長405nmの光束が入射すると、その光量の大半は、0次透過光に、波長660nmの光束が入射すると、その光量の大半は、1次回折光に振り分けられる。
また、領域206cは、DVD系光記録媒体208に対するNA0.65からBD系光記録媒体に対する開口数0.85の領域に相当し、本実施形態2では半径1.6mmから2.15mmに設定する。領域206cは回折構造が形成されない平坦な構造となっている。
なお、領域206aは収差補正には用いられず、隣接層による干渉光対策用の構造が形成されてなる。
本実施形態2では対物レンズ107が基板厚0.1mmのBD系光記録媒体で最適設計されているため、基板厚0.6mmのDVD系光記録媒体208を収差補正領域なしで集光させた場合、無視できない球面収差が発生する。これに対して、回折光学素子206の領域206bで+1次光回折された波長660nmの光束は、回折光学素子206を配置せずに対物レンズ107でDVD系光記録媒体208に集光させた際に発生する球面収差を補正するような回折構造が形成されてなる。一方、波長405nmの光束は領域206bを通過する際には、0次光透過、すなわち回折構造を不感帯透過する。
また、領域206cは回折構造が形成されない平坦部であり、波長405nm、波長660nmの光束をそのまま透過させる。BD系光記録媒体に対しては対物レンズ107より集光され、DVD系光記録媒体208に対しては集光されず、図29(a),(b)に示すような散乱光となり集光には作用せず、記録再生に影響しない。すなわち、特別な構造やコートを行わずにDVD系光記録媒体208に対するNA0.65の制限を行う。図29(a)は光線図を示し図29(b)は集光点での様子を示す。
図28のA−A’線断面図、すなわち回折領域(領域206b)の実形状を図30に示す。なお、図30では説明の簡略化のために領域206aを除いた図を示している。この回折面と対物レンズ107の組合せにより、BD系光記録媒体108a,DVD系光記録媒体208に良好な集光スポットを形成する。
回折光学素子206の回折面の領域206bの断面は図30に示されるような断面形状を持つ同心円状に形成された複数の輪帯状凹凸部からなる。輪帯状凹凸部のピッチは、この回折構造がレンズ効果を有するように内側から外側に向かって徐々に変化している。そして、輪帯状凹凸部のピッチは、DVD系光記録媒体208に対しては、+1次回折光で収差を補正するよう設定される。
また、この回折面の光路差関数は、前述の実施形態1の(数2)でした説明と同様に(数12)
と定義され、この回折面の領域206bの光路差係数を(表3)に示す。
本実施形態2の収差補正領域は、波長405nmの光束に対しては0次光透過し、波長660nmの光に対しては1次光透過してなる。これに対し、回折部の溝断面形状により、回折効率をコントロールすることが可能である。例えば、図31(a)のような矩形状の断面形状であってもよい。図31(b)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率、図31(c)は波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図31(b),(c)より溝深さ3.25μmのところを選択すれば、波長660nmの光束については、1次回折光は0.38(38%)、波長405nmの光束の1次回折光は5%以下とすることができる。
また、図31(d)のような階段状の断面形状であってもよい。図31(e)は、屈折率1.5の材料に3段の段数を持つ階段状の回折面に、波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示し、図31(f)は、波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図31(e),(f)より溝深さ1.64μmのところを選択すれば、波長660nmの光については、+1次光は0.46(46%)、波長405nmの光の1次光は5%以下とすることができる。
回折光学素子206の1/4波長板機能面216aについては、実施形態1と同様にサブ波長構造、あるいはその上に多層膜を形成した構造を用いればよい。特に、本実施形態2では405nm,660nmの2波長について1/4波長板機能を満足するように、サブ波長構造のピッチ,フィリングファクタ,材料を選んでやればよい。波長405nmの光束に対しては3/4波長板(すなわち−1/4波長板)として機能し、波長660nmの光束に対しては1/4波長板として機能するような構成であってもよい。
続いて、回折光学素子206の不要光対策の領域、図28(b)に示す領域206aについて説明する。本実施形態2では、特に情報記録面を2層有するBD系光記録媒体の適用時に発生する不要光を抑制し、DVD系光記録媒体の適用時は0次光透過、すなわち波長660nmの光束については領域206aが不感帯となる構成について説明する。
図26に示す半導体レーザ101からの出射光束は、グレーティング103により3本の光束に分けられ、光記録媒体108面上で集光,反射され、それぞれの光束に対応した3つ受光領域からなる受光素子210に達し、トラックエラー信号が検出される。さて、このときのトラックエラー信号の検出方法である特許文献2に記載された差動プッシュプル(DPP)法について説明する。
グレーティング103により生じた3本の光束は前述の実施形態1の図9に示すように、光記録媒体108上で両サイドビームBsをメインビームBmに対し、半径方向にトラックピッチTpの半分だけずらして配置する。メインビームBmとサイドビームBsのそれぞれのスポットに対し、プッシュプル信号TE1,TE2,TE3を検出し、その差動TEDPPをとる方法である。
数式で示すと前述した(数3)〜(数6)で説明したように、メインビームBmのメインスポット(SPOT1)のプッシュプル信号は(数13)、両サイドビームBsのサイドスポット(SPOT2,SPOT3)のプッシュプル信号は(数14),(数15)で、その差動TEDPPは(数16)
この差動プッシュプル法によれば、メインビームBmのプッシュプル信号とサイドビームBsのプッシュプル信号は、共に対物レンズ107の光束の光軸に対する軸ずれや対物レンズ107と光記録媒体108の相対的なチルトによるオフセット量が等しいため、これらによるオフセット発生をキャンセルできることで知られている。
そして、前述したように特許文献1の記載から、情報記録層を複数層有する多層光記録媒体に記録および/または再生するとき、受光素子に戻る光束は、対物レンズの焦点に位置した記録および/または再生対象層だけでなく、隣接層による干渉光も含まれるという課題がある。
対象層により反射された0次透過光と隣接層により反射された0次透過光とはその光量差が大きいために、DPP方式によるトラックエラー信号の検出に使われる差信号(E1−F1信号)に、隣接層による0次透過光が大きく影響を及ぼさない。しかし、対象層により反射された±1次回折光と隣接層により反射された0次透過光とは相対的に光量差が大きくないために、DPP方式によるトラックエラー信号の検出に使われる信号、すなわち、(E2−F2)+(E3−F3)信号に、隣接層による0次光がかなり影響を及ぼし、トラックエラー信号に揺れが生じることになる。これを抑制するためには、隣接層による0次透過光と対象層により反射された±1次回折光とがオーバーラップした光束が、サイドビーム用の受光部に受光されることを防止することが重要である。
これに対して本実施形態2では、回折光学素子206の中央領域に所定の回折構造を設けることにより、この隣接層による干渉光(不要光)を回避している。回折光学素子206の領域206aにより、少なくとも対象層により反射された±1次回折光とオーバーラップされる隣接層による0次透過光を回折させれば、サイドビーム用の受光部に受光されないように隣接層による干渉光を抑制できる。
なお、図30に示すように収差補正用の領域206bは一般に中心部から外周部に向かうほど回折構造が密になる一方、中心部は粗で干渉光対策用の領域206aを設けることが可能となる。
ここで、情報記録面を2層持つBD系光記録媒体を例に説明する。BDの2層光記録媒体は光束が入射する側から、0.075mm(L1層とする)と0.100mm(L2層とする)の位置に情報記録面を持つ。光入射面から近いL1層の再生時に受光素子210に受光される光L11に対し、L2層で反射された光L12はその焦点が光L11より前方に位置し、一方、L2層の再生時に受光素子210に受光される光L22に対し、L1層で反射された光L21はその焦点が光L22より後方に位置するとした場合、2層光記録媒体で反射されて回折光学素子206を経由して受光素子210に集光される光分布は、前述の実施形態1と同様で図10(a)および図10(b)に示された通りである。
また、図10(a)は、L1層の再生時に受光素子210に集光される光分布を示し、L11_0次透過光、L11_±1次回折光、L12_0次透過光は、L1層で反射された0次透過光、L1層で反射された±1次回折光、L2層で反射された0次透過光であり、L1Mは、回折光学素子206の領域206aにより回折された光束を表す。
また、図10(b)は、L2層の再生時に受光素子210に集光される光分布を示し、L22_0次透過光、L22_±1次回折光、L21_0次透過光は、L2層で反射された0次透過光、L2層で反射された±1次回折光、L1層で反射された0次透過光であり、L2Mは、回折光学素子206の領域206aにより回折された光束を表す。
図10(a)および図10(b)に図示されたように、2つのサイドビームを受光する各受光部に、対象層により反射された±1次回折光とオーバーラップされて隣接層により反射された0次透過光が受光されることを防止でき、DPP信号のための±1次回折光の受光領域での隣接層による干渉光が効果的に抑制されるので、隣接層による干渉光によるトラックエラー信号の揺れを大きく改善できる。
また、回折光学素子206は、受光素子210の受光部の構造と同一または類似した構造で、例えば前述した回折光学素子106で図11に示された(a)〜(c)の複数の領域106aを具備して、隣接層による干渉光(不要光)を抑制するために領域106aを利用して干渉光を回折させることができる。そして、回折光学素子206の領域206aにおいても同様に線形なパターンを有し不要光除去を可能としている。なお、パターンは線形に限定されず同心円状のパターンであってもよい。
前述した(数7)で説明したように、(数17)
で表され、回折溝のピッチpは、この領域を通過する光束の回折角度θと波長λの関係を持ち、回折溝のピッチpを十分に小さくすることにより回折角度θは大きくなり、信号光から干渉光と信号光のオーバーラップしている光束を大きく離すことが可能となる。
また、本実施形態2の不要光対策の領域206aは、波長660nmの光束に対しては0次光透過し、波長405nmの光束に対しては1次光回折してなる。これに対し、回折面の溝断面形状により、回折効率をコントロールすることが可能である。例えば、図32(a)のような矩形状の断面形状であってもよい。図32(b)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率、図32(c)は波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図32(b),(c)より溝深さ1.25μmのところを選択すれば、波長405nmの光束については、1次回折光は0.38(38%)、波長660nmの光束の±1次回折光は5%以下とすることができる。
また、図32(d)のような階段状の断面形状であってもよい。図32(e)は、屈折率1.5の材料に3段の段数を持つ階段状の回折部に、波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示し、図32(f)は、波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図32(e),(f)より溝深さ2.7μmのところを選択すれば、波長405nmの光束については、+1次回折光は0.5(50%)、波長660nmの光束の1次回折光は5%以下とすることができる。
なお、素子作製上、収差補正領域と不要光対策領域の回折溝形状は同等することが望ましい。
(実施例6)
また、本実施形態2の光ピックアップとは構成の異なる実施例6の光ピックアップについて説明する。本実施例6の光ピックアップでは、情報記録面を2層有するDVD系光記録媒体の適用時に発生する不要光を抑制し、BD系光記録媒体の適用時は0次光透過、すなわち波長405nmの光束については、領域206aは不感帯となり、波長660nmの光束については回折する構成であってもよい。
本実施例6の不要光対策領域206aは、波長405nmの光束に対しては0次光透過し、波長660nmの光束に対しては1次光回折してなる。これに対して、回折面の溝断面形状により、回折効率をコントロールすることが可能である。例えば、図33(a)のような矩形状の断面形状であってもよい。図33(b)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率、図33(c)は波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図33(b),(c)より溝深さ3.25μmのところを選択すれば、波長660nmの光束については、1次回折光は0.38(38%)、波長405nmの光束の±1次回折光は5%以下とすることができる。
また、図33(d)のような階段状の断面形状であってもよい。図33(e)は、屈折率1.5の材料に3段の段数を持つ階段状の回折面に、波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示し、図33(f)は、波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図33(e),(f)より溝深さ1.64μmのところを選択すれば、波長660nmの光束については、+1次回折光は0.48(48%)、波長405nmの光束の1次回折光は5%以下とすることができる。
なお、本実施例6については、隣接層による不要光の抑制のみならず、収差補正領域により発生する不要光による影響も低減可能である。すなわち、本実施例6の収差補正領域は波長660nmの光束については、+1次回折光でDVD系光記録媒体208に集光するが、この際、使用しない回折光(0次透過光、−1次回折光)は不要光となり、受光素子面上では、図10(a)に示す不要光と同様のスポット像となる。しかしながら、本実施例6では回折光学素子206の領域206aにより、前記の隣接層による不要光の抑制同様に低減可能である。
(実施例7)
また、本実施形態2の光ピックアップとは構成の異なる実施例7の光ピックアップについて説明する。本実施例7の光ピックアップでは、情報記録面を2層有するDVD系光記録媒体、BD系光記録媒体いずれに対しても不要光を抑制する構成であってもよい。
本実施例7の不要光対策の領域206aは、波長405nm,波長660nmの光束それぞれに対して1次光回折してなる。これに対し、回折面の溝断面形状により、回折効率をコントロールすることが可能である。例えば、図34(a)のような矩形状の断面形状であってもよい。図34(b)は屈折率1.5の材料に波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率、図34(c)は波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図34(b),(c)より溝深さ2.03μmのところを選択すれば、波長405nmの光束については、1次回折光は0.40(40%)、波長660nmの光束の1次回折光は0.38(38%)とすることができる。
また、図34(d)のような階段状の断面形状であってもよい。図34(e)は、屈折率1.5の材料に3段の段数を持つ階段状の回折面に、波長405nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示し、図34(f)は、波長660nmの光束を入射させたときの0次透過率および±1次回折効率の溝深さ依存性を示した図である。図34(e),(f)より溝深さ4.35μmのところを選択すれば、波長405nmの光束については、1次回折光は0.51(51%)、波長660nmの光束の1次回折光は0.5(50%)とすることができる。
なお、本実施例7については、隣接層による不要光の抑制のみならず、収差補正領域により発生する不要光による影響も低減可能である。すなわち、本実施例7の収差補正領域は波長660nmの光束については、+1次回折光でDVD系光記録媒体208に集光するが、この際、使用しない回折光(0次透過光、−1次回折光)は不要光となり、受光素子面上では、図10(a)に示した不要光と同様のスポット像となる。しかしながら、本実施例7では回折光学素子206の領域206aにより、前記の隣接層による不要光の抑制同様に低減可能である。
なお、本実施形態2および実施例6,7では、1/4波長板機能面216aと、収差補正機能(領域206b,領域206c)、不要光対策(領域206a)が平板基板の両面を使って集約されてなるが、これに限定されるものでなく、各々の機能が別体の3つの素子でも同様の機能を果たすことが可能である。例えば、図26の光ピックアップにおいて、光学素子206の不要光対策領域のみを備えた平板基板を、偏光ビームスプリッタ204と検出レンズ209の光路間に配置した構成も有効である。
また、BD系,DVD系、CD系の3波長を互換する光ピックアップについても、前述した実施形態2および実施例6,7と同様にして互換することが可能である。すなわち、波長405nm,波長660nm,波長785nmの3波長について0次透過光と±1次回折光の配分をコントロールしてやればよい。このとき、本件発明者が先に出願した特願2006−121899に示されているような1つの面でDVD系,CD系の2種類の収差補正を行う構成が好適である。
以上に、不要光対策の領域として回折を用いた場合について、実施形態1では偏光依存性のない回折構造、実施例2では偏光依存性の回折構造、また実施形態2および実施例6,7では波長依存性の回折構造を例に説明してきたが、これに限定されるものではなく、回折の代わりに偏光子であってもよい。すなわち、P偏光方向の光束が入射した場合には透過、S偏光方向の光束が入射した場合には反射するような機能を用いてもよい。
また、回折光学素子の不要光対策の領域として、往路では透過、復路では反射するような偏光子の機能を形成させてもよい。このような機能は、例えば実施例3で説明したようなサブ波長構造上に、高屈折率材料(例えば、Si)と低屈折率材料(例えば、SiO2)をある所定条件で積層することで実現可能である(特許文献4参照)。
また、偏光子の領域を1/4波長板機能面(116aや216a)の一部分に設けてもよい。例えば実施例3で説明したようなサブ波長構造上に、高屈折率材料(例えば、Si)と低屈折率材料(例えば、SiO2)をある所定条件で積層して1/4波長板機能面を形成した場合、サブ波長構造は同一構造で積層条件を部分的に変えることにより偏光子の領域を形成することが可能である。
(実施形態3)
図35は本発明の実施形態3における光情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。実施形態1,2の光記録媒体に対して、情報信号の記録および再生を行う装置であり、前述した光ピックアップに相当する91を備えて構成されている。そして光記録媒体108を回転操作するスピンドルモータ98と、情報信号の記録,再生を行うに当たって使用される光ピックアップ91と、光ピックアップ91を光記録媒体108の内外周に移動操作するための送りモータ92と、所定の変調および復調処理を行う変復調回路94と、光ピックアップ91のサーボ制御などを行うサーボ制御回路93と、光情報処理装置の全体の制御を行うシステムコントローラ96とを備えている。
以下に、本実施形態3の光情報処理装置の動作について説明する。スピンドルモータ98は、サーボ制御回路93により駆動制御され、所定の回転数で回転駆動される。すなわち、記録,再生の対象となる光記録媒体108は、スピンドルモータ98の駆動軸上にチャッキングされ、サーボ制御回路93により駆動制御されるスピンドルモータ98によって、所定の回転数で回転操作される。
光ピックアップ91は、光記録媒体108に対する情報信号の記録および再生を行うとき、前述したように、回転駆動される光記録媒体108に対してレーザ光を照射し、その戻り光を検出する。この光ピックアップ91は、変復調回路94に接続されている。そして、情報信号の記録を行う際には、外部回路95から入力され変復調回路94によって所定の変調処理が施された信号が光ピックアップ91に供給される。光ピックアップ91は、変復調回路94から供給される信号に基づいて、光記録媒体108に対して、光強度変調が施されたレーザ光を照射する。また、情報信号の再生を行う際には、光ピックアップ91は、回転駆動される光記録媒体108に対して、一定の出力のレーザ光を照射し、その戻り光から再生信号が生成され、この再生信号が変復調回路94に供給される。
また、この光ピックアップ91は、サーボ制御回路93にも接続されている。そして、情報信号の記録再生時に、回転駆動される光記録媒体108によって反射されて戻ってきた戻り光から、前述したように、フォーカスサーボ信号およびトラッキングサーボ信号が生成され、それらのサーボ信号がサーボ制御回路93に供給される。
変復調回路94は、システムコントローラ96および外部回路95に接続されている。この変復調回路94は、情報信号を光記録媒体108に記録するときには、システムコントローラ96による制御のもとで、光記録媒体108に記録する信号を外部回路95から受け取り、この信号に対して所定の変調処理を施す。変復調回路94によって変調された信号は、光ピックアップ108に供給される。また、この変復調回路94は、情報信号を光記録媒体108から再生するときには、システムコントローラ96による制御のもとで、光記録媒体108から再生された再生信号を光ピックアップ91から受け取り、この再生信号に対して所定の復調処理を施す。そして、変復調回路94によって復調された信号は、変復調回路94から外部回路95へ出力される。
送りモータ92は、情報信号の記録および再生を行うとき、光ピックアップ91を光記録媒体108の径方向で所定の位置に移動させるためのものであり、サーボ制御回路93からの制御信号に基づいて駆動される。すなわち、この送りモータ92は、サーボ制御回路93に接続されており、サーボ制御回路93により制御される。
サーボ制御回路93は、システムコントローラ96による制御のもとで、光ピックアップ91が光記録媒体108に対向する所定の位置に移動されるように、送りモータ92を制御する。また、サーボ制御回路93は、スピンドルモータ98にも接続されており、システムコントローラ96による制御のもとで、スピンドルモータ98の動作を制御する。すなわち、サーボ制御回路93は、光記録媒体108に対する情報信号の記録および再生時に、光記録媒体108が所定の回転数で回転駆動されるように、スピンドルモータ98を制御する。
光情報処理装置に本発明の光ピックアップを具備していれば、異なる基板厚さを有する光記録媒体の記録面に、良好なスポットを形成するとともに、光記録媒体からの反射光の回折光を抑制し受光素子で受光する信号光を向上させ、安定した信号検出ができ、情報の記録、再生品質の精度を高めることができる。