JP4761635B2 - 窒素ガス発生方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒素ガス発生方法に関し、詳しくは、分子ふるい炭素を吸着剤として空気中の窒素を分離して高純度窒素ガスを発生させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
分子ふるい炭素を吸着剤とするPSA法(圧力変動吸着法)によって空気から窒素ガス(以下、窒素に富むガスも単に窒素と呼ぶことがある)を分離発生する方法が普及してきた。この分子ふるい炭素を使用するPSA法は、典型的には、適当な圧力に加圧した原料空気を吸着剤を充填した吸着筒に導入して筒内を所定の圧力にする加圧工程、酸素分を吸着剤に優先的に吸着させて吸着しにくい窒素ガスを採取する吸着工程、筒内に残留する窒素分を他の吸着筒に送り出す減圧均圧工程、吸着筒を大気に解放して圧力を下げることにより吸着剤に吸着していた酸素分を脱着させて吸着剤を再生する減圧再生工程、他の吸着筒内から窒素分を受け入れる加圧均圧工程の各工程を繰り返して行うことにより空気中の窒素を分離する。
【0003】
この方法は、1分前後の比較的短い運転サイクルで圧力を変化させることができるので、吸着剤単位重量当たりの空気処理量を大きくすることができる特徴がある。このため、従来から行われている深冷空気分離法に対し、装置構成を大幅に簡略化でき、設備コストの面でも優位にあるため、小/中規模の用途では広く採用されている。
【0004】
一方、従来のPSA法で発生させている窒素ガスの純度は、経済的には、酸素含有率が1000ppm程度であるとみなされ、それを満たすための様々な方法が開発されてきた。例えば、特開昭53−81493号公報に記載の方法では、原料ガス(空気)の送入を最終圧力まで連続的に行い、かつ、その量を0.04〜0.07Nm3/吸着剤1m3とし、吸着工程を60〜120秒、均圧工程時間を1〜3秒とすることにより、酸素含有率1000ppmの窒素ガスを発生することが開示されている。また、特開昭57−10313号公報では、均圧工程時間は4〜5秒が適当であることを開示している。
【0005】
しかし、近年では、窒素純度をより高く、例えば酸素含有率を100ppm程度にする技術も開発されるようになってきている。例えば特開平8−67506号公報に記載の方法では、均圧工程におけるガスの流れ経路を、均圧工程時間の経過に伴って変更することが開示されている。詳述すると、均圧工程の前半では、吸着工程が終了した筒の上部(製品取出し口)と、吸着工程を開始する筒の上部とを連結して窒素分を回収し、均圧工程の後半では、吸着筒の下部(原料ガス導入口)同士をも連結して窒素分を回収する方法が開示されている。このときの均圧工程の時間は、前半:後半が、1:1乃至1:1.3であり、ガス移送時間は2〜6秒としている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述の方法は、PSAプロセスが複雑になってしまうために調整が難しく、また、設備コスト等が高くなるという欠点を有している。本発明は、このような実状を鑑みてなされたものであり、単純なプロセスによって電力消費を低くし、かつ、装置コストを低くしながら、酸素含有率100ppm以下の窒素ガスを製造することができる窒素ガス発生方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の窒素ガス発生方法は、分子ふるい炭素を吸着剤とし、加圧、吸着、減圧均圧、減圧再生、加圧均圧の各工程を繰り返す圧力変動吸着法によって空気から酸素含有率が100ppm以下の窒素ガスを分離する方法において、前記加圧工程における圧力上昇速度を0.15〜1.6MPa/minとし、前記均圧工程の時間を7〜27秒とし、さらに、前記加圧均圧工程におけるガス回収率を70〜100%としたことを特徴としている。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の窒素ガス発生方法を適用したPSA装置の一形態例を示す系統図である。この窒素ガス発生装置は、吸着剤として分子ふるい炭素を充填した2つの吸着筒A,Bと、原料空気を加圧する空気圧縮機11と、原料空気中の水分を除去するエアドライヤ12と、原料空気を貯留する空気貯槽13と、製品窒素ガスを貯留する製品窒素貯槽14と、吸着筒A,B工程の切換えに伴って開閉する弁1a,1b,2a,2b,3a,3b,4,5,6と、ガス流量を所定流量に調節する流量調節弁7,8,9,10とにより形成されている。
【0009】
この窒素ガス発生装置は、図2に示す各工程を繰り返すことによって空気中の窒素を分離し、含有酸素濃度が100ppm以下の製品窒素ガスを発生する。なお、図2では、図1に示した各弁の中で開弁状態にある弁及び関連する経路のみを図示している。
【0010】
以下、吸着筒Aを中心にして各工程を説明する。まず、図2(A)は加圧工程であって、空気圧縮機11で所定の圧力、例えば0.65MPaに加圧され、エアドライヤ12で水分を除去された原料空気が、空気貯槽13に一旦蓄えられてから、流量調節弁7及び入口弁1aを通って吸着筒Aに供給される。このとき、吸着筒Aの出口弁2a、排気弁3a、パージ弁4,両均圧弁5,6は、それぞれ閉弁状態になっており、原料空気によって吸着筒Aが所定圧力に加圧される。一方の吸着筒Bは、排気弁3bから筒内ガスの放出が行われている。
【0011】
吸着筒Aの圧力が製品窒素貯槽14の圧力以上になると、出口弁2aが開いて図2(B)に示す吸着工程に切り替わり、入口弁1aから吸着筒A内に導入された原料空気の中の酸素を吸着剤(分子ふるい炭素)に吸着させ、吸着剤に吸着しにくい窒素が出口弁2aを介して製品窒素貯槽14に送り出される。また、この吸着工程の適当な時期にパージ弁4が開き、窒素の一部が流量調節弁8で所定流量に調節されて吸着筒Bに導入され、吸着筒Bのパージ操作が行われる。この吸着工程は、通常、吸着筒A内の吸着剤が酸素で飽和する直前まで行われる。また、前記加圧工程からこの吸着工程が終了するまでの合計時間を、一般的に半サイクル時間と呼んでいる。
【0012】
吸着工程が終了すると、吸着筒Aの入口弁1a及び出口弁2aが閉じて均圧弁5,6が開き、図2(C)に示す均圧工程が始まる。この均圧工程では、吸着筒A内のガスが、流量調節弁9,10で所定流量に調節されて吸着筒Bに導入される。これにより、吸着工程を終了した吸着筒A内の窒素に富むガスが再生工程が終了している吸着筒Bに回収される。このとき、吸着筒Aは減圧均圧工程となり、吸着筒Bは加圧均圧工程となる。
【0013】
均圧工程が終了すると、均圧弁5,6が閉じて排気弁3aが開き、図2(D)に示す減圧再生工程の第1段階が始まる。この減圧再生工程の第1段階では、吸着筒A内のガスが排気弁3aから大気に放出され、吸着筒A内が減圧される。吸着筒Bでは入口弁1bが開いて加圧工程が行われる。出口弁2bが開いて吸着筒Bが吸着工程に切り替わった後、パージ弁4が開いて図2(E)に示す減圧再生工程の第2段階に進む。この減圧再生工程の第2段階では、吸着筒Aの出口側から所定量の窒素ガスを筒内に導入し、吸着剤から脱着した酸素を窒素で筒内から追い出すことにより、吸着剤の分子ふるい炭素を再生する。このとき、必要に応じて吸着筒A内を真空ポンプで減圧排気することもできる。このような減圧再生工程の第1段階と第2段階との合計時間は、同じ半サイクル時間となる。
【0014】
減圧再生工程が終了すると、排気弁3a及びパージ弁4が閉じて均圧弁5,6が開き、図2(F)に示す吸着筒Aの加圧均圧工程が始まり、吸着工程後の減圧均圧工程となる吸着筒B内の窒素に富むガスが吸着筒Aに回収される。この均圧工程が終了すると、最初の加圧工程に戻り、各工程が繰り返して行われる。
【0015】
このようにして空気から窒素を分離して製品窒素ガスを発生させるにあたり、前記加圧工程における圧力上昇速度、すなわち、均圧工程後の圧力と吸着工程開始前の圧力との圧力差、つまり加圧工程における上昇圧力を、均圧工程終了から吸着工程開始までに要した時間、つまり加圧工程時間で割った値を、毎分0.15〜1.6MPa/min、好ましくは0.26〜1.25MPa/minになるように調整する。
【0016】
この圧力上昇速度が、0.15MPa/min未満であると、製品窒素ガスの圧力を維持するために吸着筒からの窒素ガスの取り出し量を絞らざるを得ず、窒素発生量、窒素収率共に低下してしまう。また、圧力上昇速度が1.6MPa/minを超えると、吸着筒への空気の流入速度が速くなるため、酸素濃度の上昇が早くなり、結果として窒素収率、窒素発生量共に極端に低下してしまうことになる。
【0017】
なお、一般的なPSA装置では、吸着工程における時間を横軸に、圧力を縦軸にとった圧力変化プロフィールは、多くの場合に上に凸の曲線となるが、本発明方法では、直線的かつ徐々に圧力が上昇するように設定することが望ましい。このとき、吸着筒への空気の流入速度は、加圧工程の当初は筒内圧力が低いために見かけの流速は速くなり、加圧工程の後半では筒内圧力が高くなるので見かけの流速は遅くなる。
【0018】
また、均圧工程の時間は、7〜27秒、好ましくは10〜20秒になるように調節する。酸素含有率が1000ppm程度の純度の窒素ガスを製品とする従来のPSA装置においては、均圧時間は1〜5秒が適当とされている。これは、均圧工程時間が5秒を超えると、製品窒素ガスを取り出す時間が相対的に短くなって窒素発生量が減少するからである。
【0019】
しかし、均圧時間が1〜5秒という短時間では、減圧側が急激に圧力低下することになるため、吸着剤に吸着している酸素の脱着が促進され、加圧側に回収されるガス中の酸素分が多くなるという欠点がある。特に、製品吐出端である筒上部(出口弁側)が酸素で汚染され、製品として高純度窒素ガスを発生させる場合には大きな影響を及ぼすことになる。すなわち、酸素含有率1000ppmの窒素ガスを製造する場合には問題ないレベルであるが、本発明が対象とする酸素含有率100ppm以下の高純度窒素ガスの製造においては、この汚染が極めて悪い影響を与える。
【0020】
このことから、本発明方法では、均圧時間を7〜27秒という比較的長い時間に設定することにより、加圧側の吸着筒、特に筒上部が酸素により汚染さえることを極力防止するようにしている。このように均圧工程時間を7〜27秒の比較的長時間にすると、吸着筒から製品窒素ガスが発生しない時間が長くなるが、これは、製品送出ラインに設ける製品窒素貯槽の容量を適切に設定することで解決できる。但し、均圧工程時間が27秒を超えると、製品窒素ガスを取り出せる時間が短くなり過ぎて製品発生量が大きく低下するため、均圧工程で回収するガス中の酸素濃度の影響を小さくする効果が相殺されてしまう。
【0021】
さらに、均圧工程における回収率を、70〜100%、好ましくは70〜97%、より好ましくは83〜93%に設定することにより、回収ガスによる酸素汚染をより確実に防止することができる。ここで、回収率(K%)は、吸着工程終了時の絶対圧力をPb、減圧再生工程終了時の絶対圧力をPv、減圧均圧工程終了時の絶対圧力をPeとしたときに、K=(Pe−Pv)÷{(Pb―Pv)÷2}×100で求められた値とする。
【0022】
減圧再生工程を大気圧までとする、いわゆる大気圧再生の場合で、Pbが0.75MPa、Pvが0.1MPa、Peが0.335MPaの場合は、回収率Kは、(0.335−0.1)÷{(0.75−0.1)÷2}×100=72%となる。
【0023】
減圧再生工程で真空ポンプを使用して吸着筒内を減圧する、いわゆる真空再生の場合で、Pbが0.75MPa、Peが0.27MPaの場合(Pvは0)、回収率Kは、(0.27−0)÷{(0.75−0)÷2}×100=72%となる。
【0024】
酸素含有量1000ppm程度の窒素ガスを製造する従来のPSAにおいては、均圧工程における回収率は、100%、あるいはできるだけ100%に近い値が良いとされている。回収率を100%にすると、酸素を数十ppm含むガスが回収されて製品吐出端が汚染されるが、酸素含有量が1000ppm程度の窒素ガスを発生させる場合は、この数十ppmの汚染は、製品窒素純度にほとんど影響を与えることがなく、窒素に富むガスをできるだけ多く回収することにより、窒素発生量の向上が期待されるからである。
【0025】
一方、本発明方法においては、前述のように均圧工程時間を長く設定して酸素による汚染を抑えているので、回収率を100%にしても窒素純度への悪影響はほとんど無いが、この回収率の最大値を97%以下、好ましくは93%以下に設定することにより、酸素による汚染を確実に防止することが可能となるので、より安定した状態で高純度窒素ガスを発生させることができる。なお、回収率を70%未満にすると、減圧均圧側の吸着筒内に窒素が多く残存し、次の減圧再生工程で大気に放出して捨てる窒素量が増大するため、窒素収率が低下してしまう。
【0026】
また、均圧工程は、上述のように、吸着筒上部同士間及び吸着筒下部同士間でそれぞれガスの移動を行う、いわゆる上下部同時均圧法だけに限らず、吸着筒上部同士間でのみガスを移動させる上部均圧法を採用することができる。
【0027】
前記半サイクル時間は、60〜240秒、好ましくは90〜180秒、さらに好ましくは120〜150秒が適当である。この半サイクル時間を60秒未満に短くすると、吸着剤単位重量当たりの窒素発生量は増大するが、時間当たりの再生工程の回数が増加するので、廃棄する窒素量が増大して窒素収率が低下する欠点がある。このような窒素収率の低下は、空気圧縮機の容量増加、すなわち、必要電力の増加をもたらすので好ましくない。
【0028】
一方、半サイクル時間が240秒を超える長さになると、窒素収率は増加するが、吸着剤単位重量当たりの窒素発生量が低下し、吸着剤必要量が多くなって装置の大型化を招く欠点がある。窒素収率の増加は、ある程度のところで頭打ちとなるので240秒以下が適切である。
【0029】
【実施例】
実施例1
図1に示したPSA装置を使用して図2に示すパターンで運転を行い、酸素含有量10ppmの高純度窒素ガスを発生させた。半サイクル時間は120秒、均圧工程時間は15秒、回収率は100%、吸着圧力は0.65MPa(製品窒素仕様圧力は0.6MPa)とした。
【0030】
そして、加圧工程における圧力上昇速度[MPa/min]を表1に示すように変化させ、各速度における窒素発生量[Nm3/h/t(MSC・1筒)]と窒素収率[%](製品窒素量÷原料空気中の窒素量×100)とを求めた。結果を表1に示す。
【0031】
なお、半サイクル120秒で圧力上昇速度が0.1MPa/minの場合は、吸着筒圧力の上昇が遅いため、製品窒素仕様圧力である0.6MPaを維持するためには、製品取り出し量を絞る必要があった。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例2
加圧工程における圧力上昇速度を0.26MPa/minに設定し、均圧工程時間を表2に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして窒素発生量と窒素収率とを求めた。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例3
図1に示したPSA装置を使用して図2に示すパターンで運転を行い、酸素含有量100ppmの高純度窒素ガスを発生させた。加圧工程における圧力上昇速度を0.26MPa/minに設定し、均圧工程時間を表3に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして窒素発生量と窒素収率とを求めた。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
実施例4
加圧工程における圧力上昇速度を0.26MPa/minに設定し、均圧工程における回収率を表4に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして酸素含有量10ppmの高純度窒素ガスを発生させた。実施例1と同様にして窒素発生量と窒素収率とを求めた。結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
実施例5
図1に示したPSA装置を使用して図2に示すパターンで運転を行い、酸素含有量100ppmの高純度窒素ガスを発生させた。加圧工程における圧力上昇速度を0.26MPa/minに設定し、均圧工程における回収率を表5に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして窒素発生量と窒素収率とを求めた。結果を表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
これらの各実施例の結果から、加圧工程における圧力上昇速度を0.15〜1.6MPa/minの範囲にすることによって、また、均圧工程の時間を7〜27秒の範囲にすることによって、窒素発生量及び窒素収率を低下させることなく、酸素含有量10ppm及び100ppmの高純度窒素ガスを発生できることがわかる。さらに、均圧工程における回収率を適度に低くすることにより、窒素発生量を増大できることがわかる。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の窒素ガス発生方法によれば、酸素含有量が100ppm以下の高純度窒素ガスを効率よく発生させることができ、消費電力や分子ふるい炭素の使用量も削減でき、装置価格の低減も図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の窒素ガス発生方法を適用したPSA装置の一形態例を示す系統図である。
【図2】 各工程におけるガスの流れを示す説明図である。
【符号の説明】
A,B…吸着筒、1a,1b…入口弁、2a,2b…出口弁、3a,3b…排気弁、4…パージ弁、5,6…均圧弁、7,8,9,10…流量調節弁、11…空気圧縮機、12…エアドライヤ、13…空気貯槽、14…製品窒素貯槽
Claims (2)
- 分子ふるい炭素を吸着剤とし、加圧、吸着、減圧均圧、減圧再生、加圧均圧の各工程を繰り返す圧力変動吸着法によって空気から酸素含有率が100ppm以下の窒素ガスを分離する方法において、前記加圧工程における圧力上昇速度を0.15〜1.6MPa/minとし、前記均圧工程の時間を7〜27秒とすることを特徴とする窒素ガス発生方法。
- 前記加圧均圧工程におけるガス回収率が、70〜100%であることを特徴とする請求項1記載の窒素ガス発生方法。
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