(第1実施形態)
以下、本発明によるスピーカアレイ装置及びマイクロホンアレイ装置の各実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係るスピーカアレイ装置をオートバイMCに適用したシステムの概略構成を示している。このシステムは、オートバイMCに乗車した運転者DVに対して適切な位置にて音圧レベルを高くしながら音を同運転者DVに聴取させるシステムである。
このシステムは、オートバイMCに搭載されたスピーカアレイ装置10、音伝播物質移動速度検出手段としての空気移動速度センサ21及び気温センサ22を備える。
スピーカアレイ装置10は、図2に示したように、筐体10aと、筐体10aの一つの面に整列された15個のスピーカ11a〜11oと、を備えている。スピーカアレイ装置10は、スピーカ11a〜11oを備える面(以下、「スピーカ配置面」と称呼する。)10bが運転者DVの頭部に向けられるように、オートバイMCのハンドル部に配設・固定されている。スピーカ配置面10bは短辺及び長辺から構成される略長方形状を有している。スピーカ配置面10bの短辺及び長辺は、スピーカアレイ装置10がハンドル部に固定された状態において、オートバイMCの前後方向を通る面及び左右方向を通る面とそれぞれ平行となっている。
スピーカ11a〜11oは、スピーカ配置面10bの短辺方向に3個並べられた1組の列をスピーカ配置面10bの長辺方向に5列有する格子状にスピーカ配置面10bに配列されている。スピーカ11a〜11oは、互いに同一のスピーカである。スピーカ11a〜11oのそれぞれは、それぞれの軸線がスピーカ配置面10bの法線と一致するように配置されている。スピーカ11a〜11oのそれぞれは、音信号が入力されると、入力された音信号が表す音を出力するようになっている。
更に、スピーカアレイ装置10は、図3に示したように、音発生装置12、目標位置決定手段としての目標位置決定装置13及び音信号処理装置14を備えている。
音発生装置12は、図示しない音楽再生装置、無線通信装置、携帯電話及びナビゲーションシステム等からなっていて、聴取者の右側から聞かせるための音を表す右スピーカ用音信号SR及び聴取者の左側から聞かせるための音を表す左スピーカ用音信号SLを出力するようになっている。
目標位置決定装置13は、後述する目標位置決定プログラムを実行することにより、空気移動速度センサ21及び気温センサ22による出力値に基づいて目標位置としての右スピーカ目標位置Rt及び左スピーカ目標位置Ltを決定するようになっている。
音信号処理装置14は、右スピーカ目標位置Rtと、各スピーカ11a〜11oの位置と、に基づいて、空気がスピーカ11a〜11oに対して静止しているとの仮定の下でスピーカ11a〜11oのそれぞれに対する右スピーカ用遅延時間を決定するようになっている。更に、音信号処理装置14は、左スピーカ目標位置Ltと、各スピーカ11a〜11oの位置と、に基づいて、上記仮定の下でスピーカ11a〜11oのそれぞれに対する左スピーカ用遅延時間を決定するようになっている。
音信号処理装置14は、スピーカ11a〜11oのそれぞれに対して決定された右スピーカ用遅延時間に基づいて右スピーカ用音信号SRを遅延処理するとともに、スピーカ11a〜11oのそれぞれに対して決定された左スピーカ用遅延時間に基づいて左スピーカ用音信号SLを遅延処理するようになっている。更に、音信号処理装置14は、遅延処理された右スピーカ用音信号及び遅延処理された左スピーカ用音信号を対応するスピーカ毎に合成し、合成された音信号をスピーカ11a〜11oのそれぞれに対して出力するようになっている。
空気移動速度センサ21は、図1に示したように、オートバイMCの前部のヘッドライトカバー部に配設されている。空気移動速度センサ21は、スピーカアレイ装置10に接続されている。空気移動速度センサ21は、空気が移動する速さ及び向き(空気移動速度)を検出するようになっている。
ここで、空気移動速度は、図2に示したように、X軸がスピーカ配置面10bの長辺方向に沿った軸であり、Y軸がスピーカ配置面10bの短辺方向に沿った軸であり、Z軸がスピーカ配置面10bの法線方向に沿った軸であり及び原点がスピーカ配置面10b内の中心(長辺方向の両端部からの中間の位置であって短辺方向の両端部からの中間の位置)である座標系であって、X軸の正方向(X軸方向の正の向き)をオートバイMCの前進方向に対して右向きとした座標系において定義されているものとする。以下、本実施形態における位置及び速度は、空気移動速度と同様に、この座標系において定義されているものとする。
空気移動速度センサ21は、検出された空気移動速度に基づいて空気移動速度のX軸方向成分Vwx、Y軸方向成分Vwy及びZ軸方向成分Vwzを出力するようになっている。なお、Vwxが正の場合、空気がX軸の正方向に移動していることを意味する。Vwy及びVwzについても同様である。
空気移動速度センサ21は、例えば、3軸方向の流速を測定する流速センサである(例えば、特開平10−160619を参照。)。また、空気移動速度センサ21は、1軸方向の流速を測定するカルマン渦流量計を3個備え、それぞれをX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の流速を計測するように配置したものであってもよい。
気温センサ22は、オートバイMCの前部のヘッドライトカバー部に配設されている。気温センサ22は、スピーカアレイ装置10に接続されている。気温センサ22は、大気の温度(気温)を検出し、検出された気温を出力するようになっている。
次に、上記のように構成されたスピーカアレイ装置10の作動原理について、オートバイMCが静止しており、且つ、風(自然風)が吹いていない場合から説明する。この場合、音を伝播する物質である空気は、スピーカ11a〜11oに対して静止している。
従って、スピーカアレイ装置10は、図4に示したように、運転者DVの頭部の右側前方に位置するように予め定められた右スピーカ所望位置R0及び運転者DVの頭部の左側前方に位置するように予め定められた左スピーカ所望位置L0を目標位置として採用し、同目標位置にて音圧レベルが高くなるように各スピーカ11a〜11oに対する遅延時間を決定する。
スピーカアレイ装置10は、各スピーカ11a〜11oに対して決定された遅延時間だけ出力されるタイミングを遅延させながら同スピーカ11a〜11oのそれぞれから音を出力させる。これにより、右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0にて音圧レベルが高くなる。
次に、オートバイMCが走行している場合又は風が吹いている場合について説明する。この場合、音を伝播する物質である空気はスピーカ11a〜11oに対して移動している。音は空気が圧力及び密度等の変化を伝播することにより伝播される。この空気の圧力及び密度等の空間的な分布は、空気の移動とともに移動する。従って、空気がスピーカ11a〜11oに対して静止している場合と同様にスピーカアレイ装置10が右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0を目標位置として採用すると、右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0と異なる位置にて実際に音圧レベルが高くなる。
この音圧レベルが高くなる位置が空気の移動によって移動する向き及び距離はそれぞれ、空気が移動する向き及び空気が移動する速さとスピーカ11a〜11oから出力された音が同スピーカ11a〜11oから同音圧レベルが高くなる位置まで伝播するために要する時間(音伝播時間)Tとの積により表される距離である。
例えば、図5に示したように、空気が速さVwxにてX軸の正方向にのみ移動している場合、音圧レベルが高くなる位置Phは目標位置PtからX軸の正方向に距離Vwx・Tだけ移動した位置となる。従って、目標位置をVwx・TだけX軸の負方向に移動させた位置Pt’とすれば、結果的に位置Ptにて音圧レベルを高くすることができる。
そこで、スピーカアレイ装置10は、このような考えに基づき、右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0からそれぞれ上記距離Vwx・TだけX軸方向の負の向きに移動させた位置を目標位置として採用する。これにより、空気がスピーカ11a〜11oに対して移動している場合であっても、音圧レベルが高くなる位置は右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0となる。
更に、空気移動速度がX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3成分(Vwx、Vwy及びVwz)を有する場合についても、スピーカアレイ装置10は、上記例と同様に目標位置を決定する。即ち、スピーカアレイ装置10は、右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0のそれぞれを、音圧レベルが高くなる位置が空気の移動によって移動する各軸方向における移動距離(Vwx・T、Vwy・T及びVwz・T)だけ各軸方向において空気の移動方向と逆向きに移動させた位置を目標位置として採用する。以上が、スピーカアレイ装置10の作動原理である。
以下、スピーカアレイ装置10の実際の作動について、オートバイMCを運転中の運転者DVが音楽を聴取したいと希望する場合を例として説明する。この場合、運転者DVはスピーカアレイ装置10の音発生装置12を操作して、所望の楽曲を再生させる。音発生装置12によりこの楽曲の再生が開始すると、スピーカアレイ装置10の目標位置決定装置13は、図6にフローチャートにより示した目標位置決定プログラムを実行する。
より具体的に述べると、目標位置決定装置13は、ステップ600から処理を開始してステップ610に進み、空気移動速度センサ21により出力された空気移動速度のX軸方向成分Vwx、Y軸方向成分Vwy及びZ軸方向成分Vwzを読み込む。
そして、目標位置決定装置13は、ステップ620に進み気温センサ22により出力された気温Tatmを読み込む。
次いで、目標位置決定装置13は、ステップ630に進み上記ステップ620にて読み込まれた気温Tatmと、同ステップ630内に示した式(Vs=(κ・R・Tatm)1/2)と、に基づいて音速Vsを算出する。ここで、κは空気の比熱比であり及びRは空気の気体定数である。
次に、目標位置決定装置13は、ステップ640に進み右スピーカ距離DRを上記ステップ630にて算出された音速Vsにより除することにより右スピーカ音伝播時間TRを算出する。ここで、右スピーカ距離DRは原点(スピーカアレイ装置10のスピーカ配置面10b内の中心)と、予め定められた右スピーカ所望位置R0(X軸方向成分R0x、Y軸方向成分R0y及びZ軸方向成分R0z)と、の間の距離である(図4を参照。)。即ち、右スピーカ音伝播時間TRは、各スピーカ11a〜11oの位置を代表する位置としての原点から出力された音が同原点から右スピーカ所望位置R0まで伝播するために要する時間を表している。
更に、目標位置決定装置13は、同ステップ640にて左スピーカ距離DLを上記ステップ630にて算出された音速Vsにより除することにより左スピーカ音伝播時間TLを算出する。ここで、左スピーカ距離DLは原点と、予め定められた左スピーカ所望位置L0(X軸方向成分L0x、Y軸方向成分L0y及びZ軸方向成分L0z)と、の間の距離である(図4を参照。)。即ち、左スピーカ音伝播時間TLは、各スピーカ11a〜11oの位置を代表する位置としての原点から出力された音が同原点から左スピーカ所望位置L0まで伝播するために要する時間を表している。
そして、目標位置決定装置13は、ステップ650に進み上記ステップ610にて読み込まれた空気移動速度(Vwx、Vwy及びVwz)と、右スピーカ所望位置(R0x、R0y及びR0z)と、上記ステップ640にて算出された右スピーカ音伝播時間TRと、同ステップ650内に示した下記(1)〜(3)式と、に基づいて右スピーカ目標位置(Rtx、Rty及びRtz)を決定する。
Rtx=R0x−TR・Vwx …(1)
Rty=R0y−TR・Vwy …(2)
Rtz=R0z−TR・Vwz …(3)
このように、右スピーカ所望位置の各成分から空気移動速度の対応する成分と右スピーカ音伝播時間とを乗じた値をそれぞれ減じた値を右スピーカ目標位置の対応する成分とすることにより、空気がスピーカ11a〜11oに対して移動することによる同スピーカ11a〜11oから出力された音により音圧レベルが高くなる位置の変化が予め補償される。
更に、目標位置決定装置13は、同ステップ650にて右スピーカ目標位置と同様に、下記(4)〜(6)式を用いて左スピーカ目標位置(Ltx、Lty及びLtz)を決定する。
Ltx=L0x−TL・Vwx …(4)
Lty=L0y−TL・Vwy …(5)
Ltz=L0z−TL・Vwz …(6)
そして、目標位置決定装置13は、ステップ699に進み本ルーチンを一旦終了する。
次いで、音信号処理装置14は、目標位置決定装置13により決定された右スピーカ目標位置(Rtx、Rty及びRtz)と、スピーカ11a〜11oのそれぞれの位置と、に基づいてスピーカ11a〜11oのそれぞれに対する右スピーカ用遅延時間を決定する。更に、音信号処理装置14は、目標位置決定装置13により決定された左スピーカ目標位置(Ltx、Lty及びLtz)と、スピーカ11a〜11oのそれぞれの位置と、に基づいてスピーカ11a〜11oのそれぞれに対する左スピーカ用遅延時間を決定する。
次いで、音信号処理装置14は、音発生装置12から入力された右スピーカ用音信号SRをスピーカ11a〜11oのそれぞれに対して決定された右スピーカ用遅延時間に基づいて遅延処理するとともに、同音発生装置12から入力された左スピーカ用音信号SLをスピーカ11a〜11oのそれぞれに対して決定された左スピーカ用遅延時間に基づいて遅延処理する。更に、音信号処理装置14は、遅延処理された右スピーカ用音信号及び遅延処理された左スピーカ用音信号を対応するスピーカ毎に合成し、合成された音信号をスピーカ11a〜11oのそれぞれに対して出力する。
これにより、各スピーカ11a〜11oから互いに異なる時間遅れを伴って、音発生装置12により再生された音が出力される。その結果、右スピーカ用音信号SRに基づいて各スピーカ11a〜11oから出力された音の音圧レベルが右スピーカ所望位置R0にて高くなるとともに、左スピーカ用音信号SLに基づいて各スピーカ11a〜11oから出力された音の音圧レベルが左スピーカ所望位置L0にて高くなる。
このように、音を伝播する空気の移動による音圧レベルが高くなる位置の変化が予め補償されるので、右スピーカ目標位置Rt及び左スピーカ目標位置Ltにおける音圧レベルを他の位置における音圧レベルより高くするようにスピーカ11a〜11oから出力された音により、実際に音圧レベルを高めたい右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0にて音圧レベルを高くすることができる。
以上説明したように、本発明によるスピーカアレイ装置10に係る第1実施形態は、複数のスピーカ11a〜11oから出力される音を伝播する物質(空気)が同複数のスピーカ11a〜11oに対して静止しているとの仮定の下で、目標位置(右スピーカ目標位置Rt及び左スピーカ目標位置Lt)にて音圧レベルが高くなるように複数のスピーカ11a〜11oから音を出力する。このとき、上記第1実施形態は、複数のスピーカ11a〜11oのそれぞれの位置と、目標位置と、の間に存在する空気が移動する速さ及び向き(空気移動速度)を検出し、検出された空気移動速度と、実際に音圧レベルを高めたい位置(右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0)と、に基づいて目標位置を決定する。
これにより、空気が移動する場合であっても、この空気の移動を考慮に入れて目標位置が決定されるので、目標位置における音圧レベルを他の位置における音圧レベルより高くするようにスピーカ11a〜11oから音が出力されると、実際に音圧レベルを高めたい位置にて音圧レベルが高くなる。
この結果、オートバイMCに乗車した運転者DVが走行中にスピーカアレイ装置10から出力される音を聴く場合、風又はオートバイMCの走行に伴って運転者DV及びスピーカ11a〜11oに対して空気が移動しても、運転者DVに対して適切な位置(右スピーカ所望位置R0及び左スピーカ所望位置L0)にて音圧レベルを高くすることができる。
なお、上記第1実施形態は、空気移動速度センサ21により空気移動速度を検出し、検出された空気移動速度に基づいてX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のすべての方向について音圧レベルが高くなる位置の変化を補償するように構成されていたが、1つ又は2つの方向のみについて音圧レベルが高くなる位置の変化を補償するように構成されていてもよい。この場合、上記第1実施形態は、オートバイMCの走行時により大きな速度を生じる方向(例えば、オートバイMCの前後方向等)において音圧レベルが高くなる位置の変化を補償するように構成されることが好適である。
また、上記第1実施形態は、空気移動速度が所定値より小さい場合、音圧レベルが高くなる位置の変化を補償しないように構成されていてもよい。
(第2実施形態)
次に、本発明による第2実施形態に係るスピーカアレイ装置について説明する。図7は、第2実施形態に係るスピーカアレイ装置を交通情報伝達装置KDに適用したシステムの概略構成を示している。このシステムは、道路の路肩にて道路に沿うように配置された交通情報伝達装置KDから交通情報等の音声を出力し、道路を走行するオートバイを運転する運転者等に対して適切な位置にて音圧レベルを高くしながら同音声を同運転者等に聴取させるシステムである。
このシステムは、スピーカアレイ装置30、位置検出手段としての聴取対象位置センサ41及び気温センサ42を備える。
スピーカアレイ装置30は、筐体30aと、筐体30aの一つの面に整列された15個のスピーカ31a〜31oと、を備えている。スピーカアレイ装置30は、スピーカ31a〜31oを備える面(以下、「スピーカ配置面」と称呼する。)30bが道路の中央部に向けられるように、交通情報伝達装置KDに配設・固定されている。スピーカ配置面30bは短辺及び長辺から構成される略長方形状を有している。スピーカ配置面30bの長辺は、スピーカアレイ装置30が交通情報伝達装置KDに固定された状態において、鉛直面と直交している。
スピーカ31a〜31oは、上記第1実施形態のスピーカ11a〜11oと同じスピーカであって、上記第1実施形態のスピーカ配置面10bに対するスピーカ11a〜11oと同じ関係をもって、スピーカ配置面30bに配置されている。
更に、スピーカアレイ装置30は、図8に示したように、音発生装置32と、目標位置決定手段、将来位置推定手段及び速度推定手段としての目標位置決定装置33と、音信号処理装置34と、を備えている。
音発生装置32は、図示しない音声再生装置からなっていて、交通情報等を表す音声を表す音信号を出力するようになっている。
目標位置決定装置33は、上記第1実施形態における目標位置決定プログラムとは異なる後述する目標位置決定プログラムを実行することにより、聴取対象位置センサ41及び気温センサ42による出力値に基づいて目標位置Ptを決定するようになっている。
音信号処理装置34は、上記第1実施形態における音信号処理装置14と同様に、目標位置Ptと、各スピーカ31a〜31oの位置と、に基づいて、空気がスピーカ31a〜31oに対して静止しているとの仮定の下でスピーカ31a〜31oのそれぞれに対する遅延時間を決定するようになっている。音信号処理装置34は、スピーカ31a〜31oのそれぞれに対して決定された遅延時間に基づいて音信号を遅延処理し、遅延処理された音信号をスピーカ31a〜31oのそれぞれに対して出力するようになっている。
聴取対象位置センサ41は、スピーカアレイ装置30の側面に配設されている。聴取対象位置センサ41は、スピーカアレイ装置30に接続されている。聴取対象位置センサ41は、例えば、画像認識技術を用いて構成されていて、所定の距離R以内の道路上の位置においてオートバイ又は自動車を運転する運転者(聴取対象)を検知するようになっている。聴取対象位置センサ41は、聴取対象を検知すると、スピーカ31a〜31oと同聴取対象との相対的な位置関係としての同聴取対象の位置(聴取対象位置)を検出するようになっている。
ここで、聴取対象位置は、上記第1実施形態のスピーカ配置面10bに対する座標系と同じ関係をもってスピーカ配置面30bに対して定められた座標系において定義されているものとする(図7を参照。)。但し、Y軸の正方向(Y軸方向の正の向き)は鉛直上向きである。以下、本実施形態における位置及び速度は、聴取対象位置と同様に、この座標系において定義されているものとする。
聴取対象位置センサ41は、検出された聴取対象位置に基づいて聴取対象位置のX軸方向成分Px、Y軸方向成分Py及びZ軸方向成分Pzを出力するようになっている。
気温センサ42は、スピーカアレイ装置30の側面に配設されている。気温センサ42は、スピーカアレイ装置30に接続されている。気温センサ42は、大気の温度(気温)を検出し、検出された気温を出力するようになっている。
次に、上記のように構成されたスピーカアレイ装置30の作動原理について、交通情報伝達装置KDが備える聴取対象位置センサ41からの距離が上記所定の距離Rより小さい位置にてオートバイが静止している場合から説明する。
この場合、スピーカアレイ装置30は、聴取対象としてオートバイの運転者DVを検知し、同聴取対象の位置を聴取対象位置として検出する。スピーカアレイ装置30は、検出された聴取対象位置を目標位置Ptとして採用し、同目標位置Ptにて音圧レベルが高くなるように各スピーカ31a〜31oに対する遅延時間を決定する。
スピーカアレイ装置30は、各スピーカ31a〜31oに対して決定された遅延時間だけ出力されるタイミングを遅延させながら同スピーカ31a〜31oのそれぞれから音を出力させる。これにより、聴取対象位置にて音圧レベルが高くなる。
次に、聴取対象位置センサ41からの距離が上記所定の距離Rより小さい位置にてオートバイが走行している場合について説明する。この場合、オートバイが静止している場合と同様にスピーカアレイ装置30が検出された聴取対象位置を目標位置Ptとして採用すると、スピーカ31a〜31oから出力された音がスピーカ31a〜31oから聴取対象位置まで伝播する間に聴取対象が移動(聴取対象位置が変化)するので、実際に聴取対象位置にて音圧レベルを高くすることができない。
例えば、図9に示したように、オートバイが速さVxにてX軸の正方向にのみ移動している場合、スピーカ31a〜31oから出力された音がスピーカ31a〜31oから聴取対象位置まで伝播するために要する時間Tの間にオートバイ(聴取対象)はX軸の正方向に距離Vx・Tだけ移動する。
そこで、スピーカアレイ装置30は、検出された聴取対象位置から上記距離Vx・TだけX軸の正方向に移動させた位置Pt’を目標位置として採用する。これにより、聴取対象がスピーカ31a〜31oに対して移動している場合であっても、音圧レベルが高くなる位置は聴取対象位置となる。
更に、聴取対象が移動する速度がX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3成分(Vx、Vy及びVz)を有する場合についても、スピーカアレイ装置30は、上記例と同様に目標位置を決定する。即ち、スピーカアレイ装置30は、聴取対象位置を、音が伝播する間に聴取対象が移動する各軸方向における移動距離(Vx・T、Vy・T及びVz・T)だけ各軸方向において聴取対象の移動方向に移動させた位置を目標位置として採用する。以上が、スピーカアレイ装置30の作動原理である。
以下、スピーカアレイ装置30の実際の作動について、同スピーカアレイ装置30を備える交通情報伝達装置KDが配置された道路を走行するオートバイが同交通情報伝達装置KDに近づいていく場合から説明する。
この場合、オートバイの運転者DVと、交通情報伝達装置KDが備える聴取対象位置センサ41と、の間の距離が上記所定の距離Rより小さくなると、聴取対象位置センサ41は聴取対象としてオートバイの運転者DVを検知する。これにより、スピーカアレイ装置30の音発生装置32は、交通情報等を表す音声を表す音信号を出力する。更に、スピーカアレイ装置30の目標位置決定装置33は、図10にフローチャートにより示した目標位置決定プログラムを実行する。なお、目標位置決定装置33は、聴取対象位置センサ41により聴取対象が検知されている間、同目標位置決定プログラムを所定の微小な時間の経過毎に繰り返し実行するようになっている。
より具体的に述べると、目標位置決定装置33は、ステップ1000から処理を開始してステップ1010に進み、聴取対象位置センサ41により出力された聴取対象位置のX軸方向成分Px、Y軸方向成分Py及びZ軸方向成分Pzを読み込む。
そして、目標位置決定装置33は、ステップ1020に進み気温センサ42により出力された気温Tatmを読み込む。
次いで、目標位置決定装置33は、ステップ1030に進み上記ステップ1020にて読み込まれた気温Tatmと、同ステップ1030内に示した式と、に基づいて音速Vsを算出する。ここで、κは空気の比熱比であり及びRは空気の気体定数である。
その後、目標位置決定装置33は、ステップ1040に進んで、今回の本ルーチンの実行時における上記ステップ1010にて読み込まれた聴取対象位置(Px、Py及びPz)の各成分から、前回の本ルーチン実行時における同ステップ1010にて読み込まれた聴取対象位置(Px、Py及びPz)の対応する成分を減じた値を、上記所定の微小な時間により除することによりオートバイの運転者DVと、複数のスピーカ31a〜31oと、の相対的な速度としての聴取対象の速度(聴取対象速度)のX軸方向成分Vx、Y軸方向成分Vy及びZ軸方向成分Vzを推定する。
次に、目標位置決定装置33は、ステップ1050に進み聴取対象距離Dを上記ステップ1030にて算出された音速Vsにより除することにより音伝播時間Tを算出する。ここで、聴取対象距離Dは原点(スピーカアレイ装置30のスピーカ配置面30b内の中心)と、上記ステップ1010にて読み込まれた聴取対象位置(Px、Py及びPz)と、の間の距離である。即ち、音伝播時間Tは、各スピーカ31a〜31oの位置を代表する位置としての原点から出力された音が同原点から聴取対象位置まで伝播するために要する時間を表している。
そして、目標位置決定装置33は、ステップ1060に進み上記ステップ1010にて読み込まれた聴取対象位置(Px、Py及びPz)と、上記ステップ1040にて推定された聴取対象速度(Vx、Vy及びVz)と、上記ステップ1050にて算出された音伝播時間Tと、同ステップ1060内に示した下記(7)〜(9)式と、に基づいて目標位置Pt(X軸方向成分Ptx、Y軸方向成分Pty及びZ軸方向成分Ptz)を決定する。
Ptx=Px+T・Vx …(7)
Pty=Py+T・Vy …(8)
Ptz=Pz+T・Vz …(9)
このように、聴取対象位置の各成分に聴取対象速度の対応する成分と音伝播時間とを乗じた値をそれぞれ加えた値を目標位置の対応する成分とすることにより、スピーカ31a〜31oから出力された音が同スピーカ31a〜31oから聴取対象まで伝播する間における聴取対象のスピーカ31a〜31oに対する移動が予め補償される。
そして、目標位置決定装置33は、ステップ1099に進み本ルーチンを一旦終了する。
次いで、音信号処理装置34は、目標位置決定装置33により決定された目標位置(Ptx、Pty及びPtz)と、スピーカ31a〜31oのそれぞれの位置と、に基づいてスピーカ31a〜31oのそれぞれに対する遅延時間を決定する。次いで、音信号処理装置34は、音発生装置32から入力された音信号をスピーカ31a〜31oのそれぞれに対して決定された遅延時間に基づいて遅延処理し、遅延処理された音信号をスピーカ31a〜31oのそれぞれに対して出力する。これにより、各スピーカ31a〜31oから互いに異なる時間遅れを伴って、音発生装置32により再生された音声が出力される。
このように、聴取対象としてのオートバイの運転者DVの位置の変化が予め補償されるので、目標位置Ptにおける音圧レベルを他の位置における音圧レベルより高くするようにスピーカから出力された音により、実際に音圧レベルを高めたいオートバイの運転者DVの位置にて音圧レベルを高めることができる。
その後、オートバイが走行を続けることにより、オートバイの運転者DVと、交通情報伝達装置KDが備える聴取対象位置センサ41と、の間の距離が所定の距離R以上になると、聴取対象位置センサ41は聴取対象としてオートバイの運転者DVを検知しなくなる。これにより、スピーカアレイ装置30の音発生装置32は、音信号の出力を一旦終了する。更に、スピーカアレイ装置30の目標位置決定装置33は、上記目標位置決定プログラムの実行を一旦終了する。
以上説明したように、本発明によるスピーカアレイ装置30に係る第2実施形態は、複数のスピーカ31a〜31oから出力される音を聴取させたい対象(オートバイの運転者DV)と、複数のスピーカ31a〜31oと、の相対的な位置関係としての聴取対象位置を聴取対象位置センサ41により検出し、同検出された聴取対象位置に基づいて目標位置Ptを自動的に変更する。これにより、上記聴取させたい対象と、複数のスピーカ31a〜31oと、の相対的な位置関係が変化する場合であっても、上記聴取させたい対象の位置にて常に音圧レベルを高くすることができる。
更に、上記第2実施形態は、複数のスピーカ31a〜31oから出力された音が同複数のスピーカ31a〜31oから上記聴取させたい対象まで伝播するために要する時間だけ先の時点における同聴取させたい対象と、複数のスピーカ31a〜31oと、の相対的な位置関係を推定し、この推定された先の時点における位置関係に基づいて目標位置Ptを補正する。これにより、複数のスピーカ31a〜31oから出力された音が同複数のスピーカ31a〜31oから上記聴取させたい対象まで伝播する間に同聴取させたい対象と、複数のスピーカ31a〜31oと、の相対的な位置関係が変化する場合であっても、上記聴取させたい対象の位置にて音圧レベルを確実に高くすることができる。
なお、上記第2実施形態は、スピーカアレイ装置30が道路に対して移動しないように構成されていが、スピーカアレイ装置30を自動車に搭載させることによりスピーカアレイ装置30が道路に対して移動するように構成されていてもよい。
更に、上記第2実施形態は、聴取対象位置センサ41により検出された聴取対象位置に基づいて聴取対象の速度を推定するように構成されていたが、聴取対象の速度を検出する手段を備えていてもよい。
また、上記第2実施形態の目標位置決定装置33は、聴取対象の速度が所定値より小さい場合、目標位置Ptとして、聴取対象位置センサ41により検出された聴取対象位置を採用するように構成されていてもよい。
加えて、上記第2実施形態は、上記第1実施形態が備える空気移動速度センサ21を備え、上記第1実施形態と同様に空気の移動を考慮に入れて目標位置を決定するように構成されていてもよい。
(第2実施形態の変形例)
次に、本発明による第2実施形態の変形例に係るスピーカアレイ装置について説明する。このスピーカアレイ装置は、ドップラー効果による音のピッチの変化を予め補償する(打ち消す)ように複数のスピーカ31a〜31oから出力される音のピッチを補正する点のみにおいて上記第2実施形態に係るスピーカアレイ装置30と相違している。以下、かかる相違点を中心として説明する。
図11に示したように、スピーカアレイ装置30Aは、上記第2実施形態に係るスピーカアレイ装置30が備える各装置に加えてピッチ補正手段としてのピッチ補正装置35を備える。
ピッチ補正装置35は、目標位置決定装置33により実行される図10のルーチンの上記ステップ1010にて同目標位置決定装置33により読み込まれた聴取対象位置(Px、Py及びPz)と、同目標位置決定装置33により上記ステップ1040にて推定された聴取対象速度(Vx、Vy及びVz)と、に基づいて、上記座標系の原点と聴取対象位置とを通る方向における聴取対象速度の成分であって同原点から同聴取対象位置へ向かう向きを正の値とする同成分Vaを算出するようになっている。
更に、ピッチ補正装置35は、算出された聴取対象速度の成分Vaと、目標位置決定装置33により上記ステップ1030にて算出された音速Vsと、後述するようにドップラー効果を表す式に基づいて導出された下記(10)式と、に基づいて周波数を変換することにより、音発生装置32から入力された音信号を補正するようになっている。下記(10)式において、f0は変換前の周波数であり、fは変換後の周波数であり、Vsは音速であり、及び、Vaは上記聴取対象速度の成分である。
f=f0・Vs/(Vs−Va) …(10)
加えて、ピッチ補正装置35は、補正された音信号を音信号処理装置34に出力するようになっている。
ここで、上記(10)式の導出について説明する。ドップラー効果は、周知の下記(11)式により表される。下記(11)式において、f1は音源にて発せられた音の周波数(音源周波数)であり、f2は聴取対象(聴取者)が聴取する音の周波数(聴取周波数)であり、Vsは音速であり、V1は音源が聴取対象に近づく向き(音源が聴取対象に向かう向き)に移動する速度(音源速度)であり、及び、V2は聴取対象が音源から遠ざかる向き(聴取対象が音源に向かう向きと逆向き)に移動する速度(聴取対象速度)である。
f2=f1・(Vs−V2)/(Vs−V1) …(11)
いま、音源が移動しない場合を考えると、上記(11)式は、下記(12)式により表される。更に、下記(12)式に、聴取周波数f2として聴取対象に聴取させたい周波数f0を代入するとともに、音源周波数f1としてスピーカにより出力させたい音の周波数(出力周波数)fを代入し、下記(12)式を出力周波数fについて整理すると、上記(10)式が導出される。ここで、V2とVaとが等しいことが考慮されている。
f2=f1・(Vs−V2)/Vs …(12)
次に、上記のように構成されたスピーカアレイ装置30Aの作動について説明する。スピーカアレイ装置30Aの音信号処理装置34は、上述したように、ピッチ補正装置35により出力された音信号をスピーカ31a〜31oのそれぞれに対して決定された遅延時間に基づいて遅延処理し、遅延処理された音信号をスピーカ31a〜31oのそれぞれに対して出力する。これにより、各スピーカ31a〜31oから互いに異なる時間遅れを伴って、ピッチ補正装置35により補正された音が出力される。出力された音は、聴取対象が複数のスピーカ31a〜31oに対して移動している場合、同聴取対象によって、ドップラー効果により音のピッチが変化した音として聴取される。
例えば、図12に示したように、オートバイが一定の速さVxにてX軸の正方向にのみ移動している場合を想定する。このとき、スピーカ31a〜31oが周波数fの音を発しているものとする。この場合、オートバイの運転者(聴取対象)DVにより聴取される実際の音の周波数(聴取周波数)は、聴取対象位置(オートバイの運転者DVの位置)のX軸方向成分に対して、図13に示したように変化する。なお、図13において、図12の符号a、b及びcにて示されたそれぞれの位置のX軸方向成分は、La、Lb及びLcと表記されている。
先ず、オートバイの運転者DVが図12の符号aで示した位置に位置している場合、オートバイの運転者DVにより聴取される実際の音の周波数(聴取周波数)は、ドップラー効果によって、複数のスピーカ31a〜31oにより発せられた音の周波数(音源周波数)fより高い周波数faとなる。
次に、オートバイの運転者DVが図12の符号bで示した位置(複数のスピーカ31a〜31oの正面、即ち、上記座標系のY−Z平面上)に位置している場合、オートバイの運転者DVと複数のスピーカ31a〜31oとを通る方向におけるオートバイの速度の成分が略0となるので、聴取周波数は音源周波数fに一致する。
次いで、オートバイの運転者DVが図12の符号cで示した位置に位置している場合、聴取周波数は、ドップラー効果によって音源周波数fより低い周波数fcとなる。
更に、オートバイと複数のスピーカ31a〜31oとが十分に離れている領域においては、オートバイの運転者DVと複数のスピーカ31a〜31oとを通る方向におけるオートバイの速度の成分がオートバイの速度に略一致して略一定となるので、聴取周波数は聴取対象位置にかかわらず略一定となる(図13の符号A及び符号Bにより示した領域)。
ところで、複数のスピーカ31a〜31oから出力された音は、上述したように、ドップラー効果による音のピッチの変化を予め補償する(打ち消す)ように導出された上記(10)式に基づいてピッチ補正装置35により補正されている。従って、オートバイの運転者DVにより聴取される音は、音発生装置32により出力された音信号が表す音となる。
このように、スピーカアレイ装置30Aは、音発生装置32により出力された音信号をピッチ補正装置35により補正することによって、ドップラー効果による音のピッチの変化を予め補償した音を出力することにより、ドップラー効果による音のピッチの変化が生じないかのような音をオートバイの運転者DVに聴取させることができる。
なお、上記変形例におけるピッチ補正装置35は、複数のスピーカ31a〜31oに対して1つの聴取対象速度の成分Vaを算出し、同成分Vaのみに基づいて音のピッチを補正した音信号を出力するように構成されていたが、各スピーカ31a〜31oの位置を考慮に入れて各スピーカ31a〜31oに対する聴取対象速度の成分を算出し、算出された各聴取対象速度の成分に基づいて補正した音信号を出力するように構成されていてもよい。
(第3実施形態)
次に、本発明による第3実施形態に係るマイクロホンアレイ装置について説明する。図14は、第3実施形態に係るマイクロホンアレイ装置の概略構成を示している。このマイクロホンアレイ装置50は、屋外において同マイクロホンアレイ装置50から離れた所定の位置(音発生位置)にて発せられた音(例えば、歌唱又は会話している人の音声や鳥の鳴き声等)を録音する装置である。
マイクロホンアレイ装置50は、筐体50aと、筐体50aの一つの面に整列された15個のマイクロホン51a〜51oと、音伝播物質移動速度検出手段としての空気移動速度センサ61と、気温センサ62と、を備えている。
マイクロホンアレイ装置50がマイクロホン51a〜51oを備える面(以下、「マイクロホン配置面」と称呼する。)50bは、短辺及び長辺から構成される略長方形状を有している。
マイクロホン51a〜51oは、上記第1実施形態のスピーカ配置面10bに対するスピーカ11a〜11oと同じ関係をもって、マイクロホン配置面50bに配置されている。マイクロホン51a〜51oは、互いに同一のマイクロホンである。マイクロホン51a〜51oのそれぞれは、音が入力されると、入力された音を表す音信号を出力するようになっている。
更に、マイクロホンアレイ装置50は、図15に示したように、目標位置決定手段としての目標位置決定装置52、音信号処理装置53及び録音装置54を備えている。
目標位置決定装置52は、上述した目標位置決定プログラムと異なる後述する目標位置決定プログラムを実行することにより、空気移動速度センサ61及び気温センサ62による出力値に基づいて目標位置Ptを決定するようになっている。
音信号処理装置53は、目標位置Ptと、各マイクロホン51a〜51oのそれぞれの位置と、に基づいて、空気がマイクロホン51a〜51oに対して静止しているとの仮定の下でマイクロホン51a〜51oのそれぞれに対する遅延時間を決定するようになっている。音信号処理装置53は、マイクロホン51a〜51oのそれぞれに対して決定された遅延時間に基づいてマイクロホン51a〜51oのそれぞれにより出力された音信号を遅延処理し、遅延処理された音信号を合成して出力するようになっている。
録音装置54は、図示しない記憶媒体を含んでいて、入力された音信号を同記憶媒体に記憶させるようになっている。
空気移動速度センサ61は、上記第1実施形態における空気移動速度センサ21と同一のセンサであって、図14に示したように、マイクロホンアレイ装置50の側面に配設されている。空気移動速度センサ61は、マイクロホンアレイ装置50に接続されている。空気移動速度センサ61は、空気が移動する速さ及び向き(空気移動速度)を検出するようになっている。
ここで、空気移動速度は、上記第1実施形態のスピーカ配置面10bに対する座標系と同じ関係をもってマイクロホン配置面50bに対して定められた座標系において定義されているものとする。但し、Y軸の正方向(Y軸方向の正の向き)は鉛直上向きである。以下、本実施形態における位置及び速度は、空気移動速度と同様に、この座標系において定義されているものとする。
空気移動速度センサ61は、検出された空気移動速度に基づいて空気移動速度のX軸方向成分Vwx、Y軸方向成分Vwy及びZ軸方向成分Vwzを出力するようになっている。
気温センサ62は、マイクロホンアレイ装置50の側面に配設されている。気温センサ62は、マイクロホンアレイ装置50に接続されている。気温センサ62は、大気の温度(気温)を検出し、検出された気温を出力するようになっている。
次に、上記のように構成されたマイクロホンアレイ装置50の作動原理について、風が吹いていない場合から説明する。この場合、音を伝播する物質である空気は、マイクロホン51a〜51oに対して静止している。
従って、マイクロホンアレイ装置50は、音発生位置の近傍に位置するように予め定められたマイクロホン所望位置P0を目標位置Ptとして採用し、目標位置Ptにて発せられた音を示す音信号のレベルが他の位置にて発せられた音を示す音信号のレベルより高められるように(目標位置Ptにて発せられた音の音圧レベルが他の位置にて発せられた音の音圧レベルより高められて検知されるように)マイクロホン51a〜51oのそれぞれに対する遅延時間を決定する。
マイクロホンアレイ装置50は、各マイクロホン51a〜51oに対して決定された遅延時間だけタイミングを遅延させながら同マイクロホン51a〜51oのそれぞれにより出力された音信号を合成する。これにより、マイクロホン所望位置P0にて発せられた音を示す音信号のレベルが他の位置にて発せられた音を示す音信号のレベルより高められる。
次に、風が吹いている場合について説明する。この場合、音を伝播する物質である空気はマイクロホン51a〜51oに対して移動している。ところで、前述したように、音を伝播する空気が移動している場合、音の伝播状態を表す空気の圧力及び密度等の空間的な分布は空気の移動とともに移動する。従って、空気がマイクロホン51a〜51oに対して静止している場合と同様にマイクロホンアレイ装置50がマイクロホン所望位置P0を目標位置Ptとして採用すると、マイクロホン所望位置P0と異なる位置にて発せられた音を示す音信号のレベルが高められてしまう。
この音信号のレベルが高められる音が発せられた位置が空気の移動によって移動する向き及び距離はそれぞれ、空気が移動する向きと逆向き及び空気が移動する速さとマイクロホン所望位置P0にて発せられた音が同マイクロホン所望位置P0からマイクロホン51a〜51oまで伝播するために要する時間(音伝播時間)Tとの積により表される距離である。
例えば、図16に示したように、空気が速さVwxにてX軸の正方向にのみ移動している場合、音信号のレベルが高められる音が発せられた位置(音圧レベルが高められて検知される位置)Phは目標位置PtからX軸の負方向に距離Vwx・Tだけ移動した位置となる。従って、目標位置をVwx・TだけX軸の正方向に移動させた位置Pt’とすれば、結果的に位置Ptにて発せられた音を示す音信号のレベルが高められた合成音信号を生成することができる。
そこで、マイクロホンアレイ装置50は、このような考えに基づき、マイクロホン所望位置P0から上記距離Vwx・TだけX軸の正方向に移動させた位置を目標位置Ptとして採用する。これにより、空気がマイクロホン51a〜51oに対して移動している場合であっても、生成された合成音信号が表す音はマイクロホン所望位置P0にて発せられた音を示す音信号のレベルが高められた音となる。
更に、空気移動速度がX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3成分(Vwx、Vwy及びVwz)を有する場合についても、マイクロホンアレイ装置50は、上記例と同様に目標位置を決定する。即ち、マイクロホンアレイ装置50は、マイクロホン所望位置P0を、音信号のレベルが高められる音が発せられる位置が空気の移動によって移動する各軸方向における移動距離(Vwx・T、Vwy・T及びVwz・T)だけ各軸方向において空気の移動方向と同じ向きに移動させた位置を目標位置Ptとして採用する。以上が、マイクロホンアレイ装置50の作動原理である。
以下、マイクロホンアレイ装置50の実際の作動について、屋外にて歌唱している人(歌唱者)の音声を録音する場合を例として説明する。この場合、使用者がマイクロホンアレイ装置50を操作して録音を開始すると、マイクロホンアレイ装置50の目標位置決定装置52は、図17にフローチャートにより示した目標位置決定プログラムを実行する。
より具体的に述べると、目標位置決定装置52は、ステップ1700から処理を開始してステップ1710に進み、空気移動速度センサ61により出力された空気移動速度のX軸方向成分Vwx、Y軸方向成分Vwy及びZ軸方向成分Vwzを読み込む。
そして、目標位置決定装置52は、ステップ1720に進み気温センサ62により出力された気温Tatmを読み込む。
次いで、目標位置決定装置52は、ステップ1730に進み上記ステップ1720にて読み込まれた気温Tatmと、同ステップ1730内に示した式と、に基づいて音速Vsを算出する。ここで、κは空気の比熱比であり及びRは空気の気体定数である。
次に、目標位置決定装置52は、ステップ1740に進みマイクロホン距離Dを上記ステップ1730にて算出された音速Vsにより除することにより音伝播時間Tを算出する。ここで、マイクロホン距離Dは予め定められたマイクロホン所望位置P0(X軸方向成分P0x、Y軸方向成分P0y及びZ軸方向成分P0z)と、原点(マイクロホンアレイ装置50のマイクロホン配置面50b内の中心)と、の間の距離である。即ち、音伝播時間Tは、マイクロホン所望位置P0にて発せられた音が同マイクロホン所望位置P0から各マイクロホン51a〜51oの位置を代表する位置としての原点まで伝播するために要する時間を表している。
そして、目標位置決定装置52は、ステップ1750に進み上記ステップ1710にて読み込まれた空気移動速度(Vwx、Vwy及びVwz)と、マイクロホン所望位置(P0x、P0y及びP0z)と、上記ステップ1740にて算出された音伝播時間Tと、同ステップ1750内に示した下記(13)〜(15)式と、に基づいて目標位置(Ptx、Pty及びPtz)を決定する。
Ptx=P0x+T・Vwx …(13)
Pty=P0y+T・Vwy …(14)
Ptz=P0z+T・Vwz …(15)
このように、マイクロホン所望位置の各成分に空気移動速度の対応する成分と音伝播時間とを乗じた値をそれぞれ加えた値を目標位置の対応する成分とすることにより、空気がマイクロホン51a〜51oに対して移動することによる音信号のレベルが高くなる位置の変化が補償される。
そして、目標位置決定装置52は、ステップ1799に進み本ルーチンを一旦終了する。
次いで、音信号処理装置53は、目標位置決定装置52により決定された目標位置(Ptx、Pty及びPtz)と、マイクロホン51a〜51oのそれぞれの位置と、に基づいてマイクロホン51a〜51oのそれぞれに対する遅延時間を決定する。
次いで、音信号処理装置53は、マイクロホン51a〜51oのそれぞれに対して決定された遅延時間に基づいてマイクロホン51a〜51oのそれぞれにより出力された音信号を遅延処理し、遅延処理された音信号を合成して出力する。
このように、音を伝播する空気の移動による音信号のレベルが高くなる位置の変化が補償されるので、目標位置Ptにて発せられた音を示す音信号のレベルが他の位置にて発せられた音を示す音信号のレベルより高くなるようにマイクロホン51a〜51oのそれぞれにより出力された音信号を合成することにより、実際に音信号のレベルを高めたいマイクロホン所望位置P0にて発せられた音を示す音信号のレベルが高められた合成音信号を生成することができる。
次に、録音装置54は、音信号処理装置53により出力される合成音信号を記憶媒体に記憶させる。
このようにして、マイクロホンアレイ装置50により、風が強く吹いている場合であっても、屋外にて歌唱している人の音声を示す音信号のレベルが他の位置にて発せられた音を示す音信号のレベルより高められた音が録音される。
以上説明したように、本発明によるマイクロホンアレイ装置50に係る第3実施形態は、複数のマイクロホン51a〜51oに入力される音を伝播する物質(空気)が静止しているとの仮定の下で、目標位置Ptにて発せられた音を示す音信号のレベルが他の位置にて発せられた音を示す音信号のレベルより高くなるように各マイクロホン51a〜51oにより出力された複数の音信号を合成した合成音信号を生成する。このとき、上記第3実施形態は、複数のマイクロホン51a〜51oのそれぞれの位置と、目標位置Ptと、の間に存在する空気が移動する速さ及び向き(空気移動速度Vw)を検出し、検出された空気移動速度Vwと、実際に音信号のレベルを高めたい(音圧レベルを高めて検知したい)マイクロホン所望位置P0と、に基づいて目標位置Ptを決定する。
これにより、空気が移動する場合であっても、この空気の移動を考慮に入れて目標位置Ptが決定されるので、目標位置Ptにて発せられた音を示す音信号のレベルが他の位置にて発せられた音を示す音信号のレベルより高くなるように生成された合成音信号が表す音は実際に音信号のレベルを高めたいマイクロホン所望位置P0にて発せられた音を示す音信号のレベルが高められた音となる。この結果、屋外における録音時に風が強く吹いていたとしても、実際に聴取したい位置にて発せられた音を録音することができる。
なお、上記第3実施形態は、空気移動速度が所定値より小さい場合、生成される合成音信号における音信号のレベルが高められる位置の変化を補償しないように構成されていてもよい。
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、音速は、大気の圧力及び密度により算出されてもよい。
10…スピーカアレイ装置、10a…筐体、10b…スピーカ配置面、11a〜11o…スピーカ、12…音発生装置、13…目標位置決定装置、14…音信号処理装置、21…空気移動速度センサ、22…気温センサ、MC…オートバイ、DV…運転者、30,30A…スピーカアレイ装置、30a…筐体、30b…スピーカ配置面、31a〜31o…スピーカ、32…音発生装置、33…目標位置決定装置、34…音信号処理装置、35…ピッチ補正装置、41…聴取対象位置センサ、42…気温センサ、KD…交通情報伝達装置、50…マイクロホンアレイ装置、50a…筐体、50b…マイクロホン配置面、51a〜51o…マイクロホン、52…目標位置決定装置、53…音信号処理装置、54…録音装置、61…空気移動速度センサ、62…気温センサ。