JP4759162B2 - 感熱孔版印刷用マスター及び孔版印刷方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、感熱孔版印刷用マスター、孔版印刷方法及び孔版印刷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂フィルム(以下、単に「フィルム」ということもある)に、インキ透過性支持体(以下、単に「支持体」ということがある)として多孔性薄葉紙などを接着剤で貼りあわせ、且つフィルム表面にサーマルヘッドとのスティック防止のためのスティック防止層を設けた感熱孔版印刷用マスターが知られている。実際上、多孔性薄葉紙として麻繊維又は麻繊維と合成繊維、木材繊維とを混抄したものにフィルムを接着剤で貼りあわせ、且つフィルム表面にスティック防止層を設けた感熱孔版印刷用マスターが広く用いられている。
【0003】
しかし、こうした従来の感熱孔版印刷用マスターでは、フィルムのすぐ上面に繊維からなる支持体が存在するため次のような問題点があった。
(1)繊維の重なった部分とフィルムが接する部分に接着剤が大量に鳥の水かき状に集積し、その部分においてサーマルヘッドによる穿孔が行われにくくなる。また、その部分がインキの通過を妨げ、印刷むらが発生する。
(2)繊維自体がインキの通過を妨げ、印刷むらが発生する。
【0004】
こうした点を配慮して幾つかの感熱孔版印刷用マスターが提案されている。例えば、特開平3−193445号公報には、繊度1デニール以下の極細繊維を用いた多孔性薄葉紙からなる支持体が開示されている。これによれば前記(1)の問題点は解決されるが、(2)の問題点は残されている。
【0005】
特開昭62−198459号公報には、フィルム上に実質的に閉じた形状の耐熱性樹脂パターンを、グラビア、オフセット、フレキソ等の印刷法を用いて形成する方法が開示されている。しかし、現状の印刷技術ではパターンの線幅が50μm以下の印刷は困難であり、例えできたとしても生産性が悪く高価である。しかも、一般的には線幅が38μm以上では耐熱性樹脂がサーマルヘッドによる穿孔を防げ、印刷ムラが発生する。
【0006】
また、特開平4−7198号公報には、水分散性ポリマーとコロイダルシリカのような微粒子の混合液をフィルム表面に塗布、乾燥し多孔質層を形成することによって感熱孔版印刷用マスターを製造し、プリントゴッコ製版機〔理想科学工業(株)製〕を用いて製版し、EPSON、HG−4800インク(インクジェット方式用)を用いて印刷する方法が開示されている。しかし、この方法により得られる多孔質層は印刷インキの通りが悪く、従来の感熱孔版印刷用インキでは印刷時に十分な濃度が得られず実用的でない。また、この層自体が断熱効果を十分に有しておらず、フィルムの穿孔性に劣る。
【0007】
また、特開昭54−33117号公報には、支持体を用いない実質的にフィルムのみからなる印刷用マスターが開示されており、これによれば前記(1)、(2)の問題点は解決されるが、その一方で新たな問題を生じさせている。その一つは、フィルムが10μm以下の厚さの場合、その「コシ」(stiffness)が弱く、搬送が困難になることである。
【0008】
これの解決方法として、特公平5−70595号公報では、印刷機の版胴周壁部にフィルムが切断されることなく長尺状のまま巻装され、印刷時には版胴の回転とともにフィルム全体も回転する考えが提示されている。しかし、この方法ではフィルム及び着排版ユニットが印刷時には版胴の回転と共に回転するため、回転のモーメントが大きくなり、また重力中心の回転軸からの変位が大きく、これらの解決のために印刷機は重く、大きくしなければならない。また、フィルムが5μm以上の厚さの場合、その熱感度が小さくなり、サーマルヘッドによる穿孔が行われにくくなる。更に、加熱手段からの印加エネルギーがマスターを通してプラテンヘ損失する比率が高くなり、その為穿孔に使われるエネルギーが少なく、穿孔されにくくなる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、下記のことをその課題とするものである。
1.マスターの引張り強度を強くし、印刷時のマスターの伸び、切れを防止する支持体を有する感熱孔版印刷用マスター及びその印刷方法を提供すること。
2.熱可塑性樹脂フィルムのコシを強くし、断熱効果によりフィルムの穿孔感度を向上させる支持体を有する感熱孔版印刷用マスター及びその印刷方法を提供すること。
3.少ないインキ付着量で、印刷むらがなく、印刷物の裏汚れが少ない感熱孔版印刷用マスターを提供すること。
4.前記感熱孔版印刷用マスターを使用した孔版印刷方法及び孔版印刷装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、感熱孔版印刷用マスターをいろいろな角度から検討してきた結果、次のような研究結果を得た。
(イ)インキの通過を妨げ、且つサーマルヘッドによる穿孔を妨げる繊維状物質のみからなる支持体は、フィルムの直上になるべくなら存在しないほうが望ましい。
(ロ)繊維状物質を有しない支持体であると、マスターは引張り強度が小さく印刷伸びを発生する。
(ハ)支持体は望ましくはフィルムとは比較的小さな接点を有しながら、インキの通過を阻害せず、且つ印刷機上での搬送に十分なコシ及び引張り強度を与えるものが望ましい。
(ニ)耐刷に耐える強度を得る為には、構成要素に有る程度の太さや容積が必要である。しかし、これをフィルム上に積層すると画像に影響する。
(ホ)多孔性樹脂膜は、インク拡散性が悪い。
これらの研究結果から、感熱孔版印刷用マスターはフィルムの一方の面に微細かつ均一な空隙を有し高画質の為の樹脂からなる多孔性樹脂膜及びその表面に補強用の繊維状物質からなる多孔性繊維膜と、インク拡散の為の空間を有する機能性膜を有したものが望ましことを確かめ、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に多孔性樹脂膜を有し、且つ該多孔性樹脂膜の表面に機能性膜と繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層してなることを特徴とする感熱孔版印刷用マスターが提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記構成において、該可塑性樹脂フィルムの穿孔面積Dに対する該フィルムと接する多孔性樹脂膜の空隙率の範囲が、(−0.0063D+61)%以上(ただしD≧314μm2)であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスタが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記構成において、該機能性膜が、体質顔料を含む水溶性樹脂層からなることを特徴とする感熱孔版印刷用マスターが提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記構成において、薄膜が、該熱可塑性樹脂フィルム上に密着して、該多孔性樹脂膜の該熱可塑性樹脂フィルム側の面に形成されていことを特徴とする感熱孔版印刷用マスターが提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上記構成において、該多孔性樹脂膜表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計が全表面積の4〜80%の範囲であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスターが提供される。
【0016】
また、本発明によれば、上記構成において、該多孔性樹脂膜表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計が全開口面積の50%以上であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスターが提供される。
【0017】
また、本発明によれば、上記構成において、該熱可塑性樹脂フィルムは、その面が開口面積率で20%以上となるように穿孔されたときに、通気性試験機における測定値が1.0〜1.57cm3/cm2・秒の範囲であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスターが提供される。
【0018】
また、本発明によれば、上記いずれかの感熱孔版印刷用マスターを用い、穿孔後に穿孔部の背後に該多孔性樹脂膜の少なくとも一部が残るようサーマルヘッドにより穿孔することを特徴とする孔版印刷方法が提供される。
【0019】
さらに、本発明によれば、上記いずれかに記載の感熱孔版印刷用マスターを加熱溶融穿孔することにより製版を行う製版装置と、製版された該感熱孔版印刷用マスターが巻き付けられる版胴と、該版胴の内部に設けられたインキ補給機構と、該版胴の外周面に巻き付けられた該感熱孔版印刷用マスターに印刷用紙を押しつける押圧装置とを少なくとも有して構成されることを特徴とする孔版印刷装置が提供される。
【0020】
ここで言う「多孔性樹脂膜」とは、溶剤に溶かした樹脂を析出させ凝結させる等により形成する多孔性の膜のことで、フィルム上にこのフィルムを床に例えると図1の多数の天井のあるセルの集合体又は図2の連泡状セルの集合体からなる泡状皮膜、図3の粒形状あるいは繊維状の樹脂がくっつきあってできている集合体状皮膜などによって形成される膜を意味している。また、「多孔性繊維膜」とは、綿、麻などの植物繊維、ポリエステル、ポリビニルアルコールなどの合成繊維等の繊維物質からなる薄葉紙などによって形成されている膜を意味している。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて更に詳細に説明する。
本発明の多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体を具備した感熱孔版印刷用マスターの模式断面は、例えば図2で示される。図2において、4は多孔性樹脂膜、3は多孔性樹脂膜開口部、1は熱可塑性樹脂フィルム(以下、フィルムと称することもある)、7は多孔性繊維膜、8は機能性膜をそれぞれ示す。
既述のとおり、本発明における「多孔性樹脂膜」とはそのフィルム上にフィルムを床に例えると多数の天井のあるセルの集合体又は天井のないセルの集合体などを形成したものであり、図1、図2、図3において、多孔性樹脂膜4を構成する構成要素4bはそれぞれ互いに結合している。
【0022】
多孔性樹脂膜4の平均孔径は一般に1〜50μm、望ましくは2〜30μmである。平均孔径が1μmに満たない場合には、インキの通過性が悪く、十分なインキ通過量を得るために低粘度インキを用いれば、画像にじみや印刷中に印刷ドラムの側部や巻装されているマスターの後端から印刷インキがしみ出す現象が発生する。また、多孔性樹脂膜内の空隙率が低くなることが多く、サーマルヘッドによる穿孔を阻害しやすくなる。平均孔径が50μmを超える場合には多孔性樹脂膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され、裏汚れやにじみ等の不具合が発生し、平均孔径は小さすぎても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。
【0023】
多孔性樹脂膜4は、膜の内部及び表面に多数の空隙を持つ構造を有するものであれば良く、該空隙がインキの通過性の点から多孔性樹脂膜内において厚さ方向に連続構造であり、且つフィルムを床とした場合に天井方向に貫通しているものが望ましい。但し、多孔性樹脂膜とフィルムとの境界においては、サーマルヘッドによる穿孔を阻害しない範囲で、多孔性樹脂膜4がフィルム1を覆って閉鎖していても良い。サーマルヘッドによる穿孔を阻害することなく、フィルム1を覆う多孔性樹脂膜4を構成する樹脂の厚さは、この膜を構成する樹脂の種類、フィルムの熱感度等によって異なるが、一般にはフィルムと合わせた厚みが7μm以下である。
【0024】
多孔性樹脂膜表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計は全表面積の4〜80%、望ましくは10〜60%である。該割合が4%未満である場合にはサーマルヘッドによる穿孔やインキの通過が阻害されやすい。80%を超えると多孔性樹脂膜の強度が弱くなり、印刷中にこわれてしまう。
【0025】
多孔性樹脂膜4は今までの感熱孔版印刷用マスターの多孔性部分とは全く異なる構造を有する。構造体を形成する個体部分は不定形の棒状、球状、枝状体の集合接合体より成り、どのような構造となるかは該樹脂膜の製造条件、例えば樹脂の種類、液の固形分濃度、溶媒の種類、樹脂液付着量、樹脂液乾燥温度、塗布雰囲気温度、同じく湿度等により異なる。特に、樹脂液温度、塗布雰囲気温度、同じく湿度の影響は大きい。
【0026】
また、多孔性樹脂膜4は、上述のような今までの感熱孔版印刷用マスターの多孔性部分とは異なる構造を有する不定形の棒状、球状、枝状体の集合接合体で構成されることにより、フィルム上に微細かつ均一な空隙を形成できるので、穿孔性に優れ、埋まりの良い画像が得られると言うような効果を奏することができる。
【0027】
多孔性樹脂膜4の形成に際して、樹脂液の温度が10℃未満であると、本発明の樹脂液はゲル化が発生し易くなり溶液の塗布がしにくく、逆に、30℃を超えると多孔性樹脂膜の形成が難しくなる。従って、塗布雰囲気温度は10〜30℃が好ましい。
【0028】
また、塗布雰囲気の湿度が50%RHを超えるとフィルム表面の水分の吸着量が多くなり、その結果塗布液との濡れ性が低下することによって、多孔性樹脂膜とフィルムの接着性に劣るようになるので塗布雰囲気の湿度は50%RH以下が好ましい。
【0029】
多孔性樹脂膜4の表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計は全開口面積の50%以上、望ましくは70%以上である。該割合が50%未満である場合には、サーマルヘッドによる穿孔やインキの通過が阻害されやすい。
【0030】
支持体としての多孔性樹脂膜4の厚さは、5〜100μm、望ましくは6〜50μmである。5μmに満たない場合は、十分な膜強度が得られにくい上、サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残りにくく、インキ転写量が制御されずに印刷物の裏汚れが悪くなりやすい。また、100μmを超えるとインキ通過性が悪くなる。
【0031】
多孔性樹脂膜4のインキ転写量抑制効果は膜が厚いほど大きく、印刷時の印刷用紙へのインキ転写量は多孔性樹脂膜4の厚みによっても調節できる。例えば、多孔性樹脂膜4の平均孔径が20μm以下である場合、多孔性樹脂膜層が厚い程印刷インキが通りにくくなるので、この層の厚みによってインキの印刷用紙への転写量を制御することができる。
【0032】
層の厚さが不均一であると印刷ムラを生じることがあるので、厚みは均一であることが望ましい。多孔性樹脂膜4の塗工後の厚さが目標より大きい場合は、キャレンダによる圧着などの手段で目標の厚さまで小さくすることができる。厚さの測定は、実質的に荷重をかけないで、又は極く小さな荷重で行う。
【0033】
多孔性樹脂膜の支持体としての付着量は、0.5〜25g/m2、望ましくは2〜15g/m2、特に2〜7g/m2が望ましい。付着量の増大はインキの通過を妨げて画質を悪くし、0.5g/m2未満では十分な膜強度を得られにくく、逆に、25g/m2を越えるとインキの通過を妨げて画質を悪くする。
【0034】
多孔性樹脂膜4の密度は、通常0.01〜1g/cm3、望ましくは0.1〜0.5g/cm3である。密度が0.01g/cm3未満だと膜の強度が不足し、また膜自体も壊れやすい。逆に、密度が1g/cm3を超えると、インキの通過を妨げて画質を悪くする。
【0035】
多孔性樹脂膜は、サーマルヘッドによるフィルムの穿孔をより効果的にするため、その少なくとも一部分、即ちフィルムと接触する多孔性樹脂膜の部分において、150℃以下の温度で軟化することが望ましい。なお、膜の孔径、形状、強度、コシ等を調節するために、多孔性樹脂膜中に顔料を含んだものが好ましい。
【0036】
本発明の多孔性樹脂膜4及び多孔性繊維膜7、機能性膜8を有してなる支持体を用いた感熱孔版印刷用マスターは、孔版印刷機プリポートVT3820〔(株)リコー製〕とそのインキ(VT600II、lot no.960604−22)を用いて印加パルス幅を7%標準状態より長く設定して20℃、60%RH環境中で製版印刷(印刷速度3速)したときに、良好な画像〔印刷画像濃度が0.7〜1.3、望ましくは0.9〜1.25(Magbeth社製RD914濃度計にて測定)〕が得られるものであり、本発明の多孔性樹脂膜4の構造は特開平4−7198号公報のものとは明らかに異なる。本発明の感熱孔版印刷用マスターにインクジェット方式用インキを用いた場合には、インキ転写量が多くなり過ぎ、にじみが発生し、鮮明な画像が得られない。
なお、VT600IIインキ(lot no.960604−22)の粘度は、粘度計HAAKECV20でローターPK30−4.0を用いシェアレート20(1/S)で測定した場合に、20℃で150Poiseであった。
【0037】
本発明の感熱孔版印刷用マスターのコシは、曲げ剛度5mN以上(ローレンツェンスティフネステスターによる)であることが望ましい。曲げ剛度が5mN未満の場合、感熱孔版印刷用マスターの印刷機上での搬送が困難になることがある。
【0038】
本発明において、感熱孔版印刷用マスターの熱可塑性樹脂フィルム面が開口面積率で20%以上となるように穿孔されたとき、通気性試験機における測定値は1.0〜157cm3/cm2・秒の範囲である。ここでいう、開口面積率とは感熱孔版印刷用マスターがサーマルヘッド、レーザー、フラッシュランプなどによりベタの製版を施されたときの感熱孔版印刷用マスターのフィルム面での貫通孔の合計面積が、ベタ部の単位面積当たりで占める割合のことである。開口面積率が20%を下回ると、画像濃度を確保するためには非常に粘度の低いインキを使用する必要があり、この様なインキでは孔版印刷システムにおいてはベタ部の均一性、或いは細線の再現性が良くない。
【0039】
この場合、通気性が1.0cm3/cm2・秒に満たない場合にはインキの通過性が悪く、十分なインキ通過量を得るために低粘度インキを用いれば、画像にじみや印刷中に印刷ドラムの側部や巻装されているマスターの後端から印刷インキがしみ出す現象が発生する。また、多孔性樹脂膜及び多孔性繊維膜内の空隙率が低くなることが多く、サーマルヘッドによる穿孔を阻害しやすくなる。通気性が157cm3/cm2・秒を超える場合には、多孔性樹脂膜及び多孔性繊維膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され裏汚れやにじみ等の不具合が発生し、通気性は小さすきても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。
【0040】
多孔性樹脂膜4は、熱可塑性樹脂フィルム1が穿孔されたときに、その穿孔面積D(D≧314μm2)に対する空隙率が(−0.0063D+61)%以上の範囲にあるのが望ましい。フィルム穿孔部における多孔性樹脂膜の構成要素4bの割合が多いと、フィルム穿孔性やインク通過性が悪くなり、ドット再現性が低下する。より好ましくは、前記空隙率(−0.0063D+61)%以上を満すフィルムの穿孔数の割合は、穿孔部の80%以上であり、これにより階調性にすぐれた印刷画像が得られる。
【0041】
印刷はサーマルヘッドによるフィルムの穿孔部分をインキが通過することにより行われるが、セルが閉じた状態ではインキが通過することができない。しかし、感熱孔版印刷用インキは一般にW/O系エマルションであり、多孔性樹脂膜の一部がこれらの成分で実質的に破壊され皮膜状でなくなることにより、この問題は解決できる。セルは閉じた状態でないほうが望ましい。
【0042】
セルの形成は、単独では上記特性を示さなくても混合することにより上記特性を示す物質も使用可能である。形成時又は形成後、機械的あるいは化学的手段により皮膜の一部分を破壊する手段によってもよい。実際には、本発明の感熱孔版印刷用マスターを製造するには、泡沫によって形成された多孔性樹脂膜を熱可塑性樹脂フィルム上に形成するのがよい。
【0043】
また、本発明の感熱孔版印刷用マスターは、サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜の少なくとも一部が残るものであることが好ましい。穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残ることによって、インキ転写量が制御され、印刷物の裏汚れが抑制される。従って、本発明の感熱孔版印刷用マスターのサーマルヘッドによる穿孔後の模式断面は、例えば図4で示される。図4において、1は熱可塑性樹脂フィルム、4は多孔性樹脂膜、5は熱可塑性樹脂フィルム熱穿孔部、7は多孔性繊維膜、8は機能性膜をそれぞれ示す。
【0044】
多孔性樹脂膜材料の主成分となるプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、スチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニル−塩化ビニリデンコポリマー、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマー等のようなビニル系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸系プラスチック、ジエン系プラスチック、ポリブチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッソ系樹脂、ポリウレタン系プラスチック、各種天然プラスチック、天然ゴム系プラスチック、各種熱可塑性エラストマー、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピルセルロース等のセルロース誘導体等、微生物プラスチックなどや、これらのポリマーを含むコポリマーなどが挙げられる。その他、各種脂肪酸、ワックスなど各種炭水化物、各種タンパク質も使用できる。
【0045】
本発明の感熱孔版印刷用マスターの多孔性樹脂膜の第1の形成方法は、フィルム上に樹脂溶液を塗布し、溶剤が揮発する際の蒸発潜熱により塗液上の雰囲気を冷却、凝結した貧溶媒を塗液中に取り込ませ、多孔性樹脂膜を形成させることによるものである。即ち、まずフィルム上に樹脂溶液を塗布し、乾燥させる。このとき溶剤が揮発する際の蒸発熱により塗液が冷却され、これによって塗液上の雰囲気が冷却される。冷却されたことによって雰囲気中の貧溶媒が凝結し、塗液中に取り込まれる。その結果、樹脂溶液中に取り込まれた貧溶媒が樹脂を析出させることによって、多孔性樹脂膜が形成される。
【0046】
望ましい樹脂溶液の濃度は使用する材料によって異なるが、溶液中の樹脂濃度が低すぎると乾燥中に多孔性樹脂膜が壊れやすく、空隙の不足あるいは多孔性樹脂膜の厚みのムラが生じやすい。逆に、溶液中の樹脂濃度が高いと樹脂溶液中に貧溶媒を取り込みにくくなり、多孔性樹脂膜が形成されにくく、あるいは形成されても孔径が小さくなり所望の特性は得られにくい。
【0047】
多孔性樹脂膜の平均孔径は膜のフィルムに近い部分ほど小さくなり、またこの傾向は多孔性樹脂膜が厚いほど顕著になり、均一な孔径を得ることが困難になる。そこで孔径をより均一にするために、樹脂溶液中にあらかじめ樹脂に対する貧溶媒を添加しておいても良い。一般に貧溶媒の添加量が多いほど径が大きく、均一な多孔性樹脂膜が形成される。しかし、貧溶媒の添加量を過剰にした場合、塗布前に溶液中の樹脂が析出してしまうので、樹脂の溶解特性によって樹脂の析出しない範囲で貧溶媒の添加量を決める。このとき良溶媒は相対的に貧溶媒より低温で蒸発しやすい組み合わせが必要である。良溶媒と貧溶媒をそれぞれ一種ずつ用いる場合には、良溶媒の沸点は相対的に貧溶媒の沸点より低くなければならない。良溶媒と貧溶媒の選定は任意であるが、一般には沸点差が15〜40℃である場合に所望の特性を持つ多孔性樹脂膜が形成されやすい。沸点差が10℃未満の場合には、両溶媒の蒸発時間差が小さく、形成される膜が多孔性構造になりにくい。貧溶媒の沸点が高すぎる場合には、乾燥に時間がかかり生産性に劣るため、貧溶媒の沸点は100℃以下であることが望ましい。
【0048】
多孔性樹脂膜の平均孔径の大きさは雰囲気中の貧溶媒の影響を受け、一般にその濃度が高いほど凝結量が多くなり、平均孔径は大きくなる。しかし、平均孔径の大きさへの寄与率は、樹脂液中の貧溶媒量によって著しく変化し、一般に貧溶媒の樹脂液中への添加量が多い程、雰囲気中の貧溶媒の濃度の影響が小さくなる。
【0049】
多孔性樹脂膜形成を容易にするために、加湿器や霧吹き等によって貧溶媒の蒸気や微粒子をフィルム上の塗布液上に吹き付けても良い。吹き付ける貧溶媒の粒子径を変えることによって、多孔性樹脂膜の孔径を変えることができる。樹脂液塗布前にフィルム上に気化装置、霧吹き装置等によって貧溶媒を与えておくことは多孔性樹脂膜とフィルムの接点を少なくし、サーマルヘッドによる穿孔性を向上させる効果がある。
【0050】
一般には貧溶媒として水又はアルコールが用いられることが多い。乾燥条件としてはフィルムに悪影響を与えないことが必要で、乾燥温度も60℃以下が望ましい。
【0051】
表1及び表2に代表的な樹脂について良溶媒、貧溶媒、及びその沸点を示す。なお、表中、○は良溶媒を×は貧溶媒を表す。各樹脂、各良溶媒、各貧溶媒も2種以上を用いても良い。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
樹脂溶液中には、必要に応じてフィラーを添加してもよい。この添加は、乾燥過程で生成する多孔性樹脂膜の形状、強度、孔径の大きさに影響を与えるものである。具体的には、酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ等の無機化合物、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸メチル等の有機ポリマー粒子である。松本油脂製薬株式会社のマイクロカプセル、マツモトマイクロスフィアーも有効に利用できる。
【0055】
本発明の多孔性樹脂膜には、本発明の効果を阻害しない範囲内で帯電防止剤、スティック防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等を併用することができる。塗布する樹脂液の処方、塗布条件、乾燥方法等はいくつかの実験により決定される。塗布にはブレード、トランスファーロール、ワイヤーバー、リバースロール、グラビア、ダイ等の各種方式のコーターが用いられる。
【0056】
本発明の感熱孔版印刷用マスターの多孔性樹脂膜の第2の形成方法は、2種以上の溶媒の混合液中に溶解している樹脂を、熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し、その乾燥中に樹脂濃度が高くなることにより樹脂を析出させ、多孔性樹脂膜を形成するものである。この場合、混合溶媒は通常、樹脂に対する良溶媒と貧溶媒の混合液であることが好ましい。混合溶媒中の貧溶媒の割合が高い程、形成される多孔性樹脂膜の空隙の径が大きくなる傾向が見られるが、貧溶媒の割合を過剰にした場合、塗布前に溶液中の樹脂が析出してしまうので、樹脂の溶解特性によって樹脂の析出しない範囲で貧溶媒の割合を決める。
【0057】
混合溶媒の条件として、良溶媒が貧溶媒に対して相対的に低温で蒸発しやすい組み合わせが好ましい。良溶媒と貧溶媒をそれぞれ一種ずつ用いる場合には、良溶媒の沸点は相対的に貧溶媒の沸点より低いことが望ましい。良溶媒と貧溶媒の選定は任意であるが、一般には良溶媒の沸点が15〜40℃低い場合に、所望の特性を持つ多孔性樹脂膜が形成されやすい。沸点差が10℃未満の場合には、両溶媒の蒸発時間差が小さく、形成される膜が多孔性構造になりにくいことが多い。溶媒の沸点が高すぎる場合には、乾燥に時間がかかり生産性に劣るため溶媒の沸点は100℃以下であることが望ましい。3種以上の溶媒を用いても良い。この場合にも、樹脂溶液中の主な良溶媒の沸点が主な貧溶媒の沸点よりも15〜40℃低いことが望ましい。
【0058】
乾燥条件としてはフィルムに悪影響を与えないことが必要で、乾燥温度も60℃以下が望ましい。樹脂、良溶媒、貧溶媒には第1の形成方法と同じものを用いることができる。
【0059】
各樹脂は2種以上を混合して用いても良い。樹脂溶液中には、必要に応じてフィラーを添加してもよい。この添加は、乾燥過程で生成する多孔性樹脂膜の形状、強度、孔径の大きさに影讐を与えるものである。具体的には、酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ等の無機化合物、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸メチル等の有機ポリマー粒子が使用できる。マイクロカプセル等も有効に利用できる。
【0060】
第1の形成方法の場合と同様に、本発明の多孔性樹脂膜には、本発明の効果を阻害しない範囲内で帯電防止剤、スティック防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等を併用することができる。塗布する樹脂液の処方、塗布条件、乾燥方法等はいくつかの実験により決定される。塗布にはブレード、トランスファーロール、ワイヤーバー、リバースロール、グラビア、ダイ等の各種方式のコーターが用いられる。
【0061】
本発明に使用される熱可塑性樹脂フィルムとしては、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム等の従来より感熱孔版印刷用マスターに使用されているものが使用できるが、融解エネルギーが3〜11cal/gのポリエステルフィルム(特開昭62−149496号公報参照)、結晶化度が30%以下のポリエステルフィルム(特開昭62−282983号公報参照)、ブチレンテレフタレート単位を50mol%以上含むポリエステルフィルム(特開平2−158391号公報参照)等の低エネルギーで穿孔可能なポリエステルフィルムが好ましい。フィルムの厚さは、0.5〜10μm、更に好ましくは1.0〜7.0μmである。0.5μm未満では薄すぎて樹脂液の塗布が困難であり、10μmを越えるとサーマルヘッドでの穿孔が困難となる。
【0062】
本発明の感熱孔版印刷用マスターにおいても、フィルムの表面にサーマルヘッドとのスティック防止のためのスティック防止層を設けることができる。この場合、使用されるスティック防止剤としては、従来の感熱孔版印刷用マスターで一般的に使用されている物が使用できる。例えばシリコーン系離型剤、フッ素離型剤、リン酸エステル系界面活性剤等が例示できる。
【0063】
本発明の感熱孔版印刷用マスターにおいては、前述のようにして多孔性樹脂膜4をフィルム表面に形成した後に、この多孔性樹脂膜4の表面に機能性膜8と公知の方法で製造された繊維状物質で形成された多孔性繊維膜7が、ラミネートされる。多孔性樹脂膜と多孔性繊維膜は、機能性膜によってラミネートされる。
【0064】
特開平10−147075号公報において、多孔性樹脂膜の上に多孔性繊維膜を1層積層した感熱孔版印刷用マスターを開示したが、多孔性繊維膜と当接する面上に耐刷の満足させる為の強度を有する多孔性繊維膜では、その繊維径が太くなり印刷画像に影響を及ぼしてしまう。
【0065】
そのため、本発明の機能性膜では、多孔性繊維膜を図4の用に多孔性樹脂膜と多孔性繊維膜との間に隙間を形成すると共に点接触で多孔性樹脂膜と接着している。この機能性膜が形成する空間によってインク拡散を行う。
【0066】
機能性膜は、多孔性樹脂膜を溶解しないものが好ましい。従って、水溶性樹脂で構成されている。
【0067】
機能性膜として用いられる水溶性樹脂は、一般的に用いられる水溶性樹脂でよく、例えば、デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、メチルセルローズ、ポリアクリル酸Na、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、カルボキシルメチルセルローズ、エチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズ等の水溶性樹脂等が挙げられるが、より接着強度の高い樹脂としては、ポリビニルアルコールが望ましい。
更に、水溶性樹脂の中には機能性膜(空隙)形成を容易にするため、顔料を用いても良い。
【0068】
機能性膜の厚みとしては、1〜10μm程度が好ましい。1μmよりも少ないと、インクの分散性が悪く、10μm以上ではマスター自体の厚さが厚くなり、画像立ち上がりが悪くなる。
【0069】
機能性膜の塗布液の粘度が低いと塗布液が多孔性樹脂膜の開口部3の内部に入り込み、インク通過性が悪くなるので、塗布液の粘度としては多孔性樹脂膜の開口部内に流れ込まない程度に高い方が好ましい。更に、高粘度の塗布液を多孔性繊維膜表面にローラで塗布し、多孔性繊維膜表面にラミネートする。また、高粘度の塗布液を多孔性繊維膜表面にローラで塗り、粘着剤が乾燥してから多孔性樹脂膜表面にラミネートしてもよい。
【0070】
機能性膜の塗布液を多孔性樹脂膜の表面に、グラビア、フレキソ、オフセット等の印刷法や、ノズルからの吹きつけで印刷し、その上に多孔性繊維膜をラミネートしても良い。
【0071】
なお、機能性膜ではインクの分散性を良くするため、機能性膜の構成要素はつながっていなくてもよい。
【0072】
本発明の多孔性繊維膜7としては、ガラス、セピオライト、各種金属などの鉱物繊維:羊毛、絹などの動物繊維:綿、麻などの植物繊維:スフ、レーヨンなどの再生繊維:ポリエステル、ポリビニルアルコール、アクリルなどの合成繊維:カーボンファイバーなどの半合成繊維:ウイスカ構造を有する無機繊維などの薄葉紙が挙げられる。この場合の繊維状物質の太さは穿孔直径、フィルムの厚さなどにより適当なものを選択する必要があるが、直径30μm以下、好ましくは1〜10μmである。直径が1μmより小さいと引張り強度が弱く着層が困難であり、30μmより大きいとインキの通過が妨げられて画像にいわゆる繊維による白抜けが現れたりする。繊維状物質の直径はデニールと比重から円直径に換算してもよい。また、繊維状物質の長さは0.1〜2mmが適当であり、これより長いと分散が均一に行いづらくなる。
【0073】
本発明における多孔性繊維膜の坪量は、好ましくは1〜20g/m2、更に好ましくは3〜10g/m2である。坪量が20g/m2を超えるとインキの通過性が低下して画像鮮明性が低下する。また坪量が1g/m2より少ないと支持体として十分な強度を得られない場合がある。
【0074】
本発明における繊維状物質からなる多孔性繊維膜の作成方法は特に限定されないが、短繊維を湿式抄紙した抄造紙であっても良いし、不織布や織物であっても良いし、スクリーン紗などであっても良く、生産性、コスト面より抄造紙を好ましく用いる事ができる。
【0075】
上記例では、前記多孔性繊維膜として1層を用いたが、複数用いても良い。この場合、上の層ほど空隙を大きくして置くと、インクの分散性が良くなる。
【0076】
あるいは、多孔性繊維膜7のかわりに、多孔性樹脂膜をもう一層積層してもよい。その時、多孔性樹脂膜の強度を高くするため、体質顔料を多めに添加する。
また、フィルムと多孔性支持体との間に、フィルム面の平滑性の向上や、フィルムと多孔性支持体との接着力を向上させるため、薄膜を1層設けるようにしても良い。
【0077】
形成方法としては、フィルム表面に薄膜をブレードやワイバー等で塗布してから、多孔性樹脂膜を積層するようにする。この場合、薄膜の主成分としては、多孔性樹脂膜と同じであるものが好ましい。
更に、フィルムと、薄膜との密着性や強度を良くする為に体質顔料を添加しても良い。
【0078】
本発明で用いる代表的な体質顔料としては、一般的なものが使用可能である。例えば、パライト粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸石炭粉、沈降性炭酸カルシウム、カオリン、クレイ、シリカ、含水ケイ酸、タルク、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、ブロスホワイト、サチンホワイト、亜鉛華、塩基性炭酸鉛、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、硫化亜鉛、酸化チタン等の体質顔料がある。これらは所謂フィラーと呼ばれるものである。また、それらのウイスカ状のものなら何ら支障なく使用が可能である。より好ましくは、酸化物系ウイスカ、複酸化物系ウイスカが選択され、例えば、チタン酸カリウム類、ホウ酸カリウム類、針状酸化チタン類等は最適である。
【0079】
本発明の感熱孔版印刷用マスターにおいて、最表面に繊維状物質からなる多孔性支持体を複数層積層しない場合には、引張り強度が弱く、印刷中に感熱孔版印刷用マスターに伸びや切れを発生し易くなる。
【0080】
このように、フィルムと比較的構成要素(例えば繊維)の径や容積が大きい多孔性繊維膜との間に、多孔性樹脂膜や機能性膜が存在するため、本発明の感熱孔版印刷用マスターは、繊維等が重なり接着剤が集積し、サーマルヘッドによる穿孔の阻害がない。更に、多孔性樹脂膜でインクを均一に分散するので、繊維の重なりによる印刷むらを発生しない。
【0081】
【実施例】
次に実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。ここでの部は重量基準である。
【0082】
(実施例1)
セルロースアセテートブチレート(軟化点131℃) 5部
(イーストマンコダック社製CAB381−20)
メチルエチルケトン(沸点79.6℃) 85部
水(沸点100.0℃) 5部
メチルアルコール(沸点64.5℃) 5部
上記組成の液を撹拌溶解し、静置し十分消泡してから30℃、50%RH雰囲気中で、3.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルムの上にワイヤーバー(0.6mm径)にて均一塗布した。これをそのまま1分間放置した後、50℃乾燥ボックスで2分間放置し乾燥させることにより、フィルム1上に多孔性樹脂膜4を形成した。この多孔性樹脂膜4の表面状態は、図5に模式的に示される。フィルム1の多孔性樹脂膜4を形成したのと反対面に、熱溶融したフィルムがサーマルヘッドにスティックするのを防止するため、及び帯電防止を目的として、シリコーン樹脂とカチオン系帯電防止剤の混合物を、乾燥後の付着量約0.05g/m2になるように塗布した。
【0083】
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 1部
(ユニオンカーバイト社製、VYHH)
ポリエステル繊維 2.1部
(帝人社製、0.15デニール、比重1.4として直径4μm)
酢酸エチル 8部
からなる混合物をよくボールミルで分散し、厚さ1.5μmのポリエステルフィルムにロールコーターを用いて乾燥付着量として3.5g/m2に塗工し、多孔性繊維膜7を作成した。乾燥温度は50℃とした。得られた多孔性繊維膜7をポリエステルフィルムより剥離し、一方、ポリビニルアルコール樹脂(クラレ社製、PVA205:部分ケン化、重合度500)の10%水溶液を調整後、これの100部を採取した。液に8チタン酸カリウム(大塚化学社製、ティスモD)5部とシリカ(シオノギ製薬社製、FDS−2)5部を添加後、スターラーで撹拌分散して水溶性樹脂層(機能性膜)用塗液を調製し、この液を前記剥離した多孔性繊維膜7上に液付着量が10g/m2によるようにワイヤーバーで塗布し、その面を多孔性樹脂膜4にラミネートし、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0084】
(実施例2)
セルロースアセテートブチレート(軟化点131℃) 5部
メチルエチルケトン(沸点79.6℃) 60部
水(沸点100.0℃) 30部
メチルアルコール(沸点64.5℃) 5部
前記混合物を多孔性樹脂膜4の形成成分として使用する以外、実施例1と同じ条件にて多孔性樹脂膜及び機能性膜、多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0085】
(実施例3)
セルロースアセテートブチレート(軟化点131℃) 5部
メチルエチルケトン(沸点79.6℃) 85部
水(沸点100.0℃) 5部
メチルアルコール(沸点64.5℃) 5部
上記組成の液を撹拌溶解し、静置し十分消泡してから、30℃、50%RH雰囲気中で、3.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルム上にワイヤーバー(0.6mm径)にて均一塗布し、塗布面に加湿器(HITACHI Humidifier UV−107D)から10cmの距離で15秒間、水の微粒子を接触させた。これを1分間放置した後、50℃乾燥ボックスで2分間放置し乾燥させることにより、フィルム上に多孔性樹脂膜を形成し、上記実施例1と同じ条件にて機能性膜及び多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0086】
(比較例1)
セルロースアセテートブチレート(軟化点131℃) 15部
メチルエチルケトン(沸点79.6℃) 85部
上記組成の液を撹拌溶解し、静置し十分消泡してから20℃、60%RH雰囲気中で、3.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルム上にワイヤーバー(0.15mm径)にて均一塗布した。これをそのまま1分間放置した後、50℃乾燥ボックスで2分間放置し乾燥させることにより、フィルム上に多孔性樹脂膜を形成し、上記実施例1と同じ条件にて、機能性膜及び多孔性繊維膜を形成し、比較例の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0087】
(実施例4)
塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー(軟化点78℃) 3部
(ユニオンカーバイド社製VYHH)
アセトン(沸点56.1℃) 20部
エチルアルコール(沸点78.3℃) 8部
上記組成の液を撹拌溶解し、静置し十分消泡してから、20℃、50%RH雰囲気中で、3.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルムの上にワイヤーバー(1.0mm径)にて均一塗布した。これを50℃乾燥ボックスで2分間放置し乾燥させることにより、フィルム上に多孔性樹脂膜を形成した。この多孔性樹脂膜4の表面状態は、図6に模式的に示される。更に、上記実施例1と同じ条件にて機能性膜及び多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0088】
(実施例5)
3.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルムの代わりに1.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルムを使用した他は、上記実施例4と同じ条件にて多孔性樹脂膜及び機能性膜、多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0089】
(実施例6)
塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー(軟化点83℃) 3部
(ユニオンカーバイド社製VAGD)
メチルエチルケトン(沸点79.6℃) 17部
メチルアルコール(沸点64.5℃) 9部
前記混合物を多孔性樹脂膜4の形成成分として使用する以外、上記実施例4と同じ条件にて多孔性樹脂膜及び機能性膜、多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0090】
(実施例7)
セルロースアセテートブチレート(軟化点131℃) 3部
アセトン(沸点56.1℃) 18部
水(沸点100.0℃) 5部
シリカ粉末 0.3部
前記混合物を多孔性樹脂膜4の形成成分として使用する以外、上記実施例4と同じ条件にて多孔性樹脂膜及び機能性膜、多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0091】
(比較例2)
アクリル酸−スチレンコポリマー(軟化点47℃) 16部
(O/Wエマルション樹脂成分43%)
(ジョンソンポリマー社製J840)
水(沸点100.0℃) 33部
シリカ粉末 3部
特開平4−7198号公報に開示されている上記組成の液を均一に分散した後、上記実施例4と同じ条件にて多孔性樹脂膜及び機能性膜、多孔性繊維膜を形成し、比較例の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0092】
(実施例8)
ポリビニルブチラール(軟化点87℃) 8部
(電気化学工業社製 PVB3000−2)
エチルアルコール(沸点78.3℃) 69部
水(沸点100.0℃) 23部
アクリル酸−スチレンコポリマー(軟化点65℃) 1.2部
(ジョンソンポリマー社製J679)
上記組成の液を撹拌溶解した後、酸化チタン(ルチル)1.6部を添加し、これをボールミルにて1時間分散させる。分散後、上記実施例4と同じ条件にて多孔性樹脂膜及び機能性膜、多孔性繊維膜を形成し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0093】
(比較例3)
実施例1〜4、6、7及び比較例1、2に用いた3.5μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、実施例1と同様にシリコーン樹脂とカチオン系帯電防止剤の混合物を、乾燥後の付着量約0.05g/m2になるように塗布し、比較例の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0094】
(比較例4)
7.0μm厚の2軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、実施例1と同様にシリコーン樹脂とカチオン系帯電防止剤の混合物を、乾燥後の付着量約0.05g/m2になるように塗布し、比較例の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0095】
(比較例5)
実施例2と同様にして、ただ多孔性樹脂膜のみを形成し、比較例の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0096】
(比較例6)
実施例2と同様にして、ただ多孔性樹脂膜のみを形成し、
塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 1部
(ユニオンカーバイト社製、VYHH)
ポリエステル繊維 2.1部
(帝人社製、0.15デニール、比重1.4として直径4μm)
酢酸エチル 8部
からなる混合物をよくボールミルで分散し、厚さ1.5μmのポリエステルフィルムにロールコーターを用いて乾燥付着量として3.5g/m2に塗工し、多孔性繊維膜7を作成した。乾燥温度は50℃とした。得られた多孔性繊維膜7をポリエステルフィルムより剥離し、多孔性繊維膜7にポリエチレン系接着剤を3g/m2塗布し、その面を多孔性樹脂膜4にラミネートし、比較例の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0097】
(実施例9)
ポリビニルアルコール樹脂(クラレ社製、PVA205:部分ケン化、重合度500)の10%水溶液を調製後、これの100部を採取した。この液に8チタン酸カリウム(大塚化学社製、ティスモD)5部とシリカ(シオノギ製薬社製、FDS−2)5部を添加後、スターラーで撹拌分散して水溶性樹脂層用塗液を調製した。この液を多孔性繊維膜7上に液付着量が10g/m2によるようにワイヤーバーで塗布し、その面に実施例1と同様に多孔性樹脂膜4と機能性膜、多孔性繊維膜を積層し、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0098】
<評価>
以上得られた感熱孔版印刷用マスターについて、樹脂の軟化点、多孔性樹脂膜平均孔径、面積率1及び2、コシの強さを下記の方法で測定し、且つ強度、穿孔感度、画質、裏汚れを(株)リコー製の孔版印刷機プリポートVT3820及びそのインキ(VT600 II、lot no.960604−22)を用いて試験し、下記の基準で評価した。製版印刷は20℃、60%RH環境中で印加パルス幅を7%標準状態より長く設定して、印刷速度3速で行った。それらの結果を表3に示す。
【0099】
(イ)樹脂の軟化点
熱応力歪測定装置TMA/SS150C(セイコー電子工業社製)を用いて測定した。
【0100】
(ロ)多孔性樹脂膜平均孔径
1000倍で撮影した電子顕微鏡表面写真の孔部をトレーシングペーパーを用いてマーキングし、LA−555D〔(株)ビアス製〕を用いて画像処理し、各孔径を真円に換算し、その平均値とした。
【0101】
(ハ)面積率1
面積率1は各孔径を真円に換算した時の、直径が5μm以上の孔の開口面積の合計の、多孔性樹脂膜全表面積中の割合であり、1000倍で撮影した電子顕微鏡表面写真の孔部をトレーシングペーパーを用いてマーキングし、LA−555D〔(株)ビアス製〕を用いて画像処理して、各孔径を真円換算して求めた。
【0102】
(ニ)面積率2
面積率2は、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計の、多孔性樹脂膜全開口面積中の割合であり、1000倍で撮影した電子顕微鏡表面写真の孔部をトレーシングペーパーを用いてマーキングし、LA−555D〔(株)ビアス製〕を用いて画像処理して、各孔径を真円換算して求めた。
【0103】
(ホ)コシの強さ
ローレンツェンスティフネステスターで測定した。
【0104】
(へ)強度
サーマルヘッドで走行させたときに多孔性樹脂膜及び多孔性繊維膜が剥がれないものを◎、僅かに剥がれのあるものを○で示した。
【0105】
(ト)穿孔感度
マスターのフィルム部分がサーマルヘッドによって、全く正常に穿孔されるものを◎、穿孔されるが部分的に穿孔径が小さくなるものを○、部分的に穿孔されないものを△、ほとんど穿孔されないものを×で示した。
【0106】
(チ)画質
印刷画像を肉眼で観察し、にじみやカスレ、濃度ムラが現行マスター〔(株)リコーVTIIマスター〕よりも優れるものを◎、現行マスターと同等であるものを○、現行マスターよりも劣るものを×で示した。
【0107】
(リ)裏汚れ
印刷物を肉眼で観察し、現行マスター〔(株)リコーVTIIマスター〕よりも優れるものを◎、現行マスターと同等であるものを○、現行マスターよりも劣るものを×で示した。
【0108】
(ヌ)画像濃度
印刷物の画像濃度をMacbeth社製RD914濃度計にて測定し、その実測値を示した。
【0109】
(ル)印刷伸び
3000枚印刷を終了した後に、マスターの伸び無しを◎、伸びがあるものを×で示した。
【0110】
【表3】
【0111】
(実施例10)
ポリビニルブチラール(軟化点87℃) 4部
(電気化学工業社製PVB3000−2)
エチルアルコール 35.5部
水 11.5部
針状珪酸マグネシウム 0.8部
(水沢化学社製、エードプラスSP)
ポリビニルブチラール樹脂をエチルアルコール及び水の混合液中に溶解後、針状珪酸マグネシウムを添加し、ボールミルで十分分散混合した。濾過して塗布液とした。この塗布液を、厚さ3.5μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上に、ワイヤーバー塗布方式で均一塗布した。塗布後直ちに50℃の熱風中に3分間乾燥して、ポリエステルフィルム上に多孔性樹脂膜を形成し、更に実施例1と同様にして機能性膜、多孔性繊維膜を作成し、それを多孔性樹脂膜にラミネートした。ワイヤーの径0.6mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.4mmのワイヤーバーを用いて、多孔性樹脂膜の付着量を変えたサンプルを作成した。ここで面積率1は、35〜43%であった。また、多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体の通気性はそれぞれ62cm3/cm2・秒、53cm3/cm2・秒、57cm3/cm2・秒、48cm3/cm2・秒、39cm3/cm2・秒で、コシの強さ65mNで、裏移りのない十分な画像濃度が得られた。コシの強さと画像濃度との関係を図7に▲1▼として示した。
【0112】
ここで通気性の測定は、孔版印刷機プリポートVT3820〔(株)リコー製品〕で10cm×10cmのベタ部のチャートを読み込ませ、同ベタと対応する穿孔をサンプルに施し、次いでPermeameter〔通気性試験機;(株)東洋精機製作所製品〕にて測定した。また、フィルム面開口面積率は、光学顕微鏡にてフィルム面の拡大写真を撮影(倍率100倍)し、次いで普通紙複写機イマジオMF530〔(株)リコー製〕にて拡大コピー(200%)した。コピーした物にOHPフィルムを重ね合わせ、OHPフィルムに開口部をマーキングした。マーキングしたOHPフィルムをスキャナー(300DPI・256階調)にて読み取り、画像レタッチソフト・Adobe Photoshop2.5Jを用い、2値化した。その後、画像解析フリーウェアソフト・NIH imageにて、マーキングした開口部の画像面積率を測定した。
【0113】
(実施例11)
ポリビニルブチラール(軟化点.87℃) 4部
(電気化学工業社製PVB3000−2)
エチルアルコール 35.5部
水 1.5部
上記処方にて、実施例4と同様に多孔性樹脂膜を形成し、さらに機能性膜及び多孔性繊維膜を形成した。ここで面積率1は、33〜40%であった。また、多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体の通気性は60cm3/cm2・秒、31cm3/cm2・秒、26cm3/cm2・秒、21cm3/cm2・秒、17cm3/cm2・秒に低下した。コシの強さと画像濃度の関係について図7に▲2▼として示した。図7から判るように、フィラーを添加した本発明の感熱孔版印刷用マスターはコシの強さが上がっても、画像濃度はほとんと変化無い。しかし、フィラーを添加しない本例では、コシの強さが上がるにつれて画像濃度が低下した。これは多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜からなる支持体の通気性が小さくなり、インキの通りが低下したためであった。
【0114】
(実施例12)
ポリビニルアセタール 2部
エチルアルコール 18部
水 3部
板状珪酸マグネシウム(タルク) 0.4部
(日本タルク社製ミクロエースP4)
ポリビニルアセタールの樹脂溶液に、板状珪酸マグネシウムを添加後、ボールミルにて分散混合した。厚さ1.5μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上に、実施例4と同様にワイヤーバーにて均一塗布した。塗布後、直ちに50℃の熱風中で3分間乾燥して、多孔性樹脂膜を作成した。その後、更に実施例1と同様にして機能性膜、多孔性繊維膜を作成し、それを多孔性樹脂膜にラミネートとした。ここで面積率1は、65〜76%であった。多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体の通気性はそれぞれ54cm3/cm2・秒、60cm3/cm2・秒、56cm3/cm2・秒、46cm3/cm2・秒、37cm3/cm2・秒で、コシの強さと画像濃度の関係を図7に▲3▼として示した。
【0115】
(実施例13)
ポリビニルアセタール 2部
エチルアルコール 18部
水 13部
実施例6と同様に多孔性樹脂膜を形成し、さらに機能性膜及び多孔性繊維膜を作成した。ここで面積率1は、61〜72%であった。多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体の通気性はそれぞれ54cm3/cm2・秒、39cm3/cm2・秒、28cm3/cm2・秒、19cm3/cm2・秒、12cm3/cm2・秒で、コシの強さが増すにつれて低下した。コシの強さと画像濃度の関係について、図7に▲4▼として示した。板状珪酸マグネシウムの添加によりコシの強さが上がっても、画像濃度が高いことが判る。しかし、フィラーを添加しない本例では、コシの強さが上がるにつれて、画像濃度が急激に低下する。この現象は、面積率1が低く多孔性樹脂膜が十分できていないことを示す。
【0116】
(実施例14)
ポリカーボネート 2部
ポリビニルブチラール 1.1部
テトラヒドロフラン 28部
エチルアルコール 3.8部
チタン酸カリウム系ウイスカ 0.4部
(大塚化学社製、トフィカY)
ポリカーボネートをテトラヒドロフラン、エチルアルコール混合液に溶解し、更に多孔性樹脂膜と熱可塑性樹脂フィルムの接着改良材としてのポリビニルブチラールを添加溶解した樹脂液にチタン酸カリウム系ウイスカを添加して、ボールミルで十分分散混合して塗布液とする。3.5μm厚の2軸延伸フィルム上に、1.0mmワイヤーバーを用いて均一に塗工して多孔性樹脂膜を作成した。その後、更に実施例1と同様にして機能性膜及び多孔性繊維膜を作成し、それを多孔性樹脂膜にラミネートとした。面積率1は44%、多孔性樹脂膜、機能性膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体の通気性は142cm3/cm2・秒であった。印刷物の裏移りが少なく、コシの強さ110mN、画像濃度1.05を示す感熱孔版印刷用マスターを得た。
【0117】
(実施例15〜20)
ポリビニルアセタール樹脂
(積水化学工業社製、エスレックKS−1) 3.2部
タルク(日本タルク社製、ミクロエースL−G) 2.4部
ソルビタン脂肪酸エステル
(日光ケミカルズ社製、SO−10) 0.1部
変性シリコーンオイル
(信越化学工業社製 KF6012) 0.1部
アクリル系ポリマーO/W型エマルション
(ジョンソンポリマー社製、Joncryl−711) 0.2部
以上を酢酸エチルに溶解、分散し、これに水(HEC 1%溶液)を撹拌しながらゆっくり添加して白濁した多孔性樹脂膜形成塗布液を得た。酢酸エチルと水(HEC1%溶液)の量は表4に示した各塗布液の固形分濃度(SC)に依り、両者の比率は酢酸エチル1.5に対して水(HEC 1%溶液)が1.0である。上記各塗布液を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ2.0μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上にダイヘッドで、乾燥後の付着量が表4に示した値になるように塗布、50℃50%RH雰囲気中で乾燥し多孔性樹脂膜を形成した。
多孔性樹脂膜形成後、実施例1と同様に、多孔性樹脂膜上に、機能性膜及び多孔性繊維膜形成をラミネートした。
【0118】
融着防止剤塗布液処方
シリコーンオイル(信越化学工業社製SF8422) 0.5部
界面活性剤(第一工業製薬社製プライサーフA208) 0.5部
トルエン 100.0部
次いで上記の融着防止剤塗布液を熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜と反対側の面にバーコーターを用いて乾燥後の付着量約0.05g/m2になるように塗布して本発明の感熱孔版印刷マスターを得た。
【0119】
上記で得た実施例15〜20のマスターを、孔版印刷機プリポートJP1300 JP5050 VT6000でそれぞれ、製版及び印刷を行い、10枚印刷後の画像を調査した。併せて、感熱孔版印刷用マスターの評価を表4、図8に示す。表4の印刷画像で、○は良好、△はやや白抜けあり、×は悪い、を表わしている。図8に示すように、多孔膜空隙率が、(−0.0063D+61)%以上の場合、印刷画像が良好な結果になった。
【0120】
<評価>
(オ)多孔性樹脂膜空隙面積率
マスターの多孔性樹脂膜をフィルム側から光学顕微鏡(オリンパス社製、Olympus BX60倍率200倍。照明は反射光、レベル9。偏光フィルターを最もメリハリの効く位置で使用。)で観察、コンピュータに画像を取り込む。ピントは多孔性樹脂膜表面に合わせる。(サンプルを光学顕微鏡の接眼レンズに徐々に近づけていき、多孔性樹脂膜の最初にピントの合った部分)これを、画像処理ソフト「WinROOF」(三谷商事社製)を用いて画像を二値化し、空隙面積率を求める。二値化の手順は、次の通り。グレー画像化、濃度変換(デフォルト)、自動2値化(Pタイル法、デフォルト)、穴埋め、削除(100以下)、計測(形状特徴一面積)。なお、多孔性樹脂膜に機能性膜、多孔性繊維膜を積層させるマスターの場合には、マスターの作成段階において、機能性膜及び多孔性繊維膜を積層させる前にフィルムの無い側から写真撮影を済ませておく。
【0121】
(ワ)フィルム穿孔面積
マスターのフィルム穿孔部を光学顕微鏡(オリンパス社製、Olympus BX60倍率200倍。照明は反射光、レベル9。偏光フィルターを最もメリハリの効く位置で使用。)で観察、コンピュータに画像に取り込む。
これを、画像処理ソフト「WinROOF」(三谷商事社製)を用いて画像を二値化し、空隙面積率を求める。二値化の手順は、次の通り。グレー画像化、濃度変換(デフォルト)、自動2値化(Pタイル法、デフォルト)、穴埋め、削除(500以下)、計測(形状特徴−面積)。
【0122】
【表4】
【0123】
【発明の効果】
請求項1〜7の発明によれば、コシ及び引張り強度の強い良質の画質が得られ、かつ印刷時の伸びを防止でき、更に、フィルムと繊維状物質からなる多孔性繊維膜との間に機能性膜が存在するため、比較的太い繊維を用いても、サーマルヘッドによる穿孔の阻害がなく、その上、機能性膜でインクを均一に分散するので、繊維の重なりによる印刷むらを発生しない感熱孔版印刷用マスターが得られた。さらに請求項4記載の発明によれば、フィルム面の平滑性が向上するので、穿孔不良を防止でき、多孔性樹脂膜との接着力も増加するので、印刷途中でのフィルム浮きを防止できる。
【0124】
請求項8の発明によれば、穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残ることによって、インキ転写量が制御され、印刷物の裏汚れが抑制される孔版印刷方法が提供される。
【0125】
請求項9の発明によれば、コシ及び引張り強度の強い良質の画質が得られる感熱孔版印刷用マスターを用いることにより、高画質で裏移りの少ない印刷が行えると共に印刷での伸びが防止できる孔版印刷装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の感熱孔版印刷用マスターの一例の模式断面図である。
【図2】本発明の感熱孔版印刷用マスターの他の例の模式断面図である。
【図3】本発明の感熱孔版印刷用マスターの他の例の模式断面図である。
【図4】サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜の少なくとも一部が残った感熱孔版印刷用マスターの模式断面図である。
【図5】実施例1の多孔性樹脂膜の表面状態を示す図である
【図6】実施例4の多孔性樹脂膜の表面状態を示す図である
【図7】多孔性樹脂膜及び多孔性繊維膜を有してなる支持体のコシの強さと画像濃度との関係を示す図である。
【図8】熱可塑性樹脂フィルムの穿孔面積と多孔性樹脂膜の空隙率との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 熱可塑性樹脂フィルム
4 多孔性樹脂膜
4b 多孔性樹脂膜を構成する構成要素
7 多孔性繊維膜
8 機能性膜
Claims (8)
- 熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に多孔性樹脂膜を有し、且つ該多孔性樹脂膜の表面に体質顔料を含む水溶性樹脂層からなる機能性膜と繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層してなり、
前記多孔性樹脂膜表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計が全表面積の4〜80%の範囲であり、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、その面が開口面積率で20%以上となるように穿孔されたときに、通気性試験機における測定値が12〜142cm3/cm2・秒の範囲であることを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。 - 熱可塑性樹脂フィルムの穿孔面積Dに対する該フィルムと接する多孔性樹脂膜の空隙率の範囲が、(−0.0063D+61)%以上(ただしD≧314μm2)であることを特徴とする請求項1記載の感熱孔版印刷用マスター。
- 多孔性樹脂膜の平均孔径が、1.7〜18μmである請求項1〜2のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
- 薄膜が、該熱可塑性樹脂フィルム上に密着して、該多孔性樹脂膜の該熱可塑性樹脂フィルム側の面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
- 多孔性樹脂膜の熱可塑性樹脂フィルム側の空隙面積率が27〜82%である請求項1〜4のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
- 該多孔性樹脂膜表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計が全開口面積の50%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
- 該多孔性樹脂膜表面において、真円換算時の直径が5μm以上の孔の開口面積の合計が全開口面積の80〜98%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスターを用い、穿孔後に穿孔部の背後に該多孔性樹脂膜の少なくとも一部が残るようサーマルヘッドにより穿孔することを特徴とする孔版印刷方法。
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