以下、発明を実施するための最良の形態を以下の順で説明する。
1.光ディスク装置の全体構成
2.光ピックアップの全体構成
3.対物レンズのレンズチルト感度について
4.レンズチルト補正の手法について
5.2層及び多層光ディスクに対する場合のレンズチルト補正の手法について
6.チルト補正処理(第1の例)
7.チルト補正処理(第2の例)
8.チルト補正処理(第3の例)
〔1.光ディスク装置の全体構成〕
以下、本発明が適用された光ディスク装置について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明が適用された光ディスク装置1は、光ディスク2から情報記録再生を行う光ピックアップ3と、光ディスク2を回転する回転駆動部となるスピンドルモータ4とを備える。また、光ディスク装置1は、光ピックアップ3を光ディスク2の径方向に移動させる送りモータ5を備えている。この光ディスク装置1は、フォーマットの異なる3種類の光ディスク及び記録層が積層化された光ディスクに対して情報信号の記録や再生を行うことができる3規格間互換性を実現した光ディスク装置である。
ここで用いられる光ディスク2は、例えば、発光波長が短い405nm程度(青紫色)の半導体レーザを光源に用いた高密度記録が可能なBD(Blu-ray Disc(登録商標))等の高密度記録型の第1の光ディスク11である。この第1の光ディスク11は、100μmm程度のカバー層を有し波長405nm程度の光ビームがカバー層側から照射される。なお、この第1の光ディスクには、記録層が単層である光ディスク(カバー層厚さ:100μm)や、記録層が2層である所謂2層光ディスクがあるが、更に、多くの記録層を有していても良い。2層光ディスクの場合は、記録層L0のカバー層厚さが100μm程度とされ、記録層L1のカバー層厚さが75μm程度とされている。
また、ここで用いられる光ディスク2は、例えば、発光波長を655nm程度の半導体レーザを光源に用いたDVD(Digital Versatile Disc)、DVD−R(Recordable)、DVD−RW(ReWritable)、DVD+RW(ReWritable)等の第2の光ディスク12である。第2の光ディスク12は、0.6mm程度のカバー層を有し、波長655nm程度の光ビームがカバー層側から照射される。なお、この第2の光ディスク12においても、複数の記録層を設けても良い。
更に、ここで用いられる光ディスク2は、例えば、発光波長が785nm程度の半導体レーザを光源に用いたCD(Compact Disc)、CD−R(Recordable)、CD−RW(ReWritable)等の第3の光ディスク13である。第3の光ディスク13は、1.2mm程度のカバー層を有し波長785nm程度の光ビームがカバー層側から照射される。
なお、以下、特に第1乃至第3の光ディスク11,12,13を区別しないときは、単
に光ディスク2ともいう。
光ディスク装置1において、スピンドルモータ4及び送りモータ5は、サーボ制御部9によりディスク種類に応じて駆動制御されている。これにより、スピンドルモータ4は、例えば、第1の光ディスク11、第2の光ディスク12、第3の光ディスク13を所定の回転数で駆動する。
光ピックアップ3は、3波長互換光学系を有する光ピックアップであり、規格の異なる光ディスクの記録層に対して異なる波長の光ビームを記録層に照射すると共に、この光ビームの記録層における反射光を検出する。
光ディスク装置1は、光ピックアップ3から出力された信号に基づいてフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号、RF信号等を生成するプリアンプ14を備える。また、光ディスク装置1は、プリアンプ14からの信号を復調し又は外部コンピュータ17等からの信号を変調するための信号変復調器及びエラー訂正符号ブロック(以下、信号変復調器&ECCブロックと記す。)15を備える。また、光ディスク装置1は、インターフェース16と、D/A,A/D変換器18と、オーディオ・ビジュアル処理部19と、オーディオ・ビジュアル信号入出力部20とを備える。
このプリアンプ14は、光検出器からの出力に基づいて、非点収差法等によってフォーカスエラー信号を生成し、また、3ビーム法、DPD法、DPP法等によってトラッキングエラー信号を生成する。また、プリアンプ14は、更にRF信号を生成し、RF信号を、信号変復調器&ECCブロック15に出力する。また、プリアンプ14は、フォーカスエラー信号とトラッキングエラー信号とをサーボ制御部9に出力する。
信号変復調器&ECCブロック15は、第1の光ディスク11に対して、データの記録を行うとき、インターフェース16又はD/A,A/D変換器18から入力されたディジタル信号に対して、以下の処理を行う。すなわち、信号変復調器&ECCブロック15は、第1の光ディスク11に対してデータを記録するとき、入力されたディジタル信号に対して、LDC−ECC及びBIS等のエラー訂正方式によってエラー訂正処理を行う。信号変復調器&ECCブロック15は、次いで、1−7PP方式等の変調処理を行う。また、信号変復調器&ECCブロック15は、第2の光ディスク12に対してデータを記録するとき、PC(Product Code)等のエラー訂正方式に従ってエラー訂正処理を行い、次いで、8−16変調等の変調処理を行う。更に、信号変復調器&ECCブロック15は、第3の光ディスク13に対してデータを記録するとき、CIRC等のエラー訂正方式によってエラー訂正処理を行い、次いで、8−14変調処理等の変調処理を行う。そして、信号変復調器&ECCブロック15は、変調されたデータをレーザ制御部21に出力する。更に、信号変復調器&ECCブロック15は、各光ディスクの再生を行うとき、プリアンプ14から入力されたRF信号に基づいて、変調方式に応じた復調処理を行う。更に、信号変復調器&ECCブロック15は、エラー訂正処理を行って、インターフェース16又はデータをD/A,A/D変換器18に出力する。
なお、データ圧縮してデータ記録するときには、圧縮伸長部を信号変復調器&ECCブロック15とインターフェース16又はD/A,A/D変換器18との間に設けても良い。この場合、データは、MPEG2やMPEG4といった方式でデータが圧縮される。
サーボ制御部9は、プリアンプ14からフォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号が入力される。サーボ制御部9は、フォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号が0となるようなフォーカスサーボ信号やトラッキングサーボ信号を生成し、これらのサーボ信号に基づいて、対物レンズを駆動する3軸アクチュエータ等の対物レンズ駆動部を駆動制御する。サーボ制御部9は、プリアンプ14からの出力より、同期信号等を検出して、CLV(Constant Linear Velocity)やCAV(Constant Angular Velocity)、更にはこれらの組み合わせの方式等でスピンドルモータを制御する。
レーザ制御部21は、光ピックアップ3のレーザ光源を制御する。特に、この具体例では、レーザ制御部21は、記録モード時と再生モード時とで発光部のレーザ光源の出力パワーを異ならせる制御を行っている。また、光ディスク2の種類に応じてもレーザ光源の出力パワーを異ならせる制御を行っている。レーザ制御部21は、ディスク種類判別部22によって検出された光ディスク2の種類に応じて光ピックアップ3のレーザ光源を切り換えている。
ディスク種類判別部22は、第1〜第3の光ディスク11,12,13の間の表面反射率や形状的及び外形的な違い等から反射光量の変化を検出し光ディスク2の異なるフォーマットを検出する。
光ディスク装置1を構成する各ブロックは、ディスク種類判別部22における検出結果に応じて、装着される光ディスク2の仕様に基づく信号処理ができるように構成されている。
システムコントローラ7は、ディスク種類判別部22で判別された光ディスクの種類に応じて装置全体を制御する。また、システムコントローラ7は、ユーザからの操作入力に応じて、光ディスク最内周にあるプリマスタードピットやグルーブ等に記録されたアドレス情報や目録情報(Table Of Contents;TOC)に基づいて、各部を制御する。すなわち、システムコントローラ7は、上述の情報に基づいて、記録再生を行う光ディスクの記録位置や再生位置を特定し、特定した位置に基づいて、各部を制御する。
以上のように構成された光ディスク装置1は、スピンドルモータ4によって、光ディスク2を回転操作する。そして、光ディスク装置1は、サーボ制御部9からの制御信号に応じて送りモータ5を駆動制御し、光ピックアップ3を光ディスク2の所望の記録トラックに対応する位置に移動することで、光ディスク2に対して情報信号の記録や再生を行う。
具体的には、光ディスク装置1により記録再生するときには、サーボ制御部9は、CAVやCLVやこれらの組み合わせで光ディスク2を回転する。光ピックアップ3は、光源から光ビームを照射して光検出器により光ディスク2からの戻りの光ビームを検出し、フォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号を生成する。また、光ピックアップ3は、これらフォーカスエラー信号やトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部により対物レンズを駆動してフォーカスサーボ及びトラッキングサーボを行う。
また、光ディスク装置1により記録する際には、外部コンピュータ17からの信号がインターフェース16を介して信号変復調器&ECCブロック15に入力される。信号変復調器&ECCブロック15は、インターフェース16又はA/D変換器18から入力されたディジタルデータに対して上述したような所定のエラー訂正符号を付加し、更に所定の変調処理を行った後に記録信号を生成する。レーザ制御部21は、信号変復調器&ECCブロック15で生成された記録信号に基づいて、光ピックアップ3のレーザ光源を制御して、所定の光ディスクに記録する。
また、光ディスク2に記録された情報を光ディスク装置1により再生する際には、光検出器で検出された信号に対して、信号変復調器&ECCブロック15が復調処理を行う。信号変復調器&ECCブロック15により復調された記録信号がコンピュータのデータストレージ用であれば、インターフェース16を介して外部コンピュータ17に出力される。これにより、外部コンピュータ17は、光ディスク2に記録された信号に基づいて動作することができる。また、信号変復調器&ECCブロック15により復調された記録信号がオーディオ・ビジュアル用であれば、D/A変換器18でデジタルアナログ変換され、オーディオ・ビジュアル処理部19に供給される。そして、オーディオ・ビジュアル処理部19でオーディオ・ビジュアル処理が行われ、オーディオ・ビジュアル信号入出力部20を介して、図示しない外部のスピーカやモニターに出力される。
〔2.光ピックアップの全体構成〕
本発明を適用した光ピックアップ3は、図2に示すように、第1の波長の光ビームを出射する第1の出射部を有する第1の光源部31を備える。また、光ピックアップ3は、第1の波長より長い第2の波長の光ビームを出射する第2の出射部と、第2の波長より長い第3の波長の光ビームを出射する第3の出射部とを有する第2の光源部32を備える。また、光ピックアップ3は、この第1乃至第3の出射部から出射された光ビームを光ディスク2の信号記録面上に集光する集光光学デバイスとしての対物レンズ34を備える。また、光ピックアップ3は、第1乃至第3の出射部と、対物レンズ34との間の光路上に配置され且つ光軸方向に移動可能とされるコリメータレンズ35を備える。かかるコリメータレンズ35は、第1乃至第3の波長の光ビームの発散角を変換して略平行光の状態又は所定の発散角を有する状態となるように調整して出射させる発散角変換素子として機能する。
また、光ピックアップ3は、光路分離部として機能する第1及び第2のビームスプリッタ36,37を備える。かかる第1及び第2のビームスプリッタ36,37は、復路の光ビームの光路と、第1乃至第3の出射部から出射された往路の各光ビームの光路とを分離する光路分離部である。ここで、復路の光ビームとは、対物レンズ34により光ディスク2の信号記録面に集光されてこの信号記録面で反射された戻りの第1乃至第3の波長の光ビームを意味するものとする。また、光ピックアップ3は、この第1及び第2のビームスプリッタ36,37により分離された復路(戻り)の第1乃至第3の波長の光ビームを受光する共通の受光部38を有する光検出器39を備える。また、光ピックアップ3は、第1のビームスプリッタ36と受光部38との間に設けられるマルチレンズ40を備える。かかるマルチレンズ40は、第1のビームスプリッタ36からの復路の第1乃至第3の波長の光ビームを受光部38の受光面に集光されるカップリングレンズとして機能する。
また、光ピックアップ3は、第1の光源部31の第1の出射部と第1のビームスプリッタ36との間に設けられる第1のグレーティング41を備える。かかる第1のグレーティング41は、第1の出射部から出射された第1の波長の光ビームをトラッキングエラー信号等の検出のために3ビームに回折する機能を有する。また、光ピックアップ3は、第2の光源部32の第2及び第3の出射部と第2のビームスプリッタ37との間に設けられる第2のグレーティング42を備える。かかる第2のグレーティング42は、第2及び第3の出射部から出射された第2及び第3の波長の光ビームをそれぞれトラッキングエラー信号等の検出のために3ビームに回折する機能を有する。
さらに、光ピックアップ3は、コリメータレンズ35と対物レンズ34との間に設けられ、入射した第1乃至第3の波長の光ビームに1/4波長の位相差を与える1/4波長板43を備える。また、光ピックアップ3は、対物レンズ34と1/4波長板43との間に設けられる立ち上げミラー44を備える。この立ち上げミラー44は、対物レンズ34の光軸に直交する平面内で上述した光学部品を経由された光ビームを反射して立ち上げることにより対物レンズ34の光軸方向に光ビームを出射させる。
第1の光源部31は、例えば半導体レーザ等からなり、第1の光ディスク11に対応すべく設計波長が405nm程度とする第1の波長の光ビームを出射する第1の出射部としての発光部を有する。第2の光源部32は、第2の光ディスク12に対応すべく設計波長が655nm程度とする第2の波長の光ビームを出射する第2の出射部を有する。また、第2の光源部32は、第3の光ディスク13に対応すべく設計波長が785nm程度とする第3の波長の光ビームを出射する第3の出射部を有する。この第2の光源部32において、第2及び第3の出射部は、この第2及び第3の出射部から出射される第2及び第3の波長の光ビームの光軸に直交する同一平面内に各発光点が位置するように配置されている。尚、ここでは、第1の出射部を第1の光源部31に配置し、第2及び第3の出射部を第2の光源部32に配置するように構成したが、これに限られるものではなく、第1乃至第3の出射部をそれぞれ別々の光源部に配置するように構成してもよい。また、第1乃至第3の出射部を略同一位置に有する光源部となるように構成してもよい。
第1のグレーティング41は、第1の光源部31と第1のビームスプリッタ36との間に設けられている。第1のグレーティング41は、第1の光源部31の第1の出射部から出射された第1の波長の光ビームをトラッキングエラー信号等の検出のために3ビームに回折して第1のビームスプリッタ36側に出射させる。
第2のグレーティング42は、第2の光源部32と第2のビームスプリッタ37との間に設けられている。第2のグレーティング42は、第2の光源部32の第2及び第3の出射部から出射された第2及び第3の波長の光ビームをトラッキングエラー信号等の検出のためにそれぞれ3ビームに回折して第2のビームスプリッタ37側に出射させる。この第2のグレーティング42は、波長依存性を有する所謂2波長グレーティングであり、第2及び第3の波長の光ビームに対して所定の3ビームに回折する機能を有している。
第1のビームスプリッタ36は、以下のような機能を有する分離面36aを有している。分離面36aは、第1のグレーティング41で回折され入射された第1の波長の光ビームを反射させて第2のビームスプリッタ37側に出射させるとともに、復路の第1乃至第3の波長の光ビームを透過させてマルチレンズ40側に出射させる機能を有している。この分離面36aは、波長依存性、偏光依存性等を有して形成されることにより上述のような機能を発揮する。そして、第1のビームスプリッタ36は、この分離面36aにより、復路の第1の波長の光ビームの光路と、第1の出射部から出射された往路の第1の波長の光ビームの光路とを分離する光路分離部として機能する。
第2のビームスプリッタ37は、以下のような機能を有する合成分離面37aを有している。合成分離面37aは、第1のビームスプリッタ36からの往路の第1の波長の光ビームを透過させてコリメータレンズ35側に出射させる。また、合成分離面37aは、第2のグレーティング42からの往路の第2及び第3の波長の光ビームを反射させてコリメータレンズ35側に出射させて導く。これとともに、合成分離面37aは、復路の第1乃至第3の波長の光ビームを透過させて第1のビームスプリッタ36側に出射させる機能を有している。この合成分離面37aは、波長依存性、偏光依存性等を有して形成されることにより上述のような機能を発揮する。そして、第2のビームスプリッタ37は、この合成分離面37aにより、往路の第1の波長の光ビームの光路と、往路の第2及び第3の波長の光ビームの光路とを合成してコリメータレンズ35側に導く光路合成部として機能する。また、第2のビームスプリッタ37は、この合成分離面37aにより、復路の第2及び第3の波長の光ビームの光路と、第2及び第3の出射部から出射された往路の第2及び第3の波長の光ビームの光路とを分離する光路分離部として機能する。
尚、この光ピックアップ3では、第1及び第2のビームスプリッタ36,37に光路分離部としての機能を持たせるとともに、第2のビームスプリッタ37に光路合成部としての機能を持たせるように構成したが、これに限られるものではない。すなわち、往路における第1乃至第3の波長の光ビームの光路を合成する光路合成部と、以下のような光路分離部とを設けるように構成してもよい。かかる光路分離部は、復路における第1乃至第3の波長の光ビームの光路を、この各第1乃至第3の波長の光ビームの往路の光路から分離して受光部38側に導くものであればよい。
コリメータレンズ35は、第2のビームスプリッタ37と、1/4波長板43との間に配置され、通過する光ビームの発散角を変換する発散角変換部である。コリメータレンズ35は、光源部31,32から出射され入射された光ビームの発散角を変換して略平行光等の所望の角度にする。
また、このコリメータレンズ35は、例えば、カバー層厚の誤差や温度変化等の要因により発生する球面収差を補正するために移動され、位置に応じて、対物レンズ34に入射する光ビームの発散角を変換する。すなわち、コリメータレンズ35は、光軸方向に移動可能とされ、光ピックアップ3には、このコリメータレンズ35を光軸方向に駆動して移動させるコリメータレンズ駆動部45が設けられている。コリメータレンズ駆動部45は、例えば送りモータによってリードスクリューを回転させてコリメータレンズ35を移動させてもよい。また、コリメータレンズ駆動部45は、対物レンズ駆動部のように、マグネットとコイルに流れる電流との作用により、コリメータレンズ35を移動させてもよい。さらに、リニアモータ等を用いてもよい。そして、コリメータレンズ35は、移動されることにより、平行光より僅かに収束された状態である収束光の状態で、又は僅かに発散された状態である発散光の状態で対物レンズ34に入射させることで、発生する球面収差を低減する。尚、光ピックアップ3には、コリメータレンズ駆動部45により移動されたコリメータレンズ35の位置を検出する位置センサー等のコリメータ位置検出部46を設けるように構成してもよい。
また、コリメータレンズ35は、光ピックアップが記録層が複数設けられている光ディスクに対して情報信号の記録再生を行う場合、フォーカスサーチによって表面反射率の変化が検出され又識別信号が読み出されることにより、記録層毎に適切な位置に移動される。この際、コリメータレンズ35は、各記録層に応じた位置に移動されることで、各記録層から光ディスクの光入射側の表面までの厚さ(「カバー層厚さ」ともいう。)の違いに起因する球面収差を低減する。すなわち、コリメータレンズ35及びコリメータレンズ駆動部45は、複数の記録層のそれぞれに対して適切に光ビームのビームスポットを形成することができる。このように、コリメータレンズ35等は、光軸方向に駆動されることで対物レンズ34への光ビームの入射倍率を変化させることで、温度変化やカバー層厚さ変化により発生する球面収差を低減でき、適切なビームスポットを形成することを可能とする。ここで、対物レンズ34への光ビームの入射倍率は、S’/Sで定義される倍率である。すなわち、Sは、物点から対物レンズ34の物側主面までの光軸方向の距離であり、S’は、対物レンズ34の像側主面から像点までの光軸方向の距離である。
以上のように、コリメータレンズ35及びコリメータレンズ駆動部45は、対物レンズ34への光ビームの入射倍率を変換する入射倍率可変部として機能する。ここで、本発明を適用した光ピックアップ3を構成する入射倍率可変部は、これに限られるものではなく、所謂ビームエキスパンダや液晶素子等であってもよい。
1/4波長板43は、コリメータレンズ35により発散角を変換された往路の第1乃至第3の波長の光ビームに、1/4波長の位相を付与することにより、直線偏光状態から円偏光状態として立ち上げミラー44に出射させる。また、1/4波長板43は、立ち上げミラー44から導かれた復路の第1乃至第3の波長の光ビームに、1/4波長の位相を付与することにより、円偏光状態から直線偏光状態としてコリメータレンズ35側に出射させる。
立ち上げミラー44は、1/4波長板43により1/4波長の位相差を付与された光ビームを反射して、対物レンズ34側に出射させる。
対物レンズ34は、コリメータレンズ35により発散角を変換され1/4波長板43及び立ち上げミラー44を経由して入射した第1乃至第3の波長の光ビームを光ディスク2の記録面に集光させる。対物レンズ34の入射側には、開口絞りが設けられ、この開口絞りは、対物レンズ34に入射する光ビームの開口数を所望の開口数となるように開口制限を行う。具体的に、第1の波長に対して例えば0.85程度のNAとなるように、第2の波長に対して例えば0.60程度のNAとなるように、第3の波長に対して例えば0.45程度のNAとなるように開口制限を行う。また、対物レンズ34の入射側又は出射側の面に、共通の対物レンズによる3波長互換を実現するための回折部等を設けるように構成してもよい。
この対物レンズ34は、レンズホルダ47に保持されており、このレンズホルダ47は、固定部に、サスペンションを介して、トラッキング方向やフォーカス方向に変位可能に支持されている。このレンズホルダ47には、対物レンズ34の近傍に、温度検出素子48が設けられている。温度検出素子48は、CMOS温度センサIC、サーミスタ等であって、温度変化に対して出力電圧(温度信号)がリニアに変化する。これにより、温度検出素子48は、対物レンズ34又は対物レンズ34の周辺の温度を検出する。なお、この温度検出素子48は、対物レンズ34の温度変化に伴う球面収差等の変化を検出するために用いるものであるから、対物レンズ34の温度又は対物レンズ34の近傍の温度を検出できれば、取付位置は、レンズホルダ47に限定されるものではない。
対物レンズ34は、光ピックアップ3に設けられる対物レンズ駆動部49により移動自在に保持されている。この対物レンズ34は、光検出器39で検出された光ディスク2からの戻り光により生成されたトラッキングエラー信号及びフォーカスエラー信号に基づいて、対物レンズ駆動部49により変位される。これにより、対物レンズ34は、光ディスク2に近接離間する方向(フォーカス方向)及び光ディスク2の径方向(トラッキング方向)の2軸方向へ変位される。対物レンズ34は、第1乃至第3の発光部からの光ビームが光ディスク2の記録面上で常に焦点が合うように、この光ビームを集束すると共に、この集束された光ビームを光ディスク2の記録面上に形成された記録トラックに追従させる。また、対物レンズ34は、上述の2軸方向のみならず、対物レンズ34のチルト方向に傾斜可能とされ、光検出器39で検出されたRF信号等に基づいて当該チルト方向に対物レンズ駆動部49により傾けられる。このように、対物レンズ駆動部49は、フォーカス方向、トラッキング方向及びチルト方向に対物レンズ34を駆動するものであり、所謂3軸アクチュエータである。かかる対物レンズ34は、チルト方向に傾斜されることにより、コマ収差を低減することが可能である。
ここで、チルト方向としては、図3に示すように、上述のフォーカス方向F及びトラッキング方向Tに直交するタンジェンシャル方向Tzを軸とした軸回り方向である所謂ラジアルチルト方向Tirを意味するが、これに限られるものではない。すなわち、当該対物レンズ34は、トラッキング方向を軸とした軸回り方向である所謂タンジェンシャルチルト方向に駆動可能なように構成しても良い。また、ラジアルチルト方向及びタンジェンシャルチルト方向に駆動可能とした4軸方向に駆動可能なように構成しても良い。このように、タンジェンシャルチルト方向にも駆動可能な構成とした場合には、後述の対物レンズ34の効果により、タンジェンシャルチルト方向のコマ収差についても、温度変化によらず良好に低減することを実現する。
対物レンズ駆動部49は、固定部と、対物レンズ34を保持すると共に固定部に対して可動とされた可動部となるレンズホルダ47とから構成されると共に、各駆動方向に駆動力を発生させるコイルやマグネットを有して構成される。なお、対物レンズ駆動部49は、上述のようなサスペンション支持型であってもよいし、固定部の支軸に回動可能に取り付けられた軸摺動型であってもよい。対物レンズ駆動部49は、例えば、フォーカス方向に駆動力を発生させるフォーカスコイルとマグネットや、トラッキング方向に駆動力を発生させるトラッキングコイルとマグネットや、チルト方向に駆動力を発生させるチルトコイルとマグネットを有している。ここで、チルト用として、単独してチルトコイルやマグネットを設けることなく、フォーカスコイルの内、トラッキング方向やタンジェンシャル方向に並んで配置されるフォーカスコイルに発生する駆動力に差を設けて、チルト方向に駆動力を発生させても良い。
この対物レンズ34は、開口数(NA)が0.85程度とされたプラスチック製の単玉対物レンズである。対物レンズ34は、プラスチック製であることにより、従来のガラス製に比べて量産性や軽量化が図られる。
この対物レンズ34は、記録層の切換や製造誤差により光ディスク2のカバー層厚さ変化があったときや、環境温度変化があったとき、コリメータレンズ35を光軸方向に移動させ対物レンズ34への入射倍率を変化させて、常に球面収差を補正、すなわち低減する。
また、対物レンズ34は、環境温度変化やカバー層厚さ変化や、環境温度変化に伴い入射する光ビームの入射倍率に変化があったとき、後述の制御部50に制御され対物レンズ駆動部49によって、チルト方向に傾けられることにより、コマ収差を打ち消す。
また、対物レンズ34は、光ピックアップ3の固定光学系51の光軸と、対物レンズ34の光軸とが略一致するように取り付けられている。ここで、光ピックアップ3の固定光学系51とは、対物レンズ駆動部49に少なくとも3軸方向に可動自在に取り付けられる対物レンズ34以外の光学部品を意味するものとする。すなわち、固定光学系51は、光軸方向にのみ駆動されるコリメータレンズ35や、光源部31,32、受光部38、立ち上げミラー44やその間の光路上に設けられた各種光学部品により構成され、対物レンズ34に光ビームを導く導光光学系を意味するものとする。そして、対物レンズ34は、レンズホルダ47に取り付けられる際に、従来のように固定光学系等の初期コマ収差を考慮して傾斜調整させて取り付けられるのではなく、固定光学系51の光軸に一致するように取り付けられる。換言すると、対物レンズ34は、変位していない基準状態のレンズホルダ47に、固定光学系51により導かれ対物レンズ34に入射する光ビームの光軸と、対物レンズ34の光軸とが略一致するように取り付けられている。ここで、略一致とは、取付誤差の範囲程度であれば許容でき、取付角度θOLの絶対値が0.15deg以内であれば十分である。尚、固定光学系の各種光学部品や対物レンズ34自体が有する所謂初期コマ収差については、後述のように、光ピックアップ3自体をチルト方向に傾斜させることにより、取り除くことが可能である。
また、この対物レンズ34は、光ピックアップ3の使用環境温度範囲において、レンズチルト感度ΔWLT/Δθが、|ΔWLT/Δθ|<0.029を満たす範囲を含んでいる。換言すると、後述のように、一般的には、使用環境温度範囲の全ての範囲で|ΔWLT/Δθ|≧0.029を満たせば、そのレンズチルト感度によりコマ収差を補正して適正な範囲内とすることができる。しかし、屈折率の温度依存性が高いプラスチック製対物レンズを形成する際に、かかる条件を具備することは容易ではなく、対物レンズを形成する際の制約が大きくなりすぎることを意味する。本発明を適用した光ピックアップ3では、後述の〔4.レンズチルト補正の手法〕で詳細に説明するような手法を採用することにより、対物レンズ34を形成する際の制約を緩和するとともに、コマ収差を適正な範囲内に抑えることを可能とする。
尚、ここで説明する対物レンズ34は、第1乃至第3の光ディスク11,12,13に対応すべく第1乃至第3の波長の光ビームを異なるカバー層厚さを有する各光ディスクの記録層に良好に集光するものとして説明したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、例えば、第1の光ディスク専用として、第1の波長の光ビームを第1の光ディスク11に良好に集光するように構成されるようにしてもよい。
ところで、マルチレンズ40は、第1のビームスプリッタ36と受光部38との間の光路上に配置され、例えば屈折面を有することにより、以下の作用を有する。すなわち、マルチレンズ40は、入射された光ビームに対して、所定の倍率及び屈折力を付与して光検出器39のフォトディテクタ等の受光部38の受光面に適切に集光する。マルチレンズ40は、入射した復路の各波長の光ビームを共通の受光部38上に集光させるために発散角を変換する素子として機能することで発散角変換機能を発揮する。
光検出器39は、フォトディテクタ等の受光素子からなる受光部38を有し、マルチレンズ40で集光された戻りの第1乃至第3の波長の光ビームをこの共通の受光部38で受光する。光検出器39は、これにより、情報信号(RF信号)をプリアンプ14に出力すると共に、トラッキングエラー信号及びフォーカスエラー信号等の各種信号を検出し、サーボ制御部9に出力する。
以上のように構成された光ピックアップ3は、この光検出器39により検出された戻り光により生成されたフォーカスサーボ信号、トラッキングサーボ信号に基づいて、対物レンズ34を駆動変位して、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを行う。光ピックアップ3は、対物レンズ34が駆動変位されることにより、光ディスク2の信号記録面に対して合焦する合焦位置に移動され、光ビームが光ディスク2の記録トラック上に合焦されて、光ディスク2に対して情報信号の記録又は再生を行う。また、光ピックアップ3は、光ディスクの反り等により発生するコマ収差を対物レンズ34を対物レンズ駆動部49によりチルト方向に傾斜させることにより低減することができる。これにより、光ピックアップ3及びこれを用いた光ディスク装置1は、良好な記録再生特性を有する。
ところで、対物レンズ34のようにBD用でレンズの開口数が高く設定されている場合には、記録層の切換、カバー層の厚み誤差等を原因とするカバー層の厚さ変化によって発生する球面収差の量は大きい。また、対物レンズ34は、材料をガラスからプラスチックとすることにより、屈折率の温度依存性が高いことに起因して、温度変化によって発生する球面収差の量も大きい。この球面収差を補正するために対物レンズ34に入射する光ビームの入射倍率を変更する必要があり、この入射倍率の変動に伴い、レンズチルト感度も変化し、対物レンズ34のチルト補正値が最適値からずれることになる。
そこで、本発明の光ピックアップ3では、温度変化に伴いコリメータレンズ35の位置や対物レンズ34の傾きを調整するための演算を行う制御部50を備えている。この制御部50には、光検出器39よりRF信号が入力されると共に、温度検出素子48より温度の温度信号が入力される。制御部50は、入力された温度信号やRF信号のジッタ量を監視し、コリメータレンズ駆動部45を駆動し、コリメータレンズ35を光軸方向に移動し球面収差補正を行う。また、制御部50は、対物レンズ駆動部49を駆動し、対物レンズ34を光検出器39で検出される信号が良好となるようにチルト方向に傾けコマ収差補正を行う。
また、かかる光ピックアップ3において、制御部50は、対物レンズ34のレンズチルト感度を検知するレンズチルト感度検知部として機能する。このレンズチルト感度は、対物レンズ34のレンズチルト時に発生するコマ収差量をΔWLT[λrms]とし、その際のレンズチルト量をΔθ[deg]としたとき、ΔWLT/Δθで表される感度である。
レンズチルト感度検知部としての制御部50は、温度検出素子48により検出された信号に基づいて、当該温度におけるレンズチルト感度を検知する。ここで、レンズチルト感度は、対物レンズ34の形状や構成材料の屈折率等により温度毎に一義的に決まる値であり、温度に対するレンズチルト感度の関係と、温度検出素子48で検出された信号に基づく温度に基づいて決定される。そして、レンズチルト感度を検知した制御部50は、このレンズチルト感度が一定以上の場合には、レンズチルト補正が可能であると判断して、対物レンズ34を傾斜させてレンズチルト補正を行わせる。また、制御部50は、このレンズチルト感度が一定未満の場合には、レンズチルト補正が困難であると判断して、レンズチルト補正を行わせない。ここで、一定とは、レンズチルト補正が可能であるか困難であるかを示す所定の閾値であるが、この詳細については後述する。
尚、ここでは、温度検出素子48により検出される温度に基づいて制御部50によりレンズチルト感度を検知するように構成したがこれに限られるものではない。すなわち、制御部50は、コリメータ位置検出部46で検出されたコリメータレンズ35の位置に基づいて、レンズチルト感度を検知するように構成してもよい。かかる場合には、対物レンズ34に入射する光ビームの入射倍率に対するレンズチルト感度の関係と、コリメータ位置検出部46で検出された信号に基づくコリメータレンズ35の位置とに基づいて決定される。これは、コリメータレンズ35の位置と、入射倍率との関係は一義的に決まるものであるとともに、球面収差を補正するための入射倍率は、温度変化に応じて一義的に決まる値であることに基づいている。コリメータ位置検出部46の検出結果を用いる場合には、上述の温度検出素子48を設けなくともよい。尚、コリメータ位置検出部46での検出結果をレンズチルト感度検知に用いる場合で、且つ多層光ディスクであった場合には、各記録層毎の入射倍率に対するレンズチルト感度の関係に基づいて、レンズチルト感度を検知するように構成しても良い。これは、多層光ディスクの各記録層は、それぞれカバー層厚さが異なるため、それぞれの球面収差を適正なものとするためのコリメータレンズ35の位置が異なるからである。よって、各記録層毎の関係を用いることで、より良好なコマ収差低減が可能となる。
さらにまた、制御部50は、対物レンズ34にチルトウォブリング動作を加えた際に検知されるジッター変化に基づいて、レンズチルト感度を検知するように構成してもよい。ここでは、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボがオンとなっている状態で、対物レンズ34をチルト方向に揺動する動作をさせ、かかる場合のジッターの変化に基づいてレンズチルト感度を検知する。この手法は、レンズチルト感度とジッター変化とが以下の特性を有することに基づいている。すなわち、レンズチルト感度がレンズチルト補正を行うことが可能な程度の感度を有している場合には、このジッター変化が大きくなるという特性がある。その一方で、レンズチルト感度がレンズチルト補正を行うことが困難な程度の感度しか有していない場合には、このジッター変化が小さいという特性があり、これらに基づいている。そして、この場合、制御部50は、上述の一定以上のレンズチルト感度を有するジッター変化の閾値に基づいてジッター変化がこの閾値より大きければ一定以上のレンズチルト感度を有すると判断してレンズチルト補正を行う。一方、制御部50は、ジッター変化がこの閾値より小さければ一定未満のレンズチルト感度であると判断してレンズチルト補正を行わない。
また、制御部50は、対物レンズ34にチルトウォブリング動作を加えた際に検知されるRF信号に基づいて、レンズチルト感度を検知するように構成してもよい。ここでは、少なくともフォーカスサーボがオンとなっている状態で、対物レンズ34をチルト方向に揺動する動作をさせ、かかる場合のRF信号の変化に基づいてレンズチルト感度を検知する。この手法は、レンズチルト感度とRF信号変化とが以下の特性を有することに基づいている。すなわち、レンズチルト感度がレンズチルト補正を行うことが可能な程度の感度を有している場合には、このRF信号の変化が大きくなるという特性がある。その一方で、レンズチルト感度がレンズチルト補正を行うことが困難な程度の感度しか有していない場合にはこのRF信号の変化が小さいという特性があり、これらに基づいている。そして、この場合、制御部50は、上述の一定以上のレンズチルト感度を有するRF信号変化の閾値に基づいてRF信号変化がこの閾値より大きければ一定以上のレンズチルト感度を有すると判断してレンズチルト補正を行う。一方、制御部50は、RF信号変化がこの閾値より小さければ一定未満のレンズチルト感度であると判断してレンズチルト補正を行わない。
〔3.対物レンズのレンズチルト感度について〕
次に、本発明を適用した光ピックアップ3等を構成する対物レンズ34のレンズチルト感度について説明するが、それに先立ち上述のような光ピックアップ3の光学系に発生する球面収差の挙動について詳細に説明する。
まず、図4に35℃を設計センターとした焦点距離が同一の、BD用ガラス製対物レンズとBD用プラスチック製対物レンズの温度変化に対する球面収差発生量の関係を示す。図4中横軸は、温度[℃]を示し、縦軸は、3次球面収差[λrms]を示す。また、L1gは、ガラス製対物レンズの関係を示し、L1pは、プラスチック製対物レンズの関係を示す。図4に示すように、プラスチック製対物レンズは、温度変化による屈折率変化が大きいため、温度変化に依存する球面収差の変化量がガラス製対物レンズと比較して大きい。
次に、図5に上述のガラス製及びプラスチック製の対物レンズの倍率特性を示す。図5中横軸は、対物レンズへの入射倍率を示し、縦軸は、3次球面収差[λrms]を示す。また、L2gは、ガラス製対物レンズの関係を示し、L2pは、プラスチック製対物レンズの関係を示す。図5に示すように、倍率特性は、焦点距離と開口数NAとにより決まるため、2つのレンズの特性に差異はない。すなわち、図5は、ガラス製及びプラスチック製の対物レンズで同量の球面収差を発生させるために必要な倍率変化は同じであることを示す。
そして、図4及び図5に示すように、ガラス製の対物レンズは、環境温度変化により球面収差がほとんど変化しないため、倍率補正をする必要がない。これに対し、プラスチック製の対物レンズは、球面収差が環境温度に依存し大きく変化するため、温度変化分で発生した球面収差をキャンセルするだけの倍率補正が必要となる。
次に、図6に、プラスチック製とされた対物レンズ34へ入射する光ビームの入射倍率とレンズチルト感度との関係を示す。レンズチルト感度は、カバー層厚さ毎に異なる値であり、図6には、記録層L0,L1毎の関係を示す。図6中横軸は、入射倍率を示し、縦軸は、レンズチルト感度を示す。また、L3L0は、カバー層厚さが0.100μmである記録層L0に集光する場合のレンズチルト感度を示し、L3L1は、カバー層厚さが0.075μmである記録層L1に集光する場合のレンズチルト感度を示す。図6によれば、記録層毎に所定の関係で入射倍率が変化した場合にレンズチルト感度が変化することが示されている。
ここで、対物レンズ34への入射倍率を変化させる球面収差について説明する。入射倍率を変化させる球面収差発生要因としては、温度変化、波長変化、カバー層厚さ変化、初期球面収差量とが考えられる。以下の説明では、温度変化に対する発生感度ΔSAT/ΔTを、αとし、波長変化に対する発生感度ΔSAλ/Δλを、βとし、カバー層厚さ変化に対する発生感度ΔSAd/Δdを、γとし、初期球面種差量を、SAorgとする。このα、β、γ、及びSAorgを用いると、見積もられる最大球面収差発生量ΔSAは、次式(1)のように表すことができる。
ΔSA=α・ΔT+β・Δλ+γ・Δd+SAorg ・・・(1)
光ピックアップ3が使用される環境、条件を考慮すると最大で発生する球面収差は、±0.400λrms程度となる。この球面収差を補正するために、コリメータレンズ35の駆動による倍率補正を行った場合、図5の関係から、使用倍率mの範囲は、−0.0086≦m≦0.0097程度となる。このとき、レンズチルト感度としては、0≦|ΔW/Δθ|≦0.232と変動する。つまり、同一のレンズチルト角度で発生するコマ収差が入射倍率の変化に対応して大きく変化することを示す。
ここで、従来の「対物レンズの組立調整」の問題点について説明する。レンズチルト感度が変化するプラスチック製レンズを用いて、従来の対物レンズの組立調整時に対物レンズを傾けコマ収差を相殺し低減を行う方法で調整した場合を考える。
対物レンズと固定光学系が持つコマ収差は、一般に0.035λrms程度に抑えられる。このコマ収差を常温でΔWLT/Δθ=0.074[λrms/deg]の感度(レンズチルト感度)で補正を行うと、初期に傾くレンズの角度θorg=0.47degとなる。このような角度θorgで調整され、この角度が保持された状態で、温度変化が起こると、図7に示すように、レンズチルト感度が温度ごとで異なることで、残留コマ収差が発生する。この残留収差は、温度変化により発生した球面収差をコリメータ駆動により倍率補正を行った場合に、対物レンズへの入射倍率が異なることなり、入射倍率の変動に伴いレンズチルト感度の変化することにより、発生する。換言すると、補正すべきコマ収差の量と、対物レンズの傾斜調整により発生するコマ収差の量は、調整時の常温では等しいが、温度変化に伴う入射倍率変化により、後者のコマ収差の量に変動が生じ、結果としてコマ収差が残留してしまうからである。尚、図7は、温度変化に伴う、レンズチルト感度の変化と残留コマ収差の変化とを示すものである。図7中横軸は、温度[℃]を示し、縦軸は、レンズチルト感度[λrms/deg]及び残留コマ収差「λrms」を示す。L4LTは、温度変化に伴うレンズチルト感度の変化を示し、L4Cは、温度変化に伴う残留コマ収差を示す。
一般に、BDのラジアル方向のディスクチルト時に信号品質を保つ角度を示す、ラジアルディスクチルトマージン2θRADは、1.3〜1.4deg程度とされる。従って、片側で0.65degを上回るディスクチルト相当のコマ収差が残留する場合は、良好な信号品質を保つことができず、図8に示すように、システムとして破綻する。尚、図8は、ラジアルチルト許容量を示すための図である。図8中、横軸は、ラジアルチルト量[deg]を示し、縦軸は、ジッター[%]を示す。図8に示すように、ジッターを15%以内とするためには、ジッターマージンを考慮したラジアルチルト許容量は、±0.65deg程度であることが示されている。
このラジアルチルト許容量と比較検討すべき4つの要因について説明する。まず、第1の要因として、光ディスクの反りがあり、これをθDISCとする。
また、第2の要因としては、温度変化による残留コマ収差分を補正するために必要なディスクチルト角度θT(T)がある(「温特LT変化」ともいう。)。これを表すために、ディスクチルト時の発生コマ収差をΔWDT[λrms]、その際のディスクチルトをΔθ[deg]とすると、まず、ディスクチルト感度は、ΔWDT/Δθで定義される。そして、プラスチック製対物レンズの温度をTとした場合のレンズチルト感度をΔWLT(T)/Δθとする。このとき、温度変化による残留コマ収差分を補正するために必要なディスクチルト角度θT(T)は、次式(2)で表される。尚、式(2)中右辺分子は、温度変化ΔTにより変化したコマ収差量を示し、右辺分母は、ディスクチルト感度を示す。
また、第3の要因としては、取付誤差により発生したコマ収差を補正するためのラジアルチルト角度θOL(θol)がある。対物レンズ34の取付誤差θolは、通常0.15deg程度に抑えられる。誤差θolにより発生したコマ収差を補正するために必要なディスクチルト角度θOL(θol)は、次式(3)で表される。
さらに、第4の要因としては、光軸の調整取れ残り分のコマ収差を補正するディスクチルト量であり、これをθIHとする。
この第1乃至第4の要因と、ラジアルチルト必要量θRADが、次式(4)を満たす必要がある。すなわち、第1乃至第4の要因から導かれるラジアルチルト必要量θRADが、ラジアルチルト許容量である0.65deg以内であることが必要である。
θRAD≡θDISC+θT(T)+θOL+θIH≦0.65[deg]・・・(4)
ここで、従来の「対物レンズの組立調整」の問題点を説明するために、比較例として表1に温度変化時の残留コマ収差の量と、上述の4つの要因を加算した高温時と低温時のマージンに対する影響を示す。ここで、レンズチルト角度は、実使用環境の温度の条件に加え、使用波長、カバー層厚さの影響も考慮し、レンズチルト感度変化が大きくなる組み合わせを示すものである。尚、表1は、本発明の光ピックアップの説明に先立つ比較例として、従来の対物レンズ調整手法を用いたものである。すなわち、常温における35℃において、残留コマ収差が0となるように対物レンズを固定光学系に対して0.47degだけレンズチルトさせた例について示すものである。
表1によれば、高低温それぞれが上述の式(4)を満たさず、片側のマージン0.65degを超えることとなる。ここで、θRAD相当のコマ収差をレンズチルト補正を行うことを考える。一般に、アクチュエータ(対物レンズ駆動部49に相当)のチルト時の特性より、チルト補正できる角度θActMaxとしては1.5degを超えない範囲である。低温側については次式(5)に示し、高温側については次式(6)に示す。
表1及び式(5)に示すように、低温側では、レンズチルト感度が高いため、発生コマ収差をアクチュエータの特性を維持しつつレンズチルトで補正することで信号品質を保つことが可能である。その一方で、表1及び式(6)に示すように、高温側では、レンズチルト感度を持たないため、アクチュエータのチルト特性により、補正することができず、信号品質を保つことが不可能となる。
また、通常の光ピックアップのシステムでは、BDの光ディスクの規格で規定されているラジアル方向の反りがθDisc=0.4degまでとされている。かかるコマ収差を対物レンズチルトにより補正するシステムにおいては、図9に示すように、レンズチルト角度を調整する。具体的に、光ディスクの内周から外周にわたり各記録・再生位置においてディスクチルトによるコマ収差の影響が小さくなるよう、対物レンズ34のレンズチルト角度を調整する。この光ディスクの反り分の補正を行うために、必要な最低限の対物レンズチルト感度は、次のように決めることが可能となる。
0.4degの光ディスクの反りで発生するコマ収差量は、ΔWDT/Δθ×θDisc=0.11[λrms/deg]×0.4[deg]=0.044λrmsである。このコマ収差量がアクチュエータのチルト角度許容範囲内であれば、補正可能となることを意味する。すなわち、次式(8)を満たす範囲であれば、補正可能となることを意味する。
すなわち、θActMaxは、アクチュエータのチルト角度許容範囲を示し、1.5deg程度であるので、式(8)によれば、レンズチルト感度として必要とされる最小の値は、次式(9)のように算出される。ここで、式(9)を満たす程度のレンズチルト感度を有する温度では、対物レンズのレンズチルト感度により、換言するとレンズチルト補正により、コマ収差を低減できることを意味している。そして、対物レンズが使用環境温度範囲で常に上述の式(9)の関係を満たせば、上述のように、そのレンズチルト感度により、コマ収差を低減させることが可能である。
|ΔWLT/Δθ|≧0.029 ・・・(9)
本発明の光ピックアップ3は、使用環境温度範囲内で上述式(9)の関係を満たさない場合がある対物レンズ34を用いた場合にもコマ収差を適正な範囲内とすることができるものである。
〔4.レンズチルト補正の手法について〕
以下、使用環境温度範囲でレンズチルト感度が、|ΔWLT/Δθ|<0.029となる条件を有するプラスチック製の対物レンズ34を有する光ピックアップ3におけるコマ収差を適正とするための手法について説明する。
光ピックアップ3では、対物レンズ34のレンズホルダ47への組み立て調整時に固定光学系と対物レンズ34が持つコマ収差分はレンズチルト補正を行わない。すなわち、図10(a)に示すように、対物レンズ34の組み立て角度は、対物レンズ34の光軸L34が、固定光学系51から対物レンズ34に導かれる光ビームの光軸L51に対して略一致するように配置している。そして上述のようにレンズチルト感度をもつときにのみ補正を行うという手法を採用している。換言すると対物レンズ34は、対物レンズ34の光軸が固定光学系の光軸に対して傾かない状態に取り付けられ、すなわち、フラットに配置された状態である。尚、これに対して上述の比較例として説明した従来の「対物レンズの組立調整」においては、図10(b)に示すように、調整されていた。図10(b)に示す比較例の場合、対物レンズ134の光軸L134が、固定光学系151の光軸L151に対して初期コマ収差分だけ傾斜させてレンズホルダ147に組み立てられていた。
そして、図10(a)のような光ピックアップ3は、光ディスク装置1を構成するに際して、図11に示すように光ピックアップ3自体のチルト角度の調整を行うことにより、初期コマ収差を抑えるものである。具体的には、光ディスク装置1には、図12に示すように、光ピックアップ3が設けられるピックアップベース61と、ピックアップベース61に挿通されピックアップベース61の光ディスクの径方向への移動を支持するガイド軸62,63とが設けられている。また、光ディスク装置1は、ガイド軸62,63のそれぞれの両端部に設けられるスキュー調整機構64を備える。このスキュー調整機構64は、例えば、ガイド軸62,63をフォーカス方向Fの上側から支持するスプリングと、ガイド軸62,63の下部に当接されガイド軸を押圧することでガイド軸62,63の上下方向の高さを調節する調節ネジとからなる。そして、光ピックアップ3は、スキュー調整機構64によりガイド軸62,63の両端部の上下方向の高さが調整されることにより、上述のラジアルチルト方向のチルト角度の調整とともに、所望の取付高さで光ディスク装置1に取り付けられる。より具体的には、光ピックアップ3の出力を見ながら、スキュー調整機構64の調整ネジを回してガイド軸62,63の両端部の高さ方向の調整が行われることで、光ピックアップ3が調整される。すなわち、光ピックアップ3は、スキュー調整機構64によりラジアルチルト方向のチルト角度の調整が行われることにより上述の初期コマ収差を抑えた状態で光ディスク装置1に取り付けられる。尚、スキュー調整機構の構成は上述の形式に限定されるものではなく、光ピックアップ3自体のスキュー調整が可能な構成であればよい。
ここで、表1で説明した従来の問題に対する光ピックアップ3の利点を説明するため、表2に固定光学系等が持つコマ収差をレンズチルトにて初期補正を行わない場合の影響を示す。環境温度の変化がある場合、レンズチルト感度自体の変化は、初期コマ収差のレンズチルト補正の有無によらず同様に発生するが、対物レンズ34を傾けていないため、レンズチルト感度が変わることによるコマ収差変動は発生しない。
すなわち、表2に示すように、上述の第2の要因としてディスクチルトに換算した温度変化による残留コマ収差を補正するために必要なディスクチルト角度θT(T)は、温度変化に依存せず、ディスクチルトマージンの増減に対して考慮の必要がなくなる。
初期に取れ残っている固定光学系のコマ収差は光ピックアップ取付時に光ピックアップ3のチルト角度を調整し、キャンセル可能であり、温度変化によって変化はない。従って、第2の要因以外の項目について、初期チルト補正を行った場合と同様に考えると表2に示すように、高温の場合は、式(10)のように示される。この高温の場合には、レンズチルト感度が低いため、補正を加えなくとも良好な信号品質を維持することが可能である。
θRAD(62℃)=0.45≦0.65[deg] ・・・(10)
一方の、低温の場合は、式(11)のように示される。高温の場合には、片側のマージン0.65degを上回ることとなるが、次式(12)に示すよう、発生コマ収差をアクチュエータの特性を維持しつつレンズチルトで補正することで信号品質を保つことが可能である。
θRAD(0℃)=0.89≧0.65[deg] ・・・(11)
これらにより、光ピックアップ3では、初期のコマ収差を対物レンズチルトにより補正を行わないことで、温度変化時における高温、低温いずれの環境下においても、マージンを満たす範囲で良好な信号品質を維持することが可能となる。
すなわち、光ピックアップ3は、低温の場合のようにレンズチルト感度が一定より小さい場合には、レンズチルト補正を行わない。このとき、上述のように対物レンズ34を固定光学系51に対して光軸を一致させるようにフラットに取り付けるとともに光ピックアップ3自体をチルト調整することによりコマ収差をマージン内に抑えることを可能とする。
その一方で、光ピックアップ3は、常温や高温の場合のようにレンズチルト感度が一定以上の場合には、対物レンズ34を傾斜(レンズチルト)させレンズチルト補正を行うことにより、さらにコマ収差を低減することを可能とする。
尚、この一定以上のレンズチルト感度としては、例えば上述の式(9)の範囲であれば充分にその目的を達成することを意味するが、さらに、この範囲を一般化して以下のように表すことも可能である。すなわち、{θRAD×(WDT/Δθ)}/(WLT/Δθ)≦θActMaxの関係式を満たすレンズチルト感度(WLT/Δθ)であれば、一定以上のレンズチルト感度であるといえる。また、レンズチルト感度を倍率mの変数で表すとともに、θActMaxを上述の一般的な数値で規定することにより、{θRAD×(WDT/Δθ)}/(WLT(m)/Δθ)≦1.5の関係が得られる。この関係式において左辺分子は、マージン消費分のコマ収差を示し、左辺分母は、倍率mのときのレンズチルト感度を示す。上述の関係式により規定された一定以上のレンズチルト感度であるか否かをレンズチルト感度検知部である制御部50により判定させることにより、プラスチック製の対物レンズを用いてコマ収差を適正な範囲に抑えることを実現する。
以上のように、本発明を適用した光ピックアップ3は、光源部31と、対物レンズ34と、光検出器39と、固定光学系と、対物レンズ駆動部49と、レンズチルト感度検知部となる制御部50を有する点に特徴を有する。そして、光ピックアップ3は、レンズチルト感度が一定以上の場合には、光検出器39により検出される信号が良好となるように対物レンズ34をレンズチルトさせてレンズチルト補正を行う。また、光ピックアップ3は、レンズチルト感度が一定より小さい場合には、レンズチルト補正を行わない。かかる光ピックアップ3は、対物レンズ34をプラスチック製とすることにより、量産性や軽量化を向上させるとともに、レンズチルト感度の変動を考慮した構成とすることにより、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。
また、光ピックアップ3は、対物レンズ34の光軸と、固定光学系により導かれ対物レンズ34に入射する光ビームの光軸とが一致するように対物レンズ34がレンズホルダ47に取り付けられる点に特徴を有する。さらに、この光ピックアップ3は、光ディスク装置1に取り付けられる際に初期コマ収差が低減するようにチルト方向に調整されて取り付けられている点に特徴を有する。この初期コマ収差とは、上述のように固定光学系を構成する光学部品や対物レンズ自体の有するコマ収差を意味する。かかる光ピックアップ3は、レンズチルト感度が低下する例えば高温時のコマ収差を抑えることで、レンズチルト感度が低下した場合にレンズチルト補正を行わないでコマ収差を低減することを実現する。そして、光ピックアップ3は、上述のレンズチルト補正の構成と併せることにより、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。すなわち、本発明を適用した光ピックアップ3は、量産性や軽量化を実現させるとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。
さらに、光ピックアップ3は、使用環境温度範囲において対物レンズ34のレンズチルト感度ΔWLT/Δθが、|ΔWLT/Δθ|<0.029を満たす点に特徴を有する。光ピックアップ3は、プラスチック製の対物レンズ34を構成するに際し、使用環境温度範囲で、上述のような範囲を含ませたときにもコマ収差低減を実現することにより、対物レンズの選択性を拡大し、構成の容易化を可能とする。また、光ピックアップ3は、良好な収差補正を可能としつつ、対物レンズをプラスチック製とすることを可能とすることにより量産性や軽量化を実現する。
〔5.2層及び多層光ディスクに対する場合のレンズチルト補正の手法について〕
次に、2層以上の光ディスクに対して、レンズチルト補正をかける範囲について述べる。上述の説明により、高温でレンズチルト感度が無い場合においても、マージン内にあるため、信号品質としては問題が無いとした。ここでは更に、外乱や摂動に対してより強いサーボをかける目的で、残留コマ収差を補正するだけのレンズチルト感度を有する範囲で、レンズチルト補正により最良点で信号を読むシステムを加えることを考える。
まず、図13に多層光ディスクの各記録層におけるレンズチルト感度と補正範囲の関係を示す。一定未満のレンズチルト感度の場合、レンズを傾けてもコマ収差が発生しない為、上述のように光ディスクのラジアル方向の反りで発生する量のコマ収差を補正できない。従って、少なくとも式(14)を満たす条件が必須であり、またその入射倍率の範囲は光透過層(カバー層)の厚さに依存し、この厚さごとに異なる。式(14)中、mLNは、カバー層の厚さがLN[mm]である記録層にフォーカスしている場合の対物レンズへ入射する光ビームの入射倍率を示す。また、ΔWLT(mLN)は、入射倍率がmLNのときのΔθだけレンズチルトさせたときに発生するコマ収差[λrms]を示す。また、ΔWLT(mLN)/Δθは、当該場合のレンズチルト感度を示す。
|ΔWLT(mLN)/Δθ|≧0.029 ・・・(14)
換言すると、光ピックアップ3により多層光ディスクに記録再生を行う場合には、フォーカスする記録層に対して、記録再生信号品質を良好に保つためのレンズチルト補正を行う倍率の範囲を個別にもっている。そして、かかる前提を考慮して、それぞれの層毎にレンズチルト感度が式(14)を満たす場合にのみレンズチルト補正を行う。すなわち、上述のように、コリメータ位置検出部46の検出結果に基づいてレンズチルト感度検知を行う場合には、各層毎にレンズチルト感度と入射倍率(コリメータ位置)との関係に基づいて、レンズチルト感度検知を行うことを意味する。
式(14)において、レンズチルト感度の下限を0.029λrms/degとしている理由は次の通りである。光ディスクを傾けた場合に発生するコマ収差で定義されるディスクチルト感度は、光ディスクのカバー層厚さに比例するため、カバー層厚さが厚い場合に発生するコマ収差が大きくなる。
現在のBD2層光ディスクではカバー層厚さが厚い方はL0層と呼ばれ、カバー層厚さが0.100mmとなっており、薄い方はL1層と呼ばれ、カバー層厚さが0.075mmとなっている。ディスクチルト感度はL0=0.110λrms/deg、L1=0.080λrms/degとL0の方が高いディスクチルト感度を持つ。尚、このディスクチルト感度は、カバー層厚さと光線の角度とで決まる値であり、光線の角度は、開口数NAで決まる値である。今後、更なる高密度化に向けて多層ディスクが開発されることが予想されるが、カバー層が厚い側は、チルトに対するコマ収差の発生感度が上がり、外乱に対して弱くなるため、層数を増やす場合は0.100mmより薄い方に形成されることが予想される。つまり、ディスクチルト感度として最大となるケースは、多層ディスクを考慮しても0.100mmの場合とすることができる。よって、BDの規格で記されるディスクの反り規格分のコマ収差を補正する為には、光ピックアップとしては最低限、次のレンズチルト感度が必要となる。0.4degのディスク反りに対して発生するコマ収差はL0のときが最大となり、0.4[deg]×0.110[λrms/deg]=0.044λrmsのコマ収差が発生することとなる。このコマ収差を、アクチュエータの性能を保持するチルト角の最大値1.5degを超えない範囲で補正するのに必要なレンズチルト感度を有する条件を考えると、式(9)に示すよう0.029[λrms/deg]以上となる。これは、多層光ディスクにおいても共通で満たす必要のある条件である。
表3、表4及び図14にBD2層ディスクの場合について、光ピックアップの使用温度範囲、使用波長域、初期球面収差ばらつきを考慮した場合のレンズチルト感度と対物入射倍率の関係を示す。尚、この場合の波長変化感度β=0.01200[λrms/nm]であり、温度変化感度α=0.00574[λrms/deg]であり、層間厚変化感度γ=0.00982[λrms/μm]であり、初期球面収差SAorg=±0.020[λrms]である。また、表3中には、記録層L1におけるレンズチルト感度を示し、表4中には、記録層L0におけるレンズチルト感度を示す。また、表中には「温度[℃]」、「初期LD波長λ[nm]」、「カバー層厚さ[nm]」を示す。さらに、表中には、「初期球面収差[λrms]」、「3次球面収差(SA3)発生量[λrms]」、「入射倍率」、「入射倍率の逆数(1/m)」、「レンズチルト(LT)感度[λrms/deg]」を示す。図14は、表3及び表4のデータを図に表したものである。図14中横軸は、入射倍率を示し、縦軸は、レンズチルト感度[λrms/deg]を示す。図14中L6L0は、記録層L0における入射倍率に対するレンズチルト感度の関係を示し、L6L1は、記録層L1における入射倍率に対するレンズチルト感度の関係を示す。
図14並びに表3及び表4に示すように、多層光ディスクにおいては、各記録層L0,L1毎に、入射倍率とレンズチルト感度の関係が異なる。
以下に、多層光ディスクの各記録層毎に、一定のレンズチルト感度以上となる入射倍率の範囲について検討する。カバー層厚さが0.100mmのL0層と、カバー層厚さが0.075mmのL1層とでは、同じ対物レンズ入射倍率においてもレンズチルト感度が異なる。式(14)を満たす為の入射倍率は次式(15)及び次式(16)に示す通りである。それぞれの記録層L0,L1にフォーカスしている場合に、式(15)及び式(16)を満たす範囲でレンズチルト補正を行うことで信号品質をより良好に保つことが可能となる。
mL0>−0.00540 ・・・(15)
mL1>−0.00276 ・・・(16)
上述の式(15)、式(16)を満たせばレンズチルト補正を行うことが可能であるが、
以下の指針で入射倍率を導き出しても良い。ここで、それぞれの記録層においてより詳細にレンズチルト補正を行うことができる入射倍率について検討する。以下の検討により、上述の式(15)及び式(16)よりも広範囲でレンズチルト補正を可能とし、換言すると、よりコマ収差を低減させることを可能とする。式(9)や式(14)による閾値は、ディスクチルト感度が最大となるL0層において算出した値であった。カバー層のより薄いL1層の場合は、ディスクチルト感度がL0層と比較し小さい為、ラジアル方向のディスクの反り0.4degで発生するコマ収差は小さい。かかる記録層L0,L1毎のコマ収差は、次式(17)、式(18)で算出できる。
L0層:0.4[deg]×0.110[λrms/deg]=0.044[λrms] ・・・(17)
L1層:0.4[deg]×0.080[λrms/deg]=0.032[λrms] ・・・(18)
各記録層において、このコマ収差をレンズチルトにて補正を行う場合、入射倍率ごとで感度が変化することを考慮すると図15に示すような関係がある。図15中、横軸は、入射倍率を示し、縦軸は、レンズチルト補正角度を示す。また、L7L0は、L0記録層において0.044λrmsのコマ収差を補正するための入射倍率とそのときのレンズチルト補正角度との関係を示す。L7L1は、L1記録層において0.032λrmsのコマ収差を補正するための入射倍率とそのときのレンズチルト補正角度との関係を示す。
L0及びL1のそれぞれの記録層において、アクチュエータとしての特性を維持し、チルト補正できる角度θActMax=1.5degを超えない範囲を求めると、式(19)、式(20)の関係が算出される。
mL0>−0.00540 ・・・(19)
mL1>−0.00289 ・・・(20)
上述の検討により、それぞれの記録層にフォーカスしている場合に、式(19)及び式(20)を満たす範囲でレンズチルト補正を行うことで信号品質をより良好に保つことが可能となる。そして、式(20)は、式(16)より範囲が広いために、上述の場合よりコマ収差を低減することが可能である。これは、上述の検討により、式(20)の範囲までレンズチルト感度がレンズチルト補正を可能な程度まで有していることを確認できたからである。換言すると、式(19)及び式(20)を用いて説明したように、レンズチルト感度検知部としての制御部50は、各記録層毎の入射倍率に対するレンズチルト感度の関係に基づいて、一定のレンズチルト感度を有するか否かを判別するよう構成しても良い。かかる構成とすることで、多層光ディスクに対してさらに広範囲でコマ収差補正を実現でき、良好な記録再生特性を得られる。
すなわち、式(15)及び式(16)と、式(19)及び式(20)とを比較すると、L1層の補正可能範囲がより広いことが示されている。これはL0層と比較し、ディスクチルト感度の低いL1層で発生するコマ収差が少ないため、補正に必要な感度が低くてよいことを示す。つまり式(15)及び式(16)は、式(19)及び式(20)の範囲を満たしており、上述の式(14)の範囲でレンズチルト補正を行うことで、外乱や摂動に対してより強く良好な信号品質で信号を読めることを可能とする。
このように、レンズチルト感度が低い場合は補正不可であるとして、コマ収差を残留させる。一方、上記式(15)、式(16)、式(19)、式(20)で規定される範囲のような大きい入射倍率を持つ場合は、レンズチルト補正可能であるとして、信号最良となる角度へレンズチルトを加える。これにより、2層光ディスクの記録再生性能を向上させることができる。
以下、図16〜図18のフローチャートを用いて、BD等の高密度記録型の光ディスク2を記録再生する場合のコマ収差を抑えるためのチルト補正方法について説明する。ここでは、〔6.〕〜〔8.〕に示す3つの例を挙げて、レンズチルト感度を検知し、レンズチルト補正の範囲を判断する手法を中心に説明する。
〔6.チルト補正処理(第1の例)〕
まず、光ピックアップ3によるチルト調整方法の第1の例として、コリメータレンズ35の駆動量を位置センサー等のコリメータ位置検出部46により把握する方法について説明する。各記録層におけるレンズチルト感度と入射倍率とコリメータの位置は常に1:1の関係にあるため、かかるコリメータレンズ35の位置を把握する方法は、レンズチルト感度を検知するために優れた方法である。具体的に、上述した光ピックアップ3を有する光ディスク装置1は、図16に示すような記録再生方法を行う。
ステップS1において、光ディスク装置1のディスク装着部に光ディスク2が装着される。ステップS2において、システムコントローラ7は、レーザ制御部21を駆動し光源部31より光ビームを出射させ、サーボ制御部9でスピンドルモータ4を駆動してディスク装着部に装着された光ディスク2を回転操作する。ステップS3において、光ピックアップ3及びディスク種類判別部22は、光ディスク2を検知する。
ステップS4において、制御部50は、システムコントローラ7の制御に応じてコリメータレンズ駆動部45を制御して、コリメータレンズ35を所定の位置に移動させる。このとき、コリメータレンズ35は、ディスク種類判別部22で検出された光ディスク2の種類に応じた基準位置に移動される。また、制御部50は、コリメータレンズ駆動部45でコリメータレンズ35を光軸方向に微動して球面収差の補正も行う。具体的に制御部50は、光検出器39により検出されるRF信号の品位が良くなる方向に、すなわち光検出器39により検出されるRF信号のジッタ量を検出し、このジッタ量が最小となる方向に、コリメータレンズ35を移動する。
ステップS5において、サーボ制御部9は、フォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をフォーカス方向に移動させてフォーカス制御を行う。ステップS6において、制御部50は、光ディスク2の反りに対してコマ収差を低減できるようレンズチルト補正量を決定し、対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をチルト方向に変位させる。具体的に、制御部50は、球面収差補正後において、RF信号の品位が良くなる方向に、すなわち光検出器39により検出されるRF信号のジッタ量を検出し、このジッタ量が最小となる方向に対物レンズ34を傾ける。ステップS7において、サーボ制御部9は、トラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をトラッキング方向に移動させてトラッキング制御を行う。
ステップS8において、光ピックアップ3は、光ディスク2に対する情報信号の記録又は再生を開始する。光ピックアップ3、特に対物レンズ34の周辺部は、継続して光ディスク装置1及び光ピックアップ3が動作することで、筐体内の内部温度が上昇する。また、使用条件によっても温度の変化が生じる場合もある。このとき、プラスチック製の対物レンズ34は、その温度変化に伴う形状変化や屈折率変化に伴い、球面収差が変動する。この球面収差を低減するため、制御部50は、コリメータレンズ駆動部45を駆動して、コリメータレンズ35を移動する。ステップS9において、コリメータ位置検出部46は、コリメータレンズ35の位置を検出する。レンズチルト感度検知部としての制御部50は、コリメータレンズ35の位置から対物レンズ34に入射する光ビームの入射倍率を検知する。
ステップS10において、制御部50は、入射倍率とレンズチルト感度の関係に基づいて、レンズチルト補正禁止範囲か否か、すなわち、検知した入射倍率に基づき得られたレンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以上であるか否かを判定する。この判定に際して、制御部50は、検知した入射倍率を一定のレンズチルト感度となる入射倍率と比較しても良いし、検知した入射倍率からレンズチルト感度を算出し、これを一定のレンズチルト感度と比較してもよい。尚、光ディスクが多層光ディスクであった場合は、各記録層ごとの入射倍率に対するレンズチルト感度の関係に基づいてレンズチルト補正禁止範囲か否かを判定することにより、上述のようにより良好なコマ収差低減を実現する。このステップS10において、検知された状態が一定のレンズチルト感度以下であると判定された場合は、レンズチルト補正禁止範囲であると判断され、ステップS11に進む。一方、検知された状態が一定のレンズチルト感度以上であると判定された場合は、レンズチルト補正禁止範囲ではないと判断され、ステップS12に進む。
ステップS11において、制御部50は、温度変化に伴い発生するコマ収差を低減できるようレンズチルト補正量を修正し、対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をチルト方向に変位させる。具体的に、制御部50は、RF信号の品位が良くなる方向に、すなわち光検出器39により検出されるRF信号のジッタ量を検出し、このジッタ量が最小となる方向に対物レンズ34を傾ける。ここで、温度変化に伴い発生するコマ収差とは、上述したようにプラスチック製対物レンズ34の形状変化や屈折率変化や、上述の温度変化に伴う球面収差を低減するための入射倍率変化に伴い発生するコマ収差を意味する。
ステップS12において、制御部50は、レンズチルト補正量を維持し、すなわち、対物レンズ駆動部49により対物レンズ34のチルト方向の変位を変化させないように制御する。
ステップS13において、システムコントローラ7は、記録又は再生動作が終了であるか否かを判定する。ここで、記録又は再生動作が終了されたと判断された場合にはステップS14に進む。一方、システムコントローラ7は、記録又は再生動作が終了していないと判断された場合にはステップS9に戻る。
ステップS14において、レーザ制御部21は、光源部31から光ビームの出射を停止させ、サーボ制御部9は、スピンドルモータ4の駆動を停止させる。
以上のような図16に示した処理によれば、レンズチルト感度を持つ範囲にのみ補正を行うことで、外乱や摂動に対して強く、良好な信号品質で記録再生を行うことが可能となる。すなわち、一般的に、BD等に対応する光ピックアップはカバー層厚さにより発生する球面収差を補正する為に、倍率変化を与えるコリメータ駆動部を有する。環境温度変化によりプラスチック製対物レンズで発生する球面収差、波長変化により発生する球面収差も同様にコリメータレンズを光軸方向に駆動させることにより倍率球面収差を発生させ、信号品質が最適になるようなシステムとしている。ここで、コリメータレンズが駆動することで、対物への入射倍率が変化するため、上述のようにレンズチルト感度の変化が発生するという問題が発生することとなる。光ピックアップ3では、上述のようにコリメータレンズの位置を検知するコリメータ位置検出部46を設けている。そして図16に示した処理で説明したように、温度変化に伴いコリメータレンズを移動させた場合に、位置を把握し、対物レンズへ入射する光線の入射倍率を特定し、レンズチルト補正を行う範囲か否かを判断している。本発明を適用した光ピックアップ3によるチルト調整方法によれば、S10のようにレンズチルト補正禁止範囲か否かを確認し、レンズチルト感度を持つ範囲にのみ補正を行うことで、外乱や摂動に対して強く、良好な信号品質で記録再生を行うことを実現する。
このように、本発明を適用した光ピックアップ3は、コリメータレンズ駆動部45と、コリメータ位置検出部46とを備える点に特徴を有する。そしてレンズチルト感度検知部としての制御部50は、コリメータレンズ35の位置に対する対物レンズ34に入射する光ビームの入射倍率の関係と、入射倍率に対するレンズチルト感度の関係とに基づいて、一定のレンズチルト感度を有するか否かを判別する。かかる構成を有する光ピックアップ3は、プラスチック製の対物レンズ34により使用環境温度範囲において適切にコマ収差を低減することを可能とし良好な記録再生特性を実現する。
〔7.チルト補正処理(第2の例)〕
次に、光ピックアップ3によるチルト調整方法の第2の例として、環境温度変化を温度検出素子48により把握する方法について説明する。具体的に、上述した光ピックアップ3を有する光ディスク装置1は、図17に示すような記録再生方法を行う。
ステップS21において、光ディスク装置1のディスク装着部に光ディスク2が装着される。ステップS22において、システムコントローラ7は、レーザ制御部21を駆動し光源部31より光ビームを出射させ、サーボ制御部9でスピンドルモータ4を駆動してディスク装着部に装着された光ディスク2を回転操作する。ステップS23において、光ピックアップ3及びディスク種類判別部22は、光ディスク2を検知する。
ステップS24において、制御部50は、システムコントローラ7の制御に応じてコリメータレンズ駆動部45を制御して、コリメータレンズ35を所定の位置に移動させる。また、制御部50は、コリメータレンズ駆動部45でコリメータレンズ35を光軸方向に微動して球面収差の補正も行う。尚、本ステップS24における具体的な処理は、上述したステップS4と同様であるので詳細な説明は省略する。
ステップS25において、サーボ制御部9は、フォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をフォーカス方向に移動させてフォーカス制御を行う。ステップS26において、制御部50は、光ディスク2の反りに対してコマ収差を低減できるようレンズチルト補正量を決定し、対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をチルト方向に変位させる。具体的な処理は、上述したステップS6と同様である。ステップS27において、サーボ制御部9は、トラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をトラッキング方向に移動させてトラッキング制御を行う。
ステップS28において、光ピックアップ3は、光ディスク2に対する情報信号の記録又は再生を開始する。上述のS8で説明したように、光ピックアップ3の動作等により、温度変化等が生じる場合があり、その場合にコリメータレンズ35が移動される。ステップS29において、温度検出素子48は、対物レンズ32周辺の環境温度を検出する。そして、レンズチルト感度検知部としての制御部50は、温度検出素子48より温度信号によって常時現在の温度情報を取得して検知している。
ステップS30において、制御部50は、温度に対するレンズチルト感度の関係に基づいて、レンズチルト補正禁止範囲か否か、すなわち、検知した温度に基づき得られたレンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以上であるか否かを判定する。このステップS30において、検知された温度に基づくレンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以下であると判定された場合は、レンズチルト補正禁止範囲であると判断され、ステップS31に進む。一方、検知された温度に基づくレンズチルト感度状態が一定のレンズチルト感度以上であると判定された場合は、レンズチルト補正禁止範囲ではないと判断され、ステップS32に進む。
ステップS31において、制御部50は、温度変化に伴い発生するコマ収差を低減できるようレンズチルト補正量を修正し、対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をチルト方向に変位させる。具体的に、制御部50は、RF信号の品位が良くなる方向に、すなわち光検出器39により検出されるRF信号のジッタ量を検出し、このジッタ量が最小となる方向に対物レンズ34を傾ける。ここで、温度変化に伴い発生するコマ収差とは、上述したようにプラスチック製対物レンズ34の形状変化や屈折率変化や、上述の温度変化に伴う球面収差を低減するための入射倍率変化に伴い発生するコマ収差を意味する。
ステップS32において、制御部50は、レンズチルト補正量を維持し、すなわち、対物レンズ駆動部49により対物レンズ34のチルト方向の変位を変化させないように制御する。
ステップS33において、システムコントローラ7は、記録又は再生動作が終了であるか否かを判定する。ここで、記録又は再生動作が終了されたと判断された場合にはステップS34に進む。一方、システムコントローラ7は、記録又は再生動作が終了していないと判断された場合にはステップS29に戻る。
ステップS34において、レーザ制御部21は、光源部31から光ビームの出射を停止させ、サーボ制御部9は、スピンドルモータ4の駆動を停止させる。
以上のような図17に示した処理によれば、レンズチルト感度を持つ範囲にのみ補正を行うことで、外乱や摂動に対して強く、良好な信号品質で記録再生を行うことが可能となる。すなわち、一般的に、プラスチック製対物レンズを搭載するBD用光ピックアップと同様に、温度変化に対して対物レンズで発生する球面収差量が無視できない量であるため、コリメータレンズを温度にあわせ駆動させるシステムとしている。ここで、光ピックアップ3では、対物レンズ周辺の温度をモニターすることで、発生球面収差の量が分かり、それを補正する為にコリメータレンズを駆動させる量を知ることが可能となる。結果、コリメータレンズの駆動量と入射倍率の関係より、温度に対しての対物レンズチルト感度が分かり、レンズチルト補正範囲を知ることが可能となる。本発明を適用した光ピックアップ3による図17に示すチルト調整方法によれば、コリメータ位置検知する図16の場合と同様に、温度検知によりS30のようにレンズチルト補正禁止範囲か否かを確認する。これにより、レンズチルト感度を持つ範囲にのみ補正を行うことで、外乱や摂動に対して強く、良好な信号品質で記録再生を行うことを実現する。
このように、本発明を適用した光ピックアップ3は、対物レンズ34近傍の温度を検出する温度検出部として温度検出素子48を備える点に特徴を有する。そしてレンズチルト感度検知部としての制御部50は、温度に対するレンズチルト感度の関係に基づいて、一定のレンズチルト感度を有するか否かを判別する。かかる構成を有する光ピックアップ3は、プラスチック製の対物レンズ34により使用環境温度範囲において適切にコマ収差を低減することを可能とし良好な記録再生特性を実現する。
〔8.チルト補正処理(第3の例)〕
次に、光ピックアップ3によるチルト調整方法の第3の例として、チルトウォブリングによる信号変動量を光検出器39により把握する方法について説明する。
具体的に、上述した光ピックアップ3を有する光ディスク装置1は、図18に示すような記録再生方法を行う。
ステップS41において、光ディスク装置1のディスク装着部に光ディスク2が装着される。ステップS42において、システムコントローラ7は、レーザ制御部21を駆動し光源部31より光ビームを出射させ、サーボ制御部9でスピンドルモータ4を駆動してディスク装着部に装着された光ディスク2を回転操作する。ステップS43において、光ピックアップ3及びディスク種類判別部22は、光ディスク2を検知する。
ステップS44において、制御部50は、システムコントローラ7の制御に応じてコリメータレンズ駆動部45を制御して、コリメータレンズ35を所定の位置に移動させる。また、制御部50は、コリメータレンズ駆動部45でコリメータレンズ35を光軸方向に微動して球面収差の補正も行う。尚、本ステップS44における具体的な処理は、上述したステップS4と同様であるので詳細な説明は省略する。
ステップS45において、サーボ制御部9は、フォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をフォーカス方向に移動させてフォーカス制御を行う。ステップS46において、制御部50は、光ディスク2の反りに対してコマ収差を低減できるようレンズチルト補正量を決定し、対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をチルト方向に変位させる。具体的な処理は、上述したステップS6と同様である。ステップS47において、サーボ制御部9は、トラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をトラッキング方向に移動させてトラッキング制御を行う。
ステップS48において、光ピックアップ3は、光ディスク2に対する情報信号の記録又は再生を開始する。上述のS8で説明したように、光ピックアップ3の動作等により、温度変化等が生じる場合があり、その場合にコリメータレンズ35が移動される。ステップS49において、制御部50及び光検出器39は、対物レンズ34にチルトウォブリング動作を加えた際の信号変動量を検出する。この検出される信号変動量としては、例えば上述のようにチルトウォブリング動作の際のジッタ量としてもよく、また、例えば上述のようにチルトウォブリング動作の際のRF信号であってもよい。以下では、信号変動量検出の一例としてジッタ量変化を検出する例について説明する。レンズチルト感度検知部としての制御部50は、バッファ等の利用による記録再生の空き時間を利用して、チルトウォブリング動作を行うことにより、レンズチルト感度を検知している。
ステップS50において、制御部50は、チルトウォブリング動作を加えた際のジッタ量に対するレンズチルト感度の関係に基づいて、レンズチルト補正禁止範囲か否かを判定する。すなわち、制御部50は、検知したジッタ量変化に基づき得られたレンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以上であるか否かを判定する。具体的に、例えば、図19(a)に示すように、制御部50によりL8Wで示すようにチルトウォブリング動作を加えた際に光検出器39により検出されるL8J1に示すジッタ量変化を検知したとする。かかる場合には、ジッタ(jitter)変動量が小さいため、制御部50は、レンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以下であると判定する。また、図19(b)に示すように、制御部50によりL8Wで示すようにチルトウォブリング動作を加えた際に光検出器39により検出されるL8J2に示すジッタ量変化を検出したとする。かかる場合には、ジッタ変動量が大きいため、制御部50は、レンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以上であると判定する。検知されるジッタ変動量の閾値については上述の通りである。このステップS50において、検知されたジッタ量変化に基づくレンズチルト感度が一定のレンズチルト感度以下であると判定された場合は、レンズチルト補正禁止範囲であると判断され、ステップS51に進む。一方、検知されたジッタ量変化に基づくレンズチルト感度状態が一定のレンズチルト感度以上であると判定された場合は、レンズチルト補正禁止範囲ではないと判断され、ステップS52に進む。
ステップS51において、制御部50は、温度変化に伴い発生するコマ収差を低減できるようレンズチルト補正量を修正し、対物レンズ駆動部49を駆動して対物レンズ34をチルト方向に変位させる。具体的に、制御部50は、RF信号の品位が良くなる方向に、すなわち光検出器39により検出されるRF信号のジッタ量を検出し、このジッタ量が最小となる方向に対物レンズ34を傾ける。ここで、温度変化に伴い発生するコマ収差とは、上述したようにプラスチック製対物レンズ34の形状変化や屈折率変化や、上述の温度変化に伴う球面収差を低減するための入射倍率変化に伴い発生するコマ収差を意味する。
ステップS52において、制御部50は、レンズチルト補正量を維持し、すなわち、対物レンズ駆動部49により対物レンズ34のチルト方向の変位を変化させないように制御する。
ステップS53において、システムコントローラ7は、記録又は再生動作が終了であるか否かを判定する。ここで、記録又は再生動作が終了されたと判断された場合にはステップS54に進む。一方、システムコントローラ7は、記録又は再生動作が終了していないと判断された場合にはステップS49に戻る。
ステップS54において、レーザ制御部21は、光源部31から光ビームの出射を停止させ、サーボ制御部9は、スピンドルモータ4の駆動を停止させる。
以上のような図18に示した処理によれば、レンズチルト感度を持つ範囲にのみ補正を行うことで、外乱や摂動に対して強く、良好な信号品質で記録再生を行うことが可能となる。すなわち、一般的に、光ピックアップでは、記録再生倍速に余裕がある場合、ユーザーが設定した記録再生倍速より高倍速で記録再生を行うことが行われている。つまり、再生の場合を例にとると、再生しているポイントより先にディスクから情報を読み取り、バッファに情報を蓄積し、必要なタイミングで情報を再生するシステムをとっている。このため、実際に再生している時間より早く光ディスクの外周部の情報を読むことが可能となる。その空きの時間を用いて、現在の環境温度に対してのレンズチルト感度を以下の方法を用いて知ることが可能となる。フォーカスサーボがかかった状態で対物レンズ駆動部49により対物レンズ34にチルトウォブリングを加えた場合、レンズチルト感度がある場合はチルト量に応じてコマ収差が発生する為、RF信号レベルに変動が生じる。逆にレンズチルト感度がない場合は、レンズチルトによらずコマ収差が発生しない為、RF信号レベルが殆ど変化しない。また、トラッキングサーボをかけたままの場合、チルトウォブリングを与えると、感度がある場合はジッターが悪化し、チルト感度がない場合はジッターに変化が生じない。光ピックアップ3では、このようなRF信号レベルやジッタ量変動を検知し、チルト感度の有無を判別することが可能となる。本発明の光ピックアップ3によるチルト調整方法の第3の例によれば、S50のようにレンズチルト補正禁止範囲か否かを確認し、レンズチルト感度を持つ範囲のみ補正を行うことで、外乱や摂動に対して強く、良好な信号品質で記録再生を行うことを実現する。
このように、本発明を適用した光ピックアップ3は、レンズチルト感度検知部が、チルトウォブリング動作を加えた際に検知されるジッタ変化やRF信号変化のような信号変動量に基づいて、一定のレンズチルト感度を有するか否かを判断する点に特徴を有する。かかる構成を有する光ピックアップ3は、プラスチック製の対物レンズ34により使用環境温度範囲において適切にコマ収差を低減することを可能とし良好な記録再生特性を実現する。
なお、以上、図16〜図18の例では、第1の光ディスク11の記録再生を行う場合を説明したが、以上のような処理は、第2の光ディスク12や第3の光ディスク13の記録再生の処理のときに行うことも可能である。また、第2及び第3の光ディスク12,13の場合は、図16〜図18の処理を行わないようにしても良い。更に、本発明は、記録装置や再生装置にも適用可能である。更に、第1の光ディスク11の専用の記録及び/又は再生装置にも適用可能である。
本発明を適用した光ピックアップ3によれば、安価で生産性の高いプラスチック製の対物レンズ34を用いることにより量産性や軽量化を実現するとともに、物性変化の大きいプラスチック製対物レンズによる温度変化に対しても良好な信号を得ることができる。また、光ピックアップ3によれば、対物レンズ34に特別な設計変更をする必要がなく、現在のガラス製レンズと同様の設計センターで形成し、これを用いて良好なコマ収差補正を可能とする。また、光ピックアップ3によれば、レンズチルト感度の変動により、従来の組み立て方法では性能を維持することが困難であったが、組み立て調整方法とレンズチルト補正範囲を最適化することで、現在と同様な使用環境下においても、使用することを可能とする。また、光ピックアップ3によれば、対物レンズ自体のコマ収差規格や、ピックアップ固定光学系の光学部品のコマ収差規格を厳しくする必要がなく、光ピックアップの組み立て精度も厳しくする必要がないため、余分なコストアップがない。光ピックアップ3によれば、従来の高価なガラス製レンズに置き換えてプラスチック製の対物レンズを用いることができ、光ピックアップ自体を安価に製造することが可能となる。光ピックアップ3によれば、初期レンズ組み立て調整方法が、初期コマ収差キャンセルの調整が必要なくなり、フラットに組み付けするのみの簡単な調整法でよく、且つ良好な収差補正を可能とする。
すなわち、本発明を適用した光ピックアップ3は、対物レンズをプラスチック製とすることにより、量産性や軽量化を向上させるとともに、レンズチルト感度の変動を考慮した構成とすることにより、環境温度変化があったときにもコマ収差の補償を実現する。よって、光ピックアップ3は、量産性や軽量化を実現させるとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。
また、本発明を適用した光ディスク装置1は、回転駆動される光ディスク2に対して光ビームを照射することにより情報信号の記録及び/又は再生を行う光ピックアップを備えるものであり、この光ピックアップとして上述の光ピックアップ3を用いている。よって、光ディスク装置1は、量産性や軽量化を実現させるとともに、良好な収差補正を実現して良好な記録再生特性を実現する。