以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態は、引っ張り歪みが結晶格子に誘起された歪みSi膜を備えた半導体基板およびその製造方法に関するものである。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る半導体基板の断面図である。図1を参照するに、半導体基板10は、単結晶シリコン基板11と、その上にシリコン酸化膜12、および単結晶シリコン基板11の基板面に平行な方向(以下、「面内方向」と称する。)に引っ張り歪みが誘起された歪みSi膜13bが積層された構成を有する。歪みSi膜13bは、ダイヤモンド結晶構造を有し、その表面が(001)面であり、膜厚方向が[001]方向である。歪みSi膜13bは、引っ張り歪みが面内方向に、圧縮歪みが厚さ方向に誘起されている。歪みSi膜13bは、面内方向に引っ張り歪みが誘起されていることで、面内方向の電子移動度が向上する。したがって、この半導体基板を用いて歪みSi膜13bの面内方向にチャネルを有するn型MOSトランジスタを形成することで動作速度を向上することが可能となる。また、後ほど実施例1において具体的に説明するが、歪みSi膜13bは、その膜中に含まれるGe含有量が、従来のSOI基板の引っ張り歪みが誘起された歪みSi膜中のGe含有量と比べて極めて少ない。歪みSi膜13bのGe含有量は、歪みSi膜13bの深さ方向(膜厚方向)について、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS)による測定では、深さ方向のGe含有量の移動平均の最大値が3×1018原子/cm-3以下に抑制されることが好ましい。これは、従来の貼り合わせ法により形成された歪みSi膜のGe含有量の移動平均の最大値よりも小さい。歪みSi膜13b中のGe含有量を低減することで、歪みSi膜13bをチャネルに使用した場合に界面準位の増加が抑制され、キャリア移動度の低下を防止することができる。また、深さ方向のGe含有量の移動平均の最大値が3×1018原子/cm-3を超えると、歪みSi膜13bは、酸化雰囲気に曝された場合、Ge原子が酸化し気化して、歪みSi膜13bの結晶性が劣化し易くなる。歪みSi膜13bの結晶性が劣化すると電子移動度が低下してしまう。また、歪みSi膜13b中のGe含有量は、界面準位の形成抑制と結晶性の劣化の回避の点で少ないほど好ましい。なお、SIMSの検出限界の点で、Ge含有量は2〜4×1017原子/cm-3以上となる。ここで、移動平均については後の実施例において説明する。
また、歪みSi膜13bには、次に説明する製造方法により極表層のみにGe原子が侵入する。より具体的には、後ほど図10で示すようにSIMSの測定によれば、Ge原子は歪みSi膜13bの表面から3nm以下の深さの範囲のみに侵入している。Ge原子の侵入深さは、Ge含有量が2×1018原子/cm-3以下となる歪みSi膜13bの表面からの深さとする。実施例1において説明するように、歪みSi膜13bのGe原子の侵入深さは、従来の歪みSiを有するSOI基板よりも極めて小さい。これにより、歪みSi膜13bに含まれるGe原子量の全体量が抑制され、上述した界面準位の形成抑制および結晶性の劣化の回避を図ることができる。
また、半導体装置の高速動作を図るために半導体装置の垂直方向の寸法を縮小する手法を適用する場合も、歪みSi膜13bの表面に近い領域のみにチャネルや浅い接合領域が形成されるようになる。このような場合に半導体基板10は、歪みSi膜13bの表面の極浅い領域のみにGe原子が含まれているので、従来の歪みSiを有するSOI基板よりもGe原子が与える上述した界面準位の形成抑制および結晶性の劣化等の悪影響の程度を低減できる。また、イオン注入による不純物イオンの拡散も抑制されるので、不純物イオンのプロファイル制御が容易になる。
図2〜図6は、第1の実施の形態に係る半導体基板の製造工程を示す図である。
最初に、図2の工程では、(001)面を有する単結晶シリコン基板11の表面の自然酸化膜(不図示)をフッ酸により除去後、分子エピタキシ法や、CVD(化学気相成長)法、例えば、超高真空CVD法、水素還元法、熱分解法、MOCVD(有機金属CVD)法等を用いてエピタキシャル成長によりSi膜13a(例えば厚さ100nm)を形成する。Si膜13aは(001)面を有する単結晶膜となる。
図2の工程ではさらに、単結晶シリコン基板11を600℃程度に加熱しながら酸素イオンを注入し、さらに1300℃の高温アニール処理により、単結晶シリコン基板11とSi膜13aとの間にシリコン酸化膜12(埋め込み酸化膜)を形成し、表面に厚さ20nm程度のSi膜13aを残しSOI基板15を形成する。Si膜13aの厚さは、半導体基板に形成される半導体装置の種類に応じて選択される。
なお、SOI基板15は、上述したSIMOX法の他、貼り合わせ法やその他の公知の方法を用いてもよい。また、単結晶シリコン基板に限定されず、サファイア(Al2O3)基板、シリコン・カーバイド(SiC)基板等を用いてもよい。
次いで、図3の工程では、Si膜13aの表面に分子エピタキシ法やCVD法(例えば、超高真空CVD法、水素還元法、熱分解法、MOCVD法等)を用いて厚さ40nmのSiGe膜14aをエピタキシャル成長により形成する。SiGe膜14aは(001)面が基板面と平行になるように成長し、Si膜13aとヘテロ構造を形成する。SiGe膜14aは、Si膜13aとの界面がSi膜13aとほぼコヒーレントであり(Si膜13aとほぼ同じ格子定数を有する。)、上方にいくにしたがってSiGe膜14aの本来の格子定数に変化する。したがって、SiGe膜14aには圧縮歪みが生じ(歪みSiGe膜)、特に、Si膜との界面の圧縮歪みが大きくなる。
SiGe膜14aは、具体的には、例えば超高真空CVD法により、圧力10-4Pa、SiのソースガスとしてSi2H6(流量2sccm)、GeのソースガスとしてGeH4(流量4sccm)を用い、基板温度を550℃設定して、3分間成膜する。
SiGe膜14aは、厚さが5nm〜60nmの範囲に設定され、10nm〜40nmであることが好ましい。SiGe膜14aはこのような厚さでは膜中に欠陥が生じる場合があるが、最終的に除去されるので歪みSOI基板の品質に影響を与えることはない。SiGe膜14aの組成は、Ge濃度をx原子%と表すと、Ge濃度xが10原子%〜40原子%の範囲に設定されることが好ましい。Ge濃度xが10原子%より低いとSi膜13aに引っ張り応力が十分に印加されず、40原子%より高いとSi膜13aとの界面で転位が生じ易くなり、Si膜13aに誘起される引っ張り歪みが不均一になる。さらに、SiGe膜14aは、結晶性が良好なSiGe膜14aを形成し易い点で、Ge濃度xが15原子%〜30原子%の範囲に設定されることが好ましい。以下、SiGe膜の組成を、Ge濃度をx原子%としてSi100-xGexと表す。
なお、SiGe膜14aとSi膜13aとの厚さの比は適宜選択されるが、SiGe膜14aからの引っ張り応力が十分にSi膜13aに印加される点で、SiGe膜14a/Si膜13a=0.2〜30の範囲に設定することが好ましい。
また、SiGe膜14aを形成する際の基板温度は450℃〜750℃の範囲に設定することが好ましい。基板温度が450℃よりも低いと、SiGe膜14aの組成によってはSiとGeの組成比が変わりSi膜13aとの界面で転位が生じ易くなる。そうすると次の工程でのSi膜13aに誘起する引っ張り歪み量が低下する。750℃よりも高いと、既に不純物が注入されている場合は、不純物の拡散が生じ、不純物プロファイルのくずれが生じる。なお、SiGe膜14aを形成する前にSi膜13a表面の酸化膜をフッ酸により除去してもよい。
次いで、図4の工程では、エネルギー線、例えばXeClエキシマレーザ(波長308nm、照射エネルギー280mJ/cm2)を用いてSiGe膜14aの表面にレーザ光を照射する。このレーザ光照射によって、SiGe膜14aの圧縮歪みが緩和することで、Si膜13aに引っ張り応力が印加される。Si膜13aはその下地のシリコン酸化膜12と弱く結合しているので、レーザ光照射による熱が伝導して加熱され、さらにSi膜13aから引っ張り応力が印加されるので結合が切れる。その結果、Si膜13aに引っ張り歪みがSi膜13aの厚さ方向の全体に亘って誘起される。このようにして、図5に示すように、格子緩和されたSiGe膜14bと、引っ張り歪みが誘起された歪みSi膜13bが形成される。
レーザ光照射に用いるレーザ光源は特に限定されず、CO2や、CO、He−Ne、アルゴンイオン、エキシマ等のガスレーザ、Nd:YAGやルビー等の固体レーザが挙げられ、パルスレーザ発振あるいは連続レーザ発振のいずれのレーザ光源を用いることができる。レーザ光は、ガルバノスキャナやポリゴンミラー等を用いて所定の照射位置だけを照射してもよく、基板全体に一度に照射してもよい。連続レーザ発振のレーザ光源を用いる場合は照射位置、照射時間および照射エネルギー量を制御するために、ガルバノスキャナやポリゴンミラー等を用いてスキャンしてもよい。
照射時間は、10m秒以下に設定されることが好ましい。照射時間はシリコン酸化膜全体が加熱されることを回避する点で短い程好ましいが、1n秒以上であることが好ましく、実用の点で10n秒以上であることがさらに好ましい。
レーザ光の波長は、高照射エネルギー密度の点で可視光(波長400nm〜760nm)よりも短い方が好ましく、SiGe膜14aの最表面において光から熱に変換され易くなる点で、150nm〜400nmの範囲に設定されることがさらに好ましい。このような短波長の光はSiGe膜14a中の到達深さが浅くなり、Ge原子のSi膜13aへの拡散をいっそう防止する。このようなレーザ光源としては、XeClエキシマレーザ(波長308nm)、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)、F2エキシマレーザ(波長157nm)等が挙げられる。
照射エネルギー量は、SiGe膜14aの圧縮歪みが緩和され、Si膜13aがシリコン酸化膜との結合を切って圧縮歪み誘起される温度になるように選択され、SiGe膜14aおよびSi膜13aの厚さに応じて適宜選択される。また、照射エネルギーは、照射エネルギー密度との関係で、一カ所に複数のパルスを照射して制御してもよい。
レーザ光の照射は、面照射、スポット照射のいずれでもよいが、被照射面全体を一時に照射することが好ましい。Si膜13aに均一に歪みを誘起することができる。
なお、本工程では、レーザ光の照射以外にもフラッシュランプによる照射、電子線照射を用いてもよい。フラッシュランプを用いる場合は、例えば、1フラッシュの照射時間は数マイクロ秒、照射エネルギー量100mJ/cm2に設定する。フラッシュアンプとしては、例えばキセノンフラッシュランプやタングステンハロゲンランプ等が挙げられる。また、電子線を用いる場合は、加速電圧を5keV〜10keV、照射線量を10μA程度、照射時間を5n秒〜10n秒程度に設定する。
次いで、図6の工程では、図5の構造体のSiGe膜14bをウエットエッチングにより除去する。具体的には、フッ酸、過酸化水素水、および酢酸の混合液(エッチング液)を用いて、例えば液温25℃に設定し、図5の構造体の表面にスプレー式エッチング法により塗布してSiGe膜14bのみを溶解して除去する。次いで、露出した歪みSi膜13bの表面を純水等により洗浄・リンスして乾燥する。かかるエッチング液はSiに対するエッチング速度よりもSiGeに対するエッチング速度が大きく、エッチング選択性を有するので、SiGe膜14bと歪みSi膜13bとの界面でエッチングを制御良く停止することができる。したがって、SiGe膜14bの残留が回避されるので、歪みSi膜13bの表面のGe原子の残留が抑制される。また、歪みSi膜13b表面を浸食しないので平滑な歪みSi膜13bの表面が得られる。なお、SiGe膜14bの除去は浸漬法、スピンコート法、噴流式エッチング法等を用いてもよい。また、SiGe膜14bの除去の際に歪みSi膜13bの表面を0.1nm〜3nmの膜厚の範囲でオーバーエッチングしてもよい。このようにすることで、Ge原子が拡散した歪みSi膜の極表層を除去することで、Ge含有量がいっそう少ない歪みSi膜が得られる。特に、オーバーエッチングは、この半導体基板の製造方法ではGe原子の歪みSi膜13bへの拡散が極表層のみに抑制されているので有効である。歪みSi膜13bのオーバーエッチングは、SiGe膜14bの除去の際に行ってもよく、SiGe膜14bの除去の後に別途行ってもよい。以上により、図6に示す引っ張り歪みが誘起された歪みSi膜13bを有する半導体基板10が形成される。
次に第1の実施の形態の実施例について説明する。
最初に先の図4の工程におけるSiGe膜の表面に照射するレーザ光の照射エネルギー量と、Si膜に誘起される歪みとの関係を求めた。
図7は、歪みSi膜のラマンシフトと照射エネルギー量との関係を示す図である。図7は、歪みSi膜は、SiGe膜として、Si80Ge20膜、Si75Ge25膜(数値はその元素の原子濃度を示す。)を用い、0J/cm2(レーザ照射を行わない場合)〜280mJ/cm2まで照射エネルギー量を異ならせて歪みを誘起したものである。なお、XeClレーザ(波長308nm)を用い、レーザ照射は40n秒のパルスを100Hzで複数回照射し、照射エネルギー量はその総照射エネルギー量を示す。また、Si膜、SiGe膜の厚さを各々20nm、40nmとし、SiGe膜は、超高真空CVD法により、上記条件により形成されたものである。図7は、このような歪みSi膜をラマン分光測定器を用いて、歪みSi膜の520cm-1付近のピークの変化を測定したものである。このピークが低波数側にシフトするラマンシフトが生ずるとSi膜に引っ張り歪みが誘起されていることを示す。
図7を参照するに、レーザ照射を行わない場合(0mJ/cm2)と比較して、200〜280mJ/cm2をSiGe膜に照射した場合、Si膜のラマンシフトは低波数側に変化することが観察され、Si膜に引っ張り歪みが誘起されたことが分かる。また引っ張り歪みの大きさは、Si75Ge25膜を用いた場合はSi80Ge20膜を用いた場合よりもラマンシフト値が小さいことから、より大きな引っ張り歪みがSi膜に誘起されていることが分かる。すなわち、Ge濃度がより高いSiGe膜を用いることでより大きな引っ張り歪みをSi膜に誘起できることが分かる。これは、Ge濃度が高い方がSiGe膜の格子定数が大きいことによる。なお、レーザ照射を行わない場合のSi膜のラマンシフト値がSi80Ge20膜とSi75Ge25膜を用いた場合で異なるのは、Si膜上にそれぞれのSiGe膜を形成する際にSiGe膜から受けた引っ張り歪みが残留しているためと推察される。
図8は、レーザ照射の照射エネルギー量とSiGe膜の厚さとの関係を示す図である。図8は、各々の厚さを有するSiGe膜によりSi膜に歪みが誘起される最小の照射エネルギー量を示したものである。SiGe膜としてSi80Ge20を用いて、厚さを30nm、40nm、50nm、60nm、80nm、100nmとし、超高真空CVD法により本実施の形態の上記の条件により形成し、レーザは図7と同様のものを用いた。また、Si膜の厚さを20nmとした。なお、Si膜の歪みの形成は、SiGe膜のラマンシフトをラマン分光測定器により測定し、SiGe膜が緩和した場合をSi膜に歪みが形成されたとした。
図8を参照するに、SiGe膜の厚さが30nm〜60nmの範囲では、照射エネルギー量が約300mJ/cm2〜約400mJ/cm2の範囲で、Si膜に歪みを誘起することができた。一方、SiGe膜の厚さが80nm、100nmでは、適度な照射エネルギー量でSi膜に歪みを誘起することができなかった。これらのことから、SiGe膜の厚さは30nm〜60nmの範囲であることが好ましいことが分かる。なお、SiGe膜の厚さが30nm未満でもSi膜に歪みを誘起することは可能であることが十分に期待される。
図9は、レーザ照射の前後のシリコン酸化膜/Si膜/SiGe膜の積層体の深さプロファイルを示す図である。図9は、先の図5に示すシリコン酸化膜/Si膜/SiGe膜の積層体の表面からArイオンにより表面をエッチングしながら、SIMSを用いてSiおよびGeの定量分析を行ったものである。Si膜の厚さを20nmとし、SiGe膜は厚さ40nmのSi83Ge17膜を用い、超高真空CVD法により上記条件により形成されたものである。また、レーザ照射前のプロファイルを実線で、レーザ照射後のプロファイルを破線で示す。
図9を参照するに、レーザ照射後のプロファイルは、レーザ照射前のプロファイルに重なっており、レーザ照射によるSiGe膜およびSi膜の加熱によりGe原子の拡散が生じていないことが分かる。したがって、レーザ照射のような短時間の加熱により、従来のアニール等では避けられなかったSi膜にGe原子が拡散しSi膜をチャネルに使用した場合に生じる界面準位の増加によるキャリア移動度の低下を防止することができる。
なお、図9では、Si膜とSiGe膜との界面のGe濃度が数nm程度に亘って変化しているが、これは、SIMSの分析の際の深さ分解能や試料の傾き等の影響によるものと考えられる。仮にSiGe膜を形成した際のSi膜へのGe原子の拡散が生じていても、上述した図6の工程により除去されるので、歪みSi膜に残留することはない。
次に、本実施の形態の実施例1に係る半導体基板を以下のようにして形成した。半導体基板は、シリコン基板、シリコン酸化膜、および歪みSi膜からなる。
最初に、上述した方法でシリコン基板、シリコン酸化膜、およびSi膜(厚さ15nm)の積層体を形成した。次いで、Si膜上に、超高真空CVD法により、圧力10-4Pa、SiのソースガスとしてSi2H6(流量2sccm)、GeのソースガスとしてGeH4(流量4sccm)を用い、基板温度を550℃設定して、3分間成膜した。このようにして、Si膜上に厚さ30nmのSi80Ge20膜を成長させた。
次いで、Si80Ge20膜の表面にエキシマレーザ(波長308nm)を用いて、240mJ/cm2のエネルギー密度でパルス時間幅が40n秒のレーザパルスを1ショット照射し、Si膜に引っ張り歪みを形成した。
次いで、歪みSi膜上の80Ge20膜をフッ酸、過酸化水素水、および酢酸を混合したエッチング液(液温25℃)を用いて除去し、歪みSi膜を有する半導体基板を形成した。なお、この歪みSi膜のラマン分光測定器による測定で得られたピーク位置が516cm-1となり、ラマンシフトが4cm-1であった。これにより歪みSi膜に1GPa程度の引っ張り応力が誘起されていることを確認した。
このようにして得られた実施例1に係る半導体基板の歪みSi膜中のGe含有量をSIMSにより深さプロファイルを測定した。また、比較のためエキシマレーザを照射しない以外は実施例1に係る半導体基板と同様の工程で比較例1の半導体基板を形成した。そして、比較例1の半導体基板のSi膜についてもSIMSにより深さプロファイルを測定した。
図10は、第1の実施の形態の実施例1に係る半導体基板の歪みSi膜中のGe含有量の深さプロファイルを示す図である。図11は、比較例1に係る半導体基板のSi膜中のGe含有量の深さプロファイルを示す図である。なお、図10および図11中の細い実線で接続された点はGe含有量の実測値を示し、太い実線はGe含有量の実測値の深さ方向の移動平均を示している。また、図10および図11中、Ge含有量が約2.1×1017原子/cm-3で実線状となっているのは、実測値の点が連続しているためである。Ge含有量の深さ方向の移動平均は、Ge含有量の実測値を米国Synergy Software社製の商品名KaleidaGraph(日本語版ver3.52)のソフトウェアを用いて、そのスムージング機能を使用して求めたものである。また、Ge含有量の絶対値は標準試料により校正した。なお、後の図12においてもSIMS測定、移動平均方法、および校正方法は同様にして行った。
図10および図11を参照するに、実施例1と比較例1を比較するとGe含有量はSi膜の表面から25nmの深さまでの全体に亘って略同等であることが分かる。このことから、実施例1に係る半導体基板の歪みSi膜にエキシマレーザをSi80Ge20膜に照射したことによるGe原子の深さ方向への拡散が生じていないこと、および各々の深さにおいてGe原子含有量を増加させる拡散の両方が生じていないことが分かる。したがって、エキシマレーザの照射によりSi80Ge20膜の圧縮歪みを緩和させて、Ge原子をSi膜中に拡散させることなくSi膜に引っ張り歪みを形成できることが確認できた。
次に、本発明によらない比較例2の半導体基板についてSIMSによる深さプロファイルを測定した。比較例2の半導体基板は、Soitec社製の歪みSi膜を有するSOI基板であり、その構成は実施例1に係る半導体基板と同様である。比較例2の半導体基板は背景技術の欄で説明した非特許文献3または4記載の方法で形成されたものである。
図12は、比較例2に係る半導体基板の歪みSi膜中のGe含有量の深さプロファイルを示す図である。図12中の細い実線はGe含有量の実測値を示し、太い実線はGe含有量の深さ方向の移動平均を示している。
図12を参照するに、比較例2の歪みSi膜中Ge含有量はその最大値が7×1018原子/cm-3であるのに対して、図10に示す実施例1の歪みSi膜中のGe含有量はその最大値が1.6×1018原子/cm-3である。したがって、実施例1は比較例2よりもGe含有量の最大値が75%も低減されており、Ge含有量が低く抑制されていることが分かる。
ここで、各々の図で太い実線で示すように、Ge含有量の深さ方向の移動平均の最大値は、比較例2では4.1×1018原子/cm-3程度であるのに対して、実施例1では、9×1017原子/cm-3となっている。したがって、実施例1は比較例2よりもGe含有量が1/4に低く抑制されていることが分かる。このことから、実施例1は、比較例2の貼り合わせによる従来の歪みSi膜を有するSOI基板よりも歪みSi膜中のGe含有量が極めて少ないので、歪みSi膜をチャネルとした場合の界面準位の形成を回避でき、さらに、酸素雰囲気に曝露されても膜質の劣化を回避できる。
また、図10および図12に示すように、Ge含有量の実測値が2×1018原子/cm-3以下となる深さは、比較例2では4nmであるのに対して、実施例1では2nm未満である。すなわち、実施例1は比較例2よりも極浅い領域のみにGe原子が侵入していることが分かる。したがって、歪みSi膜のチャネルや浅い接合領域を形成して半導体装置とする場合に、動作速度の向上のために垂直方向の寸法を縮小する手法が用いられる。実施例1の半導体基板は、このような場合に、Ge原子が歪みSi膜の極浅い領域のみに侵入しているので、チャネルや浅い接合領域が浅い領域に形成されてもGe原子が与える悪影響の程度を比較例2よりも抑制できる。
なお、2×1018原子/cm-3を境界とした理由の一つとして、これよりも低含有量とするとSIMSの装置等に起因して実測値に含まれる測定誤差による影響が増加し、個々の実測値のばらつきが増加するからである。
また、SIMSによる深さプロファイルは、Physical Electronics社のADEPT1010を用いて、一次照射イオンに20kVに加速したCs(セシウム)を使用し、180μm×288μmの大きさの検出領域について、その表面にCsをスパッタしながら深さプロファイルを測定した。
本実施の形態によれば、SiGe膜14aをエネルギー線の短時間の加熱によりSi膜13aに歪みを誘起するので、SiGe膜14aからのGe原子の歪みSi膜13bへの拡散が抑制される。したがって、歪みSi膜13a中に残留するGe原子を大幅に低減することができる。その結果、Ge含有量の極めて少ない、高品質の歪みSi膜13bを有する半導体基板10を実現できる。
また、本実施の形態によれば、レーザ光、フラッシュランプ、電子線等のエネルギー線を用いた照射による容易な加熱方法を用いているので、半導体基板10を簡便に製造することができる。
なお、上述したSiGe膜14aの代わりにSiGeよりも格子定数の大きな材料、例えばAlAs、GaAs、InPを用いてもよい。また、上述したSiGe膜14aの代わりに、Siとほぼ同様の格子定数を有するGaPやAlP等のIII−V族の化合物を構成する元素の一部を共有結合半径の大きな元素に置換した組成の膜を用いてもよい。これらのSiGeよりも格子定数の大きな材料を用いることでSiGe膜と同様の効果が得られる。例えば、GaPのPの一部をAsに置換したGaPAs膜や、GaPのGaの一部をInに置換したGaInP膜や、AlPのAlの一部をInに置換したAlInP膜を用いてもよい。
また、上述したSiGe膜14aの代わりにSiよりも格子定数が小さい膜をSi膜13aの上に成長させ、上述した加熱方法でSi膜13aに圧縮応力を印加して、Si膜13aに圧縮歪みを誘起することができる。圧縮歪みが誘起されたSi膜は、歪みが誘起されていないSi膜よりも正孔移動度が高く、かかる圧縮歪みSi膜をp型MOSトランジスタのチャネル層に用いることで、動作速度を向上することができる。このようなSi膜に圧縮応力を印加する膜としては、Si膜のSiの一部をCで置換したSiC膜、Siとほぼ同様の格子定数を有するGaPやAlP等のIII−V族の化合物を構成する元素の一部を共有結合半径の小さな元素に置換した組成の膜を用いてもよく、例えば、GaPのPの一部をNに置換したGaPN膜や、GaPのGaの一部をAlに置換したGaAlP膜や、AlPのPの一部をNに置換したAlPN膜を用いてもよい。また、Si膜に圧縮応力を印加する膜として、C膜、BN膜、BP膜、ZnS膜も用いることが可能であると期待される。
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態に係る半導体基板およびその製造方法について説明する。第2の実施の形態に係る半導体基板は、第1の実施の形態に係る半導体基板の変形例である。
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る半導体基板の断面図である。図13を参照するに、半導体基板60は、単結晶シリコン基板11と、その上にシリコン酸化膜12、シリコン酸化膜12上に複数の領域に離隔して設けられた歪みSi膜13b−1が積層された構成を有する。歪みSi膜13b−1は、面内方向に引っ張り歪みが誘起されており、第1の実施の形態の歪みSi膜13bと同様である。歪みSi膜13b−1は、シリコン酸化膜12を露出する溝61により互いに離隔され、一枚の基板上に多数の歪みSi膜13b−1が形成されている。歪みSi膜13b−1は互いに溝61により分離されているので、後述するように、互いの歪みが形成される際に干渉することがなく、歪み量の面内方向の均一性が良好になる。したがって、本実施の形態によれば、歪みSi膜13b−1の電子移動度が向上すると共に、より均一になる。
なお、溝61により離隔された互いに離隔された歪みSi膜13b−1の一つの大きさは、歪みSi膜13b−1に形成する半導体装置の1チップの大きさとしてもよく、あるいは、複数の機能部を有する半導体装置の一つの機能部の大きさとしてもよく、あるいは、単体素子の大きさとしてもよい。
図14および図15は、第2の実施の形態に係る半導体基板の製造工程の一部を示す図、図16は図14の工程の半導体基板の平面図である。
最初に、第1の実施の形態の図2および図3の工程と同様にして、単結晶シリコン基板11上にシリコン酸化膜12、Si膜13a、およびSiGe膜14aを積層する。
次いで、図14の工程では、SiGe膜14aおよびSi膜13aを貫通しシリコン酸化膜12を露出する溝61を形成する。具体的には、図16に合わせて示すように、溝61を基板面に縦横に形成して、SiGe膜14aおよびSi膜13aを複数の領域に分割し、Si膜13a−1およびSiGe膜14a−1からなる積層体62を形成する。溝61の形成は、例えば、フォトリソグラフィ法およびRIE法により行う。なお、図14の断面図は図16に示すA−A断面図である。
図15の工程ではさらに、SiGe膜14a−1の表面にエネルギー線を照射する。エネルギー線の照射は、先の図4と同様にして行う。これにより、先の図4の工程と同様の作用により、SiGe膜14a−1の圧縮歪みが緩和してSi膜13a−1に引っ張り歪みが誘起され、図15に示す引っ張り歪みが誘起されたSi膜13b−1が形成される。Si膜13b−1およびSiGe膜14b−1の積層体62bが溝61によって分離され、各々膜13b−1、14b−1の端部が開放されているので、SiGe膜14b−1の圧縮歪みの緩和およびSi膜13b−1の引っ張り歪みの誘起が円滑になる。その結果、Si膜13b−1の引っ張り歪みの面内方向の均一性が良好となり、電子移動度の均一性が良好になる。また、図14のSiGe膜14a−1の圧縮歪みが緩和した量の略総てがSi膜13b−1の引っ張り歪み量となるので、第1の実施の形態と比較してより大きな歪み量の引っ張り歪みが歪みSi膜13b−1に誘起される。また、エネルギー線の照射の際に、溝61の底面に露出するシリコン酸化膜12の表面にエネルギー線が照射されるので、シリコン酸化膜12の温度が上昇して、図14に示すSi膜13a−1とシリコン酸化膜12との結合が切断され易くなり、Si膜13b−1により大きな引っ張り歪みが形成され易くなる。
なお、エネルギー線の照射を図14および図16に示す各々の積層体62a毎に行ってもよい。各々の積層体62aの面積は、基板11全体の面積よりも小さく、このような小面積の範囲には均一なエネルギー密度のエネルギー線をより形成し易い。その結果、各々の積層体62aのSi膜13b−1の引っ張り歪み量もいっそう均一になる。また、エネルギー線を積層体62aよりも広い範囲に照射することがより効果的である。
また、溝61により画成された積層体62aの面内方向の大きさは適宜選択されるが、メモリーチップやLSI等の半導体装置と同等の大きさとしてもよく、半導体装置の略整数倍の大きさとしてもよい。これにより、半導体装置の製造工程において、半導体基板60に半導体装置を形成した後に、個々の半導体装置に切断するダイシング工程が容易になる。
次いで、図示は省略するが、先の図6の工程と同様にしてSiGe膜13b−1を除去する。以上により図13に示す、面内方向に互いに分離された歪みSi膜13b−1を有する半導体基板60が形成される。
なお、この製造方法では、図14の工程で、Si膜13a−1とSiGe膜14a−1の積層体に溝61を形成したが、図示を省略するがSi膜13a−1を形成した後に図14の工程と同様にして溝を形成し、次いでSi膜13a−1上にSiGe膜を形成してもよい。
本実施の形態によれば、第1の実施の形態に係る半導体基板の製造方法と同様の効果に加え、歪みSi膜13b−1の全体に亘って引っ張り歪み量が均一になるので、いっそう高品質の歪みSi膜13b−1が得られる。
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、引っ張り歪みが結晶格子に誘起された歪みSi膜を備えた半導体基板およびその製造方法に関するものであり、単層のSiGe膜の代わりに組成の異なる複数のSiGe膜を用いた以外は、第1の実施の形態と同様である。
図17および図18は、本発明の第3の実施の形態に係る半導体基板の製造工程を示す図である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
最初に、図17の工程では、単結晶シリコン基板11、シリコン酸化膜12、およびSi膜13aの積層体を、第1の実施の形態の図2の工程と同様にして形成する。
図17の工程ではさらに、Si膜13aの上に、Ge濃度を異ならせた複数のSiGe膜14a−1〜14a−3からなる積層体を形成する。SiGe膜14a−1〜14a−3の形成は、第1の実施の形態の図3の工程と同様にして行う。
SiGe膜14a−1〜14a−3の組成は、Si膜13a側から積層方向にいくに従ってGe濃度が減少するように設定する。例えば、図17に示すように、Si膜13a側からSi60Ge40膜14a−1(厚さ5nm)、Si80Ge20膜14a−2(厚さ20nm)、Si90Ge10膜14a−3(厚さ20nm)とする。SiGe膜14a−1〜14a−3の積層体をこのように構成することで、Si膜13aとの界面では、Ge濃度が高いSi60Ge40膜14a−1によりSi膜13aにいっそう大きな引っ張り歪みを誘起することができる。それと共に、積層体の積層方向に、格子定数がSi60Ge40膜14a−1よりも小さいSi80Ge20膜14a−2、Si90Ge10膜14a−3を順次積層することにより、積層体中の欠陥の発生を抑制して厚さを確保し結晶性の良好な積層体を形成することで、Si60Ge40膜14a−1を支持し、安定してSi膜13aに引っ張り歪みを誘起することができる。
また、SiGe膜14a−1〜14a−3の積層体の表面に配置されたGe濃度の低いSi90Ge10膜14a−3は、レーザ光の波長が短い程吸光度が高く、レーザ光の光エネルギーを効率良く熱に変換することができる。すなわち、SiGe膜14a−1〜14a−3の積層体は、Si膜13a側ではより大きな歪みを誘起する組成を選択し、積層体の表面側ではレーザ光の吸光度が高くなる組成を選択してもよい。なお、SiGe膜14a−1〜14a−3の積層体は3層に限定されず、2層であってもよく、4層以上でもよい。さらに、SiGe膜14a−1〜14a−3の積層体は連続的にGe濃度が変化する組成傾斜膜としてもよい。
図17の工程ではさらに、図4の工程と同様にしてSiGe膜14a−1〜14a−3の積層体の表面にレーザ光を照射する。これによりSi膜13aに引っ張り歪みが誘起され、図18に示す歪みSi膜13cが形成される。なお、図示を省略しているが、SiGe膜14a−1〜14a−3の積層体は、レーザ照射により圧縮歪みが緩和した状態になる。
次いで図18の工程では、図6の工程と同様にして、図17に示すSiGe膜14a−1〜14a−3の積層体を除去する。以上により、引っ張り歪みが誘起されたSi膜13cを有する半導体基板20を形成することができる。
本実施の形態によれば、Si膜上の形成するSiGe膜をSi膜の界面から離れるにしたがって次第にGe含有量の少ない組成のSiGe膜を順次積層する。これにより、SiGe膜の積層体中の欠陥の発生を抑制して、厚さを確保すると共に結晶性の良好な積層体を形成することで、Si60Ge40膜14a−1を支持し、安定してSi膜13aに引っ張り歪みを誘起することができる。したがって、第1の実施の形態で形成された半導体基板よりもいっそう大きな引っ張り歪みが誘起されたSi膜13cを有する半導体基板20を形成することができる。
(第4の実施の形態)
次に本発明の第4の実施の形態に係る半導体基板およびその製造方法について説明する。第4の実施の形態に係る半導体基板は、第3の実施の形態に係る半導体基板の歪みSi膜の表面にGe膜を形成した半導体基板である。
図19は、本発明の第4の実施の形態に係る半導体基板の断面図である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図19を参照するに、半導体基板25は、単結晶シリコン基板11、シリコン酸化膜12、および歪みSi膜13cからなる半導体基板20と、歪みSi膜13cの表面に形成されたGe膜26から構成される。半導体基板20は、図18に示す第3の実施の形態の半導体基板と同様の構成からなり、同様の方法で形成されたものである。
Ge膜26は、CVD法(超高真空CVD法、水素還元法、熱分解法、MOCVD法)等により歪みSi膜13c上に形成される。Ge結晶はSi結晶よりも格子定数が約4.2%大きいが、歪みSi膜13cが第3の実施の形態に高Ge濃度のSiGe膜により引っ張り歪みを生じているため、Ge膜26は界面において転位が抑制され、コヒーレントな界面を形成しエピタキシャル成長する。具体的には、Ge膜26は、圧力10-4Pa、GeのソースガスとしてGeH4(流量7sccm)、キャリアガスとしてH2(流量1sccm)を用い、基板温度を350℃に設定して、30分間成膜する。また、Ge膜26の厚さは1nm〜10nmの範囲に設定する。
このようにGe膜26を有する半導体基板25は、Ge膜26中の正孔および電子の移動度がSi膜中よりも数倍大きいので、Ge膜26をチャネル層として用いることで、高速のトランジスタを形成することができる。
また、半導体基板25は通常のSi膜の上にGe膜を形成する場合よりも良質のGe膜26を形成することができる。さらに、歪みSi膜13cは、Ge膜26をエピタキシャル成長できる程度の厚さ、例えば1nm〜5nmあればよく、薄膜化が図れるので、いっそう良質の歪みSi膜13cを用いることができ、その結果、良質のGe膜26を形成することができる。
なお、本実施の形態に係る半導体基板25は、第3の実施の形態の半導体基板の単結晶シリコン基板11、シリコン酸化膜12、および歪みSi膜13cからなる半導体基板20を用いて形成したが、その代わりに、第1または第2の実施の形態に係る半導体基板を用いてその歪みSi膜上にGe膜を形成してもよい。
(第5の実施の形態)
次に第5の実施の形態に係る半導体基板およびその製造方法について説明する。
図20は、本発明の第5の実施の形態に係る半導体基板の断面図である。図20を参照するに、半導体基板30は、シリコン酸化膜12上に、引っ張り歪みが結晶格子の基板面に平行な方向に誘起されたSi膜13bからなる第1領域31と、圧縮歪みが結晶格子の基板面に平行な方向に誘起されたSiGe膜14aからなる第2領域32からなる。第1領域31のSi膜13bは上述した第1〜第3の実施の形態と同様の歪みSi膜である。第2領域32のSiGe膜14aはセン亜鉛鉱型結晶構造を有し、基板面に平行に(001)面が形成され、であり、膜厚方向が[001]方向になっている。SiGe膜14aには、引っ張り歪みが膜厚方向に誘起されている。また、SiGe膜14aには、圧縮歪みが基板面に平行な方向、すなわち、正孔の走行方向に誘起されているので、正孔移動度が向上する。
図21〜図23は、本発明の第5の実施の形態に係る半導体基板の製造工程を示す図である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
最初に図21の工程では、単結晶シリコン基板11/シリコン酸化膜12/Si膜13aの積層体を第1の実施の形態の図2の工程と同様にして形成する。
図21の工程ではさらに、Si膜13aの上に、図3の工程と同様にしてSiGe膜14aを形成する。SiGe膜14aは上述したように、Si膜13aの上にエピタキシャル成長しているので、圧縮歪みが誘起されている。
図21の工程ではさらに、次の工程でSi膜13aに引っ張り歪みを誘起させる第1領域31のSiGe膜14aの上にレジスト膜(不図示、厚さ100nm)をフォトリソグラフィ法により選択的に形成し、さらにシリコン酸化膜33をスパッタ法、CVD法等により形成する。シリコン酸化膜33は、次の工程でシリコン酸化膜33表面が加熱される場合は厚さが約50nmに設定される。次いで、レジスト膜上のシリコン酸化膜33と共にレジスト膜をリフトオフする。なお、第1領域31と第2領域32の境界部に下側のシリコン酸化膜12に達する溝部34を設けてもよい。具体的には、図示を省略するが、フォトリソグラフィ法により選択的にレジスト膜を形成し、RIE法などのドライエッチングにより溝部34を形成する。このような溝部34を設けることにより、第1領域31のSi膜13aと第2の領域のSi膜13aを不連続にすることで、次の工程で第1領域31のSi膜13aだけに引っ張り歪みを均一に誘起することができる。
図22の工程では、図21の構造体の表面にレーザ照射を行う。レーザ照射は、第1の実施の形態の図4の工程と同様に行う。このレーザ照射により第1領域31のSiGe膜14aによりSi膜13aに引っ張り応力が印加されてSi膜13aに引っ張り歪みが誘起される。第2領域32のSiGe膜14aにはレーザ照射による熱がシリコン酸化膜33により光の干渉作用により内部に進入するパワーが半減するので、圧縮歪みが誘起されたままになる。なお、図4の工程において説明した他のエネルギー線の照射による加熱方法を用いてもよい。
なお、シリコン酸化膜33を形成せずに、第1領域31のSiGe膜14aにのみレーザ照射を選択的に行ってもよい。選択的にレーザ照射を行う方法としては、上述した、ガルバノスキャナやポリゴンミラー等を用いる方法や、レーザ光源と照射光学系との間に所定のレーザ光の光束の広がりを照射する領域に合わせて制限するマスクを設けてもよい。
図23の工程では、第1領域31のSiGe膜14a(レーザ照射により歪みが緩和されている。)を第1の実施の形態の図6の工程と同様にして除去し、次いで、第2領域32のシリコン酸化膜33をエッチング(化学処理法)により除去する。以上により、シリコン酸化膜12上に、引っ張り歪みが誘起されたSi膜13bからなる第1領域31と、圧縮歪みが誘起されたSiGe膜14aからなる第2領域32を備えた歪み半導体基板30が形成される。
本実施の形態によれば、簡便な方法で、電子移動度の高い歪みSi膜13bと正孔移動度の高い歪みSiGe膜14aを有する半導体基板を製造することができる。また、電子移動度の高いSi膜とこのような半導体基板を一つの基板上に設けることができるので、次に説明するように高速動作のCMOS(相補型MOS)トランジスタを容易に形成できる。
(第6の実施の形態)
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態において説明した、引っ張り歪みが結晶格子に誘起されたSi膜と、圧縮歪みが結晶格子に誘起されたSiGe膜を備えた半導体基板に、CMOSトランジスタを形成した半導体装置に関するものである。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
図24は、本発明の第6の実施の形態に係る半導体装置の断面図である。本実施の形態の半導体装置40は、図23に示す第5の実施の形態に係る半導体基板30に、第1領域31に形成されたn型MOSトランジスタ41と、第2領域32に形成されたp型MOSトランジスタ42から構成され、n型MOSトランジスタ41とp型MOSトランジスタ42との間には素子分離部43が形成されている。
n型MOSトランジスタ41は、第1領域31の歪みSi膜13bにn型の不純物が拡散されたソース領域44aおよびドレイン領域44bが形成され、ソース領域44aとドレイン領域44bとの間の歪みSi膜13b上にゲート絶縁膜45、ゲート電極46が堆積されたゲート積層体48が形成され、その両側に側壁絶縁膜49が形成されている。ゲート絶縁膜45の下側の歪みSi膜13bには、チャネル(不図示)が形成されている。歪みSi膜13bには引っ張り歪みが誘起されているので、歪みが誘起されていないSi膜と比較して電子移動度が大きく、n型MOSトランジスタ41の高速動作が可能となる。
一方、p型MOSトランジスタ42は、第2領域の圧縮歪みが誘起されたSiGe膜14a(以下「歪みSiGe膜14a」と称する。)にp型の不純物が拡散されたソース領域50aおよびドレイン領域50bが形成され、n型MOSトランジスタ41と同様に、ゲート絶縁膜45とゲート電極46からなるゲート積層体48および側壁絶縁膜49が形成され、ゲート絶縁膜45の下側の歪みSiGe膜14aにはチャネルが形成されている。歪みSiGe膜14aには圧縮歪みが誘起されているので、Si膜や歪みが誘起されていないSiGe膜と比較して正孔移動度が大きく、p型MOSトランジスタ42の高速動作が可能となる。
次に、第6の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を説明する。
図25〜図27は、第6の実施の形態に係る半導体装置の製造工程を示す図である。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
最初に、図25の工程では、第5の実施の形態と同様にして、表面に歪みSi膜13b(第1領域)と歪みSiGe膜14a(第2領域)を有する半導体基板30を形成する。なお、半導体基板30には、第1領域と第2領域との境界部に溝部43が形成されている。次いで、溝部43に絶縁材料、例えばシリコン酸化膜あるいはシリコン窒化膜を充填し、素子分離部43を形成する。
図25の工程ではさらに、歪みSi膜13b、素子分離部43、および歪みSiGe膜14aの表面に、熱酸化法、CVD法、スパッタ法等によりゲート絶縁膜45(例えば、シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜、金属酸化膜等、厚さ1nm〜3nm)を形成し、さらに次の工程でゲート電極となるポリシリコン膜46a(厚さ100nm)を形成する。
次いで、図26の工程では、ポリシリコン膜46aの表面にレジスト膜を形成し、ゲートとなる領域のみが残るようにパターニングし、レジスト膜をマスクとして、RIE法等によりポリシリコン膜46a、ゲート絶縁膜45をエッチングし、歪みSi膜13b、歪みSiGe膜14aの表面を露出し、ゲート絶縁膜45とゲート電極46からなるゲート積層体48を形成する。
図26の工程ではさらに、レジスト膜およびゲート積層体48をマスクとして、歪みSi膜13b、歪みSiGe膜14aに各々n型不純物、p型不純物を注入し、エクステンション領域52、53を形成する。次いで、酸素プラズマ等を用いたアッシングによりレジスト膜を除去する。
次いで、図27の工程では、図26の構造体の表面にシリコン酸化膜(厚さ200nm)を形成し、エッチバックしてゲート積層体48の両側壁に側壁絶縁膜49を形成する。
図27の工程ではさらに、側壁絶縁膜49およびゲート電極46をマスクとして、歪みSi膜13b、歪みSiGe膜14aに各々n型不純物、p型不純物を注入し、活性化を行い、ソース領域44a、50aおよびドレイン領域44b、50bを形成し、n型MOSトランジスタ41およびp型MOSトランジスタ42が形成される。
次いで、図示は省略するが、公知の方法によりシリサイド化を行い、層間絶縁膜や、コンタクト等の垂直配線や配線層等を形成する。以上により本実施の形態の半導体装置40が完成する。
本実施の形態によれば、n型MOSトランジスタ41のチャネルが、引っ張り歪みが誘起された電子移動度の高い歪みSi膜13bに形成されるので、n型MOSトランジスタ41は高速動作が可能である。また、p型MOSトランジスタ42は、圧縮歪みが誘起された正孔移動度の高い歪みSiGe膜14aに形成されるので、高速動作が可能である。
さらに、n型MOSトランジスタ41の歪みSi膜13bにはGe原子含有量が極めて低減されているので、チャネルに界面準位が形成されることを抑制し、電子移動度の低下を防止できる。また、シリサイド化されたソース領域44aおよびドレイン領域44bの表面のGe原子の影響によるシート抵抗の増加のおそれもない。また、レジスト膜を除去するためのアッシング等の酸素プラズマに歪みSi膜13bが曝されても、歪みSi膜13b中のGe原子含有量が極めて低減されているので、Ge原子の酸化および気化が抑制され、歪みSi膜13bの膜質の劣化を抑制できる。
なお、図示を省略するが、第4の実施の形態に係る半導体基板に本実施の形態のn型MOSトランジスタを同様の方法により形成してもよい。例えば、第4の実施の形態に係る半導体基板のGe膜をチャネル層として用いるn型MOSトランジスタを本実施の形態と同様の方法で形成してもよい。このn型MOSトランジスタは、本実施の形態のn型MOSトランジスタと同様に、高速動作が可能となる。なお、第4の実施の形態の半導体基板のGe膜をチャネル層として用いるp型MOSトランジスタを形成してもよい。
以上本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。