JP4751808B2 - 鉄道車両用軸受 - Google Patents
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Description
鉄道車両用ころ軸受は、内、外輪の転走面と転動体である「ころ」との間にころがり摩擦が、つば部と「ころ」との間にすべり摩擦が発生する。ころがり摩擦に比べるとすべり摩擦は大きいので、使用条件が過酷になるとつば部の焼付きが生じやすくなる。そのためグリースの交換作業等が頻繁になりメンテナンスフリー化を達成できないという問題がある。
このような問題に対し、封入するグリースにビスマス化合物を添加することにより摩擦摩耗を低減した鉄道車両用軸受が知られている(特許文献2参照)。
軸受内部に水が浸入すると以下のことが問題となる。水滴が負荷域に浸入した場合、油膜が途切れ潤滑性の面で不利である。油膜が途切れることにより金属接触が起こり、軸受転走面において摩耗、表面起点型の剥離、早期剥離が発生する危険がある。早期剥離とは表面近傍で起こる白色組織変化を伴った剥離や、転動体の転動方向とそれとは逆方向に表面近傍で亀裂が進展する剥離を指す。また、軸受内での水の存在状態によっては軸受内部に錆が発生する。
また、鉄道車両用軸受によく用いられるころ軸受や円すいころ軸受はスラスト荷重を受け持つスラスト摺動面、いわゆるつば部ですべるため、この部位で油膜切れが発生すると摩耗が激しくなり、大量の摩耗粉が発生する。これらの摩耗粉はグリースの潤滑性能を劣化させ、軸受の剥離を助長するものである。
また、上記鉄道車両用軸受は、つばのある転がり軸受を使用することを特徴とする。
また、上記増ちょう剤は、上記脂環族−芳香族ウレア系化合物からなることを特徴とする。
錆止め作用についても、軸受を構成する鋼と、塊状の水成分との接触を少なくできるため錆の発生を抑制することができる。
車軸用軸受に関しては、RCT軸受が使用されている。このRCT軸受においては特に、ころの大端面と鍔部で軌道輪つばがすべり運動するため、グリースの潤滑油膜が破断しやすくなる。潤滑油膜が破断すると金属接触が起こり、発熱、摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。
また、主電動機用軸受に関しては、円筒ころ軸受、玉軸受が使用されている。円筒ころ軸受においては、上記のように、ころの大端面と鍔部でグリースの潤滑油膜が破断しやすくなる。また、玉軸受においては、転動体と保持器の間ですべりが生じ、さらに、転動体と軌道輪間で、差動すべりが生じるため、グリースの潤滑油膜が破断しやすくなる。
また、主電動機用軸受に関しては、電動機回転軸の出力側の両端部が車両台枠に取り付けられた円筒ころ軸受または玉軸受により支持され、この円筒ころ軸受または玉軸受は、内輪と、外輪と、この内輪および外輪間に介在し回転自在に転動する複数の円筒ころまたは玉と、この円筒ころまたは玉に耐水グリースを供給する注入孔とが配置されている。また、主電動機用軸受には、内部に封入された耐水グリースのほかに、軸受内部に基油を補給する目的で、軸受幅面両側にグリースポケットと呼ばれる空間を設け、ここにも耐水グリースが封入される場合がある。
主電動機の回転出力は、主電動機の出力回転軸から、主電動機の出力回転軸に嵌合された歯車に伝達される。この歯車の回転は、車軸に嵌合された歯車に噛合伝達され、車軸の回転として伝達される。
飽和水分量(重量%)=グリース中に分散可能な最大水分量×100/(グリース重量+グリース中に分散可能な最大水分量)
本発明に用いる耐水グリースでは、水分散剤の配合量が上記式で表される該グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%とできる量であり、好ましくは 40〜50 重量%の範囲である。この範囲であれば水分による油膜形成の阻害を抑制することができる。
飽和水分量が 30 重量%未満となる水分散剤の配合量では、水分を取り込みにくくなり、浸入した水は軸受内部で大きな水滴として存在し油膜形成を阻害する。また、60 重量%より大きい配合量であると軸受内部に多量の水分を保持しすぎてしまい、錆が発生する。
また、同様に連続相であるグリースに閉じ込められた不連続相である水粒子は鉄道車両用軸受本体を構成する鋼と接触する確率も極めて低く、低い確率で鋼に付着した水粒子も鉄道車両用軸受本体の回転に連動する転動体の回転によりすぐに連続相であるグリースに置換されるので鋼を発錆させることができないと考えられる。
金属スルフォネート系界面活性剤、カルボン酸ポリアルキレングリコール系界面活性剤またはソルビタンエステル系界面活性剤は、下記配合量の範囲内において、飽和水分量を 30〜60 重量%の範囲内に制御することができる。
例えば、本発明においてベースグリース 100 重量部に対し、Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部配合する場合には、塩基価が 50 未満のときには極圧性能が不十分となり、塩基価が 500 をこえても、それ以上の効果は望めない。
また、これらを単独で使用する場合は、Caスルフォネートを 1.5〜4 重量部、ソルビタンモノオレエートを 0.4〜2 重量部配合することが好ましい。
両者を上記範囲内で併用することにより、耐水グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%に制御することができる。また、油膜形成率などの所期の効果が頭打ちになり、軸受寿命などのグリース特性を低下させる等のおそれがない。
また、潤滑性能や価格を考慮すると、これらの非水系基油の中でも鉱油、PAO油を使用することが好ましい。
非水系基油の配合割合が、60 重量部未満では、グリースが硬く低温時の潤滑性が悪い。また 99 重量部をこえると軟質で洩れ易くなる。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
本発明においては、芳香族ジイソシアネートと、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミン、または芳香族モノアミン単体との反応で得られる脂環族−芳香族ウレア系化合物または芳香族ウレア系化合物が好ましい。特に好ましくは、脂環族モノアミンとしてシクロヘキシルアミンを、芳香族モノアミンとしてアニリンを併用する。
本発明においてベースグリース 100 重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、好ましくは 1〜40 重量部、さらに好ましくは 3〜25 重量部である。増ちょう剤の配合割合が 1 重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40 重量部をこえるとグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られにくくなる。
アミン系酸化防止剤の配合量は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.5〜2.0 重量部を配合することが好ましい。0.5 重量部未満のときは酸化防止性能が不十分となり、所期の効果を十分に得ることが困難になり、また、2.0 重量部をこえて添加してもそれ以上の効果は望めない。最も好ましくは、ベースグリース 100 重量部に対して 1 重量部である。
実施例1、実施例2、実施例4〜実施例9、参考例1〜参考例3、および比較例1〜比較例6
非水系基油である鉱油に、増ちょう剤としてウレア化合物を均一に分散させた鉱油/ウレア系ベースグリース(JISちょう度No.2グレード、ちょう度:265〜295 )を準備した。
鉱油(新日本石油社製タービン100、40℃での動粘度:100 mm2/sec )2000 g 中で、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネー卜 231.7 g と、アニリン 86.2 g と、シクロヘキシルアミン 91.7 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で添加剤を配合して試験用グリースを得た。
使用軸受:アンギュラ玉軸受7006ADLLB(外輪:S53C、内輪:SUJ2)を鉄道車両用軸受に模擬して使用した。
試験条件:得られた試験用グリースをアンギュラ玉軸受7006ADLLBに 1.0 g封入し、ラジアル荷重 8000 N 、アキシャル荷重 3000 N 、軸受回転数 1000 rpm にて回転させた状態で、注水量 1.0 ml/時間で 10 時間、注水したときの試験用グリースの油膜形成率を測定した。油膜形成率は電気抵抗法で測定した。
使用軸受:アンギュラ玉軸受7006ADLLB(外輪 S53C、内輪SUJ2)を鉄道車両用軸受に模擬して使用した。
試験条件:得られた試験用グリースをアンギュラ玉軸受7006ADLLBに 1.0 g 封入し、ラジアル荷重 8000 N 、アキシャル荷重 3000 N 、軸受回転数 1000 rpm にて回転させた状態で、注水量 1.0 ml/時間で注水したときの軸受寿命を測定した。軸受寿命は外輪転動面、内輪転動面、鋼球のいずれか1つが剥離し振動が大きくなるまでの時間を軸受寿命とした。
一定量を量り採った試験用グリースに水の混入割合を 5 重量%ずつ変化させて加え、ミクロスパーテルを用いて手動で撹拌し、加えた水を分散できた最大の水分量を求め、以下の式を用いて飽和水分量を算出した。分散できたかどうかは、試験用グリースをガラスプレートに採取し、厚さ 0.025 mm のスペーサシムをガラスプレートの両端に置き、その上から別のガラスプレートで挟み、ガラスプレート全体に 600 N の荷重を均一に負荷して、試験用グリースを広げ顕微鏡で観察したとき、グリース内に存在する最も大きい水滴の粒子径が 50μm 以下であるときを、分散できているとした。
飽和水分量(重量%)=グリース中へ分散可能な最大水分量×100/(試験用グリース重量+グリース中へ分散可能な最大水分量)
反応容器中で、PAO油(新日鉄化学社製シンフルード801:40℃での動粘度:46 mm2/sec )1600 g 中で、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネー卜 231.7 g と、アニリン 86.2 g と、シクロヘキシルアミン 91.7 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で添加剤を配合して試験用グリースを得た。得られた試験用グリースにつき実施例1同様の項目を測定した。結果を表1に併記する。
反応容器中で、鉱油(新日本石油社製タービン100、40℃での動粘度:100 mm2/sec )に増ちょう剤であるリチウム石けん(ステアリン酸リチウム)を加え、3 本ロールミルを用いて均一化処理してベースグリースを得た。さらに、表1に示す割合で添加剤を加え試験用グリースを作製した。得られた試験用グリースにつき実施例1同様の項目を測定した。結果を表1に併記する。
水が混入した場合、飽和水分量が 30 重量%未満のグリースや 60 重量%をこえるグリースでは油膜の形成が損なわれるため金属接触を起こすことや、錆が発生する。30〜60 重量%では油膜を形成できるため金属接触を起こす危険性は少ないため軸受寿命も長く、さらに錆の発生を抑制できる。
2 外輪
3 ころ
3a 円すいころ(転動体)
4 保持器
5 車軸
6 円すいころ軸受
7 内輪間座
8 注入孔
Claims (5)
- 内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、この転動体の周囲にグリースを封入してなる鉄道車両用軸受であって、
前記グリースは、非水系基油および増ちょう剤からなるベースグリースに、少なくとも水分散剤を含む添加剤を配合してなる耐水グリースであり、
前記非水系基油が、ポリ-α-オレフィン油および鉱油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、
前記増ちょう剤が、芳香族ジイソシアネートと、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミンとの反応で得られる脂環族−芳香族ウレア系化合物、または、芳香族ジイソシアネートと、芳香族モノアミン単体との反応で得られる芳香族ウレア系化合物からなり、
前記水分散剤は、塩基価が 50〜500 のCaスルフォネートを含み、前記水分散剤の配合量は、前記耐水グリースの飽和水分量が 30〜60 重量%に設定される量であることを特徴とする鉄道車両用軸受。 - 前記水分散剤は、ソルビタンモノオレエートを含むことを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用軸受。
- 前記ベースグリース 100 重量部に対し、前記Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部、前記ソルビタンモノオレエートを 0.2〜1 重量部、それぞれ含むことを特徴とする請求項2記載の鉄道車両用軸受。
- 前記増ちょう剤は、前記脂環族−芳香族ウレア系化合物からなることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の鉄道車両用軸受。
- 前記鉄道車両用軸受は、つばのある転がり軸受を使用することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の鉄道車両用軸受。
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