JP4747544B2 - テレフタル酸の精製方法 - Google Patents

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Description

本発明はテレフタル酸の精製方法に係り、特にP−キシレンの酸化反応から得られた粗テレフタル酸(CTA)の水溶液を第VIII族金属の存在下、水素化精製して高純度テレフタル酸を製造するのに好適なテレフタル酸の精製方法に関するものである。
一般に、P−キシレンの液相酸化によって得られる粗テレフタル酸には、通常、反応中間体である4−カルボニル安息香酸(4−CBA),p−トルイル酸(p−tA)などが不純物として含有され、これらを精製して高純度テレフタル酸を製造し、製造された高純度テレフタル酸はポリエステル原料として用いられている。
その際の粗テレフタル酸の精製法としては、粗テレフタル酸と水を混合し、高温,高圧下のもとで水溶液にし、その後、Pd,Ptなどの第VIII族金属触媒の存在下で水素添加を行い還元処理して精製をし、その処理水溶液から精製テレフタル酸(PTA)を晶析,回収する方法が行われている(特許文献1/特公昭41−16860号公報)。
その精製処理されたテレフタル酸水溶液から精製テレフタル酸を結晶として回収する方法として、通常、該水溶液を直列に接続された晶析槽に導入し、段階的に圧力を低下させるフラッシュ蒸発による冷却法が工業的に実施されている(特許文献2/特公昭53−
24057号公報)。
そして、晶析最終槽の精製テレフタル酸の結晶化されたスラリーからテレフタル酸を回収する方法には、通常、最終晶析槽と同じ温度,圧力において濾過または遠心分離して、洗浄する方法が行われているが、洗浄にあたって、該固液分離後、水による再スラリー化を行い、再び固液分離を行い回収する方法も行われる。次いで、回収されたテレフタル酸を乾燥工程へ送り、精製テレフタル酸として製造する方法が実施されている(特許文献3/特公昭47−49049号公報)。
このようにして得られた精製テレフタル酸はグリコール類と直接反応させるいわゆる直接重合法によるポリエステルの製造が行われており、該精製テレフタルの色相,純度への要求は勿論であるが、テレフタル酸結晶の粒子の大きさ、ならびに分布などの結晶性状に対する要求も大きい。すなわち、直接重合法におけるテレフタル酸は、グリコール類と混合してスラリー状態で反応系へ送られ重縮合反応に供されるが、精製テレフタル酸とグリコール類との適量の混合による良好なスラリー性能は、輸送,撹拌などを良好にし、重縮合反応の均一性を高めるなどの効果をもたらす。しかしながら、多量のグリコール類はポリエステル重合物の品質へ影響を及ぼすこととなる。したがって、流動性,均一性の観点から結晶性状への要求が高まっている。
このため、粗テレフタル酸の精製を目的とした水素化精製法においても、得られた精製テレフタル酸には、色相,不純物の低減とともに、結晶の粒子性状がポリエステル原料として重要な要件となっている。このような要求に対応するものとして特許文献4(特開平8−208561号公報)に記載のテレフタル酸製造方法が知られている。
このテレフタル酸の製造方法は、粗テレフタル酸を水性媒体に溶解させ、260〜320℃の温度条件下、白金族金属触媒接触させて精製し、該テレフタル酸の水性溶液からテレフタル酸を直列に接続した複数の晶析槽で段階的に冷却して晶析するに際し、第1晶析帯域における晶析温度を240〜260℃とし、攪拌翼にて攪拌動力0.4〜10kw/m3の範囲で攪拌を行い、次いで、第2晶析帯域における晶析温度を180〜230℃とし、かつ、該晶析温度を第1晶析帯域の晶析温度より20〜60℃低くすることにより晶析を行った後、固液分離し、分離したテレフタル酸結晶粒子を乾燥し、粒径が210μmを越える割合が10重量%以下のテレフタル酸粒子を得る方法である。
また、テレフタル酸の結晶に含有するp−トルイル酸の共晶などを防ぎ、品質的に満足する高純度テレフタル酸を製造するものとして、特許文献5(特開平11−228492号公報)に記載のテレフタル酸の回収方法が知られている。
このテレフタル酸の回収方法は、濃度が22〜30wt%の粗テレフタル酸の水スラリーを270〜300℃に昇温し、完全に溶解したのち水添反応し、反応後テレフタル酸水溶液を3乃至5段の晶析槽に順次供給し、各段の晶析槽の操作温度を次の近似式で表される値に選び、y=266exp(−0.61x)±5;[x:1を総段数で分割した値に各段の段数値を乗じた値,y:温度(℃)]、第1晶析槽の温度を240℃に満たない温度として、各晶析槽の平均滞留時間を10〜60分とし、各槽へは該滞留液相部へのテレフタル酸水溶液またはスラリーを供給し、最終段の晶析槽から得られたスラリーを固液分離して、高純度のテレフタル酸を得る方法である。
特公昭41−16860号公報 特公昭53−24057号公報 特公昭47−49049号公報 特開平8−208561号公報 特開平11−228492号公報
上述のような直接重合用のテレフタル酸の製造において、粗テレフタル酸水溶液の水素化精製反応により、該テレフタル酸中の4−CBAの大部分は水素化され消失するが、p−tAがほぼ相当量生成される。このため、精製処理したテレフタル酸の水溶液の段階的なフラッシュ蒸発による冷却,晶析工程において、p−tAがテレフタル酸の結晶中に共唱しないようにする必要がある。また、テレフタル酸の結晶が生成される段階的な晶析工程は、粒子径および粒子分布の粒子性状の唯一の制御工程であると同時に、該工程中に生成されたp−tAに代表される不純物がテレフタル酸結晶に共晶あるいは吸着などして結晶に取り込まれた場合、取り込まれたp−tAはその後の分離,洗浄によっても低減することが困難になる。したがって、該冷却,晶析工程は、精製テレフタル酸中のp−tAなどの不純物の低減、ならびに結晶粒子の形成に重要な工程となり、また晶析工程が水素化精製反応を補完する重要な精製法の制御工程となる。
このように、晶析温度が結晶性状ならびにp−tA含量に大きく影響を与えることは理解し得るところである。しかしながら、結晶性状およびp−tA含量はそれぞれに調整されるものではない。すなわち、フラッシュ蒸発の各段における結晶の晶析割合は、精製反応に導入されたスラリーの粗テレフタル酸濃度に対して、フラッシュされた水蒸気量ならびにその晶析温度により決まる。そして、その結晶性状とp−tA含量は全く異なった挙動をしているのではなく、各晶析段階での導入粗テレフタル酸に対する晶析割合が生成される結晶の粒子性状と共晶ならびに吸着などによるp−tA含量との間に不可分の挙動を有する。
特許文献(特開平8−208561号公報)記載の従来技術では、結晶性状に対する課題の解決手段として、第1段,第2段の晶析温度ならびに撹拌条件を主体的な操作条件としている。また、特許文献2(特公昭53−24057号公報)では、p−tA含有量を低減するために、華氏360〜320度(182〜160℃)までまたはそれ以下の温度にわたって、最初に溶解されたテレフタル酸を減少比率で晶出せしめるようにしている。さらに、特許文献5(特開平11−228492号公報)では、p−tAの量と析出するテレフタル酸結晶の量とのバランスを適切にし所望の純度で所望の量の高純度テレフタル酸を得るために、各晶析槽の温度をy=266exp(−0.61x)±5に設定するようにしている。
上記従来技術は、結晶粒子の形成またはp−tAの共晶防止についてそれぞれに考慮された発明となっているが、これら両方の課題を解決し安定した精製テレフタル酸を製造するには、まだ充分な方法ではなかった。
本発明の目的は、水素化精製されたテレフタル酸水溶液の晶析過程において、p−tA含有量が低く、かつ、好ましい結晶性状を同時に達成し安定的な精製テレフタル酸を得ることのできるテレフタル酸の精製方法を提供することにある。
上記本発明の目的は、水素化精製反応に導入される水溶液中の粗テレフタル酸濃度が
25〜33重量%の精製水溶液を晶析する過程で、直列に連結した5段のフラッシュ蒸発冷却式の晶析法による各晶析槽の操作温度を、精製反応に導入された粗テレフタル酸濃度との下記相関式で近似される温度に制御することにより、達成される。また、粗テレフタル酸濃度25〜33重量%の水スラリーは溶解温度280〜295℃の温度範囲で溶解する。
また、上記本発明の目的は、粗テレフタル酸濃度29〜33wt%の水スラリーを溶解し、第VIII族金属触媒の存在下で水素化精製した後、該精製テレフタル酸水溶液を直列に連結した5段のフラッシュ蒸発冷却式の晶析槽にて段階的に冷却・晶析させ、晶析した精製テレフタル酸を回収する方法において、前記晶析槽の各段の操作温度を導入されるスラリーの粗テレフタル酸濃度との下記相関式で近似される温度に制御するとともに、前記5段目の晶析槽で生成される水蒸気を凝縮して該晶析槽に還流することにより、達成される。また、粗テレフタル酸濃度29〜33重量%の水スラリーは溶解温度290〜295℃の温度範囲で溶解する。
Tn=(0.9958*N^3−8.4268*N^2−6.8726*N
+239.89+S*C)±2.5
Tn:各晶析槽の操作温度(℃)
C :粗テレフタル酸の濃度(重量%)
N :晶析槽の段数値(高温側晶析槽から1,2,3,4,5)
S :各晶析槽における係数(第1段 1.48,第2段,第3段,第4段,第5段 1.19)
本発明は、水素化精製されたテレフタル酸水溶液の晶析過程において、p−tA含有量が低く、かつ、好ましい結晶性状を同時に達成し安定的な精製テレフタル酸を得ることができるという効果がある。
また、本発明により得られる精製テレフタル酸は、直接重合法によるポリエステルの製造において、反応の均一性と生成重合物の色相ならびに重合度を高めて高品質なポリエステルを生成することに結び付くことは言うまでもない。
また、温度制御によって晶析槽で最良の精製効果を発揮させることができる、すなわち、粗テレフタル酸を再スラリー化して水溶液にし晶析段階でp−tA含有量が低く、かつ、好ましい結晶性状の精製テレフタル酸を得ることができるので、粗テレフタル酸の品質に変動にあっても晶析段階で対応することができる。したがって、粗テレフタル酸中の反応中間体の変動をも許容し、粗テレフタル酸のコスト低減に効果をもたらす。
さらに、p−tA含有量が低く、かつ、好ましい結晶性状の精製テレフタル酸を安定して得ることができるので、精製テレフタル酸の歩留まりが良く精製テレフタル酸の製造コストを低減させることができる。
本発明は、粗テレフタル酸(CTA)を再スラリー化して精製テレフタル酸を精製する晶析段階の条件が、精製テレフタル酸の結晶性状及びp−tA含有量に影響することに着目しなされたものである。すなわち、各段での段階的なフラッシュ蒸発と冷却による部分的晶析の割合が、精製テレフタル酸の結晶粒子を形成する際の結晶性状に影響を与え、p−tAの含有量にも影響を与える。
本発明者は、精製テレフタル酸の結晶性状として好ましいとされる平均粒子径が130〜160μ、ならびにp−tA含有量150ppm 以下を目標に、直列に連結した5段の晶析槽を用いて、フラッシュ蒸発による冷却によって精製テレフタル酸を晶析・回収する際に、結晶性状とp−tA含量との両方の目標値を満足することのできる精製反応に導入される粗テレフタル酸濃度と各段の晶析温度条件を得た。
本発明を実施するにあたり、従来、商業的に生産されている粗テレフタル酸には、p−キシレンの酸化反応により4−CBAを2500〜3500ppm 、好ましくは2700〜3300ppm 含有する粗テレフタル酸が用いられている。その粗テレフタル酸を水と混合してスラリー化し、スラリーを加熱,溶解後、水素化精製反応槽に導入する。その際、粗テレフタル酸濃度は、25〜33重量%、好ましくは26〜33重量%の範囲で導入される。さらに好ましくは27〜31重量%で導入することにより、その後の晶析工程で安定した運転と結晶性状が得られる。スラリーの加熱,溶解温度は280〜295℃の範囲で、該温度で水素化反応槽に導入し水素化する。該温度は粗テレフタル酸濃度が溶解される飽和温度より数度(すなわち、3〜12℃)高い温度で行われる。なお、テレフタル酸の水への溶解は特許文献3(特公昭47−49049号公報)の第1表を参照すれば、25重量%では276℃、29重量%では約285℃、33重量%では約290℃と推定される。
なお、必要以上の溶解水は加熱に必要な熱量の負荷につながるので好ましくない。また、テレフタル酸の濃度が高濃度のスラリーでは加熱,溶解および精製後の最終晶析槽でのスラリーの輸送,取り扱いに不具合を生じる。これらの理由によりスラリー中のテレフタル酸の濃度は制限される。そのためテレフタル酸の濃度が高濃度、例えば、29〜33重量%での精製処理の場合、特に精製後のスラリー輸送性能を改善するために、最終段晶析槽へ若干の水を供給してスラリーを希釈(供給テレフタル酸の0.5 重量倍以下)をしたり、最終段晶析槽からフラッシュされた蒸気の凝縮液を該晶析槽に戻す。これにより、精製テレフタル酸の結晶性状に大きく影響を与えることなくスラリー輸送の性能を改善できる。ただし、水の量が増えるのでその後の固液分離工程での若干の固液分離の負荷が伴なわれる。
本発明は、粗テレフタル酸の精製水溶液からの段階的なフラッシュ蒸発と冷却によって、溶解テレフタル酸を段階的に部分的晶析及び熟成過程を繰り返させ、最終段においてほぼ溶解した全部のテレフタル酸を析出させるものである。
各段のフラッシュ蒸発による急激な結晶の析出では、段数を少なくすると結晶粒子径が減少するとともにそれに伴ないp−tAの含有量の低減を阻害することとなる。すなわち、段数を少なくすると一段当たりの温度降下が大きくなり短時間の内に多くの結晶を析出することになるので結晶粒径も小さく数が多くなってしまう。そのため、共晶したp−
tAが結晶化したテレフタル酸の内部に閉じ込められ、洗浄によって除去できないp−
tAの数が増えて、最終的なp−tAの含有量の低減を阻害するものと思われる。このため、水素化還元による精製後のテレフタル酸水溶液を段階的にフラッシュ蒸発させる晶析槽の段数は、目標とされるテレフタル酸を得るために、本発明では5段の直列連結による晶析槽とした。
晶析段階では、生成される結晶粒子径ならびにp−tAの包含への主導的要因となる各段での結晶の晶析割合を最適化するために、飽和溶解度に基づき各晶析槽での温度,テレフタル酸濃度を変え、後述の表1に示す晶析後のp−tA含量と平均粒径のデータを得た。また、これを図式化し好ましい温度線図として図2(詳細は後述)に示す。
その結果、好ましい精製テレフタル酸を得る方法として、水素化精製反応後に導入するスラリー中の粗テレフタル酸濃度との関係において、図2に示す温度線図を近似化した関係式(1)を得た。
Tn=(0.9958*N^3(Nの3乗)−8.4268*N^2(Nの2乗)
−6.8726*N+239.89+S*C)±2.5 …(1)
Tn:各晶析槽の操作温度(℃)
C :粗テレフタル酸の濃度(重量%)
N :晶析槽の段数値(高温側晶析槽から1,2,3,4,5)
S :各晶析槽における係数(第1段:1.48,第2〜5段:1.19)
例えば、テレフタル酸濃度25重量%の場合の各段の晶析槽の基準操作温度(許容範囲は省略)は、第1段262.6℃,第2段230.2℃,第3段200.1℃,第4段171.1℃、第5段149.1℃ となる。テレフタル酸濃度33重量%の場合の各段の晶析槽の基準操作温度(許容範囲は省略)は、第1段274.4℃,第2段239.7℃,第3段
209.6℃,第4段180.6℃,第5段158.6℃となる。
これにより、関係式(1)によって定めた各段の晶析槽の操作温度を用いて晶析槽の格段を操作,制御することにより、目標とした平均粒子径130〜160μ、及びp−tA含有量150ppm 以下の精製テレフタル酸を精製することができる。
上記関係式(1)における各段での算出晶析割合は、導入粗テレフタル酸量に対して、第1段では34〜46重量%、第2段では82〜86重量%、第3段では95.2〜96.3重量%、第4段では98.7〜99.1重量%、第5段では99.56〜99.65重量%と微妙な晶析割合で制御されていることが推定された。また、得られた各晶析段の温度の関係は、各段における晶析割合が次の晶析段へ影響を与え、結晶粒子径ならびにp−tA含量に影響を与えていることが推察される。本発明では、特許文献4や特許文献5に示された従来の晶析方法における初段の操作温度より高く設定されているので、初段の晶析槽での晶析割合が従来の方法に比べ抑制されており、この設定温度がその後の各段の晶析温度設定と上手く適合し、目標とする性状のテレフタル酸が得られたものと考えられる。
なお、各晶析槽での操作条件は、(1)晶析がフラッシュ蒸発による冷却法のため、各晶析槽へのスラリーの導入を各槽のスラリー相中に行う、(2)各槽での平均滞留時間を10〜60分で行う。これはフラッシュによる部分的な急激な結晶の析出を少しでも緩和させるために、既に結晶が存在するスラリー相内で行わせるとともに、既に存在する結晶の上に晶析させるためである。結晶を熟成させるためには少なくとも約10分、好ましくは少なくとも20分の滞留時間を取るように制御する必要がある。また、滞留時間をあまり長くしても析出量は時間と共に多くならないのでその効果はない。
そして、得られた最終段(第5段)晶析槽のスラリーをその温度,圧力状態で固液分離し、洗浄した後、乾燥して直重合用テレフタル酸として回収される。
なお、該スラリーの固液分離は濾過あるいは沈降式の分離機いずれでも良く、固液分離後、新しい媒体によって再スラリー化することによって洗浄を行いさらにp−tA酸の低減を図ることができる。また、再スラリー化による洗浄に代えて洗浄可能な固液分離機を用いることもできる。
以下、本発明の一実施例を以下に示すが、本発明の請求範囲を超えない範囲で以下の実施例に限定されるものでない。
図1は本発明の一実施態様を示すもので、テレフタル酸の精製を行うプラントの系統図である。
図1に示すように粗テレフタル酸の再スラリー化後の精製テレフタル酸を製造する装置は、スラリー調整槽1,ポンプ2,加熱器3,溶解槽4,水素化反応槽5,第1晶析槽6,第2晶析槽7,第3晶析槽8,第4晶析槽9,第5晶析槽10,ポンプ12,固液分離器13,再スラリー化槽14,ポンプ15,固液分離器16(例えば、遠心分離機),乾燥器17から成り、これらを順次接続した5段の晶析槽方式でなる。還流凝縮器11は、第5晶析槽10から排出される水蒸気の一部を凝縮し還流させ、第5晶析槽10内のスラリー濃度を調整する。
このように構成された装置を用いて、4−CBA含有量0.30〜0.33重量%(3000〜3300ppm )の粗テレフタル酸と純水とをスラリー調整槽1に供給し、該スラリー調整槽1内で所定の濃度に調整されたスラリーをポンプ2によって加圧・送給し加熱器3によって所定の温度に加熱すると共に溶解槽4に送って粗テレフタル酸を完全に水溶液中に溶解させる。次に粗テレフタル酸の水溶液を水素化反応槽5に送り、該水溶液を第VIII族金属触媒の存在下で、所定の温度,圧力で水素化精製反応(水添反応)を行わせ、粗テレフタル酸中の4−CBAをp−tAに転化させると共にその他の不純物を水素化分解精製する。
その後、直列に連結された5段の晶析槽6〜10に水溶液を順次送給し、前述の関係式(1)で求められた温度となるようにその温度になる圧力でフラッシュ蒸発させる。また、各段の晶析槽6〜10での滞留時間を約25分としテレフタル酸を部分晶析させ、第5晶析槽10においてほぼ全量のテレフタル酸を析出させる。ここで、各晶析槽6〜10には温度センサ21及び圧力センサ22がそれぞれ設けられ、各晶析槽の圧力・温度状態を制御装置30によって監視し、各晶析槽の水蒸気排出ラインに設けた減圧弁20を制御して各晶析槽内の圧力を調整し、各晶析槽の操作温度を所定の温度に制御している。
また、制御装置30は、スラリー調整槽1への純水の供給量を制御弁24で制御し、スラリー調整槽1から出るスラリーのテレフタル酸濃度を所定の濃度に調整する。制御装置30は、ポンプ2による加圧及びスラリーの供給量を調整し、加熱器3による加熱温度を調整する。
第5晶析槽10に設けられた還流凝縮器11は、第5晶析槽10から排出される水蒸気の一部(例えば0〜100%)を凝縮して第5晶析槽10に戻す。還流凝縮器11による還流量の制御は、第5晶析槽10のスラリー排出ラインのテレフタル酸濃度を測定し、該濃度に応じて制御装置30によって第5晶析槽10の水蒸気排出ラインに設けた流量制御弁23を調整し、水蒸気の排出量を調整して還流凝縮器11へ送給する水蒸気量を制御することにより行われる。テレフタル酸濃度の測定は第5晶析槽10のスラリー排出ラインを流れるスラリーの一部を抜き出して測定しても良いし、スラリー排出ラインに直接に濃度計を設けて測定するようにしても良い。これにより、第5晶析槽内のテレフタル酸濃度が高くなりスラリーの流れが悪くなるのを抑制することができ、精製プラントの良好な運転が図れる。
例えば、粗テレフタル酸29重量%スラリーに調製し、温度290℃で水素化精製反応を行った後、順次晶析させた場合、第5晶析槽内のテレフタル酸濃度は約40%となり、同様に粗テレフタル酸33重量%スラリーに調製し、温度290℃で水素化精製反応を行った後、順次晶析させた場合、第5晶析槽内のテレフタル酸濃度は約45%となる。このように粗テレフタル酸29重量%以上のスラリーに調製されたものでは、第5晶析槽内のスラリー濃度が40%を越えるので、スラリーの流れを良好にするために第5晶析槽で発生する水蒸気を凝縮して第5晶析槽に還流することが望ましい。そのため本実施例では定量性を確保するため、第5晶析槽に温水を供給して水蒸気の凝縮による還流水に代えた。
次に、晶析の終わったスラリーを第5晶析槽10(最終段晶析槽)の温度,圧力の状態のままポンプ12によって固液分離器13に送って第1段の固液分離を行い、スラリーから精製テレフタル酸を分離する。さらに、分離された精製テレフタル酸を再スラリー化槽14に入れて精製テレフタル酸に対して1.5〜2.0重量倍の純水で再スラリー化し、精製テレフタル酸に付着したp−tAを純水に溶解させて精製テレフタル酸からp−tAを除去し、精製テレフタル酸を洗浄する。精製テレフタル酸洗浄後のスラリーをポンプ15によって固液分離器16に送って固液分離し、分離された精製テレフタル酸を乾燥器17に送って乾燥させる。
このように構成された装置においては、前述の関係式(1)によって求められた温度で各晶析槽の温度を設定することにより、目標とする性状の粒径及びp−tA含量のテレフタル酸を精製することができる。
なお、本実施例においては、晶析後の精製テレフタル酸を固液分離器13において固液分離し、スラリーから精製テレフタル酸を分離し、さらに分離した精製テレフタル酸を再スラリー化して洗浄し、p−tAを溶解除去させ、固液分離器16によって精製テレフタル酸をスラリーから分離し、乾燥器17で乾燥させて精製テレフタル酸を製造していたが、再スラリー化方式とせずに晶析後の精製テレフタル酸を洗浄式の濾過器、例えば、加圧式回転濾過機やフィルターセル型回転濾過機等に直接に供給し、精製テレフタル酸を洗浄・濾過し、濾過した精製テレフタル酸を乾燥器17で乾燥させて精製テレフタル酸を製造するようにしても良い。なお、固液分離器13として種々の濾過器が使用できることは言うまでもない。
上述のようにして精製されるテレフタル酸において、精製テレフタル酸の性状は第1段固液分離後のケーキをサンプル採取し、乾燥して測定を行った。採集した精製テレフタル酸性状の評価は、好ましい結晶性状として湿式篩法による粒径分布を測定し、平均粒子径で評価し、不純物含有量としては液クロマトグラム法によるp−tA含有量で評価した。
晶析段階において、生成される結晶粒子径ならびにp−tAの包含への主導的要因となる各段での結晶の晶析割合を最適化するために、飽和溶解度に基づき各晶析槽での温度,テレフタル酸濃度を変え、表1に示す晶析後のp−tA含量と平均粒径のデータを得た。なお、表1において比較例1ないし24に示されたものは、いずれかの晶析槽が関係式
(1)の範囲外の温度で操作されたものであり、好ましくない性状の精製テレフタル酸となっている。
Figure 0004747544
〔例1〜3,比較例1〜3〕
酢酸溶媒中、コバルト,マンガンおよび臭素の存在下、P−キシレンを分子状酸素によって酸化して得た粗テレフタル酸(CTA)を水と混合し、粗テレフタル酸の28重量%スラリーを調製した後、供給ポンプで加圧・供給し、288℃まで加熱しながら、テレフタル酸を水に溶解する。該テレフタル酸水溶液を、圧力7.3MpG ,温度288℃の
Pd−Charcoal触媒を充填した精製反応塔に精製用水素とともに、供給し、水素化精製反応を行った。該反応処理を行ったテレフタル酸水溶液を段階的に圧力を低下させる直列に連結した5段の晶析槽に供給し、表1に示される温度でテレフタル酸の結晶を析出させた。得られた精製テレフタル酸中の4−カルボニル安息香酸(4−CBA),p−トルイル酸(p−tA)およびテレフタル酸結晶粒子の平均粒子径は表1に示す通りとなった。
〔例4〜6,比較例4〜7〕
前述の例1〜3と同様の前提条件で、但し、粗テレフタル酸25重量%スラリーを調製し、水素化精製反応を行った後、表1に示される温度で順次晶析させた。得られた精製テレフタル酸の性状は表1に示す通りとなった。
〔例7〜9,比較例8〜12〕
前述の例1〜3と同様の前提条件で、但し、粗テレフタル酸31重量%スラリーを調製し、水素化精製反応を行った後、表1に示される温度で順次晶析させた。但し、これらの晶析にあたって最終段(第5段)晶析槽に、水素化精製反応へ供給の粗テレフタル酸に対して0.2重量部相当量の温水(70℃)を供給して行った。
得られた精製テレフタル酸の性状は表1に示す通りである。
〔例10〜12,比較例13〜15〕
前述の例1〜3と同様の前提条件で、但し、粗テレフタル酸27重量%スラリーを調製し、290℃まで加熱し、圧力7.5MpG ,温度290℃で水素化精製反応を行った後、表1に示される温度で順次晶析させた。得られた精製テレフタル酸の性状は表1に示す通りとなった。
〔例13,14,比較例16〜19〕
前述の例10〜12と同様の前提条件で、但し、粗テレフタル酸30重量%スラリーを調製し、水素化精製反応を行った後、表1に示される温度で順次晶析させた。但し、これらの晶析にあたって最終段(第5段)晶析槽に、水素化精製反応へ供給の粗テレフタル酸に対して0.2重量部相当量の温水(70℃)を供給して行った。
得られた精製テレフタル酸の性状は表1に示す通りである。
〔例15〜17,比較例20〜22〕
前述の例10〜12と同様の前提条件で、但し、粗テレフタル酸33重量%スラリーを調製し、水素化精製反応を行った後、表1に示される温度で順次晶析させた。但し、これらの晶析にあたって最終段(第5段)晶析槽に、水素化精製反応へ供給の粗テレフタル酸に対して0.4重量部相当量の温水(70℃)を供給して行った。
得られた精製テレフタル酸の性状は表1に示す通りである。
〔比較例23,24〕
前述の例1〜3と同様の前提条件で、但し、粗テレフタル酸23重量%スラリーを調製し、285℃まで加熱し、圧力7.1MpG ,温度285℃で水素化精製反応を行った後、表1に示される温度で順次晶析させた。得られた精製テレフタル酸の性状は表1に示す通りとなった。
図2は水素化精製反応に導入する粗テレフタル酸濃度と各晶析槽温度を示す図であり、前記表1に示された各例及び比較例の温度を点綴したものである。なお、図2には表1の比較例の温度を×印で点綴してあり、好ましくない性状の精製テレフタル酸が生成された条件のケースとして示してある。各比較例においては、何れかの晶析槽で本発明の精製方法の範囲外の温度で操作されている。図2はこれらのデータから各段の晶析槽において好ましい温度線図を求めたものであり、前述の関係式(1)はこの温度線図を近似化したものである。
ポリエステルの製造原料として好ましい性状を有するテレフタル酸を製造するのに適する。
本発明のテレフタル酸の精製方法を実施するためのプラント一実施例を示す系統図である。 水素化精製反応に導入する粗テレフタル酸濃度と各晶析槽温度との関係を示す図である。
符号の説明
1…スラリー調整槽、2,12,15…ポンプ、3…加熱器、4…溶解槽、5…水素化反応槽、6…第1晶析槽、7…第2晶析槽、8…第3晶析槽、9…第4晶析槽、10…第5晶析槽、11…還流凝縮器、13,16…固液分離器、14…再スラリー化槽、17…乾燥器、20…減圧弁、21…温度センサ、22…圧力センサ、23…流量制御弁、24…流量制御弁、30…制御装置。

Claims (5)

  1. 粗テレフタル酸濃度25〜33wt%の水スラリーを溶解し、第VIII族金属触媒の存在下で水素化精製した後、該精製テレフタル酸水溶液を直列に連結した5段のフラッシュ蒸発冷却式の晶析槽にて段階的に冷却・晶析させ、晶析した精製テレフタル酸を回収する方法において、前記晶析槽の各段の操作温度を導入されるスラリーの粗テレフタル酸濃度との下記相関式で近似される温度に制御することを特徴とするテレフタル酸の精製方法。
    Tn=(0.9958*N^3−8.4268*N^2−6.8726*N
    +239.89+S*C)±2.5
    Tn:各晶析槽の操作温度(℃)
    C :粗テレフタル酸の濃度(wt%)
    N :晶析槽の段数値(高温側晶析槽から1,2,3,4,5)
    S :各晶析槽における係数(第1段 1.48,第2段,第3段,第4段,第5段 1.19)
  2. 請求項1に記載のテレフタル酸の精製方法において、前記粗テレフタル酸濃度25〜
    33wt%の水スラリーを280〜295℃の温度範囲で溶解し、第VIII族金属触媒の存在下で水素化精製するテレフタル酸の精製方法。
  3. 請求項1に記載のテレフタル酸の精製方法において、前記晶析槽の5段目の温度で精製テレフタル酸を分離・回収することを特徴とするテレフタル酸の精製方法。
  4. 粗テレフタル酸濃度29〜33wt%の水スラリーを溶解し、第VIII族金属触媒の存在下で水素化精製した後、該精製テレフタル酸水溶液を直列に連結した5段のフラッシュ蒸発冷却式の晶析槽にて段階的に冷却・晶析させ、晶析した精製テレフタル酸を回収する方法において、前記晶析槽の各段の操作温度を導入されるスラリーの粗テレフタル酸濃度との下記相関式で近似される温度に制御するとともに、前記5段目の晶析槽で生成される水蒸気を凝縮して該晶析槽に還流することを特徴とするテレフタル酸の精製方法。
    Tn=(0.9958*N^3−8.4268*N^2−6.8726*N
    +239.89+S*C)±2.5
    Tn:各晶析槽の操作温度(℃)
    C :粗テレフタル酸の濃度(wt%)
    N :晶析槽の段数値(高温側晶析槽から1,2,3,4,5)
    S :各晶析槽における係数(第1段 1.48,第2段,第3段,第4段,第5段 1.19)
  5. 請求項4に記載のテレフタル酸の精製方法において、前記粗テレフタル酸濃度29〜
    33wt%の水スラリーを290〜295℃の温度範囲で溶解し、第VIII族金属触媒の存在下で水素化精製するテレフタル酸の精製方法。
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