JP4742371B2 - プロピレン合成用触媒 - Google Patents

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Description

本発明は、エタノールを変換してプロピレンを合成する際に用いられる新規な触媒に関する。
石油を原料とする化学工業の基幹物質であるプロピレンの工業的な製造方法は、1)900°C程度でのナフサのスチーム分解、2)プロパンの脱水素または酸化脱水素、などが代表的なものである。
他方、石油資源の枯渇の懸念と共に、非石油系原料とりわけバイオマス由来アルコールからのプロピレン製造方法の開発が、今後ますます必要になると予想されている。プロピレンの原料としては、発酵法によるエタノールが量的にも有望であり、この他にも、発酵による1,2-プロパンジオール、バイオディーゼル製造の副生物であるグリセリン、などが原料として想定される。
しかしながら、一価のイソプロパノールの脱水によるプロピレン合成の例は知られているものの(特許文献1)、エタノールからの製造では、脱水/2量化/不均化などの反応を制御する必要があり、困難度は高い。
たとえば、単独のH-ZSM5を触媒とするエタノールからのプロピレン生成が報告されているが、芳香族類を含むC5+炭化水素(非特許文献1)やプロパン(非特許文献2)が主生成物であり、エタノール転化率やプロピレン選択率において満足するものではなかった。
米国特許第6441262号明細書 J.Chem.Tech.Biotech., 77, 211-216 (2002). Catal. Lett., 31, 395-403 (1995).
本発明は、エタノールの変換反応により、高められた選択率とエタノール転化率でプロピレンを合成することのできる、工業的に有利な新規なプロピレン合成用触媒を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々の触媒群について鋭意研究を重ねた結果、2種以上の修飾剤を用いることにより、BTX選択率が低減され、プロピレン選択率が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〉周期律表第6族及び/又は第7族に属する金属を含む化合物で修飾された多孔性固体酸化物を、さらに周期律表第15族及び/又は希土類に属する元素で修飾することを特徴とする、エタノールを変換してプロピレンを合成する際に用いられるプロピレン合成用触媒。
〉多孔性固体酸化物がゼオライト化合物であることを特徴とする上記〈〉に記載のプロピレン合成用触媒。
〉エタノールが、発酵により得られたバイオエタノールであることを特徴とする上記〈1〉又は〈2〉に記載のプロピレン合成用触媒。
本発明の新規な触媒を用いれば、バイオエタノールなどのエタノール原料から一段で、高められた選択率と転化率によりプロピレンを合成することができる。
本発明のエタノールを変換してプロピレンを合成する際に用いられるプロピレン合成用触媒は、周期律表第6族及び/又は第7族に属する金属を含む化合物で修飾された多孔性固体酸化物を、さらに周期律表第15族及び/又は希土類に属する元素で修飾することを特徴とする。
多孔性固体酸化物としては、周期律表第6族及び/又は7族、並びに周期律表第15族及び/又は希土類を含む化合物と共存、またはその表面にこれらの金属を含む化合物を担持できるものであればいかなる酸化物も含まれる。
このような多孔性固体酸化物としては、ゼオライト化合物などが挙げられる。
ゼオライト化合物としては、Y-型、L-型、モルデナイト、フェリエライト、ベータ型、H-ZSM-5などを挙げることができる。
また、ゼオライト化合物以外の多孔性酸化物としては、TS-1、MCM-41、MCM-22、MCM-48、ガロシリケート、などの結晶性メタロシリケート、大口径シリカ化合物などを挙げることができる。
またこれらの多孔性酸化物にはチタン、アルミニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、ホウ素、ジルコニウムなどの元素を含有するものや非晶質多孔性シリカ化合物も含まれる。
他の多孔性固体酸化物としては、たとえば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリアなどの通常用いられる金属酸化物を硫酸根等で表面修飾した酸化物が挙げられる。またシリカ−アルミナなどの複合酸化物を硫酸根で修飾した酸化物を用いることも可能である
本発明でとりわけ好ましく使用される多孔性固体酸化物は、エタノールを表面に吸着でき、エタノールのOH基にプロトンを供給して脱水を促すことができる、シリカ/アルミナ比が小さなゼオライト化合物(特にH-ZSM5)挙げることができる。
本発明で用いる多孔性固体酸化物はその使用に当たって、周期律表第6族及び/又は第7族に属する金属を含む化合物で修飾し、さらに周期律表第15族及び/又は希土類に属する元素で修飾することが必要である。
修飾法としては、固体酸化物にタングステン等の化合物を含有させ、さらにランタンやリンなどを含有後、空気中で焼成する方法等が採られる。
ここで、周期律表第6族及び/又は第7族に属する金属を含む化合物とは、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウムの少なくとも一種の金属を含む化合物を意味する。
周期律表第6族及び/又は第7族に属する金属を含む化合物としては、代表的には、タングステン化合物、レニウム化合物、モリブデン化合物などが挙げられ、タングステン化合物としては、塩化タングステンなどのハロゲン化タングステン、12タングステン酸(10-)アンモニウム10水和物、メタタングステン酸アンモニウム、12タングステン酸(10-)カリウム10水和物などのタングステン酸カチオン化合物、ドデカタングストリン酸(3-)14水和物、ドデカタングストケイ酸(4-)26水和物などのタングストヘテロ酸化合物、ヘキサカルボニルタングステン、ヘキサメチルタングステン(VI)などの有機金属タングステン化合物、などが挙げられる。
レニウム化合物としては、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、塩化物、臭化物などのハロゲン化物、ヘキサクロロレニウム酸カリウムなどのレニウム酸化合物、過レニウム酸アンモニウムなどのレニウム酸塩、デカカルボニル2レニウム(0)、ペンタカルボニルメチルレニウムなどの有機金属レニウム化合物、などが挙げられる。
またモリブデン化合物としては、塩化モリブデンなどのハロゲン化物、4酢酸2モリブデンなどのモリブデン錯化合物、ヘキサカルボニルモリブデン(0)などの有機金属モリブデン類、2モリブデン酸ナトリウム、7モリブデン酸(6-)アンモニウム4水和物などのモリブデン酸カチオン化合物、ドデカボリブドリン酸(3-)30水和物、ドデカリブドリン酸(3-)アンモニウムなどのドデカモリブド化合物、などが例示される。
多孔性固体酸化物にタングステン等の化合物を含有させる方法としては、物理混合法や,含浸法、沈殿法、混練法、インシピエントウェットネス法等の従来公知の方法を採用することが出来る。
たとえば、タングステン等の化合物は、通常、水溶液として固体酸化物に担持される。またアセトン、イソプロパノール、ベンゼンなどの有機溶媒も用いられる。タングステン等の化合物を含有させたゼオライト酸化物等の焼成温度は、300〜900℃,好ましくは500〜700℃程度である。タングステン等の担持量は、任意であるが、タングステン金属として、担体酸化物100g当たり、0.001〜50g、好ましくは1〜20gである。これらの添加物は、単独もしくは2種以上の混合物として用いることができる。とりわけ6のタングステン元素の場合には、エタノールの脱水により生成したエチレン中間体の2量化を促進するので特に好ましい。
本発明においては、上述した周期律表第6族及び/又は第7族に属する金属を含む化合物で修飾することに加えて、さらに周期律表第15族及び/又は希土類に属する元素で修飾する。
たとえば、タングステン等の化合物を担持した焼成後の多孔性固体酸化物(W/多孔性固体酸化物)に、さらに第15族に属する金属及び/又は希土類に属する元素を含む化合物で修飾することができる。
第15族に属する原子としてはリンが好ましく、また希土類としては、ランタン、セリウム、ユーロピウム、サマリウム、ディスプロシウム、ガドリニウムなどが通常用いられる。これらは単独または併用することもできる。
リンを含む化合物としては、三塩化リン、などのハロゲン化リン、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸などのリン酸類、リン酸アンモニウムなどのリン酸カチオン化合物類などが例示される。
またランタンなどの希土類化合物としては、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、塩化物、臭化物などのハロゲン化物、蓚酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、トリス(2,4-ペンタジオナト)ランタンなどの有機配位化合物などが例示される。
リン化合物や希土類系物質の添加量は任意であるが、固体酸化物担体に対して、リン化合物は、0.01wt%〜100wt%、好ましくは0.1wt%〜2wt%、また希土類金属は0.01wt%〜100wt%、好ましくは0.1wt%〜5wt%である。
本発明のプロピレン合成用触媒の調製方法としては,(イ)担体であるゼオライトなどの多孔性固体酸化物に、すべての修飾物質を含む溶液を一度に含浸させる方法,(ロ)上記多孔性固体酸化物に、すべての成分を含む修飾物質溶液を滴下する方法(incipient wetness法),(ハ)上記多孔性固体酸化物と、すべての修飾物質成分を混ねいする方法、(ニ)多孔性固体酸化物に、(i)タングステンまたはレニウムなどを担持後に焼成、(ii)さらにランタンなどの希土類金属を担持後に焼成、(iii)リン化合物などを担持後に焼成、と3段階で調製する方法、などが例示される。(イ)〜(ニ)のいずれの方法において行う焼成温度は、300〜1500℃、好ましくは500〜900℃である。
本発明に用いるエタノールとしては、試薬グレードのものだけでなく、水を含むエタノールや発酵によるバイオエタノールなどが用いられる。この場合の水の含有量は任意であるが、0wt%〜50wt%、好ましくは0wt%〜15wt%が用いられる。
本発明において、プロピレンを合成するには、前記した触媒の存在下で、エタノールのプロピレンの変換反応に付せばよい。
この合成反応では、下記の反応式に示されるように、主たる生成物として、プロピレンが得られるが、その他に、エチレン、およびブテン類やC1からC10の飽和炭化水素及びベンゼン/トルエン/キシレンなどの芳香族及び水が生成する。
C2H5OH → C3H6 + C2H4 + C4H8+
CnH2n+2(n=1-10) + C6H6 + C7H8
+ C8H10 +H2O (1) (係数は考慮無し)
プロピレンの生成機構は、現時点では定かではないが、エタノールの脱水反応(エチレンの生成反応)/2量化反応(ブチレンの生成反応)/不均化反応(エチレンとブチレンの不均化反応によるプロピレンの生成)などの複合反応によるものと考えている。
本発明のプロピレンの合成反応は気相及び液相のいずれで行うこともできるが、エタノールの沸点は水よりも低いので、気相系で通常行われる。この場合の反応温度は、50〜700℃、好ましくは300〜500℃の条件下であり、また反応圧力は任意であり、0.01MPa〜100MPa、好ましくは0.05MPa〜5MPaである。
通常は希釈ガスと共にエタノールを触媒層に導入し、希釈ガスとして、窒素やアルゴンなどの不活性ガス、CO2または水蒸気が用いられる。希釈ガスの使用割合は、エタノール1モル当たり、0.05〜50モル、好ましくは0.5〜20モルの割合である。
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
[10wt%W/H-ZSM5触媒の調製]
東ソー製H-ZSM5 (Si/Al2比=29)2gに、メタタングステン酸アンモニウム0.27g (タングステン換算で10wt%)を含浸させ、333Kで一晩乾燥、さらに373Kで3時間乾燥後、873Kで5時間空気焼成し、2.18gのW/H-ZSM5触媒を得た。
[10wt%W/1wt%La/H-ZSM5触媒の調製]
W/H-ZSM5(29)触媒に、硝酸ランタンをランタン基準で1wt%担持し、600°Cで5時間焼成することによりW/La/H-ZSM-5(29)触媒を得た。
[プロピレンの合成反応]
こうして得られた10%W/1wt%La/H-ZSM5(0.5g)を固定床流通式反応装置に導入し、エタノールと窒素の混合ガス(体積比(エタノール/窒素=13.9/86.1))を全圧0.1MPaにて、W/F(N2)=0.12 mol.(g-cat.h)−1, WSV(EtOH)=0.92 h−1、723Kで反応させた。反応後の生成物をガスクロマトグラフにより分析したところ,エタノール転化率95.1%,プロピレン選択率32.1%にてプロピレンが生成した(表1)。副生物として,エチレン42.3%、ブテン類20.3%、BTX(ベンゼン+トルエン+キシレンの和)0.21%の他(表1)、C1からC10の飽和炭化水素及びCO2が少量検出された。
エタノール転化率,プロピレン選択率は便宜的に以下のように計算した。
他の炭化水素選択率も同様に計算した。
比較例1
タングステンのみで修飾したH-ZSM5 (Si/Al2比=29)を触媒に用いた以外、実施例1と同様にしてプロピレンの合成反応をおこなった。その結果を表1に示す。エタノール転化率98.2%,プロピレン選択率24.4%にてプロピレンが生成した(表1)。副生物として,エチレン19.9%、ブテン類19.5%、BTX(ベンゼン+トルエン+キシレンの和)20.5%の他(表1)、C1からC10の飽和炭化水素及びCO2が少量検出された。プロピレン選択率は、実施例1より約8%低く、また、副生物として,C1-C3の飽和炭化水素が9.8%で約2倍、BTXが20.5%で約10倍生成した。
実施例
W/H-ZSM5(29)触媒にリン酸アンモニウム水溶液を用いて、リンを1wt%担持して、600°Cで5時間焼成した触媒を用いて、実施例1と同様にしてプロピレンの合成反応をおこなった。その結果を表1に示す。プロピレン選択率は29.5%であった。
実施例
W/H-ZSM5(29)触媒に硝酸ランタンによりランタンを1wt%担持、600°Cで5時間焼成後、さらにリン酸アンモニウム水溶液を用いて、リンを1wt%担持して、600°Cで5時間焼成し、P/La/W/H-ZSM5触媒を調製した。
こうして調製したP/La/W/H-ZSM5触媒を用いて、実施例1と同様にしてプロピレンの合成反応をおこなった。その結果を表1に示す。プロピレン選択率は30.8%となり、BTXは1.15%と実施例1と同程度に少なかった。
実施例
エタノールの代わりに、発酵により得られたバイオエタノール(水12%含有)を用いた以外は実施例1と同様にしてプロピレンの合成反応をおこなった。その結果を表1に示す。プロピレン選択率は22.1%であった。

Claims (3)

  1. 周期律表第6族又は第7族に属する金属を含む化合物で修飾された多孔性固体酸化物を、さらに周期律表第15族及び/又は希土類に属する元素で修飾することを特徴とする、エタノールを変換してプロピレンを合成する際に用いられるプロピレン合成用触媒。
  2. 多孔性固体酸化物がゼオライト化合物であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン合成用触媒。
  3. エタノールが、発酵により得られたバイオエタノールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン合成用触媒。
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