上述した特許文献1に記載のヘテロダインスペクトル計測器は、プローブ光源のみを用いた一波長干渉計に基づくものであるため、被測定物によって生じた位相差を一義的に決定すべく、1×3カプラーを用いた非直交三成分検出を行っている。しかし、三成分検出の場合、装置構成が複雑になり、測定精度が低下すると共に、高コストとなるという問題がある。
また、特許文献2に記載の光パルス評価方法は、非線形光学効果を利用していることから、伝送速度が160Gbit/sもしくはそれ以上の伝送速度である場合など、十分なピークパワーがある場合には、パルス幅が数ps(ピコセカンド)或いはそれより更に狭いfs(フェムトセカンド)なので、適用することができるが、例えば伝送速度が数十Gbit/s程度の光パルスの場合には、パルス幅が数十psオーダーまで広がりピークパワーも下がるので、非線形光学効果による効率が低下してしまい十分な波長分散の測定を行なうことができない。
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光パルスの波長分散の測定を確実かつ高安定に実現することのできる波長分散測定方法等を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、被測定光パルスの波長分散を測定する波長分散測定方法において、前記被測定光パルスの一部に対して周波数をシフトさせるシフト工程(AO周波数シフター12)と、前記被測定光パルスと、前記周波数がシフトされたシフト光パルスの伝播又は遮断を制御する測定対象切換工程(SW0,1)と、前記被測定光パルス又は前記シフト光パルスの何れか一方の光パルスを円偏光に変化させる円偏光工程(λ/4板15)と、円偏光とされた一方の前記光パルスを直交する2成分に分離し、かつ、所定の偏光方向を有する他方の前記光パルスを直交する2成分に分離する分離工程(偏波無依存ビームスプリッタ17、ポーラライザ18、19)と、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスを各前記成分ごとに入射し、入射した前記各成分のうち、一方の前記成分を出射するよう切り替える第一成分切換工程(SWmoni.)及び第二成分切換工程(SWref.)と、前記第一成分切換工程(SWmoni.)より出射された光パルスを受信して所定の周波数.(νx)にて周波数分解を行なう第一周波数分解工程(H−F共振器23moni.(νx))であって、前記測定対象切換工程(SW0,1)によって測定すべき光パルスを切り替え、かつ前記第一成分切換工程(SWmoni.)によって前記成分を切り替えることにより、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスのそれぞれについて、前記各成分毎に周波数分解を行なう前記第一周波数分解工程(H−F共振器23moni.(νx))と、前記第二成分切換工程(SWref.)より出射された光パルスを受信して前記被測定光パルスの中心周波数.(ν0)にて周波数分解を行なう第二周波数分解工程(H−F共振器24ref.(ν0))であって、前記測定対象切換工程(SW0,1)によって測定すべき光パルスを切り替え、かつ前記第一成分切換工程(SWmoni.)によって前記成分を切り替えることにより、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスのそれぞれについて、前記各成分毎に周波数分解を行なう前記第二周波数分解工程(H−F共振器24ref.(ν0))と、前記第一周波数分解工程(H−F共振器23moni.(νx))にて周波数分解を行なった結果を、前記各成分毎に干渉信号として検出する工程(検出器26moni.(νx))と、前記第二周波数分解工程(H−F共振器24ref.(ν0))にて周波数分解を行なった結果を、前記各成分毎に干渉信号として検出する工程(検出器25ref.(ν0))と、各前記干渉信号に基づいて前記被測定光パルスの波長分散を測定する工程(測定装置27)と、を有することを特徴とする。
これによれば、測定対象切換工程(SW0,1)によって測定すべき光パルスを被測定光パルス又はシフト光パルス、或いは双方の光パルスに切り替え制御し、かつ第一成分切換工程(SWmoni.)によって各成分を切り替えることにより、被測定光パルスとシフト光パルスのそれぞれについて、直交する各成分毎に周波数分解を行なうことができるので、被測定光パルスの波長分散の測定を確実に安定性よく行なうことができる。さらに、測定対象切換工程と、第一及び第二周波数分解工程によって計測する対象を順次切り替えることにより、第一周波数分解工程からの信号と第二周波数分解工程からの信号を検出するだけで被測定光パルスの波長分散の測定を行なうことを可能にしたので、汎用の測定装置を利用できるためより簡便かつ低コストな測定方法を提供することができる。
上記課題を解決するため、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の波長分散測定方法において、前記被測定光パルスが複数の偏波成分を有する光パルスである場合には、1の偏波成分を特定して前記シフト工程に入射させる偏波成分特定工程(偏光ビームスプリッタ10、偏波コンバータ11)を有することを特徴とする。
これによれば、複数の偏波成分を含む光パルスについて夫々の偏波成分の波長分散を安価且つコンパクトな構成で測定することができる。
上記課題を解決するため、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の波長分散測定方法において、前記被測定光パルスを所定の偏光方向に回転させる第一偏光方向制御工程(λ/2板14)と、前記シフト光パルスを所定の偏光方向に回転させる第二偏光方向制御工程(λ/2板16)と、を有し、前記円偏光工程は、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスのうち、一方の光パルスが前記所定の偏光方向に回転された後に当該一方の光パルスを円偏光に変化させ、前記分離工程は、前記他方の光パルスが前記所定の偏光方向に回転された後に当該他方の光パルスを直交する2成分に分離させることを特徴とする。
これによれば、第一及び第二偏光方向制御工程を介して前記被測定光パルス及び前記シフト光パルスを所定の偏光方向に回転させるよう構成したので、直交二成分をより正確に取得することができ、波長分散の測定を確実に行なうことが可能になる。
上記課題を解決するため、請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の波長分散測定方法において、前記被測定光パルス及び前記シフト光パルスは、偏光を保持する機能を有する導波路中を伝搬し、各前記導波路は軸周りを回転可能に備えられ、かつ、前記被測定光パルス又は前記シフト光パルスのうち前記一方の光パルスを前記円偏光工程に入射させる際には、当該一方の光パルスを伝搬する前記導波路を軸周りに回転させて当該一方の光パルスが所定の偏光方向となるよう回転させ、前記他方の光パルスを、前記分離工程に入射させる際には、当該他方の光パルスを伝搬する前記導波路を軸周りに回転させて当該他方の光パルスが所定の偏光方向となるよう回転させることを特徴とする。
これによれば、導波路を軸周りに回転させて被測定光パルス及びシフト光パルスを所定の偏光方向に回転させるよう構成したので、上記直交二成分をより正確に取得することができ、波長分散の測定を確実に行なうことが可能になる。
上記課題を解決するため、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の波長分散測定方法において、前記第一周波数分解工程(H−F共振器23moni.(νx))は、少なくとも前記被測定光パルスの波長分散を測定すべき波長帯域で前記所定の周波数を掃引して周波数分解を行なうことを特徴とする。
これによれば、ある1点の波長に限らず、波長分散による被測定光パルスの幅の広がりを十分にカバーする程度の広い波長帯域において測定することが可能になる。
上記課題を解決するため、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の波長分散測定方法において、前記分離工程は、前記偏光方向に依存しない偏波無依存ビームスプリッタを用いて前記被測定光パルス及び前記シフト光パルスを2成分に分離することを特徴とする。
これによれば、偏光方向によらず上記光を確実に2方向に分岐でき、分岐後の光を双方の経路において同軸上で高精度に重なるよう構成することが可能になる。
上記課題を解決するため、請求項7に記載の発明は、請求項2乃至請求項6のいずれか一項に記載の波長分散測定方法において、前記偏波成分特定工程は、前記被測定光パルスを垂直成分及び水平成分に分離する偏光ビームスプリッタと、当該分離後の前記被測定光パルスの一方の成分を他方の成分に偏波させる偏波コンバータによって、前記被測定光パルスを1の偏波成分を特定することを特徴とする。
これによれば、複数の偏波成分を含む光パルスについて夫々の偏波成分の波長分散を安価且つコンパクトな構成で確実に測定することができる。
上記課題を解決するため、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の波長分散測定方法において、前記シフト工程は、前記シフト光パルスの周波数と前記被測定光パルスの周波数の差が前記被測定パルスのパルス幅の0.8%〜1.2%となるよう前記被測定光パルスの一部に対して周波数をシフトさせることを特徴とする。
これによれば、当該波長分散測定装置にて発生する光のゆらぎを精度良く相殺することができる。
上記課題を解決するため、請求項9に記載の発明は、被測定光パルスの波長分散を測定する波長分散測定装置において、前記被測定光パルスの一部に対して周波数をシフトさせるシフト手段(AO周波数シフター12)と、前記被測定光パルスと、前記周波数がシフトされたシフト光パルスの伝播又は遮断を制御する測定対象切換手段(SW0,1)と、前記被測定光パルス又は前記シフト光パルスの何れかの光パルスを円偏光に変化させる第一光学素子(λ/4板15)と、円偏光とされた一方の前記光パルスを直交する2成分に分離し、かつ、所定の偏光方向を有する他方の前記光パルスを直交する2成分に分離する分離手段(偏波無依存ビームスプリッタ17、ポーラライザ18、19)と、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスを各前記成分ごとに入射し、入射した前記各成分のうち、一方の前記成分を出射するよう切り替える第一成分切換手段(SWmoni.)及び第二成分切換手段(SWref.)と、前記第一成分切換手段(SWmoni.)より出射された光パルスを受信して所定の周波数.(νx)にて周波数分解を行なう第一周波数分解手段(H−F共振器23moni.(νx))であって、前記測定対象切換手段(SW0,1)によって測定すべき光パルスを切り替え、かつ前記第一成分切換手段(SWmoni.)によって前記成分を切り替えることにより、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスのそれぞれについて、前記各成分毎に周波数分解を行なう前記第一周波数分解手段(H−F共振器23moni.(νx))と、前記第二成分切換手段(SWref.)より出射された光パルスを受信して前記被測定光パルスの中心周波数.(ν0)にて周波数分解を行なう第二周波数分解手段(H−F共振器24ref.(ν0))であって、前記測定対象切換工程(SW0,1)によって測定すべき光パルスを切り替え、かつ前記第一成分切換手段(SWmoni.)によって前記成分を切り替えることにより、前記被測定光パルスと前記シフト光パルスのそれぞれについて、前記各成分毎に周波数分解を行なう前記第二周波数分解手段(H−F共振器24ref.(ν0))と、前記第一周波数分解手段(H−F共振器23moni.(νx))からの光を受信して前記各成分毎に干渉信号として検出する第一検出手段(検出器26moni.(νx))と、前記第二周波数分解工程(H−F共振器24ref.(ν0))からの光を受信して前記各成分毎に干渉信号として検出する第二検出手段(検出器25ref.(ν0))と、各前記干渉信号に基づいて前記被測定光パルスの波長分散を測定する測定手段(測定装置27)と、を有することを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の波長分散測定装置において、前記被測定光パルスが複数の偏波成分を有する光パルスである場合には、1の偏波成分を特定して前記シフト手段に入射させる偏波成分特定手段を有することを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項11に記載の発明は、請求項9又は請求項10に記載の波長分散測定装置において、前記被測定光パルスを所定の偏光方向に回転させる第二光学素子(λ/2板14)と、前記シフト光パルスを所定の偏光方向に回転させる第三光学素子(λ/2板16)と、を有し、前記第一光学素子は、前記第二光学素子によって前記所定の偏光方向に回転された後の前記被測定光パルス、又は前記第三光学素子によって前記所定の偏光方向に回転された後の前記シフト光パルスのうち、何れか一方の光パルスを円偏光に変化させ、前記分離手段は、前記他方の光パルスが前記第二光学素子又は第三光学素子によって前記所定の偏光方向に回転された後に、当該他方の光パルスを直交する2成分に分離させることを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項12に記載の発明は、請求項9又は請求項10に記載の波長分散測定装置において、前記被測定光パルス及び前記シフト光パルスは、偏光を保持する機能を有する導波路中を伝搬し、各前記導波路は軸周りを回転可能に備えられ、かつ、前記被測定光パルス又は前記シフト光パルスのうち前記一方の光パルスを前記第一光学素子に入射させる際には、当該一方の光パルスを伝搬する前記導波路を軸周りに回転させて当該一方の光パルスが所定の偏光方向となるよう回転させ、前記他方の光パルスを、前記分離手段に入射させる際には、当該他方の光パルスを伝搬する前記導波路を軸周りに回転させて当該他方の光パルスが所定の偏光方向となるよう回転させることを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項13に記載の発明は、請求項9乃至請求項12のいずれか一項に記載の波長分散測定装置において、前記第一周波数分解手段(H−F共振器23moni.(νx))は、少なくとも前記被測定光パルスの波長分散を測定すべき波長帯域で前記所定の周波数を掃引して周波数分解を行なうことを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項14に記載の発明は、請求項9乃至請求項12のいずれか一項に記載の波長分散測定装置において、前記分離手段は、前記偏光方向に依存しない偏波無依存ビームスプリッタを用いて前記被測定光パルス及び前記シフト光パルスを2成分に分離することを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項15に記載の発明は、請求項10乃至請求項14のいずれか一項に記載の波長分散測定装置において、前記偏波成分特定手段は、前記被測定光パルスを垂直成分及び水平成分に分離する偏光ビームスプリッタと、当該分離後の前記被測定光パルスの一方の成分を他方の成分に偏波させる偏波コンバータによって、前記被測定光パルスを1の偏波成分を特定することを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項16に記載の発明は、請求項9乃至請求項15のいずれか一項に記載の波長分散測定装置おいて、前記シフト手段は、前記シフト光パルスの周波数と前記被測定光パルスの周波数の差が前記被測定パルスのパルス幅の0.8%〜1.2%となるよう前記被測定光パルスの一部に対して周波数をシフトさせることを特徴とする。
上記課題を解決するため、請求項17に記載の発明は、光伝送路を伝播する光パルスの波長分散を補正する分散補正デバイス(44)を含む波長分散補正システムにおいて、前記光伝送路を伝播する光パルスを前記被測定光パルスとして波長分散を測定する請求項9乃至12のいずれか一項に記載の波長分散測定装置(1)であって、前記測定した波長分散に基づいて、補正信号(Scom)を生成する補正信号生成手段と、生成した前記補正信号を前記分散補正デバイスに送信する補正信号送信手段と、を有する前記波長分散測定装置と、前記補正信号を受信して当該補正信号に基づいて前記光伝送路を伝播する光パルスを補正する前記分散補正デバイスと、を有することを特徴とする。
これによれば、光伝送路を伝播する光パルスの波長分散を確実かつ簡便な構成で補正することができる。
上記課題を解決するため、請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の波長分散補正システムにおいて、前記波長分散測定装置は、前記光伝送路を伝播する光パルスであって、少なくとも前記分散補正デバイスによる補正前の光パルスを前記被測定光パルスとして波長分散を測定することを特徴とする。
これによれば、補正前の光パルスの波長分散を測定することにより、補正すべき量を確実に把握して補正信号を生成することができる。
上記課題を解決するため、請求項19に記載の発明は、請求項17又は請求項18に記載の波長分散補正システムにおいて、前記波長分散測定装置は、前記光伝送路を伝播する光パルスであって、少なくとも前記分散補正デバイスによる補正後の光パルスを前記被測定光パルスとして波長分散を測定することを特徴とする。
これによれば、補正後の光パルスの波長分散を測定することにより、補正精度を測りこれに基づいて補正信号を生成して次の補正に還元することができる。
上記課題を解決するため、請求項20に記載の発明は、請求項17乃至請求項19のいずれか一項に記載の波長分散補正システムにおいて、前記分散補正デバイスによる補正後の光パルスのエラーを検出してエラー信号(Se)として前記波長分散測定装置に送信するエラー検出手段(46)を有し、前記波長分散測定装置の前記補正信号生成手段は、エラー検出手段から受信した前記エラー信号に基づいて、前記補正信号(Scom)を生成することを特徴とする。
これによれば、更に高精度な波長分散補正を行なうことが可能になる。
上記課題を解決するため、請求項21に記載の発明は、請求項17乃至請求項20のいずれか一項に記載の波長分散補正システムにおいて、複数の光パルスを入射し、入射した前記光パルスのうち、一の光パルスを前記被測定光パルスとして前記波長分散測定装置に出射するよう切り替える被測定光パルス切換手段(N×1スイッチSW)を有することを特徴とする。
これによれば、被測定光光パルス切換手段により切換を行なうことにより、例えば、波長多重伝送を行なう光伝送路の各波長をファイバーカプラーにより取り出して、1台の波長分散測定装置にて複数の光パルスを測定することができるので、複数の光パルスである場合であっても、比較的コンパクトなシステムで測定を行なうことができる。
上記課題を解決するため、請求項22に記載の発明は、請求項21に記載の波長分散補正システムにおいて、前記複数の光パルスは、少なくとも前記分散補正デバイスによる補正前の光パルス又は補正後の光パルスを含むことを特徴とする。
本発明によれば、測定対象切換工程と、第一及び第二周波数分解工程によって計測する対象を順次切り替えることにより、被測定光パルスとシフト光パルスのそれぞれについて、直交する各成分毎に周波数分解を行なうことができるので、被測定光パルスの波長分散の測定を確実に安定性よく行なうことができる波長分散測定方法を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、本実施形態は、例えば東京−大阪間の幹線光ファイバー伝送路、都市部でのメトロ光ファイバーネットワーク網等、波長多重伝送を併用する光ファイバーネットワーク等の光ファイバー伝送路を伝播する光パルスの波長分散特性を評価するための波長分散測定方法、波長分散測定装置及び当該波長分散測定装置を用いた波長分散補正システムに本願発明を適用した場合の実施形態である。
[波長分散]
先ず、本実施形態における波長分散測定装置1にて測定する波長分散について説明する。
本実施形態では、上述したように光ファイバー伝送路を伝播する光パルスのスペクトル位相を測定し、光ファイバー伝送路にて生じる波長分散の特性評価を行なう。特に、本実施形態は10GBit/s〜40GBit/s程度の高速光通信システムにおいて使用する光ファイバー伝送路の波長分散の特性評価を行なう場合に好適な実施形態について説明する。
光ファイバー伝送路の波長分散を評価するには、周波数−波数の関係、すなわち分散関係が重要となる。この関係より光が光ファイバー伝送路を伝搬する際の速度が求まる。この速度は、光パルスの重心が移動するスピードを指し”群速度”と呼ばれる。群速度の波長(周波数)依存性が波長分散をあらわす。
この群速度は、周波数−波数特性曲線の傾き(微分係数)として与えられ、真空や空気中では、周波数−波数特性は直線となり、群速度は周波数によらず一定であるが、ガラス・半導体・金属などの物質中では周波数−波数特性は直線にならず、群速度は周波数に応じて変化する。光パルスが伝播する光ファイバー伝送路は、主としてガラスで形成されているので、ガラスの特性に応じた波長分散が生じると共に、光パルスの周波数(波長と言い換えてよい)に応じて群速度は変化することとなる。
ここで、光パルスは単一の波長だけでなく、さまざまな波長成分を含んでいるので、群速度が波長に依存すると光ファイバー伝送路中を伝搬するにつれて光パルスの幅が拡がってしまい、前後の光パルスで信号が重なりクロストークを生じてしまう。
この光ファイバー伝送路の波長分散の特性を分散パラメータDとし、光の光パルス幅w、スペクトル幅Δλとすると、当該分散パラメータDを有する光ファイバー伝送路中を光が伝送した距離を示す伝送距離LDは次の数式1にて表される。
このような波長分散は、波長(または周波数)に応じて変化する群速度分散、及び二次、三次、…と次数毎に表記でき、光の電界の位相φを用いると、数式2に示す如く表すことができる。そして、分散パラメータDとの関係は、数式3に示す関係を有する。なお、νは光の周波数であり、cは光の速度である。
従って、波長分散を測定するためには、光の位相の周波数(波長)依存性すなわち、スペクトル位相φ(ν)を測定すればよい。
ところで、光の周波数は非常に高く、電気的測定により光の電界の振動を測定することは、例えば、波長1500nmの光の周波数は200THz(テラヘルツ)に相当し、現状の技術では不可能である。そこで、光の位相を測定する手段として、干渉計が用いられる。
この干渉計では、入射光はビームスプリッタで2方向に分割され、各々の光は独立の経路を通過した後、再び一つに結合される。分割された光が各々の経路を伝搬することによる位相差を、結合後の干渉光の強度として測定することができる。
従って、本実施形態では、光ファイバー伝送路を伝播している光パルス自身の一部を取り出して、当該取り出した光パルスの一部を周波数シフター(AOFS)でΔνAOだけ周波数シフトさせた光パルスを用いて、元の光パルスと干渉させて得られた干渉フリンジをフーリエ変換することにより、元の光パルスの位相微分を求めることができ、群遅延時間を測定することができる。
以下、図を用いてより具体的に説明する。
図1(A)は、光ファイバー伝送路を伝播している光パルスの波形を示す図であり、横軸を時間t、縦軸を信号強度Iで表した光パルスの時間波形である。同図に示す例では、光パルスは25ps(40Gbit/s)毎にON、OFFを繰り返すような光パルスであるものとする。ここで、信号強度Iの立ち上がり部分(ON状態)を絶対値とし、振動する成分を指数関数として用いることにより、光パルス時間波形の一般形を次の数式4で表すことができる。なお、φ(t)は一般に光パルスチャープ(pulse chirp)と呼ばれ、時間の関数として位相がどのように変化していくかを記述するものであり、ここでは光ファイバー伝送路によって生じた位相変化を示すものである。
更に、光パルス時間波形を空間依存性を除いて簡略化することにより、数式4を以下の数式5で示すことができ、同様にして、周波数をΔν
AOだけシフトさせた光パルスの光パルス時間波形は、以下の数式6で示すことができる。
そして、上記数式5及び6を、ν
0を中心周波数としてフーリエ変換を行ない、以下の数式7、8で示す如く、絶対値で示されるパワースペクトルと指数関数で示される位相成分とにより構成された位相の関数として表すことができる。
これらフーリエ変換後の元の光パルスのスペクトルとフーリエ変換後の周波数シフトさせた光パルスのスペクトルを重ね合わせると以下の数式9で示すことができる。
ここで、図1(B)に光パルスの強度スペクトル波形を示す。同図は電界Rに対する周波数νの依存特性を示すものであり、実線で示す如く、周波数シフトしていない元の光パルスは中心周波数ν
0で電界Rが最大(ピーク)となるスペクトルを有することがわかる。一方、周波数をΔν
AOだけ微小シフトさせた場合(点線で図示)には、強度スペクトルのピークはシフトするが、波形は変化しないことがわかる。つまり、周波数を微小シフトさせても電界Rの値は変化がないため、絶対値で示される元の光パルスのパワースペクトルと周波数をΔν
AOだけ微小シフトさせた光パルスのパワースペクトルとは数式10で示す如く近似することができる。
従って、上記数式9は、上記数式10の近似式を用いて以下の数式11で表すことができる。
また、図1(C)に光パルスの位相の周波数νの依存特性を示す。測定対象である光ファイバー伝送路の光パルスは二次の分散を有しており、更に同図に示す如く上に凸形状を有する放物線で示されるように位相が変化する。周波数をΔν
AOだけ微小シフトさせた場合には図中点線で示す如く、位相もΔφだけシフトするのであるが、この位相のシフト量Δφの値は、周波数シフトしていない元の光パルス(図中実線)の微分した値と等価となる。従って、位相のシフト量Δφを周波数のシフト量Δν
AOで除算することにより、数式12で示す如く群遅延時間τを求めることができる。
なお、周波数のシフト量Δν
AOは、元の光パルスのパルス幅の約0.8%〜1.2%とするのが好適である。例えば、元の光パルスのパルス幅が40Gbit/sである場合には、周波数のシフト量Δν
AOは約300MHz〜500MHz程度が好適であり、元の光パルスのパルス幅が10Gbit/sである場合には、周波数のシフト量Δν
AOは約80MHz〜120MHz程度が好適である。
[波長分散測定装置1の構成及び機能]
次に、図2を参照して、本実施形態にかかる波長分散測定装置1の構成及び機能を説明する。
図2は、本実施形態にかかる波長分散測定装置1の概略構成図である。
同図に示すように、本実施形態における波長分散測定装置1は、偏光ビームスプリッタ10、偏波コンバータ11、シフト手段としてのAO周波数シフター12、時間遅延回路13、測定対象切換手段としてのスイッチSW0、SW1、第二光学素子及び第三光学素子としてのλ/2板14、16、第一光学素子としてのλ/4板15、分離手段としての偏波無依存ビームスプリッタ17及びポーラライザ18、19、ファイバーカプラー20、21、第一成分切換手段としてのスイッチSWmoni(νx)、第二成分切換手段としてのスイッチSWref.(ν0)、第一周波数分解手段としてのH−F共振器23moni(νx)、第二周波数分解手段としてのH−F共振器24ref.(ν0)、第一検出手段としての光検出器25moni(νx)、第二検出手段としての光検出器26ref.(ν0)、及び測定手段として機能しコンピュータを含んで構成された計算機としての測定装置27を備えて構成される。なお、波長分散測定装置1中に、戻り光を効果的に防止するためのアイソレータを適宜挿入してもよい。
図2に示すように、波長分散測定装置1は、例えば東京−大阪間の幹線光ファイバー伝送路、都市部でのメトロ光ファイバーネットワーク網等、波長多重伝送を併用する光ファイバーネットワーク等の光ファイバー伝送路を伝播する光パルスの一部を、ファイバーカプラーによって取り出し、波長分散測定装置1内に被測定光パルスとして波長分散測定装置1内へ取り入れる。なお、ファイバーカプラーによって取り出されない光パルスは、図2に示す例では、そのまま光ファイバー伝送路を伝播することとなる。
偏光ビームスプリッタ10は、ファイバーカプラーによって取り出した光パルスを、水平偏光成分及び垂直偏光成分にそれぞれ分離し、水平偏光成分をスイッチSWpへ、垂直偏光成分を偏波コンバータ11へ、それぞれ入射させる。そして、偏波コンバータ11は、偏光ビームスプリッタ10から偏波保持ファイバー(PMF :Polarization Maintaining Fiber)中を伝搬してきた光の偏波面を回転させることにより垂直偏光成分を水平偏光に偏波させてスイッチSWpへ入射させる。
これにより、測定対象である光パルスを1つの偏光方向に揃えることによって、1台の波長分散測定装置1で、光ファイバー伝送路を伝播する光パルスの夫々の偏光成分について、測定することができる。より具体的には、スイッチSWpを偏波の変動時間よりも早く切り替えることによって、偏光ビームスプリッタ10からの光パルスを選択した場合には、当該光パルスの水平偏光成分を測定対象である被測定光パルスとすることができ、偏波コンバータ11からの光パルスを選択した場合には、当該光パルスの垂直偏光成分(偏波コンバータ11によって水平偏光とされる。)を測定対象である被測定光パルスとすることができる。
なお、被測定光パルスは、図示しない波長可変フィルター等を用いてある特定の波長チャネルを伝送する光パルスを選択するものとし、電界を(Ein(t))とする。
また、取り出された被測定光パルスは、波長分散測定装置1内において干渉計内を除き偏波保持ファイバー中を伝搬する。光の位相の周波数(波長)依存性をより精度良く測定するためには、光の偏光を保持しつつ光を伝搬することができる偏波保持ファイバーを用いることが好ましいからである。
AO周波数シフター12は、スイッチSWpによって選択された被測定光パルス(Ein(t))の一部をシフト量ΔνAOだけ周波数シフトさせるためのものである。なお、周波数シフトしていない元の被測定光パルスを0次光パルス(被測定光パルス)として電界(E0(t))で表し、周波数シフトさせた被測定光パルスを1次光(シフト光パルス)として電界(E1(t))で表す。なお、以下、周波数シフトしていない元の被測定光パルスを「0次光パルス」、周波数シフトさせた被測定光パルスを「1次光パルス」として説明を続ける。
すなわち、スイッチSWpによって選択された被測定光パルス、0次光パルス、及び0次光パルスの光の強度の関係は以下の数式13で示すことができる。
時間遅延回路13は、例えばレトロリフレクタで構成され、0次光パルスと1次光パルスの光路長を一致させるべく、1次光パルスの光路長を変化させるためのものである。なお、0次光パルスと1次光パルスの光路長が測定結果に影響しない程度に一致しているのであれば、時間遅延回路13は必要ない。
スイッチSW0、SW1は、0次光パルスと1次光パルスの夫々の強度を測定する際に各光パルスの伝播又は遮断を制御するためのものである。具体的には、0次光パルスを測定する際には、スイッチSW0をON(伝播)、スイッチSW1をOFF(遮断)とし、1次光パルスを測定する際には、スイッチSW0をOFF(遮断)、スイッチSW1をON(伝播)として、測定対象とする一方の光パルスのみを干渉計内(空気伝搬領域)へ導き、他方の光パルスを遮断して、或いは、双方の光パルスを干渉計内へ導きモニタリングする。
ここで、干渉計内に入射した各被測定光パルスの挙動について説明する。干渉計内には、偏光分離(polarization discrimination, polarization separation, polarization selection)による直交二成分検出を実行するための干渉光学系が組まれており、当該光学系の最初の部材であるλ/2板(half-wave plate)14(及びλ/2板16)へと、上記各被測定光パルスを入射させるときに、上記偏波保持ファイバーから空気中へと出射されることになる。
直交二成分検出を実行するための干渉光学系を、空気伝搬により構成した。図2において、空気伝播領域における光の伝播を鎖線にて図示するものとし、当該空気伝搬領域以外は光が全て偏波保持ファイバー中を伝搬するよう構成する。そして、当該干渉系内で空気伝搬されることにより発生する光のゆらぎについては、H−F共振器23moni(νx)における位相差ΔφFT(νx)とH−F共振器24ref.(ν0)における位相差ΔφFT(ν0)によって相殺するよう構成した。なお、各共振器における位相差ΔφFTとこれら位相差を用いたゆらぎの除去については、後に数式31、32及び33を用いて詳細に説明する。先ず、λ/2板14は、本実施形態においては第二光学素子(第一偏光方向制御工程)として機能し、AO周波数シフター12からスイッチSW0を介して伝播された0次光パルスを、水平面より45度傾けた後に、第一の光学素子としてのλ/4板(quarter-wave plate)15へ導く。そして、λ/4板15によって、当該参照光を円偏波(circular polarized:円偏光)とした後に偏波無依存ビームスプリッタ17へ導く。λ/4板15を経た時点で、0次光パルスの電界は以下に示す数式14で表すことができる。以下、各数式における括弧書き中の2段記載において、上段は水平偏光成分、下段はその直交成分である垂直偏光成分を示すものとする。
なお、ここではλ/4板15によって参照光を右回り円偏光としたが、左回りであってもよく、左回りとした場合には、位相の符号を変更すればよい。
他方、λ/2板16は、本実施形態においては第三光学素子(第二偏光方向制御工程)として機能し、時間遅延回路13からスイッチSW1を介して伝播された1次光パルスを水平面より45度傾けて偏波無依存ビームスプリッタ17へ導く。λ/2板15を経た時点で、1次光パルスの電界は以下に示す数式15で表すことができる。
そして、偏波無依存ビームスプリッタ(polarization independent)17は、ポーラライザ18、19と共に分離手段として機能し、45度の直線偏光とされた1次光パルスを2方向に分岐させ、一方の光束を反射してポーラライザ18へ導くと共に、他方の光束を透過してポーラライザ19へ導く。同様にして、円偏光とされた0次光パルスを2方向に分岐させ、一方の光束を透過してポーラライザ18へ導くと共に、他方の光束を反射してポーラライザ19へ導く。なお、ポーラライザ18側(図2において偏波無依存ビームスプリッタ17の右方向)を、水平偏光成分(cos成分)を検出するための経路Hとし、ポーラライザ19側(図2において偏波無依存ビームスプリッタ17の下方向)を、垂直偏光成分(sin成分)を検出するための経路Vとする。このように、偏波無依存ビームスプリッタ17を分岐手段として用いることで、当該偏波無依存ビームスプリッタ17を透過(又は反射)した0次光パルスと1次光パルスはその偏光によらず、何れの経路(H及びV)においても同軸上で重なるよう比較的容易に構成することができる。
そして、経路Hにおいて、偏波無依存ビームスプリッタ17を経た後、ポーラライザ18に入射する前の光の電界は、0次光パルスの光の電界と、1次光パルスの光の電界の和として、以下に示す数式16で表すことができる。
そして、経路Hにおいてポーラライザ18は、偏波無依存ビームスプリッタ17と共に分離手段として機能し、偏波無依存ビームスプリッタ17からの0次光パルス及び1次光パルスのうち、所定偏光のみを最大透過してファイバーカプラー20へ導く。本実施形態では、ポーラライザ18は水平偏光成分を最大透過する角度を保持するよう構成した。すなわち、ポーラライザ18を通過した光は、水平偏光成分のみであるとみなすことができる。ポーラライザ18を通過後の光の電界を数式17にて示す。
一方、経路Vにおいても同様にして、偏波無依存ビームスプリッタ17を経た後、ポーラライザ19に入射する前の光の電界は、0次光パルスの電界と、1次光パルスの電界の和として、以下に示す数式18で表すことができる。
そして、経路Vにおいてポーラライザ19は、偏波無依存ビームスプリッタ17と共に分離手段として機能し、偏波無依存ビームスプリッタ17からの0次光パルス及び1次光パルスのうち、所定偏光のみを最大透過してファイバーカプラー21へ導く。本実施形態では、ポーラライザ19は垂直偏光成分を最大透過する角度を保持するよう構成した。すなわち、ポーラライザ19を通過した光は、垂直偏光成分のみであるとみなすことができる。ポーラライザ19を通過後の光の電界Evを数式19にて示す。
なお、ポーラライザ18及び19は、光パルスが有する全てのスペクトル帯域において、偏光特性が変化しないものとし、例えばpolarcor偏光板を用いる。
また、各ポーラライザ18、19からの光を再び偏波保持ファイバへと入射させてファイバーカプラー20、21へと入射させる際には、集光用レンズ(図示せず)を用いて行なうと好適である。
そして、ファイバーカプラー20、21は、夫々ポーラライザ18、19からの光を2方向に分岐させて、一方をスイッチSWmoni(νx).へ、他方をスイッチSWref.(ν0)へと導く。
スイッチSWmoni(νx)及びスイッチSWref.(ν0)は、2×1光スイッチであり、ファイバーカプラー20からの経路Hの水平偏光成分(cos成分)と、ファイバーカプラー21からの経路Vの垂直偏光成分(sin成分)とを、夫々透過/遮断して各成分を時間的に切り替えることにより、後に説明する2台の光検出器25moni(νx)、26ref.(ν0)のみで0次光パルスと1次光パルスの水平偏光成分(cos成分)及び垂直偏光成分(sin成分)を夫々個別に検出することを可能にするものである。
スイッチSWmoni(νx)を経た光は、H−F共振器23moni(νx)(高フィネスファブリペロー共振器:High-Fineness Fabry-Perot Cavity)に入射され、当該H−F共振器23moni(νx)にて周波数分解されフーリエ変換が行われる。なお、H−F共振器23moni(νx)は、共振器の中心周波数(以下、「共振周波数」と言う。)νxを調整可能に構成されている。従って、当該共振器の中心周波数νxを掃引することにより、被測定光パルス全体の周波数帯域を光検出器25moni(νx)(Photo detector)にて検出(モニタリング)できる。
一方、スイッチSWref.(ν0)を経た光は、H−F共振器24ref.(ν0)に入射され、当該H−F共振器24ref.(ν0)にて周波数分解されフーリエ変換が行われる。なお、H−F共振器24ref.(ν0)は、共振周波数が0次光パルスの中心周波数ν0(換言すれば、被測定光パルスの中心周波数ν0)に固定され、常に0次光パルスの中心周波数ν0を光検出器26ref.(ν0)にて検出(モニタリング)できるようになっている。
図3(A)に0次光パルスと1次光パルスのスペクトル波形とH−F共振器23moni(νx)及びH−F共振器24ref.(ν0)のスペクトル波形を示し、図3(B)に図3(A)に対応する0次光パルスと1次光パルスの位相の周波数νの依存特性を示す。
このように、H−F共振器23moni(νx)、24ref.(ν0)から出力される水平偏光成分(cos成分)であるEH^FT(νx)、EH^FT(ν0)は、以下の数式20を条件として、それぞれ数式21、22で表すことができる。
また、H−F共振器23
moni(ν
x)、24
ref.(ν
0)から出力される垂直偏光成分(sin成分)であるE
v^FT(ν
x)及びE
v^FT(ν
0)は、上記数式20を条件として、それぞれ数式23、24で表すことができる。
そして、光検出器25
moni(ν
x)は、第一検出手段として機能し、H−F共振器23
moni(ν
x)からの光パルスを受けて、0次光パルスと1次光パルスの水平偏光成分(cos成分)及び垂直偏光成分(sin成分)を検出し、それぞれについて、0次光パルスと1次光パルスによる干渉信号を検出する。なお、経路Hからの水平偏光成分(cos成分)を検出するか、経路Vからの垂直偏光成分(sin成分)を検出するかは、上述の如く第一成分切換手段として機能するスイッチSW
moni(ν
x)及び第二成分切換手段として機能するスイッチSW
ref.(ν
0)によって制御することができる。また、光検出器26
ref.(ν
0)も同様に第二検出手段として機能しH−F共振器24
ref.(ν
0)からの光パルスを受けて、被測定光パルスの0次光パルスと1次光パルスの水平偏光成分(cos成分)及び垂直偏光成分(sin成分)を検出し、それぞれについて、0次光パルスと1次光パルスによる干渉信号を検出する。
光検出器25moni(νx)によって検出された0次光パルスと1次光パルスの水平偏光成分(cos成分)の干渉信号を数式25に、光検出器26ref.(ν0)によって検出された0次光パルスと1次光パルスの水平偏光成分(cos成分)の干渉信号を数式26に、それぞれ光のパワーとして示す。
光検出器25
moni(ν
x)によって検出された0次光パルスと1次光パルスの垂直偏光成分(sin成分)の干渉信号を数式27に、光検出器26
ref.(ν
0)によって検出された0次光パルスと1次光パルスの水平偏光成分(sin成分)の干渉信号を数式28に、それぞれ光のパワーとして示す。
測定対象切換手段としてのスイッチSW
0、SW
1の双方をON(伝播)とすることにより、0次光パルスと1次光パルスの双方を干渉計内に取り入れ、0次項パルスのエネルギー成分(上記数式25乃至数式28におけるE
0として表記)と1次光パルスのエネルギー成分(上記数式25乃至数式28におけるE
1として表記)の双方の成分を含む上記各光の干渉信号を各光検出器にて取得することができる。
なお、数式25乃至数式28において、位相差ΔφFT(νx)は、以下の数式29に示す如く、H−F共振器23moni(νx)の共振周波数νxによって周波数分解された光の位相φFT(νx)から、共振周波数νxからAO周波数シフター12によってΔνAOだけシフトされた光の位相φFT(νx−ΔνAO)を減算したものであり、位相差ΔφFT(ν0)は、以下の数式30に示す如く、H−F共振器24ref.(ν0)にて被測定光パルスの中心周波数ν0を共振周波数として周波数分解された光の位相φFT(ν0)から、被測定光パルスの中心周波数ν0からAO周波数シフター12によってΔνAOだけシフトされた光の位相φFT(ν0−ΔνAO)を減算したものである。
このようにして、各光検出器(光検出器25
moni(ν
x)、光検出器26
ref.(ν
0))によって取得された信号を、測定手段としての測定装置27に干渉信号データとして取り込んで、以下の数式31及び数式32に示す如くcos成分とsin成分の直交二成分として被測定光パルスの波長依存性(波長分散)を算出(測定)することができる。なお、測定装置22はオシロスコープを含むものであれば、測定者が目視で干渉信号を確認できるので、より好適である。
上記数式31及び数式32に示す如く、一価関数である正接関数(tan)の逆関数でそれぞれの位相差を求めることにより、引数として負の無限から正の無限までの数値を取り得、ノイズが存在する状況下でも確実に位相差の一義的決定を行なうことが可能になる。
そして、このように取得した「H−F共振器23moni(νx)における位相差ΔφFT(νx)」と「H−F共振器24ref.(ν0)における位相差ΔφFT(ν0)」は、干渉計における位相のゆらぎの成分を含んでいるため、これら位相差ΔφFT(νx)とΔφFT(ν0)の差を取得することにより、干渉計における位相のゆらぎの成分を除去した位相差ΔφFT-ST(νx,0)を数式33に示す如く取得することができる。
このようにして取得した位相差Δφ
FT-ST(ν
x,0)は、図1(A)〜(C)及び数式9乃至12を用いて説明したように、周波数シフトしていない元の光パルスである0次光パルス(つまり、被測定光パルス)の微分値と等価であるため、AO周波数シフター12によってシフトさせた周波数のシフト量Δν
AOで除算することにより、数式34に示す如く群遅延時間τを求めることができる。
以上説明した如く、本実施形態における波長分散測定装置1によれば、光ファイバー伝送路を伝播する光パルスの一部である被測定光パルスを、周波数シフトしない0次光パルス(被測定光パルス)と、周波数シフトさせた1次光パルス(シフト光パルス)とに分離して、スイッチSW
0、スイッチSW
1を用いて測定すべき光パルスを切り替えつつ、それぞれを干渉計内に取り込むと共に、偏光分離による直交二成分(垂直成分と水平成分)検出を行ない、更に、検出された直交二成分をH−F共振器23
moni(ν
x)(第一周波数分解手段)及びH−F共振器24
ref.(ν
0)(第二周波数分解手段)によって周波数分解を行なう際に、2×1光スイッチ(スイッチSW
moni(ν
x)及びスイッチSW
ref.(ν
0))を設けたので、0次光パルスと1次光パルスのそれぞれについて、各共振器に各成分(垂直成分と水平成分)を分離して入力することができるので、被測定光パルスの波長分散の測定を確実に安定性よく行なうことができる。
さらに、各スイッチSW0、SW1、SWmoni(νx)及びSWref.(ν0)によって計測する対象を順次切り替えることにより、2台の共振器で共振周波数νxと、被測定光パルス(0次光パルス)の中心周波数ν0における位相をそれぞれモニタリング(検出)することができ、光検出器25moni(νx)及び光検出器26ref.(ν0)によって、0次光パルスと1次光パルスによる干渉信号を各成分(垂直成分と水平成分)毎に検出できるので、被測定光パルスの波長分散の高精度な測定を実現できる。
さらに、二つの共振器からの信号を検出するだけで波長分散の測定を行なうことを可能にしたので、入力端子が2つある汎用のコンピュータ等を測定装置27として利用できるためより簡便かつ低コストな波長分散測定装置を提供することができる。
さらに、被測定対象である光ファイバー伝送路を伝播する光パルスを被測定光パルスとし、当該被測定光パルス自身の一部をAO周波数シフター12によって周波数シフトさせた光を1次光パルスとして用い、周波数シフトさせていない残りの光パルスを0次光パルスと干渉させることにより、直交二成分検出を行ない波長分散の測定を行なうことを可能にしたので、その他の光源を用意することなく、簡易な装置構成で光パルスの波長分散の測定を行なうことが可能になる。
さらに、λ/2板14及び16を介して0次光パルス及び1次光パルスを所定の偏光方向に回転させるよう構成したので、直交二成分をより正確に取得することができ、波長分散の測定を確実に行なうことが可能になる。なお、λ/2板14及び16を介さずとも、本実施形態にて説明した如く、0次光パルス及び1次光パルスも偏波保持ファイバーにて伝搬させているため、ファイバーを軸周りに回転させることにより、それぞれ所定の偏光方向を取得するよう構成してもよい。
さらに、光検出器25moni(νx)の共振周波数νxを掃引(可変)できるように構成したので、ある1点の波長に限らず、波長分散による被測定光パルスの幅の広がりを十分にカバーする程度の広い波長帯域において測定することが可能になる。
さらに、干渉計内において、偏波無依存ビームスプリッタ17を用いて0次光パルス及び1次光パルスを2方向に分岐するよう構成したので、偏光方向によらず確実に2方向に分岐でき、分岐後の光を、経路Vにおいても経路Hにおいても同軸上で高精度に重なるよう構成することが可能になる。
なお、干渉計内で発生する光のゆらぎを精度良く相殺すべく、例えば、被測定パルスのパルス幅が40Gbit/sである場合には、AO周波数シフター12による周波数のシフト量(0次光パルスの周波数と1次項パルスの周波数の差)ΔνAOはその0.8%〜1.2%、すなわち約300MHz〜500MHzであることが好ましいが、正確な周波数のシフト量ΔνAOの最大値は、目標とする位相安定度を決定し、位相の変動が位相安定度以下となるような値であればよい。
また、上述した実施形態では、0次光パルスと1次光パルスのうち、0次光パルスについてλ/4板15を用いて円偏光として干渉計内へと入射させたが、これに限らず、1次光パルスについてλ/4板15を用いて円偏光として干渉計内へと入射させてもよい。
また、第一成分切換手段と第二成分切換手段としてスイッチSW0とスイッチSW1を用いたが、これに限らず、時間遅延回路13によって0次光パルスと1次光パルスの光路長を調整した後に、1台の2×1スイッチを第一成分切換手段と第二成分切換手段として用いてもよい。
なお、偏波コンバータ11及びスイッチSWpを用いずとも、偏光ビームスプリッタ10の後に、上述したAO周波数シフター12から測定装置27までの構成部品を各変更成分毎に二台づつ設置して二台の波長分散測定装置1にて各々の偏光成分を独立して測定することも可能であるが、上述したように偏波コンバータ11とスイッチSWpを用いれば1台の波長分散測定装置1によって夫々の偏光成分について測定することができるので、より安価かつコンパクトな装置構成で光ファイバー伝送路を伝播する光パルスの両偏光成分の波長分散を測定することができる。
[波長分散補正システムの構成及び機能]
続いて、図4を参照して、本実施形態にかかる上記波長分散測定装置1を用いた波長分散補正システムSの構成及び機能を説明する。図4は、本実施形態にかかる波長分散補正システムSの概略構成図である。
に示すように、本実施形態における波長分散補正システムSは、波長分散測定装置1、光ファイバーネットワーク40、41、プリモニタ用ファイバーカプラー42、ポストモニタ用ファイバーカプラー43、分散補正デバイス44、Nx1スイッチSW、送受信器45及びエラー検出器46を備えて構成される。なお、当該システムにおいて、光パルスは偏波保持ファイバーを介して各構成部材間を伝播する。
ファイバーネットワーク40の終端側で当該光ファイバーネットワーク40の光ファイバー伝送路(光伝送路)を伝播する光パルスを被測定パルスとし、当該光パルスについて、波長分散測定装置1にて波長分散の測定をなう。そして、分散補正デバイス42により、ファイバーネットワーク40の光ファイバー伝送路を伝播する光パルスのうち補正の対象となる光パルス(以下、単に「被補正光パルス」と言う。)に対して、測定結果とは絶対値が等しく符号が反転した波長分散を発生させるような補正を行ない、補正後の光パルス(以下、単に「補正光パルス」と言う。)を送受信器35にて受信し、当該送受信器45から補正光パルスを光ファイバーネットワーク41に送信し、これを受けた光ファイバーネットワーク41では、補正により復元された光パルスを伝播することができる。以下、図を参照しつつ具体的手順について説明する。
先ず、光ファイバーネットワーク40から、光ファイバー伝送路を伝播する光パルスのうち、図示しない波長可変フィルター等を用いてある特定の波長チャネルを伝送する光パルスを被補正光パルスとして選択して取り出す。
プリモニタ用ファイバーカプラー42は、光ファイバーネットワーク40からの被補正光パルスを2方向に分岐し、分岐後の1方の被補正光パルスをN×1スイッチSWへ、他方の被補正光パルスを分散補正デバイス44へと導く。
N×1スイッチSWは、被測定光パルス切換手段として機能し、当該N×1スイッチSWの入射側の光ファイバー接続数がN個、出射側の光ファイバー接続数が1個の光スイッチである。入射側は、N個のうちの一つの入射ファイバー経路が選択され、出射側の経路と接続される。出射側は、波長分散測定装置1の入力ポート(図1において図示せず)に接続されている。図4に示す例によれば、入射側の光ファイバー接続数が5個(N=5)であって、図中実線で示す如く左から二番目の入射ファイバー経路を出射側と接続すると、分散補正デバイス44による波長分散補正前の光パルス(被補正光パルス)を被測定光パルスとして波長分散を測定できる。また、図中一点鎖線で示す如く一番左側の入射ファイバー経路が出射側と接続されると、分散補正デバイス44によって波長分散補正された光パルス(補正光パルス)を被測定光パルスとして波長分散を測定できる。なお、他の入射ファイバー経路には、異なる波長チャネルの光パルスを抽出した経路の光ファイバー伝送路や異なる光ファイバーネットワークからの分岐された経路の光ファイバー伝送路を接続することができる。また、N×1スイッチSWは波長分散測定装置1から同期信号Ssyをケーブル等を介して受信することにより、波長分散測定装置1での測定と同期してN×1スイッチSWの経路の切替えを行なうことができる。これにより、特定の経路を同定した状態で、波長分散の測定評価ができる。
そして、波長分散測定装置1は、N×1スイッチSWから被測定光パルスを受信すると、当該被測定光パルスの波長分散の測定を行なう。なお、波長分散測定装置1における具体的な波長分散測定方法については、上述した通りである。
そして、波長分散測定装置1は、補正信号生成手段及び補正信号送信手段として機能し、測定した波長分散に基づいて、分散補正信号Scomを生成し、生成した分散補正信号Scomをケーブル等を介して分散補正デバイス44に送信する。より具体的には、波長分散測定装置1のコンピュータを含んで構成された測定装置27が、測定した波長分散に基づいて、分散補正デバイス44に印加すべきバイアス電圧を指示する制御信号若しくはその他の制御信号として、当該波長分散とは絶対値が等しく符号が反転した波長分散を発生するような分散補正信号Scomを生成する。
分散補正デバイス44は、プリモニタ用ファイバーカプラー42から受けた被補正光パルスに対して、波長分散測定装置1から受信した分散補正信号Scomに基づき波長分散補正を行ない、補正光パルスとしてポストモニタ用ファイバーカプラー43に導く。
ポストモニタ用ファイバーカプラー43では、分散補正デバイス44からの補正光パルスを2方向に分岐し、分岐後の一方の補正光パルスをN×1スイッチSWへ、他方の補正光パルスを送受信器45へと導く。このように、補正後の補正光パルスをN×1スイッチSWへと入射させて、再度波長分散測定装置1により測定を行なうことにより、分散補正デバイス44によってどの程度補正がおこなわれたか、残留する波長分散(補正しきれずに残った波長分散)はどの程度であるかなどの補正精度を評価することができる。
そして、送受信器45は、ポストモニタ用ファイバーカプラー43からの補正光パルスを含む伝送光パルスを生成して、生成した伝送光パルスを光ファイバーネットワーク41に導き、これを受けた光ファイバーネットワーク41では、補正により復元された光パルスを伝播することができる。また、送受信器45は、補正光パルスを電気信号に変換してデータ信号Sdとしてケーブル等を介してエラー検出器46に送信する。
エラー検出器46は、エラー検出手段として機能し、補正後の光パルスのエラーを検出し、波長分散測定装置1へ知らせる。より具体的には、エラー検出器46は、送受信器45から送信されたデータ信号Sdを受信すると、ビット誤り率等のエラー測定を行ない、その結果をエラー信号Seとして波長分散測定装置1にケーブル等を介して送信する。そして、エラー信号Seを受信した波長分散測定装置1は、補正信号生成手段として機能し、当該エラー信号に基づいてエラーが小さくなるような分散補正信号Scomを生成し、分散補正デバイス44に送信する。これにより、更に高精度な波長分散補正を行なうことが可能になる。
なお、上述した実施形態に限らず、例えば、補正光パルスのみを測定対象としても、波長分散補正は可能である。この場合、補正後の光パルス(補正光パルス)だけを波長分散測定装置1の測定対象として、残留する波長分散ができるだけ小さくなるように分散補正デバイス44を制御すればよい。また、分散補正デバイス44によって発生する波長分散量が校正済みであるならば、被補正光パルス(補正前の光パルス)の波長分散を測定することのみでも波長分散補正は可能である。しかし、波長分散補正システムSの高性能化および維持管理上の観点からは、上述した実施形態にて説明したように、被補正光パルスと補正光パルスの双方を波長分散測定装置1における測定対象(被測定光パルス)とし、これら双方の被測定光パルスに基づいて各分散補正信号Scomを生成し分散補正デバイス44にて被補正光パルスの補正をおこなうことが好ましい。