JP4740512B2 - 優れた端面絶縁性を有する電磁鋼板鉄心と鉄心端面の絶縁被膜処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電磁鋼板を用いる鉄心加工工程において、鉄心の切断、打ち抜き等によって生じた鉄心端面又はさらに表面に、絶縁性、密着性、耐蝕性等に極めて優れる絶縁被膜処理を施した鉄心と、その絶縁被膜処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
無方向性電磁鋼板をモーター鉄心に使用する場合、電磁鋼板コイルをスリットし、所定の形状に打ち抜き加工し、所定枚数積層し、溶接、かしめ、ボルト締め、バンドクランプ、金型或いは接着等によりクランプされ、鉄心とされる。この際、大型モーターの場合には、必要に応じて歪取り焼鈍やワニス処理等が施される。小型モーターの場合には焼鈍、ブルーイング、アルミダイキャスト等の工程を経て組み立てられる。
【0003】
電磁鋼板表面には通常、絶縁被膜処理を施されているが、ワニス処理やブルーイング焼鈍は表面や鉄心端面(打ち抜き、剪断等による加工面)の耐蝕性や絶縁性を向上する目的で行われるものである。このようにして用いられる電磁鋼板の表面絶縁被膜は、耐蝕性、打ち抜き性、溶接性、絶縁性に影響する。特に、絶縁性向上に付いては、積層時に鋼板板間の絶縁性を向上することによる渦電流損失による鉄損増加を抑えるために数々の研究がなされてきた。
【0004】
従来、鋼板表面の絶縁被膜剤としては、無機系、有機系、無機−有機複合系の被膜剤が使用用途や目的に応じて適用されてきた。一般に無機系被膜は耐熱性や溶接性に優れるが打ち抜き性が劣る。一方、有機被膜の場合には打ち抜き性、密着性が優れるが耐熱性と溶接性が劣る欠点がある。近年では、このような両者の欠点を解決すべく、中間的な性能を発揮できる無機−有機系被膜が一般的に用いられるようになった。
【0005】
しかしながら、鋼板製造時に形成する絶縁被膜のみでは絶縁性が十分でなかったり、焼鈍工程を含む場合、絶縁性が極めて低下することから、ワニス処理等の絶縁が必要となっている。
【0006】
特に、近年では、打ち抜きや切断加工で生じた鉄心端面の絶縁が、鉄心効率に大きい影響を及ぼすことが見出され、工業的に優れた鉄心端面と表面処理技術の開発の要望が高まってきた。しかしながら、従来一般的に行われて来た鉄心端面や表面の絶縁処理方法では、耐蝕性や絶縁性向上にそれなりに有効ではあるものの、密着性や膜強度、絶縁性が不十分である。即ち、ブルーイング処理の場合、絶縁性、耐蝕性に乏しいばかりでなく、安定性に劣り、熱処理工程に多大なコストアップをもたらす。
【0007】
また、有機化合物を主体とするワニスやその他の有機化合物により処理した場合、耐蝕性や絶縁性についてはそれなりに有効であるものの、密着性、膜強度、絶縁性、耐熱性等が不十分である。特に塗れ性不良の問題から、前処理として洗浄や焼鈍を必要とする。更に、耐熱性についても、鉄心加工工程にAlダイキャスト等の熱処理工程を含む場合には不向きである。
【0008】
又、リン酸塩等の無機系の絶縁被膜処理の場合、有機系ワニス処理時と同様に塗布前処理が必要で、さらに高温度の乾燥が必要である。被膜性能上も厚塗りが困難、密着性不良、焼鈍による絶縁被膜の脱落等の問題がある。
【0009】
これら従来技術については、作業環境や効率の面から問題が多く、更なる改善が望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の鉄心端面や表面の耐蝕性、絶縁性を向上するためのワニス処理やブルーイング焼鈍を中心とする絶縁被膜処理では、焼付け後の絶縁被膜の密着性、絶縁性、耐蝕性、耐熱性、作業性或いは磁気特性において、多くの問題があることから、これらの解決策として極めて迅速で容易な端面及び表面の被覆被膜を提供する。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、従来のワニス処理、ブルーイング等の熱処理に代わる新しい鉄心端面の絶縁被覆処理技術として、下記の構成を要旨とする。
(1)A成分として有機珪素化合物R1 n Si(OR2 )4-n (但しR1 :炭素数1〜6の炭化水素基、R2 :炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)を100質量部あたり、B成分として有機珪素化合物Si(OR3 )4 (但しR3 :炭素数1〜6のアルキル基)を20〜130質量部を配合した絶縁被膜剤で処理され、かつ、前記絶縁被膜剤に平均粒子径5〜5000nmのAl 2 O 3 ,SiO 2 ,TiO 2 ,又はこれらの複合物の、粉体及び/又はコロイド状物質の1種又は2種以上が配合され、少なくとも鉄心端面に、SiO2 を主体とし、膜厚0.5〜20μm、耐電圧30V以上の絶縁被膜を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板鉄心。
(2)電磁鋼板を用いて鉄心を製造するに際し、鋼板を打ち抜き或いは剪断後、積層し、クランプし、焼鈍しもしくは焼鈍せず、鉄心端面の絶縁被膜処理し乾燥及び/又は焼付け処理することからなる鉄心の製造において、鉄心端面の絶縁被膜処理剤として、A成分として有機珪素化合物R 1 n Si(OR 2 ) 4-n (但しR 1 :炭素数1〜6の炭化水素基、R 2 :炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)を100質量部あたり、B成分として有機珪素化合物Si(OR 3 ) 4 (但しR3 :炭素数1〜6のアルキル基)を20〜130質量部を配合した被膜剤を用い、かつ、前記絶縁被膜処理剤としてさらに、A成分とB成分の混合物もしくは部分縮合物100質量部あたり、平均粒子径5〜5000nmのAl 2 O 3 ,SiO 2 ,TiO 2 ,又はこれらの複合物の、粉体及び/又はコロイド状物質の1種又は2種以上を0.1〜20質量部配合し、乾燥後の処理部の膜厚を0.5〜20μmとすることを特徴とする鉄心端面の絶縁被膜処理方法。
(3)鉄心端面の絶縁被膜処理に際し、常温〜100℃での乾燥を挟む2回以上の重ね塗りし、最終の塗布後に常温〜300℃で乾燥させることを特徴とする(2)に記載の鉄心端面の表面絶縁被膜処理方法。
(4)(3)記載の重ね塗り処理に際し、始めに(2)に記載の絶縁被膜剤を乾燥後の厚みで0.2〜10μm厚みとなるように塗布処理し、以降は(2)に記載の絶縁被膜剤を塗布処理して、絶縁被膜厚みの合計を0.5〜20μmとすることを特徴とする鉄心端面の絶縁被膜処理方法。
(5)鉄心端面への絶縁被膜処理剤の塗布手段として、鉄心の浸漬処理、鉄心塗布部位へのスプレー処理、或いはロール式コーターを用いることを特徴とする(2)〜(4)に記載の鉄心端面の絶縁被膜処理方法。
【0012】
【発明実施の形態】
本発明における鉄心は、モーター、アクチュエーター、発電機、トランス、リアクトル等のエネルギー変換機器の鉄心で、電磁鋼板(磁性材料として用いられるステンレス鋼板、鉄板も含む)の積層鉄心(線状、棒状、塊状等の鉄心、粉末成型鉄心なども含む)である。
【0013】
電磁鋼板から打ち抜きもしくは剪断され積層された鉄心においては、加工端部に絶縁被膜が殆どない部分が生じるため、鉄心と接触する部材、例えば誘導機の二次導体、モーター発電機等における鉄心を固定するケース、ボルト、その他固定部材、巻線、磁石などが鉄心に短絡し、短絡電流による損失の発生増加、トルクや推力或いは出力の低減を引き起こす場合がある。
【0014】
又、鉄心の端面や表面で耐食性が低い場合には、端面や表面に錆が発生し易く、この錆は記録装置の記録メディア、エンコーダなどの精密センサに損傷を与えたり、機械的な諸問題を引き起こすので耐食性の向上は重要である。
【0015】
従来、電磁鋼板を用いる鉄心加工工程における鉄心端面と表面の絶縁や耐蝕性向上策としては、フープ材を鉄心に打ち抜いた後、ワニスや塗料による被覆処理、或いはブルーイング等の熱処理が採用されている、しかしながら、ワニス処理を行う場合には、前処理として、打ち抜き時に付着した打ち抜きオイルを除去するための洗浄、焼鈍等を行う必要があり、設備、時間、コスト面で問題があった。更に、形成したワニスの密着力や絶縁性、耐蝕性が不安定であったり、十分な効果が得られにくいことから、ワニス処理の場合には必要以上の厚塗りをせざるを得ないという問題があった。又、ブルーイング処理においても、焼鈍のための時間やコストの問題の他、酸化膜の安定性や耐蝕性、絶縁性効果において問題であった。
【0016】
本発明者等は、このような問題を解決すべく、液組成、塗布条件及び乾燥或いは焼付け条件に付いて改善に取り組んだ。その結果、有機珪素化合物を主成分とする被膜剤を塗布することにより、前処理や高温乾燥等を必要とせず、短時間で外観、密着性、耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性、高絶縁性の優れる鉄心端面の絶縁被膜処理方法の開発に成功した。
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明においては、少なくとも鉄心端面に塗布する被膜性能の優れる絶縁被膜剤に特徴がある。絶縁被膜剤の組成としては、A成分として有機珪素化合物R1 nSi(OR2)4−n(但しR1:炭素数1〜6の炭化水素基、R2:炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)の100質量部に対し、B成分として有機珪素化合物Si(OR 3 ) 4(但しR3:炭素数1〜6のアルキル基)を20〜130質量部を配合した絶縁被膜剤を用いることを特徴とする。この絶縁被膜剤を鉄心に被覆処理することにより、打ち抜き時に形成された鉄の露出面である鉄心端面、スロット部さらには表面に、均一で緻密な塗膜を形成できる。
【0018】
また、高い絶縁抵抗、耐電圧や良好な密着性を得ようとする場合には、前記A成分、B成分に加えて、さらに平均粒子径5〜5000nmのAl2O3,SiO2,TiO2,又はこれらの複合物の、粉体及び/又はコロイド状物質の1種又は2種以上を0.1〜20質量部配合することにより、極めて顕著な絶縁性と耐電圧の向上効果が得られる。この場合は更に、複合効果として鉄心端面や鋼板表面への塗れ性、付着力、被膜強度を改善することができる。
【0019】
本発明の被膜剤を用いる場合には、従来の有機系ワニスや無機系絶縁剤を使用する場合のように、洗浄、焼鈍のような前処理は必ずしも必要とせず、直接絶縁被膜処理できる利点がある。これは被膜剤が高い密着性を有することと、鉄心製造中に付着する油分や汚れなどを溶解し、乾燥時に飛散させることによると考えられる。
【0020】
絶縁被膜剤を塗布する際は、溶剤の種類、溶剤の割合、濃度、粘性を制御することにより、鉄心端面への溶液付着性を制御する。さらに塗布時の操作を制御することにより、所定の膜厚みに塗布する。例えば浸漬法においては引き抜き速度を、スプレー法の場合にはノズル形状や噴射速度等を、またロールコーター方式の場合には通板速度やロール圧下等を、前記被膜剤の条件と組み合わせて制御する。なおこの際、所望の膜厚みが得られない場合には、常温〜100℃での乾燥を挟む2回以上の重ね塗りし、最終の塗布後に常温〜300℃で乾燥を行うことにより厚膜が得られる。
【0021】
乾燥条件は、本発明の複合有機珪素化合物を用いる場合には、常温乾燥で十分であるが、短時間で乾燥を行わせようとする場合には、300℃程度までの温風或いは熱風を利用して乾燥を行うことにより、極めて迅速な鉄心端面処理が可能となる。なお本発明の被膜剤は高い耐熱性も有するため、より高温で長時間の焼付け処理を行っても差し支えない。
【0022】
次に、本発明の限定理由について述べる。
【0023】
先ず、高絶縁性を有する鉄心材料の限定理由について述べる。
【0024】
本発明における鉄心の特徴は、A成分として有機珪素化合物R1 nSi(OR2)4−n(但しR1:炭素数1〜6の炭化水素基、R2:炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)と、B成分として有機珪素化合物Si(OR 3 ) 4(但しR3:炭素数1〜6のアルキル基)による被膜剤で処理され、少なくとも鉄心端面に、乾燥膜として処理部面積当り、SiO2として1〜25g/m2の絶縁被膜を有する鉄心である。このような組成液で処理された絶縁被膜は、乾燥・焼付け処理後は脱水や脱溶剤反応を経てSiO2主成分の極めて緻密で耐蝕性、耐熱性、絶縁性の優れた被膜を形成する。
【0025】
この際形成する絶縁被膜のSiO2量が1g/m2未満では絶縁性、耐食性が十分に得られない。これは、特に、鉄心端面処理においては打ち抜き時において生じる端面のカエリ部分を被覆するのに不十分なためである。一方25g/m2超の場合には、塗膜量が多くなりすぎて密着性を損なったり、乾燥条件によっては凸沸と呼ばれる被膜の膨れや割れが生じるため好ましくない。また、必要以上の塗布はコストアップの問題も有る。SiO2量として1〜25g/m2が塗布された本発明の絶縁被膜の膜厚は0.5〜20μmとなり、このときの耐電圧は30V以上に達する。
【0026】
本発明者等はモーター鉄心の絶縁性と鉄心の効率について調査したところ、鉄心端面の絶縁性を向上することにより、鉄心と接触する部材との電気絶縁性の改善効果が得られ、損失増加と出力低下を引き起こす短絡電流が抑制され、モーターのトルク(推力)や出力が増加することが判明した。
【0027】
このために必要な耐電圧は、小型や低速回転のモーターでは数Vでも十分な効果を発揮するが、大型化、高速化に伴い要求値は高くなる。例えば高速回転の誘導モーター(18万rpm、二極)では、回転子鉄心における二次導体間隔2cm、鉄心高さ(電磁鋼板積層高さ)50cm、鉄心励磁磁束密度1Tにおいて、理論上少なくとも34Vの耐電圧が必要であり(参考:180、000rpm/60s=3kHz、√2π×3000Hz×0.02m×0.5m/2/1T/端面2個=33.3V)、実用的には50V以上が必要となる。本発明の絶縁被膜を用いる場合は、必要とするモーターの特性に応じて膜厚を設定すれば良い。
【0028】
本発明の複合有機珪素化合物からなる絶縁被膜剤により得られる絶縁被膜は、極めて緻密で密着性の優れるSiO2主体の絶縁被膜を形成することができる。
【0029】
絶縁被膜の膜厚は0.5〜20μmである。乾燥後にSiO2量として1g/m2が塗布されたときの乾燥後膜厚がほぼ0.5μmとなることから、膜厚の下限を0.5μmと制限した。この膜厚において約30Vの高い耐電圧が得られる。一方、膜厚が20μm超では、乾燥や焼付け条件によっては処理後の被膜密着性が低下したり、亀裂を生じ、鉄心端面での密着性の安定性に欠ける。特に、塗布乾燥後熱処理加工を受ける場合には、密着不良が生じる場合がある。又、乾燥に長時間を要したり、コストアップにも繋がるため制限される。
【0030】
次に、本発明の絶縁被膜処理においては、先ず、その被膜成分に特徴がある。
【0031】
電磁鋼板を用いて鉄心を製造するに際し、鋼板を打ち抜き或いは剪断後、積層し、クランプし、必要に応じて焼鈍しもしくは焼鈍を省略し、鉄心端面の絶縁被膜処理し、乾燥及び/又は焼付け処理することからなる鉄心加工方法において、鉄心端面の絶縁被膜処理剤として、A成分として有機珪素化合物R1 nSi(OR2)4−n(但しR1:炭素数1〜6の炭化水素基、R2:炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)の100質量部に対して、B成分として有機珪素化合物Si(OR 3 ) 4(但しR3:炭素数1〜6のアルキル基)を20〜130質量部とを配合した被膜剤が用いられる。このような組成を主成分とする本発明成分では、100℃以下のような低温乾燥で容易に成分の加水分解と乾燥が生じ、緻密なSiO2主成分の被膜層を生成することができる。
【0032】
本発明のコーテング組成物は必須成分として、A成分として一般式R 1 nSi(OR 2 ) 4−n(但しR 1 :炭素数1〜6の炭化水素基、R 2 :炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)で示されるアルコキシシランと、B成分として一般式Si(OR 3 ) 4(但しR 3 :炭素数1〜6のアルキル基)で示されるアルコキシシランとからなる有機珪素化合物が用いられる。
【0033】
前記A成分であるアルコキシシランR1 nSi(OR2)4−nにおいて、R1は、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ビニル基,フェニル基等で例示される、炭素数1〜6の炭化水素基の何れでもよい。またR2は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等で例示される炭素数1〜6の直線または分岐鎖アルキル基の何れでも良い。
【0034】
従って、n=1のトリアルコキシシランの例としては、メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,エチルトリメトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,n−プロピルトリメトキシシラン,n−プロピルトリエトキシシラン,i−プロピルトリメトキシシラン,i−プロピルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が包含される。
【0035】
本発明ではさらにn=2のジアルコキシシラン、n=3のモノアルコキシシランを用いても構わないが、アルコキシ基が少なくなるほど被膜はポーラス化して緻密性が低くなることから、トリアルコキシシランを用いるのが好ましい。また本発明では上記の各アルコキシシランを2種以上混合して使用しても差し支えない。
【0036】
また前記B成分であるテトラアルコキシシランSi(OR 3 ) 4において、R3は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等で例示される炭素数1〜6の直線または分岐鎖アルキル基の何れでも良い。従って、直鎖アルキル基を有するテトラアルコキシシランを例示すれば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラペンチルオキシシラン、テトラヘキシルオキシシラン等を挙げることができる。そして、これらテトラアルコキシシランについても、2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
以上のアルコキシシランとテトラアルコキシシランを本発明の絶縁被膜剤に使用するに際しては、ある程度加水分解させた部分縮合物とするのが好ましい。この場合、所望の割合で混合し、この混合物を加水分解する方法により、或いはまた、各成分を別々に加水分解し、しかる後それぞれの加水分解生成物を混合する方法により調整することができる。しかし、予め、テトラアルコキシシランを加水分解することで、平均分子量が好ましくは300〜700程度の部分縮合物を調整し、この部分縮合物またはそれに相当する市販品を所定の割合でトリアルコキシシランと混合し、これを加水分解することが好ましい。
【0038】
被膜剤を調製する際のA成分とB成分の配合割合は絶縁被膜性能に大きな影響を与える。A成分100質量部に対し、B成分が20質量部未満では、膜厚は厚くできるが、被膜の緻密性が失われ、耐蝕性、絶縁性等が低下する。一方、B成分が130質量部超では、被膜は緻密化するが、膜厚を薄くしないと乾燥、焼付け後に被膜に割れを生じやすく、鋼板端面や表面での密着性も低下する。
【0039】
以上のA成分とB成分は、アルコールやケトンなど、水溶性の有機溶媒に溶解されて用いられる。このとき溶媒となるアルコールの配合比は特に規定しないが、コアへの塗布量や乾燥時間により適宜決定され、A成分とB成分の合計に対し、0.5〜2倍の範囲が好ましい。有機溶媒の種類も特に限定しないが、乾燥を速くするには沸点の低いものほど良く、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンなどが好ましい。
【0040】
被膜剤の調整は、以上の溶液に、加水分解に必要な当量以上の水分を加えることで得られる。このとき、酸やアルカリなどの触媒作用を有する物質を適量添加するのが好ましい。
【0041】
水分を加えられた絶縁被膜剤は、有機溶媒の沸点未満の温度に加熱して部分加水分解させておくことで、さらに速乾性を高めることができる。この部分加水分解は、A成分とB成分を混合後に行っても良く、各々の成分で行った後に混合しても良い。
【0042】
このA成分とB成分の組成比に対する絶縁被膜の密着性と緻密性の関係は、図1に模式的に示すような関係となる。B成分の割合を大きくすると、脱水反応による被膜の収縮が大きくなって割れが生じたり、密着性を低下するものと考えられる。一方、B成分の割合を小さくすると、密着性が向上して膜厚は厚くできるが、有機分の分解時にできるボイド状の部分が増すため、ポーラス化して被膜の緻密性が損なわれ、絶縁性や耐食性が低下すると考えられる。
【0043】
また、塗れ性の改善、密着性の改善や高耐電圧の絶縁被膜を得ようとする場合には、前記A成分とB成分の混合物もしくは部分縮合物の100質量部あたり、さらに平均粒子径5〜5000nmのAl2O3,SiO2,TiO2,及びこれらの複合物の粉体及び/又はコロイド状物質の1種又は2種以上を0.1〜20質量部が配合される。
【0044】
このような溶液の乾燥被膜により被覆された電磁鋼板鉄心においては、より優れた絶縁抵抗と高耐電圧が得られ、同時に耐熱性や密着性が向上する。これは、有機珪素化合物の部分縮合物質中に分散したAl2O3,SiO2,TiO2,及びこれらの複合物の粉体及び/又はコロイド状物質が表面に微小な凹凸を形成し、緻密な有機珪素化合物の被膜との相乗効果によって絶縁性、耐電圧の向上が得られる。
【0045】
また、添加する微細な酸化物粉末やコロイド状物質は、被膜乾燥時に生じる脱水収縮反応や鋼板の熱膨張により発生する応力を分散、緩和し、鋼板と絶縁被膜界面での密着性を向上すると考えられる。
【0046】
このような添加剤粒子の条件として、平均粒子径が5nm未満では、粒子の凝集性が大きくなりすぎて良好な分散状態が得られない。一方、5000nm超の場合は、特に膜厚を薄くする場合において、鉄心の摩擦等により粒子の脱落が生じたり、占積率を低下する問題があるため制限される。
【0047】
また粒子の添加量は、0.1質量部未満では絶縁性、塗布性や密着性改善効果が小さい。しかし、20質量部超になると被膜の緻密性が低下する。
【0048】
粒子を本発明の有機珪素化合物に添加するに際しては、より均一な分散が望ましいことから、予め、紛体物質をアルコール等の溶剤に分散後に添加すると、優れた分散効果が得られ、均一な厚みの塗膜を得るのに有利である。
【0049】
本発明の絶縁被膜剤を塗布するにあたっては、公知のどのような塗布方法を用いても構わないが、浸漬法、スプレー法や簡易ロール式コーターなどを用いることができる。特に浸漬法が塗布設備が簡単で、液の使用効率も有利である。
【0050】
被膜剤塗布後の鉄心の加水分解乾燥熱処理にあたっては、常温乾燥でも良いが、有機溶媒と水分が沸騰する程度の温度以上が好ましく、短時間の乾燥や工程を効率化しようとする場合には、300℃程度までの乾燥炉中で30秒以上の乾燥をすると、脱水、脱溶剤が十分に進み、良好で密着性にも優れた被膜性能が得られる。好ましい乾燥方法としては、低温域から徐々に温度を上げて加熱するのが良好な被膜特性が得られる。これは、急速に加熱すると、水、アルコール等の溶剤の乾燥が急速に生じ、凸沸状の表面欠陥が生じやすいことによる。
【0051】
本発明の液を用いて重ね塗りを行い、厚膜を得ようとする場合には、溶液を塗布し、常温〜100℃で低温乾燥後、再度溶液を塗布し乾燥する。好ましくは始めに酸化物粉末及び/またはコロイド状物質を添加した被膜剤を膜厚で0.2〜5μm厚さになるよう塗布し、乾燥し、次いで粒子を添加、もしくは粒子を添加しない被膜剤を塗布し、乾燥後の膜厚が合計で0.5〜20μmとなるように塗布するのが好ましい。このように処理焼付けを行うと、添加剤による焼付け時、熱処理時の脱水収縮や鋼板の膨張による応力の緩和効果が十分に発揮され、高絶縁性、耐電圧、耐蝕性、耐熱性や密着性等の優れた絶縁被膜が形成できる。
【0052】
【実施例】
(実施例1)
Si;0.35%、Al;0.002%、Mn;0.25%を含有する板厚0.50mmの無方向性電磁鋼板冷延コイルを連続焼鈍ラインで焼鈍後、絶縁被膜剤として、固形分で重クロム酸Mg450質量部、硼酸120質量部、アクリル−スチレン樹脂エマルジョン5質量部からなる溶液を同ラインにて、焼付け後の質量で1.5g/m2となるよう塗布し、板温350℃で焼き付け処理を行い製品とした。
【0053】
次いで、この電磁鋼板製品から打ち抜き、かしめて、2.2kW、200V、60Hzの三相4極かご型誘導モーターの回転子の鉄心〔44スロット、半閉、スキュー(固定子スロットピッチの1.23倍)有〕を製作した。
【0054】
この鉄心を、第1表に示す組成の絶縁被膜剤を用いて浸漬処理し、常温で乾燥し、100℃X10分間の焼付け処理を行った。この際の平均膜厚は3.5μmであった。その後、この鉄心にアルミダイキャストにより二次導体バーをつくり、軸を挿入して上記誘導モーターの回転子を製作した。
【0055】
この試験における鉄心の被膜状況及び磁気特性及び鋼板面に塗布した材料による焼鈍前後の絶縁被膜の評価結果を第2表に示す。
【0056】
又この際、前記無方向性電磁鋼板の製造ラインにおいて、連続焼鈍後で絶縁被膜処理前の材料を採取し、10X30cmのサンプルを切り出し、バーコーターを用いて前記溶液を乾燥後膜厚を変更して塗布し、同様にして焼付け処理し、耐電圧、被膜密着性、耐蝕性等の評価材とした。評価結果を第3表に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
この試験の結果、本発明の絶縁被膜剤を鉄心端面に処理した場合、油除去等の前処理なしで光沢の良い透明被膜を形成し、極めて優れた耐蝕性と耐熱性を示した。これに対し、比較剤の絶縁被膜処理を行わなかった場合には、耐食性が本発明剤を塗布した鉄心に比較して極めて劣り全面錆びが発生する結果となった。
【0061】
又、このモーターの無負荷特性より損失を求めて本発明の効果を確認したところ、鉄心の損失低減率の比較結果は、本発明1〜3の処理条件で処理したモーターの損失低減率はそれぞれ、11%、10%、13%となった。これに対して、比較例1の絶縁被膜処理なしでは、殆ど損失の低減は見られなかった。このようにモーター性能においても、本発明の絶縁処理を行うことで従来の無絶縁処理や従来処理に比べ、明らかに損失が低減しており、モーターの高効率化が実現した。
【0062】
又、切り板を用いて、バーコーターによる塗布試験を行った場合の被膜特性は、第3表の如く、本発明剤を用いた場合、耐蝕性、絶縁性、密着性のいずれにおいても極めて良好な特性であった。特に、本発明1〜3の有機珪素化合物部分縮合物質を塗布した場合には、焼鈍後の耐電圧も極めて良好な結果が得られることを確認した。これに対し、比較例1の焼鈍後の表面は酸化により黒変し、耐蝕性、絶縁性特性が本発明に比し極めて劣る結果となった。
(実施例2)
実施例1と同様にして製造した0.5mm厚の電磁鋼板製品を、打ち抜き、かしめて、2.2kW、200V、60Hzの三相4極かご型誘導モーターの回転子の鉄心〔44スロット、半閉、スキュー(固定子スロットピッチの1.23倍)有〕を製作した。
【0063】
この鉄心を、モノメチルトリメトキシシラン100gあたりテトラメトキシシランの部分縮合物60gを混合して得た部分縮合物100質量部に対し、一次平均粒子径12nmのAl2O3粉末を0.25質量部添加した絶縁被膜剤を、第4表に示すように塗布量が変わるように浸漬処理し、常温で乾燥し、100℃X10分間の焼付け処理を行った。この際、比較材としては、従来の有機系ワニスとしてポリエステルイミドワニスを用いて、同様に絶縁被膜処理を行った。この試験における鉄心の被膜状況及び磁気特性及び鋼板面に塗布した材料による焼鈍前後の絶縁被膜の評価結果を第4表に示す。
【0064】
その後、この鉄心にアルミダイキャストにより二次導体バーをつくり、軸を挿入して上記誘導モーターの回転子製作した。その後、このモーターの無負荷特性より損失を求めて本発明の効果を確認した。
【0065】
又この際、前記無方向性電磁鋼板の製造ラインにおいて、連続焼鈍後で絶縁被膜処理前の材料を採取し、10cmX30cmのサンプルを切り出し、バーコーターを用いて前記絶縁被膜剤を、乾燥後膜厚を変更して塗布し、同様の条件で乾燥・焼付け処理し、耐電圧、被膜密着性、耐蝕性等の評価材とした。評価結果を第5表に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
この試験の結果、本発明の絶縁被膜剤を鉄心端面に処理した場合、油除去等の前処理なしで光沢の良い均一な透明被膜を形成し、極めて優れた耐蝕性と耐熱性を示した。これに対し、比較剤の従来ワニスを使用した場合には、打ち抜き油の影響と考えられる塗り斑が多く、耐食性が本発明剤を塗布した鉄心に比較して極めて劣り、全面錆びが発生する結果となった。
【0069】
又、鉄心の損失低減率の比較結果は、処理条件本発明1〜3で処理したモーターの損失低減率はそれぞれ、5%、7%、11%、16%となった。これに対して、比較例1の従来のワニス処理では、損失の低減は見られなかった。このようにモーター性能においても、本発明の絶縁処理を行うと従来の無絶縁処理や従来処理に比べ、明らかに損失が低減しており、モーターの高効率化が実現した。
【0070】
又、切り板剤を用いて、バーコーターによる塗布試験を行った場合の被膜特性は、第4表の如く、本発明剤を用いた場合、耐蝕性、絶縁性、密着性のいずれにおいても極めて良好な特性であった.特に、本発明1〜3の有機珪素化合物部分縮合物質を塗布した場合には、焼鈍後の耐電圧も極めて良好な結果が得られることを確認した。これに対し、比較例1焼鈍後の表面は有機部の燃焼により、酸化して黒変し、耐蝕性、絶縁性特性が本発明に比し極めて劣る結果となった。
【0071】
【発明の効果】
モーターなどのエネルギー変換機器に使用される鉄心において、鉄心の端部、表面で、二次導体、ケース、ボルトなどと短絡すると、機器の損失が増加し、トルク、推力や出力は低下し、更にはこれらの性能がばらつく原因ともなるので、鉄心の端部、表面の絶縁処理は機器性能の向上、安定化に非常に重要であり、この絶縁処理が短時間で容易にできることは工業的に大きな価値がある。
【0072】
本発明によれば、鉄心の端面の絶縁処理が、脱脂洗浄や焼鈍等の前処理なしに、絶縁性、耐蝕性、密着性、耐熱性、磁気特性改善効果等に極めて優れる絶縁被膜処理を低温且つ短時間でできる。
【0073】
このため、機器性能の向上と安定化に効果的な方法であり、工程が簡単であるため、低コスト化できるので、非常に工業的な価値が高い技術である。
【0074】
機器の高効率化/低損失化はエネルギー・環境問題において重要であり、この発明を活用することは社会的にも価値がある。家電機器、FA機器、OA機器をはじめ、自動車、電車など幅広い活用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1図は有機珪素化合物Aと有機化合物Bの組成比を変更して焼付け処理した絶縁被膜の性質を模式的に示したものである。
Claims (5)
- A成分として有機珪素化合物R1 n Si(OR2 )4-n (但しR1 :炭素数1〜6の炭化水素基、R2 :炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)を100質量部あたり、B成分として有機珪素化合物Si(OR3 )4 (但しR3 :炭素数1〜6のアルキル基)を20〜130質量部を配合した絶縁被膜剤で処理され、かつ、前記絶縁被膜剤に平均粒子径5〜5000nmのAl 2 O 3 ,SiO 2 ,TiO 2 ,又はこれらの複合物の、粉体及び/又はコロイド状物質の1種又は2種以上が配合され、少なくとも鉄心端面に、SiO2 を主体とし、膜厚0.5〜20μm、耐電圧30V以上の絶縁被膜を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板鉄心。
- 電磁鋼板を用いて鉄心を製造するに際し、鋼板を打ち抜き或いは剪断後、積層し、クランプし、焼鈍しもしくは焼鈍せず、鉄心端面の絶縁被膜処理し乾燥及び/又は焼付け処理することからなる鉄心の製造において、鉄心端面の絶縁被膜処理剤として、A成分として有機珪素化合物R1 n Si(OR2 )4-n (但しR1 :炭素数1〜6の炭化水素基、R2 :炭素数1〜6のアルキル基、nは1〜3)を100質量部あたり、B成分として有機珪素化合物Si(OR3 )4 (但しR3 :炭素数1〜6のアルキル基)を20〜130質量部を配合した被膜剤を用い、かつ、前記絶縁被膜処理剤としてさらに、A成分とB成分の混合物もしくは部分縮合物100質量部あたり、平均粒子径5〜5000nmのAl 2 O 3 ,SiO 2 ,TiO 2 ,又はこれらの複合物の、粉体及び/又はコロイド状物質の1種又は2種以上を0.1〜20質量部配合し、乾燥後の処理部の膜厚を0.5〜20μmとすることを特徴とする鉄心端面の絶縁被膜処理方法。
- 鉄心端面の絶縁被膜処理に際し、常温〜100℃での乾燥を挟む2回以上の重ね塗りし、最終の塗布後に常温〜300℃で乾燥させることを特徴とする請求項2に記載の鉄心端面の表面絶縁被膜処理方法。
- 請求項3記載の重ね塗り処理に際し、始めに請求項2記載の絶縁被膜剤を乾燥後の厚みで0.2〜10μm厚みとなるように塗布処理し、以降は請求項2に記載の絶縁被膜剤を塗布処理して、絶縁被膜厚みの合計を0.5〜20μmとすることを特徴とする鉄心端面の絶縁被膜処理方法。
- 鉄心端面への絶縁被膜処理剤の塗布手段として、鉄心の浸漬処理、鉄心塗布部位へのスプレー処理、或いはロール式コーターを用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の鉄心端面の絶縁被膜処理方法。
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