JP4740275B2 - コモンレールの製造方法および部分強化されたコモンレール - Google Patents

コモンレールの製造方法および部分強化されたコモンレール Download PDF

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Description

本発明は、ディーゼルエンジンの蓄圧式燃料噴射システムにおけるコモンレールの製造方法および部分強化されたコモンレールに関するものである。
流体通路を持つ機械部品において、流体が通過する管の端や、径が極端に変化する部位においては応力集中が発生しやすく、流体の圧力変動の結果として生ずる疲労破壊が問題となることがある。
コモンレールは、ディーゼルエンジンの蓄圧式燃料噴射システムにおいて燃料の軽油を圧送するポンプとインジェクターとの間に位置し、軽油を蓄圧するパイプ状の部品である。図1は、コモンレール1の断面の概略を示している。レール穴5がコモンレール1の主なるパイプであり、軽油を蓄圧する役割を有する。レール穴5には垂直に開口する分岐穴6が複数個配設され、分岐穴6を通って各インジェクターに軽油が圧送される。レール穴5の内径d1は10mm程度、分岐穴6の内径d2は1mm程度である。エンジンの作動に伴い、軽油が周期的に圧送され、コモンレール1内の軽油の圧力が周期的に変動する。この際、図1のレール穴5および分岐穴6には、周期的に周方向の引張応力に変動が生じる。図2は、分岐穴6の開口周辺部である分岐穴6の内面とレール穴5の内面との境界周辺部を拡大して示している。分岐穴6開口周辺部の中でも特に、分岐穴6の、レール穴の長手方向に平行となる直径の両端近傍7では、両穴5、6の引張応力が合成されるため、他の部分よりも大きな引張応力が発生し、内圧の変動により疲労破壊しやすいという問題がある。内圧の変動に対する疲労強度(内圧疲労強度)を向上させれば、燃料の高圧噴射が可能となり、排気ガスのクリーン化や燃費の向上につながるため、疲労強度向上が望まれている。
従来、このような疲労強度の向上に向けたアプローチとしては、一般的に高強度の鋼材を用いることでコモンレールの疲労強度を高める方法が採られているが、素材の高強度化による成形性や加工性の低下、高性能化に伴うコストの増大の問題が発生している。そのため例えば、特許文献1には、従来の鍛造一体成形及び機械加工によるコモンレールの製造方法に代替する製造方法として、液相拡散接合による溶接コモンレールに関する発明が開示されている。さらに特許文献2には、接合時の制御冷却を不要とする液相拡散接合に適した鋼材に関する発明が開示されている。しかし、これらの特許文献に開示されている鋼材は、引張強度が600MPa程度の鋼材であり、近年指向されている高燃費性能を実現するための1500気圧やさらには2000気圧を超えるコモンレールに使用するには強度不足である。
また、鋼材の強度を上げるというオーソドックスな方法のみならず、例えばコモンレールの強化について、特許文献3や特許文献4に開示されているように、流体研磨やコイニング加工の手法を用いて分岐穴開口端部のエッジを面取りして、応力集中を緩和する方法が知られている。また、圧縮応力付与による疲労強度向上も検討されている。近年開発が進められているレーザピーニングは、金属物体の表面に液体等の透明媒質を置いた状態で、その表面へ高いピークパワー密度を持つパルスレーザビームを照射し、そこから発生するプラズマの膨張反力を利用して、金属物体の表面近傍に非接触処理で残留圧縮応力を付与する技術であり、例えば特許文献5にその方法が開示されている。レーザビームは、コモンレールのレール穴内面、分岐穴内面といった狭隘部へも伝送可能であり、レーザピーニングはコモンレールの分岐穴開口部近傍へ高い圧縮応力を付与するための現状唯一の方法である。そこで、特許文献6に開示されたように、レーザピーニングをコモンレールへ適用するための効果的な方法について検討されてきている。
特許文献6に開示された方法は、コモンレールの疲労強度を大きく向上させるものであるが、装置、効果の観点から以下のような問題があった。レーザピーニング処理においてサンプル表面にレーザビームを照射すると、照射スポット部表層近傍が溶融・再凝固することにより該スポット部の表層近傍の圧縮応力が減少することが多い。この問題を回避するために、レーザビームを吸収する吸収材料層を設置する方法が知られているが、この吸収材料層をコモンレールの分岐穴開口部へ設置するには複雑な装置を必要とするため、同工程の省略がコストや生産性の観点から望まれる。
特許文献5には、熱影響部を除去するための方法として、レーザ光照射面とその近傍に対向して設置した電極間にレーザで制御した放電を生じさせる方法や、レーザ照射面に接する透明液体を電解液とし、レーザ照射中に照射面とその近傍に対向して設置した電極間で電解研磨を行う方法が開示されている。しかし、これらの方法は、レーザ照射の影響が大きいために、所望の加工形状を精度良く安定的に得ることが難しく、コモンレールの工業生産には適さない。また、特許文献6に開示されているように、パルスレーザのビームスポットの重畳面積割合を高めることで、上述の圧縮応力の減少の問題は緩和される。しかしながら、コモンレールの疲労強度の向上効果をさらに引き上げるためには、表層近傍の圧縮応力を最大限高める必要があり、別のアプローチが望まれている。
特開007−40244号公報 特開2004−100027号公報 特開2004−204714号公報 特開2004−27968号公報 特許第3373638号公報 特開2006−322446号公報
本発明は、上記の問題を解決し、応力集中により疲労破壊の起点となりやすいコモンレールの分岐穴の開口部近傍をレーザピーニング処理にて部分的に強化することにより、安価な鋼材を用いて優れた疲労強度を持つコモンレールの製造方法およびコモンレールを提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために検討を行った結果、レーザピーニング処理による圧縮応力導入後に電解研磨等によりレーザピーニング処理した部分を含む領域の材料を除去すれば、コモンレールの疲労強度を大きく向上させられることが判った。
すなわち、本発明は、中心部にレール穴が形成され、前記レール穴を取り囲む筒壁部に前記レール穴に開口する複数の分岐穴が形成されたコモンレールの製造方法であって、前記コモンレールの素材として、質量%で、C:0.01〜1.0%,Si:0.01〜1.0%,Mn:0.05〜3.0%,Ti:0.005〜0.1%,Al:0.01〜0.2%を含有し、かつP:0.03%以下,S:0.01%以下,O:0.01%以下に制限され、加えてAs,Sn,Sb,Pb,Znの何れも0.005%以下に制限され、(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)≦0.015%であり、残部が不可避的不純物およびFeからなる液相拡散接合用鋼を用い、液相拡散接合した継手をAc3変態点以上に再加熱してから冷却速度0.1℃/s以上で加速冷却し、前記分岐穴の開口周辺部に位置する前記分岐穴の内面と前記レール穴の内面とに、透明液体を存在させてパルスレーザビームを照射するレーザピーニング処理を施した後に、前記開口周辺部の材料の表層を除去することにより、前記開口周辺部の疲労強度を高めることを特徴とする、コモンレールの製造方法である。
前記素材として、更にB:0.0003〜0.005%,N:0.01%以下を含有する液相拡散接合用鋼を用いても良い。また、前記素材として、更にCa:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.005%,Y:0.0005〜0.02%,Ce:0.0005〜0.02%,La:0.0005〜0.02%,Zr:0.001〜0.02%の一種または2種以上を含有する液相拡散接合用鋼を用いても良い。また、前記素材として、更にNi:0.01〜5.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0%,Cr:0.01〜13.0%,Mo:0.01〜5.0%,W:0.01〜5.0%の一種または二種以上を含有し、加速冷却後または加速冷却して焼き戻し後の継手の強度が1000MPa以上である液相拡散接合用鋼を用いても良い。また、前記素材として、更にNb:0.005〜0.5%,V:0.005〜1.0%,Ta:0.005〜0.5%,Hf:0.005〜0.5%,Re:0.005〜0.5%の一種または二種以上を含有し、加速冷却後または加速冷却して焼き戻し後の継手の強度が1000MPa以上であることを特徴とする液相拡散接合用鋼を用いても良い。
また、前記開口周辺部の材料の表層の除去は、電解研磨もしくは流体研磨によって行っても良い。
また、前記パルスレーザビームのパルスエネルギーが1mJ〜10Jであっても良い。
また、前記レーザピーニング処理を施す領域が、前記レール穴の内面において(1)式を満足する領域に含まれ、前記表層を除去する領域は、前記レーザピーニング処理を施す領域を包含するものであって、除去する表層の厚みが前記レーザピーニング処理を施す領域において0.01mm〜0.3mmであっても良い。
分岐穴の中心からの距離≦分岐穴の直径×1.5 (1)
また、前記レーザピーニング処理を施す領域が、前記分岐穴の内面から前記レール穴の直径の20%の距離までの領域に含まれても良い。
また、前記レーザピーニング処理を施す前に、前記開口周辺部を面取り加工しても良い。
また、前記面取り加工で面取りされる領域とされない領域との境界が、前記レール穴の内面において(2)式を満足し、前記分岐穴の内面において前記レール穴の内面から前記レール穴の直径の30%の距離までの領域に含まれ、前記レーザピーニング処理を施す領域が、前記面取り加工された面に包含されるものであり、かつ、前記表層を除去する領域が前記レーザピーニング処理領域を包含するものであって、除去する表層の厚みが前記レーザピーニング処理を施す領域において0.01mm〜0.3mmであっても良い。
分岐穴の直径×0.5≦分岐穴の中心から境界までの距離≦分岐穴の直径×2.5 (2)
また、前記レーザピーニング処理に用いる透明液体がアルコールもしくは防錆剤の入った水であっても良い。
また、本発明によれば、これらの製造方法により製造されたことを特徴とする、部分強化されたコモンレールが提供される。
本発明によれば、拡散接合により母材を加工が容易な形状のブロック単位に分けて製造できるので、製造コストを安価にすることができる。また、コモンレールで疲労強度が問題となる分岐穴のレール穴側開口部周辺において、表面から高い圧縮応力が導入できると同時に、分岐穴開口部形状の改善により応力集中が緩和される結果、疲労強度を大きく向上させられる。この結果、安価な鋼材を使用して燃料の高圧噴射を行うことが可能となり、排気ガスのクリーン化や燃費の向上が得られ、産業上有用な効果を奏する。
本発明のコモンレールの製造方法およびコモンレールにかかる最良の形態例として、以下、図面に基づいて説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図1はコモンレール1の断面の概略を示している。筒壁部2内に形成されるレール穴5がコモンレール1の主なるパイプであり、軽油を蓄圧する役割を有する。レール穴5には、垂直に開口する分岐穴6が複数個配設されている。
本発明では、コモンレール1の安価な製造方法として、液相拡散接合による溶接を行う。図3に示すように、長手方向に貫通する管路13を有するコモンレール本体11と円筒形のホルダー12とで形成されるリング状の接合面間に、液相拡散接合用の非晶質合金箔15を介在させて、管14に円筒形のホルダー12を連通させるように突合せた後、抵抗溶接等により、合金箔15とコモンレール本体11及びホルダー12とを溶融圧接して、液相拡散接合を行い、継ぎ手部を形成する。なお、図3は、便宜上、1つの支管14のみを示したものであるが、通常は、エンジン燃焼室の複数の噴射ノズルに対応し、複数の支管14を備えている。そして、ホルダー12は、これらの支管14と、エンジン燃焼室の噴射ノズルまで燃料を圧送するための配管とを接続するために、コモンレール本体11の支管14に対応して複数設けられている。このように形成されたコモンレールにおいて、図3の管路13が図1のレール穴5に対応し、図3の支管14の内部が図1の分岐穴6に対応する。液相拡散接合用の合金箔15には、例えば、Bを少なくとも1%以上含有するNi基またはFe基のインサートメタルを用いる。また、コモンレール本体とホルダー12との液相拡散接合は、例えば、接合温度1000〜1300℃で30秒以上の間1MPa以上の応力を負荷して保持することによって行われる。
図4は、コモンレール1において強化すべき分岐穴6の開口周辺部の断面の拡大図である。本発明の第一の実施形態では、分岐穴6の貫通加工後、図4中の角egfがほぼ垂直に残っている状態で、同図中線分g1〜gで示した領域(開口周辺部23に位置する分岐穴6の内面)と、同図中線分g〜g3で示した領域(開口周辺部23に位置するレール穴5の内面)とにレーザピーニング処理を施した後に、開口周辺部23付近にある材料を除去することで、疲労強度を高める。
本発明では、液相拡散接合後の制御冷却が無くとも十分な低温変態組織、すなわち材料の必要な部位あるいは全体にわたってベイナイトもしくはマルテンサイト変態を誘起させうる焼き入れ性の高い材料を、予め継手設計の段階から選択して、液相拡散接合で形成される等温凝固継手部位においても十分に均質な組織を得られる合金組成の鋼材をコモンレール1の素材として用いる。即ち、上記した例で言えば、コモンレール本体11とホルダー12の素材として、以下に説明する液相拡散接合用鋼を用いる。以下に、本発明に記載の液相拡散接合用鋼の化学成分を限定した理由について述べる。なお、以下に述べる化学成分はいずれも質量%で示される。
Cは、鋼の焼き入れ性と強度を制御する最も基本的な元素である。0.01%未満では強度が確保できず、1.0%を超えて添加すると強度は向上するものの、継手に靭性が確保できないことから、0.01〜1.0%に限定した。この範囲であれば、鋼材の組織制御は接合まま材でも可能である。
Siは、鋼材の脱酸元素であり、通常Mnとともに鋼の酸素濃度を低減する目的で添加される。同時に、粒内強化に必要な元素であって、その不足は強度低下を来す。本発明でも同様に、脱酸と粒内強化を主目的として添加し、0.01%以上で効果を発揮し、1.0%を超えて添加した場合には鋼材の脆化を招く場合があることから、その添加範囲を0.01〜1.0%に限定した。
Mnは、Siとともに脱酸にも効用があるが、鋼中にあって材料の焼き入れ性を高め、強度向上に寄与する。その効果は0.05%より発現し、3.0%を超えると粗大なMnO系酸化物を晶出し、かえって靭性を低下させる場合があることから、その添加範囲を0.05〜3.0%に限った。
Tiは、微細な炭化物を析出して結晶粒を微細化し鋼の靭性を高める。この目的のためには0.005%以上の添加が必要であるが、0.1%を超えると炭化物が粗大化して靭性の低下を招く。したがって、Tiの範囲を0.005〜0.1%に限定した。
Alは、Nと結合してAlNとして析出し、液相拡散接合の温度範囲においても溶解せず、γ粒の移動を抑制する効果を有する。多く添加しても炭化物を形成しないことから、根本的にTiやZr等の窒化物形成元素とは挙動が異なり、鋼の靱性低下をきたさない。従って、効果を発揮する最低量として0.01%の添加が必要であり、0.2%を超えて添加した場合にはAlNそのものが粗大化して靱性に影響があることから、接合温度に応じて0.01〜0.2%の範囲で適宜添加することとした。
なお、本鋼のような高強度鋼で靭性を高めるには、粒界への不純物濃化は極力回避する必要があり、PおよびSは、この目的のためにそれぞれ0.03%以下および0.01%以下に制限した。また、鋼を清浄なものとして高い靭性を確保するために、Oは0.01%以下に制限されなければならない。
以上の基本的な化学成分の制限に加えて、コモンレール用の鋼材として要求される、高圧下での繰り返し疲労強度を得るには、焼割れまたは再熱割れを生じない耐低温変態割れ性に優れた特性を有する鋼材を用いる必要があり、以下の制限を設ける事が、非常に有効である。
As,Sn,Sb,Pb,Znはいずれも本発明においては不純物に分類する。これらは全て液相拡散接合継手の粒界に偏析しやすく、焼き戻し割れの原因となるため、これらを低減する必要があるが、その範囲は各個に0.005%が上限であり、たとえ一元素であってもこれを超えて添加すると焼き戻し割れを誘引する。同時に、これら元素の総和が0.015%を超えることもまた同様に焼き戻し割れを助長する事が、本発明者らの研究で明らかとなった。すなわち質量%で、(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)≦0.015%が接合継手で達成されている必要がある。しかも、これは同様に焼き戻し脆性に有害なSを0.003%以下に制限した鋼材で同時に達成されなければならない。
これらの不純物元素の制限範囲は以下のような実験によって求めた。
実験室規模真空溶解、あるいは実機鋼板製造設備において100kg,300kg,2ton,10ton,100ton,300tonの真空溶解、あるいは通常の高炉−転炉−炉外精錬−脱ガス/微量元素添加−連続鋳造−熱間圧延によって製造した、上記の化学成分範囲鋼材を含む種々の炭素鋼、低合金鋼、合金鋼を、圧延方向と平行な方向から10mmΦあるいは20mm角で長さ50mmの簡易小型試験片に加工した。試験片の端面をRmax<100μmに研削加工して脱脂洗浄し、その端面を2つ突き合わせて接合試験片対となし、150kWの出力を有する高周波誘導加熱装置を備えた引っ張り/圧縮試験機を用い、接合面間には液相拡散接合を1000〜1300℃
において実現可能なNi基−B系、Fe基−B系、Ni基−P系、Fe基−P系の、実質的に体積分率で50%以上が非晶質である厚み20〜50μmのアモルファス箔を介在させ、必要な接合温度まで試験片全体を加熱し、30秒から60分の間、1〜20MPaの応力下で液相拡散接合し、接合後放冷した。
続いて得られた継手全体を、900〜1000℃(実質的に母材のAc3変態点以上の温度)へ再加熱して10〜200分保持の後、0.1℃/s以上の冷却速度で加速冷却してベイナイト〜マルテンサイトの低温変態組織となし、これを光学顕微鏡にて観察して確認した後に、必要な場合に適宜200〜700℃の各温度で0.1〜500時間の範囲で焼き戻して調質組織とした。得られた丸棒接合試験片対からは直径6mmΦの引張り試験片を採取し、強度評価に供するとともに、角棒試験片対からはJIS4号2mmVノッチつきのシャルピー衝撃試験片を採取して、ノッチ位置を接合部とすることで継手の靱性を評価し、これをもって継手の焼き戻し割れ感受性指標とした。
不純物成分は、接合前の母材で通常の湿式化学分析にて分析し、析出の有無に拘わらず鋼中含有量で評価した。図5には質量%での(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)の値と焼き戻し割れの一指標としての0℃における継手のシャルピー吸収エネルギーの関係を示した。(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)の値が0.015%以下の場合には継手の0℃における継手のシャルピー吸収エネルギーが常に47Jを超えるが、逆に(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)の値が0.015%超の場合には継手の0℃における継手のシャルピー吸収エネルギーが47Jに達しない。
また、各元素が0.005%を超える場合も同様に継手の靱性は0℃において47Jに達しない。さらにSが0.003%を超える場合でも同様に継手靱性が確保できないことも実験的に求めた。これらの値は、BおよびPを拡散元素として使用する液相拡散接合に特徴的であって、通状の溶接継手や合金鋼の熱処理において見られる焼き戻し脆化のパラメータあるいは評価指標とは異なる制限であり、かつ指標である。この指標と制限が満足できないと、完全に焼き戻し脆化を抑制することは困難である。
本発明における液相拡散接合用鋼は、上記した化学成分を有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる。このような鋼材を液相拡散接合した場合には、接合部の近傍に熱影響部が形成されるが、この部分は結晶粒が粗大化して靭性が低い。この靭性の低い熱影響部に熱処理を施せば靭性が回復する。このためには継手をAc3変態点以上に加熱してから冷却速度0.1℃/s以上で加速冷却する。Ac3変態点未満の加熱ではオーステナイトへの変態が不充分で靭性が十分回復しない。また、冷却速度が0.1℃/s未満ではマルテンサイトやベイナイトなどの強度の高い低温変態組織を得ることが困難である。なお、加速冷却は焼入れ、あるいは焼準しによって行う。
加速冷却後は靭性を更に回復させるために必要に応じてAc1変態点以下に焼き戻すことができる。焼戻し温度がAc1変態点を超えると鋼が部分的にオーステナイトに変態することになるので焼戻し温度はAc1変態点以下とする。以上のような熱処理を施した接合部の靭性は、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーで47J以上であることが必要である。すなわち、2mmVノッチ付き試験片を用いて0℃にてシャルピー衝撃試験を行った時の吸収エネルギーが47J未満では鋼材は十分な靭性を有していないからである。鋼を以上のような化学成分と靭性を有するものとすることによって、焼割れまたは再熱割れを生じない耐低温変態割れ性に優れた液相拡散接合用鋼材を得ることができる。
次に、レーザピーニング処理方法について説明する。レーザピーニング処理には、(i)高いピークパワー密度を持つレーザビームと、(ii)照射表面近傍に水等の透明媒体を設置すること、が必要となる。(i)については、照射表面におけるピークパワー密度を1〜100TW/mとする。このピークパワー密度を得るために、レーザ装置は、パルス時間幅が10ps〜100ns程度、パルスエネルギーが0.1mJ〜100J程度で間欠的に発振するパルスレーザを用いる。このようなレーザ装置としては例えばNd:YAGレーザが挙げられるが、上記条件(i)を満たすレーザ装置であれば良い。上記(i)および(ii)の条件が満たされると、高いピークパワー密度をもつパルスレーザビームの照射により発生したプラズマが、照射表面の近傍に存在する水等の透明媒体により膨張が抑えられ、プラズマの圧力が高められる。高圧となったプラズマの反力によって、照射点近傍に塑性変形を与え、残留圧縮応力を付与することができる。
ここで、本発明の製造方法により疲労強度が向上する理由について説明するために、レーザピーニング処理による応力導入特性について述べておく。図6は、引張強度が1000MPaの鋼材を用いて作製した平板形状の試験片に対してレーザピーニング処理を行ない、X線残留応力測定装置を用いて残留応力の深さ方向分布を測定した結果を示す。深さ方向の応力分布の測定は、電解研磨により逐次鋼材を除去しながら行なった。レーザピーニング処理には、図7(平面図)及び図8(正面図)に示した装置を用い、水槽35中に浸漬した試験片37に、レーザビーム発振装置31からレーザビーム32を照射した。レーザビームは、水中透過性の良いNd:YAGレーザの第二高調波(波長:532nm)を用いた。レーザビーム32は焦点距離100mmの凸レンズからなる集光レンズ33で集光し、光学窓34を介して試験片37に照射される。試験片37上でのビームスポットの形状は0.8mmφの円形とした。レーザのパルスエネルギーは200mJ、ピークパワー密度は40TW/mとした。パルス時間幅は10ns、パルス繰り返し周波数は30Hzであった。試験片37の後方は、支持部38,39を介して、図8に示すように上下方向(b方向)にスライド可能なガイド40に取り付けられている。また、ガイド40は、図7に示すように水平方向(a方向)にスライド可能なガイド42に取り付けられた支持部41に連結されている。試験片37は、走査装置43の制御により、ガイド40,42に沿って、ab両方向に移動可能に設置される。パルスレーザのビームスポットの重畳方法を図9に示す。処理域は5mm×10mmの矩形とした(図9中でg1〜g5=5mm,g1〜g3=10mm)。同一点に対するパルスレーザビームの照射回数の平均値は25回に設定し、同一走査領域Li内の隣接するビームスポットの間隔と、隣接する走査領域(例えば図9中のL1とL2)の中心線間の距離が等しくなるように処理した。また走査領域の形成は、図9において「L1→L2→L3→…」のように連続的に行なった。図6の測定結果を見ると、圧縮応力が深さ約0.6mmまで導入されている。また、図9に示した重畳方法のために、図9中Y方向の圧縮応力が選択的に強化される。
図6に示すように、Y方向の残留応力は、深さ30μmにおいて−783MPaとなり残留圧縮応力が最大となった。しかし、被加工材表面(深さ0mm)の残留応力は−656MPaにとどまっており、表面の残留応力を十分に強化できているとは言えない。これは、サンプル表面にレーザビームを照射すると、照射スポット部表層近傍が溶融・再凝固するためである。
本発明の製造方法では、以上説明してきたレーザピーニング処理を施した後、その処理面を含む領域の材料の表層を除去する。機械研磨等による材料の除去は、除去後の表面に引張応力を残留させ疲労特性に悪影響を与えることがあるため、除去する方法としては、電解研磨法や流体研磨法が望ましい。電解研磨法では、開口部周辺部23にエッチング液を設置し、多くの場合は球状の突起を押し付けながら通電することで、研磨が進む。また流体研磨では、研磨剤を含む液体をレール穴5および分岐穴6に通すことで研磨が行われる。これらの方法では、いずれも分岐穴6の軸を中心として同心円状に研磨が進む。この除去工程によって、レーザピーニング処理で溶融・再凝固し応力が引張側にシフトしている表層近傍部の除去が可能になると同時に、開口部周辺部23の形状の変化により応力集中係数が緩和され、実際の使用時の最大負荷応力は低減される。本発明者らは、これらの複合的な効果が疲労強度を大きく向上させることを見出した。
本発明の好ましい実施形態においては、レーザビームのパルスエネルギーを1mJ〜10Jの範囲とするが、これは以下の理由による。本発明の方法では、レーザピーニング処理した後、材料を表面から除去するため、レーザピーニング処理で圧縮応力が導入される深さが小さすぎると、除去後の新しい表面における残留圧縮応力が小さくなってしまう。圧縮応力が導入される深さはパルスエネルギーが小さくなるほど浅くなる。これは、被加工材表面から投入されたレーザパルスエネルギーの三次元的な拡散が、パルスエネルギーが小さくなるほど大きくなってしまうためである。この制約のため、本発明の方法では1mJ以上のパルスエネルギーで処理することが好ましい。また、パルスエネルギーの上限については、コモンレールのレール管に通すことが可能なレーザビームのビーム断面積と光学素子の耐光強度を勘案し、10J以下とすることが好ましい。本発明の方法におけるレーザビームの照射については、図4中において、レール穴5の内面22からのみ行う形態と、分岐穴6の内面21とレール穴5の内面22の双方から行う形態とがある。以下で説明するように、疲労強度を高めるためには、後者がより効果的である。レーザピーニング処理では、図6に示したように、深さ方向に進むに従って、付与される圧縮応力の絶対値は小さくなっていく。したがって、レール穴5の内面22からのみ処理する場合、レール穴5の内面22から遠ざかる内部、例えば図4中のg2点では、圧縮応力の絶対値は表層よりも小さくなることがある。一方で、開口周辺部23の材料を除去後、実際の使用時の繰り返し負荷応力は、このg2点付近で最大になることが多い。分岐穴6の内面21とレール穴5の内面22の双方からレーザピーニング処理を行っておけば、それぞれの面の処理によって導入される圧縮応力が加算され、g2点の圧縮応力の絶対値を引き上げることが可能となり、より高い疲労強度が実現される。一方、レール穴5の内面22からのみ行う照射方法は、分岐穴6の内面21を処理するために必要なミラーのあおり機構等が不要となるため、装置を簡略化できるという利点を持つ。
必要となるレーザピーニング処理領域および材料の除去領域は、内圧変動負荷時の分岐穴開口周辺部の引張応力分布や、応力集中をどの程度緩和するかといった部品の設計思想に依存する。引張応力分布は、鋼材の強度、使用圧力、レール穴5の直径d1、分岐穴6の直径d2、等に依存する。この分布は有限要素法計算等に基づいて見積もることが可能であるが、以下では処理領域の一般的な指針を説明する。
まず、レール穴5の内面22のレーザ処理領域については、図10に示すように、分岐穴6の中心からの距離が1.5d2以内となる領域を処理しておけば十分である。また、分岐穴6の内面21にもレーザ処理する場合、処理範囲の深さhは、レール穴内面22と分岐穴内面21とが交わることで形成される円を高さの基準として、レール穴直径d1の20%程度とすれば十分である。ただし、分岐穴内面21の深い部分まで処理するためには、分岐穴内面21に対するレーザビームの入射角度を大きくする必要がある。同じピークパワーを持つレーザビームであっても、入射角度が大きくなるにつれて照射点におけるピークパワー密度は減少する。このため,直径d2が小さい場合は、深さhが適切なピークパワー密度にて照射できる限界に支配されることが多い。
また、材料を除去する領域については、レーザ照射によって溶融・再凝固し応力が引張側にシフトしている表面を全て無くすように、材料を除去する領域が該レーザピーニング処理領域をその内部に含むようにすることが望ましい。
次に、材料の除去工程において、除去する厚みについて述べる。本願では以下のように、除去後の面上各点に対し除去厚みを定義する。除去後の面上のある点における除去厚みは、考えている除去後の面上の点からの距離が最小となる点を除去前の面上から選び出し、その最小値として定義する。図11の分岐穴断面図を例として説明する。図中、点線で示す曲線ejfが除去前の線、eからk1、k2を経てfに至る曲線が除去後の線である。上述の定義によると、除去後の線k1点における除去厚みはt1で表され、k2点における除去厚みはt2で表される。ここでは2次元的な断面図を例に採って説明したが、実際の除去厚みは、図11で考えた除去前後の線を、それぞれ面として三次元的に捉えることで定義される。
レーザピーニング処理領域内の除去厚みは以下の範囲にするのが効果的である。まず、レーザ照射によって溶融・再凝固し応力が引張側にシフトしている表面近傍を除去するために、除去後表面の各点における除去厚みは0.01mm以上とする。一方で、図6に示したように、レーザピーニングで導入される圧縮応力は表面からの深さが大きくなるに従って減少する傾向にある。例えば図6のY方向応力の深さ分布からは、表面から深さ0.1mm程度以上まで材料を除去すると、除去後の表面応力が除去前と比較してむしろ小さくなってしまうことが予想される。パルスエネルギー(図6の条件では200mJ)を大きくすることで深さ方向への圧縮応力の減衰は緩和できる。すなわち、パルスエネルギーを大きくすることでより大きな除去厚みを得ることも可能であるが、それでも、除去厚みは0.3mm程度以下としておくのが効果的である。
本発明の別の実施形態によると、分岐穴6の貫通加工後、分岐穴6の開口周辺部23を研磨または機械加工により所定量だけ面取り加工した後、該開口周辺部23にレーザピーニング処理を施し、さらに該開口周辺部23にある材料を除去することで、開口周辺部23の疲労強度が高められたコモンレールを得る。これは、主に応力集中係数を大きく緩和する目的で、分岐穴6の貫通加工時点から最終加工形状に至るまでの除去厚みを大きくする部品設計を採る場合に特に有効である。図12は本実施形態の一例を示す模式図である。図中に点線で示す角egfが貫通加工時点の断面、一点鎖線が面取り加工後の断面、そしてeからk3,k4を経てfに至る曲線がレーザピーニング処理後、さらに材料の除去を施した後に得られる最終加工形状である。同図中、t1やt2で示される貫通加工時点から最終加工形状に至るまでの除去厚みが0.3mmを越えるような場合に対して、上述した第一の実施形態を適用すると、図中に点線で示す角egfの表面からレーザピーニング処理を施し、その後、材料の除去によって最終加工形状(図12中曲線e〜k3〜k4〜f)を得ることになる。この場合、材料の除去厚みが0.3mmを越えるため、上述したように、材料を除去した後に得られる最終加工形状の表面における残留圧縮応力が小さくなってしまう。一方、ここで説明した実施形態によると、図12中一点鎖線で示される断面まで面取り加工した後にレーザピーニング処理を施すため、レーザピーニング処理後の材料の除去厚みを小さく抑えることができる。したがって、最終加工形状(図12中曲線e〜k3〜k4〜f)の表面においても大きな圧縮応力を得られるという利点がある。
レーザピーニング処理前に実施する面取り加工の領域の大きさは、上述したように、内圧変動負荷時の分岐穴開口周辺部の引張応力分布や、応力集中をどの程度緩和するかといった部品の設計思想に依存するが、以下では処理領域の一般的な指針を説明する。ここで考えているような除去厚みが大きい場合には、面取り加工で面取りされる領域とされない領域の境界が、レール穴5の内面22においては、分岐穴6の中心からの距離が0.5d2以上2.5d2以内(d2:分岐穴6の径)となる領域に含まれるものであって、分岐穴6の内面21においては、レール穴内面22の開口部からレール穴5の直径d1の30%の距離までの領域に含まれることが効果的である。面取り加工後、分岐穴6の開口周辺部23の応力集中は緩和されるが、応力分布の最大値は依然として面取り加工した領域に生ずる。レーザピーニング処理はこのような応力集中を緩和する目的で施される。その処理領域は、面取り加工が施される領域の内部としておけば十分であることが多いが、面取りされない領域に跨っていてもよい。また、レーザピーニング処理に溶融・最凝固の影響が出た部分を除去する等の目的で行われる最後の材料除去工程において除去する領域は、レーザピーニング処理を施す領域を包含するものであり、除去する厚みは、レーザ処理領域において0.01mm以上0.3mm以下とすることが好ましい。材料の除去による除去後表面の圧縮応力の低下を抑えるという観点からは、レーザピーニング処理前に行う面取り加工で最終加工形状の近くまで加工しておくことにより、レーザピーニング処理後の除去厚みを0.1mm以下に小さく抑えるのが特に好ましい範囲である。
ところで、本発明におけるレーザピーニング処理の領域については、必ずしも分岐穴6の軸を中心として同心円状に設定する必要はない。レーザ処理後に除去工程を経た後、実際の使用時の内圧変動負荷に伴う分岐穴開口周辺部23の引張応力の最大値は、分岐穴6の中心軸を含みレール穴5の長手方向に沿った断面上において生じ、その主応力方向はレール穴5の周方向である。したがって、レーザビーム照射領域の分岐穴周方向の角度範囲は、図13に示すように、分岐穴6の内面21とレール穴の内面22のいずれについても、レール穴5の長手方向を基準として±45°の範囲としておけば十分であることが多い。
また、疲労強度を最大化するためには、使用時の繰り返し負荷応力が最大となる部分の主応力方向であるレール穴5の周方向の圧縮応力を最大化することが求められる。このために効果的なビームスポットの重畳照射方法を図14に示す。このように、分岐穴6の中心軸を含む平面内でビームスポットを走査し、該ビームスポットの走査を分岐穴6の周方向に位置をずらしながら複数回行う。これは、図9に示した方法で処理すれば、図6に示すように、図9中のY方向の応力が選択的に強化される事実を応用したものである。なお、走査方向は、分岐穴6の中心軸を含む平面内に限らずとも良い。例えば、図15に示すように、レール穴5の長手方向と分岐穴6の長手方向を含む平面内でビームスポットを走査し、該ビームスポットの走査をレール穴5の周方向に位置をずらしながら複数回行う方法でも、同じ効果を得られる。
コモンレールは、多くの場合、高強度の鋼で作られる。そこで、レーザビーム照射表面に設置する透明液体は、アルコール等、鋼を錆びさせる性質を持たない液体、もしくは、水に防錆剤が入っている液体とし、コモンレールが錆びないようにする実施形態が好ましい。
なお、本発明では、上記の化学成分に加えて、更に、B:0.0003〜0.005%,N:0.01%以下、またはCa:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.005%,Y:0.0005〜0.02%,Ce:0.0005〜0.02%,La:0.0005〜0.02%,Zr:0.001〜0.02%のうち少なくとも1種以上、または、Ni:0.01〜5.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0%,Cr:0.01〜13.0%,Mo:0.01〜5.0%,W:0.01〜5.0%のうち少なくとも1種以上、あるいは、さらにNb:0.005〜0.5%,V:0.005〜1.0%,Ta:0.005〜0.5%,Hf:0.005〜0.5%,Re:0.005〜0.5%のうち少なくとも1種以上を含有しても良い。
これらの合金成分は、以下の理由から添加範囲を制限してある。Bは微量で鋼の焼き入れ性を大きく高めるが、0.0003%未満の添加量では焼き入れ性向上効果が小さい。一方、0.005%を超えて添加すると炭硼化物を形成して、かえって焼き入れ性を低下させることになる。したがって、Bの添加範囲を0.0003〜0.005%とするのが望ましい。
NはAlと結合して微細なAlNを析出して結晶粒を微細化する。しかしながら、NはBと結合して焼入れ性に有効な固溶B
の量を低減させる。Nが0.01%を超えると、固溶B の確保が困難となりNの固定のために多量のTiを必要となってコスト高を招くので、Nは0.01%以下とするのが望ましい。
Ca,Mg,Y,Ce,La,Zrは何れも硫化物形態制御能を有する元素であって、この効果を発揮させるためには、Ca:0.0005%
以上、Mg:0.0005%以上、Y:0.0005% 以上、Ce:0.0005%以上、La:0.0005%以上、Zr:0.001%以上添加する必要がある。しかしながら、Ca:0.01%、Mg:0.005%、Y:0.02%、Ce:0.02%、La:0.02%、Zr:0.02%を超えると粗大酸化物が生成されて鋼の靱性が低下する。したがって、Ca:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.005%,Y:0.0005〜0.02%,Ce:0.0005〜0.02%,La:0.0005〜0.02%,Zr:0.001〜0.02%の範囲とするのが望ましい。
Ni、Co、Cuはいずれもγ安定化元素であって、鋼材の変態点を下げて低温変態を促すことで焼き入れ性を向上させる元素であり、それぞれ0.01%以上の添加で効果が得られる。一方、5.0%を超えて添加すると残留γが増加して鋼材の靱性に影響を及ぼすことから、その添加範囲をNi:0.01〜5.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0とするのが望ましい。
Cr、Mo、Wは何れもα安定化元素であるが、Crは同時に耐食性の向上に有用である。何れも0.01%添加で効果が認められ、Crは13.0%を超えるとδフェライトを生成して低温変態組織を生成し難くなり、かえって強度靱性を低下させる場合があるため、上限をに13.0%制限した。MoとWは著しい固溶強化を発揮するが、何れもを5.0%超えて添加すると、液相拡散接合の拡散原子であるBおよびPと硼化物あるいは燐化物を生成し、継手の靱性を劣化させる場合があることから、それぞれの添加量をCr:0.01〜13.0%,Mo:0.01〜5.0%,W:0.01〜5.0%とするのが望ましい。
また、Nb、V、Ta、Hf、Reは微細な炭化物を析出して鋼の強度を高める。何れも0.005%以上の添加で効果がある。しかし、Nb、Ta、Hf、Reは0.5%で、またVは1.0%を超える添加で炭化物が粗大化して靱性の低下を来すので、Nb:0.005〜0.5%,V:0.005〜1.0%,Ta:0.005〜0.5%,Hf:0005〜0.5%,Re:0.005〜0.5%とするのが望ましい。
各群は、適宜組み合わせて複合添加しても、また各元素を単独で添加しても良く、本発明の効果を妨げることなく、鋼材に各種特性を付与する。
なお、本発明の鋼材の製造工程は、通常の高炉−転炉による銑鋼一貫プロセスを適用するだけでなく、冷鉄源を使用した電炉製法、転炉製法も適用できる。さらに、連続鋳造工程を経ない場合でも、通常の鋳造、鍛造工程を経て製造することも可能であり、本発明に規定する化学成分範囲と式の制限を満足していれば良く、本発明技術に対する製造方法の拡大適用が可能である。また、製造する鋼材の形状は任意であって、適用する部材の形状に必要な成型技術において実施可能である。すなわち、鋼板、鋼管、棒鋼、線材、形鋼など、本発明技術の効果を広範囲に適用することが可能である。また、本鋼は溶接性にも優れており、液相拡散接合に適していることから、液相拡散接合継手を含む構造体であれば、一部に溶接を適用して、あるいは併用した構造体の製造は可能であり、本発明の効果を何ら妨げるものではない。
以下に、コモンレールの分岐穴開口周辺部にかかる繰り返し負荷を模擬した疲労試験を行ない、本発明の効果を検証した結果について説明する。試験では、図16に示すように、直径6mmのくびれ部の中央に直径1mmの貫通穴52を開けた試験片51を用いて、小野式回転曲げ疲労試験を実施した。試験片51は、440MPa級炭素鋼を用いて作成した。試験片は、本発明に規定する化学成分範囲の鋼材を、実験室規模真空溶解、あるいは実機鋼板製造設備において、100kg〜300tonの真空溶解、あるいは通常の高炉−転炉−炉外精錬−脱ガス/微量元素添加−連続鋳造−熱間圧延によって製造し、図16に示す形状に加工、成型した。このような試験片51では、貫通穴52付近に応力集中が生じ、図16中のm1点およびm2点において応力は最大となり、その最大主応力方向は試験片51の長手方向となる。このように、本試験は、図2に示すコモンレールの分岐穴6開口周辺部にかかる変動負荷を模擬している。なお、試験片51の貫通穴52開口端部のエッジを取る面取り加工は施さなかった。
レーザピーニング処理は、貫通穴52の両側の開口周辺部に対して行なった。レーザビームは水中透過性の良いNd:YAGレーザの第二高調波(波長532nm)を用いた。パルスレーザビームの時間幅は10nsであった。試験片51上でのスポットの形はほぼ円形であり、その照射痕のスポット直径は約0.3mmであった。ピークパワー密度は50TW/mとした。
試験片51のくびれ部のm1点、m2点における試験片51長手方向の圧縮応力を高めるため、図17に示すように、試験片51の長手方向に垂直な平面内でビームスポットを走査し、該ビームスポットの走査を長手方向に位置をずらしながら複数回行なう方法で、パルスレーザビームを照射した。レーザ処理した領域は、図17中に斜線で示した部分である(図にはm1点側の照射域のみを示す)。長手方向は0.5mm幅、φ6mmの外面は貫通穴52の軸より1.5mm以内、貫通穴52の内面は開口部から深さ0.5mmまでの範囲を処理した。同一点に対するパルスレーザビームの照射回数の平均値は6.9回に設定した。
レーザピーニング処理後、電解研磨により材料の除去を行った。球状の突起を押し付けながら通電しながら、貫通穴52の軸を中心として同心円状に研磨した。φ6mmの外面の研磨領域は貫通穴52の軸より半径1.7mm以内、貫通穴52の内面の研磨領域は開口部から深さ0.5mmまでであり、それぞれの面から電解研磨した深さは約50μmであった。
表1に疲労試験結果を示す。表には、m1点(φ6mmの外面で貫通穴開口部近傍)における試験片51長手方向の残留応力σAを測定した結果も示す。尚、残留応力σAは、X線残留応力測定装置を用いて測定した。条件1は比較例であり、レーザピーニング処理を施さなかった試験片に対する結果である。条件2は、レーザピーニング処理のみを施した比較例であり、条件1に対して25%の疲労強度向上が得られた。条件3は、レーザピーニング処理後に電解研磨を行った本発明の実施例であり、さらに大きな疲労強度向上が得られた。このように、本発明によると、表面の圧縮応力が大きくなる効果とともに、形状変化による応力集中係数の緩和効果が複合的に作用し、従来技術に対して大きな疲労強度の向上が得られることが判った。
Figure 0004740275
本発明は、コモンレール等の鋼材において、流体が通過する機械部品において径が極端に変化する部位や、管の端など、応力集中が発生しやすい部分の疲労強度を向上させるための製造方法として適用できる。
コモンレールのレール穴長手方向の断面図。 コモンレールの分岐穴開口周辺部の平面図。 コモンレールの製造過程を示す斜視図。 コモンレールの分岐穴開口周辺部を示す断面図。 焼き戻し割れ感受性を高める不純物元素の総和(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)と液相拡散接合継手の0℃における靱性、すなわち焼き戻し割れ感受性指標との関係を示す図である。 レーザピーニング処理した試験片の残留応力を示すグラフ。 レーザビーム照射装置を示す平面図。 図7の正面図。 レーザビーム照射方法を示す平面図。 分岐穴開口周辺部のレーザ処理領域を示す斜視図。 分岐穴開口周辺部の材料除去前後の状態を示す断面図。 分岐穴開口周辺部の面取り加工を行った場合の材料除去後の状態を示す断面図。 分岐穴開口周辺部のレーザ照射領域の角度範囲を示す説明図。 分岐穴開口周辺部のレーザ照射方法を示す説明図。 分岐穴開口周辺部の異なるレーザ照射方法を示す説明図。 試験片を示す平面図。 図16の試験片へのレーザ照射方法を示す説明図。
符号の説明
1 コモンレール
2 筒壁部
5 レール穴
6 分岐穴
7 レール穴の長手方向に平行となる直径の両端近傍
11 コモンレール本体
12 ホルダー
13 管路
14 支管
15 合金箔
21 内面(分岐穴)
22 内面(レール穴)
23 開口周辺部
31 レーザビーム発振装置
32 レーザビーム
33 集光レンズ
34 光学窓
35 水槽
37 試験片
38,39,41 支持部
40,42 ガイド
43 走査装置
51 試験片
52 貫通穴

Claims (13)

  1. 中心部にレール穴が形成され、前記レール穴を取り囲む筒壁部に前記レール穴に開口する複数の分岐穴が形成されたコモンレールの製造方法であって、
    前記コモンレールの素材として、質量%で、C:0.01〜1.0%,Si:0.01〜1.0%,Mn:0.05〜3.0%,Ti:0.005〜0.1%,Al:0.01〜0.2%を含有し、かつP:0.03%以下,S:0.01%以下,O:0.01%以下に制限され、加えてAs,Sn,Sb,Pb,Znの何れも0.005%以下に制限され、(As%+Sn%+Sb%+Pb%+Zn%)≦0.015%であり、残部が不可避的不純物およびFeからなる液相拡散接合用鋼を用い、
    液相拡散接合した継手をAc3変態点以上に再加熱してから冷却速度0.1℃/s以上で加速冷却し、
    前記分岐穴の開口周辺部に位置する前記分岐穴の内面と前記レール穴の内面とに、透明液体を存在させてパルスレーザビームを照射するレーザピーニング処理を施した後に、前記開口周辺部の材料の表層を除去することにより、前記開口周辺部の疲労強度を高めることを特徴とする、コモンレールの製造方法。
  2. 前記素材として、更にB:0.0003〜0.005%,N:0.01%以下を含有する液相拡散接合用鋼を用いることを特徴とする、請求項1に記載のコモンレールの製造方法。
  3. 前記素材として、更にCa:0.0005〜0.01%,Mg:0.0005〜0.005%,Y:0.0005〜0.02%,Ce:0.0005〜0.02%,La:0.0005〜0.02%,Zr:0.001〜0.02%の一種または2種以上を含有する液相拡散接合用鋼を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のコモンレールの製造方法。
  4. 前記素材として、更にNi:0.01〜5.0%,Co:0.01〜5.0%,Cu:0.01〜5.0%,Cr:0.01〜13.0%,Mo:0.01〜5.0%,W:0.01〜5.0%の一種または二種以上を含有し、加速冷却後または加速冷却して焼き戻し後の継手の強度が1000MPa以上である液相拡散接合用鋼を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
  5. 前記素材として、更にNb:0.005〜0.5%,V:0.005〜1.0%,Ta:0.005〜0.5%,Hf:0.005〜0.5%,Re:0.005〜0.5%の一種または二種以上を含有し、加速冷却後または加速冷却して焼き戻し後の継手の強度が1000MPa以上であることを特徴とする液相拡散接合用鋼を用いる事を特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
  6. 前記開口周辺部の材料の表層の除去は、電解研磨もしくは流体研磨によって行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
  7. 前記パルスレーザビームのパルスエネルギーが1mJ〜10Jであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
  8. 前記レーザピーニング処理を施す領域が、前記レール穴の内面において(1)式を満足する領域に含まれ、前記表層を除去する領域は、前記レーザピーニング処理を施す領域を包含するものであって、除去する表層の厚みが前記レーザピーニング処理を施す領域において0.01mm〜0.3mmであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
    分岐穴の中心からの距離≦分岐穴の直径×1.5 (1)
  9. 前記レーザピーニング処理を施す領域が、前記分岐穴の内面から前記レール穴の直径の20%の距離までの領域に含まれることを特徴とする、請求項8に記載のコモンレールの製造方法。
  10. 前記レーザピーニング処理を施す前に、前記開口周辺部を面取り加工することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
  11. 前記面取り加工で面取りされる領域とされない領域との境界が、前記レール穴の内面において(2)式を満足し、前記分岐穴の内面において前記レール穴の内面から前記レール穴の直径の30%の距離までの領域に含まれ、前記レーザピーニング処理を施す領域が、前記面取り加工された面に包含されるものであり、かつ、前記表層を除去する領域が前記レーザピーニング処理領域を包含するものであって、除去する表層の厚みが前記レーザピーニング処理を施す領域において0.01mm〜0.3mmであることを特徴とする、請求項10に記載のコモンレールの製造方法。
    分岐穴の直径×0.5≦分岐穴の中心から境界までの距離≦分岐穴の直径×2.5 (2)
  12. 前記レーザピーニング処理に用いる透明液体がアルコールもしくは防錆剤の入った水であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のコモンレールの製造方法。
  13. 請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、部分強化されたコモンレール。
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