JP4737600B2 - 固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼 - Google Patents
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Description
燃料電池の種類には用いる電解質により、りん酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型に分類されるが、なかでも固体酸化物型燃料電池は電解質として安定化ジルコニア等のセラミックスを用いており、従来、1000℃付近のかなり高温で運転されるものであった。
このセパレータは電解質、燃料極、空気極の三層を支持し、ガス流路を形成するとともに電流を流す役目を有する。従ってセパレータには、高温での電気伝導性、耐酸化性、更に電解質との熱膨張差が小さいこと等の特性が要求されることから、このような要求特性を鑑み、従来は導電性セラミックスが多く用いられてきたが、セラミックスは加工性が悪くまた高価であることから、燃料電池の大型化、実用化の面から問題を残している。
このような要求特性を満足させるために、固体酸化物型燃料電池用金属材料として、C:0.1%以下、Si:0.5〜3.0%、Mn:3.0%以下、Cr:15〜30%、Ni:20〜60%、Al:2.5〜5.5%、残部Feからなるオーステナイト系ステンレス鋼が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、固体電解質燃料電池のセパレータ用合金として、Cr:15〜40%、W:5〜15%、さらにY、Hf、Ce、La、Nd、Dyの1種または2種以上:0.01〜1%、残部Feからなる合金が提案されている(例えば、特許文献4、5参照)。
さらに固体酸化物型燃料電池のセパレータ用鋼として、本発明者の提案によるC:0.2%以下、Si:1.0%以下、望ましくは0.2%以下、Mn:1.0%以下、Ni:2%以下、Cr:15〜30%、Al:1%以下、およびY:0.5%以下、希土類元素:0.2%以下、Zr:1%以下の1種または2種以上、残部Feからなり、必要に応じてMoとWの1種または2種以上をMo+1/2W:5%以下を含み、不純物元素を制限した鋼が提案されている(例えば特許文献8、9参照)。
上記の特許文献1に開示された材料はAlとCrを相当量含むために表面酸化被膜はAl系酸化物を主体とし、これにCr系酸化物を含有したものである。しかしながら後述するようにAl系酸化物は、電気伝導率が低いために固体電解質セパレータ用としては必ずしも十分といえない面があり、またオーステナイト系ステンレス鋼は、電解質の安定化ジルコニアに比較して熱膨張係数が大きいため電池の起動、停止に伴う熱サイクルによる電解質の割れ等による電池の性能低下を起しやすく、長時間使用における安定性に問題がある。さらに高価なNiを多く含むために価格的にも高く、燃料電池の実用化のためには不十分である。
また、特許文献4及び特許文献5に開示された材料は、オーステナイト系ステンレス鋼に比較して熱膨張係数が低く、電解質の安定化ジルコニアの熱膨張係数に近いため長時間使用における安定性に有利であるが、セパレータ材の特性として重要な電気伝導率については何ら考慮されていない。
また、特許文献8及び特許文献9に開示される材料は、700〜950℃程度での特性を考慮して改良された鋼であり、熱応力に耐える衝撃特性も兼備している。
しかしながら、特許文献6、特許文献7、特許文献8及び特許文献9に開示された鋼においても、酸化条件、セパレータ形状によっては、部分的に酸化が加速される可能性があり、長期耐久性の観点からはさらに改良が必要であった。
本発明の目的は、長時間の使用においても良好な耐酸化性を有する固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼を提供することである。
第二の理由は一般にオーステナイト系は高価なNiを含むため高価であることに対し、フェライト系はFeをベースとしNiを含まないか、または含んでも少量であるため安価であることである。
保護性を有する酸化被膜の代表としてはAlの酸化物とCrの酸化物が知られている。700〜900℃付近の高温になると一般にはAl2O3の方が保護作用が大きく有利であるが、Al2O3被膜形成材の電気抵抗を測定してみると非常に大きく、セパレータとしては使用できないことが分かった。
一方、Cr2O3被膜形成材の電気抵抗は、十分小さくセパレータに使用可能であることが分かった。そこで本発明においては表面にCr系酸化物を主体とする酸化被膜を形成するフェライト系金属材料、すなわちFe−Cr系を基本とした。
従って、上記方針に従ってFe−Cr系を基本とすると耐酸化性を満足させることは非常に困難になる。
特にY及び/または希土類元素にZrを複合添加した場合に耐剥離性は最も向上する。また上記各元素の添加を行っても、形成される酸化被膜はCr系酸化被膜が主体なので電気抵抗もさほど大きくなることはないことも知見した。
この知見に加えて、部分的な酸化の加速を抑制し、長時間の使用においても良好な耐酸化性を更に向上させる効果を持った添加元素を種々検討した結果、Cuを積極的に添加することにより、安定して良好な耐酸化性が確保できることを新たに知見し、本発明に到達した。
更に好ましくは、1000℃で100Hr加熱した後の1000℃における酸化被膜の電気抵抗が50mΩ・cm2以下であり、更に1000℃で500Hr加熱後に表面酸化スケールの剥離が発生しないことを特徴とする固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼である。
また更に好ましくは、750℃で1000Hr加熱した後の750℃における酸化被膜の電気抵抗が50mΩ・cm2以下であり、更に850℃で100Hr加熱後に表面酸化スケールの剥離が発生しないことを特徴とする固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼である。
Cは、炭化物を形成して高温強度を増大させる作用を有するが、逆に加工性を劣化させまたCrと結び付くことにより耐酸化性に有効なCr量を減少させる。従って0.2%以下に限定する。望ましくは、0.1%以下、さらに望ましくは0.05%以下である。なお、好ましい下限は0.001%とすると良い。
Siの効果の一つには、恐らくCr2O3酸化被膜と母材の界面付近に薄いSiO2被膜を形成して耐酸化性を向上させるものと考えられる。
しかしながら、SiO2は燃料電池のセパレータ材に必須の特性である電気伝導性が悪く、SiO2の酸化皮膜が完全に連結した膜を形成すると、電池性能を劣化させることから、添加量は少量に留める必要がある。したがって、Siは1.0%以下(0%を含まず)とする。望ましいSiの範囲は0.2%未満(0%を含まず)である。なお、好ましい下限は0.005%とすると良い。
一方、過度に添加すると前述のようにMn含有のスピネル型酸化物自体の耐酸化性不足のため耐酸化性が悪くなる。従って、Mnは1%以下(0%を含まず)に限定する。なお、好ましい下限は0.1%とすると良い。
Crは、本発明においてCr2O3被膜の生成により、耐酸化性および電気伝導性を維持するために重要な元素である。そのため最低限15%を必要とする。しかしながら過度の添加は耐酸化性向上にさほど効果がないばかりか加工性の劣化を招くので15〜30%に限定する。望ましいCrの範囲は17〜26%、さらに望ましいCrの範囲は18〜25%である。
そして、本発明者等はCuが有する部分的な酸化の加速を抑制し、長時間の使用においても良好な耐酸化性を更に向上させる効果を最大限発揮できる範囲を詳細に実験した結果、0.3%を越え3.0%以下の範囲であれば前記の効果を発揮できることを見出したもので、本発明で重要な元素の一つである。
本発明鋼においては、Cuを添加すると熱間加工性が低下する傾向があり、これを防ぐためにはCu添加量に応じてNiを少量添加することが有効である。Ni/Cuの値が0.2より小さいとNiによる熱間加工性改善効果が十分でないことから、Ni/Cuを0.2以上とする。
本発明においてはCr系酸化被膜のみで耐酸化性を持たせているが、このCr系酸化被膜の密着性を向上させるためにY、希土類元素(REM)、Zrの単独または複合添加は不可欠である。しかしながら過度の添加は熱間加工性を劣化させるので、Yは0.5%以下、希土類元素(REM)は0.2%以下、Zrは1%以下に限定する。望ましくは、Y:0.01〜0.3%、希土類元素(REM):0.005〜0.15%、Zr:0.01%〜0.8%である。
更に、Y:0.01〜0.3%と希土類元素(REM):0.005〜0.15%の一種または二種とZr:0.01%〜0.8%を複合で添加すると、酸化皮膜の密着性がより向上し、長時間加熱後においても酸化被膜の剥離を防止できる。更に望ましくは、希土類元素(REM):0.005〜0.15%とZr:0.01%〜0.8%の複合添加がよく、または、Y:0.01〜0.3%とZr:0.01〜0.8%の複合添加がよい。希土類元素の中では、Laが最も酸化被膜の密着性向上に効果があることから、La:0.02〜0.15%とZr:0.01%〜0.6%の複合添加がさらに望ましい。
Moは、特に高温強度を増加させる作用を有するので、高温強度を重視する場合には添加してもよい。WもMoと同様の効果を有するが、Moと同じ効果を発揮するためには質量%でMoの二倍の添加が必要である。Wの多量添加は熱間加工性を害することから、WはMoとの複合添加を行い、MoとWの総量を低く抑える必要がある。
このように、過度に添加すると加工性を劣化させるだけでなく、耐酸化性も低下させるので、Mo+1/2Wで5%以下に限定する。望ましくは3%以下である。なお、好ましい下限は0.4%とすると良い。
上記のHfは、耐酸化性にも効果を有するため、これらの元素の中では最も好ましいが、高価であるため必要に応じて選択する。また、V、Ti、Nb、Ta、Hfの元素の過度の添加は、一次炭化物を多く形成して加工性を劣化させる。従って、加工性、強度、耐酸化性を考慮しながら、V、Ti、Nb、Ta、Hfは一種または二種以上を合計で0.01〜1.0%の範囲で添加しても良い。望ましくは0.03〜0.6%である。
Sは、Mn、希土類元素(REM)等と硫化物系介在物を形成して、耐酸化性に効果をもつ有効な希土類元素量を低下させ、耐酸化性を低下させるだけでなく、熱間加工性、表面肌を劣化させるため、0.015%以下に限定する。望ましくは、0.008%以下がよい。
Oは、Al、Si、Mn、Cr、Y、希土類元素(REM)、Zr等と酸化物系介在物を形成して、熱間加工性、冷間加工性を害するだけでなく、耐酸化性向上に大きく寄与する元素であるY、希土類元素(REM)、Zr等の固溶量を減少させるため、これらの元素による耐酸化性向上効果を減じる。従って、0.010%以下に制限する。望ましくは、0.005%以下がよい。
Bは、約700℃以上の高温で酸化被膜の成長速度を大きくすることで耐酸化性を劣化させるだけでなく、酸化被膜の表面粗さを大きくして酸化被膜と電極との接触面積を小さくすることによって接触抵抗を劣化させるため、不純物として0.0050%以下に制限し、できるだけ0%まで低減させる方が良い。望ましい上限は0.0020%以下がよく、更に望ましくは0.0010%未満がよい。
残部はFe及び不可避的不純物とする。なお、上述した不純物元素以外に、少量であれば本発明鋼の特性に基本的には影響しない以下の元素を下記に示す範囲で含有しても良い。
P≦0.04%、Mg≦0.02%、Ca≦0.02%、Co≦2%
電気伝導性を評価する評価手段として、1000℃で100Hr加熱した後の1000℃における酸化皮膜の電気抵抗が50mΩ・cm2以下であり、また、750℃で1000Hr加熱した後の750℃における酸化被膜の電気抵抗が100mΩ・cm2以下であることが重要である。
また、長期使用後において、形成されたCr系酸化被膜の酸化が進行して、表面酸化スケールとなって剥離する現象の評価手段として、1000℃で500Hr加熱後、または、850℃で100Hr加熱後に酸化増量が小さいだけでなく、表面酸化スケールの剥離が発生しないことが重要である。なお、「表面酸化スケールの剥離が発生しない」とは、スケールの自然剥離がないことを指し、外的衝撃が加わらない状態をいう。
本発明鋼及び比較鋼を真空誘導炉にて溶製し10kgのインゴットを作製した。
真空溶解時には、不純物元素を規定内に低く抑えるために、純度の高い原料を選定するとともに炉内雰囲気等操業条件を制御してS、O、N、B等の混入、残存を抑制した。但し、比較鋼の一部については、不純物元素の影響を調べるため、あえてこれらの考慮をしなかった。
その後、1100℃に加熱して20mm厚さの平角材に鍛伸し、780℃で1時間の焼鈍を行った。さらに2mm厚さの鋼板に熱間圧延した後、0.5mm厚さの鋼板に冷間圧延し、780℃で1時間の焼鈍を行った。表1に本発明鋼No.1〜20、比較鋼No.31〜34の化学組成を示す。
まず、直径10mm、長さ20mmの円柱状試験片および厚さ0.4mm、幅15mm、長さ20mmの板状試験片を用いて、大気中で1000℃で500Hr、または850℃で100Hrの加熱処理を行った後、酸化増量および表面酸化スケールの剥離量を測定した。
また10mmW×10mmL×3mmtの板状試料を用いて、大気中で1000℃で100Hr加熱を行って表面に酸化被膜を形成させた後、1000℃における電気抵抗を測定した。
また、750℃で1000Hr加熱を行って表面に酸化被膜を形成させた後、750℃における電気抵抗を測定した。なお電気抵抗はPtメッシュをPtペーストで試験片表面(10mm×10mmの両面)に固定して、4端子法で測定し、面積抵抗(mΩ・cm2)で表した。
これらの試験結果をまとめて表2に示す。
また、薄板試験片においても酸化増量が少なく、良好な耐酸化性を有している。さらに低温作動を想定した850℃×100Hr加熱後の酸化増量も少なく、スケールの剥離は全く観察されない。これは、Cuが酸化被膜直下に濃化して酸化の促進を抑制しているためと考えられる。
また、本発明鋼は、大気中1000℃で100Hr加熱を行って表面に酸化被膜を形成させた後に1000℃において測定した電気抵抗の値、また、750℃で1000Hr加熱を行って表面に酸化被膜を形成させた後に750℃において測定した電気抵抗の値は、いずれも十分小さい。これは、主に表面にMnを含むスピネル酸化被膜とCr2O3被膜からなる薄い緻密な酸化被膜を形成しているだけでなく、酸化被膜の直下にCuが濃化しているためと考えられる。
また、1000℃で500Hr加熱後の酸化増量測定用試験片を目視で確認したところ、本発明鋼はCuの積極添加によって部分的な酸化の加速は見られなかった。
Claims (7)
- 質量%にて、C:0.2%以下、Si:1.0%以下(0%を含まず)、Mn:1.0%以下(0%を含まず)、Ni:2%以下、Cr:15〜30%、Cu:0.3%を越え3.0%以下、Ni/Cu:0.2以上、Al:0.5%以下であって、Y:0.5%以下、希土類元素(REM):0.2%以下、Zr:1%以下の一種または二種以上を含み、残部はFe及び不可避的不純物でなり、前記不可避的不純物として、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.050%以下、B:0.0050%以下(0%を含む)に制限することを特徴とする固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
- 質量%にて、C:0.1%以下、Si:1.0%以下(0%を含まず)、Mn:1.0%以下(0%を含まず)、Cr:17〜26%、Ni:2%以下、Cu:0.3%を越え3.0%以下、Ni/Cu:0.2以上、Al:0.001〜0.3%、Zr:0.01〜0.8%であって、Y:0.01〜0.3%と希土類元素(REM):0.005〜0.1%の一種または二種を含み、残部はFe及び不可避的不純物でなり、前記不可避的不純物として、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.030%以下、B:0.0050%以下(0%を含む)に制限することを特徴とする固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
- 質量%にて、C:0.1%以下、Si:0.2%未満(0%を含まず)、Mn:1.0%以下(0%を含まず)、Cr:17〜26%、Ni:2%以下、Cu:0.3%を越え3.0%以下、Ni/Cu:0.2以上、Al:0.001〜0.1%、Zr:0.01〜0.8%であって、Y:0.01〜0.3%と希土類元素(REM):0.005〜0.1%、の一種または二種を含み、残部はFe及び不可避的不純物でなり、前記不可避的不純物として、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.030%以下、B:0.0050%以下(0%を含む)に制限することを特徴とする固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
- 質量%にて、Mo単独またはMoとWの二種を、Mo+1/2W≦5.0%を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
- 質量%にて、V、Ti、Nb、Ta、Hfの一種または二種以上を合計で0.01〜1.0%含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
- 1000℃で100Hr加熱した後の1000℃における酸化被膜の電気抵抗が50mΩ・cm2以下であり、更に1000℃で500Hr加熱後に表面酸化スケールの剥離が発生しないことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
- 750℃で1000Hr加熱した後の750℃における酸化被膜の電気抵抗が50mΩ・cm2以下であり、更に850℃で100Hr加熱後に表面酸化スケールの剥離が発生しないことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼。
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