JP4734739B2 - 哺乳動物のガン抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガン細胞上のガン抑制因子をガン細胞自身に作用させ、生体に発生したガンを縮小させることを目的とした、ガン抑制因子およびガンの抑制方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
FasとFasリガンド(以下FasLと略記する)の相互作用は、免疫システムの制御、生体組織のホメオスタシスの維持に必要である。FasLは活性化された免疫細胞上に存在し、ターゲットであるウイルス感染細胞などにアポトーシスを誘導して死滅させる能力を有する(文献1,2)。免疫細胞上のFasLはインターロイキン18(以下IL18と略記する)により、その発現が増強されることが知られている(文献3)。また、IL18は様々な生理活性において、インターロイキン12(以下IL12と略記する)と相乗作用を示すことが報告されている(文献4)。
【0003】
元来FasLはT細胞、NK細胞およびB細胞などリンパ球系の細胞にのみ発現していると考えられていたが、最近、ガン細胞など非リンパ球系の細胞にも発現していることが報告されている(文献5)。
【0004】
ガン細胞表面上に発現するFasLは、ガン細胞を攻撃する能力を持つ種々の免疫細胞がガン細胞に接着する際、免疫細胞上のFasに結合して、免疫細胞を殺し、免疫からの攻撃をエスケープすることが知られている(文献6)。従って、ガン細胞表面上のFasLの存在は、生体での抗腫瘍免疫にとって、不利益になると考えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
遺伝子操作技術の進歩により、抗腫瘍作用を有する様々なサイトカインの遺伝子がクローニングされ、ガンに対する治療への応用が試みられている。
【0006】
しかしながら、免疫からの攻撃をエスケープする作用を有するガン細胞は、サイトカインなどによって生体での抗腫瘍免疫を高めても、ガン抑制効果は期待できない。また、ヒトと同様ペット、特にイヌにも、乳腺腫瘍など多数の腫瘍が知られており、その治療薬および治療方法の開発が求められている。
【0007】
従って、ガン細胞の免疫からの攻撃のエスケープ作用を解除する方法を見出すことができれば、ヒトをはじめ、動物のガン免疫治療の可能性が開かれることが期待される。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、かかる状況に鑑み、イヌFasLのcDNAのクローニングおよびそれを用いたガン細胞の免疫細胞の攻撃からのエスケープ解除を目的とし、創意工夫を成し、イヌのcDNAからイヌFasLをコードする遺伝子をクローニングすることに成功し、またイヌIL18およびイヌIL12をイヌ乳ガン細胞株に作用させることによって、ガン細胞上のイヌFasLの発現が増強されることを見出し、更にその発現増強が、ガン細胞自身にアポトーシスを引き起こしてガン細胞を死滅させる現象を見出し、かくして本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は、イヌガン抑制因子、IL18およびIL12を用いた、ガン細胞上のガン抑制因子の発現増強方法、およびIL18およびIL12を用いて、ガン細胞上のガン抑制因子の発現を増強することによる、イヌ、ウシ、ブタおよびネコからなる群から選択される哺乳動物に発生したガンの抑制方法に関する
【0010】
すなわち、本発明は、
「ガン細胞上に発現し、ガン細胞上のFasに結合して、ガン細胞中のDNAを断片化させ、ガン細胞にアポトーシスを誘導する以下の(a)または(b)のガン抑制因子を発現増強することによる、イヌ、ウシ、ブタおよびネコからなる群から選択される哺乳動物に発生した乳ガンの抑制方法。
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含有するガン抑制因子。
(b)(a)に記載されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含有するガン抑制因子。」
である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるガン抑制因子は、ガン細胞上に発現し、ガン細胞上のFasに結合して、ガン細胞にアポトーシスを誘導するものであり、以下の(a)または(b)のものである。
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含有するガン抑制因子。
(b)(a)に記載されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含有するガン抑制因子。
【0012】
本発明では、インターロイキン18をガン細胞に作用させることにより、ガン細胞上のガン抑制因子を発現増強させることができる。このときに、インターロイキン12を同時にガン細胞に作用させることにより、よりガン抑制因子を発現増強させることができる。
【0013】
この作用は、ガン細胞が、乳ガン由来である場合に効果がある。インターロイキン18およびインターロイキン12の処理は105個のガン細胞あたり、それぞれ1ngから1mg、1pgから100μgの量で、1から24時間処理することで十分な効果が得られる。
【0014】
ガン細胞表面上に発現しているガン細胞上のFasに結合してガン細胞にアポトーシスを誘導するガン抑制因子を発現増強することにより、哺乳動物の生体に発生したガンを抑制することができる。ガン抑制因子を発現増強させるためには、好ましくは、インターロイキン18をガン細胞に作用させる。さらに好ましくは、インターロイキン12を同時にガン細胞に作用させる。インターロイキン18およびインターロイキン12の生体に発生したガン細胞への作用方法としては特に限定はないが、好ましくは局所注射投与、手術による直接投与、およびこれら遺伝子の腫瘍内導入などにより、特に効果が期待される。
【0015】
本発明のガンの抑制方法は哺乳動物がイヌである場合に特に効果があり、その他、ウシ、ブタ、ネコにも適用できる。また、ガン細胞が乳ガン由来である場合に効果がある。
【0016】
本発明のイヌFasLをコードするDNAは例えば次のようにして製造することができる。すなわち、イヌの細胞からポリ(A)RNAを抽出した後、cDNAを合成し、マウスのFasLをコードする遺伝子配列を元にしたプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下PCRと略す)を行うことにより、イヌFasLcDNAをクローニングすることができる。さらに合成したcDNAよりファージライブラリーを作製し、PCRによって得られた遺伝子断片とプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、イヌFasLcDNAの全長をクローニングすることができる。
【0017】
イヌの細胞からRNAを得る方法としては、通常の方法、例えば、ポリソームの分離、ショ糖密度勾配遠心や電気泳動を利用した方法などがあげられる。上記イヌ細胞からRNAを抽出する方法としては、グアニジン・チオシアネート処理後CsCl密度勾配遠心を行うグアニジン・チオシアネート−塩化セシウム法(文献8)バナジウム複合体を用いてリボヌクレアーゼインヒビター存在下に界面活性剤で処理したのちフェノール抽出を行う方法(文献9),グアニジン・チオシアネート−ホット・フェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン塩酸法、グアニジン・チオシアネート−フェノール・クロロホルム法、グアニジン・チオシアネートで処理したのち塩化リチウムで処理してRNAを沈殿させる方法などの中から適当な方法を選んで行うことができる。
【0018】
マイトージェンなどで刺激されたイヌ単核球やリンパ球より通常の方法、例えば、塩化リチウム/尿素法、グアニジン・イソチオシアネート法、オリゴdTセルロースカラム法等によりmRNAを単離し、得られたmRNAから通常の方法、例えば、Gublerらの方法(文献10),H.Okayamaらの方法(文献11)等によりcDNAを合成する。得られたmRNAからcDNAを合成するには、基本的にはトリ骨芽球ウイルス(AMV)などの逆転写酵素などを用いるほか1部プライマーを用いてDNAポリメラーゼなどを用いる方法を組み合わせてよいが、市販の合成あるいはクローニング用キットを用いるのが便利である。
【0019】
このcDNAを鋳型としてマウスやヒトの塩基配列をもとにしたプライマーを用いてPCRを行い、さらに合成したcDNAをλファージベクターに連結した後、インビトロでλファージのコート蛋白質などと混合することによりパッケージングし、その生成されたファージ粒子を宿主となる大腸菌に感染させる。この際、λファージの感染した大腸菌は溶菌し、1個1個のクローンがプラークとして回収される。このプラークをニトロセルロースなどのフィルターに移し、放射標識したPCRで得た遺伝子をプローブとしたハイブリダイゼーションにより、イヌFasLcDNAをクローニングすることができる。
【0020】
イヌFasLは、以下の実施例で示すように、イヌ乳ガン細胞に発現し、IL18の処理によりその発現が増強され、細胞にアポトーシスを誘導することによって特性化される。IL18に加え、IL12を処理することによって、さらにその発現が増強される。
【0021】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0022】
実施例1
イヌFasLのクローニング
(1)イヌcDNAの調製
イヌ末梢血由来リンパ球および種々のイヌ細胞株よりISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いて総RNAを調製した。得られたRNAを1mM エチレンジアミン四酢酸(以下EDTAと略記する)を含む10mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)(以下TEと略記する)に溶解し、70℃で5分間処理した後、1M LiClを含むTEを同量加えた。0.5M LiClを含むTEで平衡化したオリゴdTセルロースカラムにRNA溶液をアプライし、同緩衝液にて洗浄した。さらに0.3M LiClを含むTEにて洗浄後、0.01% ドデシル硫酸ナトリウム(以下SDSと略記する)を含む2mM EDTA(pH7.0)で吸着したポリ(A)RNAを溶出した。こうして得られたポリ(A)RNAを用いて一本鎖cDNAを合成した。すなわち、滅菌した0.5mlのミクロ遠心チューブに5μgのポリ(A)RNAと0.5μgのオリゴdTプライマー(12−18mer)を入れ、ジエチルピロカルボネート処理滅菌水を加えて12μlにし、70℃で10分間インキュベートしたのち氷中に1分間つけた。これに200mM トリス塩酸(pH8.4),500mM KCl溶液を2μl,25mM MgCl2 を2μl,10mM dNTPを1μlおよび0.1M ジチオスレイトール(以下DTTと略記する)を2μlそれぞれ加え、42℃で5分間インキュベートしたのち、200ユニットのGibcoBRL社製SuperScript II RTを1μl加え、42℃でさらに50分間インキュベートしてcDNA合成反応を行った。さらに70℃で15分間インキュベートして反応を停止し、氷上に5分間置いた。この反応液に1μlのE.coli RNaseH(2units/ml)を加え、37℃で20分間インキュベートした。
【0023】
(2)イヌFasLのcDNAクローニング
ヒトFasLの塩基配列(文献4)をもとに、
5´ccttggtaggattgggcctggggatgtttc3´(配列番号:2)
と
5´aagactctcattcaagaccatgttctcagt3´(配列番号:3)
の2種類のプライマーをDNAシンセサイザーにて合成した。上記(1)のイヌ末梢血由来リンパ球から得られたcDNAを0.2mlのマイクロ遠心チューブに2μl取り、各プライマーを20pmol,20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl2 、25mM KCl,100μg/ml ゼラチン、50μM各dNTP、4単位 Ex Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)となるように各試薬を加え、全量20μlとする。DNAの変性条件を94℃,1分、プライマーのアニーリング条件を60℃、2分、プライマーの伸長条件を72℃、2分の各条件でMJ RESERCH社のProgrammable Thermal Controllerを用い、40サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動し、約530bpのDNA断片を常法(文献13)に従って調製した。
【0024】
このDNA断片をInvitrogen社のT−Vectorに宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.2を用いて連結した。これを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体よりプラスミドDNAを常法により調製した。次にこのプラスミドにPCR断片が挿入されていることを前述と同じ条件のPCRによって確認し、蛍光DNAシーケンサー(パーキンエルマー社製DNAシーケンサー373S)を用い、その添付プロトコールに従って、パーキンエルマー社のダイターミネーターサイクルシーケンシングキットを用いて、挿入したDNAの塩基配列を決定した。このイヌFasLをコードする配列を配列番号:1に示す。
【0025】
実施例2
イヌ乳ガン細胞株の樹立
イヌ生体に発生した乳ガン組織を無菌的に切除し、3〜5mmの断片に刻み、ワイヤーメッシュに通した後、0.1%コラゲナーゼ(シグマ社製)と0.001%デオキシリボヌクレアーゼI(シグマ社製)を含むMEM-Hanks培地(大日本製薬(株)製)で、37℃、2時間懸濁した。懸濁液を1000rpmで15分間遠心後、上清を取り除き、ERDF培地(極東製薬(株)製)で3回洗浄後、10%牛胎児血清(ギブコ社製、以下FBSと略記する)を含むERDF培地10mlで懸濁し、96穴マイクロプレートに1穴あたり100μlづつ添加して、5%CO2、37℃の条件で培養した。2日おきに培地交換をし続けたところ、約2週間後、1穴で無限に増殖する不死化細胞株を得た。本イヌ乳ガン細胞株の倍化時間は約20時間であった。本細胞株をFCBR1と名付けた。
【0026】
実施例3
イヌIL18の調製
特開2000-78975の配列番号:1の、活性型イヌIL18タンパクをコードするDNA断片をpGEX−5X(ファルマシアバイオテク社製)のBamHI切断部位に連結した。これを用いて常法に従い大腸菌HB101を形質転換した。100μg/mlのアンピシリンを含むLBプレート上に生育するコロニーのうち15個を100μg/mlのアンピシリンを含む3mlのLB培地中で8時間培養し、集めた菌体からプラスミドを抽出、精製後、定法に従い、大腸菌BL21を形質転換した。得られた形質転換体のシングルコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地に植菌した。OD600が約0.7になるまで37℃で培養し、終濃度0.5mMのイソプロピルーβ−D−チオガラクトピラノシド(ファルマシアバイオテク社製)を加えて、さらに1.5時間培養した。培養液1.5mlを1.5mlのマイクロ遠心チューブに取り、12000rpmで5分間遠心後、上清を捨て、1.5mlの10mMトリス塩酸(pH7.5)に懸濁し、氷上にてハンディーソニックを用いて菌体を破砕した。20000rpmで30分間遠心し、可溶性画分(上清)を得、0.22μmのフィルターでろ過滅菌後、イヌIL18が生産された溶液を得た。この画分をグルタチオンセファロースカラム(ファルマシア社製)にアプライした。その溶出画分をファルマシア社製のFactor Xaを用いて切断し、さらに同じカラムにアプライした。カラムに結合しない活性型イヌIL18タンパクを含む画分を回収した。こうして精製された活性型イヌIL18タンパクはSDS−PAGE解析によると、純度が95%以上であった。また、ワコー社のリムルステストキットを用いた解析によると、このタンパク1mg中にエンドトキシンは全く検出されなかった。
【0027】
実施例4
イヌIL12の調製
特開平11-106350の配列番号:1、11,2,12に記載の、イヌIL12を構成する、P40およびP35サブユニットcDNAを バキュロウイルストランスファーベクターpAcAB3(ファーミンジェン社製)のプロモーター下流の制限酵素XbaIおよびSmaI切断部位にそれぞれ常法に従って連結し、組換えトランスファーベクターを得た。さらにファーミンジェン社のバキュロウイルストランスフェクションキットを用いてその添付マニュアルに従って、組換えバキュロウイルスを作製した。
【0028】
得られた組換えバキュロウイルスを、ファーミンジェン社のバキュロゴールドProtein−Free Insect Mediumで75cm2のフラスコでコンフルエントまで平面培養したSf21細胞(Spondoptera Flugiperda由来、ファーミンジェン社より入手)に感染させ、4日間培養した後、イヌIL12が生産された培養上清を得た。培養上清を、スルホプロピル担体(ファルマシアバイオテク社製)を充填したカラムにアプライした後、十分量の20mMリン酸緩衝液(pH:7)でカラムを洗浄した。350〜550mMのNaClで溶出した画分を、さらにブルーセファロース担体(ファルマシアバイオテク社製)を充填したカラムにそれぞれアプライし、十分量の20mMリン酸緩衝液(pH:7)でカラムを洗浄後、1.1〜1.2MのNaClで溶出した精製イヌIL12を得た。SDS−PAGE解析によると、イヌIL12の純度は、95%以上であった。
【0029】
実施例5 イヌガン細胞株におけるFasL発現の検出
種々のイヌガン細胞株におけるイヌFasLの発現を、RT−PCRおよびサザンブロッティングによって調べた。
【0030】
樹立したイヌ乳ガン細胞株FCBR1、イヌ上皮系腫瘍由来細胞株A-72(ATCC CRL-1542)、イヌ骨芽肉腫由来細胞株D-17(ATCC CCL-183)、イヌ胸膜由来細胞株Cf2Th(ATCC CRL-1430)およびイヌ腎由来細胞株MDCK(ATCC CCL-34)から、実施例1(1)に記載した方法により、mRNAを抽出し、0.1μgの各mRNAからcDNAを調製した。各イヌ細胞株由来のcDNAを0.2mlのマイクロ遠心チューブに2μlづつ取り、実施例1(2)で得られたイヌFasLの遺伝子配列を元にして合成した、
5´agctctttcatctacagaaggagctggctg3´(配列番号:4)
と
5´gcttgtaacaaggaaccatatggagagaat3´(配列番号:5)
の2種のプライマーを各20pmol,20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1.5mM MgCl2 、25mM KCl,100μg/ml ゼラチン、50μM各dNTP、2単位 Ex taq DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)となるように各試薬を加え、全量20μlとし、DNAの変性条件を94℃,30秒、プライマーのアニーリング条件を60℃、30秒、プライマーの伸長条件を72℃、1分の各条件でMJ RESERCH社のProgrammable Thermal Controllerを用い、40サイクル反応させた。これを1%アガロースゲルにて電気泳動後、アマシャム社のHybond−N+に常法に従って転写した。Hybond−N+は、5×SSPE(0.9M NaCl,50mM NaH2PO4,5mM EDTA,pH7.4),5×デンハルト溶液(0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ウシ血清アルブミン)、0.1%SDS、100μg/mlサケ精子DNA中、65℃で2時間インキュベートし、実施例1(2)で得られた、540bpのイヌFasLcDNA断片に宝酒造(株)のRandom Primer DNA Labeling Kitを用いて32Pで標識し作製したプローブ1×106cpm/mlとハイブリダイズした。65℃で1晩インキュベートした後、Hybond−N+を0.2×SSC(30mM NaCl,3mMクエン酸ナトリウム)、0.1%SDS中15分、3回洗浄し、富士写真フィルム(株)の富士イメージングプレートに12時間露出し、富士写真フィルム(株)のバイオイメージングアナライザーにて解析した。
【0031】
また、各細胞におけるイヌβアクチンの発現を上記と同様にして解析した。なお、RT−PCR用のプライマーは、
5´atggccgacaaggtcctgaaggac3´(配列番号:6)と
5´tacattgccagggaagagatagaa3´(配列番号:7)を用いた。
その結果、イヌβアクチンについては、すべての細胞株で同等の発現が認められたのに対し、イヌFasLについては、FCBR1に強い発現が認められ、一方、その他のイヌ細胞株においては、弱い発現が認められた。従って、イヌFasLはイヌ乳ガンに特異的に発現していると推定された。
【0032】
実施例6 イヌIL18およびイヌIL12のイヌ乳ガン細胞株に対するFasL発現増強活性の測定
FasLを発現している、イヌ乳ガン細胞株FCBR1に対するIL18およびIL12のFasL発現増強活性を、実施例3および実施例4で調製した精製イヌIL18およびイヌIL12を用いて調べた。FCBR1の培養上清に、イヌIL12(100ng/ml)、イヌIL18(1μg/ml)およびイヌIL12(100ng/ml)とイヌIL18(1μg/ml)をそれぞれ添加し、6時間培養した。培養後、それぞれの細胞から実施例1と同様にしてmRNAを抽出し、0.1μgの各mRNAからcDNAを調製した。さらに、実施例4と同様にして、イヌFasLおよびイヌβアクチンのDNAを、PCRでそれぞれ25および40サイクル増幅し、1%アガロースゲルにて電気泳動後、定法に従い、エチジウムブロマイドで染色し、UV照射下で各DNAを検出した。その結果、イヌFasLmRNAは、イヌIL18の単独処理により発現増強され、イヌIL18とイヌIL12両方の処理により、その発現がさらに増強されていることが判明した。一方、イヌIL12の単独処理では発現増強が認められなかった。従ってIL18が、腫瘍細胞上のFasLの発現を増強する活性を有することが明らかになり、またIL12がIL18の本活性において相乗活性を有することが判明した。
【0033】
実施例7 イヌIL18およびイヌIL12のイヌ腫瘍細胞株に対するアポトーシス誘導活性の測定
48穴の細胞培養プレート(コーニング社製)に1穴あたり、105個のFCBR1を接着させ、1穴あたり、0.5mlの10%FBSを含むERDF培地を添加した。これに0μg、10μg、100μgおよび1000μgのイヌIL18をそれぞれ添加し、5%CO2、37℃の条件で24時間培養した。培養後、細胞をトリプシンを用いてプレートから剥離し、ワコー(株)製のアポトーシスラダー検出キットを用いて、その添付マニュアルに従って、各DNAを抽出した。各々20μlのDNA溶液から4μlづつを取り、それぞれ1μlのloading buffer(アポトーシスラダー検出キットに備え付け)を含む6μlの滅菌蒸留水と混合し、アガロースゲル(アポトーシスラダー検出キットに備え付け)にアプライし、電気泳動した。泳動後のゲルを、10μlのSYBRTM Green I(ワコー(株)製)を含む100mlのTAEバッファー中で、30分間インキュベート後、UV照射によって各DNAを検出した。その結果、イヌIL18で処理されたFCBR1のDNAはすべて断片化を起こしていた。一方、イヌIL18未処理の細胞のDNAにおいては、断片化が認められなかった。従って、イヌIL18はイヌ乳ガン細胞株FCBR1に作用して、アポトーシスを誘導する活性を有することが明らかになった。
【0034】
次に、アポトーシス誘導における、イヌIL18とイヌIL12の相乗作用について検討した。24穴の細胞培養プレート(コーニング社製)に1穴あたり、5×105個のFCBR1を接着させ、1穴あたり、1mlの10%FBSを含むERDF培地を添加した。これに1μgのイヌIL18、および1μgのイヌIL18と100ngのイヌIL12をそれぞれ添加し、5%CO2、37℃の条件で24時間培養した。培養後、細胞をプレートから剥離し、生理食塩水で1回洗浄後、MBL社製のpropidium iodineで15分間暗所で細胞を染色した。その後、各細胞をベクトンディッキンソン社製のFACSVantage SEで解析し、アポトーシスを起こした細胞の核酸量を定量した。その結果、アポトーシスを起こした細胞の核酸量は、イヌIL18およびイヌIL12未処理細胞のものに比べ、イヌIL18を単独処理した細胞で約10%、イヌIL18とイヌIL12両方を処理した細胞で約15%増加していた。これらのことから、IL18とIL12は相乗的に、乳ガン細胞に対してアポトーシスを誘導することが判明した。
【0035】
実施例8 イヌIL18によるin vivoでの抗腫瘍活性の測定
イヌIL18のイヌ腫瘍細胞株に対するin vivoでの直接的抗腫瘍活性の有無を検討した。FCBR1を4週齢のスキットマウス(日本クレア社由来)の背部皮下に移植したところ、腫瘤を形成した4匹の担ガンマウスが作成できた。腫瘍重量を次の式にて算出した。
腫瘍重量=長径 X 短径2/2
移植から2ヶ月後、腫瘍の大きさが平均32mm X 19mm、腫瘍重量で5.8gになったところで、実施例3に記載の10μgの精製イヌIL18を2日間隔で2回、尾静脈より投与した。また同時にコントロールとして生理食塩水を1匹のマウスに投与した。コントロールのマウスの腫瘍重量は投与後さらに増加し、投与後10日目には1.3倍になった。一方、イヌIL18を投与したマウスの腫瘍重量は投与後減少し、コントロールを1とした相対腫瘍重量で0.05から0.1になった。イヌIL18のこの腫瘍退縮効果は抗マウスインターフェロンγ抗体と抗アシアロGM1抗体の同時投与によって阻害されなかった。イヌIL18はin vivoにおいてもイヌ腫瘍細胞に対して抗腫瘍活性を示すことが判明した。
【0036】
実施例9
イヌIL18製剤の製造
実施例4で得られた精製イヌIL18溶液に、注射用生理食塩水、注射用低分子ゼラチン(新田ゼラチン(株))を加えて、ゼラチンの終濃度0.5%に調製した。さらに、ポジダイン(ポール(株))で処理してパイロジェンを除去した後、250℃で2時間乾熱滅菌したガラスバイアルに1mlづつ分注した。その後、無菌的に凍結乾燥することによって、1バイアル中に1μgから10μgのイヌIL18を含むイヌIL18製剤を得た。このイヌIL18製剤は、室温条件下で安定であり、また、蒸留水または生理食塩水によって良好に溶解した。
【0037】
実施例10 担癌イヌに対するイヌIL18の抗腫瘍効果
表皮に腫瘤を持つ患犬、計5頭に対してイヌIL18製剤を局所注射投与した。どの患犬にもさまざまな大きさの腫瘤が複数個存在していた。腫瘤1個につき、1μgのイヌIL18を1ー2日間隔で3ー10回、腫瘍局所に直接、注射投与した。その結果、イヌIL18製剤を投与した腫瘤の8割が完全に消失し、残りの腫瘤も全て半分以下に縮小した。消失した腫瘍は、以後6ヵ月間観察したが、再発は全くみられなかった。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、ガン細胞上のガン抑制因子を発現増強することができる。また、イヌのガン治療に有効なイヌガン抑制因子を提供できる。さらに、ウシ、ブタ、ネコの生体に発生したガンを抑制する方法を提供できる。
【0039】
参考文献
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6.O’Connellら:J.Exp.Med.184,1057−1082(1996).
7.Chirgwinら:Biochemistry 18,5294(1979).
8.Bergerら:Biochemistry 18,5143(1979).
9.Gublerら:Gene 25,236−269(1983).
10.Okayamaら:Mol.Cell.Biol.,2,161,(1982) & 3,280,(1983).
【0040】
【配列表】
Claims (5)
- ガン細胞上に発現し、ガン細胞上のFasに結合して、ガン細胞中のDNAを断片化させ、ガン細胞にアポトーシスを誘導する以下の(a)または(b)のガン抑制因子を発現増強することによる、イヌ、ウシ、ブタおよびネコからなる群から選択される哺乳動物に発生した乳ガンの抑制方法。
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列を含有するガン抑制因子。
(b)(a)に記載されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含有するガン抑制因子。 - インターロイキン18をガン細胞に作用させることによる、請求項1に記載の乳ガンの抑制方法。
- インターロイキン18をガン細胞に作用させることによって前記ガン抑制因子を発現増強させることによる、請求項2に記載の乳ガンの抑制方法。
- インターロイキン12を同時にガン細胞に作用させることによる、請求項2または3に記載の乳ガンの抑制方法。
- インターロイキン12を同時にガン細胞に作用させることによって前記ガン抑制因子を発現増強させることによる、請求項4に記載の乳ガンの抑制方法。
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