JP4733755B2 - 食感が改善された焼き菓子 - Google Patents
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従来から、焼き菓子の食感改良、特に焼き菓子に特有なサクサクした食感の改良のために様々な方法が試みられている。最も普通に行われるのはショートニング(shortening)の添加である。ショートニング(shortening)は、本来「サクサクさせる、ポロポロにする」という意味を持ち、植物、動物油脂を原料とした練りこみ専用の固形油脂として開発されたものである。ショートニングは、バターやマーガリンのように水分や乳成分を含まず、ほぼ100%の油脂成分からなる、白色の無味無臭の油脂である。しかしながら、本発明者らの追試によれば、さくさく感は様々な要件が絡んでおり、単にショートニングを配合しただけでは必ずしも満足のいくさくさく感は得られないのが現状であり、また、従来から汎用されているショートニング中には、冠動脈心疾患のリスクを高めるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させるトランス脂肪酸が比較的多く含有されていることから、これも近年問題視されている。
その他にも、下記のとおり、さくさく感の改善のために様々な試みがなされている。
例えば、下記特許文献1には、小麦粉と油脂と蛋白質と食物繊維とを含有する焼成食品であって、該油脂で被覆された蛋白質が、小麦粉生地中に分散してなる焼成食品が開示されている。特許文献2には、セルラーゼを使用することを特徴とする焼き菓子の製造方法が開示されている。特許文献3には、穀物粉100重量部に対してデキストロース当量(DE)が25以下であるデキストリン及び糖重合度(DP)20以上の糖類を20重量%以上含むBであるデキストリンの還元物を1〜70重量部含む事を特徴とする、品質の改良された焼き菓子が開示されている。特許文献4には、リゾレシチンを添加することを特徴とする焼き菓子の製造法が開示されている。しかし、これらの提案は、さくさく感の改善のために特別な第3成分を配合したりすることを特徴とするものであって、使用する食用油脂は依然として冠動脈心疾患のリスクを有するトランス型脂肪酸を比較的多量に含む通常の油脂である。
また、澱粉類や食物繊維を配合したものとして、下記のような報告がなされている。
例えば、特許文献5には、サクサクとしてしっかりした食感を有する焼き菓子類製造のための、粉砕された、穀粉類又は澱粉類及びその加工品及びその分解物より選ばれる1種又は2種以上の粉末を含有することを特徴とする製菓・製パン用品質改良剤が開示されている。特許文献6には、穀物粉100重量部に対して下記A及びBであるデキストリンの還元物を1〜70重量部含む事を特徴とする、品質の改良された焼き菓子が開示されている。特許文献7には、穀物フスマ粉末を含む粉末を造粒してなる穀物フスマ造粒物が開示されている。
他方、トランス型脂肪酸濃度を低減した低トランス型脂肪酸を用いた焼き菓子についても、下記特許文献に記載されるように、いくつかの報告がなされている。例えば、特許文献8には、構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が30〜70質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜60質量%である油脂配合物を、ランダムエステル交換してなるエステル交換油脂を含有し、SOS(S:炭素数16〜22である飽和脂肪酸、O:オレイン酸)で表わされるトリアシルグリセロール含量が20〜60質量%であり、融点が27〜40℃であることを特徴とする油脂組成物が開示され、これら油脂組成物を用いた焼き菓子が開示されている。しかし、これは所謂ウェットな食感を有する焼き菓子であって、実際にはさくさく感を有する焼き菓子とは若干異なるものである。
また、特許文献9には、乳脂肪とハイエルシン酸ナタネ極度硬化油からなる混合油をランダムエステル交換した油脂(A)及びパーム油をランダムエステル交換した油脂(B)を主に含有し、脂肪酸組成全体中のC6以下の飽和脂肪酸量が0.05〜3.0重量%である油脂組成物を配合した焼き菓子が開示されている。しかし、これはビスケット等の焼き菓子にチョコレートをコーティングした複合菓子に時間の経過とともに発生する白化現象の防止を目的としたものである。このように、低トランス型脂肪酸を用いた焼き菓子それ自体は知られているが、さくさく感の実現という点では、まだまだ満足できるものではなかった。
したがって、本発明の目的は、これら焼き菓子の食感、特にさくさく感を改善し、同時に食べやすさ、保形性を改善することである。
また、他の発明の目的は、このような焼き菓子の製造方法、焼き菓子における食感、具体的にはさくさく感を改善する方法に係るものである。
食用油脂の形態としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を挙げることができる。食用油脂としては、食用精製加工油脂、食用動植物油脂が挙げられるがこれらの中から選ばれた1種、あるいはこれらの中から選ばれた2種以上の混合物であってもよい。食用油脂として好ましい油脂は、マーガリンやショートニング等の加工油脂、あるいはバター等の動物油脂であり、これらは油中水型油脂と呼ばれることもある。ショートニングは、一般的に無味であることから、風味の観点からすると好ましくはマーガリンとショートニング、あるいはバターとショートニングの併用が好ましいが、特に限定されるものではない。
本発明で生地作成のために使用する食用油脂としては、後で詳述するように、トランス型脂肪酸含有率が5重量%以下、好ましくは4重量%以下のものが好ましく、更に好ましくはトランス型脂肪酸含有率が2重量%以下の低トランス型食用油脂が好ましい。特に、サクサク感や保形性改善のためには、焼き菓子におけるトランス型脂肪酸含有率は2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。
原料油脂は、常温で固体化するために、通常、その製造過程において水素付加される。
バターとの大きな違いは、バターの主原料は牛乳であるのに対して、マーガリンの主原料は植物性あるいは動物性の油脂である点である。日本JAS規格によれば、油脂含有率が80%を超えるものがマーガリンであり、80%未満のものがファットスプレッドである。
本発明で使用するマーガリンとしては、後で詳述するようにトランス型脂肪酸の含有率が5重量%以下、好ましくは4重量%以下のマーガリンであり、更に好ましくは2重量%以下に押さえた低トランス型マーガリンが好ましい。
パン、ビスケットなどの原料として使用した場合、その口あたりをよくし、もろさを与えるとともに、しっとり感を与える。
本発明で使用するショートニングとしては、後で詳述するようにトランス型脂肪酸の含有率が5重量%以下、好ましくは4重量%以下のショートニング、更に好ましくは2重量%以下に押さえた低トランス型ショートニングである。
構造的に、食用油脂、即ち食用脂肪酸は、不飽和脂肪酸であって分子内に二重結合を有しシス型とトランス型の幾何異性体が存在する。
分子内に複数の二重結合を有する不飽和脂肪酸原料は、融点が低く、常温で液状のものが多い。そこで、油脂の扱いを容易にするために、水素添加により、脂肪酸中の二重結合を減らし、あるいは飽和脂肪酸を増加させることによって融点の高い固体脂肪酸を製造する、いわゆる油脂の硬化処理を施すことが行われている。この硬化処理工程では、ニッケル触媒などを使用し、油脂を高温下にて高圧の水素で処理するため、不可避的にトランス型脂肪酸が生成する。
このような硬化処理によって得られた固体脂肪酸を原料とするマーガリン類及びショートニング類には、トランス型脂肪酸が比較的多く含有されている。総脂肪酸中のトランス型脂肪酸の含有率は2〜45重量%、あるいは10%〜50%であるとの報告もある。平均的には、日本のマーガリン類には脂質の8%程度のトランス型脂肪酸が含まれているといわれている。
なお、これらトランス型脂肪酸は、冠動脈心疾患のリスクを高めるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させるとの報告がなされており、また、アレルギーを引き起こすとの報告もあることから、近年問題視されている。
それに対して、単に脂肪酸、油脂、マーガリン又はショートニングと言った場合には、トランス型脂肪酸を10重量%あるいは5重量%を超えて含有する通常の脂肪酸、油脂、マーガリン又はショートニングを意味する。
より具体的には、トランス型脂肪酸の含有率が5重量%以下、好ましくは4重量%以下の食用油脂、特に好ましくは2重量%以下、最も好ましくは1重量%以下の低トランス型食用油脂である。生地組成物に対するこれら食用油脂の配合量は、さくさく感や保形性の改善の観点から15〜36重量%、好ましくは15〜35重量%、さらに好ましくは15〜28重量%である。また、焼き菓子中に含有されるべき脂肪酸量は、焼き菓子に対して15〜36重量%、より好ましくは15〜29重量%である。また、焼き菓子中に含有されるべきトランス型脂肪酸量含量は好ましくは5重量%以下、より好ましくは0.5〜4.5重量%である。これら食用油脂は、市販品として入手可能である。
水と同様にして、牛乳、野菜汁や果汁等も用いることができる。生地に加える好ましい牛乳等の分量は水の場合と同様である。牛乳の代わりに粉末ミルクを水に溶いたものを使用してもよい。また、水の代わりに、生全卵や野菜汁あるいは果汁を加えることも可能である。水分量が1重量%以下であると生地の均質な混練が難しくなり、また、10重量%を超えると焼き上がり後の気泡が大きくなりボロボロと崩れる恐れがあり、好ましくない。
また、焼き菓子中の水分量は、サクサク感や保形性の観点から、1.0〜6.5重量%が好ましく、更に好ましくは1.2〜6.5重量%である。これは、10重量%以下の水及び/又は2.2〜4.6重量%の全卵を配合することにより達成される。
卵としては、鶏卵の全卵を使用することができる。卵の生地への添加量は、好ましく2.2〜6重量%、より好ましくは2.2〜5.5重量%である。卵の添加量が2.2重量%未満では、得られるクッキーが硬めになり、一方、6重量%を超えると、得られるクッキーが軟らかめになり食感上好ましくない。
なお、卵は鶏卵を割卵して得られた生卵、特に生全卵が一般的であるが、乾燥全卵や凍結加糖全卵等も使用することができる。乾燥全卵は水で戻し、生全卵と同様の固形分濃度で使用される。卵類としては、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄などを用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
食用油脂、特に好ましくはトランス型脂肪酸の含有率が2重量%の低トランス型ショートニング又は低トランス型マーガリン、あるいはトランス型脂肪酸の含有率が2重量%の範囲に収まるように調整乃至配合された食用油脂(低トランス型ショートニング、低トランス型マーガリン、ショートニング及びマーガリンから選ばれる1以上のショートニング及び/又はマーガリンからなる食用油脂)を用意して、ミキサーでよく攪拌する。次に、十分に攪拌された食用油脂に砂糖を投入し高速で1分から10分攪拌し、引き続いて、全卵、食塩、水若しくは野菜汁や果汁を加えて攪拌混合し、更に小麦粉、ベーキングパウダー、必要に応じてナッツ等の各種風味原料、調味料、着色料、保存料を加えて低速で30秒〜5分程度攪拌して生地とする。次いで、この生地を冷蔵庫で20分〜1時間程度落ち着かせ、10mmに圧延して20mmX50mmの型で型抜き、最後に、120℃〜160℃で15分〜25分焼成する。
なお、使用したマーガリンとショートニングは以下の通りである。
通常のマーガリン;プラスフレッシュ(月島食品工業株式会社製)
通常のショートニング;純ショート(月島食品工業株式会社製)
低トランス型マーガリン;ラブール(月島食品工業株式会社製)
低トランス型ショートニング;TショートW(月島食品工業株式会社製)
卓上ミキサーに、下表に示す配合比に従って、食用油脂(通常のマーガリン及び/又はショートニング、トランス型脂肪酸を低減したマーガリン及び/又はショートニング)を加えてよく攪拌した後、砂糖を加えて高速で5分間攪拌した。次いで、全卵、水、食塩を少量ずつ加えて攪拌混合し、更に、難消化性澱粉、澱粉、小麦粉とベーキングパウダーを加えて低速で1分間攪拌してビスケット生地とした。
このビスケット生地を冷蔵庫(5℃)で30分落ち着かせた後、厚さ10mm、幅20mm、長さ50mmの厚板状に成形して、オーブンで150℃にて20分間焼成し、これをオーブンから取り出して常温で冷却して焼き菓子とした。
焼き菓子に含有される水分の影響を調べるために、焼成したビスケット中の水分量を測定した。測定は、焼成したビスケットを10gとり、これを乳鉢で細粉化した後、水分計FD−620(ケット科学研究所製)を用いて測定した。
ビスケットの硬さを調べるために、レオメーターRT−2010J−CW(株式会社レオテック製)を用いて破断応力の測定を行った。プランジャーは歯型押棒B(株式会社レオテック FUDOHレオメーター専用アダプター)を用い、試料台上昇速度を2cm/minとして、5個のビスケットを用いて測定して、その平均値を算出した。破断応力の測定は、食品の硬さを調べる際に普通に利用されており、特に、食品の歯ごたえ感を調べる際に利用される。
焼成前と焼成後のビスケットのサイズの変化を、幅、長さ、厚さを測定し、その変化率を比較することによって、保形性を調べた。保形性は、焼き菓子製品の形状のばらつきをなくす意味から重要である。
訓練されたパネラー5人により、実施例1で作成した各種ビスケットの食べやすさとさくさく感に関する食感の官能試験を行った。食べやすさは、口に入れたときの食感、バランス感覚を総合的に判断したものであり、所謂食感の良さを意味する。具体的には、ここで、食べやすさとは、さくさく感以外の、噛み砕いたときの程よい硬さ感覚、咀嚼物の口内での広がり感、口の中でくずれたときの程よい硬さ(硬過ぎず、柔らか過ぎず)等を主たる指標とするものである。
澱粉(A)+難消化性澱粉(B)が17重量%以下、かつ(A)/(B)が0.1〜5の要件を満たす実施例1―8のビスケットは、保形性、さくさく感、食べやすさのすべての面で満足し得るものであったが、この要件を満たさない試験例1−5のビスケットは必ずしも満足し得るものではなかった。
更に、食用油脂として低トランス型のショートニング及び/又はマーガリンを用いたものは、保形性、さくさく感、食べやすさが更に向上した。卵殻カルシウムを用いたものも、同様に、保形性、さくさく感、食べやすさが更に向上した。
また、野菜汁及び/又は果汁を加えて焼成された焼き菓子は、栄養バランスもよいことから、カロリー補給のみならず、補給栄養補給食材としての利用も期待される。
また、低トランス型食用油脂を使用した場合には、冠動脈心疾患のリスク等の恐れのない、しかも優れたさくさく感や保形性を有する焼き菓子が得られる。
Claims (4)
- 小麦粉、砂糖、食用油脂、澱粉(A)及び難消化性澱粉(B)を含み、澱粉(A)がコーンスターチ、馬鈴薯澱粉及びサツマイモ澱粉から選ばれる澱粉であり、生地総重量100.5重量に対して、(A)が1〜3重量部、(B)が1〜5重量部、(A)+(B)が4〜8重量部、かつ(A)/(B)が0.2〜3に調整し、これを120℃〜160℃で焼成して水分量を4.1〜5.1重量%とすることを特徴とする焼き菓子のさくさく感の改善方法。
- さらに卵殻カルシウムを0.5〜3重量%含む請求項1に記載の焼き菓子のさくさく感の改善方法。
- 食用油脂が、トランス型脂肪酸の含有率が5重量%以下の食用油脂である請求項1又は請求項2に記載の焼き菓子のさくさく感の改善方法。
- 小麦粉36〜55重量%、砂糖15〜22重量%、食用油脂15〜36重量%を含み、生地総重量100.5重量に対して、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉及びサツマイモ澱粉から選ばれる澱粉(A)1〜3重量部及び難消化性澱粉(B)1〜5重量部(ただし、(A)+(B)は4〜8重量部、かつ(A)/(B)は0.2〜3)、水10重量%以下及び/又は全卵2.2〜6重量%と、ベーキングパウダー0.2〜0.4重量%を混合して生地組成物を調整し、これを120℃〜160℃で焼成して水分量を4.1〜5.1重量%の焼き菓子とすることを特徴とする請求項1に記載の焼き菓子のさくさく感の改善方法。
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