従来における孔版印刷装置は、原稿の画像を読み取る画像読み取り部と、この画像読み取り部で読み取られた画像のデータに基づいてマスターを製版する製版部と、製版部で製版されたマスターを用いて印刷用紙に印刷する印刷部と、印刷用紙を印刷部に供給する給紙部と、印刷された印刷用紙を排出する排紙部と、使用済みのマスターを廃棄する排版部を有している。
そして、製版部は、サーマルヘッドとプラテンローラを備えており、画像読み取り部で読み取られた原稿の画像データに基づいて、マスタロールより送り出されるマスターを製版する。また、印刷部は、ドラムとプレスローラとを備えており、製版部にて製版されたマスターをドラムに巻き付け、且つこのマスターに給紙部より送られた印刷用紙を接触させ、プレスローラで押圧した状態でドラムを回転させる。更に、ドラム内部に設けられたインク供給ローラよりインクを滲出させることにより、印刷用紙に印刷し排紙部より印刷物を取り出すことができる。
図12(a)は、従来より用いられている孔版印刷装置の、マスターの供給系を模式的に示す説明図であり、マスターロール11より送り出されるマスター9と、マスター9を製版するためのサーマルヘッド6及びマスター9をサーマルヘッド6側へ押し付けて送り出すプラテンローラ7と、所定の長さとなる位置でマスター9を切断するマスターカッター5と、マスター9を下流側へ送り出すローディングローラ3と、製版されたマスター9を巻き付けるドラム1と、ドラム1と印刷用紙とを所望の圧力で接触させるプレスローラ10を備えている。
また、ドラム1は、ローディングローラ3より送り出されるマスター9の先端部を固定するためのクランプ版2を備えている。更に、マスター9の供給切れを検出するマスター有無センサ8、及びドラム1に供給する製版済みのマスター9がマスター待機位置まで送られたことを検出するマスター待機センサ4を備えている。
このような孔版印刷装置では、製版後一枚目の印刷物(ファーストプリント)を排出する際の速度を向上させるために、マスター9をローディングローラ3でドラム1のクランプ位置まで搬送し、クランプ版2でクランプした後、図12(b)に示すように、ドラム1を駆動するメインモータ(図示省略)を回転駆動させ、所定の回転速度で製版済みのマスター9をドラム1に巻き付ける。
また、メインモータは、ドラム1が1回転する毎に所定のパルス数を得ることのできるエンコーダ(図示省略)と連結されており、該エンコーダより出力されるパルス数をカウントすることにより、ドラム1の回転角度を検出することができる。そして、エンコーダによりドラム1が所望角度回転したことが検出された際には、ドラム1の回転を継続させた状態でマスターカッター5を動作させることにより、図12(c)に示すように、マスター9を切断する。
この際、ドラム1の内側からインクを滲出させ、且つ給紙装置より供給される印刷用紙を、プレスローラ10とドラム1との間に通すことにより、マスター9に書き込まれている画像を印刷用紙に転写し、ファーストプリントを出力する。
ここで、マスターカッター5は、エンコーダより出力されるパルス数より求められるドラム1の回転角度が、所望の角度に達した時点でマスター9を切断する。この際、マスターカッター5には、一定の応答速度が存在する。即ち、マスターカッター5が作動を開始してから、その切断部がマスター9と接触して実際にマスター9が切断されるまでに、若干の遅れ時間が発生する。
従って、マスター9を適正な位置で切断するためには、マスターカッター5は、ドラム1が前述の所望の角度に達するよりも、幾分早い時点でマスター9の切断を開始する必要がある。
このマスターカッター5による切断開始のタイミングは、ドラム1の回転速度、及びプレスローラ10がドラム1を押圧することによる速度変化分等を考慮して、大凡のタイミングを決定することができる。
しかしながら、実際には、プレスローラ10は、印圧可変モータ(図示省略)を備えており、該印圧可変モータを用いて、周囲温度やインクの種類等の各種の条件に応じ、ROM等に記憶保存されている情報を用いてプレス圧を適宜制御することにより、品質の良い印刷物を得るようにしている。従って、プレスローラ10によるプレス圧は常に一定であるとは限らず、これに起因してドラム1の回転速度が変化することになる。
このため、ドラム1の回転速度が予期している回転速度よりも速い場合には、マスターカッター5によるマスター9の切断タイミングが遅れるので、切断されたマスター9の長さが所望の長さよりも長くなってしまう。反対に、ドラム1の回転速度が予期している回転速度よりも遅い場合には、マスターカッター5によるマスター9の切断タイミングが早くなるので、マスター9の長さが所望の長さよりも短くなってしまう。
また、ドラム1を駆動するメインモータは、サーボ制御によりドラム1が所望する回転速度となるようにしているので、上記の問題を解決するために、このサーボ制御を利用してドラム1の回転速度が予期する速度となるように調整する方法が考えられるが、ドラム1の回転速度が速くなった場合に、ブレーキ制御を行う必要が発生し、このような制御系を追加すると回路構成が複雑になり、装置のコストアップにつながるという別の問題が発生してしまう。
また、特開平11−24327号公報(特許文献1)に記載されているように、マスター9の長さを計測するための、専用のセンサを設置し、正確な位置でマスター9を切断する方法も提案されているが、このような場合においてもセンサ類や制御部が複雑化し、やはり装置の大規模化、コストアップを招いてしまい実用的ではない。
特開平11−24327号公報
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明が適用される一般的な孔版印刷装置の構成を模式的に示す説明図である。同図に示すように、この孔版印刷装置61は、原稿の画像を読み取る画像読み取り部62と、該画像読み取り部62で読み取られた画像のデータに基づいてマスター(感熱孔版原紙)9を製版する製版部64と、製版部64で製版されたマスター9を用いて印刷用紙63に印刷する印刷部65と、印刷用紙63を印刷部65に供給する給紙部66と、印刷された印刷用紙63を排出する排紙部67と、使用済みのマスター9を廃棄する排版部68を有している。
画像読み取り部62は、イメージセンサ72を備えており、原稿載置部76より送り出される原稿の画像データを読み取る。
製版部64は、サーマルヘッド6及びプラテンローラ7を備えており、マスターロール11より送られるマスター9を製版する。また、製版済みのマスター9を送り出すローディングローラ3と、所望位置でマスター9を切断するマスターカッター5を備えている。
印刷部65は、ドラム1と、該ドラム1との間に印刷用紙63を挟んで搬送するプレスローラ10と、ドラム1の内部に設けられたインク供給ローラ69を有している。そして、製版されたマスター9と印刷用紙63を接触させた状態でドラム1を回転させ、インク供給ローラ69からインクを滲出させて印刷用紙63に印刷する。
また、ドラム1の外周面には、製版済みのマスター9の先端部を保持するクランプ版2が設けられており、マスター9は、製版部64で製版された後、その先端をクランプ版2によって保持され、ドラム1の回転に伴って該ドラム1の外周面に巻装される。
ドラム1の下方には、該ドラム1と平行にプレスローラ10が設けられている。該プレスローラ10は、所定範囲で昇降可能であり、ドラム1の回転に同期して昇降し、供給された印刷用紙63をドラム1との間に挟んで押圧する。この際、ドラム1に巻装されているマスター9と印刷用紙63が接触した状態で押圧されるので、印刷用紙63に印刷されることになる。
給紙部66は、給紙台70上に印刷用紙63が載置されており、該印刷用紙63を一枚ずつ取り出してドラム1とプレスローラ10との間に供給する。
排紙部67は、印刷用紙63をドラム1から引き離す用紙分離爪71を備えており、分離して取り出された印刷済みの印刷用紙63を排紙台73上に送り出す。
排版部68は、使用済みのマスター9をドラム1から剥がす原紙分離爪74を備えており、分離したマスター9を排版箱75内に収納する。
図2は、本発明の一実施形態に係る孔版印刷装置の特徴部分である、ドラム1及びその周辺部分の構成を示す斜視図、図2は同側面図である。図2に示すように、円筒形状のドラム1は回転軸27を備え、該回転軸27は、プーリ及びベルトを介してメインモータ21と連結されており、メインモータ21と連動してドラム1が図中矢印Y1の方向に回転するようになっている。また、ドラム1には、クランプ版2が設けられており、上流工程で作成されたマスター9の先端部がこのクランプ版2で固定されるようになっている。更に、回転軸27には、カム28が設けられている。
また、ドラム1の回転軸27と平行にプレスシャフト22が設けられており、該プレスシャフト22には、外側となるプレスレバー23、及び内側となるプレスレバー25が取り付けられている。更に、このプレスシャフト22は、ブラケット26と連結され、該ブラケット26にはプレスローラ10が回転動可能に軸支されている。
外側となるプレスレバー23の先端部にはフック部23aが形成されており、該フック部23aには、プレスバネ24が連結され、図中矢印Y2の方向に付勢されるようになっている。この付勢力により、プレスシャフト22は、図中矢印Y3の方向へ回転するように付勢されるので、該プレスシャフト22と連結されているブラケット26がドラム1側へ回転し、ひいてはプレスローラ10が所望の圧力でドラム1と接するようになる。
また、プレスバネ24の端部は、図3の側面図に示す印圧設定機構51と連結されており、該印圧設定機構51に設けられる印圧可変モータ15により、プレスバネ24に所定の張力(後述するプレスローラ10による印圧を設定する張力)が加えられるようになっている。更に、印圧設定機構51は、プレスローラ10による印圧を検出するための印圧HPセンサ19を備えている。
他方、プレスレバー23の側辺部には、ソレノイド30、及びソレノイドレバー31が設けられており、ソレノイド30が通電されていない時には、ソレノイドレバー31により、プレスレバー23の回転を阻止し、ソレノイド30が通電されているときには、ソレノイドレバー31によるプレスレバー23の固定を解除する。即ち、ソレノイド30の通電時には、プレスバネ24による付勢力がプレスレバー23に加えられ、通電されていないときには、プレスバネ24による付勢力はプレスレバー23に加えられない。
また、内側となるプレスレバー25の先端部には、回転軸27に固定されたカム28と当接するカムフォロワー29が設けられており、図4に示すように、ドラム1が回転してカムフォロワー29とカム28の頂部領域28aとが接触したときに、プレスレバー25をドラム1の外側方向へ押し付ける。即ち、プレスシャフト22を図中矢印Y4の方向に回転させる。
そして、ブラケット26はプレスシャフト22と共に回転するので、プレスローラ10はドラム1から一旦離れる方向に移動し、その後元の位置に戻るように動作する。また、カム28の頂部領域28aは、ドラム1に設けられたクランプ版2の位置の近傍となる角度に配置されており、クランプ版2がプレスローラ10との接触する手前で、プレスローラ10がドラム1から離れるようになっている。
なお、図4において、カム28の頂部領域28aのピーク点を点Sとし、頂部領域28aが終了する点を点Eとし、点Sと点Eの間の側辺をL1とする。
図5は、上述したドラム1、及びプレスローラ10を含む孔版印刷装置全体の構成を模式的に示す説明図である。前述の図1に示したように、ドラム1の上流側には、マスター9がロール状に捲回されてなるマスターロール11と、マスター9を製版するためのサーマルヘッド6と、サーマルヘッド6に印字圧力を加えるプラテンローラ7と、所定の長さとなる位置でマスター9を切断する回転式のマスターカッター5と、マスター9を下流側(ドラム1側)へ送り出すローディングローラ3が設けられている。
また、図5に示すように、この孔版印刷装置全体を総括的に制御する制御装置(制御手段)32を備えており、該制御装置32は、ドラム1を回転駆動するメインモータ21と、プラテンローラ7を駆動するライトモータ12と、ローディングローラ3を駆動させるロードモータ13と、マスターカッター5を駆動させるカッターモータ14、及びプレスローラ10の印圧を変化させる印圧可変モータ15と連結され、これらに駆動信号を出力する。
更に、制御装置32は、メインモータ21の回転数を計測するためのエンコーダ(回転角度検出手段)16と、ドラム1が基準位置に存在するかどうかを検出する角度基準センサ17と、マスター9の供給切れを検出するマスター有無センサ8と、ドラム1に供給する製版済みのマスター9がマスター待機位置に送られたことを検出するマスター待機センサ4と、マスターカッター5が待機状態にあるか否かを検出するカッターHP(ホームポジション)センサ18と、印圧可変モータ15によりプレスローラ10に加えられる印圧を検出する印圧HPセンサ19と連結され、これらの検出信号を入力する。
そして、マスターロール11より送られたマスター9がサーマルヘッド6で製版されると、この製版されたマスター9の先端部がドラム1に設けられたクランプ版2に達した位置でドラム1にクランプされ、ドラム1に着版されるようになっている。
図6は、制御装置32の詳細な構成を示すブロック図である。同図に示すように、制御装置32は、主制御を行うCPU41と、システムプログラム及び後述する対応テーブルを記憶するROM42と、各種のデータを記憶保存するRAM43と、エンコーダ16より出力されるパルス数及びパルスの発生時間に基づいてドラム1の回転速度を求めるカウンタ/タイマ44と、各種のデータに基づいて、割り込み制御を行う割り込みコントローラ45と、各種機器及びセンサとの間でデータの授受を行う入出力部46と、を備えている。
また、入出力部46は、ドライバ21aを介して上記したメインモータ21と連結され、ドライバ12aを介してライトモータ12と連結され、ドライバー13aを介してロードモータ13と連結され、ドライバー14aを介してカッターモータ14と連結され、ドライバー15aを介して印圧可変モータ15と連結されている。
更に、入出力部46は、エンコーダ16と、角度基準センサ17と、マスター有無センサ8と、マスター待機センサ4と、カッターHPセンサ18、及び印圧HPセンサ19に連結されている。
次に、上記のように構成された本実施形態に係る孔版印刷装置の作用を、図7(a)、(b)に示す動作説明図を用いて説明する。なお、図7(a)は図5に示した状態からドラム1が約180度回転した状態、同図(b)は更に若干角度回転した状態を示しており、図7では制御装置32と連結されるモータ、センサ類を省略して記載している。
孔版印刷が開始されると、まず図5に示すマスターロール11よりマスター9がドラム1側に送り出され、サーマルヘッド6にて製版される。
その後、この製版済みのマスター9はローディングローラ3によりドラム1側に送り出され、マスター9の先端部がドラム1に設けられたクランプ版2に達すると、クランプ版2が動作してマスター9の先端部をドラム1に固定する。
次いで、制御装置32の制御下で、図2に示したメインモータ21が回転駆動し、ドラム1を図5に示す矢印Y11の方向(図2の矢印Y1の方向)に回転させると、マスター9はドラム1に徐々に巻き付けられ着版される。
その後、図7(a)に示すように、ドラム1が約180度回転し、クランプ版2がプレスローラ10と対向する位置に達すると、図4に示すようにカム28の頂部領域28aとカムフォロワー29とが接触し、この時点でソレノイド30が通電してプレスレバー23を開放するので、プレスバネ24の付勢力がこのプレスレバー23に加えられる。
次いで、カム28の頂部領域28aがカムフォロワー29を通過すると、プレスバネ24の付勢力によりプレスシャフト22が図1中の矢印Y3の方向に回転し、図7(b)に示すように、プレスローラ10がドラム1と接触して回転する。
この際、給紙装置(図示省略)より、ドラム1とプレスローラ10との間に印刷用紙が供給され、且つ、ドラム1内部よりインクが滲出して、マスター9による最初の印刷物、即ちファーストプリントが出力される。更に、角度基準センサ17により検出されるドラム1角度の基準位置と、エンコーダ16より検出されるドラム1の回転に伴うパルス数に基づいてドラム1の回転角度を求めることができるので、制御装置32では、ドラム1の回転角度が所望の角度となったところで、カッターモータ14に駆動指令信号を出力してマスターカッター5を駆動させることにより、マスターロール11より供給されるマスター9を切断する。
そして、本実施形態では、このマスター9の切断位置の精度を向上させるために、以下に示す処理を行っており、以下詳述する。
制御装置32は、メインモータ21をサーボ制御することにより、ドラム1が所望する基準速度で回転するように制御している。また、ドラム1が回転している際に、プレスローラ10がドラム1と接触するドラム1の回転角度になると、ドラム1の回転速度に変化が生じる。即ち、図4に示したように、ドラム1と共に回転するカム28の頂部領域28aのピーク点がカムフォロワー29と接触し、その後この頂部領域28aの側辺L1がカムフォロワー29と接触しながらカム28が回転すると、このときのカム28の回転速度がプレスバネ24の付勢力により加速され、結果としてドラム1の回転速度が増加することになる。
このときの速度の増加は、プレスバネ24の付勢力、即ち、プレスローラ10による印圧に応じて変化する。つまり、印圧が大きいときには、ドラム1の回転速度は大きく加速され、印圧が小さいときには、ドラム1の回転速度は小さく加速される。
従って、カム28のピーク点(以下、「点S」という)がカムフォロワー29を通過した後においては、ドラム1の回転速度は、基準速度で回転するとは限らず、速度変化が発生する。そして、制御装置32がカッターモータ14に駆動指令を出力し、実際にマスターカッター5が作動して切断するまでには所定の応答時間が存在し、通常はこの応答時間を考慮して駆動指令を出力するようにしているが、ドラム1の回転速度が変化すると、この応答時間内に進むマスター9の長さが変化してしまい、結果としてマスター9を均一な長さで切断することができなくなってしまう。
本実施形態では、ドラム1の速度変化を検出し、この速度変化に応じた補正角度を求め、基準速度時におけるマスターカッター5の起動角度に対して、補正角度分だけ補正した角度でマスターカッター5を起動させることにより、ドラム1の回転速度が基準速度に対して変化した場合であっても、マスターカッター5によるマスター9の切断位置が正確な位置となるように制御する。
図6に示した制御装置32のROM42は、通常時におけるドラム1の回転速度と、プレスローラ10が基準となる印圧でドラム1に接触した際の速度変化分を加味したドラム1の回転角度に対する速度パターンを、基準速度として予め記憶している。
更に、ROM42には、ドラム1がこの基準速度で回転したした場合の、マスターカッター5を起動させる角度が設定されており、制御装置32は、エンコーダ16の検出信号により求められるドラム1の回転角度がこの起動角度に達した時点でカッターモータ14に指令信号を出力して、マスターカッター5を起動させ、マスター9を切断する。
また、ROM42には、プレスローラ10による印圧(ドラムの回転速度を変化させる条件)の変化、及び、カム28の点Sを通過することにより、ドラム1の回転速度が基準速度に対して変化した場合の、基準速度に対する速度変化量とマスターカッター5の起動角度の補正量との対応関係を示す対応テーブルが記憶保存されている。即ち、プレスローラ10による印圧及び基準速度に対する速度変化量と、マスターカッター5の起動角度の補正量との関係は、演算、或いは実測により予め求めておくことができるので、求められたデータを対応テーブルとしてROM42に記憶保存している。この対応テーブルは、例えば、図11に示す如くのデータとして記憶保存されている。
従って、印圧HPセンサ19によりプレスローラ10の印圧、及びドラム1の速度変化量を求めることができれば、上記の対応テーブルを参照することにより、マスターカッター5の起動角度の補正量を得ることができ、この補正量を加味してマスターカッター5を起動させれば、マスター9を精度良く切断することができる。
以下、図8を用いて具体的に説明する。図8は、ドラム1の回転速度が基準速度よりも速くなったときの挙動を示す特性図であり、横軸はドラム1の回転角度を示している。そして、同図(a)は基準速度Vと実際のドラム1の回転速度V1の変化を示し、(b)はドラム1が基準速度で回転しているときのマスターカッター5の起動角度を示し、(c)は(b)の位置でマスターカッター5を起動させたときに実際にマスター9が切断される角度を示し、(d)は回転速度がV1に示す特性で変化したときの補正したマスターカッター5の起動角度を示し、(e)は(d)の位置でマスターカッター5を起動させたときに実際にマスター9が切断される角度を示している。
そして、同図(a)の点線で示すように、ドラム1の回転速度が基準速度Vである場合には、この基準速度V及びマスターカッター5の応答時間に基づいて、マスターカッター5の起動角度を求めることができるので、同図(c)に示すように、所望する角度pでマスター9を切断することができる。
また、同図(a)の点Sは、カム28の頂部領域28aのピーク点がカムフォロワー29と接する角度を示しており、制御装置32は、点Sを通過した後の2点、即ち、点A、点Bでのドラム1の回転速度を求める。速度データは、エンコーダ16で検出されるパルス数をカウンタ/タイマ44によりカウントすることにより求めることができる。そして、各点A、Bにおける速度データに基づいて、ドラム1の速度変化量を求める。
次いで、この速度変化量、及び印圧HPセンサ19により求められる印圧を前述したROM42に記憶されている対応テーブルに当てはめることにより、マスターカッター5の起動角度の補正量を求める。そして、制御装置32は、この補正角度分だけ早い時点で、マスターカッター5を起動させる。
そして、求められた補正角度がθ1である場合には、図8(d)に示すように、同図(b)の通常時のマスターカッター5の起動角度よりもθ1だけ早い角度となる位置でマスターカッター5を起動させる。すると、マスターカッター5は、同図(e)に示すように、同図(c)に示す通常時よりも早い角度となる位置で起動を開始することになり、このときのドラム1の回転速度は、基準速度よりも速くなっているので、結果として、所望する角度pの位置でマスター9を切断することができる。
その結果、ドラム1の回転速度が基準速度に対して変化した場合であっても、確実に所望の角度pでマスター9を切断することができ、マスター9の長さを均一にすることができるのである。
また、図8に示した例では、点Sを通過してドラム1の回転速度が増加しつつあるとき(即ち、加速度が正であるとき)におけるマスターカッター5の起動タイミングの補正角度を求める場合について説明したが、ドラム1の回転速度が減少しつつあるとき(即ち、加速度が負であるとき)であっても、上記と同様の方法でマスターカッター5の起動タイミングの補正角度を求めることができる。
つまり、図4に示したように、カム28のピーク点(点S)がカムフォロワー29を通過し、この頂部領域28aの斜面によりドラム1の回転速度が増加すると、その後、同図の点Eがカムフォロワー29と接触する位置で、プレスローラ10が印刷用紙及び着版されたマスター9を介してドラム1を押圧するので、ドラム1の回転速度は減速傾向に転じる。また、ドラム1を回転させるメインモータ21は、基準速度で回転するようにサーボ制御されるので、回転速度が基準速度よりも速くなった場合には、これを元の速度に戻す方向に制御される。
このため、図8(a)に示す点Eに示す角度にて、ドラム1の回転速度が減速度(負の加速度)で低下し、その後基準速度に戻る。
本実施形態では、基準速度でドラム1が回転しているときのマスターカッター5の起動角度が点Eを超える角度である場合でも、上記と同様の方法を用いて、マスターカッター5の起動位置の補正量を求めることができる。
これは、点Eの角度は装置の構造から予め求められるデータであるので、図8(a)に示した点A、Bにおける速度が求められれば、これらの速度及びプレスローラ10による印圧に基づく点Eを超えた後のドラム1の減速度がほぼ決定する。従って、プレスローラ10による印圧、及び点A、Bの速度に対するマスターカッター5の起動位置の補正量を、対応テーブルとしてROM42に記憶保存し、求められた点A、Bにおける各速度データをこの対応テーブルに当てはめることにより、補正角度を求めることができる。
以下、これを図9に示す特性図を参照しながら説明する。図9は図8と同様に、(a)は基準速度Vと実際のドラム1の回転速度V1の変化を示し、(b)はドラム1が基準速度で回転しているときのマスターカッター5の起動角度を示し、(c)は(b)の角度でマスターカッター5を起動させたときに実際にマスター9が切断される角度を示し、(d)は回転速度がV1で示す特性で変化したときの補正したマスターカッター5の起動角度を示し、(e)は(d)の角度でマスターカッター5を起動させたときに実際にマスター9が切断される角度を示している。
そして、図9(b)に示すように、ドラム1が基準速度で回転しているときの、マスターカッター5の起動タイミングが、ドラム1が加速から減速に転じる点Eの角度を超えた位置である場合であっても、ROM42に記憶されている対応テーブルを参照することにより、同図(d)に示すように、マスターカッター5を起動させる角度の補正量θ2を求めることができ、補正した角度でマスターカッター5を起動させることにより、同図(e)に示すように、所望する角度pでマスター9を切断することができる。
こうして、ドラム1が減速度を持って速度低下する場合であっても、確実にマスターカッター5の起動位置の補正量を求めることができるので、マスター9の長さを均一にすることができる。
更に、上記した実施形態では、ドラム1の回転速度が予め設定されている基準速度よりも速くなった場合の挙動について説明したが、プレスローラ10による印圧が小さい場合等には、点Sを通過した後のドラム1の回転速度が、基準速度よりも遅くなることがあり得る。この場合においても、上記と同様の手順で、マスターカッター5の起動タイミングを補正することができる。以下、図10に示す特性図を参照して、ドラム1の回転速度が基準速度よりも遅いときの、マスターカッター5の起動タイミングを補正する動作について説明する。
図10は、図8と同様に、(a)は基準速度Vと実際のドラム1の回転速度V2の変化を示し、(b)はドラム1が基準速度で回転しているときのマスターカッター5の起動角度を示し、(c)は(b)の角度でマスターカッター5を起動させたときに実際にマスター9が切断される角度を示し、(d)は回転速度がV2に示す特性で変化したときの補正したマスターカッター5の起動角度を示し、(e)は(d)の角度でマスターカッター5を起動させたときに実際にマスター9が切断される角度を示している。
そして、図10(a)に示すように、点A、Bにおけるドラム1の回転速度V2が基準速度Vよりも小さくなった場合には、同図(d)、(e)に示すように、基準速度Vで回転している時におけるマスターカッター5の起動角度に対し、ROM42に記憶されている対応テーブルを参照して得られる補正角度θ3だけ遅れた角度で、マスターカッター5を起動させることにより、所望の切断角度pでマスター9を切断することができる。
このようにして、本実施形態に係る孔版印刷装置では、カム28のピーク点(点S)がカムフォロワー29を通過した後に生じるドラム1の回転速度の変化により、基準速度よりも速くなった場合、或いは遅くなった場合であっても、このときの速度変化、及びプレスローラ10による印圧を検出し、これらのデータをROM42に記憶されている対応テーブルに当てはめることにより、マスターカッター5を起動させるタイミングの補正量を求め、この補正角度分だけ早い位置または遅れた位置でマスターカッター5を起動させる。従って、マスター9を確実に所望する位置で切断することができる。
その結果、マスター9の長さが長いことによる材料の無駄を回避することができ、且つマスター9が短いことによる印刷品質の低下を防止することができる。
以上、本発明の孔版印刷装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
例えば、上記した実施形態では、点Sを通過した後の点A、Bの2点の速度を検出し、検出された各速度データに基づいて基準速度に対する加速度を求める構成としたが、3点以上の速度を検出して加速度を求めるようにしても良い。測定点が多くなるほど加速度の検出精度が向上するので、より正確に補正角度を求めることができる。
更に、上記した実施形態では、点A、Bの2点の速度を検出し、且つ、印圧HPセンサ19によりプレスローラ10による印圧を検出し、これらの各データを、予め設定した対応テーブルに当てはめることにより、補正量を求める例について説明したが、印圧データ、或いは速度データのうちのいずれか一方のみを用いて補正量を求めるようにすることも可能である。
即ち、ROM42に予め記憶する対応テーブルとして、点A、Bの速度データと補正量との関係を示すデータを備え、点A、Bの速度データのみを用いてマスターカッター5の起動位置の補正量を求めるようにしても良い。また、対応テーブルとして、プレスローラ10の印圧と補正量との関係を示すデータを備え、印圧データのみを用いてマスターカッター5の起動位置の補正量を求めるようにすることも可能である。
更に、上記した実施形態では、マスターカッター5の基準起動位置に対する補正量を角度データとして求め、この角度分ずれた位置で、マスターカッター5を起動させることにより、マスター9の切断点の位置合わせを高精度に行う例について説明したが、基準起動位置に達する時間を求め、この時間に対する変動時間を補正量として求めることにより、マスター9の切断点の位置合わせを行うようにすることも可能である。