JP4727253B2 - 連続嚥下運動測定装置及び連続嚥下運動測定方法 - Google Patents

連続嚥下運動測定装置及び連続嚥下運動測定方法 Download PDF

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Description

本発明は、人がビール等の飲料を飲み込むときに喉に生ずる嚥下運動の測定装置及び嚥下運動を測定する方法に関する。
人が食物を飲み込む動作に関連して、食物の特性や人の嚥下運動の能力を評価することを目的として実際の嚥下運動を測定する試みがなされている。
嚥下運動、即ち、食物を飲み込む動作を検査・測定する方法としては、VF法(ビデオレントゲン検査法)や超音波検査法などの画像診断法がある。前者は、被験者に造影剤を含む食品を飲み込んでもらい、口腔から咽頭、食道上部にかけてのX線動画像を記録し、観察する。後者は、超音波断層装置を用い、プローブを下顎から頸部にかけて当て、口腔内器官の運動や声帯の内転運動などをリアルタイムで観察・評価する。しかしながら、これらの方法では、画像による直接の診断はできるが、嚥下運動を定量化することが出来ない。従って、治療やリハビリテーションに利用する場合、変化する症状に応じて治療方針を設定するために経時的かつ定量的に症状を評価することが必要であるが、そのような評価を行うことには利用出来ない。また、X線は治療目的以外に健常者には使用することができず、上記X線を用いた検査・測定方法を、例えば、飲料の飲み込み時における喉越し感や食品の飲込み易さ等を研究するための嚥下運動測定に利用することは出来ない。
近年、この点に対処した嚥下運動測定方法として、複数の圧力センサを用いた検出部を前頸部に貼り付け、嚥下時の喉頭の上下運動を定量的に測定する装置が開発され、検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
図1は、食物を飲み込むときの喉頭運動、舌骨上筋群筋電図及び嚥下音を測定するために開発された嚥下運動測定装置1の構成図である。
この装置1は、図示されるように、計測部10と分析部20により構成される。計測部1は圧力センサ11、筋電位計電極12、及びマイクロフォン13を有し、圧力センサ11は歪アンプ14、筋電位計電極12は筋電計15に、また、マイクロフォン13はチャージアンプ16に接続される。
分析部20は歪アンプ14、筋電計15及びチャージアンプ16から出力されるアナログ信号を夫々デジタル信号に変換するA/D変換器21、A/D変換器21からの信号を各種演算処理するパーソナルコンピュータ22からなる。
このシステムは、喉頭の一部である甲状軟骨(いわゆる「喉仏」)の上下運動を圧力センサ11により、舌骨上筋群筋活動を筋電位計電極12により、また嚥下音をマイクロフォン13により、同時に測定するようにしたものである。
圧力センサ11は図2に示すように、左右で対となるセンサを縦方向(上下方向)に3対、計6個のセンサをウレタンホーム11aに固定し、これをレジン基部11bに取り付けたものである。ウレタンホーム11aにはこれを首に装着するときに固定できるように両面テープ11cを貼り付けている。また、レジン基部11bにはバンド11dが取り付けられており、これを用いてセンサが前頸部に位置するように頸部に装着する。
筋電位計電極(表面電極)12は頸二腹筋前腹相当部に貼付し、不関電極(基準電極)は両耳朶に取り付けた。この筋電位計12は物を飲み込むときにどの位筋肉に力がかかるかを計測することができる。計測する筋は舌骨上筋群である。
マイクロフォン13は輪状軟骨の横に位置するように取付ける。
図3は圧力センサ11の前頸部への取付け状態と嚥下運動の検出原理を説明する図である。また、図4は、圧力サンサ、筋電計電極及びマイクロフォンから得られる信号波形を示す。
圧力センサ11は、図3に示すように、3対のセンサのうち一番下のセンサが甲状軟骨の嚥下運動をしていない通常の位置に位置するようにして取り付ける。
図3及び図4を参照して食塊を口腔から咽頭に流しこもうとするときの嚥下運動を説明する。
まず、舌を用いて食塊を口腔から流し込もうとするとき、筋電計出力に現れるように、舌骨上筋群が活動を開始する(p1)。それに続いて喉頭の一部である甲状軟骨が上昇を開始する(図3(a))。それによって、圧力センサ対2の出力電圧が上昇し(p3)、次に圧力センサ対3が上昇する(p4)。喉頭の下方への運動時にはその逆を示し、甲状軟骨がもとの位置に戻る(p7)。マイクロフォンから得られる嚥下音は、出力波形に見られるように、喉頭挙上開始後しばらくして開始する(p8)。
以上のように、嚥下運動測定装置を使用し、食物を飲み込むときの嚥下運動を、咽頭運動、舌骨上筋群筋電図、嚥下音を電気信号として取り出し、これを、例えば、食物の種類によりどのような変化が生じるか、あるいは、飲み込む人によってどのような差異が生じるか等の分析評価への利用可能性が期待されている。
林 豊彦 他、「お粥の性状と嚥下動態の関係−咽頭運動・筋電図・嚥下音の同時計測による評価−」、日本摂食・嚥下リハビリテーション研究会誌6(2):0−0,2002
ところで、食物の中でも、ビール等の飲料では、飲み込む動作に伴って感じる喉越し感、飲み込み易さ・ドリンカビリティーといった感覚も商品の特性を評価するうえで重要な評価項目である。例えば、「ビールは喉越しで味わう」と言われているように喉をゴクゴク鳴らしながら飲むビールは格別である。
このような飲み込み動作に伴う人の感覚を客観的に評価出来るかを検討するため、本発明者らは、上記の嚥下運動測定装置を利用出来ないか検討した結果、上記測定装置を改良してビール等の飲料を「ゴク、ゴク、ゴク・・・・・」と連続的に飲み込む時の喉頭の運動(以下「連続嚥下運動」という)を測定できる装置を開発した。即ち、本発明は上記測定装置の改良にあり、従来の測定装置が1回の飲み込み動作を測定対象にしていたのに対し、本発明では「ゴク、ゴク、ゴク・・・・」という連続嚥下運動を測定できるようにしたものである。
本発明者らの研究によると、連続嚥下運動では、1回の飲み込み動作と異なり喉頭の上下運動の位置がより上方に移動しており、上記測定装置では喉頭の正確な運動を測定出来ないことが確認された。また、上記従来の測定装置の検出部固定方法では1回の飲み込み動作で検出部の位置がずれてしまい、連続動作の測定が不可能になるという問題を有していた。そこで、本発明では、検出部を改良して連続飲み込み動作を測定可能とすると共に、検出部の被験者への固定方法を改良して連続飲み込み動作によって検出部の取付位置がズレないようにしたことにある。
本発明の連続嚥下運動測定装置は、食物の飲込み時における甲状軟骨の上下運動方向に沿って配列された複数の圧力センサと、前記圧力センサを被検者の前頸部に当接して固定するための圧力センサ装着具を備え、
前記圧力センサ装着具は、前記圧力センサを固定する固定手段と、前記固定手段を支持する圧力センサ支持具と、前記圧力センサ支持具を被験者の前頸部に保持する保持バンドを備えることを特徴とする。
本発明の他の態様は、
食物の飲込み時における甲状軟骨の上下運動方向に沿って配列された複数の圧力センサと、前記圧力センサを被検者の前頸部に当接して固定するための圧力センサ装着具を備え、
前記圧力センサ装着具は、前記圧力センサを固定する固定手段と、前記固定手段を支持する圧力センサ支持具と、前記圧力センサ支持具を被験者の前頸部に保持する保持バンドを備えることを特徴とする連続嚥下運動測定装置であって、
前記嚥下運動測定装置は、被検者の舌骨上筋群の筋に作用する力を測定する筋電位計電極と、嚥下音を測定するための振動ピックアップを更に備えた嚥下運動測定装置である。
また、本発明の他の態様は、連続嚥下運動時において甲状軟骨が最上位位置近傍に有ることを認識する圧力センサーを含む複数の圧力センサを支持し、当該圧力センサーを甲状軟骨の上下運動方向に沿って配置する圧力センサ装着具を、前記圧力センサの最下位のセンサが被検者の甲状軟骨の近傍に位置するよう前頸部に当接させて装着する段階と、被検者が飲料を連続して飲むときの各圧力センサからの出力信号の変化を読み取る段階と、前記各圧力センサからの出力信号のピークの周期に基づいて飲料を連続して飲み時の被検者の甲状軟骨の上下動を測定する連続嚥下運動測定方法である。
本発明の他の態様は、被検者の前頸部の頸二腹筋前腹相当部に筋電位測定用表面電極を当接して固定する段階と、被検者が飲料を連続して飲む時の前記表面電極から舌骨上筋群の運動により生じる電気信号を得る段階と、前記得られた電気信号により舌骨上筋群筋の運動量の大きさを判定する段階と、からなる連続嚥下運動測定方法である。
本発明の他の態様は、被検者の前頸部の輪状軟骨の横に位置する部位に振動ピックアップを取り付ける段階と、
被検者が飲料を連続して飲む時の前記振動ピックアップから嚥下音を測定する段階と、 前記嚥下音の測定値のピークの周期を測定する段階と、からなる連続嚥下運動測定方法である。
本発明の他の態様は、食物の飲込み時における甲状軟骨の上下運動方向に沿って配列された複数の反射型光センサと、前記センサを被検者の前頸部に所定間隔を置いて固定するためのセンサ装着具を備え、前記センサ装着具は、前記光センサを固定する固定板と、前記固定板を被験者の前頸部に保持する保持バンドを備えることを特徴とする連続嚥下運動測定装置である。
本発明の他の態様は、上記連続嚥下運動測定装置において、前記反射型光センサは、赤外線発光ダイオードからなる発光素子と、赤外線検出フォトトランジスタからなる。
また、本発明の更なる他の態様は、反射型光センサーを支持し、当該光センサーを甲状軟骨の上下運動方向に沿って配置する光センサ装着具を、前記光センサの最下位のセンサが被験者の甲状軟骨の近傍に位置するよう前頸部に当接させて装着する段階と、被験者が飲料を連続して飲むときの各光センサからの出力信号に基づき前記光センサと前頸部表面との距離を把握する段階と、前記距離の最小となる部位の位置の変化を読み取る段階と、前記最小となる部位の移動周期に基づいて飲料を連続して飲み時の被検者の甲状軟骨の上下動を測定する連続嚥下運動測定方法である。
本発明の連続嚥下運動測定装置及び連続嚥下運動測定方法によれば、連続飲み込み動作を測定可能とすると共に、連続飲み込み動作によって検出部の取付位置がずれることなく、的確な嚥下運動の測定が可能となる。
また、本発明の連続嚥下運動測定装置を使用して飲料を連続的に飲むときの甲状軟骨の運動、舌骨上筋群筋の運動及び嚥下音を的確に計測することが可能となり、またこれらの計測データを被検者の嚥下運動の評価や診断に適用することにより被検者の嚥下能力の診断や食物、飲料の評価や開発に資することができる。
また、反射型光センサを使用する連続嚥下運動測定装置によれば、光センサを使用して非接触により嚥下運動を測定することにより、測定装置の頚部への装着によって生じる頸部を圧迫することがなくなり、より自然な状態で嚥下運動を測定することが可能となる。また、各センサは固定板に取付け、喉頭部とは接触しないため、嚥下運動に伴い、センサ自体が動くことはないため、センサの位置が安定し、高い精度で測定が可能となる。
以下、図面5乃至図13を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図5は、本発明の実施形態に係る嚥下運動を測定する嚥下運動測定装置のブロック構成図である。本実施形態の嚥下運動測定装置100は基本的構成は図1に示した嚥下運動測定装置と同様であり、計測部110と分析部120から構成される。計測部110は圧力サンサ111、小型生体電極112、振動ピックアップ(マイクロフォン)113を有し、夫々、増幅器114,115,116へ接続され、分析部120のアナログ/デジタル変換器121を介してパーソナルコンピュータ122に入力される。
筋電位計表面電極112と振動ピックアップ113は図1の同じであり、 EMG表面電極112は頸二腹筋前腹相当部に貼付し、不関電極(基準電極)は両耳朶に取り付ける。振動ピックアップ113は、嚥下音を測定できるように、前頸部の輪状軟骨(図7参照)の横に位置するように貼り付ける。
嚥下運動測定装置100が嚥下運動測定装置1と異なる点は、以下に述べるように圧力センサ110にある。図6は圧力サンサを頸部に装着するための圧力センサ装着具130を示す。圧力センサ装着具130は顎載置台131aとセンサ取付け部131bを有するプラスティック製のセンサ固定具131と、センサ取付け部131bに固定されたウレタンフォーム132と、センサ固定部に取付けられた装着バンド134を有する。ウレタンフォーム132の前側表面の中央部には縦方向に4個の圧力センサs1,s2,s3,s4が固定されており、その両側には両面接着テープ133が貼着されている。
尚、顎載置台131aはセンサ取付け部131bに対し、軸131cにより回動可能に軸支されており、顎支持台131aの平面の角度を微調整ができるようにしている。
これは、甲状軟骨はそれが大きく突出している人からほとんど目立たないひとまで千差万別であり、特に甲状軟骨の目立たない人の場合は、各センサの出力が明確に得られない場合がある。そのような場合には頭を後ろに少し反らせて喉仏を前に突き出すようにすると甲状軟骨が明確になる場合があり、当該状態を、連続嚥下運動中維持するためにこの角度調整を用いる。 図7は本発明により嚥下運動測定装置100を使用して嚥下運動を測定する場合に圧力センサ装着具130及び筋電計112、振動ピックアップ113を被検者に装着した状態を示す。
図に示すように、圧力センサの前頸部への装着は、図6に示した圧力センサ装着具130を使用して行うが、ウレタンフォームに取付けられた圧力センサs1,s2,s3,s4を前頸部にあてがう。この場合、最下位のセンサs1が甲状軟骨に位置するようにしてあてがい、ウレタンフォームの前面の両面接着テープ133にその位置で固定する。さらに、この状態で、装着バンド134を使用して頸部に固定する。そして、被検者の顎を顎載置台131aに載せる。上述のように取り付けることにより、顎と首とで構成される角度を固定することが出来る。これは、測定中に頭を動かしてしまって、顎と首とで構成する角度が変化すると、甲状軟骨と圧力センサの相対位置がズレてしまい、測定不能となるからである。
また、顎と顎載置台131aとの間に適宜の厚さの低反発性のウレタンフォームを介在させて顎の位置を調整する。また、図示のように、顎載置台131aにゴムひもを取り付け、耳に係合させるようにして顎載置台131aの面を固定できるようにしている。
また、筋電計用の表面電極112は頸二腹筋前腹相当部に貼付し、不関電極(基準電極)は両耳朶に取り付ける。また、振動ピックアップ113は、輪状軟骨の横に位置する部位の頸部に取り付ける。
(実験例)
以上のように各センサ、検出器を取り付けた状態で、被験者にサンプルとして市販の天然水を連続して飲ませ、嚥下運動測定装置の計測の実験を実施した。図8乃至図10は、圧力センサ、筋電位計、振動ピックアップが夫々捉えた計測データを示す。尚、飲む時間は約10秒である。
図8の圧力センサからの出力を見ると、4個のセンサs1,s2,s3,s4の出力の変化が周期的に現れることがわかる。これは、飲料を連続してゴクゴクと飲むときの咽頭(甲状軟骨)の周期的に行われる上下動を表すものである。
図9は筋電位計からの出力を示し、舌骨上筋群の運動が周期的に現われる。なお、2系列の信号が現れているが、これは、左右に取り付けた筋電位計からの2系列の信号を示し、同周期で現れるピークを示している。
図10は振動ピックアップからの出力波形を示し、同様に、嚥下音が周期的に検出されている。
ここで、図11及び前述の図8を参照して、嚥下運動と圧力センサs1,s2,s3,s4の出力の関係について説明する。
物を飲み込むときの甲状軟骨の動きは、気管と食道の切り替えを行う蓋(喉頭蓋)と連動しており、物を飲み込む時には甲状軟骨は上がっていき(気管→食道)、その後もとの位置に戻る(食道→気管)。甲状軟骨の動きは喉の皮膚の突起状態が変わるので、皮膚に付けた圧力センサの出力により甲状軟骨の動きを検知することができる。
図11は、縦方向に整列させた圧力センサs1,s2,s3,s4の出力を甲状軟骨の動きと関連させて模式的に示したものである。物の飲み込みの開始前では甲状軟骨の頂部はセンサs1の位置にあり(図11a)、s1の出力が最も高い状態にある。この時、甲状軟骨の一部はセンサs2にも対応しているため、s2の出力も発生するが、そのレベルはs1よりも低い。そして、飲み込むとき、甲状軟骨が上昇し(図11b)、センサs2,s3,s4に順次出力ピークが移動する。そして、連続してゴクゴク飲むとき(連続嚥下運動)は、図11bの矢印の範囲で甲状軟骨が動く。この実施例では、連続嚥下運動時、甲状軟骨はセンサs2−s4間を移動しており、その移動に応じて各センサの出力ピークが順次現れる。なお、上述した圧力センサs1−s4の出力変化は、検出器の甲状軟骨に対する取付状態によっても異なるが、嚥下運動時における甲状軟骨の移動に応じて各センサが順次出力ピークを発生する状況に変わりはない。
以上の実験により、飲料を連続的に飲み込むときの嚥下運動を電気的に計測することが可能となることがわかった。本実施形態による嚥下運動測定装置おいては、圧力センサは上述の構造の圧力センサ装着具130に取り付けているため、連続して飲み込む場合にしようしても、各センサの位置がずれることがなく、適確に信号の変化を計測することができ、従って、嚥下運動を正確に計測することが可能となる。
次に、上述の連続嚥下運動測定装置を使用して、飲料を連続的に飲込む時の甲状軟骨、舌骨上筋群筋活動量及び嚥下音を測定し、当該測定結果を考察する。
一般に飲料を飲む場合、例えば、飲料が水の場合、ジュースの場合、或いはビールなど、その種類によって感じる喉越し、飲みやすさに違いがあることは誰しも感じることであるが、これを客観的に評価する手法は、未だ確率していない。本発明者らは、上述の嚥下運動測定装置を利用して飲料の喉越し、飲込み易さ、ドリンカビリティの客観的評価について考察した。
先ず、飲料のサンプルとして、天然水、ジュース、ビールを選び、これを上述の本発明による嚥下運動測定装置を使用して複数(10名)の被検者に連続的に飲ませて甲状軟骨上下動時間周期、舌骨上筋群筋活動量、嚥下音時間周期の計測データを得て、その結果を分析した。
先ず、筋電位計の計測値からはビールを飲むときに筋肉にかかる力(舌骨上筋群筋活動量)が分かる。図12は各飲料の10名の被検者の筋活動量の平均値を表したもので、このグラフから水の筋活動量の平均値はジュース、ビールより小さく、水とジュース、水とビールの間に有意差が認められた。つまり、水をゴクゴク飲むときより、ジュースやビールを飲むときの方が筋肉に力がかかっていることがわかる。
この舌骨上筋群筋活動量が小さい方が飲みやすいという意味付けを行うことができ、この観点からすれば、ビール、ジュースは水に比べて飲みにくいということがいえる。一方、この飲みにくさは、舌骨上筋群筋の活発な運動を表すことになり、「スッキリ感」や「のみごたえ感」の指標を確立する上で要素の1つに成り得る可能性がある。
次に、図13は振動ピックアップから得られる嚥下音時間周期(図10におけるピークが現れる周期)の平均値を調べた結果である。水とジュース、水とビールとの間に有意差が認められ、水をゴクゴク飲む時よりもジュース、ビールを飲む時の方が嚥下音時間周期が短くなることが確認された。つまり、水よりもビール、ジュースを飲む時の方が「ゴクゴク」と音がよく鳴ることが示唆された。
飲料を連続的に飲む場合の、「ゴクゴク」という音が頻繁に発生することは、例えば、「ビールは喉越しで味わう」といわれるように、喉をゴクゴク鳴らしながらビールを飲む」感覚に通じるものであり、ビールの「喉越し感」を客観的に表すデータの1つと成り得る可能性が考えられる。
図14は、圧力センサからの計測データに基づいて得られる甲状軟骨上下時間周期と飲料の種類との関係について調べた結果である。ここでは、水、ジュース、ビールについて、被検者10名に「飲みやすさ」についての官能評価を行い(飲みやすい順に順位をつけてもらう)、その順位と甲状軟骨上下時間周期との関係を示したものである。
官能評価の順位は、1位が水、2位がジュース、3位がビールとなった。この官能検査の飲みやすさと甲状軟骨上下時間周期とを比較すると、3位と評価された甲状軟骨上下時間周期が最も長く、1位、2位のサンプルと有意差が認められた。したがって、この甲状軟骨上下時間周期を飲料の「飲みやすさ」の指標を確立する上で要素の1つに成り得る可能性がある。
以上のように、本実施例による連続嚥下運動測定装置は、これを使用して、飲料を連続的に飲むときの甲状軟骨の運動、舌骨上筋群筋の運動及び嚥下音を的確に計測することが可能となり、またこれらの計測データを被検者の嚥下運動の評価や診断に適用することにより被検者の嚥下能力の診断や食物、飲料の評価や開発に資することができる。
上述の例は、飲料のサンプルとして、天然水、ジュース、ビールを選び、舌骨上筋群筋の運動、嚥下音時間周期及び甲状軟骨上下時間周期について調べたものであるが、次に、飲料のサンプルとして、発泡アルコール飲料を種類を変えて実施した実験結果について説明する。発泡性アルコール飲料として、ビールA(飲料A)、ビールB(飲料B)、ビール様アルコール飲料(飲料C)をサンプルとして選び,先ず、各サンプルの特徴を官能検査によって判断することとした。
図15A、図15Bに、飲料A,B,Cの各サンプルについて、被検者10名について実施した官能評価の結果を示す。即ち図15Aに、各被検者によりそれぞれの飲料について、「喉越しのスッキリ感」、「喉越しの爽快感」、「ゴクゴク飲める」、「量が飲めそう」について、評価してもらい、評価の方法として、−2点から+2点の段階で点をつけて評価させたものである。また、図15Bは、「飲みやすい」、「もう1杯のみたい」及び「のみごたえがある」について、同様に評価させた結果である。
当該図15(A)、図15(B)の官能検査結果より、各飲料の特徴を纏めると以下のとおりとなった。
飲料Aについて:
官能検査結果によると、「喉越しのスッキリ感」、「喉越しの爽快感」、「ゴクゴク飲める」、「飲み易い」の評価はマイナスである。一方、「飲み応えがある」についてはサンプルの中で最も高い評価である。即ち、発泡アルコール飲料の中では芳醇で濃厚なタイプということが出来る。
飲料Bについて:
今回の3つのサンプルの中では、「飲み易さ」、「喉越しのスッキリ感」、「喉越しの爽快感」、「ゴクゴク飲める」等、飲み易さに関連する評価は飲料Aよりも高い。しかしながら「飲み応えがある」に関しては飲料Aには及ばないものの飲料Cよりは明らかに高い評価である。即ち、飲み易さと飲み応えという相反する要素が適度にバランスしたものという特徴が明らかになった。
飲料Cについて:
「飲み易さ」、「喉越しのスッキリ感」、「喉越しの壮快感」、「ゴクゴク飲める」、「もう一杯飲みたい」といった飲み易さに係る評価は3サンプル中最も高い。一方、「飲み応えがある」については飲料A,Bに比べて低い評価であった。このことから、当該サンプルは、スッキリとした軽快感の高い飲み易い発泡アルコール飲料という特徴が明らかになった。
次に上述のような夫々異なる特徴を有する各サンプルについて、官能検査に参加した10名の被検者における舌骨上筋群筋の運動、嚥下音時間周期及び甲状軟骨上下時間周期について調べた。
図16は、各飲料A、B、Cについての舌骨上筋群の運動量の平均値を表したものである。当該グラフから、飲むに当たり、喉の筋肉の活動量が大きい順に、飲料A,B,Cとなった。当該舌骨上筋群の運動量が大きいということは上記官能検査の項目である「飲み応えがある」あるいは逆に「飲み易さ」との関連性が予測され、上記官能検査結果である飲料Aの「飲み応えがある」という評価と飲料Cの「飲み易さ」という評価と本舌骨上筋群の運動量との関連性には興味深いものがあることが分かった。
図17は、振動ピックアップから得られる嚥下音時間周期の平均値を調べたものである。この嚥下音時間周期は、図13において説明したように、嚥下音時間周期の短い方が、飲料を飲むときに喉をスムースに流れることを示し、「飲み易い」ことが予測される。当該測定テーターを見ると、飲料A,B,Cの各データには大きな差はないが、「飲み応えがある」飲料Aが大きく、上記官能検査で最も「飲み易い」と評価された飲料Cが最も小さい値となった当該データーとは関連性が有るものと推測される。
図18は、圧力センサの計測データに基づいて得られた甲状軟骨上下時間周期について調べた結果である。グラフに示されるように、飲料C(ビール様アルコール飲料)の周期が最も短く、飲料Bとの差は小さいが、飲料Aが最も長い値となった。当該データーは喉仏の動きのスムースさを評価出来ることが予想されており、当該時間周期が短いほど喉を飲料がスムーズに流れる状況であることが推察され、上記官能検査の結果である「飲み応えがある」飲料A(ビール)の周期が最も長く、「飲み易い」と評価された飲料Cの周期が最も短いという当該データーとの関連性については興味深いものがある。
以上のように、従来、飲料の「飲み応え」、「喉越し感」、「飲みやすさ」など、感覚的に捉えた飲料の評価方法を数値データとして客観的に表す指標の1つと成り得る可能性があり、飲料の開発や飲料の品質表示の指標として利用できる可能性がある。
なお、上記実施形態の連続嚥下運動測定装置は、嚥下運動における喉仏の動きを複数の圧力センサを使用してピックアップした例について述べたものであるが、次に、圧力センサに代えて非接触センサである小型の反射型光センサを用いて嚥下運動の喉仏の動きを測定する第2の実施例について述べる。
先ず、図19により本実施例で使用する反射型光センサを使用する嚥下運動測定システムについて説明する。
嚥下運動測定システムは反射型光センサからなるセンサ部210と、コントロール回路部220と、データ処理部230により構成される。本システムは、下記に示すように、コントロール回路部のパルス発生回路からの出力パルスに応じて光センサより光を発生し、反射面で反射した光を光センサの受光部にて検知し、その光の強度を電圧検出回路で検出・増幅し、A/D変換器を介してパーソナルコンピュータに入力し、その検出電圧からセンサ−反射面からの距離を算出、表示・分析するものである。
センサ部210は発光素子11と受光素子212を備え、発光素子により発光した光を被測定部位に照射し、測定部位により反射した光を受光素子で受光するように構成したものである。尚、本実施例では発光素子として赤外線発光ダイオード(LED)が使用される。
コントロール回路部220はパルス発生回路221と検出回路222を有する。パルス発生回路221無安定マルチバイブレータで矩形波を発生し、それを単安定マルチバイブレータで入力することにより周期10ms、幅0.1msの周期パルスを発生するようにしたもので、このパルスでミラー定電流回路を駆動し、発光素子(LED)を発光させる。
検出回路222は受光素子(フォトトランジスタ)の出力電圧を検出電圧検出回路からなり、サンプルホールド回路と、ノイズ成分を除去するローパスフィルタ(LPF)と、検出電圧を増幅する非反転増幅回路から構成されている。
サンプルホールド回路は、駆動パルスが1のとき、フォトトランジスタ出力をサンプルし、0のときホールドする。その信号から1次のLPFによるサンプルパルとノイズ成分を除去する。尚、そのカットオフ周波数は140Hzとした。
データ処理部230は、A/D変換器231とパーソナルコンピュータ232を有する。
検出回路で検出された出力電圧は、データ処理部230に送られ、A/D変換器231を介してパーソナルコンピュータ232に送られ処理される。
図20、図21は、本実施例で用いる反射型光線センサ210の特性を調べた実験結果を示す。図20のグラフはセンサと反射面と距離を変化させたとき、距離とセンサの出力電圧の関係を示したものである。グラフからわかるように、出力電圧は、距離が離れるに従い、始めは急速に低下するが、それ以上では増加する。出力は距離が1mm付近で最小となった。
当該出力電圧特性から、センサ反射面間距離測定に適した特性は、センサ反射面間距離対出力電圧特性の安定した変化部分、即ち、センサ反射面間距離が1mm未満の出力電圧特性、あるいはセンサ反射面間距離が5mm以上15mm以下の場合の出力電圧特性を利用することが適切であることがわかる。本発明に係る測定の場合、光センサを後述するように前頸部に装着して、非接触で嚥下運動を測定するものであり、しかも、甲状軟骨の高さを考慮すると、上記前者の出力電圧特性を利用することは不可能であることが解る。
従って、本実施例の場合、センサ−甲状軟骨間距離を最低約5mmとし、図20の出力電圧特性の、センサ反射面間距離が5mm以上15mm以下の安定した特性部分を用いることにする。この状態を想定して、センサ−反射面の距離を5mm以上、15mm以下の部分についての出力電圧特性を図21に示す。図21は、横軸に出力電圧、縦軸にセンサ−反射面間の距離として示した特性曲線である。
次に、上述の光センサを人間の喉頭部に装着して測定するための嚥下運動測定装置について説明する。
図22は、本実施例で使用する反射型光センサ210を示す図で、発光素子と受光素子の電極に接続される配線と共に示されている。
図23は、図22に示される光センサを前頸部に装着するための光センサ装着具250のセンサ固定板251を示す。
図24は光センサ装着具250全体を示し、光センサ装着具250は、センサ固定板251とこれに整列して装着される反射型光センサ210と、センサ固定板251を前頸部に固定するためのバンド252からなる。センサ固定板251は撓みのない硬質のものが使用される。センサ固定板251には、光センサ210の両側に柔軟性を持つプラスチックからなるパッド253が取り付けられる。このパッド253は光センサ装着具250を喉頭部に装着したとき、光センサ210を喉頭部表面から一定の間隔を保持する、即ち、非接触の状態にすると共に、喉頭部に安定した状態で装着するためのものである。また、パッド253には光センサ列に沿って遮光用ウレタンフォーム254が固定されており、光センサ251への外光の進入を防ぐようにしている。
本実施例においては、光センサ210は12個使用される。各光センサ210は図19で説明したように、コントロール回路部220からの配線が接続され、受光素子212で受光した得られた出力電圧はデータ処理部に送られる。
図25は図24で示した光センサ装着具250を実際に被験者の前頸部に装着した状態を示す。尚、センサ装着具250の喉頭部への装着に際しては、図26に示すように、光センサ210の列が丁度、喉頭部の位置に整列するようにし、12個の光センサの最下部が、喉頭部の略近傍に位置するようにして装着される。そして、この場合、前述のように、光センサと甲状軟骨との間隔は通常の状態で、5mmの間隔が生じるように設定される。
この状態で、先に説明した実施例と同様に、飲料を連続してごくごくと飲ませ、各光センサの出力値を観察した。尚、図26(a)は嚥下前の喉頭部の位置を、(b)は嚥下後の喉頭部の位置が上昇した状態を示している。
図27は、飲料を連続して飲ませたときの12個の光センサの出力の変化を経時的に示したもので((a)〜(c))である。図中、(a)は飲み込み開始前の状態で、矢印で示す位置でセンサと反射面、即ち前頸部との距離が最も小さいことを示しており、このことは、この部分に喉頭部が位置していることを示している。
次に、(b)は飲み込み開始後の状態を示すもので、センサと喉頭部との最も接近する箇所が矢印の位置に移動している。即ち、喉頭部が飲み込むにつれて、上方に移動した結果を示していると見るこができる。更に(c)は飲み込み開始後、喉頭部が最も上方に位置している状態が計測されている。更に、飲料を連続して飲むときは、図25の(b)〜(c)の変化が繰り返し観察されることとなる。
以上の測定結果から、本実施例の反射型光センサを使用した嚥下運動測定装置によって、前述の圧力センサを使用する嚥下運動測定装置と同様に、被験者の嚥下運動の能力や評価を行うことが可能となる。
本実施例においては、光センサを使用して非接触により嚥下運動を測定することにより、測定装置の頚部への装着によって生じる頸部を圧迫することがなくなり、より自然な状態で嚥下運動を測定することが可能となる。また、各センサは固定板に取付け、喉頭部とは接触しないため、嚥下運動に伴い、センサ自体が動くことはないため、センサの位置が安定し、高い精度で測定が可能となる。
尚、上述の光センサによる嚥下運動測定装置も、前述の実施例と同様に、筋電位計や、振動ピックの検出手段を併用して使用できることは言うまでもない。また、上記個々の検査手段の内、いずれか1つを備えた連続嚥下運動測定装置であっても、本発明の主旨を逸脱するものでない。
従来の嚥下運動測定装置の構成図である。 圧力センサを示す図である。 圧力センサの前頸部への取付け状態と嚥下運動の検出原理を説明する図である。 圧力サンサ、筋電位計表面電極(筋電計)及びマイクロフォンから得られる信号波形を示す図である。 本発明の実施形態に係る嚥下運動を測定する嚥下運動測定装置のブロック構成図である。 圧力センサ装着具を示す図である。 圧力センサ装着具、筋電計、振動ピックアップを被検者に装着した状態を示す図である。 圧力センサが捉えた計測データを示す図である。 筋電位計が捉えた計測データを示す図である。 振動ピックアップが捉えた計測データを示す図である。 嚥下運動と圧力センサの出力の関係を説明する図である。 舌骨上筋群運動量と飲料の関係を示す図である。 嚥下音時間周期と飲料の関係を示す図である。 甲状軟骨の上下運動と飲料との関係を示す図である。 発泡性アルコール飲料の官能検査結果を示す図である。 発泡性アルコール飲料の官能検査結果を示す図である。 舌骨上筋群活動量と発泡性アルコール飲料との関係を示す図である。 嚥下音時間周期と発泡性アルコール飲料の関係を示す図である。 甲状軟骨の上下運動と発泡性アルコール飲料との関係を示す図である。 反射型光センサ使用した本発明の他の実施例に係る嚥下運動測定システムを示す図である。 反射型光線センサの特性を説明する図である。 反射型光センサの特性近似曲線を示す図である。 反射型光センサの外観図である。 反射型光センサをセンサ固定板に取付けた状態を示す図である。 光センサ装着装置を示す図で、(a)は正面図を、(b)はセンサ取付部の部分図である。 光センサ装着装置を被験者に装着した状態を示す図である。 光センサ装着装置を装着した場合の喉頭とセンサの位置関係を示す図である。 光センサの出力と嚥下運動の関係を示す図である。
符号の説明
100 嚥下運動測定装置
110 計測部
111 圧力センサ
112 筋電位計電極
113 振動ピックアップ
114、115、116 アンプ
120 分析部
121 A/D変換器
122 パーソナルコンピュータ
130 圧力センサ装着具
131 圧力センサ固定具
131a 顎載置台
131b センサ取付け部
132 ウレタンフォーム
133 両面接着テープ
200 嚥下運動測定システム
210 センサ部
211 発光素子
212 受光素子
220 コントロール制御部
230 データ処理部
250 光センサ装着装置
251 センサ固定板
253 パッド

Claims (2)

  1. 被験者の前頸部の頸二腹筋前腹相当部に筋電位測定用表面電極を当接して固定する段階と、被験者が飲料を連続して飲み込む時の前記表面電極から舌骨上筋群の運動により生じる電気信号を得る段階と、前記得られた電気信号により骨上筋群の活動量の大きさを判定する段階と、前記判定された舌骨上筋群の活動量に基づき前記飲料の喉越し感を評価する段階と、を有する飲料評価方法。
  2. 前記飲料が発泡性アルコール飲料である請求項1に記載の飲料評価方法。
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