JP4725073B2 - コーティング材組成物及び塗装品 - Google Patents

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Description

本発明は、反射防止被膜等を形成するために使用されるコーティング材組成物、及びこのコーティング材組成物を塗装して反射防止被膜等として形成した塗装品に関するものである。
ディスプレイの最表面に形成される反射防止被膜は、優れた反射防止性能とともに、傷の発生を防止する表面強度(すなわち耐擦傷性)、指紋等の汚れが簡単に除去できる表面撥水・撥油性(すなわち防汚染性)、クリーナー等の各種薬剤に対する耐薬品性が要求される。
被膜屈折率を考慮しない場合には、UV硬化型、EB硬化型の樹脂コーティング材を使用することによって高い表面強度を得ることができるが、一般にUV硬化型、EB硬化型の樹脂は屈折率が高いので、樹脂リッチの被膜では反射防止能を得ることができず、中空シリカ微粒子等の低屈折率フィラーを複合させることが必要になる。そして単層で十分な反射防止能を得るためには中空シリカ微粒子の比率を増やす必要があり、この場合には被膜のマトリクス材料がUV硬化型、EB硬化型の樹脂であっても、十分な表面強度が得られなくなってしまう。また最近のディスプレイ(特に液晶ディスプレイ)の高精細化に伴なって、反射防止被膜のゴミ等の異物による欠点を極力無くさなければならないが、UV硬化型、EB硬化型の樹脂はコーティング後、希釈溶剤が蒸発してもUVあるいはEBが照射されるまでは、濡れたウエット感のある状態であるので、ゴミ等の異物が付着し易い。このため、コーティングゾーンと共に全乾燥ゾーンまでもクリーン度を維持する必要があり、大掛かりな設備が必要となる。
クリーン度を維持する乾燥ゾーンのエリアを小さくするためには、マトリクス形成材料として熱硬化型の樹脂が好ましいが、一般の有機の熱硬化型樹脂は自身の屈折率が高いために、上記と同様に十分な表面硬度を得ることができない。またパーフルオロ樹脂に代表されるフッ素樹脂の屈折率は1.40未満と低いが、樹脂自身に起因して被膜強度が低くなるので、強度を得るためにはアクリル樹脂との複合が必要となって屈折率が高くなり、結局は十分な反射防止能と表面強度を両立させることは難しい。
一方、SiX(Xは加水分解基)の化学式で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物は、アクリル樹脂等の一般の有機樹脂と比較して被膜屈折率が低く、また優れた機械的強度の被膜を期待することができるマトリクス形成材料である。このため、この加水分解性オルガノシランの加水分解物をマトリクス形成材料として用いると、中空シリカ微粒子等の低屈折率フィラーを複合した被膜を形成する場合に、他の一般有機樹脂よりも中空シリカ微粒子の比率を削減することができるものであり、高い表面強度を有する被膜を形成し易い(特許文献1参照)。
しかし、加水分解性オルガノシランをマトリクス形成材料に用いる場合、高温で熱処理をしない限り、マトリクス形成材料の被膜は多孔質状になる。マトリクス形成材料にさらにフッ素置換アルキル基含有シリコーン成分を導入することによって、水分が被膜内に浸入することはある程度抑制できるが、家庭用液状石鹸、市販液晶クリーナーのように界面活性剤と水が共存するクリーナーにおいては、被膜の多孔質内部に水と界面活性剤が浸入することを防ぐことができず、被膜屈折率が上昇して反射防止性能の低下を招くおそれがある。
また、フッ素置換アルキル基含有シリコーンと加水分解性オルガノシランの加水分解物からなるマトリクス形成材料と、シリカ中空微粒子等の中空無機化合物微粒子とを含有するコーティング材組成物が提案されている。このものでは、フッ素置換アルキル基含有シリコーン成分によって、形成される被膜自体に撥水性を付与することができ、被膜が充分緻密化していなくて多孔質であっても、水分や酸・アルカリ等の薬品による被膜への浸入を防止することができ、優れた反射防止機能、耐擦傷性、防汚染性を有する反射防止被膜を形成することができるものである(特許文献2参照)。
この特許文献2のものにおいて、コーティング材組成物を塗装するにあたっては、160℃、30分の条件で加熱して乾燥するようにしている。しかし、最近のディスプレイは、フラット化が進み、従来のブラウン管のようにガラス表面に直接反射防止被膜を形成するのではなく、プラスチックフィルムの表面に反射防止被膜をコーティングして反射防止フィルムを作製し、ディスプレイのガラス表面にこの反射防止フィルムを貼ることが多くなっている。また液晶ディスプレイでは最表面の偏光板保護フィルムの上に反射防止被膜を形成している。このように反射防止被膜を形成する基材がプラスチックフィルムであると、反射防止被膜の乾燥温度は80〜120℃で、かつロールtoロールの連続コーティングを行うので、乾燥時間は長くても数分である。このように加熱処理を160℃、30分という条件で行なうことができないことが多く、特許文献2のものにおいても加熱処理の条件が低く、被膜の緻密化が不十分であると、被膜内部への水の浸入を防ぐ効果を十分に期待することはできない。
特開2003−201443号公報 特開2002−79616号公報
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、加熱処理条件が低くても、水等の浸入を抑制したコーティング被膜を形成することができるコーティング材組成物及び塗装品を提供することを目的とするものである。
本発明に係るコーティング材組成物は、外殻が金属酸化物で形成された中空微粒子及びマトリクス形成材料を含有してなるコーティング材組成物であって、マトリクス形成材料は、下記(A)の加水分解物と下記(B)の共重合加水分解物の少なくとも一方と、下記(C)の加水分解性オルガノシランを含有して成ることを特徴とするものである。
(A)一般式がSiX4(Xは加水分解基)…(1)
で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物
(B)式(1)の加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物
(C)下記式(2)又は下記式(3)で示される撥水基を直鎖部に備えると共にアルコキシ基が結合したシリカ原子を分子内に2個以上有する加水分解性オルガノシラ
Figure 0004725073
(式(2)においてR1、R2はアルキル基、nは2〜200の整数)
−(−CF2−)n−…(3)
(式(3)においてnは2〜20の整数)
また前記コーティング材組成物において、加水分解性オルガノシラン(C)が、下記式(4)で示されるオルガノシランであることが好ましい
Figure 0004725073
(式(4)においてR1、R2、Rはアルキル基、mは1〜3の整数、nは2〜200の整数)
また前記コーティング材組成物において、加水分解性オルガノシラン(C)が、式(5)の構造を備えた直鎖部に、アルコキシ基が結合したシリカ原子が3個以上結合したオルガノシランであることが好ましい
−(−CH2−)n−(−CF2−)p−(−CH2−)n−…(5)
(式(5)においてn,pは1〜20の整数)
また前記コーティング材組成物において、マトリクス形成材料に、式(6)で表されるシリコーンジオール(D)を含有することが好ましい
Figure 0004725073
(式(6)においてnは20〜100の整数)
本発明に係る塗装品は、前記コーティング材組成物の硬化被膜を、基材の表面に備えて成ることを特徴とするものである。
マトリクス形成材料に加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)の少なくとも一方を含有するので、屈折率が低い硬化被膜を形成することができるものであり、中空微粒子の配合量を少なくしても屈折率が低く優れた反射防止性能を有する硬化被膜を形成することができると共に、高い表面強度の硬化被膜を形成することができるものである。また、マトリクス形成材料に加水分解性オルガノシラン(C)を含有するので、この加水分解性オルガノシラン(C)はアルコキシ基が結合した2個以上のシリカ原子(シリコーンアルコキシド)が被膜の表面に配位して、撥水基がブリッジ状に被膜の表面に結合し、硬化被膜の表面を撥水性にすることができると共に、硬化被膜の表面の緻密化が進んで多孔質の空孔を小さくすることができるものであり、この結果、加熱処理条件が低い場合でも、硬化被膜の内部に水等が浸入することを抑制することができ、被膜屈折率が上昇して反射防止性能が低下することを防ぐことができるものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明において用いるマトリクス形成材料は、加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)の少なくとも一方と、加水分解性オルガノシラン(C)からなるものであり、加水分解物(A)と加水分解性オルガノシラン(C)の組合わせからなるもの、共重合加水分解物(B)と加水分解性オルガノシラン(C)の組合わせからなるもの、加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)と加水分解性オルガノシラン(C)の組合わせからなるものを用いることができる。
本発明において用いる加水分解物(A)は、
一般式がSiX(Xは加水分解基) …(1)
で表わされる4官能加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる4官能加水分解物(4官能シリコーンレジン)である。この4官能加水分解性オルガノシランとしては、下記式(3)に示されるような4官能オルガノアルコキシシランを挙げることができる。
Si(OR) …(3)
上記式(3)のアルコキシル基「OR」中の「R」は1価の炭化水素基であれば特に限定されるものではないが、炭素数1〜8の1価の炭化水素基が好適であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基等を例示することができる。アルコキシド基中に含有されるアルキル基のうち、炭素数が3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基等のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。
また4官能加水分解性オルガノシランの加水分解基Xとしては、上記のアルコキシル基の他に、アセトキシ基、オキシム基(−O−N=C−R(R'))、エノキシ基(−O−C(R)=C(R')R”)、アミノ基、アミノキシ基(−O−N(R)R')、アミド基(−N(R)−C(=O)−R')(これらの基においてR、R'、R”は、例えばそれぞれ独立に水素原子又は一価の炭化水素基等である)や、ハロゲン等を挙げることができる。
そして、4官能シリコーンレジンである加水分解物(A)を調製するにあたっては、上記4官能オルガノアルコキシシラン等の4官能加水分解性オルガノシランを加水分解(部分加水分解も含む)することによって行なうことができる。ここで、得られる4官能シリコーンレジンである加水分解物(A)の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、中空シリカ微粒子など中空微粒子に対して、より少ない割合のマトリクス形成材料によって硬化被膜の機械的強度を得るためには、重量平均分子量は200〜2000の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量が200より小さいと被膜形成能力に劣るおそれがあり、逆に2000を超えると硬化被膜の機械的強度に劣るおそれがある。
また本発明において用いる共重合加水分解物(B)は、加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物である。
加水分解性オルガノシランとしては、上記の式(1)の4官能加水分解性オルガノシランを用いるものであり、この4官能加水分解性オルガノシランとしては上記の式(3)の4官能オルガノアルコキシシランを挙げることができる。
またフッ素置換アルキル基含有加水分解性オルガノシランとしては、下記式(7)〜(9)で表される構成単位を有するものが好適である。
Figure 0004725073
(式中、Rは炭素数1〜16のフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキル基を示し、Rは炭素数1〜16のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、またはアルコキシ基、水素原子あるいはハロゲン原子を示す。またXは−(C)−を示し、aは1〜12の整数、b+cは2aであり、bは0〜24の整数、cは0〜24の整数である。このようなXとしては、フルオロアルキレン基とアルキレン基とを有する基が好ましい。)
そして加水分解性オルガノシランとフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとを混合し、加水分解させて共重合することによって、共重合加水分解物(B)を得ることができるものである。加水分解性オルガノシランとフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの混合比率(共重合比率)は、特に限定されるものではないが、縮合化合物換算の質量比率で、加水分解性オルガノシラン/フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシラン=99/1〜50/50の範囲が好ましい。共重合加水分解物(B)の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、200〜5000の範囲が好ましい。200未満であると被膜形成能力が劣り、逆に5000を超えると被膜強度が低下するおそれがある。
また、本発明において用いる加水分解性オルガノシラン(C)は、撥水性(疎水性)の直鎖部を備え、アルコキシ基が結合したシリカ原子を分子内に2個以上有するものであり、このシリコーンアルコキシドは直鎖部の少なくとも両末端に結合していることが望ましい。加水分解性オルガノシラン(C)において、シリコーンアルコキシドは2個以上有しておればよく、シリコーンアルコキシドの個数の上限は特に限定されない。
加水分解性オルガノシラン(C)としては、直鎖部がジアルキルシロキシ系のものと、直鎖部がフッ素系のものを用いることができる。
ジアルキルシロキシ系の加水分解性オルガノシラン(C)の直鎖部は上記の式(2)のように形成されるものであり、直鎖部の長さはn=2〜200の範囲が好ましい。nが2未満(すなわちn=1)であると、直鎖部の撥水性が不十分であり、加水分解性オルガノシラン(C)を含有させることによる効果を十分に得ることができない。逆にnが200を超えると、他のマトリクス形成材料との相溶性が悪くなる傾向があり、硬化被膜の透明性に悪影響を及ぼしたり、硬化被膜に外観ムラが発生するおそれがある。
このジアルキルシロキシ系の加水分解性オルガノシラン(C)としては、上記の式(4)で示されるものを用いることができるものであり、特に限定されるものではないが、その具体例として次の式(10)〜(12)のものを挙げることができる。
Figure 0004725073
またフッ素系の加水分解性オルガノシラン(C)の直鎖部は上記の式(3)のように形成されるものであり、直鎖部の長さはn=2〜20の範囲が好ましい。nが2未満(すなわちn=1)であると、直鎖部の撥水性が不十分であり、加水分解性オルガノシラン(C)を含有させることによる効果を十分に得ることができない。逆にnが20を超えると、他のマトリクス形成材料との相溶性が悪くなる傾向があり、硬化被膜の透明性に悪影響を及ぼしたり、硬化被膜に外観ムラが発生するおそれがある。
このフッ素系の加水分解性オルガノシラン(C)としては、特に限定されるものではないが、その具体例として次の式(13)〜(16)のものを挙げることができる。
Figure 0004725073
上記のなかでも、(15)や(16)のように直鎖部にアルコキシ基が結合したシリカ原子が3個以上結合したオルガノシラン(C)が特に好ましい。このようにアルコキシ基が結合したシリカ原子を3個以上有することによって、撥水性の直鎖部が被膜の表面により強固に結合し、硬化被膜の表面を撥水性にする効果を高く得ることができるものである。
そして上記の加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)の少なくとも一方と、加水分解性オルガノシラン(C)とを含有してマトリクス形成材料が形成されるものであり、マトリクス形成材料において、加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)の少なくとも一方と、加水分解性オルガノシラン(C)との配合比率は、特に限定されるものではないが、縮合化合物換算の質量比率で、((A)と(B)の少なくとも一方)/(C)=99/1〜50/50の範囲に設定するのが好ましい。
一方、本発明において外殻が金属酸化物で形成された中空微粒子としては、中空シリカ微粒子を用いることができる。中空シリカ微粒子は外殻の内部に空洞が形成されたものであり、このようなものであれば特に限定されるものではないが、具体的には次のようなものを用いることができる。例えば、シリカ系無機酸化物からなる外殻(シェル)の内部に空洞を有した中空シリカ微粒子を用いることができる。シリカ系無機酸化物とは、(A)シリカ単一層、(B)シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物の単一層、及び(C)上記(A)層と(B)層との二重層を包含するものをいう。外殻は細孔を有する多孔質なものであってもよいし、細孔が後述する操作により閉塞されて空洞を密封したものであってもよい。外殻は、内側の第1シリカ被覆層及び外側の第2シリカ被覆層からなる複数のシリカ系被覆層であることが好ましい。外側に第2シリカ被覆層を設けることにより、外殻の微細孔を閉塞させて外殻を緻密化したり、さらには、外殻で内部の空洞を密封した中空シリカ微粒子を得ることができるものである。
第1シリカ被覆層の厚みは1〜50nm、特に5〜20nmの範囲とすることが好ましい。第1シリカ被覆層の厚みが1nm未満であると、粒子形状を保持することが困難となって、中空シリカ微粒子を得ることができないおそれがあり、また第2シリカ被覆層を形成する際に、有機珪素化合物の部分加水分解物等が上記核粒子の細孔に入り、核粒子構成成分の除去が困難となるおそれがある。逆に、第1シリカ被覆層の厚みが50nmを超えると、中空シリカ微粒子中の空洞の割合が減少して屈折率の低下が不十分となるおそれがある。さらに、外殻の厚みは、平均粒子径の1/50〜1/5の範囲にあることが好ましい。第2シリカ被覆層の厚みは、第1シリカ被覆層との合計厚みが上記1〜50nmの範囲となるようにすればよく、特に外殻を緻密化する上では、20〜49nmの範囲が好適である。
空洞には中空シリカ微粒子を調製するときに使用した溶媒及び/又は乾燥時に浸入する気体が存在している。また、空洞には空洞を形成するための前駆体物質が残存していてもよい。前駆体物質は、外殻に付着してわずかに残存していることもあるし、空洞内の大部分を占めることもある。ここで、前駆体物質とは、第1シリカ被覆層を形成するための核粒子からその構成成分の一部を除去した後に残存する多孔質物質である。核粒子には、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる多孔質の複合酸化物粒子を用いる。無機酸化物としては、Al、B、TiO、ZrO、SnO、Ce、P、Sb、MoO、ZnO、WO等の1種又は2種以上を挙げることができる。2種以上の無機酸化物として、TiO−Al、TiO−ZrO等を例示することができる。なお、この多孔質物質の細孔内にも上記溶媒あるいは気体が存在している。このときの構成成分の除去量が多くなると空洞の容積が増大し、屈折率の低い中空シリカ微粒子が得られ、この中空シリカ微粒子を配合して得られる透明被膜は低屈折率で反射防止性能に優れる。
本発明に係るコーティング材組成物は、上記のマトリクス形成材料と中空微粒子を配合することによって調製することができるものである。コーティング材組成物において、中空微粒子とその他の成分との重量割合は、特に限定されるものではないが、中空微粒子/その他の成分(固形分)=95/5〜50/50の範囲になるように設定するのが好ましく、より好ましくは95/5〜75/25である。中空微粒子が95より多いと、コーティング材組成物によって得られる硬化被膜の機械的強度が低下するおそれがあり、逆に中空微粒子が50より少ないと、硬化被膜の低屈折率を発現させる効果が小さくなるおそれがある。
またコーティング材組成物には、外殻の内部が空洞ではないシリカ粒子を添加することができる。このシリカ粒子を配合することによって、コーティング材組成物によって形成される硬化被膜の機械的強度を向上させることができるものであり、さらには表面平滑性と耐クラック性をも改善することができるものである。このシリカ粒子の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、粉体状の形態でもゾル状の形態でもよい。シリカ粒子をゾル状の形態、すなわちコロイダルシリカとして使用する場合、特に限定されるものではないが、例えば、水分散性コロイダルシリカあるいはアルコール等の親水性の有機溶媒分散性コロイダルを使用することができる。一般にこのようなコロイダルシリカは、固形分としてのシリカを20〜50質量%含有しており、この値からシリカ配合量を決定することができる。このシリカ粒子の添加量は、コーティング材組成物中における固形分全量に対して、0.1〜30質量%であることが好ましい。0.1質量%未満ではこのシリカ粒子の添加による効果が得られないおそれがあり、逆に30質量%を超えると硬化被膜の屈折率を高くするように悪影響を及ぼすおそれがある。
そして、上記のようにして調製したコーティング材組成物を基材の表面に塗装して被膜を形成すると共にこの被膜を乾燥硬化させることによって、表面に低屈折率を有する硬化被膜が形成された塗装品を得ることができる。なお、コーティング材組成物が塗装される基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラスに代表される無機系基材、金属基材、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートに代表される有機系基材を挙げることができ、また基材の形状としては、板状やフィルム状等を挙げることができる。さらに、基材の表面に1層以上の層が形成されていても構わない。
コーティング材組成物を基材の表面に塗装するにあたって、その方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート等の通常の各種塗装方法を選択することができる。
また、基材の表面に形成した被膜を乾燥させた後に、これに熱処理を行なうのが好ましい。この熱処理によって、硬化被膜の機械的強度を向上させることができるものである。熱処理の際の温度は、特に限定されるものではないが、80〜150℃の比較的低い温度で1〜10分程度処理することが好ましい。このように低温・短時間で熱処理ができるので、高温・長時間による熱処理の場合のように、基材の種類が制限されることがなくなるものである。ここで本発明において、マトリクス形成材料には加水分解性オルガノシラン(C)を含有しており、この加水分解性オルガノシラン(C)はアルコキシドが結合した2個以上のシリカ原子(シリコーンアルコキシド)が被膜の表面に配位して、撥水基がブリッジ状に被膜の表面に結合し、硬化被膜の表面を撥水性にすることができると共に、硬化被膜の表面の緻密化が進んで多孔質の空孔を小さくすることができるものである(このメカニズムは仮説である)。従って、上記のように低温で熱処理を行なっても、硬化被膜の内部に水等が浸入することを抑制することができるものであり、水分の浸入によって被膜屈折率が上昇して反射防止性能が低下することを防ぐことができるものである。
基材の表面に形成する硬化被膜の膜厚は、使用用途や目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、50〜150nmの範囲が好ましい。ここで、硬化被膜の屈折率と膜厚の積が光学膜厚であり、波長λの光が最低反射率になるためには、硬化被膜の光学膜厚が1/4λに設定される必要がある。そして反射防止の対象となる波長λ=540nmの光が最低反射率になるためには、硬化被膜の屈折率が1.35の場合には、硬化被膜の膜厚は100nmであることが必要である(光学膜厚=1.35×100=135≒1/4λ)。また硬化被膜の屈折率が1.42の場合には、硬化被膜の膜厚は95nmであることが必要である(光学膜厚=1.42×95=134.9≒1/4λ)。このように反射防止被膜として光学設計する場合、硬化被膜の膜厚は50〜150nmの範囲が好ましいものである。
しかして、本発明に係るコーティング材組成物を用いれば、低屈折率の硬化被膜を容易に形成することができ、反射防止用途に好適である。例えば、基材の屈折率が1.60以下の場合には、この基材の表面に屈折率が1.60以上の硬化被膜を形成してこれを中間層とし、さらにこの中間層の表面に、本発明に係るコーティング材組成物による硬化被膜を形成するのが有効である。中間層を形成するための硬化被膜は、公知の高屈折率材料を用いて形成することができ、またこの中間層の屈折率は1.60以上であれば、本発明に係るコーティング材組成物による硬化被膜との屈折率の差が大きくなり、反射防止性能に優れた反射防止基材を得ることができるものである。また反射防止基材の硬化被膜の着色を緩和するために、中間層を屈折率の異なる複数の層で形成してもよい。反射防止の用途としては、例えば、反射防止用のフィルムや、ディスプレイの最表面、自動車のサイドミラー、フロントガラス、サイドガラス、リアガラスの内面、その他車両用ガラス、建材ガラス等を挙げることができる。
また、本発明のコーティング材組成物には、マトリクス形成材料の一部としてシリコーンジオール(D)をさらに含有させるようにしてもよい。シリコーンジオール()は、上記の式(6)で表わされるジメチル型のシリコーンジオールである。上記の式(6)において、ジメチルシロキサンの繰り返し数nは20〜100の範囲が好ましい。nが20未満であると、後述のような摩擦抵抗の低減の効果を十分に得ることができず、逆にnが100を超えると、他のマトリクス形成材料との相溶性が悪くなる傾向があり、硬化被膜の透明性に悪影響を及ぼしたり、硬化被膜に外観ムラが発生するおそれがある。シリコーンジオール()の配合量は特に限定されるものではないが、コーティング材組成物の全固形分(中空微粒子やマトリクス形成材料の縮合化合物換算固形分)に対して1〜10質量%の範囲が好ましい。
このようにコーティング材組成物にマトリクス形成材料の一部としてシリコーンジオール含有させると、硬化被膜にはこのシリコーンジオールが導入されるので、硬化被膜の表面摩擦抵抗を小さくすることができる。従って、硬化被膜の表面への引っ掛かりを低減して、傷が入り難くなるようにすることができ、耐擦傷性を向上することができるものである。特に本発明で用いるジメチル型のシリコーンジオールは、被膜を形成した際には被膜の表面にシリコーンジオールが局在し、被膜の透明性を損なわないものである(ヘーズ率が小さい)。またジメチル型のシリコーンジオールは本発明で用いるマトリクス形成材料と相溶性に優れ、しかもマトリクス形成材料のシラノール基と反応性を有するために、マトリクスの一部として硬化被膜の表面に固定されるものであり、単にシリコーンオイル(両末端もメチル基)を混入しただけの場合のように硬化被膜の表面を拭くと除去されてしまうようなことがなく、長期に亘って硬化被膜の表面摩擦抵抗を小さくして耐擦傷性を長期間維持することができるものである。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、特に断らない限り、「部」はすべて「質量部」を、「%」は、後述する反射率及びヘーズ率を除き、すべて「質量%」を表す。また、分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機種として東ソー(株)のHLC8020を用いて、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その換算値として測定したものである。
(実施例1)
テトラエトキシシラン208部にメタノール356部を加え、さらに水18部及び0.01Nの塩酸水溶液18部(「HO」/「OR」=0.5)を混合し、これをディスパーを用いてよく混合した。この混合液を25℃恒温槽中で2時間撹拌して、重量平均分子量を850に調整した加水分解物(A)(4官能シリコーンレジン)を得た。
次に、加水分解性オルガノシラン(C)として、撥水性の直鎖部がフッ素系の
(HCO)Si−(CH)−(CF)−(CH)−Si(OCH)
を用い、加水分解物(A)に加水分解性オルガノシラン(C)を14.7部加え、この混合物を25℃恒温槽中で1時間撹拌して、マトリクス形成材料を得た。
また中空シリカ微粒子として中空シリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(固形分20%、平均一次粒子径約60nm、外殻厚み約10nm、触媒化成工業社製)を用いた。そして上記のマトリクス形成材料に中空シリカ微粒子を、中空シリカ微粒子/マトリクス形成材料(縮合化合物換算)が固形分基準で25/75の質量比となるように添加し、さらに全固形分が1%になるようにIPA/酢酸ブチル/ブチルセロソルブ混合液(希釈後の溶液の全量中の5%が酢酸ブチル、全量中の2%がブチルセロソルブになるように予め混合された溶液)で希釈した。
次に、ジメチルシリコーンジオール(式(6)のn≒40)を酢酸エチルで固形分1%になるように希釈した溶液を、中空シリカ微粒子とマトリクス形成材料(縮合物換算)の固形分の和に対して、ジメチルシリコーンジオールの固形分が2%になるように添加することによって、コーティング材組成物を調製した。
このコーティング材組成物を1時間放置した後に、予めUV−オゾン洗浄機(ウシオ電機社製エキシマランプ「型式H0011」)で表面洗浄した、アクリル板(旭化成社製「デラグラスTMHA」、両面ハードコート処理、ハードコート屈折率1.52、ヘーズ0.10)のハードコート面に、ワイヤーバーコーターによって塗装して膜厚が約100nmの被膜を形成し、被膜を酸素雰囲気下で80℃で5分間熱処理することによって、硬化被膜を得た。
(実施例2)
加水分解性オルガノシラン(C)として、撥水基が式(2)で表わされ、R、R、Rがともにメチル基であるもの(GE社製)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製し、そしてこのコーティング材組成物を実施例1と同様にして塗装すると共に、熱処理することによって、硬化被膜を得た。
(実施例3)
加水分解性オルガノシラン(C)として、撥水基が式(2)で表わされ、R、R、Rがともにメチル基であり、実施例2の加水分解性オルガノシラン(C)とは構造が異なる(GE社製)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製し、そしてこのコーティング材組成物を実施例1と同様にして塗装すると共に、熱処理することによって、硬化被膜を得た。
(比較例1)
実施例1と同様にして加水分解物(A)を得た。そして加水分解性オルガノシラン(C)を配合せず、加水分解物(A)のみをマトリクス形成材料として用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製し、そしてこのコーティング材組成物を実施例1と同様にして塗装すると共に、熱処理することによって、硬化被膜を得た。
上記の実施例1〜3及び比較例1で得た硬化被膜について、反射率、ヘーズ率、屈折率、機械的強度及び耐薬品性を測定し、硬化被膜の性能評価を行なった。結果を表1に示す。
(5°相対反射率)
分光光度計(日立製作所製「U−4100」)を使用して、最小反射率を測定した。
(ヘーズ率)
ヘーズメータ(日本電色工業社製「NDH2000」)を使用して測定した。
(屈折率)
簡易エリプソメーター(FILMTRICS社製「F20」)で屈折率を導出した。
(機械的強度)
摩耗試験機(新束科学社製「HEIDON−14DR」、スチールウール#0000、250kg荷重、10往復)で硬化被膜の表面を擦り、硬化被膜に発生する本数を測定した。
(耐薬品性)
住友スリーエム社製「ScotchオフィスクリーナーOC−100M」の液滴を硬化被膜の表面に滴下し、18mm×18mmのスライドガラスでカバーした状態で室温で2時間放置した後、スライドガラスを外してクリーナーを水洗し、乾いた布で水分を拭き取った。その後、アクリル板の裏面をラッカーペイント(黒・つや消し)で黒くし、硬化被膜のクリーナー滴下部分と、その周辺(クリーナーを滴下していない部分)とを比較して、反射色に変化がないかを目視で確認した。
Figure 0004725073
表1にみられるように、各実施例のものは、ヘーズ率及び屈折率が小さく、また耐薬品性に優れることが確認される。

Claims (5)

  1. 外殻が金属酸化物で形成された中空微粒子及びマトリクス形成材料を含有してなるコーティング材組成物であって、マトリクス形成材料は、下記(A)の加水分解物と下記(B)の共重合加水分解物の少なくとも一方と、下記(C)の加水分解性オルガノシランを含有して成ることを特徴とするコーティング材組成物。
    (A)一般式がSiX4(Xは加水分解基)…(1)
    で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物
    (B)式(1)の加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物
    (C)下記式(2)又は下記式(3)で示される撥水基を直鎖部に備えると共にアルコキシ基が結合したシリカ原子を分子内に2個以上有する加水分解性オルガノシラン
    Figure 0004725073
    (式(2)においてR 1 、R 2 はアルキル基、nは2〜200の整数)
    −(−CF 2 −) n −…(3)
    (式(3)においてnは2〜20の整数)
  2. 加水分解性オルガノシラン(C)が、下記式(4)で示されるオルガノシランであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング材組成物。
    Figure 0004725073
    (式(4)においてR1、R2、Rはアルキル基、mは1〜3の整数、nは2〜200の整数)
  3. 加水分解性オルガノシラン(C)が、式(5)の構造を備えた直鎖部に、アルコキシ基が結合したシリカ原子が3個以上結合したオルガノシランであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング材組成物。
    −(−CH2−)n−(−CF2−)p−(−CH2−)n−…(5)
    (式(5)においてn,pは1〜20の整数)
  4. マトリクス形成材料に、式(6)で表されるシリコーンジオール(D)を含有することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載のコーティング材組成物。
    Figure 0004725073
    (式(6)においてnは20〜100の整数)
  5. 請求項1乃至のいずれかに記載のコーティング材組成物の硬化被膜を、基材の表面に備えて成ることを特徴とする塗装品。
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