JP4720344B2 - 鋼管、該鋼管を用いたパイプライン - Google Patents

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Description

本発明は、ガス・石油パイプライン等に用いる鋼管、および該鋼管を用いたパイプラインに関する。
ガスパイプライン、石油パイプラインはエネルギー供給の根幹として建設が進められてきている。近年では、特に天然ガス需要の増大を背景とし、消費地から遠く離れた地にガス田が開発されることが多い。このため、近年の新しいパイプラインは長距離化の傾向を呈し、大量輸送のために大径化、高圧化の傾向が強まってきている。
このような新しいパイプラインでは、高強度鋼管を適用して大口径でも薄い管厚で高い内圧に耐えられることが要求されるようになってきている。管厚を薄くすることによって、現地における溶接費やパイプの輸送費が低減されパイプラインの建設および操業のトータルコストの低減が図られるからである。
ところで、鋼管は引張荷重に対しては材料の延性を十分に活かせるが、圧縮負荷に対しては断面形状が薄肉円筒であるため座屈が発生する。そして、一様伸びが10%前後であるのに対し、圧縮負荷による座屈歪は1〜2%程度であり、パイプラインの塑性設計では、局部座屈歪が支配因子となる可能性が高い。特に管厚の薄い鋼管では局部座屈歪が小さくなる傾向があり、局部座屈歪を大きくすることが重要となる。
そこで、局部座屈歪を大きくして座屈性能を高めるために以下のような提案がなされている。
すなわち、試験片長手方向を鋼管の軸方向に一致させて採取した引張試験片を用いて引張試験を行い、得られた公称応力−公称歪曲線において、降伏点からオンロード歪量が5%までのいずれの歪量においても、公称応力/公称歪の勾配が正となる鋼管は、勾配が0または負となる鋼管に比較して局部座屈を起こす限界の外径/管厚比が著しく大きく、座屈歪を起こしにくいとの知見から、軸方向の引張試験により得られる公称応力−公称歪曲線において、降伏点からオンロード歪が5%までのいずれの歪においても公称応力/公称歪の勾配が正となるような鋼管とする(特許文献1参照)。
特開平9−196243号公報
上記特許文献1に示されるように、従来、鋼管の局部座屈歪を大きくするには鋼材の応力歪曲線がいわゆる連続硬化型(詳細は後述)であることが要求されていた。
近年においては、このような考え方がパイプライン業界では一般的であり、逆に連続硬化型でない降伏棚のあるものでは大きな局部座屈歪が得られないとして、そのような材料はパイプライン用の鋼管には不向きであると認識されていた。
ここで、連続硬化型応力歪曲線とは、材料の引っ張り試験によって得られる応力歪曲線において降伏棚が生じることなく、歪の増加に伴って応力が増加して滑らかな曲線となるものである(図1参照)。
また、降伏棚型応力歪曲線とは、材料の引っ張り試験によって得られる応力歪曲線において線形域の後に降伏棚を生ずるものをいう(図1参照)。なお、降伏棚型応力歪曲線における直線で示される弾性域を線形域、応力が増加することなく歪が増加する領域を降伏棚域、降伏棚終点後の滑らかな曲線領域を歪硬化域、歪硬化域が開始する歪を歪硬化開始歪という(図2参照)。
なお、図2から分かるように、歪硬化開始歪は降伏棚終点歪に一致する。したがって、本明細書において降伏棚に着目したときには降伏棚終点歪と言い、歪硬化域に着目したときには歪硬化開始歪と言うことがあるが、これらは同一の値である。
上記のように降伏棚型の応力歪曲線を有する鋼管(降伏棚モデルの鋼管)の局部座屈歪は、連続硬化型の応力歪曲線を有する鋼管(連続硬化モデルの鋼管)よりも小さいというのが一般的な認識である。このため、パイプラインの建設のように座屈性能が高い鋼管を得ようとする場合、降伏棚モデルの鋼管は、工学的な判断に基づいて自動的に排除されているのが現状である。
なお、連続硬化モデルの鋼管は、鋼管の化学成分や造管前の鋼板の圧延条件を制御し、あるいは造管中や造管後の鋼管に熱処理や加工処理を施すことによって得られる。
しかしながら、鋼管の製造途中においては、連続硬化型を維持していたとしても、例えば防食のためのコーティング処理のように熱処理を加えることによって、材質が変化してしまい連続硬化型を維持できなくなってしまう場合もある。
このような場合には、降伏棚モデルとなってしまい、従来の考えであれば、このような鋼管は局部座屈性能が低いとして例えばパイプライン用の鋼管としては不向きであるとされることになる。
しかしながら、このようなものを一律排除するのは現実的でない。かといって、従来では降伏棚モデルを一律に排除する考え方しかなかったために、降伏棚モデルのうちのどのようなものであればパイプライン用に使用できるかが不明であった。
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、降伏棚モデルであっても例えばパイプラインのような局部座屈性能が要求される用途に適用できる鋼管を提供することを目的としている。
また、上記鋼管を用いたパイプラインを得ることを目的としている。
発明者はまず、降伏棚モデルの場合には何ゆえに局部座屈性能が低いのかを検討した。
パイプラインにおいて最も考慮すべき点は曲げ変形に対する変形性能である。しかし、曲げ変形に対する変形性能を示す曲げ座屈歪に関する理論式は存在しない。そこで、発明者は圧縮力を受ける鋼管の圧縮力に対する変形性能を示す圧縮局部座屈歪を表す基礎式である下記(1)式に着目した。
Figure 0004720344
(1)式において、εcrは圧縮局部座屈歪、νはポアソン比、tは管厚、Dは管径をそれぞれ示している。また、Escrは、降伏棚モデルの応力歪曲線を示した図3において、原点と座屈点とを結ぶ線の傾き(以下、「割線係数」という)を示し、ETcrは座屈点における応力歪曲線の傾き(以下、「接線係数」という)を示している。また、図中εは歪硬化開始点における歪を表す。但し、図3において、歪硬化域における応力歪曲線は、任意の関係を表現するために曲線で描いている。
(1)式において、塑性変形する場合のポアソン比νとして0.5を代入して整理すると下記(2)式となる。
Figure 0004720344
鋼管の圧縮局部座屈歪εcrと管径管厚比(D/t)の関係が前述の(2)式に示されている。そこで、横軸に管径管厚比(D/t)を取り、縦軸に圧縮局部座屈歪εcrを取って(2)をグラフ表示すると図4のようになる。
図4から分かるように、鋼管のD/tが小さい(厚肉鋼管)場合には圧縮局部座屈歪εcrは大きく、鋼管のD/tの増加、すなわち鋼管の薄肉化と共に圧縮局部座屈歪εcrが減少する。そして、圧縮局部座屈歪εcrが歪硬化開始歪εHと一致したところで圧縮局部座屈歪εcrは急激に減少し、以降の圧縮局部座屈歪εcrは降伏歪εyとほぼ同じ歪となる。
図4から降伏棚モデルの鋼管の座屈性能が低い理由として、圧縮局部座屈歪εcrが歪硬化開始歪εHと一致したところで圧縮局部座屈歪は急激に減少してしまうことが上げられる。
これは、降伏棚領域では、応力が増加しない状態で変形が進行するため、降伏棚領域で座屈する鋼管は降伏歪の直後に座屈波形が成長し、圧縮局部座屈歪は近似的には降伏歪となってしまうからである。
この圧縮局部座屈歪εcrが歪硬化開始歪εHと一致したときのD/tを(D/t)crと表記すると、鋼管の管径管厚比D/tは(D/t)cr よりも大きくできない、すなわち薄肉にできないことになる。
ところが、実際にパイプラインに使用されている連続硬化型モデルの鋼管のD/tは45〜75である。そのため、従来の降伏棚モデルの鋼管をこれと同様にD/t=45〜75にしようとすると、降伏棚領域で座屈が発生してしまい、大きな変形性能を発揮できなくなってしまう。そのため、従来の降伏棚モデルの鋼管をパイプラインに用いるとすればD/tを小さくする、すなわち管厚を大きくしなければならない。しかし、管厚を大きくすることは前述したようにコストの面から受け入れることができない。
このような事情から、パイプライン用鋼管のように高変形性能が期待される場合に降伏棚モデルの材料が敬遠されるのである。
以上検討したように、降伏棚モデルの鋼管の変形性能が低い理由として降伏棚領域で座屈する鋼管の圧縮局部座屈歪は近似的には降伏歪となってしまうことが挙げられる。とすれば、降伏棚モデルの鋼管の変形性能を高めるためには、降伏棚領域で座屈が発生しないようにすればよく、そのためには歪硬化開始歪εHを小さくする、すなわち降伏棚の長さを短くすればよい。すなわち、図5に示すように、歪硬化開始歪εHをより小さいεH´になるようにすることで、(D/t)crをより大きい(D/t)cr´にすることができ、同じ肉厚の場合には変形性能を高めることができ、同じ変形性能のときには鋼管の肉厚を薄くすることができる。ここで、歪硬化開始歪εHを小さくするとは、すなわち降伏棚の長さを短くすることであり、換言すれば降伏棚の終点歪値を小さくすることである。
このように、降伏棚の長さを短くすることで、(D/t)crよりも管径管厚比が大きい場合であっても(D/t)cr´よりも小さい場合には、降伏棚で局部座屈することなく、すなわち歪硬化領域で局部座屈が発生するようにでき、一定の変形性能を確保できる(図5参照)。
発明者は降伏棚長さを短くする他に変形性能を高めることができないかについてさらに検討を重ねた。
そして、発明者は(2)式によれば、ETcr/Escrが大きくなることで圧縮局部座屈歪εcrが大きくなることに着目した。図3からわかるように、ETcrは応力歪曲線における傾きであることから、降伏棚終点近傍において応力歪曲線の傾きを大きくすることが圧縮局部座屈歪εcrを大きくすることになることの知見を得た。
以上のように応力歪曲線の形状を制御することで、変形性能を向上させることが可能となる。ここでいう応力歪曲線の形状の制御とは、降伏棚を短くすることと、歪硬化域の初期接線勾配を大きくすることである。
以上が応力歪曲線の制御によって鋼管の変形性能を向上できることの(2)式に基づく図式的な説明である。発明者はこのことを数式によって理論的に説明すべく前述の基礎式(2)式を変形して、降伏棚モデルの圧縮局部座屈歪を表す数式を案出し、さらに検討を進めた。
以下、この点につき詳細に説明する。
図3に示す応力歪曲線の歪硬化域における応力と歪の関係を、傾きがmEの直線で表すと図6のようになり、歪硬化域における応力と歪の関係、接線係数Eおよび割線係数Eは次式のように表される。
Figure 0004720344
(6)式の歪を圧縮局部座屈歪εcrで表して(2)式に代入すると次式が得られる。
Figure 0004720344
(7)式を圧縮局部座屈歪εcrについて解くと、歪硬化領域における鋼管の圧縮局部座屈歪は(8)式のように表される。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
上記より降伏棚モデルの鋼管の圧縮局部座屈歪εcrは下記の数式(11)で表すことができる。
Figure 0004720344
εcrHを(11)式に代入して、そのときのD/tを(D/t)crとして(D/t)crについて整理すると、下記(12)式となる。
Figure 0004720344
(12)式に着目すると、εHを小さくすると、(D/t)crが大きくなることが分かる。このことは、降伏棚の長さを短くすれば(D/t)crが大きくなることを意味しており、前述の図式的な説明の結論と一致している。
また、(11)式に着目すると、mを大きくするとεcrが大きくなることが分かる。このことは、応力歪曲線の歪硬化開始歪近傍における応力歪曲線の傾きを大きくすれば鋼管の変形性能が向上することを意味しており、この点でも前述の結論と一致している。
以上のように、応力歪曲線の形状を制御すること、すなわち降伏棚を短くすることと、歪硬化域の初期接線勾配を大きくすることによって鋼管の変形性能が向上することが数式においても裏付けられている。
以上のように発明者は応力歪曲線の形状を制御することによって、圧縮力を受ける降伏棚モデルの鋼管変形性能を向上させることができるとの知見を得、この知見に基づいて実鋼管サンプルによる材質試験およびコンピュータによるFEM解析を行い、前記知見を実証した。
さらに、これら圧縮力に関する理論が鋼管に曲げ力が作用する場合にも成立するのではないかとの推定のもと、前記実鋼管サンプルについてコンピュータによるFEM解析を行った。これによって、降伏棚モデルの鋼管が曲げ力を受ける場合において優れた変形性能を発揮するための条件を見出し、本発明を完成したものであり、具体的には以下のような構成を備えたものである。
(1)本発明の鋼管は、材料の引っ張り試験によって得られる応力歪曲線が、線形域を表す直線と降伏棚を表す直線と歪硬化域を表す曲線で表される、または線形域を表す直線と歪硬化域を表す曲線で表される(降伏棚の長さが0の場合)鋼管であって、降伏棚の終点歪が降伏歪以上1%未満であり、かつ歪が1.0%、2.0%のときの応力をそれぞれσ1.0、σ2.0としたときにσ2.01.0が1.04以上となることを特徴とするものである。
σ2.01.0が1.04以上となるようにするとは、概念的には応力歪曲線の傾きを所定値よりも大きくすることと同じ意味である。そして、応力歪曲線の傾きを大きくすることが鋼管の変形性能を向上させることについては、前述の圧縮力が作用する場合の基礎式を用いた理論に裏付けられている。もっとも、この請求項は曲げ変形についてのものであるが、圧縮の理論が曲げ変形についても同じ傾向にあるのではないかとの着想から、実管に基づく実験に基づいて得られたものでありその詳細は実施の形態1において説明する。
なお、従来の降伏棚モデルの鋼材を用いた場合には、管径・管厚比をD/t=45〜75に設定すると降伏棚領域で局部座屈が発生してしまい、大きな変形性能が得られなかったが、本発明の鋼管であれば降伏棚モデルでありながら、管径・管厚比をD/t=45〜75に設定することが可能となり、鋼管の薄肉化が実現できる。
つまり、本発明の鋼管は、降伏棚型の応力歪曲線を有する鋼管であって、管径・管厚比がD/t=45〜75であり、降伏棚の終点歪が1%未満であると共に歪が1.0%、2.0%のときの応力をそれぞれσ1.0、σ2.0としたときにσ2.01.0が1.04以上となることを特徴とするものを含む。
)上記()に記載のものにおいて鋼管表面の防食保護層を形成するためのコーティング処理がなされていることを特徴とするものである。
コーティング処理とは、鋼管が腐食しないように管の外表面にエポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等からなる防食保護層を施すことである。防食保護層で鋼管を被覆するため、あらかじめ誘導加熱装置等で鋼管を所定の温度に加熱したのち、樹脂を吹きつけ、焼き付け塗装が行われる。
コーティング温度に関し、一般的に高温コーティングと言われる230℃以上の加熱を伴うコーティングを行うことによって連続硬化モデルが降伏棚モデルに変化する場合があるが、本発明はこのような場合であっても連続硬化モデルと同等の変形性能を発揮するものであり、本発明はこのような230℃以上の加熱を伴うコーティングを行ったものを含む。つまり、連続硬化モデルの鋼管に対して230℃以上の加熱を伴う高温コーティングを行うことによって降伏棚モデルに変化したものであって、降伏棚の終点歪が1%未満であり、かつ歪が1.0%、2.0%のときの応力をそれぞれσ1.0、σ2.0としたときにσ2.01.0が1.04以上となる鋼管を含む。
)本発明に係るパイプラインは、上記(1)又は(2)の何れかに記載の鋼管を接続して形成されたことを特徴とするものである。
本発明に係る鋼管は、降伏棚型の応力歪曲線を有する鋼管であって、降伏棚の終点歪が1%未満であり、かつ歪が1.0%、2.0%のときの応力をそれぞれσ1.0、σ2.0としたときにσ2.01.0が1.04以上となるようにしたことにより、降伏棚領域で座屈する鋼管のように降伏歪の直後に座屈波形が成長することがなく、連続硬化モデルと同様の変形性能を発揮する。
上記した解析的検討によって、発明者等は降伏棚終点の歪を小さくし及び又は歪硬化域の初期勾配を増加させるように応力歪特性を制御することにより、降伏棚型の応力歪特性を有する鋼管であっても高変形性能を得られるという知見を得た。一旦、かかる知見が得られたからには、この条件を満たす鋼管の製造方法を種々見出していくことは可能である。
すなわち本発明は、解析的検討から得られたものであり、どのような製造方法で製造したものであっても同様に高変形性能を発揮し、本質的に製造方法や鋼の組織・化学成分などには限定されない。
もっとも、解析的検討によって得られた降伏棚終点の歪を小さくし及び又は歪硬化域の初期勾配を増加させることの具体的な数値を特定することは必要であり、そのため発明者等は、まず、検討中の実鋼管サンプルについて材質試験及びコンピュータによる解析を行い具体的な数値を特定したので、これを以下の実施形態1において説明する。そして、次に、本発明が実現できるものであることを示すために実施形態2において、本発明に係る鋼管を実現する鋼化学成分・製法等の一例を説明する。
[実施の形態1]
本実施形態においては、発明者等が収集した未公開の実鋼管サンプルを解析し、検討した結果を説明する。なお、サンプルには、製造条件等が把握しきれていないものも含まれるが、本発明を十分に説明するためあえて本実施形態を設けた。したがって、本実施形態では鋼の化学成分や製造方法の記載は省略し、実際に本発明を製造できる条件例(組成、製造)については、実施の形態2で説明する。
本実施の形態においては、まず連続硬化モデルおよび降伏棚モデルの実鋼管サンプル13種類について材質試験を行い、これらの応力歪曲線を求めた(表1参照)。そして、これら13種類の実鋼管サンプルについてコンピュータによるFEM解析を行い、圧縮力が作用する場合と曲げ力が作用する場合について局部座屈歪を求めた(表2〜表5参照)。さらに、応力歪曲線の特徴と局部座屈歪との関係からいかなる条件であれば降伏棚モデルの鋼管が連続硬化モデルの鋼管と同等の変形性能を発揮できるのかについて検討した。
以下、詳細に説明する。
表1は13種類の実鋼管サンプルについて、各鋼管の材料について材質試験を行って得られた応力歪曲線の特徴を図表にまとめたものである。表1におけるNO.1〜NO.3がいわゆる連続硬化モデルの材料であり、NO.4〜NO.13がいわゆる降伏棚モデルの材料である(表1におけるSSカーブの形状の欄参照)。したがって、以下の説明では特にNO.4〜NO.13のパイプに着目してこれらのうちどのような条件であればNO.1〜NO.3(特にNO.1)の連続硬化モデルと同等の変形性能を発揮できるかを検討する。
Figure 0004720344
まず、表1の内容を詳細に説明する。
表1には各パイプについて、表の最上欄に示すように「パイプの分類」、「SSカーブ(応力歪線図)の形状」、「降伏棚の終点歪(%)」、「σ0.5(MPa)」、「σ1.0(MPa)」、「σ1.5(MPa)」、「σ2.0(MPa)」、「σ2.00.5」、「σ2.01.0」、「σ0.52.0」、「σ1.02.0」の項目が記載されている。
なお、「パイプの分類」における「製造まま」(NO.1)とは、鋼管を製造したままでコーティングや溶接入熱を加えていないものである。
また、「232℃加熱」(NO.2、NO.3)とは、コーティング処理を行ったパイプであってその処理温度が232℃であることを意味する。
また、「240℃加熱」(NO.4、NO.5、NO.9、NO.10、NO.11、NO.12)、「250℃加熱」(NO.13)
も同様にコーティング処理を行ったパイプであるが、その処理温度がそれぞれ240℃、250℃であることを意味する。
また、「溶接入熱」(NO.6、NO.7、NO.8)とは、製造ままでコーティング処理を行っていないが、溶接による熱影響によって230℃〜240℃に温度上昇したことを意味し、このような熱影響を受けた部分をサンプルとしている。
また、「SSカーブの形状」とは応力歪曲線の形状のことであり、「SSカーブの形状」の欄における「RH」とは連続硬化型の応力歪曲線(RH:Round-House)のことであり、「LE」とは降伏棚型の応力歪曲線(LE:Luders Elongation)のことである。「SSカーブの形状」の欄から分かるように、NO.1〜NO.3がいわゆる連続硬化モデルの材料であり、NO.4〜NO.13がいわゆる降伏棚モデルの材料である。
「降伏棚の終点歪(%)」の欄における「なし」とは降伏棚がないことを意味しており、これが連続硬化モデルの特徴である。
また、「降伏歪」とは降伏棚の終点歪が降伏歪に等しいことを意味しており、「SSカーブの形状」としては図7に示すように降伏点のあとすぐに歪硬化域となるものであり、降伏棚の長さが0であると観念できることから「LE」(降伏棚型)に属する。もっとも、通常の降伏棚型とは異なり降伏棚の長さが0の場合である。
また、「0.7」等の具体的な数字が記載されているものはその数字の値が降伏棚の終点歪であることを意味している。
表1の最上段における「σ0.5(MPa)」とは、歪値が0.5のときの応力値を示しており、「σ1.0(MPa)」、「σ1.5(MPa)」、「σ2.0(MPa)」も同様の表記方法であり、それぞれ歪値が1.0、1.5、2.0のときの応力値を示している。
表1に示した各パイプについて、パイプの外径を762.0mm、管厚を15.6mmに設定したときの圧縮座屈歪をコンピュータによるFEM解析によって計算した結果を表2に、同パイプについての曲げ座屈歪のFEMによる計算結果を表3に、それぞれ示す。
なお、表2、表3には各パイプの圧縮座屈歪または曲げ座屈歪をNO.1の「製造まま」の計算値で除算することで無次元化した圧縮座屈歪比または曲げ座屈歪比を示している。つまり、圧縮座屈歪比=(各パイプの圧縮座屈歪)/(No.1パイプの圧縮座屈歪)または曲げ座屈歪比=(各パイプの曲げ座屈歪)/(No.1パイプの曲げ座屈歪)であり、連続硬化型であるNo.1パイプ(「製造まま」)を他のパイプの座屈性能の評価の基準にしている。
これは、降伏棚モデルの鋼管が連続硬化モデルの鋼管に対してどの程度の変形性能を有しているかを明らかにするためである。
また、表2、表3では圧縮座屈歪および圧縮座屈歪比、曲げ座屈歪および曲げ座屈歪比は、それぞれ内圧をかけない場合(P=0)と、実際の使用時に相当する内圧(P=12MPa)をかけたときのそれぞれの計算結果を示している。
なお、表3における曲げ座屈歪の計算値は、管軸方向にL=2D(L:ゲージ長さ、D:パイプ外径)の平均値である。
また、内圧をかけた場合を示したのは、パイプラインの操業時、パイプには内圧が負荷されているため、パイプの変形特性を実際の使用条件下で評価することは合理的な方法であり、パイプの変形特性を、内圧を考慮して評価する必要があるからである。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
表2に示したデータについて、縦軸を圧縮座屈歪比、横軸をσ2.01.0としてグラフ表示したものを図8、図9に示す。図8が内圧が作用していない場合であり、図9が内圧作用時(12Mpa)である。
また、表3に示したデータについて、縦軸を曲げ座屈歪比、横軸をσ2.01.0としてグラフ表示したものを図10、図11に示す。図10が内圧が作用していない場合であり、図11が内圧作用時(12Mpa)である。
以下においては、上記の表1〜表3及び図8〜図11に示される試験結果について検討する。
まず、表2及び表2における圧縮座屈歪比をグラフ化した図8、図9について見る。内圧P=0の場合のグラフである図8をみると、圧縮座屈歪比とσ2.01.0との関係において特徴点は特に見当たらない。しかしながら、内圧P=12MPaの場合のグラフである図9を見るとσ2.01.0の値が1.04近傍を境界として圧縮座屈歪比の値が大きく変化している。すなわち、σ2.01.0の値が1.04近傍よりも大きい場合には圧縮座屈歪比が1.0近傍にあるのに対してσ2.01.0の値が1.04近傍よりも小さい場合には0.5よりも小さくなっており、σ2.01.0=1.04近傍で連続硬化モデルど同様の変形性能を有するかどうかの境界があると思われる。
そこで、これを具体的に検討するために表2を参照し、表2における圧縮座屈歪比の欄における内圧P=12(MPa)の欄を見ると、降伏棚モデルのもののうちNO.4〜NO.8までは圧縮座屈歪比の値が1.0近傍で増減しており、最大はNO.7の1.05であり、最小はNO.8の0.87である。他方、NO.9以下のものでは圧縮座屈歪比が急激に減少しており、最大はNO.10の0.33であり、最小はNO.12の0.21である。
以上は圧縮座屈歪比についての検討であったが、同じパイプにつて曲げ座屈歪比について検討する。まず、表3及び表3における曲げ座屈歪比をグラフ化した図10、図11について見る。内圧P=0の場合のグラフである図10をみると、圧縮座屈歪比の場合と同様に曲げ座屈歪比とσ2.01.0との関係において特徴点は特に見当たらない。しかしながら、内圧P=12MPaの場合のグラフである図11を見ると、やはり圧縮座屈歪比の場合と同様にσ2.01.0の値が1.04近傍を境界として曲げ座屈歪比の値が大きく変化している。すなわち、σ2.01.0の値が1.04近傍よりも大きい場合には曲げ座屈歪比が1.0以上であるのに対してσ2.01.0の値が1.04近傍よりも小さい場合には0.7よりも小さくなっている。
そこで、圧縮座屈歪比の場合と同様に具体的に検討するために表3を参照し、表3における曲げ座屈歪比の欄における内圧P=12(MPa)の欄を見ると、降伏棚モデルのもののうちNO.4〜NO.8までは曲げ座屈歪比の値が全て1.0を超えており、最大はNO.4の1.14であり、最小はNO.6の1.05である。つまり、NO.4〜NO.8の鋼管はすべて連続硬化モデルであるNO.1の鋼管以上の変形性能を有しているといえる。
他方、NO.9以下のものでは曲げ座屈歪比が急激に減少しており、最大はNO.9,NO.10の0.71であり、最小はNO.13の0.37である。
以上のように、NO.4〜NO.8のグループでは圧縮座屈歪、曲げ座屈歪共に「製造まま」のものに近く変形性能に優れるが、NO.9〜NO.13のグループのものでは圧縮座屈歪、曲げ座屈歪共に「製造まま」のものに比較して小さくなっており、変形性能が劣ることが分かる。
このように、パイプの変形性能について降伏棚モデルのものを連続硬化モデル相当の変形性能を有するNO.4〜NO.8のグループと変形性能の劣るNO.9〜NO.13のグループに大きく分けることができることがわかる。
このことから、降伏棚モデルであっても変形性能に優れるものが存在し、必ずしも「RH」モデルでないと優れた変形性能を発揮できないというわけではないことが分かる。このことからも、従来において連続硬化モデルであるか降伏棚モデルであるかの二者択一でパイプの変形性能を分類していたことが適切でないことが分かる。
次に、「降伏棚の終点歪(%)」の欄を見ると、NO.4〜NO.6は降伏歪(約0.3)に等しく、NO.7以降では順に降伏棚の終点歪が大きくなっている。そして、変形性能の境界となったNO.8の降伏棚終点歪値を見ると、1.0%であり、これ以降を見ると、NO.9、NO.10の降伏棚終点歪値も1.0%であり、その後NO.11が1.2%、NO.12が1.5%、NO.13が2.0%となっている。
このことから、降伏棚終点歪値が大きくなると変形性能が劣ることが分かり、その境界点としては、NO.8の降伏棚終点歪値の1.0%以下が望ましいことがわかる。しかしながら、変形性能の劣るNO.9、NO.10の降伏棚終点歪値が1.0%であることから降伏棚終点歪値が1.0%以下であることのみをもって変形性能に優れる応力歪曲線の特徴とすることはできない。
そこで、次に「σ2.01.0」の欄を見るとNO.4〜NO.8のグループではσ2.01.0の値が1.039〜1.064の範囲で多少の前後しているが、NO.9〜NO.13のグループではσ2.01.0の値が急激に小さくなって1.023以下となっている。したがって、変形性能に優れるNO.4〜NO.8のグループの応力歪曲線の特徴としてσ2.01.0の値が1.04以上であることが挙げられる。
以上の検討結果が外形と管厚が異なってもあてはまるかどうかを確認するために、前述のものとは外形と管厚の違うパイプにした場合について同様のFEM解析を行った。
パイプの外径を914.4mm、管厚を15.2mmに設定したときの圧縮座屈歪をFEMによって計算した結果を表4に、同じパイプについての曲げ座屈歪のFEMによる計算結果を表5に、それぞれ示す。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
表4に示したデータについて、縦軸を圧縮座屈歪比、横軸をσ2.01.0としてグラフ表示したものを図12、図13に示す。図12が内圧が作用していない場合であり、図13が内圧作用時(12Mpa)である。
また、表5に示したデータについて、縦軸を曲げ座屈歪比、横軸をσ2.01.0としてグラフ表示したものを図14、図15に示す。図14が内圧が作用していない場合であり、図15が内圧作用時(12Mpa)である。
これら表4、表5および図12〜図15について前述と同様の検討を行ったが、全く同様の結果であった。すなわち、変形性能が優れるための条件として、降伏棚終点歪値としては1.0%以下であり、σ2.01.0の値が1.04以上であることと言える。
以上の検討から、降伏棚モデルの鋼管であっても変形性能に優れるためには降伏棚の終点歪が1.0%以下でかつσ2.01.0の値が1.04以上であることを条件とすることができる。
換言すれば、降伏棚型の応力歪曲線を有する鋼管であっても、降伏棚の終点歪が1.0%以下でかつσ2.01.0の値が1.04以上であれば、連続硬化型の応力歪曲線を有する鋼管と同等あるいはそれ以上の変形性能を有することがわかる。
ここで、降伏棚の終点歪が1.0%以下でかつσ2.01.0の値が1.04以上であることの意味について考察する。降伏棚の終点歪が1.0%以下ということは、つまり降伏棚の長さが短いことを意味している。そして、σ2.01.0の値が1.04以上ということは応力歪線図の降伏棚終点近傍における曲線の傾きが大きいことを意味している。このことは、前述した基礎式を使った解析の結果と一致しており、理論的な裏づけによるものであることが実証されている。
なお、上記のような変形性能に優れる本発明の鋼管であれば、地震地帯に敷設される埋設パイプラインに用いることで、優れた変形性能を発揮できる。
地震地帯に敷設されるパイプラインには、地震動によって発生する圧縮と引張の繰り返し変形である地盤の動的変位、液状化側方流動、断層変位、地盤が液状化することによって発生する側方流動や断層によって発生する地盤の変位である地盤の永久変位などによって様々な変形が発生する。
これらのうち、動的変位によってパイプラインに発生する繰り返し軸変形は比較的小さく、軸変形に対する鋼管の座屈性能はこれを検討する必要がない範囲である。
他方、液状化側方流動がパイプラインの軸と直角方向に発生する場合、パイプラインには曲げ変形が発生する。この場合、曲げ座屈性能に優れている本発明の鋼管であれば、より高い安全性を確保することができる。
また、断層は様々な地盤変位モードを呈するが、パイプラインには曲げ変形が卓越して発生する。このような場合、曲げ座屈性能に優れた本発明の鋼管であれば、より高い安全性を確保することができる。
また、本発明の鋼管であれば、地盤沈下や地盤の不等沈下が発生する地域に敷設される埋設パイプラインに用いた場合にも、地盤の変位に対して優れた変形性能を発揮できる。
地盤が不等沈下した場合、パイプラインには曲げ変形が発生する。この曲げ変形は、速報流動によって発生する曲げ変形の場合もあり、断層変位によって発生する曲げ変形の場合もある。このような曲げ変形が発生する場合についても、曲げ座屈性能に優れた本発明の鋼管であれば、より高い安全性を確保することができる。
さらに、本発明の鋼管であれば、寒冷地、凍土地帯、氷海域に敷設されるパイプラインに用いた場合にも、地盤の動的変位、地盤の永久変位などに対して優れた変形性能を発揮でき、高い安全性を確保することができる。
寒冷地においては、地盤が凍結と融解を繰り返すことがあるため、パイプラインには曲げ変形が発生する。この曲げ変形によって、パイプは鉛直上向きおよび下向きに曲げられる。パイプラインに発生する下向きの曲げ変形は、不等沈下による曲げ変形と同様であるが、上向きの曲げ変形は地盤の凍結によって発生する変形の特徴である。このような曲げ変形が発生する場合についても、曲げ座屈性能に優れた本発明の鋼管であれば、より高い安全性を確保することができる。
また、氷海域に敷設されるパイプラインは、流氷によって変形が発生する。この変形は曲げ変形であり、側方流動によって発生する曲げ変形と同様である。このような曲げ変形が発生する場合についても、曲げ座屈性能に優れた本発明の鋼管であれば、より高い安全性を確保することができる。
またさらに、本発明の鋼管は、変形性能に優れるのでパイプレイバージ(敷設船)などによって海底に敷設されるパイプラインに用いることができる。
パイプレイバージ(敷設船)で敷設されるパイプには、敷設船近傍と着底部よりも少し上で大きな曲げ変形が発生する。このような曲げ変形が発生する場合についても、曲げ座屈性能に優れた本発明の鋼管であれば、より高い安全性を確保することができる。
なお、長距離のパイプラインには、鋼管の強度グレードである米国のAPI(American Petroleum Institute)規格におけるX65以上のグレードの鋼管が用いられるが、本発明の鋼管はこのようなX65以上のいずれの鋼管に対しても適用可能である。
[実施の形態2]
上記の実施の形態1においては解析結果を実管サンプルについて具体的な数値として具体化した。
この実施の形態2は本発明の鋼管が実際に製造できる実現可能なものであることを示すために製造方法の一例を示すものである。
図16は鋼管を製造するための設備の一例の説明図である。
鋼管の製造設備は、上流側から加熱炉1、熱間圧延機2、加速冷却装置3、再加熱装
置4、ホットレベラー5、造管装置7、コーティング処理装置9が配置されている。
加熱炉1では所定の寸法に鋳造された鋼片に熱間圧延を施すのに適切な温度に加熱する。
熱間圧延機2では、鋼片を鋼板形状に熱間圧延し、所定の板厚、板幅とする。
加速冷却装置3と再加熱装置4では、熱間圧延した鋼板を所定の材質に仕上げることを目的とした熱処理が施される。加速冷却装置3は例えばシャワー水冷等の方法が利用される。一方、再加熱装置4は加速冷却後、迅速に処理を行うという観点から加速冷却装置3と同一ライン上に設置し、かつ加熱時間の短縮のために誘導加熱装置を利用するのが好ましい。
ホットレベラー5では、熱処理による鋼板の形状歪みの矯正が行われ、造管前の鋼板6が製造される。
造管装置7では、鋼板6を鋼管形状に冷間加工することが行われ、鋼管8が製造される。造管方法は、UOE方法、ロールベンディング方法等いくつかの種類があるが、特に限定はしない。そして、いずれの方法においても、最終的に板端部が突き合う部分を溶接するが、溶接方法についても特に限定はしない。
コーティング装置9では、鋼管が腐食しないように管の外表面にエポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等からなる防食保護層を施すことが行われる。防食保護層で鋼管を被覆するため、あらかじめ誘導加熱装置等で鋼管を所定の温度に加熱したのち、樹脂を吹きつけ、焼き付け塗装が行われる。コーティングする際の加熱温度はコーティング方法によって異なり、低温コーティングと高温コーティングに分類される。
パイプの材質変化に影響を及ぼすには高温コーティングであり、一般的には230℃以上の温度がパイプの材質変化に影響を及ぼすものである。また、200℃以下の低温コーティングによる材質変化への影響は小さい。
表6に示す化学成分の鋼(鋼種A、B、C)を連続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚18mm(実施例1)、15mm(実施例2)、16mm(比較例1)の厚鋼板を製造した。各鋼板の製造条件を表7に示す。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
上記の製造条件で製造された鋼板を冷間にて管状に成形し、突合せ部を例えば、サブマージドアーク溶接方法等で溶接して鋼管とした後、240℃の温度でコーティング処理を行う。なお、コーティング処理方法については、特に限定しない。例えば、ポリエチレンコーティングや粉体エポキシコーティング等が行われる。
上記のように形成した鋼管について、コーティング処理をする前の素材鋼管の特性を表8に示し、コーティング処理した後の鋼管の特性を表9に示す。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
表8に示した素材鋼管のままのものは「LE」が0であり降伏棚が存在しないいわゆる連続硬化モデルであるが、これをコーティング処理した表9に示すものは「LE」が0.6、0.5、1.1となっており降伏棚が存在する降伏棚モデルである。
また、表9から分かるように240℃のコーティング処理後においては実施例1、2のものの降伏棚終点歪がそれぞれ0.6、0.5であることから本発明で規定した1.0の範囲内にある。他方、比較例1については降伏棚終点歪が1.1となっており、本発明の範囲外になっている。
まず、表8、表9における各例についてσ2.0/σ1.0の値を求めてみると以下のようになる。
表8
実施例1:σ2.0/σ1.0=1.08
実施例2:σ2.0/σ1.0=1.04
比較例1:σ2.0/σ1.0=1.02

表9
実施例1:σ2.0/σ1.0=1.05
実施例2:σ2.0/σ1.0=1.05
比較例1:σ2.0/σ1.0=1.01
表9の実施例1および実施例2におけるσ2.0/σ1.0は共に1.05であり本発明で規定した1.04以上の範囲内にある。
以上から、降伏棚終点歪を1.0%以下とし、かつσ2.0/σ1.0が1.04以上となる鋼管を実際に製造できることが実証された。
次に表8、表9に示した鋼管について鋼管の座屈性能を調べるため、実施の形態1と同様にFEM解析によって圧縮座屈歪および曲げ座屈歪を求めた。この結果を表10、表11に示す。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
表10には各パイプの素材鋼管および加熱処理後の圧縮座屈歪(表中上側3段)と、各パイプの圧縮座屈歪を素材鋼管の圧縮座屈歪で除算することで無次元化した圧縮座屈歪比(表中下側3段)を記載している。
また、表11には各パイプの素材鋼管および加熱処理後の曲げ座屈歪(表中上側3段)と、各パイプの曲げ座屈歪を素材鋼管の曲げ座屈歪で除算することで無次元化した曲げ座屈歪比(表中下側3段)を記載している。
各表の見方は実施の形態1と同様である。
表11における実施例1、2の曲げ座屈歪比におけるP=12(MPa)の欄を見ると、実施例1が1.01、実施例2が0.96となっており、これは実施例1、2のパイプが加熱処理によって降伏棚モデルになっているにもかかわらず曲げ座屈歪が連続硬化モデルである素材鋼管とほぼ同じであることを示している。このことから、実施例1,2の鋼管が変形性能に優れていることが分かる。
次に、表8、表9に示した実施例1、2の材料を用いて他の外形、管厚のパイプにした場合にも上記と同様に曲げ変形に対する変形性能に優れているかどうかを検討した。
表8、表9に示した実施例1、2の材料を用いて実施形態1と同様の外形(762.0mm)、管厚(15.6mm)のパイプを製造した場合のパイプの圧縮座屈歪、圧縮座屈歪比を表12に示し、曲げ座屈歪と曲げ座屈歪比を表13に示す。
Figure 0004720344
Figure 0004720344
表13における実施例1、2の曲げ座屈歪比におけるP=12(MPa)の欄を見ると、実施例1が1.01、実施例2が1.02となっており、これは前述した表11の場合と同様に、実施例1、2のパイプが降伏棚モデルであるにもかかわらず曲げ座屈歪が連続硬化モデルである素材鋼管とほぼ同じ値であり、変形性能に優れていることを示している。
このように、本実施例の材質の材料を用いれば、管径、管厚にかかわらず、同じ管径、管厚の連続硬化モデル相当の変形性能を有することが実証された。
なお、上記の実施の形態2においてはコーティング処理を経ることによって降伏棚が現れる例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、コーティング処理によって連続硬化モデルから降伏棚モデルに変化するものはもちろん、コーティング処理とは関係なく降伏棚を有するものであっても、降伏棚の長さと応力歪曲線の傾きが所定の範囲に入るものを含むことはいうまでもない。
鋼材の応力歪曲線の説明図である。 降伏棚型の鋼材の応力歪曲線の説明図である。 降伏棚型の鋼材により形成された鋼管の応力歪曲線の説明図である。 鋼管の座屈歪と管径/管厚の関係を示すグラフである(その1)。 鋼管の座屈歪と管径/管厚の関係を示すグラフである(その2)。 歪硬化領域を直線で示した降伏棚モデルの応力歪曲線である。 降伏棚の長さが0の応力歪曲線の説明図である。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その1)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その2)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その3)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その4)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その5)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その6)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その7)。 本発明の実施の形態1における試験結果を示すグラフである(その8)。 本発明の実施の形態2における鋼管製造設備の説明図である。

Claims (3)

  1. 材料の引っ張り試験によって得られる応力歪曲線が、線形域を表す直線と降伏棚を表す直線と歪硬化域を表す曲線で表される、または線形域を表す直線と歪硬化域を表す曲線で表される(降伏棚の長さが0の場合)鋼管であって、降伏棚の終点歪が降伏歪以上1%未満であり、かつ歪が1.0%、2.0%のときの応力をそれぞれσ1.0、σ2.0としたときにσ2.01.0が1.04以上となることを特徴とする鋼管。
  2. 鋼管表面の防食保護層を形成するためのコーティング処理がなされていることを特徴とする請求項1に記載の鋼管。
  3. 請求項1又は2に記載の鋼管を接続して形成されたことを特徴とするパイプライン。
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