JP4719949B2 - 処理済線材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導テープ線材をコイル状に巻いて処理を行なう、処理済線材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁石を使った応用開発が進んでおり、具体例としては、磁気共鳴映像(Magnetic Resonance Imaging -MRI)、磁気選鉱、磁気浮上列車、粒子加速器、研究用装置、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance spectrometry - NMR)や省エネ・省資源の観点から超電導電力貯蔵システム(Superconducting Magnetic Energy Storage - SMES)や核融合などの分野が挙げられる。
【0003】
これらの磁石を構成する線材は、省エネ・高出力を期待して銅線から超電導線材に置き換わりつつある。これら磁石を使用した分野や電力ケーブル応用において、超電導線材に求められている条件は、特性と線材単長である。
【0004】
線材は、熱処理によって膨張および収縮する。線材の熱処理を行なうに際して、線材の特性を劣化させずに熱処理を行なうには、熱処理時に膨張および収縮する線材を拘束しないことが必要である。
【0005】
特開平6−243745号公報に開示される技術によれば、図7、図8に示すように、テープ状の線材である超電導テープ線材1を、芯5のまわりにパンケーキ状に巻く際に、線材同士の間に反応しない介在物として、たとえば市販のセラミックステープ2を重ねて巻くことで、局所的な線材の膨張による悪影響を防止しつつ、小さいスペースで長い線材を熱処理することができる。
【0006】
一方、線材同士のジョイント技術が発達しておらず、ジョイント部で特性が急激に劣化する超電導線材においては、線材単長の増大が重要な開発課題である。特に、特開平6−243745号公報に記載されているように熱処理を必要とする線材については、線材単長を増大する上で、その熱処理方法が、重要なものとなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平6−243745号公報に開示された技術によったとしても、磁石やケーブルを製造するのに必要な1km以上の線材単長を有する線材の熱処理は不適当であった。図9に示すように、パンケーキ状に巻いた線材であるパンケーキ10を載せるための平板3およびこれを熱処理する炉の大きさには、限界があったからである。
【0008】
そこで、本発明は、特開平6−243745号公報に開示される技術をさらに改良し、1km以上の線材単長を有する線材の熱処理を容易に行なって、超電導線材を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、たとえ複数本に分割された線材であったとしても、多量の超電導テープ線材1を同時に熱処理するために保護テープとしてのセラミックスシート2と重ねて巻いたパンケーキ10を仮に直接積み上げた場合、上下の超電導テープ線材1同士が干渉し合うことにより、下側の超電導テープ線材1の臨界電流密度が、上側の超電導テープ線材1の臨界電流密度の1/3程度にまで劣化したり、上下の超電導テープ線材1同士が接続されてしまったり、超電導テープ線材1が変形したりし、したがって、不良の原因となっていた。
【0010】
そこで、本発明は、2段以上積み重ねて熱処理しても、特性の劣化などの問題が生じない熱処理を行なって、超電導線材を製造する方法を提供することをも目的とする。
【0011】
なお、「パンケーキ状に巻く」とは、線材を密にコイル状に巻くことを意味し、「パンケーキ」とは、線材を密に巻いたものを意味するものとする。
【0012】
また、以下、便宜上、熱処理前のものを「超電導テープ線材1」といい、熱処理済のものを「超電導線材」という。
【0013】
さらに、超電導線材が熱処理の途中で膨張し、大きく変形するという現象(以下、「線材膨れ」という。)が頻繁に生じる場合がある。線材膨れの原因としては、線材内部のガスの熱膨張が挙げられる。このような線材膨れが生じた部分では、臨界電流密度Jcが低下する。線材膨れの原因となる熱膨張を起こすガスとしては、定性的にはCO2、H2O、O2などであることがわかっている。
【0014】
そこで、本発明は、線材膨れを低減できる熱処理によって超電導線材を製造する方法を提供することをも目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に基づく保持具の1つの局面においては、コイル状に巻かれた線材を含むパンケーキを保持し、互いに隣接する上記パンケーキ同士が互いに接触しないように2以上重ねるための隔離手段を備え、上記隔離手段は上記線材の挙動を実質的に拘束しない、上記線材に対する処理を行なうための保持具である。
【0016】
上記構成を採用することにより、線材を2以上重ねて処理することができるため、省スペース化を図ることができる。しかも、隔離手段は線材の挙動を実質的に拘束しないため、拘束された場合に発生していた、線材の劣化や望ましくない接続、変形といった問題を解消することができる。
【0017】
本発明に基づく保持具の他の局面においては、上記隔離手段が、上記線材の挙動を実質的に拘束せずに、上記パンケーキ間に介在するための保護層を有する。
【0018】
上記構成を採用することにより、パンケーキ同士は、保護層の介在によって、確実に非接触に保つことができる。また、取扱いが容易となる。
【0019】
本発明に基づく保持具のさらに他の局面においては、一の上記パンケーキに含まれる上記線材の続きを、上記線材の挙動を実質的に拘束することなく、他の上記パンケーキに連続させるための線材連続化手段を有する。
【0020】
上記構成を採用することにより、一のパンケーキにおいて巻くことのできる限度以上に線材の線材単長が長い場合に、線材を切ることなく、2以上のパンケーキに渡って巻いて保持し、処理を行なうことができる。しかも、線材は、実質的に拘束されないため、特性劣化その他の不良が生じることを防止することができる。
【0021】
本発明に基づく保持具のさらに他の局面においては、上記線材連続化手段が、上記保護層に設けられた、上記線材を実質的に拘束せずに通すためのらせん状溝である。
【0022】
上記構成を採用することにより、一のパンケーキにおいて巻いた線材の続きをらせん溝の内部に配置することによって、他のパンケーキに案内することが容易に可能となる。
【0023】
本発明に基づく保持具のさらに他の局面においては、上記保護層が、上記処理によって消失しない材質からなる粉末または繊維と、上記処理によって消失する材質からなる結合剤とを主成分とする。
【0024】
上記構成を採用することにより、処理の過程において、保護層の結合剤が消失し、保護層は、粉末または繊維が自由に動きうる状態となる。したがって、線材が保護層によって拘束されることを確実に防止することができる。
【0025】
本発明に基づく保持具のさらに他の局面においては、上記パンケーキの周囲におけるガスの流通を均一化するためのガス流通均一化手段を備える。
【0026】
上記構成を採用することにより、パンケーキを重ねたときの幾何学的条件に起因して、各パンケーキの占める部位や一のパンケーキ内の部分によってガスの流通具合に差が生じるという問題を解消し、均一な処理を行なうことができる。
【0027】
本発明に基づく保持具のさらに他の局面においては、上記ガス流通均一化手段が、上記保護層に設けられた溝または穴を含む。
【0028】
上記構成を採用することにより、ガス流通均一化手段を容易に実現することができる。
【0029】
本発明に基づく処理済線材の製造方法の1つの局面においては、コイル状に巻かれた線材を含むパンケーキを、互いに隣接する上記パンケーキ同士が互いに接触しないように2以上重ねるための、上記線材の挙動を実質的に拘束しない隔離手段を使用して、2以上重ねた上記パンケーキに対して処理を行なう工程を含む。
【0030】
上記工程を採用することにより、線材を2以上重ねて処理することができるため、省スペース化を図ることができる。しかも、隔離手段は線材の挙動を実質的に拘束しないため、拘束された場合に発生していた、線材の劣化や望ましくない接続、変形といった問題のない処理済線材を得ることができる。
【0031】
本発明に基づく処理済線材の製造方法の他の局面においては、上記パンケーキが、上記線材と上記線材の挙動を実質的に拘束しない保護テープとを重ねてコイル状に巻いたものを含む。
【0032】
上記構成を採用することにより、パンケーキ内で隣り合う線材同士は、互いに直接は接触しないため、処理によって互いに接続することはない。また、保護テープが介在するため、隣接する線材によって拘束されることもない。また、保護テープは線材を拘束しないため、処理における膨張・収縮などの際に線材が拘束されて、特性劣化や変形を生じることもない。したがって、これらに起因する特性劣化や変形のない良好な処理済線材を得ることができる。
【0033】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記保護テープが、上記処理によって消失しない材質からなる粉末または繊維と、上記処理によって消失する材質からなる結合剤とを主成分とする。
【0034】
上記構成を採用することにより、保護テープの結合剤は、処理によって消失するため、処理時には、保護テープは、繊維または粉末が自由に動きうる状態となり、線材は、保護テープによって拘束されない。したがって、拘束されることに起因して発生していた特性劣化その他の不良のない処理済線材を得ることができる。
【0035】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記隔離手段が、上記パンケーキ間に上記線材の挙動を実質的に拘束しない保護層を介在させることである。
【0036】
パンケーキ同士は、保護層の介在によって、確実に非接触に保つことができる。また、取扱いが容易となる。
【0037】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の1つの局面においては、一の上記パンケーキに含まれる上記線材の続きを、上記線材の挙動を実質的に拘束することなく、他の上記パンケーキに連続させるための線材連続化手段を使用して処理を行なう工程を含む。
【0038】
上記工程を採用することにより、一のパンケーキにおいて巻くことのできる限度以上に線材の線材単長が長い場合に、線材を切ることなく、2以上のパンケーキに渡って巻いて保持し、処理を行なうことができる。しかも、線材は、実質的に拘束されないため、特性劣化その他の不良が生じることを防止することができ、このような不良のない処理済線材を得ることができる。
【0039】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記線材連続化手段が、上記保護層に設けられた上記線材を実質的に拘束せずに通すためのらせん状の溝である。
【0040】
上記工程を採用することにより、一のパンケーキにおいて巻いた線材の続きをらせん溝の内部に配置することによって、他のパンケーキに案内することが容易に可能となり、線材単長の長い処理済線材も容易に得ることができる。
【0041】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記保護層が、上記処理によって消失しない材質からなる粉末または繊維と、上記処理によって消失する材質からなる結合剤とを主成分とする。
【0042】
上記構成を採用することにより、処理の過程において、保護層の結合剤が消失し、保護層は、粉末または繊維が自由に動きうる状態となる。したがって、線材が保護層によって拘束されることを確実に防止することができ、このような拘束に起因する特性劣化や変形といった不良のない処理済線材を得ることができる。
【0043】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記線材が、酸化物超電導体の粉末またはその原料粉末を金属シース内に充填する工程と、塑性加工を施す工程とを含んで形成された金属シース線材である。
【0044】
上記工程を採用することにより、処理済線材として超電導線材を得ることができる。
【0045】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記処理が、840℃以上、850℃以下で行なう熱処理である。
【0046】
上記工程を採用することによって、臨界電流密度の高い値を得ることができる。
【0047】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記処理が、840℃以上、850℃以下である第一温度で行なう工程と、上記第一温度より5℃低い第二温度で行なう工程とを含む熱処理である。
【0048】
上記工程を採用することにより、超電導体の焼結密度を上げることができ、さらに高い臨界電流密度を得ることができる。
【0049】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記熱処理は、酸素の分圧を、0.01atm以上、0.2atm以下とした雰囲気中で行なう。
【0050】
上記工程を採用することにより、超電導材料自体の生成を確保し、かつ、不純物の生成を助長せずに、臨界電流密度Jcを増大させることができる。
【0051】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記熱処理は、圧力を2.5×102Pa以下の雰囲気下で行なう。
【0052】
上記工程を採用することにより、気圧を低くしているため、線材外部にガスを放出しやすい環境とし、線材膨れの発生数を抑えている。
【0053】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記熱処理は、圧力を1.5atm以上の雰囲気下で行なう。
【0054】
上記工程を採用することにより、臨界電流密度Jcを増大させた、処理済線材としての超電導線材を得ることができる。
【0055】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記熱処理が、830℃以上、840℃以下である第一温度で行なう工程と、上記第一温度より5℃低い第二温度で行なう工程とを含む熱処理である。
【0056】
酸素分圧が0.01atm以上、0.2atm以下の雰囲気中においても、上記工程を採用することにより、臨界電流密度Jcを増大させた、処理済線材としての超電導線材を得ることができる。
【0057】
本発明に基づく処理済線材の製造方法のさらに他の局面においては、上記熱処理において、100℃から300℃への昇温時間、700℃から820℃への昇温時間、および、820℃から840℃への昇温時間が、それぞれ5時間以上である。
【0058】
上記工程を採用することにより、線材膨れを低減した、処理済線材としての超電導線材を得ることができる。
【0059】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
(実施例1)
(製造工程)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOの重量比が0.36:0.055:0.23:0.15:0.2の粉末混合物を製造した。この粉末混合物を800℃で12時間熱処理し、さらに850℃で6時間熱処理し、焼結酸化物を得た。この焼結酸化物を粉砕し、粉末を得た。この粉末を、金属シースとしての外径36mm、内径30mmの銀パイプに充填した。この銀パイプに伸線加工と圧延加工を施すことで、長さ1km、幅3.5mm、厚さ0.25mmの61芯の多芯テープ線材を作製した。なお、同じものを合計2本作製した。
【0060】
焼結ジグである平板3の上に突出した芯5のまわりに、線材としての上記多芯テープ線材、すなわち超電導テープ線材1のうち1本に保護テープとしての市販のセラミックスシート2を重ねて、パンケーキ状に巻くことで、第1のパンケーキ10を作製した。セラミックスシート2としては、アルミナ繊維を主成分とする厚さ0.2mmのものを用いた。
【0061】
図1を参照して、第1のパンケーキ10の上に保護層として、アルミナ繊維と有機結合剤を含んで成形した厚さ10mmのセラミックスボード4を、載せた。芯5が、セラミックスボード4には中心穴9が設けられており、セラミックスボード4を載せる際には芯5が中心穴9に挿入され、芯5はセラミックスボード4を貫通して上側に突出する。上側に突出した芯5のまわりに、第1のパンケーキ10と同様、他の1本の超電導テープ線材1を、セラミックスシート2に重ねて、パンケーキ状に巻くことで、第2のパンケーキ10を形成した。
【0062】
こうして得られた2段のパンケーキ10を含む構造物を800℃まで3時間、840℃まで2時間でそれぞれ昇温し、第一温度としての840℃で50時間熱処理した。
【0063】
さらに圧延加工により、厚さを10%変化させた後、800℃まで3時間、835℃まで2時間でそれぞれ昇温し、第二温度としての835℃で50時間熱処理した。835℃は上記の840℃より5℃低い温度として選択したものである。
【0064】
(結果)
熱処理後、残ったセラミックスシート2およびセラミックスボード4の材料が超電導テープ線材1から剥がれやすいかどうかを調べ、目視により、超電導テープ線材1の隣り合うもの同士が接触する箇所が存在するかどうかを調べた。その結果、問題がないことを確認した。
【0065】
各パンケーキ10から超電導テープ線材1を取り出し、残ったセラミックスシート2およびセラミックスボード4の材料を剥がすことによって除去し、処理済線材としての超電導線材を得ることができた。
【0066】
(実施例2)
(製造工程)
セラミックスシート2およびセラミックスボード4に含まれる耐熱繊維または粉末としては、上述のアルミナ繊維の代りに、アルミナ粉末、マグネシア粉末、シリカ、酸化マンガン、酸化クロムをそれぞれ用いたものについて、それぞれ熱処理を行なって、処理済線材としての超電導線材を製造した。
【0067】
(結果)
上述の超電導テープ線材1の隣り合うもの同士の接触については、セラミックスシート2が少なくとも繊維、たとえば、アルミナ繊維を主成分として含む場合には、接触しないことが確認された。
【0068】
また、耐熱繊維または粉末が、繊維と粉末との混合体、たとえば、アルミナ繊維とマグネシア粉末の混合体や、アルミナ繊維とシリカの混合体である場合は、繊維のみである場合に比べて、超電導テープ線材1から剥がれやすく除去作業がし易いことがわかった。
【0069】
セラミックスボード4についても、少なくとも繊維、たとえば、アルミナ繊維を主成分として含む場合には、不用意に欠落しにくいことがわかった。
【0070】
(実施例3)
(製造工程)
上述の実施例1においては、第一温度が840℃、第二温度が835℃であったが、これに代えて、第一温度を835℃から855℃まで5℃間隔で変えて熱処理を行なった。第二温度は、それぞれ第一温度から5℃下げた温度として、熱処理を行ない、処理済線材としての超電導線材を製造した。
【0071】
(結果)
その結果それぞれ得られた超電導テープ線材1の、各第一温度と、液体窒素温度における臨界電流密度との関係を調べたところ、
835℃ 0.8kA/cm2
840℃ 1.8kA/cm2
845℃ 2.2kA/cm2
850℃ 2.5kA/cm2
855℃ 1.2kA/cm2
となり、840℃から850℃において、臨界電流密度の高い値を得られることがわかった。
【0072】
(作用効果)
本実施の形態における製造工程では、パンケーキ10同士を互いに接触しないように2段以上積み重ねるための隔離多段化手段として、パンケーキ10同士の間に保護層、すなわち、セラミックスボード4を介在させている。セラミックスボード4は、アルミナ繊維と有機結合剤とを含んで成形されているため、熱処理の際には、有機結合剤が消失し、繊維または粉末が自由に動きうる状態となる。よって、セラミックスボード4は、超電導テープ線材1の膨張および収縮を実質的に拘束しない。
【0073】
一方、超電導テープ線材1を巻く際には、セラミックスシート2を重ねて巻いているため、パンケーキ10の内部では、隣り合う超電導テープ線材1同士が互いに接触することはない。セラミックスシート2も、熱処理の際には結合剤が消失し、繊維または粉末が自由に動きうる状態となることによって、超電導テープ線材1の挙動を実質的に拘束しない。
【0074】
その結果、臨界電流密度の劣化や超電導テープ線材1同士の接続や変形といった問題を解消することができる。
【0075】
なお、本実施の形態では、パンケーキ10を2段積み重ねた状態で熱処理したが、図2に示すように2段より多い段数を重ねることとしてもよい。
【0076】
(実施の形態2)
(保持具の構成)
図3に示すようなセラミックスボード4を用意した。このセラミックスボード4は、中心に芯5を通すための中心穴9のあいた円板である。厚さは15mmであり、線材連続化手段として、上面には、幅5mm、深さ10mmのらせん状溝6が設けられている。このらせん状溝6は、一端が外周面に接して接続し、他の一端が内周面に接して接続する。
【0077】
(製造工程)
(実施例1)
Bi2O3、PbO、SrCO3、CaCO3、CuOの粉末を混合して、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.82:0.33:1.92:2.03:3.01の組成比を有する粉末を調整した。この得られた粉末を750℃で10時間熱処理し、800℃で8時間熱処理した。得られた焼結体を自動乳鉢で粉砕した。粉砕して得られた粉末を850℃で4時間熱処理した後、再び得られた焼結体を自動乳鉢で粉砕した。脱気を行なうため、得られた粉末を800℃で熱処理した。こうして得られた粉末を、金属シースとしての外径60mm、内径55mmの銀パイプに充填した。この銀パイプに伸線加工と圧延加工を施すことで、長さ2km、幅4.0mm、厚さ0.26mmの61芯の多芯テープ線材を作製した。
【0078】
線材としての上記多芯テープ線材、すなわち超電導テープ線材1に保護テープとしての市販のセラミックスシート2を重ねて前半の長さ1km分を芯5に巻き付けてパンケーキ状に巻くことによって、パンケーキ10を作製した。
【0079】
セラミックスボード4の中心穴9に芯5を挿入し、貫通させることによって、このパンケーキ10の上に、図3に示すようなセラミックスボード4を、載せた。このセラミックスボード4は、上述したようにらせん状溝6が設けられている。
【0080】
超電導テープ線材1の後半の長さ1km分は、上記の既に巻いたパンケーキ10の外周からさらに連続して延在しているが、この部分を、らせん状溝6の外周側の一端から、内周側の一端まで、らせん状溝6の中を経由して導いた。らせん状溝6の内周側の一端から出た残りの約1km分の超電導テープ線材1は、セラミックスボード4の上面において、再び、芯5を中心に、セラミックスシート2を重ねてパンケーキ状に巻いた。その結果、図1に示すように2段重ねの構造を得ることができた。
【0081】
こうして得られた2段のパンケーキ10を含む構造物を800℃まで3時間、840℃まで2時間でそれぞれ昇温し、第一温度としての840℃で50時間熱処理した。
【0082】
これを一旦、パンケーキ10からほどき、圧延加工により、厚さを10%変化させた後、再び同じようにパンケーキ状に巻いた。800℃まで3時間、835℃まで2時間でそれぞれ昇温し、第二温度としての835℃で50時間熱処理した。835℃は上記の840℃より5℃低い温度として選択したものである。
【0083】
(結果)
上記の圧延加工前および第二温度での熱処理後、残ったセラミックスシート2およびセラミックスボード4の材料が超電導テープ線材1から剥がれやすいかどうかをそれぞれ調べた。さらに、目視により、超電導テープ線材1の隣り合うもの同士が接触する箇所が存在するかどうかを調べた。その結果、問題がないことを確認した。
【0084】
第二温度での熱処理後、残ったセラミックス材料を、剥がすことによって除去し、処理済線材としての超電導線材を製造することができた。
【0085】
(実施例2)
セラミックスボード4は、実施例1ではアルミナ繊維のみを主成分としたものであるが、アルミナ繊維以外にシリカを加えることによって強度をもたせたものについても、熱処理を行ない、処理済線材としての超電導線材を製造した。その結果、アルミナ繊維以外にシリカを加えたものの方が成形性がよいことがわかった。
【0086】
(実施例3)
実施例1では、長さ2kmの超電導テープ線材1を作製し、2段積み重ねた状態で熱処理したが、図2に示すように2段より多い段数を重ねることとしてもよい。
【0087】
本実施例では、同様に、長さ10kmの超電導テープ線材1を作製し、10段積み重ねた状態で熱処理した。この場合も、図3に示すセラミックスボード4を使用すれば、超電導テープ線材1同士の接触や変形の問題もなく、熱処理でき、処理済線材としての超電導線材を製造できた。
【0088】
(作用効果)
本実施の形態において、用いられる保持具としてのセラミックスボード4は、それ自体が隔離多段化手段たる保護層となる。セラミックスボード4は、それ自体がパンケーキ10間に介在することによって、図1に示すように上下のパンケーキ10同士を隔離して保持することができる。
【0089】
また、セラミックスボード4は、線材連続化手段として、保護層たる円板の上面にらせん状溝6が設けられている。下段のパンケーキ10から続く線材はこのらせん状溝6を通じて上段に案内されるため、上段において再びパンケーキ状に巻き始めることが可能である。溝が十分な幅と深さを有するものであるときは、超電導テープ線材1は、溝内部の範囲内では拘束されることはないため、超電導テープ線材1を切ることなく、実質的に拘束することなく他の段であるセラミックスボード4上段に連続させることができる。
【0090】
なお、本実施の形態では、下段から上段に連続させる場合について説明したが、逆に上段から下段に連続させる場合であっても同様である。パンケーキ10の重ね方は、上下方向に積み重ねる場合について説明したが、左右方向に重ねることとしてもよい。
【0091】
保持具として、熱処理によって消失しない繊維または粉末と、熱処理によって消失する結合剤とを含むセラミックスボード4を用いることによって、熱処理の過程で、結合剤は消失し、セラミックスボード4は、繊維または粉末が、接する超電導テープ線材1の膨張および収縮に伴なって自由に動きうる状態となる。したがって、超電導テープ線材1は、セラミックスボード4によって、実質的に拘束を受けないため、超電導テープ線材1の変形を防止することができる。
【0092】
セラミックスシート2も、熱処理によって消失しない繊維または粉末と、熱処理によって消失する結合剤とを含むものを用いることによって、熱処理の過程で、結合剤は消失し、セラミックスシート2は、繊維または粉末が、接する超電導テープ線材1の膨張および収縮に伴なって自由に動きうる状態となる。したがって、超電導テープ線材1は、セラミックスシート2によって、拘束を受けないため、超電導テープ線材1の変形を防止することができる。
【0093】
(実施の形態3)
(保持具の構成)
実施の形態1または2において2段重ねで熱処理した超電導テープ線材1の超電導特性としての臨界電流密度の評価を10サンプルについて行なった。その結果、3サンプルに1つの割合で、下段のパンケーキ10となっていた部分の超電導テープ線材1の臨界電流密度Jcが他のサンプルに比べて低いことがわかった。
【0094】
そこで、セラミックスボード4に、ガスの流通を均一化するためのガス流通均一化手段として、図4に示すように放射状溝7を設けたもの、図5に示すように穴8を放射状に配列したもの、および、図6に示すように放射状溝7を設け、さらに各放射状溝7内部に穴8を配列したものの3通りを作製した。セラミックスボード4の他の構成要素は、実施の形態2におけるものと同じである。
【0095】
これらを用いて、実施の形態1または2におけると同様の熱処理を行ない、処理済線材としての超電導線材を製造し、臨界電流密度Jcを評価した。
【0096】
(結果)
その結果、図4〜図6に示すように溝または穴を設けている場合は、それらが設けられていない場合に比べて、超電導特性が安定することがわかった。
【0097】
(実施の形態4)
(実施例1)
(製造工程)
実施の形態1と同様に巻くことで形成されたパンケーキ10において、第一温度を835℃とし、第二温度を5℃低い830℃とし、第一温度で50時間保持した後に第二温度で50時間保持することとして、熱処理を行なうことにより、処理済線材としての超電導線材を製造した。ただし、熱処理時の雰囲気中の酸素分圧は、通常の0.2atmではなく、酸素ボンベと窒素ボンベによって両者を混合させることで、0.08atmとした。他の条件は実施の形態1と同様である。
【0098】
熱処理後、臨界電流密度Jcを測定した。
(結果)
臨界電流密度Jcは、実施の形態1において熱処理したときの平均2.5kA/cm2より高く、3.0kA/cm2となった。このことから、酸素分圧を低くすることによって臨界電流密度Jcが増大することがわかった。
【0099】
(作用効果)
本実施例では、酸素分圧は、0.08atmとしたが、酸素分圧は他の値であってもよい。しかし、0.01atm未満であった場合は、超電導材料自体の生成が十分に行なわれず、0.2atmを超えると、不純物の生成が助長されて不適当である。
【0100】
したがって、酸素分圧は、0.01atm以上、0.2atm以下の範囲内であることが望ましい。
【0101】
(実施例2)
実施例1における熱処理条件において、全圧を通常の1atmより高く1.5atm以上として、熱処理を行なったところ、臨界電流密度Jcは3.5kA/cm2となった。
【0102】
このことから、1.5atm以上に加圧した雰囲気下で熱処理を行なうことによって臨界電流密度Jcが増大することがわかった。
【0103】
(実施例3)
(製造工程)
実施例1における熱処理条件において、第一温度を825℃から845℃まで5℃間隔で変えてそれぞれ熱処理を行なうことにより、処理済線材としての超電導線材を製造した。第二温度は、それぞれ第一温度から5℃下げた温度とした。
【0104】
(結果)
その結果それぞれ得られた超電導テープ線材1の、各第一温度と、液体窒素温度における臨界電流密度との関係を調べたところ、
825℃ 1.1kA/cm2
830℃ 2.8kA/cm2
835℃ 3.2kA/cm2
840℃ 2.5kA/cm2
845℃ 1.5kA/cm2
となり、830℃から840℃において、臨界電流密度の高い値を得られることがわかった。
【0105】
(実施の形態5)
(製造工程)
実施の形態1の実施例1における熱処理条件において、圧力を1×105Pa、5×103Pa、2.5×102Pa、2.5Pa、5×10-2Paの各条件とし、650℃で熱処理を行い、処理済線材としての超電導線材を製造した。
【0106】
(結果)
熱処理後、目視により、10m長さ当りの線材膨れの発生数を評価したところ、
1×105Pa 8個
5×103Pa 5個
2.5×102Pa 0.5個
2.5Pa 0.3個
5×10-2Pa 0.1個
という結果となった。このことから、圧力を下げるほど減少し、2.5×102Pa以下においては、著しく低減できることがわかった。
【0107】
(作用効果)
線材膨れは、熱処理によって反応によってガスが発生したり、吸着物質からガスが発生したりすることによって、線材が膨れる現象である。これに対して、本実施の形態では、気圧を低くすることによって、線材外部にガスを放出しやすい環境とし、線材膨れの発生数を抑えている。
【0108】
(実施の形態6)
(製造工程)
実施の形態2の実施例1の工程において61芯の多芯テープ線材を作製したのと同じ工程により、長さを1kmの61芯の多芯テープ線材、すなわち、超電導テープ線材1を得た。同実施例1と同様のセラミックスシート2を重ねて巻くことによって、1段のみのパンケーキ10を形成した。
【0109】
こうして得られたパンケーキ10を、第一温度としての840℃で50時間熱処理した。さらに圧延加工により、厚さを10%変化させた後、第二温度としての835℃で50時間熱処理した。835℃は上記の840℃より5℃低い温度として選択したものである。
【0110】
ただし、上記の熱処理のために昇温する過程において、何通りかの昇温時間を採用してそれぞれ熱処理を行なった。なお、「昇温時間」とは、一定の温度まで上昇させるために費やす時間である。
【0111】
基本条件を、800℃まで3時間、800℃から840℃まで2時間で昇温し、最終的に目標温度に到達した後、50時間大気雰囲気下で熱処理を行なうものとし、熱処理後には、セラミック材料を除去し、処理済線材としての超電導線材を得るものとした。
【0112】
これに対して、まず、基本条件に比べて、100℃から300℃への昇温時間のみを何通りか変えた条件で、それぞれ上記の手順を行ない、超電導線材を得た。
【0113】
次に、基本条件から、700℃から820℃への昇温時間のみを何通りか変えた条件で、同様の手順を行なった。
【0114】
さらに、基本条件から、820℃から840℃への昇温時間のみを何通りか変えた条件で、同様の手順を行なった。
【0115】
さらに、基本条件から、100℃から300℃への昇温時間、700℃から820℃への昇温時間、および、820℃から840℃への昇温時間をそれぞれ変えて、同様の手順を行なった。なお、100℃から300℃、700℃から820℃、および、820℃から840℃以外の温度範囲においては、昇温時間は、100℃/時間とした。
【0116】
(結果)
得た超電導線材について、レーザ測定器により厚さの変動を長手方向に沿って測定し、厚さが変化した部分、すなわち、線材膨れが生じた部分の数を測定した。その結果を表1〜4にそれぞれ示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
表4に示されるように、100℃から300℃への昇温時間、700℃から820℃への昇温時間、および、820℃から840℃への昇温時間を、それぞれ5時間以上、好ましくは20時間以上とすることで、線材膨れの発生数を著しく低減できることが明らかとなった。
【0122】
なお、熱処理に際して線材から放出されるガスを熱重量測定(ThermoGravimetty -TG)によって測定した結果、その主成分が、H2O、CO2、O2であることがわかった。
【0123】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0124】
【発明の効果】
本発明に基づく保持具および処理済線材の製造方法によれば、線材を互いに干渉し合わないように2以上重ねて処理することができるため、省スペース化を図ることができる。しかも、線材の挙動は、保護層によっても、パンケーキ内の隣り合う線材によっても実質的に拘束されないため、拘束された場合に発生していた、線材の劣化や望ましくない接続、変形といった問題を解消することができる。
【0125】
また、線材単長の長い線材であっても、保護層に設けられたらせん溝の内部を経由して、実質的に拘束せずに他のパンケーキに導くことができるため、途切れることなく、拘束による悪影響を生じることなく、処理を行なうことができ、処理済線材を得ることができる。
【0126】
さらに、金属シース線材を線材とし、上述した酸素分圧、温度、全圧、昇温時間の条件を採用して、熱処理を行なうことにより、臨界電流密度が優れ、線材膨れの低減された、良好な超電導線材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態1におけるパンケーキを2段積み重ねた状態の概念図である。
【図2】 実施の形態1におけるパンケーキを2段より多く積み重ねた状態の概念図である。
【図3】 実施の形態2における保持具としてのセラミックスボードの一例の平面図である。
【図4】 実施の形態3における保持具としてのセラミックスボードの一例の平面図である。
【図5】 実施の形態3における保持具としてのセラミックスボードの他の一例の平面図である。
【図6】 実施の形態3における保持具としてのセラミックスボードのさらに他の一例の平面図である。
【図7】 従来技術における線材と保護テープを重ねた状態を表す概念図である。
【図8】 従来技術における線材と保護テープを重ねてパンケーキ状に巻く過程を表す説明図である。
【図9】 従来技術におけるパンケーキ状に巻いた線材を平板に載せた状態を表す概念図である。
【符号の説明】
1 超電導テープ線材、2 セラミックスシート、3 平板、4 セラミックスボード、5 芯、6 らせん状溝、7 放射状溝、8 穴、9 中心穴。
Claims (6)
- コイル状に巻かれた超電導テープ線材を含むパンケーキを、互いに隣接する前記パンケーキ同士が互いに接触しないように2以上重ねるための、熱処理によって消失しない材質からなる粉末または繊維と、熱処理によって消失する材質からなる結合剤とを主成分とする、前記超電導テープ線材の膨張および収縮を拘束しないセラミックボードを介在させて、
2以上重ねた前記パンケーキに対して熱処理を行なう工程を含み、
前記熱処理を行なう工程は、酸素の分圧を、0.01atm以上、0.2atm以下とした雰囲気中で、830℃以上、840℃以下である第一温度で行なう工程と、前記第一温度で行なう工程の後に、前記第一温度より5℃低い第二温度で行なう工程とを含む、処理済線材の製造方法。 - 前記パンケーキが、前記超電導テープ線材と前記超電導テープ線材の膨張および収縮を拘束しない保護テープとを重ねてコイル状に巻いたものを含む請求項1に記載の処理済線材の製造方法。
- 前記超電導テープ線材が、酸化物超電導体の粉末またはその原料粉末を金属シース内に充填する工程と、塑性加工を施す工程とを含んで形成された金属シース線材である、請求項1または2に記載の処理済線材の製造方法。
- 前記熱処理は、圧力が2.5×102Pa以下の雰囲気下で行なう請求項3に記載の処理済線材の製造方法。
- 前記熱処理は、圧力が1.5atm以上の雰囲気下で行なう請求項3に記載の処理済線材の製造方法。
- 前記第一温度が840℃であり、前記熱処理において、100℃から300℃への昇温時間、700℃から820℃への昇温時間、および、820℃から840℃への昇温時間が、それぞれ5時間以上である、請求項1に記載の処理済線材の製造方法。
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