JP4716589B2 - 生分解性育苗用根カバー及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、農・園芸分野において用いられる育苗用根カバーおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、従来の育苗根カバーのように移植に際して育苗用容器を取り除く必要がなく、そのまま移植が可能な生分解性を有する育苗用根カバーおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然への回帰指向が高まる中で、公園、庭園、宅地等に植栽する緑化樹の栽培がさかんである。一般的には、緑化樹は農園で苗木を一定の大きさまで育成した後、掘り起こして出荷する形態が取られているが、緑化樹を掘り起こして出荷するためには、毛根部を保護するための根巻作業が必要であり、作業が煩雑で人件費がかかるという問題がある。また、緑化樹を掘り起こす際にかなり太い基幹根も切れてしまうために、移植に際して根が付かず枯れることが多くなり、移植は、植物の代謝成長の活発な春先に限られるという問題もある。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、まず植え込みの穴を掘った後、織編物や不織布からなる円筒状の容器をその穴の中に置き、その容器の中に苗木を植え込み、一定期間の養育後にその容器の外周に沿って掘り起こす方法が開発されている。この方法により、この容器が出荷時に根カバーとして機能することから、出荷時の根巻作業が不要となり作業性の大幅な簡便化につながるとともに、掘り起こしの際に太い根が切られることがないので、活着率が向上し、一年を通じて出荷が可能になることが期待される。
【0004】
このような根カバーの素材としては、土中の微生物の存在下や湿潤環境下においても、育苗期間中の少なくとも1〜2年は安定した機械的強度を維持する必要があり、このため、現在は、その一部又は全部がポリエステルやナイロンやポリプロピレン等である合成繊維が根カバーの素材に用いられている。しかし、これらポリエステル等の合成繊維は、土中では分解されないために、掘り起こして移植・植え込みをするに際して、根が絡まった根カバーを剥がさねばならず、また、その廃棄処理も問題となる。一方、例えば、木綿やレーヨン等の天然繊維または再生繊維を根カバーの素材として用いた場合、土中の微生物によりあまりにも早期に分解されてしまうため、本来の根カバーとしての役割を果たすことができず、しかも湿潤時環境下における機械的強度や寸法安定性に欠けるという問題点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題点を解決し、優れた機械的強度を具備するとともに、育苗期間中は殆ど分解されず、移植後にはほぼ完全に分解されるように制御された分解性能を有する生分解性育苗用根カバーを提供するものであり、これによって、植え替えに際して必要な機械的強度を保持しつつしかも根カバーを剥がす必要がなく、そのままで移植が可能となる育苗用根カバーを得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記の問題を解決するために、本発明は、植物の根の部分とこの根の周囲の土壌とを覆うための育苗用根カバーであって、不織布によって構成され、前記不織布が、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとの少なくとも2層が積層され、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布であることを要旨とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における育苗用根カバーは、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布にて形成される必要があり、使用時には、原則として前記積層長繊維不織布の太繊度側が根カバーの内側すなわち植物が配置される側になるようにして使用される。
【0008】
このように生分解性の繊維からなり、かつ繊度の異なる積層長繊維不織布を用いることで、植物の毛細根は成長を阻害することなく細繊度長繊維ウエブ内を貫通して外部に突き抜け、基幹根は少なくとも細繊度長繊維ウエブ内を通過せずに根カバーの内部に溜めることができ、また、太繊度長繊維ウエブの存在によって所定の期間内は所要の機械的強度を維持することができ、しかも移植後に土中に埋設されたカバーは、加水分解や微生物分解により最終的には水と二酸化炭素に完全に分解されるため、移植に際して根カバーを取り除く必要がなくなる。
【0009】
太繊度長繊維ウエブを構成する長繊維の単糸繊度は、5〜15デシテックスである必要がある。単糸繊度が5デシテックス未満であると、同ウエブの目付にもよるが一般に繊維間空隙が小さくなりすぎて、根カバーの外への根の突出が必要以上に抑制されて、根カバー内で根が巻きつく、いわゆる根巻を起こしやすくなり、また不織布全体の機械的強力を得にくくなる。単糸繊度が15デシテックスを超えると、製糸工程における紡出糸条の冷却性に劣り、また得られる不織布の柔軟性を損なうため加工成形時の操業性に支障をきたすこととなる。一方、前記太繊度長繊維ウエブを構成する長繊維よりも繊度の細い長繊維にて構成される細繊度長繊維ウエブの単糸繊度は、1〜5デシテックスである必要がある。単糸繊度が1デシテックス未満であると、製糸工程における操業性が損なわれるとともに生分解速度が速くなりすぎ、単糸繊度が5デシテックスを超えると、同ウエブの目付にもよるが、一般に繊維間空隙が大きくなりすぎて基幹根が貫通しやすくなる。これらの理由から、各ウエブの単糸繊度を上記のような範囲とする必要がある。
【0010】
太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとは、質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=30/70〜70/30の比率で積層されることが好ましい。太繊度長繊維ウエブの割合が30質量%よりも少なく細繊度長繊維ウエブの割合が70質量%よりも多くなると、湿潤環境下での機械的強度や寸法安定性に劣り、また、植え替えに際して必要な機械的強度が得られなくなる。一方、太繊度長繊維ウエブの割合が70質量%よりも多く細繊度長繊維ウエブの割合が30質量%よりも少なくなると、繊維間の空隙が大きくなりすぎて基幹根が根シートを通過しやすくなり、掘り起こしの際に基幹根が切られて活着率が低下する。
【0011】
上記の割合で積層された太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとは、部分的熱圧着処理または三次元交絡処理により一体化されて、本発明の根カバーを構成する積層長繊維不織布となる。
【0012】
積層長繊維不織布の目付は、50〜300g/m2の範囲にあることが好ましい。目付が50g/m2未満であると、得られる育苗用根カバーの機械的強度に劣り、実用性の乏しいものとなる。逆に、目付が300g/m2を超えるとコスト面で不利となるばかりでなく、生分解速度が低下する傾向にある。目付と前述の単糸繊度とは特に密接な関係にあり、例えば、単糸繊度が細い場合には同一目付でも緻密な不織布となるが、生分解に伴う機械的強度の低下が早いことを考慮する必要があり、また、繊維自体の機械的強度が低い場合には、不織布としての一定の強力を維持するためには、単糸繊度および目付を大きくすることが必要である。
【0013】
また、積層長繊維不織布の引張強力は、50N/5cm幅以上であることが好ましい。引張強力が50N/5cm幅未満であると、苗木とともに土を投入した際に強力が低いために育苗用根カバーが破壊されるおそれがある。そのため、さらに好ましくは引張強力が100N/5cm幅以上であることが望ましい。この引張強力の制御は、用いる重合体の種類、構成繊維の単糸繊度や強度、不織布の目付などによって可能である。
【0014】
また、積層長繊維不織布は、通気度が30〜500cc/cm2/秒であることが好ましい。通気度が30cc/cm2/秒未満であると、土壌中で有機物を分解して植物の栄養源とする微生物の働きが鈍くなり、苗木の成育に支障をきたすばかりか、不織布が緻密すぎて毛細根は根カバーを突き抜けることができなくなる。そのため、通気度は50cc/cm2/秒以上であることが望ましい。逆に、通気度が500cc/cm2/秒を超えると、根カバーの空隙が大きくなりすぎて太い基幹根が根カバーの外部へ突き抜けてしまう。この通気度の制御は、用いる重合体の種類、構成繊維の単糸繊度、不織布の目付および熱処理の条件等によって可能である。
【0015】
さらに、積層長繊維不織布は、JIS−A−1218に準じて測定した透水係数が0.02〜0.8cm/秒であることが好ましい。透水係数が0.02cm/秒未満であると、透水性が低すぎて根の周りの水が排水されず、毛細根の成長が阻害されたり基幹根が腐ったりして、時には植物が枯れるおそれがある。逆に、透水係数が0.8cm/秒を超えると、植物の毛細根のみならず太い基幹根が根カバーを突き抜けて外部へ出るおそれがある。すなわち、透水性が良すぎるということは根カバーに大きな開孔部が存在することであり、この大きな開孔部を通じて基幹根の先端部が突き出して外部の土中へ突き抜けることとなる。
【0016】
根カバーを構成するときは、植物の毛細根は成長を阻害することなく貫通させ、基幹根は貫通させずに根カバーの内部に留めるという利点から、原則として、積層長繊維不織布の太繊度側を内面側に、細繊度側を外面側に配置する。
【0017】
外面側に配置される細繊度側には、必要に応じて熱処理を施し、少なくとも構成繊維の交点を融着させて多孔性のフィルム形状としても良い。熱処理としては、例えば、熱風法や熱カレンダー法が好適に採用されるが、このとき、全構成繊維が融解して繊維間の空隙がなくなることがないように処理条件を適宜設定することが重要である。また、前記の熱処理とともに、あるいはこれに代わって、積層長繊維不織布に生分解性を有する結合剤樹脂を含浸させてもよい。生分解性を有する結合剤樹脂としては、ポリビニールアルコール、澱粉、膠等が挙げられ、これらの樹脂溶液または分散液中に不織布を浸漬、含浸させた後、乾燥させて付着させることで不織布を多孔性のフィルム形状にできる。このような多孔性のフィルム形状とすると、植物の毛細根は成長を阻害させることなく突き抜けさせ、基幹根は貫通させずに根カバーの内部に留めるという効果を、より一層高めることができ、さらに細繊度長繊維ウエブ側の表面が緻密で堅いものとなるため、根カバーを形成したときの形態保持性が良好となり、例えばその中に土を詰めるときに容易に作業できるなどの効果も得られる。
【0018】
上記のように構成された積層長繊維不織布において、太繊度長繊維ウエブを構成する太繊度長繊維と細繊度長繊維ウエブを構成する細繊度長繊維とは、同じ種類の熱可塑性脂肪族ポリエステルであっても異なる種類の熱可塑性脂肪族ポリエステルであっても良い。
【0019】
生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはこれらを主たる繰り返し単位要素とする共重合体が挙げられる。また、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)が、さらに、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートのようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)およびこれらを構成する繰り返し単位要素とポリ−3−ヒドロキシバリレートやポリ−4−ヒドロキシブチレートを構成する繰り返し単位要素との共重合体が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸の縮重合体からなるポリアルキレンジカルボキシレートとして、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレートまたはこれらを構成する繰り返し単位要素とするポリアルキレンジカルボキシレート共重合体が挙げられる。さらに、これらのような個々に生分解性を有する各重合体を複数種選択し、これらをブレンドしたものを適用することもできる。
【0020】
本発明においては、生分解性能および製糸性、実用性等の点から、以上の中で特に、ポリ乳酸系重合体が好適に使用できる。ポリ乳酸系重合体としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体あるいはL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体とから選ばれるいずれかの重合体あるいはこれらのブレンド体が好ましく、中でも融点が100℃以上である重合体が好ましい。ここで、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合におけるヒロドキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。
【0021】
なお、上記の熱可塑性脂肪族ポリエステルは、数平均分子量が約20,000以上、好ましくは40,000以上、さらに好ましくは50,000以上のものが、製糸性及び得られる糸条特性の点から好適に使用できる。また、重合度を高めるために少量のジイソシアネートやテトラカルボン酸二無水物などで鎖延長したものでも良い。
【0022】
上記の熱可塑性脂肪族ポリエステルには、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン等の結晶核剤が添加されていることが好ましい。このような結晶核剤を添加すると、熱可塑性脂肪族ポリエステルの結晶化が促進されて、育苗用カバーとした際の耐熱性や機械的強度を向上できる。また、熱可塑性脂肪族ポリエステルを紡糸する際には、紡出・冷却工程での糸条間の融着(ブロッキング)を防止できる。根カバーとしての実用性を考慮すると、構成繊維の結晶化度は15%以上25%以下であることが好ましく、結晶核剤の添加量は、0.1〜3.0質量%の範囲、より好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲であることが望ましい。なお、ここでいう結晶化度とは、粉末化した長繊維(不織布)を広角X線回析パターンにより、ルーランド法により求めたものである。繊維の結晶化度が15%未満であると、土中での分解があまりにも早く起こりすぎ実使用に適さないものとなる。逆に、25%を超えると繊維としての柔軟性に欠け、製糸性や加工性に劣るばかりでなく、土中での分解速度も著しく遅くなるので好ましくない。
【0023】
また、上記結晶核剤だけでなく、必要に応じて顔料、艶消し剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。例えば、カーボンブラックや黒色顔料などを添加すると、地中に埋没した際に顔料や染料によって地熱を吸収しやすくなり、植物の根の保温が良くなって、根の成長に寄与する。ただし、あまり添加剤の量を多くすると、繊維を紡出する際に製糸性が低下することから、添加剤は熱可塑性脂肪族ポリエステルに対し0.1〜3.0質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲で用いることが肝要である。
【0024】
また、上記のような熱可塑性脂肪族ポリエステルからなる繊維は、顔料などの着色剤をあらかじめ練りこんだポリマーを紡糸した繊維である原着繊維であることが好ましい。このような原着繊維を用いると、繊維に予め顔料が含まれているため後加工による染色が不要になり、染色による熱劣化がなくなり、また工程数も減るため低コスト化が図れる。さらに、繊維化した後の染色では着色しにくいポリ乳酸系重合体からなる繊維についても、良好な発色が得られる。
【0025】
本発明の熱可塑性脂肪族ポリエステルからなる太繊度長繊維と細繊度長繊維の繊維形態は、特に限定されるものではなく、それぞれ単一の熱可塑性脂肪族ポリエステルを用いたものであっても良いし、2種以上の熱可塑性脂肪族ポリエステルを用いた複合繊維でも良い。また、繊維横断面は、通常の丸断面の他にも、中空断面、芯鞘型複合断面、貼り合わせ型複合断面、多層型複合断面などが挙げられる。
【0026】
以下に、本発明の生分解性育苗用根カバーの製造方法を、具体例を挙げて説明する。
本発明の根カバーを構成する太繊度および細繊度の長繊維ウエブは、いわゆるスパンボンド法にて効率よく製造することができる。
【0027】
まず、熱可塑性脂肪族ポリエステルを加熱溶融して紡糸口金から紡出させ、得られた紡出糸状を従来公知の横型吹付や環状吹付等の冷却装置を用いて冷却し、その後、エアーサッカー等の吸引装置を用いて所望の単糸繊度となるように牽引・細化する。牽引速度は2000m/分以上、好ましくは、3000m/分以上、さらに好ましくは4000m/分以上である。引き続き、吸引装置にて牽引・細化した長繊維は従来公知の開繊器具にて開繊させながらスクリーンからなるコンベアーなどの移動堆積装置上に堆積させて、所望の単糸繊度からなる長繊維ウエブとする。
【0028】
得られた太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウェブとは積層比率が質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=30/70〜70/30となるようにスクリーンコンベア上に積層する。
【0029】
この積層ウエブを、太繊度長繊維ウエブの側に表面に凹凸が形成されたエンボスロールが当接し、細繊度長繊維ウエブの側に表面が平滑なフラットロールが当接するよう、エンボスロールとフラットロールの間を通過させ、部分熱圧着処理を施すことで、太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが部分熱圧着により一体化されるとともに、フラットロールにより熱処理された細繊度長繊維ウエブの少なくとも構成繊維の交点が融着された多孔性のフィルム形状の積層長繊維不織布が得られる。
【0030】
部分熱圧着処理における熱融着の条件としては、脂肪族ポリエステルの融点をTm℃としたときに、エンボスロールとフラットロールの温度を(Tm−70)〜(Tm−30)℃とすることが好ましい。また、フラットロールにより細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点を融着して多孔性のフィルム形状とするためには、エンボスロールとフラットロールの温度差を[(フラットロール温度)−(エンボスロール温度)]=0〜30℃として、この温度条件で熱処理を行うことが好ましい。エンボスロールとフラットロールの温度が(Tm−70)℃より低く、かつエンボスロールとフラットロールの温度差が30℃を超えると、不織布の表裏に毛羽が発生してしまう。また、(Tm−30)℃を超えると、熱圧着装置に重合体が固着して操業性を著しく損なうばかりか、長繊維不織布が硬化して加工性に劣るものとなる。
【0031】
なお、上記説明では、積層ウエブをエンボスロールとフラットロールの温度制御によって細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点を融着させて多孔性のフィルム形状としているが、構成繊維の結晶配向の差によって細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点を融着させることもできる。すなわち、細繊度長繊維ウエブの側の結晶配向を太繊度長繊維ウエブの側の結晶配向より低く設定して、エンボスロールとフラットロールとの間に温度差をもうけることなく積層ウエブに熱処理を施すことにより、細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点のみを融着させることができる。又、この際のエンボス温度とフラットロールの温度は(Tm−50)〜(Tm−40)℃の範囲が好ましい。
【0032】
なお、上記説明では、太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとを、部分的熱圧着により一体化したが、ニードルパンチまたは加圧液体流による交絡処理を施して、構成繊維を三次元的に交絡させて一体化してもよい。
【0033】
また、上記の説明では、不織布の細繊度側の構成繊維の交点を少なくとも熱処理により融着させて多孔性のフィルム形状とした例を挙げて説明したが、これに代えて、あるいはこれとともに浸漬法などによって不織布に上述のような生分解性を有する結合剤樹脂を含浸させてもよい。
【0034】
上記のように作成された積層長繊維不織布を、植物の根の部分とこの根の周囲の土壌とを覆うための育苗用根カバーとして使用する際には、例えば、不織布を裁断し、太繊度の繊維が内側となるようにしてその端部を縫製又は熱接着により接合して袋状に成形する方法等が適用できる。なお、縫製により成形する場合には、縫合糸として生分解性を有するものを用いることが好ましく、また、熱接着により成形する場合には、熱カレンダー法や超音波融着法等の公知の方法によって行うことができる。
【0035】
得られた育苗用根カバーは、植え替えに際して必要な機械的強度を保持しつつも適度な生分解性を有するため根カバーを剥がす必要がなく、そのままでの移植が可能となる。なお、本発明の育苗用根カバーで必要とされる生分解性とは、植物の育苗期間を考慮すると、1年目はほとんど分解されておらず、2年目にはやや分解が進み、3年目には約半分程度まで分解が進み、5年目には殆ど分解されている程度のものである。
【0036】
また、土中に埋設した場合には、適度な緻密性を有するため、カバーの内外において土中水分や肥料の栄養分、酸素等に関して大きな差異が生じないように一定レベルの透水性と通気性を付与でき、しかも、苗木の細い根は土中の栄養分を広い範囲にわたって吸収するためにカバーの内から外へ貫通でき、一方、太い根は移植に際しての掘り起こし時の切断を回避して活着率の向上が図れるようカバーの内部に留まらせることができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は以下の方法により実施した。
(1)融点(℃):パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を用いて、昇温速度を20℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
(2)熱可塑性脂肪族ポリエステルの固有粘度:フェノールと四塩化エタンの等重量混合溶液を溶媒とし、試料濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(3)単糸繊度(デシテックス):ウエブの状態における繊維径を50本顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた繊度の平均値を繊度とした。
(4)目付(g/m2):標準状態の試料から縦10cm×横10cmの試料各10点を作製し、平衡水分に至らしめた後、各試料片の重量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して、目付とした。
(5)引張強力(N/5cm幅):JIS L1906に記載のストリップ法に準じて、試料長が20cm、試料幅が5cmの試料片各10点を作製し、定速伸長型引張試験機(東洋ボールドウィン社製テンシロンUTM−4−1−100)を用いて、各試料片毎につかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸長し、最大引張強力の平均値を引張強力とした。
(6)通気度(cc/cm2/秒):JIS−L−1096に記載のフラジール法に従って測定した。すなわち、試料長15cm、試料幅15cmの試料を3個準備し、フラジール型試験機を用い、円筒の一端に試料を取り付けた後、可変抵抗器によって傾斜形気圧計が水柱12.7mmの圧力を示すように、吸い込みポンプを調節し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類とから、試料片を通過する空気量(cc/cm2/秒)を求め、その平均値を通気度とした。
(7)透水係数(cm/秒):JIS−A1218に記載の定水位透水試験に基づいて、水温20℃、透水円筒の断面積3.14cm2で測定し、透水係数(cm/秒)を算出した。なお、透水係数が大きいほど、透水性が良いことを示す。
(8)生分解性能:試料となるカバーを土中に穴を掘って埋め、その分解状況を観察し、1〜2年の間はできるだけ分解しない方が良く、2年目以降にかけては生分解が進行するものの方が生分解性に優れているという判断で、以下の総合評価を行った。
○:1〜2年の間は生分解せず、3年後にはほぼ完全に生分解していた。
△:1〜2年のうちにほぼ完全に分解していた。
×:非分解性であった。
(9)苗木の成育状態:試料となるカバーを土中に穴を掘って埋め、このカバー内にあらかじめ農場で成育させたカシの幼木を植え込み、2年経過後、そのカバーの外側に沿って掘り起こし、そのまま別の土地に運んで植え込んだ。さらに1年後に再び土を堀起こして苗木の発育状態を観察し以下の3段階で評価した。
○:成育状態は良好であった。
△:成育状態は普通であった。
×:成育は不良であった。
実施例1
育苗用根カバーを形成するに際し、積層長繊維不織布をスパンボンド法にて作成した。
【0038】
まず、太繊度長繊維ウエブを形成するために、融点が171℃のポリ乳酸(D/L=1.3/98.7[モル比])を溶融し、紡糸口金を用いて紡糸温度210℃、単孔吐出量3.5g/分の条件下で溶融紡糸を行った。紡出糸条を冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度4500m/分で牽引細化し、公知の開繊機を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上に捕集堆積させ、単糸繊度が7.7デシテックスで、目付が75g/m2の太繊度長繊維ウエブを作成した。
【0039】
また、単孔吐出量を1.5g/分とした以外は上記と同様にして、単糸繊度が3.3デシテックス、目付が75g/m2の細繊度長繊維ウエブを作成した。
この太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとを、積層比率が質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=50/50となるように移動するスクリーンコンベア上に積層した後、積層ウエブを、ロール温度を135℃としたフラットロールとロール温度を125℃としたエンボスロールからなる熱圧着装置に、太繊度長繊維ウエブがエンボスロールと当接し、細繊度長繊維ウエブがフラットロールと当接するように通して片面熱融着し、目付が150g/m2である積層長繊維不織布を得た。
【0040】
得られた積層長繊維不織布を用いて、直径30cm、高さ30cmの円筒袋状の育苗用根カバーを、太繊度長繊維側が内側となるように接合部を縫製して作製した。そして、袋状の根カバーを土中に掘った穴内に入れ、次いで、このカバー内にあらかじめ農場で成育させたカシの幼木を植え込み、2年間放置した後で、根カバーの外側に沿って掘り起こし、そのまま別の土地に運んで植え込んだ。さらに1年経過した後に再び土を掘り起こして、根カバーの分解状況および苗木の発育状態を観察した。
【0041】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
【0042】
【表1】
実施例2
太繊度長繊維ウエブの目付を100g/m2、細繊度長繊維ウエブの目付を50g/m2とした。また、太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとの積層比率を質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=67/33とした。そしてそれ以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を作成し、これを用いて根カバーを作成した。
【0043】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
実施例3
太繊度長繊維ウエブを形成するに際し、単孔吐出量を3.7g/分とし、紡出糸条の牽引速度を4700m/分とした以外は実施例1と同様にして、単糸繊度が7.8デシテックス、目付が75g/m2の太繊度長繊維ウエブを作成した。
【0044】
また、単孔吐出量を1.2g/分、紡出糸条の牽引速度を3600m/分とした以外は実施例1と同様にして、単糸繊度が3.3デシテックス、目付が125g/m2の細繊度長繊維ウエブを作成した。
【0045】
得られた太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとの積層比率を質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=37.5/62.5として、熱圧着装置におけるエンボスロールの温度を135℃とした。
【0046】
そしてそれ以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を作成し、これを用いて根カバーを作成した。
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
実施例4
実施例1において得られた積層長繊維不織布を、ポリビニルアルコール水溶液に浸漬し、含浸、乾燥させた。そしてそれ以外は実施例1と同様にして、根カバーを作成した。
【0047】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
実施例1〜実施例4は、ポリ乳酸からなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと単糸繊度が1〜5デシテックスの細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布にて根カバーを構成したため、植え替えに際して必要な機械的強度を有し、しかも育苗期間中は殆ど分解されず、移植後にはほぼ完全に分解されるという優れた生分解性能を有し、さらに適度な通気度と透水係数を有し、苗木の成育状態も良好な根カバーが得られた。
比較例1
実施例1と同様にして目付が150g/m2の太繊度長繊維ウエブを作成し、この太繊度長繊維ウエブのみを用いて、加工条件は実施例1と同様にして単層の長繊維不織布を作成し、これを用いて根カバーを作成した。
【0048】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
比較例1は、太繊度長繊維ウエブのみからなる長繊維不織布にて根カバーを作成したため、繊維間空隙が大きくなり、苗木の成育状態の評価において、幼木を植え込んで2年経過した後に、カバーの外側に沿って掘り起こしたところ、基幹根までがカバーを突き破って外側に突出していたため根が切れてしまい、その後の植え替えにおける成育状態に劣るものとなった。
【0049】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとの少なくとも2層が積層され、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布にて育苗用根カバーを形成することで、育苗期間中は殆ど分解されず、移植後にはほぼ分解され、これによって、植え替えに際して必要な機械的強力を保持しつつ根カバーを剥がす必要がなく、そのままで移植が可能となる生分解性育苗用根カバーを提供することができる。さらに、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブの単糸繊度、積層長繊維不織布の目付、片側表面の融着状態を適宜調節して、適度な通気性、透水性を具備させることで、苗木の成長の良好な根カバーを提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、農・園芸分野において用いられる育苗用根カバーおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、従来の育苗根カバーのように移植に際して育苗用容器を取り除く必要がなく、そのまま移植が可能な生分解性を有する育苗用根カバーおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然への回帰指向が高まる中で、公園、庭園、宅地等に植栽する緑化樹の栽培がさかんである。一般的には、緑化樹は農園で苗木を一定の大きさまで育成した後、掘り起こして出荷する形態が取られているが、緑化樹を掘り起こして出荷するためには、毛根部を保護するための根巻作業が必要であり、作業が煩雑で人件費がかかるという問題がある。また、緑化樹を掘り起こす際にかなり太い基幹根も切れてしまうために、移植に際して根が付かず枯れることが多くなり、移植は、植物の代謝成長の活発な春先に限られるという問題もある。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、まず植え込みの穴を掘った後、織編物や不織布からなる円筒状の容器をその穴の中に置き、その容器の中に苗木を植え込み、一定期間の養育後にその容器の外周に沿って掘り起こす方法が開発されている。この方法により、この容器が出荷時に根カバーとして機能することから、出荷時の根巻作業が不要となり作業性の大幅な簡便化につながるとともに、掘り起こしの際に太い根が切られることがないので、活着率が向上し、一年を通じて出荷が可能になることが期待される。
【0004】
このような根カバーの素材としては、土中の微生物の存在下や湿潤環境下においても、育苗期間中の少なくとも1〜2年は安定した機械的強度を維持する必要があり、このため、現在は、その一部又は全部がポリエステルやナイロンやポリプロピレン等である合成繊維が根カバーの素材に用いられている。しかし、これらポリエステル等の合成繊維は、土中では分解されないために、掘り起こして移植・植え込みをするに際して、根が絡まった根カバーを剥がさねばならず、また、その廃棄処理も問題となる。一方、例えば、木綿やレーヨン等の天然繊維または再生繊維を根カバーの素材として用いた場合、土中の微生物によりあまりにも早期に分解されてしまうため、本来の根カバーとしての役割を果たすことができず、しかも湿潤時環境下における機械的強度や寸法安定性に欠けるという問題点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような問題点を解決し、優れた機械的強度を具備するとともに、育苗期間中は殆ど分解されず、移植後にはほぼ完全に分解されるように制御された分解性能を有する生分解性育苗用根カバーを提供するものであり、これによって、植え替えに際して必要な機械的強度を保持しつつしかも根カバーを剥がす必要がなく、そのままで移植が可能となる育苗用根カバーを得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記の問題を解決するために、本発明は、植物の根の部分とこの根の周囲の土壌とを覆うための育苗用根カバーであって、不織布によって構成され、前記不織布が、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとの少なくとも2層が積層され、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布であることを要旨とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における育苗用根カバーは、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布にて形成される必要があり、使用時には、原則として前記積層長繊維不織布の太繊度側が根カバーの内側すなわち植物が配置される側になるようにして使用される。
【0008】
このように生分解性の繊維からなり、かつ繊度の異なる積層長繊維不織布を用いることで、植物の毛細根は成長を阻害することなく細繊度長繊維ウエブ内を貫通して外部に突き抜け、基幹根は少なくとも細繊度長繊維ウエブ内を通過せずに根カバーの内部に溜めることができ、また、太繊度長繊維ウエブの存在によって所定の期間内は所要の機械的強度を維持することができ、しかも移植後に土中に埋設されたカバーは、加水分解や微生物分解により最終的には水と二酸化炭素に完全に分解されるため、移植に際して根カバーを取り除く必要がなくなる。
【0009】
太繊度長繊維ウエブを構成する長繊維の単糸繊度は、5〜15デシテックスである必要がある。単糸繊度が5デシテックス未満であると、同ウエブの目付にもよるが一般に繊維間空隙が小さくなりすぎて、根カバーの外への根の突出が必要以上に抑制されて、根カバー内で根が巻きつく、いわゆる根巻を起こしやすくなり、また不織布全体の機械的強力を得にくくなる。単糸繊度が15デシテックスを超えると、製糸工程における紡出糸条の冷却性に劣り、また得られる不織布の柔軟性を損なうため加工成形時の操業性に支障をきたすこととなる。一方、前記太繊度長繊維ウエブを構成する長繊維よりも繊度の細い長繊維にて構成される細繊度長繊維ウエブの単糸繊度は、1〜5デシテックスである必要がある。単糸繊度が1デシテックス未満であると、製糸工程における操業性が損なわれるとともに生分解速度が速くなりすぎ、単糸繊度が5デシテックスを超えると、同ウエブの目付にもよるが、一般に繊維間空隙が大きくなりすぎて基幹根が貫通しやすくなる。これらの理由から、各ウエブの単糸繊度を上記のような範囲とする必要がある。
【0010】
太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとは、質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=30/70〜70/30の比率で積層されることが好ましい。太繊度長繊維ウエブの割合が30質量%よりも少なく細繊度長繊維ウエブの割合が70質量%よりも多くなると、湿潤環境下での機械的強度や寸法安定性に劣り、また、植え替えに際して必要な機械的強度が得られなくなる。一方、太繊度長繊維ウエブの割合が70質量%よりも多く細繊度長繊維ウエブの割合が30質量%よりも少なくなると、繊維間の空隙が大きくなりすぎて基幹根が根シートを通過しやすくなり、掘り起こしの際に基幹根が切られて活着率が低下する。
【0011】
上記の割合で積層された太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとは、部分的熱圧着処理または三次元交絡処理により一体化されて、本発明の根カバーを構成する積層長繊維不織布となる。
【0012】
積層長繊維不織布の目付は、50〜300g/m2の範囲にあることが好ましい。目付が50g/m2未満であると、得られる育苗用根カバーの機械的強度に劣り、実用性の乏しいものとなる。逆に、目付が300g/m2を超えるとコスト面で不利となるばかりでなく、生分解速度が低下する傾向にある。目付と前述の単糸繊度とは特に密接な関係にあり、例えば、単糸繊度が細い場合には同一目付でも緻密な不織布となるが、生分解に伴う機械的強度の低下が早いことを考慮する必要があり、また、繊維自体の機械的強度が低い場合には、不織布としての一定の強力を維持するためには、単糸繊度および目付を大きくすることが必要である。
【0013】
また、積層長繊維不織布の引張強力は、50N/5cm幅以上であることが好ましい。引張強力が50N/5cm幅未満であると、苗木とともに土を投入した際に強力が低いために育苗用根カバーが破壊されるおそれがある。そのため、さらに好ましくは引張強力が100N/5cm幅以上であることが望ましい。この引張強力の制御は、用いる重合体の種類、構成繊維の単糸繊度や強度、不織布の目付などによって可能である。
【0014】
また、積層長繊維不織布は、通気度が30〜500cc/cm2/秒であることが好ましい。通気度が30cc/cm2/秒未満であると、土壌中で有機物を分解して植物の栄養源とする微生物の働きが鈍くなり、苗木の成育に支障をきたすばかりか、不織布が緻密すぎて毛細根は根カバーを突き抜けることができなくなる。そのため、通気度は50cc/cm2/秒以上であることが望ましい。逆に、通気度が500cc/cm2/秒を超えると、根カバーの空隙が大きくなりすぎて太い基幹根が根カバーの外部へ突き抜けてしまう。この通気度の制御は、用いる重合体の種類、構成繊維の単糸繊度、不織布の目付および熱処理の条件等によって可能である。
【0015】
さらに、積層長繊維不織布は、JIS−A−1218に準じて測定した透水係数が0.02〜0.8cm/秒であることが好ましい。透水係数が0.02cm/秒未満であると、透水性が低すぎて根の周りの水が排水されず、毛細根の成長が阻害されたり基幹根が腐ったりして、時には植物が枯れるおそれがある。逆に、透水係数が0.8cm/秒を超えると、植物の毛細根のみならず太い基幹根が根カバーを突き抜けて外部へ出るおそれがある。すなわち、透水性が良すぎるということは根カバーに大きな開孔部が存在することであり、この大きな開孔部を通じて基幹根の先端部が突き出して外部の土中へ突き抜けることとなる。
【0016】
根カバーを構成するときは、植物の毛細根は成長を阻害することなく貫通させ、基幹根は貫通させずに根カバーの内部に留めるという利点から、原則として、積層長繊維不織布の太繊度側を内面側に、細繊度側を外面側に配置する。
【0017】
外面側に配置される細繊度側には、必要に応じて熱処理を施し、少なくとも構成繊維の交点を融着させて多孔性のフィルム形状としても良い。熱処理としては、例えば、熱風法や熱カレンダー法が好適に採用されるが、このとき、全構成繊維が融解して繊維間の空隙がなくなることがないように処理条件を適宜設定することが重要である。また、前記の熱処理とともに、あるいはこれに代わって、積層長繊維不織布に生分解性を有する結合剤樹脂を含浸させてもよい。生分解性を有する結合剤樹脂としては、ポリビニールアルコール、澱粉、膠等が挙げられ、これらの樹脂溶液または分散液中に不織布を浸漬、含浸させた後、乾燥させて付着させることで不織布を多孔性のフィルム形状にできる。このような多孔性のフィルム形状とすると、植物の毛細根は成長を阻害させることなく突き抜けさせ、基幹根は貫通させずに根カバーの内部に留めるという効果を、より一層高めることができ、さらに細繊度長繊維ウエブ側の表面が緻密で堅いものとなるため、根カバーを形成したときの形態保持性が良好となり、例えばその中に土を詰めるときに容易に作業できるなどの効果も得られる。
【0018】
上記のように構成された積層長繊維不織布において、太繊度長繊維ウエブを構成する太繊度長繊維と細繊度長繊維ウエブを構成する細繊度長繊維とは、同じ種類の熱可塑性脂肪族ポリエステルであっても異なる種類の熱可塑性脂肪族ポリエステルであっても良い。
【0019】
生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはこれらを主たる繰り返し単位要素とする共重合体が挙げられる。また、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)が、さらに、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートのようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)およびこれらを構成する繰り返し単位要素とポリ−3−ヒドロキシバリレートやポリ−4−ヒドロキシブチレートを構成する繰り返し単位要素との共重合体が挙げられる。また、グリコールとジカルボン酸の縮重合体からなるポリアルキレンジカルボキシレートとして、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレートまたはこれらを構成する繰り返し単位要素とするポリアルキレンジカルボキシレート共重合体が挙げられる。さらに、これらのような個々に生分解性を有する各重合体を複数種選択し、これらをブレンドしたものを適用することもできる。
【0020】
本発明においては、生分解性能および製糸性、実用性等の点から、以上の中で特に、ポリ乳酸系重合体が好適に使用できる。ポリ乳酸系重合体としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体あるいはL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体とから選ばれるいずれかの重合体あるいはこれらのブレンド体が好ましく、中でも融点が100℃以上である重合体が好ましい。ここで、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合におけるヒロドキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。
【0021】
なお、上記の熱可塑性脂肪族ポリエステルは、数平均分子量が約20,000以上、好ましくは40,000以上、さらに好ましくは50,000以上のものが、製糸性及び得られる糸条特性の点から好適に使用できる。また、重合度を高めるために少量のジイソシアネートやテトラカルボン酸二無水物などで鎖延長したものでも良い。
【0022】
上記の熱可塑性脂肪族ポリエステルには、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン等の結晶核剤が添加されていることが好ましい。このような結晶核剤を添加すると、熱可塑性脂肪族ポリエステルの結晶化が促進されて、育苗用カバーとした際の耐熱性や機械的強度を向上できる。また、熱可塑性脂肪族ポリエステルを紡糸する際には、紡出・冷却工程での糸条間の融着(ブロッキング)を防止できる。根カバーとしての実用性を考慮すると、構成繊維の結晶化度は15%以上25%以下であることが好ましく、結晶核剤の添加量は、0.1〜3.0質量%の範囲、より好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲であることが望ましい。なお、ここでいう結晶化度とは、粉末化した長繊維(不織布)を広角X線回析パターンにより、ルーランド法により求めたものである。繊維の結晶化度が15%未満であると、土中での分解があまりにも早く起こりすぎ実使用に適さないものとなる。逆に、25%を超えると繊維としての柔軟性に欠け、製糸性や加工性に劣るばかりでなく、土中での分解速度も著しく遅くなるので好ましくない。
【0023】
また、上記結晶核剤だけでなく、必要に応じて顔料、艶消し剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加しても良い。例えば、カーボンブラックや黒色顔料などを添加すると、地中に埋没した際に顔料や染料によって地熱を吸収しやすくなり、植物の根の保温が良くなって、根の成長に寄与する。ただし、あまり添加剤の量を多くすると、繊維を紡出する際に製糸性が低下することから、添加剤は熱可塑性脂肪族ポリエステルに対し0.1〜3.0質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲で用いることが肝要である。
【0024】
また、上記のような熱可塑性脂肪族ポリエステルからなる繊維は、顔料などの着色剤をあらかじめ練りこんだポリマーを紡糸した繊維である原着繊維であることが好ましい。このような原着繊維を用いると、繊維に予め顔料が含まれているため後加工による染色が不要になり、染色による熱劣化がなくなり、また工程数も減るため低コスト化が図れる。さらに、繊維化した後の染色では着色しにくいポリ乳酸系重合体からなる繊維についても、良好な発色が得られる。
【0025】
本発明の熱可塑性脂肪族ポリエステルからなる太繊度長繊維と細繊度長繊維の繊維形態は、特に限定されるものではなく、それぞれ単一の熱可塑性脂肪族ポリエステルを用いたものであっても良いし、2種以上の熱可塑性脂肪族ポリエステルを用いた複合繊維でも良い。また、繊維横断面は、通常の丸断面の他にも、中空断面、芯鞘型複合断面、貼り合わせ型複合断面、多層型複合断面などが挙げられる。
【0026】
以下に、本発明の生分解性育苗用根カバーの製造方法を、具体例を挙げて説明する。
本発明の根カバーを構成する太繊度および細繊度の長繊維ウエブは、いわゆるスパンボンド法にて効率よく製造することができる。
【0027】
まず、熱可塑性脂肪族ポリエステルを加熱溶融して紡糸口金から紡出させ、得られた紡出糸状を従来公知の横型吹付や環状吹付等の冷却装置を用いて冷却し、その後、エアーサッカー等の吸引装置を用いて所望の単糸繊度となるように牽引・細化する。牽引速度は2000m/分以上、好ましくは、3000m/分以上、さらに好ましくは4000m/分以上である。引き続き、吸引装置にて牽引・細化した長繊維は従来公知の開繊器具にて開繊させながらスクリーンからなるコンベアーなどの移動堆積装置上に堆積させて、所望の単糸繊度からなる長繊維ウエブとする。
【0028】
得られた太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウェブとは積層比率が質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=30/70〜70/30となるようにスクリーンコンベア上に積層する。
【0029】
この積層ウエブを、太繊度長繊維ウエブの側に表面に凹凸が形成されたエンボスロールが当接し、細繊度長繊維ウエブの側に表面が平滑なフラットロールが当接するよう、エンボスロールとフラットロールの間を通過させ、部分熱圧着処理を施すことで、太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが部分熱圧着により一体化されるとともに、フラットロールにより熱処理された細繊度長繊維ウエブの少なくとも構成繊維の交点が融着された多孔性のフィルム形状の積層長繊維不織布が得られる。
【0030】
部分熱圧着処理における熱融着の条件としては、脂肪族ポリエステルの融点をTm℃としたときに、エンボスロールとフラットロールの温度を(Tm−70)〜(Tm−30)℃とすることが好ましい。また、フラットロールにより細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点を融着して多孔性のフィルム形状とするためには、エンボスロールとフラットロールの温度差を[(フラットロール温度)−(エンボスロール温度)]=0〜30℃として、この温度条件で熱処理を行うことが好ましい。エンボスロールとフラットロールの温度が(Tm−70)℃より低く、かつエンボスロールとフラットロールの温度差が30℃を超えると、不織布の表裏に毛羽が発生してしまう。また、(Tm−30)℃を超えると、熱圧着装置に重合体が固着して操業性を著しく損なうばかりか、長繊維不織布が硬化して加工性に劣るものとなる。
【0031】
なお、上記説明では、積層ウエブをエンボスロールとフラットロールの温度制御によって細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点を融着させて多孔性のフィルム形状としているが、構成繊維の結晶配向の差によって細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点を融着させることもできる。すなわち、細繊度長繊維ウエブの側の結晶配向を太繊度長繊維ウエブの側の結晶配向より低く設定して、エンボスロールとフラットロールとの間に温度差をもうけることなく積層ウエブに熱処理を施すことにより、細繊度長繊維ウエブの側の構成繊維の交点のみを融着させることができる。又、この際のエンボス温度とフラットロールの温度は(Tm−50)〜(Tm−40)℃の範囲が好ましい。
【0032】
なお、上記説明では、太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとを、部分的熱圧着により一体化したが、ニードルパンチまたは加圧液体流による交絡処理を施して、構成繊維を三次元的に交絡させて一体化してもよい。
【0033】
また、上記の説明では、不織布の細繊度側の構成繊維の交点を少なくとも熱処理により融着させて多孔性のフィルム形状とした例を挙げて説明したが、これに代えて、あるいはこれとともに浸漬法などによって不織布に上述のような生分解性を有する結合剤樹脂を含浸させてもよい。
【0034】
上記のように作成された積層長繊維不織布を、植物の根の部分とこの根の周囲の土壌とを覆うための育苗用根カバーとして使用する際には、例えば、不織布を裁断し、太繊度の繊維が内側となるようにしてその端部を縫製又は熱接着により接合して袋状に成形する方法等が適用できる。なお、縫製により成形する場合には、縫合糸として生分解性を有するものを用いることが好ましく、また、熱接着により成形する場合には、熱カレンダー法や超音波融着法等の公知の方法によって行うことができる。
【0035】
得られた育苗用根カバーは、植え替えに際して必要な機械的強度を保持しつつも適度な生分解性を有するため根カバーを剥がす必要がなく、そのままでの移植が可能となる。なお、本発明の育苗用根カバーで必要とされる生分解性とは、植物の育苗期間を考慮すると、1年目はほとんど分解されておらず、2年目にはやや分解が進み、3年目には約半分程度まで分解が進み、5年目には殆ど分解されている程度のものである。
【0036】
また、土中に埋設した場合には、適度な緻密性を有するため、カバーの内外において土中水分や肥料の栄養分、酸素等に関して大きな差異が生じないように一定レベルの透水性と通気性を付与でき、しかも、苗木の細い根は土中の栄養分を広い範囲にわたって吸収するためにカバーの内から外へ貫通でき、一方、太い根は移植に際しての掘り起こし時の切断を回避して活着率の向上が図れるようカバーの内部に留まらせることができる。
【0037】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は以下の方法により実施した。
(1)融点(℃):パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を用いて、昇温速度を20℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
(2)熱可塑性脂肪族ポリエステルの固有粘度:フェノールと四塩化エタンの等重量混合溶液を溶媒とし、試料濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(3)単糸繊度(デシテックス):ウエブの状態における繊維径を50本顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた繊度の平均値を繊度とした。
(4)目付(g/m2):標準状態の試料から縦10cm×横10cmの試料各10点を作製し、平衡水分に至らしめた後、各試料片の重量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して、目付とした。
(5)引張強力(N/5cm幅):JIS L1906に記載のストリップ法に準じて、試料長が20cm、試料幅が5cmの試料片各10点を作製し、定速伸長型引張試験機(東洋ボールドウィン社製テンシロンUTM−4−1−100)を用いて、各試料片毎につかみ間隔10cm、引張速度20cm/分で伸長し、最大引張強力の平均値を引張強力とした。
(6)通気度(cc/cm2/秒):JIS−L−1096に記載のフラジール法に従って測定した。すなわち、試料長15cm、試料幅15cmの試料を3個準備し、フラジール型試験機を用い、円筒の一端に試料を取り付けた後、可変抵抗器によって傾斜形気圧計が水柱12.7mmの圧力を示すように、吸い込みポンプを調節し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類とから、試料片を通過する空気量(cc/cm2/秒)を求め、その平均値を通気度とした。
(7)透水係数(cm/秒):JIS−A1218に記載の定水位透水試験に基づいて、水温20℃、透水円筒の断面積3.14cm2で測定し、透水係数(cm/秒)を算出した。なお、透水係数が大きいほど、透水性が良いことを示す。
(8)生分解性能:試料となるカバーを土中に穴を掘って埋め、その分解状況を観察し、1〜2年の間はできるだけ分解しない方が良く、2年目以降にかけては生分解が進行するものの方が生分解性に優れているという判断で、以下の総合評価を行った。
○:1〜2年の間は生分解せず、3年後にはほぼ完全に生分解していた。
△:1〜2年のうちにほぼ完全に分解していた。
×:非分解性であった。
(9)苗木の成育状態:試料となるカバーを土中に穴を掘って埋め、このカバー内にあらかじめ農場で成育させたカシの幼木を植え込み、2年経過後、そのカバーの外側に沿って掘り起こし、そのまま別の土地に運んで植え込んだ。さらに1年後に再び土を堀起こして苗木の発育状態を観察し以下の3段階で評価した。
○:成育状態は良好であった。
△:成育状態は普通であった。
×:成育は不良であった。
実施例1
育苗用根カバーを形成するに際し、積層長繊維不織布をスパンボンド法にて作成した。
【0038】
まず、太繊度長繊維ウエブを形成するために、融点が171℃のポリ乳酸(D/L=1.3/98.7[モル比])を溶融し、紡糸口金を用いて紡糸温度210℃、単孔吐出量3.5g/分の条件下で溶融紡糸を行った。紡出糸条を冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度4500m/分で牽引細化し、公知の開繊機を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上に捕集堆積させ、単糸繊度が7.7デシテックスで、目付が75g/m2の太繊度長繊維ウエブを作成した。
【0039】
また、単孔吐出量を1.5g/分とした以外は上記と同様にして、単糸繊度が3.3デシテックス、目付が75g/m2の細繊度長繊維ウエブを作成した。
この太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとを、積層比率が質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=50/50となるように移動するスクリーンコンベア上に積層した後、積層ウエブを、ロール温度を135℃としたフラットロールとロール温度を125℃としたエンボスロールからなる熱圧着装置に、太繊度長繊維ウエブがエンボスロールと当接し、細繊度長繊維ウエブがフラットロールと当接するように通して片面熱融着し、目付が150g/m2である積層長繊維不織布を得た。
【0040】
得られた積層長繊維不織布を用いて、直径30cm、高さ30cmの円筒袋状の育苗用根カバーを、太繊度長繊維側が内側となるように接合部を縫製して作製した。そして、袋状の根カバーを土中に掘った穴内に入れ、次いで、このカバー内にあらかじめ農場で成育させたカシの幼木を植え込み、2年間放置した後で、根カバーの外側に沿って掘り起こし、そのまま別の土地に運んで植え込んだ。さらに1年経過した後に再び土を掘り起こして、根カバーの分解状況および苗木の発育状態を観察した。
【0041】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
【0042】
【表1】
実施例2
太繊度長繊維ウエブの目付を100g/m2、細繊度長繊維ウエブの目付を50g/m2とした。また、太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとの積層比率を質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=67/33とした。そしてそれ以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を作成し、これを用いて根カバーを作成した。
【0043】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
実施例3
太繊度長繊維ウエブを形成するに際し、単孔吐出量を3.7g/分とし、紡出糸条の牽引速度を4700m/分とした以外は実施例1と同様にして、単糸繊度が7.8デシテックス、目付が75g/m2の太繊度長繊維ウエブを作成した。
【0044】
また、単孔吐出量を1.2g/分、紡出糸条の牽引速度を3600m/分とした以外は実施例1と同様にして、単糸繊度が3.3デシテックス、目付が125g/m2の細繊度長繊維ウエブを作成した。
【0045】
得られた太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとの積層比率を質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=37.5/62.5として、熱圧着装置におけるエンボスロールの温度を135℃とした。
【0046】
そしてそれ以外は実施例1と同様にして長繊維不織布を作成し、これを用いて根カバーを作成した。
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
実施例4
実施例1において得られた積層長繊維不織布を、ポリビニルアルコール水溶液に浸漬し、含浸、乾燥させた。そしてそれ以外は実施例1と同様にして、根カバーを作成した。
【0047】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
実施例1〜実施例4は、ポリ乳酸からなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと単糸繊度が1〜5デシテックスの細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布にて根カバーを構成したため、植え替えに際して必要な機械的強度を有し、しかも育苗期間中は殆ど分解されず、移植後にはほぼ完全に分解されるという優れた生分解性能を有し、さらに適度な通気度と透水係数を有し、苗木の成育状態も良好な根カバーが得られた。
比較例1
実施例1と同様にして目付が150g/m2の太繊度長繊維ウエブを作成し、この太繊度長繊維ウエブのみを用いて、加工条件は実施例1と同様にして単層の長繊維不織布を作成し、これを用いて根カバーを作成した。
【0048】
得られた根カバーの物性、生分解性などを表1に示す。
比較例1は、太繊度長繊維ウエブのみからなる長繊維不織布にて根カバーを作成したため、繊維間空隙が大きくなり、苗木の成育状態の評価において、幼木を植え込んで2年経過した後に、カバーの外側に沿って掘り起こしたところ、基幹根までがカバーを突き破って外側に突出していたため根が切れてしまい、その後の植え替えにおける成育状態に劣るものとなった。
【0049】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとの少なくとも2層が積層され、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布にて育苗用根カバーを形成することで、育苗期間中は殆ど分解されず、移植後にはほぼ分解され、これによって、植え替えに際して必要な機械的強力を保持しつつ根カバーを剥がす必要がなく、そのままで移植が可能となる生分解性育苗用根カバーを提供することができる。さらに、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブの単糸繊度、積層長繊維不織布の目付、片側表面の融着状態を適宜調節して、適度な通気性、透水性を具備させることで、苗木の成長の良好な根カバーを提供することができる。
Claims (13)
- 植物の根の部分とこの根の周囲の土壌とを覆うための育苗用根カバーであって、不織布によって構成され、前記不織布が、生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブと生分解性を有する熱可塑性脂肪族ポリエステルからなり単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブとの少なくとも2層が積層され、前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが一体化された積層長繊維不織布であることを特徴とする生分解性育苗用根カバー。
- 太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとの積層比率が質量比で(太繊度長繊維ウエブ/細繊度長繊維ウエブ)=30/70〜70/30であることを特徴とする請求項1記載の生分解性育苗用根カバー。
- 太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウエブとが部分的熱圧着または三次元的交絡により一体化されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の生分解性育苗用根カバー。
- 不織布の前記細繊度長繊維ウエブ側に熱処理が施されて少なくとも構成繊維の交点が融着していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の生分解性育苗用根カバー。
- 不織布に生分解性を有する結合剤樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の生分解性育苗用根カバー。
- 熱可塑性脂肪族ポリエステルが、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体とから選ばれるいずれかの重合体あるいはこれらのブレンド体であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の生分解性育苗用根カバー。
- 不織布の目付が50〜300g/m2の範囲であり、引張強力が50N/5cm幅以上であり、通気度が30〜500cc/cm2/秒であり、透水係数が0.02〜0.8cm/秒であること特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の生分解性育苗用根カバー。
- ポリ乳酸系重合体に結晶核剤が添加されていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の生分解性育苗用根カバー。
- 不織布を構成する繊維が原着繊維であることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の生分解性育苗用根カバー。
- 不織布が縫製または熱接着により袋状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項記載の生分解性育苗用根カバー。
- 熱可塑性脂肪族ポリエステルを加熱溶融して紡糸口金から紡出し、紡出糸状を吸引装置にて牽引・細化した後に、移動式捕集面上に開繊させながら堆積して単糸繊度が5〜15デシテックスの太繊度長繊維ウエブを形成し、熱可塑性脂肪族ポリエステルを加熱溶融して紡糸口金から紡出し、紡出糸状を吸引装置にて牽引・細化した後に、移動式捕集面上に開繊させながら堆積して単糸繊度が1〜5デシテックスで前記太繊度長繊維ウエブとは繊度の異なる細繊度長繊維ウエブを形成し、形成した前記太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウェブとを一体化させて育苗用根カバーを構成する積層長繊維不織布を形成することを特徴とする生分解性育苗用根カバーの製造方法。
- 太繊度長繊維ウエブと細繊度長繊維ウェブとを部分熱圧着処理または三次元交絡処理を施して一体化させる請求項11記載の生分解性育苗用根カバーの製造方法。
- 部分熱圧着処理を、表面に凹凸が形成されたエンボスロールと表面が平滑なフラットロールとを用いて、熱可塑性脂肪族ポリエステルの融点をTm℃としたときに、エンボスロールとフラットロールのロール温度が(Tm−70)〜(Tm−30)℃であり、かつ、エンボスロールとフラットロールとの温度差が[(フラットロールの温度)−(エンボスロールの温度)]=0〜30℃となる温度条件で熱融着することを特徴とする請求項12に記載の生分解性育苗用根カバーの製造方法。
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