JP4713344B2 - 超微細結晶層生成方法、その超微細結晶層生成方法により生成された超微細結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法、並びに、ナノ結晶層生成方法、そのナノ結晶層生成方法により生成されたナノ結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法 - Google Patents

超微細結晶層生成方法、その超微細結晶層生成方法により生成された超微細結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法、並びに、ナノ結晶層生成方法、そのナノ結晶層生成方法により生成されたナノ結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法 Download PDF

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超微細結晶層生成方法、その超微細結晶層生成方法により生成された超微細結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法、並びに、ナノ結晶層生成方法、そのナノ結晶層生成方法により生成されたナノ結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法に関するものである。
金属材料の表層部に超微細結晶層やナノ結晶層を生成することにより、従来にない優れた特性を持つ材料を得られることが近年になって判明してきた。
超微細結晶層とは、結晶粒の大きさが100nm〜1μmのものをいい、ナノ結晶層とは、結晶粒の大きさが100nm以下のものをいう。超微細結晶層は、母材の硬さに比べて高い硬度を持ち、また、高い圧縮残留応力を持つなど、機械部品に適した優れた特性を有している。同様に、ナノ結晶層は、母材の硬さに比べて極めて高い硬度を持ち、高温でも粒成長し難く、また、高い圧縮残留応力を持つなど、機械部品に適した優れた特性を有している。
これら超微細結晶層及びナノ結晶層を工業的に利用することができれば、金属材料から構成される製品の強度や性能の向上を図ることができるものと期待されている。
そこで、超微細結晶層やナノ結晶層(以下、「ナノ結晶層等」と称す。)を金属材料の表層部に生成する技術が種々提案されている。例えば、特開2003−39398号公報には、金属製重錘の先端面に設けられた突起を金属製品の表面に衝突させ、突起が衝突した金属製品の表面箇所にナノ結晶層等を生成させる技術が記載されている(特許文献1)。
また、従来の他の技術としては、ショットピーニングを利用する技術がある。図16は、ショットピーニングについて示した模式図である。このショットピーニングは、図16に示すように、噴射装置100から噴射される圧縮空気の噴射圧力を利用して、鋼やセラミックスなどの硬質粒子Gを金属材料101の加工面101aに高速で衝突させるものであり、この衝突によって、加工面101aの表面に塑性変形を生じさせ、ナノ結晶層等を生成する。
特開2003−39398号公報(段落[0010]、図2など)
しかしながら、上述した金属製重錘の突起を衝突させる技術では、例えば、ナノ結晶層等を生成すべき面がコーナー部や穴の内周面などである場合には、その面に金属製重錘の突起を衝突させることができないため、ナノ結晶層等を生成することができず、複雑な形状を有する実際の工業製品に適用することが困難であるという問題点があった。
また、上述した従来の技術では、金属性重錘の衝突装置や硬質粒子Gの噴射装置100など、特殊な設備が別途必要となり、装置コストが嵩むという問題点があると共に、それらの装置を使用した工程を別途追加することも必要となり、加工コスト(ナノ結晶層等の生成コスト)が嵩むという問題点もあった。
更に、金属製重錘の突起を衝突させる技術では、一度の衝突で生成することができるナノ結晶層等の面積が狭いため、ナノ結晶層等を広い範囲に生成する場合には、加工を複数回繰り返す必要が生じ、加工時間が長時間化するため、その分、加工コスト(ナノ結晶層等の生成コスト)が嵩むという問題点があった。
また、上述した従来の技術は、製品の表面に突起や硬質粒子Gを衝突させ、その衝突面を塑性変形させることにより、ナノ結晶層等を生成するものであるため、ナノ結晶層等の生成面が粗くなり、平滑な仕上げ面を得ることができないばかりか、均一なナノ結晶層等を得ることができないという問題点があった。
例えば、突起を衝突させる技術では、突起の中心部と外縁部とで製品表面への衝突圧力が異なるため、製品の衝突面に形成されたナノ結晶層の厚みや特性が突起の径方向に不均一となる。また、ショットピーニングを利用する技術の場合には、穴の内周面などには硬質粒子Gを均一に衝突させることができず、穴の底部近傍に比べて口部近傍にナノ結晶層が集中して生成されてしまう。
一方、近年では、圧延や伸線加工などの強加工により、ナノ結晶層等を得る技術が提案されている。しかしながら、この技術は、素材状態での強化であるため、圧延等の加工後の熱処理によって高硬度化などの効果が消失するという問題点や、特殊な設備や加熱工程が必要となるためコストが嵩むという問題点があり、実際の工業製品に利用することが困難であった。
これに対し、本発明者は、これらの問題点について鋭意検討した結果、ドリル加工などによってナノ結晶層等を製品形状に創製する技術を提案して(特願2003−300354号、及び、特願2004−13487号、共に未公知)、ナノ結晶層等の工業的利用を可能にした。しかしながら、この技術は、加工面の材料温度を低温に維持しつつ、高歪を付与するものであるため、高硬度材料の被加工物を加工する場合には、工具に対する負荷が高くなり、工具破損を引き起こすという問題点や、加工が不可能になるという問題点があった。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、金属製品の表面にナノ結晶層を低コストで、かつ、安定して生成することができる超微細結晶層生成方法、その超微細結晶層生成方法により生成された超微細結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法、並びに、ナノ結晶層生成方法、そのナノ結晶層生成方法により生成されたナノ結晶層を備えた機械部品、及び、その機械部品を製造する機械部品製造方法を提供することを目的としている。
この目的を達成するために、請求項1記載の超微細結晶層生成方法は、金属材料から構成される被加工物に加工工具を使用した機械加工を行って、その加工面に局部的な大歪を付与することにより、前記加工面の表層部に超微細結晶層を生成するものであり、前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面に少なくとも真歪1以上の塑性加工をえるものであり、前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面における材料温度を所定の温度範囲に維持して行われるものであり、その所定の温度範囲は、前記被加工物が鉄鋼材料から構成される場合にはその鉄鋼材料のAc1変態点より高く融点未満の温度範囲であり、前記被加工物が鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合にはその金属材料の絶対温度に換算した融点の1/2の温度より高く融点未満の温度範囲であり、前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面における材料温度を前記所定の温度範囲に維持し、かつ、前記被加工物の加工面の下層部または前記加工面の表層部の非超微細結晶層における材料温度が500°C以上となる時間を1秒以内とし、母材の硬度の80%の硬度を確保する
請求項2記載の超微細結晶層生成方法は、請求項1記載の超微細結晶層生成方法において、前記加工工具を使用した機械加工は、加工が開始された後の時間的な平均材料温度と、加工面全体における熱分布の平均材料温度とを、それぞれ前記所定の温度範囲に維持する
請求項3記載の機械部品は、金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部に前記請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法によって生成された超微細結晶層を備えている。
請求項4記載の機械部品製造方法は、金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部に超微細結晶層が生成された機械部品を製造するものであり、前記請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法によって前記機械部品に超微細結晶層を生成する超微細結晶層生成工程を少なくとも備えている。
請求項5記載ナノ結晶層生成方法は、金属材料から構成される被加工物に加工工具を使用した機械加工を行って、その加工面に局部的な大歪を付与することにより、前記加工面の表層部にナノ結晶層を生成するものであり、前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与え、かつ、前記被加工物の加工面における材料温度を所定の温度範囲に維持して行われるものであり、その所定の温度範囲は、前記被加工物が鉄鋼材料から構成される場合にはその鉄鋼材料のAc1変態点より高く融点未満の温度範囲であり、前記被加工物が鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合にはその金属材料の絶対温度に換算した融点の1/2の温度より高く融点未満の温度範囲であり、前記加工工具を使用した機械加工は、前記加工面の表層部に1/μm以上のひずみ勾配を与えるように行われるものである
請求項6記載のナノ結晶層生成方法は、請求項5記載のナノ結晶層生成方法において、前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面における材料温度を前記所定の温度範囲に維持し、かつ、前記被加工物の加工面の下層部または前記加工面の表層部の非ナノ結晶層における材料温度が500°C以上となる時間を1秒以内とし、母材の硬度の80%以上の硬度を確保する。
請求項7記載のナノ結晶層生成方法は、請求項5または6に記載のナノ結晶層生成方法において、前記加工工具を使用した機械加工は、加工が開始された後の時間的な平均材料温度と、加工面全体における熱分布の平均材料温度とを、それぞれ前記所定の温度範囲に維持する
請求項8記載の機械部品は、金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部に前記請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によって生成されたナノ結晶層を備えている。
請求項9記載の機械部品製造方法は、金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部にナノ結晶層が生成された機械部品を製造するものであり、前記請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によって前記機械部品にナノ結晶層を生成するナノ結晶層生成工程を少なくとも備えている。
請求項1記載の超微細結晶層生成方法によれば、被加工物に加工工具を使用した機械加工を行うことにより、その加工面の表層部に超微細結晶層を生成するので、従来の技術のように、被加工物の形状によって超微細結晶層の生成可能な部位が限定されたり、超微細結晶層の厚みや特性が不均一化したりすることを抑制することができ、その結果、超微細結晶層を機械部品などに安定して生成することができるという効果がある。
また、従来の技術のように、金属製重錘の衝突装置やショットピーニングの噴射装置などの特別な装置を別途設ける必要がないので、装置コストを抑制することができるという効果がある。また、製品の製造工程においては、超微細結晶層を生成するための工程変更を最小限とすることができるので、超微細結晶層の生成コストを低減して、その分、製品コストを抑制することができるという効果がある。
更に、従来の技術では、広い範囲に超微細結晶層を生成する場合、突起や硬質粒子の衝突を複数回繰り返し行う必要があるため、加工時間が嵩み非効率的であるのに対し、請求項1記載の超微細結晶層生成方法は、加工工具を使用した機械加工によって超微細結晶層を生成するので、超微細結晶層を効率良く生成することができ、その分、超微細結晶層の生成コストを抑制することができるという効果がある。
ここで、加工工具を使用した機械加工は、被加工物の加工面に真歪1以上の塑性加工を与えるものであるので、工具や加工機械の負担を抑制することができるという効果がある。その結果、高硬度材料の被加工物を加工する場合であっても、工具の破損などを抑制することができ、被加工物の加工面表層部に超微細結晶層を安定して生成することができるという効果がある。
また、加工工具を使用した機械加工は、被加工物の加工面における材料温度を所定の温度範囲に維持して行われるものであり、その所定の温度範囲は、被加工物が鉄鋼材料から構成される場合にはその鉄鋼材料のAc1変態点より高く融点未満の温度範囲であり、被加工物が鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合にはその金属材料の絶対温度に換算した融点の1/2の温度より高く融点未満の温度範囲である。
このように、被加工物の加工面の材料温度を所定の温度以上に上昇させることで、被加工物の加工面を軟化させることができるので、工具や加工機械の負担を抑制しつつ、被加工物の加工面に真歪1以上の歪を確実に与えることができるという効果がある。その結果、硬度が比較的高い材料からなる被加工物を加工する場合であっても、工具の破損などを抑制することができ、被加工物の加工面表層部に超微細結晶層を安定して生成することができるという効果がある。
また、加工工具を使用した機械加工は、被加工物の加工面における材料温度を上述した所定の温度範囲に維持し、かつ、被加工物の加工面の下層部または加工面の表層部の非超微細結晶層における材料温度が500°C以上となる時間を1秒以内とし、母材の硬度の80%の硬度を確保する。
その結果、被加工物の加工面の下層部または加工面の表層部の非超微細結晶層が焼き戻しや焼き鈍しなどの熱影響を受けることを抑制して、加工面の下層部や加工面の表層部の非超微細結晶層の硬度が低下することを抑制することができるという効果がある。即ち、加工面に超微細結晶層を生成しつつ、加工面下層部や加工面の表層部の非超微細結晶層の硬度及び強度を確保することができる。
請求項3記載の機械部品によれば、請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法によって生成された超微細結晶層をその表層部の少なくとも一部に備えている。よって、機械部品の表面硬度を向上させることができると共に、圧縮残留応力が付加されるので疲労強度を向上させることができ、更に、高温でも再結晶し難くなるので耐摩耗性を向上させることができ、その結果、かかる機械部品の特性を向上させることができるという効果がある。
また、請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法により超微細結晶層を生成することで、かかる超微細結晶層を低コストに生成することができ、その分、機械部品全体としての製品コストを抑制することができるという効果がある。
請求項4記載の機械部品製造方法によれば、請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法によって機械部品に超微細結晶層を生成する超微細結晶層生成工程を少なくとも備えているので、超微細結晶層を安定して生成すると共に、その生成コストを抑制して、機械部品を製造することができるという効果がある。
請求項5記載のナノ結晶層生成方法によれば、被加工物に加工工具を使用した機械加工を行うことにより、その加工面の表層部にナノ結晶層を生成するので、従来の技術のように、被加工物の形状によってナノ結晶層の生成可能な部位が限定されたり、ナノ結晶層の厚みや特性が不均一化したりすることを抑制することができ、その結果、ナノ結晶層を機械部品などに安定して生成することができるという効果がある。
また、従来の技術のように、金属製重錘の衝突装置やショットピーニングの噴射装置などの特別な装置を別途設ける必要がないので、装置コストを抑制することができるという効果がある。また、製品の製造工程においては、ナノ結晶層を生成するための工程変更を最小限とすることができるので、ナノ結晶層の生成コストを低減して、その分、製品コストを抑制することができるという効果がある。
更に、従来の技術では、広い範囲にナノ結晶層を生成する場合、突起や硬質粒子の衝突を複数回繰り返し行う必要があるため、加工時間が嵩み非効率的であるのに対し、請求項5記載のナノ結晶層生成方法は、加工工具を使用した機械加工によってナノ結晶層を生成するので、ナノ結晶層を効率良く生成することができ、その分、ナノ結晶層の生成コストを抑制することができるという効果がある。
ここで、加工工具を使用した機械加工は、被加工物の加工面に真歪7以上の塑性加工を与えると共に、被加工物の加工面の材料温度を所定の温度範囲に維持して行われるものであり、その所定の温度範囲は、被加工物が鉄鋼材料から構成される場合にはその鉄鋼材料のAc1変態点より高く融点未満の温度範囲であり、被加工物が鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合にはその金属材料の絶対温度に換算した融点の1/2の温度より高く融点未満の温度範囲である。
このように、被加工物の加工面の材料温度を所定の温度以上に上昇させることで、被加工物の加工面を軟化させることができるので、工具や加工機械の負担を抑制しつつ、被加工物の加工面に真歪7以上の大歪を確実に与えることができるという効果がある。その結果、硬度が比較的高い材料からなる被加工物を加工する場合であっても、工具の破損などを抑制することができ、被加工物の加工面表層部にナノ結晶層を安定して生成することができるという効果がある。
また、加工工具を使用した機械加工は、加工面の表層部に1/μm以上のひずみ勾配を与えるように行われるので、被加工物の加工面の表層部にナノ結晶層を確実に生成することができるという効果がある。
請求項6記載のナノ結晶層生成方法によれば、請求項5記載のナノ結晶層生成方法の奏する効果に加え、加工工具を使用した機械加工は、被加工物の加工面における材料温度を所定の温度範囲に維持し、かつ、被加工物の加工面の下層部または加工面の表層部の非ナノ結晶層における材料温度が500°C以上となる時間を1秒以内とし、母材の硬度の80%以上の硬度を確保する。
その結果、被加工物の加工面の下層部または加工面の表層部の非ナノ結晶層が焼き戻しや焼き鈍しなどの熱影響を受けることを抑制して、加工面の下層部や加工面の表層部の非ナノ結晶層の硬度が低下することを抑制することができるという効果がある。即ち、加工面にナノ結晶層を生成しつつ、加工面下層部や加工面の表層部の非ナノ結晶層の硬度及び強度を確保することができる。
請求項8記載の機械部品によれば、請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によって生成されたナノ結晶層をその表層部の少なくとも一部に備えている。よって、機械部品の表面硬度を向上させることができると共に、圧縮残留応力が付加されるので疲労強度を向上させることができ、更に、高温でも粒成長し難くなるので耐摩耗性を向上させることができ、その結果、かかる機械部品の特性を向上させることができるという効果がある。
また、請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によりナノ結晶層を生成することで、かかるナノ結晶層を低コストに生成することができ、その分、機械部品全体としての製品コストを抑制することができるという効果がある。
請求項9記載の機械部品製造方法によれば、請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によって機械部品にナノ結晶層を生成するナノ結晶層生成工程を少なくとも備えているので、ナノ結晶層を安定して生成すると共に、その生成コストを抑制して、機械部品を製造することができるという効果がある。
本発明の第1実施の形態における超微細結晶層生成方法を説明する図であり、(a)は、ドリルによる穴あけ加工中の被加工物の断面図であり、(b)は、ドリルによる穴あけ加工後の被加工物の断面図である。 第1の加工条件としての切削条件について示す図である。 孔部の断面組織を示す図である。 第2実施の形態における超微細結晶層生成方法を説明する図であり、エンドミルによる切削加工中の被加工物の斜視図である。 第3実施の形態における超微細結晶層生成方法を説明する図であり、(a)は、押し付け工具によるスライディング加工中の被加工物の斜視図であり、(b)は、(a)のVb−Vb線における被加工物の横断面図である。 第4実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、(a)は、ドリルによる穴あけ加工中の被加工物の断面図であり、(b)は、ドリルによる穴あけ加工後の被加工物の断面図である。 第4の加工条件としての切削条件について示す図である。 孔部の断面組織を示す図である。 孔部の断面組織を示す写真である。 図9の断面組織を模式的に示した模式図である。 (a)は、孔部の表面からの深さと結晶の変位との関係を示す図であり、(b)は、深さとせん断ひずみとの関係を示す図であり、(c)は、深さとひずみ勾配との関係を示す図である。 第5実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、エンドミルによる切削加工中の被加工物の斜視図である。 第6実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、(a)は、ドリルによる穴あけ加工中の被加工物の断面図であり、(b)は、ドリルによる穴あけ加工後の被加工物の断面図である。 従来の切削条件と第6の加工条件としての切削条件とを比較して示した図である。 第7実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、(a)は、押し付け工具によるスライディング加工中の被加工物の斜視図であり、(b)は、(a)のXIVb−XIVb線における被加工物の横断面図である。 従来のナノ結晶層等生成方法(ショットピーニング)を示した模式図である。
W 被加工物
C1 超微細結晶層
11 表層(超微細結晶層)
C2 ナノ結晶層
31 表層(ナノ結晶層)
C3 ナノ結晶層
D ドリル(加工工具)
E エンドミル(加工工具)
P 押し付け工具(加工工具)
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、第1実施の形態では、超微細結晶層生成方法として、ドリルD(加工工具)を使用した穴あけ加工(機械加工)により被加工物の加工面の表層部に超微細結晶層を生成する方法について説明する。
ここで、超微細結晶とは、その結晶粒の大きさ(長さ)が100nm〜1μmである結晶をいい、超微細結晶層とは、その結晶組織の少なくとも50%以上に前記した超微細結晶が含まれている組織をいう。請求項1から4のいずれかに記載の「超微細結晶層」なる文言も同様の趣旨である。
なお、超微細結晶は、その結晶粒の大きさ(長さ)がいずれの方向においても100nm〜1μmである必要はなく、少なくとも一方向において100nm〜1μmであれば足りる趣旨である。即ち、超微細結晶は、必ずしも断面円形の結晶である必要はなく、断面偏平形状の結晶であっても良い。
また、超微細結晶層は、前記した超微細結晶を少なくとも50%以上含むものであれば、混粒組織であることは当然可能であり、超微細結晶の残部がどのような態様の結晶から構成されていても良い。
図1は、本発明の第1実施の形態における超微細結晶層生成方法を説明する図であり、図1(a)は、ドリルDによる穴あけ加工中の被加工物Wの断面図であり、図1(b)は、ドリルDによる穴あけ加工後の被加工物Wの断面図である。なお、図1では、ドリルD及び被加工物Wの一部が省略して図示されている。
第1実施の形態における超微細結晶層生成方法によれば、被加工物Wに対して、以下に示す第1及び第2の2つの加工条件をそれぞれ満たしつつ、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を行うことにより(図1(a)参照)、その孔部1の内周面(加工面の表層部)に超微細結晶層C1を生成することができる(図1(b)参照)。
まず、第1の加工条件としては、孔部1の内周面に少なくとも真歪1以上の塑性加工を与えることが条件とされ、これは、図2に示す切削条件に従うことによって達成される。ここで、図2を参照して、切削条件について説明する。
図2は、本発明の第1の加工条件としての切削条件(超微細結晶層生成切削条件)について示す図であり、横軸は被加工物Wの硬度(Hv)を、縦軸はドリルDの周速(m/min)を、それぞれ示している。
図2に示すように、第1の加工条件は、ドリルDの周速V[m/min]を被加工物Wの硬さH[Hv]に対応付けて規定するものであり、この第1の加工条件に従って、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を行うことで、孔部1の内周面に少なくとも真歪1以上の塑性加工を与えることができる。
具体的には、図2に示すように、被加工物Wの硬さHが500[Hv]未満である場合には、ドリルDの周速Vは、V≧175−H/4[m/min]として規定され、被加工物Wの硬さHが500[Hv]以上である場合には、ドリルDの周速Vは、V≧50[m/min]として規定される。
なお、ドリルDの送り速度は、1回転当たり0.3mm以下とすることが好ましい。ドリルDの負荷を抑制しつつ、孔部1の内周面に真歪1以上の塑性加工を確実に与えるためである。
ここで、第1の加工条件としての切削条件は、被加工物Wの硬さHが500[Hv]未満である場合には、ドリルDの周速VをV≧175−H/4[m/min]とし、かつ、ドリルDの送り速度を1回転当たり0.05mm以下とし、被加工物Wの硬さHが500[Hv]以上である場合には、ドリルDの周速Vを75[m/min]以上、かつ、ドリルDの送り速度を1回転当たり0.05mm以下とすることがより好ましい。ドリルDの負荷を抑制しつつ、孔部1の内周面に真歪1以上の塑性加工をより確実に与えることができるからである。
なお、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工は、図1に示すように、被加工物Wに下穴を予め穿設せずに行う場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、予め下穴を穿設した後に行っても良い。
具体的には、孔部1の穴あけ加工に際しては、まず、規定よりも小径のドリルで下穴2(図1(a)では1点鎖線にて示す)を予め穿設し、次いで、規定の外径を有する上述のドリルDまたはリーマにより、孔部1を規定の径に仕上げるようにしても良い。この場合、下穴2の穴あけ加工は、通常の切削条件(例えば、周速毎分20m以下)に従う一方、ドリルDまたはリーマによる孔部1の仕上げ加工は、図2に示す第1の加工条件(超微細結晶層生成切削条件)に従う。
次いで、第2の加工条件としては、ドリルDによる穴あけ加工の間、孔部1の加工面の材料温度を所定の温度範囲(以下、「温度範囲」と称す。)に維持することが条件とされる。即ち、加工部への切削油などの供給量やドリルDによる切削条件(周速V或いは送り速度など)を調整して、孔部1の加工面の材料温度を温度範囲内に保つのである。
ここで、温度範囲は、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合には、その鉄鋼材料のAc1変態点以上かつ融点未満とされ、被加工物Wが鉄鋼材料を除く他の金属材料(例えば、アルミニウム合金やチタン合金など)から構成される場合には、その金属材料の融点の略1/2の温度以上かつ融点未満とされる。
なお、融点は、絶対温度で計算されるものであり、例えば、融点が1500℃であれば、その融点の略1/2の温度は、略886.5K(=1773K/2)となる。
ここで、第2の加工条件における「温度範囲に維持する」とは、ドリルDにより孔部1の穴あけ加工が開始された後の時間的な平均材料温度と、孔部1の加工面全体における熱分布の平均材料温度とが、それぞれ温度範囲に維持されていれば足りる趣旨である。
よって、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を開始した直後の加工面の材料温度が温度範囲の最低温度に達していなくても、その後、上述の平均温度が温度範囲に維持されていれば、第2の加工条件は満たしている。
なお、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を開始する前に被加工物Wを加熱手段(例えば、ガス炉や電気炉など)により加熱しておくことは当然可能である。これにより、超微細結晶層C1の生成を促進することができると共に、被加工物Wを軟化させることができるので、ドリルD(加工工具)や加工機械の負担を軽減して、その破損等を抑制することができる。
次いで、上述した超微細結晶層生成方法を適用して行った穴あけ加工の結果について説明する。この穴あけ加工に使用した被加工物Wは、炭素鋼(JIS−S55C)から構成されるものであり、焼き入れ処理によって、その硬度が約7.8GPa(800Hv)とされている。
この被加工物Wに対して、上述した第1及び第2の加工条件に従いつつ、ドリルDを使用して孔部1を穿設した結果、孔部1の内周面には、図1(b)に示すように、超微細結晶層C1が生成された。ここで、図3を参照して、孔部1の内周面を詳細に観察した結果を説明する。
図3は、孔部1の断面組織を示す図である。孔部1の内周面には、図3に示すように、表面側(図3上側)から順に表層11、第2層12が観察された。なお、第2層12の下層側(図3下側)は、無加工領域(ドリルDによる加工の影響を受けない領域)13である。
孔部1の表層11では、粒径が略600nmの大きさの超微細結晶層C1が観察された。この超微細結晶層C1では、硬度が1000Hvまで向上していることが確認された。表層11は、ドリルDによる加工時の加熱によりα域で再結晶された後、更に(α+γ)2相域に加熱された領域で、残留αが島状となり、炭素を固溶したγが冷却中に(α+マルテンサイト)に変態したものと考えられる。なお、表層11には、真歪1以上の塑性変形が付与されている。
ここで、第1実施の形態における表層11の厚み(表面から表層11下面までの深さ)は、略10μmであった。但し、かかる層の厚み(深さ)は、ドリルDの周速Vを速くするほど増加することが観察されている。また、かかる層の厚み(深さ)は、ドリルDの周速Vが一定であれば、ドリルDの直径を大きくするほど、増加することが観察されている。
第2層12は、ドリルDの穴あけ加工により略700°Cまで加熱され静的再結晶により生成された領域(即ち、穴あけ加工時の熱影響により焼戻しされた領域)であると考えられる。なお、この第2層12が請求項に記載した「被加工物の加工面の下層部の非超微細結晶層」に対応する。
ここで、ドリルDによる穴あけ加工(機械加工)は、切削油などの供給量や切削条件(周速V或いは送り速度など)を調整することで、加工面における材料温度が上述した第2の加工条件を満たすように制御しつつ、第2層12における材料温度が略500°C以上となる時間を略1秒以内とすることができるように制御することが好ましい。これにより、第2層12が焼戻しされることを抑制して、その硬度及び強度を確保することができるからである。
また、ドリルDによる穴あけ加工を終了した後は、被加工物Wの焼入れに必要な冷却速度よりも速い速度で表層11(超微細結晶層C1)を冷却することが好ましい。これにより、ドリルDによる塑性変形と熱処理変態とを利用して、組織を微細化することができるので、超微細結晶層C1の硬度をより確保することができる。
次いで、超微細結晶層C1が生成された被加工物Wに焼鈍処理を行った結果について説明する。なお、焼鈍処理は、被加工物Wを600℃の雰囲気温度中に1時間保持することにより行った。
焼鈍処理後の被加工物Wは、表層11における超微細結晶層C1の粒径が略600nmに保たれていた。このように、超微細結晶層C1は、焼鈍処理によっても結晶粒が再結晶されにくく、温度鈍感性に優れていることが確認された。
次いで、上述した第1実施の形態における超微細結晶層生成方法をオートマチックトランスミッション用のインプットシャフトの製造に適用し、その捩り疲労強度試験を行った結果について説明する。インプットシャフトは、上述の被加工物Wと同材料から構成されるものであり、軸方向に延びる油導入用の横穴を内部に有する長尺の孔付きシャフトとして形成されている。
このインプットシャフトの外周面には、上記の横穴と連通する油供給用の分岐孔が複数穿設されており、この分岐孔の穴あけ加工において、上述の超微細結晶層生成方法が適用されている。従って、各分岐孔の内周面には、超微細結晶層C1が生成されており、その硬度が向上されている。
分岐孔形成部におけるインプットシャフトの捩り疲労強度は、付加トルク392Nmでは平均378653回、付加トルク451Nmでは平均95727回となり、分岐孔の内周面に超微細結晶層C1を有しない従来品と比較して、その強度(9万回相当時のトルク比)が略20%向上していることが確認された。
次いで、図4を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態の超微細結晶層生成方法では、ドリルDを使用した穴あけ加工により超微細結晶層C1を生成したが、第2実施の形態の超微細結晶層生成方法は、エンドミルEを使用した切削加工により超微細結晶層C1を生成する。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図4は、第2実施の形態における超微細結晶層生成方法を説明する図であり、エンドミルEによる切削加工中の被加工物Wの斜視図である。なお、図4では、エンドミルEを保持しつつ加工機械からの回転力を伝達するホルダーの図示が省略されている。
第2実施の形態における超微細結晶層生成方法によれば、図4に示すように、被加工物Wに対して、上述した第1及び第2の2つの加工条件を満たしつつ、エンドミルE(加工工具)による切削加工(機械加工)を行うことにより、その加工面の表層部に超微細結晶層C1を生成することができる。
まず、被加工物W及びエンドミルEの詳細諸元について説明する。被加工物Wは、材質:炭素鋼(JIS−SUJ2)、熱処理:焼入れ、硬度:790[Hv]であり、エンドミルEは、材質:超硬合金、コーティング:TiAlNコーティング、工具径:φ10mmである。また、切削条件は、周速:150m/min、送り速度:0.18mm/rev、軸方向切り込み深さ:2mm、径方向切り込み深さ:0.1mm、切削油:不使用である。
このような条件により被加工物Wの切削加工を行った結果、被加工物Wの加工面には、真歪1以上の塑性加工が付与されると共に(上述した第1の加工条件)、その加工面の材料温度がAc1変態点以上に上昇され(上述した第2の加工条件)、超微細細結晶層C1が加工面に生成された。
この切削加工後の被加工物Wを詳細に観察した結果、被加工物Wには、2.5μm程度の厚さの超微細結晶層C1が生成されていることが確認された。
次いで、図5を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態の超微細結晶層生成方法では、ドリルDを使用した穴あけ加工により超微細結晶層C1を生成したが、第3実施の形態の超微細結晶層生成方法は、押し付け工具Pを使用したスライディング加工により超微細結晶層C1を生成する。なお、前記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図5は、第3実施の形態における超微細結晶層生成方法を説明する図であり、図5(a)は、押し付け工具Pによるスライディング加工中の被加工物Wの斜視図であり、図5(b)は、図5(a)のVb−Vb線における被加工物Wの横断面図である。
なお、図5(a)では、被加工物Wを保持しつつ旋盤からの回転力を伝達するホルダーの図示が省略されている。また、図5(b)は、押し付け工具Pによるスライディング加工後における被加工物Wの横断面図を示している。
第3実施の形態における超微細結晶層生成方法は、硬度が比較的低い材料からなる被加工物Wの加工面表層部に超微細結晶層C1を安定して生成するための方法である。具体的には、被加工物Wに対して、上述した第1の加工条件を満たしつつ、押し付け工具P(加工工具)による外周加工面21のスライディング加工(機械加工)を行うことにより(図5(a)参照)、その外周加工面21の表層部(加工面の表層部)に超微細結晶層C1を生成する(図5(b)参照)。
但し、第3実施の形態における超微細結晶層生成方法では、上述した第2の加工条件とは異なる条件(以下、「第3の加工条件」と称す。)が適用される。
ここで、第3の加工条件としては、ドリルDによる穴あけ加工の間、外周加工面21の材料温度を所定の温度(以下、「上限温度」と称す。)よりも低温に維持することが条件とされる。即ち、加工部への冷却液の供給量や被加工物Wの回転速度、押し付け工具Pの押し付け圧力などを調整して、外周加工面21における材料温度が上昇することを抑制するのである。
上限温度は、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合には、その鉄鋼材料のAc1変態点であり、被加工物Wが鉄鋼材料を除く他の金属材料(例えば、アルミニウム合金やチタン合金など)から構成される場合には、その金属材料の融点の略1/2の温度である。なお、融点は、上述した場合と同様に、絶対温度で計算される。
なお、第3の加工条件における「上限温度よりも低温に維持する」とは、押し付け工具Pにより外周加工面21のスライディング加工が行われる間の時間的な平均材料温度と、その外周加工面21全体における熱分布の平均材料温度とが、それぞれ上限温度よりも低温に維持されていれば足りる趣旨である。よって、加工面の材料温度が瞬間的または局部的に上限温度よりも高温となった場合であっても、上述の平均温度が上限温度よりも低温に維持されていれば、第3の加工条件は満たしている。
スライディング加工とは、被加工物Wに回転(図5(a)矢印R方向)を与えると同時に、被加工物Wの外周加工面21に押し付け工具Pを所定の圧力で押し付けて滑動させることにより、被加工物Wの外周加工面21に塑性加工を与える加工である。
被加工物W及び押し付け工具Pの詳細諸元について説明する。被加工物Wは、材質:炭素鋼(JIS−S10C)、硬度:3.9GPa(400Hv)、加工外周面21の外径:φ10mmであり、押し付け工具Pは、材質:工具鋼(JIS−SKD61)、硬度:8.3GPa(850Hv)、工具幅(図5(a)左右方向幅):5mmである。
ここで、超微細結晶層C1を生成するためには、上述した第1の加工条件(真歪1以上の塑性加工を与える条件)及び第3の加工条件(温度条件)を満たすべく、押し付け工具Pの押し付け面圧(例えば、100MPa)、スライディング加工時間(例えば、3分)、被加工物Wの回転速度、冷却液の供給量などを適宜調整する。
次いで、第3実施の形態における超微細結晶層生成方法を適用して行ったスライディング加工の結果について説明する。図5(a)に示すように、被加工物Wに対して、上述した第1及び第3の加工条件を満たしつつ、押し付け工具Pを使用して加工外周面21にスライディング加工を行った結果、その加工外周面21には、図5(b)に示すように、超微細結晶層C1が生成された。
このスライディング加工後の被加工物Wを詳細に観察した結果、被加工物Wは、超微細結晶層C1が生成されていない内部の硬度が3.9GPa(400Hv)であったのに対し、超微細結晶層C1における硬度が1.5倍以上の硬度まで向上していることが確認された。
また、このような超微細結晶層C1が生成された被加工物Wに焼鈍処理を行った結果について説明する。なお、焼鈍処理は、被加工物Wを600℃の雰囲気温度中に1時間保持することにより行った。
焼鈍処理後の被加工物Wは、超微細結晶層C1が生成されていない内部の硬度が1.5GPa(150Hv)であったのに対し、超微細結晶層C1における硬度が2倍以上の硬度であり、高い硬度が維持されていた。このように、超微細結晶層C1は、焼鈍処理によっても結晶粒が再結晶されにくく、温度鈍感性に優れているので、第3実施の形態における超微細結晶層生成方法を例えば回転軸の摺動面に適用することにより、かかる摺動面の耐摩耗性を向上させ、回転軸の寿命の向上を図ることができる。
以上、第1から第3実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記各実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記第1から第3実施の形態では、超微細結晶層C1を生成するための機械加工として、ドリルDを使用した穴あけ加工、エンドミルEを使用した切削加工、或いは、押し付け工具Pを使用したスライディング加工を例に説明したが、必ずしもこれらの機械加工に限られるわけではなく、上述した第1及び第2(又は、第3)の加工条件をともに満たす機械加工であれば、他の種類の機械加工を本発明に適用することは当然に可能である。
かかる機械加工としては、例えば、バイト工具を使用した旋盤加工、フライス工具を使用したフライス加工、バイト工具を使用した平削り加工、ホブ工具を使用した歯切り加工などに代表される切削加工や、砥石工具を使用した仕上げ加工などに代表される研削加工や、バニッシング工具を使用したバニッシング加工などが例示される。
また、上記第1実施の形態では、超微細結晶層C1を有する機械部品として、オートマチックトランスミッション用のインプットシャフトを例に説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、金属材料から構成されるものであれば、どのような機械部品であっても良く、自動車用の構造部品である必要もない。他の機械部品としては、例えば、建築用の構造部品などが例示される。
なお、上記第1から第3実施の形態では、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、被加工物Wを鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成することは当然可能である。鉄鋼材料を除く他の金属材料としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅などの金属材料とその合金が例示される。即ち、請求項1から4のいずれかに記載した金属材料は、鉄鋼材料やここで例示した金属材料に限定されるものではなく、種々の金属材料が含まれる趣旨である。
次いで、図6から図10を参照して、第4実施の形態について説明する。第4実施の形態では、ナノ結晶層生成方法として、ドリルD(加工工具)を使用した穴あけ加工(機械加工)により被加工物の加工面の表層部にナノ結晶層を生成する方法について説明する。
ここで、ナノ結晶とは、その結晶粒の大きさ(長さ)が100nm以下の結晶をいい、ナノ結晶層とは、その結晶組織の少なくとも50%以上に前記したナノ結晶が含まれている組織をいう。請求項5から9のいずれかに記載の「ナノ結晶層」なる文言も同様の趣旨である。
なお、ナノ結晶は、その結晶粒の大きさ(長さ)がいずれの方向においても100nm以下である必要はなく、少なくとも一方向において100nm以下であれば足りる趣旨である。即ち、ナノ結晶は、必ずしも断面円形の結晶である必要はなく、断面偏平形状の結晶であっても良い。
また、ナノ結晶層は、前記したナノ結晶を少なくとも50%以上含むものであれば、混粒組織であることは当然可能であり、ナノ結晶の残部がどのような態様の結晶から構成されていても良い。
図6は、本発明の第4実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、図6(a)は、ドリルDによる穴あけ加工中の被加工物Wの断面図であり、図6(b)は、ドリルDによる穴あけ加工後の被加工物Wの断面図である。なお、図6では、ドリルD及び被加工物Wの一部が省略して図示されている。
第4実施の形態におけるナノ結晶層生成方法によれば、被加工物Wに対して、以下に示す第4及び第5の2つの加工条件をそれぞれ満たしつつ、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を行うことにより(図6(a)参照)、その孔部1の内周面(加工面の表層部)にナノ結晶層C2を生成することができる(図6(b)参照)。
まず、第4の加工条件としては、孔部1の内周面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与えることが条件とされ、これは、図7に示す切削条件に従うことによって達成される。ここで、図7を参照して、切削条件について説明する。
図7は、本発明の第4の加工条件としての切削条件(ナノ結晶層生成切削条件)について示す図であり、横軸は被加工物Wの硬度(Hv)を、縦軸はドリルDの周速(m/min)を、それぞれ示している。
図7に示すように、第4の加工条件は、ドリルDの周速V[m/min]を被加工物Wの硬さH[Hv]に対応付けて規定するものであり、この第4の加工条件に従って、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を行うことで、孔部1の内周面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与えることができる。
具体的には、図7に示すように、被加工物Wの硬さHが500[Hv]未満である場合には、ドリルDの周速Vは、V≧175−H/4[m/min]として規定され、被加工物Wの硬さHが500[Hv]以上である場合には、ドリルDの周速Vは、V≧50[m/min]として規定される。
なお、ドリルDの送り速度は、1回転当たり0.2mm以下とすることが好ましい。ドリルDの負荷を抑制しつつ、孔部1の内周面に真歪7以上の塑性加工を確実に与えるためである。
ここで、第4の加工条件としての推奨切削条件(ナノ結晶層C2を生成するための好ましい条件)としては、被加工物Wの硬さHを500[Hv]以上、ドリルDの周速Vを50[m/min]以上、かつ、ドリルDの送り速度を1回転当たり0.2mm以下として規定される。
そして、更に好ましい推奨切削条件としては、被加工物Wの硬さHを500[Hv]以上、ドリルDの周速Vを75[m/min]以上、かつ、ドリルDの送り速度を1回転当たり0.05mm以下として規定される。ドリルDの負荷を抑制しつつ、孔部1の内周面に真歪7以上の塑性加工をより確実に与えることができるからである。
なお、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工は、図6に示すように、被加工物Wに下穴を予め穿設せずに行う場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、予め下穴を穿設した後に行っても良い。
具体的には、孔部1の穴あけ加工に際しては、まず、規定よりも小径のドリルで下穴2(図6(a)では1点鎖線にて示す)を予め穿設し、次いで、規定の外径を有する上述のドリルDまたはリーマにより、孔部1を規定の径に仕上げるようにしても良い。この場合、下穴2の穴あけ加工は、通常の切削条件(例えば、周速毎分20m以下)に従う一方、ドリルDまたはリーマによる孔部1の仕上げ加工は、図7に示す第4の加工条件(ナノ結晶層生成切削条件)に従う。
次いで、第5の加工条件としては、ドリルDによる穴あけ加工の間、孔部1の加工面の材料温度を所定の温度範囲(以下、「温度範囲」と称す。)に維持することが条件とされる。即ち、加工部への切削油などの供給量やドリルDによる切削条件(周速V或いは送り速度など)を調整して、孔部1の加工面の材料温度を温度範囲内に保つのである。
ここで、温度範囲は、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合には、その鉄鋼材料のAc1変態点以上かつ融点未満とされ、被加工物Wが鉄鋼材料を除く他の金属材料(例えば、アルミニウム合金やチタン合金など)から構成される場合には、その金属材料の融点の略1/2の温度以上かつ融点未満とされる。
なお、融点は、絶対温度で計算されるものであり、例えば、融点が1500℃であれば、その融点の略1/2の温度は、略886.5K(=1773K/2)となる。
ここで、第5の加工条件における「温度範囲に維持する」とは、ドリルDにより孔部1の穴あけ加工が開始された後の時間的な平均材料温度と、孔部1の加工面全体における熱分布の平均材料温度とが、それぞれ温度範囲に維持されていれば足りる趣旨である。
よって、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を開始した直後の加工面の材料温度が温度範囲の最低温度に達していなくても、その後、上述の平均温度が温度範囲に維持されていれば、第5の加工条件は満たしている。
なお、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を開始する前に被加工物Wを加熱手段(例えば、ガス炉や電気炉など)により加熱しておくことは当然可能である。これにより、ナノ結晶層C2の生成を促進することができると共に、被加工物Wを軟化させることができるので、ドリルD(加工工具)や加工機械の負担を軽減して、その破損等を抑制することができる。
次いで、上述したナノ結晶層生成方法を適用して行った穴あけ加工の結果について説明する。この穴あけ加工に使用した被加工物Wは、炭素鋼(JIS−S55C)から構成されるものであり、焼き入れ処理によって、その硬度が約7.8GPa(800Hv)とされている。
この被加工物Wに対して、上述した第4及び第5の加工条件に従いつつ、ドリルDを使用して孔部1を穿設した結果、孔部1の内周面には、図6(b)に示すように、ナノ結晶層C2が生成された。ここで、図8を参照して、孔部1の内周面を詳細に観察した結果を説明する。
図8は、孔部1の断面組織を示す図である。孔部1の内周面には、図8に示すように、表面側(図8上側)から順に表層31、第2層32及び第3層33が観察された。なお、第3層33の下層側(図8下側)は、無加工領域(ドリルDによる加工の影響を受けない領域)14である。
孔部1の表層31では、粒径が略20nmの大きさのナノ結晶層C2が観察された。このナノ結晶層C2では、硬度が1150Hvまで向上していることが確認された。表層31は、ドリルDによる穴あけ加工によりγ域に加熱されると共に大きな変形(真歪7以上)を受けて微細γ粒となり、その後の冷却中に拡散変態でナノ結晶層C2が生成されたと考えられる。
第2層32では、粒径が略100nmの大きさの超微細結晶層が観察された。この微細結晶層では、硬度が1000Hvまで向上していることが確認された。第2層13は、加工後の加熱によりα域で再結晶された後、更に(α+γ)2相域に加熱された領域で、残留αが島状となり、炭素を固溶したγが冷却中に(α+マルテンサイト)に変態したものと考えられる。なお、第2層32には、真歪1以上(かつ、真歪7未満)の塑性変形が付与されている。
ここで、第4実施の形態における表層31及び第2層32の合計の厚み(表面から第2層32下面までの深さ)は、略10μmであった。但し、かかる層の厚み(深さ)は、ドリルDの周速Vを速くするほど増加することが観察されている。また、かかる層の厚み(深さ)は、ドリルDの周速Vが一定であれば、ドリルDの直径を大きくするほど、増加することが観察されている。
第3層33は、ドリルDの穴あけ加工により略700°Cまで加熱され静的再結晶により生成された領域(即ち、穴あけ加工時の熱影響により焼戻しされた領域)であると考えられる。なお、この第3層33が請求項6に記載した「被加工物の加工面の下層部の非ナノ結晶層」に対応する。
ここで、ドリルDによる穴あけ加工(機械加工)は、切削油などの供給量や切削条件(周速V或いは送り速度など)を調整することで、加工面における材料温度が上述した第5の加工条件を満たすように制御しつつ、第3層33における材料温度が略500°C以上となる時間を略1秒以内とすることができるように制御することが好ましい。これにより、第3層33が焼戻しされることを抑制して、その硬度及び強度を確保することができるからである。
また、ドリルDによる穴あけ加工(機械加工)は、加工面の表層部に1/μm以上のひずみ勾配を与えるように行われることが好ましい。これにより、ナノ結晶層C2をより確実に生成することができるからである。
即ち、1/μmのひずみ勾配が与えられると、転位密度が1平方メートルあたり略10の16乗程度に達するが、この程度まで転位密度が高くなると、転位を生じさせるよりも、結晶を微細化させる方が、エネルギーが小さくなる。そのため、この状態から機械加工により更にひずみ(変形)を与えた場合には、被加工物Wの状態を転位の生成から結晶の微細化へと遷移させることができる。その結果、1/μm以上のひずみ勾配を与えることで、ナノ結晶層C2の生成をより確実化させることが可能となるのである。
また、このように、ひずみ勾配の必要値が予め判明していれば、ナノ結晶層C2の生成においては、その必要値に基づいて、各加工条件(例えば、冷却方法、加工速度、或いは、材料硬度など)を調整すれば良い。よって、各加工条件を設定する際には、ひずみ勾配の値を目安とすることができるので、各加工条件の設定を容易かつ高効率に行うことができ、その結果、作業効率の向上を図ることができる。
なお、ドリルDによる穴あけ加工(機械加工)に際しては、被加工物Wを予め液体窒素などの極低温の液化ガスに浸漬して冷却させておいても良い。これにより、加工時には、その加工面の表層部に大きな温度勾配を与えることができるので、一定値以上のひずみ勾配の付与を容易として、ナノ結晶層C2の生成を確実化することができる。特に、ひずみ勾配の付与が困難な硬度の低い材料(例えば、アルミニウム合金など)に対して有効である。
ここで、第4実施の形態における機械加工は、ドリルDによる穴あけ加工であるので、加工面の表層部には、主に、せん断ひずみが発生する。従って、上述したひずみ勾配のひずみとは、せん断ひずみを意味する。
但し、請求項記載のひずみ勾配は、必ずしもせん断ひずみに限定されるものではなく、せん断ひずみに加えて、圧縮ひずみと引張ひずみとを更に含む趣旨である。即ち、ドリルDによる穴あけ加工以外の他の加工方法では、加工面の表層部のひずみ(変形)の態様が異なり、圧縮ひずみ又は引張ひずみが支配的となる場合もある。よって、この場合には、請求項記載の「ひずみ勾配が1/μm以上」とは、圧縮ひずみ又は引張ひずみのひずみ勾配が1/μm以上となることを意味する。
なお、ドリルDによる穴あけ加工(機械加工)は、1/μm以上のひずみ勾配を加工面の表層部に与えるものであれば、加工面の材料温度は特に限定されるものではない。即ち、上述した第5の加工条件(加工面の材料温度を所定の温度範囲に維持する)を満たさない場合であっても、1/μm以上のひずみ勾配を加工面の表層部に与えることができれば、ナノ結晶層C2を生成することができるからである。
よって、この場合のナノ結晶層生成方法は、「金属材料から構成される被加工物に加工工具を使用した機械加工を行って、その加工面に局部的な大歪を付与することにより、前記加工面の表層部にナノ結晶層を生成するナノ結晶層生成方法であって、前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与え、かつ、前記加工面の表層部に1/μm以上のひずみ勾配を与えるように行われるものであることを特徴とするナノ結晶層生成方法」となる。
次いで、図9から図11を参照して、ひずみ勾配の算出方法について説明する。図9は、孔部1の断面組織を示す写真であり、図10は、図示を簡素化して理解を容易とするために、図9の断面組織を模式的に示した模式図である。また、図11(a)は、孔部1の表面からの深さzと結晶の変位xとの関係を示す図であり、図11(b)は、深さzとせん断ひずみγとの関係を示す図であり、(c)は、深さzとひずみ勾配gとの関係を示す図である。
なお、図9及び図10は、ドリルDの送り方向に垂直な断面であり、仮想線Lzは、切削方向に垂直な仮想線である。また、深さzは、孔部1の表面を原点として仮想線Lzに沿って計測され、変位xは、仮想線Lzに垂直な方向に沿って計測される。
ドリルDによる穴あけ加工前は、被加工物Wには層状結晶が仮想線Lzに沿って並んでおり(図示せず)、ドリルDによる穴あけ加工が行われると、各層状結晶は、図9及び図10に示すように、滑り方向へ向かって大きく曲げられる。この場合、層状結晶のカーブ(変位x)は、深さzの指数関数x(z)として表すことがほぼ可能である。
そこで、一の層状結晶に着目し、図9及び図10に示すように、ドリルDによる穴あけ加工前の初期位置(即ち、仮想線Lz)からの変位xを複数箇所(図10ではz=5.8μmからz=13.2μmまでの10箇所)で計測し、図11(a)に示すように、各計測値(変位x)を深さzの関数としてプロットする。これにより、近似式x(z)=71.3exp(−0.341z)を得ることができる。
その結果、上記近似式x(z)を深さzで微分することにより、γ(z)=24.3exp(−0.341z)として、せん断ひずみγを深さzの関数γ(z)として得ることができる。関数γ(z)によれば、せん断ひずみγは、孔部1の表面で最大となり、深さzの増加と共に急激に減少する。また、真歪ε(z)は、せん断ひずみγ(z)を平方根3で除算した値として得られる。
そして、せん断ひずみγ(z)を更に深さzで微分することにより、g(z)=8.29exp(−0.341z)として、ひずみ勾配gを深さzの関数として得ることができる。即ち、図9から図11に示すように、深さzと変位xとの関係を計測し、両者の関係を指数関数として近似することで、所定の深さ位置におけるひずみ勾配gを得ることができる。
なお、関数g(z)によれば、孔部1の表面におけるひずみ勾配gは、g(0)=8.29である。また、ナノ結晶層C2の生成深さを平均z=6.0程度と仮定すると(図9参照)、かかる深さ(z=6.0)におけるひずみ勾配gは、g(6.0)=1.07であり、これにより、ナノ結晶層C2の生成には、1/μm以上のひずみ勾配gを与えることが有効であることが確認された。
次いで、ナノ結晶層C2が生成された被加工物Wに焼鈍処理を行った結果について説明する。なお、焼鈍処理は、被加工物Wを600℃の雰囲気温度中に1時間保持することにより行った。
焼鈍処理後の被加工物Wは、表層31におけるナノ結晶層C2の粒径が略200nmに保たれていた。このように、ナノ結晶層C2は、焼鈍処理によっても結晶粒が粒成長し難く、温度鈍感性に優れていることが確認された。
次いで、上述した第4実施の形態におけるナノ結晶層生成方法をオートマチックトランスミッション用のインプットシャフトの製造に適用し、その捩り疲労強度試験を行った結果について説明する。インプットシャフトは、上述の被加工物Wと同材料から構成されるものであり、軸方向に延びる油導入用の横穴を内部に有する長尺の孔付きシャフトとして形成されている。
このインプットシャフトの外周面には、上記の横穴と連通する油供給用の分岐孔が複数穿設されており、この分岐孔の穴あけ加工において、上述のナノ結晶層生成方法が適用されている。従って、各分岐孔の内周面には、ナノ結晶層C2が生成されており、その硬度が向上されている。
分岐孔形成部におけるインプットシャフトの捩り疲労強度は、付加トルク392Nmでは平均378653回、付加トルク451Nmでは平均95727回となり、分岐孔の内周面にナノ結晶層C2を有しない従来品と比較して、その強度(9万回相当時のトルク比)が略20%向上していることが確認された。
次いで、図12を参照して、第5実施の形態について説明する。第4実施の形態のナノ結晶層生成方法では、ドリルDを使用した穴あけ加工によりナノ結晶層C2を生成したが、第5実施の形態のナノ結晶層生成方法は、エンドミルEを使用した切削加工によりナノ結晶層C2を生成する。なお、上記した第4実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図12は、第5実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、エンドミルEによる切削加工中の被加工物Wの斜視図である。なお、図12では、エンドミルEを保持しつつ加工機械からの回転力を伝達するホルダーの図示が省略されている。
第5実施の形態におけるナノ結晶層生成方法によれば、図12に示すように、被加工物Wに対して、上述した第4及び第5の2つの加工条件を満たしつつ、エンドミルE(加工工具)による切削加工(機械加工)を行うことにより、その加工面の表層部にナノ結晶層C2を生成することができる。
まず、被加工物W及びエンドミルEの詳細諸元について説明する。被加工物Wは、材質:炭素鋼(JIS−SUJ2)、熱処理:焼入れ、硬度:790[Hv]であり、エンドミルEは、材質:超硬合金、コーティング:TiAlNコーティング、工具径:φ10mmである。また、切削条件は、周速:150m/min、送り速度:0.18mm/rev、軸方向切り込み深さ:2mm、径方向切り込み深さ:0.1mm、切削油:不使用である。
このような条件により被加工物Wの切削加工を行った結果、被加工物Wの加工面には、真歪7以上の塑性加工が付与されると共に(上述した第4の加工条件)、その加工面の材料温度がAc1変態点以上に上昇され(上述した第5の加工条件)、ナノ結晶層C2が加工面に生成された。
この切削加工後の被加工物Wを詳細に観察した結果、被加工物Wには、2.5μm程度の厚さのナノ結晶層C2が生成されていることが確認された。
以上、第4及び第5実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記各実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記第4の実施の形態では、ひずみ勾配を確実に付与するための手段として、加工面の表層部に温度勾配を与える、即ち、被加工物Wを極低温の液化ガスに浸漬して冷却させた後に加工を行う方法を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の手段を利用することは当然可能である。
例えば、ターニング加工においては、加工面にレーザー光を照射して表面のみを予め加熱した後に加工(機械加工)を行う手段が例示される。この場合にも、上述した場合と同様に、加工面の表層部により大きな温度勾配を与えることができるので、ひずみ勾配の付与を容易として、ナノ結晶層C2の生成を確実化することができる。
なお、被加工物Wに例えば脱炭処理を施して、加工面の表層部に硬さ勾配を与えることも好ましい。このように、硬さ勾配を与えることにより、上述した温度勾配を与える場合と同様に、ひずみ勾配の付与を容易として、ナノ結晶層C2の生成を確実化することができるからである。
また、上記第4及び第5実施の形態では、ナノ結晶層C2を生成するための機械加工として、ドリルDを使用した穴あけ加工とエンドミルEを使用した切削加工とを例に説明したが、必ずしもこれらの機械加工に限られるわけではなく、上述した第4及び第5の加工条件をともに満たす機械加工であれば、他の種類の機械加工を本発明に適用することは当然に可能である。
かかる機械加工としては、例えば、バイト工具を使用した旋盤加工、フライス工具を使用したフライス加工、バイト工具を使用した平削り加工、ホブ工具を使用した歯切り加工などに代表される切削加工や、砥石工具を使用した仕上げ加工などに代表される研削加工や、バニッシング工具を使用したバニッシング加工などが例示される。
また、上記第4実施の形態では、ナノ結晶層C2を有する機械部品として、オートマチックトランスミッション用のインプットシャフトを例に説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、金属材料から構成されるものであれば、どのような機械部品であっても良く、自動車用の構造部品である必要もない。他の機械部品としては、例えば、建築用の構造部品などが例示される。
なお、上記第4及び第5実施の形態では、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、被加工物Wを鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成することは当然可能である。鉄鋼材料を除く他の金属材料としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅などの金属材料とその合金が例示される。即ち、請求項5から9のいずれかに記載した金属材料は、鉄鋼材料やここで例示した金属材料に限定されるものではなく、種々の金属材料が含まれる趣旨である。
次いで、第6実施の形態について、添付図面を参照して説明する。第6実施の形態では、ナノ結晶層生成方法として、ドリルD(加工工具)を使用した穴あけ加工(機械加工)により被加工物の加工面表層部にナノ結晶層を生成する方法について説明する。
図13は、本発明の第6実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、図13(a)は、ドリルDによる穴あけ加工中の被加工物Wの断面図であり、図13(b)は、ドリルDによる穴あけ加工後の被加工物Wの断面図である。なお、図13では、ドリルD及び被加工物Wの一部が省略して図示されている。
第6実施の形態におけるナノ結晶層生成方法によれば、被加工物Wに対して、以下に示す第6及び第7の2つの加工条件をそれぞれ満たしつつ、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を行うことにより(図13(a)参照)、その孔部1の内周面(加工面の表層部)にナノ結晶層C3を生成することができる(図13(b)参照)。
まず、第6の加工条件としては、孔部1の内周面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与えることが条件とされ、これは、図14に示す切削条件に従うことによって達成される。なお、図14は、従来の切削条件と本発明の第6の加工条件としての切削条件(ナノ結晶層生成切削条件)とを比較して示した図であり、横軸はドリルDの送り速度(mm/rev)を、縦軸はドリルDの周速(m/min)を、それぞれ示している。
図14に示すように、第6の加工条件は、ドリルDの周速を毎分50m以上、かつ、ドリルDの送り速度を1回転当たり0.2mm以下に規定するものであり、この第6の加工条件に従って、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工を行うことにより、その孔部1の内周面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与えることができる。
但し、第6の加工条件は、ドリルDの周速を毎分75m以上、かつ、ドリルDの送り速度を1回転当たり0.05mm以下とすることがより好ましい。孔部1の内周面に真歪7以上の塑性加工をより確実に与えることができるからである。
なお、孔部1の穴あけ加工に際しては、まず、規定よりも小径のドリルで下穴2(図13では1点鎖線にて示す)を予め穿設し、次いで、規定の外径を有する上述のドリルDまたはリーマにより、孔部1を規定の径に仕上げるようにしても良い。この場合、下穴2の穴あけ加工は、図14に示す従来の切削条件に従う一方、ドリルDまたはリーマによる孔部1の仕上げ加工は、図14に示す第6の加工条件(ナノ結晶層生成切削条件)に従う。
次いで、第7の加工条件としては、ドリルDによる穴あけ加工の間、孔部1の加工面の材料温度を所定の温度(以下、「上限温度」と称す。)よりも低温に維持することが条件とされる。即ち、加工部に切削油など供給して、その加工面の材料温度が上昇することを抑制するのである。
ここで、上限温度は、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合には、その鉄鋼材料のA1及びA3変態点とされ、被加工物Wが鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合には、その金属材料の融点の略1/2の温度とされる。なお、融点は、絶対温度で計算されるものであり、例えば、融点が1500℃であれば、上限温度は、略886.5K(=1773K/2)となる。
なお、第7の加工条件における「上限温度よりも低温に維持する」とは、ドリルDにより孔部1の穴あけ加工が行われる間の時間的な平均材料温度と、その孔部1の加工面全体における熱分布の平均材料温度とが、それぞれ上限温度よりも低温に維持されていれば足りる趣旨である。よって、加工面の材料温度が瞬間的または局部的に上限温度よりも高温となった場合であっても、上述の平均温度が上限温度よりも低温に維持されていれば、第7の加工条件は満たしている。
次いで、上述したナノ結晶層生成方法を適用して行った穴あけ加工の結果について説明する。この穴あけ加工に使用した被加工物Wは、合金鋼(JIS−SCM420H)から構成されるものであり、浸炭焼き入れなどの熱処理によって、表面の硬化処理がなされている。なお、被加工物Wの硬度は、表面の硬度が約6.8GPa(700Hv)とされ、内部の硬度が約3.4GPa(350Hv)とされている。
この被加工物Wに対して、上述した第6及び第7の加工条件に従いつつ、ドリルDを使用して孔部1を穿設した結果、孔部1の内周面には、図13(b)に示すように、ナノ結晶層C3が生成された。生成されたナノ結晶層C3を詳細に観察した結果、ナノ結晶層C3は、粒径が略100nm(0.1μm)であり、硬度が9.8GPa(980Hv)まで向上していることが確認された。なお、ナノ結晶層C3の面粗さは、Ra0.7であった。
次いで、上述した第6実施の形態におけるナノ結晶層生成方法をオートマチックトランスミッション用のインプットシャフトの製造に適用し、その捩り疲労強度試験を行った結果について説明する。インプットシャフトは、上述の被加工物Wと同材料から構成されるものであり、軸方向に延びる油導入用の横穴を内部に有する長尺の孔付きシャフトとして形成されている。
このインプットシャフトの外周面には、上記の横穴と連通する油供給用の分岐孔が複数穿設されており、この分岐孔の穴あけ加工において、上述のナノ結晶層生成方法が適用されている。従って、各分岐孔の内周面には、ナノ結晶層が生成されており、その硬度が向上されている。
分岐孔形成部におけるインプットシャフトの捩り疲労強度は、付加トルク392Nmでは平均378653回、付加トルク451Nmでは平均95727回となり、分岐孔の内周面にナノ結晶層を有しない従来品と比較して、その強度(9万回相当時のトルク比)が略20%向上していることが確認された。
次いで、図15を参照して第7実施の形態について説明する。第6実施の形態のナノ結晶層生成方法では、ドリルDを使用した穴あけ加工によりナノ結晶層を生成したが、第7実施の形態のナノ結晶層生成方法は、押し付け工具Pを使用したスライディング加工によりナノ結晶層を生成する。なお、前記した第6実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
図15は、第7実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を説明する図であり、図15(a)は、押し付け工具Pによるスライディング加工中の被加工物Wの斜視図であり、図15(b)は、図15(a)のXIVb−XIVb線における被加工物Wの横断面図である。なお、図15(a)では、被加工物Wを保持しつつ旋盤からの回転力を伝達するホルダーの図示が省略されている。また、図15(b)は、押し付け工具Pによるスライディング加工後における被加工物Wの横断面図を示している。
第7実施の形態におけるナノ結晶層生成方法によれば、被加工物Wに対して、上述した第6及び第7の2つの加工条件を満たしつつ、押し付け工具P(加工工具)による外周加工面41のスライディング加工(機械加工)を行うことにより(図15(a)参照)、その外周加工面41の表層部(加工面の表層部)にナノ結晶層C3を生成することができる(図15(b)参照)。
なお、スライディング加工とは、被加工物Wに回転(図15(a)矢印R方向)を与えると同時に、被加工物Wの外周加工面41に押し付け工具Pを所定の圧力で押し付けて滑動させることにより、被加工物Wの外周加工面41に塑性加工を与える加工である。
まず、被加工物W及び押し付け工具Pの詳細諸元について説明する。被加工物Wは、材質:炭素鋼(JIS−S10C)、加工外周面41の外径:φ10mmであり、押し付け工具Pは、材質:工具鋼(JIS−SKD61)、硬度:8.3GPa(850Hv)、工具幅(図15(a)左右方向幅):5mmである。
ここで、ナノ結晶層を生成するためには、上述した第6の加工条件(真歪7以上の塑性加工を与える条件)を満たすべく、押し付け工具Pの押し付け面圧を100MPa以上、かつ、スライディング加工時間を3分以上とすることが必要である。但し、被加工物Wの回転速度はいずれの回転でも良い。
なお、より好ましくは、被加工物Wの回転速度を毎分25回転以上、かつ、押し付け工具Pの押し付け面圧を400MPa以上、かつ、スライディング加工時間を5分以上とし、更に、冷却液(例えば、メタノール)の供給量を毎分50ml程度とするのが良い。加工外周面41に真歪7以上の塑性加工をより確実に与えることができるからである。
次いで、第7実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を適用して行ったスライディング加工の結果について説明する。図15(a)に示すように、被加工物Wに対して、上述した第6及び第2の加工条件を満たしつつ、押し付け工具Pを使用して加工外周面41にスライディング加工を行った結果、その加工外周面41には、図15(b)に示すように、ナノ結晶層C3が生成された。
このスライディング加工後の被加工物Wを詳細に観察した結果、被加工物Wは、ナノ結晶層C3が生成されていない内部の硬度が3.9GPa(400Hv)であったのに対し、ナノ結晶層C3における硬度が7.0GPa(720Hv)まで向上していることが確認された。
また、このようなナノ結晶層C3が生成された被加工物Wに焼鈍処理を行った結果について説明する。なお、焼鈍処理は、被加工物Wを600℃の雰囲気温度中に1時間保持することにより行った。
焼鈍処理後の被加工物Wは、ナノ結晶層C3が生成されていない内部の硬度が1.5GPa(155Hv)であったのに対し、ナノ結晶層C3における硬度が3.9GPa(400Hv)であり、高い硬度が維持されていた。このように、ナノ結晶層C3は、焼鈍処理によっても結晶粒が再結晶されにくく、温度鈍感性に優れているので、第7実施の形態におけるナノ結晶層生成方法を例えば回転軸の摺動面に適用することにより、かかる摺動面の耐摩耗性を向上させ、回転軸の寿命の向上を図ることができる。
以上説明したように、本発明のナノ結晶層生成方法は、被加工物WにドリルDや押し付け工具Pを使用した機械加工(穴あけ加工、スライディング加工)を行って、その加工面(孔部1の内周面、加工外周面41)の表層部にナノ結晶層C3を生成するので、従来のショットピーニング等を使用するナノ結晶層生成方法ではナノ結晶層C3を生成することができなかった部位にもナノ結晶層C3を生成することができ、また、均一なナノ結晶層C3を安定して生成することができる。
また、本発明のナノ結晶層生成方法によれば、従来のナノ結晶層生成方法のように、ショットピーニングの噴射装置100(図4参照)などの特別な装置を別途設ける必要がないので、装置コストを抑制することができる。そして、製品の製造工程においては、ナノ結晶層C3を生成するために生じる工程変更を最小限として、ナノ結晶層の生成コストを低減することができ、その分、製品の製品コストを抑制することができる。
例えば、第6実施の形態の例では、ドリルDによる孔部1の穴あけ加工と同時にナノ結晶層C3を生成することができるので、ナノ結晶層C3を生成するための工程追加を不要とすることができる。また、第7実施の形態の例では、加工外周面41をバイトにより外径切削した後、そのバイトを押し付け工具Pに変更するだけで、即ち、被加工物Wをホルダに保持したままで、ナノ結晶層C3を生成することができるので、工程変更を最小限に抑制することができる。
更に、従来のナノ結晶層生成方法では、広い範囲にナノ結晶層C3を生成する場合、突起や硬質粒子G(図4参照)の衝突を何度も繰り返す必要があるため、加工時間が嵩み非効率的であったのに対し、本発明のナノ結晶層生成方法によれば、ドリルDや押し付け工具Pを使用した機械加工(穴あけ加工、スライディング加工)によってナノ結晶層C3を生成するので、ナノ結晶層C3を効率良く生成することができ、その分、ナノ結晶層C3の生成コストを抑制することができる。
以上、第6及び第7実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記各実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、第6及び第7実施の形態では、ナノ結晶層を生成するための機械加工として、ドリルDを使用した穴あけ加工や押し付け工具Pを使用したスライディング加工を例に説明したが、必ずしもこれらの機械加工に限られるわけではなく、上述した第6及び第7の加工条件をともに満たす機械加工であれば、他の種類の機械加工を本発明に適用することは当然可能である。
かかる機械加工としては、例えば、バイト工具を使用した旋盤加工、フライス工具を使用したフライス加工、バイト工具を使用した平削り加工、ホブ工具を使用した歯切り加工などに代表される切削加工や、砥石工具を使用した仕上げ加工などに代表される研削加工や、バニッシング工具を使用したバニッシング加工などに代表される研磨加工などが例示される。
また、上記第6実施の形態では、ナノ結晶層C3を有する機械部品として、オートマチックトランスミッション用のインプットシャフトを例に説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、金属材料から構成されるものであれば、どのような機械部品であっても良く、自動車用の構造部品である必要もない。他の機械部品としては、例えば、建築用の構造部品などが例示される。
なお、上記第6及び第7実施の形態では、被加工物Wが鉄鋼材料から構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、被加工物Wを鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成することは当然可能である。鉄鋼材料を除く他の金属材料としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅などの金属材料とその合金が例示される。即ち、請求項5から9のいずれかに記載した金属材料は、鉄鋼材料やここで例示した金属材料に限定されるものではなく、種々の金属材料が含まれる趣旨である。

Claims (9)

  1. 金属材料から構成される被加工物に加工工具を使用した機械加工を行って、その加工面に局部的な大歪を付与することにより、前記加工面の表層部に超微細結晶層を生成する超微細結晶層生成方法であって、
    前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面に少なくとも真歪1以上の塑性加工をえるものであり、
    前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面における材料温度を所定の温度範囲に維持して行われるものであり、
    その所定の温度範囲は、
    前記被加工物が鉄鋼材料から構成される場合にはその鉄鋼材料のAc1変態点より高く融点未満の温度範囲であり、
    前記被加工物が鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合にはその金属材料の絶対温度に換算した融点の1/2の温度より高く融点未満の温度範囲であり、
    前記加工工具を使用した機械加工は、
    前記被加工物の加工面における材料温度を前記所定の温度範囲に維持し、
    かつ、前記被加工物の加工面の下層部または前記加工面の表層部の非超微細結晶層における材料温度が500°C以上となる時間を1秒以内とし、母材の硬度の80%の硬度を確保することを特徴とする超微細結晶層生成方法。
  2. 前記加工工具を使用した機械加工は、加工が開始された後の時間的な平均材料温度と、加工面全体における熱分布の平均材料温度とを、それぞれ前記所定の温度範囲に維持することを特徴とする請求項1記載の超微細結晶層生成方法。
  3. 金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部に前記請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法によって生成された超微細結晶層を備えていることを特徴とする機械部品。
  4. 金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部に超微細結晶層が生成された機械部品を製造する機械部品製造方法であって、
    前記請求項1または2に記載の超微細結晶層生成方法によって前記機械部品に超微細結晶層を生成する超微細結晶層生成工程を少なくとも備えていることを特徴とする機械部品製造方法。
  5. 金属材料から構成される被加工物に加工工具を使用した機械加工を行って、その加工面に局部的な大歪を付与することにより、前記加工面の表層部にナノ結晶層を生成するナノ結晶層生成方法であって、
    前記加工工具を使用した機械加工は、前記被加工物の加工面に少なくとも真歪7以上の塑性加工を与え、かつ、前記被加工物の加工面における材料温度を所定の温度範囲に維持して行われるものであり、
    その所定の温度範囲は、
    前記被加工物が鉄鋼材料から構成される場合にはその鉄鋼材料のAc1変態点より高く融点未満の温度範囲であり、
    前記被加工物が鉄鋼材料を除く他の金属材料から構成される場合にはその金属材料の絶対温度に換算した融点の1/2の温度より高く融点未満の温度範囲であり、
    前記加工工具を使用した機械加工は、前記加工面の表層部に1/μm以上のひずみ勾配を与えるように行われるものであることを特徴とするナノ結晶層生成方法。
  6. 前記加工工具を使用した機械加工は、
    前記被加工物の加工面における材料温度を前記所定の温度範囲に維持し、
    かつ、前記被加工物の加工面の下層部または前記加工面の表層部の非ナノ結晶層における材料温度が500°C以上となる時間を1秒以内とし、母材の硬度の80%以上の硬度を確保することを特徴とする請求項5記載のナノ結晶層生成方法。
  7. 前記加工工具を使用した機械加工は、加工が開始された後の時間的な平均材料温度と、加工面全体における熱分布の平均材料温度とを、それぞれ前記所定の温度範囲に維持することを特徴とする請求項5または6に記載のナノ結晶層生成方法。
  8. 金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部に前記請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によって生成されたナノ結晶層を備えていることを特徴とする機械部品。
  9. 金属材料から構成され、その表層部の少なくとも一部にナノ結晶層が生成された機械部品を製造する機械部品製造方法であって、
    前記請求項5から7のいずれかに記載のナノ結晶層生成方法によって前記機械部品にナノ結晶層を生成するナノ結晶層生成工程を少なくとも備えていることを特徴とする機械部品製造方法。
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