JP4711106B2 - 難削材の高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素系焼結材料製切削工具 - Google Patents

難削材の高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素系焼結材料製切削工具 Download PDF

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Description

この発明は、通常の鋼や鋳鉄などの被削材は勿論のこと、特に粘性が高いステンレス鋼やTi系合金、さらにCo系合金などの難削材の切削加工を、熱的機械的衝撃のきわめて強い高速断続切削条件で行った場合にも、切刃部にチッピング(微少欠け)や欠けなどの欠損の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮する表面被覆立方晶窒化硼素系焼結材料製切削工具(以下、被覆BN系工具という)に関するものである。
従来、一般に、立方晶窒化硼素系焼結材料で構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、0.5〜10μmの平均層厚を有し、かつ、組成式:(Ti1−XAl)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.30を示す)、
を満足するTiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層、
(b)上部層として、蒸着形成した状態でα型の結晶構造を有し、かつ、0.5〜10μmの平均層厚を有する蒸着α型酸化アルミニウム(以下、Al23で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆BN系工具が知られており、この被覆BN系工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
特開平08−206902号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆BN系工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特に粘性が高いNi系合金やTi系合金、さらにCo系合金などの難削材の切削加工を、切削条件の最も厳しい高速断続切削、すなわち切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し熱的機械的衝撃が付加される高速断続切削に用いた場合、硬質被覆層の下部層である(Ti,Al)N層は相対的に高い高温強度を有し、すぐれた耐衝撃性を示すものの、高熱発生を伴なう高速切削では偏摩耗の原因となる熱塑性変形を起こし易く、同上部層を構成する蒸着α型Al23層は、高温硬さおよび耐熱性にすぐれるものの、相対的に高温強度が低く、熱的機械的衝撃に対してきわめて脆いものであるために、これが原因で切刃部にはチッピングや欠けなどが発生し易くなり、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆BN系工具の硬質被覆層の上部層を構成するAl23層に着目し、耐チッピング性の向上をはかるべく研究を行った結果、
(a)硬質被覆層の従来下部層としての(Ti,Al)N層は、Tiによる作用で相対的に高い高温強度を有し、すぐれた耐衝撃性を示すものの、Alによる高温硬さおよび耐熱性の向上効果が不十分であるために、高熱発生を伴なう高速切削では偏摩耗の原因となる熱塑性変形を起し易いが、これにY(イットリウム)成分を含有させて、
組成式:[Ti1−(X+Z)Al]N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.30、Zは0.005〜0.05を示す)、
を満足するTiとAlとYの複合窒化物[以下、(Ti,Al,Y)Nで示す]層で前記下部層を構成すると、前記(Ti,Al,Y)N層におけるY成分はAlとの共存において下部層の高温硬さを著しく向上させるので、下部層が高熱に曝されても熱塑性変形することがなくなり、さらに前記Y成分には後工程のAl23層の加熱変態処理での前記下部層である(Ti,Al,Y)N層のTiNおよびAlNなどヘの加熱分解を抑制し、もって、前記下部層を加熱変態処理後も安定した複合窒化物層、すなわち(Ti,Al,Y)N層として存在させる作用があること。
(b)上記の通り、硬質被覆層としての従来蒸着α型Al23層は、高温硬さおよび耐熱性にすぐれるものの、高温強度が十分でなく、満足な耐チッピング性を発揮することは困難であり、一方蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl23層は、前記蒸着α型Al23層に比して、相対的に高い高温強度を有し、すぐれた耐チッピング性を発揮するものの、高温硬さおよび耐熱性の点で劣る性質があること。
(c)工具基体の表面に、下部層として、例えば通常の物理蒸着装置であるアークイオンプレーティング装置を用いて、上記(Ti,Al,Y)N層を形成した後、通常の化学蒸着装置を用い、通常の条件で、蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl23層を形成し、ついで、これに加熱処理、望ましくは圧力:7〜50kPaのAr雰囲気中、温度:1000〜1200℃に5〜80分保持の条件で加熱処理を施すと、前記(Ti,Al,Y)N層にはY成分の作用で分解反応は起らず、蒸着形成されたままの状態を保持するが、前記κ型またはθ型の結晶構造を有するAl23層はα型結晶構造のAl23層に変態し、この変態に際して、体積収縮による割れ(クラック)が発生し、この変態割れは変態後のα型Al23層に大きな割れとして存在し、切削加工時のチッピング発生の原因となること。
(d)上記(c)の(Ti,Al,Y)N層の表面に蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl23層に、上記条件での加熱処理を施さずに、引き続いて、同じく化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:体積%で、TiCl:0.2〜3%、CO:0.2〜10%、Ar:5〜50%、H:残り、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa、
時間:15〜60分、
の条件で処理して、前記κ型またはθ型Al23層の表面に、酸化チタン(以下、TiOで示す)層を0.05〜1μmの平均層厚で形成し、この状態で、上記(c)の条件での加熱処理を施して、前記κ型またはθ型の結晶構造のAl23層をα型結晶構造のAl23層に変態させると、前記変態前のAl23層の表面に形成したTiO層は、前記変態がAl23層の表面全面に亘って同時的に開始するように作用し、経時的にAl23層の表面部から内部に進行する変態形態をとるようになることから、前記Al23層のκ型またはθ型の結晶構造からα型結晶構造への変態による体積収縮に伴なって発生する割れは、きわめて微細に、かつ層全体に亘って一様に分散分布した状態となるほか、変態後のAl23層における結晶配向も変態前のκ型またはθ型Al23層のもつ結晶配向と同等、あるいは結晶配向に変化があってもきわめて小さなものとなり、この結果形成された加熱変態α型Al23層は、α型結晶構造のもつすぐれた高温硬さと耐熱性と共に、加熱変態前の蒸着κ型またはθ型Al23層のもつ高温強度と同等の高温強度を具備するようになり、したがって、硬質被覆層の上部層が前記加熱変態α型Al23層、下部層が上記(Ti,Al,Y)N層で構成された被覆BN系工具においては、特に激しい熱的機械的衝撃を伴なう高粘性のNi系合金やTi系合金、さらにCo系合金などの難削材の高速断続切削加工でも前記加熱変態α型Al23層が、すぐれた高温硬さと耐熱性に加えて、すぐれた耐チッピング性を発揮することから、Ti成分による高い高温強度、さらにAlとY成分による高温硬さを有する前記(Ti,Al,Y)N層との共存と相俟って、硬質被覆層に高温加熱による熱塑性変形の発生もなく、かつ、切刃部に熱的機械的衝撃によるチッピングの発生もなく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
(e)上記の従来蒸着α型Al23層および上記(d)の加熱変態α型Al23層について、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1(a),(b)に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来の蒸着α型Al23層は、図3に例示される通り、(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記加熱変態α型Al23層は、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは、TiO層の平均層厚を変化させることによりグラフ横軸の傾斜角区分に現れる位置および高さが変わること。
(f)試験結果によれば、上記TiO層を、上記の通り0.05〜1μmの平均層厚にすると、上記シャープな最高ピークが傾斜角区分の0〜10度の範囲内に現れると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計(この度数合計と前記最高ピークの高さは比例関係にある)が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、この結果の傾斜角度数分布グラフで0〜10度の範囲内の傾斜角度数の割合が45%以上を占め、かつ前記0〜10度の範囲内に傾斜角区分の最高ピークが現れる加熱変態α型Al23層を硬質被覆層の上部層として、下部層の(Ti,Al,Y)N層と共存した状態で蒸着形成してなる被覆BN系工具は、上記の従来被覆BN系工具に比して、特に激しい熱的機械的衝撃を伴なう高粘性のNi系合金やTi系合金、さらにCo系合金などの難削材の高速断続切削で切刃部に熱塑性変形およびチッピングの発生なく、一段とすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)〜(f)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、工具基体の表面に、
(a)下部層として、0.5〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:[Ti1−(X+Z)Al]N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.30、Zは0.005〜0.05を示す)、
を満足する(Ti,Al,Y)N層、
(b)上部層として、蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造および0.5〜10μmの平均層厚を有するAl23層の表面に、TiO層を0.05〜1μmの平均層厚で蒸着形成した状態で、加熱処理を施して、前記κ型またはθ型の結晶構造を有するAl23層の結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す加熱変態α型Al23層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、難削材の高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する被覆BN系工具に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆BN系工具の硬質被覆層の構成層について、上記の通りに数値限定した理由を以下に説明する。
(a)(Ti,Al,Y)N層(下部層)
(Ti,Al,Y)N層において、上記の通りTiには高温強度を向上させ、Alには高温硬さおよび耐熱性を向上させ、さらにYにはAlとの共存において、一段と高温硬さを向上させるほか、Al23層の加熱変態処理で(Ti,Al,Y)N層が分解反応を起こすのを抑制し、もって、高い高温強度を保持した状態で、耐熱塑性変形性を向上させる作用があり、したがってAlの含有割合を示すX値がTiとYの合量に占める割合で0.05未満になると、高温硬さおよび耐熱性が低くなり過ぎ、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生するようになり、一方前記X値が0.30を越えると、高温強度が急激に低下し、切刃部にチッピングが発生し易くなることから、X値を0.05〜0.30と定めた。
さらに、Yの含有割合を示すZ値がTiとAlの合量に占める割合で0.005未満では、高Ti含有に伴なう熱塑性変形の発生およびAl23層の加熱変態処理時の層の分解を十分に抑制するすることができず、一方同Z値が0.05を越えると、高温強度に低下傾向が現れるようになることから、そのZ値を0.005〜0.05と定めた。
また、その平均層厚が0.5μm未満では、(Ti,Al,Y)N層の具備する上記の特性を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、硬質被覆層に熱塑性変形が発生するようになることから、その平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
(b)TiO
TiO層には、上記の通り蒸着κ型またはθ型Al23層の加熱変態α型Al23層への加熱変態に際して、前記変態をAl23層表面全面に亘って同時的に開始させ、経時的にAl23層の表面部から内部に進行する変態形態をとるようにする作用があるので、加熱変態時に体積収縮に伴なって発生する割れが層全体に亘って微細化および均一化するほか、変態後のAl23層における結晶配向が変態前のκ型またはθ型Al23層のもつ結晶配向と同等、あるいは結晶配向に変化があってもきわめて小さなものとなり、さらに、前記TiO層には、平均層厚を0.05〜1μmにすると、試験結果によれば、これに対応して、傾斜角度数分布グラフにおける0〜10度の傾斜角区分範囲内に測定傾斜角の最高ピークが現れ、かつ前記0〜10度の傾斜角区分内に存在する度数の合計割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上となる傾斜角度数分布グラフを示す作用があり、したがって、前記平均層厚が0.05未満では、前記加熱変態α型Al23層の傾斜角度数分布グラフの0〜10度の範囲内に現れるピーク高さが不十分、すなわち、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%未満となってしまい、この場合上記の通り、前記加熱変態α型Al23層に所望のすぐれた高温強度を確保することができず、この結果耐チッピング性に所望の向上効果が得られず、一方その平均層厚が1μmを越えると、最高ピークの現れる傾斜角区分が0〜10度の範囲から外れてしまい、この場合も前記加熱変態α型Al23層に所望のすぐれた高温強度を確保することができないことから、その平均層厚を0.05〜1μmと定めた。
(c)蒸着κ型またはθ型Al23層(上部層)
蒸着κ型またはθ型Al23層は、上記の通り加熱変態後にすぐれた高温硬さと耐熱性、さらに測定傾斜角:0〜10度の範囲内に最高ピークが現れる傾斜角度数分布グラフを示し、すぐれた高温強度を具備する加熱変態α型Al23層となり、難削材の高速断続切削加工でもチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するが、その平均層厚が0.5μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
なお、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じて硬質被覆層の最表面層として蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
この発明被覆BN系工具は、特に粘性が高いNi系合金やTi系合金、さらにCo系合金などの難削材の切削加工を、熱的機械的衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なう高速断続切削条件で行っても、硬質被覆層の上部層を構成する加熱変態α型Al23層が、すぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた耐チッピング性を発揮することから、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すものである。
つぎに、この発明の被覆BN系工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.4〜5μmの範囲内の平均粒径を有する立方晶窒化硼素(以下、c−BNで示す)粉末、炭化チタン(以下、TiCで示す)粉末、窒化チタン(以下、TiNで示す)粉末、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)粉末、炭化タングステン(以下、WCで示す)粉末、Al粉末、Co粉末、TiとAlの金属間化合物粉末であるTi3Al粉末、TiAl粉末、およびTiAl3粉末、さらに組成式:Ti2AlNを有する複合金属窒化物粉末、TiB2粉末、窒化アルミニウム(以下、AlNで示す)粉末、硼化アルミニウム(以下、AlB2で示す)粉末、酸化アルミニウム(Al23で示す)粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研摩し、ワイヤー放電加工装置にて一辺3mmの正三角形状に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびCIS規格CNGA120412の形状(厚さ:4.76mm×一辺長さ:12.7mmの正三角形の各角部に中心角:80°の円弧加工を施したもの)をもったWC基超硬合金製チップ本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:30%、Zn:28%、Ni:2%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部に幅:0.18mm、角度:35°のホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格CNGA120412のチップ形状をもった工具基体A〜Mをそれぞれ製造した。
(a)まず、これらの工具基体A〜Mのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図4に示される通常の物理蒸着装置であるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として、種々の成分組成をもった下部層形成用Ti−Al−Y合金およびTi−Al合金、さらに密着性向上層形成用金属Tiの3種をそれぞれ装着し、
(b)まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を350℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して、4PaのAr雰囲気とし、この状態で前記工具基体に−900Vの直流パルスバイアス電圧を印加し、前記工具基体表面をArボンバード洗浄し、
(c)引続いて装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記工具基体に−200Vの直流パルスバイアス電圧を印加し、前記カソード電極である金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記工具基体の表面に、1μmの目標層厚で密着性向上層としてのTiN層を蒸着形成した状態で、
(d)装置内の反応ガスとしての窒素ガスの雰囲気を3.5Paとすると共に、前記工具基体に印加するバイアス電圧を−50Vに下げて、前記カソード電極のTi−Al−Y合金またはTi−Al合金のそれぞれとアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記工具基体A〜Mのそれぞれの表面に、それぞれ表3,4に示される目標組成および目標層厚を有する、本発明被覆BN基工具の硬質被覆層を構成する下部層の(Ti,Al,Y)N層または従来被覆BN基工具のそれである(Ti,Al)N層をそれぞれ形成し、
(e)ついで、上記下部層である(Ti,Al,Y)N層の表面に、表2に示される条件にて、結晶構造がκ型またはθ型のAl23層を同じく表3に示される組み合わせで、かつ目標層厚で蒸着形成し、ついで前記蒸着κ型またはθ型のAl23層の表面に、TiO層を同じく表2に示される条件で、かつ同じく表3に示される目標層厚で蒸着形成した状態で、これに10kPaのAr雰囲気中、温度:1065℃に10〜60分の範囲内の所定の時間保持の条件で加熱処理を施して、前記κ型またはθ型の結晶構造のAl23層をα型結晶構造のAl23層に変態させて加熱変態α型Al23層としてなる上部層を形成することにより本発明被覆BN系工具1〜13をそれぞれ製造し、
(f)さらに、上記下部層である(Ti,Al)N層の表面に、表4に示される通り、硬質被覆層の上部層として表2に示される条件で、同じく表4に示される目標層厚の蒸着α型Al23層を形成することにより従来被覆BN系工具1〜13をそれぞれ製造した。
この結果得られた上記の本発明被覆BN系工具と従来被覆BN系工具の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al23層と蒸着α型Al23層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記の加熱変態α型Al23層および蒸着α型Al23層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
この結果得られた各種の加熱変態α型Al2 3 層および蒸着α型Al23層の傾斜角度数分布グラフにおいて、(0001)面が最高ピークを示す傾斜角区分、並びに0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の傾斜角度数分布グラフ全体の傾斜角度数に占める割合をそれぞれ表3,4にそれぞれ示した。
上記の各種の傾斜角度数分布グラフにおいて、表3,4にそれぞれ示される通り、本発明被覆BN系工具の加熱変態α型Al23層は、いずれも(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れ、かつ0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合が45%以上である傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、従来被覆BN系工具の蒸着α型Al23層は、いずれも(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在せず、0〜10度の範囲内の傾斜角区分内に存在する傾斜角度数の割合も25%以下である傾斜角度数分布グラフを示すものであった。
なお、図2は、本発明被覆BN系工具2の加熱変態α型Al23層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆BN系工具2の蒸着α型Al23層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
また、この結果得られた本発明被覆BN系工具1〜13および従来被覆BN系工具1〜13について、これの硬質被覆層の構成層をオージェ分光分析装置で測定(層の縦断面を観察)したところ、前者ではいずれも目標組成と実質的に同じ組成を有する(Ti,Al,Y)N層と加熱変態α型Al23層、さらにTiO層からなることが確認された。一方後者でも、いずれも同じく目標組成と実質的に同じ組成を有する(Ti,Al)N層と蒸着α型Al23層からなることが確認された。さらに、これらの被覆BN系工具の硬質被覆層の構成層の厚さを走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆BN系工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆BN系工具1〜13および従来被覆BN系工具1〜13について、
被削材:質量%で、Ni−20%Cr−2.3%Ti−1%Al含有合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:225m/min、
切り込み:1.0mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:7分、
の条件(切削条件A)でのNi系合金の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は150m/min)、
被削材:質量%で、Ti−6%Al−4%V含有合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:120m/min、
切り込み:1.1mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:7分、
の条件(切削条件B)でのTi系合金の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は80m/min)、
被削材:質量%で、Co−20%Cr−15%W−10%Ni−1.5%Mn−1%Si−1%Fe含有合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:115m/min、
切り込み:1.0mm、
送り:0.1mm/rev、
切削時間:7分、
の条件(切削条件C)でのCo系合金の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は75m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
Figure 0004711106
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表3〜5に示される結果から、本発明被覆BN系工具1〜13は、いずれも硬質被覆層の上部層が、(0001)面の傾斜角が0〜10度の範囲内の傾斜角区分で最高ピークを示すと共に、前記0〜10度の傾斜角区分範囲内に存在する度数の合計割合が45%以上を占める傾斜角度数分布グラフを示す加熱変態α型Al23層で構成され、α型Al23層が本来具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、きわめてすぐれた高温強度を具備するようになり、下部層である(Ti,Al,Y)N層の有するすぐれた高温強度および耐熱塑性変形性と相俟って、熱的機械的衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なう上記の難削材の高速断続切削でも、硬質被覆層に熱塑性変形の発生なく、切刃部がすぐれた耐チッピング性を発揮し、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層の上部層が、(0001)面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示す蒸着α型Al23層で構成され、同下部層が(Ti,Al)N層からなる従来被覆BN系工具1〜13においては、難削材の高速断続切削では、前記蒸着α型Al23層の高温強度不足が原因で、激しい熱的機械的衝撃に耐えられず、切刃部にチッピングが発生し、かつ前記(Ti,Al)N層の高温硬さ不足が原因で熱塑性変形も発生し、この結果比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆BN系工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に熱的機械的衝撃がきわめて高く、かつ高い発熱を伴なう高速断続切削を、粘性が高いNi系合金やTi系合金、さらにCo系合金などの難削材の切削加工で行っても、すぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
硬質被覆層を構成する各種α型Al23層における結晶粒の(0001)面の傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。 本発明被覆BN系工具2の硬質被覆層を構成する加熱変態α型Al23層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。 従来被覆BN系工具2の硬質被覆層を構成する蒸着α型Al23層の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。 被覆BN基工具の硬質被覆層の下部層を形成するのに用いた通常のアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。

Claims (1)

  1. 立方晶窒化硼素系焼結材料で構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層として、0.5〜10μmの平均層厚を有し、かつ、
    組成式:[Ti1−(X+Z)Al]N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.30、Zは0.005〜0.05を示す)、
    を満足するTiとAlとY(イットリウム)の複合窒化物層、
    (b)上部層として、蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造および0.5〜10μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層の表面に、酸化チタン層を0.05〜1μmの平均層厚で蒸着形成した状態で、加熱処理を施して、前記κ型またはθ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層の結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、
    電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示す加熱変態α型酸化アルミニウム層、
    以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる、難削材の高速断続切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆立方晶窒化硼素系焼結材料製切削工具。
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