JP4705508B2 - ダンパー用低降伏点鋼およびその製造方法 - Google Patents

ダンパー用低降伏点鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、地震による建物への入力エネルギーを特定の部位に吸収させ、耐震性能を確保するためのエネルギー吸収デバイス(ダンパー)用鋼およびその製造方法に関するものである。尚、主に対象とする強度レベルは、降伏強さで150〜250MPa、引張強さで250〜400MPaの低強度・低降伏点鋼である。
従来よりおこなわれている建物の耐震設計は、大地震時に柱や梁の構造体が塑性化することによりエネルギーを吸収しようとするものであり、建築物の倒壊を防ぎ、人的被害の防止を大前提としながら、建設コストも比較的低く抑えることができる非常に合理的な設計法である。一方、近年の耐震設計技術の発展により、制振・免震構造の開発と実用化が進み、地震による建物への入力エネルギーを特定の部位(エネルギー吸収デバイス(ダンパー))に吸収させ、耐震性能を確保するとともに、主要構造である柱、梁の損傷を防止する設計技術が注目されている。
このようなエネルギー吸収デバイス(ダンパー)用として、低降伏点鋼が利用されている。その原理は、通常の柱や梁の構造材よりも降伏点が低いことにより、地震時に早期に降伏し、地震による振動エネルギーを塑性エネルギーに変換することで振動応答を抑えるというものである。
低降伏点化を達成するためには、特開平3−31467号公報に開示されているように添加元素のほとんどない純鉄に近い成分の鋼とし、場合によっては特開平5−214442号公報、特開平5−320760号公報などに開示されているように純鉄に近い成分をさらに高温で焼準処理している。これらはいずれも粗粒なフェライトにすることによる低降伏点化のため、低温靭性に劣るという欠点があった。また、いずれもC量を0.005%以下とする必要があり、製鋼工程への負荷が高く、添加元素がほとんど無いにも関わらず、コスト的に必ずしも有利ではないという問題があった。
これに対して、本発明者らは、先に、C量を必要以上に低減することなく炭化物形成元素を適正添加することで実質的なC量を低減した低降伏点鋼およびその製造方法を考案した(例えば、特開平10−183293号公報、特許第3411217号公報など)。ダンパー用鋼として特定部位で確実に塑性化させるには、降伏強さは狭レンジ制御が要求され、日本鉄鋼連盟規格になるLY225鋼では、降伏強度は205〜245MPaというその幅がわずか40MPaとされている。
本発明者らの先の発明は、引張試験時に明瞭な降伏点を有するものであるが、そのような鋼材においては、鋼材そのものの材質ばらつきだけでなく、引張試験機の応答性、剛性などによっても降伏強さがばらつくこともあって、安定した狭レンジ制御の面では、必ずしも十分ではなかった。
特開平3−31467号公報 特開平5−214442号公報 特開平5−320760号公報 特開平10−183293号公報 特許第3411217号公報
本発明は、C量を必要以上に低減することなく、C量に応じたNbの適正添加によってフェライト単相組織とするとともに引張試験時の上・下降伏点を消失させ、降伏強さのばらつきを抑えた低降伏点鋼を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行ったところ、NbをC量に対し化学量論的にやや過剰添加することでIF(Interstitial free)化し、引張試験時の降伏強さを消失させることを見出し、本発明を完成した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
本発明のダンパー用低降伏点鋼は、鋼組成が質量%で、C:0.001%以上0.050%以下、Si:0.80%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.020%以下、S:0.015%以下、Nb:0.01%以上0.60%以下かつC量の8倍超、Al:0.060%以下、N:0.006%以下であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、鋼のミクロ組織がフェライト単相であって、かつ、引張試験時の応力−歪曲線において明瞭な上降伏点及び下降伏点を有さないことを特徴とする。
また本発明のダンパー用低降伏点鋼においては、更に質量%で、Ti:0.050%以下、V:0.01%以上0.10%以下の範囲でいずれか一方または両方の元素が含有されていることが好ましい。
また本発明のダンパー用低降伏点鋼においては、更に質量%で、Bが0.0002%以上0.0030%以下の範囲で含有されていることが好ましい。
また本発明のダンパー用低降伏点鋼においては、更に質量%で、Ni:0.05%以上0.50%以下、Cu:0.05%以上0.50%以下、Cr:0.05%以上0.50%以下、Mo:0.05%以上0.50%以下、の範囲で1種または2種以上の元素が含有されていることが好ましい。
また本発明のダンパー用低降伏点鋼においては、更に質量%で、Ca:0.0005%以上0.004%以下、REM:0.0005%以上0.008%以下、の範囲でいずれか1種または2種以上の元素が含有されていることが好ましい。
次に、本発明のダンパー用低降伏点鋼の製造方法は、先のいずれかに記載の鋼組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1300℃の温度に加熱し、900℃以上の温度で熱間圧延を終了し、その後放冷することにより、鋼のミクロ組織をフェライト単相とすることを特徴とする。
また本発明のダンパー用低降伏点鋼の製造方法は、先のいずれかに記載の鋼組成からなる鋳片または鋼片を熱間圧延後、900〜1000℃の温度に再加熱しその温度域に10分以上滞留させた後放冷することにより、鋼のミクロ組織をフェライト単相とすることを特徴とする。
本発明により、安定して低い降伏強さを有し、靭性にも優れるダンパー用低降伏点鋼を大量かつ安価に供給できるようになった。その結果、該鋼材をダンパー用として用いることで建築物の耐震性能が向上でき、安全性を一段と高めることが可能となった。
本発明に係るダンパー用低降伏点鋼は、鋼組成が質量%で、C:0.001%以上0.050%以下、Si:0.80%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.020%以下、S:0.015%以下、Nb:0.01%以上0.60%以下かつC量の8倍超、Al:0.060%以下、N:0.006%以下であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、鋼のミクロ組織がフェライト単相であって、かつ、引張試験時の応力−歪曲線において明瞭な上降伏点及び下降伏点を有さないことを特徴とするものである。以下、鋼成分の限定理由並びに鋼のミクロ組織並びに上降伏点及び下降伏点について説明する。
Cは、靭性を劣化させ、強度を上昇させるパーライトなどの硬質第二相の生成に大きな影響を及ぼすものであり、かつ、後述するように、Cを完全に固定しIF化するために添加するNb量の観点からも、本発明鋼においては低いほど好ましい。しかし、脱炭のための製鋼コストを考慮し、下限を0.001%とした。一方、その上限については、Cの完全固定によるIF化のためのNbの適正添加量が多くなり、コスト的にも、また溶接部の靭性の観点からも好ましくないため、上限を0.050%に限定した。
Siは、脱酸上鋼に含まれる元素であるとともに固溶強化としても作用するため、必要とする強度に応じて適宜添加できる。しかし、多すぎる添加は、溶接性や溶接部靭性が劣化するため、上限を0.80%に限定した。鋼の脱酸はTi、Alのみでも十分可能であり、必ずしも添加する必要はない。
Mnは、固溶強化元素として母材の強度を上昇させるため、必要とする強度レベルに応じて、任意に添加できる。ただし、本願発明が対象とする降伏強さで150〜250MPa、引張強さで250〜400MPaを安定して確保するためには、最低限0.1%の添加が必要である。一方、Mn量が多すぎると焼入性が必要以上に増大して溶接性、溶接部靭性を劣化させるだけでなく、連続鋳造スラブの中心偏析を助長するので、上限を2.0%とした。
Pは、本発明鋼においては不純物であり、P量の低減は溶接熱影響部における粒界破壊を減少させる傾向があるため、少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため上限を0.020%とした。
Sは、Pと同様本発明鋼においては不純物であり、母材の低温靭性の観点からは少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため、上限を0.015%とした。
Nbは、本願発明の最大の特徴ともいうべきもので、目的は鋼中Cの炭化物(または炭窒化物)として完全固定し、IF化することにある。Nbの炭化物NbCは、化学量論的に重量比(Nb/C)は約7.73であり、本願発明においては、Nbの絶対値が0.01〜0.60%の範囲とすると同時に、C量の8倍超に限定した。C量の8倍超というのは、上述したCの固定とIF化の観点から限定したもので、絶対値は、次の理由による。下限の0.01%は、C量の下限値が0.001%であることから0.008%超であればよいことに基づくものである。一方、上限の0.60%は、C量の上限0.050%の場合でも0.40%超であればよいことを勘案し、合金コストの観点から限定した。したがって、必ずしも上限には限界的意味合いはない。
Alは、一般に脱酸上鋼に含まれる元素であるが、脱酸はSiまたはTiだけでも十分であり、本発明鋼においては、その下限は限定しない。しかし、Al量が多くなると鋼の清浄度が悪くなるだけでなく、溶接金属の靭性が劣化するので上限を0.060%とした。
Nは、不可避的不純物として鋼中に含まれるもので、下限は特に限定するものではない。多すぎると上述したC固定のためのNbを窒化物として消費する可能性が高まるため、上限を0.006%に限定した。
また、本発明に係るダンパー用低降伏点鋼には、TiまたはVのいずれか一方または両方を添加しても良い。
Tiは、Nbよりも炭化物形成能の高い元素で、Cを炭化物として固定する上ではNbよりもむしろ効果的である。しかし、溶接により再固溶−再析出するTi炭化物は、溶接熱影響部の靭性を顕著に劣化させるため、Ti添加はNbによるC固定効果を一部補完する程度に留める必要がある。このため、本願発明ではC量と同量以下に限定するものであるが、その意味合いは次のようなものである。すなわち、Tiの炭化物TiCは、化学量論的に重量比(Ti/C)は約4であるため、計算上、全C量の1/4以下をTiで固定することに他ならない。
Vは、Nb同様炭化物形成元素であるが、Nbよりもその効果は小さい。また、前述したTiのような溶接熱影響部の靭性への影響も小さいので、Nbの補完的役割で添加することができる。その添加範囲は、C固定効果を享受し得る最小量である0.01%を下限とし、上限量は本願発明者らの実験による溶接熱影響部の靭性に悪影響を及ぼさないことが確認した範囲内であることと経済性とを勘案し、0.10%に限定した。したがって、この上限値は鋼材特性上の限界値ではない。
また、本発明に係るダンパー用低降伏点鋼には更に、Bを添加しても良い。
Bは、フェライト粒界に偏析して粒界を強化し、粒界破壊を抑制する効果を有する。したがって、本発明のようなCをNbで固定するフェライト単相の低降伏点鋼においては、特に、粗粒かつ強度が低くなるほど有効に作用する。このようなBの効果は、本発明者らの実験によれば、0.0002%あればよく、必要以上に多く添加してもその効果は飽和する。このため、本発明においては、実験で確認した上限であり、かつ鋼材特性上ネガティブな影響が見られなかったことから、0.0002〜0.0030%の範囲に限定した。なお、建築用鋼として一般的な試験温度0℃では、結晶粒径が100μmを超えるような極端な粗粒でなければ、粒界破壊してもシャルピー吸収エネルギーの極端な低下が見られないため、必須元素ではなく必要に応じ選択的に添加するものであるが、本発明鋼においては、添加することが好ましい。
更に、本発明に係るダンパー用低降伏点鋼には、Ni、Cu、Cr、Moのうちの1種または2種以上の元素を添加しても良い。
基本となる成分に、さらに必要に応じこれらの元素を添加する目的は、強度調整のためである。後述するように、本発明鋼は、引張試験時の応力−歪曲線において明瞭な上降伏点及び下降伏点を有さない。このようなケースでは、降伏強さとして、一般に0.2%オフセット耐力が取られるが、降伏点が消失すると、この見掛けの降伏強さ(0.2%オフセット耐力)は大きく低下する。本発明が対象とするダンパー用低降伏点鋼は、単に降伏強さが低いほど良いわけではなく、柱や梁の構造体よりも早期に確実に塑性化させるため、一般的な建築構造用鋼よりは低いものの、ある特定の降伏強さを有し、かつその狭レンジ制御が重要となる。したがって、Ni、Cu、Cr、Moの添加は、設計上要求される降伏強さに応じて、母材や溶接熱影響部靭性、あるいは合金コストなどを総合的に勘案し、適宜選択添加することになる。
Niは、過剰に添加しなければ、溶接性、溶接部の靭性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靭性を向上させる。これら効果を発揮させるためには、少なくとも0.05%以上の添加が必須である。ただし、Niといえども多すぎる添加は溶接性に好ましくなく、比較的高価な元素でもあるので、経済性なども考慮し、上限は0.50%に抑えた。
Cuは、Niとほぼ同様の効果、現象を示し、上限の0.50%は溶接性の劣化に加え、Cu単独での過剰な添加は熱間圧延時にCu−クラックが発生し製造困難となるため規制される。下限は実質的な効果が得られるための最小量とすべきで0.05%である。
Cr、Moは、母材の強度、靭性をともに向上させる。これらの効果を享受するため、添加する場合、最低0.05%が必要である。しかし、添加量が多すぎると母材、溶接部靭性および溶接性の劣化を招き、経済性も失するため上限を0.50%とした。
更に、本発明に係るダンパー用低降伏点鋼には、CaまたはREM(希土類元素)のうちのいずれか1種または2種以上の元素を添加しても良い。
CaおよびREMは、MnSの形態を制御し、母材の低温靭性や板厚方向特性を向上させる。これらの効果を発揮するためには、最低0.0005%必要である。しかし、多すぎる添加は、鋼の清浄度を逆に悪化させ、上述した特性向上効果が得られないばかりか、むしろ劣化させるため、添加量の上限はCa、REMそれぞれ0.004%、0.008%に限定した。CaとREMは、ほぼ同等の効果を有するため、いずれか1種を上記範囲で添加すればよく、2種を添加してもよい。
次に、ミクロ組織および引張試験時の応力−歪曲線の限定理由について説明する。
ミクロ組織がフェライト単相であって、かつ、引張試験時の応力−歪曲線において明瞭な上降伏点及び下降伏点を有さないとする規定は、鋼組成を上述してきた本発明の通りに調整すれば、その効果として必然的に得られるもので、いわば発明の効果と言えるものであるが、本発明の特徴を明確にするために敢えて限定するものである。
フェライト単相のミクロ組織は、低降伏点鋼という本発明のターゲットとする低強度化を達成するためには不可欠である。また、同時に、低強度化のための粗粒組織の下で優れた靭性を獲得するためには、破壊の起点となり得る硬質なセメンタイトを含む組織の存在は好ましくない。このため、本発明では、ミクロ組織をフェライト単相に限定した。
一方、引張試験時の応力−歪曲線において、降伏点を消失させ、明瞭な上降伏点及び下降伏点を有さないようにすることは、前述したように降伏強さを安定して狭レンジに制御するために必要である。ダンパー用低降伏点鋼においては、降伏強度の狭レンジ制御は商品価値を高めることにつながり、その達成手段として発明の重要な構成要素の一つを考え、本発明の通り限定するものである。
このようなダンパー用低降伏点鋼を安定して得るためには、本発明の通り製造条件を限定することがきわめて有効である。以下、その理由について説明する。
通常、厚鋼板においては、組織の微細化による強靭化が一般的な方向性であるが、本発明が対象とする低降伏点鋼は、むしろ逆の方向であり、加熱温度は高くてもよい。上限は、加熱炉側からの制約の方がむしろ大きく、工業生産的な観点に加え、高すぎる加熱温度は、鋳片または鋼片の表面性状、引いては圧延後の表面性状を損なう恐れも増大するため、上限を1300℃に限定した。下限温度は、後述する圧延温度確保の観点や最終組織が必要以上に微細化し、強度が過剰となるのを避けるとともに、圧延能率の観点から1000℃とした。工業的な大量生産の上では、加熱温度範囲として1100〜1200℃程度が好ましい。
前記温度範囲に加熱された鋳片または鋼片は、900℃以上で熱間圧延を終了した後、放冷する必要がある。圧延終了温度が900℃を下回ると、圧延組織が細粒化し、結果として最終的な変態組織も細粒となって、強度が上昇する可能性が高まる。また、900℃以上で熱間圧延を終了しても、その後の冷却を放冷より高めた場合、変態温度が低下し、最終的な変態組織が細粒となって、強度が上昇する可能性が高まる。このため、900℃以上で熱間圧延を終了した後、放冷することに限定した。なお、ここでの放冷とは、たとえば自然放冷でもよく、強制放冷でもよい。
また、圧延後、900〜1000℃の温度範囲に再加熱することは、熱間圧延やその後の冷却時の変態によって導入される歪・転位を回復させる効果を有し、圧延温度や板厚によっては、低降伏点鋼としてより好ましい。その再加熱の効果を確実に享受するため、前記温度域に10分以上滞留する必要があり、冷却時に再び歪・転位が導入されるのを防ぐため再加熱処理後は放冷でなければならない。なお、再加熱処理が上記効果を有するため、再加熱処理を施す場合、それに先立つ鋼片または鋳片の加熱温度範囲は、熱間圧延後放冷して製造する場合に対して緩和してもよいが、上限は前述した表面性状、下限は圧延能率の観点から、同等に規制することが好ましい。また、圧延温度は900℃を下回っても、また圧延後の冷却は放冷でなくても良い。圧延の下限温度は特に限定するものではないが、再加熱処理で回復させるべき歪・転位が、圧延で必要以上に導入されないよう概ね800℃を下回らないことが好ましい。また、同様の理由から、圧延後の冷却は放冷が好ましいことは言うまでもない。また放冷とは、上記と同様に自然放冷でもよく、強制放冷でもよい。
転炉−連続鋳造−厚板工程で種々の鋼成分の鋼板(厚さ6〜50mm)を製造し、その機械的性質(強度、靭性)を調査した。
転炉における成分調整工程及び連続鋳造機による鋳造工程を経て、表1に示す組成の鋳片を製造した。
得られた鋳片について、950〜1250℃の温度に加熱し、760〜930℃の温度で熱間圧延を終了した後、自然放冷し、更に必要に応じて800℃から950℃の範囲で10〜20分加熱する再加熱処理を行った。このようにして、厚さ6〜50mmのダンパー用鋼を製造した。
表1に比較鋼とともに本発明鋼の鋼成分を示し、表2には製造条件を示す。尚、表2において「放冷」とは、自然放冷を意味する。
得られたダンパー用鋼について、金属組織の状態、上降伏点及び下降伏点の有無、降伏強さ、引張強さ及びvTrs(遷移温度)を評価した。これらの諸特性の評価結果を表2に併せて示す。
Figure 0004705508
Figure 0004705508
表1及び表2に示すように、本発明に係る製造方法に則って製造した鋼板(本発明鋼)は、すべて良好な特性を有する。これに対し、本発明によらない比較鋼は、低降伏点鋼としての強度(降伏強さ)が適正でなかったり、靭性(vTrs)が劣っていることがわかる。
個々に検討すると、まず比較鋼11は、C量が高く、結果としてC固定のためのNb量が不足(C量の8倍以下)したため、降伏点が現われて降伏強度が高くなり、またセメンタイトを含む組織が生成したために靭性にも劣っている。
比較鋼12は、C、Nb量それぞれ単独では本発明の範囲内にあるものの、C量に対してNb量が低い(C量の8倍以下)ため、降伏点が現われるとともに、セメンタイトを含む組織が生成するために靭性に劣っている。降伏点が現われた本比較例では、降伏強度そのものは低いが、同一鋼板から採取した試験片による引張試験において、上降伏点ならびに下降伏点のばらつきが大きいことを確認している。
次に、比較鋼13はP量が高く、また比較鋼14はS量が高いため、靭性が劣っている。
また、比較鋼15及び16は、それぞれSi、Mnが高いため、降伏強さがやや高めであると同時に、溶接熱影響部を模擬した再現熱サイクル付与後の靭性が劣ることを確認している。
一方、比較鋼17〜20は、本発明の鋼組成範囲を満足する本発明鋼5と同一成分ながら、製造方法が本発明の範囲を逸脱するため、特性が劣っている。
すなわち、比較鋼17は加熱温度が低く、この結果、圧延温度が確保できず圧延終了温度も低いこと、比較鋼18は圧延終了温度が低いこと、比較鋼19は圧延後に加速冷却されていることから、組織が細粒となって強度が高くなっている。
また、比較鋼20は、圧延終了温度が低いことも要因であるが、その後の再加熱温度が低いため、歪・転位の回復が不十分で、強度が高く、靭性にも劣っている。

Claims (7)

  1. 鋼組成が質量%で、C:0.001%以上0.050%以下、Si:0.80%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.020%以下、S:0.015%以下、Nb:0.01%以上0.60%以下かつC量の8倍超、Al:0.060%以下、N:0.006%以下であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、鋼のミクロ組織がフェライト単相であって、かつ、引張試験時の応力−歪曲線において明瞭な上降伏点及び下降伏点を有さないことを特徴とするダンパー用低降伏点鋼。
  2. 更に質量%で、Ti:0.050%以下、V:0.01%以上0.10%以下の範囲でいずれか一方または両方の元素が含有されていることを特徴とする請求項1に記載のダンパー用低降伏点鋼。
  3. 更に質量%で、Bが0.0002%以上0.0030%以下の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダンパー用低降伏点鋼。
  4. 更に質量%で、Ni:0.05%以上0.50%以下、Cu:0.05%以上0.50%以下、Cr:0.05%以上0.50%以下、Mo:0.05%以上0.50%以下、
    の範囲で1種または2種以上の元素が含有されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のダンパー用低降伏点鋼。
  5. 更に質量%で、Ca:0.0005%以上0.004%以下、REM:0.0005%以上0.008%以下、の範囲でいずれか1種または2種以上の元素が含有されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のダンパー用低降伏点鋼。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼組成からなる鋳片または鋼片を、1000〜1300℃の温度に加熱し、900℃以上の温度で熱間圧延を終了し、その後放冷することにより、鋼のミクロ組織をフェライト単相とすることを特徴とするダンパー用低降伏点鋼の製造方法。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼組成からなる鋳片または鋼片を熱間圧延後、900〜1000℃の温度に再加熱しその温度域に10分以上滞留させた後放冷することにより、鋼のミクロ組織をフェライト単相とすることを特徴とするダンパー用低降伏点鋼の製造方法。

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